説明

物標探知装置および物標探知方法

【課題】変調パルス信号から得られる受信信号の飽和に起因する各問題を抑制できるレーダ装置を実現する。
【解決手段】送信タイミング決定部111は、予備探知モード時に予備探知用のパルス信号PPnを送信するように送信制御し、送信部12から無変調パルス信号で送信する。探知範囲区分検出部112は、受信部15からの受信信号に基づいて、変調パルス信号による受信信号では受信部15で飽和する可能性のある飽和可能性物標の位置を検出し、メモリ113の送信制御用マップに記憶する。送信タイミング決定部111は、飽和可能性物標の位置に基づいて、飽和回避用の探知範囲を設定して、通常探知で変調パルス信号を用いる範囲であっても、無変調パルス信号を用いるように送信制御する。画像形成部17は、このような送信制御による無変調パルス信号の受信信号および変調パルス信号の受信信号のパルス圧縮後の信号に基づいて、探知画像を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パルス状の送信信号が物標に反射して得られる受信信号に基づいて物標の探知を行うレーダ装置等の物標探知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パルス信号を探知対象領域へ送信して反射信号から物標の探知を行うレーダ装置がある。このようなレーダ装置には、受信信号のS/Nを改善し、物標検知性能を向上させるために、パルス圧縮処理を用いたレーダ装置が存在する。
【0003】
ところで、このようなパルス信号を用いたレーダ装置では、反射断面積が大きな物体が探知対象領域内に存在し、受信電力が大幅に大きくなると、受信系に備えられたLNA等で受信信号が飽和してしまうことがある。このように受信信号が飽和してしまうと、受信信号のピークレベルが頭打ちして、S/Nが低下したりすることで、正確な物標探知結果を得られなくなってしまう。特に、FMチャープ信号からなるパルス状の送信信号(以下、「変調パルス信号」と称する。)を送信するパルス圧縮処理を用いたレーダ装置の場合、受信信号が飽和すると、受信信号の周波数成分比と送信信号の周波数成分比が一致しなくなることで、パルス圧縮時に、ピーク周波数のレベルが低下したり、レンジサイドローブ(時間軸上でのサイドローブ)が発生してしまう。このため、S/Nが劣化したり、他の物体からの反射信号がレンジサイドローブに埋もれてしまう等の問題が発生し、正確な物標探知を行えなくなってしまう。
【0004】
このため、このような受信信号の飽和を回避する方法として、次に示すような各種の方法が存在する。
(1)所謂STC処理すなわち受信信号をアナログ的に振幅減衰させる方法、
(2)特許文献1に示すような、受信信号を減衰させない伝送系と受信信号を減衰させる伝送系との2系統備えて、ダイナミックレンジを改善する方法、
(3)特許文献2に示すような、受信信号をLNAに通す伝送系と、受信信号をLNAに通さない伝送系とを、飽和を検知して切り替える方法、
がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−137071号公報
【特許文献2】特開平9−72955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の(1)の方法を用いた場合、受信信号の振幅の減衰とともに、受信信号の位相が変化してしまうので、パルス圧縮処理を行うと、上述の飽和の場合と同様に、S/Nが劣化するとともにレンジサイドローブが発生してしまう。
【0007】
また、上述の(2)の方法を用いた場合、受信系回路を複数設けなければならないため、ハードウエアの規模が大幅に大きくなってしまう。また、このような回路構成で稼ぐことができる追加のダイナミックレンジは小さく、飽和を完全に抑制することができるとは限らない。
【0008】
また、上述の(3)の方法を用いた場合、飽和を検知することで、伝送系を切り替えるので、飽和の検知のタイミングでは、飽和が生じてしまう。
【0009】
このような課題を鑑みて、本発明の目的は、受信信号の飽和に起因する各問題の発生を抑制することができるレーダ装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、異なる探知領域を異なるパルス状信号で探知し、探知した情報を合成してアンテナ位置から所定距離までの領域を探知する物標探知装置に関するものである。この物標探知装置は、送信部、受信部、および制御部を備える。
【0011】
送信部は少なくとも2以上の異なるパルス状信号を所定タイミングで送信する。受信部は、送信したパルス状信号に応じた所定の受信期間に、反射信号を受信して受信信号を生成する。制御部は、送信したパルス状信号に対する受信信号を用いて、以降に送信するパルス状信号の受信信号のレベルが所定の飽和閾値を超えるか否かを検出し、該検出結果に基づいて送信部および受信部を制御する。
【0012】
この構成では、パルス状信号に基づく受信信号が飽和することを、実際に飽和が発生する前に検出することができ、飽和検出に応じた各種の送受信制御を未然に実行できる。
【0013】
また、この発明の物標探知装置の制御部は、受信信号のレベルが飽和閾値を超えると検出された探知範囲に対しては、受信信号が飽和しないもしくは受信信号が飽和しても検出結果に影響を与えないパルス状信号を用いるように制御する。
【0014】
この構成では、上述のように、飽和の発生を事前に検知できることで、受信信号が飽和しないようにパルス状信号を設定する送受信制御を、受信信号の飽和が生じる前に実行でき、受信信号の飽和を防止することができる。
【0015】
また、この発明の物標探知装置の制御部は、受信信号のレベルが飽和しないパルス状信号を用いて、受信信号のレベルが飽和閾値を超えると検出された探知範囲を探索する。
【0016】
この構成では、具体的な飽和検出の方法を示し、受信信号のレベルが飽和しないパルス状信号に対して、実際に飽和が問題となるパルス状信号の飽和レベルに応じた飽和閾値を設定する。そして、受信信号のレベルが飽和しないパルス状信号が当該飽和閾値を超えたことに基づいて、受信信号が飽和するであろう探知範囲を検出することができる。
【0017】
また、この発明の物標探知装置の送信部は、少なくとも近距離領域探知用のパルス状信号と、中距離領域探知用のパルス状信号とを含む2以上の異なるパルス状信号を予め決められた順序で送信する。制御部は、近距離領域探知用のパルス状信号を用いて、飽和閾値を超えると検出された探知範囲を探索する。
【0018】
この構成では、具体的な飽和検出に利用するパルス状信号として近距離領域探知用のパルス状信号を用いる場合を示し、近距離領域探知用のパルス状信号が、よりアンテナから遠い領域である中距離領域以遠では基本的に飽和しないことを利用している。そして、このように近距離領域探知用のパルス状信号で中距離領域まで、上述の飽和閾値による飽和の検知を行うことで、実際に中距離領域で当該領域に設定されたパルス状信号に対する受信信号の飽和が生じる前に、受信信号が飽和するであろう探知範囲を検出することができる。
【0019】
また、この発明の物標探知装置の制御部は、一定のキャリア周波数のパルス状信号を用いて、飽和閾値を超えると検出された探知範囲を探索する。
【0020】
この構成では、具体的な飽和検出に利用するパルス状信号として、一定のキャリア周波数のパルス状信号(無変調パルス信号)を用いる場合を示している。
【0021】
また、この発明の物標探知装置の制御部は、キャリア周波数が順次変化し、振幅レベルが制限されたパルス状信号を用いて、飽和閾値を超えると検出された探知範囲を探索する。
【0022】
この構成では、具体的な飽和検出に利用するパルス状信号として、キャリア周波数が変化するパルス状信号(変調パルス信号)を用いる場合を示している。
【0023】
また、この発明の物標探知装置の制御部は、物標の探知処理より前に、飽和閾値を超えると検出された探知範囲を探索する予備探知モードを予め設定する。
【0024】
この構成では、物標探知を実行する前に、予備探知モードとして、受信信号の飽和の可能性を検出できるので、物標探知の開始時点から、受信信号の飽和を防止することができる。
【0025】
また、この発明の物標探知装置の制御部は、物標の探知処理中に得られる受信信号を用いて、飽和閾値を超えると検出された探知範囲を探索する。
【0026】
この構成では、物標の探知処理中(後述の通常探知モードや飽和回避探知モードによる物標探知処理中)においても、受信信号の飽和を事前に検出することができ、検出結果に応じて動的に送受信制御を行うことができる。
【0027】
また、この発明の物標探知装置の制御部は、アンテナ位置を中心とした方位別にパルス状信号の送受信を制御する。
【0028】
この構成では、単に距離のみではなく方位範囲をも含んで、飽和防止のための送受信制御を、より詳細に設定することができる。
【0029】
また、この発明のパルスレーダ装置は、上述の物標探知装置と、該物標探知装置で得られた探知結果に基づいて探知画像を形成する画像形成部と、を備える。
【0030】
この構成では、上述の物標探知装置をパルスレーダ装置に用いた場合を示し、受信信号の飽和が未然に防止されることで、周囲の状況に応じた正確な物標探知画像を得ることができる。
【発明の効果】
【0031】
この発明によれば、受信信号の飽和によるS/Nの低下等を防止できる。特に、パルス圧縮を用いる場合には、変調パルス信号を用いたパルス圧縮処理を積極的に利用しながらも、変調パルス信号から得られる受信信号の飽和を防止できる。これにより、当該飽和によるS/Nの劣化やレンジサイドローブの発生を確実に防止でき、高い物標検知性能を有するレーダ装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態に係るレーダ装置の主要構成を示すブロック図である。
【図2】送信制御用マップの概念を示す図である。
【図3】通常探知モード時の送信タイミングチャートを示す図、および、通常探知モード時の探知範囲の概念を示す図である。
【図4】予備探知モード時の送信タイミングチャートを示す図、および、予備探知モード時の探知範囲の概念を示す図である。
【図5】第1の飽和回避探知モード時の送信タイミングチャートを示す図、および、第1の飽和回避探知モード時の探知範囲の概念を示す図である。
【図6】第2の飽和回避探知モード時の送信タイミングチャートを示す図、および、第2の飽和回避探知モード時の探知範囲の概念を示す図である。
【図7】通常の短距離パルス探知範囲に対して変調パルス信号を用いた場合の飽和回避用の探知処理を行う場合の例を概念例を示した図である。
【図8】送信制御用のデータベースの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の実施形態に係る物標探知装置について、図を参照して説明する。なお、本実施形態で示す物標探知装置はレーダ装置であるが、パルス送信信号を用いて物標を探知する装置であれば、他の装置であっても良い。
【0034】
図1は、本実施形態のレーダ装置10の主要回路構成を示すブロック図である。
図1に示すように、レーダ装置10は、送信制御部11、送信部12、サーキュレータ13、アンテナ14、受信部15、パルス圧縮部16、画像形成部17を備える。
【0035】
送信制御部11は、送信部12で生成する各パルス状送信信号の種類、パルス幅、振幅、送信タイミング等を指示する送信制御データを形成する。このように設定された送信制御データは、送信制御部11から、送信部12および受信部15へ与えられる。
【0036】
ここで、パルス状送信信号の種類とは、一定周波数のキャリア信号によりパルス状の波形を形成してなる無変調パルス信号と、キャリア信号の周波数を順次変化させながらパルス状の波形を形成してなる変調パルス信号とからなる。また、パルス状送信信号のパルス幅は、発生するブラインドエリアの距離、検出感度、および距離分解能に基づいて決定される。振幅は検出感度およびレーダ装置10の動作モードに応じて決定される。送信タイミングは、レーダ装置10の動作モードに応じて決定される。なお、各動作モードにおける送信制御の詳細については、後述する。
【0037】
送信部12は、半導体等の発振素子を有し、送信制御部11から与えられる送信制御データに基づいて、無変調パルス信号もしくは変調パルス信号からなるパルス状送信信号を生成して、サーキュレータ13へ出力する。
【0038】
サーキュレータ13は、送信部12からのパルス状送信信号をアンテナ14へ伝送する。アンテナ14は、所定の回転速度で定速度回転し続けながら、供給されたパルス状送信信号を外部へ放射するとともに、パルス状送信信号が供給されていない期間は、外部の物標からの反射信号を受信して、受信信号をサーキュレータ13へ出力する。サーキュレータ13は、アンテナ14からの受信信号を受信部15へ出力する。
【0039】
受信部15は、LNA(低雑音増幅器)を備え、受信信号を増幅して出力する。受信部15には送信制御データが与えられており、受信部15は、送信制御データに基づいて、無変調パルス信号による受信信号であれば画像形成部17へ出力し、変調パルス信号であればパルス圧縮部16へ出力する。なお、受信部15から出力された無変調パルス信号および変調パルス信号は、送信制御部11の探知範囲区分検出部112へも与えられる。
【0040】
パルス圧縮部16は、例えば、フーリエ変換部、マッチドフィルタ、逆フーリエ変換部を備え、受信部15からの変調パルス信号を既知の方法でパルス圧縮して、パルス圧縮後の信号を、画像形成部17へ出力する。
【0041】
画像形成部17は、受信部15からの無変調パルス信号の受信信号と、パルス圧縮部16からのパルス圧縮後の信号と、を用いて、探知画像データを形成する。この際、画像形成部17は、必要に応じて、既知のパルス積分処理を行う。パルス積分処理とは、アンテナ14からの電波の放射方向を示すスイープが回転する方向において隣り合う信号同士を積算する処理である。画像形成部17から出力された探知画像データは、図示しない表示器に表示される等の処理が施される。
【0042】
このようなレーダ装置10では、次に示す送信制御部11の具体的な送信制御により、受信部15で受信信号が飽和することを防止する。
【0043】
(送信制御部11の具体的説明)
送信制御部11は、送信タイミング決定部111、探知範囲区分検出部112、メモリ113を備える。
【0044】
送信タイミング決定部111は、上述の送信制御データを形成する機能部であり、レーダ装置10の動作モードに応じた送信制御を実行する。
【0045】
ここで、レーダ装置10の動作モードとは、次の各動作モードからなる。
・反射信号が飽和する物標(以下、単純に「飽和可能性物標」と称する。)が探知対象領域内に存在するかどうかをレーダ装置10の起動時に検出する予備探知モード。
・飽和可能性物標が探知対象領域内に存在しない場合に実行される通常探知モード。
・飽和可能性物標が探知対象領域内に存在する場合に、受信信号の飽和を回避しながら物標探知を行う飽和回避探知モード。
【0046】
探知範囲区分検出部112は、上述の予備探知モードと、通常探知モードおよび飽和回避探知モードとで異なる処理を実行する。
【0047】
予備探知モードでは、探知範囲区分検出部112は、例えば、予備探知用の無変調パルス信号に基づく受信信号を取得し、各受信信号のレベルが、予備探知用飽和可能性閾値以上であるかどうかを検出する。ここで、予備探知用飽和可能性閾値は、通常探知状態での変調パルス信号による受信信号が受信部15で増幅される際に飽和する可能性があるレベルを、予備探知用の無変調パルス信号による受信信号のレベルに換算し、所定のマージンを持たせた値に設定されている。なお、予備探知用のパルス状送信信号は、変調パルス信号であってもよい。
【0048】
この検出処理は、アンテナ1回転分に亘り、距離方向においては予め設定している予備探知範囲が検出対象となるように、実行される。そして、探知範囲区分検出部112は、予備探知用飽和可能性閾値以上となる受信信号を検出すると、対応する方位および距離位置を算出して、送信制御用マップに状態遷移信号を出力する。
【0049】
通常探知モードおよび飽和回避探知モードでは、探知範囲区分検出部112は、通常探知状態もしくは飽和回避探知状態下における無変調パルス信号の受信信号および変調パルス信号の受信信号を取得する。
【0050】
探知範囲区分検出部112は、無変調パルス信号に基づく受信信号を取得すると、各受信信号のレベルが、第1飽和可能性閾値以上であるかどうかを検出する。ここで、第1飽和可能性閾値は、上述の予備探知用飽和可能性閾値と異なり、通常探知状態での変調パルス信号による受信信号が受信部15で増幅される際に飽和する可能性があるレベルを、通常探知状態もしくは飽和回避探知状態での無変調パルス信号による受信信号のレベルに換算し、所定のマージンを持たせた値に設定されている。
【0051】
また、探知範囲区分検出部112は、変調パルス信号に基づく受信信号を取得すると、各受信信号のレベルが、第2飽和可能性閾値以上であるかどうかを検出する。ここで、第2飽和可能性閾値は、上述の予備探知用飽和可能性閾値と異なり、通常探知状態もしくは飽和回避探知状態での変調パルス信号による受信信号が受信部15で増幅される際に飽和する可能性があるレベル、すなわち、上述の無変調パルス信号に対する第1飽和可能性閾値を設定する際の基準となる値に所定のマージンを持たせた値に設定されている。
【0052】
この検出処理は、通常探知状態および飽和回避探知状態において継続的に実行される。そして、探知範囲区分検出部112は、第1飽和可能性閾値以上の受信信号および第1飽和可能性閾値以上の受信信号を検出すると、対応する方位および距離位置を算出して、送信制御用マップに状態遷移信号を出力する。
【0053】
メモリ113には、距離分解能に応じた無変調パルス信号のパルス幅および変調パルス信号のパルス幅が記憶されている。具体的には、通常探知モード時の無変調パルス信号からなる短距離探知用のパルス信号PSn(nは正の整数)のパルス幅WPS、変調パルス信号からなる中距離探知用のパルス信号PMn(nは正の整数)のパルス幅WPM、および、変調パルス信号からなる長距離探知用のパルス信号PLn(nは正の整数)のパルス幅WPLが記憶されている。なお、この際、パルス信号PSnは無変調パルス信号であり、パルス信号PMn,PLnはパルス圧縮を行う変調パルス信号であるので、パルス信号PSnの受信信号による距離分解能と、パルス信号PMn,PLnの受信信号をパルス圧縮した後の信号による距離分解能と、が一致するように設定されている。さらに、メモリ113には、予備探知モード時の無変調パルス信号からなる予備探知用のパルス信号PPn(nは正の整数)のパルス幅WPPも記憶されている。
【0054】
メモリ113には、各パルス信号PSn,PMn,PLsの振幅、および、予備探知用のパルス信号PPnの予備探知用の振幅が記憶されている。この予備探知用の振幅は、同じ無変調パルス信号であっても、上述の短距離探知用のパルス信号PSnの振幅よりも低く設定されている。この振幅の低減量は、探知対象とする物標の中で最も反射断面積が大きな物標が予備探知範囲内に存在していても、受信信号が受信部15で飽和しない振幅となるように設定されている。
【0055】
メモリ113は、通常探知モード時における探知範囲毎の距離に応じた、短距離探知用のパルス信号PSnによる送受信期間RT、中距離探知用のパルス信号PMnによる送受信期間RT、長距離探知用のパルス信号PLnによる送受信期間RT、および、パルス群の繰り返し周期(PRF)が記憶されている。なお、パルス群の繰り返し周期とは、短距離探知用のパルス信号PSn、中距離探知用のパルス信号PMn、および長距離探知用のパルス信号PLnからなるパルス列を一群とし、当該一群が繰り返し送信される周期を示すものである。さらに、メモリ113には、予備探知モード時における予備探知範囲の距離に応じた予備探知用のパルス信号PPnによる送受信期間RTが記憶されている。さらに、メモリ113には、飽和回避探知モード時に利用する、無変調パルス信号の探知範囲の距離に応じて、当該無変調パルス信号用の送受信時間RTS’が記憶されている。
【0056】
また、メモリ113には、送信制御用マップが記憶されており、探知範囲区分検出部112からの状態遷移信号に基づいて更新記憶される。更新記憶される送信制御用マップは、送信制御部111により読み出され、送信制御に利用される。
【0057】
図2は送信制御用マップの概念を示す図である。図2(A)は距離のみにより飽和回避用の探知範囲を設定する場合を示し、図2(B)は距離と方位により飽和回避用の探知範囲を設定する場合を示す。
【0058】
図2に示すように、送信制御用マップは、概念的に、距離R方向と方位θ方向(スイープの回転方向)との2次元領域において、所定の分解能からなる個別状態データを配列した構造からなる。なお、図2では、長距離パルス探知範囲すなわち距離Rが遠距離の範囲も記載しているが、実際には、予備探知範囲に含まれる程度の距離R方向の範囲が少なくとも記憶されていればよい。各個別状態データは、上述の飽和可能性閾値以上の受信信号を検出した際の状態遷移信号により状態遷移するものであり、例えば、状態遷移信号を受け付けていなければ対象となる個別状態データは「0」であり、状態遷移信号を受け付けていれば、対象となる個別状態データは「1」となる。
【0059】
なお、上述の説明では、飽和可能性閾値に所定のマージンを持たせることで、受信信号が確実に飽和する領域のみではなく、飽和しそうな領域も飽和可能性領域になるように設定した。しかしながら、飽和可能性閾値にマージンを持たせずに飽和可能性領域を設定した後に、マップ上でマージンに応じて飽和可能性領域を広く設定するようにしてもよい。
【0060】
次に、送信制御部11が行う各動作モードでの制御処理について、より詳細に説明する。なお、本実施形態では、探知範囲を短距離パルス探知範囲、中距離パルス探知範囲、長距離パルス探知範囲の3つの範囲に分割し、それぞれに異なるパルス状送信信号を送信して物標探知を行う場合を例に示す。そして、本実施形態では、短距離範囲用のパルス状送信信号として無変調パルス信号を用い、中距離範囲用および長距離範囲用のパルス状送信信号として変調パルス信号を用いる例を示す。
【0061】
・通常探知モード
まず、以下の予備探知モードおよび飽和回避探知モードの説明を容易にするために、通常探知モードの際の送信制御について説明する。なお、ここで言う、通常探知モードとは、後述する予備探知モード等により、飽和可能性物標が存在しない場合に実行させる動作モードである。ここで、飽和可能性物標とは、変調パルス信号(特に、中距離パルス探知範囲に利用する変調パルス信号)の受信信号が受信部15で飽和する可能性があるような物標のことを示す。
【0062】
図3(A)は通常探知モード時の送信タイミングチャートを示す図であり、図3(B)は通常探知モード時の探知範囲の概念を示す図である。
【0063】
送信制御部11の送信タイミング決定部111は、メモリ113の送信制御用マップの全ての個別状態データが「0」となっていることを検出すると、通常探知モードと判断する。
【0064】
送信タイミング決定部111は、通常探知モードであることを検出すると、メモリ113から、パルス信号PSnのパルス幅WPS、パルス信号PMnのパルス幅WPM、および、パルス信号PLnのパルス幅WPLを読み出す。また、送信タイミング決定部111は、パルス信号PSn,PMn,PLsの振幅を読み出す。さらに、送信タイミング決定部111は、パルス信号PSnによる送受信期間RT、パルス信号PMnによる送受信期間RT、パルス信号PLnによる送受信期間RT、および、パルス群の繰り返し周期(PRF)を読み出す。
【0065】
そして、送信タイミング決定部111は、これらパルス幅、送受信期間、およびパルス群の繰り返し周期PRFに基づいて、設定した振幅で各パルス状送信信号(パルス信号PSn,PMn,PLn)を送信するように送信部12へ送信制御データを与える。
【0066】
送信部12は、この送信制御データに応じて、図3(A)に示すように、まず無変調パルス信号からなるパルス信号PS1をパルス幅WPSで送信する。次に、パルス信号PS1の送信タイミングから送受信期間RT後に、変調パルス信号からなるパルス信号PM1をパルス幅WPMで送信する。次に、パルス信号PM1の送信タイミングから送受信期間RT後に、変調パルス信号からなるパルス信号PL1をパルス幅WPLで送信する。次に、パルス信号PL1の送信タイミングから送受信期間RT後に、再度、無変調パルス信号からなるパルス信号PS2をパルス幅WPSで送信する。
【0067】
そして、送信部12は、このようなパルス信号PSn,PMn,PLnの順次送信を、パルス群の繰り返し周期(PRF)に準じて繰り返し実行する。
【0068】
受信部15は、短距離探知の期間RTの受信期間には無変調パルス信号であるパルス信号PSnに基づく受信信号を取得する。受信部15は、受信信号を画像形成部17へ出力する。
【0069】
受信部15は、中距離探知の期間RTの受信期間には変調パルス信号であるパルス信号PMnに基づく受信信号を取得する。パルス圧縮部16は、受信信号をパルス圧縮して、画像形成部17へ出力する。
【0070】
受信部15は、長距離探知の期間RTの受信期間には変調パルス信号であるパルス信号PLnに基づく受信信号を取得する。パルス圧縮部16は、受信信号をパルス圧縮して、画像形成部17へ出力する。
【0071】
このような通常探知処理は、後述する予備探知モードにより、変調パルス信号の受信信号が受信部15によって飽和する物標(飽和可能性物標)を検出していない場合、もしくは、直前の通常探知処理で飽和可能性物標を検出していない場合、さらには、直前の飽和回避探知処理で飽和可能性物標が検出されなくなった場合に、実行される。したがって、受信部15から出力される変調パルス信号の受信信号は飽和しないので、S/Nが低下せず、パルス圧縮時のレンジサイドローブも発生しない。したがって、良好な探知画像を得ることができる。
【0072】
なお、このような通常探知モードでは、探知範囲区分検出部112は、順次、受信信号を取得し、短距離探知の無変調パルス信号の受信信号に対しては、短距離探知の無変調パルス信号用に設定した第1飽和可能性閾値に基づいて飽和可能性物標の検出を継続的に実行する。また、探知範囲区分検出部112は、中距離探知の変調パルス信号用に設定した第2飽和可能性閾値に基づいて飽和可能性物標の検出を継続的に実行する。そして、探知範囲区分検出部112は、これらの検出結果に基づいて、メモリ113の送信制御用マップを更新する。これにより、通常探知モード中における物標や自船の移動によって探知範囲の状況が変化しても、受信信号を飽和させることなく、探知画像を形成し続けることができる。
【0073】
・予備探知モード
レーダ装置10が起動すると、送信制御部11は、予備探知モードにより、変調パルス信号の受信信号が受信部15で飽和する可能性があるような物標が存在するかどうかを判断する。
【0074】
図4(A)は予備探知モード時の送信タイミングチャートを示す図であり、図4(B)は予備探知モード時の探知範囲の概念を示す図である。
【0075】
送信タイミング決定部111は、予備探知モードとなると、メモリ113から、パルス信号PPnのパルス幅WPP、送受信期間RT、および予備探知用の振幅を読み出す。
【0076】
そして、送信タイミング決定部111は、これらのパルス幅WPP、送受信期間RTに基づいて、予備探知用の振幅で無変調パルス信号からなる予備探知用のパルス信号PPnを送信するように送信部12へ送信制御データを与える。この際、送信タイミング決定部111は、予備探知用のパルス信号PPnを、アンテナ14の1回転分(1スイープ分)に亘り送信するように設定する。
【0077】
送信部12は、この送信制御データに応じて、図4(A)に示すように、パルス幅WPPの無変調パルス信号からなる予備探知用のパルス信号PP1〜PPα(αは方位分解能により決定する正の整数)を送受信期間RTの間隔で、1スイープ分に亘って順次送信する。この際、送受信期間RTは、短距離パルス探知範囲用の送受信期間RTよりも長く設定されており、これにより、中距離パルス探知範囲の所定範囲までを、予備探知範囲とすることができる。
【0078】
受信部15は、予備探知用のパルス信号PPnに基づく受信信号を取得し、探知範囲区分検出部112へ出力する。この際、パルス信号PPnの振幅が低減されているので、当該パルス信号PPnに基づく受信信号は飽和しない。
【0079】
探知範囲区分検出部112は、パルス信号PPnに基づく受信信号から、予備探知範囲内の物標を検出するとともに、受信信号のレベルが予め設定した予備探知用飽和可能性閾値以上であるかどうかを検出する。そして、探知範囲区分検出部112は、予備探知用飽和可能性閾値以上の受信信号があれば、当該受信信号から飽和可能性物標の距離及び方位を検出して、状態遷移信号を発生する。そして、探知範囲区分検出部112は、図2(A),(B)に示すように、メモリ113の送信制御用マップにおける飽和可能性物標に対応する距離および方位の個別状態データを「1」に設定する。例えば、図2(A),(B)の場合であれば、距離Ds1の方位θ2,θ3の個別状態データ、距離Ds2の方位θ1,θ4の個別状態データ、距離Ds3の方位θ5の個別状態データを「1」に設定する。これにより、送信制御部11は、飽和可能性物標の有無および、存在位置を知ることができる。
【0080】
送信制御部11の送信タイミング決定部111は、このメモリ113に記憶された送信制御用マップを読み出すことで、飽和可能性物標が存在すれば(「1」の個別状態データがあれば)、後述する飽和回避探知モードを実行する。一方、送信タイミング決定部111は、飽和可能性物標が存在しなければ(「1」の個別状態データがなければ)、上述の通常探知モードを実行する。
【0081】
・飽和回避探知モード
上述の予備探知モードで、飽和可能性物標が存在することを検出すると、送信制御部11は、通常探知モードのとは異なる図5や図6に示すような飽和回避用の探知範囲を設定して送信制御を行う。
【0082】
図5(A)は第1の飽和回避探知モード時の送信タイミングチャートを示す図であり、図5(B)は第1の飽和回避探知モード時の探知範囲の概念を示す図である。また、図6(A)は第2の飽和回避探知モード時の送信タイミングチャートを示す図であり、図6(B)は第2の飽和回避探知モード時の探知範囲の概念を示す図である。
【0083】
(1)第1の飽和回避探知モードの場合
第1の飽和回避探知モードは、図2(A)に示すように、飽和回避用の探知範囲を距離のみで設定する。
【0084】
送信タイミング決定部111は、メモリ113に記憶された送信制御用マップ(図2参照)を読み出し、「1」の個別状態データがあることを検出すると、最も遠い距離位置に存在する「1」の個別状態データを検出し、飽和回避用の探知範囲を規定する最長距離を取得する。例えば、図2(A)の場合であれば、「1」の個別状態データに対応する距離Ds1,Ds2,Ds3を読み出し、距離Ds3を、最長距離として検出する。
【0085】
送信タイミング決定部111は、取得した最長距離から、図2(A)に示すように、自装置側の範囲を飽和回避用の探知範囲に設定する。具体的には、送信タイミング決定部111は、最長距離Ds3が短距離パルス探知範囲外であれば、最長距離Ds3までの全方位範囲を飽和回避用の探知範囲に設定する。送信タイミング決定部111は、当該飽和回避用の探知範囲内に対して、通常探知モード時の短距離パルス探知範囲で利用するパルス信号PSnを設定する。一方、送信タイミング決定部111は、最長距離が短距離パルス探知範囲内であれば、通常探知モード時と同じ送信制御を行う。
【0086】
また、送信タイミング決定部111は、取得した最長距離からパルス信号PSnの送受信期間RTS’を決定する。この送受信期間RTS’は、飽和可能性物標が通常探知モード時の短距離パルス探知範囲外であれば、取得した最長距離に応じた時間に設定され、飽和可能性物標が通常探知モード時の短パルス探知範囲内であれば、通常探知モード時の送受信期間RTと同じに設定される。なお、中距離探知用のパルス信号PMnの送受信期間RTおよび長距離探知用のパルス信号PLnの送受信期間RTは変化させない。そして、送信タイミング決定部111は、この送受信期間RTS’の設定に応じて、パルス群の繰り返し周期もPRFからPRF’に設定する。
【0087】
送信タイミング決定部111は、これら送受信期間RTS’およびパルス群の繰り返し周期PRF’を含む送信制御データを生成し、送信部12へ与える。
【0088】
送信部12は、この飽和回避用の送信制御データに応じて、図5(A)に示すように、まず無変調パルス信号からなるパルス信号PS1をパルス幅WPSで送信する。次に、パルス信号PS1の送信タイミングから送受信期間RTS’後に、変調パルス信号からなるパルス信号PM1をパルス幅WPMで送信する。次に、パルス信号PM1の送信タイミングから送受信期間RT後に、変調パルス信号からなるパルス信号PL1をパルス幅WPLで送信する。次に、パルス信号PL1の送信タイミングから送受信期間RT後に、再度、無変調パルス信号からなるパルス信号PS2をパルス幅WPSで送信する。
【0089】
そして、送信部12は、このようなパルス信号PSn,PMn,PLnの順次送信を、パルス群の繰り返し周期(PRF’)に準じて繰り返し実行する。
【0090】
受信部15は、飽和回避用に設定された送受信期間RTS’の受信期間には無変調パルス信号であるパルス信号PSnに基づく受信信号を取得する。受信部15は、受信信号を画像形成部17へ出力する。
【0091】
受信部15は、中距離探知の期間RTの受信期間には変調パルス信号であるパルス信号PMnに基づく受信信号を取得する。パルス圧縮部16は、受信信号をパルス圧縮して、画像形成部17へ出力する。
【0092】
受信部15は、長距離探知の期間RTの受信期間には変調パルス信号であるパルス信号PLnに基づく受信信号を取得する。パルス圧縮部16は、受信信号をパルス圧縮して、画像形成部17へ出力する。
【0093】
このような飽和回避用の物標探知を行うことで、飽和可能性物標が存在しても、当該飽和可能性物標の探知は、無変調パルス信号で行われ、変調パルス信号を用いない。このため、変調パルス信号の受信信号が飽和することで生じるS/Nの低下や、パルス圧縮処理時に生じるレンジサイドローブの発生を防止することができる。これにより、変調パルス信号を用いることで受信信号が飽和してしまい、正確に探知できないような飽和可能性物標も無変調パルス信号を用いて正確に探知することができる。そして、当該飽和可能性物標よりも遠い距離範囲に対しては変調パルス信号を用いることができるので、これらの範囲に対しては高いS/Nを維持して高い距離分解能で、物標探知を行うことができる。これにより、確実且つ高精度な探知画像を形成することができる。
【0094】
(2)第2の飽和回避探知モードの場合
第2の飽和回避探知モードは、図2(B)に示すように、飽和回避用の探知範囲を距離と方位で設定する。
【0095】
送信タイミング決定部111は、メモリ113に記憶された送信制御用マップ(図2参照)を読み出し、「1」の個別状態データがあることを検出すると、最も遠い距離位置に存在する「1」の個別状態データを検出し、飽和回避用の探知範囲を規定する最長距離を取得する。例えば、図2(B)の場合であれば、「1」の個別状態データに対応する距離Ds1,Ds2,Ds3を読み出し、距離Ds3を、最長距離として検出する。
【0096】
また、送信タイミング決定部111は、「1」の個別状態データが分布する方位範囲を取得する。例えば、図2(B)の場合であれば、「1」の個別状態データに対応する方位θ1,θ2,θ3,θ4,θ5を読み出し、方位範囲θ1〜θ5を取得する。
【0097】
送信タイミング決定部111は、取得した最長距離Ds3と方位範囲θ1〜θ5から、図2(B)に示すように、飽和回避用の探知範囲を設定する。具体的には、送信タイミング決定部111は、最長距離が短距離パルス探知範囲外であれば、当該最長距離に対応する方位範囲と、通常探知モードの短距離パルス探知範囲とを含むように飽和回避用の探知範囲を設定する。そして、送信タイミング決定部111は、設定した飽和回避用の探知範囲に対して、通常探知モードの短距離パルス探知範囲で利用するパルス信号PSnを設定する。なお、本実施形態の説明では、最長距離Ds3と方位範囲θ1〜θ5の組が一組の場合を示したが、この組が複数ある場合には、それぞれの組に対応させて飽和回避用の探知範囲を設定すればよい。一方、送信タイミング決定部111は、最長距離が短距離パルス探知範囲内であれば、通常探知モード時と同じ送信制御を行う。
【0098】
また、送信タイミング決定部111は、取得した最長距離Ds3からパルス信号PSnの送受信期間RTS’を決定する。この送受信期間RTS’は、飽和可能性物標が通常探知モード時の短パルス探知範囲外であれば、取得した最長距離Ds3に応じて設定され、飽和可能性物標が通常探知モード時の短距離パルス探知範囲内であれば、通常探知モード時の送受信期間RTと同じに設定される。このような送受信期間RTS’の設定は、飽和回避用に設定した方位範囲にのみ適用され、他の方位範囲では、通常の短距離パルス探知範囲の送受信期間RTが適用される。なお、中距離探知用のパルス信号PMnの送受信期間RTおよび長距離探知用のパルス信号PLnの送受信期間RTは、方位に関係なく変化させない。そして、送信タイミング決定部111は、この送受信期間RTS’,RTの設定に応じて、方位範囲毎にパルス群の繰り返し周期をPRF’もしくはPRFに設定する。
【0099】
送信タイミング決定部111は、これら送受信期間RTS’,RTおよびパルス群の繰り返し周期PRF’,PRFを含む送信制御データを生成し、送信部12へ与える。
【0100】
送信部12は、この飽和回避用の送信制御データに応じて、図6(A)に示すように、飽和回避用の探知範囲が短距離パルス探知範囲内である方位範囲(例えば図6のPS1,PS2,PS3の範囲)と、飽和回避用の探知範囲が短距離パルス探知範囲外である方位範囲(例えば図6のPSm,PSm+1の範囲)と、で異なるタイミングにより送信を実行する。
【0101】
まず、飽和回避用の探知範囲が短距離パルス探知範囲内である方位範囲では、例えばパルス信号PS1〜パルス信号PS2の送信の場合、無変調パルス信号からなるパルス信号PS1をパルス幅WPSで送信する。次に、パルス信号PS1の送信タイミングから送受信期間RT後に、変調パルス信号からなるパルス信号PM1をパルス幅WPMで送信する。次に、パルス信号PM1の送信タイミングから送受信期間RT後に、変調パルス信号からなるパルス信号PL1をパルス幅WPLで送信する。次に、パルス信号PL1の送信タイミングから送受信期間RT後に、再度、無変調パルス信号からなるパルス信号PS2をパルス幅WPSで送信する。そして、送信部12は、このようなパルス信号PSn,PMn,PLnの順次送信を、パルス群の繰り返し周期(PRF)に準じて繰り返し実行する。
【0102】
一方、飽和回避用の探知範囲が短距離パルス探知範囲外である方位範囲では、例えばパルス信号PSm〜パルス信号PSm+1の送信の場合、無変調パルス信号からなるパルス信号PSmをパルス幅WPSで送信する。次に、パルス信号PSmの送信タイミングから送受信期間RTS’後に、変調パルス信号からなるパルス信号PMmをパルス幅WPMで送信する。次に、パルス信号PMmの送信タイミングから送受信期間RT後に、変調パルス信号からなるパルス信号PLmをパルス幅WPLで送信する。次に、パルス信号PLmの送信タイミングから送受信期間RT後に、再度、無変調パルス信号からなるパルス信号PSm+1をパルス幅WPSで送信する。そして、送信部12は、このようなパルス信号PSn,PMn,PLnの順次送信を、パルス群の繰り返し周期(PRF’)に準じて繰り返し実行する。
【0103】
受信部15は、送受信期間RTもしくは飽和回避用に設定された送受信期間RTS’の受信期間には無変調パルス信号であるパルス信号PSnに基づく受信信号を取得する。受信部15は、受信信号を画像形成部17へ出力する。
【0104】
受信部15は、中距離探知の期間RTの受信期間には変調パルス信号であるパルス信号PMnに基づく受信信号を取得する。パルス圧縮部16は、受信信号をパルス圧縮して、画像形成部17へ出力する。
【0105】
受信部15は、長距離探知の期間RTの受信期間には変調パルス信号であるパルス信号PLnに基づく受信信号を取得する。パルス圧縮部16は、受信信号をパルス圧縮して、画像形成部17へ出力する。
【0106】
このような飽和回避用の物標探知を行うことで、第1の飽和回避探知モードの場合と同様の効果を得ることができる。さらに、この第2の飽和回避探知モードを用いれば、飽和可能性物標が存在する方位以外は、通常の探知処理が行われるので、飽和可能性物標が中距離パルス探知範囲に存在する場合であっても、他の方位範囲は当該飽和可能性物標と同じ距離位置に対しても、変調パルス信号による物標探知を行うことができる。これにより、全方位を考慮して、より高精度な探知画像を形成することができる。
【0107】
なお、これらの飽和回避探知モードでも、上述の通常探知モードと同様に、探知範囲区分検出部112は、順次受信信号を取得し、無変調パルス信号の受信信号に対しては、無変調パルス信号用に設定した第1飽和可能性閾値に基づいて飽和可能性物標の検出を継続的に実行する。また、探知範囲区分検出部112は、変調パルス信号用に設定した第2飽和可能性閾値に基づいて飽和可能性物標の検出を継続的に実行する。そして、探知範囲区分検出部112は、これらの検出結果に基づいて、メモリ113の送信制御用マップを更新する。これにより、飽和回避探知モード中における物標や自船の移動によって探知範囲の状況が変化しても、受信信号を飽和させることなく、探知画像を形成し続けることができる。
【0108】
なお、上述の説明では、短距離パルス探知範囲に対して無変調パルス信号を用いる場合を示した。これは、自装置近傍は、元々反射信号レベルが高く、変調パルス信号を利用しなくても十分な距離分解能で物標探知を行えることによるものである。しかしながら、当該通常の短距離パルス探知範囲に対して、変調パルス信号を用いるようにすることも可能である。
【0109】
例えば、図7は短距離パルス探知範囲に対して変調パルス信号を用いた場合の飽和回避用の探知処理を行う場合の例を概念例を示した図である。図7の例では、飽和可能性物標の存在する方位にのみ飽和回避用の探知範囲を設定して、無変調パルス信号を用いたものである。このような方法であっても、上述のような効果が得られる。
【0110】
また、上述の説明では、探知領域に応じた二次元の送信制御用マップを用いた例を示したが、図8に示すような送信制御用のデータベースを用いるようにしてもよい。
図8(A)は、図2(A)の送信制御用マップに相当する送信制御用のデータベースであり、図8(B)は、図2(B)の送信制御用マップに相当する送信制御用のデータベースであり、図8(C)は飽和可能性閾値により検出される距離Dsと受信期間RTとの関係が記憶されたデータベースである。
【0111】
図8(A)の場合、すなわち、アンテナ位置からの距離のみで飽和回避用の探知範囲を設定する場合、データベースには、最長距離とこれに対応する受信期間を記憶している。そして、この場合、予備探知モードではアンテナの1回転分の受信信号から飽和回避用の探知範囲を決定する最長距離Ds3を取得し、図8(C)のデータベースに基づいて、受信期間をRTS3に設定する。その後、通常探知モードや飽和回避探知モードでは、順次得られる受信信号に基づいて最長距離を更新していき、更新された最長距離と図8(C)のデータベースに基づいて、受信期間RTを更新する。
【0112】
また、図8(B)の場合、すなわち、アンテナ位置からの距離と方位で飽和回避用の探知範囲を設定する場合、データベースには、飽和が生じると検出された方位と、当該方位毎の飽和可能性物標の検知距離と、これら検知距離における最長距離および受信期間を記憶している。そして、この場合、予備探知モードではアンテナの1回転分の受信信号から飽和回避用の探知範囲を決定する方位θ1〜θ5と、各方位θ1〜θ5の検出距離から得られる最長距離Ds3を取得し、図8(C)のデータベースに基づいて、最長距離Ds3に応じた受信期間をRTS3に設定する。その後、通常探知モードや飽和回避探知モードでは、順次得られる受信信号に基づいて方位を更新していくとともに、最長距離と図8(C)のデータベースに基づいて、受信期間RTを更新する。
【0113】
また、さらには、上述の説明では、予備探知用に無変調パルス信号を用いる例を示したが、受信信号が飽和しないように十分に振幅低減させた変調パルス信号を用いても良い。
【0114】
また、上述の説明では、短距離パルス探知範囲、中距離パルス探知範囲、および長距離パルス探知範囲の三つの探知範囲に区分する例を示したが、区分数はこれに限らず、複数の探知範囲に区分されていれば良い。
【0115】
また、上述の説明では、無変調パルス信号の受信信号が飽和するかどうかについては特に記載していないが、もちろん、飽和しないように送信電力を設定すると良い。ただし、無変調パルス信号が飽和したとしても、パルス圧縮処理には用いないので、パルス圧縮処理を利用することによる悪影響は防止することができる。
【0116】
また、上述の各実施形態では、物標探知装置として、レーダ装置10を例に説明したが、レーダ装置以外の物標探知装置であっても、同様に上述の構成を適用することができる。例えば、超音波振動子からパルス状の超音波信号を送信して、反射信号を受信するソナーや魚群探知機にも適用することができる。
【符号の説明】
【0117】
10−レーダ装置、11−送信制御部、111−送信タイミング決定部、112−探知範囲区分検出部、113−メモリ、12−送信部、13−サーキュレータ、14−アンテナ、15−受信部、16−パルス圧縮部、17−画像形成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる探知領域を異なるパルス状信号で探知し、探知した情報を合成してアンテナ位置から所定距離までの領域を探知する物標探知装置であって、
少なくとも2以上の異なるパルス状信号を所定タイミングで送信する送信部と、
送信したパルス状信号に応じた所定の受信期間に、反射信号を受信して受信信号を生成する受信部と、
送信したパルス状信号に対する受信信号を用いて、以降に送信するパルス状信号の受信信号のレベルが所定の飽和閾値を超えるか否かを検出し、該検出結果に基づいて前記送信部および前記受信部を制御する制御部と、を備える、
ことを特徴とする物標探知装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記受信信号のレベルが前記飽和閾値を超えると検出された探知範囲に対しては、受信信号が飽和しないもしくは受信信号が飽和しても前記検出結果に影響を与えないパルス状信号を用いるように制御する、
請求項1に記載の物標探知装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記受信信号のレベルが飽和しないパルス状信号を用いて、前記受信信号のレベルが前記飽和閾値を超えると検出された探知範囲を探索する、
請求項1または請求項2に記載の物標探知装置。
【請求項4】
前記送信部は、少なくとも近距離領域探知用のパルス状信号と、中距離領域探知用のパルス状信号とを含む2以上の異なるパルス状信号を予め決められた順序で送信し、
前記制御部は、前記近距離領域探知用のパルス状信号を用いて、前記飽和閾値を超えると検出された探知範囲を探索する、
請求項1または請求項2に記載の物標探知装置。
【請求項5】
前記制御部は、一定のキャリア周波数のパルス状信号を用いて、前記飽和閾値を超えると検出された探知範囲を探索する、
請求項1または請求項2に記載の物標探知装置。
【請求項6】
前記制御部は、キャリア周波数が順次変化し、振幅レベルが制限されたパルス状信号を用いて、前記飽和閾値を超えると検出された探知範囲を探索する、
請求項1または請求項2に記載の物標探知装置。
【請求項7】
前記制御部は、物標の探知処理より前に、前記飽和閾値を超えると検出された探知範囲を探索する予備探知モードを予め設定する、
請求項1〜6のいずれかに記載の物標探知装置。
【請求項8】
前記制御部は、物標の探知処理中に得られる前記受信信号を用いて、前記飽和閾値を超えると検出された探知範囲を探索する、
請求項1〜7のいずれかに記載の物標探知装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記アンテナ位置を中心とした方位別にパルス状信号の送受信を制御する、
請求項1〜請求項8のいずれかに記載の物標探知装置。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれかに記載の物標探知装置と、
該物標探知装置で得られた探知結果に基づいて探知画像を形成する画像形成部と、を備えた、
ことを特徴とするパルスレーダ装置。
【請求項11】
異なる探知領域を異なるパルス状信号で探知し、探知した情報を合成してアンテナ位置から所定距離までの領域を探知する物標探知方法であって、
少なくとも2以上の異なるパルス状信号を所定タイミングで送信し、送信したパルス状信号に応じた所定の受信期間に反射信号を受信して受信信号を生成するとともに、
送信したパルス状信号に対する受信信号を用いて、以降に送信するパルス状信号の受信信号のレベルが所定の飽和閾値を超えるか否かを検出し、該検出結果に基づいて送受信制御を行う、
ことを特徴とする物標探知方法。
【請求項12】
前記受信信号のレベルが前記飽和閾値を超えると検出された探知範囲に対しては、受信信号が飽和しないもしくは受信信号が飽和しても前記検出結果に影響を与えないパルス状信号を用いるように制御する、
請求項11に記載の物標探知方法。
【請求項13】
前記受信信号のレベルが飽和しないパルス状信号を用いて、前記受信信号のレベルが前記飽和閾値を超えると検出された探知範囲を探索する、
請求項11または請求項12に記載の物標探知方法。
【請求項14】
少なくとも近距離領域探知用のパルス状信号と中距離領域探知用のパルス状信号とを含む2以上の異なるパルス状信号を予め決められた順序で送信し、近距離領域探知用のパルス状信号を用いて前記飽和閾値を超えると検出された探知範囲を探索する、
請求項11または請求項12に記載の物標探知方法。
【請求項15】
一定のキャリア周波数のパルス状信号を用いて、前記飽和閾値を超えると検出された探知範囲を探索する、
請求項11または請求項12に記載の物標探知方法。
【請求項16】
キャリア周波数が順次変化し、振幅レベルが制限されたパルス状信号を用いて、前記飽和閾値を超えると検出された探知範囲を探索する、
請求項11または請求項12に記載の物標探知方法。
【請求項17】
物標の探知処理より前に、前記飽和閾値を超えると検出された探知範囲を探索する予備探知モードを予め設定する、
請求項11〜16のいずれかに記載の物標探知方法。
【請求項18】
物標の探知処理中に得られる前記受信信号を用いて、前記飽和閾値を超えると検出された探知範囲を探索する、
請求項11〜17のいずれかに記載の物標探知方法。
【請求項19】
前記アンテナ位置を中心とした方位別にパルス状信号の送受信を制御する、
請求項11〜請求項18のいずれかに記載の物標探知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−13182(P2011−13182A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159774(P2009−159774)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】