説明

球状シリカガラス微粒子及びその製法

【課題】球状で,ナノレベルの微小な粒子径を有し,粒度分布が極めて狭く,低屈折率で且つ屈折率の調節が可能なシリカガラス微粒子及びその製法を提供すること。
【解決手段】アルコキシシランを原料として,その加水分解反応及び重合反応により球状微粒子の形態に作製され,次いで焼成されてなるものである,平均粒子径が5nm以上1000nm未満の範囲にあり,かつ屈折率が1.35〜1.44であることを特徴とする球状シリカガラス微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,透光性の被覆材料,特に透光性の樹脂硬化物を得るために使用する無機フィラーに関し,詳しくは球状のシリカガラス微粒子及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の部材同士の接着やそれらの隙間の充填,部材表面の被覆等の目的で,合成樹脂による種々の硬化性材料が用いられている。特に,エポキシ樹脂その他の有機系材料は,絶縁性,化学的耐久性,耐熱性,物理的強度に優れ,広範な用途において高い接着能力を有しており,多様な使用環境・状況に適合できることから,建築用途を中心に多く用いられてきた。更には,半導体素子を中心とした電子材料の製造にも硬化性材料が現在広く使用されるようになっている。電子材料の製造に用いる硬化性材料として,力学的・熱的補強や粘性制御による加工特性向上を求めて,種々のフィラーを配合したものが用いられている。特に,半導体レーザーやLED等種々の光学素子の開発が進むに至って,そのような特性に加えて透光性をも備えた硬化性材料も求められるようになっており,その結果,透明なフィラーを配合した透光性の高い硬化性材料の開発の重要性が増大している。
【0003】
一般に,硬化性材料において用いられるフィラーとしては,炭酸カルシウムやシリカ等のような無機フィラーが用いられており,それらの屈折率は,ホワイトカーボンの1.44から酸化チタンの2.76の範囲にある。
【0004】
一方,光学素子に用いられる硬化性材料には,優れた透明性や,用いる樹脂の屈折率に関連した光学特性が求められる。特に,光学素子の製造において硬化性材料に添加するフィラーとしては,輝度を向上させるため,発光材料や硬化剤の屈折率との関係に照らし,屈折率1.50以上の無機系フィラーが,従来用いられている。
【0005】
しかしながら近年,光学素子中に高屈折率層と低屈折率層とを組み合わせて形成することによって輝度を向上させる技術での使用や,低屈折率層を基板表面に積層させることによる表面反射防止に使用するなどのため,1.44以下の低屈折率を示すフィラーが求められるようになってきた。
【0006】
上記のフィラーより低い屈折率を有する無機フィラーとしては,氷晶石などのフッ素化合物が挙げられるが,製造に際して人体への危険性があるなど,労働安全衛生上の懸念から,使用しにくい。他方,ポリスチレン,メラミン樹脂,ナイロン,ポリスチレン,ポリエチレン等の有機系フィラーは,無機系フィラーよりも低い屈折率を有しているが,化学的耐久性や耐熱性が無機系フィラーよりも劣るという欠点がある。
【0007】
また,硬化性材料中に分散されたフィラーが,材料の硬化までの間に沈降(透光性にむらを生じる)を起こしてしまうことがなく,且つ硬化後に硬化物内のフィラーによる可視光の散乱(透光性の低下をもたらす)が起こらないようにするためには,数nmから200nmまでの粒子径のフィラーを用いるのが好ましいとされている。しかしながら,そのような粒子径を有し,且つ1.44以下の低屈折率を示す透明な無機系のフィラーは,これまで知られていなかった。このため,そのような無機系フィラーが求められている。特に,使用する樹脂の屈折率と光学素子における光路の設計に合わせて,最適な屈折率のもの1種を選択して,又は適切な2種以上を組み合わせて用いる必要があることから,低屈折率範囲内で屈折率を異にする多種の透明なフィラーの提供を可能にするよう,そのようなフィラー製造方法であって,得られるフィラーの屈折率を調整できるものが潜在的に求められている。
【0008】
ゾルゲル法により得られた微粒子は溶融法で得られるシリカガラスの屈折率1.46より低いことが知られている。特許文献1には,シリコンアルコキシドからアンモニアの加水分解により得られた多孔質シリカゾルが開示されている。しかしながら,同文献にはシリカゾルの屈折率の制御を可能にするような方法は記載されていない。また,実施例として記載されているシリカゾルは,屈折率1.24〜1.28の範囲のものに限られており,これを超える屈折率のシリカゾルについては具体的記載はなく,1.28より高い屈折率のシリカゾルを得る方法についての示唆もない。
【0009】
また,特許文献2には,ポリオルガノシロキサン粒子およびそれを焼成して得られた,1粒子毎に内部で屈折率がブロードに広がっているという特徴を有する粒子の集合体からなる,透明樹脂組成物用シリカ系フィラーが開示されている。同文献には,そのような粒子として,屈折率1.3〜1.6を有し,また0.05〜20μmという幅広い範囲に平均粒子径を有するものが請求されているが,実施例の記載により確認できる粒子は,平均粒子径2.0μm以上という大きなものだけである。加えて,同文献に記載されているように,得られたポリオルガノシロキサン粒子の熱処理は,窒素等の不活性雰囲気下又は真空中で行うのが好ましく,これは製造コストを押し上げる要因として働き,工業上は好ましくない。
【0010】
従って,光学素子において追求される高い性能を満たす,優れた透光性等の光学特性を硬化物に与えることのできる無機フィラーに対する需要が,依然として存在する。
【特許文献1】特開平7−48117号公報
【特許文献2】特開2007−84606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記背景のもと,本発明の一目的は,球状で,ナノレベルの微小な粒子径を有し,粒度分布が極めて狭く,低屈折率で且つ屈折率の調節が可能なシリカガラス微粒子を提供することである。また,本発明の別の一目的は,そのようなシリカ微粒子を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的のため検討の結果,本発明者らは,ゾルゲル法により得られるナノレベルサイズの球状シリカガラス微粒子を焼成し,それに際して焼成温度を調節することで,得られる焼成シリカガラス微粒子の屈折率を焼成前の低い値からバルクシリカガラスの屈折率1.46の方向へと増大させることができ,焼成温度を高めることで焼成シリカガラス微粒子の屈折率をバルクシリカガラスのそれに接近させることができることを見出し,更に検討を加えて本発明を完成させた。すなわち本発明は,以下を提供するものである。
1.平均粒子径が5nm以上1000nm未満の範囲にあり,かつ屈折率が1.35〜1.44であることを特徴とする球状シリカガラス微粒子。
2.アルコキシシランを原料として,その加水分解反応及び重合反応により球状微粒子の形態に作製され,次いで焼成されてなるものである,上記1の球状シリカガラス微粒子。
3.アンモニア及び水を含有するアルコール中に,撹拌下にアルコキシシランを添加することにより,これを加水分解し次いで重合反応を行わせ,これにより球状シリカガラス微粒子を含んでなるシリカゾルを作製し,該シリカゾルから球状シリカガラス微粒子を分離し,乾燥させ,所定温度で焼成することを含んでなる,平均粒子径が5nm以上1000nm未満の範囲にあり,かつ屈折率が1.35〜1.44であることを特徴とする球状シリカガラス微粒子の製造方法。
4.該焼成を500以上1200℃未満の温度にて行うものである,上記3の製造方法。
5.該焼成を1〜5時間にわたって行うものである,上記3又は4の製造方法。
6.該焼成が大気中で行われるものである,上記3ないし5の何れかの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
上記構成になる本発明によれば,1.35以上1.44未満の範囲の所望の低屈折率を有し,ナノレベルのサイズで粒子径の変動が小さく球状である,均質性に富んだシリカガラス微粒子を得ることができる。本発明の球状シリカガラス微粒子は,この均質性という特徴を有していることから分散性に優れかつ粒子径がナノレベルであることから,溶剤や樹脂等の媒質に分散した後も沈降が見られない。このためこれを硬化性材料のフィラーとして用いた場合,操作性に優れた硬化性材料を提供することができる。また,無機フィラーであるため,化学的耐久性,耐熱性や物理的強度を硬化物に付与する点で優れている。
特に,本発明の球状シリカガラス微粒子は,これを配合しようとする樹脂の屈折率に対して適切な低屈折率ものを選択して用いることが可能であるため,光学素子や反射防止膜などの用途において要求される高い光学特性を有する硬化物を与えることが可能となる。
加えて,本発明の球状シリカガラス微粒子は,粒子径が非常に小さいものとして得ることができるため,特に電子デバイスの製造において用いられる場合,素子のパターンの微細化や薄膜化を妨げることがない。
更に,本発明の製造方法は,大気中で行うことができ,窒素等の不活性雰囲気や真空下での工程を含まないため,そのようなコスト押上げ要因をなくすることができる。また,本発明の製造方法において使用されるアンモニア及びアルコールは,容易に回収して再利用でき,環境に与える負荷は小さく,量産に適しているため工業的に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の球状ガラス微粒子において,「球状」とは,必ずしも真球に限らず,電子顕微鏡により観察したとき実質的に球と認められるものをいう。
【0015】
本発明のガラス微粒子の原料としては,アルコキシシランを用いることが好ましい。アンモニア及び水を含有するアルコール中に大気中で室温にて撹拌しつつアルコキシシランを添加して加水分解し,それにより重合反応を同時に行わせて,ナノレベルのサイズの球状シリカガラス微粒子含んでなるシリカゾルを形成することができる。反応に用いる溶媒は,アルコールを含有する水であればよい。形成されたシリカゾルを固液分離処理に付して球状シリカガラス微粒子を回収し,これを乾燥させることで,5nm以上1000nm未満の範囲,好ましくは10〜500nmの範囲に平均粒子径を有する,均質性に富んだ球状のシリカガラス微粒子を得ることができる。
【0016】
アルコールは,反応においてアルコキシシランのための溶媒として用いられるが,原料とするアルコキシシランが有するアルコキシ基部分と同一のアルコールを用いることが好ましい。そうすることにより,加水分解反応が問題なく進行するほか,アルコキシシランの加水分解で生じるアルコールと溶媒として用いたアルコールとが同一であるため,合わせて回収し(分離の必要性なく)再利用に供することができるからである。反応に用いるアルコールの量は,原料であるアルコキシシランを溶解させることができる量である限り適宜に設定すればよく,それ以外に特段の制限はない。通常は,例えば,反応混合物全体のうちアルコールの割合が50〜80モル%となるようにしておけばよい。
【0017】
アンモニアは反応のための触媒として用いられる。メチルアミンやジメチルアミン等のアミン系化合物を触媒として用いることも可能であるが,反応終了後の反応混合物からの回収・再利用の容易さの点でアンモニアが好ましい。用いるアンモニアの濃度が低いほど粒子径は小さくなることから,アンモニア濃度を加減することによって,粒子径を調節することができる。反応混合物全体中に含有させるアンモニアの濃度は,0.1〜5モル%であることが好ましく,0.5〜3モル%であることがより好ましい。このような範囲内でアンモニア濃度を調節することにより,5nm以上1000nm未満の球状シリカガラス微粒子を得ることができる。
【0018】
原料であるアルコキシシランの好ましい例としては,テトラメトキシシラン,テトラエトキシシラン,テトライソプロポキシシラン等のテトラアルコキシシランや,メチルトリメトキシラン,エチルトリエトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシランが挙げられる。これらのうちでも,低屈折フィラーに高い耐熱特性を付与するためには,粒子中に有機官能基が残らないテトラアルコキシシラン,特に,テトラメトキシシランやテトラエトキシシランがより好ましい。反応において用いるアルコキシシランの量は,反応混合物中の溶媒(水−アルコール混液)に可溶である限り,特に限定はない。
【0019】
アルコキシシランを加水分解するときの反応温度に特に制限はなく,室温で行えばよいが,加熱下や冷却下で行うことも可能である。得られる球状シリカガラス微粒子の平均粒子径は,反応温度を高めると縮小し,反応温度を下げると増大する傾向がある。操作性を考慮すると,反応温度は外気温に左右されにくく温度管理が容易な35〜45℃とするのが好ましい。
【0020】
形成されたシリカゾルの固液分離処理の方法は,適宜であってよいが,乾燥後の粒子が凝集した状態となるのを防止するためにはフリーズドライやスプレードライによるのが好ましい。回収した湿潤状態の球状シリカガラス微粒子を乾燥させることにより,相互に緩く付着している状態の乾燥微粒子が得られるが,これはボールミルや乳鉢等で軽く容易に解砕して,個々に分離した状態で球状シリカガラス微粒子を得ることができる。また,ジェットミルなどの粉砕装置を用いても容易に解砕できる。
【0021】
上記で得られた球状シリカガラス微粒子を,次に焼成する。これは,当該微粒子を匣鉢などの焼成用治具に入れて蓋をし,熱処理炉に設置することにより行うことができる。焼成用治具の材質はアルミナ,ムライトなどの材質が挙げられるが,純度99%以上のアルミナを用いることがより好ましい。焼成温度は500℃以上1200℃未満の範囲とするのが好ましい。500℃未満とした場合,シリカ微粒子の細孔内に残存する水あるいはOH基,また構造内に残存するエトキシ基などに由来する炭素を十分に脱離させ放出させることが困難となる。また,1200℃以上とした場合,微粒子同士の融着が起こる。焼成温度は,特に,700℃〜1000℃とするのがより好ましい。炉内の温度分布を均一にし,炉内のシリカ微粒子全体が十分な処理が行われるように焼成時間を1〜5時間として熱処理を加える。屈折率の調整はこの熱処理工程により行われる。500℃以上1200℃未満の温度範囲,特に700〜1000℃の温度範囲においては,焼成温度が高いほど,球状シリカガラス微粒子の屈折率が,バルクシリカガラスの1.46に近づく。従って,未焼成の球状シリカガラス微粒子の粉末を焼成するに際して,上記温度範囲内で焼成温度を種々に設定することにより,1.35付近から1.46付近までの範囲内の様々な屈折率を有する焼成微粒子粉末の製品ラインを揃えることができる。これを透光性の硬化性材料においてフィラーとして使用にする際には,目的とする製品の設計に基づき,適切な屈折率の焼成微粒子粉末を選択することができ,それにより硬化物にすぐれた透光性を与えることができる。また,ナノサイズの球状微粒子からなる粉末の形であるため,樹脂との混合,混練が容易である。また,微粒子が焼成を経ているため,ゾルゲル法で製造して乾燥させた状態の微粒子に残存していた溶媒は既に除去されており,使用に際して微粒子からの溶媒除去作業を省略することができる。
【実施例】
【0022】
以下,実施例を参照して本発明を更に具体的に説明するが,本発明がそれら実施例に限定されることは意図しない。なお,実施例においては,加水分解反応は室温にて行った。
【0023】
1.屈折率の測定
ガラス微粒子の屈折率の評価は液浸法により行った。具体的には屈折率調整の行われた標準屈折率液を用い,スライドガラスに屈折液を乗せ,ガラスサンプル少量を屈折液の上に置き,カバーガラスでガラスサンプルを挟み込みプレパラートを作製する。次にカバーガラスの上から指で軽く押さえつけ屈折液とガラスサンプルが均一になじむようにし,透過光の様子を目視で観察する。標準屈折液とガラス微粒子の屈折率が同じ場合には透明に見え,異なる場合にはサンプルは白濁して見える。さらに透明に見えたプレパラートを光学顕微鏡によりベッケ線を観察することによりガラス微粒子の屈折率を決定した。なお,屈折率の測定は全て室温で行った。
【0024】
2.平均粒子径の測定
実施例1,2に関しては透過型電子顕微鏡,実施例3,4に関しては走査型電子顕微鏡により粒子形状を観察し,得られた画像を解析することにより平均粒子径を求めた。
【0025】
3.比表面積の測定
比表面積の測定は,BET法により行った。
【0026】
〔実施例1〕
ゾルゲル法により製造された市販のシリカゾル(未焼成の球状シリカガラス微粒子の水分散液,固形分濃度10重量%)を入手した。このシリカゾルを真空凍結乾燥(FD)に付して溶媒を除去し,球状シリカガラス微粒子の乾燥粉体を得た。この球状シリカガラス微粒子の屈折率は1.43であり,比表面積は169.7m2/gであった。
【0027】
〔実施例2〕
ゾルゲル法により製造された市販のシリカゾル(未焼成の球状シリカガラス微粒子の水分散液,固形分濃度20重量%)を入手した。このシリカゾルをFDに付して溶媒を除去し,球状シリカガラス微粒子の乾燥粉体を得た。この球状シリカガラス微粒子の屈折率は1.40であり,比表面積は73.2m2/gであった。
【0028】
〔実施例3〕
テトラエトキシシラン(TEOS)834.5gとエタノール33.0gとを混合することによりA液を調製し,別に純水120.3gと26%アンモニア水31.2gとを混合することによりB液を調製し,さらに,純水105.4g,26%アンモニア水31.2g,及びエタノール1078.4gを混合することによりC液を調製した。それぞれの調製液を35℃に調整し,攪拌下のC液に,5時間かけてA液およびB液を同時に滴下することによりシリカゾルを得た。
【0029】
このシリカゾルを大気圧下,加熱分留することでシリカゾルに含まれるアンモニア,エタノールを分離した。塔頂温度が100℃に達しかつ留出液のpHが8以下になったのを確認した時点で分留を終了し,シリカゾルを得た。このシリカゾルをFDにより溶媒を除去することにより,球状シリカガラス微粒子の乾燥粉体を得た。この球状シリカガラス微粒子の屈折率は1.39であり,比表面積は35.0m2/gであった。
【0030】
〔実施例4〕
ゾルゲル法により製造された市販のシリカゾル(未焼成球状シリカガラス微粒子の水分散液,固形分濃度25重量%)を入手した。このシリカゾルをFDに付して溶媒を除去し,球状シリカガラス微粒子の乾燥粉体を得た。この球状シリカガラス微粒子の屈折率は1.36であり,比表面積は12.0 m2/gであった。
【0031】
〔実施例5〕
実施例1〜4で得られた球状シリカガラス微粒子を,それぞれアルミナ製の匣鉢に入れ,2時間かけて焼成温度まで昇温した。焼成温度は300℃〜1200℃の範囲に複数点設定し,各温度でそれぞれ4時間保持することにより焼成を行った。粒子径と焼成温度の異なるそれぞれのサンプルについて,屈折率測定,粒子径解析,比表面積測定を行った。それぞれの物性値について表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
〔実施例6〕
実施例3で得られた球状シリカガラス微粒子を,それぞれアルミナ製の匣鉢に入れ,2時間かけて焼成温度まで昇温した。焼成温度は850℃に設定し,保持時間を30分、4時間、20時間として屈折率の比較を行った。焼成時間と屈折率の関係について表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
各実施例の球状シリカガラス微粒子について,各焼成温度と,その温度での焼成により得られた微粒子の屈折率との関係を図1に示す。また,実施例3及び4で得られた球状シリカガラス微粒子と,これを1000℃で焼成したものの走査型電子顕微鏡画像を,それぞれ図2及び図3に,実施例1〜4で得られた球状シリカガラス微粒子について,それらの焼成温度と,その温度での焼成により得られた微粒子の比表面積との関係を図4に,更に,実施例1〜4で得られた球状シリカガラス微粒子についての示差熱分析装置による熱分析測定結果を図5に示す。
【0036】
〔比較例1〕
火炎噴霧法により作製されたシリカ微粒子(Aerosil200,アエロジル社)の平均粒子径は12nmであり,屈折率は1.46であった。
【0037】
〔比較例2〕
ケイ酸ナトリウム水溶液からイオン交換あるいはpH調整することにより得られたシリカ微粒子(スノーテックス20L,日産化学社製)の平均粒子径は43nmであり屈折率は1.46であった。
【0038】
表1及び図1から明らかなように,ゾル−ゲル法により作製された球状シリカガラス微粒子は,バルクシリカガラスの屈折率1.46より明らかに低い値を示した。これを焼成することにより,焼成温度500℃以上,特に700℃以上では,温度が高いほど,得られる焼成球状シリカガラス微微粒子の屈折率がバルクガラスの屈折率1.46に近づくことが分かる。また,焼成温度が同じであれば,微粒子の粒子径が小さいほど,高い(すなわちバルクガラスに近い)屈折率の微粒子が得られることが分かる。また表2は,焼成時間を30分間程度行えば,その後は焼成時間を延長しても屈折率は殆ど変化せず,値が安定することを示している。
【0039】
また図2及び3は,実施例3及び4の球状シリカガラス微粒子が,1000℃で焼成した後も球状の形態を維持していることを示している。
【0040】
図4に見られるように,球状シリカガラス微粒子の比表面積は,実施例1,2では850℃まで,実施例3,4では1000℃まで大きな変化が見られない。このことは,100nm以下の粒子径では少なくとも850℃まで,100nm以上では少なくとも1000℃までは,微粒子の形態を保持していることを示している。
【0041】
示差熱分析装置による熱分析測定結果を図5は,実施例1〜4のガラス微粒子が,いずれも200℃まで粒子内の水の脱離に伴う吸熱ピークを示しており,これは200℃に達するまでの間に水の脱離が完了していることを意味している。また600℃〜700℃付近における屈折率の大きな変動は,ガラス転移に伴うシリカ微粒子の構造変化に起因するものと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の球状シリカガラス微粒子は,樹脂等の硬化性材料に,適した屈折率のものを選択してフィラーとして配合することによって,優れた透光性の硬化物の製造を可能にし,且つ化学的耐久性や耐熱性,物理的強度も付与し,また粒子径が極めて小さいため,素子のパターンの微細化や薄膜化を妨げることがないことから,透光性の硬化物の製造,特に透光性部分を含んだ光学素子の製造において,好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】焼成温度と実施例1〜4の微粒子の屈折率との関係を示すグラフ
【図2】焼成前並びに1000℃で焼成後の実施例3の微粒子の操作型電子顕微鏡像を示す図面代用写真
【図3】焼成前並びに1000℃で焼成後の実施例4の微粒子の操作型電子顕微鏡像を示す図面代用写真
【図4】焼成温度と実施例1〜4の微粒子の比表面積との関係を示すグラフ
【図5】実施例1〜4の微粒子についての,示差熱分析装置による熱分析測定結果を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が5nm以上1000nm未満の範囲にあり,かつ屈折率が1.35〜1.44であることを特徴とする球状シリカガラス微粒子。
【請求項2】
アルコキシシランを原料として,その加水分解反応及び重合反応により球状微粒子の形態に作製され,次いで焼成されてなるものである,請求項1の球状シリカガラス微粒子。
【請求項3】
アンモニア及び水を含有するアルコール中に,撹拌下にアルコキシシランを添加することにより,これを加水分解し次いで重合反応を行わせ,これにより球状シリカガラス微粒子を含んでなるシリカゾルを作製し,該シリカゾルから球状シリカガラス微粒子を分離し,乾燥させ,所定温度で焼成することを含んでなる,平均粒子径が5nm以上1000nm未満の範囲にあり,かつ屈折率が1.35〜1.44であることを特徴とする球状シリカガラス微粒子の製造方法。
【請求項4】
該焼成を500以上1200℃未満の温度にて行うものである,請求項3の製造方法。
【請求項5】
該焼成を1〜5時間にわたって行うものである,請求項3又は4の製造方法。
【請求項6】
該焼成が大気中で行われるものである,請求項3ないし5の何れかの製造方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−215088(P2009−215088A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57497(P2008−57497)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000178826)日本山村硝子株式会社 (140)
【Fターム(参考)】