説明

生体観察装置

【課題】本発明の目的は、任意のタイミングで精細な画像を得ることができる生体観察装置を提供することにある。
【解決手段】本発明は、励起光ビームを射出するための光源部と、前記励起光ビームを走査するための走査光学系と、前記励起光ビームを生体試料に照射するための対物レンズと、前記生体試料に接触する生体接触面を有し、かつ前記走査光学系による第1の走査線におけるマーカ断片の距離と、第2の走査線におけるマーカ断片の距離との違いに基づいて復元可能なマーカが前記生体接触面上に配置された、マーカ付与手段と、前記生体試料からの検出光を検出する検出光学系と、前記検出光学系から出力された電気信号を画像データとして表示する画像表示手段と、前記画像表示手段によって表示された画像データを前記マーカの位置情報に基づいて再構成する画像再構成手段と、を具備する、生体観察装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動する生体から静止画像を得る画像再構成機能を備えた生体観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体機能の解析や病理解明などのため、生体を観察する手法に関心が集まってきている。しかし、生体は生きているがゆえに呼吸や拍動・脈動による振動を有している。この振動は観察像をブレさせるなど、観察を阻害する要因として非常に大きな問題である。
【0003】
このような動的挙動を観察するものとしては、顕微鏡画像撮像装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−274783
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の顕微鏡写真撮像装置は、生体の動きを検出して、生体が動いていないときの画像のみを抽出することにより、生体振動による像ブレのない画像を得るものであり、生体が動いていない瞬間しか撮像することができない。
【0005】
さらに、麻酔下のマウスでは心拍数が毎秒約10回、呼吸は毎秒約1回発生する。マウスの肝臓において、心拍による振動は300μm程度、呼吸による振動は2mm程度の振幅を有している。このような生体を拡大光学系で観察しようとすると、常に生体の振動によって像ブレが発生することになる。つまり、従来技術では、任意の時間の生体を観察できないばかりか、拡大して詳細な観察を行う際にはほとんど精細な画像を得ることができないという問題があった。
【0006】
従って、本発明の目的は、任意のタイミングで精細な画像を得ることができる生体観察装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究の結果、マーカ付与手段を生体観察装置に新たに設け、マーカ情報に基づいて画像を再構成することで上記課題を解決するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、励起光ビームを射出するための光源部と、前記励起光ビームを走査するための走査光学系と、前記励起光ビームを生体試料に照射するための対物レンズと、前記生体試料に接触する生体接触面を有し、かつ前記走査光学系による第1の走査線におけるマーカ断片の距離と、第2の走査線におけるマーカ断片の距離との違いに基づいて復元可能なマーカが前記生体接触面上に配置された、マーカ付与手段と、前記生体試料からの検出光を検出する検出光学系と、前記検出光学系から出力された電気信号を画像データとして表示する画像表示手段と、前記画像表示手段によって表示された画像データを前記マーカの位置情報に基づいて再構成する画像再構成手段と、を具備する、生体観察装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、任意のタイミングで精細な画像を得ることができる生体観察装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の構成を詳細に説明するために例示的に示したものに過ぎない。従って、本発明は、以下の実施形態に記載された説明に基づいて限定解釈されるべきではない。本発明の範囲には、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内にある限り、以下の実施形態の種々の変形、改良形態を含む全ての実施形態が含まれる。
【0011】
<第1の実施形態>
図1
図1は、第1の実施形態における生体観察装置100の模式図である。本発明の生体観察装置100は、励起光ビームを射出するための光源部110と、前記励起光ビームを走査するための走査光学系120と、前記励起光ビームを生体試料に照射するための対物レンズ130と、前記生体試料に接触する生体接触面を有し、かつ前記走査光学系による第1の走査線におけるマーカ断片の距離と、第2の走査線におけるマーカ断片の距離との違いに基づいて復元可能なマーカが前記生体接触面上に配置された、マーカ付与手段140と、前記生体試料からの検出光を検出する検出光学系150と、前記検出光学系から出力された電気信号を画像データとして表示する画像表示手段160と、前記画像表示手段によって表示された画像データを前記マーカの位置情報に基づいて再構成する画像再構成手段160と、を具備する。
【0012】
光源部110は、励起光を発するレーザ光源111と、レーザ光源111から発せられた励起光を伝達する光ファイバ112(マルチモードファイバ)と、光ファイバ112によって伝達された励起光を励起光ビームとして射出する射出部113とを有している。射出部113より射出された励起光ビームは、集光レンズ171によって集光された後、ダイクロイックミラー172および173によって反射され、走査光学系120に入射する。
【0013】
走査光学系120は、ガルバノミラー(XYガルバノミラーユニット)や音響光学素子などの光ビームを走査する公知の走査素子を用いて構成される。走査光学系120に入射した励起光は偏向され、投影レンズ174および結像レンズ175を通して対物レンズ130に入射し、対物レンズ130を介して生体試料Aに励起光ビームが照射される。生体試料Aからの検出光(蛍光、反射光)は、同じ経路を通って戻され、ダイクロイックミラー173を透過し、集光レンズ176に集光された後、検出光学系150に入射する。
【0014】
マーカ付与手段140は、生体接触面141を有し、かつ生体接触面141にマーカを配置することが可能な公知の部材、例えば、スタビライザやカバーガラスで構成される。特に、スタビライザを使用する場合、光軸方向(Z軸方向)への生体の振動を抑制することによって、光軸方向への像ズレに起因した画像情報の欠損を防止することができる。
【0015】
スタビライザを使用する場合、スタビライザの生体接触面に配置されたガラスとの摺動摩擦を低減するために、マーカの生体接触面と裏面の材質を変えてもよい。この場合、生体に接触する面は、生体と相性がよく、密着しやすいガラスを、裏面には光学的に透明な摺動性の樹脂を用いればよい。もしくは、スタビライザの生体接触面に配置されたガラスを光学的に透明で摺動性のよい樹脂に変更してもよい。また、生体接触面の反対側に摺動性を向上させるコーティングを施してもよい。もしくは、摺動性のよい光学的に透明な樹脂をマウスに生体用接着剤を用いて固定する方法をとってもよい。
【0016】
生体試料Aはステージ190に載置される。生体試料Aの所望の位置を観察するために、ステージ190は回転ステージおよびXYステージで構成されることが好ましい。
【0017】
検出光学系150は、生体試料からの検出光(蛍光または反射光)を入射させる入射部151と、入射部151に入射した検出光を伝達する光ファイバ152(マルチモードファイバ)と、光ファイバ152によって伝達された検出光を、その光強度を反映した電気信号に変換して出力する検出器153とを有している。
【0018】
画像表示手段160は、検出器153から出力された電気信号を画像を構成する各画素情報に変換する演算処理部161と、演算処理の結果を画像として表示するモニタ162により構成される。演算処理部161は、走査光学系120による生体試料Aの走査によって順次得られる電気信号を、その電気信号が得られた位置に対応する画素情報として取得し、順次各画素の輝度を決定していくことによって、生体試料Aの走査範囲における生体画像をモニタ162上に表示する。
【0019】
このとき、生体試料Aは絶えず振動しているため、画像表示手段160によって表示された画像データは、副走査方向にずれを生じている。ここで副走査方向とは、走査方向に対して垂直な方向であり、例えば、XY平面上でX軸方向に走査が行われる場合、Y軸方向が副走査方向となる。走査光学系120は、X軸方向に走査を行った後(第1の走査)、第1の走査の幅分Y軸方向に移動した後、同じくX軸方向に走査を行う(第2の走査)。X軸方向の走査は非常に短時間で行われるため、各走査で得られた生体画像がぶれることはほとんどない。しかし、第1の走査と第2の走査との間にはタイムラグが生じ、このタイムラグによって生体画像にずれが生じる。画像再構成手段160は、この生体画像のずれ、より具体的には、生体振動に起因した第1の走査線と第2の走査線の間に生じる画像のずれを、マーカ情報に基づいて補正し、正しい位置関係に復元する手段である。
【0020】
画像再構成手段160は、画像表示手段160によって表示された画像データ情報をマーカの位置情報に基づいて再構成する演算処理部161と、前記演算処理の結果として再構成された画像を表示するモニタ162により構成される。なお、画像表示手段160および画像再構成手段160は同一PC内で構築すればよく、いずれも演算処理部161およびモニタ162によって構成される手段とすることができる。
【0021】
図2
図2は、マーカ付与手段140の生体接触面141を表した模式図である。
【0022】
マーカ1が、マーカ付与手段140の生体接触面141上に配置されている。マーカ1は、第1の走査線におけるマーカ断片の距離d1と、第2の走査線におけるマーカ断片の距離d2との違いに基づいて復元可能な形状において配置されている。
【0023】
ここで、第1の走査線とは、走査光学系120による任意の1走査線を意味し(図では例示的に走査線10として表わす)、第2の走査線とは、同じく走査光学系120による任意の1走査線であって、かつ第1の走査線とは異なる走査線を意味する(図では例示的に走査線20として表わす)。いずれもある特定の走査線を意味するものではなく、第nの走査線(nは自然数)と第nの走査線以外の任意の走査線との関係を表わしている。なお、以下の各図では、例示的にX軸方向を走査方向とし、副走査方向をY軸方向として表わしている。
【0024】
マーカ断片の距離d1とは、第1の走査線10におけるマーカのエッジ間距離を意味し、マーカ断片の距離d2とは、第2の走査線20におけるマーカのエッジ間距離を意味する。ここで、マーカ1を距離d1と距離d2が異なるように配置すれば、第1の走査線10および第2の走査線20の位置情報は、それぞれ距離d1をもつマーカ断片と距離d2をもつマーカ断片によって保存される。すなわち、生体の振動によって第1の走査線10と第2の走査線20との間にずれが生じた場合、第1の走査線10上の距離d1をもつマーカ断片と、第2の走査線20上の距離d2をもつマーカ断片に基づいて、第1の走査線10と第2の走査線20との相対的位置関係を復元することができる。その結果、生体の振動によって像ブレが生じた画像を復元し、精細な静止画像として再現することができる。
【0025】
また、後述するように、補助マーカを含め、複数のマーカが付与されている場合、各マーカ間の距離をdnとして定義することもある。重要なことは、各走査線上のマーカ情報が他の走査線のマーカ情報と区別できるということである。マーカ情報が各走査線の位置情報を保存できていれば、距離dnの定義の方法に特に制限はない。
【0026】
マーカの形状は、上述した要件を満たせば特に制限はない。例えば、図2に示した直角三角形のマーカは、走査方向に対して傾斜B-Bを有しているので、第1の走査線におけるマーカ断片の距離d1と第2の走査線におけるマーカ断片の距離d2は必ず異なる。従って、全ての走査線の位置情報はマーカ断片の距離によって保存されるので、生体振動によって各走査線の間にずれが生じた場合、マーカの形状を復元するように各走査線の位置を調節することによって、精細な静止画像を復元することができる。その他のマーカの形状として、例えば四角形、五角形、六角形、七角形、八角形などの多角形マーカや、直線または曲線マーカを使用することができる。
【0027】
マーカ1の種類には特に制限はなく、出願時に公知の全てのマーカを使用することができる。
【0028】
例えば、第1に、非蛍光かつ非反射のマーカを使用することができる。非蛍光かつ非反射のマーカは、生体の蛍光観察画像へのマーカから発する強輝度の光の映り込みを防止することができ、また、マーカの撮像のためにレーザを使わないので、観察用の蛍光を複数自由に選択することができる。この場合、観察画像においてマーカ部位は黒く抜けるため、マーカのエッジの位置情報を容易に抽出することができる。
【0029】
第2に、反射膜をマーカとして使用することもできる。反射膜マーカは、生体観察用の励起光と同じ波長で検出することができるため、マーカを励起するためのレーザが不要であり、その分観察用の蛍光を自由に複数選択することができる。また、反射効率は、蛍光の励起効率に比べ1オーダ高いので、マーカがクリアに撮像できる。この結果、エッジの検出がしやすくなり、高精度に画像を再構成できる。
【0030】
第3に、マーカとして蛍光材を使用することもできる。生体観察用の蛍光とは異なる波長を有する蛍光材をマーカとして使用すれば、観察の妨げにはならない。さらにまた、マーカとして使用する蛍光材が生体観察用の蛍光と同じ波長を有していてもよい。この場合は、観察用の蛍光強度よりもマーカの蛍光強度を強く設定する。そして、生体の蛍光よりも明るく、マーカの蛍光よりも暗いレベルを閾値として2値化し、2値化画像からマーカのエッジの位置情報を容易に抽出することができる。この場合、観察用に使用できる蛍光の種類が減ることもなく、多種類の蛍光を生体観察に使用することができる。
【0031】
図3
図3Aは、画像表示手段160によって表示された画像である。第1の走査10と第2の走査20との間のタイムラグによって各走査線の位置情報にずれが生じている。
【0032】
図3Bは、画像再構成手段160によってマーカ1の位置情報に基づいて再構成された画像である。第1の走査線10と第2の走査線20との相対的位置関係を、マーカ断片の距離d1およびd2のもつ位置情報に基づいて特定する。そして、特定された位置情報に基づいてマーカの形状が復元されるように第1の走査線10と第2の走査線20との位置関係を移動調節することによって、像ブレのない精細な静止画像を復元することができる。なお、繰り返しになるが、ここでいう第1および第2の走査線とは、特定の走査線を意味するものではなく、任意の2つの走査線を表わしている。
【0033】
ここで、画像再構成手段160は、各走査線の移動調節後、全走査線の左端のうち最大値を有する左端(図3BのC-C線)から、全走査線の右端のうち最小値を有する右端(図3BのD-D線)までを画像として表示する。その結果、画像再構成手段160によって再構成された画像には画像情報として欠けるところはなく、補完画像情報を与えなくとも完全な生体画像を提供することができる。
【0034】
モニタ162には、マーカ1のベストな位置をうすく表示してもよい。観察者が、このうすく表示されたマーカ1の位置情報に基づいて1スキャンラインごとに位置ずれを補正することによって像ブレした生体画像からクリアな静止画像を復元することができる。
【0035】
図4
図4は、画像再構成手段160によって行われる演算処理のフローチャートである。
【0036】
蛍光による生体観察において、マーカとして使用する蛍光材が生体観察用の蛍光と同じ波長を有している場合、先ず、生体の蛍光より明るく、マーカの蛍光より暗いレベルを閾値として2値化し、2値化画像を得る(31)。この2値化画像からマーカ1のエッジ位置を検出することができる。
【0037】
次に、マーカ1のエッジの位置情報を抽出する(32)。そして、前記抽出された位置情報からエッジ間距離を算出する(33)。
【0038】
前記算出されたエッジ間距離を、予め記憶されているマーカ1の形状の情報と照合し、y軸方向の位置を決定する(34)。そして、予め記憶されているマーカ1の位置情報と照合し、x軸方向の位置を決定する(35)。
【0039】
以上の工程をスキャン毎に行うことによって画像を再構成することができる。
【0040】
非蛍光かつ非反射のマーカを使用する場合、あるいは生体観察用の蛍光とは異なる波長を有する蛍光材をマーカとして使用する場合は、2値化工程(31)は不要であり、その後の工程は全て同じである。
【0041】
図5
図5は、マーカの向きを補正するための、画像再構成手段160によって行われる演算処理のフローチャートである。
【0042】
マーカの形状を多角形とした場合、あらかじめ記憶されているマーカの形状から、パターンマッチングを用いてマーカの向きを補正する必要がある。
【0043】
2値化画像を取得後(41)、記憶されているマーカ(マスクパターン)を読み出す(42)。次に、マスクパターンを回転させ(43)、2値化画像と重ね合わせる(44)。このとき、2値化画像のマスクの向きとマスクパターンのマスクの向きが合致しているか否かを判定し(45)、合致していない場合は、再度マスクパターンを回転させ(43)、2値化画像を重ね合わせる(44)。
【0044】
上記演算処理を行うことによって、正しい向きに静止画像を復元することができる。
【0045】
図6
図6は、補助マーカ(キャリブレーションマーク)が配置された生体接触面141を表わす模式図である。
【0046】
図6では、生体接触面141を対角方向に横切る1本の直線マーカ1が付与され、生体接触面141全面にわたって複数の補助マーカ2が付与されている。
【0047】
本発明のマーカ1は、各走査線の位置情報を担っているため、観察視野全体に写りこむ程度に大きい必要がある。この点、直線または曲線で構成されたマーカは、マーカ領域が少ないにもかかわらず、観察視野全体に写りこむような構成に容易にすることができ、優れている。しかしながら、例えば、直線で構成されたマーカは、第1の走査線10におけるマーカ断片の距離d1と、第2の走査線20におけるマーカ断片の距離d2とが同一となり、各走査線の位置情報を担うことができない。従って、直線マーカが各走査線の位置情報を担うことができように、1以上の補助マーカ2(キャリブレーションマーク)を付与する必要がある。補助マーカ2が、第1の走査線10におけるマーカ断片の距離と、第2の走査線20におけるマーカ断片の距離とを異ならせることによって、直線マーカ1による画像の再構成が可能となる。
【0048】
なお、ここでいう各走査線におけるマーカ断片の距離とは、直線マーカ1のX軸方向の幅を意味するものではなく、補助マーカ2を含めた各走査線に存在するマーカ間の距離情報を意味する。例えば、図6では、補助マーカ2が生体接触面141の全面にわたって均等に配置されている。このとき、第1の走査線10におけるマーカ断片の距離とは、d1-1、d1-2、およびd1-3で規定される距離情報を意味する。また、第2の走査線20におけるマーカ断片の距離とは、d2-1、d2-2、およびd2-3で規定される距離情報を意味する。これらの距離情報は識別可能であり、その結果、これらの距離情報は、第1の走査線10と第2の走査線20の生体接触面141上における位置情報を担うことができる。基本的には、補助マーカ2は、各走査線に2以上入るように配置されているのが好ましい。
【0049】
図7
図7は、補助マーカ2に加えて、太さの異なる直線マーカが配置された生体接触面141を表わす模式図である。
【0050】
図7では、補助マーカ2に加えて、太さの異なる直線マーカ1bおよび1cが、直線マーカ1と交わる方向に配置されている。このように、補助マーカ2に加えて、各走査線に2本以上の線が含まれるように構成することによって、各走査線のマーカ断片によって与えられる位置情報がいっそう明確となり、確実かつ容易に静止画像を再構成することができる。基本的には、マーカ1は直交しない格子状(ひし形が並んでいるような状態)に配置された細線とし、各走査線に2本以上の線が含まれるように配置され、かつ走査方向に対して傾斜をもって配置されていることが好ましい。なお、この場合も上記と同様、マーカ断片の距離とは、各走査線に散在する複数のマーカ間の距離によって与えられる位置情報を意味する。
【0051】
また、マーカ1の線は、生体の振動の変位量に相当する範囲では、それぞれ区別できるようになっている(例えば、太さが違う、色が違う、励起効率が違う、反射効率が違うなど)。たとえば、10μmの振動がある場合は、10μm間隔で同じパターンを繰り返せばよい。
【0052】
また、マーカの間隔は、補正単位内に少なくとも1つ以上のマーカが含まれるように規定する。例えば、1ラインスキャンするのに0.1secかけて512×512の画像を得る場合は、生体の振動によって像がブレない(許容できる)時間内にスキャンできるピクセルを1まとまりとして補正する。たとえば、1msecに相当するピクセル数(ここでは5ピクセル)をまとめて補正する。この場合、1×5ピクセル中にマーカの線が1つ以上含まれるようにマーカ間隔を規定する。なお、マーカに阻害されて像が写らない部分は、近接するピクセルの平均値で画像を補完してもよい。
【0053】
図8
図8は、画像情報の欠落部位を異なる撮像データによって補完する様子を示した模式図である。
【0054】
光軸方向(Z軸方向)の生体の振動が極微量の場合、あるいはZ軸方向への生体の振動が認められても、スタビライザ等のマーカ付与手段140によってZ軸方向の生体の振動が十分に抑制できている場合、理論的には撮像データは全て合焦しており、上述したXY方向への補正のみによって完全な静止画像を再構成することができる。
【0055】
しかし、Z軸方向への生体の振動がある一定レベル以上で存在する場合、生体の場所によってはスタビライザ等のマーカ付与手段140を配置できない部位があり、このような生体部位を観察すると、Z軸方向への振動が原因で合焦しない走査線が発生してくる。この合焦しない走査線を画像情報として使用すると像ブレが生じ、精細な静止画像を得ることができない。従って、精細な静止画像を得るためには、1枚目の撮像によって合焦せず、欠落してしまった画像情報を、2枚目の撮像によって補完する必要がある。
【0056】
図8Aは、1枚目の撮像データを示している。各走査線ごとに像ズレが生じた生体画像(A−1)を、画像再構成手段160がマーカ1の位置情報に基づいて画像を再構成する(A−2)。X方向に一部データの存在しない領域が発生する場合は、図3Bで示したように全データがそろっている領域だけ抽出すればよい。もしくは、全データがそろうまで繰り返し撮像を行う方法も考えられる。
【0057】
このとき、画像再構成手段160は、同時に像ブレのある画像情報を特定し、これを画像情報から除去する(A−2のP1、P2およびP3)。合焦度は、マーカのエッジのシャープさから判断する。そして、合焦していると判断された画像データのみを画像情報として確定する(A−3)。
【0058】
図8Bは、2枚目の撮像データを示している。1枚目の撮像データ同様、各走査線ごとに像ズレが生じた生体画像(B−1)を、画像再構成手段160が再構成する(B−2)。
【0059】
2枚目以降の撮像データは、1枚目の撮像データのうち、不足しているデータ領域だけを注目領域とし(P1、P2およびP3領域)、注目領域に対してのみ合焦度の判定を行う。このようにすることで、演算時間を短くすることができる。撮り始めの時間のデータを優先し、できるだけ1枚目のデータを多用することが重要である。これは、ユーザが何らかの反応に対して、興味ある時点での画像を希望する際に、できるだけ希望された時間近傍の情報を優先するためである。
【0060】
画像再構成手段160は、P1、P2およびP3領域についてのみ合焦度の判定を行い、合焦していないP1-2、P2-2領域を特定し、これらを画像情報から除去する(B−2)。そして、合焦していると判断された画像データのみを1枚目で確定された画像情報(A−3)に加え、これを画像情報として確定する(B−3)。
【0061】
図8Cは、3枚目の撮像データを示している。1枚目および2枚目の撮像データ同様、各走査線ごと(Y軸方向)に像ズレが生じた生体画像(C−1)を、画像再構成手段160が再構成する(C−2)。そして、画像再構成手段160は、2枚目までで不足しているデータ領域(P1-2、P2-2領域)についてのみ合焦度の判定を行う。そして、合焦していると判断された画像データを1枚目および2枚目で確定された画像情報(B−3)に加え、これを画像情報として確定する(C−3)。
【0062】
図8では、例示的に3枚目の撮像データまでで全ての不足データが補完されているが、3枚目でも全ての不足データが補完されない場合、引き続き4枚目、5枚目の撮像データによって補完していけばよい。
【0063】
最終的に得られた図8C−3の画像は、1枚目の撮像データをベースにしつつ、不足したデータが2枚目以降の撮像データで補われた完全かつ精細な静止画像である。このような画像再構成手段による撮像データの補完作業によって、光軸方向(Z軸方向)への振動が激しい生体を撮像した場合であっても、確実かつ精細な静止画像を得ることができる。
【0064】
その他、1枚目のデータを優先するのではなく、各撮像データからマーカがクリアに撮像されているところだけ抜き出し、最後に一度に合成を行ってもよい。この場合、全撮像中の平均的な状態を表示することができる。具体的には、すべての画像から合焦している領域を抽出し、複数の画像で重複した部分は平均値をとる。このようにすることで、ノイズも低減できるので、画質の向上効果も得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】第1の実施形態における生体観察装置100の模式図
【図2】マーカ付与手段140の生体接触面141を表した模式図
【図3】画像表示手段160によって表示された画像(図3A)および画像再構成手段160によってマーカ1の位置情報に基づいて再構成された画像(図3B)
【図4】画像再構成手段160によって行われる演算処理のフローチャート
【図5】マーカの向きを補正するための、画像再構成手段160によって行われる演算処理のフローチャート
【図6】補助マーカ(キャリブレーションマーク)が配置された生体接触面141を表わす模式図
【図7】補助マーカ2に加えて、太さの異なる直線マーカが配置された生体接触面141を表わす模式図
【図8】画像情報の欠落部位を異なる撮像データによって補完する様子を示した模式図
【符号の説明】
【0066】
1・・・マーカ、1b、1c・・・太さの異なる直線マーカ、2・・・補助マーカ、10・・・第1の走査線、20・・・第2の走査線、100・・・本発明の生体観察装置、110・・・光源部、111・・・レーザ光源、112、152・・・光ファイバ、113・・・射出部、120・・・走査光学系、130・・・対物レンズ、140・・・マーカ付与手段、141・・・生体接触面、150・・・検出光学系、151・・・入射部、153・・・検出器、160・・・画像表示手段、画像再構成手段、161・・・演算処理部、162・・・モニタ、171、176・・・集光レンズ、172、173・・・ダイクロイックミラー、174・・・投影レンズ、175・・・結像レンズ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光ビームを射出するための光源部と、
前記励起光ビームを走査するための走査光学系と、
前記励起光ビームを生体試料に照射するための対物レンズと、
前記生体試料に接触する生体接触面を有し、かつ前記走査光学系による第1の走査線におけるマーカ断片の距離と、第2の走査線におけるマーカ断片の距離との違いに基づいて復元可能なマーカが前記生体接触面上に配置された、マーカ付与手段と、
前記生体試料からの検出光を検出する検出光学系と、
前記検出光学系から出力された電気信号を画像データとして表示する画像表示手段と、
前記画像表示手段によって表示された画像データを前記マーカの位置情報に基づいて再構成する画像再構成手段と
を具備する、生体観察装置。
【請求項2】
前記マーカが多角形で構成され、かつ前記多角形が、第1の走査線におけるマーカ断片の距離と、第2の走査線におけるマーカ断片の距離とが異なるように配置されている、請求項1に記載の生体観察装置。
【請求項3】
前記マーカが直線または曲線で構成され、かつ第1の走査線におけるマーカ断片の距離と、第2の走査線におけるマーカ断片の距離とを異ならせるための補助マーカが、前記直線または曲線の周囲に配置されている、請求項1に記載の生体観察装置。
【請求項4】
前記マーカ付与手段が、スタビライザまたはカバーガラスで構成され、
前記スタビライザまたはカバーガラスの生体接触面に1以上の前記マーカが付与されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の生体観察装置。
【請求項5】
励起光ビームを射出するための光源部と、
前記励起光ビームを走査するための走査光学系と、
前記励起光ビームを生体試料に照射するための対物レンズと、
前記生体試料に接触する生体接触面を有し、かつ前記走査光学系による第1の走査線におけるマーカ断片の距離と、第2の走査線におけるマーカ断片の距離との違いに基づいて復元可能なマーカが前記生体接触面上に配置された、マーカ付与手段と、
前記生体試料からの検出光を検出する検出光学系と、
前記検出光学系から出力された電気信号を画像データとして表示する画像表示手段と、
前記画像表示手段によって表示された画像データを前記マーカの位置情報に基づいて再構成する画像再構成手段と
を具備する、生体観察装置を使用した画像処理方法であって、
各走査線における各マーカ断片の距離を決定するステップと、
前記決定された距離情報に基づいて各走査線を移動調節し、画像を再構成するステップと
を含む、画像処理方法。
【請求項6】
前記画像を再構成するステップが、マーカを復元する第1のステップと、復元されたマーカの向きを補正する第2のステップとを含む、請求項5に記載の画像処理方法。
【請求項7】
前記第1のステップが、
マーカのエッジの位置情報を抽出するステップと、
前記エッジ間の距離を算出するステップと、
記憶されているマーカの形状の情報からy方向の位置を決定するステップと、
記憶されているマーカの位置情報からx方向の位置を決定するステップと
を含む、請求項6に記載の画像処理方法。
【請求項8】
前記第2のステップが、
記憶されているマーカを読み出すステップと、
第1のステップによって再構成されたマーカを回転させるステップと、
前記再構成されたマーカを、前記記憶されているマーカと重ね合わせるステップと、
前記再構成されたマーカの向きと前記記憶されているマーカの向きが合致しているか否かを判定するステップと
を含む、請求項6に記載の画像処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−300520(P2009−300520A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151875(P2008−151875)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】