説明

環境機能建材及びその製造方法

【課題】調湿機能とともに顕著な防臭、防汚、耐シックハウス症を有する比較的安価かつ堅牢な建材を得る。
【解決手段】環境機能建材は、内装建材2と、それに積層された基材3と、基材に成膜された二酸化チタン薄膜4とを備え、二酸化チタン薄膜の膜厚が10nm以上100nm未満である。内装建材が、石膏ボード、ケイカル板、パーティクルボード、木材合板、繊維板、プラスチック板、セラミックパネル、コンクリート、タイル又はガラスブロックである。基材が金属、セラミック、ガラス、無機繊維、グラスウール、布、不織布、紙又はプラスチックである。基材は多孔構造、編目構造、織布構造又は不織布構造を有する。製造方法は、大気開放型化学気相析出法により基材の全表面の95〜100%に二酸化チタン薄膜を膜厚10nm以上100nm未満で成膜する工程と、二酸化チタン薄膜が表面に成膜された基材を内装建材に積層する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅の室内壁面などに施工される建材であって、室内空間の空気環境に対して、湿度の調整や臭いの除去、有害ガス成分の除去など、環境を改善する機能を発揮することができる環境機能建材及びこのような建材を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、住宅の室内壁面に施工される建材として、珪藻土などの調湿材を含有する内装建材が知られている。この内装建材は、室内環境の空気中に過剰の湿気が含まれているときには、空気中の湿気を吸湿保持することで、室内環境の湿度を下げ、室内環境が乾燥してくると、吸湿保持した水分を環境中に放出することで環境の湿度を上げる作用がある。その結果、室内環境は一定の湿度範囲に調整され、居住者にとって快適な湿度環境が維持できる。そして、内装建材に含まれる調湿材として、ホルムアルデヒドやアンモニアなどを吸着する機能のある材料を使用すると、室内に設置された家具や壁紙などから放出されシックハウス症候群の原因になるとされている揮発ガス成分を、内装建材に吸着して、室内環境から除去することができ、その内装建材に、脱臭機能を持たせることもできる。
【0003】
また、酸化チタンは、表面に付着した有機物などを分解することができ、揮発ガス成分を分解して無害な物質に変える光触媒機能を有することが知られている。従って、内装建材の材料に酸化チタンを配合して環境を改善しうる環境機能建材とする技術も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この環境機能建材では、少なくとも表面が多孔質構造であり調湿機能を有する内装建材と、この内装建材の表面に存在する多孔質構造の細孔に、バインダーを介さずに担持された光触媒機能を有する酸化チタン微粒子とを備える。そしてこれを製造する方法は、内装建材の表面に、酸化チタン微粒子の供給源がTi濃度として0.4〜5.0重量%含有され、実質的にバインダー成分を含まない水溶液を、塗布量10〜500g/m2で塗布し乾燥させている。
【0004】
また、別の環境機能建材として、二酸化チタンの結晶配向膜をある特定方向に配向させたものも提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この環境機能建材の表面における二酸化チタンからなる結晶配向膜は、その結晶表面と垂直方向に(001)、(100)、(211)、(101)及び(110)からなる結晶面から選択された方向に配向された抗菌性材料により構成される。そして、結晶配向膜の厚さが0.1μm以上であることが更に要求され、結晶配向膜を形成する結晶の粒径が0.1〜10μmであり、粒径分布が実質的に平均値±100%であることを特徴としている。この環境機能建材では、二酸化チタンの結晶配向膜を上述したような特定方向に配向させることにより、顕著な抗菌性を有する建材が得られるとしている。
【特許文献1】特開2004−76494号公報(特許請求の範囲、図1)
【特許文献2】特開平10−95935号公報(明細書[0012]、[0013]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1には、液体コーティング法により、内装建材の表面に光触媒膜を直接成膜する手法が呈示されており、この手法では内装建材の表面を光触媒が覆ってしまうため、光触媒機能は生じるものの、内装建材本来の調湿機能が失われてしまう欠点があった。また、上記特許文献2には、二酸化チタンからなる結晶配向膜の厚さが0.1μm以上必要であることが必要とされており、0.1μm以上の厚さに成膜する作業に時間が掛かりその単価を押し上げる不具合があった。また、二酸化チタン膜が比較的厚いため、その剥離強度が弱くなり、その二酸化チタンからなる膜が内装建材から剥がれ易くなる等の欠点があった。
本発明の目的は、防臭、防汚、耐シックハウス症を有する比較的安価かつ堅牢な環境機能建材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、図1に示すように、内装建材2と、その内装建材2に積層された基材3と、その基材3の表面に直接成膜された二酸化チタン薄膜4とを備え、その二酸化チタン薄膜4の膜厚が10nm以上100nm未満である環境機能建材である。
請求項9に係る発明は、大気開放型化学気相析出法により基材3の表面に二酸化チタン薄膜4を膜厚10nm以上100nm未満で成膜する工程と、その基材3を内装建材2に積層する工程とを含む環境機能建材の製造方法である。
この請求項1に記載された環境機能建材及び請求項9に記載されたその製造方法では、基材3に二酸化チタン薄膜4を成膜し、その二酸化チタン薄膜4の膜厚が10〜100nmであるので、著しい光触媒活性を発揮し、かつ十分な剥離強度を保持できる。従って、成膜時間も短縮でき、コストも削減できる。そして、成膜された二酸化チタン薄膜4が基材3から剥離するようなこともなく、比較的堅牢な環境機能建材1を得ることができる。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、二酸化チタン薄膜4が基材3の全表面の95〜100%に成膜された環境機能建材である。
請求項10に係る発明は、請求項9に係る発明であって、二酸化チタン薄膜4を基材3の全表面の95〜100%に成膜する環境機能建材の製造方法である。
この請求項2に記載された環境機能建材及び請求項10に記載されたその製造方法では、基材3の全表面の95〜100%に二酸化チタン薄膜4を成膜したので、その二酸化チタン薄膜4も光触媒として機能するため、優れた光触媒活性が得られ、防臭、防汚、耐シックハウス症を有する環境機能建材1を得ることができる。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、基材3が通気性を有する環境機能建材である。
請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明であって、基材3が多孔構造又は編目構造又は織布構造又は不織布構造を有する環境機能建材である。
請求項11に係る発明は、請求項9又は10に係る発明であって、通気性を有する基材3を用いる環境機能建材の製造方法である。
請求項12に係る発明は、請求項11に係る発明であって、基材3が多孔構造又は編目構造又は織布構造又は不織布構造を有する環境機能建材の製造方法である。
この請求項3及び請求項4に記載された環境機能建材並びに請求項11及び請求項12に記載されたその製造方法では、通気性を有する基材3を用いるので、その基材3が積層された内装建材2が調湿機能を有する場合にはその調湿機能が害されることもない。よって、調湿機能とともに防臭、防汚、耐シックハウス症を有する環境機能建材1を得ることができる。
【0009】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4いずれか1項に係る発明であって、二酸化チタン薄膜4が大気開放型化学気相析出法により基材3の表面に成膜された環境機能建材である。
この請求項5に記載された環境機能建材では、成膜時間も短縮でき、コストも削減できるので、更に安価な環境機能建材を得ることができる。
請求項6に係る発明は、請求項1ないし5いずれか1項に係る発明であって、二酸化チタン薄膜4が二酸化チタンに3〜7重量%の炭素を含有した炭素ドープ二酸化チタンからなる環境機能建材である。
この請求項6に記載された環境機能建材では、二酸化チタン薄膜4として炭素ドープ二酸化チタンからなるものを使用するので、炭素ドープにより光触媒活性に寄与する光吸収帯が紫外領域から可視光領域へと拡がって、紫外光下のみならず、可視光下における光触媒活性も十分に発揮させることができる。
【0010】
請求項7に係る発明は、請求項1ないし6いずれか1項に係る発明であって、内装建材2が、石膏ボード、ケイカル板、パーティクルボード、木材合板、繊維板、プラスチック板、セラミックパネル、コンクリート、タイル又はガラスブロックである環境機能建材である。
請求項13に係る発明は、請求項9ないし12いずれか1項に係る発明であって、内装建材2として、石膏ボード、ケイカル板、パーティクルボード、木材合板、繊維板、プラスチック板、セラミックパネル、コンクリート、タイル又はガラスブロックを用いる環境機能建材の製造方法である。
この請求項7に記載された環境機能建材及び請求項12に記載された環境機能建材の製造方法では、内装建材2が優れた調湿機能を有するので、その優れた調湿機能とともに顕著な防臭、防汚、耐シックハウス症を有する環境機能建材1を得ることができる。
【0011】
請求項8に係る発明は、請求項1ないし7いずれか1項に係る発明であって、基材3が金属、セラミック、ガラス、無機繊維、グラスウール、布、不織布、紙又はプラスチックである環境機能建材である。
請求項14に係る発明は、請求項9ないし13いずれか1項に係る発明であって、基材3として、金属、セラミック、ガラス、無機繊維、グラスウール、布、不織布、紙又はプラスチックを用いる環境機能建材の製造方法である。
この請求項8に記載された環境機能建材及び請求項14に記載された環境機能建材の製造方法では、二酸化チタン薄膜4を成膜する基材3に十分な強度を保持でき、比較的堅牢な環境機能建材1を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の環境機能建材では、調湿機能を有する内装建材と、内装建材と、その内装建材に積層された基材と、その基材の表面に直接成膜された二酸化チタン薄膜とを備え、その二酸化チタン薄膜の膜厚が10nm以上100nm未満であるので、著しい光触媒活性を発揮し、かつ十分な剥離強度を保持できる。従って、成膜時間も短縮でき、コストも削減できる。そして、成膜された二酸化チタン薄膜が基材から剥離するようなこともなく、比較的堅牢な環境機能建材を得ることができる。
【0013】
この場合、二酸化チタン薄膜が基材の全表面の95〜100%に成膜されれば、その二酸化チタン薄膜が光触媒として機能するため、防臭、防汚、耐シックハウス症を有する環境機能建材を得ることができ、基材が編目構造又は織布構造又は不織布構造等であって通気性を有するものであれば、調湿機能を有する環境機能建材を得ることができる。
また、内装建材が、石膏ボード、ケイカル板、パーティクルボード、木材合板、繊維板、プラスチック板、セラミックパネル、コンクリート、タイル又はガラスブロックであれば、内装建材が優れた調湿機能を有するので、その優れた調湿機能を得ることができ、基材が金属、セラミック、ガラス、無機繊維、グラスウール、布、不織布、紙又はプラスチックであれば、二酸化チタン薄膜を成膜する基材に十分な強度を保持でき、比較的堅牢な環境機能建材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本発明の環境機能建材1は、内装建材2と、この内装建材2に積層された基材3とを備える。この実施の形態における内装建材2は調湿機能を有するものであって、その内装建材2に積層された基材3は通気性を有するものである。内装建材2は、通常の建築施工に利用されている調湿機能を有する建材と同様の材料および構造が採用できる。この内装建材2の具体例としては、珪藻土などの調湿材を含有するタイル、石膏ボード、コンクリート、ガラスブロック、ケイカル板、パーティクルボード、木材合板、繊維板又はセラミックパネルなどが挙げられる。内装建材2は、材料そのものが多孔質構造で調湿機能を有する材料からなるものであってもよいし、材料自体は調湿機能を有さないが、そこに調湿機能に優れた調湿材を配合することで多孔質構造になり調湿機能を発揮するものであってもよい。
【0015】
一方、基材3としては、特に制限はなく、二酸化チタン薄膜4の吹き付け時の加熱に耐えられる材料はいずれも使用可能である。この基材3としては、金属、セラミック、ガラス、無機繊維、グラスウール、布、不織布、紙又はプラスチック等が例示される。そして、この基材3は通気性を有することが好ましく、例えば多孔構造体又は繊維集合体からなる基材3が例示される。基材3が多孔構造体である場合には、その多孔構造体はセラミック、ガラス、金属又はプラスチックからなるものが好ましい。セラミックとしては発泡アルミナが例示され、ガラスとしては半融ガラス等が例示される。また、金属としては多孔構造のアルミ箔が例示され、プラスチックとしては、発泡ポリウレタンが例示される。
【0016】
一方、基材3が繊維集合体である場合、その繊維集合体はセラミックウール、グラスウール、有機繊維、不織布、紙であることが好ましい。そして、繊維集合体を構成する繊維は金属繊維よりも他繊維(セラミックウール、グラスウール、有機繊維、不織布、紙)の方が錆びにくく耐腐食性に優れ、耐久性が良いので好ましい。また、繊維状のものであれば金属よりガラス又は有機系の方が比較的安価であるので好ましい。そして基材3が繊維集合体である場合の形状は、編目構造又は織布構造又は不織布構造であることが比較的高い通気性を有するために好ましい。
【0017】
そして、基材3が通気性を有する場合には、その通気性を確保するために基材3の気孔率は50%〜98%であることが好ましい。気孔率が50%〜98%であると、基材3が多くの連続気孔3aを有し、その連続気孔3aの内表面に成膜された二酸化チタン薄膜4による十分な光触媒活性が得られるためである。このうち特に好ましい気孔率は70%〜95%である。気孔率50%未満では比表面積が小さくなるため、十分な光触媒活性が得られない。気孔率98%を越えると機械的強度が弱くなり、建材としての骨格を強度的に維持できない。
【0018】
この基材3には二酸化チタン薄膜4が成膜される。この二酸化チタン薄膜4は、大気開放型化学気相析出法によって成膜されることが好ましい。大気開放型化学気相析出法とは、大気開放下にて原料ガスを成膜対象基材3表面に吹付けて、化学気相析出(Chemical Vapor Deposition)法により対象基材3表面上に金属酸化物等の薄膜を成膜する方法である。この大気開放型化学気相析出法では、その成膜速度が非常に速く、薄膜の作成が可能であり、更に大面積や複雑形状表面への成膜が容易である。そして、装置自体が比較的安価で、保守管理も簡単である等の様々な特徴を有する。このため、二酸化チタン薄膜4を大気開放型化学気相析出法によって成膜することにより、基材3の断面が直径1μm以下の気孔3a内部まで全面に均一に成膜可能である。また、粒子形態制御ができ、かつ従来の液体コーティング法では均一成膜が難しかった膜厚10〜500nmの極薄膜まで均一成膜が可能になる。
【0019】
ここで、二酸化チタン薄膜4は、二酸化チタンに3〜7重量%の炭素を含有した炭素ドープ二酸化チタンからなることが好ましい。この二酸化チタン薄膜4を3〜7重量%の炭素を含有した炭素ドープ二酸化チタンとすれば、紫外光下のみならず、可視光下における光触媒活性も十分に発揮されるためである。従って、炭素ドープ二酸化チタンからなる二酸化チタン薄膜4を有する環境機能建材1は、内装建材等の室内用途に適応可能になる。炭素ドープ二酸化チタンの炭素ドープ量を3〜7重量%に規定したのは、3重量%未満では炭素ドープ量不足で、二酸化チタンの紫外可視吸収スペクトルにおける可視光吸収帯の広がりが不十分となって、満足する可視光下での光触媒活性が得られないためであり、7重量%を越えると炭素ドープ量が過剰で、可視光下での光触媒活性は得られるものの、過剰な炭素ドープによる二酸化チタンの結晶性の低下が著しく、光触媒活性における全体の量子効率等が却って低減してしまう問題が生じるためである。
【0020】
そして、二酸化チタン薄膜4は、基材3の全表面の95〜100%に成膜されることが要件とされる。通気性を有する基材3では、その表層だけでなく気孔3aの内面を含む全表面の95〜100%、好ましくは98〜100%に二酸化チタン薄膜4が成膜される。これは、気孔3aの内面における二酸化チタン薄膜4も光触媒として機能するため、優れた光触媒活性を得て、除臭、除菌、防汚、耐シックハウス症に対して効果を生じさせるためである。二酸化チタン薄膜4が基材3の全表面の95%未満であると光触媒反応に有効な二酸化チタン薄膜4の量が少なくなり光触媒活性が不十分となるため不適切である。また、基材3の表面にバインダーを使用することなく二酸化チタン薄膜4を成膜することによりその触媒活性を向上させることができる。バインダーを使用すると二酸化チタン薄膜4がバインダーに被覆され光触媒活性が低下するからである。また、表面から裏面に連通する複数の気孔3aを有する基材3に二酸化チタン薄膜4を成膜することにより比表面積を大きくすることができる。
【0021】
そして、基材3に成膜された二酸化チタン薄膜4の膜厚は10nm以上100nm未満であることが更に要件とされる。二酸化チタン薄膜4の膜厚を上記範囲内に規定したのは、二酸化チタン薄膜4の膜厚が10nm未満では十分な光触媒活性が得られない。二酸化チタン薄膜4の膜厚が100nmを越えると十分な光触媒活性が得られるが、膜の剥離強度が弱くなるからである。また、不必要に厚塗りすることは生産効率及びコスト的にも不利である。光触媒は表面反応であるため、一定膜厚以上があれば表面反応は維持されるため、膜厚にどこまでも比例して光触媒活性が向上するものではない。だから一定膜厚が保持されれば十分だからである。二酸化チタン薄膜4の更に好ましい膜厚は40〜70nmである。
【0022】
次に本発明の環境機能建材の製造方法について説明する。
本発明の環境機能建材1は、表面から裏面に連通する複数の気孔3aを有する基材3を準備し、この基材3の全表面の95〜100%に二酸化チタン薄膜4を成膜し、かつこの基材3を内装建材2に積層することにより得られる。二酸化チタン薄膜4の成膜方法は特に限定されず、例えば図3に示すような大気開放型化学気相析出法による大気開放型化学気相析出装置を用いることができる。大気開放型化学気相析出法とは、大気開放下にて原料ガスを成膜対象基材3表面に吹付けて、化学気相析出(Chemical Vapor Deposition)法により対象基材3表面上に金属酸化物等の薄膜を成膜する方法である。
【0023】
図3に示すように、大気開放型化学気相析出装置10は、内部にチタン含有原料を載せる試料ボード11aが設置可能な原料気化器11と、原料気化ガスを基材3に向かって噴出する噴出ノズル13と、一方が気化器11の側部に接続され他方が噴出ノズル13頂部に接続された配管14と、気化器11で気化した原料気化ガスを配管14を介して噴出ノズル13へと運ぶキャリアガスの流量調節器16と、基材3を保持し、かつ水平方向に可動可能な加熱台17とをそれぞれ備える。加熱台17の内部にはヒータ17aが設けられ、加熱台17に保持した基材3を加熱する。また、基材3の内表面へ原料気化ガスを供給し易くするため、加熱台17と基材3との間にはスペーサ17b等を配置してもよい。
【0024】
大気開放型化学気相析出法で用いるチタン含有原料としては、原料を気化させ大気に放出した際に、大気中の酸素或いは水分等と反応して二酸化チタン薄膜4を形成するものであれば特に限定されない。具体的には、チタンテトライソプロポキシド(Ti(i-C37O)4;以下、TTIPという。)、チタンDPM(dipivaloylmethane)錯体、チタンDMHD(2,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオン)錯体等が挙げられる。このうちTTIPは、炭素ドープ二酸化チタンからなる二酸化チタン薄膜4を得る場合において、その炭素ドープ量を制御し易い。炭素ドープ二酸化チタンの炭素ドープ量を制御するために、TTIPやチタンDPM錯体のチタン含有原料が70重量%以上の割合で含むように有機溶媒に溶解して溶液原料を調製し、この溶液原料を用いて成膜しても良い。溶液原料に使用する有機溶媒としてはイソプロピルアルコール、ヘキサン、シクロヘキサンが挙げられる。
【0025】
基材3としては前述した通りであり、キャリアガスとしては、加熱下で使用するチタン含有原料と反応しない媒体であれば特に限定されない。具体的には、N2ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス、乾燥空気等が挙げられる。なお、図3において符号18はキャリアガス供給源、符号19は原料気化器11、噴出ノズル13、加熱台17等を覆う防護チャンバ、符号21は開閉可能なチャンバ扉、符号22はチャンバ扉21の開閉を担うインターロックスイッチをそれぞれ示す。
【0026】
この装置10では、先ず、チャンバ19内の加熱台17上にスペーサ17bを介して基材3を配置する。続いて所定量に量り取ったチタン含有原料を載せた試料ボード11aを原料気化器11内に設置する。次いで、原料気化器11内部、配管14、噴出ノズル13及び加熱台17をそれぞれ所望の温度に加熱し、原料気化器11内部のチタン含有原料を気化させる。次に、流量調節器16により流量を調節しながらキャリアガス供給源18からキャリアガスを原料気化器11に導入する。原料気化ガスは原料気化器11から配管14を介して噴出ノズル13に搬送される。原料気化ガスは、噴出ノズル13底部に設けられた開口部から基材3表面に向かって噴出され、基材3表面近傍の大気中に含まれる水分と反応して二酸化チタン薄膜4が基材3の内表面も含めた全面に成膜される。
【0027】
ここで、炭素ドープ二酸化チタンからなる二酸化チタン薄膜4を得る場合には、原料気化ガスの濃度を2×10-6〜1.6×10-5mol/L、供給量を1〜8L/minとすることで炭素ドープ二酸化チタンの炭素ドープ量を所望のドープ量に制御することができる。また、加熱台17の温度を制御することで基材3の表面温度を350〜700℃とすることによっても炭素ドープ二酸化チタンの炭素ドープ量を所望のドープ量に制御することができる。基材2の表面温度が350℃未満では加熱が不十分となって7重量%を越える炭素が含有された炭素ドープ二酸化チタンが形成され、過剰な炭素ドープによって二酸化チタンの結晶性が著しく低下し、実用に耐えられる光触媒活性が得られなくなる。また基材2の表面温度が700℃を越えるとアナターゼ型二酸化チタンの含有量が低下する。そして、加熱台17を所定の速度で水平方向に駆動させることにより、噴出ノズル13から噴出された原料気化ガスが基材3の表面に均一に吹き付けられ、二酸化チタン薄膜4が均一に成膜される。
【0028】
二酸化チタン薄膜4の成膜時間等は基材3によって異なるが、例えば、基材3の形状が30mm×30mm×1.5mm程度であれば、3μm/hr程度の成膜速度で2分間以内成膜することにより、本発明の多孔質光触媒に好適な二酸化チタン薄膜4が得られる。表面に二酸化チタン薄膜4が成膜された基材3は、その後内装建材2に積層され本発明の環境機能建材1が得られる。ここで、基材3の内装建材2への積層は、プレス加工や接着ライニング等により行われる。なお、基材3の内装建材2への積層は先に行っても良い。即ち、基材3を先に内装建材2に積層し、この内装建材2に積層された基材3の表面に後から二酸化チタン薄膜4を成膜するようにしても良い。
【0029】
このようにして得られた本発明の環境機能建材1では、基材3に二酸化チタン薄膜4を成膜したので、その二酸化チタン薄膜4も光触媒として機能するため、優れた光触媒活性が得られる。一方、この基材3は通気性を有するので、基材3が積層された内装建材2における調湿機能が害されることもない。よって、調湿機能とともに顕著な防臭、防汚、耐シックハウス症を有する環境機能建材1が得られる。また、大気開放型化学気相析出法により基材3に二酸化チタン薄膜4を成膜することにより、環境機能建材1を比較的安価に得ることが可能になる。また、二酸化チタン薄膜4の膜厚を10nm以上100nm未満とするので、成膜された二酸化チタン薄膜4が基材3から剥離するようなこともなく、比較的堅牢な環境機能建材1を得ることができる。
なお、上述した実施の形態では、通気性を有する基材3を用いて説明したが、図2に示すように、基材3は通気性を有しないものであってもよい。
【実施例】
【0030】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
大気開放型CVD装置の気化器にチタンテトライソプロピレート12gを充填し、気化温度80℃にて加熱し原料揮発ガス体とした。この原料揮発ガス体を窒素キャリアガスにて4L/minの流速にて噴霧ノズルに供給した。一方、厚さ0.1mm、一辺30mmの正方形で、かつ通気性を持たせるため、直径0.5mmの細孔を多数空けたアルミ箔を基材3としてホットプレート上に設置し400℃にて加熱した。ホットプレートを左右に6cmの振幅で40mm/minの速度にて往復運動させた。この状態でホットプレートの上部に設置したノズルからチタンテトライソプロピレート原料揮発ガスを1.5min噴霧し、表面に膜厚70nmの二酸化チタン薄膜4を成膜した通気性を保持したアルミ箔からなる基材3を得た。このアルミ箔からなる基材3を、厚さ6mm、一辺30mmの正方形の内装建材2である石膏ボード片に機械的にラミネート加工し、アルミ箔を石膏ボードに積層させた環境機能建材1を得た。この図1に示す環境機能建材1を実施例1とした。
なお、この基材3の表面に成膜された二酸化チタン薄膜4の剥離強度を、JISの鉛筆硬度試験法に則り測定した結果、鉛筆硬度5Hと十分な剥離強度を保持していた。
【0031】
<実施例2>
図2に示すように、基材3として、通気性を確保するための細孔を形成していない、厚さ0.1mm、一辺30mmの正方形のアルミ箔を用い、実施例1と同一の条件及び手順により、表面に膜厚70nmの二酸化チタン薄膜4を成膜した通気性を有さないアルミ箔からなる基材3を得た。このアルミ箔からなる基材3を、実施例1と同一の内装建材2である石膏ボード片に機械的にラミネート加工し、アルミ箔を石膏ボードに積層させた環境機能建材1を得た。この図2に示す環境機能建材1を実施例2とした。
なお、この基材3の表面に成膜された二酸化チタン薄膜4の剥離強度を、JISの鉛筆硬度試験法に則り測定した結果、鉛筆硬度5Hと十分な剥離強度を保持していた。
【0032】
<実施例3>
チタン含有原料としてチタンテトライソプロピレート(TTIP)の代わりに、そのTTIPが85重量%、イソプロピルアルコールが15重量%の割合となるように、TTIPをイソプロピルアルコールに溶解した溶液原料を用いた。これ以外は実施例1と同様にして二酸化チタン薄膜4を成膜した通気性を保持したアルミ箔からなる基材3を得た。得られた基材3をX線光電子分光分析装置(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)により組成分析した結果、二酸化チタン薄膜4における炭素含有率は6.5重量%であることが判明した。この基材3を、実施例1と同一の内装建材2である石膏ボード片に機械的にラミネート加工し、アルミ箔を石膏ボードに積層させた環境機能建材1を得た。この環境機能建材1を実施例3とした。
なお、この基材3の表面に成膜された二酸化チタン薄膜4の剥離強度を、JISの鉛筆硬度試験法に則り測定した結果、鉛筆硬度5Hと十分な剥離強度を保持していた。
【0033】
<比較例1>
比較例として二酸化チタン薄膜4をコーティングしない厚さ6mm、一辺30mmの正方形の石膏ボード片からなる内装建材を準備した。この内装建材を比較例1とした。
【0034】
<比較試験1>
実施例1〜実施例3及び比較例1の建材をそれぞれ用い、光触媒性能評価試験法IIa(2001年度版)ガスバックA法(光触媒製品技術協議会)に準拠した方法により、アセトアルデヒドの分解活性を指標として、光触媒活性を測定した。先ず、コック付きテドラーバックに実施例1〜実施例3及び比較例1の建材をそれぞれ別に封入した。次いで、それらのテドラーバック内にアセトアルデヒド濃度20ppmに調整した空気を1L充填した。次に、充填後のテドラーバックを30分間静置した。テドラーバックに空気を充填した直後、30分間静置後におけるテドラーバック中のアセトアルデヒド濃度をガス検知管(ガステック製;92M)にてそれぞれ測定した。続いて紫外線ランプを用いて30分間静置後のテドラーバックに波長350nm程度のUV光を照射した。そして、UV光照射30分後、1時間後におけるテドラーバック中のアセトアルデヒド濃度をガス検知管によりそれぞれ測定した。
実施例1〜実施例3及び比較例1のそれぞれの建材を用いた試験におけるテドラーバック中のアセトアルデヒド残存率とUV光照射時間との関係を図4に示す。
<比較試験2>
実施例1及び比較例1の建材をそれぞれ用い、JISA1470−2「調湿建材の吸放湿試験方法」によりその調湿機能を測定した。同条件の温度周期変化で測定した結果、実施例1及び比較例1ともほぼ同様の相対湿度周期変化、絶対湿度周期変化を示した。
【0035】
<評価>
図4から明らかなように、実施例1〜実施例3の環境機能建材では、紫外光照射時間1時間以内でアセトアルデヒド残存率がゼロとなる優れた光触媒活性を示した。これに対して比較例1の建材ではアセトアルデヒドを全く分解しなかった。これは実施例1〜実施例3では、基材3の表面に成膜された二酸化チタン薄膜4がアセトアルデヒドを分解したことに起因するものと考えられる。
一方、比較試験2の結果から、実施例1及び比較例1の双方の建材における調湿機能はほとんど同一の機能を有することが判る。実施例1では内装建材に基材が積層されるけれども、その積層された基材が通気性を有することにより内装建材の調湿機能を害していないことによるものと考えられる。よって、本発明の環境機能建材は、調湿機能とともに顕著な防臭、防汚、耐シックハウス症を有することが判る。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明実施形態の環境機能建材の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の別の環境機能建材の構造を示す断面図である。
【図3】大気開放型化学気相析出装置の構成図である。
【図4】実施例1及び比較例1の建材を用いたアセトアルデヒド残存率とUV照射時間との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1 環境機能建材
2 内装建材
3 基材
4 二酸化チタン薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内装建材(2)と、前記内装建材(2)に積層された基材(3)と、前記基材(3)の表面に直接成膜された二酸化チタン薄膜(4)とを備え、前記二酸化チタン薄膜(4)の膜厚が10nm以上100nm未満である環境機能建材。
【請求項2】
二酸化チタン薄膜(4)が基材(3)の全表面の95〜100%に成膜された請求項1記載の環境機能建材。
【請求項3】
基材(3)が通気性を有する請求項1又は2記載の環境機能建材。
【請求項4】
基材(3)が多孔構造又は編目構造又は織布構造又は不織布構造を有する請求項3記載の環境機能建材。
【請求項5】
二酸化チタン薄膜(4)が大気開放型化学気相析出法により基材(3)の表面に成膜された請求項1ないし4いずれか1項に記載の環境機能建材。
【請求項6】
二酸化チタン薄膜(4)が二酸化チタンに3〜7重量%の炭素を含有した炭素ドープ二酸化チタンからなる請求項1ないし5いずれか1項に記載の環境機能建材。
【請求項7】
内装建材(2)が、石膏ボード、ケイカル板、パーティクルボード、木材合板、繊維板、プラスチック板、セラミックパネル、コンクリート、タイル又はガラスブロックである請求項1ないし6いずれか1項に記載の環境機能建材。
【請求項8】
基材(3)が金属、セラミック、ガラス、無機繊維、グラスウール、布、不織布、紙又はプラスチックである請求項1ないし7いずれか1項に記載の環境機能建材。
【請求項9】
大気開放型化学気相析出法により基材(3)の表面に二酸化チタン薄膜(4)を膜厚10nm以上100nm未満で成膜する工程と、
前記基材(3)を内装建材(2)に積層する工程と
を含む環境機能建材の製造方法。
【請求項10】
二酸化チタン薄膜(4)を基材(3)の全表面の95〜100%に成膜する請求項9記載の環境機能建材の製造方法。
【請求項11】
通気性を有する基材(3)を用いる請求項9又は10記載の環境機能建材の製造方法。
【請求項12】
基材(3)が多孔構造又は編目構造又は織布構造又は不織布構造を有する請求項11記載の環境機能建材の製造方法。
【請求項13】
内装建材(2)として、石膏ボード、ケイカル板、パーティクルボード、木材合板、繊維板、プラスチック板、セラミックパネル、コンクリート、タイル又はガラスブロックを用いる請求項9ないし12いずれか1項に記載の環境機能建材の製造方法。
【請求項14】
基材(3)として、金属、セラミック、ガラス、無機繊維、グラスウール、布、不織布、紙又はプラスチックを用いる請求項9ないし13いずれか1項に記載の環境機能建材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−307623(P2006−307623A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−269334(P2005−269334)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】