説明

物理量変化の比較測定装置.

【課題】 物理量の比較測定装置で,物理量の変化の情報を光ファイバで伝送して物理量の変化を求める,メタル線を使用しない物理量の比較測定装置を開発する.
【解決手段】 電池を電源とし,低消費電力で作動する物理量変化測定ユニットを間歇的に作動させてデジタルデータを得て,デジタルデータを光信号に変換して光ファイバで物理量測定装置に伝送し,測定装置では,伝送された光信号を電気信号に変換して物理量の変化を求め,光ファイバをセンサとして利用する公知技術との比較測定をする.

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,光ファイバをセンサとして利用する物理量変化の測定と,電池を電源として低消費電力で物理量の変化を測定し,光ファイバをデータの伝送手段として利用する野外観測用の物理量変化の比較測定装置に関わる.特に,野外における長期観測を目的とし,物理量変化のセンシング部分と物理量測定装置との間には光ファイバのみを設けてデータ伝送等を行い,メタル線を使用しない構成(メタルレスケーブル構成)で,耐電磁誘導ノイズ性を備える高精度測定と,保守点検の頻度を軽減する耐雷害性を備える物理量変化の比較測定装置に関わる.
【背景技術】
【0002】
光ファイバは光を伝送する手段として利用されるだけでなく,物理量の変化に応答するセンサとして温度・圧力・歪等の測定に利用される.これらの測定では,物理量の変化により光ファイバの光学距離が変わり基準とする光路長との間で生じる光の位相がずれることを利用する.光ファイバに作用する温度・圧力・伸縮変化は光路差により生じる光の位相差から直接測定できるが,その他の物理量の変化の場合は,温度・圧力・伸縮の変化に変換して光ファイバに作用させ,光の位相差を生じさせて測定をする.一方,後方に散乱されて戻る光の信号を利用したり,物理量の変化を光の強弱に変換して測定する実施例もある.
【0003】
物理量の変化に応答するセンサ(温度・圧力・伸縮変化の検出センサ)としての光ファイバによる被測定信号は光であり,光ファイバの一部を利用して物理量の変化を温度・圧力・伸縮変化に変換して測定するが,光の伝送距離が長いため,遠方の地点の変化情報を取得できる.また,光ファイバセンサによる測定は長さ20Km程度の全長をセンサとして利用できる.光ファイバを利用する測定であれば,電力を供給する必要がなく,耐雷害性があるために野外観測に適している.例えば,光ファイバの全長をセンサとする温度測定の公知技術では,距離の分解能が1m前後,温度の分解能が±0.1℃程度である.しかし,光ファイバで環境温度の変化が測定できることは,逆に光ファイバによる物理量の変化の測定結果が温度変化の影響を受けやすいことを意味しており,温度変化の影響に配慮する必要が指摘されている.(非特許文献1,2参照).
【0004】
前記の温度変化の影響を見積るためには,光ファイバ近傍に半導体センサを利用する温度計,白金抵抗温度計等を設置し,環境温度を精度よく測定をすればよい.しかし,これらの温度計の場合,センサ部へ電源を供給しセンサ部で温度変化を反映する電気信号の増幅等を行い,その信号を記録部まで伝送しなければならない.つまり,公知技術を利用する限りでは,電力の供給が必要であり,光ファイバと電力供給用のメタル線より構成される複合ケーブルが必要になる.
【0005】
物理量の変化を圧力や伸縮の変化に変換して測定する場合でも,公知技術の測定結果との比較を行うには,公知の技術で圧力や伸縮変化を精度よく実施すればよいが,センサ部へ電源を供給し,センサ部で圧力や伸縮変化を反映する電気信号の増幅を行い,その信号を記録部まで伝送しなければならない.つまり,光ファイバと電力供給用のメタル線より構成される複合ケーブルが必要になる.
【0006】
環境温度の測定に,発振式温度センサとしての水晶温度センサを利用する場合,高分解能の温度測定ができることが分かっており(特許文献1),しかも,数μWの平均消費電力で,温度測定ユニットを構成でき,環境温度の変化情報を光ファイバを介して伝送できる.(特許文献1の図9の実施例におけるセンサ部).
【0007】
また,特許文献2で開示された技術であれば,低消費電力で長さ,圧力,温度が測定できる事例が示されている.その開示技術であれば,数μWの消費電力で物理量の変化をデジタルデータに変換できる.
【0008】
一方,太陽電池を利用すれば光のエネルギーを電気エネルギーに変換できるため,電気エネルギーを光エネルギーとして光ファイバで伝送し,必要に応じてこの光エネルギーを電気エネルギーに変換できる.
【特許文献1】 特願 出願日 平成20年12月10日 出願人 山内常生(1名) 周波数変化測定方法及びその装置
【特許文献2】 特願2008−335919 物理量の変化測定システム,及び,標準時刻準拠データの特定方法.
【非特許文献1】 土木学会第57回年次学術講演会,VI−109,(平成14年9月). のり面のモニタリングにおける光ファイバーセンサの設置方法の検討.
【非特許文献2】 生産研究56巻2号(2004)研究速報. 光ファイバセンサによる壁部材の長期連続モニタリング.
【非特許文献3】 日立電線 No.20(2001−1). 河川管理用光ファイバセンサの実用化.(P.27−32).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
光ファイバを用いない第1の公知技術と光ファイバをセンサとして利用する第2の公知技術を併置して物理量変化の比較観測等を行う場合,第1の公知技術では,商用電源がなく電力供給できない場合,メタル線で離れた地点から電力供給するか,太陽電池等で電力供給しなければ高精度の測定ができない,しかし,電力供給をメタル線で実施する場合,高圧の供給電源により感電する危険があるし,落雷に伴う誘導電圧でセンシング用の電子回路が故障しやすく,かつ,電磁ノイズの影響を受け高精度の測定ができない.また,光ファイバーとの複合ケーブルは本発明で使用する光ファイバを束ねる構成より製造費が高くなる.太陽電池を用いる電力システムも高価であるし,維持経費がかかる.測定精度の高い物理量の測定装置を低消費電力で作動させることができればメタル線が不要になり,測定装置の耐雷害性が向上するし,電磁ノイズの影響を受けなくなる.
【0010】
光ファイバセンサの一部あるいは全長をセンサとして利用し物理量の変化を測定する第2の公知技術の場合,環境温度の変化による影響が測定結果に重畳するため,高精度の測定結果を得るためには,センサ近傍の環境温度を高精度で測定し,測定結果に重畳する環境温度の影響を補正する必要がある.
【0011】
本発明では,1)温度測定ユニットや物理量測定ユニットを低消費電力化し,電池を電源とし環境温度や物理量変化の情報を得てその情報を光ファイバで伝送し,光ファイバで伝送された温度変化や物理量変化の情報を用い温度や物理量変化を求める第1の物理量測定装置と,2)光ファイバをセンサとして利用する公知技術による第2の物理量測定装置との,物理量変化の比較測定装置を開発する.本発明では,野外における高精度の物理量変化の測定を目的として,光ファイバの特性を生かして物理量測定ユニットと物理量測定装置を遠距離に離して設置するが,これらの間のデータ伝送等は,メタル線を使用せず,光ファイバを媒体とするため,耐雷害性に優れ野外における長期観測が可能になる.
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであり,本発明の第1の局面は,次のように規定される.
温度センサと,スケジューラと,電池と,デジタルデータ変換手段と,データ伝送用の第1の光ファイバーを有する低消費電力の温度測定ユニットにより,スケジューラの制御で環境温度の変化をデジタルデータとして第1の光ファイバで伝送し,該デジタルデータを適宜の手段で受信する第1の物理量測定装置(温度測定装置),及び,第2の光ファイバである光ファイバセンサを有する第2の物理量測定装置と,から構成され,該温度測定装置による温度変化の測定と,光ファイバセンサを用いる第2の物理量測定装置による物理量変化の測定との,光ファイバを用いるメタルレスケーブル構成の耐電磁ノイズ性と耐雷害性に優れる物理量変化の比較測定装置.
【0013】
本発明では,電池を電源とし低消費電力の温度測定ユニットを作動させる,この温度測定ユニットでは,温度変化をデジタルデータに変換し,第1の光ファーバーを介して光信号として温度測定装置に伝送する.このため,本発明による温度測定ユニットであれば,電源や信号用のメタル線がなくても光ファイバ近傍の環境温度の情報が得られる.公知技術を利用して,センサとしての第2の光ファイバを用いる第2の物理量測定装置により物理量変化を測定している状態で,目的とする場所で第1の光ファイバを切断し温度測定ユニットを取り付ければ,その場所の環境温度の詳細な情報が得られる.
【0014】
前記したように光ファイバセンサによる測定結果は温度変化の影響を受けやすく,温度変化の影響に配慮する必要が指摘されている.(非特許文献1,2).温度測定ユニットにより,光ファイバ近傍の環境温度を精度よく測定し,得られた温度変化の情報を用いて光ファイバセンサにより測定した物理量変化の測定結果に重複する温度変化の影響を補正すれば,結果として精度の高い物理量の測定データを得ることができる.
【0015】
信号線や電源線が接続されている電子回路は,電源線や信号線を介して誘導される落雷に伴う誘導電圧で故障することがある.しかし,本発明による温度測定ユニットと温度測定装置との間のデータ伝送用の媒体は光ファイバであり,メタル線を使用しない構成であるため,落雷に伴う誘導電圧により温度測定ユニットの電子回路が故障することはなく,耐雷害性がある.一方,光ファイバをセンサとする第2の物理量測定装置も落雷による誘導電圧で故障することはなく,結果として,長期間の物理量変化の比較測定ができる.
【0016】
本発明の第2の局面は,次のように規定される.すなわち,
光ファイバセンサの全長に作用する温度の変化が測定対象であり,該光ファイバセンサの少なくとも1カ所で請求項1に記載の温度測定ユニットで温度を精度よく測定する第1の局面に記載した物理量変化の比較測定装置.
【0017】
前記した特許技術1を適用した発振式温度センサの例として水晶温度センサを構成要素とする温度測定ユニットの場合,環境温度の変化を周波数変化としてデジタルデータに変換し,そのデータを光信号として伝送する電子回路は数μW以下の電力で作動する(特許文献の図9の構成図にあるセンサー部30参照).
【0018】
光ファイバの全長を利用して光ファイバ周辺の環境温度を測定する場合,前記したように公知技術による第2の温度変化の測定精度は±0.1℃程度である.光ファイバに特許文献1の図9の構成図にあるセンサー部30を利用し,光ファイバセンサ周辺の第1の温度変化を測定すれば,環境温度の変化が±0.001℃程度の精度で測定できる.このように,光ファイバの少なくとも1カ所の任意の地点で,測定精度の高い第1の温度変化を求め,光ファイバにより全長で求められている第2の温度変化の空間分布に基づいて,第1の温度変化である高精度の測定結果を利用して内挿あるいは外挿することで,光ファイバによる第2の温度変化の測定精度を向上させることができる.本発明による温度測定方法を利用し,光ファイバに沿う多数の地点で測定精度の高い第1の温度変化を求め,その変化を演算に利用すれば光ファイバによる第2の温度変化の測定精度をさらに向上させることができる.
【0019】
本発明の第3の局面は,次のように規定される.すなわち,
物理量の変化に応答するセンサと,スケジューラーと,電池と,デジタルデータ変換手段と,データ伝送用の第1の光ファイバーを有する低消費電力の物理量測定ユニットにより,スケジューラの制御で物理量の変化をデジタルデータとして第1の光ファイバで伝送し,該デジタルデータを適宜の手段で受信する第1の物理量測定装置,及び,第2の光ファイバである光ファイバセンサを有する第2の物理量測定装置と,から構成され,該第1の測定装置による物理量変化の測定と,光ファイバセンサを用いる第2の測定装置による物理量変化の測定との,光ファイバを用いるメタルレスケーブル構成の耐電磁ノイズ性と耐雷害性に優れる物理量変化の比較測定装置.
【0020】
非特許文献2の技術であれば,低消費電力であり電池を電源として圧力変化,伸縮変化(歪変化)が測定できる.一方,前記したように光ファイバセンサの一部分を利用して,光ファイバに作用する圧力変化や伸縮変化を検出する公知技術が知られている.本発明により規定される方法であれば,光ファイバに作用する圧力変化や伸縮変化を電池を電源とする物理量の測定ユニットとの比較観測が実施できる.
【0021】
光ファイバセンサを利用しない公知技術による物理量の測定は消費電流が多く,商用電源が無い野外ではメタル線を利用して電力を供給するか,太陽電池システムに依存する等の必要があった.メタル線を利用すると落雷時に故障しやすいし,太陽電池を利用する電源システムは設置費が高価であり,付随する2次電池消耗が激しく維持経費が高価になる欠点がある.しかし,本発明による方法であれば,メタル線を使用せず,太陽電池を利用する電源システムも不要で,電磁ノイズに強く,耐雷害性に優れた物理量変化の測定装置が構築できる.
【0022】
本発明の第4の局面は,次のように規定される.すなわち,
第1の局面,第2の局面に記載した温度測定ユニット,及び第3の局面に記載した物理量測定ユニットが,2次電池と,光エネルギーを電気エネルギーに変換する変換手段を有し,第1の局面,第2の局面に記載した温度測定装置,及び,第3の局面に記載した第1の物理量測定装置が適宜の手段により第3の光ファイバを介して光エネルギーを温度測定ユニット及び物理量測定ユニットに伝送し,該伝送された光エネルギーを温度測定ユニット及び物理量測定ユニットの該変換手段で電気エネルギーに変換し,該2次電池を充電する第1の局面,第2の局面,及び,第3の局面に記載した物理量変化の比較測定装置.
【0023】
特許文献2で開示されている技術であれば,物理量測定ユニットとしての電子回路を数μWの平均消費電力で作動させることができる.したがって,光エネルギーとして伝送し電気エネルギーに変換するエネルギーが比較的少なくても本発明の温度測定ユニット・物理量測定ユニットであれば,長時間作動させ,光ファイバで物理量の変化を反映したデジタル信号を物理量測定装置に伝送できる.
【0024】
具体的に,温度測定ユニット・物理量測定ユニット用の電源について詳述すれば,発光ダイオードの光源からの光量,光ファイバ内での散乱等による損失,センサー部における光エネルギーから電気エネルギーへの変換効率等を考慮すれば,10μW程度の電気エネルギーを確保することは可能である.この電気エネルギーで2次電池を充電しつつ物理量の変化を測定すれば,長期間の測定ができる.仮に,電気エネルギーに変換する効率が悪ければ,1)光エネルギーの伝送に利用する光ファイバの数を増やす.2)光ファイバコリメーターで集光する,3)光源を強力なレーザーに変更する,等の処理を行えばよい.
【0025】
光エネルギーによる充電量が充分あれば,スケジューラは不要であるが,充電量が不足する場合は,例えば,セイコーNPC株式会社のリアルタイムクロックSM8578BVをスケジューラとし,間歇的にユニットに電源の入れて作動させ,平均の消費電流を少なくして長期間の測定を実施する方法で解決できる.
【0026】
上記の手法であれば.光ファイバを複数束ねた構成で,メタル線を含む複合ケーブルを使用することなく物理量の変化が測定できる.このため,非特許文献3で開示されているような,「誘導および耐雷対策をとる必要がなく感電の危険もない」となり,電子回路が,メタル線で誘導される落雷に伴う誘導電圧で故障したり,電磁ノイズの影響を受けやすい欠点が解消でき,公知技術による測定データと比較したり,温度補正をすることで測定結果に重複する誤差が補正できる.
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明による物理量変化の比較測定装置の第1実施例について図1を参照にして説明する.図1の実施例を構成する,低消費電力で作動する温度測定ユニット11は,温度センサ12とスケジューラ13と電池14とデジタルデータ変換手段15を有しており,デジタルデータを処理する温度測定装置17は,データ伝送用の第1の光ファイバ16を介して伝送されるデジタルデータを処理する機能を有している.さらに,公知技術による物理量測定装置18は,光ファイバセンサとしての第2の光ファイバセンサ19を有している.
【0028】
図1の実施例では,電池14を温度測定ユニット11の電源とし,スケジューラ13の作用で温度センサ12とデジタルデータ変換手段15により温度変化の情報をデジタルデータにし,該デジタルデータを第1の光ファイバ16を介して温度測定装置17に伝送する.そして,温度測定装置17で適宜の手段で環境温度を求める.この場合,スケジューラ13により温度測定ユニット11へ供給する電力を制御して測定をする.さらに,物理量測定装置18により光ファイバセンサ19からの応答信号である物理量の変化を反映する光信号に基づき,適宜の手段で物理量の変化を求め,物理量変化の比較測定をする.
【0029】
本発明による物理量変化の比較測定装置の第2実施例について図2を参照にして説明する.図2の実施例では,温度測定ユニット21と第1の光ファイバ26と温度測定装置27,及び,環境温度の変化を測定する公知技術による物理量測定装置28と,そのセンサとしての第2の光ファイバセンサ29とを使用し,物理量の変化として環境温度の比較測定をする.図2では,図1における温度測定ユニット21を構成する物理量の変化に応答するセンサとして発振式温度センサ22を設ける.発振式温度センサ22を使用する場合,スケジューラ23や電池24により環境温度の変化が周波数変化としてデジタルデータ変換手段25としてのカウンタでデジタルデータに変換できる(特許文献1参照).その変換したデジタルデータを第1の光ファイバ26を介して温度測定装置27に伝送する.温度測定装置27でデジタルデータを処理する際,前もって周波数変化の値と環境温度との間で詳細な換算表か換算式を作成しておけば,環境温度の変化が精度よく求められる.
【0030】
公知技術による手法によれば,センサとしての光ファイバセンサ29の全長で,温度変化が求められる.したがって,光ファイバ26を光ファイバセンサ29と束ねて設置した場合,光ファイバ26により,光ファイバセンサ29に沿った任意の地点で精度の高い温度変化が測定できる.(必要な位置で光ファイバ26を切断してデータ伝送用に使用する).図では,光ファイバセンサ29の先端部に近い部分で本発明による方法で環境温度を測定する例を示した(図中の「○」).本発明による実施例であれば,光ファイバセンサ29の任意の地点で,発振式温度センサ22を使用する手法で環境温度を精度よく測定することができ,その結果を利用し,光ファイバセンサ29により測定した温度との比較ができる.複数の光ファイバ26を使用すれば複数の地点で温度測定ができ,その結果を利用し,複数の地点で光ファイバセンサ29により測定した温度との比較ができる.
【0031】
公知技術により物理量測定装置28により光ファイバセンサ29の全長を利用して光ファイバ29周辺の環境温度Aを測定する場合,温度Aの測定精度は±0.1℃程度である.本発明による方法で光ファイバセンサ29の任意の地点で環境温度Bを測定すれば,温度Bの測定精度は±0.001℃程度である(特許文献1参照).このように,光ファイバセンサ29と束ねて設置した光ファイバ26により光ファイバセンサ29の少なくとも1カ所の任意の地点で,測定精度の高い温度Bを求め,光ファイバセンサ29により全長で求められている温度Aの空間分布に基づいて,第2の実施例により求めた高精度の温度Bを利用して内挿あるいは外挿することで,光ファイバ29の全長を利用して求めた温度Aの測定精度を向上させることができる.光ファイバセンサ29に沿う多数の地点で得た測定精度の高い温度Bを利用して内挿あるいは外挿すれば温度Aの測定精度をよりよくできる.つまり,光ファイバ29に沿って温度を高精度で測定できることになる.
【0032】
海底地殻変動観測で利用される音響測位システムでは,海水中の音速の乱れを補正するために,数Km程度の海水中の温度を正確にリアルタイムで知る必要がある.しかし,全区間をリアルタイムで±0.01℃程度で測定できる技術は現存しないが,本発明による温度計であれば,適宜の間隔で温度測定ユニットを配すれば,海中に入れた光ファイバセンサに沿って連続して±0.01℃程度の精度で海水中の温度をリアルタイムで求められる.
【0033】
本発明による物理量変化の比較測定装置の第3実施例について3を参照にして説明する.図3の物理量測定ユニット31は,物理量の変化に応答するセンサ32とスケジューラ33と電池34と,デジタルデータ変換手段35を有しており,第1の光ファイバ36で第1物理量測定装置37に向けデジタルデータを伝送する.公知技術による第2の物理量測定装置38は,第2の光ファイバとして,光ファイバセンサ39を有している.
【0034】
図3の実施例では,電池34を物理量測定ユニット31の電源とし,スケジューラ33の作用で物理量変化をセンサ32とデジタルデータ変換手段35でデジタル化し、得られたデジタルデータを第1の光ファイバ36を介して第1の物理量測定装置37に伝送する.そして,物理量測定装置37で物理量の変化を求める.この場合,適宜,スケジューラ33により物理量測定ユニット31へ供給する電力を制御して測定をする.さらに,第2の物理量測定装置38により光ファイバセンサ39からの応答信号である物理量の変化を反映する光信号に基づき,適宜の手段で物理量の変化を求め,物理量変化の比較測定をする.この実施例では,先端の「○」の部分で物理量の比較測定をする例である.具体的には,図示はしないが,圧力変化を測定したり,伸縮変化(歪変化)を測定するが,光ファイバの途中の任意の位置で比較測定が可能で,複数の地点を比較測定地点に選択することも可能である.
【0035】
本発明による物理量変化の比較測定装置の第4実施例について図4を参照にして説明する.図4の実施例は,第2の物理量測定装置48により,光ファイバセンサ49に作用する圧力変化の測定(図の先端の「○」の部分に設けた圧力センサ部分で圧力を測定する場合を想定する)と,発光手段47Aを有する第1の物理量測定装置47により光エネルギーを電気エネルギーに変換する変換手段41Aを有する物理量測定ユニット41で,温度の変化(物理量変化の例)を測定する比較測定の例である.第2の物理量測定装置48により圧力変化を測定しつつ,第1の物理量測定装置47から適宜の手段で光エネルギー伝送用の光ファイバ47Bを介して物理量測定ユニット41に向け伝送する.この光エネルギーを物理量測定ユニット41に設けた光エネルギーを電気エネルギーに変換する変換手段41Aで電気エネルギーに変換し,2次電池44を充電しながらスケジューラ43の制御で発振式温度センサ42(物理量の変化に応答するセンサの例)で温度の変化(物理量変化の例)を測定し,両者の比較測定をする.
【0036】
図4で示した実施例は,第1の物理量測定装置47から光エネルギーを伝送する構成であるが,第2の物理量測定装置48から光エネルギーを伝送したり,専用の機器で光エネルギーを伝送しても同じ効果が得られる.この場合,第1の物理量測定ユニットの消費電力が多ければ,スケジューラで間歇的に物理量測定ユニットを作動させ,2次電池の消耗を避けつつ長期観測をする.
【0037】
ここでは図示しないが,本発明の第3実施例で示した方法のように,例えば,低消費電力で作動する物理量測定ユニットを用いる歪変化の測定と,光ファイバの一部を利用する歪変化(伸縮変化)の測定との比較測定を行いながら,本発明による第2実施例で示した方法で,環境温度を精度よく測定すれば,比較観測の結果に重複する温度変化の影響を補正することができる.また,図示しないが,第2の物理量測定装置として,物理量の変化を光の強弱に変え光信号を伝送する光ファイバセンサとして利用してもよい.この例のように,光ファイバさえ確保できれば,複数の観測項目を同一地点で実施することができるし,光ファイバに沿って,多点の多項目観測もできる.
【0038】
ここには図示しないが,本発明による温度測定ユニットや物理量測定ユニットにスイッチと表示器を設け,適宜スイッチを操作し,測定結果や電池の消耗状況をチェックする構成であれば保守が容易になる.
【0039】
上記では,物理量測定ユニットとして,物理量の変化に応答するセンサを用いて電子部品より作成した電子回路で測定する例(温度・圧力・伸縮変化)について説明した.上記以外でも,物理量測定ユニットが低消費電力作動の機能,ないしは,平均の消費電力が少ない間歇的作動の機能を有し,物理量の変化をデジタル値に変換後,光ファイバで伝送する手段を有していれば,本発明が適用できるし,これらの回路の一部や全体をIC化することが可能である.
【0040】
この発明は,上記の実施の形態や実施例にの説明に何ら限定されるものではなく,特許請求の範囲の記載を逸脱せず,当事者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる.
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】 本発明による物理量変化の比較測定装置の第1実施例.
【図2】 本発明による物理量変化の比較測定装置の第2実施例.
【図3】 本発明による物理量変化の比較測定装置の第3実施例.
【図4】 本発明による物理量変化の比較測定装置の第4実施例.
【符号の説明】
【0042】
11,21 … 温度測定ユニット,
31,41 … 物理量測定ユニット,
12 … 温度センサ, 22 … 発振式温度センサ,
32 … センサ, 42 … 圧力センサ,
13,23,33,43 … スケジューラ,
14,24,34,44 … 電池,
15,25,35,45 … デジタルデータ変換手段,
16,26,36,46,47B … 光ファイバ,
17,27,37,47 … 第1の物理量測定装置,
18,28,38,48 … 第2の物理量測定装置,
19,29,39,49 … 光ファイバセンサ,
41A … 変換手段, 47A … 発光手段, 49 … 光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度センサと,スケジューラと,電池と,デジタルデータ変換手段と,データ伝送用の第1の光ファイバーを有する低消費電力の温度測定ユニットにより,スケジューラの制御で環境温度の変化をデジタルデータとして第1の光ファイバで伝送し,該デジタルデータを適宜の手段で受信する温度測定装置,及び,第2の光ファイバである光ファイバセンサを有する物理量測定装置と,から構成され,該温度測定装置による温度変化の測定と,光ファイバセンサを用いる物理量測定装置による物理量変化の測定との,光ファイバを用いるメタルレスケーブル構成の耐電磁ノイズ性と耐雷害性に優れることを特徴とする物理量変化の比較測定装置.
【請求項2】
光ファイバセンサの全長に作用する温度の変化が測定対象であり,該光ファイバセンサの少なくとも1カ所で請求項1に記載の温度測定ユニットで温度を測定する特徴を有する請求項1に記載の物理量変化の比較測定装置.
【請求項3】
物理量の変化に応答するセンサと,スケジューラーと,電池と,デジタルデータ変換手段と,データ伝送用の第1の光ファイバーを有する低消費電力の物理量測定ユニットにより,スケジューラの制御で物理量の変化をデジタルデータとして第1の光ファイバで伝送し,該デジタルデータを適宜の手段で受信する第1の物理量測定装置,及び,第2の光ファイバである光ファイバセンサを有する第2の物理量測定装置と,から構成され,該第1の物理量測定装置による物理量変化の測定と,光ファイバセンサを用いる第2の物理量測定装置による物理量変化の測定との,光ファイバを用いるメタルレスケーブル構成の耐電磁ノイズ性と耐雷害性に優れることを特徴とする物理量変化の比較測定装置.
【請求項4】
請求項1,請求項2に記載の温度測定ユニット及び請求項3に記載の物理量測定ユニットが,2次電池と,光エネルギーを電気エネルギーに変換する変換手段を有し,請求項1,請求項2に記載の温度測定装置,及び,請求項3に記載の第1の物理量測定装置が適宜の手段により第3の光ファイバを介して光エネルギーを温度測定ユニット及び物理量測定ユニットに伝送し,該伝送された光エネルギーを温度測定ユニット及び物理量測定ユニットの該変換手段で電気エネルギーに変換し,該2次電池を充電することを特徴とする請求項1,請求項2,及び,請求項3に記載の物理量変化の比較測定装置.

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−164544(P2010−164544A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25383(P2009−25383)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(592252027)
【Fターム(参考)】