説明

環状デキストリン抱接化合物

【課題】脂溶性であるクリプトキサンチンの水溶性を向上させると共に、生体への吸収性、更には安定性が向上したデキストリン抱接化合物を提供する。
【解決手段】環状デキストリン(シクロデキストリン、高度分岐環状デキストリンなど)にクリプトキサンチン及び/又はその誘導体を配合することを特徴とする環状デキストリン抱接化合物、好ましくは、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体が、温州みかんに由来するものである前記の環状デキストリン抱接化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、飼料、医薬品などに用いることができる、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体の環状デキストリン抱接化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カロテノイド類はプロビタミンA作用、抗酸化作用のほか、発ガン抑制などの効果を有することが知られている。天然には種々のカロテノイドが存在するが、これらのうち、β−カロテン、リコペン、ルテイン、ゼアキサンチン、アスタキサンチン、β−クリプトキサンチンの6種はヒトの血清中に見出されることから、主要カロテノイド、あるいは血清カロテノイドと呼ばれている。
【0003】
これらのうち、β−クリプトキサンチンは他の主要カロテノイドに比べ供給量が少ない上、含有する食品が限られていることから、ことに欧米では希少な食品成分となっている。しかし日本においては、β−クリプトキサンチンは温州みかんや柿に多く含まれることから欧米に比べ摂取量が多く、その有用性に関する研究も盛んである。
【0004】
動物試験や疫学調査結果により、β−クリプトキサンチンには発ガンの抑制、骨粗鬆症の改善、肝機能の保持などの有用性があることが明らかとなった。しかし供給が十分でない、あるいは生体への吸収性が低いなどの理由により、他の主要カロテノイドに比べて開発が遅れている。またβ−クリプトキサンチン(及びその誘導体)は熱や酸化による生理活性の喪失を受けやすいこともβ−クリプトキサンチンの有効利用を妨げる要因となっている。
【0005】
カロテノイドを食品としてではなくサプリメント等として摂取する場合、吸収性を向上させる方法として、一定の条件をクリアした乳化物が有効であるとの報告がある(例えば、特許文献1参照)。しかしこの方法は乳化したミセルの粒度を厳密にコントロールしなければならないという困難さを有するうえ、高コスト・低収率になりやすい。
【0006】
またカロテノイドをシクロデキストリンで包接することにより、本来は水に不溶なカロテノイド(アスタキサンチン)を水溶性の粉末とすることができることが報告されている(例えば、特許文献2、3参照)。しかしながらこの方法ではカロテノイドの水溶性を向上させることはできてもカロテノイドの安定性を向上させるには不十分なうえ、カロテノイドの吸収性を向上させることはできなかった。
【0007】
以上述べたように、カロテノイドの吸収効率を向上させる方法は知られてはいるが、β−クリプトキサンチンのような希少なカロテノイドの水溶性と生体への吸収性及び/または吸収率を同時に、しかも簡便に向上させるには十分であるとは言い難かった。
【特許文献1】公開平9−157159号公報
【特許文献2】公開平9−124470号公報
【特許文献3】公開2001−2569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、本来は脂溶性であるクリプトキサンチンの水溶性を向上させると共に、生体への吸収性、更には安定性を簡便に向上させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討の結果、温州みかんの抽出液を環状構造を有するデキストリンと混合することによりβ-クリプトキサンチンを包接させ、その後に乾燥・粉末化することによりβ−クリプトキサンチンの安定性を大幅に向上させることができることを見出した。また本粉末化により、通常は水には全く溶解しないクリプトキサンチンの水溶化が可能になるばかりでなく、生体への吸収性(バイオアベイラビリティー)も向上することを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、環状デキストリンにクリプトキサンチン及び/又はその誘導体を配合することを特徴とする環状デキストリン抱接化合物を要旨とするものであり、好ましくは、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体が、温州みかんに由来するものである前記の環状デキストリン抱接化合物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、脂溶性であるクリプトキサンチンの水溶性を簡便に向上させると共に、生体への吸収性、更には安定性を向上させることができる。その結果、従来は利用に制限が多いとされていたクリプトキサンチンの飲料、食品、サプリメントなどへの添加が容易となる。それと同時に、本発明のクリプトキサンチンは効率よく生体に吸収されるため、少量の摂取で効率よくクリプトキサンチンの生理効果を発揮させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下の本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明におけるクリプトキサンチンは、α−クリプトキサンチン、β−クリプトキサンチンのどちらでも構わない。また、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体は、植物、藻類、微生物から抽出されたものや、化学合成により製造されたものなど起源は問わないが、安全性や含有量の観点から、温州みかん、あるいはその搾汁残渣、加工中間体(廃棄物を含む)、あるいはこれらの乾燥物を有機溶媒にて抽出したものが好ましい。
【0014】
温州みかんをはじめとする天然物由来のクリプトキサンチンはそのほとんどが脂肪酸エステルの形で存在しており、脂肪酸の結合しないクリプトキサンチンのフリー体は30%未満である。また、クリプトキサンチンの脂肪酸エステルには結合する脂肪酸によって複数の分子種が存在することが知られている。
【0015】
本発明ではこれらクリプトキサンチンの脂肪酸エステルをクリプトキサンチン誘導体と呼ぶ。本発明においては、クリプトキサンチンのフリー体だけでなくその誘導体も範疇に含めるものとする。
【0016】
天然物からクリプトキサンチンを抽出する場合に用いられる抽出溶媒としては、クリプトキサンチンを溶出可能なものであれば特に限定はなく、アセトン、エタノール、メタノール、n−ヘキサン、酢酸エチル、クロロホルム、イソプロピルアルコール、ブタノール、エーテル、1、3−ブチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、超臨界二酸化炭素等を用いることができる。その中でもエタノール、アセトン、ヘキサン、超臨界二酸化炭素が好適である。
【0017】
得られた抽出液はそのまま用いてもよいしエバポレーターなどにより濃縮してから用いてもよい。また抽出液中に塩析処理を施すなどして、抽出液中のクリプトキサンチンの相対濃度を向上させたものを用いてもよい。またアルカリ処理によりクリプトキサンチンの一部又は全てをけん化してから用いてもよいし、これらの処理を2つ以上組み合わせたものを用いてもよい。
【0018】
本発明で用いられる環状デキストリンには、シクロデキストリンと高度分岐環状デキストリン(例えば、「クラスターデキストリン」登録商標(江崎グリコ社))があり、さらにシクロデキストリンには、α,β,γの異性体があり、そのいずれを用いてもよいが、これらの中では環状構造が最も大きいγ−シクロデキストリンが好ましい。またこれら以外にも水溶性のシクロデキストリン誘導体として、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、メチル−β−シクロデキストリン、モノアセチル−β−シクロデキストリン、トリアセチル−β−シクロデキストリン、モノクロロトリアジル−β−シクロデキストリン,スルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリンを用いてもよい。
【0019】
シクロデキストリン以外にも環状構造を有するものとして高度分岐環状デキストリンがある。高度分岐環状デキストリンはシクロデキストリンよりも分子量、環状構造共に大きく、水溶性も高いため本発明の環状デキストリンとして好ましい。
【0020】
クリプトキサンチン及び/又はその誘導体と環状デキストリンの混合比率は質量比でクリプトキサンチン及び/又はその誘導体1質量部に対して環状デキストリン0.0001〜10,000質量部が好ましく、0.001〜1,000がより好ましい。更には0.1〜100が好適である。
【0021】
本発明において、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体の環状デキストリンへの抱接方法としては、混練法、液相混合法、溶媒蒸発法、共沈法、凍結乾燥法などが一般的である。クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を環状デキストリンに抱接する方法としてはこれらのいずれでもかまわないが、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を溶媒抽出後、直ちに抱接することが可能であり、かつ操作の容易な液相混合法や共沈法が好ましい。
【0022】
クリプトキサンチン及び/又はその誘導体の環状デキストリンへの抱接工程は、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体の分解を防ぐため、80℃以下での実施が好ましい。より好ましくは60℃以下、更に好ましくは25℃以下が好適である。
【0023】
こうして得られた抱接物は、ロータリーエバポレーター、スプレードライヤー、凍結乾燥、ドラムドライヤーなどにより乾燥化させ、ミル式粉砕機、石臼式粉砕機、ナイフ式粉砕機などにより粉砕して粉末化することにより、食品、飼料、医薬品などへの配合が容易になる。
【実施例】
【0024】
以下に本発明の実施例を記す。なお本発明はこの実施例によりその範囲を限定するものではない。なお、実施例中におけるクリプトキサンチンの定量法には高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた。HPLC装置として、島津製作所製LC−10Aを用い、ウォーターズ社製ResolveC18(φ3.9×150mm)カラムを接続し、メタノールを等量加えた試料を導入した。移動相には、メタノール:酢酸エチル=7:3、カラム温度30℃、流速1.0ml/min、検出波長450nmで含有量を分析した。
【0025】
実施例1
温州みかんの搾汁残渣の凍結乾燥物をナイフ式粉砕機にて粉砕した。粉砕物50gに500mlのエタノールを添加し、室温で2時間かくはん後、ろ過してみかん抽出液を得た。
【0026】
この温州みかん抽出液100mlに100mlの10%(w/v)γ−シクロデキストリン水溶液と300mlの蒸留水を加えて室温で30分撹拌した後、凍結乾燥・粉砕して試験物1を得た。試験物1にはβ−クリプトキサンチンがフリー体換算で1.0mg/g含まれていた。
【0027】
実施例2
温州みかんの搾汁残渣の凍結乾燥物をナイフ式粉砕機にて粉砕した。粉砕物50gに500mlのエタノールを添加し、室温で2時間かくはん後、ろ過してみかん抽出液を得た。
【0028】
この温州みかん抽出液100mlに100mlの10%(w/v)「クラスターデキストリン」(江崎グリコ社)水溶液と300mlの蒸留水を加えて室温で30分撹拌した後、凍結乾燥・粉砕して試験物2を得た。試験物2にはβ−クリプトキサンチンがフリー体換算で1.1mg/g含まれていた。
【0029】
比較例1
実施例1と同様にして得た温州みかん抽出液100mlに100mlの10%(w/v)デキストリン水溶液を加え、室温で30分撹拌した後、凍結乾燥・粉砕して比較物1を得た。比較物1にはβ−クリプトキサンチンが1.0mg/g含まれていた。
【0030】
試験例1
試験物1、試験物2及び比較物1を80℃暗所で24時間密閉保存した後、β−クリプトキサンチン含有量を保存前と比較した。その結果、試験物1、試験物2の残存β−クリプトキサンチン量はそれぞれ95%、97%であったのに対し、比較物1の残存β−クリプトキサンチン量は48%に減少していた。
【0031】
試験例2
試験物1、試験物2と比較物1を1%(w/v)で水に添加・かくはん後、室温暗所に8時間静置し、溶解性を比較した。その結果、試験物1、試験物2の水溶液は均一であったのに対し、比較物1水溶液にはネックリングが発生していた。
【0032】
試験例3
試験物1、試験物2と比較物1を、1錠にβ−クリプトキサンチンが0.5mgとなるように配合したソフトカプセルを打ち抜き法にて作成した。すなわち、試験物0.5gをゼラチンを主成分とする2枚のゲル状シート(皮膜)に挟み込み、試験物を含むようにシートをカプセル形状に打ち抜くと同時に2枚のゲル上シートを熱接着した。
【0033】
健康な成人男性30人を3群(1群あたり10人)に分け、各群に上記ソフトカプセルを毎日1錠、4週間にわたって摂取させ、摂取前と4週間後の血清β-クリプトキサンチン値の増加量を比較した。その結果、試験物1摂取群、試験物2摂取群、比較物1摂取群の血清β-クリプトキサンチン増加量はそれぞれ385、372、176μg/dLであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状デキストリンにクリプトキサンチン及び/又はその誘導体を配合することを特徴とする環状デキストリン抱接化合物。
【請求項2】
クリプトキサンチン及び/又はその誘導体が、温州みかんに由来するものである請求項1記載の環状デキストリン抱接化合物。


【公開番号】特開2009−184947(P2009−184947A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25182(P2008−25182)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】