説明

生体関連物質検出用固相化担体及びプローブの固相化方法、並びに生体関連物質解析方法

【課題】 高い信頼性をもって、かつ効率よく、試料中の生体関連物質を解析することを可能ならしめる生体関連物質検出用固相化担体及びプローブの固相化方法、並びに生体関連物質解析方法を提供する。
【解決手段】 生体関連物質を検出するための複数種のプローブが、同一アドレスに固相化されており、該固相化された比率が既知である生体関連物質検出用固相化担体。及び、1以上の生体関連物質を検出するための複数種のプローブを準備する第一ステップ、該複数種のプローブを混合して混合プローブを得る第二ステップ、及び、該混合プローブを担体の同一アドレスに接触させる第三ステップを有し、かつ、該複数種のプローブの比率を、第一ステップと第二ステップとの間、もしくは第二ステップと第三ステップとの間、又は第三ステップの後に測定するプローブの固相化方法。並びに、本発明の固相化担体を用いる生体関連物質の解析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体関連物質検出用固相化担体及びプローブの固相化方法、並びに生体関連物質解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロアレイ等を利用して試料中の生体関連物質を検出・解析する技術が用いられている。マイクロアレイは、通常、1〜数十センチ四方程度のスライドガラスやシリコンなどからなる担体表面に、生体関連物質を検出するための既知のDNA断片などの数千〜数十万種のプローブを配列し、固相化したものである。
これらプローブに、例えば核酸鎖の相補性等による特異性を利用して、未知のDNAなどの生体関連物質(ターゲット)を結合させる。あらかじめこのターゲットに標識をつけ、ターゲットがどのプローブと結合したかを調べることによって、ターゲットが何であるか等の生体関連物質の情報を解析することができる(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1では、プローブの固相化方法として、DNA断片からなるプローブの3´末端または5´末端に官能基を付加し、この官能基を担体上の官能基と反応させて、プローブを担体に固相化する方法が記載されている。
【0004】
このようなマイクロアレイを用いて、例えば数千〜数万の遺伝子について、その発現を同時に調べることも可能である。このときに、データの信頼性を高めるために、ターゲットに特異的なプローブを固相化したターゲット用スポットの他に、コントロール遺伝子を検出するプローブを固相化したコントロールスポットを準備し、コントロール遺伝子の発現状態をもとにして補正が行なわれている(例えば、非特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2000−295990号公報
【非特許文献1】Steen Knudsen/著、塩島 聡、松本 治、辻本豪三/監訳、「DNAマイクロアレイデータ解析入門」、羊土社、2002年、p.18−20
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、1種の生体関連物質の解析を目的とする各種プローブが、別個のアドレスに固相化されていることで、各種プローブに対応する信号強度どうしを単純に比較できなくする要因が発生する。
例えばマイクロアレイの場合、プローブの種類ごとにプローブスポットが違うことで、スポットを作る操作に由来する誤差が避けられなかった。例えばスポットあたりのプローブ固相化量、スポット分量、スポットの形状などの違いが、信号強度に影響を与える誤差要因となる。また、プローブスポットが違うことで、検出系に由来する誤差要因が存在する。
【0006】
コントロール遺伝子の発現状態をもとにして補正を行う場合にも、上記の要因が問題となる。特に、低発現遺伝子の検出を行う場合に、これらの要因が特に重大な影響を及ぼす。
現在、生体関連物質の解析の信頼度を上げる為に、更に高精度の定量性が求められているが、低発現遺伝子は、スポットの蛍光強度等が小さく正確な特定が困難であった。例えば、コントロール遺伝子を用いて、この低発現遺伝子の補正を行う場合も、わずかの測定値の誤差により、測定結果に大きな誤差をもたらすことがあった。そこで、特に低発現遺伝子を解析する場合、発現量の測定と、検査遺伝子解析値のコントロール遺伝子解析値による補正に関して、工夫が求められていた。
【0007】
理想的な検出光学系であれば、例えばマイクロアレイのどこかにコントロール用プローブを配置して、この強度をもとに、ターゲット用プローブに対応する信号の補正を行うことが可能である。しかし、実際の光学系では、照明は必ずしも均一ではなく、レンズ系も周辺部には周辺減光が見られる。したがって、マイクロアレイのスポット全体に渡っての正確な補正は困難であった。特に、検出器にCCDを用いてマイクロアレイのスポット全体の信号を取得する場合に正確な補正は困難であった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、高い信頼性をもって、かつ効率よく、試料中の生体関連物質を解析することを可能ならしめる生体関連物質検出用固相化担体及びプローブの固相化方法、並びに生体関連物質解析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の生体関連物質検出用固相化担体は、生体関連物質を検出するための複数種のプローブが、同一のアドレスに固相化されており、該複数種のプローブは、その固相化された比率が既知であることを特徴とする。
前記比率は、プローブの吸光度の測定、標識されたプローブの当該標識の測定、あるいはプローブに特異的に対応した第一反応物質が結合されたプローブの、当該第一反応物質の濃度の測定又は当該第一反応物質もしくはプローブと特異的に反応可能であり担体の所定アドレスに固定された第二反応物質の濃度の測定により得られることが好ましい。
【0010】
本発明の生体関連物質検出用固相化担体においては、複数種のプローブのうち少なくとも1が、コントロール生体関連物質を検出するためのものであることが好ましい。
また、検出する生体関連物質1種類に対して、複数種のプローブが同一アドレスに固相化されていることが好ましい。
【0011】
また、前記生体関連物質が核酸であることが好ましい。
また、同一アドレスに固相化されている複数種のプローブが、担体に3´末端が固相化されている第一プローブと、該第一プローブと同一塩基配列であって該担体に5´末端が固相化されている第二プローブとを含むことが好ましい。
ここで、前記第一プローブと前記第二プローブとが略1対1の比率で固相化されていることがさらに好ましい。
【0012】
本発明のプローブの固相化方法は、1以上の生体関連物質を検出するためのプローブの固相化方法であって、
1以上の生体関連物質を検出するための複数種のプローブを準備する第一ステップ、
該複数種のプローブを混合して混合プローブを得る第二ステップ、
及び、該混合プローブを担体の同一アドレスに接触させる第三ステップ、
を有し、
かつ、該複数種のプローブの比率を、第一ステップと第二ステップとの間、もしくは第二ステップと第三ステップとの間、又は第三ステップの後に測定することを特徴とする。
【0013】
具体的には、1以上の生体関連物質を検出するためのプローブの固相化方法であって、
1以上の生体関連物質を検出するための複数種のプローブを準備する第一ステップ、
該複数種のプローブを混合して混合プローブを得る第二ステップ、
該複数種のプローブの各々と特異的に反応する複数種の反応物質を担体に接触させる第三ステップ、
及び、前記混合プローブを該担体に接触させる第四ステップ、
を有し、
かつ、該複数種の反応物質の比率を、第三ステップの前、又は第三ステップと第四ステップとの間に測定することを特徴とする。
【0014】
あるいは、1以上の生体関連物質を検出するためのプローブの固相化方法であって、
1以上の生体関連物質を検出するための、各々特異的に対応した複数種の反応物質が結合された複数種のプローブを準備する第一ステップ、
該複数種のプローブを混合して混合プローブを得る第二ステップ、
及び、前記混合プローブを担体に接触させる第三ステップ、
を有し、
かつ、該複数種の反応物質の比率を、第一ステップと第二ステップとの間、もしくは第二ステップと第三ステップとの間、又は第三ステップの後に測定することを特徴とする。
【0015】
あるいは、1以上の生体関連物質を検出するためのプローブの固相化方法であって、
1以上の生体関連物質を検出するための、各々特異的に対応した複数種の反応物質が結合された複数種のプローブを準備する第一ステップ、
該複数種のプローブを混合して混合プローブを得る第二ステップ、
プローブに結合された複数種の反応物質と各々特異的に反応する複数種の反応物質を、担体に接触させる第三ステップ、
及び、前記混合プローブを該担体に接触させる第四ステップ、
を有し、
かつ、担体に接触させる複数種の反応物質の比率を、第三ステップの前、又は第三ステップと第四ステップとの間に測定することを特徴とする。
【0016】
前記複数種のプローブが、同一塩基配列であって、担体に固相化する側の末端が3´末端である第一プローブと5´末端である第二プローブとを含むことが好ましい。
生体関連物質が核酸であることが好ましい。
【0017】
本発明の生体関連物質の解析方法は、本発明の固相化担体を用いた生体関連物質の解析方法であって、
1以上の生体関連物質を含有する試料を該固相化担体に供給する第一ステップ、
該生体関連物質と前記プローブとが反応した反応体の信号強度を測定する第二ステップ、
及び、該強度を、前記比率に基づいて補正する第三ステップ、
を有することを特徴とする。
ここで、反応体の信号強度を、プローブに標識された蛍光標識と、生体関連物質に標識された蛍光標識との間で、蛍光共鳴エネルギー転移を生じさせて測定することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高い信頼性をもって、かつ効率よく、試料中の生体関連物質を解析することを可能ならしめる生体関連物質検出用固相化担体及びプローブの固相化方法、並びに生体関連物質解析方法を提供することができる。したがって、本発明は、解析の自動化にも好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<生体関連物質検出用固相化担体>
本発明の生体関連物質検出用固相化担体(以下「固相化担体」という)は、生体関連物質を検出するための複数種のプローブが、同一のアドレスに固相化されており、該複数種のプローブは、その固相化された比率が既知である。
(生体関連物質)
本発明における生体関連物質とは、生体から抽出、単離等された物質を意味するが、生体から直接抽出されたものだけでなく、これらを化学処理、化学修飾等したものも含まれる。たとえばホルモン類、腫瘍マーカー、酵素、抗体、抗原、糖鎖、アブザイム、その他のタンパク質、核酸、cDNA、DNA、mRNA、RNA、人工核酸、その他の核酸などの物質である。
【0020】
(プローブ)
本発明で使用されるプローブとは、ホルモン類、腫瘍マーカー、酵素、抗体、抗原、糖鎖、アブザイム、その他のタンパク質、核酸、cDNA、DNA、RNA、人工核酸、その他の核酸などであって、何らかの生体関連物質と特異的に結合可能な物質を意味する。
生体関連物質とプローブが特異的に結合するとは、たとえばDNAやRNAなどで見られる相補的なヌクレオチド配列の間に安定な二重鎖が形成されるような場合(ハイブリダイゼーション)や、抗原と抗体、ビオチンとアビジンなどのように、特定の物質とのみ選択的に反応する極めて特異性の高い結合を意味する。
【0021】
プローブの種類は、プローブが特異的に結合する生体関連物質の種別、およびプローブ自体の構造(例えば核酸等における塩基配列)によって区別される。さらに本発明では、固相化された状態でプローブの種類を区別する。例えば、プローブが核酸である場合に、塩基配列が互いに同一の核酸プローブであっても、担体に固相化された部位が3´末端であるか5´末端であるかが異なる場合、互いに別種のプローブとみなす。
すなわち、本発明において、少なくとも1種類の標的核酸を検出するための複数の塩基配列と言う場合、1種類の遺伝子に対して、捕捉する部位が異なり、プローブの塩基配列が複数種となる場合や、1種類の遺伝子に対して、捕捉する部位が同じでも、基板等に固相化されている向きが異なる(例えば、3´端で固相化または5´端で固相化)場合も含まれる。
プローブには、固相化に関与している反応物質が結合されていてもよい。
【0022】
(アドレス、固相化)
本発明において、プローブを固相化する対象は、プローブの識別が可能であれば特に制限されず、各種担体に固相化させることができる。担体としては、板状の基材(基板)や、ビーズ等が例示される。さらに具体的には、ガラス製基板、シリコンウエハ、各種の多孔質基板、ゲル、マイクロタイタープレートやキャピラリー、磁性ビーズ、中空糸等を用いることが可能である。ここで、担体として、貫通した微細空孔構造を有する多孔質基材を用いることが好ましい。この場合、本発明の固相化担体を使用して生体関連物質を検出する際に、供給された試料溶液等を、駆動手段を用いて多孔質基材中を反復移動させることで、プローブと生体関連物質との反応を大幅に促進する効果がある。
本発明でいうアドレスは、プローブが固相化された単位を特定して検出ならしめる手段であればよく、例えば、基板表面にプローブが固相化されている場合の該基板表面における座標範囲、標識済みビーズ等からなる担体にプローブが固相化されている場合の標識の種別等が挙げられる。
【0023】
複数種のプローブを同一アドレスに固相化するには、例えば、各種プローブのプローブ溶液を各々作製し、複数のプローブ溶液を混合して混合プローブ溶液を作製した後、混合プローブ溶液を担体表面に供給して固相化させる第一の方式が可能である。また、各プローブの溶液を作製し、これら複数のプローブ溶液を順次ないし同時に同一アドレスに供給して固相化させる第二の方式を用いてもよい。
固相化させるためには、例えば、予め、プローブに所望の反応物質を結合させておき、この反応物質と反応する反応物質を担体表面に固定しておいて、上記供給を行えばよい。また、プローブ自体と反応する反応物質を担体表面に固定しておいて、上記供給を行ってもよい。
プローブに反応物質を結合させておく場合、その反応物質として、例えば、各種官能基を用いることができる。プローブが核酸からなる場合は、官能基として、アミノ基、チオール基が好ましく用いられる。
【0024】
担体表面に固定しておく場合、その反応物質は、プローブが元来有している官能基や、プローブに予め結合した反応物質、担体の材料や担体表面への処理に応じて、適宜選択される。担体表面に固定しておく反応物質として好ましいものは、架橋試薬である。架橋試薬の例は、分子の末端にNHS(スクシンイミド)エステル、マレイミド基、カルボジイミド、ピリジルジチオ基、ヒドラジド基、スルフォNHSエステル、フェニルジアゾ、ビオチン等の反応物質を有しているものである。架橋試薬の具体的な例としては、N‐ヒドロキシサクシンイミド、ビス[2‐(サクシンイミドオキシカルボニルオキシエチル)]スルフォン、N‐(3‐マレイミドプロピオニルオキシ)サクシンイミド、カルボジイミド等の架橋剤やペプチド等が挙げられる。
【0025】
固相化のために、プローブに予め反応物質を結合させておき、この反応物質と特異的に反応可能な反応物質を担体表面に固定しておくことで、これらの反応物質どうしの反応によって安定した固相化が達成される。また、後述するアドレス内固相化比率の推定が容易となる。
【0026】
(固相化された比率)
本発明の固相化担体において、同一のアドレスに固相化された複数種のプローブは、当該アドレスに固相化された比率(アドレス内固相化比率)が既知である。
このような固相化担体を得るためには、例えば、固相化前のプローブの比率を用いて固相化後のアドレス内固相化比率を推定する第一の推定方式と、固相化後にアドレス内のプローブの比率を測定する第二の推定方式とが挙げられる。
また、アドレス内固相化比率を、例えばプローブの吸光度の測定、標識されたプローブの当該標識の測定、あるいはプローブに特異的に対応した第一反応物質が結合されたプローブの、当該第一反応物質の濃度の測定又は当該第一反応物質もしくはプローブと特異的に反応可能であり担体の所定アドレスに固定された第二反応物質の濃度の測定により得ることができる。
特異的に反応可能な第一反応物質及び第二反応物質の組み合わせについては、後述のプローブの固相化方法において詳述する。
【0027】
本発明の固相化担体において、同一のアドレスに固相化された複数種のプローブのうち少なくとも1が、コントロール生体関連物質を検出するためのものであれば、コントロール生体関連物質を基準とした、ターゲット生体関連物質の解析結果の補正(コントロール補正)が正確に行われ、解析結果の信頼度が従来になく向上した解析を可能ならしめることができる。
すなわち、従来の、コントロール生体関連物質に特異的なプローブが固相化されたアドレス(例えばプローブスポット領域)と、ターゲット生体関連物質に特異的なプローブが固相化されたアドレスとが異なる系におけるコントロール補正では、補正後の結果は必ずしも一定しなかった。これに対し、本発明において、同一アドレスに固相化された複数種のプローブのうち少なくとも1を、コントロール生体関連物質を検出するためのものとすれば、コントロール生体関連物質用プローブと、ターゲット生体関連物質用プローブとを同一アドレス内に存在させることができ、しかもこれらの比率が既知であるから、各プローブの固相化量の差異、スポット液量等の接触させる分量、スポットの形状、検出系での照射量のばらつき等に影響を受けることなく、コントロール補正を正確に行った解析を実現できる。
【0028】
コントロール生体関連物質(以下、「コントロール」という場合がある)は、ターゲット生体関連物質(以下「ターゲット」という場合がある)の種類等に応じて適宜選択することができる。また、コントロールとしては、インターナルコントロール生体関連物質(IC)、エクスターナルコントロール生体関連物質(EC)等が例示される。
ICとしては、試料において存在量が実質的に一定である生体関連物質を採用することができる。より具体的には、所定の試料について、これが採取された検体である細胞間や組織間、さらに採取回間で存在量が変動せずほぼ一定である物質を、ICとして設定することができる。
ECとしては、前記試料に含まれ得ない生体関連物質を採用することができる。例えば、試料を採取した検体の生物種に対して近縁種ではない、別の生物種由来の生体関連物質を用いることができる。複数の検体の比較を行う場合は、試料中の生体関連物質、例えば核酸の量に対して、ECの量を正確な割合(例えば1:1)で加えると、異なる試料間、異なるチップ間等での比較が容易かつ正確になる。
【0029】
例えば、ターゲット生体関連物質が核酸である場合、コントロールとして核酸等を設定することができ、このコントロールは、ターゲットの核酸との間でクロスハイブリダイゼーションが起こらないこと、すなわち、ターゲットに特異的な配列のプローブ領域とハイブリダイゼーションし得ないことが必要である。
ICとして設定可能な核酸として、glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase (GAPD)や、actin, beta (ACTB)、similar to polyubiquitin(LOC346412)、ribosomal protein (S7´RPS7)などのハウスキーピング遺伝子が例示される。試料中に含まれている、これら以外の遺伝子をICとして用いることも可能である。ECの核酸としては、例えば検体がヒトの場合、植物の遺伝子を用いるとよい。例えば、ウミシイタケのルシフェラーゼ遺伝子などが、ECの核酸として設定可能な遺伝子として挙げられる。
【0030】
また例えば、ターゲット生体関連物質がタンパク質である場合、コントロールとしてタンパク質等を設定することができ、このコントロールは、プローブ領域との非特異的な結合を起こさないことが必要である。
ICとして設定可能なタンパク質として、上記に例示したハウスキーピング遺伝子から産生される各種タンパク質が例示される。試料中に含まれている、これら以外のタンパク質をICとすることも可能である。また、ECとして設定可能なタンパク質として、上記に例示したECの核酸から産生されたタンパク質、例えばウミシイタケのルシフェラーゼが例示される。
【0031】
なお、本発明の固相化担体において、同一のアドレスに固相化された複数種のプローブに、ターゲット生体関連物質に特異的なプローブ、ICを検出するプローブ、及びECを検出するプローブを含ませることができる。この3種のプローブのアドレス内固相化比が既知であることにより、両方のコントロールを用いて更に正確な補正を行うことが可能となる。また、補正に適切であると考えられる一方のコントロールだけを用いて、ターゲット生体関連物質の検出結果を補正することも可能となる。
【0032】
本発明の固相化担体においては、検出する生体関連物質1種類に対して、複数種のプローブが同一アドレスに固相化されている態様において、生体関連物質の解析の効率化及び信頼性の点で、特に顕著な効果を実現することができる。
すなわち、従来の固相化担体の系では、1種類の生体関連物質の検出のために利用するプローブの種類を増やすほど、各種のプローブに対応するアドレス数の確保、これに伴う操作数、時間、コスト等の問題が増加する。また、1種の生体関連物質の解析を目的とするプローブどうしであっても、これらに対応する信号強度どうしを単純に比較できなくする要因が排除できない。これに対し、本発明では、1種類の生体関連物質の検出に利用される複数種のプローブが、同一アドレスに共存していることにより、確保すべきアドレス数は、生体関連物質1種類あたり少なくとも一つでよい。したがって、操作数、時間、コスト等の低減を図り、解析の効率化を達成できる。また、例えばスポットあたりのプローブ固相化量、スポット分量、スポットの形状、検出系に由来する誤差要因が排除される。したがって、本発明の固相化担体を用いて生体関連物質を解析すれば、補正の正確性、すなわち補正後の解析結果の信頼性が向上する。
この態様は、生体関連物質が核酸である場合であって、目的の検出遺伝子をキャプチャーするのに適した、ないし最適なプローブ配列が分からない場合や、目的の検出遺伝子に複数又は一つの多型(バリエーション)が存在する場合の検出の場合に、特に好ましい。その理由は、上述のとおり、ある標的核酸に対して複数種類のプローブによる相補性検討を同時にかつ1アドレスでできることである。
【0033】
本発明の固相化担体において、前記生体関連物質が核酸である場合について、好ましい態様を例示する。この場合、同一アドレスに固相化されている複数種のプローブが、担体に3´末端が固相化されている第一プローブと、該第一プローブと同一塩基配列であって該担体に5´末端が固相化されている第二プローブとを含むことが好ましい。
なお、第一及び第二プローブとして用いられる物質は、検出対象となる核酸(標的核酸)と特異的に相補鎖を形成可能な物質であればよく、cDNA、DNA、RNA、人工核酸、その他の核酸が例示される。
【0034】
従来、核酸の検出を図る場合、例えば特許文献1に示されているように、DNA断片からなるプローブの3´末端または5´末端に官能基を付加し、この官能基を担体上の官能基と反応させて、プローブを担体に固相化することは行われていた。
しかし、標的核酸とプローブとのハイブリダイズ反応の効率は、固相化するプローブの塩基配列が実質的に同一でも、プローブのどちらの末端が固相化されているか(プローブの固相化方向)によって異なる場合がある。また、ハイブリダイズ反応の効率は、標的核酸を断片化するときの長さ、部位にも影響されることから、プローブのいずれの末端を固相化すべきかをハイブリダイズ反応前に予測することは困難である。ハイブリダイズ反応効率が低くなるような固相化方向でプローブを固相化した固相化担体を用いて検出を行うと、非常に強度の小さい信号しか得られず、解析結果が実際より低い値となってしまう場合があった。
これに対し本発明の固相化担体では、互いに固相化方向のみ異なる2種のプローブを同一アドレスに共存させた態様が可能であり、このアドレスにおいてプローブと試料との反応を行わせることができる。この態様によれば、プローブの固相化方向によってプローブと試料とのハイブリダイズ反応効率が異なる場合であっても、アドレスにおけるハイブリダイズ反応効率を平均化でき、安定して信号を得ることができる。このように、信号強度が極端に低下することなく、標的核酸の検出を確実に行うことが可能となる。
【0035】
さらに、前記第一プローブと前記第二プローブとが、同一アドレス内で略1対1の比率で固相化されていることが好ましい。これは、標的核酸の検出において、プローブの固相化方向によるハイブリダイズ反応効率のばらつきが解析結果に影響する可能性を、最小とするために有利なためである。なお、前記第一プローブと前記第二プローブとの比率は、物質量比、すなわちプローブ分子の数の比で規定する。
また、検出対象物質やプローブの高次構造を、予め実験やシミュレーション等により確認し、これを考慮して、一つのアドレスに固相化する複数のプローブの比率を変更することが可能である。例えば、キャプチャー効率が1:1になるようにすることも可能であり、コントロール補正が容易となる。また、例えば、SNP等の解析時にホモとヘテロの割合を評価することができる。
【0036】
<プローブの固相化方法>
本発明のプローブの固相化方法(以下「固相化方法」という)によれば、生体関連物質を検出するための複数種のプローブを、同一のアドレスに固相化し、該複数種のプローブの固相化された比率を測定する。
本発明の固相化方法は、1以上の生体関連物質を検出するためのプローブの固相化方法であって、1以上の生体関連物質を検出するための複数種のプローブを準備する第一ステップ、該複数種のプローブを混合して混合プローブを得る第二ステップ、及び、該混合プローブを担体の同一アドレスに接触させる第三ステップ、を有し、かつ、該複数種のプローブの比率を、第一ステップと第二ステップとの間、もしくは第二ステップと第三ステップとの間、又は第三ステップの後に測定することを特徴とする。
【0037】
複数種のプローブの比率を第一ステップと第二ステップとの間に測定するには、例えば、次の手段を用いることができる。すなわち、まず、各種プローブのプローブ溶液をそれぞれ調製し、各プローブ溶液におけるプローブ濃度を測定する。ついで、これらのプローブ溶液を所定の体積比で混合することにより、前記混合プローブを得ればよい。各プローブ溶液におけるプローブ濃度の測定は、プローブの吸光度の測定、標識されたプローブの当該標識の測定等によって行うことができる。
プローブの比率を第二ステップと第三ステップとの間に測定するには、当該複数種のプローブを互いに判別可能な手段を用いればよく、例えば、プローブの吸光度の測定、互いに異なる標識の施されたプローブの当該標識の測定、プローブに特異的に対応した反応物質が結合されたプローブの、当該反応物質(以下、プローブに結合される反応物質を「第一反応物質」という)の濃度の測定により、比率の測定を行うことができる。
プローブの比率を第三ステップの後に測定してもよい。なお、プローブの比率を第三ステップの後に測定する場合は、複数種のプローブの接触されたアドレス内での比率を測定する。このように、プローブの固相化後に、複数のプローブの比率を見積もっても、第一ステップと第二ステップとの間に測定する場合および第二ステップと第三ステップとの間に測定する場合と同様に、コントロール補正等の正確性向上を可能ならしめる固相化担体を提供することができる。
前記標識としては、蛍光物質等が例示される。
【0038】
本発明の固相化方法として、以下の第一〜第三の態様を例示することができる。
以下、第一〜第三の態様において、生体関連物質及びプローブとしては、上記「固相化担体」における例示と同様のものが例示される。また、前記混合プローブを担体に接触させることにより、複数種のプローブが同一のアドレスに固相化される。
また、本発明の固相化方法において、混合プローブや反応物質を担体に接触させる方法は特に制限されず、キャピラリー形状や平板状の担体(基板)にスポッター等の付着装置で混合プローブ溶液等を付着させる付着方式や、ビーズ等の担体と混合プローブ溶液等とを混合する混合方式などが例示される。
【0039】
(第一の態様)
第一の態様は、1以上の生体関連物質を検出するためのプローブの固相化方法であって、1以上の生体関連物質を検出するための複数種のプローブを準備する第一ステップ、該複数種のプローブを混合して混合プローブを得る第二ステップ、該複数種のプローブの各々と特異的に反応する複数種の反応物質を担体に接触させる第三ステップ、及び、前記混合プローブを該担体に接触させる第四ステップ、を有し、かつ、該複数種の反応物質の比率を、第三ステップの前、又は第三ステップと第四ステップとの間に測定する方法である。
第一の態様において、前記第三ステップにおいて担体に接触させる反応物質(以下、担体に接触させる反応物質を「第二反応物質」と示す)は、プローブ自体と特異的に反応する物質であり、プローブに特異的に対応してプローブに結合される。
なお、この態様において、第一及び第二ステップと、第三ステップとを行う順序は制限されない。
【0040】
第一の態様では、第三ステップの前、又は第三ステップと第四ステップとの間に、第二反応物質の比率を測定する。
反応物質の濃度測定は、例えば、吸光度の測定により行うことができる。
複数種の第二反応物質の比率を、第三ステップの前に測定すると、測定された第二反応物質の比率から、第四ステップを経て同一アドレス内に固相化された複数種のプローブの比率(アドレス内固相化比率)を推定することができる。
【0041】
すなわち、測定された比率が、第三ステップすなわち第二反応物質の接触操作において保存され、担体の一アドレス内に固定された第二反応物質の比率が既知となり、この固定された第二反応物質に特異的に、各種のプローブが固相化される。ここへ、複数の生体関連物質を検出するためのプローブを準備し、これを混合して、担体に供給すると、複数のプローブの比率を見積もる必要なく、固相化されたプローブのアドレス内固相化比率を既知とすることができる。
【0042】
複数種の反応物質の比率を、第三ステップと第四ステップとの間に測定してもよい。すなわち、第二反応物質を担体等に接触させた後で、複数の第二反応物質の濃度等を測定して、複数の第二反応物質の比率を見積もることも可能である。この場合、複数種の第二反応物質が接触されたアドレス内での比率を測定する。
【0043】
(第二の態様)
第二の態様は、1以上の生体関連物質を検出するためのプローブの固相化方法であって、1以上の生体関連物質を検出するための、各々特異的に対応した複数種の反応物質が結合された複数種のプローブを準備する第一ステップ、該複数種のプローブを混合して混合プローブを得る第二ステップ、及び、前記混合プローブを担体に接触させる第三ステップ、を有し、かつ、該複数種の反応物質の比率を、第一ステップと第二ステップとの間、もしくは第二ステップと第三ステップとの間、又は第三ステップの後に測定する方法である。
すなわち、各プローブに特異的に結合された第一反応物質の濃度を測定することにより、複数種のプローブの比率を測定する方法である。
【0044】
(第三の態様)
第三の態様は、1以上の生体関連物質を検出するためのプローブの固相化方法であって、1以上の生体関連物質を検出するための、各々特異的に対応した複数種の反応物質が結合された複数種のプローブを準備する第一ステップ、該複数種のプローブを混合して混合プローブを得る第二ステップ、プローブに結合された複数種の反応物質と各々特異的に反応する複数種の反応物質を、担体に接触させる第三ステップ、及び、前記混合プローブを該担体に接触させる第四ステップ、を有し、かつ、担体に接触させる複数種の反応物質の比率を、第三ステップの前、又は第三ステップと第四ステップとの間に測定する方法である。
この態様では、前記第三ステップにおいて担体に接触させる第二反応物質は、各プローブに結合された第一反応物質と各々特異的に反応可能な反応物質である。
【0045】
第三の態様において、第一反応物質と第二反応物質との組み合わせとしては、これらの順でアミノ基と活性エステル(スクシンイミド等)との組み合わせ、チオール基とマレイミド基との組み合わせ等が例示される。第一反応物質と第二反応物質の組み合わせは、プローブの種類に特異的に対応していればよく、例えば、第二反応物質の選択にあたり、プローブごとに異なる物質であれば、活性エステル含有化合物から選択される任意の化合物であって構わない。
プローブごとに、各々対応する第一反応物質と第二反応物質との反応効率が異なる場合、または、不明な場合は、基板上に固定された比率を吸収等により測定することが好ましく、2つの反応物質溶液の濃度を測定して比率を算出し、次に、基板上に固定された比率を吸収等により測定して、反応効率を算出し、所望の比率となるように2つの反応物質溶液の濃度を調製して処理を行うことができる。その後、互いに異なる第一反応物質が結合したプローブを混合して、担体表面の特定位置に供給すると、各プローブが、担体表面に固定された反応物質の比率を反映した比率で、担体表面に固相化される。
【0046】
生体関連物質を検出するためのプローブは高価なことが多く、少量しか準備できない場合がある。これに対して、反応物質はプロ−ブに比較して安価なので、量的に多く準備することが可能であり、濃度等の測定が正確に行なえる。したがって、第三の態様は、生体関連物質の解析の信頼性向上に貢献する固相化担体の提供という点で、特に顕著な効果を奏する。
【0047】
本発明の固相化方法において、前記生体関連物質が核酸であることが好ましい。
【0048】
本発明の固相化方法においては、前記複数種のプローブが、同一塩基配列であって、担体に固相化する側の末端が3´末端である第一プローブと5´末端である第二プローブとを含むことが好ましい。
この場合、プローブの担体に固相化する側を制御するには、例えば、プローブに対していずれかの末端に選択的に、担体への固相化に関与する反応物質を結合させておけばよい。
すなわち、第一プローブとして、3´末端に官能基等の反応物質を結合したプローブを準備し、第二プローブとして、5´末端に官能基等の反応物質を結合したプローブを準備すればよい。
この場合、固相化方法において、第一プローブと第二プローブの各プローブ溶液を調製し、これらの溶液におけるプローブ濃度を吸光度などにより測定し、所定の体積比で混合して混合プローブ溶液を調製することができる。この混合プローブ溶液を担体に供給すればよいが、このとき、プローブに結合された反応物質と反応する官能基等の反応物質を、所定アドレスに固定しておくことが好ましい。
【0049】
上述の第三の態様のように、固相化を、プローブに結合された前記第一反応物質と、所定アドレスに固定された第二反応物質との反応によって行う場合であって、かつ、プローブを固相化する前に、複数種のプローブ又は複数種の反応物質の比率を測定する場合は、複数種のプローブについて、第一反応物質を互いに同一の物質とすることが好ましい。
このように、第一反応物質の種類をプローブ間で共通にすると、各プローブの固相化効率がほぼ同じになるので、プローブを混合した割合を保持して、各プローブが固相化される。
例えば、第一プローブと第二プローブに結合させる反応物質の種類は、互いに同一なものであると、固相化効率が同じになるので、混合プローブ溶液の調製において混合したプローブの比率を保持して第一及び第二プローブが固相化され、好ましい。
また例えば、複数種のプローブに、ターゲット生体関連物質に特異的なプローブと、コントロール生体関連物質に特異的なプローブとを含ませた場合も、コントロール補正の正確性のさらなる向上に貢献し、好ましい。これは、特に核酸検出用の固相化担体を提供する場合に有効である。
【0050】
なお、上記「固相化担体」で例示した、各プローブの溶液を作製し、これら複数のプローブ溶液を順次ないし同時に同一アドレスに供給して固相化させる方式を用いたプローブの固相化方法も、従来法に対し有利な効果を有する。この場合は、上記第一〜第三の態様で例示した、混合プローブの調製および該混合プローブの接触に代わり、各種のプローブ溶液の調製及び該プローブ溶液の順次又は同時の接触という操作を行えばよい。このことで、アドレス内固相化比率が既知の固相化担体を提供することが可能である。
【0051】
<生体関連物質の解析方法>
本発明の生体関連物質の解析方法(以下「解析方法」という)は、以上説明した本発明の固相化担体を用いた方法であって、1以上の生体関連物質を含有する試料を該固相化担体に供給する第一ステップ、該生体関連物質と該プローブとが反応した反応体の信号強度を測定する第二ステップ、及び、前記強度を、該プローブの比率又は該反応物質の比率に基づいて補正する第三ステップ、を有することを特徴とする。
本発明の解析方法において、第一ステップと第二ステップとの間に、反応体を形成していない生体関連物質を除去するステップをさらに行うことが好ましい。
以下、本発明の解析方法の実施態様を例示する。
【0052】
(実施態様1)
この態様は、プローブが核酸であり、検出される生体関連物質が所定の核酸領域(標的核酸)であり、担体が基板であり、アドレスが基板上のスポット領域すなわちプローブ領域に対応する例である。さらに、固相化担体において、検出する生体関連物質1種類に対して、複数種のプローブが固相化されている例である。
図1(a)に示したように、この例に用いられる固相化担体では、基板表面の1つのスポット上に、1種の標的核酸に対して、互いに塩基配列の異なる複数種のプローブA、Bが固相化されている。これらのプローブは、各々リンカーを介して基板に固相化されている。ここで、スポット領域あたりの、プローブA、Bの比率(アドレス内固相化比率)は既知である。
【0053】
この態様においては、予め、試料に、核酸に標識物質を結合させる処理を施しておく。
まず、試料を図1(a)に示す固相化担体に供給する。試料に標的核酸が含まれると、図1(b)に示すように、標的核酸とプローブとがハイブリダイズ反応して特異的な結合対(ハイブリッド体)を形成する。ついで、洗浄操作を行う。すると、図1(c)に示すように、試料のうちハイブリッド体を形成しなかった物質が除去され、ハイブリッド体のみがプローブ領域内に保持された状態となる。
その後、ハイブリッド体の信号強度を測定する。この態様では、核酸に予め結合された標識物質の信号強度を、スポット領域に対応して検出すればよい。
さらに、前記強度を、固相化担体において既知のアドレス内固相化比率に基づいて補正する。
以上実施態様1によれば、スポット領域の数を最小限としつつ、標的核酸の検出感度を向上させることができる。
【0054】
(実施態様2)
実施態様2は、固相化担体において、同一アドレスに固相化された2種のプローブの一方が標的核酸に特異的なプローブであり、他方がコントロール核酸に特異的なプローブである以外は、実施態様1と同様の例である。すなわち、この例の固相化担体においては、標的核酸に特異的なプローブとコントロール核酸に特異的なプローブとのアドレス内固相化比率が既知である。
実施態様2によれば、従来になく正確なコントロール補正を行うことができる。
【0055】
この態様では、上記の実施態様1と同様に、試料の供給、ハイブリッド体の信号強度測定を行った後、得られた信号強度を、標的核酸に特異的なプローブ(標的核酸用プローブ)とコントロール核酸に特異的なプローブ(コントロール核酸用プローブ)とのアドレス内固相化比率に基づいて補正する。この場合、ハイブリッド体の信号強度測定は、標的核酸用プローブと試料中の核酸とのハイブリッド体の信号強度に対し、コントロール核酸用プローブと試料中の核酸とのハイブリッド体の信号強度を区別して検出することが必要である。
補正は、例えば、スポット領域ごとに、標的核酸用プローブに対応するハイブリッド体の信号強度と、コントロール核酸用プローブに対応するハイブリッド体の信号強度の比を求め、試料における標的核酸の量とコントロール核酸の量との比を求めることで実施でき、この比の値を補正後の解析結果として採用することができる。
【0056】
実施態様2において、コントロールとしてインターナルコントロールを設定する場合には、コントロール用プローブ及び標的核酸用プローブのうち、いずれか一方に、蛍光標識を施し、ここでこの蛍光標識物質を、インターナルコントロールを含む試料に標識された別の蛍光標識との間で、後述の蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)を起こす物質とすることが必要である。このことにより、標的核酸用プローブと試料中の核酸とのハイブリッド体の信号強度に対し、コントロール用プローブと試料中の核酸とのハイブリッド体の信号強度を区別して検出することができる。
実施態様2において、コントロールとしてエクスターナルコントロール核酸を設定する場合には、信号強度の検出において、必ずしもFRETを利用する必要はない。
【0057】
本発明の解析方法において、反応体の信号強度を、プローブに標識された蛍光標識と、生体関連物質に標識された蛍光標識との間で、蛍光共鳴エネルギー転移を生じさせて測定することが可能である。
蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)はドナーとアクセプターと呼ばれる2種類の蛍光物質が、所定の距離以下に近づいた時に、ドナーが発した光エネルギーをアクセプターが吸収する現象である。FRETの検出は通常ドナーの励起波長を照射し、ドナーあるいはアクセプターの蛍光強度を測定することで行う。ドナーの蛍光強度を測定する場合は、2種類の蛍光物質が近い位置にあるとアクセプターに光が吸収されるためドナーの蛍光強度は低くなり、距離が離れると蛍光強度が高くなる。アクセプターの蛍光強度を測定する場合はその逆で、距離が近いと蛍光強度が強くなり、離れると強度が低くなる。
【0058】
本発明の解析方法において、固相化担体における複数種のプローブのうち少なくとも1が、コントロール生体関連物質を検出するためのものであり、担体が基板であり、アドレスが基板上のスポット領域に対応し、かつ、FRETを利用して反応体の信号強度を測定する場合について、さらに詳細に説明する。
この場合、例えば、コントロール生体関連物質用プローブ及びターゲット生体関連物質用プローブのうち、いずれか一方に、蛍光標識を施し、ここで蛍光標識物質を、コントロール生体関連物質を含む試料に標識された蛍光標識との間で、FRETを起こす物質とすればよい。
例えば、ドナーの蛍光物質を標識した試料である生体関連物質とアクセプターの蛍光標識をしたプローブとを反応させて結合後に、洗浄して標識からの信号の取得を行う。
【0059】
検出時にドナーの蛍光物質の励起波長を用いると、ドナーとアクセプターの間でFRETが起こり、アクセプターからの発光が検出される。例えば、コントロール生体関連物質用プローブにアクセプターの蛍光物質を標識した場合であれば、この発光の強度が、コントロール生体関連物質の存在量に対応する。一方、ターゲット生体関連物質を検出するためのプローブスポット領域(スポット領域)にはFRETが起こる蛍光標識をしていないので、このスポット領域と特異的な結合をした蛍光標識された検体生体関連物質は、検出時にFRETのドナーとして用いられる蛍光物質の励起波長を直接照射して信号を取得することが可能である。例えばこれが、ターゲット生体関連物質の存在量に対応する。
ここで、ドナーとなる蛍光標識とアクセプターとなる蛍光標識を取り替えても、コントロール生体関連物質(例えばインターナルコントロール核酸)とターゲット生体関連物質の信号を分離して検出することは可能である。また、アクセプターとなる蛍光物質をプローブに標識して検出を行うことも可能である。
【0060】
本発明では、特に生体関連物質が核酸である場合に、アドレス間、例えばスポット領域間のみならず、試料間や固相化担体間の誤差を補正するために、なるべくインターナルコントロール核酸のハイブリッド反応条件を揃えることが望ましい。したがって、アクセプターとなる蛍光物質をインターナルコントロール核酸に特異的なプローブに標識した方がより正確な結果が得られる。
【0061】
上記「固相化担体」の項目で言及したように、固相化担体において、同一のアドレスに固相化された複数種のプローブに、ターゲット生体関連物質に特異的なプローブ、インターナルコントロール物質を検出するプローブ、エクスターナルコントロール物質を検出するプローブを含ませると、両方のコントロールを用いて更に正確な補正を行うことや、一方のコントロールだけを用いて、ターゲット生体関連物質の検出結果を補正することが可能となる。
このときには、エクスターナルコントロール核酸に別の標識(FRETに用いる標識の組み合わせ以外で検出可能な標識)をしてハイブリダイゼーションを行った後に洗浄を行い、検出することができる。
【0062】
例えば、図1(a)に示したような同一のアドレスに、検出対象の核酸を検出するためのプローブAとエクスターナルコントロールを検出するためのプローブBとを固相化する。
ここでは、例えば、まず、蛍光物質を標識したエクスターナルコントロール核酸をハイブリダイゼーションする(第一回目のハイブリダイゼーション)。次の工程では、ハイブリダイゼーションが起こらなかった過剰のエクスターナルコントロール核酸を除去するために、緩衝液等で洗浄を行う。この後に、エクスターナルコントロール核酸の標識からの信号を取得する。エクスターナルコントロール核酸はプローブBにのみハイブリダイズする為、ここで取得する信号は、すなわちプローブの固相化量を反映し、異なるサンプル(検出対象核酸)間のデータを比較する際の補正を行うデータとすることができる。
次の反応では、エクスターナルコントロール核酸の標識とは異なった標識を行なった検体核酸をハイブリダイゼーションし(第二回目のハイブリダイゼーション)、その後、第一回目のハイブリダイゼーションと同様に緩衝液等で洗浄を行い、検出対象核酸の標識からの信号を取得する。
このように、コントロールの蛍光信号を取得した後に洗浄し、その後に目的の検体をハイブリダイズし検体の蛍光信号を取得することにより、コントロール及び検出対象の核酸をそれぞれ別々に検出することが可能となる。したがって、ハイブリダイズ時間、温度、バッファーの組成等、それぞれ最適な条件で反応させることが可能となる。さらに、コントロール核酸と検出対象核酸間の相互作用や、非特異的な反応が回避でき、より精度の高い解析を行うことができる。
このときに、FRETを用いて、検出対象の核酸を検出するための配列領域Aとエクスターナルコントロールを検出するためのプローブBの一方にドナーまたはアクセプターの蛍光物質を標識し、アクセプターまたはドナーの蛍光物質を検出対象の核酸配列またはエクスターナルコントロール核酸に標識して信号を取得することも可能である。
【0063】
以上に述べたようなインターナルコントロールやエクスターナルコントロールを用いた補正は、タンパク質検出用アレイや抗体アレイ等において、すなわち検出する生体関連物質がタンパク質、抗体等である場合においても正確さの向上が望まれており、検出する生体関連物質がタンパク質、抗体等である場合において、チップ間やサンプル間での比較を行う場合には、本発明を適用して補正を行うことは特に有効である。
【0064】
また、これらのコントロールからの信号はデータの補正だけでなく、被検試料を含んだ溶液の調製が適切であったかどうかを確認するためにも利用可能である。例えば、所定の信号強度が得られた場合は溶液の調製が適切であったことを、所定の信号強度が得られなかった場合は溶液の調製が不適切だったことを推定できる。
更に、上述したようにコントロールと検出対象を検出するプローブの比率が一定なので、固相化担体のアドレス間、例えばスポット領域間の状態が不均一であっても、検出装置の照明系が不均一であっても、照明系に経時的な変化があっても、信号を取得するための光学系に周辺減光があっても信頼性の高い補正を行うことができる。特に、CCDを検出器として用いる場合等は、スキャンを行わずに、例えばマイクロアレイのスポット領域全てを一度に照明して信号を取得することが多いので、本発明を適用すると好ましい。
【0065】
本発明の解析方法において、プローブは、担体に固相化した後に、試料と接触させて特異的な結合を行わせてもよく、また、プローブと試料との間で特異的な結合を形成させた後に、担体に固相化することも可能である。たとえば核酸プローブの場合は、核酸プローブと試料とをハイブリダイズ反応させた後に、基板等に固相化することも可能であるし、基板等に核酸プローブを固相化した後に、試料と接触させてハイブリダイズ反応を行なわせてもよい。
プローブと試料との間で特異的な結合を形成させた後に、担体に固相化するには、例えば、タグ配列を有した核酸プローブと、核酸を含む試料とをハイブリダイゼーションさせた後に、タグ配列を介して、基板等の担体に固相化すればよい。
【0066】
上述の実施態様1、2では、核酸を検出する場合を例にとって説明を行なったが、本発明を、タンパク質や抗原、抗体等、他の生体関連物質の検出に同様に適用することが可能である。
以上本発明の固相化担体、本発明の固相化方法、本発明の解析方法は、いずれも、例えば、種々の形態の基板にプローブを固相化したマイクロアレイを用いた生体関連物質の解析等の用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0067】
・実験例1
〈試料溶液の調製〉
ヒト前立腺癌細胞株 LNCap由来のtotal RNA25μgを用意し、これらを鋳型としてoligo dT primerを用いて逆転写法によって、FITC標識1本鎖cDNAを作製した。このFITC標識されたcDNAを滅菌蒸留水37.5μlに溶解させて標識cDNA溶液とし、95℃で5分間加熱して変性させ、その後、氷水中で急冷した。この標識cDNA溶液に、20×SSPE溶液(pH.6.6)を12.5μl加えて(最終塩濃度5×SSPE溶液)、試料溶液とした。
【0068】
〈DNAプローブの作製・固相化〉
解析しようとする遺伝子(ターゲット)として、LNCapにおいて特異的に発現が上昇すると予測される遺伝子1個(「KLK−3」)を選択した。インターナルコントロール(IC)として用いる遺伝子として、代表的なハウスキーピング遺伝子であるβ−Actinを選択した。
【0069】
ターゲット及びICそれぞれのcDNA配列に特異的な塩基配列に基づいて、60merのDNAプローブ断片を、ターゲット用プローブ及びIC用プローブとして各々設計し合成した。そして、ターゲット用プローブにアミノ基を付加したものを緩衝液に溶解した。IC用プローブにも同様にアミノ基を付加し、緩衝液に溶解した。これらの溶液の260nmにおける吸収を測定し、同じ濃度になるように緩衝液を加え、それぞれ、最終的なターゲット用プローブ溶液及びIC用プローブ溶液とした。
基板のアルミニウムの陽極酸化膜に、アミノシランをコーティングし、さらに、N−ヒドロキシスクシンイミド溶液で処理した。
IC用プローブを1スポットと、ターゲット(検出対象遺伝子「KLK−3」)用プローブを5スポット、基板にそれぞれ別個に固相化した三次元マイクロアレイを作製した(チップ「1」として図2に示す。)。
【0070】
別途、上記と同様にターゲット(すなわちKLK−3)用プローブ溶液を準備した。また、上記と同様に合成したIC(すなわちβ−Actin)用プローブにテトラメチルローダミン標識し、さらにアミノ基を付加したものを、緩衝液に溶解した。この溶液の260nmにおける吸収を測定し、上のプローブ溶液と同じ濃度になるように緩衝液を加え、最終的なプローブ溶液とした。次に、このプローブ溶液と上のターゲット用プローブ溶液を1:1の体積比で混合して、2種類の配列を含んだ混合プローブ溶液を作製した。
この混合プローブ溶液を5スポット、チップ「1」と同様の基板に固相化し、三次元マイクロアレイを作製した(チップ「2」として図2に示す。)。
【0071】
〈試料のハイブリダイゼーション〉
以下1)および2)の操作を、上記で作製したチップ「1」及びチップ「2」について、それぞれ行った。なお、ハイブリダイゼーションの分析は、基板に設けられた反応フィルターの周りの溶液駆動および温度制御を自動的に行なうことができる装置を用いて行った。
1)試料溶液をチップ(3次元マイクロアレイ)表面に供給し、150回液体駆動させ、ハイブリッド体形成を行った。なお、このときの反応温度を50℃に設定した。反応終了後、試料溶液を除去し、6×SSPE溶液50μlを加え、液体駆動を行なう工程を3回繰り返して、ハイブリッド体を形成していない標識核酸の洗浄・除去を行なった。
2)洗浄終了後、蛍光顕微鏡に搭載したCCDカメラを用い、U−MWIBA2ミラーユニット(オリンパス社製)とU−MWIG2ミラーユニット(オリンパス社製)を使用して蛍光画像を取得した。このとき、励起光としてそれぞれ、460〜490nm、520〜550nmの波長の光をマイクロアレイに照射して蛍光画像を取得した。
また、各プローブスポットに対応するFITC及びテトラメチルローダミンの蛍光強度をそれぞれ測定した。
【0072】
その結果、「1」のチップではFITCのみの蛍光が観察され、「2」のチップでは、FITCとテトラメチルローダミンの蛍光が観察された。
ここで、「2」のチップにおけるFITCの蛍光は、KLK−3遺伝子を検出するプローブとハイブリダイズしたサンプル中に含まれていたKLK−3遺伝子からの蛍光である。テトラメチルローダミンの蛍光は、ICであるβ−Actinを検出するプローブとサンプル中に含まれていたβ−Actin遺伝子との間でハイブリダイゼーションが起こり、サンプルに標識されていたFITCからプローブに標識されていたテトラメチルローダミンにFRETが起こった蛍光である。
【0073】
「1」と「2」のチップのハイブリダイゼーション画像解析結果を図3に示す。
図3において、発現比(Y軸)は、IC用プローブスポットの蛍光強度値を1とした時の、各KLK−3用スポットの蛍光強度の補正値である。
チップ「1」では、スポットNo.6(IC用プローブスポット)のFITC蛍光強度値に対して、全てのKLK−3用スポット(スポットNo.1〜5)のFITC蛍光強度値をそれぞれ補正した値である。
チップ「2」では、それぞれのスポット毎に、スポット上のテトラメチルローダミンの蛍光強度値を基準として、同スポット上のFITC蛍光強度値を補正した値である。
本実験では、どのスポットにおいても測定値は同じになると予想された。しかし、チップ「1」のようにターゲットと別のスポットのICを用いて規格化した場合は、データにばらつきが見られた。これは、各スポットの固相化量や固相化密度に違いがあるので、ハイブリダイズした量がスポットにより異なってしまうためと、照明が必ずしも均一でないことが原因であると考えられる。チップ「2」では、データにばらつきは見られず、チップ「1」のスポット間で見られた発現比率のばらつきが改善された。
【0074】
このように、プローブ溶液中の各種プローブの存在比率を測定した後に、同一のアドレスに、ターゲット(検出対象)用のプローブ配列とIC用配列のプローブ溶液を供給すると、溶液での存在比率をほぼ保ったまま固相化されるので、当該アドレスにおけるターゲット用及びIC用プローブの固相化比率が既知となる。このことにより、スポット間の固相化量そのものに差があった場合でも、さらに、照明光が不安定であったり、不均一であったとしても、コントロールを用いた規格化を行うことにより、ターゲットの正確な発現量を検出することが可能となる。
本実験例では、プローブ溶液の濃度測定を行なった後に、最終的なプローブ濃度が同じになるように濃度調製を行なった。しかし、必ずしも濃度調製を行なう必要はなく、濃度のデータからの比率を用いて解析結果を補正することも可能である。
【0075】
・実験例2
〈試料溶液の調製〉
実験例1と同様に試料溶液を調製した。
〈DNAプローブの作製・固相化〉
実験例1で製造した濃度を測定済みのβ−Actin用DNAプローブにテトラメチルローダミン標識したプローブ溶液と、KLK−3用プローブの3´端にアミノ基を付加し、実験例1と同様にして濃度測定、濃度調製を行なったプローブ溶液と、KLK−3用プローブの5´端にアミノ基を付加し、実験例1と同様にして濃度測定、濃度調製を行なったプローブ溶液とを、1:1:1の体積比で混合して、3種類の配列を含んだ混合プローブ溶液を作製し、プローブ溶液「2」とした。
また、上記β−Actin用プローブと、上記KLK−3用プローブの3´端にアミノ基を付加したプローブ溶液(濃度調製済み)を1:1の体積比で混合して、2種類の配列を含んだ混合プローブ溶液を作製し、プローブ溶液「1」とした。
プローブ溶液「1」、「2」をそれぞれ3スポットずつ、チップ「1」と同様にしてアルミニウムの陽極酸化膜基板に固相化し、三次元マイクロアレイを作製した。作製されたマイクロアレイにおけるDNAプローブの配置を図4に示す。
【0076】
〈試料のハイブリダイゼーション〉
実験例1と同様に、試料溶液をハイブリダイゼーション反応に供した。上記のチップを用いたハイブリダイゼーション画像解析結果を図5に示す。
発現比(Y軸)は、それぞれのスポット毎に、プローブ上のICのテトラメチルローダミンの蛍光強度値を1として、それと同スポットのKLK−3のFITC蛍光強度値を補正した値である。
図5から明らかなように、KLK−3用プローブの3´端を固相化した場合と、3´端と5´端の両方を固相化した場合のいずれにおいても、ばらつきの解消された解析結果を得ることができた。さらに、KLK−3のプローブの3´端を固相化した場合より、3´端と5´端の両方を同一アドレスに固相化した場合の方が、強い信号強度が得られた。これは、3´端を固相化したプローブと試料中のKLK−3との反応効率が低いためであると推測された。
【0077】
以上の実験例においては、ドナーとなる蛍光標識をサンプルに行い、アクセプターとなる蛍光物質をIC配列に標識した例について説明した。アクセプターとなる蛍光物質を検出対象の遺伝子を検出するための配列に標識して検出を行うことも可能である。また、ドナーとアクセプターを入れ換えることも可能である。
【0078】
・実験例3
〈DNAプローブの作製・固相化〉
β−アクチンのプローブの3´端にアミノ基を付加したプローブ溶液と、KLK−3のプローブの5´端にチオール基を付加したプローブ溶液とをほぼ1:1の体積比で混合して、2種類の配列を含んだ混合プローブ溶液を作製し、プローブ溶液「3」とした。
【0079】
基板に固定される反応物質として、Pierce社製「BS3」 (Bis[Sulfosuccinimidyl]suberate)の溶液と、同仁化学製「EMCS」 (N−(6−Maleimidocaproyloxy)succinimide)の溶液とを調製した。これらの溶液が互いに同じ濃度になるように濃度調製を行い、これらの溶液を等量(体積)混合して、混合反応物質溶液とした。
なお、「BS3」溶液の濃度は、1700cm−1付近のC=Oの振動を赤外吸収スペクトルにより測定した。「EMCS」溶液の濃度は、1670cm−1付近のC=Cの振動をラマンスペクトルにより測定した。
混合反応物質溶液を、アミノシラン処理を行なったアルミニウムの陽極酸化膜基板に接触させた。
【0080】
上記の2種類の配列を含んだプローブ溶液「3」を、上記の処理を行なったアルミニウムの陽極酸化膜基板に供給して、プローブを固相化した三次元マイクロアレイを作製した。
一般に、アミノ基と活性エステル(スクシンイミド等)とは特異的に反応し、チオール基とマレイミド基とは特異的に反応する。
したがって、上記2種の反応物質は、基板へ処理されたアミノシランのアミノ基を介し、反応物質どうしでアミノ基との反応効率が同じ場合は混合反応物質溶液における比率を保って、基板上に固定される。反応効率が異なる場合、または、不明な場合は、基板上に固定された比率を吸収等により測定してもよく、2つの反応物質溶液の濃度を測定して比率を算出し、次に、基板上に固定された比率を吸収等により測定して、反応効率を算出し、所望の比率となるように2つの反応物質溶液の濃度を調製して処理を行うことができる。
次に、アミノ基を付加したプローブとチオール基を付加したプローブを混合して、基板に供給すると、各プローブが、基板に固定された反応物質の比率を反映した比率で、基板に固相化される。
【0081】
〈固相化プローブの比率の確認〉
β−アクチンのプローブのカウンターオリゴDNA(相補的な塩基配列を有するオリゴDNA)にCy3を標識し、KLK−3のプローブのカウンターオリゴDNAにCy5を標識した。
これらのオリゴDNAをSSPE緩衝液に溶解し、濃度調製を行なって1:1の比率になるように2種類の溶液を混合した。この溶液を、作製した3次元マイクロアレイに供給し、ハイブリダイズ反応させた。その後、Cy3とCy5を励起するための光を照射し、発生する蛍光を検出した。
検出結果を発光効率で補正したところ、Cy3とCy5の蛍光強度は1:1であり、β−アクチン用プローブとKLK−3用プローブとが1:1で固相化されていることが確認された。
【0082】
このように、プローブの濃度測定を行なわなくても、プローブを基板表面に固相化するための、基板に固定された反応物質の濃度を測定することによって、所定の比率で複数のプローブを、1つのアドレスに固相化することが可能であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の生体関連物質解析方法における一実施形態を示す概念図である。
【図2】実験例1におけるDNAプローブ配置(アドレス‐プローブ種類対応)を示す平面図である。
【図3】実験例1におけるハイブリダイゼーション画像解析結果(補正後)を示すグラフである。
【図4】実験例2におけるDNAプローブ配置(アドレス‐プローブ種類対応)を示す平面図である。
【図5】実験例2におけるハイブリダイゼーション画像解析結果(補正後)を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体関連物質を検出するための複数種のプローブが、同一のアドレスに固相化されており、該複数種のプローブは、その固相化された比率が既知であることを特徴とする生体関連物質検出用固相化担体。
【請求項2】
前記比率は、プローブの吸光度の測定、標識されたプローブの当該標識の測定、あるいはプローブに特異的に対応した第一反応物質が結合されたプローブの、当該第一反応物質の濃度の測定又は当該第一反応物質もしくはプローブと特異的に反応可能であり担体の所定アドレスに固定された第二反応物質の濃度の測定により得られることを特徴とする請求項1に記載の生体関連物質検出用固相化担体。
【請求項3】
複数種のプローブのうち少なくとも1が、コントロール生体関連物質を検出するためのものである請求項1または2に記載の生体関連物質検出用固相化担体。
【請求項4】
検出する生体関連物質1種類に対して、複数種のプローブが同一アドレスに固相化されている請求項1ないし3のいずれかに記載の生体関連物質検出用固相化担体。
【請求項5】
前記生体関連物質が核酸である請求項1ないし4のいずれかに記載の生体関連物質検出用固相化担体。
【請求項6】
同一アドレスに固相化されている複数種のプローブが、担体に3´末端が固相化されている第一プローブと、該第一プローブと同一塩基配列であって該担体に5´末端が固相化されている第二プローブとを含む請求項4または5に記載の生体関連物質検出用固相化担体。
【請求項7】
前記第一プローブと前記第二プローブとが略1対1の比率で固相化されていることを特徴とする請求項6に記載の生体関連物質検出用固相化担体。
【請求項8】
1以上の生体関連物質を検出するためのプローブの固相化方法であって、
1以上の生体関連物質を検出するための複数種のプローブを準備する第一ステップ、
該複数種のプローブを混合して混合プローブを得る第二ステップ、
及び、該混合プローブを担体の同一アドレスに接触させる第三ステップ、
を有し、
かつ、該複数種のプローブの比率を、第一ステップと第二ステップとの間、もしくは第二ステップと第三ステップとの間、又は第三ステップの後に測定することを特徴とするプローブの固相化方法。
【請求項9】
1以上の生体関連物質を検出するためのプローブの固相化方法であって、
1以上の生体関連物質を検出するための複数種のプローブを準備する第一ステップ、
該複数種のプローブを混合して混合プローブを得る第二ステップ、
該複数種のプローブの各々と特異的に反応する複数種の反応物質を担体に接触させる第三ステップ、
及び、前記混合プローブを該担体に接触させる第四ステップ、
を有し、
かつ、該複数種の反応物質の比率を、第三ステップの前、又は第三ステップと第四ステップとの間に測定することを特徴とするプローブの固相化方法。
【請求項10】
1以上の生体関連物質を検出するためのプローブの固相化方法であって、
1以上の生体関連物質を検出するための、各々特異的に対応した複数種の反応物質が結合された複数種のプローブを準備する第一ステップ、
該複数種のプローブを混合して混合プローブを得る第二ステップ、
及び、前記混合プローブを担体に接触させる第三ステップ、
を有し、
かつ、該複数種の反応物質の比率を、第一ステップと第二ステップとの間、もしくは第二ステップと第三ステップとの間、又は第三ステップの後に測定することを特徴とするプローブの固相化方法。
【請求項11】
1以上の生体関連物質を検出するためのプローブの固相化方法であって、
1以上の生体関連物質を検出するための、各々特異的に対応した複数種の反応物質が結合された複数種のプローブを準備する第一ステップ、
該複数種のプローブを混合して混合プローブを得る第二ステップ、
プローブに結合された複数種の反応物質と各々特異的に反応する複数種の反応物質を、担体に接触させる第三ステップ、
及び、前記混合プローブを該担体に接触させる第四ステップ、
を有し、
かつ、担体に接触させる複数種の反応物質の比率を、第三ステップの前、又は第三ステップと第四ステップとの間に測定することを特徴とするプローブの固相化方法。
【請求項12】
前記複数種のプローブが、同一塩基配列であって、担体に固相化する側の末端が3´末端である第一プローブと5´末端である第二プローブとを含む請求項8ないし11のいずれかに記載のプローブの固相化方法。
【請求項13】
生体関連物質が核酸である請求項8ないし12のいずれかに記載のプローブの固相化方法。
【請求項14】
請求項1ないし7のいずれかに記載の固相化担体を用いた生体関連物質の解析方法であって、
1以上の生体関連物質を含有する試料を該固相化担体に供給する第一ステップ、
該生体関連物質と前記プローブとが反応した反応体の信号強度を測定する第二ステップ、
及び、該強度を、前記比率に基づいて補正する第三ステップ、
を有することを特徴とする生体関連物質の解析方法。
【請求項15】
反応体の信号強度を、プローブに標識された蛍光標識と、生体関連物質に標識された蛍光標識との間で、蛍光共鳴エネルギー転移を生じさせて測定する請求項14に記載の生体関連物質の解析方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−29953(P2006−29953A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208660(P2004−208660)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】