説明

環境試験装置の湿度調整方法及び環境試験装置

【課題】試験室の湿度を安定した状態に容易に維持することができるようにする。
【解決手段】空調室14から試験室12に送出された空気の温度及び湿度から当該空気の絶対水分及び比容積を求めると共に、試験室12から空調室14に戻される空気の温度及び湿度から当該空気の絶対水分及び比容積を求め、空調室からから試験室12に送出された空気の絶対水分及び比容積並びに試験室12から空調室14に戻される空気の絶対水分及び比容積から蒸発加湿皿26の加湿水28の温度を求め、この求めた温度に加熱した加湿水を蒸発加湿皿26に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品、電気機器、高分子材料などの試験対象に対して恒温恒湿試験などの環境試験を実施するための環境試験装置の湿度調整方法及び環境試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品、電気機器、高分子材料などの試験対象に対して恒温恒湿試験(高温高湿試験)などの環境試験を実施する場合、水温制御加湿式の環境試験装置が多用されている。この水温制御加湿式の環境試験装置は、電子部品、電気機器などの試験対象を収納して恒温恒湿試験などの環境試験を実施する試験室と、この試験室の空調を行う空調室とを備えており、空調室に配設された室加熱器により加熱して試験室を所定の温度に維持すると共に、空調室に配設された蒸発加湿皿に供給された加湿水を所定の温度となるように水加熱器により加熱することで蒸発させる一方、過剰な蒸発水分を除湿器で除湿することで試験室を所定の湿度に維持するようにしたものである。この蒸発加湿皿には、蒸発加湿皿に配設した温度センサにより計測した加湿水の温度と同一の温度に加熱した補給水が外部から供給され、蒸発により不足することになる加湿水を補うようになっている(例えば、特許文献1)。
【0003】
このように構成された環境試験装置では、室加熱器により試験室が所定の温度に維持されると共に、加湿水が水加熱器により加熱されることで蒸発する一方、過剰な蒸発水分が除湿器で除湿されることで試験室が所定の湿度に維持され、外部から供給される補給水が蒸発加湿皿の加湿水の温度と同一の温度に加熱されていることで、補給水が供給された場合でも蒸発加湿皿の加湿水の温度の大幅な変動が抑制されることになる結果、試験対象に対して比較的安定した条件で所定の環境試験を実施することができる。
【特許文献1】特開昭61−213522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の環境試験装置では、蒸発加湿皿の加湿水の温度と同一の温度に加熱した補給水が外部から供給されることで加湿水の温度変動が抑制されるようになっているとはいうものの、蒸発加湿皿の加湿水は蒸発加湿皿に配設した水加熱器で加熱されることから蒸発加湿皿内での温度分布が不可避的に生じることになり、蒸発加湿皿の加湿水の温度と同一の温度に加熱した補給水を供給しているといっても温度センサを配設した箇所の温度に加熱したものであることから、補給水の供給により蒸発加湿皿内での温度分布が変動することで蒸発加湿皿からの蒸発量が変動することになる結果、湿度制御の乱れが不可避的に生じてしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、試験室の湿度を安定した状態に容易に維持することができる環境試験装置の湿度調整方法及び環境試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、所定の温度及び湿度に調節された空気が空調室から試験室に送出され、この試験室を経由した空気が前記空調室に戻されるようにしたもので、前記空調室の空気を加熱する加熱器、加湿水を蒸発させることで前記空調室の空気を加湿する加湿皿及び前記空調室の空気を除湿する除湿機を備えた環境試験装置の湿度調整方法であって、前記空調室から送出された空気の温度及び湿度から当該空気の絶対水分及び比容積を求めると共に、前記空調室に戻される空気の温度及び湿度から当該空気の絶対水分及び比容積を求め、前記空調室から送出された空気の絶対水分及び比容積並びに前記空調室に戻される空気の絶対水分及び比容積から前記加湿皿の加湿水の温度を求め、この求めた温度に加熱した補給水を前記加湿皿に供給することを特徴としている。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に係る方法において、前記加湿皿の加湿水の温度が、前記空調室から送出された空気の絶対水分及び比容積並びに前記空調室に戻される空気の絶対水分及び比容積から前記加湿水の温度に等しい飽和空気の蒸気圧を求め、この蒸気圧から求めるものであることを特徴としている。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に係る方法において、前記空調室から送出された空気の絶対水分及び比容積が、前記空調室から送出された空気の温度を計測する温度センサ及び湿度を計測する湿度センサの計測値に基づいて求められると共に、前記空調室に戻される空気の絶対水分及び比容積が、前記空調室に戻される空気の温度を計測する温度センサ及び湿度を計測する湿度センサの計測値に基づいて求められ、前記加湿皿の加湿水の温度が、これら求めた絶対水分及び比容積から求められることを特徴としている。
【0009】
請求項4の発明は、所定の温度及び湿度に調節された空気が空調室から試験室に送出され、この試験室を経由した空気が前記空調室に戻されるようにした環境試験装置であって、前記空調室に配設され、当該空調室の空気を加熱する加熱器と、前記空調室に配設され、加湿水が外部から供給される加湿皿と、前記空調室に配設され、当該空調室の空気を除湿する除湿機と、前記空調室から送出された空気の温度及び湿度から当該空気の絶対水分及び比容積を求めると共に、前記空調室に戻される空気の温度及び湿度から当該空気の絶対水分及び比容積を求め、前記空調室から送出された空気の絶対水分及び比容積並びに前記空調室に戻される空気の絶対水分及び比容積から前記加湿皿の加湿水の温度を求める温度導出部と、この温度導出部で求めた温度に加熱した補給水を前記加湿皿に供給する補給水供給部とを備えたことを特徴としている。
【0010】
請求項5の発明は、請求項4に係るものにおいて、前記温度導出部が、前記空調室から送出された空気の絶対水分及び比容積並びに前記空調室に戻される空気の絶対水分及び比容積から前記加湿水の温度に等しい飽和空気の蒸気圧を求め、この蒸気圧から前記加湿皿の加湿水の温度を求めるものであることを特徴としている。
【0011】
請求項6の発明は、請求項4又は5に係るものにおいて、前記温度導出部が、前記空調室から送出された空気の絶対水分及び比容積を前記空調室から送出された空気の温度を計測する温度センサ及び湿度を計測する湿度センサの計測値に基づいて求めると共に、前記空調室に戻される空気の絶対水分及び比容積を前記空調室に戻される空気の温度を計測する温度センサ及び湿度を計測する湿度センサの計測値に基づいて求め、これら求めた絶対水分及び比容積から前記加湿皿の加湿水の温度を求めるものであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、空調室から送出された空気の絶対水分及び比容積並びに空調室に戻される空気の絶対水分及び比容積から加湿皿の加湿水の温度を求め、この求めた温度に加熱した補給水を加湿皿に供給するようにしているため、加湿皿には実際の蒸発量に見合った温度の補給水が供給されることになる結果、加湿皿内の加湿水に不可避的に温度分布が生じていても試験室の湿度を安定した状態に容易に維持することができる。
【0013】
請求項2の発明によれば、加湿皿の加湿水の温度が、空調室から送出された空気の絶対水分及び比容積並びに空調室に戻される空気の絶対水分及び比容積から加湿水の温度に等しい飽和空気の蒸気圧を求め、この蒸気圧から求めるものであるため、加湿皿の加湿水の温度を実際の蒸発量に見合った温度として正確に求めることができる結果、加湿皿内の加湿水に不可避的に温度分布が生じていても試験室の湿度を安定した状態に容易に維持することができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、空調室から送出された空気の絶対水分及び比容積が、空調室から送出された空気の温度を計測する温度センサ及び湿度を計測する湿度センサの計測値に基づいて求められると共に、空調室に戻される空気の絶対水分及び比容積が、空調室に戻される空気の温度を計測する温度センサ及び湿度を計測する湿度センサの計測値に基づいて求められるものであるため、加湿皿の加湿水の温度を実際の蒸発量に見合った温度として正確に求めることができる結果、加湿皿内の加湿水に不可避的に温度分布が生じていても試験室の湿度を安定した状態に容易に維持することができる。
【0015】
請求項4の発明によれば、空調室から送出された空気の絶対水分及び比容積並びに空調室に戻される空気の絶対水分及び比容積から加湿皿の加湿水の温度を求め、この求めた温度に加熱した補給水を加湿皿に供給するようにしているため、加湿皿には実際の蒸発量に見合った温度の補給水が供給されることになる結果、加湿皿内の加湿水に不可避的に温度分布が生じていても試験室の湿度を安定した状態に容易に維持することができる環境試験装置を実現することができる。
【0016】
請求項5の発明によれば、加湿皿の加湿水の温度が、空調室から送出された空気の絶対水分及び比容積並びに空調室に戻される空気の絶対水分及び比容積から加湿水の温度に等しい飽和空気の蒸気圧を求め、この蒸気圧から求めるものであるため、加湿皿の加湿水の温度を実際の蒸発量に見合った温度として正確に求めることができる結果、加湿皿内の加湿水に不可避的に温度分布が生じていても試験室の湿度を安定した状態に容易に維持することができる環境試験装置を実現することができる。
【0017】
請求項6の発明によれば、空調室から送出された空気の絶対水分及び比容積が、空調室から送出された空気の温度を計測する温度センサ及び湿度を計測する湿度センサの計測値に基づいて求められると共に、空調室に戻される空気の絶対水分及び比容積が、空調室に戻される空気の温度を計測する温度センサ及び湿度を計測する湿度センサの計測値に基づいて求められるものであるため、加湿皿の加湿水の温度を実際の蒸発量に見合った温度として正確に求めることができる結果、加湿皿内の加湿水に不可避的に温度分布が生じていても試験室の湿度を安定した状態に容易に維持することができる環境試験装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る環境試験装置の湿度調節方法が適用される環境試験装置の構成を概略的に示す図である。すなわち、本発明に係る環境試験装置10は、電子部品、電気機器などの試験対象を収納し、この試験対象に対して恒温恒湿試験(高温高湿)などの環境試験を実施する試験室12と、試験室12の空調を行う空調室14とを有する試験槽16を備えており、試験室12と空調室14とを区画する隔壁18の上部に所定の温度及び湿度に調節された空気を空調室14から試験室12に送り出すための送出口20が形成されると共に、隔壁18の下部に試験室12を経由した空気を試験室12から空調室14に戻すための返戻口22が形成されることで、試験室12と空調室14とが互いに通風可能な状態とされている。
【0019】
また、環境試験装置10は、空調室14に配設され、空調室14の空気を加熱する室加熱器24と、空調室14に配設され、加湿水を蒸発させて空調室14に蒸発水分を供給する蒸発加湿皿26と、蒸発加湿皿26の周面に配設され、蒸発加湿皿26内に供給される加湿水28を加熱する水加熱器30と、空調室14に配設され、空調室14の空気を除湿することにより湿度を調節する除湿機(又は、冷却器)32と、空調室14に配設され、送出口20及び返戻口22を介して試験室12と空調室14との間で空気を循環させることにより試験室12の温度及び湿度を均一化させるための送風機34と、試験槽16の外部に配設され、所定の温度に加熱された補給水を補給管36を介して蒸発加湿皿26に供給することで蒸発した加湿水を補給する補給水供給部38とを備えている。
【0020】
さらに、環境試験装置10は、試験室12の送出口20近傍に配設され、送出口20を介して空調室14から試験室12に送出される送り空気の温度を計測するための第1の温度センサ40と、試験室12の送出口20近傍に配設され、送出口20を介して空調室14から試験室12に送出される送り空気の湿度を計測するための第1の湿度センサ42と、空調室14の返戻口22近傍に配設され、返戻口22を介して試験室12から空調室14に戻される帰り空気の温度を計測するための第2の温度センサ44と、試験室12の返戻口22近傍に配設され、返戻口22を介して試験室12から空調室14に戻される帰り空気の湿度を計測するための第2の湿度センサ46と、試験室12及び空調室14の外部に配設され、室加熱器24、水加熱器30、除湿機32及び補給水供給部38の動作を制御することで試験室12を所定の温度及び湿度に維持する制御部48とを備えている。
【0021】
ここで、室加熱器24及び水加熱器30は、電気ヒータなどにより構成され、送風機34は、ファン付きモータなどにより構成されたものである。第1の温度センサ40及び第2の温度センサ44は、サーミスタなどの感温素子により構成され、第1の湿度センサ42及び第2の湿度センサ46は、セラミック基板に感湿材ペーストを焼結させた感湿素子などにより構成されたものである。蒸発加湿皿26内の上部位置には、サーミスタなどの感温素子などにより構成された水レベルセンサ50が配設され、蒸発加湿皿26内の加湿水28のレベル(水位)が検出されるようになっている。
【0022】
また、補給水供給部38は、加湿水28として用いられる補給水を加熱する加熱器、補給水の温度を計測するための温度センサ、加熱器で加熱された補給水を撹拌することで補給水の温度を均一化させる撹拌器などから構成された補給水加熱部52と、補給水を補給管36を介して蒸発加湿皿26に送出するポンプ54とを備えている。制御部48は、演算処理を実行するCPU、処理プログラムやデータなどを記憶するROM、及び、データを一時的に記憶するRAMを備えたマイクロコンピュータなどで構成されている。
【0023】
この制御部48には、室加熱器24、水加熱器30、除湿機32、送風機34、第1の温度センサ40、第1の湿度センサ42、第2の温度センサ44、第2の湿度センサ46、水レベルセンサ50、及び、補給水加熱部52がそれぞれ図略のインターフェイス回路を介して接続されると共に、試験室12の温度及び湿度並びに環境試験時間を設定する試験条件設定部56、及び、空調室14から送出された空気の絶対水分及び比容積並びに空調室14に戻される空気の絶対水分及び比容積から蒸発加湿皿26の加湿水28の温度Twを求めるためのデータ及び計算式を記憶する記憶部58が図略のインターフェイス回路を介して接続されている。
【0024】
また、制御部48には、室温度判別部60、室温度制御部62、室湿度判別部64、室湿度制御部66、送風制御部68、水レベル判別部70、加湿水温度導出部72、及び、補給水温度制御部74の各機能実現部を備えている。
【0025】
ここで、室温度判別部60は、試験室12の温度が設定した値になっているか否かを判別するものであり、空調室14から送出口20を介して試験室12に送出された空気の温度である第1の温度センサ40で計測された温度と試験条件設定部56で設定された温度とを比較することにより判別される。なお、第1の温度センサ40が、例えば、サーミスタなどの感温素子で構成される場合には、第1の温度センサ40の抵抗値あるいは当該抵抗値との関連値(電流値や電圧値など)と、試験条件設定部56で設定された抵抗値あるいは当該抵抗値との関連値(電流値や電圧値など)とが比較されることになる。
【0026】
室温度制御部62は、室加熱器24に流れる電流値などを調節して室加熱器24に供給される電力を制御することにより試験室12に送出される空気の温度が試験条件設定部56で設定された値となるように制御するものである。
【0027】
室湿度判別部64は、試験室12の湿度が設定した値になっているか否かを判別するものであり、空調室14から送出口20を介して試験室12に送出された空気の湿度である第1の湿度センサ42で計測された湿度と試験条件設定部56で設定された湿度とを比較することにより判別される。なお、第1の湿度センサ42が、例えば、セラミック基板に感湿材ペーストを焼結させた感湿素子などにより構成される場合には、第1の温度センサ40の場合と同様に、第1の湿度センサ42の抵抗値あるいは当該抵抗値との関連値(電流値や電圧値など)と、試験条件設定部56で設定された抵抗値あるいは当該抵抗値との関連値(電流値や電圧値など)とが比較されることになる。
【0028】
室湿度制御部66は、水加熱器30に流れる電流値などを調節して水加熱器30に供給される電力を制御すると共に、除湿機32の動作を制御することにより試験室12に送出される空気の湿度を試験条件設定部56で設定された値となるように制御するものである。なお、本実施形態では、試験室12の湿度が高い値に設定されるほど、水加熱器30に供給される電力が高い値に制御されて加湿水28の温度が高くなることで蒸発量が増大するようにされ、試験室12の湿度が低い値に設定されるほど、水加熱器30に供給される電力が低い値に制御されて加湿水28の温度が低くなることで蒸発量が低減されるようになっている。この水加熱器30に供給される電力は、図略の温度センサにより計測された加湿水28の温度に対応して制御されることになる。
【0029】
送風制御部68は、試験室12の加熱及び加湿が開始されたときに送風機34の動作をオンにし、所定の試験時間が経過したときに送風機34の動作をオフにするものである。
【0030】
水レベル判別部70は、蒸発加湿皿26内の加湿水28が所定のレベル位置にまで供給されているか否かを判別するものである。水レベルセンサ50が、例えば、サーミスタなどの感温素子で構成される場合には、水レベルセンサ50の抵抗値あるいは当該抵抗値との関連値(電流値や電圧値など)が、水レベルセンサ50が加湿水28中に存在するときと空気中に露出するときとで変化することを利用して加湿水28が所定のレベル位置にまで供給されているか否かが判別される。
【0031】
加湿水温度導出部72は、蒸発加湿皿26の加湿水28の温度Twを蒸発加湿皿26における加湿水28の水面からの実際の蒸発量に見合った値(推定値)として求めるものであり、次に述べるような手順により実行される。
【0032】
すなわち、送出口20を介して試験室12に送出される空気(制御温湿度空気)の絶対水分(kg/kg')をXd、送出口20を介して試験室12に送出される空気(制御温湿度空気)の比容積(m/kg')をVd、返戻口22を介して空調室14に戻される空気(帰り空気)の絶対水分(kg/kg')をXu、返戻口22を介して空調室14に戻される空気(帰り空気)の比容積(m/kg')をVu、蒸発加湿皿26での加湿量(kg/m・h)をWo、蒸発加湿皿26の水面表面積(m)をA、除湿機32での除湿量(kg/h)をWc、送風機34による循環風量(m/h)をFとしたとき、次の数1に示す式の成立することが知られている。
【0033】
【数1】

【0034】
ここで、試験室12に送出される空気(制御温湿度空気)の絶対水分Xdと試験室12に送出される空気(制御温湿度空気)の比容積Vdとは、第1の温度センサ40で計測した温度と第1の湿度センサ42で計測した湿度(相対湿度)とを用いて公知の空気線図(湿り空気線図)から読み取ることにより求めることができる。このため、本実施形態では、制御温湿度空気の温度及び湿度と、空気線図から読み取った絶対水分Xd及び比容積Vdとを互いに対応した状態で記憶部58に予め記憶させるようにしていることから、制御温湿度空気の絶対水分Xdと比容積Vdとが加湿水温度導出部72により記憶部58から読み出されることで求められる。
【0035】
また、空調室14に戻される空気(帰り空気)の絶対水分Xuと空調室14に戻される空気(帰り空気)の比容積Vuとは、第2の温度センサ44で計測した温度と第2の湿度センサ46で計測した湿度(相対湿度)とを用いて公知の空気線図(湿り空気線図)から読み取ることにより求めることができる。このため、本実施形態では、帰り空気の温度及び湿度と、空気線図から読み取った絶対水分Xuと比容積Vuとを互いに対応した状態で記憶部58に予め記憶させるようにしていることから、帰り空気の絶対水分Xuと比容積Vuとが加湿水温度導出部72により記憶部58から読み出されることで求められる。
【0036】
また、蒸発加湿皿26の水面表面積A、除湿機32での除湿量Wc及び送風機34による循環風量Fは、実際に使用する機器から求めた値をそれぞれ記憶部58に予め記憶させるようにしていることから、蒸発加湿皿26の水面表面積A、除湿機32での除湿量Wc及び送風機34による循環風量Fが加湿水温度導出部72により記憶部58から読み出されることで求められる。
【0037】
このため、記憶部58から読み出された制御温湿度空気の絶対水分Xd、制御温湿度空気の比容積Vd、帰り空気の絶対水分Xu、帰り空気の比容積Vu、蒸発加湿皿26の水面表面積A、除湿機32での除湿量Wc、及び、送風機34による循環風量Fを用いて、加湿水温度導出部72により上記数1の式から蒸発加湿皿26での加湿量Woが算出される。
【0038】
一方、蒸発加湿皿26の加湿水28の温度Tw(℃)に等しい飽和空気の蒸気圧(mmHg)をEw、返戻口22を介して空調室14に戻される空気(帰り空気)の蒸気圧(mmHg)をEu、大気圧(atm)をB'、返戻口22を介して空調室14に戻される空気(帰り空気)の蒸発加湿皿26表面での風速(m/sec)をSとしたとき、次の数2に示す式の成立することが知られている。
【0039】
【数2】

【0040】
ここで、空調室14に戻される空気(帰り空気)の蒸気圧Euは、第2の温度センサ44で計測した温度と第2の湿度センサ46で計測した湿度(相対湿度)とを用いて公知の空気線図(湿り空気線図)から読み取ることにより求めることができる。このため、本実施形態では、帰り空気の温度及び湿度と、空気線図から読み取った蒸気圧Euとを互いに対応した状態で記憶部58に予め記憶させるようにしていることから、帰り空気の蒸気圧Euが加湿水温度導出部72により記憶部58から読み出されることで求められる。
【0041】
また、大気圧B'は、通常の大気圧である1atmを記憶部58に予め記憶させるようにしていることから、加湿水温度導出部72により記憶部58から読み出されることで求められる。また、空調室14に戻される空気(帰り空気)の蒸発加湿皿26表面での風速Sは、実際に使用する機器から求めた値を記憶部58に予め記憶させるようにしていることから、加湿水温度導出部72により記憶部58から読み出されることで求められる。
【0042】
このため、記憶部58から読み出された帰り空気の蒸気圧Eu、大気圧B'、及び、蒸発加湿皿26表面での風速Sと、上記数1の式により求めた蒸発加湿皿26での加湿量Woとを用いて、加湿水温度導出部72により上記数2の式から蒸発加湿皿26の加湿水28の温度Tw(℃)に等しい飽和空気の蒸気圧Ewが算出される。この蒸気圧Ewは、飽和空気の温度と対応するものであるため、その対応関係を記憶部58に予め記憶させるようにしていることから、加湿水温度導出部72により記憶部58から蒸気圧Ewに対応する飽和空気の温度を読み出すことで蒸発加湿皿26における加湿水28の温度Twが求められることになる。
【0043】
補給水温度制御部74は、補給水加熱部52の動作を制御することにより補給水供給部38の補給水の温度を調節するもので、補給水供給部38に満たされている補給水の温度が加湿水温度導出部72により求められた蒸発加湿皿26の加湿水28の温度Twと等しい温度となるようにするものである。
【0044】
図2は、環境試験装置10を用いて恒温恒湿試験を実施する場合の試験室12を所定の温度及び湿度に維持するための制御動作を説明するためのフローチャートである。なお、恒温恒湿試験を実施するに先立ち、オペレータにより試験条件設定部56が操作されて試験室12の温度、湿度、環境試験時間などが設定される一方、環境試験装置10の電源がオンにされることにより室加熱器24、水加熱器30、除湿機32及び送風機34に電力が供給され、所定の動作が開始される。
【0045】
まず、試験室12の温度が設定値になっているか否かが第1の温度センサ40から出力される検出信号に基づき室温度判別部60で判別される(ステップS1)。このステップS1での判別が肯定されると、試験室12の湿度が設定値になっているか否かが第1の湿度センサ42から出力される検出信号に基づき室湿度判別部64で判別される(ステップS3)。
【0046】
このステップS3での判別が肯定されると、蒸発加湿皿26の加湿水28が所定レベルよりも少ない量となっているか否かが水レベルセンサ50からの検出信号に基づいて水レベル判別部70で判別される(ステップS5)。このステップS5での判別が肯定されると、この時点における蒸発加湿皿26の加湿水28の温度Twが加湿水温度導出部72により求められる(ステップS7)。
【0047】
次いで、補給水温度制御部74により補給水加熱部52の動作が制御されて補給水供給部38の補給水の温度が加湿水温度導出部72により求められた加湿水28の温度Twと同じ温度となるように制御される(ステップS9)。このステップS9で加湿水28の温度Twと同じ温度となるように制御された補給水は、ポンプ54により蒸発加湿皿26に送出される(ステップS11)。そして、蒸発加湿皿26の加湿水28が蒸発により所定レベルよりも少ない量か否かが水レベルセンサ50からの検出信号に基づいて水レベル判別部70で判別される(ステップS13)。
【0048】
このステップS13での判別が肯定されると、ステップS11に戻ってポンプ54により補給水が蒸発加湿皿26に送出され、ステップS13での判別が否定されると、補給が完了したとして一連の動作が終了する。なお、ステップS1での判別が否定されると、設定値となるように室温度制御部62により室加熱器24に供給される電力が制御されて温度調節が実行され(ステップS15)、ステップS1に戻って以降の動作が繰り返し実行される。また、ステップS3での判別が否定されると、設定値となるように室湿度制御部66により水加熱器30に供給される電力が調節されると共に、除湿機32の動作が制御されて湿度調節が実行され(ステップS17)、ステップS3に戻って以降の動作が繰り返し実行される。また、ステップS5での判別が否定されると、ステップS1に戻って以降の動作が繰り返し実行される。
【0049】
以上のように、本発明に係る環境試験装置10の湿度調整方法及び環境試験装置10によれば、空調室14から試験室12に送出された空気の絶対水分及び比容積、並びに、試験室12から空調室14に戻される空気の絶対水分及び比容積から蒸発加湿皿26の加湿水28の温度Twを求め、この求めた温度Twと同じ温度となるように加熱した補給水供給部38の補給水を蒸発加湿皿26に供給するようにしているため、蒸発加湿皿26には水面からの実際の蒸発量に見合った温度の補給水が供給されることになる結果、蒸発加湿皿26内の加湿水28に不可避的な温度分布が生じていても試験室12の湿度を安定した状態に容易に維持することができる。
【0050】
なお、本発明に係る環境試験装置10の湿度調整方法及び環境試験装置10は、上記実施形態のように構成されるものであるが、この実施形態のものに限るものではない。例えば、以下に述べるような種々の変形態様を必要に応じて採用することができる。
【0051】
(1)上記実施形態では、記憶部58に空気線図から読み取った数値である制御温湿度空気の絶対水分Xd、制御温湿度空気の比容積Vd、帰り空気の絶対水分Xu、帰り空気の比容積Vu、及び、帰り空気の蒸気圧Euを記憶させるようにしているが、これに限るもではない。例えば、これらの数値は、制御温湿度空気の温度及び湿度並びに帰り空気の温度及び湿度、あるいは、帰り空気の温度及び湿度を用いて所定の算出式から求めるようにすることもできる。この場合、加湿水温度導出部72は、記憶部58に記憶させてある算出式を用いて所定の数値を算出することになる。
【0052】
(2)上記実施形態では、記憶部58に蒸気圧Euと水温Twとを対応付けて記憶させるようにしているが、これに限るものではない。例えば、蒸気圧Euを用いて所定の算出式から温度Twを求めるようにすることもできる。この場合、加湿水温度導出部72は、記憶部58に記憶させてある算出式を用いて温度Twを算出することになる。
【0053】
(3)上記実施形態では、飽和空気の蒸気圧Euを求め、この蒸気圧Euから蒸発加湿皿26の加湿水28の温度Twを求めるようにしているが、これに限るものではない。例えば、飽和空気の蒸気圧Eu以外の蒸発加湿皿26の加湿水28の温度Twに関連する所定の定数を求め、この求めた定数から加湿水28の温度Twを求めるようにすることもできる。
【0054】
(4)上記実施形態では、水レベルセンサ50により蒸発加湿皿26の加湿水28が所定レベルよりも少ない量となっているか否かを判別すると共に、加湿水28が所定レベルよりも少ない量となっている場合に補給水を供給するようになっているが、これに限るものではない。例えば、水レベルセンサ50を用いないで、所定時間が経過する毎に所定量の補給水を蒸発加湿皿26に供給するようにすることも可能である。
【0055】
(5)上記実施形態では、制御温湿度空気の絶対水分Xd及び制御温湿度空気の比容積Vdを第1の温度センサ40及び第1の湿度センサ42により検出した温度及び湿度を用いて求めるようにしているが、これに限るものではない。例えば、試験条件設定部56で設定した設定値を用いて求めるようにすることも可能である。
【0056】
(6)上記実施形態では、室加熱器24とは別個に設けた送風機34により試験室12及び空調室14の空気を循環させるようにしているが、これに限るものではない。例えば、室加熱器24が温風を発生する構造のものであれば、別個の送風機34は必ずしも必要としない。また、試験室12の空間が狭い場合には、送風機34を用いなくても自然対流により試験室12及び空調室14の空気を循環させるようにすることも可能である。
【0057】
(7)上記実施形態では、試験室12及び空調室14が空気(気体)で満たされたものであるが、これに限るものではない。例えば、試験室12及び空調室14を窒素などの不活性ガス(気体)で満たすようにすることもできる。
【0058】
(8)上記実施形態では、環境試験装置10は、試験室12の温度及び湿度を調節するものであるが、これに限るものではない。例えば、環境試験装置10を湿度のみを調節する装置として用いることも可能である。この場合、試験条件設定部56などに温度及び湿度を調節する機能と湿度のみ調節する機能とを切り替える機能を持たせておくなどすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態に係る環境試験装置の湿度調整方法が適用される環境試験装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】環境試験装置の温度及び湿度の制御動作を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0060】
10 環境試験装置
12 試験室
14 空調室
16 試験槽
24 室加熱器(加熱器)
26 蒸発加熱皿(加湿皿)
28 加湿水
32 除湿機
40 第1の温度センサ(温度センサ)
42 第1の湿度センサ(湿度センサ)
44 第2の温度センサ(温度センサ)
46 第2の湿度センサ(湿度センサ)
72 加湿水温度導出部(温度導出部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の温度及び湿度に調節された空気が空調室から試験室に送出され、この試験室を経由した空気が前記空調室に戻されるようにしたもので、前記空調室の空気を加熱する加熱器、加湿水を蒸発させることで前記空調室の空気を加湿する加湿皿及び前記空調室の空気を除湿する除湿機を備えた環境試験装置の湿度調整方法であって、前記空調室から送出された空気の温度及び湿度から当該空気の絶対水分及び比容積を求めると共に、前記空調室に戻される空気の温度及び湿度から当該空気の絶対水分及び比容積を求め、前記空調室から送出された空気の絶対水分及び比容積並びに前記空調室に戻される空気の絶対水分及び比容積から前記加湿皿の加湿水の温度を求め、この求めた温度に加熱した補給水を前記加湿皿に供給することを特徴とする環境試験装置の湿度調整方法。
【請求項2】
前記加湿皿の加湿水の温度は、前記空調室から送出された空気の絶対水分及び比容積並びに前記空調室に戻される空気の絶対水分及び比容積から前記加湿水の温度に等しい飽和空気の蒸気圧を求め、この蒸気圧から求めるものであることを特徴とする請求項1記載の環境試験装置の湿度調整方法。
【請求項3】
前記空調室から送出された空気の絶対水分及び比容積は、前記空調室から送出された空気の温度を計測する温度センサ及び湿度を計測する湿度センサの計測値に基づいて求められると共に、前記空調室に戻される空気の絶対水分及び比容積は、前記空調室に戻される空気の温度を計測する温度センサ及び湿度を計測する湿度センサの計測値に基づいて求められ、前記加湿皿の加湿水の温度は、これら求めた絶対水分及び比容積から求められることを特徴とする請求項1又は2記載の環境試験装置の湿度調整方法。
【請求項4】
所定の温度及び湿度に調節された空気が空調室から試験室に送出され、この試験室を経由した空気が前記空調室に戻されるようにした環境試験装置であって、前記空調室に配設され、当該空調室の空気を加熱する加熱器と、前記空調室に配設され、加湿水が外部から供給される加湿皿と、前記空調室に配設され、当該空調室の空気を除湿する除湿機と、前記空調室から送出された空気の温度及び湿度から当該空気の絶対水分及び比容積を求めると共に、前記空調室に戻される空気の温度及び湿度から当該空気の絶対水分及び比容積を求め、前記空調室から送出された空気の絶対水分及び比容積並びに前記空調室に戻される空気の絶対水分及び比容積から前記加湿皿の加湿水の温度を求める温度導出部と、この温度導出部で求めた温度に加熱した補給水を前記加湿皿に供給する補給水供給部とを備えたことを特徴とする環境試験装置。
【請求項5】
前記温度導出部は、前記空調室から送出された空気の絶対水分及び比容積並びに前記空調室に戻される空気の絶対水分及び比容積から前記加湿水の温度に等しい飽和空気の蒸気圧を求め、この蒸気圧から前記加湿皿の加湿水の温度を求めるものであることを特徴とする請求項4記載の環境試験装置。
【請求項6】
前記温度導出部は、前記空調室から送出された空気の絶対水分及び比容積を前記空調室から送出された空気の温度を計測する温度センサ及び湿度を計測する湿度センサの計測値に基づいて求めると共に、前記空調室に戻される空気の絶対水分及び比容積を前記空調室に戻される空気の温度を計測する温度センサ及び湿度を計測する湿度センサの計測値に基づいて求め、これら求めた絶対水分及び比容積から前記加湿皿の加湿水の温度を求めるものであることを特徴とする請求項4又は5記載の環境試験装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−170401(P2008−170401A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6399(P2007−6399)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【出願人】(000108797)エスペック株式会社 (282)
【Fターム(参考)】