説明

環状化合物

【課題】600nm以上の長波長領域においても光電変換効率の高い光電変換素子を与える化合物を提供する。
【解決手段】環状化合物(I)。


[式中、A、B、Cは、5〜20員環の芳香族炭化水素基を表す。芳香族炭化水素基の炭素は、窒素、酸素、硫黄等に置換されていてもよい。該窒素は、4価のカチオンであってもよく、酸素、硫黄は3価のカチオンであってもよい。
〜Rは、水素、アルキル基等を表す。n及びn’はそれぞれ独立に0〜2に表す。
及びR10は、酸素、硫黄、セレン、テルル等を表す。R及びRは、それぞれ独立に、O、S、Seを表す。
及びYは、−COH、−SOH及び−POを表し、m及びm’は0〜6であって、m+m’≧1を充足する整数を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子に好適な環状化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止のために大気中に放出されるCOの削減が求められている。COの削減の有力な手段として、例えば、家屋の屋根にpn接合型のシリコン系太陽電池などの光電気化学電池を用いるソーラーシステムへの切り替えが提唱されている。しかしながら、上記シリコン系光電気化学電池に用いられる単結晶、多結晶及びアモルファスシリコンは、その製造過程において高温、高真空条件が必要なために高価であるという問題があった。
一方、非特許文献1には、製造が容易な色素を酸化チタン薄膜の表面に固定した光電変換素子を含む光電気化学電池が提案されている。該色素はRu錯体化合物であることから、高価なRuを含むため、十分安価ではなかった。
また、Ru錯体化合物は、575nmより短波長領域において十分な光を吸収するものの、600nm以上の長波長領域における吸光係数が低く、長波長領域でも吸光して高い光電変換効率の光電変換素子を与える光電変換色素用の化合物が求められていた。
このような状況下、長波長領域において高い吸光度を示す光電変換色素として、化合物(1)が提案されている(非特許文献2)。
【0003】

【0004】
【非特許文献1】Nature、第737−740頁、353巻(1991年)
【非特許文献2】岡崎 正樹ら、実用化に向けた色素増感太陽電池、p134、株式会社エヌ・ティ・エス、2003年9月30日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが化合物(1)について検討したところ、長波長領域での光電変換効率が十分ではないことが明らかになった。
本発明の目的は、安価で、かつ、容易に製造することができ、600nm以上の長波長領域においても光電変換効率の高い光電変換素子を与える化合物、該化合物を含む光電変換素子用色素、該色素を含む光電変換素子及び、該素子を含む光電気化学電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、式(I)で示される環状化合物、該化合物を含む光電変換素子用色素、該色素を含む光電変換素子及び、該素子を含む光電気化学電池である。

[式中、A、B、Cは、それぞれ独立に5〜20員環の芳香族炭化水素基を表す。芳香族炭化水素基の炭素は、窒素、酸素、硫黄、セレン又はテルルに置換されていてもよい。該窒素は、芳香族炭化水素環を構成する炭素との結合以外が炭素数1〜12の炭化水素基と結合している4価であってもよく、酸素、硫黄及びセレンは3価であってもよい。
該芳香族炭化水素基は、芳香族性を有するのであれば、縮合環であっても、単結合、エーテル結合又は共役二重結合で連結された複数の環状構造を有していてもよい。
該芳香族炭化水素基を構成する炭素に結合する水素は、炭化水素基に置換されていてもよい。
〜Rは、それぞれ独立に、水素、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロ環基を表す。n及びn’はそれぞれ独立に0〜2を表す。
及びR10は、それぞれ独立に、酸素、硫黄、セレン、テルル、=CR1213、=NR14を表す。R12〜R14は、それぞれ独立に、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルキル基を表す。R12及びR13は互いにアルキレン基で結合していてもよく、該アルキレン基の炭素は酸素、硫黄、セレン、テルル、窒素で置換されていてもよい。
及びRは、それぞれ独立に、O-、S-、Se-を表す。
m及びm’は0〜6であって、m+m’≧1を充足する整数を表す。Y及びYは、それぞれ独立に、−COH、−SOH及び−POからなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を表し、YはAの芳香族炭化水素基を構成する炭素に結合する官能基であり、mが2以上の場合にはYが互いに異なる官能基であってもよい。YはCの芳香族炭化水素基を構成する炭素に結合する官能基であり、m’が2以上の場合にはYが互いに異なる官能基であってもよい。]
【発明の効果】
【0007】
本発明の環状化合物は、安価で製造容易な化合物であり、600nm以上の長波長領域においても高い光電変換効率を示し得る化合物である。このことにより、光電気化学電池用などの光電変換素子に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は式(I)で示される環状化合物であり、環状部位としてA、B及びCと、2つの4員環とを分子内に有する化合物である。
A及びCは環状化合物(I)中で同一種類であると、環状化合物(I)の製造が容易であることから好ましい。
【0009】
A及びCは、5〜20員環、好ましくは9〜20員環の芳香族炭化水素基、即ち、芳香族性を有する1価の炭化水素環を表す。A及びCを構成する芳香族炭化水素基の炭素は、芳香族性を有する限り、窒素、酸素、硫黄、セレン又はテルルに置換されていてもよい。
該窒素は、芳香族炭化水素環を構成する炭素との結合以外は炭素数1〜12の炭化水素基と結合している4価であってもよく、酸素、硫黄及びセレンは3価であってもよい。
環状化合物(I)は、R及びRがアニオンの形で示されているが、環状化合物(I)の分子内に、3価の酸素、4価の窒素などのカチオンを含んでいてもよく、好ましくは、分子内にカチオンを含んで環状化合物(I)として電荷として中性であることが好ましく、とりわけ、A及び/又はCにカチオンを有していることが好ましい。
【0010】
A及びCは、2環系、3環系などの縮合環であってもよい。好ましくは、5員環又は6員環が縮合してなる9〜20員環である。A及びCは、単結合、エーテル結合又は共役二重結合で連結された2〜3程度の複数の環状構造を有していてもよいが、好ましくは、単結合、エーテル結合又は共役二重結合で連結された複数の環状構造を有しないことが好ましい。
A及びCを構成する炭素に結合する水素は、炭素数1〜12程度のアルキル基、炭素数1〜12程度のアルケニル基、炭素数5〜12程度のシクロアルキル基、炭素数6〜12程度のアリール基などの炭素数1〜12の炭化水素基に置換されていてもよい。
A及びCとしては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環などが挙げられる。
【0011】
Aに結合するYは、−COH、−SOH及び−POからなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基であり、YはAの芳香族炭化水素基を構成する炭素に結合する。mが2以上の場合にはYが互いに異なる官能基であってもよい。
Cに結合するXは、−COH、−SOH及び−POからなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基であり、YはCの芳香族炭化水素基を構成する炭素に結合する。m’が2以上の場合にはYが互いに異なる官能基であってもよい。
及びYは同一でも異なっていてもよい。
m及びm’は0〜6であって、m+m’≧1を充足する整数を表す。すなわち、A及びCのいずれか一方に上記官能基を有するか、A及びCのいずれにも上記官能基を有する。
及びYは、水酸化テトラブチルアンモニウム、ピリジンなどの塩基で中和されていてもよい。
【0012】
A及びCとしては、4価の窒素や3価の酸素などのカチオンを含む基であることが好ましく、中でも、式(II)〜(V)で表される基などが好ましく、とりわけ、式(II)を含む環状化合物は光電変換効率の高い光電変換素子を与える傾向があることから好ましい。

【0013】
式(II)〜(V)中、R20、R30及びR50は、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基、好ましくはメチル基又はエチル基を表す。
式(II)中、R21及びR22は、メチル基、エチル基などの炭素数1〜6の炭化水素基、水素を表し、p及びqはそれぞれ独立に0又は1を表す。
式(II)中のXは、炭素、3価若しくは4価の窒素、2価若しくは3価の硫黄、2価若しくは3価の酸素又は2価若しくは3価のセレンを表す。Xが3価の窒素であればq=0、すなわち、R22は存在せず、Xが2価若しくは3価の酸素、2価若しくは3価の硫黄又は2価若しくは3価のセレンであれば、p=q=0、すなわち、R21及びR22はいずれも存在しない。
21とR24とは、連結して芳香族性の縮合環を形成していてもよい。
【0014】
式(II)において、Y(またはY)とは異なるR24〜R26は、炭素数1〜12の炭化水素基又は水素であり、好ましくは水素である。該炭化水素基は互いに連結して縮合環を形成してもよい。
【0015】
式(II)で表されるA及びCの具体例としては、下記式が挙げられる。

【0016】
式(III)において、Y(またはY)とは異なるR31〜R36は、炭素数1〜12の炭化水素基又は水素であり、好ましくは水素である。該炭化水素基は互いに連結して縮合環を形成してもよい。
式(III)で表されるA及びCの具体例としては、下記式が挙げられる。

【0017】
式(IV)において、Y(またはY)とは異なるR41〜R46は、炭素数1〜12の炭化水素基又は水素であり、好ましくは水素である。該炭化水素基は互いに連結して縮合環を形成してもよい。
式(IV)で表されるA及びCの具体例としては、下記式が挙げられる。

【0018】
式(IV)において、Y(またはY)とは異なるR51〜R56は、炭素数1〜12の炭化水素基又は水素であり、好ましくは水素である。該炭化水素基は互いに連結して縮合環を形成してもよい。
式(V)で表されるA及びCの具体例としては、下記式が挙げられる。

【0019】
式(I)中、Bは5〜20員環の芳香族炭化水素基、即ち、芳香族性を有する2価の環状炭化水素環を表す。Bを構成する芳香族炭化水素基の炭素は、窒素、酸素、硫黄、セレン又はテルルに置換されていてもよい。
Bは、芳香族性を有するのであれば、2つの環状構造からなる縮合環、3つの環状構造からなる縮合環などの縮合環であってもよいし、単結合、エーテル結合又は共役二重結合で連結された複数の環状構造を有していてもよく、好ましくは、2価の単環、分子内に2〜3個の環状構造を有する2価の基、2つの環状構造からなる縮合環または3つの環状構造からなる縮合環である。
Bを構成する炭素には、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数6〜12のシクロアルキル基などの炭素数1〜12の炭化水素基、炭素数1〜6の炭化水素基が結合してもよいアミノ基、ヘテロ環基が結合していてもよい。本発明におけるヘテロ環基とは、芳香族性を有する1価の環状基であって、窒素、酸素、硫黄、セレンなどのヘテロ原子を環状基に少なくとも1つ有する5〜12員環である。
【0020】
Bを結合部位を水素で置換した化合物の形式で例示すると、例えば、ベンゼン、チオフェン、ピロール、N-アルキルピロール、フラン、ナフタレン、ジビニルベンゼン、スチルベン、ビチオフェン、トリチオフェン、ベンゾチアゾール、キノリン、インドレニン、イミダゾール、オキサジアゾール等が挙げられる。中でもベンゼン、チオフェン、ピロール、N-アルキルピロール、フラン、ナフタレン、スチルベン、ビチオフェンが好ましい。
また、ベンゼンが単結合で連結されたビフェニルのように、上記例示化合物を単結合、エーテル結合又は共役二重結合で連結させた化合物も好ましい。
尚、Bは、上記例示化合物において、環状部分の炭化水素基の水素原子2個が結合部位に置換され、得られる2価の基は芳香族性を有する。
Bの具体例としては表1の2価の基が挙げられる。
【0021】
【表1】

【0022】
〜Rは、それぞれ独立に、水素、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、ヘテロ環基を表す。
1〜R6に結合する二重結合はシス形でもトランス形でもよい。
1〜R6に結合する二重結合の数、すなわち、式(I)中のn、n’の値は0〜2であり、中でもn=n’=0は環状化合物(I)の製造が容易であることから好ましい。
【0023】
及びR10は、それぞれ独立に、酸素、硫黄、セレン、テルル、=CR1213、=NR14を表す。R12〜R14は、それぞれ独立に、シアノ基、カルボキシル基、炭素数3〜12のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜12のアルキル基を表す。R12及びR13は互いに炭素数3〜12のアルキレン基で結合していてもよく、該アルキレン基の炭素は酸素、硫黄、セレン、テルル、窒素で置換されていてもよい。
中でも、R及びR10は、酸素(=O)が好ましい。
【0024】
及びRは、アニオンであり、具体的には、それぞれ独立に、O、S、Seを表す。中でも、R及びRは、Oが調製が容易であることから好ましい。
【0025】
環状化合物(I)の具体例としては下式及び表2で表される環状化合物(I-II-1)〜(I-II-38)が挙げられる。

【0026】
【表2】

【0027】
表2中の環状化合物(I-II-9)を以下の構造式で示す。

【0028】
環状化合物(I)には、Bに隣接する4員環部位以外のアニオンを含んでいてもよいが、Bに隣接する4員環部位のみをアニオンとして含むことが好ましい。
本発明の環状化合物(I)は、通常、A及び/又はCに存在するカチオンで中性化されるが、環状化合物(I)がアニオンである場合、光電変換素子用色素としては、通常、テトラアルキルアンモニウムイオンやピリジニウムイオン等のアンモニウムイオンなどのカチオンを含有させる。
また、本発明の環状化合物(I)がカチオンである場合、光電変換素子用色素としては、通常、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲンイオン;硫酸イオン;過塩素酸イオンなどのアニオンを含有させる。
【0029】
環状化合物(I)の製造方法としては、例えば、スクアリリウム骨格を有する場合について説明すると、A及びCの構造と活性なメチル基などのアルキル基とを有する化合物に、キノリンやトリエチルアミンなどの有機塩基化合物を触媒量添加して該化合物の活性部位にアニオンを生成させ、このアニオンにBの構造を含むセミスクアリン酸を反応させて、脱水縮合させる方法などが挙げられる。
また、かかる脱水縮合反応の触媒として、オルトギ酸エチルのようなオルトギ酸エステルを添加していてもよい。
環状化合物(I)は塩の形で取り出してもよい。
【0030】
本発明の光電変換素子用色素は、本発明の環状化合物(I)に由来する塩を含む色素である。色素としては、一種の環状化合物(I)に由来する塩であっても、異なる種類の環状化合物(I)同士の混合物に由来する塩であっても、環状化合物(I)とは異なる化合物に由来する塩と環状化合物(I)に由来する塩との混合物であってもよい。
環状化合物(I)と混合してもよい色素としては、波長 300〜700nm付近に吸収を持つ金属錯体や有機色素などを挙げることができる。
混合してもよい金属錯体の具体例としては、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニンなどの金属フタロシアニン、クロロフィル、ヘミン、特開平1−220380号や特公平5−504023号に記載のルテニウム、オスミウム、鉄、亜鉛の錯体などが挙げられる。
ルテニウム錯体をさらに詳しく例示すれば、cis-ビス(イソチオシアネート)ビス(2,2'-ビピリジル-4,4'-ジカルボキシレート)-ルテニウム(II) ビス-テトラブチルアンモニウム、cis-ビス(イソチオシアネート)ビス(2,2'-ビピリジル-4,4'-ジカルボキシレート)-ルテニウム(II)、トリス(イソチオシアネート)−ルテニウム(II)-2,2':6',2"-テーピリジン-4,4',4"-トリカルボン酸トリス−テトラブチルアンモニウム、cis-ビス(イソチオシアネート)(2,2'-ビピリジル-4,4'-ジカルボキシレート)(2,2'-ビピリジル-4,4'-ジノニル)ルテニウム(II)などが挙げられる。
【0031】
有機色素としては、例えば、メタルフリーフタロシアニン、シアニン系色素、メロシアニン系色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン色素、スクアリリウム系色素などが挙げられる。シアニン系色素としては、具体的には、NK1194、NK3422(いずれも日本感光色素研究所製)などが例示される。メロシアニン系色素としては、具体的には、NK2426、NK2501(いずれも日本感光色素研究所製)が挙げられる。キサンテン系色素としては、例えば、ウラニン、エオシン、ローズベンガル、ローダミンB、ジブロムフルオレセインなどが挙げられる。トリフェニルメタン色素としては、例えば、マラカイトグリーン、クリスタルバイオレットが挙げられる。クマリン系色素としては、NKX−2677(林原生物化学研究所製)等が挙げられる。インドリン系等の有機色素として、具体的には以下に示した構造部位を含む化合物などが例示される。

【0032】
本発明の光電変換素子とは、本発明の光電変換素子用色素を吸着させた半導体微粒子層及び導電性基板を含む素子であり、吸着された色素は高温(80℃)での安定性が高く、600nm以上の長波長の光エネルギーも吸収することができる。
光電変換素子は、例えば、本発明の光電変換素子用色素の吸収波長である600nm以上、好ましくは600〜700nmの波長に感応する光センサや後述する光電気化学電池などに用いられる。
【0033】
本発明の光電変換素子に用いられる半導体微粒子の一次粒径は、通常、1〜5000nm程度、好ましくは5〜300nm程度である。反射による光電変換効率の向上を目的として、一次粒径の異なる半導体粒子を混入させてもよい。また、チューブや中空形状の微粒子を用いてもよい。
【0034】
半導体微粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ストロンチウム、酸化インジウム、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ガリウム、酸化ニッケル、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸ナトリウム等の金属酸化物;ヨウ化銀、臭化銀、ヨウ化銅、臭化銅等の金属ハロゲン化物;硫化亜鉛、硫化チタン、硫化インジウム、硫化ビスマス、硫化カドミウム、硫化ジルコニウム、硫化タンタル、硫化モリブデン、硫化銀、硫化銅、硫化スズ、硫化タングステン、硫化アンチモン等の金属硫化物;セレン化カドミウム、セレン化ジルコニウム、セレン化亜鉛、セレン化チタン、セレン化インジウム、セレン化タングステン、セレン化モリブデン、セレン化ビスマス、セレン化鉛等の金属セレン化物;テルル化カドミウム、テルル化タングステン、テルル化モリブデン、テルル化亜鉛、テルル化ビスマス等の金属テルル化物;リン化亜鉛、リン化ガリウム、リン化インジウム、リン化カドミウム等の金属リン化物;ガリウム砒素、銅−インジウム−セレン化物、銅−インジウム−硫化物、シリコン、ゲルマニウム等が挙げられる。さらに、酸化亜鉛/酸化スズ、酸化スズ/酸化チタンのような二種以上の混合物であってもよい。
【0035】
中でも、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ストロンチウム、酸化インジウム、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ガリウム、酸化ニッケル、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸ナトリウム、酸化亜鉛/酸化スズ、酸化スズ/酸化チタン等の金属酸化物が、比較的安価で入手しやすく、色素にも染色されやすいことから好ましく、とりわけ、酸化チタンが好適である。
【0036】
本発明の光電変換素子に用いられる導電性基板(図1における1及び2)としては、導電性物質そのもの、又は、基板に導電性物質を重ねたものを用いることができる。導電性物質としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、チタン、パラジウム又は鉄等の金属や、該金属のアロイ、或いはインジウム−スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの等の導電性金属酸化物、炭素、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリアニリン等の導電性高分子が挙げられる。導電性高分子は、例えば、パラトルエンスルフォン酸等がドープされていてもよい。
入射した光を閉じ込め、有効に利用するために、表面にテクスチャー構造を有するものが好ましい。導電層(図1における2、6)は抵抗が低いほどよく、高透過性(350nmより長波長側で、透過率が80%以上)であることが好ましい。導電性基板(図1における1、7)としては、ガラス又はプラスチックに導電性の金属酸化物を塗布したものが好ましい。中でも、フッ素をドーピングした二酸化スズからなる導電層を積層した導電性ガラスが特に好ましい。プラスチック基板とする場合は、アートン(JSRの登録商標)、ゼオノア(日本ゼオンの登録商標)、アペル(三井化学の登録商標)、トーパス(Ticona社の登録商標)等の環状ポリオレフィン(COP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)、トリアセチルセルロース(TAC)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルフォン(PSF)、ポリアミド(PA)等が挙げられる。
これらの中でも、インジウム−スズ複合酸化物からなる導電層を堆積した導電性PETが、抵抗が低く、透過性も良く、入手もしやすいことから特に好ましい。
【0037】
導電性基板上に半導体微粒子層を形成する方法としては、半導体微粒子をスプレー噴霧等で直接、導電性基板上に薄膜として形成する方法;導電性基板を電極として電気的に半導体微粒子薄膜を析出させる方法;半導体微粒子のスラリーを導電性基板上に塗布した後、乾燥、硬化又は焼成することによって製造する方法などが例示される。
半導体微粒子のスラリーを導電性基板上に塗布する方法として、例えば、ドクターブレード、スキージ、スピンコート、ディップコートやスクリーン印刷等の手法が挙げられる。この方法の場合、スラリー中の半導体微粒子の分散状態における平均粒径は、0.01μm〜100μmであることが好ましい。スラリーを分散させる分散媒としては半導体微粒子を分散させ得るものであればよく、水、又はエタノール、イソプロパノール、t−ブタノールやテルピネオール等のアルコール溶媒;アセトン等のケトン溶媒等の有機溶媒が用いられる。これらの水や有機溶媒は混合物であってもよい。分散液には、ポリエチレングリコール等のポリマー;Triton−X等の界面活性剤;酢酸、蟻酸、硝酸や塩酸等の有機酸又は無機酸;アセチルアセトン等のキレート剤を含んでいてもよい。
スラリーを塗布した導電性基板は焼成されるが、該焼成温度は熱可塑性樹脂等の基材の融点(又は軟化点)未満であり、通常は、焼成温度の上限は900℃であり、好ましくは600℃以下である。また、焼成時間は、通常、10時間以内である。導電性基板上の半導体微粒子層の厚みは、通常は1〜200μmであり、好ましくは5〜50μmである。
【0038】
導電性基板上に比較的低温で半導体微粒子層を形成する方法としては、水熱処理を施してポーラスな半導体微粒子層を形成するHydrothermal法(実用化に向けた色素増感光電気化学電池、第2講(箕浦秀樹)第63〜65頁、NTS社発行(2003))、分散された半導体粒子の分散液を基板に電着する泳動電着法(T.Miyasaka et al.,Chem.Lett.,1250(2002))、半導体ペーストを基板に塗布、乾燥後にプレスするプレス法(実用化に向けた色素増感光電気化学電池、第12講(萬 雄彦)第312〜313頁、NTS社発行(2003))等が挙げられる。
【0039】
半導体微粒子層の表面に、四塩化チタン水溶液を用いた化学メッキや三塩化チタン水溶液を用いた電気化学的メッキ処理を行ってもよい。このことにより、半導体微粒子の表面積を増大させたり、半導体微粒子近傍の純度を高めたり、半導体微粒子表面に存在する鉄等の不純物を覆い隠したり、または、半導体微粒子の連結性、結合性を高めたりすることができる。
半導体微粒子は多くの光電変換素子用色素を吸着することができるように表面積の大きいものが好ましい。このため、半導体微粒子層を基板上に塗布した状態での表面積は、投影面積に対して10倍以上であることが好ましく、さらに100倍以上であることが好ましい。この上限は、通常、1000倍程度である。
半導体微粒子層は、微粒子1個の単層に限らず、粒径の異なる層等を複数重ねてもよい。
【0040】
半導体微粒子への本発明の光電変換素子用色素の吸着方法としては、本発明の光電変換素子用色素の溶液中に、よく乾燥した半導体微粒子を数時間浸漬する方法が用いられる。色素の吸着は室温で行ってもよいし、加熱還流下に行ってもよい。色素の吸着は、半導体微粒子の塗布前に行ってもよく、塗布後に行ってもよく、半導体微粒子と色素を同時に塗布して吸着させてもよいが、塗布後の半導体微粒子膜に色素を吸着させるのがより好ましい。半導体微粒子層を加熱処理する場合の色素吸着は加熱処理後に行うことが好ましく、加熱処理後、微粒子層表面に水が吸着する前に、すばやく色素を吸着させる方法が特に好ましい。
半導体微粒子に付着していない色素が浮遊することによる増感効果の低減を抑制するため、未吸着の色素は洗浄によって除去することが望ましい。
吸着する色素は1種類でもよいし、数種混合して用いてもよい。用途が光電気化学電池である場合、太陽光などの照射光の光電変換の波長域をできるだけ広くするように、混合する色素を選ぶことが好ましい。また、色素の半導体微粒子に対する吸着量は、半導体微粒子1gに対して0.01〜1ミリモルが好ましい。このような色素量とすると、半導体微粒子における増感効果が十分に得られ、半導体微粒子に付着していない色素が浮遊することによる増感効果の低減を抑制する傾向にあることから好ましい。
【0041】
色素同士が会合や凝集等の相互作用することを抑制する目的で、無色の化合物を共吸着させてもよい。共吸着させる疎水性化合物としてはカルボキシル基を有するステロイド化合物(例えばケノデオキシコール酸)等が挙げられる。また、余分な色素の除去を促進する目的で、色素を吸着させた後、アミン類を用いて半導体微粒子の表面を処理してもよい。好ましいアミン類としては、ピリジン、4−tert−ブチルピリジンやポリビニルピリジン等が挙げられる。これらが液体の場合はそのまま用いてもよいし、固体の場合は有機溶媒に溶解して用いてもよい。
【0042】
本発明の光電気化学電池とは、光電変換素子、電荷移動層及び対極を含み、光を電気に変換することができる。通常、光電変換素子、電荷移動層及び対極が順次、積層され、光電変換素子の導電性基板と対極とが連結されて、電荷が移動、すなわち、発電する。
他の光電気化学電池としては、例えば、光電変換素子及び電荷移動層からなる積層部が複数と1つの対極からなる光電気化学電池、例えば、複数の光電変換素子、1つの電荷移動層及び1つの対極が積層されてなる光電気化学電池などが例示される。
光電気化学電池は、湿式光電気化学電池及び乾式光電気化学電池に大別される。湿式光電気化学電池は、含まれる電荷移動層が電解液から構成される層であり、通常、電荷移動層は光電変換素子と対極の間に電解液が充填される。
乾式光電気化学電池としては、例えば、光電変換素子と対極との間の電荷移動層が固体のホール輸送材料である電池などが挙げられる。
【0043】
光電気化学電池の一実施態様を図1に示した。導電性基板8と、該導電性基板8に対向する対極9と、これらの間に、光電変換素子用色素4が吸着された半導体微粒子層3が存在する。湿式光電変換素子とする場合は、半導体粒子層3は電解液5で満たされ、封止材10で封止されている。
上記の導電性基板8は、上から順に基板1と導電層2で構成されている。対極9は、下から順に基板7と導電層6で構成されている。
【0044】
本発明の光電気化学電池が湿式である場合、電荷移動層に含まれる電解液に用いられる電解質としては、例えば、Iと各種ヨウ化物との組合せ、Brと各種の臭化物との組合せ、フェロシアン酸塩−フェリシアン酸塩の金属錯体の組合せ、フェロセン−フェリシニウムイオンの金属錯体の組合せ、アルキルチオール−アルキルジスルフィドのイオウ化合物の組合せ、アルキルビオローゲンとその還元体の組合せ、ポリヒドロキシベンゼン類とその酸化体の組合せ等が挙げられる。
ここで、Iと組合せ得るヨウ化物としては、例えば、LiI、NaI、KI、CsIやCaI等の金属ヨウ化物;1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムアイオダイド、1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムアイドダイド等の4価のイミダゾリウム化合物のヨウ素塩;4価のピリジニウム化合物のヨウ素塩;テトラアルキルアンモニウム化合物のヨウ素塩等が挙げられる。
Brと組合せ得る臭化物としては、例えば、LiBr、NaBr、KBr、CsBrやCaBr等の金属臭化物;テトラアルキルアンモニウムブロマイドやピリジニウムブロマイド等の4価のアンモニウム化合物の臭素塩等が挙げられる。
アルキルビオローゲンとしては、例えば、メチルビオローゲンクロリド、ヘキシルビオローゲンブロミド、ベンジルビオローゲンテトラフルオロボレートなどが挙げられ、ポリヒドロキシベンゼン類としては、例えばハイドロキノンやナフトハイドロキノン等が挙げられる。
電解質としては中でも、金属ヨウ化物、4価のイミダゾリウム化合物のヨウ素塩や4価のピリジニウム化合物のヨウ素塩、及びテトラアルキルアンモニウム化合物のヨウ素塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のヨウ化物とIとの組合せが好ましい。
【0045】
上記の電解液に用いる有機溶媒としては、アセトニトリル、メトキシアセトニトリルやプロピオニトリル等のニトリル系溶媒;エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイドや1−メチル−3−ヘキシルイミダゾリウムアイオダイド;1−エチル−3−メチルイミダゾリウム−ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)イミド等のイオン性液体が挙げられる。また、γ−ブチロラクトン等のラクトン系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は、ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンフルオライド、ポリ4−ビニルピリジンやChemistry Letters,1241(1998)に示される低分子ゲル化剤でゲル化されていてもよい。
【0046】
本発明の光電気化学電池が乾式である場合、電荷移動層に用いられる固体のホール輸送材料としては、CuIやCuSCN等の一価の銅を含むp型無機半導体や、Synthetic Metal,89,215(1997)及びNature,395,583(1998)で示されるような芳香族アミン類;ポリチオフェン及びその誘導体;ポリピロール及びその誘導体;ポリアニリン及びその誘導体;ポリ(p−フェニレン)及びその誘導体;ポリ(p−フェニレンビニレン)及びその誘導体等の導電性高分子を用いることができる。
【0047】
本発明の光電気化学電池を構成する対極は、導電性を有する電極であり、強度を維持したり密閉性を向上させるため前記導電性基板と同様の基板を用いてもよい。
光電変換素子用色素が吸着された半導体微粒子層に光が到達するため、前述の導電性基板と対極の少なくとも一方は実質的に透明である。本発明の光電変換素子においては、半導体微粒子層を有する導電性基板が透明で、照射光を導電性基板の側から入射させるものが好ましい。この場合、対極9は光を反射する性質を有することがさらに好ましい。
光電気化学電池の対極9としては、例えば、金属、カーボン、導電性の酸化物などを蒸着したガラスやプラスチックを使用することができる。具体的には、導電層を、1mm以下、好ましくは5nm〜100μmの範囲の膜厚になるように、蒸着やスパッタリング等の方法により形成して作製することもできる。本発明では白金やカーボンを蒸着したガラス、又は、蒸着やスパッタリングによって導電層を形成した対極とすることが好ましい。
【0048】
光電気化学電池における電解液の漏洩や蒸散を防ぐため、封止材を使用して封止してもよい。該封止材としては、ハイミラン(三井デュポンポリケミカル製)等のアイオノマー樹脂;ガラスフリット;SX1170(Solaronix製)等のホットメルト接着剤;Amosil 4(Solaronix製)のような接着剤;BYNEL(デュポン製)を使用することができる。
【実施例】
【0049】
次に、実施例等を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例により限定されるものではない。
【0050】
(実施例1:環状化合物(I-II-9))
(合成例1)
2,5-ビス(4-(1-メチルエトキシ)シクロブト-3-エン-1,2-ジオン-3-イル)チオフェンB1の合成

窒素雰囲気下にて、2,5-ジブロモチオフェン (0.51 g, 2.1 mmol)、アセトニトリル (5.0 ml) を混合、溶解させた。次に4-(1-メチルエトキシ)-3-(トリ-n-ブチルスズ)シクロブト-3-エン-1,2-ジオン(2.0 g, 4.6 mmol) と、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム (0) (0.27 g) とヨウ化銅 (I) (0.090 g) とを分散させ、該分散液を加熱還流した。反応終了後冷却し、適当量のクロロホルム及びセライトを加えて濾過した。得られた濾液から溶媒を減圧留去し、固体を得た。この固体をカラムクロマトグラフィーにて単離し、クロロホルムにて再結晶を行い、黄色固体B1 (0.29 g, 0.80 mmol)を得た。
B1: Yield 38%; 1H-NMR (CDCl3, 25℃) δ = 7.94 (s, 2H), 5.64 (hept, 2H, J = 6.3 Hz), 1.59 (d, 12H, J = 5.6 Hz); FAB-MS (m/z) 360 ([M]+); Anal. Calcd.. for C18H16O6S・0.5H2O: C, 58.53; H, 4.64%. Found: C, 58.37; H, 4.44%; Mp = 173.6-174.9℃; IR (KBr) 1606, 1777 cm-1.
【0051】
2,5-ビス(4-ヒドロキシブト-3-エン-1,2-ジオン-3-イル)チオフェンB2の合成
容器にB1 (0.29 g, 0.80 mmol)を入れ、テトラヒドロフラン(10 ml)と18%-塩酸(1.0 ml)を加え分散させた。20時間、60 ℃で攪拌した。その後溶媒を減圧留去し、得られた固体をジエチルエーテルで洗浄した後、濾過して橙色固体 B2(0.19 g, 0.70 mmol)を得た。
B2:Yield 88%; 1H-NMR (DMSO-d6, 23 ℃) δ = 7.57 (s, 2H); FAB-MS (m/z) 276 ([M+1]+); Anal. Calcd.. for C12H4O6S・3.5 H2O: C, 42.48; H, 3.27%. Found : C, 42.28; H, 3.32%; Mp >270 ℃ (dec); IR (KBr) 1602, 1789 cm-1.
【0052】
2,5-ビス(1-( N-ブチル-5-カルボキシル-3,3-ジメチルインドール-2-イリデンメチル)シクロブト-3-エン-2,4-ジオン-3-イル)チオフェン(I−II−9)の合成

冷却管をつけた二つ口ナスフラスコに2,5-ビス(4-ヒドロキシブト-3-エン-1,2-ジオン-3-イル)チオフェンB2(0.38 g, 1.4 mmol)、1-エチル-5-カルボキシル-2,3,3-トリメチルインドレニウム=ヨージド (1.1 g, 3.1 mmol)を入れ、n−ブタノ−ル(8 mL)、ベンゼン(2 mL)を加えて溶解させた。触媒としてキノリンを加えた後、2時間加熱還流した。反応終了後、溶媒を減圧留去した。得られた固体をメタノール、クロロホルムにて洗浄した後、カラムクロマトグラフィーにて精製し、さらに再結晶し、(I−II−9、0.25 g, 0.36 mmol)を得た。
I−II−9: yield 26 %; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6, 25℃) δ = 8.26 (s, 2H), 8.09 (s, 2H), 7.77 (d J = 8.3 Hz, 2H), 7.86-7.83 (m, 4H), 6.36 (s, 2H), 4.49 (t, J = 6.3 Hz, 4H), 1.79 (s, 12H), 1.38 (t, J = 6.3 Hz, 6H); TOF-MS (m/z) 702 ([M]+ 100 %); Anal. Calcd. for C40H34N2O8S・3.0H2O: C, 63.48; H, 5.33; N, 3.70 %. Found: C, 63.66; H, 4.58; N, 3.25 %; IR (KBr) 1569, 1613, 3429 cm-1; Mp >250 ℃ (dec).
【0053】
(波長による吸光係数の測定)
環状化合物(I−II−9)の0.3mM溶液(溶媒はジメチルスルホキシド)を調製し、日本分光社製紫外・可視分光光度計V-560を用いてそれぞれの環状化合物の吸収スペクトルを測定した。その結果得られた吸収スペクトルを図2に示す。λmaxは、778nmであった。
【0054】
(実施例2:環状化合物(I-II-10))
(合成例2)
2,5-ビス(1-( N-ブチル-5-ヨード-3,3-ジメチルインドール-2-イリデンメチル)シクロブト-3-エン-2,4-ジオン-3-イル)チオフェン(I−II−10)の合成

1-エチル-5-カルボキシル-2,3,3-トリメチルインドレニウム=ヨージドに代えて、1-ブチル-5-ヨード-2,3,3-トリメチルインドレニウム=ヨージド (6.0 g, 12.7 mmol)を用いる以外は合成例1とほぼ同様にして、(I−II−10、2.5 g, 2.8 mmol)を得た。
I−II−10:yield 48 %; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3, 25℃) δ = 8.08 (s, 2H), 7.79 (s, 2H), 7.77 (d J = 8.3 Hz, 2H), 7.00 (d J = 8.3 Hz, 2H), 6.34 (s, 2H), 4.22 (t, J = 7.3 Hz, 4H), 1.92-1.76 (m, 16H), 1.47 (sext, J = 7.3 Hz, 4H), 1.01 (t, J = 7.3 Hz, 6H); TOF-MS (m/z) 922 ([M]+ 100 %); Anal. Calcd. for C42H40I2N2O4S・1.5H2O: C, 53.12; H, 4.56; N, 2.95 %. Found: C, 53.17; H, 4.38; N, 2.71 %; IR (KBr) 1564, 1609 cm-1; Mp >250 ℃ (dec).
【0055】
(波長による吸光係数の測定)
環状化合物(I−II−10)の0.3mM溶液(溶媒はジメチルスルホキシド)を調製し、前記と同様に吸収スペクトルを測定する。
【0056】
(比較例1)
光電変換素子用色素として、化合物(1)を用いた以外は、実施例1と同様にして吸収スペクトルを測定した。λmaxは、530nmであり、I-II-9の方が長波長であった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、長波長領域における光電変換効率に優れ、安価で資源枯渇の懸念のない材料を用いることから、太陽光による太陽電池、トンネルや屋内での人工光による光電気化学電池に用いることができる。また、本発明の光電変換素子は、光の照射を受けて電流が流れることから、光センサーとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の光電気化学電池の断面模式図である。
【図2】実施例1及び比較例1の600nm〜800nmの吸光係数を示した。
【符号の説明】
【0059】
1 基板
2 導電層
3 半導体粒子層
4 色素
5 電解液
6 導電層
7 基板
8 導電性基板
9 対極
10 封止剤
11 780nmにおける環状化合物(I-II-9)の吸光係数と化合物(1)の吸光係数との差を1としたとき、環状化合物(I-II-9)の吸光係数と化合物(1)の吸光係数との差の相対値の曲線(破線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で示される環状化合物。

[式中、A、B、Cは、それぞれ独立に5〜20員環の芳香族炭化水素基を表す。芳香族炭化水素基の炭素は、窒素、酸素、硫黄、セレン又はテルルに置換されていてもよい。該窒素は、芳香族炭化水素環を構成する炭素との結合以外が炭素数1〜12の炭化水素基と結合している4価であってもよく、酸素、硫黄及びセレンは3価であってもよい。
該芳香族炭化水素基は、芳香族性を有するのであれば、縮合環であっても、単結合、エーテル結合又は共役二重結合で連結された複数の環状構造を有していてもよい。
該芳香族炭化水素基を構成する炭素に結合する水素は、炭化水素基に置換されていてもよい。
〜Rは、それぞれ独立に、水素、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロ環基を表す。n及びn’はそれぞれ独立に0〜2を表す。
及びR10は、それぞれ独立に、酸素、硫黄、セレン、テルル、=CR1213、=NR14を表す。R12〜R14は、それぞれ独立に、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルキル基を表す。R12及びR13は互いにアルキレン基で結合していてもよく、該アルキレン基の炭素は酸素、硫黄、セレン、テルル、窒素で置換されていてもよい。
及びRは、それぞれ独立に、O-、S-、Se-を表す。
m及びm’は0〜6であって、m+m’≧1を充足する整数を表す。Y及びYは、それぞれ独立に、−COH、−SOH及び−POからなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を表し、YはAの芳香族炭化水素基を構成する炭素に結合する官能基であり、mが2以上の場合にはYが互いに異なる官能基であってもよい。YはCの芳香族炭化水素基を構成する炭素に結合する官能基であり、m’が2以上の場合にはYが互いに異なる官能基であってもよい。]
【請求項2】
A及びCが、式(II)〜(V)で表される基からなる群から選ばれる基である請求項1に記載の化合物。

(式中、R20、R30及びR50は、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基を表す。R21及びR22は、炭素数1〜6の炭化水素基、水素を表し、p及びqはそれぞれ独立に0又は1を表す。R24〜R26、R31〜R36、R41〜R46、R51〜R56は、それぞれ独立に、水素、炭化水素基を表す。R24〜R26の炭化水素基は互いに連結していてもよく、R31〜R36の炭化水素基は互いに連結していてもよく、R41〜R46の炭化水素基は互いに連結していてもよく、R51〜R56の炭化水素基は互いに連結していてもよい。Xは、炭素、3価若しくは4価の窒素、2価若しくは3価の硫黄、2価若しくは3価の酸素又は2価若しくは3価のセレンを表す。)
【請求項3】
Bが下記式で表される基である請求項1又は2に記載の環状化合物。

【請求項4】
式(I-II-9)又は式(I-II-10)で示される環状化合物。

【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物に由来する塩を含む光電変換素子用色素。
【請求項6】
請求項5に記載の光電変換素子用色素を吸着させた半導体微粒子層及び導電性基板を含むことを特徴とする光電変換素子。
【請求項7】
請求項6に記載の光電変換素子、電荷移動層及び対極を含むことを特徴とする光電気化学電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−217581(P2007−217581A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40380(P2006−40380)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】