説明

物質検出装置及び物質検出方法

【課題】熱レンズ分光法を適用した物質検出装置のコンパクト化を図るとともに、この物質検出装置を用いて単純な操作で高速検出を行うための検出方法を提供する。
【解決手段】試料S中の物質を検出する物質検出装置100において、所定位置に固定された試料台6と、励起光を、対物レンズ5aを介して、試料台6上の試料S中に入射する励起光源2と、検出光を、対物レンズ5aを介して、励起光が試料S中に照射されることにより形成される熱レンズに入射する検出光源2と、対物レンズ5aを水平方向及び鉛直方向に移動させる駆動部5bと、を備え、熱レンズによる検出光の拡散を測定することにより物質を検出するよう構成し、対物レンズ5aを、光ピックアップ用対物レンズとするとともに、試料S中における励起光及び検出光の焦点位置が一致しないように構成された2焦点レンズとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質検出装置及び物質検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特定の物質の存在やその定量的な濃度を検出する物質検出装置(センサ)の研究・開発が盛んに行われている。
具体的には、例えば、安全・安心で快適な社会の実現という観点から、ホルムアルデヒドやトルエンなどの住環境汚染物質、TNT火薬などの爆発物類、コカインやヘロインなどの麻薬類を、高速・高感度に検出する物質検出装置の研究・開発が行われている。
また、近年、燃料電池の開発が盛んに行われているが、燃料電池は水素を用いるため、燃料電池を使用する装置(車両や機器など)やその装置に水素を供給する水素ステーションにおいて水素漏れを監視するのが好ましく、この監視を行う物質検出装置の研究・開発も行われている。
さらに、例えば、食物の鮮度や成分の分析、快適空間を提供・維持するための環境制御、人体を含めた生体の状態検知など、環境分野や医療分野に適用可能な物質検出装置の研究・開発も行われている。
【0003】
ところで、近年、マイクロチップなどを利用して化学や生物実験操作を行うことが提案されており、実際に化学分析や細胞計測などの実験操作をマイクロチップ内で行うことが可能になってきている。
マイクロチップとは、平板状の基板に微細加工によってマイクロチャネル(微小流路)を集積化して形成したものである。例えば、気体中に含まれるホルムアルデヒドをマイクロチップのマイクロチャネルを使って検出試薬(シッフ試薬)に抽出させることによって、ホルムアルデヒドを抽出・濃縮が可能となっている。
このようなマイクロチップを用いることにより、試料量の大幅な低減や化学処理時間の短縮化を図ることができるという利点がある。しかしながら、その一方で、試料中の微量な分析対象物質の存在やその濃度を検出する必要があり、超高感度・超高分解能の検出法が必須となる。
【0004】
検出法としては、吸光光度計や蛍光光度計などを用いる光検出法、電気化学法、発光法などが挙げられる。
光検出法としては、吸光法が汎用的であるため望ましいが、感度の問題からレーザ誘起蛍光(LIF)法が多く用いられている。レーザ誘起蛍光法を用いれば、極限的分析である「液相中の単一分子分光」も可能である。しかしながら、レーザ誘起蛍光法では、レーザスポットを単一の蛍光分子が通過する間に、励起・発光を繰り返して放出する10個程度の多数の光子を検出するため、原理的に蛍光量子収率の高い限られた数の蛍光物質しか検出できず、汎用性に欠けるという問題がある。これに対し、ほとんどの物質では蛍光量子収率は0(ゼロ)に近く、吸収した光エネルギーは熱エネルギーとして媒質へと放出される。この過程を光熱変換過程(無輻射緩和過程)と呼ぶ。光熱変換過程を利用した分光法は、光熱変換分光法と呼ばれ、原理的に吸光法と同等の広い適用範囲を持つとともに、高感度な分光法として知られている。
【0005】
この光熱変換分光法の一つに熱レンズ分光法がある。熱レンズ分光法は、吸光法に比べて2桁〜3桁ほど高感度な分析が可能であり、レーザ誘起蛍光法と同等の高感度検出を実現できる。さらに、非接触、非損傷での分析が可能であって、分析対象が蛍光分子に限定されることなしに、高精度で高空間分解能での検出が可能である。この熱レンズ分光法を適用した顕微鏡は、熱レンズ顕微鏡(TLM)として知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
熱レンズ分光法では、微小領域をレーザ光で照射すると、レーザ光に吸収を持つ物質が存在した場合、その微小領域が温められて屈折率の変化が生じ、微小凹レンズを形成され、焦点距離が変化することを利用している。すなわち、熱レンズ分光法は、一定面積のディレクターに入射する光量が変化することを利用していることから、超微量検出が可能になる。
【0006】
したがって、マイクロチップと、熱レンズ分光法を適用した物質検出装置と、を用いることによって、気相や液相中にサブppbレベルの極低濃度で存在する微量物質の高感度・高精度検出が可能となる(例えば、特許文献1〜4参照)。
【特許文献1】特開2000−356611号公報
【特許文献2】特開2005−164614号公報
【特許文献3】特開2003−140026号公報
【特許文献4】特開2003−042713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、熱レンズ分光法を適用した物質検出装置では、励起光が試料中に入射されることによって形成される熱レンズに検出光を入射し、試料透過後の検出光の拡散から試料中の特定物質の検出を行うようになっており、試料中での励起光と検出光の焦点位置が一致しない工夫が必要である。そのため、例えば、特許文献1〜4に示すような従来の物質検出装置では、光学調整装置、励起光を試料に集光照射するための焦点位置調整装置、2次元走査のために試料台を動かす位置決めコントローラなどの大型な装置が必要となり、それら自身が大きな容積を占め、操作性に欠ける、可搬性に欠ける、高価であるなどの問題があり、熱レンズ分光法を適用した物質検出装置を用いて検出を行う際の、場所や操作を限定する要因となっている。
【0008】
本発明の課題は、熱レンズ分光法を適用した物質検出装置のコンパクト化を図ること、この物質検出装置を用いて単純な操作で高速検出を行うための物質検出方法を提供すること、にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
試料中の物質を検出する物質検出装置において、
所定位置に固定された試料台と、
励起光を、対物レンズを介して、前記試料台上の試料中に入射する励起光源と、
検出光を、前記対物レンズを介して、前記励起光が前記試料中に照射されることにより形成される熱レンズに入射する検出光源と、
前記熱レンズによる前記検出光の拡散を測定することにより前記物質を検出する検出手段と、
前記対物レンズを水平方向及び鉛直方向に移動させる駆動手段と、
を備え、
前記対物レンズは、光ピックアップ用対物レンズであり、前記試料中における前記励起光及び前記検出光の焦点位置が一致しないように構成された2焦点レンズであることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載の物質検出装置において、
前記駆動手段は、電磁コイルを用いて前記対物レンズを移動させることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、
請求項1又は2に記載の物質検出装置において、
前記駆動手段は、前記対物レンズを、水平方向に移動させるとともに、当該水平方向の移動速度よりも高速で鉛直方向に移動させ、
前記検出手段は、前記駆動手段による前記対物レンズの移動の間、前記検出光の拡散を測定し、当該測定結果のうちの最大値に基づいて前記試料中における物質の濃度を検出することを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、
請求項1〜3の何れか一項に記載の物質検出装置において、
前記励起光源及び前記検出光源は、半導体レーザ光源であり、
少なくとも前記試料台、前記励起光源、前記検出光源、前記対物レンズ、及び前記駆動手段は、単一器体に装着一体化されていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、
請求項1〜4の何れか一項に記載の物質検出装置において、
前記試料台に載置されたマイクロチップが有するマイクロチャネル内における試料中の物質を検出することを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、
試料中の物質を検出する物質検出装置において、
所定位置に固定された試料台と、
励起光を、対物レンズを介して、前記試料台上の試料中に入射する励起光源と、
検出光を、前記対物レンズを介して、前記励起光が前記試料中に照射されることにより形成される熱レンズに入射する検出光源と、
前記熱レンズによる前記検出光の拡散を測定することにより前記物質を検出する検出手段と、
前記対物レンズを、水平方向に移動させるとともに、当該水平方向の移動速度よりも高速で鉛直方向に移動させる駆動手段と、
を備え、
前記対物レンズは、光ピックアップ用対物レンズであり、前記試料中における前記励起光及び前記検出光の焦点位置が一致しないように構成された2焦点レンズであり、
前記検出手段は、前記駆動手段による前記対物レンズの移動の間、前記検出光の拡散を測定し、当該測定結果のうちの最大値に基づいて前記試料中における物質の濃度を検出することを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、
請求項6に記載の物質検出装置による物質検出方法において、
前記駆動手段によって、前記対物レンズを、水平方向に往復移動させるとともに、当該水平方向の移動速度よりも高速で鉛直方向に往復移動させる移動ステップと、
前記移動ステップの間、前記検出手段によって、前記検出光の拡散を測定する測定ステップと、
前記移動ステップの後、前記検出手段によって、前記測定結果のうちの最大値に基づいて前記試料中における物質の濃度を測定する検出ステップと、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、試料中の物質を検出する物質検出装置において、所定位置に固定された試料台と、励起光を、対物レンズを介して、試料台上の試料中に入射する励起光源と、検出光を、対物レンズを介して、励起光が試料中に照射されることにより形成される熱レンズに入射する検出光源と、熱レンズによる検出光の拡散を測定することにより物質を検出する検出手段と、対物レンズを水平方向及び鉛直方向に移動させる駆動手段と、を備え、対物レンズは、光ピックアップ用対物レンズであり、試料中における励起光及び検出光の焦点位置が一致しないように構成された2焦点レンズである。
【0017】
すなわち、対物レンズは、光ディスクの分野で用いられる光ピックアップ用の2焦点レンズであるため、対物レンズは小型であり、さらに、従来のように、光学調整装置や、励起光を試料に集光照射するための焦点位置調整装置などの大型な装置を備えなくても、試料中における励起光及び検出光の焦点位置が一致しないようにすることができる。加えて、試料台は所定位置に固定されているとともに、対物レンズを移動させる駆動手段を備えているため、小型の対物レンズを移動させて焦点や測定点の調整を行うことができることとなって、従来のように、試料台を動かす位置決めコントローラなどの大型な装置を備える必要がないため、熱レンズ分光法を適用した物質検出装置のコンパクト化を図ることができる。
【0018】
本発明によれば、試料中の物質を検出する物質検出装置において、所定位置に固定された試料台と、励起光を、対物レンズを介して、試料台上の試料中に入射する励起光源と、検出光を、対物レンズを介して、励起光が試料中に照射されることにより形成される熱レンズに入射する検出光源と、熱レンズによる検出光の拡散を測定することにより物質を検出する検出手段と、対物レンズを、水平方向に移動させるとともに、当該水平方向の移動速度よりも高速で鉛直方向に移動させる駆動手段と、を備え、対物レンズは、光ピックアップ用対物レンズであり、試料中における励起光及び検出光の焦点位置が一致しないように構成された2焦点レンズであり、検出手段は、駆動手段による対物レンズの移動の間、検出光の拡散を測定し、当該測定結果のうちの最大値に基づいて試料中における物質の濃度を検出するようになっている。
そして、当該物質検出装置による検出方法において、駆動手段によって、対物レンズを、水平方向に往復移動させるとともに、当該水平方向の移動速度よりも高速で鉛直方向に往復移動させる移動ステップと、移動ステップの間、検出手段によって、検出光の拡散を測定する測定ステップと、移動ステップの後、検出手段によって、測定結果のうちの最大値に基づいて試料中における物質の濃度を測定する検出ステップと、を備えている。
【0019】
すなわち、対物レンズは、光ディスクの分野で用いられる光ピックアップ用の2焦点レンズであるため、対物レンズは小型であり、さらに、従来のように、光学調整装置や、励起光を試料に集光照射するための焦点位置調整装置などの大型な装置を備えなくても、試料中における励起光及び検出光の焦点位置が一致しないようにすることができる。加えて、試料台は所定位置に固定されているとともに、対物レンズを移動させる駆動手段を備えているため、小型の対物レンズを移動させて焦点や測定点の調整を行うことができることとなって、従来のように、試料台を動かす位置決めコントローラなどの大型な装置を備える必要がないため、熱レンズ分光法を適用した物質検出装置のコンパクト化を図ることができる。
そして、対物レンズを、水平方向に往復移動させるとともに、当該水平方向の移動速度よりも高速で鉛直方向に往復移動させながら、試料中における物質の濃度を検出することができる、すなわち焦点や測定点を変化させながら物質を検出することができるため、予め焦点や測定点を調整することなく検出を行うことができることとなって、単純な操作で高速検出を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0021】
[第1の実施の形態]
まず、第1の実施の形態における物質検出装置100について説明する。
【0022】
<物質検出装置の構成>
物質検出装置100は、CDやDVDなどの光ディスクに対応した光ピックアップの構成を応用したセンサであり、熱レンズ分光法を適用してマイクロチップ200が有するマイクロチャネル200a内における試料S中の物質の存在や濃度を検出するためのセンサである。
具体的には、物質検出装置100は、例えば、図1に示すように、励起光源1と、検出光源2と、チョッパ3と、ダイクロックミラー4と、対物レンズアクチュエータ5と、試料台6と、ピンホール部7と、フィルタ8と、光検出器9と、プリアンプ10と、ロックインアンプ11と、制御部12と、などを備えて構成される。
【0023】
マイクロチップ200には、例えば、図2に示すように、試料導入側及び試料排出側がY字型に分岐されたマイクロチャネル200aが形成されている。溶液である試料Sは、試料導入側からマイクロチャネル200a内に導入されて、試料排出側から排出されるようになっている。マイクロチャネル200aの形状は、例えば、断面視において深さ20μm、幅500μmに設定されている。
なお、試料Sは、液体に限ることはなく、固体や気体であっても良く、ゾルやゲルなどであっても良い。また、試料Sは、マイクロチップ200のマイクロチャネル200a内に導入されたものに限ることはなく、試料台6に載置されたセル等の所定の容器内に収容されたものであっても良い。
【0024】
励起光源1及び検出光源2は、例えば、制御部12により制御されて、それぞれ励起光及び検出光を出力する。
励起光源1には、例えば、所定波長の励起光を出力する固定レーザ光源等を用いることができ、具体的には、例えば、532nmの励起光を出力するSHG−YAGレーザ光源などを用いることができる。
検出光源2は、例えば、励起光とは異なる波長を有する検出光を出力するガスレーザ光源等を用いることができ、具体的には、例えば、633nmの検出光を出力するヘリウムネオンレーザ光源などを用いることができる。
【0025】
励起光源1から出力された励起光及び検出光源2から出力された検出光は、対物レンズアクチュエータ5を構成する対物レンズ5aを介して、試料台6に載置されたマイクロチップ200のマイクロチャネル200a内にある試料S中に入射される。
【0026】
具体的には、励起光源1から出力された励起光は、チョッパ3によって変調されて、ダイクロックミラー4を透過する。一方、検出光源2から出力された検出光は、ダイクロックミラー4によって、変調後の励起光と同軸にて合成される。そして、励起光と検出光とからなる合成光は、対物レンズ5aを透過することによって集光されて、試料台6上の試料S中に入射される。
【0027】
溶液である試料S中に励起光を吸収する物質が存在する場合、その物質が励起光を吸収し、その吸収されたエネルギーは熱エネルギーとして溶媒中に放出されるため、溶媒の温度上昇が起こる。
励起光が試料S中に集光照射されると、励起光の強度分布と熱拡散によって、励起光の光軸周りには高い温度勾配が形成される。多くの媒体では、温度上昇に伴って屈折率が小さくなるため、励起光の光軸中心に近づくほど屈折率が小さくなり、励起光の光軸中心から遠ざかるほど屈折率が大きくなる。この屈折率分布は光学的には凹レンズと同等の効果を持つため、このような光学的効果は熱レンズ効果と呼ばれている。この効果の大きさ(熱レンズLの度数)は、発生した熱量、すなわち励起光を吸収する物質の量や濃度によって決まるため、熱レンズLの度数を測定することによって、試料S中における物質の定量を行うことができる。
【0028】
具体的には、物質検出装置100では、例えば、図3に示すように、検出光を、励起光が試料S中に照射されることにより形成される熱レンズLに入射し、そして、ピンホール部7のピンホールを通過した検出光の光量変化をフォトダイオード等である光検出器9で検出することによって、試料S中における物質の存在や濃度を検出する。
【0029】
より具体的には、合成光を構成する励起光の一部は、光熱変換現象に基づいて試料Sの内部に熱レンズLを形成し、合成光を構成する検出光は、その熱レンズLを通過して拡散し、光熱変換に関わらなかった励起光とともに試料Sを通過する。原理的には、光熱変換に関わらなかった励起光も熱レンズLの影響を受けるが、検出光に比べてわずかである。試料Sを通過した合成光は、ピンホール部7が有する、例えば、直径1mmのピンホールを通過して、フィルタ8へ入力される。合成光を構成する励起光はフィルタ8によって遮断され、合成光を構成する検出光のみが光検出器9に入力される。そして、この入力された検出光の強度変化を光検出器9で検出することによって、試料S中における物質の存在や濃度が検出される。
【0030】
なお、フィルタ8の代わりに、回折格子を用いて検出光と励起光の分離を行い、検出光のみを光検出器9へ入力することも可能である。回折格子を用いることにより、低ノイズで検出感度(S/N比)を高くすることができるため、物質検出装置100による検出精度を向上することができる。
【0031】
ここで、物質検出装置100では、励起光の照射によって形成された試料S中の熱レンズLによる検出光の偏向に伴う強度の変化を測定するため、もともとの光量が大きく、ピンホール部7のピンホールによって光束を絞った後であっても、フォトダイオードによる検出が可能である。したがって、光検出器9としては、フォトダイオードに限ることはなく、光センサであれば任意であり、例えば、フォトマルなども用いることはできるが、物質検出装置100のコンパクト化の観点から、フォトダイオードが好ましい。
【0032】
チョッパ3は、例えば、制御部12により制御されて、所定の周期で回転する。
チョッパ3は、熱レンズLの形状が悪化するのを防ぐために備えられているとともに、ロックインアンプ11により信号処理を行うために備えられている。試料Sへの励起光の照射を続けていると、試料Sの温度分布の飽和によって熱レンズLの形状が悪くなってくる。そこで、励起光の照射を規則的に止めて、試料Sの温度分布の飽和を防止するために、チョッパ3によって、周期的に励起光の照射をON/OFF(すなわち、周期的に励起光を変調)している。
なお、チョッパ3は、周期的に励起光を変調することができる素子であれば任意であり、例えば、音響光学素子などであっても良い。
ここで、励起光の変調周波数が小さいほど検出光の強度(検出光信号の強度)は大きくなるが、測定条件や測定対象に依存して雑音特性は変化するため、励起光の変調周波数は、検出光信号対雑音比(S/N比)が最適となるよう設定される。
【0033】
試料台6は、物質検出装置100をコンパクトにするために、例えば、対物レンズアクチュエータ5と隣接するよう配置されているとともに、所定位置に固定されている。
【0034】
対物レンズアクチュエータ5は、光ディスク分野で用いられるものであり、例えば、対物レンズ5aと、対物レンズ5aを移動させるための駆動部5bと、などを備えて構成される。
【0035】
対物レンズ5aは、例えば、光ピックアップ用対物レンズであり、試料S中における励起光及び検出光の焦点位置が一致しないように構成された2焦点レンズである。合成光が対物レンズ5aを通過することによって、試料S中における励起光及び検出光の焦点位置が一致しないようになるため、物質検出装置100には、従来のような励起光及び検出光の焦点位置が一致しないようにするための光学調整装置などを備える必要がない。
【0036】
対物レンズ5aは、例えば、中心部が、励起光の波長(例えば、658nm)を有する光及び検出光の波長(例えば、785nm)を有する光を透過させる第1波長選択部となっており、端部が、励起光の波長(658nm)を有する光は透過させて、検出光の波長(785nm)を有する光は反射させる第2波長選択部となっている。第1波長選択部の開口数(第1開口数)は、例えば、0.45に設定されているとともに、第1波長選択部及び第2波長選択部の開口数(第2開口数)は、第1開口数よりも大きくなるよう設定されており、例えば、0.6に設定されている。その結果、対物レンズ5aにおいては、励起光の波長(658nm)を有する光に対する開口数は第2開口数(0.6)に制限され、検出光の波長(785nm)を有する光に対する開口数は第1開口数(0.45)に制限されるようになっている。また、対物レンズ5aにおいては、第1波長選択部及び第2波長選択部を透過する励起光の波長(658nm)を有する光に対する干渉フィルタパターンの位相差は0(ゼロ)になるよう設定されている。これにより、対物レンズ5aは、励起光と検出光の焦点位置を所定距離(約20μm)ずらすことができる2焦点レンズとして機能する。
なお、2焦点レンズは、波長により開口数が異なるレンズに限ることはなく、波長が異なる2種類の光の焦点位置を一致させないレンズであれば任意である。
また、対物レンズ5aは、2焦点レンズに限ることはなく、試料S中における励起光及び検出光の焦点位置を一致させないようにすることができるのであれば、3焦点以上の焦点を有する多焦点レンズであっても良い。
【0037】
駆動部5bは、例えば、光ピックアップ用レンズ駆動装置であり、電磁コイルなどを用いて対物レンズ5aを移動させる。具体的には、駆動部5bは、例えば、制御部12により制御されて、駆動手段として、対物レンズ5aを水平方向及び鉛直方向に高速移動させる。
なお、駆動部5bの駆動源としては、電磁コイルに限ることはなく、駆動部5bが対物レンズ5aを水平方向及び鉛直方向に移動させることができるのであれば任意であり、例えば、モータなども用いることはできるが、物質検出装置100のコンパクト化の観点から、電磁コイルが好ましい。
物質検出装置100では対物レンズ5aを移動させることによって、焦点や測定点の調整を行うため、物質検出装置100には、従来のような試料台6を水平方向及び鉛直方向に移動するための位置決めコントローラなどの大型で高価な装置を備える必要がない。
【0038】
制御部12は、例えば、図示しないCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などを備えて構成されており、物質検出装置100の各部を制御する。
【0039】
検出光は、光検出器9に入力されると、電気信号に変換される。光検出器9により検出された検出光の強度は、試料S中に形成された熱レンズLの度数に応じたものであり、チョッパ3による励起光変調周期に同期して変化するものである。
この電気信号は、プリアンプ10によって増幅されてロックインアンプ11に入力され、チョッパ3を制御(PLL制御)する制御部12からのリファレンス信号と併せて同期検波されて計測される。そして、制御部12は、ロックインアンプ11による計測結果をデータ処理することによって、試料Sの分析を行い、試料S中における物質の存在や濃度を検出する。なお、ロックインアンプ11による処理は、制御部12からのリファレンス信号を、サンプリングエッジとしたサンプル&ホールド回路を使った処理に置き換えることができる。
ここで、熱レンズLによる検出光の拡散を測定することにより試料S中の物質を検出する検出手段は、光検出器9と、プリアンプ10と、ロックインアンプ11と、制御部12と、などにより構成される。
【0040】
<検出処理>
物質検出装置100による、試料S中の物質の検出に関する処理について説明する。
まず、制御部12は、例えば、励起光源1及び検出光源2に制御信号を入力して、励起光及び検出光を出力させるとともに、チョッパ3に制御信号を入力して、励起光を変調させる。そして、制御部12は、駆動部5bに制御信号を入力して、例えば、ユーザによる物質検出装置100に備えられた操作部(図示省略)の操作等に従って、対物レンズ5aを水平方向及び鉛直方向に移動させる。これにより、焦点や測定点の調整が行われる。
【0041】
次いで、例えば、ユーザによる物質検出装置100に備えられた操作部(図示省略)の操作等によって、検出を開始するよう指示されると、制御部12は、励起光源1及び検出光源2に制御信号を入力して、励起光及び検出光の出力を開始させるとともに、チョッパ3に制御信号を入力して、励起光の変調を開始させる。そして、制御部12は、ロックインアンプ11から入力された計測結果にデータ処理を施して、試料S中における物質の存在や濃度を検出し、当該検出結果を物質検出装置100に備えられた表示部(図示省略)に表示等することによってユーザに提示して、本処理を終了する。
【0042】
以上説明した第1の実施の形態における物質検出装置100によれば、所定位置に固定された試料台6と、励起光を、対物レンズ5aを介して、試料台6上の試料S中に入射する励起光源1と、検出光を、対物レンズ5aを介して、励起光が試料S中に照射されることにより形成される熱レンズLに入射する検出光源2と、熱レンズLによる検出光の拡散を測定することにより物質を検出する光検出器9、プリアンプ10、ロックインアンプ11及び制御部12と、対物レンズ5aを水平方向及び鉛直方向に移動させる駆動部5bと、を備え、対物レンズ5aは、光ピックアップ用対物レンズであり、試料S中における励起光及び検出光の焦点位置が一致しないように構成された2焦点レンズであるとともに、駆動部5bは、光ピックアップ用レンズ駆動装置であり、電磁コイルを用いて対物レンズ5aを移動させる。
すなわち、対物レンズ5aは、光ディスクの分野で用いられる光ピックアップ用の2焦点レンズであるため、小型であり、さらに、従来のように、光学調整装置や焦点位置調整装置などの大型な装置を備えなくても、試料S中における励起光及び検出光の焦点位置が一致しないようにすることができる。加えて、試料台6は所定位置に固定されているとともに、対物レンズ5aを移動させるための駆動部5bを備えているため、小型の対物レンズ5aを移動させて焦点や測定点の調整を行うことができることとなって、従来のように、試料台を動かす位置決めコントローラなどの大型な装置を備える必要がないため、熱レンズ分光法を適用した物質検出装置のコンパクト化を図ることができることとなって、操作性に欠ける、可搬性に欠ける、高価であるなどの従来の問題を解消することができる。
【0043】
また、第1の実施の形態における物質検出装置100によれば、試料台6に載置されたマイクロチップ200が有するマイクロチャネル200a内における試料S中の物質を検出することができるため、試料Sもコンパクトにすることができることとなって、全体的にコンパクトに試料S中の物質を検出することができる。
【0044】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態における物質検出装置100Aについて説明する。
なお、第2の実施の形態の物質検出装置100Aは、フォトダイオード14Aを追加した点と、検出中に対物レンズ5aが水平方向に移動可能である点と、励起光の光路と、が第1の実施の形態の物質検出装置100と異なる。具体的には、励起光源1、制御部12及び光学系の構成の一部が第1の実施の形態の物質検出装置100と異なる。したがって、異なる箇所のみ説明し、その他の共通する部分は同一符号を付して説明する。
【0045】
<物質検出装置の構成>
物質検出装置100Aは、例えば、図4に示すように、励起光源1と、検出光源2と、チョッパ3と、ダイクロックミラー4と、対物レンズアクチュエータ5と、試料台6と、ピンホール部7と、フィルタ8と、光検出器9と、プリアンプ10と、ロックインアンプ11と、制御部12Aと、ミラー13Aと、フォトダイオード14Aと、などを備えて構成される。
【0046】
励起光源1から出力された励起光は、チョッパ3によって変調されて、ミラー13Aで反射されて、ダイクロックミラー4を透過する。一方、検出光源2から出力された検出光は、ダイクロックミラー4によって、励起光と同軸にて合成される。そして、励起光と検出光とからなる合成光は、対物レンズ5aを透過することによって集光されて、試料台6上の試料S中に入射される。
【0047】
制御部12Aは、例えば、図示しないCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などを備えて構成されており、物質検出装置100Aの各部を制御する。
【0048】
フォトダイオード14Aは、マイクロチップ200(試料S)からの反射光を検出して、当該検出信号を制御部12に出力する。
そして、制御部12Aは、フォトダイオード14Aから入力される検出信号に基づいて、焦点位置を判別し、フォトダイオード14Aから入力される検出信号又は光検出器9からプリアンプ10及びロックインアンプ11を介して入力される電気信号に基づいて、マイクロチャネル200aの幅を判別するようになっている。
具体的には、制御部12Aは、例えば、フォトダイオード14Aを用いて反射光のSカーブから(例えば、シリンドリカルレンズを挟んで非点収差法を用いても良い)焦点位置を判別する。また、制御部12Aは、例えば、フォトダイオード14Aを用いてマイクロチャネル200aの端点で生じたSカーブのごとき曲線からマイクロチャネル200aの幅を判別したり、光検出器9を用いて励起光の透過光からマイクロチャネル200aの幅を判別したりする。
【0049】
<検出処理>
物質検出装置100Aによる、試料S中の物質の検出に関する処理について説明する。
まず、ユーザによる物質検出装置100Aに備えられた操作部(図示省略)の操作等によって、検出を開始するよう指示されると、制御部12Aは、焦点の調整を行うとともに、対物レンズ5aの水平方向移動範囲を決定する。
【0050】
具体的には、制御部12Aは、例えば、励起光源1に制御信号を入力して、励起光を出力させる。そして、制御部12Aは、焦点位置を判別しながら駆動部5bに制御信号を入力して、対物レンズ5aを鉛直方向に移動させ、焦点の調整を行う。また、制御部12Aは、マイクロチャネル200aの幅を判別しながら駆動部5bに制御信号を入力して、対物レンズ5aを水平方向に往復移動させ、当該判別結果に基づいて、水平方向の移動範囲限界位置を決定し、対物レンズ5aが当該水平方向の移動範囲内で往復移動するよう、駆動部5bへの印加電圧を設定する。
ここで、対物レンズ5aの水平方向に移動範囲としては、マイクロチャネル200aの幅よりも大きい範囲が設定される。
【0051】
次いで、制御部12Aは、励起光源1及び検出光源2に制御信号を入力して、励起光及び検出光の出力を開始させるとともに、チョッパ3に制御信号を入力して、励起光の変調を開始させる。そして、制御部12Aは、駆動部5bに制御信号を入力して、対物レンズ5aを水平方向に往復移動させ、ロックインアンプ11から随時入力される計測結果にデータ処理を施して、試料S中における物質の存在や濃度を検出し、当該検出結果を物質検出装置100Bに備えられた表示部(図示省略)に表示等することによってユーザに提示して、本処理を終了する。
【0052】
以上説明した第2の実施の形態における物質検出装置100Aによれば、焦点位置を判別することによって焦点の調整を行うことができるため、ユーザが手動で焦点を調整することなく検出を行うことができる。さらに、マイクロチャネル200aの幅を判別することによって当該幅方向を走査することができるため、走査する位置が決まればユーザが手動で測定点を調整することなく検出を行うことができるとともに、マイクロチャネル200aの幅方向における物質の分布なども検出することができる。
【0053】
[第3の実施の形態]
次に、第3の実施の形態における物質検出装置100Bについて説明する。
なお、第3の実施の形態の物質検出装置100Bは、検出中に対物レンズ5aが水平方向に移動可能であるとともに当該水平方向の移動速度よりも高速で鉛直方向に移動可能である点が、第2の実施の形態の物質検出装置100Aと異なる。具体的には、制御部12Aの構成の一部が第2の実施の形態の物質検出装置100Aと異なる。したがって、異なる箇所のみ説明し、その他の共通する部分は同一符号を付して説明する。
【0054】
<物質検出装置の構成>
物質検出装置100Bは、例えば、図5に示すように、励起光源1と、検出光源2と、チョッパ3と、ダイクロックミラー4と、対物レンズアクチュエータ5と、試料台6と、ピンホール部7と、フィルタ8と、光検出器9と、プリアンプ10と、ロックインアンプ11と、制御部12Bと、ミラー13Aと、フォトダイオード14Aと、などを備えて構成される。
【0055】
制御部12Bは、例えば、図示しないCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などを備えて構成されており、物質検出装置100Bの各部を制御する。
具体的には、制御部12Bは、例えば、対物レンズ5aが、水平方向に移動するとともに、当該水平方向の移動速度よりも高速で鉛直方向に移動するよう、駆動部5bを制御する。そして、制御部12Bは、駆動部5bによる対物レンズ5aの移動の間、ロックインアンプ11から随時入力される計測結果に基づいて、測定結果としての分析用測定データ(後述)を作成し、分析用測定データのうちの最大値に基づいて試料S中における物質の濃度を検出する。
【0056】
<検出処理>
物質検出装置100Bによる試料S中の物質の検出に関する処理について、図6のフローチャートを参照して説明する。
【0057】
まず、ユーザによる物質検出装置100Bに備えられた操作部(図示省略)の操作等によって、検出を開始するよう指示されたか否かを判断する(ステップS1)。
【0058】
ステップS1で、検出を開始するよう指示されていないと判断すると(ステップS1;No)、制御部12Bは、ステップS1の処理を繰り返して行う。
【0059】
一方、ステップS1で、検出を開始するよう指示されたと判断すると(ステップS1;Yes)、制御部12Bは、対物レンズ5aの移動範囲を決定する(ステップS2)。
【0060】
具体的には、制御部12Bは、励起光源1に制御信号を入力して、励起光を出力させる。そして、制御部12Bは、焦点位置及びマイクロチャネル200aの幅を判別しながら駆動部5bに制御信号を入力して、対物レンズ5aを水平方向及び鉛直方向に移動させる。そして、制御部12Bは、当該判別結果に基づいて水平方向及び鉛直方向の移動範囲限界位置を決定し、対物レンズ5aが当該移動範囲内で往復移動するよう、駆動部5bへの印加電圧を設定する。
【0061】
ここで、対物レンズ5aの水平方向の移動範囲としては、マイクロチャネル200aの幅よりも大きい範囲が設定される。具体的には、マイクロチャネル200aの幅が500μmである場合は、水平方向の移動範囲は、例えば、510μmに設定される。
また、対物レンズ5aの鉛直方向の移動範囲は、励起光の焦点位置に依存し、通常時の励起光の焦点の位置を含む範囲が設定される。具体的には、鉛直方向の移動範囲としては、例えば、通常時の励起光の焦点の位置に対して±10μmの範囲が設定される。
ここで、通常の励起光の焦点の位置とは、励起光の波長と、対物レンズ5aの屈折率及び曲率と、で決まる焦点位置(焦点距離)のことである。
【0062】
次いで、制御部12Bは、制御部12B内の「往復移動回数(n)」記憶領域に「1」を設定して(ステップS3)、励起光源1及び検出光源2に制御信号を入力して、励起光及び検出光の出力を開始させるとともに、チョッパ3に制御信号を入力して、励起光の変調を開始させる(ステップS4)。
【0063】
次いで、制御部12Bは、駆動部5bに制御信号を入力して、対物レンズ5aを水平方向に一回往復移動させるとともに、当該水平方向の移動速度よりも高速で鉛直方向に複数回往復移動させ(ステップS5(移動ステップ))、ロックインアンプ11から随時入力される計測結果に基づいて、分析用測定データを作成する(ステップS6(作成ステップ))。
具体的には、鉛直方向の移動速度は、水平方向の移動速度よりも高速であれば任意であるが、鉛直方向の移動速度をより高速にすることによって、水平方向に一往復する間に、焦点位置をより多く変化させることができるため、検出精度を向上させることができる。
【0064】
次いで、制御部12Bは、当該作成した分析用作成データの中から最大値を決定して、制御部12B内の「最大値」記憶領域に記憶し(ステップS7)、「往復移動回数(n)」記憶領域に設定された値が、予め設定された水平方向の往復移動回数に達したか否かを判断する(ステップS8)。
【0065】
具体的には、制御部12Bは、例えば、図7に示すような分析用測定データを作成して、分析用測定データの中から、往路での最大値及び/又は復路での最大値を決定する。ここで、図7における分析用測定データの横軸は水平方向走査時間、縦軸は測定値である。例えば、図7の分析用測定データは、水平方向の往復移動回数を2回とした場合のデータである。対物レンズ5aは、水平方向に一往復する間に、鉛直方向に複数回往復移動しながら試料S中における焦点位置を変えていく。そして、測定値が最大となった時が、励起光の焦点が合ったときであるため、分析用測定データの中から最大値を決定する。
【0066】
ステップS8で、「往復移動回数(n)」記憶領域に設定された値が、予め設定された水平方向の往復移動回数に達していないと判断すると(ステップS8;No)、制御部12Bは、「往復移動回数(n)」記憶領域に「n+1」を設定して(ステップS9)、ステップS5以降の処理を繰り返して行う。
【0067】
一方、ステップS8で、「往復移動回数(n)」記憶領域に設定された値が、予め設定された水平方向の往復移動回数に達したと判断すると(ステップS8;Yes)、制御部12Bは、励起光源1及び検出光源2に制御信号を入力して、励起光及び検出光の出力を停止させるとともに、チョッパ3に制御信号を入力して、励起光の変調を停止させる(ステップS10)。
【0068】
次いで、制御部12Bは、「最大値」記憶領域に記憶された最大値に基づいて、試料S中における物質の濃度を検出して(ステップS11(検出ステップ))、当該検出結果を物質検出装置100Bに備えられた表示部(図示省略)に表示等することによってユーザに提示し(ステップS12)、本処理を終了する。
【0069】
具体的には、制御部12Bは、例えば、「最大値」記憶領域に記憶された最大値の平均値を算出して、当該平均値に対応する物質の濃度を、検出された試料S中における物質の濃度とする。この場合、例えば、物質の濃度と測定値との関係を示す検量線を予め作成する等して、物質の濃度と測定値とを予め対応付けておく必要がある。
なお、最大値に基づく検出結果のみをユーザに提示するのではなく、当該検出結果とともに、図7に示すような分析用測定データ(例えば、縦軸を濃度に変換した分析用測定データであっても良い)等もユーザに提示するようにしても良い。
さらに、試料S中の物質の濃度が励起光や検出光の影響によって変化してしまう場合を除き、水平方向の往復移動回数を多くすると、検出精度を向上させることができる。
【0070】
以上説明した第3の実施の形態における物質検出装置100B及び物質検出装置100Bによる検出方法によれば、駆動部5bは、対物レンズ5aを、水平方向に移動させるとともに、当該水平方向の移動速度よりも高速で鉛直方向に移動させるよう構成されており、そして、駆動部5bによる対物レンズ5aの移動の間、検出光の拡散を測定し、当該測定結果のうちの最大値に基づいて試料S中における物質の濃度を検出するようになっている。
したがって、対物レンズ5aを、水平方向に往復移動させるとともに、当該水平方向の移動速度よりも高速で鉛直方向に往復移動させながら、試料S中における物質の濃度を検出することができる、すなわち、焦点や測定点を変化させながら物質を検出することができるため、予めユーザが手動で焦点や測定点を調整することなく検出を行うことができることとなって、単純な操作で高速検出を行うことができる。
【0071】
なお、第3の実施の形態における検出方法は、熱レンズ分光法を適用した物質検出装置100Bに限ることはなく、対物レンズ5aを検出に用いる物質検出装置であれば、蛍光等によって物質を検出する物質検出装置等にも利用可能である。
【0072】
[第4の実施の形態]
次に、第4の実施の形態における物質検出装置100Cについて説明する。
なお、第4の実施の形態の物質検出装置100Cは、CD/DVD互換光ピックアップの構成を応用したセンサである点が第1の実施の形態の物質検出装置100と異なる。具体的には、励起光源1、検出光源2、対物レンズアクチュエータ5及び光学系の構成の一部が第1の実施の形態の物質検出装置100と異なる。したがって、異なる箇所のみ説明し、その他の共通する部分は同一符号を付して説明する。
【0073】
<物質検出装置の構成>
物質検出装置100Cは、例えば、図8に示すように、励起光源1Cと、検出光源2Cと、対物レンズアクチュエータ5Cと、試料台6と、ピンホール部7と、フィルタ8と、光検出器9と、プリアンプ10と、ロックインアンプ11と、制御部12と、フォトダイオード14Cと、ミラー15Cと、ダイクロックプリズム16Cと、コリメータレンズ17Cと、立ち上げミラー18Cと、などを備えて構成される。
【0074】
物質検出装置100Cは、少なくとも、励起光源1Cと、検出光源2Cと、試料台6と、光学系(対物レンズアクチュエータ5C、ピンホール部7、フィルタ8、フォトダイオード14C、ミラー15C、ダイクロックプリズム16C、コリメータレンズ17C、立ち上げミラー18C等)と、を単一器体に装着一体化していることとする。ここで、単一器体とは、単一の素材で形成された器体に限ることはなく、一体不可分な器体であれば任意であり、例えば、異なる素材で形成された複数個のパーツが離間することなく一体的に配置された器体なども含む。無論、例えば、図9に示すように、光検出器9、プリアンプ10、ロックインアンプ11、制御部12なども、励起光源1C、検出光源2C、試料台6及び光学系とともに、単一器体に装着一体化されていても良い。
なお、光学系は、例えば、光検出器9を含んでも良い。
【0075】
励起光源1C及び検出光源2Cは、例えば、制御部12により制御されて、それぞれ励起光及び検出光を出力する。
励起光源1C及び検出光源2Cには、例えば、半導体レーザ光源等を用いることができる。具体的には、例えば、励起光源1Cとして波長658nmの半導体レーザ光源を用いることができるとともに、検出光源2Cとして波長785nmの半導体レーザ光源を用いることができる。励起光源1C及び検出光源2Cのレーザ出力は、例えば、ともに5mWとする。
なお、励起光源1C、検出光源2Cには、半導体レーザ光源等に加えて、例えば、回折格子やホログラム、収束用のコリメートレンズなどを含んでいても良い。
また、熱レンズ分光法においては、原理的に測定するもともとの光量が大きいため、励起光源1C及び検出光源2Cは、半導体レーザ光源の代わりに、LED、励起フィルタ及びコリメータで構成することも可能である。
【0076】
励起光源1Cから出力された励起光は、ミラー15Cで反射されて、立ち上げミラー18Cへと向かう。半導体レーザ光源は、レーザ発振に必要な電気の供給を制御することで、励起光の周期的なON/OFF(励起光の変調)を制御することができるため、ガスレーザ光源等のように、変調の手段として光路上にチョッパ3等を配置する必要がなくなり、光学系をさらにシンプルにコンパクトにできる。一方、検出光源2Cから出力された検出光は、ダイクロックプリズム16Cにより励起光と同軸にて合成される。そして、励起光と検出光とからなる合成光は、コリメータレンズ17Cにより平行光へと変換され、立ち上げミラー18Cで反射されて、対物レンズアクチュエータ5Cへと向かい、対物レンズ5aCを透過することによって集光されて、試料S中に入射される。
ここで、励起光の変調周波数が小さいほど検出光の強度(検出光信号の強度)は大きくなるが、測定条件や測定対象に依存して雑音特性は変化するため、励起光の変調周波数は、検出光信号対雑音比(S/N比)が最適となるよう設定される。
【0077】
対物レンズアクチュエータ5Cは、光ディスク分野で用いられるものであり、例えば、対物レンズ5aCと、対物レンズ5aCを移動させるための駆動部5bと、などを備えて構成される。
【0078】
対物レンズ5aCは、例えば、CD/DVD互換光ピックアップ用対物レンズであり、試料S中における励起光及び検出光の焦点位置が一致しないように構成された2焦点レンズである。
具体的には、例えば、対物レンズ5aCは、光検出器9側に配置されたレンズ51aCと、励起光源1C及び検出光源2C側に配置された互換素子52aCと、により構成されており、単焦点レンズであるレンズ51aCと、波長選択機能を有する互換素子52aCと、が組になって、2焦点レンズを構成している。互換素子52aCは、レンズ51aCと共に駆動部5bによって水平方向及び鉛直方向に移動する。
なお、図8〜図10では、レンズ51aCを凸レンズで表しているが、レンズ51aCは、凸レンズに限ることはなく、球面収差の補正を行うレンズであれば任意であり、例えば、球面ガラス組み合わせレンズ、非球面プラスチック単レンズ、非球面ガラス単レンズ、非球面複合レンズ、屈折率分布型単レンズ、非球面プラスチック単レンズ、その他特殊レンズなどが挙げられる。
また、互換素子52aCは、例えば、波長選択機能を有する素子であれば任意であり、例えば、レンズ51aCの開口数の制御を行う素子などが挙げられる。
【0079】
具体的には、互換素子52aCは、例えば、図10に示すように、略矩形に形成された支持板の一方の面に設けられた円形状の第1波長選択フィルタ52aC1と、当該一方の面における第1波長選択フィルタ52aC1が設けられた領域以外の領域に設けられた第2波長選択フィルタ52aC2と、を備えている。互換素子52aCにおける第1波長選択フィルタ52aC1が設けられた領域と第2波長選択フィルタ52aC2が設けられた領域との境界は、第1開口数(例えば、開口数0.45)に相当する円であり、互換素子52aCにおけるレンズ51aCの大きさで制限される境界は、第2開口数(例えば、開口数0.6)に相当する円となっている。なお、互換素子52aCにおける第1波長選択フィルタ52aC1が設けられた領域と第2波長選択フィルタ52aC2が設けられた領域との境界と、互換素子52aCにおけるレンズ51aCの大きさで制限される境界と、は同心円となっている。
第1波長選択フィルタ52aC1及び第2波長選択フィルタ52aC2は、例えば、波長選択性の干渉フィルタパターンであっても良いし、回折格子であっても良い。
【0080】
第1波長選択フィルタ52aC1は、励起光の波長(658nm)を有する光と、検出光の波長(785nm)を有する光と、の何れの光も透過させるようになっている。一方、第2波長選択フィルタ52aC2は、励起光の波長(658nm)を有する光は透過させて、検出光の波長(785nm)を有する光は反射させるようになっている。その結果、互換素子52aCにおいては、励起光の波長(658nm)を有する光に対する開口数は第2開口数(0.6)に制限され、検出光の波長(785nm)を有する光に対する開口数は第1開口数(0.45)に制限されるようになっている。また、互換素子52aCにおいては、第1波長選択フィルタ52aC1及び第2波長選択フィルタ52aC2を透過する励起光の波長(658nm)を有する光に対する干渉フィルタパターンの位相差は0(ゼロ)になるよう設定されている。これにより、対物レンズ5aCは、励起光と検出光の焦点位置を所定距離(約20μm)ずらすことができる2焦点レンズとして機能する。
なお、対物レンズ5aCは、レンズ51aCと互換素子52aCとから構成されて、波長により開口数が異なる2焦点レンズとして機能する限りではなく、波長が異なる2種類の光の焦点位置を一致させない2焦点レンズとして機能するのであれば、その構成は任意である。
また、対物レンズ5aCは、2焦点レンズとして機能することに限ることはなく、試料S中における励起光及び検出光の焦点位置を一致させないようにすることができるのであれば、3焦点以上の焦点を有する多焦点レンズとして機能しても良い。
【0081】
<検出処理>
物質検出装置100Cによる、試料S中の物質の検出に関する処理については、第1の実施の形態の物質検出装置100と同様であっても良いし、第2の実施の形態の物質検出装置100Aと同様であっても良いし、第3の実施の形態の物質検出装置100Bと同様であっても良いため、詳細な説明は省略する。
すなわち、物質検出装置100Cは、物質検出装置100と同様、ユーザの指示に従って対物レンズ5aCを水平方向及び鉛直方向に移動させることによって、焦点や測定点を調整した後、対物レンズ5aCの位置を固定して検出を行って良いし、物質検出装置100Aと同様、焦点位置を判別しながら対物レンズ5aを鉛直方向に移動させることによって、焦点を調整した後、対物レンズ5aCを水平方向に往復移動させることによって、マイクロチャネル200aの幅方向を高速に走査して、検出を行っても良いし、物質検出装置100Bと同様、焦点や測定点の調整を行わず、対物レンズ5aCを水平方向に往復移動させるとともに、当該水平方向の移動速度よりも高速で鉛直方向に往復移動させることによって、マイクロチャネル200aの幅方向を高速に走査しながら焦点位置を走査速度よりも高速に変化させて、検出を行っても良い。
【0082】
以上説明した第4の実施の形態における物質検出装置100Cによれば、励起光源1C及び検出光源2Cは、例えば、半導体レーザ光源であり、ガスレーザ光源や固定レーザ光源と比較して小型であるため、熱レンズ分光法を適用した物質検出装置をより一層コンパクト化することができる。さらに、少なくとも、励起光源1Cと、検出光源2Cと、試料台6と、光学系(対物レンズ5aCと駆動部5bにより構成される対物レンズアクチュエータ5aC、ピンホール部7、フィルタ8、ミラー15C、ダイクロックプリズム16C、コリメータレンズ17C、立ち上げミラー18C等)は、単一器体に装着一体化されているため、振動ノイズを減少できるとともに、その光学系の構成によって励起光出力の効率的利用が可能となり、ストレー光を削減させることができる。
【0083】
さらに、検出装置100Cによれば、励起光源1C、検出光源2C、試料台6及び光学系(対物レンズアクチュエータ5C、ピンホール部7、フィルタ8、ミラー15C、ダイクロックプリズム16C、コリメータレンズ17C、立ち上げミラー18C等)だけでなく、光検出器9、プリアンプ10、ロックインアンプ11、制御部12、フォトダイオード14Cなども単一器体に装着一体化できるため、例えば、検出装置100C全体を、ポータブルCD/DVDプレーヤ程度の大きさに構成することができ、そして、例えば、ポータブルCD/DVDプレーヤにCDやDVDをセットするように、マイクロチップ200を検出装置100Cにセットすることによって、試料S中の物質を検出することができるため、小型で可搬性があり、操作性が高く、安価な検出装置とすることができる。
【0084】
[実施例1]
次に、第1の実施の形態の物質検出装置100、第2の実施の形態の物質検出装置100A、第3の実施の形態の物質検出装置100B又は第4の実施の形態の物質検出装置100Cによる、マイクロチップ200が有するマイクロチャネル200a内における試料S中の物質の検出について、ニッケル錯体の定量を例示して説明する。
【0085】
図11(a)は、マイクロチップ200が有するマイクロチャネル200a内での試料Sの流れの様子を模式的に示す図であり、図11(b)は、図11(a)の一点鎖線で囲った領域におけるニッケル錯体の輸送の様子を模式的に示す図である。
例えば、シリンジポンプによって、試料導入側におけるY字型のマイクロチャネル200aの一方(P1)に設けられたキャピラリからニッケル錯体水溶液を導入するとともに、他方(P2)に設けられたキャピラリからトルエンを導入する。ニッケル錯体(Nickel(II) phtalocyanine tetrasulfonic acid, tetrasoldium salt)は、波長658nmに吸収を持ち、且つ、波長785nmに吸収を持たないことが知られている。具体的には、ニッケル錯体は波長658nmで大きなモル吸光係数(約50000)を持つことが知られている。したがって、励起光の波長として658nmを選択し、検出光の波長として785nmを選択することとする。
【0086】
マイクロチャネル200aのような微細管では、流体は高粘性流体として振る舞い、送液中は互いに混合することなく層流を形成する。したがって、送液中、2つの試料S(ニッケル錯体水溶液とトルエン)は2相流を形成するため、流れを横切るような拡散(分子移動)はほとんど起こらない。
【0087】
すなわち、送液中は、ニッケル錯体はトルエン相へ抽出されない。したがって、送液中に、マイクロチャネル200aの下流においてマイクロチャネル200aの幅方向を走査すると、例えば、図12(a)に示すような分析用測定データが得られる。図12(a)によれば、ニッケル錯体水溶液相とトルエン相との境界位置がDとして認識される。
一方、送液を停止すると、ニッケル錯体水溶液の溶媒とトルエンとは混合せず、ニッケル錯体はトルエン相へ抽出される。したがって、送液停止中に、マイクロチャネル200aの下流においてマイクロチャネル200aの幅方向を走査すると、例えば、図12(b)に示すような分析用測定データが得られる。図12(b)によれば、ニッケル錯体水溶液相とトルエン相との境界はもはや認識できず、抽出平衡に達したことを示している。
なお、図12は、マイクロチャネル200aの幅方向を往復走査した際の往路にかかる分析用測定データであり、物質検出装置100A〜100Cにより得ることができるデータである。また、図12の分析用測定データの縦軸は測定値となっているが、当該データをユーザに提示する場合は、縦軸を濃度に変換して提示しても良い。この場合、検量線を作成する等して、物質(トルエン錯体)の濃度と測定値とを予め対応付けておく必要がある。
【0088】
また、物質検出装置100では、例えば、トルエン相側に測定点を合わせて固定し、送液停止前後で、トルエン相における物質(ニッケル錯体)を検出することによって、抽出平衡に達する様子を観察することができる。具体的には、マイクロチャネル200aの下流におけるトルエン相側に測定点を調整して固定する。そして、送液開始から送液停止後一定時間が経過するまでの間、制御部12によって、ロックインアンプ11から随時入力される計測結果に基づいて、例えば、図13に示すような分析用測定データを作成する。ここで、物質検出装置100により得られる分析用測定データの横軸は時間(例えば、送液開始からの時間)、縦軸は測定値である。図13によれば、送液停止後(時間S後)、速やかに抽出平衡に達していることが分かる。
なお、図12の分析用測定データの縦軸は測定値となっているが、当該データをユーザに提示する場合、縦軸を濃度に変換して提示しても良い。この場合、検量線を作成する等して、物質(トルエン錯体)の濃度と測定値とを予め対応付けておく必要がある。
また、物質検出装置100により得られる分析用測定データ(例えば、図13)は、物質検出装置100Cの検出処理を物質検出装置100の検出処理と同様にした場合には、物質検出装置100Cでも得ることができる。
【0089】
[実施例2]
次に、第1の実施の形態の物質検出装置100、第2の実施の形態の物質検出装置100A、第3の実施の形態の物質検出装置100B又は第4の実施の形態の物質検出装置100Cによる、マイクロチップ200が有するマイクロチャネル200a内における試料S中の物質の検出について、シックハウス症候群の原因物質であるホルムアルデヒドの定量を例示して説明する。
【0090】
図14(a)は、マイクロチップ300が有するマイクロチャネル300a内での試料Sの流れの様子を模式的に示す図であり、図14(b)は、図14(a)の一点鎖線で囲った領域におけるホルムアルデヒドの輸送の様子を模式的に示す図である。
実施例2で用いるマイクロチップ300には、試料導入側及び試料排出側がY字型に分岐されたマイクロチャネル300aが形成されており、試料排出側におけるY字型のマイクロチャネル300aの一方の流路長が他方の流路長よりも長くなっている。
例えば、シリンジポンプによって、試料導入側におけるY字型のマイクロチャネル300aの一方(P1)に設けられたキャピラリから大気中ホルムアルデヒド(ホルムアルデヒド含有気体)を導入するとともに、他方(P2)に設けられたキャピラリから検出試薬(4−アミノ−4−フェニル−3−ブテン−2−オン試薬)水溶液を導入する。ここで、検出試薬水溶液は、試料排出側における流路長が長い方のマイクロチャネル300aから排出されるよう導入する。4−アミノ−4−フェニル−3−ブテン−2−オン試薬は、ホルムアルデヒド吸収後に波長405nm付近に吸収ピークを持ち、且つ、波長658nmに吸収を持たないことが知られている。したがって、励起光の波長として405nmを選択し、検出光の波長として658nmを選択することとする。
【0091】
マイクロチャネル300aのような微細管に、大流量の気体と小流量の溶液を導入すると、互いに混合することなく安定な2相流を形成する。具体的には、例えば、ホルムアルデヒド含有気体の流量を700μL/min、検出試薬水溶液の流量を0.01μL/minとして導入すると、ホルムアルデヒド含有気体と検出試薬水溶液は安定な2相流を形成する。そして、2つの試料S(ホルムアルデヒド含有気体と検出試薬水溶液)の導入中、ホルムアルデヒドは流れを横切って検出試薬水溶液側へ移動し、検出試薬水溶液相に抽出される。
【0092】
すなわち、導入中、ホルムアルデヒド含有気体のホルムアルデヒド以外の気体と検出試薬水溶液とは混合せず、ホルムアルデヒドは検出試薬水溶液相へ抽出される。
そして、導入中に、マイクロチャネル300aの下流においてマイクロチャネル300aの幅方向を走査して、分析用測定データを得ると、又は、検出試薬水溶液相側に測定点を合わせて固定して、分析用測定データを得ると、ホルムアルデヒド含有気体におけるホルムアルデヒドの濃度が増加するにつれて、測定値、すなわち熱レンズLの度数が、線形的に増加することが分かった。これにより、検出装置100,100A,100B,100Cによって、ホルムアルデヒドの存在や濃度を検出できることが分かった。また、抽出操作によってホルムアルデヒドが効率よく濃縮されるため、大気中の極低濃度のホルムアルデヒドを検出できることも分かった。さらに、流速を変えて同様の測定を行うと、ホルムアルデヒドの検出試薬水溶液相への抽出効率を変えることができることも分かった。
【0093】
なお、検出試薬としては、4−アミノ−4−フェニル−3−ブテン−2−オン試薬に限ることはなく、例えば、シッフ試薬なども用いることができる。シッフ試薬は、ホルムアルデヒドを吸収すると赤紫色を呈し、波長540nm付近での吸光度が減少することが知られている。したがって、励起光源1,1A,1Cとして、例えば、波長532nmの光を出力するするSHG−YAGレーザ光源等を選択し、検出光源2,2Cとして、例えば、波長685nmの光を出力する半導体レーザ光源等を選択すると、ホルムアルデヒドの検出を行うことができる。
【0094】
実施例1では、ニッケル錯体の検出を例にとって説明し、実施例2では、ホルムアルデヒドの検出を例にとって説明したが、無論、検出する物質はニッケル錯体やホルムアルデヒドに限定されるものではなく、適切な抽出試薬を用いることで、その他の物質に対しても同様の測定・検出を行うことが可能である。
また、検出装置100,100A,100B,100Cは、液体や気体中の物質だけでなく、固体表面に存在する物質(分子)を定量することもできるため、例えば、細胞表面における極微量物質の定量分析やマイクロチャネル200a,300a上でのイムノアッセイにおけるタンパク質の定量解析などにも使用することができる。
【0095】
実施例1及び実施例2から、コンパクトな検出装置100,100A,100B,100Cによって、空間分解能や定量分析能力に優れた超微量検出を行うことができることが分かった。これにより、検出装置100,100A,100B,100Cは、溶液中に溶存する物質の高感度・高精度検出、揮発性有機化合物(VOC)成分や大気汚染物質などを含めた匂い成分やガス成分などの高感度・高精度検出等を実現することができ、さらに、体液や呼気などによる健康診断装置等としても使用することができる。
【0096】
なお、本発明は、上記した実施の形態のものに限るものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0097】
第1の実施の形態の物質検出装置100の構成で、第2の実施の形態の物質検出装置100Aと同様、駆動部5bにより対物レンズ5aを鉛直方向に移動させて焦点を調整した後、駆動部5bにより対物レンズ5aを水平方向に往復移動させ、マイクロチャネル200aの幅方向を高速に走査することによって、検出を行っても良いし、第3の実施の形態の物質検出装置100Bと同様、焦点や測定点の調整を行わず、駆動部5bにより対物レンズ5aを水平方向に往復移動させるとともに、当該水平方向の移動速度よりも高速で鉛直方向に移動させ、マイクロチャネル200aの幅方向を高速に走査しながら焦点位置を高速に変えていくことによって、検出を行っても良い。この場合、物質検出装置100でも、物質検出装置100A〜100Cにより得られる分析用測定データ(例えば、図7や図12)を得ることができる。
また、第2の実施の形態の物質検出装置100Aの構成、第3の実施の形態の物質検出装置100Bの構成で、第1の実施の形態の物質検出装置100と同様、駆動部5bにより対物レンズ5aを水平方向及び鉛直方向に移動させて焦点や測定点を調整した後、検出を行っても良い。この場合、物質検出装置100A,100Bでも、物質検出装置100により得られる分析用測定データ(例えば、図13)を得ることができる。
【0098】
第4の実施の形態においては、少なくとも、励起光源1Cと、検出光源2Cと、試料台6と、光学系と、を単一器体に装着一体化していることとし、光検出器9、プリアンプ10、ロックインアンプ11、制御部12、フォトダイオード14Cなども単一器体に装着一体化できるとしたが、第1の実施の形態においても、少なくとも、励起光源1と、検出光源2と、試料台6と、光学系(チョッパ3、ダイクロックミラー4、対物レンズアクチュエータ5、ピンホール部7、フィルタ8等)と、を単一器体に装着一体化していることとし、光検出器9、プリアンプ10、ロックインアンプ11、制御部12なども単一器体に装着一体化しても良い。第2及び第3の実施の形態においても同様である。
【0099】
第1〜第4の実施の形態においては、ロックインアンプ11と制御部12とを別体としたが、ロックインアンプ11を制御部12内に備える等して、ロックインアンプ11と制御部12とを一体的に構成しても良い。
【0100】
第1〜第4の実施の形態においては、図示した光学構成に限定されるものではない。
したがって、例えば、第4の実施の形態の物質検出装置100Cにおいて、励起光源1C及び検出光源2Cの代わりに2波長半導体レーザ光源や2波長レーザカプラ(2波長半導体レーザ光源に加えて受光素子も内蔵したIC)を用いて部品点数を減らしても良い。この場合、物質検出装置100Cをさらにコンパクトな構成にすることができる。また、例えば、第4の実施の形態の物質検出装置100Cにおいては、チョッパ3等を設置する必要がなく、励起光の光路の一部を空間光とする必要がないため、励起光及び検出光の伝送経路全体を光ファイバで構成して対物レンズ5aCまで届く構成としても良い。
【0101】
第4の実施の形態においては、CD/DVD互換光ピックアップの構成を応用したが、これに限ることはなく、BLUE/DVD/CD互換光ピックアップの構成を応用しても良い。具体的には、この場合、励起光源1C及び検出光源2Cの代わりに、例えば、3種類の半導体レーザ光源(例えば、波長405nm、波長658nm及び波長785nmの半導体レーザ)を備え、対物レンズアクチュエータ5Cの代わりに、例えば、図15に示すような対物レンズ5aDを有する対物レンズアクチュエータ5Dを備える構成となる。
対物レンズアクチュエータ5Dは、例えば、対物レンズ5aDと、駆動部5bと、などを備えて構成されている。対物レンズ5aDは、レンズ51aCと、互換素子52aDと、により構成されており、レンズ51aCと、互換素子52aDと、が組になって3焦点レンズを構成している。互換素子52aDは、レンズ51aCと共に駆動部5bによって水平方向及び鉛直方向に移動する。
互換素子52aDは、例えば、波長選択機能を有する素子であれば任意であり、例えば、レンズ51aCの開口数の制御を行う素子などが挙げられる。
【0102】
具体的には、互換素子52aDは、例えば、図15に示すように、略矩形状に形成された支持板の一方の面に設けられた円形状の第1波長選択フィルタ52aD1と、当該一方の面における第1波長選択フィルタ52aD1の周囲に設けられたリング状の第2波長選択フィルタ52aD2と、当該一方の面における第1波長選択フィルタ52aD1及び第2波長選択フィルタ52aD2が設けられた領域以外の領域に設けられた第3波長選択フィルタ52aD3と、を備えている。互換素子52aDにおける第1波長選択フィルタ52aD1が設けられた領域と第2波長選択フィルタ52aD2が設けられた領域との境界は、第1開口数(例えば、開口数0.45)に相当する円であり、互換素子52aDにおける第2波長選択フィルタ52aD2が設けられた領域と第3波長選択フィルタ52aD3が設けられた領域との境界は、第2開口数(例えば、開口数0.6)に相当する円であり、互換素子52aDにおけるレンズ51aCの大きさで制限される境界は、第3開口数(例えば、開口数0.65又は0.85)に相当する円である。なお、互換素子52aDにおける第1波長選択フィルタ52aD1が設けられた領域と第2波長選択フィルタ52aD2が設けられた領域との境界と、互換素子52aDにおける第2波長選択フィルタ52aD1が設けられた領域と第3波長選択フィルタ52aD3が設けられた領域との境界と、互換素子52aDにおけるレンズ51aCの大きさで制限される境界と、は同心円となっている。
第1波長選択フィルタ52aD1、第2波長選択フィルタ52aD2及び第3波長選択フィルタ52aD3は、例えば、波長選択性の干渉フィルタパターンであっても良いし、回折格子であっても良い。
【0103】
BLUE/DVD/CD互換光ピックアップの構成を応用した場合、3種類の半導体レーザ光源の中から、励起光源として用いる光源と、検出光源として用いる光源と、を検出対象に応じて適宜選択することができる。さらに、3種類の半導体レーザ光源のうちの1種類(例えば、波長405nmの半導体レーザ光源)を励起光源として用いるとともに、その他の2種類(例えば、波長658nm及び波長785nmの半導体レーザ光源)を検出光源として用い、フィルタ8と光検出器9との間にダイクロイックミラー又は回折格子を配置して、2種類の検出光を分離できるよう構成すると、検出精度を向上させることができたり、2種類の物質を同時に検出できたりするので好適である。
【0104】
第1〜第4の実施の形態における対物レンズ5a,5aCとして、波長により開口数が異なる2焦点レンズを示したが、対物レンズ5a,5aCは、特殊対物レンズ、回折対物レンズ、位相差レンズなどにより形成した2焦点レンズであっても良い。
同様に、第4の実施の形態における対物レンズ5aCの変形例である対物レンズ5aDとして、波長により開口数が異なる3焦点レンズを示したが、対物レンズ5aDは、特殊対物レンズ、回折対物レンズ、位相差レンズなどにより形成した3焦点レンズであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】第1の実施の形態における物質検出装置の構成を示す光学系ブロック図である。
【図2】マイクロチップの平面図である。
【図3】熱レンズについて説明するための図である。
【図4】第2の実施の形態における物質検出装置の構成を示す光学系ブロック図である。
【図5】第3の実施の形態における物質検出装置の構成を示す光学系ブロック図である。
【図6】第3の実施の形態における物質検出装置による試料中の物質の検出に関する処理について説明するためのフローチャートである。
【図7】分析用測定データを示す図である。
【図8】第4の実施の形態における物質検出装置の構成を示す光学系ブロック図である。
【図9】第4の実施の形態における物質検出装置を構成する各部を単一器体に装着一体化した状態を示す図である。
【図10】第4の実施の形態における物質検出装置が備える対物レンズアクチュエータの要部を示す平面図(上図)及び断面側面図(下図)である。
【図11】マイクロチップが有するマイクロチャネル内での試料の流れの様子を示す図(a)とニッケル錯体の輸送の様子を模式的に示す図(b)である。
【図12】送液中に得られた分析用測定データを示す図(a)と、送液停止中に得られた分析用測定データを示す図(b)である。
【図13】第1の実施の形態における物質検出装置により得られる分析用測定データを示す図である。
【図14】マイクロチップが有するマイクロチャネル内での試料の流れの様子を示す図(a)とホルムアルデヒドの輸送の様子を模式的に示す図(b)である。
【図15】第4の実施の形態における物質検出装置が備える対物レンズの変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0106】
1,1C 励起光源
2,2C 検出光源
5a,5aC,5aD 対物レンズ
5b 駆動部(駆動手段)
6 試料台
9 光検出器(検出手段)
10 プリアンプ(検出手段)
11 ロックインアンプ(検出手段)
12,12A,12B 制御部(検出手段)
100,100A,100B,100C 物質検出装置
200,300 マイクロチップ
200a,300a マイクロチャネル
L 熱レンズ
S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の物質を検出する物質検出装置において、
所定位置に固定された試料台と、
励起光を、対物レンズを介して、前記試料台上の試料中に入射する励起光源と、
検出光を、前記対物レンズを介して、前記励起光が前記試料中に照射されることにより形成される熱レンズに入射する検出光源と、
前記熱レンズによる前記検出光の拡散を測定することにより前記物質を検出する検出手段と、
前記対物レンズを水平方向及び鉛直方向に移動させる駆動手段と、
を備え、
前記対物レンズは、光ピックアップ用対物レンズであり、前記試料中における前記励起光及び前記検出光の焦点位置が一致しないように構成された2焦点レンズであることを特徴とする物質検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の物質検出装置において、
前記駆動手段は、電磁コイルを用いて前記対物レンズを移動させることを特徴とする物質検出装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の物質検出装置において、
前記駆動手段は、前記対物レンズを、水平方向に移動させるとともに、当該水平方向の移動速度よりも高速で鉛直方向に移動させ、
前記検出手段は、前記駆動手段による前記対物レンズの移動の間、前記検出光の拡散を測定し、当該測定結果のうちの最大値に基づいて前記試料中における物質の濃度を検出することを特徴とする物質検出装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の物質検出装置において、
前記励起光源及び前記検出光源は、半導体レーザ光源であり、
少なくとも前記試料台、前記励起光源、前記検出光源、前記対物レンズ及び前記駆動手段は、単一器体に装着一体化されていることを特徴とする物質検出装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の物質検出装置において、
前記試料台に載置されたマイクロチップが有するマイクロチャネル内における試料中の物質を検出することを特徴とする物質検出装置。
【請求項6】
試料中の物質を検出する物質検出装置において、
所定位置に固定された試料台と、
励起光を、対物レンズを介して、前記試料台上の試料中に入射する励起光源と、
検出光を、前記対物レンズを介して、前記励起光が前記試料中に照射されることにより形成される熱レンズに入射する検出光源と、
前記熱レンズによる前記検出光の拡散を測定することにより前記物質を検出する検出手段と、
前記対物レンズを、水平方向に移動させるとともに、当該水平方向の移動速度よりも高速で鉛直方向に移動させる駆動手段と、
を備え、
前記対物レンズは、光ピックアップ用対物レンズであり、前記試料中における前記励起光及び前記検出光の焦点位置が一致しないように構成された2焦点レンズであり、
前記検出手段は、前記駆動手段による前記対物レンズの移動の間、前記検出光の拡散を測定し、当該測定結果のうちの最大値に基づいて前記試料中における物質の濃度を検出することを特徴とする物質検出装置。
【請求項7】
請求項6に記載の物質検出装置による物質検出方法において、
前記駆動手段によって、前記対物レンズを、水平方向に往復移動させるとともに、当該水平方向の移動速度よりも高速で鉛直方向に往復移動させる移動ステップと、
前記移動ステップの間、前記検出手段によって、前記検出光の拡散を測定する測定ステップと、
前記移動ステップの後、前記検出手段によって、前記測定結果のうちの最大値に基づいて前記試料中における物質の濃度を測定する検出ステップと、
を備えることを特徴とする物質検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−68952(P2009−68952A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−236708(P2007−236708)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(505303059)株式会社船井電機新応用技術研究所 (108)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【Fターム(参考)】