説明

生体サンプル判別用プレートおよびその製造方法

【課題】 生体サンプル判別用プレートの微細流路や貫通孔が、更に流路幅や深さが微細化(幅100μm以下)し、また、貫通穴もプレート総面積に占める割合が多くなった(5%以上)場合に、精度よく、かつ、簡単に生体サンプル判別用プレートを製造する方法と、この方法で製造された生体サンプル判別用プレートを提供することを目的とする。
【解決手段】 溝と、非貫通孔または貫通孔とが形成され、かつ、板厚が1mm以上である生体サンプル判別用プレートを、ホットエンボス加工により、金型を用いて、溝と貫通孔とが同時に形成されたプレート1aと、射出成形と注入成形と機械加工とのいずれかにより、非貫通孔または貫通孔が形成されたプレート1bと、を接着剤または熱圧着により接合して形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAやタンパクその他の生体サンプルを緩衝剤中で移動させ、その輸送反応を検出して生体サンプルを分析するための生体サンプル判別用プレートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な生体サンプルを考えた場合、大きくはDNAとタンパクが存在している。そして、近年、分子生物学の急速な進展によって、様々な疾患において遺伝子の関与がかなり正確に理解されるようになり、遺伝子をターゲットにした医療に注目が集まるようになってきている。
【0003】
DNAに関しては、現在SNPs(single nucleotide polymorphismの略で「1塩基多型」と一般に訳されており、遺伝子における1暗号(1塩基)の違いの総称である。)が注目されている。その理由としては、SNPsの分類により、多くの疾患に対する罹患率や各個人の薬剤に対する効果や感受性を予測でき、さらには、地球上に親子兄弟といえども全く同じSNPsを持つ人間は絶対に存在しないことから個人の完全な特定ができると考えられているからである。
【0004】
現在、SNPsを調べる方法としては、DNAの塩基配列を端から直接読んでいくシーケンシング(塩基配列の決定)が最も一般的に用いられている。そして、前記シーケンシングを行う方法としては、いくつかの報告があるが、もっとも一般的に行われているのは、ジデオキシシーケリング(Sanger法)である。なお、シーケンシングは、このSanger法を含め何れの方法においても、分離能の高い変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動か、キャピラリー電気泳動によって1塩基の長さの違いを分離・識別する技術が基になって成り立っている。
【0005】
また、他の方法として、アフィニティリガンドキャピラリー電気泳動法がある。アフィニティリガンドキャピラリー電気泳動は、分子間親和力、とくに生態系における特異的親和力(酵素と基質、抗原と抗体の親和力等)を利用して分離に特異性を持たせるものであり、具体的には、キャピラリー管中の泳動溶液に、塩基配列を特異的に認識するアフィニティリガンドを添加しておき、試料を電気泳動させると、試料混合物中で相互作用する分子種だけが移動速度に変化を生じることに着目して分析を行うものである(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
一方、タンパク質は、細胞、組織、生体液中に存在し、生体活動の調節、細胞へのエネルギー供給、重要な物質の合成、生物構造体の維持、さらには細胞間でのコミュニケーションや細胞内情報伝達に関与している。現在では、タンパク質が様々な環境や、相互作用する他のタンパク質の存在、タンパク質が受けた修飾の程度や種類に応じて、複数の機能を有することが明らかになってきている。
【0007】
タンパク質は、20種類のアミノ酸が遺伝子の指示(配列情報)により順番につながることでつくられており、その種類は数千万種と言われるが、その遺伝子の配列がわかれば、どのアミノ酸がどういう順番でつながってできているかの情報を得ることができる。生物の遺伝子(ゲノム)から作られるタンパク質の一そろいのセットは、プロテオームと呼ばれるが、ヒトゲノムの塩基配列解読が終わった今、プロテオームの解析が盛んに進められている。
【0008】
そして、このようなタンパク質の機能解析研究としては、同定やキャラクタリゼーションのみならず、生化学アッセイやタンパク質間相互作用研究、タンパク質ネットワーク、または細胞内外のシグナリング解明なども行っていく必要がある。このタンパク質機能の研究には、多方面の技術が使用され、酵素アッセイ、酵母 two−hybrid アッセイ、クロマトグラフィーによる精製、情報ツールとデータベース等があるが、特に、電気泳動によるたんぱく質の判別は重要な手法である。
【0009】
そして、電気泳動のように、キャピラリー管中のサンプル、分析物、緩衝剤、及び試薬等の液体を移動させた際に得られる輸送反応を検出して、該サンプルの分析、判別、判定等を行う場合の前記液体の輸送及び方向付けに関しては、さまざまな報告がある(例えば、特許文献2、特許文献3)。これら生体サンプルの分析では、電気泳動装置を利用した方法が広く使われており、その消耗品として、キャピラリー管や微細な流路が形成されたプラスチックプレートが使用される。
【0010】
この微細な流路が形成されたプラスチックプレートの製造方法として、例えば、金型を用いた射出成形や機械加工で形成する方法があるが、寸法、形状共に再現性が高いものが得られる金型をもちいた射出成形が望ましい(例えば、特許文献4)。また、この成形にもちいる金型は、微細な流路を形成するために、溝を機械加工で行う場合があるが、溝幅が例えば100μm以下といった微細になればなるほど、精度的に加工が困難になるため、現在では、LIGA技術をもちいた、電鋳めっきで金型を形成する方法を用いる。また、金型の貫通孔形成に対しては、ピンを設けることで形成が可能となる。
【特許文献1】特開平7−311198号公報
【特許文献2】特表2000−513813号公報
【特許文献3】特表2001−523341号公報
【特許文献4】特開2000−310613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上述したプラスチックプレートの微細流路や貫通孔が、更に流路幅や深さが微細化(幅100μm以下)し、また、貫通穴もプレート総面積に占める割合が多くなった(5%以上)場合、電鋳金型(素材はニッケル)は金型の構成材であるHPM38(SUS系)に比較して熱膨張率が大きいため、成形時の高金型温度にプラスしてキャビティ内への流入樹脂のサイクル的な作用により、電鋳金型と金型構成材の間で成形サイクル毎に摺動が発生し、その結果、形状の精度ばらつき(流路幅、流路深さ、貫通孔)が大きくなる。
【0012】
また、貫通孔を形成するためのピンが複数あるため、ピンによる流路部の充填不足といった問題が発生する。よって、射出成形では、微細な流路と貫通孔を同時に成形することができなかった。
【0013】
本発明は、プラスチックプレートの微細流路や貫通孔が、更に流路幅や深さが微細化(幅100μm以下)し、また、貫通穴もプレート総面積に占める割合が多くなった(5%以上)場合に、精度よく、かつ、簡単にプラスチックプレートを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
溝と、非貫通孔または貫通孔が形成され、かつ、板厚が1mm以上であるプラスチックプレートにおいて、ホットエンボス加工により、金型を用いて、溝と貫通孔とが同時に形成されたプレート1と、射出成形と注入成形と機械加工とのいずれかにより、非貫通孔または貫通孔が形成されたプレート2と、が接着剤または熱圧着により接合されて形成されてなる。
【0015】
さらに前記プラスチックプレートが、生体サンプルを判別する生体サンプル判別用プレートとしてなる。
【0016】
さらに前記プラスチックプレートを構成する面のうち、前記溝と、前記非貫通孔または前記貫通孔とが形成された第1面上で、前記第1面に形成された前記溝が前記第1面上で占める表面積と、前記第1面に形成された前記非貫通孔が前記第1面上で占める表面積と、前記第1面に形成された前記貫通孔が前記第1面上で占める表面積と、の合計が、前記第1面の全表面積の5%以上でなる。
【0017】
さらに前記プレート1の板厚が、0.3mm以上1mm以下でなる。
【0018】
さらに前記プラスチックプレートにおいて、前記非貫通孔または前記貫通孔を形成する壁面と連続した凸部が、前記プレート2の前記プレート1と接合される面に形成されてなる。
【0019】
さらに前記凸部の形状は内径が前記プレート2の貫通孔の内径と等しい円筒形状でなる。
【0020】
さらに前記凸部が前記プレート1の貫通孔の中心軸から等しい距離に位置し、かつ、前記プレート1の貫通孔に収容可能に形成されてなる。
【0021】
さらに前記プレート1は、一方の面にのみ溝が形成され、前記プレート1の溝が形成されていない面と、前記プレート2とが接着されて形成されてなる。
【0022】
さらに溝と、非貫通孔または貫通孔が形成され、かつ、板厚が1mm以上であるプラスチックプレートにおいて、ホットエンボス加工により、金型を用いて、溝と貫通孔とが同時に形成されたプレート1と、射出成形と注入成形と機械加工とのいずれかにより、非貫通孔または貫通孔が形成され、かつ、一方の面に凸部が形成されたプレート2と、が接着剤によって接合されて形成されたプラスチックプレートを製造するプラスチックプレート製造方法において、前記接着剤を前記プレート1の前記溝と貫通孔が形成された面の反対面に塗布して、前記プレート1と前記プレート2とを接着剤で接合する工程を有することでなる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、プレート面内に複数の微細形状や貫通孔があっても、精度よく作製することができる。また、板厚が1mm以上の厚いものにも対応できるものとして有用である。このように微細形状や貫通孔を精度よく製造できる、生体サンプル分析用のプレートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(実施の形態1)
まず、図1〜図11を用いて、本実施の形態1における生体サンプル分析プレートの構成について説明する。図1は、本実施の形態1における生体サンプル分析プレートの流路形成面からみた図である。
【0025】
本実施の形態1におけるプレート1には図2に示すパターン2が8個放射線状に形成されており、同時に8検体のDNA判別が可能である。
【0026】
図1に示すように本実施の形態1におけるプレート1の外形は8センチ四方の正方形で4角は面取りされており、そのうちの1角は更に大きく面取りされている。
【0027】
更に穴4を設けているが、これは外形を非対称にしてパターンの場所を特定できるようにされている。プレート1をこのような外形形状にしている訳は、図示しない光学読取装置にプレートを取り付けて、上記の蛍光度や、吸光度を検出する際の位置決めを容易にするためである。プレート1は板厚0.5mmのプレート1aと板厚1.5mmのプレート1bの構成からなり、プレート1aとプレート1bは接着剤を用いて、接合されている。プレート1の材料はアクリル系の樹脂を使用し厚みは2mmである。流路形成面には溝が形成されさらに厚さ50μmのアクリル製フィルム21を接着することで密閉流路が形成されている。
【0028】
また、5は本プレートの軸心であり、軸心5を中心に本プレートを上記の光学読取装置の回転部に固定するための孔3を設けている。
【0029】
図2に示す6は緩衝剤であるDNAコンジュゲートを注入する、空気孔を兼ねた緩衝剤注入口、7は注入された緩衝剤を一旦保持するための緩衝剤注入部、8はDNAサンプルを注入する、空気孔を兼ねたサンプル注入口、9は注入されたDNAサンプルを一旦保持するためのサンプル注入部である。緩衝剤注入部7とサンプル注入部9の形状は相似しており、周辺断面を図3に示す。
【0030】
図3は緩衝剤注入部やサンプル注入部近傍の断面を表した図であり、斜線でハッチングした部分がプレート1である。19が緩衝剤注入口6およびサンプル注入口8にあたり、20が緩衝剤注入部7およびサンプル注入部9である。21が前述したフィルムであり溝にフタをするように貼り付けることで密閉流路が形成される。ちなみに流路形成面は下部である。
【0031】
再び図2に戻り、サンプル注入部9はサンプル定量分取部10と接続しており、緩衝剤注入部7も流路11によって、定量分取部10と接続している。また、定量分取部10には空気抜きをするための空気孔13と、注入されたDNAサンプルを遠心力により、定量化するためのオーバーフローチャンバー14と、電気泳動時に前記した光学読取装置にて走査するための流路12が接続されており、流路12の端部には、空気孔15が接続されており、更に、16は緩衝剤貯留部分に保持できない余剰の緩衝剤が流入するためのオーバーフローチャンバーが設置されている。本実施の形態では、流路11の幅は300μm、深さは50μm、流路12の幅は200μm、深さは50μmである。
【0032】
次に、上記プレート1の製造方法について説明する。
【0033】
プレート1は板厚0.5mmのプレート1aと板厚1.5mmのプレート1bの貼り合わせで構成されており、プレート1aは微細な流路と貫通孔で構成されているため、ホットエンボス加工で成形を行い、プレート1bは貫通孔のみで構成されているため、射出成形で成形を行った。
【0034】
まず、プレート1aは、緩衝剤注入部7、サンプル注入部9、サンプル定量分取部10、流路11、流路12空気孔13、15、オーバーフローチャンバー14、16に対応した形状パターンのフォトマスクを用いて、超厚膜レジストをパターニングする。次に、これを母型としてNi電鋳を行って成形用の金型を作製する。次にこの金型を用いて、ホットエンボス加工によりアクリルの成形を行う。この金型は緩衝剤注入部7、サンプル注入部9が複数形成されているため、ホットエンボス加工後の離型する際に、金型の樹脂食い付きが生じやすい。
【0035】
ここで、金型の緩衝剤注入部7とサンプル注入部9の高さ、及びプレート1aの板厚を変えて、ホットエンボス加工時の樹脂食い付き状態を確認した。その結果を図11に示す。横軸がプレート1aの板厚、縦軸は離型後のプレート1aの反り量を示す。光学読取装置で測定する上で、プレート1aの反りを50μm以下と基準値を設定した場合、プレート1aの板厚が0.3mmから1.0mmで反りが50μm以下であった。
【0036】
プレート1aの板厚が0.2mm以下の場合だと、プレート自体が薄いため、離型時に反りが大きくなる。また、プレート1aの板厚が1.2mm以上では、金型の緩衝剤注入部7とサンプル注入部9が樹脂に食い付きやすくなり、反りが大きくなった。よって、プレート1aの板厚は0.3mmから1.0mmが好ましい。本実施の形態では、プレート1aの板厚を、反りがもっとも少ない0.5mmとした。
【0037】
次にプレート1aを、射出成形機を用いて、作製できるかを試みた。まず、サンプル定量分取部10、流路11、流路12空気孔13、15、オーバーフローチャンバー14、16に対応した形状パターンのフォトマスクを用いて、超厚膜レジストをパターニングする。次に、これを母型としてNi電鋳を行って成形用の金型を作製した。緩衝剤注入部7、サンプル注入部9の形成は、ピンを用いて貫通孔の形成を行った。そして、成形した結果、流路形状の精度ばらつきが大きいことが分かった。
【0038】
これは、電鋳金型(素材はニッケル)が金型の構成材であるHPM38(SUS系)に比較して熱膨張率が大きいため、成形時の高金型温度にプラスしてキャビティ内への流入樹脂のサイクル的な作用により、電鋳金型と金型構成材の間で成形サイクル毎に摺動が発生し、その結果、形状の精度ばらつき(流路幅、流路深さ、貫通孔)が大きくなる。更に精度ばらつき以外に、流路部の充填不足が発生していることが分かった。
【0039】
ピンが複数存在するため、樹脂充填時にピンが妨げとなり、充填不足が発生したと思われる。特許文献4でのチップ作製では、流路や貫通孔の形成される面積割合が約4%と少ないため、射出成形での作製が成功したと考えられる。本実施の形態での流路や貫通孔の形成される面積割合は、約10%と特許文献4のチップよりも多い。よって、流路や貫通孔の形成される面積割合が5%以上の場合は、前述したホットエンボス加工を用いて、形成する必要がある。
【0040】
続いて、プレート1bの製造方法について説明する。
【0041】
プレート1bは図4に示すように、緩衝剤注入口6、緩衝剤注入部7、サンプル注入口8、サンプル注入部9、接合リブ17からなり、微細構造物がないため、射出成形で作製を行った。金型は機械加工で作製し、貫通孔の形成はピンを用いた。材質はプレート1aと同じアクリルを使用した。接合リブ17は円筒形状からなり、その内径サイズは緩衝剤注入部7とサンプル注入部9の径と等しい。さらに、接合リブ17は、プレート1aの緩衝剤注入部7とサンプル注入部9の中心軸から等しい距離に位置し、かつ、プレート1aの緩衝剤注入部7とサンプル注入部9の貫通孔に収容されるため、外径サイズは緩衝剤注入部7とサンプル注入部9の直径以下になる。
【0042】
続いて、プレート1aとプレート1bの接合について、図5を用いて説明する。
【0043】
まず、プレート1aの溝と貫通孔が形成された面の反対側の面に二塩化メチレン系の接着剤18を塗布し、プレート1bの接合リブ17とプレート1aの緩衝剤注入部7とサンプル注入部9とを接合する。この時、接合リブ17が貫通孔にうまく収納されるため、位置あわせの必要はいらない。また、本実施の形態では、接着剤を用いたが、熱融着による接合や、ホットメルトシートなどを使って接合してもよい。
【0044】
それでは、以下前述した該DNAサンプルのSNPs(一塩基多型)の有無を判別するまでの具体的操作および動作の一例を、外周側パターン2の詳細形状を示す図2を利用して説明する。
【0045】
まず、検体となるDNAサンプルを準備する。本来DNAは2本鎖の螺旋構造をしたものであるが、本実施の形態1においては、判別したいSNPs部位を含む約60塩基長の1本鎖DNAを準備する。抽出方法や1本鎖化については本発明とは直接関係がないので詳細説明は省略する。
【0046】
次に、緩衝剤としてDNAコンジュゲートを準備する。DNAコンジュゲートとは、6〜12塩基長1本鎖DNAの5’末端に高分子のリニアポリマーが共有結合したものである。さらにDNAは、正常型に対しては相補であるが変異型に対しては相補ではない配列であり、正常型DNAに対しての結合力が強く、変異型DNAに対しての結合力が弱い特性がある。また、電気泳動した場合、5’末端に結合したリニアポリマーがおもりとなり泳動速度がかなり遅いという特性もある。以後記述する「DNAコンジュゲート」とは、電解質の役目もするpH緩衝剤およびMgClなどのDNA結合力制御剤を含んだ物性とする。
【0047】
試料の準備が終わったところで、DNAコンジュゲートおよびDNAサンプルをプレート内へ注入する。まず、DNAコンジュゲートをピペッター等により緩衝剤注入口6から緩衝剤注入部7を充填するように分注する。分注量としては、パターンのスケールにより異なるが本実施の形態1においては、緩衝剤注入部7と流路11と定量分取部10と流路12を満たすには、DNAコンジュゲートが3マイクロリットル必要である。緩衝剤注入部7の容積は、3マイクロリットルより若干多くなるように予め形成してある。
【0048】
次に光学読取装置の回転部にプレート1を固定し、軸心5を軸に回転させる。この時分注されたDNAコンジュゲートは、遠心力により外周方向へと移動する。緩衝剤注入部7内のDNAコンジュゲートは流路11を通り定量分取部10へと移動した後、さらに流路12まで移動する。回転数4000rpmで回転開始から2分後、DNAコンジュゲートの移動が停止した状態が図6である。また、定量分取部10周辺を拡大した図が、図7である。
【0049】
DNAコンジュゲートの移動が終了した後、緩衝剤注入部7と流路12内に存在するDNAコンジュゲートの液面高さと定量分取部の液面高さは、軸心5を中心とする同一円周上となる。但し、緩衝剤注入部7内に注入するDNAコンジュゲートの量が3マイクロリットルより少ない場合、図8aに示すように、定量分取部10や流路12内にDNAコンジュゲートが充填されない。充填していなければ、電気泳動ができなくなる。
【0050】
一方、3マイクロリットルより多い場合においては、緩衝剤貯留部分に保持できない余剰の緩衝剤が流入するためのオーバーフローチャンバー16を設置している。このため、DNAコンジュゲートの液面高さと定量分取部の液面高さは、常に軸心5を中心とする同一円周上となる。なお、オーバーフローチャンバー16は、図8bに示すように、オーバーフローチャンバー16を除くハッチング部分、すなわち、緩衝剤注入部7と流路11と定量分取部10と流路12のハッチングした容積が3マイクロリットルになった時の、重心5を中心とする同一円周上の流路12に配置されている。
【0051】
次にDNAコンジュゲートが流路内に輸送された後、DNAサンプルをプレート内へ注入する。DNAサンプルはピペッター等によりをサンプル注入口8よりサンプル注入部9へ分注する。本実施の形態1においては、DNAサンプルは1マイクロリットル必要とするので、サンプル注入部9の容積は、それより若干大きく形成しておく。
【0052】
次に回転部にプレート1を固定し、軸心5を軸に回転させる。この時分注されたDNAサンプルは、遠心力により外周方向へと移動する。
【0053】
サンプル注入部9内のDNAサンプルは空気孔13により気泡が発生することなく、定量分取部10へと移動する。このとき、定量分取部10に移動したDNAサンプルはオーバーフローチャンバー14により、定量化することができ、不必要なDNAサンプルはオーバーフローチャンバー14内へと移動する。そして、4000rpmでの回転開始から2分後、DNAサンプルの移動が停止した状態が図9である。また、定量分取部10周辺を拡大した図が図10である。
【0054】
以上の動作で定量分取部10に残存したDNAサンプルがSNPsの判別を行なう最終試料となる。
【0055】
次に、電気泳動を行う。流路が形成されたプレート前面にはフィルム21が貼られており、そこへ針状の電極を突き刺し内部へ挿入することで電圧印加が可能となる。電極を突き刺す場所は、正電極の場合、流路12の端部に、負電極の場合は、緩衝剤注入部7に突き刺す。電気泳動は、電極間に数百Vの電圧を印加すると、流路12さらには定量分取部10において電界が発生し、定量分取部10に一定量残存したDNAサンプルは、流路12中を正電極側(図9中A方向)へ泳動する。
【0056】
流路12中にはDNAコンジュゲートが充填されており、DNAサンプルはDNAコンジュゲートとの結合を繰り返しながら電気泳動する。この時、上述したようにDNAサンプル中の正常型DNAはDNAコンジュゲートとの結合力が強いため泳動速度が遅くなり、変異型DNAは結合力が弱いため正常型に比べ泳動速度は速くなる。つまりDNAサンプル中に正常型、変異型両方が存在した場合は、正常型のDNAと変異型のDNAが分離していくこととなり、SNPsの判別が行なえるのである。
【0057】
以上のように、本実施の形態によれば、プレート面内に複数の微細形状や貫通孔があっても、精度よく作製することができる。また、板厚が1mm以上の厚いものにも対応できるものとして有用である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、プレート面内に複数の微細形状や貫通孔があっても、精度よく作製することができる。また、板厚が1mm以下のプラスチックプレートであれば、ホットエンボスのみの成形で作製することができるが、本発明は、さらに、板厚が1mm以上の厚いプラスチックプレートの作製にも利用できる技術として、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる生体サンプル判別用プレートの平面図
【図2】同生体サンプル判別用プレートのバターンを拡大して示す平面図
【図3】同生体サンプル判別用プレートのサンプル注入部および緩衝剤注入部の断面図
【図4】同生体サンプル判別用プレートのサンプル注入部および緩衝剤注入部の断面図
【図5】同生体サンプル判別用プレートのサンプル注入部および緩衝剤注入部の断面図
【図6】同生体サンプル判別用プレートのパターンを示す平面図
【図7】同生体サンプル判別用プレートの定量分取部を拡大して示す平面図
【図8a】同生体サンプル判別用プレートのパターンを示す平面図
【図8b】同生体サンプル判別用プレートのパターン部分を示す平面図
【図9】同生体サンプル判別用プレートのパターンを示す平面図
【図10】同生体サンプル判別用プレートの定量分取部を拡大して示す平面図
【図11】本発明の実施の形態1にかかるプレート1aの板厚を変化させた時のプレート1aの反りの関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0060】
1,1a,1b プレート
2 流路パターン
3 回転部固定用穴
4 位置決め穴
5 プレート重心
6 緩衝剤注入口
7 緩衝剤注入部
8 サンプル注入口
9 サンプル注入部
10 定量分取部
11,12 流路
13,15 空気孔
14,16 オーバーフローチャンバー
17 接合リブ
18 接着剤
21 フィルム
30 DNAコンジュゲート
31 DNAサンプル
A 泳動方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝と、非貫通孔または貫通孔とが形成され、かつ、板厚が1mm以上である生体サンプル判別用プレートにおいて、ホットエンボス加工により、金型を用いて、溝と貫通孔とが同時に形成されたプレート1と、射出成形と注入成形と機械加工とのいずれかにより、非貫通孔または貫通孔が形成されたプレート2と、が接着剤または熱圧着により接合されて形成された、生体サンプル判別用プレート。
【請求項2】
前記生体サンプル判別用プレートが、生体サンプルを判別する生体サンプル判別用プレートであることを特徴とする、請求項1に記載の生体サンプル判別用プレート。
【請求項3】
前記生体サンプル判別用プレートを構成する面のうち、前記溝と、前記非貫通孔または前記貫通孔とが形成された第1面上で、前記第1面に形成された前記溝が前記第1面上で占める表面積と、前記第1面に形成された前記非貫通孔が前記第1面上で占める表面積と、前記第1面に形成された前記貫通孔が前記第1面上で占める表面積と、の合計が、前記第1面の全表面積の5%以上であることを特徴とする、請求項1または請求項2のいずれかに記載の生体サンプル判別用プレート。
【請求項4】
前記プレート1の板厚が、0.3mm以上1mm以下であることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれかに記載の生体サンプル判別用プレート。
【請求項5】
前記生体サンプル判別用プレートにおいて、前記非貫通孔または前記貫通孔を形成する壁面と連続した凸部が、前記プレート2の前記プレート1と接合される面に形成されている、ことを特徴とする請求項1から請求項2のいずれかに記載の生体サンプル判別用プレート。
【請求項6】
前記凸部の形状は内径が前記プレート2の貫通孔の内径と等しい円筒形状であることを特徴とする、請求項5に記載の生体サンプル判別用プレート。
【請求項7】
前記凸部が前記プレート1の貫通孔の中心軸から等しい距離に位置し、かつ、前記プレート1の貫通孔に収容可能に形成された、ことを特徴とする請求項5に記載の生体サンプル判別用プレート。
【請求項8】
前記プレート1は、一方の面にのみ溝が形成され、前記プレート1の溝が形成されていない面と、前記プレート2とが接着されて形成された、請求項1に記載の生体サンプル判別用プレート。
【請求項9】
溝と、非貫通孔または貫通孔が形成され、かつ、板厚が1mm以上である生体サンプル判別用プレートにおいて、ホットエンボス加工により、金型を用いて、溝と貫通孔とが同時に形成されたプレート1と、射出成形と注入成形と機械加工とのいずれかにより、非貫通孔または貫通孔が形成され、かつ、一方の面に凸部が形成されたプレート2と、が接着剤によって接合されて形成された生体サンプル判別用プレートを製造する生体サンプル判別用プレート製造方法において、前記接着剤を前記プレート1の前記溝と貫通孔が形成された面の反対面に塗布して、前記プレート1と前記プレート2とを接着剤で接合する工程を有する、ことを特徴とする生体サンプル判別用プレート製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−121185(P2007−121185A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316124(P2005−316124)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】