説明

生体磁気計測システム用デュワ

【課題】
生体磁気計測において、十分な磁場信号強度を検出するにはデュワ底面(磁気センサ部)を測定部位である被検者の胸部になるべく近づける必要があるが、このとき被験者の頭部や腹部がデュワ底面の縁につかえて十分に近づけられないということがないような生体磁気計測システム用デュワを提供するものである。
【解決手段】
生体磁気計測システム用デュワの形状において、被検者側の底面を人体胸部に近づけたとき、顔側になる部分と腹部側になる部分についてデュワ底面円周の2ヶ所が肩と平行になるように直線状の形状を有することを特徴とするデュワ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者の心臓や脳などから発生する微弱な磁気信号を計測するSQUID
(Superconducting Quantum Interference Device :超伝導量子干渉素子)磁束計を備えた生体磁気計測装置の、磁気センサを冷却するデュワに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体磁場計測における液体ヘリウムデュワは、一般的に構造上の作りやすさから円筒形もしくは、直径の異なる円筒形を組み合わせた形状のものが使われている。上記円筒形デュワの改良として、特許文献1では、特にデュワの底面を人体胸部に近づけたときに顔側になる部分の形状を、肩と平行になるように円周の一部を直線状とし、そのデュワの内部底面に磁気センサを配置した生体磁気計測システム用デュワが開示されている。また、脳磁場を計測するシステムでは、頭部全体を計測するために円筒型デュワの底面形状を、頭の形に合わせたヘルメット状とするものがある。
【0003】
【特許文献1】特開平10−155758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の技術では、該デュワの前記被検者側の底面を人体胸部に近づけたとき、顔側になる部分のデュワ形状しか考慮されていないため、腹部の太った被検者や妊婦の心臓を計測するときに、頭部側とは反対側のデュワの円形状の縁が被検者の腹部につかえて、十分にデュワ底面に心臓を近づけることができず磁気センサとの距離が開きすぎて十分な信号強度を得られない場合があるという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、一回の測定で心臓全体をカバーできる直径あるいは底面積の大きなデュワ(直径13cm以上あるいは、底面積170cm2以上)において、デュワを被検者の心臓に近づけたときに、被検者の頭部や腹部がデュワにつかえて、十分に心臓をデュワ底面に近づけられないということがないような生体磁気計測システム用デュワを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の構成は以下の通りである。
【0007】
デュワの形状において、被検者側の底面を人体胸部に近づけたとき、顔側になる部分と腹部側になる部分の2ヶ所が肩と平行になるように直線状の形状を有することを特徴とする生体磁気計測システム用デュワ。デュワ内部の底面に配置された磁気センサは、上記直線状に平行して配列されることが望ましいが、ここで限定するものではない。
【0008】
また上記デュワにおいて、直線状の形状は顔側になる部分と腹部側になる部分の2ヶ所だけではなく、被検者が該デュワの真下とベッドの間に入りやすいよう、該デュワの底面が体軸と平行になるよう直線状の形状を加えて有することが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
上記に示した本発明によれば、一回の測定で測定対象となる部位(心臓や肺など)の全体をカバーできる直径あるいは底面積の大きなデュワ(直径13cm以上あるいは、底面積170cm2 以上)を用いた生体磁気計測において、デュワを被検者の胸部に近づけたときに、被検者の頭部や腹部がデュワにつかえて、十分に測定対象となる部位(心臓や肺など)にデュワ底面を近づけられないため十分な信号強度が得られないということがなく、安定した計測が腹部の太った被検者や妊婦などに対しても行える生体磁気計測システム用デュワを提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の一実施例を図を用いて説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施例である生体磁気計測装置の構成を示す図である。図1に示すように磁気シールドルーム11内には、被検者17が横になるベッド14と複数個(複数チャンネル)の磁気センサおよび磁気センサを超伝導状態に保持するための冷媒(液体ヘリウムまたは液体窒素)が貯蔵されたデュワ12と、デュワ12を機械的に保持するガントリ13が配置されている。被検者17の測定部位を、該磁気センサの配置されているデュワ12の底面部に近づけるため、ベッド14は可動式である。あるいは、ガントリ13が可動式であってもよいし、ベッド14とガントリ13の両者が可動式であってもよい。磁気シールドルーム11の外部にはSQUID磁束計動作回路や、計測した生体磁気信号を増幅するアンプ回路および、ノイズ成分を除去するフィルタ回路などが入った電子回路ユニット15と、データ取り込みおよびデータ解析用コンピュータ16と、が配置されている。
【0012】
磁気センサによって検出された生体磁気信号は、電子回路ユニット15のアンプ回路により増幅され、かつ設定周波数より低い周波数信号を通過させるローパスフィルタや設定周波数より高い周波数信号を通過させるハイパスフィルタ,商用電源周波数だけをカットするノッチフィルタなどの信号処理を経た後、コンピュータ(パソコン)16に生データとして取り込まれる。また、パソコン16は、取り込んだ生データを生データファイルに格納し、波形を画面表示したり、また波形の信号処理などを行い、表示することもできる。
【0013】
図2は、本発明の実施例であるデュワ形状を立体図で示した図である。
【0014】
図2において、デュワ12の内部底面には、複数本の磁気センサ22が配置されている。また、デュワ12の内部には磁気センサ22を超伝導状態に保持するための液体ヘリウムや液体窒素などの冷媒24で満たされている。棒状の液面センサ23は、冷媒24の残量を計測・監視するための液面センサであり、超伝導材が用いられている。液面センサ
23において、冷媒24の液面より下の部分では超伝導状態(電気抵抗が0)、液面より上の部分では、常伝導状態(電気抵抗≠0)となっており、棒状のトータルの電気抵抗を測定することにより、冷媒の残量を計測している。本発明の実施例であるデュワ形状の特徴として、円筒型のデュワ形状におけるデュワ底部円周の2ヶ所が互いに平行な直線状の形状を有している。
【0015】
図3は、図2のデュワ底面部を平面図で示した図であり、かつ磁気センサの位置と被検者の測定胸部の位置関係を示した図である。デュワ12の底面形状は、被検者17の顔側になる部分と腹部側になる部分が肩と平行になるよう円周の2ヶ所が直線状の形状を有している。
【0016】
デュワ12の形状において、図3のように液面センサ23の配置は複数の磁気センサ
22の配列の外側になるようにデュワの内部空間が空いていることが望ましい。液面センサ23を、複数の磁気センサ22の配列の外側になるように配置する理由として、磁気センサ22の近くに液面センサがあると、液面センサを介して、電磁ノイズの影響を受けやすくなる場合があるため、極力、液面センサを遠ざけることが望ましいからである。
【0017】
図4は、従来型のデュワ形状(特開平10−155758号公報)と比較して、本発明の実施により得られる利点についての説明した図である。従来のデュワ41の形状では、被検者17の胸部にデュワを近づけたとき、腹部の太った被検者やあるいは妊婦の被検者に対しては、腹部側のデュワ底面の縁が被検者の腹部につかえて、十分にデュワ底面を心臓に近づけることが出来ず、磁気センサとの距離が開きすぎて、十分な信号強度が得られない場合があるという問題があった。しかし、本発明の実施例であるデュワ12の形状では、腹部側のデュワ底面の縁を直線状にしていることで、被検者の腹部につかえることなく、十分にデュワ底面を心臓に近づけることが出来る。したがって、磁気センサとの距離が開きすぎることなく、十分な信号強度を得ることができる。
【0018】
図5は、磁気シールドルームを小型化した生体磁気計測システムの一例の外観図である。施設によっては、システムを設置する場所に十分なスペースを確保できない場合が多く、その場合は、磁気シールドルームを小型化して、システム全体の設置スペースを縮小する必要がある。図5のように磁気シールドルームを小型化したシステムでは、磁気シールドルームのドア52を開けて、ベッドに横たわるようにして、磁気シールドルームの中に入る。このとき、磁気シールドルーム内の空間と磁気シールドルームの中に入るための間口が狭いため、被検者17がベッド14に横たわってデュワ53の真下とベッド14の間に入りにくい。そこで本発明では、被検者17がベッド14に横たわってデュワ53の真下とベッド14の間に入りやすくするため、図2のデュワ12の形状の特徴であるデュワ底面円周の2ヶ所を直線状とした形状に加え、被検者17の体軸と平行になるよう直線状部分を1ヶ所加えた形状を有している。図6に本発明の実施例であるデュワ形状の立体図を示す。また、図7は、図6のデュワ底面部を平面図で示した図であり、かつ磁気センサの位置と被検者の測定胸部の位置関係を示した図である。
【0019】
デュワ53の形状において、図7のように液面センサ23の配置は複数の磁気センサ
22の配列の外側になるようにデュワ53の内部空間が空いていることが望ましい。したがって、図7のように、デュワ53の形状において被検者17の体軸と平行になるよう直線状部分を1ヶ所加えた形状部分とは反対側の形状は、複数の磁気センサ22の配列の外側に液面センサ23が配置できる空間の分だけ大きくなっている。前記液面センサ23が配置できる空間を大きくとることによる別のメリットとして、例えば大きくとった分の容積が3Lとすると、デュワの冷媒消費量が3L/日であれば、冷媒補充時期を1日分延ばすことができる。7日に1回の割合で補充したとすれば、年間約52回の補充の手間が、
46回の手間で済み、つまり補充回数を年間6回分もの手間が省けることになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例である生体磁気計測装置の構成を示した図である。
【図2】本発明の実施例であるデュワ形状を立体図で示した図である。
【図3】図2のデュワ底面部を平面図で示した図であり、かつ磁気センサの位置と被検者の測定胸部の位置関係を示した図である。
【図4】本発明の実施により得られる利点についての説明した図である。
【図5】本発明の実施例である生体磁気計測装置において、磁気シールドルームを小型化したシステムの外観図である。
【図6】本発明の実施例であるデュワ形状を立体図で示した図である。
【図7】図6のデュワ底面部を平面図で示した図であり、かつ磁気センサの位置と被検者の測定胸部の位置関係を示した図である。
【符号の説明】
【0021】
11…磁気シールドルーム、12…デュワ(底面円周の2ヶ所が直線形状)、13…ガントリー、14…ベッド、15…電子回路ユニット、16…コンピュータ、17…被検者、22…SQUIDを有する磁気センサ、23…液面センサ、24…冷媒、41…従来型のデュワ、51…小型の磁気シールドルーム、52…ドア、53…デュワ(底面円周の3ヶ所が直線形状)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から発生する磁場を計測する生体磁気計測装置において、
被検者から発生する磁場を検出する超伝導量子干渉素子(SQUID)を有する磁気センサを超伝導状態にするための冷媒である液体ヘリウムや液体窒素を保持するデュワであって、
該デュワの前記被検者側の底面を人体胸部に近づけたとき、顔側になる部分と腹部側になる部分の2ヶ所が肩と平行になるように直線状の形状を有することを特徴とする生体磁気計測システム用デュワ。
【請求項2】
請求項1記載のデュワにおいて、被検者が該デュワの真下とベッドの間に入りやすいよう、該デュワの底面が体軸と平行になるよう直線状の形状を有することを特徴とする生体磁気計測システム用デュワ。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のデュワにおいて、
格子状または円周上に配列された磁気センサの配列の外側に、液体ヘリウムや液体窒素などの冷媒の残量を計測する棒状の液面センサを設置するための空間をデュワ内に設けられていることを特徴とする生体磁気計測システム用デュワ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−81635(P2006−81635A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−267683(P2004−267683)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】