説明

特に麻酔深度を判定するために、異常な医療事象を予測し、かつ/または診断を支援し、かつ/またはモニタリングする方法およびデバイス

本発明は、麻酔および集中治療の施術者のための技術的支援の分野、ならびに、麻酔を管理し、かつ/または有害な医療事象を予測するための、簡単で信頼性のある医療用モニタリングの分野に関する。本発明は、患者に必要な手技の阻止および予想を可能にし、かつ/または所与の時間における外科手術のために、患者を適切な麻酔状態に維持できるシステムを提供することを目的とする。前記目的のために、本発明は、異常な医療事象を予測し、かつ/または診断を支援し、かつ/またはモニタリングする方法を提供し、その方法が、心臓の圧受容器反射における一時的な無能力、および非圧受容器反射の心臓血管制御の活動化に付随する事象を連続的に、実時間で検出することを本質的に含む。本発明はまた、前記方法を実施するために使用されるデバイスに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、麻酔管理のための、かつ/または有害な医療事象を予測するための簡単で信頼性のある医療モニタリングの分野と共に、麻酔または集中治療の施術者のために技術的に支援する分野を含む。ターゲットとする目的は、特に、患者のために必要な治療を予想すること、かつ/または、問題の時点で、外科手術手技に適合した麻酔状態に患者を維持することである。
【0002】
より詳細には、本発明は、特に、麻酔深度を判定するために、異常な医療事象を予測し、かつ/または診断を支援し、かつ/またはモニタリングする方法およびデバイスに関する。
【0003】
本発明の他の目的は、本方法を実施するためのアルゴリズムおよびコンピュータプログラムである。
【背景技術】
【0004】
全身麻酔は、薬理学的に誘発された、患者が疼痛性の刺激を感じない(無感覚)、および記憶していない(記憶消失)無意識の状態として定義することができる。このような麻酔は、「適合している(adequate)」、または十分に「深い」と見なすことができる。麻酔は少なくとも2つの要素を有する。一方は、確実に意識消失および記憶消失を行う催眠性の要素であり、他方は鎮痛性の要素である。世界中で毎年行われる数多くの(先進国で5千万を超える)全身麻酔にもかかわらず、多くの進歩が、まだ、患者の安全性および専門医の作業を改良することに留まっている。
【0005】
実際、麻酔の適合性を保証するために、麻酔を絶えず調整する必要があり、患者の生物学的変動により、また疼痛性の刺激の強度により変化させる。現在、麻酔薬の投与量の調整は、信頼性が十分ではない従来の臨床的な徴候により行われる。すなわち、高血圧、頻拍、流涙、疼痛性の刺激に対する運動反応などである。この理由で、麻酔薬の正確な投与量のために麻酔深度のモニタが必要となるはずであり、それにより、過剰投与または過少投与が回避される。
【0006】
麻酔薬の過少投与は、手術中に偶発的に覚醒する危険につながる。いずれの精密な外科手術においても、術中の不随意運動は有害な結果を生ずる可能性がある。さらに、偶発的な術中覚醒は、想起(recall)および外傷後神経症の危険がある。
【0007】
麻酔薬の過剰投与は、心臓血管または呼吸の危険を増加させ、さらに回復時間を長くする。これは、手術室および回復室の回転を遅らせることになる。
【0008】
現在、麻酔の催眠性要素のモニタは存在する。これらのモニタは、脳電図(EEG)または聴性誘発電位に基づく。本質的に大脳皮質の部位を記録するこれらのモニタのおかげで、術中想起の発生をかなり低減することができる。しかし、術中の不随意運動の問題は、現在まで未解決のままである。実際、術中の不随意運動は、麻酔の催眠性要素よりも鎮痛性の要素と関連する可能性が高い。心臓血管信号は、皮質部位よりも麻酔の軽減を受けてより早発の指標を生成することのできる皮質下の部位(視床下部、水道周囲灰白質、血管運動神経中枢)の活動の指標とすることができる。このコンテキストでは、心臓血管信号に基づく麻酔の軽減に対するモニタが、特に、術中の不随意運動の予測に対する最大の関心事となる。
【0009】
不随意運動のこの明確な問題以外に、
・集中的な心臓病学治療、または移動心臓病学における診断を実時間で支援すること(心筋層の虚血、または心室細動の予測)、
・麻酔深度および覚醒の予測以外の因子に対して麻酔をモニタリングすること(術後の心筋層虚血、局所的/部位的な麻酔、痛みなど)、
・(成人、小児、新生児の)医療または外科手術救急蘇生法、
・産科学、
・事故および救急医療、酸素学(oxyology)、
・宇宙医療、
・自律神経系の機能診断(発作、糖尿病、自律神経失調症など)、
のための方法およびデバイスを求める一定の必要性が存在する。
【0010】
施術者に期待される支援手段は、これらの現象およびその結果を有効に処理するために、患者における異常現象発生の警告を施術者に対して十分早期に与えられるようにすべきである。
【0011】
施術者に送られるデータは、簡単で読み取りやすく、解釈、および利用しやすいことが望ましい。
【0012】
オーストリアの会社、CNSystemsにより開発され、市販されたTASK-FORCE MONITOR 3040と呼ばれるモニタリング方法およびモニタリングデバイスが知られている。TASK-FORCE MONITORは、ソフトウェア部分とハードウェア部分を備える。後者は、信号センサと、最高14個のパラメータを示すディスプレイ画面を備えたコンピュータとを含む。
【0013】
この従来技術の方法およびデバイスは、特に、「Gratze他、Computers in Biology and Medicine、1998年、28巻、121〜142頁」の論文に述べられている。このソフトウェアおよびその周辺デバイスは、収縮期駆出容積、血圧、および全体の周辺抵抗指標の非侵襲性モニタリングを、拍動ごとに実時間で提供することを目的とする。このシステムが対象とする一目的は、心臓の動作を制御する自律神経系の活動の評価である。
【0014】
デバイスTASK-FORCE MONITORは、アームバンド(DINAMAP(登録商標))により測定される血圧、フィンガ(FINAPRES(登録商標))により測定される動脈圧、心電図ECG、インピーダンス心拍曲線ICG、および心音図PCGの測定のためのセンサを備える。
【0015】
ソフトウェアは、ECGの2つのQRS群の間の間隔RR、収縮期動脈圧SAP、拡張期動脈圧、平均動脈圧、駆出容積、および全体の周辺抵抗指標を計算するためのアルゴリズムを実施する。
【0016】
これらの血行力学的パラメータは、患者に対して連続的に、実時間で測定されたアナログ信号から取得され、次いでデジタル化される。
【0017】
この従来技術によると、SAPの間隔RR、拡張期圧、平均動脈圧、収縮期駆出容積、および全体の周辺抵抗指標のスペクトル解析が、連続的にかつ実時間で行われる。この技法に関する欠点は、第1に、静的なデータが必要なことであるが、特に、全身麻酔下における外科手術手技の過程では、そのようにできないことが多い。第2に、この技法では血管機能の拍動成分が無視される。
【0018】
測定された、または計算された血行力学データはまた、患者の圧反射の感度の自動計算のためにも使用される。実施されるアルゴリズムは、圧反射の自発的活動の出現(episode)を求める。これらの出現は、4個の連続する心拍中に、間隔RRに対して少なくとも4ミリ秒の振幅、およびSAPに対して少なくとも1mmHgの振幅により、それぞれ、SAP(+/+シーケンス)における増加に続いて間隔RRがより広くなる場合、またはSAP(-/-シーケンス)における減少に続いて間隔RRがより小さくなる場合に対応するものとして定義される。SAPにおける増加/減少、および間隔RRにける同時の増加/減少の線形回帰が計算される。そのアルゴリズムは、次いで、このように得られた線形回帰の平均を決定し、それは、圧反射の感度に相当する平均の傾き(ms/mmHg)を与える。自律神経が冒されている患者は、正常な患者に対して圧反射の感度が低減されて示される。
【0019】
この論文は、適切な医療対応を必要とする医療事象(例えば、麻酔からの覚醒)を予測する指標として、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象の連続的な実時間監視について言及していない。
【0020】
「Legramente 他、Circulation、1999年、99巻、1761〜1766頁」による論文は、循環の神経調節に関して、少なくとも3つの拍動を含むフィードフォワードを有する非圧反射シーケンスが存在し、SAP(-/+)で増加すると同時に、間隔RRにおいて低減が生ずることを示している。この論文の著者によると、この非圧反射シーケンスは、統合されたフィードフォワードで、また神経の影響下での短期間の心臓血管調節の表現である。この調節は、心臓の周波数を制御する圧反射源のフィードバック機構と動的に相互作用することができる。これらの非圧反射シーケンスは、交感神経系および副交換神経系の影響下にある。
【0021】
Legramente他による論文は、この点において、より厳しい監視(麻酔、集中治療など)の下に、患者の異常な事象に関する実時間の連続的な予測信号として、非圧反射シーケンスRR(-)/SAP(+)の使用に関する指標を何も提供していない。対照的に、Legramenteは、正常な状態下では、フィードフォワード調節を担当する神経機構は、フィードバック調節を担当する圧反射の機構と絶えず対抗し得るという仮説を提案している。さらに、Legramenteは、信号RRまたはSAPのフィルタリングプロセスを開示していない。
【0022】
特許US-B-5437285号は、心臓に対する自律神経系の影響、および心臓の電気的安定性を同時に評価することにより、突然の心臓死を予測する方法およびデバイスについて述べている。
【0023】
この特許で引用される発明者、VERRIERおよびNEARIGは、心室細動に関する患者の脆弱性を評価する非侵襲性の動的な方法を完成させる目的に絞っている。
【0024】
この目的のために、T波の交番、心臓リズムの変動、および間隔QTの分散サイズが同時に評価される。この評価は、連続する間隔RR内で拍動ごとに行われる。そのために使用されるアルゴリズムは、信号RRを形成する間隔RRの系列を作成する。
【0025】
心臓リズムの変動は、拍動ごとに計算された心臓周波数のスペクトル内で比LF/HFと共に、約0.1Hzの低周波成分(LF)、約0.35Hzの高周波成分(HF)を計算することにより評価される。
【0026】
この特許による方法はまた、圧反射の感度の測定も提案している。このパラメータは、自動回帰移動平均(ARMA)モデルに基づく技法により、動脈圧から、瞬時の心臓周波数から、また瞬時の肺容積を表す信号から得られる。
【0027】
この特許は、適切な医療対応を必要とする医療事象(例えば、麻酔からの覚醒)を予測する指標として、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象の連続的な実時間監視について言及していない。
【0028】
特許US-B-5419338号は、副交感/交感自律神経系による心臓血管系の制御における不均衡を検出する方法およびデバイスに関する。これは、交感/副交感神経制御の不均衡を評価するための、また突然の心臓死に対する疾病素質を示すための直接的な方法である。これらの文書によると、間隔RRの変動と同時に起きる間隔QTの変動が解析され、信号RRおよびQTのスペクトル解析が次いで実施される。神経系の不均衡の指標は自律的であり、QT対RR周波数密度の解析によって与えられなければならない。この文書は、適切な医療対応を必要とする医療事象(例えば、麻酔からの覚醒)を予測する指標として、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象の連続的な実時間監視について言及していないことは明らかである。
【0029】
米国特許US-B-5967995号は、危険性の高い心臓不整脈の予測のためのシステムについて述べている。この方法によると、信号RRは分解されて、K-L(KARHUNEN LOEVE)変換係数に変換される。心臓事故のための予測指標として使用されるのはこれらの係数である。この方法は、信号RRのスペクトル解析を含む。
【0030】
この米国特許は、適切な医療対応を必要とする医療事象(例えば、麻酔からの覚醒)を予測する指標として、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象の連続的な実時間監視について言及していない。
【0031】
出願PCT WO-A-95/03739号は、自律神経系の活動を測定する方法を開示しており、それによると、間隔RRの系列がECGを用いて連続的に測定され、またその連続的な間隔RRから実時間でポアンカレ表示が連続的に構成される。患者の交感神経の活動レベルは、ポアンカレのグラフィカル表示に対応する相関次元を決定することにより定量化することができる。心臓疾患のレベルは、相関次元がどの程度所定間隔の外にあるかを観察することによって評価される。副交感神経の活動レベルはまた、ポアンカレ表示の1組の点の幅から定量化することができる。この従来技術の技術的教示は、適切な医療対応を必要とする医療事象(例えば、麻酔からの覚醒)を予測する指標として、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象の連続的な実時間監視について言及していない。
【0032】
米国特許US-B-5439004号は、カオス理論に基づいて心室細動を検出するためのシステムおよび方法に関する。この方法によると、ECG信号の振幅のポアンカレ表示が使用される。この従来技術の技術的教示は、適切な医療対応を必要とする医療事象(例えば、麻酔からの覚醒)を予測する指標として、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象の連続的な実時間監視について言及していない。
【0033】
仏国特許FR-B-2747027号は、少なくとも1つの麻酔製品が投与された患者の麻酔深度を決定する方法およびデバイスを開示しており、その方法は、患者の心臓の活動を表す少なくとも1つの信号を取得するステップ(10)と、患者の心臓からの各信号内の所与の周期的な波の位置を検出するステップ(12)と、前記周期的な波の相互間の時間間隔を計算するステップ(13)と、時間間隔の数値的な系列を決定するステップ(14)と、時間間隔の前記系列から1つのフラクタル次元を計算するステップ(15)と、そのフラクタル次元に応じた麻酔深度を計算するステップ(16)とを含む。
【0034】
少なくとも1つの信号を取得するステップ(10)は、患者からの以下の信号のうち少なくとも1つを、または少なくとも2つを測定することからなる。すなわち、心電図、血流量、血液による光吸収、動脈圧、血液中の酸素濃度、あるいは心臓から出される音響信号である。時間間隔の前記系列のフラクタル次元を計算するステップ(15)は、これらの系列の相関次元を計算することからなる。フラクタル次元に応じた麻酔深度を計算するステップ(16)は、少なくとも1つの麻酔製品を患者に投与する前に、時間間隔の数値的な系列のフラクタル次元を決定すること、規格化係数を、この係数とフラクタル次元との積が実質的に基準値に等しくなるように定義すること、および患者に少なくとも1つの麻酔製品を投与した後、時間間隔系列のフラクタル次元に規格化係数を乗算することからなる。
【0035】
この従来技術の技術的教示は、適切な医療反応を必要とする医療事象(例えば、麻酔からの覚醒)を予測する指標として、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象の連続的な実時間監視について言及していない。
【0036】
米国特許US-5372140号は、洞性不整脈を測定することにより、実時間で麻酔深度を測定する方法および装置を開示する。この方法によれば、間隔RRの系列は、呼吸周期に対する各R波の時間の位置を決定するために解析される。呼吸周期が円形で表される場合、この円上の位置は、原点が円の中心にありかつ円上のR波の位置の方を向いているベクトルと共に、各R波と関連付けられる。合成ベクトルが計算され、次いで、麻酔深度の指標を得るために基準ベクトルと比較される。基準ベクトルは、ユーザが選択できる事前定義の確率水準に応じたレーリー試験により計算される。この方法は、入力信号として、心電図および呼吸信号を使用する。この従来技術の技術的教示は、適切な医療対応を必要とする医療事象(例えば、麻酔からの覚醒)を予測する指標として、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象の連続的な実時間監視について言及していない。
【0037】
米国特許US-6685649号は、麻酔または鎮静下の患者の状態をモニタリングする方法を開示する。この方法によれば、患者の心臓血管の活動を表す信号(S)が取得される。信号(S)は、好ましくは心電図であるが、動脈圧、血液中の酸素濃度などとすることもできる。反復波(P)が信号(S)内で検出され、時間間隔(Ti)または圧力(Bi)または時間周波数(Ri)の計算がこれらの連続する波を用いて行われる。間隔(Ti)または圧力(Bi)または周波数(Ri)の時系列がフィルタリングされ、平均化された系列を生成する。このフィルタリングにより、副交感神経系により制御された速い変動が除かれる。その後、交感神経系の推定される活動化は、時間間隔(例えば、間隔RR)における実質的な減少を、または代替的に、心臓周波数の実質的な増加を、または動脈圧(例えば、収縮期動脈圧)の実質的な増加を検出することにより、平均化された系列内で求められる。平均化された系列の導関数を計算することにより、平均化された信号の減少または増加がそれぞれ検出される。平均化された系列の導関数系列において、交感神経性の心臓血管活動化に対応する導関数が強調されるが、他の導関数は数学的演算子によって除去あるいは無視される。このように選択された加速度と呼ばれる導関数系列において、移動平均が適用されて加速度指標(例えば、心臓周波数の加速度指標)が生成される。本発明者によると、加速度指標は、全身麻酔または鎮静下の患者の痛覚消失の適合性の指標である。心臓周波数の加速度指標は、最近、前部(frontal)筋電図のエントロピーの指標と結合されている(Rantanen、M他、Anesthesiology、2004年、101巻: A559)。この従来技術の技術的教示は、適切な医療対応を必要とする医療事象(例えば、麻酔からの覚醒)を予測する指標として、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象の連続的な実時間監視について言及していない。
【0038】
脳電図(EEG)または聴性誘発電位に基づく方法が最近開発され、麻酔の催眠性要素を測定する。EEGから得られる指標は大脳皮質の活動を反映する。EEGから得られる最もよく知られた指標は、Bispectral Index(BIS(登録商標)、Aspect社、米国マサチューセッツ州ナティック)であり、その初期のアイデアは、米国特許US-4907597号により開示された。EEGに基づく他の指標、すなわち、a)EEGスペクトルからのスペクトル端周波数(SEF)、または中央周波数(MF)、b)患者の状態指標(PSI、Physiometrix社、米国マサチューセッツ州N. Billerica)、c)EEGのエントロピー(M-Entropy index、S/5 Entropy Module、DatexOhmeda社、フィンランド国ヘルシンキ)、d)Narcotrend指標(ドイツ国ハンブルグ)e)EEGのLempel-Ziv複雑度(complexity)などもさらに存在する。
【0039】
聴性誘発電位は、A-line(登録商標)モニタ(Danmeter社、デンマーク国オーデンセ(Odense))により実時間で計算されるAAI指標(A-line ARX Index)により測定される。AAI指標は、皮質と皮質下活動の混合を反映する。しかし、AAI指標の性能は、侵害受容性刺激に反応する手術中の動きを予測するためには、BIS指標と同様に十分ではなく(Struys、M. M.他、Anesthesiology、2002年、96巻 803〜816頁)、侵害受容性刺激に対する運動反応は、脊柱反射よりむしろ、脊髄反射の影響である可能性がある。一般に、自発的なEEGまたは誘発電位に基づくモニタは、痛覚消失の評価のためにはよい性能を示さず、それらの指標は、手術中の動きの発生と同時に、またはその後であっても増加することが多い。
【特許文献1】特許US-B-5437285号
【特許文献2】特許US-B-5419338号
【特許文献3】米国特許US-B-5967995号
【特許文献4】出願PCT WO-A-95/03739号
【特許文献5】米国特許US-B-5439004号
【特許文献6】仏国特許FR-B-2747027号
【特許文献7】米国特許US-5372140号
【特許文献8】米国特許US-6685649号
【特許文献9】米国特許US-4907597号
【非特許文献1】Gratze他、Computers in Biology and Medicine、1998年、28巻、121〜142頁
【非特許文献2】Legramente 他、Circulation、1999年、99巻、1761〜1766頁
【非特許文献3】Rantanen、M他、Anesthesiology、2004年、101巻: A559
【非特許文献4】Struys、M. M.他、Anesthesiology、2002年、96巻 803〜816頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0040】
従来技術の欠陥を克服するために、本発明の本質的な目的の1つは、よい性能を示し、低コストで簡単であり、かつ適切な医療対応を必要とする予知できない医療事象(例えば、全身麻酔、特に鎮痛性の要素が軽減し、麻酔から覚醒し、侵害受容性の刺激に反応した予測されない手術中の動き)の発生を「信頼性があり、かつ正確に予測することを可能に」する方法およびデバイスを提供することである。
【0041】
本発明の他の本質的な目的は、簡単で信頼性があり低コストであり、また麻酔薬の過剰投与または過少投与のいずれの問題も回避しながら、全身麻酔下で最適化された方法で外科手術介入を実施できるように、麻酔を適切に監視する方法およびデバイスを提供することである。
【0042】
本発明の他の本質的な目的は、信頼性があり、高性能で低コストであり、特に、
・集中的な心臓病学治療、または移動心臓病学における診断を実時間で支援すること(心筋層の虚血、または心室細動の予測)、
・麻酔深度および覚醒の予測以外の因子に対して、麻酔をモニタリングすること(術後の心筋層虚血、局所的/部位的な麻酔、痛みなど)、
・(成人、小児、新生児の)医療または外科手術救急蘇生法、
・産科学、
・事故および救急医療、酸素学、
・宇宙医療、
・自律神経系の機能診断(発作、糖尿病、自律神経失調症など)、
のための方法およびデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0043】
これらの諸目的は、特に、本発明により達成されており、その主題は、まず、異常な医療事象を予測すること、および/または診断を支援すること、および/またはモニタリングするための方法であり、その方法が、本質的に、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象を、連続的にかつ実時間で検出することからなることを特徴とする。
【0044】
本発明の他の主題は、特に、前記方法を実施するためのデバイスであり、そのデバイスが、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象を、連続的にかつ実時間で検出する手段を備えることを特徴とする。
【0045】
長期にわたる複雑な研究努力の後、本発明者は、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する任意の事象を、異常な医療事象の予測指標として使用できることを示すことに成功した。言い換えると、本発明によると、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象は、例えば、麻酔の鎮痛性の要素の軽減のための指標、および不随意の手術中の動き予測のための指標と同等と見なされる。
【0046】
より正確には、本発明は、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随するこのような事象を示すために、特定の瞬時心臓血管信号を選択することからなる。
【0047】
したがって、好ましくは、本発明による方法は以下の諸ステップを含む。
a. 2つの連続する心臓周期の間の時間間隔(IT)、および動脈圧(AP)を連続的に(拍動ごとに)測定するステップ、
b. 副交感神経の制御下の速い変動を除くために、上側呼吸周波数で、または0.1と0.15Hzの間の範囲の閾値に等しい周波数で、時間間隔ITの拍動ごとの系列、およびステップa)で計算されたAPの系列を、低域フィルタでフィルタリングするステップであって、このフィルタリングにより、ITおよびAPのフィルタリングされた系列ITfおよびAPfがそれぞれ生成されるステップ、
c. 以下のシーケンス群、すなわち、
・APfの増加 / 時間期間 / ITfにおける増加の減少、
・APfの増加 / 時間期間 / ITfにおける増加の遅延、
・APfの増加 / 時間期間 / ITfの減少、
・およびまた、これらのシーケンスの少なくとも2つの組合せ、
から選択された事象を示すことにより、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象を監視するステップ、
d. ステップc)に従って、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象を警告するアラームを発するステップ。
【0048】
好ましくは、本発明によるデバイスは、
(a)2つの連続する心臓周期の間の時間間隔(IT)、および動脈圧(AP)を連続的に(拍動ごとに)測定する手段と、
(b)副交感神経制御下の速い変動を除くために、上側呼吸周波数で、または0.1と0.15Hzの間の範囲の閾値に等しい周波数で、前に測定された時間間隔ITおよびAP系列の拍動ごとの系列をフィルタリングするための低域フィルタであって、このフィルタリングにより、ITおよびAPのフィルタリングされた系列ITfおよびAPfをそれぞれ生成する低域フィルタと、
(c)以下のシーケンス群、すなわち、
・APfの増加 / 時間期間 / ITfにおける増加の減少、
・APfの増加 / 時間期間 / ITfにおける増加の遅延、
・APfの増加 / 時間期間 / ITfの減少、
・およびまた、これらのシーケンスの少なくとも2つの組合せ、
から選択された事象を示すことにより、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象をモニタリングするための監視手段と、
(d)心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象を警告する少なくとも1つのアラームと、
を本質的に備える。
【0049】
時間間隔ITは、間隔RRから、言い換えるとECGの2つのQRS群の間の時間間隔から計算され、また連続的なAPの特性、または血液の連続的な酸素飽和度レベル(SpO2)の特性(立上がりの開始点、または最大、またはその他)である2点間の間隔から計算されることが好ましい。
【0050】
有利には、本発明のデバイスは、前段落で説明した間隔ITを計算する手段を備える。
【0051】
APは、患者の収縮期動脈圧(SAP)、患者の拡張期動脈圧(DAP)、患者の平均動脈圧(MAP)を含む信号群から選択されるが、SAPが好ましい。
【0052】
連続的なAPは、直接的な侵襲性若しくは非侵襲性測定により、または、好ましくは、血圧アームバンドで得られる断続的なAP値により較正された、好ましくは、連続的なSpO2を用いて間接的に測定することにより取得されることが好ましい。
【0053】
有利には、本発明のデバイスは、連続的なAPを測定する手段を備えており、これらの手段は、前段落で説明したように動作する。
【0054】
連続的なAPの系列が、断続的なAP値で較正された連続的なSpO2により間接的な方法で取得される場合、本発明による方法は、好ましくは以下の諸ステップを含む。
a1)各心臓周期中のSpO2信号の最大の系列が計算されるステップ、
a2)ステップa1)で得られた系列は、SpO2信号の最大振幅を厳密に超える定数から減算することにより、反転されるステップ、
a3)ステップa2)で得られた系列に対して一次の線形演算子を適用することによって圧力の単位のステップa2)で得られた系列を較正するステップであって、この演算子の係数が断続的なAP値から取得されるステップ。
【0055】
本発明によるデバイスは、有利には、上記で述べたステップa1)、a2)、およびa3)を実施できるようにするために、系列を計算する手段、閲覧する手段、および較正する手段を備える。
【0056】
系列ITおよびSAPは、少なくとも3タイプの連続的な変動を示す。
a)呼吸に関連しており(>0.1Hz)、本発明に従ってフィルタにより除かれるタイプ、
b)約0.1Hz(Mayer waves)のタイプ、および
c)さらに遅いタイプ。
【0057】
呼吸に関連する速い変動は、副交感神経の制御下にある。低域通過のフィルタリング中でそれらを除くことによって、交感神経の制御下の変動だけが残り解析される。
【0058】
ITおよびAPの系列の低域通過フィルタリングは、好ましくは、無限パルス応答(RII)を有する、または有限パルス応答を有する少なくとも1つのフィルタにより、あるいは良好な性能を有する他の任意のタイプの低域フィルタにより実時間で行われるが、RIIタイプのフィルタが好ましい。
【0059】
本発明のデバイスは、有利には、前段落で定義されたような少なくとも1つのフィルタを備える。
【0060】
施術者に速やかに、明確に知らせるために、本発明は、以下の信号のうち少なくとも1つを、少なくとも1つの画面で表示されるように提供することが好ましい。すなわち、点a)により得られたITおよびAPの系列、および点b)により得られたITfおよびAPfの系列である。
【0061】
本発明のデバイスは、有利には、前段落で定義された信号を表示させることが可能な少なくとも1つの画面を備える。
【0062】
通常、心臓の圧反射は、フィードバック調節により徐脈を作る、言い換えると、変化する遅延(1〜20s)後に、SAPの立上がり点に対応して時間間隔ITを増加させる。一般的に言って、麻酔の(特に、鎮痛性の要素の)軽減中に、患者は、侵害受容性刺激の後、最初は意識下のレベルで、次いでその後、完全に覚醒すると意識レベルで痛みを感じ始める。侵害受容の求心チャネルは、視床下部または水道周囲灰白質などの皮質下の部位に投射する。これらの皮質下の部位の活動化により、圧反射弓を通りそれを閉鎖する非心臓血管の求心神経により誘起された頻拍および高血圧が生ずる。その結果、圧力の立上がり後の圧反射弓により誘起された徐脈は、上記で述べた、侵害受容性刺激の後の皮質下の部位により誘起された可能性のある非圧反射の頻拍と絶えず競合することになる。圧反射 / 非圧反射の均衡は、常時存在する。
【0063】
麻酔の(特に、鎮痛性の要素の)軽減中、非圧反射機能により圧反射動作がその間、閉鎖される以下による短い持続期間の出現が存在する。すなわち、SAPの立上がり点の後に、ITの非常に小さな立上がり(圧反射が十分に有効ではない)、またはITにおける遅延された立上がり(遅延した圧反射)、またはITにおける減少(非圧反射の心臓血管調節により閉鎖された非機能性圧反射を示す頻拍)が続き、それは、心臓の圧反射の予測された機能とは逆である。麻酔のこの軽減は、概して、侵害受容性刺激の後の手術中の不随意の動きの原因になる。
【0064】
本発明の長所の1つは、特に、アラームをトリガできるアルゴリズムにより実時間で、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓欠陥調節の活動化に付随するこの事象を隔離し、また定量化することである。
【0065】
心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象は、少なくとも4つの以下のパラメータにより影響されることが好ましい。すなわち、
p1)ITfの圧反射反応と呼ばれる一連のITf の曲線の下の面積と、ITfの前記圧反射反応を生じたAPfの立上がりの曲線の下の面積との間の比、
p2)APfの前記立上がりに続くITfの立上がりに先行するITfの立下がりの振幅、
p3)ITfの前記圧反射反応の振幅と、ITfの前記立下がりの振幅との間の比、
p4)ITfの前記圧反射反応の始めから開始する評価時間と呼ばれる時間期間後のITfの値と、ITfの前記圧反射反応の開始時のITfの値との間の代数的差分ΔIT、
および、さらに、重み付け有無にかかわらず、上記パラメータの任意の組合せである。
【0066】
本発明のデバイスでは、監視手段(c)は、有利には、前段落で定義された少なくとも4つのパラメータp1)、p2)、p3)、およびp4)を実施する。
【0067】
本発明による方法またはデバイスでは、APfの立上がりにより生ずるITfの圧反射反応は、
・ITfの前記立上がりが、0sに等しい下限と、APfの前記立上がりの開始時に対して10sと20sの間に含まれる上限との間に含まれる時間間隔内で始まる場合は、APfの前記立上がりに続くITfにおける立上がりであるか、または、
・APfにおける前記立上がりに続くITfの立上がりが、APfの前記立上がりの開始時に対して10sと20sの間の範囲にある前記上限の後に開始する場合、APfの前記立上がりの開始時に対して5sと15sの間に含まれる時間間隔後に始まる一連のITfである、
ことが好ましい。
両方の場合、ITfの圧反射反応の持続期間は、前記評価期間に等しく、またITfの前記圧反射反応の振幅は、ITfの前記圧反射反応の持続期間にわたるその立上がりの過程でITfが達した最大と、APfの前記立上がりに続くITfの立上がりの開始時のITfレベルとの間の差分である。
【0068】
本発明による方法またはデバイスでは、考慮に入れるAPfの立上がりは、好ましくは、その振幅が、1mmHgと5mmHgの間、好ましくは2mmHgと4mmHgの間、さらによいのは2mmHgと3mmHgの間の範囲の圧力閾値を超えるものであり、APf におけるその他の立上がりは無視される。
【0069】
本発明による方法またはデバイスでは、評価期間と呼ばれる期間は、好ましくは、0.5と2の間、好ましくは1と1.8の間の範囲の係数で乗算されたAPfの前記立上がりの持続期間に等しい。
【0070】
好ましくは、ITfの圧反射反応の曲線の下の前記面積と、APfの立上がりの曲線の下の前記面積とは、基準時間と呼ばれる時間と前記評価期間中の時間との間で、前記基準時間から開始する前記評価期間の過程における前記曲線の各サンプルに対して、所与の瞬間におけるサンプル値と、前記基準時間における曲線の値との間の代数的差分の合計を実施することによって計算される。それらは、代数的な合計なので、前記面積は正または負のいずれかになり得る。
【0071】
本発明によるデバイスは、有利には、上記で述べた面積を計算する手段を備えており、その手段は、前段落で説明したように動作する。
【0072】
時間の関数として信号ITまたはAPに適用可能な、他の知られた心臓血管パラメータには、低周波パワーと高周波パワーの間の比(LF/HF)、アルファ係数、干渉性、ポアンカレ表示を用いた解析、フラクタル次元、ベータ傾斜(beta slope)、非線形解析、時間-周波数解析、ウェーブレット解析などがあり、圧反射の無能力の指標として、および/または交感神経の活動化の指標として、および/または侵害受容性の受容器により刺激された皮質下の部位の制御下における副交感神経の抑制の指標として、パラメータp1〜p4と組み合わせて使用することができる。
【0073】
好ましくは、少なくとも1つのアラーム(d)が、麻酔の、特に、鎮痛性の要素の、プログラムされた、または不適当な任意の軽減を予測するように設計される。ステップd)に従って、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象を警告するように設計されたこのアラームは、麻酔の心臓血管的深度(CARDEAN(c): Cardiovascular Depth of Anesthesia)を表現する予測指標を実時間で連続的に表示することにより生ずる。
【0074】
本発明によるデバイスは、有利には、前段落で説明したように、少なくとも1つのアラームと、このアラームを表示するための手段とを備える。
【0075】
本発明による麻酔深度の指標は、患者が、すでに麻酔され、すべてのゲデル(Guedel)徴候、すなわち、侵害受容性刺激に対して、毛様体反射、角膜反射、流涙、眼球運動、および運動反応が抑制された瞬間からだけ使用されることが好ましい。
【0076】
心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象に対する監視のステップc)は、ステップd)によるアラームの発生と共に、代替的に、以下のアルゴリズムの少なくとも1つにより支配されることが好ましい。
【0077】
A1)麻酔の心臓血管的な深度を示す予測指標は、麻酔の、特に鎮痛性の要素の軽減を示し、また少なくとも以下の4条件が満たされた場合、アラームを発する。
・パラメータp1が、0と4の間、好ましくは、1と3の間の範囲の閾値s1に満たない場合、
・パラメータp2が、30msと300msの間、好ましくは40msと80msの間の範囲の閾値s2を超える場合、
・パラメータp3が、0と1の間、好ましくは0.25と0.75の間、好ましくは、0.3と0.75の間の範囲の閾値s3に満たない場合、
・パラメータp4が、-100と25の間、好ましくは-40と10の間、好ましくは-20と10の間の範囲の閾値s4に満たない場合、
または、
A2)麻酔の心臓血管的な深度を示し、麻酔の、特に鎮痛性の要素の軽減を示し、かつアラームを発する予測指標が、入力パラメータとしてp1からp4のパラメータを有し、かつROC(Receiver Operator Characteristic; 受信者動作特性)曲線により、感度および選択度の最適な組合せを取得するための学習条件を有する、神経回路網を用いることによって取得される。
【0078】
有利には、本発明によるデバイスの監視手段(c)、およびアラーム(d)は、上記で定義されたように、A1)またはA2)により支配される。
【0079】
他のその態様によると、本発明は、特に、上記で定義されたような方法を実施するための、または上記で定義されたようなデバイスの手段(c)およびアラーム(d)を支配するためのコンピュータプログラムに関する。この方法は、前記プログラムがコンピュータで動作するとき、上記で定義したようなアルゴリズムA1)および/またはA2)の諸ステップの全体を実施するためのプログラムコード手段を備えることを特徴とする。
【0080】
本発明の他の主題は、特に、上記で定義されたような方法を実施するためのコンピュータプログラム製品であって、前記プログラム製品が、コンピュータで動作するとき、上記で定義したようなアルゴリズムA1)および/またはA2)の諸ステップの全体を実施するための、コンピュータにより読み取り可能な媒体に記憶されたプログラムコード手段を備えることを特徴とする。
【0081】
本発明によるソフトウェアは、麻酔、集中治療、またはより一般的な医療における薬物の投与を調整するためのフィードバックループでそれ自体に含むことができ、あるいは他の監視法(EEG、誘発性電位など)と組み合わせて含むことができる。
【0082】
本発明の他の主題は、特に、本発明による方法および上記で定義されたものを実施するためのデバイスである。このデバイスは、
a)2つの連続する心臓周期の間の時間間隔(IT)、および動脈圧(AP)を(拍動ごとに)連続的に測定する手段と、
b)副交感神経の制御下の速い変動を除くために、上側呼吸周波数で、または0.1と0.15Hzの間の範囲の閾値に等しい周波数で、時間間隔ITの拍動ごとの系列、およびステップa)で計算されたAPの系列を、低域フィルタでフィルタリングする手段であり、このフィルタリングにより、ITおよびAPのフィルタリングされた系列ITfおよびAPfがそれぞれ生成される手段と、
c)以下のシーケンス群、すなわち、
・APfの増加 / 時間間隔 / ITfにおける増加の減少、
・APfの増加 / 時間間隔 / ITfにおける増加の遅延、
・APfの増加 / 時間間隔 / ITfの減少、
・およびまた、これらのシーケンスの少なくとも2つの組合せ、
から選択された事象を示すことにより、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象をモニタリングするための監視手段と、
d)ステップc)に従って、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象を警告するための少なくとも1つのアラームと、
を本質的に備えることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0083】
デバイスを構成するこれらの手段をより詳細に以下で説明し、さらに、その後の例で説明する。
【0084】
本発明によるデバイスは、以下の形態で使用することができる。
i)既存の(HP(登録商標)/Philips(登録商標)、またはDatex(登録商標)タイプの)モジュラモニタ中に嵌め込むことのできる追加のモジュール、
ii)簡単なソフトウェア更新用のアドオンソフトウェア。a)およびb)の場合、このデバイスは、すべての手術室で利用できる断続的なAP値と結合されたECGおよび/またはSpO2信号を使用することになる。
iii)例えば連続的なAPの非侵襲性のモニタ中に統合されたスタンドアロンのモジュール(この場合、IT系列は、APの2つの特性点間の時間間隔となる)。
【0085】
このデバイスはまた、外科手術中と手術室外の両方で、動物用に、または以下の分野で使用することもできる。すなわち、心臓病学的集中治療または移動心臓病学における診断を実時間で支援すること(心筋層の虚血、心室細動の予測)、麻酔(術後の心筋層虚血、局所的/部位的な麻酔、痛みなど)、(成人、小児、新生児の)医療または外科手術救急蘇生法、産科学、事故および救急医療、酸素学、宇宙医療、自律神経系の機能診断(発作、糖尿病、自律神経失調症など)である。
【0086】
(実施例)臨床試験
1/ 装置および方法
患者(ASA-I、33才)は、プロポフォール(DIPRIVAN(登録商標))およびレミフェンタニル(ULTIVA(登録商標))で誘導された全身麻酔下で、ひざの靭帯形成(ligamentoplastie)外科手術を受けた。以下の心臓血管信号が、全体の外科手術中に連続的に記録された。すなわち、心電図(ECG)および非侵襲性の動脈圧(FINAPRES 2300、Ohmeda社、米国コロラド州エングルウッド)である。脳電図(EEG)から得られた麻酔深度の指標も、外科手術の全体を通して連続的に記録された。すなわち、BIS(登録商標)指標(Aspect社、米国マサチューセッツ州ナティック)、バージョン2002、およびAAI指標(A-Line(登録商標)、Danmeter A/S社、デンマーク国オーデンセ(Odense))である。心臓血管信号およびEEGからの派生物の取得は、心臓血管信号に対する取得カード(KPCMCIA 16AIAO、Keithley社、米国オハイオ州クリーブランド)を介して、およびEEGから得られた信号に対してはRS232シリアルポートを介してポータブルコンピュータにより行われた。データの取得、記憶、および処理は、ソフトウェアアプリケーションRECAN(c)(Alpha-2、仏国、リヨン)により行われた。
【0087】
2つの心臓周期の間の時間間隔(IT)の系列は、ECGの2つのQRS群の間の時間間隔(間隔R-R)を計算することにより拍動ごとに取得された。動脈圧(AP)の系列は、各心臓周期に対する収縮期動脈圧を計算することによって拍動ごとに取得された。ITおよびAPの系列は、無限パルス応答を有する低域フィルタによりフィルタリングされたが、カットオフ周波数が0.1Hzと0.15Hzの間の範囲であるバターワースフィルタがこの場合好ましい。このフィルタリングにより、副交感神経制御下の呼吸変動が除かれた、フィルタリングされた系列ITfおよびAPfが生成された。(この場合、0.22Hzの)呼吸変動のフィルタリングが図1および図2に示されている。信号ITfおよびAPfにおける局所的な最小および最大が検出され、図3および図4に十字で示されている。APfにおける各立上がりの振幅は、それぞれ、APfの局所的な最大とAPfの前の局所的な最小との間の差分を取ることにより計算された。振幅が1mmHgと5mmHgの間の範囲における所与の閾値を超えるAPfの立上がりごとに、圧反射の効率および非圧反射の心臓血管調節を計算する手順が以下に従って開始された。最初に以下のパラメータが計算された。
・APfの前記局所的な最大の時間と、APfの前の局所的な最小の時間との間の差分として定義される、APfにおける立上がりの持続期間ΔTAP
・係数kが乗算されたAPfの立上がりの持続期間ΔTAPとして定義される、評価期間Peと呼ばれる期間、
・APfの前記立上がりと、APfのこの立上がりに続くITfにおける立上がりとの間の時間遅延τ。
パラメータΔTAP、Pe、およびτは、図3および図4に示されている。
【0088】
時間遅延τの値に応じて、APfの前記立上がりに対応するITfの圧反射反応は、
・τが、0sに等しい下限tinfと、10sと20sの間の範囲 の上限tsupの間の範囲であった場合は、APfの前記立上がりに続くITfの立上がり(図3参照)、または、
・τが、10sと20sの間の限度tsupを超える場合は、APfの前記立上がりの開始時に対して、5sと15sの間の範囲の事前定義の間隔τ0後に開始した一連のITf(図4参照)、
であった。
【0089】
両方の場合で、ITfの圧反射反応の持続期間は前記評価期間Peに等しい。
【0090】
ITfの圧反射反応が識別された後、以下のパラメータが計算された。
・APfの前記立上がりの始点から開始する評価期間Pe中の信号APfのすべてのサンプルと、APfの前記立上がりの開始時のAPfの値との間の代数的な差分の合計として定義される、APfの前記立上がりの曲線の下の面積(図3および図4の灰色に影を付けた面積)、
・ITfの前記圧反射反応の始点から開始する評価期間Pe中の信号ITfのすべてのサンプルと、ITfの前記圧反射反応の開始時のITfの値との間の代数的差分の合計として定義されるITfの前記圧反射反応の曲線の下の面積(図3および図4の灰色に影を付けた面積)、
・ITfの前記圧反射反応の曲線の下の面積と、APfの前記立上がりの曲線の下の面積との間の比に等しいパラメータp1、
・ITfの前記圧反射反応の持続期間にわたるその立上がりの過程でITfが達する最大と、APfの前記立上がりに続くITfの立上がりの開始時のITfレベルとの差分として定義されるITfの前記圧反射反応の振幅IT+(図3および図4を参照)、
・APfの前記立上がりに続くITfの立上がりに先行するITfにおける立下がりの振幅IT-に等しいp2(図3および図4を参照)、
・振幅IT+と振幅IT-の間の比に等しいパラメータp3、
・ITfの前記圧反射反応の始点から開始する前記評価期間Peの後のITfの値と、ITfの前記圧反射反応の開始時のITfの値との間の代数的差分ΔITに等しいパラメータp4(図3および図4を参照)。
【0091】
好ましい実施形態によると、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象の監視は、パラメータp1〜p4を事前定義の閾値と比較することによって行われた。麻酔深度に対する指標、特に、CARDEAN(CARdiovascular Depth of ANesthesia ; 心臓血管の麻酔深度)と呼ばれる鎮痛性の要素が計算された。好ましい実施形態によれば、CARDEAN指標は、0と100の間の値を取るように設計されており、麻酔が軽減するとCARDEAN値が増加する。この好ましい実施形態によると、CARDEAN指標は、少なくとも4つの以下の条件が満たされた場合、厳密に60を超える値を取るように設計された。
1)パラメータp1が、好ましくは1と3の間の範囲の閾値s1未満であった場合、
2)パラメータp2が、好ましくは40msと80msの間の範囲の閾値s2を超えていた場合、
3)パラメータp3が、好ましくは0.3と0.75の間の範囲の閾値s3未満であった場合、
4)パラメータp4が、好ましくは-20と10の間の範囲の閾値s4未満であった場合。
【0092】
麻酔の、特に鎮痛性要素の軽減のアラーム警告は、CARDEAN指標が60を厳密に超えるごとに発せられた。
【0093】
図3および図4は、CARDEAN指標を計算するためのアルゴリズムを示す。
【0094】
図3は、適切な麻酔に相当する心臓の圧反射の正常な動作を示している。上記で述べたパラメータの正確な値は以下のようになる。
・APfの立上がりの振幅 : 14.56mmHg
・APfの立上がりの持続期間ΔTAP : 14s
・係数k : 1.64
・評価期間Pe : k(ΔTAP = 1.64(14 = 23s
・APfの立上がりと、APfのこの立上がりに続くITfの立上がりとの間の時間遅延τ: 4s
【0095】
時間遅延τは、0sと、10sと20sの間の範囲の上限tsupとの間の範囲にあるので、APfの前記立上がりに対応するITfの圧反射反応は、APfの前記立上がりに続くITfの立上がりであった。
【0096】
以下のパラメータが計算された。
・APfの前記立上がりの曲線の下の面積 : 231.1mmHg
・ITfの前記圧反射反応曲線の下の面積 : 2512.6ms
・ITfの前記圧反射反応曲線の下の面積と、APfの前記立上がりの曲線の下の面積との間の比に等しいパラメータp1 :
p1 = 2512.6/231.1 = 10.886
・ITfの前記圧反射反応の振幅IT+ : 159.78ms
・APfの前記立上がりに続くITfの立上がりに先行するITfにおける立下がりの振幅IT-に等しいパラメータp2 :
p2 = 106.01ms
・振幅IT+と振幅IT-の間の比に等しいパラメータp3 :
p3 = 159.78/106.01 = 1.507
・灰色に影が付けられた評価期間の最後のITfレベルと、ITfの前記圧反射反応の開始時のITfレベルとの代数的な差分ΔITに等しいパラメータp4 :
p4 = 141.34ms
【0097】
パラメータp1 = 10.886は、好ましくは1と3の間の範囲の閾値s1未満ではなかった。
【0098】
パラメータp2 = 106.01msは、好ましくは40msと80msの間の範囲の閾値s2を超えていた。
【0099】
パラメータp3 = 1.507は、好ましくは0.3と0.75の間の範囲の閾値s3未満ではなかった。
【0100】
パラメータp4 = 141.34は、好ましくは-20と10の間の範囲の閾値s4未満ではなかった。
【0101】
結果的に、麻酔の軽減アラームをトリガするために必要なすべての4条件のうち、第2の条件が満たされているに過ぎなかった。したがって、CADEAN指標は60よりも厳密に低く、アラームはトリガされなかった。
【0102】
図4は、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象により指定される心臓圧反射の異常な動作を示す。これは、麻酔の、特に、鎮痛性の要素の軽減に相当する。上記で述べたパラメータの正確な値は以下のようになる。
・APfの立上がりの振幅 : 19.35mmHg
・APfの立上がりの持続期間ΔTAP : 15s
・係数k : 1.53
・評価期間Pe : k(ΔTAP = 1.53(15 = 23s
・APfの立上がりと、APfにおけるこの立上がりに続くITfの立上がりとの間の時間遅延τ: 24s
【0103】
時間遅延τは、10sと20sの間の範囲の限界tsupを超えているので、APfの前記立上がりに対応するITfの圧反射反応は、APfの前記立上がりの開始時に対して55と155の間の範囲の事前定義の間隔τ0後に始まった一連のシーケンスITfであった。
【0104】
以下のパラメータが計算された。
・APfの前記立上がりの曲線の下の面積 : 325.06mmHg
・ITfの前記圧反射反応曲線の下の面積 : -823.9ms
・ITfの前記圧反射反応曲線の下の面積と、APfの前記立上がり曲線の下の面積との間の比に等しいパラメータp1 :
p1 = -823.9/325.06 = -2.54
・ITfの前記圧反射反応の振幅IT+ : 34.53ms
・APfの前記立上がりに続くITfの立上がりに先行するITfにおける立下がりの振幅IT-に等しいパラメータp2 :
p2 = 126.43ms
・振幅IT+と振幅IT-の間の比に等しいパラメータp3 :
p3 = 34.53/124.43 = 0.27
・灰色に影が付けられた評価期間の最後のITfのレベルと、ITfの前記圧反射反応の開始時のITfレベルとの代数的な差分ΔITに等しいパラメータp4 :
p4 = -20.36ms
【0105】
パラメータp1 = -2.54は、好ましくは1と3の間の範囲の閾値s1未満であった。
【0106】
パラメータp2 = 126.43msは、好ましくは40msと80msの間の範囲の閾値s2を超えていた。
【0107】
パラメータp3 = 0.27は、好ましくは0.3と0.75の間の範囲の閾値s3未満であった。
【0108】
パラメータp4 = -20.36は、好ましくは-20と10の間の範囲の閾値s4未満であった。
【0109】
結果的に、麻酔の軽減アラームをトリガするために必要なすべての4条件が満たされた。したがって、CADEAN指標は60を厳密に超えており、アラームがトリガされた。
【0110】
2/ 実験の診療記録(protocol)
麻酔科医は、脳電図(EEG)から得られる麻酔深度に対する指標、ここでは、指標BISおよびAAIに関して知らされないで作業をしていた。麻酔科医は、単に、通常の臨床基準によりガイドされた。すなわち、高血圧、頻拍、動き、咳である。心臓血管信号およびEEGから得られる指標の記録は、t=0分(図5参照)で始まった。麻酔の導入は、t=6分に開始した。t=11分で、患者はすでに麻酔され、すべてのゲデル指標、すなわち、侵害受容性刺激に対して、毛様体反射、角膜反射、流涙、眼球運動、および運動反応が抑制された。CADEAN指標が利用可能になったのはこの瞬間からである。挿管は、t=12.92分に開始された。患者は、挿管後約30s間、咳をした。手術は、t=28.96分に開始された。t=29.95分に、約1分間、患者は予想外の動きを開始し、手術の継続を妨げた(図6参照)。麻酔はt=86.46分に停止された。患者は、t=87.87分とt=98.79分に咳をした。患者は、t=99.14分に言語刺激の後、直ぐに目を開いた。患者は、t=99.8分に手術室で抜管された。
【0111】
BIS指標に対するアラーム閾値は55%に固定された。AAI指標に対するアラーム閾値は37%に固定された。CARDEAN指標に対するアラーム閾値は、60%に固定された。
【0112】
3/ 結果
覚醒のすべての徴候(動き、目を開くこと、咳)は、60%の閾値を超える本発明によるCARDEAN指標の増加と関連している。対照的に、これらの覚醒の徴候は、BIS指標の55%の閾値を超える増加(t=12.92分における咳)と、またはAAI指標の37%の閾値を超える増加(t=12.92分およびt=87.87分における咳、およびt=29.95分における動き)と常に関連するとは限らなかった。さらに、本発明によるCARDEAN指標における増加は、BISまたはAAI指標における増加よりもより早発性であった(図6を参照)。実際、t=29.95分における不随意の動きは、CADEAN指標により、28s前に予測することができた。対照的に、t=29.95分におけるこの動きは、BISおよびAAI指標によって予測することはできなかった。
【0113】
4/ 図の説明
図1. 動脈圧(AP)の系列のフィルタリング。非侵襲性AP(FINAPRES 2300、Ohmeda社、米国コロラド州エングルウッド)が、連続的に記録された。AP系列(上)は、各心臓周期に対する収縮期動脈圧を計算することによって拍動ごとに得られた。AP系列は、無限パルス応答を有する低域フィルタ、ここでは、好ましくは、カットオフ周波数が0.1Hzと0.15Hzの間の範囲であるバターワースフィルタによりフィルタリングされた。このフィルタリングにより、フィルタリングされたAPf(下)を生成し、副交感神経の制御下の呼吸変動(0.22Hz)が除かれた。
【0114】
図2. 時間間隔(IT)系列のフィルタリング。心電図(ECG)は連続的に記録された。2つの心臓周期の間のITの系列(上)が、ECGの2つのQRS群の間の時間間隔(間隔R-R)を計算することによって拍動ごとに得られた。ITの系列は、無限パルス応答を有する低域フィルタ、この場合、好ましくは、カットオフ周波数が0.1Hzと0.15Hzの間の範囲であるバターワースフィルタによりフィルタリングされた。このフィルタリングにより、副交感神経の制御下の呼吸変動(0.22Hz)が除かれ、フィルタリングされた系列ITf(下)が生成された。
【0115】
図3. 心臓の圧反射の正常な動作。図1および図2に示された本方法によるフィルタリングされた時間間隔ITf(上)、およびフィルタリングされた動脈圧APf(下)の系列。 t=0の瞬間に、APfの立上がりが開始する(灰色に影が付けられた領域)。APfのこの立上がりは、時間遅延τ(ここでは、約4s)後に、ITfで立上がりが生ずる。時間遅延τは、10sと20sの間の範囲の限度未満であったので、APfの前記立上がりに対応するITfの圧反射反応は、APfの前記立上がりに続くITfの立上がりであった(灰色に影の付けられた領域)。ΔTAP : APfの前記立上がりの時間遅延。Pe : 係数kを乗算した時間遅延ΔTAPに等しい、評価期間と呼ばれる期間。IT+ : ITfの前記圧反射反応の振幅。IT- : ITfの前記立上がりに先行するITfにおける立下がりの振幅。ΔIT : 灰色に影が付けられた評価期間の終わりのITfレベルと、ITfの前記圧反射反応の開始時のITfレベルとの間の代数的な差分。この図は、前記圧反射反応が速くまた大きな振幅であったので、心臓の圧反射の効率的な動作を示している。この場合、麻酔深度は、本発明によるCARDEAN指標によって適切であると見なされる。麻酔深度はまた、従来の臨床的徴候によっても適切であった。すなわち、自発運動の欠如、疼痛性刺激に対する運動反応の欠如、毛様体および角膜反射の欠如、瞳孔の中心化および固定化である。
【0116】
図4. 心臓の圧反射の異常な動作。図1および図2に示された方法による、フィルタリングされた時間間隔ITf(上)、およびフィルタリングされた動脈圧APf(下)の系列。t=0で、APfの立上がりが開始する(灰色に影が付けられた面積)。APfのこの立上がりの時間遅延τ(ここでは、約24s)後に、ITf の立上がりが続く。時間遅延τは、10sと20sの間の範囲の限度を超えているので、APfの前記立上がりに対応するITfの圧反射反応は、APfの前記立上がりの開始時に対して、5sと15sの間の範囲の事前定義の間隔τ0後に開始した一連のITf であった(灰色に影が付けられた部分)。ΔTPA : APfの前記立上がりの時間遅延。Pe : 係数kを乗算した時間遅延ΔTPAに等しい評価期間と呼ばれる期間。IT+ : ITfの前記圧反射反応の振幅。IT- : ITfの前記立上がりに先行するITfにおける立下がりの振幅。ΔIT : 灰色に影が付けられた評価期間の終わりにおけるITfレベルと、ITfの前記圧反射反応の開始時のITfレベルとの間の代数的な差分。この図は、心臓の圧反射の一時的無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象を示している。実際、前記圧反射反応は遅延し、低い振幅であり、非圧反射の頻拍の余地を残している。この場合、麻酔深度は、本発明によるCARDEAN指標により不適切であると見なされる。患者の不随意運動が約28s後に生ずるので、麻酔深度が不適切であることが分かる。本発明によるCARDEAN指標は、この偶発的な「覚醒」を予測することができた。
【0117】
図5. 本発明によるCARDEAN指標と、BISおよびAAI指標の比較。全身麻酔下の外科手術手技の過程における、時間間隔IT(A)、動脈圧 AP(B)、およびCARDEAN(C)、BIS(D)、AAI(AAI)指標の連続的な記録。麻酔の導入がt=6分に行われた。挿管がt=12.92分に開始された。患者は、挿管後、約30s咳をした(破線:「T1」)。外科手術はt=28.96分に始まった。t=29.95分に、患者は、約1分間、予想外の動きをし始め、手術の継続を妨げた(破線:「M」)。図6では、t=25分とt=35分の間の期間(破線の長方形)が拡大されている。麻酔は、t=86.46分に停止された。患者は、t=87.87分(破線:「T2」)およびt=98.79分(破線:「T3」)に咳をした。患者は、t=99.14分(破線:「OY」)に、言語刺激の直ぐ後に目を開けた。患者は、t=99.8分に、手術室で抜管された。BIS、AAI、およびCARDEAN指標に対するアラーム閾値は、それぞれ、55%、37%、および60%(水平の破線)に固定されていた。CARDEAN指標は、すべての覚醒徴候(動き、目を開けること、咳)に対してアラーム閾値を横断していた。対照的に、BISおよびAAI指標は、以下の覚醒徴候に対してアラーム閾値を横断していなかった。すなわち、t=12.92分の咳(BISおよびAAI)、t=87.87分の咳(AAI)、およびt=29.95分の動き(AAI)である。
【0118】
図6. 本発明によるCARDEAN指標と、BISおよびAAI指標の比較。t=29.95分(破線:「M」)に生じた動きをより詳細に示す、t=25分とt=35分の間の図5の拡大図。BIS、AAI、およびCARDEAN指標に対するアラーム閾値が、それぞれ、55%、37%、および60%(水平の破線)に固定されていた。動きの前にアラーム閾値を横断した指標は、CARDEAN指標だけであった。t=29.95分における不随意の動きは、約28s前にCARDEAN指標によって予測することができた。対照的に、t=29.95分のこの動きは、BISおよびAAI指標によって予測することができなかった。
【0119】
図7. 血液の連続的な酸素飽和度(SpO2)(下)の波を、拍動ごとの動脈圧(AP)系列に接近する値(SpO2Amp)の系列(上)に変換すること。本方法は、心臓周期ごとの信号SpO2の最大(水平線)を検出すること、および一次の線形演算子(ax + b)により、各最大の振幅を変換することからなる。線形演算子の係数(aおよびb)は、血圧アームバンドにより測定された収縮期APの断続的な値から計算された。
【0120】
図8. 非侵襲性の測定装置(FINAPRES 2300、Ohmeda社、米国コロラド州エングルウッド)により取得された収縮期AP の系列(上)と、血液の連続的な酸素飽和度(SpO2)の波から間接的に取得された収縮期AP(SpO2Amp)の系列(下)との比較(図7参照)。APの2系列は同様な変動を示している。さらに、APの立上がりの開始点は、APの2系列上で同時に起きている(破線)。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】動脈圧(AP)の系列のフィルタリングを示す図。
【図2】時間間隔(IT)系列のフィルタリングを示す図。
【図3】心臓の圧反射の正常な動作を示す図。
【図4】心臓の圧反射の異常な動作を示す図。
【図5】本発明によるCARDEAN指標と、BISおよびAAI指標の比較を示す図。
【図6】本発明によるCARDEAN指標と、BISおよびAAI指標の比較を示す図。
【図7】血液の連続的な酸素飽和度(SpO2)(下)の波を、拍動ごとの動脈圧(AP)系列に接近する値(SpO2Amp)の系列(上)に変換することを示す図。
【図8】非侵襲性の測定装置(FINAPRES 2300、Ohmeda社、米国コロラド州エングルウッド)により取得された収縮期AP の系列(上)と、血液の連続的な酸素飽和度(SpO2)の波から間接的に取得された収縮期AP(SpO2Amp)の系列(下)との比較(図7参照)を示す図。APの2系列は同様な変動を示している。さらに、APの立上がりの開始点は、APの2系列上で同時に起きている(破線)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異常な医療事象を予測し、かつ/または診断を支援し、かつ/またはモニタリングするためのデバイスであって、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象を、連続的にかつ実時間で検出するための手段を備えることを特徴とするデバイス。
【請求項2】
(a)2つの連続する心臓周期の間の時間間隔(IT)、および動脈圧(AP)を連続的に(拍動ごとに)測定する手段と、
(b)副交感神経制御下の速い変動を除くために、上側呼吸周波数で、または0.1と0.15Hzの間の範囲の閾値に等しい周波数で、前に測定された時間間隔ITおよびAP系列の拍動ごとの系列をフィルタリングするための低域フィルタであって、このフィルタリングにより、ITおよびAPのフィルタリングされた系列ITfおよびAPfをそれぞれ生成する低域フィルタと、
(c)以下のシーケンス群、すなわち、
・APfの増加 / 時間期間 / ITfにおける増加の減少、
・APfの増加 / 時間期間 / ITfにおける増加の遅延、
・APfの増加 / 時間期間 / ITfの減少、
・およびまた、これらのシーケンスの少なくとも2つの組合せ、
から選択された事象を示すことにより、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象をモニタリングするための監視手段と、
(d)心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象を警告する少なくとも1つのアラームと
を本質的に備えることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
間隔RRから、言い換えるとECGの2つのQRS群の間の時間間隔から、あるいは連続的なAPの、または血液の連続的な酸素飽和度レベル(SpO2)の特性(立上がりの開始点、または最大、またはその他)である2つの点の間の間隔から、前記時間間隔ITを計算する手段を備えることを特徴とする請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記APが、患者の収縮期動脈圧(SAP)、患者の拡張期動脈圧(DAP)、患者の平均動脈圧(MAP)を含む信号群から選択されるが、前記SAPが好ましいことを特徴とする請求項2および請求項3のいずれかに記載のデバイス。
【請求項5】
直接的な侵襲性若しくは非侵襲性測定により、または、好ましくは、血圧アームバンドで得られる断続的なAP値により較正された、好ましくは、連続的なSpO2を用いて間接的に測定することにより前記連続的なAPを測定する手段を備えることを特徴とする請求項2から4の一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記APの連続的な系列が、前記断続的なAP値で較正された前記連続的なSpO2により間接的な方法で取得される場合、
a1)各心臓周期中の前記SpO2信号の最大の系列を計算する手段と、
a2)前記SpO2信号の最大振幅を厳密に超える定数から減算することにより、ステップa1)で得られた前記系列を反転させる手段と、
a3)ステップa2)で得られた前記系列に対して一次の線形演算子を適用することによって圧力の単位のステップa2)で得られた前記系列を較正する手段であって、この演算子の係数がAPの前記断続的な値から得られる手段と
を備えることを特徴とする請求項2から5の一項に記載のデバイス。
【請求項7】
無限パルス応答(RII)を有する、または有限パルス応答を有する少なくとも1つのフィルタを備え、ITの前記系列およびAPの前記系列の低域通過フィルタリングを実時間で形成できるようにするために、前記RIIタイプのフィルタが好ましいことを特徴とする請求項2から6の一項に記載のデバイス。
【請求項8】
以下の信号、すなわち、ITおよびAPの前記系列、ならびにITfおよびAPfの前記フィルタリングされた系列の少なくとも1つを表示するために少なくとも1つの画面を備えることを特徴とする請求項2から7の一項に記載のデバイス。
【請求項9】
心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓欠陥調節の活動化に付随する事象をモニタリングするための前記監視手段(c)が、少なくとも4つの以下のパラメータ、すなわち、
p1)ITfの圧反射反応と呼ばれる一連のITf の曲線の下の面積と、ITfの前記圧反射反応を生じたAPfの立上がりの曲線の下の面積との間の比と、
p2)APfの前記立上がりに続くITfの立上がりに先行するITfの立下がりの振幅と、
p3)ITfの前記圧反射反応の振幅と、ITfの前記立下がりの振幅との間の比と、
p4)ITfの前記圧反射反応の始めから開始する評価時間と呼ばれる時間期間後のITfの値と、ITfの前記圧反射反応の開始時のITfの値との間の代数的差分ΔITと、
さらに、重み付けの有無にかかわらず、上記パラメータの任意の組合せと
を実施することを特徴とする請求項2から8の一項に記載のデバイス。
【請求項10】
APfの前記立上がりにより生ずるITfの前記圧反射反応が、
・ITfの前記立上がりが、0sに等しい下限と、APfの前記立上がりの開始時に対して10sと20sの間に含まれる上限との間に含まれる時間間隔内で始まる場合は、APfの前記立上がりに続くITfの前記立上がりであるか、または、
・APfの前記立上がりに続くITfの前記立上がりが、APfの前記立上がりの前記開始時に対して10sと20sの間の範囲にある前記上限の後に開始する場合は、APfの前記立上がりの前記開始時に対して5sと15sの間に含まれる時間間隔後に始まる一連のITfであり、
両方の場合で、ITfの前記圧反射反応の持続期間が前記評価期間に等しく、ITfの前記圧反射反応の振幅が、ITfの前記圧反射反応の前記持続期間にわたるその立上がりの過程で前記ITfが達した最大と、APfの前記立上がりに続くITfの前記立上がりの開始時のITfレベルとの間の差分であることを特徴とする請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
考慮に入れるAPf の前記立上がりは、その振幅が、1mmHgと5mmHgの間、好ましくは2mmHgと4mmHgの間、さらによいのは2mmHgと3mmHgの間の範囲の圧力閾値を超えるものだけであり、APf のその他の立上がりは無視されることを特徴とする請求項9および10に記載のデバイス。
【請求項12】
評価期間と呼ばれる前記期間が、0.5と2の間、好ましくは1と1.8の間の範囲の係数で乗算されたAPfの前記立上がりの持続期間に等しいことを特徴とする請求項9から11の一項に記載のデバイス。
【請求項13】
基準時間と呼ばれる時間と、一定の持続時間に対する時間との間で、前記基準時間から開始する前記持続期間の過程で前記曲線の各サンプルに対して、所与の瞬間におけるサンプル値と、前記基準時間における前記曲線の値との間の代数的差分の合計を実施することによって計算される、ITfの前記圧反射反応の前記曲線の下の前記面積と、APfの前記立上がりの前記曲線の下の前記面積とを計算する手段を備えることを特徴とする請求項9から12の一項に記載のデバイス。
【請求項14】
麻酔の、特に、鎮痛性の要素の、プログラムされた、または不適当な任意の軽減を予測するように設計された少なくとも1つのアラームを備え、また麻酔の心臓血管的な深度を表現する予測指標を実時間で連続的に表示することによって、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象を警告するように設計されたアラームを表示する手段を備えることを特徴とする請求項1から13の一項に記載のデバイス。
【請求項15】
アラームの発生と共に、心臓の圧反射の一時的な無能力、および非圧反射の心臓血管調節の活動化に付随する事象をモニタリングする前記監視手段が、代替的に、以下のアルゴリズム、すなわち、
A1)麻酔の前記心臓血管的な深度を示す前記予測指標が、麻酔の、特に前記鎮痛性の要素の軽減を示し、また少なくとも以下の4条件、すなわち、
・パラメータp1が、0と4の間、好ましくは1と3の間の範囲の閾値s1に満たない場合、
・パラメータp2が、30msと300msの間、好ましくは40msと80msの間の範囲の閾値s2を超える場合、
・パラメータp3が、0と1の間、好ましくは0.25と0.75の間、好ましくは0.3と0.75の間の範囲の閾値s3に満たない場合、
・パラメータp4が、-100と25の間、好ましくは-40と10の間、好ましくは-20と10の間の範囲の閾値s4に満たない場合、
が満たされた場合にアラームを発する、または、
A2)麻酔の前記心臓血管的な深度を示し、麻酔の、特に前記鎮痛性の要素の軽減を示し、かつアラームを発する前記予測指標を、入力パラメータとして、p1からp4のパラメータを有し、またROC(Receiver Operator Characteristic; 受信者動作特性)曲線により、感度および選択度の最適な組合せを取得するための学習条件を有する神経回路網を用いることによって取得する、
アルゴリズムのうちの少なくとも1つにより支配されることを特徴とする請求項2から14の一項に記載のデバイス。
【請求項16】
コンピュータプログラムであって、前記プログラムがコンピュータで動作するとき、請求項15で定義されたようなアルゴリズムA1)および/またはA2)の諸ステップの全体を実施するためのプログラムコード手段を備えることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項17】
コンピュータプログラム製品であって、前記プログラム製品がコンピュータで動作するとき、請求項15で定義されたようなアルゴリズムA1)および/またはA2)の諸ステップの全体を実施するための、コンピュータにより読み取り可能な媒体に記憶されたプログラムコード手段を備えることを特徴とするコンピュータプログラム製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−518705(P2008−518705A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−539623(P2007−539623)
【出願日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【国際出願番号】PCT/FR2005/050928
【国際公開番号】WO2006/048587
【国際公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(507146256)
【出願人】(507146278)
【Fターム(参考)】