説明

生成物分子の合成方法

本発明は、パルス成形体を用いて成形された超短レーザーパルスを発生させ、出発材料分子を含有するガスを、前記出発材料分子を少なくとも部分的に吸着する表面に導通し、その際、前記表面で吸着される出発材料からの生成物分子の合成のための反応の経過を制御するために、この成形された超短レーザーパルスが前記表面に向けられる、生成物分子の合成方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、化学反応の経過を狙いを定めて制御することができる生成物分子の合成方法に関する。
【0002】
分子レベルでのこの狙いを定めた化学反応の制御は、化学の昔からの理想である。慣用の微視的な、化学の制御パラメーター、例えば温度、濃度又は圧力は、量子力学的な反応の進行に関して直接的な介入を可能にしない。最近では、数々の新規の認識が量子制御の範囲において獲得され、この際特別に形作られた光の場が使用され、これを用いて効率的かつ選択的に特定された反応経路が選択されることができる。実験的な一技術は、パルス成形体を用いたフェムト秒−レーザーパルスの操作に基づく。この技術は例えば、T. Brixner, G. Gerberによる概要論文: "Quantum Control of Gas-Phase and Liquid-Phase Femtochemistry", CHEMPHYSCHEM 2003, 4, 418〜438中に既に記載されている。出発点は、数フェムト秒の期間のレーザーパルス(通常は10〜150fs)であり、これは、市販のレーザー系により発生されることができる。いわゆるパルス成形体を用いて、このレーザーパルスは、「成形された」レーザーパルスに移行され、その際この成形は、コヒーレントなスペクトル成分の相及び/又は振幅に関し、これはもはや一様である必要はないが調節されることができ、かつ、最適化すべき反応の進行に適合されている。
【0003】
このような方法はこれまでには、主として、気相中での解離反応に成功して適用されてきた。本発明の課題は、技術水準の欠点を回避し、特に、分子結合の選択的な形成を、成形された超短レーザーパルスを用いて可能にすることである。
【0004】
前記課題は本発明により、パルス成形体を用いて成形された超短レーザーパルスを発生させ、出発材料分子を含有するガスを、前記出発材料分子を少なくとも部分的に吸着する表面に導通し、その際、この表面で吸着される出発材料からの生成物分子の合成のための反応の経過を制御するために、この成形された超短レーザーパルスが前記表面に向けられる、生成物分子の合成方法により解決される。
【0005】
この際生成物分子は、この収率が狙いを定めて、成形されたレーザーパルスにより影響を及ぼされることができる分子である。前記分子は、レーザーパルスの影響下での表面での出発材料の化学反応により生じる。
【0006】
本発明による方法との関連において超短レーザーパルスは、その(時間−バンド幅−生成物に応じて、最短の可能性のある)期間が、アト秒〜1ナノ秒の範囲内、有利には1フェムト秒〜10ピコ秒の範囲内、特に有利には5〜200フェムト秒の範囲内にあるレーザーパルスである。このような超短レーザーパルスは、特に市販のフェムト秒レーザーにより調製される。
【0007】
本発明との関連において合成とは、新規の分子結合が生じ、かつ、出発材料分子又は出発材料がその成分にのみでなく分解される、生成物分子の製造を意味する。更に、生成物分子の合成は、本発明による方法の際に、有利には、多分子反応により、特に二分子反応により行われる。
【0008】
本発明により、出発材料分子を含有するガスは、前記分子を少なくとも部分的に吸着する表面に導通される。表面で吸着された出発材料からの生成物分子の合成のための反応の経過の制御のために、この成形された超短レーザーパルスは表面に向けられる。この表面に吸着される出発材料はこの際、この表面に導通されたガスからの出発材料分子に相当するか、又は、ここから生じるより小さい(解離性のプロセス)又はより大きい(アグレゲーション)分子又は原子であることができる。
【0009】
有利には、本発明による方法のため成形された超短レーザーパルスは、この生成物分子の反応収率が最大であるように成形されている。この成形された超短レーザーパルスはしかしながら、合成すべき生成物分子から逸脱する生成物の反応収率を最小限にするようにも成形されている。
【0010】
生成物分子の合成のための本発明による方法は有利には、出発材料分子を有するガスの連続的な材料流を表面に導通させ、かつ、成形された超短レーザーパルスを特定の繰り返し率でもって表面に向けることにより進行する。
【0011】
この表面は、本発明では、出発材料の吸着のために使用され、かつ、従って、ガス中の出発材料分子に対する親和性を有しなくてはならない。この表面は、出発材料分子又は出発材料に少なくとも物理的に吸着する(physisorbieren)ことが望ましく、かつ、場合により化学的に吸着する(chemisorbieren)こともが望ましい。物理的な吸着では、この吸着した出発材料分子はその当初の化学的状態にとどまる。化学的な吸着では、これに対して、この吸着物は表面と化学結合を形成する。この際、表面に対する吸着物は解離することができる。表面の使用は、とりわけ、出発材料物質の比較的高い密度が達成される利点を提供する。これにより、より高い衝突速度及びより高い収率が生じる。気相中では、複数の粒子があたる確率が顕著に低くなるものである。更に、表面は、例えば、出発材料分子の解離又はアグレゲーションのための触媒として作用することができるか、又は、(例えば金属性の)担体の特殊な性質が利用され、例えばM. Bonn et al.,:"Phonon- Versus Electron-Mediated Desorption and Oxidation of CO on Ru(0001)", SCIENCE 1999, 285, 1042〜1045中に記載されているとおりである。
【0012】
この成形された超短レーザーパルスは本発明による方法の際に、生成物分子の合成のために、表面及び吸着された出発材料分子と相互作用する。本発明による方法の有利な一実施態様によれば、この表面は吸着剤としてのその機能の他に、触媒の機能も引き受け、前記機能は、生成物分子の合成を触媒作用する。
【0013】
本発明による方法の有利な一実施態様によれば、このパルス成形体は、強度(振幅)及び相に関してレーザーパルスのスペクトル成分を成形する。この際、成形されないレーザーパルスは、これを例えば商業的なフェムトレーザーが放出し、かつ、その際全てのスペクトル成分が同じ時間に生じるが、パルス成形体により成形されたレーザーパルスに移行され、この成形されたレーザーパルスは、異なる時間で様々なスペクトル色の可変に調整可能な成分を有することができる。パルス成形体により、レーザーパルスの期間も、そのスペクトル幅が所望の時間範囲内においてレーザーパルスの産出を可能にする限りは、変化可能である。この相対的な色成分(強度)及びその時間的な配置(相)は、成形された超短レーザーパルス中で、表面で吸着された出発材料からの生成物分子の合成の際に収率に直接的に影響を及ぼす。
【0014】
本発明の一実施態様によれば、このパルス成形体は、偏りに関してレーザーパルスのスペクトル成分を成形する。従って、レーザーパルス形の最適化のための更なるパラメーターが与えられ、これにより、生成物分子の収率が更に高められることができる。この際、パルス成形体は、光の偏り状態を、超短の時間スケールで制御する。このような偏りパルス成形体は、有利には、一時的な強度、瞬時の振動数、楕円率の程度及び楕円の主軸の配向をそれぞれの個々の超短レーザーパルス中で操作する。
【0015】
本発明による方法の有利な一実施態様は、どの生成物がどの収率でもって生成物分子の合成の際に生じるかを検出器を用いて測定、最適化アルゴリズムにより計算機を用いて変更されたパルス形を産出、そしてパルス成形体を制御して、成形された超短レーザーパルスが変更されたパルス形でもって発生されることにより、合成の間にこの成形された超短レーザーパルスの最適化を行うことにある。これは、生成物分子合成の最適化のために、出発材料分子/出発材料、この表面又はこの化学反応の経過に関する予備知識が必要でない利点を有する。計算機(例えばパーソナルコンピューター)は、パルス成形体の制御を引き受け、かつ、例えば反応収率を最適化することができる。レーザーパルス形の反復した改善はこの際、次のように行われる。超短レーザーパルスが、生成物分子の合成のための反応を引き起こすために、表面に向けられる。検出器を用いて、どの生成物がこの際どのような収率で発生されるかが測定される。検出器として、当業者に公知の、生成物の検出のために適した任意の検出器が使用されることができる。有利には検出器は、飛行時間型質量分光法、光電子分光法、放出スペクトル分光法及び二次元分光法及び四光子混合(Vierwellenmischen)の群から選択された、時間分解された検出方法の少なくとも1つに基づく検出器である。
【0016】
計算機は、検出器により算出された情報を、様々な生成物の収率に処理する。最適化アルゴリズムにより、レーザーパルスの改善されたパルス形が産出され、これは再度パルス成形体により発生され、かつ、生成物分子の合成のために表面に向けられる。この最適化方法は、この生成物分子の合成が例えば、所望されない生成物の収率に相対的な所望される生成物分子収率(選択率)の最大値に、又は、このような不所望の生成物の相対的な収率(選択率)の最低値に最適化されるまで繰り返される。
【0017】
最適化アルゴリズムとしてこの際有利には、進化アルゴリズムが使用される。このコンピューターアルゴリズムは、自己学習方法であり、この方法は生物学的な進化にならって作成されている。ダーウィンの原理「Survival of the fittest」(最適のものが生き残る)により、最適化目的を特に良好に満たすレーザーパルスが選択され、かつ、類似の成功した相調整との組み合わせにより「伝播」される。これにより発生される「子孫」の唯1つが、再度、その「先祖」と比較してより良好に適し(より高い「フィットネス」がこれに割り当てられる)、かつ、この子孫が新たに、繁殖(Reproduktion)のために選択される。十分に多くの世代のための進化のこの工程が通り抜けられる場合には、最終的には、最適な反応結果を生み出すレーザーパルスが見出される。
【0018】
本発明の有利な一実施態様によれば、レーザーパルスを、計算機により制御された技術に基づくパルス成形体により成形し、これは、液晶ディスプレイ、音響光学変調器、音響光学フィルター、変形可能なミラー及びマイクロミラー配置の群から選択される少なくとも1つの装置の制御を含む。パルス成形体を用いた、スペクトル強度及び相、並びに偏りに関するレーザーパルスの成形は、通常は、レーザーパルス(例えば、格子を用いた又はプリズムを用いた)がそのスペクトル成分に分解され、ここから平行な線束が発生され、「相移行体」として作用する装置がスペクトル成分の走行時間の差に働きかけ、かつ、この線束が再度集束され、かつ(例えば、更なる格子により)成形されたレーザーパルスに重なりあうことに基づく。「相移行体」として作用する装置としては、例えば、少なくとも1つの液晶ディスプレイ(LCD)、音響光学変調器、変形可能なミラー又はマイクロミラー配置が使用されることができ、又は、音響光学フィルターが使用されることができ、但し、このためにはスペクトル成分の分解は必要でない。
【0019】
液晶ディスプレイを用いたパルス形の操作は、適した電圧を個々のLCDピクセルに印加することにより行われ、これにより屈折率は、この異なるスペクトル成分が伝播の際にLCDにより相対的に相互に遅延されるように選択されることができる。
【0020】
音響光学フィルターは、別の方法に基づき、その際光は、そのスペクトル成分に最初に分解される必要はない。更に、光及び音響波は、特殊な複屈折結晶を通じて伝播する。それぞれのスペクトル成分は、音響格子で、結晶中の特定の位置で、例えば、整った線により、特殊な線に回折されることができる。この生じるパルスは、これに応じて、個々の色成分からなり、この成分は、異なる時間で回折されたものであり、これにより相の調節が可能である。
【0021】
本発明の有利な一実施態様によれば、この出発材料分子を含有するガスが、金属表面又は金属酸化物表面であり、かつ、有利には元素の周期律表の、副族第IIIB〜IIB(遷移金属)、特に有利には第VIIIB、IB及びIIB族からの少なくとも1種の元素を含有する表面に導通される。元素の周期律表の第VIIIB、IB及びIIB族の有利な元素はこの際、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Os、Ir、Pt、Au及びHgである。本発明による方法のために使用される表面中では、金属が合金としても存在することができ、又は、更なる一実施態様によれば、出発材料分子を含有するガスは、遷移金属、例えばPd(100)、Pt(100)又はAg(111)の単結晶表面である表面に導通される。本発明の更なる有利な一実施態様によれば、この表面は、技術的な触媒の表面であり、例えば、前述した元素を、担持されて又は担持されないで、純粋に、合金として又は酸化物として含有する技術的な触媒の表面である。
【0022】
本発明による方法の際に表面に導通されるガスは、1種又は数種の出発材料分子を含有する。例えば、本発明により生成物分子は、1種のみの出発材料分子から重合反応により合成されることができる。有利には、これは、少なくとも2種の出発材料分子から成る混合物を含有し、その際、少なくとも2種の出発材料分子の材料流の比は調節装置により調節されることができる。この材料流の比は、この成形されたレーザーパルスのパルス形と同様に、本発明による方法の実施の際に生成物分子の収率に影響を有する。調節装置は従って、少なくとも2種の出発材料分子の材料流を、生成物分子の特定の最大の収率が達成されるように調節することができる。
【0023】
有利には、本発明による方法の際には、ガスを表面に導通し、前記ガスは、アセトン、アセチレン、ギ酸、アンモニア、アルシン、青酸、三塩化ホウ素、三フッ化ホウ素、ブロモエタン、ブロモメタン、臭化水素、1,3−ブタジエン、ブタン、1−ブテン、1−ブチン、塩素、クロロジフルオロメタン、クロロエタン、クロロメタン、塩化水素、cis−2−ブテン、重水素、ジクロロシラン、ジエチルエーテル、ジフルオロメタン、ジメチルアミン、ジメチルエーテル、2,2−ジメチルプロパン、ジシラン、一酸化二窒素、亜酸化水素、エタン、エテン、エチレンオキシド、フルオロメタン、ホルムアルデヒド、ヘキサフルオロエタン、イソブタン、イソブテン、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、メタノール、メチルアミン、オクタフルオロシクロブタン、オクタフルオロプロパン、ホスフィン、プロパン、プロペン、1−プロピン、プロピレンオキシド、酸素、二酸化硫黄、六フッ化硫黄、硫化水素、シラン、四フッ化ケイ素、窒素、二酸化窒素/四酸化二窒素、一酸化窒素、三フッ化窒素、テトラフルオロメタン、trans−2−ブテン、トリフルオロメタン、トリメチルアミン及び水素からなる群から選択された出発材料分子少なくとも1種を含有する。特に有利は、前記ガスは出発材料分子としてH2及びCOを含有する。本発明による方法は、例えばホルムアルデヒド又はメタノールの合成のために使用されることができる。
【0024】
本発明の一実施態様によれば、出発材料分子を含有するガスは真空室中で表面に導通される。真空室中では、ガスが表面に供給される場合には、有利には真空<10-3mbar、特に<10-4mbarが支配している。
【0025】
本発明を以下の図面に基づいてより詳細に説明する。
【0026】
図は以下を示す:
図1は、生成物分子の合成のための本発明による方法の実施のための構成を図式により示す、かつ、
図2は、以下の実施例1のための材料スペクトルを示し、ここで異なる濃度でCO及びH2を含有するガスが、Pd(100)の単結晶表面に導通され、かつ、生成物分子が、成形された超短レーザーパルスを用いて合成されている。
【0027】
図1は、成形された超短レーザーパルスを用いた表面でのCO及びH2を含有するガスからの生成物分子の合成のための本発明による方法の実施のための構成を図式により示す。
【0028】
レーザー1は、レーザーパルス2を供給し、このスペクトル幅は、フェムト秒範囲でのレーザーパルスの発生を可能にする。レーザーパルス2は、場合により増強され(示されていない)、かつ、成形されていないレーザーパルス3として第1の格子4にあたり、これはこの成形されていないレーザーパルスをそのスペクトル成分に分解し、これは拡散した線6として第1のレンズ5にあたる。この第1のレンズ5は、この拡散した線6を平行する線束7にまとめる。液晶ディスプレイ(LCD)8は、この異なるスペクトル成分の走行時間差に影響を及ぼす。第2のレンズ9は、液晶ディスプレイ8から生じる線束10を集束させ、これは第2の格子11によりレーザーパルス12へと重ねられる。この構成のパルス成形体14は、従って、2つの格子4、11、2つのレンズ5、9、及び液晶ディスプレイ8を含む。このように成形された超短レーザーパルス13は、表面15に向けられ、これは場合により真空室(示されていない)中にある。
【0029】
CO貯蔵器16及びH2貯蔵器17からは、出発材料分子CO及びH2が材料流の特定の比で混合される。この混合物18は、ノズル19及びスキマー20を介して表面15に導通される。この表面15にあたるガス21から、出発材料が表面15に吸着される。この表面15にあたる成形されたレーザーパルス13は、この吸着された出発材料からの生成物分子22の合成のためのエネルギーを提供する。このイオン化された生成物分子22は、飛行時間型質量分光計23において加速される。このイオン27は、検出器24中で、飛行時間質量分光計23を通じて飛行時間後にシグナルを産出し、これは、その質量に直接的に依存する。この測定されたシグナル25は、計算機28に移され、これは、成形されたレーザーパルス13のパルス形の最適化のために最適化アルゴリズムを用いて変更されたパルス形を産出する。計算機28は次いで、液晶ディスプレイ8を連結部26を介して制御し、この結果パルス成形体14は、産出された変更されたパルス形を有するレーザーパルスを成形し、これは生成物分子の合成のために表面15で使用される。
【0030】
実施例1
図1に示したとおりの構成を使用した。チタンサファイア再生式フェムト秒増強器を用いてレーザーパルスを増強し、その際この増強された成形されていないレーザーパルスは80fsのパルス期間、1mJまでのパルスエネルギーを中心の波長800nmで、及び、1kHzの反復率を有した。128ピクセルを有するLCDパルス成形体を、レーザーパルスのスペクトル相を変更させるために使用し、その一方でそのスペクトルは変更しないままであった。このレーザー線(成形されたレーザーパルス)を、焦点距離40cmを有するレンズにより主真空室(圧力、ガス流無しで10-6mbar)中で、Pd(100)−単結晶表面(結晶の温度290K)に、角度約15°で集束した。このレーザー線の強度は、約1012W/cm2であった。この線を表面により反射させ、主真空室から去った。
【0031】
少なくとも99.999%(Messer-Griesheim, Deutschland)又は少なくとも99.997%(Tyczka, Deutschland)の純度を有する2つのガスH2及びCOを取り寄せた。2つの測定流れ調節器(Advanced Energy, Deutschland)は、2つのガス導通部を介して系中に導通されるガス量を計量供給する。2つのガス導通部は、ノズル前で一緒に流れ、かつ、ガス混合物は、ノズルを通じて副真空室中に導通され、ここでスキマーにあたり、かつ、ここからガス流として主真空室中へと導入される。Pd(100)−単結晶(直径10mm、厚さ1mm、Mateck, Deutschland)は、分子流に対して約5°の角度において合わせられ、この結果、ガスはかすめるのみでなく、ここにぶつかる。
【0032】
ガス流に対して垂直に、かつ、表面垂線に対してほぼ平行に、飛行時間質量分光計が、電極系と共に配置され、これはレーザー線が表面とそして吸着された出発材料と相互作用する場合に生じるイオンの加速のためである。
【0033】
本発明による方法の第1の結果は図2中に示されている。座標には、検出器を用いて飛行時間質量分光計の末端で測定されたイオンシグナルの強度Iを、そして、横軸には、飛行時間tをμsで示した。6つの測定A〜Fの結果を示し、その際、この両方のCO−及びH2出発材料分子のそのつどの材料流は、以下のように選択されたものである:
【表1】

その際、sccmは、標準ccm/分である。
【0034】
測定AにおいてはH2のみが導通され、そしてCOは表面に導通されない。この示された時間枠内において、シグナルは生じないが、3つの大きな測定ピークが観察され、これは、H+、H2+及びH3+に割り当てられることができる。
【0035】
測定BにおいてはCOのみが導通され、H2は表面に導通されない。この3つの検出された測定ピークは、質量12、16及び28amuにあり、これはC+、O+及びCO+に割り当てられることができる。
【0036】
測定C〜Fのためには、CO及びH2の両方の出発材料分子種類がガス混合物として表面に供給され、かつ、材料流の比に応じて、イオンC+、CH+、CH2+、CH3+、O+、OH+、H2+、H3+、CO+、HCO+及びH2CO+が様々な強度で検出される。水ピーク(H2+)が、例えば増加するH2材料流とともに増加し、その際O+はより小さくなる。レーザーパルス形の最適化により、特定の生成物分子形の収率は更に改善されることができた(示していない)。例えばCH3+の検出は、3つの粒子が相互に当たっていること、そして、この表面及びレーザーパルスと相互反応しなくてはならなかったことを示す。本発明による方法を用いて従って、生成物分子の合成が成功して達成された。
【0037】
実施例2
成形された超短レーザーパルスのパルス形の最適化を、進化アルゴリズムを用いて実施した。このために、CO及びH2の両方のガスの1:1混合物を前記Pd表面に導通した。進化アルゴリズムを用いて、C−H−結合の形成に影響を及ぼすパルス形を見出すことが可能であるかが検査されるものである。最適化−実験の目的として、CH+の形成が、C+に比較して最大化されるかを予め設定した。進化アルゴリズムを用いて、成形されたレーザーパルスのパルス形が見出され、これにより、成形されていないフェムト秒−レーザーパルスと比較して約50%分の相対的な収率の向上が達成された。同時にCH2+/C+比が、おおよそ同じ値だけ高められた。極めて意外な効果は、更に、最適化された成形されたフェムト秒−レーザーパルスを用いた、H2+形成の顕著な減少化であった。レーザー強度の変化によりこれに対して、他のピークと相対的なH2+シグナルの減少化は達成されることができなかった。この実験データからは、従って、この算出された最適に成形された超短レーザーパルスが、C−H−結合を有する生成物のシグナルの向上化を引き起こし、他方でH2+シグナルが減少化されることが明らかになる。C+に対して相対的にCO+、HCO+及びH2CO+の収率はこの際同様に高められる。
【0038】
実施例3
実施例2中の条件と比較可能な条件下で、進化アルゴリズムにより使用されるフィットネス−機能中にH2+収率が組み込まれた。この最適化実験を、CH+/H2+比を最大化するとの選択された目的でもって実施した。進化アルゴリズムを用いたレーザーパルス形の最適化により、C+ピークに対して相対的なH2+ピークは約50%だけ減少されることができた。最適化の前にH2+ピークは、CH+ピークよりも大きかった。この比は、最適化された成形されたレーザーパルスにより反転されることができた。CO+−及びHCO+ピーク強度が高められ、これに対してCH+及びCH2+はC+に対して相対的には、実質的に変更されなかった。この実験の際にも、成形されていないレーザーパルスの強度の変更により、この他のピークに対して相対的に、H2+シグナルの減少化が達成されなかった。
【0039】
この実施例中に記載される結果は、成形された超短レーザーパルスのパルス形の最適化のための進化アルゴリズムが、分子結合が生じ、かつ、簡単には分離されない、2つの競合する反応カナルの制御のために、使用されることができることを明らかに示した。
【0040】
従って、生成物分子の触媒作用による合成は、本発明による方法により選択的に制御されることができる。
参照記号の列記
1 レーザー
2 レーザーパルス
3 成形されていないレーザーパルス
4 第1の格子
5 第1のレンズ
6 拡散した線
7 平行な線束
8 液晶ディスプレイ
9 第2のレンズ
10 線束
11 第2の格子
12 レーザーパルス
13 成形されたレーザーパルス
14 パルス成形体
15 表面
16 CO貯蔵器
17 H2貯蔵器
18 混合物
19 ノズル
20 スキマー(Skimmer)
21 ガス
22 生成物分子
23 飛行時間型質量分光計
24 検出器
25 シグナル
26 連結部
27 イオン
28 計算機
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、生成物分子の合成のための本発明による方法の実施のための構成を図式により示す図である。
【図2】図2は、以下の実施例1のための材料スペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 レーザー、 2 レーザーパルス、 3 成形されていないレーザーパルス、 4 第1の格子、 5 第1のレンズ、 6 拡散した線、 7 平行な線束、 8 液晶ディスプレイ、 9 第2のレンズ、 10 線束、 11 第2の格子、 12 レーザーパルス、 13 成形されたレーザーパルス、 14 パルス成形体、 15 表面、 16 CO貯蔵器、 17 H2貯蔵器、 18 混合物、 19 ノズル、 20 スキマー、 21 ガス、 22 生成物分子、 23 飛行時間型質量分光計、 24 検出器、 25 シグナル、 26 連結部、 27 イオン、 28 計算機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス成形体を用いて成形された超短レーザーパルスを発生させ、出発材料分子を含有するガスを、前記出発材料分子を少なくとも部分的に吸着する表面に導通し、その際、前記表面で吸着される出発材料からの生成物分子の合成のための反応の経過を制御するために、この成形された超短レーザーパルスが前記表面に向けられることを特徴とする、生成物分子の合成方法。
【請求項2】
パルス成形体が、強度及び相に関するレーザーパルスのスペクトル成分を成形することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
パルス成形体が、偏りに関するレーザーパルスのスペクトル成分を成形することを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
どの生成物がどの収率でもって生成物分子の合成の際に生じるかを検出器を用いて測定、最適化アルゴリズムにより計算機を用いて変更されたパルス形を産出、そしてパルス成形体を制御して、成形された超短レーザーパルスが変更されたパルス形でもって発生されることにより、合成の間にこの成形された超短レーザーパルスの最適化を行うことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
レーザーパルスを、計算機により制御された技術に基づくパルス成形体により成形し、これは、液晶ディスプレイ、音響光学変調器、音響光学フィルター、変形可能なミラー及びマイクロミラー配置の群から選択される少なくとも1つの装置の制御を含むことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
ガスを、遷移金属の単結晶表面である表面に導通することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
1種又は数種の出発材料分子を含有するガスを、表面に導通することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
少なくとも2種の出発材料分子からなる混合物を含有するガスを表面に導通し、その際、この少なくとも2種の出発材料分子の材料流の比が、調節装置により調節されることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
ガスを表面に導通し、前記ガスが、アセトン、アセチレン、ギ酸、アンモニア、アルシン、青酸、三塩化ホウ素、三フッ化ホウ素、ブロモエタン、ブロモメタン、臭化水素、1,3−ブタジエン、ブタン、1−ブテン、1−ブチン、塩素、クロロジフルオロメタン、クロロエテン、クロロメタン、塩化水素、cis−2−ブテン、重水素、ジクロロシラン、ジエチルエーテル、ジフルオロメタン、ジメチルアミン、ジメチルエーテル、2,2−ジメチルプロパン、ジシラン、一酸化二窒素、亜酸化水素、エタン、エテン、エチレンオキシド、フルオロメタン、ホルムアルデヒド、ヘキサフルオロエタン、イソブタン、イソブテン、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、メタノール、メチルアミン、オクタフルオロシクロブタン、オクタフルオロプロパン、ホスフィン、プロパン、プロペン、1−プロピン、プロピレンオキシド、酸素、二酸化硫黄、六フッ化硫黄、硫化水素、シラン、四フッ化ケイ素、窒素、二酸化窒素/四酸化二窒素、一酸化窒素、四フッ化窒素、テトラフルオロメタン、trans−2−ブテン、トリフルオロメタン、トリメチルアミン及び水素からなる群から選択された出発材料分子少なくとも1種を含有することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
ガスを、真空室中で表面に導通することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−525165(P2009−525165A)
【公表日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−550734(P2008−550734)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【国際出願番号】PCT/EP2007/050337
【国際公開番号】WO2007/082861
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】