説明

生体用複合材料及びその製造方法

【課題】 多孔質体の空隙内にポリマーが充填された生体用複合材料でありながら、その空隙内への皮質骨の形成が可能で、皮質骨との機械構造的な一体化を可能とする生体用複合材料を提供する。
【解決手段】 生分解性プラスチックであるポリ乳酸の中間生成物(ダイマー)であるラクチドをアセトン液2に溶解する。その溶解液3に、ラクチドをポリマー化するための触媒及び重合開始剤を加える。多孔質体からなる基材4をその溶解液3中に浸漬する。溶解液3をラクチドの重合温度に加熱する。加熱途中でアセントン液2は蒸発し消失する。基材4のなかでもラクチドがポリ乳酸6に変成し、基材4内の空隙中にポリ乳酸6が高密度で充填した複合材料7が製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人工骨、人工関節、インプラント材料等といった骨代替材料として適する生体用複合材料、なかでも特に無機多孔質体・生体吸収性ポリマー型の生体用複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、人工股関節や人工歯根を構成する人工骨材料としては、金属材料が主体であり、金属材料のなかでもチタン合金が最も好適とされている。これは、チタン合金がステンレス鋼やCo−Cr合金などの他の金属材料と比べて、比強度が高く(軽くて強靱)、金属材料のなかでは比較的生体に対する適合性に優れているからである。そしてチタン合金のなかでも、β型Ti−29Nb−13Ta−4.6Zr合金は生体に対する毒性が少なく、特に優れた生体用金属材料として有望視されている。
【0003】
ちなみに、純チタンは強度が不足しており、工業界では代表的なチタン合金であり、生体用金属材料としても最も多く利用されているTi−6Al−4V合金はVの毒性が問題視されている。
【0004】
生体用金属材料で常に問題視されるのが、強度と弾性率の関係である。強度についてはは、軽くて高強度であるのが望ましいことは言うまでもない。しかし、高強度な金属材料は往々にして弾性率が高い。一方、生体用金属材料が接合される生体皮質骨の弾性率は約10〜30GPaと低い。生体用金属材料と生体皮質骨の弾性率が近いことは、最も重要視される力学的生体適合性である。
【0005】
チタン合金はステンレス鋼、Co−Cr合金等の他の生体用金属材料と比べると、この弾性率が低く、この点でも生体材料として適する。しかし、低弾性率であるといっても、純チタン及びTi−6Al−4V合金の弾性率は100GPa程度もあり、依然として生体皮質骨の弾性率との開きは大きい。したがって、チタン合金の弾性率を更に低下させる工夫が各方面で講じられている。ちなみに、SUS316Lステンレス鋼の弾性率及びCo−Cr合金の弾性率は、共に200GPa以上である。
【0006】
チタン合金の弾性率を低下させる有力な手法の一つは多孔質化(ポーラス化)であり、この考えに沿って様々な生体用チタン多孔質体が提案されている。しかし、チタン合金の多孔質化は、一方で機械的強度の低下を招く。したがって、多孔質化と共に、その強度低下を抑制する対策が必要となり、その対策の一つが、非特許文献1により提示された、チタン多孔質体への超高分子量ポリエチレンのホットプレスによる圧入である。
【0007】
非特許文献1では、プラズマ回転電極法を用いて作製した純チタン粉末の真空焼結体をポリエチレンで挟み、温度473K、時間600sの条件で真空ホットプレスを行うことにより、チタン多孔質体と超高分子量ポリエチレンの複合化が図られている。
【0008】
チタン多孔質体内の空隙へ超高分子量ポリエチレン等のポリマーを充填することの第2の利点は、ポリマーの種類によっては、生体機能の付与が可能なことである。すなわち、チタン合金は金属材料のなかでは生物学的生体適合性が良好であるが、金属である以上、生体機能までは備えていない。このために、チタン多孔質体内の空隙へアパタイト系無機材料を充填することが特許文献1及び2に提案されている。
【0009】
しかしながら、ホットプレスでチタン多孔質体内の空隙全体にポリマーを充填することは技術的に困難であり、中心部には空隙が残るおそれがある。特に、チタン多孔質体のサイズが大きく、その中の平均空隙径が小さいほど、ポリマーの充填が困難となり、中心部に空隙が残る危険性が大となる。チタン多孔質体内に空隙が残ると、この未充填部に応力集中が起こり、多孔質化による機械的強度の低下を抑制する効果が小さくなる。これに加え、チタン多孔質体内の空隙へのポリマー注入が不完全であると、その材料を切断して使用した場合に切断面に未注入部分が露出し、所定の生体機能が得られないおそれがある。また、ホットプレスによる圧入は、大がかりな設備を必要とする点でも問題である。
【0010】
一方、アパタイト系無機材料の充填には、乾燥工程、高温での焼結工程が必要であり、高温焼結工程において基材であるチタン多孔質体の特性が変化するおそれがある。また、生体機能が骨材に限定されるという制約がある。
【0011】
このような状況下で、本発明者らは先に、ポリマー系生体材料の一部にモノマーが低粘性の液体となる有機材料が存在することに着目し、そのモノマー液をチタン多孔質体内の全体へ充填した状態でポリマーに重合させることにより、ポリマー系生体材料をチタン多孔質体内へ高密度に充填する方法を開発した(非特許文献2)。その考え方を簡単に説明すると以下のとおりである。
【0012】
ポリマーはモノマーが重合したものであり、そのモノマーは固体、低粘度の液体又は気体等として存在する。ポリメタクリル酸メチルのモノマーであるメタクリル酸メチルは常温で低粘度の液体であり、重合開始温度も例えば343Kと比較的低温である。重合開始剤を混合したメタクリル酸メチル液にチタン多孔質体を浸漬した場合、その液体は多孔質体内の空隙にスムーズに侵入し、真空脱泡処理等を併用すれば、多孔質体内の空隙中にほぼ完全に充填させることができる。そして、充填後にその液体を重合開始温度以上に加熱すれば、多孔質体内でメタクリル酸メチルが重合してポリメタクリル酸メチルとなり、ポリメタクリル酸メチルが多孔質体内の空隙に断面積比で98%以上という極めて高い充填率で均一に充填されたチタン多孔質体が得られる。特に、チタン多孔質体の平均空隙孔径が10μm以下というような微細孔の多孔質体の場合も断面積比で98%以上という極めて高い充填率が得られる。
【0013】
ポリメタクリル酸メチルは眼内レンズ、ハードコンタクトレンズ等に使用される生体材料で、これをチタン多孔質体内に充填した複合材料の機械的特性(弾性率、引張強度)は生体皮質骨と同等レベルに近づく。このため骨代替材として有望視されている。
【0014】
しかしながら、ポリメタクリル酸メチルを多孔質体内に充填した生体用複合材料の骨代替材としての適性が高いとはいえ、それは、その生体用複合材料の物理的性質、化学的性質が生体皮質骨に極めて近いということであり、機械構造的な適性まで保有するということではない。機械構造的な適性とは、生体用複合材料が生体皮質骨と一体化するということであり、より具体的には、多孔質体を体内に代替骨として埋め込んだ後に多孔質体内の空隙中に皮質骨が形成され、多孔質体と皮質骨が機械的に一体化するこということである。多孔質体とポリメタクリル酸メチルの複合材料にこのような機能はなく、出願人の知る限りこのような機能を有する生体用複合材料は他にも存在しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】日本金属学会2006年春期大会講演概要第177頁(会期2006年3月21〜23日)
【非特許文献2】「粉体および粉末冶金」第55巻第5号第312−317頁
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許第3619869号公報
【特許文献2】特開2003−325654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、多孔質体の空隙内にポリマーが充填された生体用複合材料でありながら、その空隙内への皮質骨の形成が可能であり、これにより皮質骨との機械構造的な一体化も可能な生体用複合材料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明者らは多孔質体内に充填するポリマー系生体材料として、生体吸収性ポリマーに着目した。生体吸収性ポリマーは、生体組織内で分解され、かつ分解生成物が代謝・排泄されるものである。この生体吸収性ポリマーとしては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリシアノアクリレート等がある。いずれも生物学的生体適合性は悪くない。代表的な生体吸収性ポリマーはポリ乳酸であり、現状では最も研究、実用化が進んでいる。
【0019】
このような生体吸収性ポリマーが多孔質体内の空隙中に充填された複合材料を開発し、骨代替材として使用するならば、埋め込みからの期間経過と共に生体吸収性ポリマーが分解消失し、そこに皮質骨が新たに形成されて、最終的には多孔質体内の生体吸収性ポリマーが皮質骨と置き換わって、多孔質体と接する皮質骨と機械構造的に一体化されることになる。
【0020】
しかしながら、生体吸収性ポリマーの工業的な製造においては、モノマーから直接ポリマーにせず、中間物質を経由する場合がある。このような生体吸収性ポリマーでは、非特許文献2に示した液体モノマーを利用して多孔質体内に充填する方法は使用できない。また、熱により融解された生体吸収性ポリマーの粘性は高く、熱融解あるいはホットプレスによる充填も困難である。すなわち、生体吸収性ポリマーに関しては、多孔質体の表面近傍はともかく、その内部深くまで充填することはできず、未充填部分の多さの結果として充填率は非常に低くなる。
【0021】
このような状況下で、本発明者らは生体吸収性ポリマーを多孔質体内へ充填させる方法について、様々な角度から検討を続けた。その結果、生体吸収性ポリマーを適用する際の障害として認識されていた中間物質を経由する製法においても問題解決の糸口のあることを、本発明者らは見出した。具体的に説明すると、生体吸収性ポリマーの一つであるポリ乳酸は、通常はモノマーである乳酸から直接合成されることはなく、ラクチドを経由するラクチド法と呼ばれる方法により合成されるが、中間物質(ダイマー)であるラクチドはアセトンなどの有機溶剤に容易に溶解して、空隙径の小さい多孔質体内にも容易に侵入し、この状態で多孔質体内のラクチドをポリ乳酸に重合させるならば、大型の多孔質体内の全体へもポリ乳酸の高密度充填が可能となることを、本発明者らは発見した。
【0022】
すなわち、乳酸を加熱脱水重合すると低分子量のポリ乳酸が得られるが、これは分子が短すぎるために構造体としては役にたたない。このオリゴマーを更に減圧下で加熱分解することにより、乳酸の環状二量体(ダイマー)であるラクチドが得られる。ラクチドは金属塩の触媒存在下で容易に重合し、ポリ乳酸となる。中間物質であるダイマー状態のラクチドは、アセトンなどの有機溶剤に溶解し、極めて粘性の低い溶解液となるので、その溶解液を多孔質体内へ充填した状態でポリ乳酸に重合すれば、多孔質体内の全体へポリ乳酸が高密度で充填された複合材料が得られるのである。
【0023】
ちなみに、ラクチドが溶解した有機溶剤の粘性は、有機溶剤自体と大差ない程度である。
【0024】
本発明の生体用複合材料及びその製造方法はかかる知見を基礎として完成されたものであり、その生体用複合材料は、多孔質体からなる基材の空隙中にポリ乳酸が、基材断面における空隙内の占有面積比率で表して90%以上の高密度で充填されたものである。なお、本明細書では、多孔質体内の空隙におけるポリマーなどの充填物の充填度を表す指標として、基材断面における空隙内の占有面積比率を用いるが、断面積比とはこの空隙内の占有面積比率のことである。
【0025】
本発明の生体用複合材料においては、平均空隙径が10μm以下の緻密な多孔質体の場合も、その表面から5mm以上にポリ乳酸が高密度で充填される。したがって、最大厚さが5mm以上はもとより、10mm以上である基材の全体にもポリ乳酸を高密度で充填することが可能となる。更にいえば、ラクチドの溶解液の粘性からして、100mmを超える充填深さも可能である。
【0026】
本発明の生体用複合材料におけるポリ乳酸の充填密度は、多孔質体の平均空隙径が100μm以下の場合でも、断面積比で90%以上が可能であり、95%以上も可能である。後述する実施例では98%以上も達成されている。
【0027】
多孔質体からなる基材の平均空隙孔径は、ポリ乳酸の充填性の点からは特に制限はない。平均空隙径が10μmの多孔質体でも、ポリ乳酸の充填は可能である。むしろ、基材の機械的な強度の確保や空隙内における皮質骨形成の点から500μm以下が好ましい。多孔質体内での皮質骨形成には100〜400μmの平均空隙径が好ましいという意見が多い。
【0028】
ポリ乳酸の分子量は1万〜15万が好ましい。一般には10万以上の高分子量で使用されているが、これは強度、耐熱性の観点からであり、本発明の生体用複合材料の場合、多孔質体で強度を確保するので、そこまでの分子量を確保しなくてもよい。生体吸収性促進の点からはむしろ低分子量の方が好ましい。
【0029】
本発明の生体用複合材料においては、多孔質体の空隙中にポリ乳酸と共に骨形成促進剤を充填することができる。これにより空隙内での皮質骨形成を促進することができる。ここにおける骨形成促進剤としては、ハイドロキシアパタイト(HAp)、リン酸オクタカルシウム(OCp)、リン酸三カルシウム(α−TCP、β−TCP)などのリン酸カルシウム、或いはバテライトなどの炭酸カルシウムを挙げることができる。
【0030】
基材である多孔質体としては、多孔質の生体用金属(各種ステンレス鋼、コバルト合金、チタン合金、マグネシウム合金、純タンタルなど)の他、多孔質の生体用セラミックス(アルミナ、ハイドロキシアパタイトなど)を挙げることができる。ポリマーを充填したときの皮質骨との機械的特性の類似性、ポリ乳酸の充填性などの点から、球状チタン粉末焼結体が特に好ましい。
【0031】
また、本発明の生体用複合材料の製造方法は、乳酸のラクチドが溶解した有機溶剤であり、且つそのラクチドを重合させるのに必要な重合開始剤及び触媒を含む溶解液を生成する工程と、その溶解液中に多孔質体からなる基材を浸漬して多孔質体の空隙中に溶解液を充填する工程と、溶解液をラクチドの重合開始温度以上に加熱する工程とを包含している。
【0032】
本発明の生体用複合材料の製造方法においては、ラクチドを重合させるのに必要な重合開始剤及び触媒を含むラクチドの溶解液中に、多孔質体からなる基材を浸漬する。ラクチド溶解液も有機溶剤単体も粘性が殆どかわらず、低粘性であるので、基材内の空隙中に容易に侵入し高密度で充填される。真空脱泡処理を行うことにより、充填性はより良好となる。充填後、溶解液をラクチドの融点以上かつ重合開始温度以下の温度で保持し、有機溶剤を蒸発させる。有機溶剤の沸点はラクチドの重合開始温度より低いので、この処理により有機溶剤が蒸発し、充填物はラクチド、重合開始剤及び触媒のみとなる。その後、重合開始温度以上になるまで、さらに加熱し、加熱温度が重合開始温度に達すると、ラクチドがポリ乳酸に変成する。
【0033】
かくして、多孔質体からなる基材の空隙中に、生体吸収性ポリマーであるポリ乳酸が高密度で充填された生体用複合材料が製造される。
【0034】
ラクチドの溶解液中に骨形成促進剤を添加しておけば、基材の空隙中にポリ乳酸と共に骨形成促進剤を充填することができる。骨形成促進剤を充填することの利点、及び骨形成促進剤の種類は前述したとおりである。
【0035】
多孔質体からなる基材についても前述したとおりであり、球状チタン粉末焼結体が特に好ましい。チタン粉末の材質は、純チタン、チタン合金のいずれでもよいが、純チタンより高強度であり、かつVなどの生体へ悪影響を与える危険のある元素を含まないチタン合金が好ましく、β型チタン合金、とりわけTi−29Nb−13Ta−4.6Zr合金などが好適である。
【0036】
乳酸のラクチドを溶解する有機溶剤としては、トルエン、クロロベンゼンなどの芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素、ジエチルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテルなどのエーテル系、テトラヒドロフランなどの環状エーテル系、酢酸エチルなどのエステル系、アセトンなどのケトン系を用いることができる。これら有機溶剤の沸点は、ラクチドの重合温度より低い。
【0037】
ラクチドの重合開始材は1−ドテカノル(1−Dodecanol )である。重合開始材と共に使用する触媒としては、オクチル酸スズ(II)〔Sn(II)Octylate] 、トリフェニルスズアセテートなどのスズ系、チタテトラフェノキシド、チタンジイソプロポキシドジフェノキシドなどのチタン系、酸化アルミニウム、アルミニウムイソプロポキシドなどのアルミニウム系、酸化亜鉛(II)、炭酸亜鉛(II)などの亜鉛系、ジルコニウムイソプロポキシドなどのジルコニウム系、三酸化アンチモンなどのアンチモン系、酸化ビスマス(III) などのビスマス系を挙げることができる。
【0038】
多孔質体の空隙率は、ポリ乳酸の充填性の点からは大きな意味を持たない。空隙率の大小に関係なく高い充填率を得ることができるからである。しかし、この空隙率は、一方で複合材料におけるポリ乳酸の含有比を決定し、複合材料の機械的特性に影響を与える。また、空隙内で皮質骨が成長したときの骨比率に影響を与える。空隙率が大きくなるほど、ポリ乳酸の含有比が大きくなり、ポリ乳酸が分解した後は複合材料内の骨比率が大きくなる。
【0039】
具体的に説明すると、空隙率が大きくなるほど、弾性率は低下して皮質骨のそれに近づくが、その一方で機械的強度は低下する。機械的強度の低下はポリ乳酸の充填である程度補うことができるので、皮質骨に近い弾性率が得られるように空隙率を選択することが重要である。この観点から、多孔質体の空隙率は35%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。反対に、空隙率が大きくなると、機械的強度の低下が顕著となり、ポリ乳酸の充填によっても、皮質骨レベルを維持することが困難となる。このようなことから、空隙率の上限については50%以下が好ましく、45%以下が特に好ましい。
【0040】
ちなみに、球状チタン粉末焼結体の空隙率は概ね20〜55%である。また、皮骨質の引張強度は60〜150MPa、弾性率は10〜30GPaである。
【発明の効果】
【0041】
本発明の生体用複合材料は、多孔質体からなる基材の空隙中に生体吸収性ポリマーであるポリ乳酸が高密度で充填されているので、基材に生体機能が付与される。ポリマーの充填により、機械手強度の低下がある程度抑制され、生体皮質骨に近いに機械的強度が維持される。ポリマーが生体吸収性であるため、骨代替材として使用したときに基材中のポリマーが徐々に分解消失し、代わって皮質骨が形成されることにより、接合されている皮質骨との機械構造的な一体化が可能である。したがって生体皮質骨との接合性に特に優れる。
【0042】
また、本発明の生体用複合材料の製造方法は、ポリ乳酸の中間物質(ダイマー)であるラクチドが有機溶剤に溶解する性質を利用し、ラクチドの溶解液中に多孔質体を浸漬し、多孔質体内でラクチドをポリ乳酸に重合させることにより、多孔質体の空隙孔径が大きい場合はもとより、小さい場合も、また多孔質体が小さい場合も大きい場合も、多孔質体内の空隙中にポリ乳酸を高密度で簡単に充填することができる。このため、生体皮質骨との接合性に優れた多種多様な特性の生体用複合材料を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】(a)〜(f)は本発明の生体用複合材料の製造方法の一例を工程順に示す模式図である。
【図2】本発明の生体用複合材料の製造方法の一例について加熱温度の変化を示すグラフである。
【図3】本発明の生体用複合材料の製造方法における代表的な化学反応の化学式である。
【図4】(a)〜(c)は本発明の生体用複合材料の切断面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0045】
本実施形態の生体用複合材料の製造方法では、基材として、球状チタン粉末焼結体からなるチタン多孔質体を用い、その多孔質体内にポリ乳酸が高密度で充填した生体用複合材料を製造する。この製造のために先ず、図1(a)に示すように、有機溶剤として、容器1内に所定量収容されたアセトン液2を準備する。そのアセントン液2中に触媒であるオクチル酸スズ(II)〔Sn(II)Octylate] 及び重合開始剤である1−ドテカノル(1−Dodecanol )を混合する。触媒も重合開始剤も常温で液体である。
【0046】
次いで図1(b)に示すように、触媒及び重合開始剤が混合されたアセントン液2中にポリ乳酸の中間物質(ダイマー)であるラクチドを添加する。ラクチドは常温では固体の粉末である。アセトン液2中に添加されたラクチド粉末は速やかに溶解する。その結果、図1(c)に示すように、容器1内に、触媒及び重合開始剤を含むラクチド溶解液3が生成される。そして、生成されたラクチド溶解液3中に基材4を浸漬する。基材4が球状チタン粉末焼結体であることは前述したとおりであり、その基材4内にラクチド溶解液3がに侵入する。
【0047】
容器1内のラクチド溶解液3中に基材4が浸漬されると、図1(d)に示すように、その容器1を真空加熱装置5内にセットする。そして、図2に示すように、装置内を窒素ガス雰囲気に置換した後、装置内をラクチドの融点である95℃以上、例えば115℃に昇温し、この温度を保持しながら装置内を真空引きする。アセトンの沸点は56℃なので、これにより容器1内のラクチド溶解液3は液体の状態が保たれつつ、その中のアセトンが蒸発し除去される。また、真空脱泡処理により、基材4内へのラクチド溶解液3の侵入が促進される。アセトンの除去により、容器1内のラクチドは最終的には触媒及び重合開始剤を含む混合粘性液体となる。
【0048】
アセトンの除去が終わると、図1(e)に示すように、装置内を再び窒素ガス雰囲気としてラクチドの重合温度である160℃に昇温し、所定時間保持する。これにより、容器1内では図3に示す重合反応が起こり、容器1内の混合物がポリマーであるポリ乳酸6になる。同時に、基材4内の混合物もポリ乳酸に変成する。その後、未重合のラクチドを蒸発除去するため、装置内の温度を維持したまま装置内を真空引きする。こうして、チタン多孔質体(球状チタン粉末焼結体)からなる基材4中に、生体吸収性ポリマーからなるポリ乳酸が高密度で充填された生体用複合材料7が製造される。
【0049】
最後に図1(f)に示すように、容器1内から、生成されたポリ乳酸6を取り出し、そのなかから生体用複合材料7を採取する。生体用複合材料7を採取するとき、表面にポリ乳酸6を残せば、表面がポリ乳酸6で覆われた複合材料7を得ることができる。
【0050】
生体用複合材料7は、ここでは板材としたが、予め用途に応じた形状に成形したものでもよいし、ポリ乳酸の充填後に用途に応じた形状に加工することも可能である。前者の場合は、表面の一部又は全部にポリ乳酸を残すことにより、ポリ乳酸被覆複合材料を簡単に作製することができる。後者の場合は、多孔質体の空隙全体にポリ乳酸が充填されているので、切断部位に関係なく切断面の状況は同じ(所定比率でポリマーが存在するもの)となる。
【実施例】
【0051】
以上の手順でチタン多孔質体からなる基材中にポリ乳酸が充填された生体用複合材料のサンプルを実際に作製した。チタン多孔質体は、純チタン(2種)のガスアトマイズ球状粉末焼結体であり、粉末粒子径及び空隙率が異なる3種類(pTi45、pTi150、pTi250)である。
【0052】
pTi45の粒子径は45μm以下、平均粒子径は25μm、空隙率は35%、平均空隙孔径は10μmである。pTi150の粒子径は45〜150μm、平均粒子径は80μm、空隙率は45%、平均空隙孔径は20μmである。pTi250の粒子径は150〜250μm、平均粒子径は180μm、空隙率は50%、平均空隙孔径は55μmである。
【0053】
サンプルの厚みは2mm、長さは10mm、幅は10mmである。アセトンの使用量は40ml、ラクチド量は20g、触媒であるオクチル酸スズ(II)〔Sn(II)Octylate] の混合量は20mg、重合開始剤である1−ドテカノル(1−Dodecanol )の混合量は20mgとした。処理条件は図2に示したとおりである。
【0054】
製造された3種類のサンプルの切断面の顕微鏡写真を図4(a)〜(c)に示す。図4(a)はチタン多孔質体がpTi45である複合材料、(b)はチタン多孔質体がpTi150である複合材料、(c)はチタン多孔質体がpTi250である複合材料をそれぞれ示す。いずれの複合材料においても、ポリ乳酸の充填率は顕微鏡写真から判定して断面積比で98%以上である。また、多孔質体の空隙中の充填されたポリ乳酸の分子量は1〜10万であった。pTi45の平均空隙孔径が10μmであることを考慮すると、98%以上という充填率は注目すべきレベルであり、骨形成に適するとされる空隙孔径が100〜400μmの多孔質体の場合に、多孔質体の厚さに関係なく高充填率が得られることは明らかである。
【0055】
比較のために、チタン多孔質体がpTi250である基材に対して、熱融解法によるポリ乳酸の充填を試みた。ポリ乳酸の融点は180℃であり、加熱温度は220℃とした。この場合、2mm厚の多孔質体の片方の表面から1.5mmの領域にポリ乳酸が充填されるに止まった。
【符号の説明】
【0056】
1 容器
2 アセトン液
3 ラクチド溶解液
4 基材
5 真空加熱装置
6 ポリ乳酸
7 複合材料



【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体からなる基材の空隙中にポリ乳酸が、基材断面における空隙内の占有面積比率で表して90%以上の高密度で充填されている生体用複合材料。
【請求項2】
請求項1に記載の生体用複合材料において、ポリ乳酸の充填密度が、基材断面における空隙内の占有面積比率で表して95%以上である生体用複合材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の生体用複合材料において、基材の最大厚さが5mm以上である生体用複合材料。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の生体用複合材料において、基材の平均空隙孔径が500μm以下である生体用複合材料。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の生体用複合材料において、ポリ乳酸の分子量1万〜15万である生体用複合材料1
【請求項6】
請求項1〜5に記載の生体用複合材料において、多孔質体の空隙中にポリ乳酸と共に骨形成促進剤が充填されている生体用複合材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の生体用複合材料において、基材は球状チタン粉末焼結体である生体用複合材料。
【請求項8】
乳酸のラクチドが溶解した有機溶剤であり、且つそのラクチドを重合させるのに必要な重合開始剤及び触媒を含む溶解液を生成する工程と、その溶解液中に多孔質体からなる基材を浸漬して多孔質体の空隙中に溶解液を充填する工程と、溶解液をラクチドの重合開始温度以上に加熱する工程とを含む生体用複合材料の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の生体用複合材料の製造方法において、有機溶剤はその沸点がラクチドの重合開始温度より低い物質である生体用複合材料の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の生体用複合材料において、ラクチドの溶解液が骨形成促進剤を含む生体用複合材料の製造方法。
【請求項11】
請求項8〜10の何れかに記載の生体用複合材料の製造方法において、前記基材は球状チタン粉末焼結体である生体用複合材料の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−220926(P2010−220926A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73561(P2009−73561)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】