説明

玉軸受

【課題】 長時間にわたって適切な導電性能を維持可能とすること。
【解決手段】 (各玉4の玉径×玉数)/(π×玉PCD)を0.35以上とし且つ0.99以下とした。即ち、内輪2と外輪3との間に介挿される玉数が十分に多くなるようにしたため、玉4を介して内輪2と外輪3との間に流れる電流の合計値(一つの玉4を介して流れる電流×玉数)を大きくすることができ、深溝玉軸受1の導電性能を大きく向上することができる。そのため、長時間の使用により、各玉4表面に導電性の低い酸化膜が形成され、その結果、各玉4の導電性能が低下し、玉4を介して内輪2と外輪3との間に流れる電流が小さくなり、深溝玉軸受1の導電性能が若干低下しても、長時間にわたって適切な導電性能を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コピー機やプリンターに用いられる導電性の玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の玉軸受としては、導電性グリースを封入することで、玉を介して内輪と外輪との間に電流が流れるようにしたものがある(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−139052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の玉軸受にあっては、長時間の使用により、玉表面に導電性の低い酸化膜が形成されると、玉の導電性能が低下し、玉を介して内輪と外輪との間に流れる電流が小さくなってしまい、玉軸受の導電性能が低下するという問題点があった。
本発明は、上記従来の玉軸受の未解決の問題点を解決することを目的とするものであって、長時間にわたって適切な導電性能を維持可能な玉軸受を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の玉軸受は、内輪と外輪との間に転動自在な複数の玉を有する導電性の玉軸受であって、(玉径×玉数)/(π×玉PCD)は、0.35以上で且つ0.99以下であることを特徴とする。
また、前記(玉径×玉数)/(π×玉PCD)は、0.60以上で且つ0.99以下であってもよい。
【0005】
このような構成によれば、内輪と外輪との間に介挿される玉数が十分に多くなるため、玉を介して内輪と外輪との間に流れる電流の合計値(一つの玉を介して流れる電流×玉数)を大きくすることができ、深溝玉軸受1の導電性能を大きく向上することができる。そのため、長時間の使用により、各玉表面に導電性の低い酸化膜が形成され、その結果、各玉の導電性能が低下し、玉を介して内輪と外輪との間に流れる電流が小さくなり、玉軸受の導電性能が若干低下しても、長時間にわたって適切な導電性能を維持可能である。
【0006】
なお、好ましくは、{玉径/(外輪外径―内輪内径)}を0.45以上としてもよい。
また、前記玉は、SUS材又は表面硬化処理されたSUJ2であってもよい。
さらに、予圧が付加されていてもよい。
また、前記内輪の外周面及び前記外輪の内周面に油膜を形成する導電性グリースを備えるようにしてもよい。
さらに、総玉仕様であってもよい。
また、深溝玉軸受、単列アンギュラ玉軸受、及び複列アンギュラ玉軸受のいずれであってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の玉軸受である深溝玉軸受を、コピー機やプリンターの感光ドラムと軸部材との間で感光ドラムの支持に用いた一実施形態を図面に基づいて説明する。
即ち、この感光ドラムは、外周面全体を帯電した後、画像部以外の電荷を深溝玉軸受を介して軸部材側に逃がすことで、画像部のみにトナーを吸着するものである。
<深溝玉軸受の構成>
図1は、本実施形態の深溝玉軸受を破断して示す概略構成図である。この図1に示すように、深溝玉軸受1は、内輪2と外輪3との間に転動自在な複数の玉4が介挿されて構成され、内輪2の内径部が軸部材に固定され、外輪4の外径部が感光ドラムの軸受支持部に固定された後、予圧が付加されることで、感光ドラムを回転可能に支持している。
【0008】
なお、その際、内輪2、外輪3、及び玉4の各種寸法や玉数は、{玉径/(外輪外径―内輪内径)}が0.45以上となり、(玉径×玉数)/(π×玉PCD)が0.35以上で且つ0.99以下となるように構成した(軸受鋼製)。
このように、本実施形態の深溝玉軸受1にあっては、(各玉4の玉径×玉数)/(π×玉PCD)を0.35以上とし且つ0.99以下とした。即ち、内輪2と外輪3との間に介挿される玉数が十分に多くなるようにしたため、玉4を介して内輪2と外輪3との間に流れる電流の合計値(一つの玉4を介して流れる電流×玉数)を大きくすることができ、深溝玉軸受1の導電性能を大きく向上することができる。そのため、長時間の使用により、各玉4表面に導電性の低い酸化膜が形成され、その結果、各玉4の導電性能が低下し、玉4を介して内輪2と外輪3との間に流れる電流が小さくなり、深溝玉軸受1の導電性能が若干低下しても、長時間にわたって適切な導電性能を維持することができる。
【0009】
言い換えると、深溝玉軸受1の内部抵抗Rは、外輪抵抗をRaとし、内輪抵抗をRbとし、玉抵抗(全ての玉4による抵抗値)をRcとした場合、R=Ra+Rb+Rcとなる。ここで、玉抵抗Rcは、玉4それぞれが電気的に並列に配されているため、各玉4の抵抗をRci(i=1〜n、nは玉数)とすると、1/Rc=1/Rc1+・・・+1/Rcnとなる。そのため、玉数nを十分に多くすることで、玉抵抗Rcを小さくし、内部抵抗Rを小さくし、その結果、深溝玉軸受1の導電性能を大きく向上することができる。
また、{玉径/(外輪外径―内輪内径)}を0.45以上とした。即ち、玉径が小さくなりすぎないようにしたため、耐荷重性を向上することができる。
さらに、予圧を付加するようにした。そのため、内輪2及び外輪3に接触する玉4の数をより増やすことができ、その結果、より導電性能を向上することができる。
【0010】
<実施例>
次に、深溝玉軸受1の内輪2、外輪3、及び玉4の各種寸法や玉数等を軸受毎に変えて、各深溝玉軸受1(実施例1〜5、比較例)について3000時間耐久試験を行った後、予圧のない状態及び種々の予圧を付加した状態で軸受回転時最大抵抗値を測定した。即ち、長時間の使用により、玉4表面に導電性の低い酸化膜が形成され、玉4の導電性能が低下した状態で、各深溝玉軸受1の軸受回転時最大抵抗値(導電性能)を測定した。
なお、この実施例では、図2に示すように、実施例1〜5として、{玉径/(外輪外径―内輪内径)}が0.45以上であり、且つ、(玉径×玉数)/(π×玉PCD)が0.35以上で且つ0.99以下である深溝玉軸受1を用いた。また、比較例として、(玉径×玉数)/(π×玉PCD)が0.30である深溝玉軸受1を用いた。
【0011】
図3は、実施例1〜5及び比較例の軸受回転時最大抵抗値の測定結果を示すグラフである。この図3に示すように、実施例1〜5の軸受回転時最大抵抗値は、予圧のない状態で1000KΩ以下(実用上問題のない抵抗値)となった。特に、実施例4、5((玉径×玉数)/(π×玉PCD)が、0.60以上で且つ0.99以下である実施例)にあっては、予圧のない状態でより小さい軸受回転時最大抵抗値となった(100KΩ以下となった)。また、比較例では、1900Ω以上(実用上問題のある抵抗値)となった。
【0012】
即ち、(玉径×玉数)/(π×玉PCD)を0.35以上とし且つ0.99以下とした深溝玉軸受1では、長時間にわたって適切な導電性能を維持可能となっている。
また、図3に示すように、予圧なしの状態(0kgf)と予圧を付加した状態とでは、軸受回転時最大抵抗値に大きな差があることが分かる。即ち、予圧を付加した状態では、内輪2及び外輪3に接触する玉4の数が増えて、より導電性能が向上している。
なお、予圧が大きいほど軸受回転時最大抵抗値は小さくなるが、予圧が過大であると寿命が低下するため、内径30mmのものでは、予圧は2〜7kgfが好ましい。
【0013】
次に、各深溝玉軸受1(実施例1〜5、比較例)について定格荷重の測定試験を行って、耐荷重性に問題がないか否かを判定した。即ち、深溝玉軸受1の基本定格荷重(Cr、Cor)が標準設計(JIS)による値の80%以上であるか否かを判定する。例えば、内輪2の内径が30mmであり、外輪4の外径が37mmである深溝玉軸受1にあっては、標準設計ではCr=875N、Cor=700Nと定められているため、耐荷重性に問題ない範囲はCrが700N以上で且つCorが560以上である範囲となる。
【0014】
図2に示すように、実施例1〜5の定格荷重(Cr、Cor)は、(875、700)、(970、815)、(1570、1630)、(1720、1860)、(6950、6200)となった。また、比較例にあっては、(775、580)となった。
即ち、{玉径/(外輪外径―内輪内径)}を0.45以上とした深溝玉軸受1では、(700、560)以上となり、耐荷重性に問題がないと判定されている。
なお、本発明の玉軸受は、上記実施の形態の内容に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0015】
上記実施形態では、深溝軸受1を軸受鋼を用いて構成する例を示したが、これに限られるものではない。例えば、玉4をSUS材又は表面硬化熱処理されたSUJ2を用いて構成してもよい。そのようにすれば、玉4の酸化劣化(酸化膜ができること)を抑えることができ、各玉4の導電性能の低下を防止することができる。また、例えば、玉4に限らず、内輪2及び外輪3にもSUS材等を用いるようにしてもよい。なお、保持器(不図示)は、深溝玉軸受1の導電性に影響を与えないので、どのような素材で構成してもよい。さらに、例えば、内輪2、外輪3及び玉4の各部品には、耐食メッキを施してもよい。
【0016】
また、深溝玉軸受1を構成する例を示したが、これに限られるものではない。例えば、アンギュラコンタクト玉軸受(単列アンギュラ玉軸受、複列アンギュラ玉軸受、多点接触玉軸受)を構成するようにしてもよい。例えば、単列アンギュラ玉軸受を構成すれば、玉数を増やすことができ、負荷容量を向上することができ、予圧を付加して使用することができる。また、単列アンギュラ玉軸受を構成すれば、組み合わせ使用により軸受単体で予圧を付加することができ、機器の予圧負荷設計が不要となり簡素化が可能である。
【0017】
また、複列アンギュラ玉軸受を構成すれば、単列アンギュラ玉軸受に比べ、多少幅が大きくなるものの、一つの軸受で両方向のアキシアル荷重を受けることができる。
さらに、多点接触玉軸受を構成すれば、負すき間で使用できる。なおその際、温度上昇によりすき間が過小とならないように予圧を付加する等の注意が必要となる。
また、内輪2の外周面及び外輪3の内周面に油膜を形成する導電性グリースを封入するようにしてもよい。そのようにすれば、内輪2と玉4との間及び外輪3と玉4との間に流れる電流値を増大し、各玉4を介して内輪2と外輪3との間を流れる電流を増大することができ、その結果、深溝玉軸受1の導電性能をより向上することができる。
【0018】
さらに、各玉4を保持器で保持する仕様としてもよいし、保持器を用いることなく、内輪2と外輪3との間に玉4をできるだけ多く介挿する総玉軸受仕様としてもよい。
また、導電性の深溝玉軸受1は感光ドラムの両端に配置するようにしてもよいし、前記深溝玉軸受1を一端にのみ配置し非導電性の軸受を他端に配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態の深溝軸受を破断して示す概略構成図である。
【図2】耐久試験に用いた玉軸受の諸元を示すテーブルである。
【図3】耐久試験後の軸受回転時最大抵抗値を示すグラフである。
【符号の説明】
【0020】
1は深溝玉軸受、2は内輪、3は外輪、4は玉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と外輪との間に転動自在な複数の玉を有する導電性の玉軸受であって、
(玉径×玉数)/(π×玉PCD)は、0.35以上で且つ0.99以下であることを特徴とする玉軸受。
【請求項2】
前記(玉径×玉数)/(π×玉PCD)は、0.60以上で且つ0.99以下であることを特徴とする請求項1に記載の玉軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−24157(P2007−24157A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−206321(P2005−206321)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】