説明

環状オレフィン樹脂およびその製造方法

【課題】本発明は、フィルムに成形した場合、高い透明性を保持しつつ、さらに金属との密着性に優れる環状オレフィン樹脂およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量〔Mw〕が、ポリスチレン換算で5万〜20万であり、−COOH基を1つ以上有する構造単位を含有することを特徴とする環状オレフィン樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン樹脂およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、アルカリ処理された後に酸処理された環状オレフィン樹脂およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン樹脂は、透明性、耐熱性、耐薬品性等に優れることから、各種光学部品の材料として注目されている。
このような環状オレフィン樹脂として、例えば、特許文献1には、−COOH基を有し、重量平均分子量〔Mw〕が5,500の環状オレフィン樹脂が開示されている。
【0003】
特許文献2には、重量平均分子量〔Mw〕が最大でも21,200の環状オレフィン樹脂が例示されている。
しかしながら、従来の環状オレフィン樹脂を光学部品としてより広範に適用させるためには、より高い耐熱性が必要であり、また機械的強度の点でも、環状オレフィン樹脂の靭性が他の透明樹脂に比べ劣っており、さらなる改善が求められている。
【0004】
また、例えば、特許文献3には、ノルボルネン系樹脂シートを保護層として偏光膜に積層した偏光フィルムが開示されているが、このノルボルネン系樹脂シートを用いた偏光フィルムは、液晶表示素子に組み込んだ際、長期間にわたる使用によって素子からの剥離や変形が生じる。これは、外部からの熱や機械的応力によるフィルムの変形によるものである。
【特許文献1】特開2007−264616号公報
【特許文献2】特開2008−81633号公報
【特許文献3】特開平6−51117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、フィルムに成形した場合、高い透明性を保持しつつ、さらに金属との密着性に優れる環状オレフィン樹脂およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意検討した結果、環状オレフィン樹脂溶液をアルカリ処理した後に酸処理し、得られた樹脂から成形されたフィルムが金属との密着性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の環状オレフィン樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量〔Mw〕が、ポリスチレン換算で5万〜20万であり、−COOH基を1つ以上有する構造単位を含有することを特徴とする。
【0008】
上記の−COOH基を1つ以上有する構造単位は、下記式(1)で表されることが好ましい。
【0009】
【化1】

(式中、R1〜R4は、それぞれ独立に、下記(i)〜(vi)より選ばれるものを表し、xは、0または1〜3の整数を表し、yは、1以上の整数を表す。ただし、R1〜R4の少なくとも1つは、下記(v)を表す。
【0010】
(i)水素原子、(ii)ハロゲン原子、(iii)酸素原子、窒素原子、イオウ原子およびケイ素原子からなる群より選ばれる1種以上の原子を有する1価の基、(iv)置換または非置換の炭素原子数1〜15の炭化水素基、(v)−R5−COOHで表される
基、
[R5は、単結合;置換もしくは非置換のメチレン基;炭素原子数2〜8の直鎖状もしく
は分岐状のアルキレン基;またはエーテル性酸素原子を含む炭素原子数2〜8の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基を表す。](vi)R1とR2と、またはR3とR4とが、相互に結合して形成されたアルキリデン基、(vii)R1とR2と、R3とR4と、またはR2
とR3とが、相互に結合して形成された単環または多環の炭素環もしくは複素環、(vi
ii)R1とR4と、またはR2とR3とが、相互に結合して形成された二重結合、もしくは、R1とR4と、およびR2とR3とが、相互に結合して形成された三重結合。)
本発明のフィルムは、本発明の環状オレフィン樹脂から成形されてなることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の環状オレフィン樹脂の製造方法は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量〔Mw〕が、ポリスチレン換算で5万〜20万であり、−COOH基を1つ以上有する構造単位を含有する環状オレフィン樹脂の製造方法であって、少なくとも下記工程(I)〜(IV)を含むことを特徴とする。
【0012】
工程(I):GPCによる重量平均分子量〔Mw〕が、ポリスチレン換算で5万〜20万であり、−R5-COOR6で表される基
(R5は、単結合;置換もしくは非置換のメチレン基;炭素原子数2〜8の直鎖状もしく
は分岐状のアルキレン基;またはエーテル性酸素原子を含む炭素原子数2〜8の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基を表し、
6は、置換あるいは非置換の直鎖状、分岐状もしくは環状の、炭素原子数1〜15の
アルキル基;置換あるいは非置換の直鎖状、分岐状もしくは環状の、エーテル性酸素原子を含む炭素原子数1〜15のアルキル基;または置換もしくは非置換のアリール基を表す
。)
を1つ以上有する構造単位を含有する環状オレフィン樹脂と、
水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムおよび水酸化マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種の水酸化物と
を含有する樹脂組成物を加熱する工程、
工程(II):該工程(I)を経て得られた樹脂組成物に、さらに無機酸および有機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸を添加し加熱する工程、および
工程(III):該工程(II)を経て得られた樹脂組成物から溶媒を留去するとともに、環状オレフィン樹脂を単離する工程。
【0013】
本発明の環状オレフィン樹脂の製造方法は、さらに、上記工程(II)を経て得られた樹脂組成物をろ過する工程を含むことが好ましい。
上記の−R5-COOR6で表される基を1つ以上有する構造単位は、下記式(2)で表
される構造単位であることが好ましい。
【0014】
【化2】

(式(2)中、R7〜R10は、それぞれ独立に、下記(i)〜(vi)より選ばれるもの
を表し、xは、0または1〜3の整数を表し、yは、1以上の整数を表す。
【0015】
ただし、R1〜R4の少なくとも1つは、下記(v)を表す。
(i)水素原子、
(ii)ハロゲン原子、
(iii)酸素原子、窒素原子、イオウ原子およびケイ素原子からなる群より選ばれる1種以上の原子を有する1価の基、
(iv)置換または非置換の炭素原子数1〜15の炭化水素基、
(v)−R5−COOR6で表される基、
[R5は、単結合;置換もしくは非置換のメチレン基;炭素原子数2〜8の直鎖状もしく
は分岐状のアルキレン基;またはエーテル性酸素原子を含む炭素原子数2〜8の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基を表し、
6は、置換あるいは非置換の直鎖状、分岐状もしくは環状の、炭素原子数1〜15の
アルキル基;置換あるいは非置換の直鎖状、分岐状もしくは環状の、エーテル性酸素原子を含む炭素原子数1〜15のアルキル基;または置換もしくは非置換のアリール基を表す
。]
(vi)R1とR2と、またはR3とR4とが、相互に結合して形成されたアルキリデン基、
(vii)R1とR2と、R3とR4と、またはR2とR3とが、相互に結合して形成された単環または多環の炭素環もしくは複素環、
(viii)R1とR4と、またはR2とR3とが、相互に結合して形成された二重結合、もしくは、R1とR4と、およびR2とR3とが、相互に結合して形成された三重結合。)
【発明の効果】
【0016】
本発明は、フィルムに成形した場合、高い透明性を保持しつつ、さらに金属との密着性に優れる環状オレフィン樹脂が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について具体的に説明する。
<環状オレフィン樹脂>
本発明の環状オレフィン樹脂(以下「樹脂(ii)」ともいう。)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量〔Mw〕が、ポリスチレン換算で5万〜20万であり、−COOH基を1つ以上有する構造単位を含有することを特徴とするものである。
【0018】
樹脂(ii)は、樹脂(i)を原料として、後述する本発明の製造方法により製造することができる。
(樹脂(i))
樹脂(i)は、GPCによる重量平均分子量〔Mw〕が、ポリスチレン換算で5万〜20万であり、−R5-COOR6で表される基
(R5は、単結合;置換もしくは非置換のメチレン基;炭素原子数2〜8の直鎖状もしく
は分岐状のアルキレン基;またはエーテル性酸素原子を含む炭素原子数2〜8の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基を表し、
6は、置換あるいは非置換の直鎖状、分岐状もしくは環状の、炭素原子数1〜15の
アルキル基;置換あるいは非置換の直鎖状、分岐状もしくは環状の、エーテル性酸素原子を含む炭素原子数1〜15のアルキル基;または置換もしくは非置換のアリール基を表す。)
を1つ以上有する構造単位を含有する環状オレフィン樹脂である。
【0019】
「環状オレフィン樹脂」は、ノルボルネン系化合物を少なくとも1種含む単量体または単量体組成物(これらを併せて、以下「単量体組成物」ともいう。)を(共)重合し、必要に応じて、さらに水素添加して得られた樹脂である。
【0020】
好ましい樹脂(i)の一態様として、該「−R5-COOR6で表される基を1つ以上有
する構造単位」が、下記式(2)で表される構造単位(以下「構造単位(b)」ともいう。)である態様が挙げられる。
【0021】
【化3】

(式(2)中、R7〜R10は、それぞれ独立に、下記(i)〜(vi)より選ばれるもの
を表し、xは、0または1〜3の整数を表し、yは、1以上の整数を表す。
【0022】
ただし、R1〜R4の少なくとも1つは、下記(v)を表す。
(i)水素原子、
(ii)ハロゲン原子、
(iii)酸素原子、窒素原子、イオウ原子およびケイ素原子からなる群より選ばれる1種以上の原子を有する1価の基、
(iv)置換または非置換の炭素原子数1〜15の炭化水素基、
(v)−R5−COOR6で表される基、
[R5は、単結合;置換もしくは非置換のメチレン基;炭素原子数2〜8の直鎖状もしく
は分岐状のアルキレン基;またはエーテル性酸素原子を含む炭素原子数2〜8の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基を表し、
6は、置換あるいは非置換の直鎖状、分岐状もしくは環状の、炭素原子数1〜15の
アルキル基;置換あるいは非置換の直鎖状、分岐状もしくは環状の、エーテル性酸素原子を含む炭素原子数1〜15のアルキル基;または置換もしくは非置換のアリール基を表す。]
(vi)R1とR2と、またはR3とR4とが、相互に結合して形成されたアルキリデン基、
(vii)R1とR2と、R3とR4と、またはR2とR3とが、相互に結合して形成された単環または多環の炭素環もしくは複素環、
(viii)R1とR4と、またはR2とR3とが、相互に結合して形成された二重結合、もしくは、R1とR4と、およびR2とR3とが、相互に結合して形成された三重結合。)
「ノルボルネン系化合物」は、構造単位(b)に誘導され、下記式(3)で表される化合物である。
【0023】
【化4】

(式(3)中、R7〜R10、xおよびyは、それぞれ上記式(2)中のR7〜R10、xおよびyと同義である。)
(単量体組成物)
単量体組成物に含まれるノルボルネン系化合物は、例えば、上記式(3)で表される。
【0024】
上記式(3)中の「炭素環または複素環」としては、例えば、脂環式、芳香族環などが挙げられる。
上記式(3)で表されるノルボルネン系化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
上記式(3)で表されるノルボルネン系化合物としては、例えば、以下の化合物が例示できるが、これらの化合物に限定されるものではない。
5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−(2’−メトキシ)エトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−(2’−エトキシ)エトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−n−プロポキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−iso−プロポキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−(1’−メチル)−プロポキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−n−ブトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−iso−ブトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−tert−ブトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−n−ヘキシルオキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フェノキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フェノキシエチルカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フェニルカルボニルオキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−フェノキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−フェノキシエチルカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エ
ン、
8−フェノキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−
エン、
8−フェノキシエチルカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ
−3−エン、
8−フェニルカルボニルオキシ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−
3−エン、
8−メチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ド
デカ−3−エン(DMN)、
8−メチル−8−(2’−メトキシ)エトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−メチル−8−エトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ド
デカ−3−エン、
8−メチル−8−(2’−エトキシ)エトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−メチル−8−n−プロポキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−メチル−8−iso−プロポキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5
7,10]ドデカ−3−エン、
8−メチル−8−(1’−メチル)−プロポキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−メチル−8−n−ブトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10
]ドデカ−3−エン、
8−メチル−8−iso−ブトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−メチル−8−tert−ブトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5
7,10]ドデカ−3−エン、
8−メチル−8−n−ヘキシルオキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5
7,10]ドデカ−3−エン、
8−メチル−8−フェノキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10
ドデカ−3−エン、
8−メチル−8−フェノキシエチルカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン。
【0026】
ノルボルネン系化合物の種類および使用量は、求められる特性に応じて適宜選択される。
上記式(3)で表されるノルボルネン系化合物のうち、酸素原子、窒素原子、イオウ原子およびケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を、分子内に少なくとも1個含む構造(以下「極性構造」ともいう。)を有する化合物は、他の素材との接着性、密着性に優れている点で好ましい。
【0027】
特に、上記式(3)中、R7およびR9が、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1〜3の炭化水素基、好ましくは少なくとも一方がメチル基であり、R8またはR10が、
極性構造を有する基であり、もう一方が水素原子または炭素原子数1〜3の炭化水素基である化合物は、得られる樹脂の吸水(湿)性が低くなる点で好ましい。
【0028】
さらに、極性構造を有する基が、下記式(4)で表される基であるノルボルネン系化合物は、得られる樹脂の耐熱性と吸水(湿)性とのバランス性に富み好適である。
−R5−COOR6 …(4)
上記式(4)中、R5は、単結合;置換または非置換のメチレン基;もしくは、炭素原
子数2〜8の直鎖状または分岐状の、エーテル性酸素原子を含んでいてもよいアルキレン基を表す。
【0029】
上記式(4)中、R6は、置換あるいは非置換の直鎖状、分岐状または環状の、エーテ
ル性酸素原子を含んでいてもよい炭素原子数1〜15のアルキル基;もしくは置換または非置換のアリール基を表す。
【0030】
上記式(4)において、R5の炭素原子数が小さいものほど、得られる樹脂(i)の水
素添加物のガラス転移温度〔Tg〕が高く、耐熱性に優れるので、炭素原子数が0または1〜3であることが好ましく、炭素原子数が0である単量体はその合成が容易である点でさらに好ましい。
【0031】
上記式(4)中、R6は、炭素原子数が多いほど、得られる樹脂(i)の吸水(湿)性
が低下する傾向にあるが、ガラス転移温度〔Tg〕が低下する傾向もあるので、耐熱性を保持する観点からは炭素原子数1〜10が好ましく、特に炭素原子数1〜6であることが好ましい。
【0032】
上記式(3)において、上記式(4)で表される基が結合した炭素原子に炭素原子数1〜3のアルキル基、特にメチル基が結合しているノルボルネン系化合物は、耐熱性と吸水(湿)性とのバランスの点で好ましい。
【0033】
上記式(3)において、xが0または1を表し、yが1を表す場合、ノルボルネン系化合物の反応性が高く、高収率で樹脂(i)が得られる点、耐熱性が高い樹脂(i)水素添加物が得られる点、工業的に入手しやすい点などにおいて好適である。
【0034】
樹脂(i)を得るにあたっては、本発明の目的を損なわない範囲でノルボルネン系化合物と共重合可能な単量体とを単量体組成物に含ませて重合することができる。
「共重合可能な単量体」としては、−COOH基を有さない環状オレフィンが用いられるが、例えば、
シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロドデセン等の環状オレフィン;
ジシクロペンタジエン(DCP)、1,4−シクロオクタジエン、シクロドデカトリエン等の非共役環状ポリエン;
エチレン等のα−オレフィン;
ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(NB)、
5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−シクロヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フェニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−(4−ビフェニル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フルオロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−クロロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−ブロモ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジクロロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジブロモ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−ヒドロキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−ヒドロキシエチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−アミノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3−エン、
7−メチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−エチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−シクロヘキシル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−フェニル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−(4−ビフェニル)−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7,8−ジメチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7,8,9−トリメチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
8−メチル−トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3−エン、
8−フェニル−トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3−エン、
7−フルオロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−クロロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−ブロモ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7,8−ジクロロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7,8,9−トリクロロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−クロロメチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−ジクロロメチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−トリクロロメチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−ヒドロキシ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−シアノ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−アミノ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
ペンタシクロ[7.4.0.12,5.18,11.07,12]ペンタデカ−3−エン、
ヘキサシクロ[8.4.0.12,5.17,14.19,12.08,13]ヘプタデカ−3−エン、
8−メチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−エチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−シクロヘキシル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−フェニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−(4−ビフェニル)−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エ
ン、
8−ビニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−エチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8,8−ジメチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8,9−ジメチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−フルオロ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−クロロ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−ブロモ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8,8−ジクロロ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8,9−ジクロロ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8,8,9,9−テトラクロロ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−
3−エン、
8−ヒドロキシ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−ヒドロキシエチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン

8−メチル−8−ヒドロキシエチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデ
カ−3−エン、
8−シアノ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−アミノ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン等の、上記
式(3)で表されるノルボルネン系化合物以外のノルボルネン系化合物
などが挙げられる。
【0035】
これらの共重合可能な単量体は、1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
(重合方法)
樹脂(i)の重合方法については、ノルボルネン系化合物を含む単量体組成物の重合が可能である限り、特に制限されるものではないが、例えば、特開2008−76552号公報に記載の開環(共)重合または付加(共)重合と同様の重合方法によって重合することができ、さらに該公報に記載の水素添加反応と同様にして樹脂(i)を水素添加することができる。
【0036】
(樹脂(i)の特性)
樹脂(i)の、1H−NMRスペクトルを測定して算出された水素添加率は、好ましく
は99%以上、より好ましくは99.5%以上である。水素添加率が上記範囲内であると、樹脂(ii)が色相の熱安定性に優れるため好適である。
【0037】
樹脂(i)のガラス転移温度〔Tg〕は、通常120℃以上、好ましくは130℃以上である。Tgが上記範囲内であると、樹脂(ii)が耐熱変形性に優れるため好適である。
【0038】
樹脂(i)の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量〔Mw〕は、好ましくは5万〜20万、より好ましくは5万〜18万、特に好ましくは6万〜15万であり、数平均分子量〔Mn〕は、好ましくは1万〜5万、より好ましくは1万〜4万、特に好ましくは1万5000〜3万5000である。
【0039】
樹脂(i)の、ウベローデ型粘度計を用いて30℃のクロロホルム中で測定した対数粘度(試料濃度:0.5g/dL)は、好ましくは0.1〜2dL/g、より好ましくは0.2〜1dL/g、特に好ましくは0.35〜0.85dL/gである。
【0040】
樹脂(i)の数平均分子量、重量平均分子量および対数粘度が上記範囲内であると、樹脂(ii)が機械的強度が高く、かつ成型性に優れる成型体が得られるため好適である。
(樹脂(ii))
本発明の環状オレフィン樹脂である樹脂(ii)は、GPCによる重量平均分子量〔Mw〕が、ポリスチレン換算で5万〜20万であり、−COOH基を1つ以上有する構造単位、好ましくは下記式(1)で表される構造単位を含有することを特徴とするものであって、樹脂(i)を原料として、後述する本発明の製造方法により製造することができる。
【0041】
【化5】

(式中、R1〜R4は、それぞれ独立に、下記(i)〜(vi)より選ばれるものを表し、xは、0または1〜3の整数を表し、yは、1以上の整数を表す。
【0042】
ただし、R1〜R4の少なくとも1つは、下記(v)を表す。
(i)水素原子、
(ii)ハロゲン原子、
(iii)酸素原子、窒素原子、イオウ原子およびケイ素原子からなる群より選ばれる1種以上の原子を有する1価の基、
(iv)置換または非置換の炭素原子数1〜15の炭化水素基、
(v)−R5−COOHで表される基、
[R5は、単結合;置換もしくは非置換のメチレン基;炭素原子数2〜8の直鎖状もしく
は分岐状のアルキレン基;またはエーテル性酸素原子を含む炭素原子数2〜8の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基を表す。]
(vi)R1とR2と、またはR3とR4とが、相互に結合して形成されたアルキリデン基、
(vii)R1とR2と、R3とR4と、またはR2とR3とが、相互に結合して形成された単環または多環の炭素環もしくは複素環、
(viii)R1とR4と、またはR2とR3とが、相互に結合して形成された二重結合、もしくは、R1とR4と、およびR2とR3とが、相互に結合して形成された三重結合。)
樹脂(ii)の好ましい態様としては、上記式(1)中、R1〜R4の少なくとも1つが−R5−COOH基を表す構造単位(以下「構造単位(a)」ともいう。)のみからなる
態様、構造単位(a)と上記式(2)中、R1〜R4の少なくとも1つが−R5−COOR6で表される基を表す構造単位(構造単位(b))とからなる態様、構造単位(a)と構造単位(c)とからなる態様、および構造単位(a)と構造単位(b)と構造単位(c)とからなる態様が挙げられる。
【0043】
なお、「構造単位(c)」は、構造単位(a)および構造単位(b)と異なるものであって、2種以上含むことができ、例えば、上述の「共重合可能な単量体」に由来する構造単位などが挙げられる。
【0044】
樹脂(ii)は、−COOH基を1つ以上有する構造単位(好ましくは構造単位(a)
)を好ましくは1モル%以上、より好ましくは1〜50モル%、さらに好ましくは5〜30モル%、特に好ましくは10〜30モル%含有する。
【0045】
(樹脂(ii)の特性)
樹脂(ii)のガラス転移温度〔Tg〕は、通常120℃以上、好ましくは130℃以上である。Tgが上記範囲内であると、成型品の耐熱性の観点から好適である。
【0046】
樹脂(ii)の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量〔Mw〕は、5万〜20万、好ましくは5万〜15万、特に好ましくは5万〜15万であり、数平均分子量〔Mn〕は、好ましくは1〜5万、より好ましくは1万〜4万、特に好ましくは1万5000〜3万5000である。重量平均分子量および数平均分子量が上記範囲内であると、機械的強度の高い樹脂フィルムが得られるため好適である。
【0047】
<樹脂(ii)フィルム>
本発明のフィルムである「樹脂(ii)フィルム」は、本発明の樹脂(ii)から成形されてなることを特徴とするものである。
【0048】
(その他の添加剤)
樹脂(ii)フィルムは、本発明の目的を損なわない範囲において、さらに酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含むことができる。
【0049】
「酸化防止剤」としては、例えば、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3,5−ジ
−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)]プロピオネート、2,6−ジ−t−ブチル−
4−メチルフェノール、2,2’−ジオキシ−3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが挙げられる。これらのうち、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)]プロピオネートが好ましい。
【0050】
また、後述するキャスティングにより樹脂(i)フィルムを製造する場合には、レベリング剤や消泡剤を添加することで該フィルムの製造を容易にすることができる。
これら添加剤は、樹脂(i)フィルムを製造する際に、樹脂(i)とともに添加してもよいし、樹脂(i)を製造する前に添加してもよい。また、添加量は、所望の特性に応じて適宜選択されるが、樹脂(ii)100重量部に対して、通常0.01〜5.0重量部、好ましくは0.05〜2.0重量部であることが望ましい。
【0051】
「紫外線吸収剤」は、紫外線を吸収することにより、樹脂(i)を劣化させる原因となる活性ラジカル種の発生を抑制し、劣化により生じる着色や透明性の低下を防ぐとともに、偏光膜への紫外線の透過を阻害し、偏光膜の劣化を防ぐ役割を有する。紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール誘導体が特に好ましく用いられる。
【0052】
ベンゾトリアゾール誘導体の融点は、樹脂(i)のガラス転移温度〔Tg〕(以下、単に「Tg」ともいう。)に対し、好ましくはTg−35℃〜Tg+75℃、特に好ましくはTg−30℃〜Tg+70℃である。ベンゾトリアゾール誘導体の融点がTg−35℃より低いと、ベンゾトリアゾール誘導体の揮発性が増し、ベンゾトリアゾール誘導体およびその分解物が樹脂(i)を成形してなるフィルム(以下、単に「樹脂(i)フィルム」ともいう。)やフィルム成形機等に付着する場合がある。一方、ベンゾトリアゾール誘導体の融点がTg+75℃より高いと、フィルム成形時等にベンゾトリアゾール誘導体が樹脂(ii)フィルム表面にブリードし、成形冷却の過程で融点が高いため相溶できずに表
面で固化するため、ロールまたは樹脂(i)フィルム表面に付着する場合がある。
【0053】
紫外線吸収剤の添加量は、樹脂(i)100重量部に対し、通常、0.1〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部である。紫外線吸収剤の添加量が0.1重量部未満では、充分な紫外線吸収効果が見られず、本発明の効果が発現されにくい。また、20重量部を超えると、得られた樹脂(i)フィルムの可視光領域での透過率が低下することがある。
【0054】
また、全紫外線吸収剤中のベンゾトリアゾール誘導体の割合は、通常10重量%以上、好ましくは50重量%以上である。
(樹脂(ii)フィルムの製造方法)
樹脂(ii)フィルムは、後述する樹脂組成物を、キャスティング(キャスト成形)することによって好適に形成することができる。
【0055】
すなわち、樹脂(ii)フィルムは、例えば、スチールベルト、スチールドラム、ポリエステルフィルムなどの基材の上に、樹脂組成物を塗布して溶剤を乾燥させ、その後、該基材から塗膜を剥離することにより樹脂(ii)フィルムを得ることができる。
【0056】
キャスト成形で得られた樹脂(ii)フィルム中の残留溶剤量は、可能な限り少ない方が好ましく、通常3重量%以下、好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以下である。残留溶剤量が上記範囲内であると、フィルムの経時的な変形や特性変化が起こりにくく、所望の機能を有する樹脂(ii)フィルムを得ることができる。
【0057】
(樹脂(ii)フィルムの特性)
樹脂(ii)フィルムの全光線透過率としては、特に限定されないが、通常80〜95%、好ましくは85〜95%、より好ましくは90〜95%であることが望ましい。
【0058】
樹脂(ii)フィルムのヘイズとしては、特に限定されないが、通常0.1〜2%、好ましくは0.1〜1%、より好ましくは0.1〜0.5%であることが望ましい。
樹脂(ii)フィルムの全光線透過率およびヘイズが上記範囲内であると、光学フィルムとしての利用の観点から好適である。
【0059】
樹脂(ii)フィルムの、下記の方法に従い測定した銅箔密着強度は、好ましくは200mN/10mm以上、より好ましくは500mN/10mm以上である。樹脂(ii)フィルムの銅箔密着強度が、上記範囲内であると、フィルムの屈曲挙動や湿熱による銅箔の剥離の観点から好適である。
【0060】
銅箔密着強度の測定方法は、まず樹脂(ii)フィルムと20μmの銅箔(日本製箔(株)製)とを重ね、その両面に保護フィルムとしてポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製)で挟み、真空プレス(関西ロール(株)製PEWR−1030型、台板300mm×300mm×1段、電熱式温調)で、200℃×5分間×30MPaでプレスし圧着する。
【0061】
次いで、両面のポリイミドフィルムを剥がし、樹脂層と銅層とを有する積層フィルムが得られる。70mm×10mmにカットした積層フィルムを、インストロンジャパン カンパニイリミテッド社製引張試験機(5564型)で、250mm/minの速度で樹脂層と銅層とのピール試験する。
【0062】
<樹脂(ii)の製造方法>
本発明の樹脂(ii)の製造方法は、GPCによる重量平均分子量〔Mw〕が、ポリスチレン換算で5万〜20万であり、構造単位(a)を含有する樹脂(ii)の製造方法で
あって、少なくとも下記工程(I)〜(III)を含むことを特徴とするものである。
【0063】
工程(I):上記樹脂(i)と、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムおよび水酸化マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種の水酸化物とを含有する樹脂組成物を加熱する工程。
【0064】
工程(II):該工程(I)を経て得られた樹脂組成物に、さらに無機酸および有機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸を添加し加熱する工程。
工程(III):該工程(II)を経て得られた樹脂組成物から該溶媒を留去するとともに、樹脂(ii)を単離する工程。
【0065】
本発明の環状オレフィン樹脂の製造方法は、さらに、上記工程(II)を経て得られた樹脂組成物をろ過する工程を含むことが好ましい。
(工程(I))
工程(I)とは、樹脂(i)と、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムおよび水酸化マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種の水酸化物とを含有する樹脂組成物を加熱する工程である。
【0066】
「水酸化物」としては、各種溶媒への溶解性が良好であることから、水酸化カリウム(KOH)が好ましい。
水酸化物は、樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.1〜8重量部、特に好ましくは0.1〜6重量部の量で樹脂組成物に含有される。水酸化物の含有量(重量部)が、上記範囲内であると反応時の粘度上昇が小さく、均一な反応が可能なため好適である。
【0067】
なお、このような水酸化物は、樹脂(i)と混合する前に、あらかじめ溶媒に溶解させておくことが望ましい。「溶媒」としては、樹脂(i)と水酸化物とを溶解させるものであれば特に限定されないが、例えば、イソプロパノール、n−ブタノール等の炭素原子数3〜8、好ましくは炭素原子数3〜5のアルコールなどが望ましい。あらかじめ溶媒に溶解させておく水酸化物の濃度しては、通常0.1〜30重量%、好ましくは1〜20重量%である。水酸化物の濃度が上記範囲内にあると、樹脂(i)との反応が均一となり、反応時の粘度上昇が低くなる点で好ましい。
【0068】
「樹脂組成物」とは、樹脂(i)と、上記水酸化物とを含有するものであって、溶剤に溶解していることが望ましく、「溶剤」としては、樹脂と水酸化物とを溶解するものであれば特に限定されないが、トルエン、塩化メチレンなど揮発性を有する有機溶剤が好ましい。このような溶剤は、樹脂(i)100重量部に対して、100〜1,000重量部、好ましくは200〜500重量部を用いることが望ましい。
【0069】
以下に、樹脂(i)と水酸化物とを混合し、樹脂組成物を調製する方法を示すが、本発明はこれに限定されない。
攪拌羽根を装着したガラス製セパラブルフラスコに、上記(共)重合工程で得られた樹脂(i)の100重量部を仕込み、そこに溶剤100〜1,000重量部、好ましくはトルエン200〜500重量部を添加して室温で5時間攪拌して、該樹脂(i)をトルエンに溶解させる。
【0070】
次に、水酸化物0.1〜10重量部、好ましくは水酸化カリウム0.1〜8重量部を、溶媒1〜80重量部、好ましくはn−ブタノール1〜50重量部に溶解させたものを攪拌しながら添加することによって、樹脂組成物が得られる。
【0071】
樹脂組成物を「加熱」する温度としては、好ましくは30〜180℃、より好ましくは50〜120℃、特に好ましくは90〜120℃である。加熱する温度が30℃未満であると、反応に要する時間が長くなる場合があり、一方、180℃を越えると、急激な反応により、反応容器内の圧力が急速に上昇する場合がある。
【0072】
樹脂組成物を「加熱」する時間としては、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上、特に好ましくは5時間以上が望ましい。加熱する時間が1時間未満であると、添加した水酸化物が完全に消費されず、−COOH基を含有する樹脂を生成できない場合がある。
【0073】
(工程(II))
工程(II)とは、上記工程(I)を経て得られた樹脂組成物に、さらに無機酸および有機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸を添加し加熱する工程である。
【0074】
「無機酸」としては、例えば、塩酸、ふっ酸、臭素酸、硫酸、燐酸などが挙げられる。
「有機酸」としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、乳酸、トルエンスルホン酸、シュウ酸、リンゴ酸、クエン酸などが挙げられる。
【0075】
「無機酸および有機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸」としては、酸強度の観点から、塩酸、硫酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸が好適である。これらの酸は、樹脂(i)100重量部に対して、好ましくは1〜20重量部、より好ましくは1〜10重量部の添加量で用いることが望ましい。酸の添加量が上記範囲内であると、工程(I)で生成した塩基性基を当量的に反応させてカルボン酸基に変換することが出来、また過剰の酸化合物の残存による樹脂フィルムの着色を抑制できる点から好適である。
【0076】
これらの酸は、例えば、アルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、トルエン、ベンゼンなど溶媒に希釈して用いることが望ましい。あらかじめ溶媒に溶解させておく酸の濃度しては、通常5〜80重量%、好ましくは10〜50重量%である。
【0077】
「加熱」する温度としては、好ましくは30〜180℃、より好ましくは50〜120℃、特に好ましくは90〜120℃である。加熱する温度が30℃未満であると、反応に要する時間が長くなる場合があり、一方、180℃を越えると、急激な反応により、反応容器内の圧力が急速に上昇する場合がある。
【0078】
「加熱」する時間としては、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上、特に好ましくは5時間以上が望ましい。加熱する時間が1時間未満であると、添加した酸が完全に反応せず、−COOH基を含有する樹脂が得られない他、樹脂中に未反応の酸が残存し、下記工程(III)において、樹脂組成物から溶媒を留去する際、樹脂が着色するという問題が発生することがある。
【0079】
(工程(III))
工程(III)とは、上記工程(II)を経て得られた樹脂組成物から溶媒を留去するとともに、樹脂(ii)を単離する工程である。
【0080】
「留去」とは、上記工程(II)を経て得られた樹脂組成物を所望する厚さとなるようにアプリケーターなどを用いて10〜40℃でキャストし、好ましくは10〜40℃×1〜24時間静置し、続いて、好ましくは真空下にて60〜100℃×1〜5時間、さらに100〜180℃×10〜24時間保持することをいう。
【0081】
また、連続真空脱溶装置(または「デボラタイザー」ともいう。)や薄膜蒸発装置等を
用いて脱溶媒させて、樹脂(ii)を単離してもよい。
(ろ過工程)
ろ過工程とは、上記工程(II)を経て得られた樹脂組成物をろ過する工程であって、該工程(II)の後、または上記工程(III)の前に用いることが好ましい。
【0082】
「ろ過」としては、工程(II)を経て得られた樹脂組成物から、少なくとも工程(II)で生成した無機塩を取り除いたろ液が得られればよく、例えば、孔径として通常0.1〜10μm、好ましくは0.5〜2μmのメンブレンフィルターを用いてろ過することができる。
【実施例】
【0083】
次に、本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、「部」は、ことわりがない限り「重量部」を表す。
合成例および実施例で得られた樹脂および樹脂フィルムの各種物性の測定は、下記(1)〜(8)に記載の方法に従った。
【0084】
(1)水素添加率
核磁気共鳴分光計(NMR)としてBruker社製AVANCE500を用い、測定溶媒としてd−クロロホルムを用い、1H−NMRスペクトルを測定した。得られたスペ
クトルの5.1〜5.8ppmのビニレン基、3.7ppmのメトキシ基、0.6〜2.8ppmの脂肪族プロトンの積分値より、単量体の組成を算出後、樹脂(i)の水素添加率(%)を算出した。
【0085】
(2)ガラス転移温度〔Tg〕
セイコーインスツル(株)製DSC6200を用いて、昇温速度を毎分20℃、窒素気流下で測定を行った。樹脂(i)および(ii)のガラス転移温度〔Tg〕(℃)は、微分示差走査熱量の最大ピーク温度(A点)および最大ピーク温度より−20℃の温度(B点)を示差走査熱量曲線上にプロットし、B点を起点とするベースライン上の接線とA点を起点とする接線との交点として求めた。
【0086】
(3)数平均分子量〔Mn〕、重量平均分子量〔Mw〕および分子量分布〔Mw/Mn〕
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー(株)製HLC−8220GPC、カラム:東ソー(株)製ガードカラムHXL−H、TSK gel G7000HXL、TSKgel GMHXL2本、TSK gel G2000HXLを順次連結、溶媒:テトラヒドロフラン、流速:1mL/min、サンプル濃度:0.7〜0.8重量%、注入量:70μL、測定温度:40℃とし、検出器:RI(40℃)、標準物質:東ソー(株)製TSKスタンダードポリスチレン)を用い、樹脂(i)および(ii)の数平均分子量〔Mn〕、重量平均分子量〔Mw〕および分子量分布〔Mw/Mn〕を測定した。
【0087】
(4)対数粘度
ウベローデ型粘度計を用いて、クロロホルム中(試料濃度:0.5g/dL)、30℃
で樹脂(i)の対数粘度(dL/g)を測定した。
【0088】
(5)−COOH基の存在の確認
樹脂(i)および(ii)を、その濃度が25重量%となるようにそれぞれトルエンに溶解し、その樹脂溶液をキャスト法により厚さ100μmのフィルムに成形した。
【0089】
得られたフィルムを日本分光(株)製FT−IR(FT/IR−4100型)で赤外線吸収スペクトルを測定し、樹脂(i)フィルムのスペクトルより、3100〜3400c
-1に現れるOH基の伸縮振動、または樹脂(i)フィルムと樹脂(ii)フィルムとのそれぞれの差スペクトルにより、1700cm-1に現れるCOOH基のカルボニル伸縮振動を確認した。
【0090】
COOH基の存在が確認された場合を「○」とし、確認されなかった場合を「×」とした。
(6)−COOH基を有する構造単位の含有率
核磁気共鳴分光計(NMR)としてBruker社製AVANCE500を用い、測定溶媒としてd−クロロホルムを用い、樹脂(i)および(ii)の1H−NMRスペクト
ルを測定した。得られたスペクトルの3.7ppmのメトキシ基、0.6〜2.8ppmの脂肪族プロトンの積分値より、−COOCH3基を有する構造単位と−COOH基を有
する構造単位との比を算出し、−COOH基を有する構造単位の含有率(モル%)を算出した。
【0091】
(7)全光線透過率、ヘイズ
Gardner社製ヘイズ−光線透過率測定機(Haze−Gard Plus型)を使用して、樹脂(i)フィルムと樹脂(ii)フィルムとの全光線透過率(%)およびヘイズ(%)を測定した。
【0092】
(8)銅箔密着強度
樹脂(i)フィルムおよび樹脂(ii)フィルムそれぞれと20μmの銅箔(日本製箔(株)製)とを重ね、その両面に保護フィルムとしてポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製)で挟み、真空プレス(関西ロール(株)製PEWR−1030型、台板300mm×300mm×1段、電熱式温調)で、200℃×5分間×30MPaでプレスし
圧着した。
【0093】
両面のポリイミドフィルムを剥がし、樹脂層と銅層とを有する積層フィルムをそれぞれ得た。70mm×10mmにカットした積層フィルムをインストロンジャパン カンパニイリミテッド社製引張試験機(5564型)で、250mm/minの速度で樹脂層と銅層とのピール試験を実施し、銅箔密着強度(mN/10mm)を測定した。
【0094】
[合成例1]
下記式(5)で表される8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン(以下「DNM」ともいう。)100部と、1−ヘ
キセン(分子量調節剤)18部と、トルエン(開環重合反応用溶媒)300部とを、窒素置換した反応容器に仕込み、この溶液を80℃に加熱した。次いで、反応容器内の溶液に、重合触媒として、トリエチルアルミニウムのトルエン溶液(0.6モル/リットル)0.2部と、メタノール変性の六塩化タングステンのトルエン溶液(濃度0.025モル/リットル)0.9部とを添加し、この溶液を80℃で3時間加熱攪拌することにより開環重合反応させて開環重合体溶液を得た。この重合反応における重合転化率は97%であった。
【0095】
【化6】

このようにして得られた開環重合体溶液1,000部をオートクレーブに仕込み、この開環重合体溶液に、RuHCl(CO)[P(C6533を0.12部添加し、水素ガス圧100kg/cm2、反応温度165℃の条件下で、3時間加熱撹拌して水素添加反
応を行った。
【0096】
得られた反応溶液(水素添加重合体溶液)を冷却した後、水素ガスを放圧した。この反応溶液を大量のメタノール中に注いで凝固物を分離回収し、これを乾燥して樹脂(i)(以下「樹脂A」ともいう。)を得た。
【0097】
樹脂Aの上記(1)〜(4)に係る物性値を表1に示す。
[合成例2]
DNM71部と、下記式(6)で表されるジシクロペンタジエン(以下「DCP」ともいう。)15部と、下記式(7)で表されるビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(以下「NB」ともいう。)1部と、1−へキセン(分子量調節剤)18部と、トルエン(開環重合反応用溶媒)200部とを、窒素置換した反応容器に仕込み、100℃に加熱した。
【0098】
【化7】

これにトリエチルアルミニウムのトルエン溶液(0.6モル/リットル)0.4部と、メタノール変性の六塩化タングステンのトルエン溶液(濃度0.025モル/リットル)1.8部を加えて1分間反応させ、次いで、DCP10部とNB3部とを5分間かけて追加添加して、さらに45分間反応させることにより、DNM/DCP/NB=69.77/26.01/4.23(重量%)の共重合体を得た。
【0099】
次いで、得られた共重合体の溶液をオートクレーブに入れ、さらにトルエンを200部加えた。次に、反応調整剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを1部と水素添加触媒であるRuHCl(CO)[P(C65)]3を0.006部添加し、155℃まで過熱した後、水素ガスを反応器へ投入し、
圧力を10MPaとした。その後、圧力を10MPaに保ったまま、165℃、3時間の反応を行った。得られた反応溶液(水素添加重合体溶液)を冷却した後、水素ガスを放圧した。この反応溶液を大量のメタノール中に注いで凝固物を分離回収し、これを乾燥して樹脂(i)(以下「樹脂B」ともいう。)を得た。
【0100】
樹脂Bの上記(1)〜(4)に係る物性値を表1に示す。
[合成例3]
単量体としてDNM225部とNB25部とを用い、1−ヘキセンの添加量を27部としたこと以外は、合成例1と同様にして樹脂(i)(以下「樹脂C」ともいう。)を得た。
【0101】
樹脂Cの上記(1)〜(4)に係る物性値を表1に示す。
【0102】
【表1】

[実施例1]
攪拌羽根を装着したガラス製セパラブルフラスコに、樹脂Aの100部を仕込み、そこにトルエン400部を添加して室温で5時間攪拌して、樹脂Aをトルエンに溶解させた。
【0103】
次に、KOHの3.0部をn−ブタノールの17部に溶解させたものを、樹脂Aのトルエン溶液に攪拌しながら添加し、90℃に昇温させ、5時間攪拌した。
そこに、濃硫酸の2.6部をメタノールの3部に溶解させたものを添加し、さらに90℃のまま5時間攪拌した。
【0104】
その後、室温まで冷却し、その反応液をアドバンテック東洋(株)製の孔径1μmのメンブレンフィルターを用い、沈殿物を濾別し、樹脂(ii)溶液を得た。この樹脂(ii)溶液を、PTFEシートを敷いたステンレス製容器に流し入れ、室温×3時間乾燥した後、真空中80℃×3時間、および130℃×12時乾燥して溶媒を蒸発させ、樹脂Dを得た。
【0105】
得られた樹脂Dの上記(2)、(3)、(5)および(6)に係る物性値を表2に示す。
攪拌羽根を装着したガラス製セパラブルフラスコに、樹脂Dの100部を仕込み、そこにトルエン300部を添加して室温で5時間攪拌して、樹脂Dをトルエンに溶解させ樹脂溶液を得た。この樹脂溶液に、酸化防止剤としてペンタエリスリチルテトラキス[3−(
3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)]プロピオネートを、樹脂溶液中の
樹脂100部に対し0.5部となるように添加し、その樹脂溶液をアドバンテック東洋(株)製の孔径5μmのメンブレンフィルターを用い濾過した。その樹脂溶液を、乾燥後の厚みが100μmとなるようアプリケーターを用いて25℃でキャストし、室温で12時間静置し溶剤を蒸発させ、続いて真空下80℃×2時間、さらに150℃×12時間保持し、樹脂フィルムDを得た。
【0106】
得られたフィルムDの上記(7)および(8)に係る物性値を表2に示す。
[実施例2]
実施例1において、KOHを5.7部、濃硫酸を5.0部、およびメタノールを6部に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂Eおよび樹脂フィルムEを得た。
【0107】
得られた樹脂Eの上記(2)、(3)、(5)および(6)に係る物性値と、樹脂フィ
ルムEの上記(7)および(8)に係る物性値とを表2に示す。
[実施例3]
実施例1において、樹脂Aの代わりに樹脂Bを使用する以外は実施例1と同様にして樹脂FおよびそのフィルムFを得た。
【0108】
得られた樹脂Fの上記(2)、(3)、(5)および(6)に係る物性値、およびフィルムFの上記(7)および(8)に係る物性値を表2に示す。
[実施例4]
実施例1において、樹脂Bの代わりに樹脂Cを使用した以外は実施例1と同様にして樹脂GおよびそのフィルムGを得た。
【0109】
得られた樹脂Fの上記(2)、(3)、(5)および(6)に係る物性値、およびフィルムFの上記(7)および(8)に係る物性値を表2に示す。
[比較例1]
攪拌羽根を装着したガラス製セパラブルフラスコに、樹脂Aの100部を仕込み、そこにトルエン300部を添加して室温で5時間攪拌して、樹脂Aをトルエンに溶解させ、樹脂溶液を得た。この樹脂溶液に、酸化防止剤としてペンタエリスリチルテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)]プロピオネートを、樹脂溶液中の樹脂100部に対し0.5部となるように添加し、その樹脂溶液をADVANTEC製の孔径5μmのメンブレンフィルターを用い濾過した。得られた樹脂溶液を、乾燥後の厚さが100μmとなるようアプリケーターを用いて25℃でキャストし、室温で12時間静置し溶剤を蒸発させ、続いて真空下80℃×2時間、さらに150℃×12時間保持し、樹脂フィルムAを得た。
【0110】
樹脂Aの上記(2)、(3)、(5)および(6)に係る物性値、および樹脂フィルムAの上記(7)および(8)に係る物性値を表2に示す。
[比較例2]
比較例1において、樹脂Aの代わりに樹脂Bを用いた以外は同様の方法により、樹脂フィルムBを得た。
【0111】
樹脂Bの上記(2)、(3)、(5)および(6)に係る物性値、および樹脂フィルムBの上記(7)および(8)に係る物性値を表2に示す。
[比較例3]
比較例1において、樹脂Aの代わりに樹脂Cを用いた以外は同様の方法により、樹脂フィルムCを得た。
【0112】
樹脂Cの上記(2)、(3)、(5)および(6)に係る物性値、および樹脂フィルムCの上記(7)および(8)に係る物性値を表2に示す。
【0113】
【表2】

表2から、高分子量の樹脂(i)である樹脂A、BおよびCの溶液に、KOHのアルコール溶液を添加し加熱処理した後、酸処理することによって、高分子量で−COOH基を
含有する樹脂(ii)が得られた。この樹脂(ii)から作製したキャストフィルムもノルボルネン系樹脂フィルムとして充分な透明性を有することが明らかとなった。さらに、この樹脂(ii)からなるフィルムは、金属との密着性に優れ、銅箔との密着強度は、樹脂(i)である樹脂A〜Cと比較し、2倍以上向上し、特に、実施例2の樹脂Eからなるフィルムは、樹脂Aからなるフィルムの約7倍まで密着力が向上した。
【0114】
すなわち、このような樹脂(ii)を使用することによって、透明かつ金属密着性に優れるノルボルネン系樹脂フィルムが得られることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の環状オレフィン樹脂フィルムは、光ディスク、光ファイバー、光学レンズ、ミラー、半導体封止材、LCD用透明導電フィルム、LCD用低位相差フィルム、ガラス代替光学板材、透明耐熱コート材などに利用できるが、従来のものと比較して、金属との密着性に優れていることから、特に、電子回路基板フィルム、タッチパネル等の金属を積層させる部材に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量〔Mw〕が、ポリスチレン換算で5万〜20万であり、
−COOH基を1つ以上有する構造単位を含有することを特徴とする環状オレフィン樹脂。
【請求項2】
上記の−COOH基を1つ以上有する構造単位が、下記式(1)で表されることを特徴とする請求項1に記載の環状オレフィン樹脂。
【化1】

(式中、R1〜R4は、それぞれ独立に、下記(i)〜(vi)より選ばれるものを表し、xは、0または1〜3の整数を表し、yは、1以上の整数を表す。
ただし、R1〜R4の少なくとも1つは、下記(v)を表す。
(i)水素原子、
(ii)ハロゲン原子、
(iii)酸素原子、窒素原子、イオウ原子およびケイ素原子からなる群より選ばれる1種以上の原子を有する1価の基、
(iv)置換または非置換の炭素原子数1〜15の炭化水素基、
(v)−R5−COOHで表される基、
[R5は、単結合;置換もしくは非置換のメチレン基;炭素原子数2〜8の直鎖状もしく
は分岐状のアルキレン基;またはエーテル性酸素原子を含む炭素原子数2〜8の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基を表す。]
(vi)R1とR2と、またはR3とR4とが、相互に結合して形成されたアルキリデン基、
(vii)R1とR2と、R3とR4と、またはR2とR3とが、相互に結合して形成された単環または多環の炭素環もしくは複素環、
(viii)R1とR4と、またはR2とR3とが、相互に結合して形成された二重結合、もしくは、R1とR4と、およびR2とR3とが、相互に結合して形成された三重結合。)
【請求項3】
請求項1または2に記載の環状オレフィン樹脂から成形されてなることを特徴とするフィルム。
【請求項4】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量〔Mw〕が、ポリスチレン換算で5万〜20万であり、
−COOH基を1つ以上有する構造単位を含有する環状オレフィン樹脂の製造方法であって、
少なくとも下記工程(I)〜(IV)を含むことを特徴とする環状オレフィン樹脂の製造方法。
工程(I):GPCによる重量平均分子量〔Mw〕が、ポリスチレン換算で5万〜20万であり、−R5-COOR6で表される基
(R5は、単結合;置換もしくは非置換のメチレン基;炭素原子数2〜8の直鎖状もしく
は分岐状のアルキレン基;またはエーテル性酸素原子を含む炭素原子数2〜8の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基を表し、
6は、置換あるいは非置換の直鎖状、分岐状もしくは環状の、炭素原子数1〜15の
アルキル基;置換あるいは非置換の直鎖状、分岐状もしくは環状の、エーテル性酸素原子を含む炭素原子数1〜15のアルキル基;または置換もしくは非置換のアリール基を表す。)
を1つ以上有する構造単位を含有する環状オレフィン樹脂と、
水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムおよび水酸化マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種の水酸化物と
を含有する樹脂組成物を加熱する工程、
工程(II):該工程(I)を経て得られた樹脂組成物に、さらに無機酸および有機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸を添加し加熱する工程、および
工程(III):該工程(II)を経て得られた樹脂組成物から溶媒を留去するとともに、環状オレフィン樹脂を単離する工程。
【請求項5】
さらに、上記工程(II)を経て得られた樹脂組成物をろ過する工程を含むことを特徴とする請求項4に記載の環状オレフィン樹脂の製造方法。
【請求項6】
上記の−R5-COOR6で表される基を1つ以上有する構造単位が、下記式(2)で表
されることを特徴とする請求項4または5に記載の環状オレフィン樹脂の製造方法。
【化2】

(式(2)中、R7〜R10は、それぞれ独立に、下記(i)〜(vi)より選ばれるもの
を表し、xは、0または1〜3の整数を表し、yは、1以上の整数を表す。
ただし、R1〜R4の少なくとも1つは、下記(v)を表す。
(i)水素原子、
(ii)ハロゲン原子、
(iii)酸素原子、窒素原子、イオウ原子およびケイ素原子からなる群より選ばれる1種以上の原子を有する1価の基、
(iv)置換または非置換の炭素原子数1〜15の炭化水素基、
(v)−R5−COOR6で表される基、
[R5は、単結合;置換もしくは非置換のメチレン基;炭素原子数2〜8の直鎖状もしく
は分岐状のアルキレン基;またはエーテル性酸素原子を含む炭素原子数2〜8の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基を表し、
6は、置換あるいは非置換の直鎖状、分岐状もしくは環状の、炭素原子数1〜15の
アルキル基;置換あるいは非置換の直鎖状、分岐状もしくは環状の、エーテル性酸素原子を含む炭素原子数1〜15のアルキル基;または置換もしくは非置換のアリール基を表す。]
(vi)R1とR2と、またはR3とR4とが、相互に結合して形成されたアルキリデン基、
(vii)R1とR2と、R3とR4と、またはR2とR3とが、相互に結合して形成された単環または多環の炭素環もしくは複素環、
(viii)R1とR4と、またはR2とR3とが、相互に結合して形成された二重結合、もしくは、R1とR4と、およびR2とR3とが、相互に結合して形成された三重結合。)

【公開番号】特開2010−53306(P2010−53306A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222313(P2008−222313)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】