説明

物品の損傷検知デバイス及び損傷検知システム

【課題】 梱包の有無や物品の姿勢にかかわらず、物品の損傷を検知可能にする。
【解決手段】 塑性変形可能な板材からなる検知板3と、検知板に貼り付けられたひずみセンサ15を有する半導体チップ4と、ひずみセンサの出力を無線で外部に送信する通信部5を備えた損傷検知デバイスを対象の物品7に張り付け、リーダー2から読取指令を送って、通信部5からひずみセンサ15の検出出力をリーダー2に送信させることにより、物品の損傷を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品の損傷検知デバイス及び損傷検知システムに係り、例えば、物流過程における物品の損傷の有無を管理するのに好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
商品や製品等の物品の物流過程において、何らかの原因により物品が損傷を受けることがある。例えば、トラックの荷積み又は荷降し時に物品を落したり、倉庫内の棚に積み上げたり、保管するときに、何らかの原因により外力を受けて物品が損傷する場合がある。また、物品の梱包や包装が開封されるという損傷を受ける場合がある。このように損傷を受けた物品をそのまま市場に置くわけには行かないことから、物流の適宜段階で物品が損傷しているか否かの検査を行う必要がある。このような検査を人手で行うと、多数の検査要員が必要になるだけでなく、検査に時間がかかることから、物品の物流を妨げることになる。
【0003】
そこで、特許文献1では、物品を積載したトラックなどがコンテナターミナルの荷受ゲートを通過する際に、物品に光を照射し、その反射光の照度を計測し、反射光の照度がしきい値よりも低い場合に損傷有りと判定する物品の損傷検知装置を提案している。この装置によれば、物品の損傷の有無を流れ作業で、かつ自動的に検知できることから、検査要員を低減できるだけでなく、検査時間を短縮できる。
【0004】
【特許文献1】特開平8−219998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の従来技術は、物品が梱包されている場合について配慮されていない。すなわち、物品に光を照射して、その反射光の照度に基づいて損傷を検知する方法は、光が当たる梱包表面の損傷を検知することはできるが、梱包内部の物品の損傷を検知することはできない。また、一つの梱包に多数の物品が収納されている場合には、開梱して物品を取り出して、一つ一つ光を当てなければ、損傷を検知することができない。
【0006】
また、特許文献1に記載の従来技術は、物品が梱包されていなくても、光が当たらない物品の裏面の損傷は検知できない。そのため、物品を回転するなどの方法により、物品の姿勢を変えながら損傷の有無を検知しなければならない。
【0007】
本発明は、梱包の有無や物品の姿勢にかかわらず、物品の損傷を検知可能にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の物品の損傷検知デバイスの第一の態様は、単結晶シリコン基板に形成された不純物拡散層のひずみセンサ要素を有してなるひずみセンサを検査対象の物品に貼り付け、ひずみセンサの出力により物品の損傷を検知することを特徴とする。
【0009】
すなわち、ひずみセンサを検査対象の物品に貼り付けるだけで、物品が外力などを受けて変形等の損傷を受ければ、ひずみセンサの出力により検知することができる。特に、結晶シリコン基板に形成した不純物拡散層を用いてひずみセンサを形成することにより、抵抗線式のひずみセンサに比べて、粒界腐食や疲労に強いことから、ひずみ検出の信頼性を確保できる。すなわち、シリコンに代表される半導体は、降伏強度が一般的な金属箔を用いたひずみゲージに比べて著しく大きい。したがって、半導体を用いたひずみセンサは、同じ変形量を受けた場合であっても塑性変形成分が小さいので、高サイクルに対する疲労寿命が著しく高い。そのため、長期間のひずみ量計測を安定して行うことができるという利点がある。また、半導体を用いたひずみセンサとしては、多結晶シリコンを用いたひずみセンサがあるが、多結晶シリコンには内部に多数の結晶粒界を有するため、その結晶粒界において優先的に環境腐食が発生し、測定値の精度低下や断線が発生する。一方、単結晶シリコンを用いた場合は、結晶粒界を全く含まないので、結晶粒界における環境腐食の影響を排除でき、長期信頼性に優れるという利点がある。
【0010】
また、不純物拡散層を用いて形成したひずみセンサは、風船が膨らむように変形する物品の等方ひずみは検知できない。しかし、この特性は、却って、一方向のひずみが発生する損傷の場合に好都合である。
【0011】
本発明の物品の損傷検知デバイスの第二の態様は、第一の態様において、検査対象の物品に塑性変形可能な板材からなる検知板を貼り付け、この検知板にひずみセンサを貼り付けて物品の損傷を検知するように構成することを特徴とする。
【0012】
すなわち、塑性変形可能な板材からなる検知板を検知対象の物品に貼り付けておくと、物品が損傷するほどの外力を受けて検知板が変形したとき、その変形状態が保持されるというメモリー効果がある。つまり、物流過程のどこかにおいて物品が誤って大きな外力を受けた場合、一旦受けた大きな変形や荷重は、検知板の変形として保存されるから、その後いつでも読み出せるという特徴がある。したがって、物流過程の適宜段階で、何回かひずみセンサの出力を測定することによって、どの過程で物品が損傷を受けたかを検知することができる。
【0013】
特に、本発明に係る損傷検知デバイスは、物品に直接貼り付けるから、梱包の有無や物品の姿勢にかかわらず、物品の損傷を検知できる。また、従来のように、光学を用いた検知方法ではないため、物品の表面及び裏面の両方に損傷検知デバイスを設けておくことにより、物品の置き方がどの様であっても両面の損傷の有無を検知できる。
【0014】
また、本発明の損傷検知デバイスの第三の態様は、ひずみセンサの出力を無線で外部に送信する通信手段を備えて構成することができる。これによれば、通信手段から送信されるひずみセンサの出力を、例えば、通信手段を備えたリーダーにより受信することにより、物品に触れることなく、その物品の損傷の有無を自動的に検知できる。また、物品が容器に多量に詰められている場合でも、詰められた物品に取り付けられた損傷検知デバイスと電磁波による通信を行うだけで、その物品の損傷の有無を検知できるから、容器から出して確認する必要は無い。しかも、物品が包装されている場合でも、電磁波は包装材を通り抜けられるので、包装を外すことなく損傷の有無を検知できる。
【0015】
また、本発明の損傷検知デバイスの第四の態様として、通信手段の電磁波を受信するアンテナにより受信した電磁波エネルギを、損傷検知デバイスの動作電源として用いることができる。これによれば、損傷検知デバイスに電池などの内部電源を設ける必要がないから、損傷検知デバイスを小形化及び薄型化できる。しかし、本発明の損傷検知デバイスは、これに限られるものではなく、エネルギ源として、バッテリ、太陽光発電、振動発電、温度差発電等の独立の内蔵電源を付設することができる。
【0016】
内蔵電源を付設した本発明の損傷検知デバイスの場合は、ひずみセンサの出力が設定値を越えたとき、そのひずみセンサの出力と、その日時をメモリに記憶する履歴記憶手段を備えることができる。これによれば、メモリの内容を読み出すことにより、物品が損傷を受けた履歴を知ることができるから、その原因や改善策などを合理的に立てることができる。
【0017】
本発明の損傷検知システムは、塑性変形可能な板材からなる検知板と、該検知板に貼り付けられたひずみセンサと、無線で外部と交信する通信手段とを有してなる損傷検知デバイスと、該損傷検知デバイスの前記通信手段と無線で交信する通信手段を有するリーダーとを含んで構成され、前記損傷検知デバイスの前記検知板を検査対象の物品に貼り付け、前記リーダーにより前記損傷検知デバイスの通信手段と交信して前記ひずみセンサの出力を読み取って前記物品の損傷の有無を検知する構成とすることができる。
【0018】
ところで、物品の損傷には、例えば、袋入り物品や梱包を開けて、中身の物品を抜き出して、再び袋や梱包を封止するような損傷を受ける場合がある。このような損傷は、本発明の損傷検知デバイスを物品の梱包等の封止材に貼付することにより、又は、梱包等の封止材を本発明の損傷検知デバイスを用いて形成することにより、梱包等が開梱される損傷を確実に検知することができる。つまり、袋入り物品等を開封する際には大きなひずみが発生するが、本発明の検知板はその時点の大きなひずみを保持することができるから、その後いつでも開封の有無を検知できる。
【0019】
また、本発明に係るひずみセンサ及び通信回路を半導体チップ上に形成することにより、損傷検知デバイスを極めて小さく、かつ薄く形成できるから、小さい物品でも貼り付け可能である。さらに、半導体装置の製造工程により製造可能なので、大量かつ安価に製造できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、梱包の有無や物品の姿勢にかかわらず、物品の損傷を検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明する。
【0022】
(実施形態1)
図1と図2に、本発明の物品の損傷検知システムの一実施形態の概要構成図を示す。本実施形態の損傷検知システムは、損傷検知デバイス1と、リーダー2とを有して構成される。図1は損傷検知デバイス1の断面図を示し、図2は平面図を示している。損傷検知デバイス1は、塑性変形可能な板材からなる検知板3と、この検知板3に貼り付けられた半導体チップ4と、通信部5とを含んで構成されている。半導体チップ4と通信部5は配線6によって接続されている。このように構成される損傷検知デバイス1は、損傷検査対象の物品7の表面に検知板3の一面を貼り付けて用いられる。
【0023】
ここで、検知板3は、A1、Cu、Fe、Zn、Ni、Ti、Cr、W、Sn、等の元素のうち少なくとも1つを主成分とする金属材料を用いることができ、特に、非磁性の金属材料が望ましいが、有機材料でもよい。また、検知板3は、予想される衝撃の強さに応じて材質と厚さが決定され、検知板3の大きさは半導体チップ4より大きいことが望ましい。
【0024】
半導体チップ4には、図3又は図4に示すように、ひずみセンサ部15が形成されている。ひずみセンサ部15は、ピエゾ抵抗効果を用いた不純物拡散層によりホイートストンブリッジを構成して形成されている。図3はP型不純物拡散層を用いた例であり、図4はN型不純物拡散層を用いた例である。図3に示すように、P型不純物拡散層のひずみセンサ要素15a,15bは、半導体チップ4の単結晶シリコンの結晶方向[110]を長手方向、つまり電流を流す方向とするように形成されている。これにより、ひずみの検出感度を高くすることができる。一方、P型不純物拡散層のダミー抵抗要素15c,15dは、ひずみセンサ要素15a,15bの長手方向と直交する結晶方向[100]を長手方向、つまり電流を流す方向とするように形成されている。これにより、ひずみセンサ要素15a,15bと同じひずみがダミー抵抗要素15c,15dに加えられても、ダミー抵抗要素15c,15dの感度が低いことから抵抗値が変わらない。そのため、温度依存特性を有するひずみセンサ部15の温度補償を精度よく行うことができる。また、N型不純物拡散層を用いた場合は、図4に示すように、ひずみセンサ要素15a,15bは単結晶シリコンの結晶方向[010]を長手方向、つまり電流を流す方向とするように形成され、ダミー抵抗要素15c,15dは[001]方向を長手方向、つまり電流を流す方向とするように形成する。そして、ひずみセンサ要素15aとダミー抵抗要素15cの接続点と、ひずみセンサ要素15bとダミー抵抗要素15dの接続点との間に直流電源Vinを供給し、ひずみセンサ要素15aとダミー抵抗要素15dの接続点と、ひずみセンサ要素15bとダミー抵抗要素15cの接続点との間の電圧を検出出力Voutとするように構成されている。
【0025】
通信部5は、図5のブロック図に示すように、アンテナ8、高周波(RF)アナログ回路部9、通信制御回路部10、センサアナログ回路部11及び増幅回路部12を有して構成されている。RFアナログ回路部9は、アンテナ8を介して無線で交信する信号の変調及び復調を行うように構成されている。センサアナログ回路部11は、AD変換機能を有して構成されている。ひずみセンサ部15から配線6を介して供給される検出出力Voutは、増幅回路部12により増幅され、センサアナログ回路部11においてディジタル信号に変換される。ディジタル信号に変換された検出出力Voutは、通信制御回路部10及びRFアナログ回路部9を介してアンテナ8から外部に送信可能に構成されている。また、本実施形態の場合は、通信部5に電源部13が備えられ、電源部13から高周波(RF)アナログ回路部9、通信制御回路部10、センサアナログ回路部11、増幅回路部12及びひずみセンサ部15に直流電源Vinを供給するようになっている。この電源部13としては、バッテリ、太陽光発電、振動発電、温度差発電等の、いわゆるポジティブ電源を用いることができる。しかし、本発明は、これに限られるものではなく、後述するように、アンテナ8から受信した電磁波から直流電源を生成する、いわゆるパッシブ電源を用いることができる。
【0026】
一方、リーダー2は、無線通信機能を備えた例えば携帯型の受信装置であり、図6のブロック図に示すように、アンテナ16、RFアナログ回路部17、通信制御回路部18、損傷検知部19、表示部20及び電源部21を有して構成されている。RFアナログ回路部17は、アンテナ16を介して無線で交信する信号の変調及び復調を行うように構成されている。通信制御回路部18は、図示していない入力手段から入力される検査指令に基づいて、通信部5に対してひずみセンサ部15の検出出力Voutの読取指令を出力するようになっている。損傷検知部19は、読取指令に応答して、通信制御回路部18を介して入力されるひずみセンサ部15の検出出力Voutを取り込み、予め設定されている判定基準値Vsetと比較するようになっている。そして、Vout≦Vsetのときは損傷無しと判定し、その旨を表示部20に表示し、Vout>Vsetのときは損傷有りと判定し、その旨を表示部20に表示するようになっている。
【0027】
このように構成される本実施形態の損傷検知システムの動作について、次に説明する。まず、損傷検知デバイス1の検知板3を検査対象の物品7の適宜場所に貼り付ける。このとき、通信部5も物品7に表面に貼り付けて、物品7を物流過程におく。そして、物流過程の適当な時期、例えば、トラックなどに積む際、トラックから降ろす際、倉庫の棚に収納した状態などにおいて、リーダー2に検査指令を入力すると、リーダー2から損傷検知デバイス1の通信部5に対してひずみセンサ部15の検出出力Voutの読取指令が出力される。
【0028】
その読取指令が損傷検知デバイス1の通信部5に受信されると、通信部5が動作して、ひずみセンサ部15に直流電源Vinが供給され、そのときの検出出力Voutを取り込む。そして、通信部5は検出出力Voutを増幅してディジタル信号に変換するとともに、無線通信の搬送波に載せてアンテナ8から出力する。
【0029】
アンテナ8から出力された検出出力Voutは、リーダー2のアンテナ16により受信され、RFアナログ回路部17において復調や増幅などの受信処理がなされる。通信制御回路部18は、受信処理された検出出力Voutを損傷検知部19に転送する。損傷検知部19は、検出出力Voutと予め設定された判定基準値Vsetとを比較し、Vout≦Vsetのときは損傷無しと判定し、その旨を表示部12に表示し、Vout>Vsetのときは損傷有りと判定し、その旨を表示部12に表示する。また、損傷有りの場合は、警報などを出力するようにすることができる。
【0030】
このように動作することから、検査員は物品7の損傷の有無を容易に判断することができる。そして、例えば、損傷有りの場合は、その物品7を抜き出して、損傷の部位及び程度を確認し、必要に応じて対策を施すことができる。
【0031】
以上説明したように、本実施形態によれば、物品7に損傷をもたらすほどの衝撃が加わると、検知板3が変形し、その検知板3の変形をひずみセンサ部15が捉えることによって損傷の有無が判断される。図19に、検知板3の塑性変形データの一例を示す。図19の横軸は、ひずみ(%)であり、縦軸は応力(MPa)である。したがって、検知板3の塑性変形能を利用することによって、物品7を常時監視しなくても損傷の有無を検知できる。しかも、常時センシングしたり、電波を飛ばしたりする必要が無いので、損傷検知に必要なエネルギも小さくて済み、システムの長時間運用が可能になる。
【0032】
また、本実施形態では、図3又は図4に示したように、2つのひずみセンサ要素15a,15bと、2つのダミー抵抗要素15c,15dとをピエゾ抵抗効果を利用した不純物拡散層により形成するとともに、それらを相互に直交させて配置し、それらをブリッジ接続してひずみセンサ部15を構成したことを特徴とする。特に、ひずみセンサ要素15a,15bの電流が流れる方向をひずみ検出感度が高い方向に設定していることから、ダミー抵抗要素15c,15dはひずみ抵抗感度が小さくなり、温度依存性が支配することになる。その結果、物品7の温度が変化した場合、ひずみセンサ要素15a,15bの温度依存性をダミー抵抗要素15c,15dにより温度補正を行うことができる。その結果、温度に依存しない正確なひずみを検出できるという効果が得られる。
【0033】
また、ひずみセンサ部15を図3又は図4に示すように形成することにより、従来のひずみゲージと異なり、面内の等価ひずみに対しては感度が小さく、縦と横のひずみの偏差の大きさを高感度で検知することができる。その結果、物品7自身の体積膨張に起因する変形に対しては感度が無く、落下衝撃のような縦と横の偏差が大きい場合にのみ大きな感度を発揮する。したがって、温度や気圧の変化によって生じる物品7の体積変化には反応せず、損傷を与える可能性のある外力にのみ高感度に反応するから、物品の損傷検知に適した特性を有する。
【0034】
以上説明したように、本実施形態の損傷検知システムは、損傷検知デバイス1を塑性変形可能な板材からなる検知板3と、この検知板3に貼り付けられたひずみセンサ15と、無線で外部と交信する通信手段である通信部5とを有して構成し、その損傷検知デバイス1の通信部5と無線で交信する通信手段を有するリーダー2とを含んで構成していることから、損傷検知デバイス1の検知板3を検査対象の物品7に貼り付け、リーダー2により通信部5と交信してひずみセンサ15の出力を読み取って物品7の損傷の有無を検知することができる。その結果、次に述べる効果を奏することができる。
(1)物品7が容器などの梱包材に多量に詰められている場合でも、詰められた物品7に設けられたそれぞれの損傷検知デバイス1と電磁波による無線通信を行うだけで、物品7の損傷の有無を検知できるから、容器から物品7を取り出して確認する必要がない。
(2)物品7が包装されている場合でも、電磁波は包装部材を通り抜けられるので、包装を外すことなく物品7の損傷の有無を検知できる。
(3)物品7の表面の種々の部位に損傷検知デバイス1を貼り付けることにより、物品7の置き方などの姿勢がどの様であっても、物品7を回転したり裏返すことなく損傷の有無を検知できる。
(4)袋入りの物品7の場合は、開封部に損傷検知デバイス1を貼り付けることにより、開封する際の大きなひずみが検知板3に残るので、一旦開封された後、封止されたとしても、いつでも開封の有無を検知できる。
(5)損傷検知デバイス1の検知板3には、一旦受けた大きな荷重などによる変形を保持することから、物流過程において何回かひずみセンサの検出出力を測定し、それらの測定値を比較すれば、どこで大きな変形が発生したかを明らかにすることができる。その結果、物品が損傷を受けないような改善策を立てることができる。
(6)損傷検知デバイス1は、超小型に形成することができるから、小さい物品7に貼り付け可能である。
(7)損傷検知デバイス1は、半導体デバイスの製造プロセスで製造可能であるから、大量にかつ安価に製造できる。
【0035】
(実施形態1の変形例)
上記の実施形態1によれば、塑性変形可能な板材である検知板3を設けたことにより、メモリー効果が期待できるが、本発明はこれに限られるものではなく、検知板3を設けずに、ひずみセンサ部15を有する半導体チップ4を物品7に直接貼り付けてもよい。この場合、物品7が衝撃を受けて変形したにもかかわらず、変形がもとに戻ってしまうと、ひずみセンサ部15の検出出力Voutが判定基準値以下に低下してしまうことになり、リーダー2による読取時に損傷を検知できない場合がある。そこで、検知板3を設けない場合は、物品7のひずみを常時監視して、落下等の外力が加わったか否かを常にモニターすることも必要となる。
【0036】
また、検知板3の形状は、図2に示したように、正方形に限られるものではない。例えば、図7に示すように、長方形とし、その長辺方向にひずみセンサ要素15a,15bの電流が流れる方向をほぼ一致させることができる。このような検知板3は、長軸方向の中央部の変形軸22を対称として折れ曲がる縦の変形は、横の変形よりも容易に起こるから、複雑な外力が加わった場合には縦の変形が支配的になる。よって、不純物拡散層のひずみセンサ要素15a,15bに流れる電流の向きを、検知板3の長辺にほぼ平行にすると、その変形が強調されるため、感度が大きくなる。
【0037】
また、物品7に損傷検知デバイス1を貼り付ける位置は、それぞれの対象物品7に応じて、最も損傷を受けやすい位置を1箇所又は複数箇所選定することが好ましい。例えば、図8に示すように、損傷検知デバイス1を物品7の隅角部に貼り付けることにより、あるいは四隅に貼り付けることにより、一番損傷を受けやすい部分のひずみを確実に検知することができる。
【0038】
さらに、損傷検知デバイス1に内蔵電源を付設しているから、損傷検知デバイス1を独立して動作させることができる。そこで、ひずみセンサ15の出力が設定値を越えたとき、そのひずみセンサ15の出力と、その日時を記憶するメモリを設けることができる。これによれば、メモリの内容を読み出すことにより、物品が損傷を受けた履歴を知ることができるから、その原因や改善策などを合理的に立てることができる。
【0039】
また、検知板3に搭載した半導体チップ4及び通信部5の全体をモールド樹脂により被覆することが好ましい。
【0040】
(実施形態2)
図9及び図10に、本発明の物品の損傷検知システムの他の実施形態の概要構成図を示す。図9は損傷検知デバイス1の断面図を示し、図10は平面図を示している。本実施形態2の損傷検知システムが、図1、2の実施形態1と異なる点は、損傷検知デバイス1の通信部5の回路部を、アンテナ8を除いて半導体チップ4に組込むとともに、半導体チップ4にアンテナ8を介して受信する電磁波から直流電力を生成して、損傷検知デバイス1の動作電源を得る電源部を形成したことにある。その他の点は、実施形態1と同一であることから、同一の符号を付して説明を省略する。
【0041】
すなわち、本実施形態の半導体チップ4は、図11のブロック図に示すように、高周波(RF)アナログ回路部9、通信制御回路部10、センサアナログ回路部11、増幅回路部12、ひずみセンサ部15及び電源部24を有して形成されている。電源部24は、アンテナ8を介してRFアナログ回路部11により受信される電磁波から直流電力を生成するようになっている。生成された直流電力は、動作電源として損傷検知デバイス1を構成する各回路部に供給されるようになっている。例えば、電源部24は、リーダー2から読取指令が入力されたときに、リーダー2から送信される搬送波を受信し、その搬送はエネルギーを直流に変換して各部の動作電源として供給するように構成されている。
【0042】
アンテナ8としては、図10に示すように、半導体チップ4よりも十分に大きな樹脂フィルム25の周縁部にループ状に形成されたループアンテナ26を用いることができる。この場合、アンテナ8は、図9の断面図に示すように、検知板3の表面に貼り付けられた半導体チップ4に搭載して設けることができる。
【0043】
なお、アンテナ8は、図10のループアンテナに限らず、図12に示すように、ダイポールアンテナ27を用いることができる。このダイポールアンテナ27は、長方形の検知板3の場合に場所を取らないので望ましい。
【0044】
また、本実施形態の場合、図13に示すように、検知板3とアンテナ8との間に高透磁率材料からなる高透磁率部材28を配置することができる。高透磁率部材28としては、少なくとも検知板3の透磁率よりも高い透磁率を有する部材が好ましい。具体的には、樹脂にコバルトなどの透磁率の高い粒子又は粉体を混ぜたものを適用することができる。ここで、透磁率μは、外部から与えた磁界に対する磁化のしやすさを表す材料の性質であり、電磁波のように磁界の強さが変化したときには、磁束密度がその変化に追いつかずに位相が遅れる。そこで、透磁率μは、実数項μ’(磁化されやすさ)と、虚数項μ”(位相ずれの大きさ)に分けて表される。高透磁率部材28の一例としては、実数項μ’=10H/m以上、虚数項μ”=5H/m以上の透磁率μを選定する。
【0045】
このような高透磁率部材28を配置することにより、検知板3として金属板を適用した場合であっても、アンテナ8からの電波の飛びが悪くなるのを軽減できる。その結果、通信距離が伸びるという利点がある。物品7が金属の場合にはさらに有効である。
【0046】
このように構成される実施形態2の動作について次に説明する。実施の形態1の場合と同様に、損傷検知デバイス1の検知板3を検査対象の物品7の適宜場所に貼り付けて、物品7を物流過程におく。そして、物流過程の適当な時期にリーダー2に検査指令を入力すると、リーダー2から損傷検知デバイス1に対してひずみセンサ部15の検出出力Voutの読取指令が出力される。
【0047】
その読取指令が損傷検知デバイス1のアンテナ8を介してRFアナログ回路部9に受信されると、電源部25が動作して受信された搬送波から直流電力が生成され、ひずみセンサ部15などの各回路部に供給される。ひずみセンサ部15に直流電源Vinが供給されると、ひずみセンサ部15から検出出力Voutが増幅回路部12を介してセンサアナログ回路部11に取り込まれてディジタル信号に変換される。ディジタル信号に変換された検出出力Voutは、通信制御回路部10に取り込まれて所定の通信信号に形成され、RFアナログ回路部9にて無線通信の搬送波に載せてアンテナ8から出力される。
【0048】
アンテナ8から出力された検出出力Voutは、実施形態1の場合と同様に、リーダー2のアンテナ16により受信され、受信処理された検出出力Voutは損傷検知部19に転送されて損傷の有無が判定される。その判定結果は、表示部12に表示されるとともに、必要に応じて警報などが出力される。
【0049】
このように動作することから、実施形態1の効果に加えて、次の効果が得られる。リーダー2からの電磁波をエネルギーとして損傷検知デバイス1を駆動するので、損傷検知デバイス1に電池等の内部電源が不要になるから、電池切れということが無く、メインテナンス性に優れる。さらに、内部電源に関係する故障が無いので、その分、高信頼の測定が可能となる。また、損傷検知デバイス1の大きさを極小化でき、かつ軽量化できるので、場所を取らないから、物品に貼り付けても見栄えなどを悪くすることがなく、また運送のコスト上昇にはつながらない。また、本実施形態の損傷検知デバイス1によれば、実施形態1の場合よりも大量生産に向いた構成であるから、一層低価格化が可能である。
【0050】
(実施形態3)
図14に、本発明の損傷検知デバイス1に係る半導体チップの他の実施形態のブロック図を示す。本実施形態の半導体チップ30が、実施形態2の図11の半導体チップ4と相違する点は、通信制御回路部10に識別符号(ID)発行部31を接続して設け、通信制御回路部10で生成する通信信号に、それぞれの損傷検知デバイス1ごとに設定した固有の識別符号を付与するようにしたことにある。その他の点は、実施形態2と同一であることから、説明を省略する。
【0051】
このように構成されることから、損傷検知デバイス1からリーダー2に送られる検出出力Voutに、損傷検知デバイス1の識別符号が送信される。その結果、リーダー2では、検出出力Voutと対応する識別符号とを組にして管理することができるので、履歴管理を行う場合には特に有用である。
【0052】
(実施形態4)
図15に、図12に示した損傷検知デバイス1を適用した損傷検知システムの主要部の一実施形態を示す。本実施形態は、袋状の物品7の開封を確認できるシステムである。図15に示すように、袋の一辺に形成された開封口32の近くに、開封口32に沿って細長く形成された検知板3を有する損傷検知デバイス1を貼り付けて用いられる。
【0053】
このように構成されることから、袋の開封口32を開封すると、開封口の近傍に大きなひずみが発生して、検知板3を塑性変形させることになる。検知板3の変形は、開封口32を閉じても残留することから、これをひずみセンサ15で検知することによって、開封されたか、未開封であるかを容易に判断できる。
【0054】
また、図16に示すように、袋の開封口32の両面に損傷検知デバイス1を貼り付けることが好ましい。これによれば、両面の損傷検知デバイス1の検知板3のひずみの変化量の方向(極性)が、同一方向か反対方向かによって、開封口32が開封されたか、単に折り曲げられただけなのかを識別できるから、開封確認の信頼性が向上する。
【0055】
また、本実施形態の損傷検知デバイス1に、識別符号を発行する機能を持たせることにより、リーダー2によって識別符号とともに開封の履歴を管理することができる。さらに、リーダー2によって開封を検知したときの日時を記録して管理すれば、物品の消費期限の検索を行って、開封からの期間が消費期限を超えていれば、物品の廃棄を勧告したりすることが可能となる。
【0056】
なお、本実施形態4では、袋状の物品に適用する場合について示したが、梱包等を開封することができる物品の場合であって、かつ、開封すると開封口の近傍がゆがみやすい物品の場合には、本実施形態4を適用することができる。
【0057】
(実施形態5)
図17に、箱などの梱包材に物品7を収納した場合に適用する損傷検知システムの実施形態を示す。図17の例は、梱包箱35の開閉部を封止するテープ状の封止材36に、本発明の損傷検知デバイス1を貼り付けたものである。このように、封止材36に損傷検知デバイス1を貼り付けることにより、封止材36を故意に剥がすと、損傷検知デバイス1の検知板3にひずみが残留する。したがって、損傷検知デバイス1のひずみセンサ15の検出出力を読み取ることによって、梱包箱35の開封の有無を検知することができる。
【0058】
すなわち、従来は、封止材36に押印などによって封印していたが、本実施形態によれば、封止材36の識別と封止材36の開封日時を同時に管理することができる。特に、本発明の損傷検知デバイス1は、小型でかつ薄型に形成できるから、テープ状の封止材でも、ひも状の封止材にも適用することができる。
【0059】
また、図18に示すように、ガムテープのような封止材37に本発明の損傷検知デバイス1を設けることができ、この場合も、図17の実施形態と同様に、開封の有無、及び管理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の物品の損傷検知システムの一実施形態の概要構成図であり、損傷検知デバイス部は断面にして示す。
【図2】図1の損傷検知デバイスの平面図を示す。
【図3】P型不純物拡散層を用いたひずみセンサ部の構成図である。
【図4】N型不純物拡散層を用いたひずみセンサ部の構成図である。
【図5】通信部の一実施形態のブロック構成図である。
【図6】リーダーの一実施形態のブロック構成図である。
【図7】損傷検知デバイスの検知板とひずみセンサとの配置関係の一実施形態の構成図である。
【図8】物品と損傷検知デバイスの貼り付け位置を説明する図である。
【図9】本発明の物品の損傷検知システムの他の実施形態の概要構成図であり、損傷検知デバイス部は断面にして示す。
【図10】図9の損傷検知デバイスの平面図を示す。
【図11】図9の実施形態の損傷検知デバイスの半導体チップに形成された回路ブロックの構成図である。
【図12】本発明の物品の損傷検知システムに係る探傷検知デバイスの他の実施形態の概要構成図である。
【図13】本発明の物品の損傷検知システムのさらに他の実施形態の概要構成図であり、損傷検知デバイス部を断面にして示す。
【図14】図13の実施形態の損傷検知デバイスの半導体チップに形成された回路ブロックの構成図である。
【図15】袋状物品の開封確認に適用した損傷検知システムの一実施形態の構成図である。
【図16】袋状物品の開封確認に適用した損傷検知システムの他の実施形態の構成図である。
【図17】梱包材の開封確認に適用した損傷検知システムの一実施形態の構成図である。
【図18】梱包材の開封確認に適用した損傷検知システムの他の実施形態の構成図である。
【図19】検知板の塑性変形データの一例を示す線図である。
【符号の説明】
【0061】
1 損傷検知デバイス
2 リーダー
3 検知板
4 半導体チップ
5 通信部
6 配線
7 物品
8 アンテナ
9 RFアナログ回路部
10 通信制御回路部
11 センサアナログ回路部
12 増幅回路部
15 ひずみセンサ部
16 アンテナ
13 電源部
21 電源部
24 電源部
31 識別符号発行部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶シリコン基板に形成された不純物拡散層のひずみセンサ要素を有してなるひずみセンサを検査対象の物品に貼り付けて前記物品の損傷を検知する損傷検知デバイス。
【請求項2】
前記検査対象の物品に塑性変形可能な板材からなる検知板を貼り付け、該検知板に前記ひずみセンサを貼り付けて前記物品の損傷を検知することを特徴とする請求項1に記載の損傷検知デバイス。
【請求項3】
前記ひずみセンサの出力を無線で外部に送信する通信手段を備えてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の損傷検知デバイス。
【請求項4】
塑性変形可能な板材からなる検知板と、該検知板に貼り付けられたひずみセンサとを備えてなる損傷検知デバイス。
【請求項5】
前記ひずみセンサの出力を無線で外部に送信する通信手段を備えてなることを特徴とする請求項4に記載の損傷検知デバイス。
【請求項6】
前記通信手段は、電磁波を受信するアンテナを有し、該アンテナにより受信した電磁波エネルギを動作電源に変換する電源部を有してなることを特徴とする請求項3又は5に記載の損傷検知デバイス。
【請求項7】
前記ひずみセンサは、単結晶シリコン基板に形成された不純物拡散層を用いて形成されてなることを特徴とする請求項4に記載の損傷検知デバイス。
【請求項8】
前記ひずみセンサは、前記単結晶シリコン基板の一の結晶方向に沿って延在された不純物拡散層からなるひずみセンサ要素と、前記一の結晶方向に直交する結晶方向に沿って延在された不純物拡散層からなるダミー抵抗要素とを有することを特徴とする請求項4に記載の損傷検知デバイス。
【請求項9】
塑性変形可能な板材からなる検知板と、該検知板の一方の面に搭載された半導体チップと、該半導体チップに重ねて又は並べて搭載された平板状のアンテナとを備えてなり、
前記半導体チップには、前記検知板の変形を検出するひずみセンサと該ひずみセンサの出力を無線で外部に送信する通信回路とが形成されてなる損傷検知デバイス。
【請求項10】
前記アンテナの前記検知板側の面に、前記検知板よりも透磁率が高い板材が配設されてなることを特徴とする請求項9に記載の損傷検知デバイス。
【請求項11】
前記検知板に搭載される前記半導体チップと前記アンテナが樹脂により被覆されてなる請求項9に記載の損傷検知デバイス。
【請求項12】
塑性変形可能な板材からなる検知板と、該検知板に貼り付けられたひずみセンサと、無線で外部と交信する通信手段とを有してなる損傷検知デバイスと、該損傷検知デバイスの前記通信手段と無線で交信する通信手段を有するリーダーとを含んで構成され、前記損傷検知デバイスの前記検知板を検査対象の物品に貼り付け、前記リーダーにより前記損傷検知デバイスの通信手段と交信して前記ひずみセンサの出力を読み取って前記物品の損傷の有無を検知する損傷検知システム。
【請求項13】
前記リーダーは、前記ひずみセンサの出力が設定値を越えたとき、該ひずみセンサの出力とそのときの日時をメモリに記憶する手段を備えてなることを特徴とする請求項12に記載の損傷検知システム。
【請求項14】
前記損傷検知デバイスを前記物品の梱包材の封止材に固定したことを特徴とする請求項11に記載の損傷検知システム。
【請求項15】
前記損傷検知デバイスを前記物品の包装袋の開封部に固定したことを特徴とする請求項11に記載の損傷検知システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2006−267051(P2006−267051A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−89452(P2005−89452)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】