生理反応取得方法
被験者から生理反応を取得する方法であって、特には聴性脳幹反応に関し、M系列のような複数の刺激を提示することにより、刺激に対する反応より電気生理学的信号を検知するとともに刺激に基づく回復信号を生成し、電気生理学的信号と回復信号より生理反応を判断する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間および動物の刺激反応を取得する方法に関し、より詳細には、これに限られるものではないが、電気生理学的に記録した聴性脳幹反応を取得し再現する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
刺激に対する反応の取得は、医療検査の重要な側面である。刺激反応の取得は、視覚的、触覚的および聴覚的問題の診断に役立つ。中でも、難聴の早期発見は特に重要である。先進国においては、毎年約2万人の乳幼児が深刻な聴覚障害をもって生まれてくる。会話、言語および認識能力の正常な発達には、そうした障害の早期発見、早期治療が不可欠である。そこで、ほとんどの国では新生児期聴覚ユニバーサル・スクリーニング(UNHS)が実施されている。しかし、UNHSのランニングコストは多額であり、特に地方や遠隔地に住む人にとっては相当多額の費用を要する。UNHSのランニングコストが多額である原因には様々あるが、スクリーニングテスト時間と要再検率(referral rates)が2つの大きな要因である。
【0003】
新生児の聴覚スクリーニング方法としては、主に2種類の方法が使用される。1つは、自動聴性脳幹反応(A−ABR)で、もう1つは、誘発耳音響反射(TEOAE)である。A−ABRは、イヤホンと表面電極を使用して、聴覚閾値に近い音刺激を与え、脳幹反応を取得して、その反応がABR波形か、ランダムなバックグラウンド・ノイズであるかを判断する。
【0004】
典型的なABR波形では7つの正の波形のピークが、刺激後の最初の12〜15秒の間に見られる。これらの波形のピークは、新生児の第8脳神経、聴覚脳幹、視床および視床皮質系放射線から聴覚神経経路に沿った同期の神経活性に関連することが明らかとなっている。通常、ABRの波形のピークは潜時の順に、ローマ数字のIからVIIでラベリングされる。I波は典型的には約2秒で発生し、その後、約1秒間隔でII波からVII波が発生する。I波、III波およびV波は共に多くの臨床医らが簡単に識別でき、もっとも確実に測定される波形であり、通常人のデータとの比較により刺激のタイプ、強度、潜時、レート等を測定できる。
【0005】
TEOAE装置はイヤホンとマイクロホンを使用して、蝸牛の音声刺激に対する反応を測定し、反応が耳音響反射かランダムなバックグラウンド・ノイズであるかどうか決定する。A-ABR及びTEOAE装置は、脳幹(A-ABR)または蝸牛(TEOAE)からの反応の有無に基づきパス(pass)/要再検(refer)決定を行う。
【0006】
A−ABRの長所は、外耳、中耳、内耳(間接的に)と聴神経と脳幹(直接的に)の健全性を検査するということである。TEOAEは外耳および中耳(間接的に)と内耳(直接的に)の健全性のみを検査する。TEOAEの長所は、A−ABRと比べてより早く、安いコストで実施できることである。TEOAEの短所は、A−ABRと比べて誤警報の率が高く、それにより、A−ABRよりかなり高い要再検率(ほぼA−ABRの2倍)を引き起こすことである。この高い要再検率は、フォローアップにかかるコストをかなり増加させるとともに、親の不安を(しばしば不要に)かなり高める。
【0007】
A−ABRには、新生児聴力スクリーニング装置としての臨床使用を妨げる2つの重要な限界がある。
【0008】
まず第1に、ABR波形のデータ収集においては、外部の雑音と検査中の新生児の発する雑音による高レベルのノイズが干渉しやすい。従って、UNHSのために必要な閾値付近のABR波形のためのデータ収集時間は、概しておよそ5分である。さらにまた、落ち着きのない新生児であるといった、より良好でないデータ収集状況では、データ収集時間は20分になる。試験は時間を改めて行われることとなるが、それは親の不安を増すような望まぬ結果であり、新生児はテストされずに帰宅するという結果を生む。
【0009】
第2に、A−ABRでは、通常、反応の有無を閾値に近い刺激強度(一般的には35db nHL)において1度しか検査しない(この検査方法は、ABR波収集の時間の冗長さの帰結である)。聴力閾値以上及び聴力閾値以下の複数の刺激強度を利用してより徹底的で正確なABR検査を行うことはできるが、通常、そういった検査はひどく長い試験時間のため診断評価においてのみなされる。
【0010】
臨床解釈のために使用されるABR波形は、1000〜4000の刺激への平均応答波形であって、アンサンブル平均として知られている。アンサンブル平均が必要とされる理由は、刺激に対する反応の測定における信号対雑音比(S/N比、SNR)の小ささにある。S/N比が小さいのは、他の音響や電源の存在により測定される誘発電位が原因であり、それはノイズであるといえるが、以下のものが含まれる。(1)脳波により測定される、脳の進行中の神経活動。(2)目や頭の運動といった不随意筋の活動。(3)周辺にある電気機器や幹線接続による電磁干渉(例えば電源、照明とスイッチにより起こる)。(4)音響干渉(例えば周囲の騒音やバックグラウンド・ノイズ)。
【0011】
アンサンブル平均では、上記4つの異なる発信源からのノイズはゼロ平均で、聴覚刺激とは非同期化されると扱うため、筋肉の人工産物の可能性を除いては、ノイズを減らすのに有効である。アンサンブル平均では、ノイズはゼロ平均で刺激と非同期であるとして、単純に、信号は刺激により決まり、刺激と同期すると仮定するのである。実験により、これの仮定は通常、有効であることが確認されている。
【0012】
A−ABR装置で最も一般的に用いられる刺激は100マイクロ秒の正または負のインパルスであり、ブロードバンド「クリック(click)」刺激として知られているものである。聴覚脳幹に対して外耳が線形システムとしてふるまう場合(通常そのようなことはないが)、クリック刺激によりこのシステムのインパルス反応を直接測定できるだろう。しかしながら、インパルス、あるいは周期性インパルス列を使用することが、線形システムのインパルス反応を測定する最も効率的な方法ではないことはよく知られている。ホワイトノイズ、ステップ周波数またはチャープ信号といったブロードバンド刺激は、増加した信号電力がシステムに投入されることを可能にし、従って、出力においてSNRを増加させることを可能にする。この反応は、相互相関および/またはフーリエ解析を経た所要のインパルス反応に直接関連することがありえる。そのような刺激の1つは、疑似乱数インパルス列からなり、しばしばM系列(maximum length sequence、MLS)と呼ばれ、先行技術で提示されている。MLSの主な長所は、前のクリックへの反応が完全に消える前に、次のクリックが提示されるという効果があることである。これによりパルス繰り返し周波数の効率的な増加を可能にし、刺激間間隔(ISI)を減らし、従って、テスト時間を短縮させる。
【0013】
しかしながら、MLS刺激には様々な問題があるため、広く採用されてはいない。
【0014】
問題の1つは、MLSの不規則なISIは反応のばらつきを増加することであり、それにより、ABRは最適に再現されず、おそらくは品質を落とし、波形はしばしば標準をはずれた形態となる。
【0015】
問題の2つ目は、ISIの減少、すなわち刺激提示の頻度を高くさせることで、ABRの振幅が減少することである。刺激提示頻度を高くすることがABR振幅の減少を補わない場合、SNRは実際には悪化する。
【0016】
従来のMLS再構成アルゴリズムは、MLS自体とともにMLSによって引き起こされる反応との相互相関に基づく。MLSは、自己相関が単位インパルスであるように定義され、それによりこのプロセスは効果的にシステムのインパルス反応を測定し、それは理想としては取得したABRに帰結する。しかしながら、この再構成プロセスは、ほぼ線形で時間不変であるシステムにおいて発生する反応についてのみ、最適である。現実には、ABRの振幅と潜時はISIによって大きく変化するので、そうした場合に従来の線形再構成アルゴリズムは最適とはいえない。
【0017】
ABRの取得に対するMLSの利用は、EysholdtとSchreinerによる1982年の論文(Eysholt U. and Schreiner,C.H.R.(1982)Maximum length sequences − a fast method for measuring brain−stem−evoked potentials. Audiol,21,242−250.)において初出である。EysholdtとSchreinerによって解説されるABR復元の方法は、計算効率の良い行列反転の方法に基づく。しかし、この方法は線形で時間不変のシステムから取得したMLS信号の再構成に最適なだけである。この点については、反応の再構成がデータ取得として行われる従来の線形MLS再構成アルゴリズムにおけるメモリの効率的な実装について記載されているThorntonらの米国特許第5734827号についても参照するとよい。
【0018】
上記論文発表以後、従来の(線形の)MLS再構成技術は広範囲に使われているが、この方法の欠点を解決しようとする他の多くの再構成技術も提案されている。例えば、Van VeenとLaskyは、MLS再構成シーケンスの効率評価の枠組みについて「Van Veen B.D., Lasky R.E.(1994) A Framework for Assessing the Relative Efficiency of Stimulus Sequences in Evoked Response Measurements. J Acoust Soc Am 96(4),2235−2243.」において、論じている。彼らは、再構成されたABR波形の信号対雑音比(S/N比)を最大にする回復シーケンスを選択することができる方法を解説する。しかし、彼らのMLS反応の分析は、望ましいABRインパルス反応がシフトされ、スケールされた種類のものの和から成るMLS反応についてのみ行われており、それにより、ABRの潜時における潜在的な変化を無視している。
【0019】
従来のMLS取得と再構成技術を改善するより最近の試みとして、Jewettらは「Jewett D.L., Caplovitz G., Baird W., Trumpis M., Olson M.P. and Larson−Prior L.J.(2004)The use of QSD (Q−Sequence Deconvolution) to Recover Superposed, Transient Evoked−Responses, Clin. Neuro. 115(12), 2754−2775.」において、q−sequence解析(QSD)で、ABR潜時の変動を最小限にできるよう最小のISI変動(いわゆる「準周期的な」シーケンス)で刺激シーケンスを活用する方法につき論じている。しかし、このアプローチの主な限界として、このアプローチが通常はフーリエ領域の分割演算として実行される解析作業に依存するという点がある。周波数領域の分割は、フーリエ係数が1未満の場合には信号内のノイズを有意に増幅することはよく知られている。従って、彼らは、特定の予め指定された時間と周波数領域制約(1未満のフーリエ係数の除外を含む)を満たすq−シーケンスを捜し出すことを試行するという、計算コストが高い、反復的な処置を提案する。この方法では、条件に合ったq−シーケンスの存在が保証されない点に留意する必要があり、それ故、QSDによる方法は適用できる場面が限られている。
【0020】
MLR(中間潜時反応)に対するMLSの活用が、Bellらにより論じられている(Bell S.L., Allen, R and Lutman M.E.(2002) Optimizing the acquisition time of the middle latency response using maximum length sequences and chirps. J Acoust Soc Am 112(5), 2065−2073.)。Bellは、最小限のISIを250マイクロ秒から2.5ミリ秒の間で変化をさせて、それに関連して谷でピークに達する波の振幅と潜時を測定する方法を解説する。Bellは観察された波の潜時のうち、統計学的に意味がない小さな変化のみを報告するが、ISI振幅の非線形性は、刺激率が増加するとともに波振幅が有意に減少することにより明白である。TEOAEのMLSへの適用が、Thorntonにより米国特許5546956号で説明されている。この発明の実施形態において、被験者の耳道に挿入される聴覚プローブで測定される音声刺激につき記載している。このプローブは、マイクロホンから成り、音声刺激への反応が被験者の蝸牛から返ってきた際の音を探知し、関連する信号を増幅する。この研究において、最小限のISIは200マイクロ秒と25ミリ秒の間で変化し、ISIが減少するにつれて、関連のOAE反応の振幅ははっきりした減少を示す。しかし、OAEはそもそも神経学的な反応というよりは、中耳や内耳の機械的な反応であり、ISIが変わっても潜時の変化はわずかである。
【0021】
以上のように、生理反応を得るための方法には上記で述べた先行技術の多数の不利な点を克服するような改善の必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】Eysholt U. and Schreiner,C.H.R.(1982)Maximum length sequences − a fast method for measuring brain−stem−evoked potentials. Audiol,21,242−250.
【非特許文献2】Van Veen B.D., Lasky R.E.(1994) A Framework for Assessing the Relative Efficiency of Stimulus Sequences in Evoked Response Measurements. J Acoust Soc Am 96(4),2235−2243.
【非特許文献3】Jewett D.L., Caplovitz G., Baird W., Trumpis M., Olson M.P. and Larson−Prior L.J.(2004)The use of QSD (Q−Sequence Deconvolution) to Recover Superposed, Transient Evoked−Responses, Clin. Neuro. 115(12), 2754−2775.
【非特許文献4】Bell S.L., Allen, R and Lutman M.E.(2002) Optimizing the acquisition time of the middle latency response using maximum length sequences and chirps. J Acoust Soc Am 112(5), 2065−2073.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
従って、本発明の目的の1つは、聴性脳幹反応を取得するための方法についての上記の限界の1つ以上を克服するか、少なくとも軽減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
したがって、本発明の一実施形態による生理反応取得方法は、可変的な刺激間間隔で複数の刺激を被験者に示すステップと、被験者の刺激反応から電気生理学的信号を検出するステップと、刺激間間隔により振幅と潜時が修正される回復信号を刺激に基づき生成するステップと、電気生理学的信号と回復信号を使用して生理反応信号を取得するステップとを含んでいる。
【0025】
刺激は聴覚刺激であって生理反応は聴性脳幹反応(ABR)であるのが望ましい。
【0026】
1000以上の聴覚刺激が、被験者の耳に提示されてもよい。
【0027】
聴覚刺激は、ブロードバンドクリック、トーンバースト、ノイズバースト、チャープ刺激または他のタイプの刺激であってもよい。
【0028】
聴覚刺激に基づく回復信号の生成に、くし形フィルタを用いてもよい。
【0029】
本発明を、自動聴性脳幹反応(A−ABR)装置を使用して実施してもよい。
【0030】
本発明を、同時に1人の被験者の両耳に適用してもよい。
【0031】
被験者は人間の新生児であってもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明は、従って、改善されたABRの取得を可能にする。本発明の一実施形態では、さまざまな方法でA-ABR装置の有効性を改善している先行技術と比較して、ABR波形を有意に少ない時間で取得することができる。例えば、本発明の方法によれば、被験者が落ち着きのない新生児である場合や、大きなバックグラウンド・ノイズがあるようなスクリーニングが困難な環境においても、従来技術より試験が成功しやすく、1つの刺激強度につき従来技術よりも有意に少ない時間でテストできる。また、本発明の一実施形態によれば、複数の刺激強度につき、従来技術でかかるテスト時間と同程度の長さで、より正確性と信頼性の高いテストをすることができる。
【0033】
その他の本発明の特徴及び効果は、下記から明らかとなるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係るMLSの振幅と時間の関係を図示するグラフである。
【図2】本発明の一実施形態に係る周期的刺激バッファと反応マトリクスのシーケンス行を保存する反応バッファとを図示する概略図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る波の潜時とISIとの典型的な機能的関係を図示するグラフである。
【図4】本発明の一実施形態に係る波の振幅とISIとの典型的な機能的関係を図示するグラフである。
【図5】本発明の一実施形態に係る回復シーケンスを生成する方法を図示する全体フロー図である
【図6A】本発明の一実施形態に係る単極回復シーケンスにおける振幅と時間の関係を図示するグラフである。
【図6B】本発明の他の実施形態に係る双極回復シーケンスにおける振幅と時間の関係を図示するグラフである。
【図7】本発明の一実施形態に係る電気生理学的な信号と回復信号を使用してABR信号を測定する方法を図示する全体フロー図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る帯域幅を0から5kHzに制限するフィルタを用いた場合の音の大きさと周波数との関係を図示したグラフである。
【図9】本発明の一実施形態に係る帯域幅を0から1kHzに制限するくし形フィルタを用いた場合の音の大きさと周波数との関係を図示したグラフである。
【図10】本発明の一実施形態に係る非線形再構成に分類される方法を使用した場合と、従来技術における線形再構成に分類される方法を使用した場合と、所望の反応の場合との間で、MISIを6ミリ秒にセットした場合の振幅と時間の関係を比較したグラフである。
【図11】図10に類似の、本発明の一実施形態に係る非線形再構成に分類される方法を使用した場合と、従来技術における線形再構成に分類される方法を使用した場合と、所望の反応の場合との間で、MISIを12ミリ秒にセットした場合の振幅と時間の関係を比較したグラフである。
【図12】本発明の一実施形態に係る聴性脳幹反応を取得する方法を要約した全体フロー図である。
【図13】成人の被験者のABR再構成に対する本発明の一実施形態の有効性を示す図である。
【図14】新生児の被験者のABR再構成に対する本発明の一実施形態の有効性を示す図である。
【図15】図14とは異なる状況下における新生児の被験者のABR再構成に対する本発明の一実施形態の有効性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の実施形態は、主に聴性脳幹反応を取得するための方法のステップに属するものである。したがって、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者にとって、過度に詳細に説明をし過ぎて不明瞭とならないよう、本発明の実施形態を理解するために必要な部分についてのみ詳細を示し、その他の部分については簡単な概略を示す。これにより、本発明の内容が本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者にとって明白となる。
【0036】
この明細書において、第1と第2、左と右、などの形容詞は、単に1つの要素または動きと他の要素または動きとを区別するだけのために用いられ、必ずその関係や順序となることを要求したり示したりするものではない。「含む(comprise)」や「含む(include)」といった語句は非独占的な包含を定義するもので、明細書で言及された要素のリストから成るプロセス、方法、項目または装置が、それらの要素を含むというだけでなく、そのようなプロセス、方法、論文または装置に固有の要素をも含んでもよい。
【0037】
上記のように、従来のMLS再構成アルゴリズムは、MLS自体とともにMLSによって引き起こされる反応との相互相関に基づく。MLSは、自己相関が単位インパルスであるように定義され、それによりこのプロセスは効果的にシステムのインパルス反応を測定し、それは理想としては取得したABRに帰結する。しかしながら、この再構成プロセスは、ほぼ線形で時間不変であるシステムにおいて発生する反応についてのみ、最適である。現実には、ABRの振幅と潜時はISIによって大きく変化するので、そうした場合に従来の線形再構成アルゴリズムは最適とはいえない。
【0038】
本発明の一実施形態によれば、ISIの変化による反応の潜時と振幅の変化を補償する回復信号が、生成される。本発明の目的の一側面は、ABR波形を得るための方法の改善にあり、本発明はA-ABR装置をTEOAE装置と同程度早くかつ容易に動作させることを可能にし、しかも精度は、従来のA-ABR装置に等しいか、優れている。本発明の一実施形態における詳しい説明においては、説明を明確にするため、特定の値が特定の自由パラメータのために指定される。本明細書により、他のパラメータ設定を本発明の特許請求の範囲内で選択し、利用することができることを、当業者は理解できるだろう。しかしながら、本発明の一実施形態の説明は、以下の特定のパラメータ設定に基づく。
【0039】
アナログ−デジタル(A2D)コンバータ及びデジタル−アナログ(D2A)コンバータのサンプリング周波数(Fs)はいずれも40kHzにセットされる。これは、25マイクロ秒のサンプリング間隔(Ts=1/Fs)に関する。先行技術で知られていているように、同じ周波数でD2AとA2Dを実行する必要はないが、一方の周波数が他方の周波数の整数倍数であれば、本発明の実施が容易であり、しばしば望ましい。
【0040】
MLSのオーダー(O)は説明のため4にセットする。実際には、オーダー6のMLSが使用されそうである。オーダー4は、長さL=2ΛO−1=15の双極MLSシーケンスを生成する。これは、8つの1(クリック)と7つの0(沈黙)から成る単極MLSに帰結する。この開示において、我々はすべてのものの初期化シーケンスから発生する「反復可能な」シーケンスを利用する。
【0041】
刺激パルス幅(Pw)は100マイクロ秒(μs)にセットされるが、これは選ばれたD2Aの周波数における、4つのサンプル周期に関連する。
【0042】
最小刺激間間隔(MISI)は、6ミリ秒(ms)にセットされる。
【0043】
データ収集の間、ディファレンシャルモード生体アンプは、ゲイン=100000、ハイパスフィルタの遮断周波数=100Hz、ローパスフィルタの遮断周波数=5kHz、AC Coupled、50Hzの信号成分を除去するノッチフィルタ、の設定で利用される。
【0044】
図1は、本発明の一実施形態に係るMLSの振幅と時間の関係を図示するグラフである。M系列は、伝達関数及び/または線形システムにおけるインパルス反応の測定のため、先行技術において広く使われた。その技術の本質はアナログバージョンのMLSをシステムに適用してテストをすることあり、生じた反応をサンプリングし、その反応をオリジナルのMLSやそれに由来するシーケンスと相互相関させることにある。
【0045】
先行技術で知られているように、MLSはシフトレジスタを使用して容易に生成することができる。まず、両極性のMLSは、次のように生成できる。
【0046】
{−1;−1;−1;−1;1;1;1;−1;1;1;−1;−1;1;−1;1}
【0047】
それから、数式1に従い単極シーケンスに変わる。
【0048】
y=−0.5(x−1) ・・・(数式1)
【0049】
そして、次のシーケンスに帰結する。
【0050】
{1;1;1;1;0;0;0;1;0;0;1;1;0;1;0}
【0051】
次に、シーケンスの各刺激(1)と沈黙(0)は、必要な刺激パルス幅に挿入されなければならない。刺激パルス幅(Npw)のために必要なサンプル数は、数式2により計算される。
【0052】
Npw=round(Pw/Ts)=4 ・・・(数式2)
【0053】
round()は、最も近い整数に丸めた概数を示す。
【0054】
次に、6ミリ秒の最小刺激間間隔(MISI)達成のためにシーケンス内に挿入しなければならない追加のゼロサンプル(Nz)の数を数式3により計算する。
【0055】
Nz=floor(MISI×FS÷Npw)=60 ・・・(数式3)
【0056】
floor()は、2番目に小さい整数に丸めた概数を示す。
【0057】
次に、59(Nz−1)個のゼロサンプルをシーケンス内の各オリジナルサンプルの間に挿入し、この新しいシーケンスの各サンプルを3回(Npw−1)繰り返す、という修正をシーケンスに行う。この方法においては、全長Lsが3600サンプル(Ls=L×Npw×Nz)であるか、この場合は90ミリ秒の完全刺激シーケンスが作成される。このシーケンスは次のシーケンスインデックスで1を持つ。そして、他のインデックスでは全てのサンプルはゼロである。
【0058】
{237〜240;477〜480;717〜720;957〜960;1917〜1920;2637〜2640;2877〜2880;3357〜3360}
【0059】
次に、ミリ秒におけるシーケンスの長さが、測定されると予想される反応の長さ(ABRの場合、典型的にはTresp=15ミリ秒)より長いかをチェックする必要がある。長くない場合には、MLSの命令を増加させるか、MISIを増加させるか、Pwを増加させるかのいずれか又はその組み合わせにより対応する。
【0060】
本発明は、先行技術により公知の従来のA−ABRハードウェア装置を使用して実施することができる。本発明の方法の実施に使用される標準的なハードウェア設定、例えば電極のモンタージュ、フィルタ設定、刺激率、アンプのゲイン、解像度、マスキング刺激といったものについては、当業者が本発明を実施できるように、標準的な先行技術のテキストにおいて知ることができる。
【0061】
上記の方法で生成された刺激シーケンスは被験者の耳への聴覚刺激として提示される。例えば、シーケンスはまず所要のサンプリングレートでサンプル間を中継してD2Aコンバータに送信される。次に、このアナログに変換された信号は、アンプと被験者の耳に接続されたトランスデューサに送信される。トランスデューサは、例えば、従来のヘッドホン、イヤホン(insert−phone)または使い捨ての耳カプラでよい。
【0062】
アンプとトランスデューサの組合せは、正常な聴力レベルと関連して指定された音圧レベルの刺激を提示するのに、好適である。従来は、刺激強度をあらかじめ約35dBnHLに設定し、1回、閾値検出取得を行っていた。しかし、テストを35dBnHLの上下の様々な刺激強度において行えば、被験者の聴覚閾値のより正確で信頼のできる測定ができる。本発明の実施形態によれば、刺激は最大N=3000まで被験者の耳に複数回提示され、シーケンスの提示が終わるとすぐに、シーケンスの最初から刺激が繰り返し周期的に提示される。
【0063】
被験者の耳に提示された刺激に反応して、電気生理学的信号が被験者から検出される。例えば、表面電極で測定される電圧は、高いゲイン、低ノイズで、生体アンプを通じて取得され、その後指定されたサンプリングレートにおいてA2Dコンバータでサンプリングされる。生体アンプは、アクティブなディファレンシャルアンプで、参照入力及び共通(接地)入力でそれぞれ、被験者の頭頂部(Cz付近)、首筋、及び肩と接続されたものでもよい。もっとも、同側の乳様突起や、耳たぶの表や裏といった他のモンタージュでもよい。
【0064】
図2は、本発明の一実施形態に係る周期的刺激バッファと反応マトリクスのシーケンス行を保存する反応バッファとを図示する概略図である。各刺激提示への反応を取得すると、それらはA2Dコンバータから中継され、N行とLs列からなる反応マトリクスのシーケンス行により保存される。
【0065】
回復シーケンスは、上記の刺激シーケンスから以下のように発生する。中心刺激サンプルに隣接したサンプルで、ゼロ以外のものは全てゼロにセットされる。中心刺激サンプルの位置(Pc)は、Pc=ceil(Pw/2)によりパルス幅から算出される。Ceil()は、2番目に大きな整数に丸めたものを表す。この結果として、次の8つのシーケンスインデックスにおいて、シーケンスが1を有する。
【0066】
{239;479;719;959;1919;2639;2879;3359}
【0067】
刺激間間隔の平均(AISI)は、シーケンスの長さ(Ls=3600)とサンプリング周波数(Fs)に基づき、数式4のように計算される。
【0068】
AISI=(Ls−1)÷Fs=11.247ミリ秒 ・・・(数式4)
【0069】
AISIは、最小の刺激間間隔の2倍に近い値(2×MISI)であってもよい。
【0070】
次に、初期のABR波(通常V波、しばしば閾値付近で唯一識別可能な波形のピーク)の平均潜時と平均振幅は、ISIから直接予測される波の潜時(Tv)と振幅(Av)といった既知の機能的関係から、次の数式5のように算出される。
【0071】
Tv=WaveAmp(ISI)+Av=WaveLate(ISI) ・・・(数式5)
【0072】
図3は、本発明の一実施形態に係る波の潜時とISIとの典型的な機能的関係を図示するグラフである。
【0073】
図4は、本発明の一実施形態に係る波の振幅とISIとの典型的な機能的関係を図示するグラフである。
【0074】
図3及び図4で図示した機能的関係は、実験データから予測できる。すなわち、テストしたい被験者(例えば、新生児)と同程度の年齢で聴力が良好である被験者群(10人以上)について、V波の潜時と振幅を測定すればよい。この測定は、所望の範囲の刺激振幅(概して、20から50dBnHL)及び周期的刺激間間隔(概して、約50ミリ秒から少なくとも10ミリ秒まで)においてなされる。数学関数がそれから各刺激間間隔で測定した振幅と潜時に適用される。この関係における数学関数は、例えば、線形関数、区分的線形関数、多項関数、指数関数、対数関数、あるいはその組み合わせでありうる。このタイプのデータ(最小二乗法において典型の)へ適した関数についての様々な方法が先行技術において公知であり、従ってそれらの方法から関数を用いるのに最良の係数の組み合わせを採用できる。このように、刺激間間隔において予測される波の潜時と振幅の計測値、計測値間、あるいは計測値より推定した計測値を超えた値(例えば、周期性刺激のMISIが10ミリ秒以下であれば、これより大きなレートで示すことができない)に適した関数が使用されてもよい。
【0075】
関数関係は、次の計算を行うのに用いられる。
【0076】
平均刺激間間隔(AISI)におけるV振幅の期待値をAvAmp、潜時の期待値をAvLateと表す。
【0077】
シーケンスにおいてそれに続く刺激との間隔(ミリ秒)が、計算される。第1刺激のための間隔は、そのシーケンスの最後の刺激から循環的に算出する。シーケンス内の各刺激のために、この計算においては、シーケンス内における直前の刺激が提示されてから経過した時間を計算し、結果は以下のようになる。これらはMISIの整数倍数であることに注意しなければならない。
【0078】
{12;6;6;6;24;18;6;12}
【0079】
振幅の期待値(ExAmp)と潜時の期待値(ExLate)は次のように、それぞれシーケンス内の個々の刺激に適合するものが算出される。
【0080】
ExAmpは、{7.841;7.894;7.894;7.894;7.647;7.763;7.894;7.841}
【0081】
ExLateは、{0.909;0.699;0.699;0.699;0.992;0.973;0.699;0.909}
【0082】
回復シーケンスにおける各刺激のインデックスは次の数式6のように修正される。
【0083】
DeltaOffset=round((Exlate−AvLate)/Ts) ・・・(数式6)
【0084】
回復シーケンスにおける各刺激の振幅は次の数式7のように修正される。
【0085】
Amp=(1+(ExAmp/AvAmp))/2 ・・・(数式7)
【0086】
図5は、本発明の一実施形態に係る上記の回復シーケンスを生成する方法500を図示する全体フロー図であるステップ505において、MLSはPw=1で生成される。ステップ510において、AISIが算出される。ステップ515において、平均振幅と平均潜時が算出される。ステップ520において、MLS内の刺激が選択される。ステップ525において、選択された刺激の直前の刺激からISIが算出される。ステップ530において、振幅及び潜時の期待値が算出される。ステップ535において、MLSの刺激オフセットは、上記の数6に基づいて変動する。ステップ540において、刺激の振幅は、上記の数7に基づいて修正される。ステップ545で、最後の刺激が処理されたかどうかが判断される。処理されていない場合、ステップ550で、次の刺激が選択され、方法500はそれからステップ525に戻る。最後の刺激が処理されると、方法500が終了する。
【0087】
図6Aは、本発明の一実施形態に係る上記の計算より生ずる単極回復シーケンスにおける振幅と時間の関係を図示するグラフである。
このシーケンスは、以下のインデックスにおいてゼロ以外の値を有する。
【0088】
{239;481;721;961;1911;2636;2881;3359}
【0089】
これらのインデックスにおいては、以下の値を有する。
【0090】
{1.008;0.891;0.891;0.891;1.054;1.044;0.891;1.008}
【0091】
また、図6Bのように双極回復シーケンスの生成も可能であり、−1がセットされた次のように追加サンプルを有する。
【0092】
{1199;1439;1679;2159;2399;3119;3599}
【0093】
先行技術におけるMLS再構成の方法においては、行列反転を利用して、単極MLSが刺激シーケンスとして使用され、双極MLSが回復シーケンスとして使用されている。
【0094】
図7は、本発明の一実施形態に係る電気生理学的な信号と上記の回復シーケンスで生成された回復信号を使用してABR信号を測定する方法700を図示する全体フロー図である。方法700は次のように進められる。ステップ705で、第1の反応(行)が、反応マトリクスから削除される。検査システムがまだ完全には初期化されないため、第1の反応は汚染されているためである。ステップ710で、方法700は反応マトリクスの次の行へ移る。ステップ715で、人工産物検出が、次の行に対して行われる。ステップ720で、人工産物が検出されたかどうか、判断される。検出された場合は、ステップ725で、現在の行が削除される。現在の行が削除されたあと、あるいは、人工産物が検出されない場合には、ステップ730で、反応マトリクスの最後の行が処理されたかどうかを判断する。最後の行が処理されていない場合には、方法700はステップ710へと循環する。
【0095】
本発明の一実施形態によれば、筋原性の人工産物検出は、反応データを200kHzのハイパスフィルタでフィルタリングし、その結果として生じた信号がプリセットされた閾値より大きい場合に検出するという方法により行われる。この閾値を上回るときには、その反応は反応マトリクスから削除される。主要な高周波の筋肉の人工産物を検出する多くの技術が、先行技術により公知である。また、周囲の音響及び/または電磁気のノイズにより汚染された反応を検出し削除する方法は、先行技術において公知である。
【0096】
ステップ730によって反応マトリクスの最後の行に到達したとき、方法700はステップ735に移り、アンサンブル平均反応が算出される。すなわち、長さLsが3600サンプル(90ミリ秒)である1つの平均反応を生成するために、各サンプルは反応マトリクスの列の下で平均化される。ステップ740において、反応データを取得するのに使われた生体アンプの帯域幅が、回復した反応の帯域幅の期待値(ABRにおいては、一般的に最小30〜100Hzから最大1〜1.5kHz)よりも大きいかを判断する。もし大きければ、ステップ745においてローパスフィルタまたはバンドパスフィルタがアンサンブル平均反応に適用される。本発明の一実施形態によれば、パークス・マクレラン最適FIR等リップルフィルタ設計法が、パスバンド端Fpa=1.4、ストップバンド端Fst=1.68kHzのローパスフィルタの設計に使用される。このフィルタを適用する際には、反射境界拡張ポリシー(reflection boundary extension policy)が使えるが、他のポリシーも先行技術において公知である。
【0097】
ステップ745においてフィルタが適用された後、あるいは生体アンプの帯域幅が回復反応の帯域幅の期待値よりも小さい場合、ステップ750においてくし形フィルタを適用するかどうかについての判断がなされる。必要なMISIを達成するために回復シーケンスに挿入される必要のあるサンプルの数は、Npw×Nzか、上記の初期の回復シーケンスにおいて近隣の刺激間の最小のサンプル数を使用するかで算出される。本発明の一実施形態によれば、くし形フィルタは、あらゆるFpkがFs/(Npw×Nz)=166.67Hzとなる減衰ノッチを有するとともに、20の線質係数(Q)で無限インパルス応答(IIR)を有するように設計されている。FpkがFpa未満であり、MISIがTresp未満である場合には、ステップ755においてくし形フィルタがアンサンブル平均反応に適用される。本発明の一実施形態によれば、くし形フィルタを適用する際には、反射境界拡張ポリシー(reflection boundary extension policy)が使えるが、他のポリシーも先行技術において公知である。アンサンブル平均反応(AvResp)と上記の回復シーケンス(RecMLS)の相互相関により、所望のABR反応はステップ760で回復される。本発明の一実施形態によれば、相互相関は周波数領域で乗算を利用してされる。
【0098】
それは、ifft(fft(fliplr(RecMLS)).×fft(AvResp))で表される。×は乗算を示し、fft()はデータベクトルの高速フーリエ変換を示し、ifft()は高速フーリエ変換の逆数を示し、fliplr()はデータベクトルの左右反転を示す。最後に、ステップ765で、刺激シーケンス内の刺激の数(本発明の一実施形態では、クリックの数は(L+1)/2=8である)により振幅を分割することにより、この回復された反応の振幅が計測される。
【0099】
図8は、本発明の一実施形態に係る帯域幅を0から5kHzに制限するフィルタを用いた場合の音の大きさと周波数との関係を図示したグラフである。
【0100】
図9は、本発明の一実施形態に係る帯域幅を0から1kHzに制限するくし形フィルタを用いた場合の音の大きさと周波数との関係を図示したグラフである。くし形フィルタはFs=40kHz、MISI=6、Q=20となるように設計されている。当業者であれば、本発明の上記の方法700のステップ745と755に関連したフィルタの混合反応で1つのフィルタを設計することができるということから、フィルタの設計手法を利用することができる。方法700では、フィルタはアンサンブル平均応答に適用されるが、フィルタが回復シーケンスに同様に適用できることは当業者にとって明らかである。
【0101】
図10は、本発明の一実施形態に係る非線形再構成に分類される方法を使用した場合と、従来技術における線形再構成に分類される方法を使用した場合と、所望の反応の場合との間での振幅と時間の関係についての比較であり、図10ではMISIは6ミリ秒にセットした。所望の反応と再構成された反応との二乗平均平方根(RMS)の違いは、線形反応では0.248であり、非線形反応では0.207である。
【0102】
図11は、図10に類似の、本発明の一実施形態に係る非線形再構成に分類される方法を使用した場合と、従来技術における線形再構成に分類される方法を使用した場合と、所望の反応の場合との間で、MISIを12ミリ秒にセットした場合の振幅と時間の関係を比較したグラフである。所望の反応と再構成された反応との二乗平均平方根(RMS)の違いは、線形反応では0.554であり、非線形反応では0.256である。
【0103】
本発明の他の実施形態によれば、線形システム由来で、従って従来の再構成アルゴリズムの性能を向上させるように見える反応を生成するために刺激シーケンスのISIを変化させることが可能である。しかし、従来のMLS回復シーケンスではあるが、上記の振幅修正を加えた回復シーケンスを用いることにより、再構成アルゴリズムの性能はさらに改善できる。したがって、以下の数式8で算出されるオフセットによって刺激シーケンス内の刺激インデックスを調整することにより、刺激生成を修正することができる。
【0104】
DeltaOffset=round((AvLate−ExLate)/Ts) ・・・(数式8)
【0105】
AvLateは反応波について所望の波潜時、すなわち検査が線形に行われている場合の反応の潜時である。従って、潜時の期待値が平均潜時よりも大きい(遅い)場合には刺激の提示時間をより速くし、潜時の期待値が平均潜時よりも小さい(速い)場合にはより遅くする。
【0106】
本発明の他の実施形態においては、従来のブロードバンドクリックとは別の聴覚刺激を代わりに使用することができる。例えば、先行技術においてはトーンバーストとノイズバーストを使用して聴性脳幹反応を取得したり、チャープ刺激のM系列を使用して中間潜時反応(MLR)を取得する。これらの場合には、回復シーケンス及び回復プロセスがここで述べる双極または単極のMLSとして残る。
【0107】
本発明の他の実施形態においては、同時に被験者の両耳からABR誘発電位を取得することにより、さらにABR取得時間を短縮することが可能である。この単純な技術は、先行技術にあり、そこでは同じMLSについて循環推移するバージョンがいずれの耳でも使用される。使用される循環推移は再構成された波形において約L/2の時間補正を取り入れ、左右の耳からの反応は分離できる。しかし、そこではシーケンスの長さは、検査されているシステムの予測される反応の長さ(Tresp)の少なくとも2倍でなければならず、したがって、上記の刺激生成プロセス終了後の最終チェックは修正されなければならない。また、同時に両耳から反応を得るために、上記の反応取得に関する垂直モンタージュのような中央電極モンタージュを使用することが便利なことは注意すべきである。
【0108】
図12は本発明の一実施形態に係る聴性脳幹反応を取得する方法1200を要約した全体フロー図である。ステップ1205で、可変的な刺激間間隔による複数の聴覚刺激が被験者の耳に提示される。ステップ1210で、電気生理学的信号が、聴覚刺激に反応した被験者から検出される。ステップ1215で、回復信号が聴覚刺激に基づき発生する。ここでは、回復信号の振幅と潜時は聴覚刺激の刺激間間隔に比例して修正される。最後に、ステップ1220で、聴性脳幹反応(ABR)信号は、電気生理学的な信号と回復信号を使用して判断される。
【0109】
本発明の有効性を示すため、本発明を使用した場合と従来技術を使用した場合のABR再構成とを何度も比較した。図13は、刺激強度を45dBnHLにした場合の成人の被験者のABR再構成を示す図である。反応データは100マイクロ秒のクリック刺激で平均刺激間間隔が7.52ミリ秒のものを取得した。本発明の再構成アルゴリズム(proposedとラベリングされたもの)は、従来の(線形の)再構成アルゴリズムと比較して、V波の測定されたピークと次のトラフの振幅の明らかな増加を示す。
【0110】
また、聴覚学者のために新生児におけるV波の存在を信頼性高く検知する場合の所要時間の比較がなされた。図14は刺激強度を60dBnHLにした場合で、新生児が被験者の場合のABR再構成における本発明の有効性を示す図である。反応データは、100マイクロ秒のクリック刺激で平均刺激間間隔が3.76ミリ秒のものを取得した。聴覚学者のために新生児におけるV波の存在を信頼性高く検知する場合の所要時間は、30.3ミリ秒固定の刺激間間隔で提示される右図の従来の周期性クリック刺激において40秒であったのと比べ、左図の本発明の実施形態に係る再構成アルゴリズムにおいては5秒であり、明らかに減少している。
【0111】
同様に、図15は35dBnHLの刺激強度での新生児の被験者のABR再構成に対する本発明の実施形態の有効性を示す。反応データは、100マイクロ秒のクリック刺激で1.035ミリ秒と3.76ミリ秒の平均刺激間間隔において取得された。聴覚学者のために新生児におけるV波の存在を信頼性高く検知する場合の所要時間は、30.3ミリ秒固定の刺激間間隔で提示される右図の従来の周期性クリック刺激において30秒であったのと比べ、左図の本発明の実施形態に係る再構成アルゴリズムにおいては8秒であり、明らかに減少している。
【0112】
本発明の他の実施形態においては、図3及び図4で示された関数関係を、V波以外のABR波で計測できる。これは、初期ABR波(I波、II波、III波)が人間よりも有意に大きい犬、馬などの動物の聴覚閾値の測定に有用である。加えて、図3及び図4で示されたISIと波振幅や波潜時との関係についても、例えばI波、III波、V波といった複数のABR波の測定結果を組み合わせて計測してもよい。これは、測定された波振幅と波潜時を割合で示す場合、すなわち、刺激間間隔を33ミリ秒といった共通の値において計測された全ての波の加重平均から波潜時と波振幅における全体的な変化を測定するというような場合に有用である。その他、各ABR波形の相対的潜時は、異なるISIから得られたABR波形の組み合わせ間での最大相互相関を生成する相対的遅延から算定される。そして、相対的な振幅は波形の二乗平均平方根(RMS)値から算定される
【0113】
本発明は、ABR波形の回復に適用されるときに、特に有用であるが、他にも本発明の適用に適した他の多くの関連した電気生理学的測定がある。特に、発明はMLRにつき、上記のBellらの方法と比較した場合に利点があり、TEOAEにつき、上記のThorntonの方法と比較した場合に利点がある。
【0114】
本発明は、視覚刺激への反応及び触覚刺激への反応といった聴覚刺激以外の刺激によって引き起こされた反応にも適用されうる。
例えば、網膜電図(ERG)のような視覚誘発電位、神経電図(ENG)のような感覚および運動神経誘発電位、反射の誘発筋電図(EMG)、聴性遅発反応(ALR)のような他の聴覚誘発電位、といった反応の取得を改善しうる。
【0115】
本発明は、従って、改善されたABRまたは他の生理反応の取得を可能にする。本発明の実施形態によれば、ABR波形を先行技術と比較してはるかに少ない時間で得られる。これにより、さまざまな方法でA−ABR装置の効果を改善することができる。例えば、本発明の実施形態によれば、先行技術を使用して場合に比べ、1つの刺激強度における検査時間をはるかに少なくし、被験者が落ち着きのない新生児であったり、大きなバックグラウンド・ノイズがあったりするような検査の実施が困難な状況における検査の成功率を向上させる。また、本発明の実施形態によれば、複数の刺激強度について先行技術におけるのと同程度の長さの検査時間で、先行技術よりも高い正確性と信頼性を有する検査を行うことができる。
【0116】
本発明のさまざまな実施形態に関する上記の説明は、当業者に対する説明のためにされたものであり、本発明の範囲はこれにより網羅されていたり限定されていたりするものではない。以上の説明により、本発明には上記に限られない他の修正や変更のされた多様な実施形態があることは、当業者にとって明らかである。したがって、いくつかの他の実施形態が特に論じられれば、他の実施形態は当業者にとって明瞭であるか、用意に明らかとなるだろう。それにより、本発明は多様な他の修正、変更された実施形態を含むことを意図している。そして、本発明の思想および領域に入る他の実施形態は本発明の範囲に含まれる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間および動物の刺激反応を取得する方法に関し、より詳細には、これに限られるものではないが、電気生理学的に記録した聴性脳幹反応を取得し再現する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
刺激に対する反応の取得は、医療検査の重要な側面である。刺激反応の取得は、視覚的、触覚的および聴覚的問題の診断に役立つ。中でも、難聴の早期発見は特に重要である。先進国においては、毎年約2万人の乳幼児が深刻な聴覚障害をもって生まれてくる。会話、言語および認識能力の正常な発達には、そうした障害の早期発見、早期治療が不可欠である。そこで、ほとんどの国では新生児期聴覚ユニバーサル・スクリーニング(UNHS)が実施されている。しかし、UNHSのランニングコストは多額であり、特に地方や遠隔地に住む人にとっては相当多額の費用を要する。UNHSのランニングコストが多額である原因には様々あるが、スクリーニングテスト時間と要再検率(referral rates)が2つの大きな要因である。
【0003】
新生児の聴覚スクリーニング方法としては、主に2種類の方法が使用される。1つは、自動聴性脳幹反応(A−ABR)で、もう1つは、誘発耳音響反射(TEOAE)である。A−ABRは、イヤホンと表面電極を使用して、聴覚閾値に近い音刺激を与え、脳幹反応を取得して、その反応がABR波形か、ランダムなバックグラウンド・ノイズであるかを判断する。
【0004】
典型的なABR波形では7つの正の波形のピークが、刺激後の最初の12〜15秒の間に見られる。これらの波形のピークは、新生児の第8脳神経、聴覚脳幹、視床および視床皮質系放射線から聴覚神経経路に沿った同期の神経活性に関連することが明らかとなっている。通常、ABRの波形のピークは潜時の順に、ローマ数字のIからVIIでラベリングされる。I波は典型的には約2秒で発生し、その後、約1秒間隔でII波からVII波が発生する。I波、III波およびV波は共に多くの臨床医らが簡単に識別でき、もっとも確実に測定される波形であり、通常人のデータとの比較により刺激のタイプ、強度、潜時、レート等を測定できる。
【0005】
TEOAE装置はイヤホンとマイクロホンを使用して、蝸牛の音声刺激に対する反応を測定し、反応が耳音響反射かランダムなバックグラウンド・ノイズであるかどうか決定する。A-ABR及びTEOAE装置は、脳幹(A-ABR)または蝸牛(TEOAE)からの反応の有無に基づきパス(pass)/要再検(refer)決定を行う。
【0006】
A−ABRの長所は、外耳、中耳、内耳(間接的に)と聴神経と脳幹(直接的に)の健全性を検査するということである。TEOAEは外耳および中耳(間接的に)と内耳(直接的に)の健全性のみを検査する。TEOAEの長所は、A−ABRと比べてより早く、安いコストで実施できることである。TEOAEの短所は、A−ABRと比べて誤警報の率が高く、それにより、A−ABRよりかなり高い要再検率(ほぼA−ABRの2倍)を引き起こすことである。この高い要再検率は、フォローアップにかかるコストをかなり増加させるとともに、親の不安を(しばしば不要に)かなり高める。
【0007】
A−ABRには、新生児聴力スクリーニング装置としての臨床使用を妨げる2つの重要な限界がある。
【0008】
まず第1に、ABR波形のデータ収集においては、外部の雑音と検査中の新生児の発する雑音による高レベルのノイズが干渉しやすい。従って、UNHSのために必要な閾値付近のABR波形のためのデータ収集時間は、概しておよそ5分である。さらにまた、落ち着きのない新生児であるといった、より良好でないデータ収集状況では、データ収集時間は20分になる。試験は時間を改めて行われることとなるが、それは親の不安を増すような望まぬ結果であり、新生児はテストされずに帰宅するという結果を生む。
【0009】
第2に、A−ABRでは、通常、反応の有無を閾値に近い刺激強度(一般的には35db nHL)において1度しか検査しない(この検査方法は、ABR波収集の時間の冗長さの帰結である)。聴力閾値以上及び聴力閾値以下の複数の刺激強度を利用してより徹底的で正確なABR検査を行うことはできるが、通常、そういった検査はひどく長い試験時間のため診断評価においてのみなされる。
【0010】
臨床解釈のために使用されるABR波形は、1000〜4000の刺激への平均応答波形であって、アンサンブル平均として知られている。アンサンブル平均が必要とされる理由は、刺激に対する反応の測定における信号対雑音比(S/N比、SNR)の小ささにある。S/N比が小さいのは、他の音響や電源の存在により測定される誘発電位が原因であり、それはノイズであるといえるが、以下のものが含まれる。(1)脳波により測定される、脳の進行中の神経活動。(2)目や頭の運動といった不随意筋の活動。(3)周辺にある電気機器や幹線接続による電磁干渉(例えば電源、照明とスイッチにより起こる)。(4)音響干渉(例えば周囲の騒音やバックグラウンド・ノイズ)。
【0011】
アンサンブル平均では、上記4つの異なる発信源からのノイズはゼロ平均で、聴覚刺激とは非同期化されると扱うため、筋肉の人工産物の可能性を除いては、ノイズを減らすのに有効である。アンサンブル平均では、ノイズはゼロ平均で刺激と非同期であるとして、単純に、信号は刺激により決まり、刺激と同期すると仮定するのである。実験により、これの仮定は通常、有効であることが確認されている。
【0012】
A−ABR装置で最も一般的に用いられる刺激は100マイクロ秒の正または負のインパルスであり、ブロードバンド「クリック(click)」刺激として知られているものである。聴覚脳幹に対して外耳が線形システムとしてふるまう場合(通常そのようなことはないが)、クリック刺激によりこのシステムのインパルス反応を直接測定できるだろう。しかしながら、インパルス、あるいは周期性インパルス列を使用することが、線形システムのインパルス反応を測定する最も効率的な方法ではないことはよく知られている。ホワイトノイズ、ステップ周波数またはチャープ信号といったブロードバンド刺激は、増加した信号電力がシステムに投入されることを可能にし、従って、出力においてSNRを増加させることを可能にする。この反応は、相互相関および/またはフーリエ解析を経た所要のインパルス反応に直接関連することがありえる。そのような刺激の1つは、疑似乱数インパルス列からなり、しばしばM系列(maximum length sequence、MLS)と呼ばれ、先行技術で提示されている。MLSの主な長所は、前のクリックへの反応が完全に消える前に、次のクリックが提示されるという効果があることである。これによりパルス繰り返し周波数の効率的な増加を可能にし、刺激間間隔(ISI)を減らし、従って、テスト時間を短縮させる。
【0013】
しかしながら、MLS刺激には様々な問題があるため、広く採用されてはいない。
【0014】
問題の1つは、MLSの不規則なISIは反応のばらつきを増加することであり、それにより、ABRは最適に再現されず、おそらくは品質を落とし、波形はしばしば標準をはずれた形態となる。
【0015】
問題の2つ目は、ISIの減少、すなわち刺激提示の頻度を高くさせることで、ABRの振幅が減少することである。刺激提示頻度を高くすることがABR振幅の減少を補わない場合、SNRは実際には悪化する。
【0016】
従来のMLS再構成アルゴリズムは、MLS自体とともにMLSによって引き起こされる反応との相互相関に基づく。MLSは、自己相関が単位インパルスであるように定義され、それによりこのプロセスは効果的にシステムのインパルス反応を測定し、それは理想としては取得したABRに帰結する。しかしながら、この再構成プロセスは、ほぼ線形で時間不変であるシステムにおいて発生する反応についてのみ、最適である。現実には、ABRの振幅と潜時はISIによって大きく変化するので、そうした場合に従来の線形再構成アルゴリズムは最適とはいえない。
【0017】
ABRの取得に対するMLSの利用は、EysholdtとSchreinerによる1982年の論文(Eysholt U. and Schreiner,C.H.R.(1982)Maximum length sequences − a fast method for measuring brain−stem−evoked potentials. Audiol,21,242−250.)において初出である。EysholdtとSchreinerによって解説されるABR復元の方法は、計算効率の良い行列反転の方法に基づく。しかし、この方法は線形で時間不変のシステムから取得したMLS信号の再構成に最適なだけである。この点については、反応の再構成がデータ取得として行われる従来の線形MLS再構成アルゴリズムにおけるメモリの効率的な実装について記載されているThorntonらの米国特許第5734827号についても参照するとよい。
【0018】
上記論文発表以後、従来の(線形の)MLS再構成技術は広範囲に使われているが、この方法の欠点を解決しようとする他の多くの再構成技術も提案されている。例えば、Van VeenとLaskyは、MLS再構成シーケンスの効率評価の枠組みについて「Van Veen B.D., Lasky R.E.(1994) A Framework for Assessing the Relative Efficiency of Stimulus Sequences in Evoked Response Measurements. J Acoust Soc Am 96(4),2235−2243.」において、論じている。彼らは、再構成されたABR波形の信号対雑音比(S/N比)を最大にする回復シーケンスを選択することができる方法を解説する。しかし、彼らのMLS反応の分析は、望ましいABRインパルス反応がシフトされ、スケールされた種類のものの和から成るMLS反応についてのみ行われており、それにより、ABRの潜時における潜在的な変化を無視している。
【0019】
従来のMLS取得と再構成技術を改善するより最近の試みとして、Jewettらは「Jewett D.L., Caplovitz G., Baird W., Trumpis M., Olson M.P. and Larson−Prior L.J.(2004)The use of QSD (Q−Sequence Deconvolution) to Recover Superposed, Transient Evoked−Responses, Clin. Neuro. 115(12), 2754−2775.」において、q−sequence解析(QSD)で、ABR潜時の変動を最小限にできるよう最小のISI変動(いわゆる「準周期的な」シーケンス)で刺激シーケンスを活用する方法につき論じている。しかし、このアプローチの主な限界として、このアプローチが通常はフーリエ領域の分割演算として実行される解析作業に依存するという点がある。周波数領域の分割は、フーリエ係数が1未満の場合には信号内のノイズを有意に増幅することはよく知られている。従って、彼らは、特定の予め指定された時間と周波数領域制約(1未満のフーリエ係数の除外を含む)を満たすq−シーケンスを捜し出すことを試行するという、計算コストが高い、反復的な処置を提案する。この方法では、条件に合ったq−シーケンスの存在が保証されない点に留意する必要があり、それ故、QSDによる方法は適用できる場面が限られている。
【0020】
MLR(中間潜時反応)に対するMLSの活用が、Bellらにより論じられている(Bell S.L., Allen, R and Lutman M.E.(2002) Optimizing the acquisition time of the middle latency response using maximum length sequences and chirps. J Acoust Soc Am 112(5), 2065−2073.)。Bellは、最小限のISIを250マイクロ秒から2.5ミリ秒の間で変化をさせて、それに関連して谷でピークに達する波の振幅と潜時を測定する方法を解説する。Bellは観察された波の潜時のうち、統計学的に意味がない小さな変化のみを報告するが、ISI振幅の非線形性は、刺激率が増加するとともに波振幅が有意に減少することにより明白である。TEOAEのMLSへの適用が、Thorntonにより米国特許5546956号で説明されている。この発明の実施形態において、被験者の耳道に挿入される聴覚プローブで測定される音声刺激につき記載している。このプローブは、マイクロホンから成り、音声刺激への反応が被験者の蝸牛から返ってきた際の音を探知し、関連する信号を増幅する。この研究において、最小限のISIは200マイクロ秒と25ミリ秒の間で変化し、ISIが減少するにつれて、関連のOAE反応の振幅ははっきりした減少を示す。しかし、OAEはそもそも神経学的な反応というよりは、中耳や内耳の機械的な反応であり、ISIが変わっても潜時の変化はわずかである。
【0021】
以上のように、生理反応を得るための方法には上記で述べた先行技術の多数の不利な点を克服するような改善の必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】Eysholt U. and Schreiner,C.H.R.(1982)Maximum length sequences − a fast method for measuring brain−stem−evoked potentials. Audiol,21,242−250.
【非特許文献2】Van Veen B.D., Lasky R.E.(1994) A Framework for Assessing the Relative Efficiency of Stimulus Sequences in Evoked Response Measurements. J Acoust Soc Am 96(4),2235−2243.
【非特許文献3】Jewett D.L., Caplovitz G., Baird W., Trumpis M., Olson M.P. and Larson−Prior L.J.(2004)The use of QSD (Q−Sequence Deconvolution) to Recover Superposed, Transient Evoked−Responses, Clin. Neuro. 115(12), 2754−2775.
【非特許文献4】Bell S.L., Allen, R and Lutman M.E.(2002) Optimizing the acquisition time of the middle latency response using maximum length sequences and chirps. J Acoust Soc Am 112(5), 2065−2073.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
従って、本発明の目的の1つは、聴性脳幹反応を取得するための方法についての上記の限界の1つ以上を克服するか、少なくとも軽減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
したがって、本発明の一実施形態による生理反応取得方法は、可変的な刺激間間隔で複数の刺激を被験者に示すステップと、被験者の刺激反応から電気生理学的信号を検出するステップと、刺激間間隔により振幅と潜時が修正される回復信号を刺激に基づき生成するステップと、電気生理学的信号と回復信号を使用して生理反応信号を取得するステップとを含んでいる。
【0025】
刺激は聴覚刺激であって生理反応は聴性脳幹反応(ABR)であるのが望ましい。
【0026】
1000以上の聴覚刺激が、被験者の耳に提示されてもよい。
【0027】
聴覚刺激は、ブロードバンドクリック、トーンバースト、ノイズバースト、チャープ刺激または他のタイプの刺激であってもよい。
【0028】
聴覚刺激に基づく回復信号の生成に、くし形フィルタを用いてもよい。
【0029】
本発明を、自動聴性脳幹反応(A−ABR)装置を使用して実施してもよい。
【0030】
本発明を、同時に1人の被験者の両耳に適用してもよい。
【0031】
被験者は人間の新生児であってもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明は、従って、改善されたABRの取得を可能にする。本発明の一実施形態では、さまざまな方法でA-ABR装置の有効性を改善している先行技術と比較して、ABR波形を有意に少ない時間で取得することができる。例えば、本発明の方法によれば、被験者が落ち着きのない新生児である場合や、大きなバックグラウンド・ノイズがあるようなスクリーニングが困難な環境においても、従来技術より試験が成功しやすく、1つの刺激強度につき従来技術よりも有意に少ない時間でテストできる。また、本発明の一実施形態によれば、複数の刺激強度につき、従来技術でかかるテスト時間と同程度の長さで、より正確性と信頼性の高いテストをすることができる。
【0033】
その他の本発明の特徴及び効果は、下記から明らかとなるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係るMLSの振幅と時間の関係を図示するグラフである。
【図2】本発明の一実施形態に係る周期的刺激バッファと反応マトリクスのシーケンス行を保存する反応バッファとを図示する概略図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る波の潜時とISIとの典型的な機能的関係を図示するグラフである。
【図4】本発明の一実施形態に係る波の振幅とISIとの典型的な機能的関係を図示するグラフである。
【図5】本発明の一実施形態に係る回復シーケンスを生成する方法を図示する全体フロー図である
【図6A】本発明の一実施形態に係る単極回復シーケンスにおける振幅と時間の関係を図示するグラフである。
【図6B】本発明の他の実施形態に係る双極回復シーケンスにおける振幅と時間の関係を図示するグラフである。
【図7】本発明の一実施形態に係る電気生理学的な信号と回復信号を使用してABR信号を測定する方法を図示する全体フロー図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る帯域幅を0から5kHzに制限するフィルタを用いた場合の音の大きさと周波数との関係を図示したグラフである。
【図9】本発明の一実施形態に係る帯域幅を0から1kHzに制限するくし形フィルタを用いた場合の音の大きさと周波数との関係を図示したグラフである。
【図10】本発明の一実施形態に係る非線形再構成に分類される方法を使用した場合と、従来技術における線形再構成に分類される方法を使用した場合と、所望の反応の場合との間で、MISIを6ミリ秒にセットした場合の振幅と時間の関係を比較したグラフである。
【図11】図10に類似の、本発明の一実施形態に係る非線形再構成に分類される方法を使用した場合と、従来技術における線形再構成に分類される方法を使用した場合と、所望の反応の場合との間で、MISIを12ミリ秒にセットした場合の振幅と時間の関係を比較したグラフである。
【図12】本発明の一実施形態に係る聴性脳幹反応を取得する方法を要約した全体フロー図である。
【図13】成人の被験者のABR再構成に対する本発明の一実施形態の有効性を示す図である。
【図14】新生児の被験者のABR再構成に対する本発明の一実施形態の有効性を示す図である。
【図15】図14とは異なる状況下における新生児の被験者のABR再構成に対する本発明の一実施形態の有効性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の実施形態は、主に聴性脳幹反応を取得するための方法のステップに属するものである。したがって、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者にとって、過度に詳細に説明をし過ぎて不明瞭とならないよう、本発明の実施形態を理解するために必要な部分についてのみ詳細を示し、その他の部分については簡単な概略を示す。これにより、本発明の内容が本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者にとって明白となる。
【0036】
この明細書において、第1と第2、左と右、などの形容詞は、単に1つの要素または動きと他の要素または動きとを区別するだけのために用いられ、必ずその関係や順序となることを要求したり示したりするものではない。「含む(comprise)」や「含む(include)」といった語句は非独占的な包含を定義するもので、明細書で言及された要素のリストから成るプロセス、方法、項目または装置が、それらの要素を含むというだけでなく、そのようなプロセス、方法、論文または装置に固有の要素をも含んでもよい。
【0037】
上記のように、従来のMLS再構成アルゴリズムは、MLS自体とともにMLSによって引き起こされる反応との相互相関に基づく。MLSは、自己相関が単位インパルスであるように定義され、それによりこのプロセスは効果的にシステムのインパルス反応を測定し、それは理想としては取得したABRに帰結する。しかしながら、この再構成プロセスは、ほぼ線形で時間不変であるシステムにおいて発生する反応についてのみ、最適である。現実には、ABRの振幅と潜時はISIによって大きく変化するので、そうした場合に従来の線形再構成アルゴリズムは最適とはいえない。
【0038】
本発明の一実施形態によれば、ISIの変化による反応の潜時と振幅の変化を補償する回復信号が、生成される。本発明の目的の一側面は、ABR波形を得るための方法の改善にあり、本発明はA-ABR装置をTEOAE装置と同程度早くかつ容易に動作させることを可能にし、しかも精度は、従来のA-ABR装置に等しいか、優れている。本発明の一実施形態における詳しい説明においては、説明を明確にするため、特定の値が特定の自由パラメータのために指定される。本明細書により、他のパラメータ設定を本発明の特許請求の範囲内で選択し、利用することができることを、当業者は理解できるだろう。しかしながら、本発明の一実施形態の説明は、以下の特定のパラメータ設定に基づく。
【0039】
アナログ−デジタル(A2D)コンバータ及びデジタル−アナログ(D2A)コンバータのサンプリング周波数(Fs)はいずれも40kHzにセットされる。これは、25マイクロ秒のサンプリング間隔(Ts=1/Fs)に関する。先行技術で知られていているように、同じ周波数でD2AとA2Dを実行する必要はないが、一方の周波数が他方の周波数の整数倍数であれば、本発明の実施が容易であり、しばしば望ましい。
【0040】
MLSのオーダー(O)は説明のため4にセットする。実際には、オーダー6のMLSが使用されそうである。オーダー4は、長さL=2ΛO−1=15の双極MLSシーケンスを生成する。これは、8つの1(クリック)と7つの0(沈黙)から成る単極MLSに帰結する。この開示において、我々はすべてのものの初期化シーケンスから発生する「反復可能な」シーケンスを利用する。
【0041】
刺激パルス幅(Pw)は100マイクロ秒(μs)にセットされるが、これは選ばれたD2Aの周波数における、4つのサンプル周期に関連する。
【0042】
最小刺激間間隔(MISI)は、6ミリ秒(ms)にセットされる。
【0043】
データ収集の間、ディファレンシャルモード生体アンプは、ゲイン=100000、ハイパスフィルタの遮断周波数=100Hz、ローパスフィルタの遮断周波数=5kHz、AC Coupled、50Hzの信号成分を除去するノッチフィルタ、の設定で利用される。
【0044】
図1は、本発明の一実施形態に係るMLSの振幅と時間の関係を図示するグラフである。M系列は、伝達関数及び/または線形システムにおけるインパルス反応の測定のため、先行技術において広く使われた。その技術の本質はアナログバージョンのMLSをシステムに適用してテストをすることあり、生じた反応をサンプリングし、その反応をオリジナルのMLSやそれに由来するシーケンスと相互相関させることにある。
【0045】
先行技術で知られているように、MLSはシフトレジスタを使用して容易に生成することができる。まず、両極性のMLSは、次のように生成できる。
【0046】
{−1;−1;−1;−1;1;1;1;−1;1;1;−1;−1;1;−1;1}
【0047】
それから、数式1に従い単極シーケンスに変わる。
【0048】
y=−0.5(x−1) ・・・(数式1)
【0049】
そして、次のシーケンスに帰結する。
【0050】
{1;1;1;1;0;0;0;1;0;0;1;1;0;1;0}
【0051】
次に、シーケンスの各刺激(1)と沈黙(0)は、必要な刺激パルス幅に挿入されなければならない。刺激パルス幅(Npw)のために必要なサンプル数は、数式2により計算される。
【0052】
Npw=round(Pw/Ts)=4 ・・・(数式2)
【0053】
round()は、最も近い整数に丸めた概数を示す。
【0054】
次に、6ミリ秒の最小刺激間間隔(MISI)達成のためにシーケンス内に挿入しなければならない追加のゼロサンプル(Nz)の数を数式3により計算する。
【0055】
Nz=floor(MISI×FS÷Npw)=60 ・・・(数式3)
【0056】
floor()は、2番目に小さい整数に丸めた概数を示す。
【0057】
次に、59(Nz−1)個のゼロサンプルをシーケンス内の各オリジナルサンプルの間に挿入し、この新しいシーケンスの各サンプルを3回(Npw−1)繰り返す、という修正をシーケンスに行う。この方法においては、全長Lsが3600サンプル(Ls=L×Npw×Nz)であるか、この場合は90ミリ秒の完全刺激シーケンスが作成される。このシーケンスは次のシーケンスインデックスで1を持つ。そして、他のインデックスでは全てのサンプルはゼロである。
【0058】
{237〜240;477〜480;717〜720;957〜960;1917〜1920;2637〜2640;2877〜2880;3357〜3360}
【0059】
次に、ミリ秒におけるシーケンスの長さが、測定されると予想される反応の長さ(ABRの場合、典型的にはTresp=15ミリ秒)より長いかをチェックする必要がある。長くない場合には、MLSの命令を増加させるか、MISIを増加させるか、Pwを増加させるかのいずれか又はその組み合わせにより対応する。
【0060】
本発明は、先行技術により公知の従来のA−ABRハードウェア装置を使用して実施することができる。本発明の方法の実施に使用される標準的なハードウェア設定、例えば電極のモンタージュ、フィルタ設定、刺激率、アンプのゲイン、解像度、マスキング刺激といったものについては、当業者が本発明を実施できるように、標準的な先行技術のテキストにおいて知ることができる。
【0061】
上記の方法で生成された刺激シーケンスは被験者の耳への聴覚刺激として提示される。例えば、シーケンスはまず所要のサンプリングレートでサンプル間を中継してD2Aコンバータに送信される。次に、このアナログに変換された信号は、アンプと被験者の耳に接続されたトランスデューサに送信される。トランスデューサは、例えば、従来のヘッドホン、イヤホン(insert−phone)または使い捨ての耳カプラでよい。
【0062】
アンプとトランスデューサの組合せは、正常な聴力レベルと関連して指定された音圧レベルの刺激を提示するのに、好適である。従来は、刺激強度をあらかじめ約35dBnHLに設定し、1回、閾値検出取得を行っていた。しかし、テストを35dBnHLの上下の様々な刺激強度において行えば、被験者の聴覚閾値のより正確で信頼のできる測定ができる。本発明の実施形態によれば、刺激は最大N=3000まで被験者の耳に複数回提示され、シーケンスの提示が終わるとすぐに、シーケンスの最初から刺激が繰り返し周期的に提示される。
【0063】
被験者の耳に提示された刺激に反応して、電気生理学的信号が被験者から検出される。例えば、表面電極で測定される電圧は、高いゲイン、低ノイズで、生体アンプを通じて取得され、その後指定されたサンプリングレートにおいてA2Dコンバータでサンプリングされる。生体アンプは、アクティブなディファレンシャルアンプで、参照入力及び共通(接地)入力でそれぞれ、被験者の頭頂部(Cz付近)、首筋、及び肩と接続されたものでもよい。もっとも、同側の乳様突起や、耳たぶの表や裏といった他のモンタージュでもよい。
【0064】
図2は、本発明の一実施形態に係る周期的刺激バッファと反応マトリクスのシーケンス行を保存する反応バッファとを図示する概略図である。各刺激提示への反応を取得すると、それらはA2Dコンバータから中継され、N行とLs列からなる反応マトリクスのシーケンス行により保存される。
【0065】
回復シーケンスは、上記の刺激シーケンスから以下のように発生する。中心刺激サンプルに隣接したサンプルで、ゼロ以外のものは全てゼロにセットされる。中心刺激サンプルの位置(Pc)は、Pc=ceil(Pw/2)によりパルス幅から算出される。Ceil()は、2番目に大きな整数に丸めたものを表す。この結果として、次の8つのシーケンスインデックスにおいて、シーケンスが1を有する。
【0066】
{239;479;719;959;1919;2639;2879;3359}
【0067】
刺激間間隔の平均(AISI)は、シーケンスの長さ(Ls=3600)とサンプリング周波数(Fs)に基づき、数式4のように計算される。
【0068】
AISI=(Ls−1)÷Fs=11.247ミリ秒 ・・・(数式4)
【0069】
AISIは、最小の刺激間間隔の2倍に近い値(2×MISI)であってもよい。
【0070】
次に、初期のABR波(通常V波、しばしば閾値付近で唯一識別可能な波形のピーク)の平均潜時と平均振幅は、ISIから直接予測される波の潜時(Tv)と振幅(Av)といった既知の機能的関係から、次の数式5のように算出される。
【0071】
Tv=WaveAmp(ISI)+Av=WaveLate(ISI) ・・・(数式5)
【0072】
図3は、本発明の一実施形態に係る波の潜時とISIとの典型的な機能的関係を図示するグラフである。
【0073】
図4は、本発明の一実施形態に係る波の振幅とISIとの典型的な機能的関係を図示するグラフである。
【0074】
図3及び図4で図示した機能的関係は、実験データから予測できる。すなわち、テストしたい被験者(例えば、新生児)と同程度の年齢で聴力が良好である被験者群(10人以上)について、V波の潜時と振幅を測定すればよい。この測定は、所望の範囲の刺激振幅(概して、20から50dBnHL)及び周期的刺激間間隔(概して、約50ミリ秒から少なくとも10ミリ秒まで)においてなされる。数学関数がそれから各刺激間間隔で測定した振幅と潜時に適用される。この関係における数学関数は、例えば、線形関数、区分的線形関数、多項関数、指数関数、対数関数、あるいはその組み合わせでありうる。このタイプのデータ(最小二乗法において典型の)へ適した関数についての様々な方法が先行技術において公知であり、従ってそれらの方法から関数を用いるのに最良の係数の組み合わせを採用できる。このように、刺激間間隔において予測される波の潜時と振幅の計測値、計測値間、あるいは計測値より推定した計測値を超えた値(例えば、周期性刺激のMISIが10ミリ秒以下であれば、これより大きなレートで示すことができない)に適した関数が使用されてもよい。
【0075】
関数関係は、次の計算を行うのに用いられる。
【0076】
平均刺激間間隔(AISI)におけるV振幅の期待値をAvAmp、潜時の期待値をAvLateと表す。
【0077】
シーケンスにおいてそれに続く刺激との間隔(ミリ秒)が、計算される。第1刺激のための間隔は、そのシーケンスの最後の刺激から循環的に算出する。シーケンス内の各刺激のために、この計算においては、シーケンス内における直前の刺激が提示されてから経過した時間を計算し、結果は以下のようになる。これらはMISIの整数倍数であることに注意しなければならない。
【0078】
{12;6;6;6;24;18;6;12}
【0079】
振幅の期待値(ExAmp)と潜時の期待値(ExLate)は次のように、それぞれシーケンス内の個々の刺激に適合するものが算出される。
【0080】
ExAmpは、{7.841;7.894;7.894;7.894;7.647;7.763;7.894;7.841}
【0081】
ExLateは、{0.909;0.699;0.699;0.699;0.992;0.973;0.699;0.909}
【0082】
回復シーケンスにおける各刺激のインデックスは次の数式6のように修正される。
【0083】
DeltaOffset=round((Exlate−AvLate)/Ts) ・・・(数式6)
【0084】
回復シーケンスにおける各刺激の振幅は次の数式7のように修正される。
【0085】
Amp=(1+(ExAmp/AvAmp))/2 ・・・(数式7)
【0086】
図5は、本発明の一実施形態に係る上記の回復シーケンスを生成する方法500を図示する全体フロー図であるステップ505において、MLSはPw=1で生成される。ステップ510において、AISIが算出される。ステップ515において、平均振幅と平均潜時が算出される。ステップ520において、MLS内の刺激が選択される。ステップ525において、選択された刺激の直前の刺激からISIが算出される。ステップ530において、振幅及び潜時の期待値が算出される。ステップ535において、MLSの刺激オフセットは、上記の数6に基づいて変動する。ステップ540において、刺激の振幅は、上記の数7に基づいて修正される。ステップ545で、最後の刺激が処理されたかどうかが判断される。処理されていない場合、ステップ550で、次の刺激が選択され、方法500はそれからステップ525に戻る。最後の刺激が処理されると、方法500が終了する。
【0087】
図6Aは、本発明の一実施形態に係る上記の計算より生ずる単極回復シーケンスにおける振幅と時間の関係を図示するグラフである。
このシーケンスは、以下のインデックスにおいてゼロ以外の値を有する。
【0088】
{239;481;721;961;1911;2636;2881;3359}
【0089】
これらのインデックスにおいては、以下の値を有する。
【0090】
{1.008;0.891;0.891;0.891;1.054;1.044;0.891;1.008}
【0091】
また、図6Bのように双極回復シーケンスの生成も可能であり、−1がセットされた次のように追加サンプルを有する。
【0092】
{1199;1439;1679;2159;2399;3119;3599}
【0093】
先行技術におけるMLS再構成の方法においては、行列反転を利用して、単極MLSが刺激シーケンスとして使用され、双極MLSが回復シーケンスとして使用されている。
【0094】
図7は、本発明の一実施形態に係る電気生理学的な信号と上記の回復シーケンスで生成された回復信号を使用してABR信号を測定する方法700を図示する全体フロー図である。方法700は次のように進められる。ステップ705で、第1の反応(行)が、反応マトリクスから削除される。検査システムがまだ完全には初期化されないため、第1の反応は汚染されているためである。ステップ710で、方法700は反応マトリクスの次の行へ移る。ステップ715で、人工産物検出が、次の行に対して行われる。ステップ720で、人工産物が検出されたかどうか、判断される。検出された場合は、ステップ725で、現在の行が削除される。現在の行が削除されたあと、あるいは、人工産物が検出されない場合には、ステップ730で、反応マトリクスの最後の行が処理されたかどうかを判断する。最後の行が処理されていない場合には、方法700はステップ710へと循環する。
【0095】
本発明の一実施形態によれば、筋原性の人工産物検出は、反応データを200kHzのハイパスフィルタでフィルタリングし、その結果として生じた信号がプリセットされた閾値より大きい場合に検出するという方法により行われる。この閾値を上回るときには、その反応は反応マトリクスから削除される。主要な高周波の筋肉の人工産物を検出する多くの技術が、先行技術により公知である。また、周囲の音響及び/または電磁気のノイズにより汚染された反応を検出し削除する方法は、先行技術において公知である。
【0096】
ステップ730によって反応マトリクスの最後の行に到達したとき、方法700はステップ735に移り、アンサンブル平均反応が算出される。すなわち、長さLsが3600サンプル(90ミリ秒)である1つの平均反応を生成するために、各サンプルは反応マトリクスの列の下で平均化される。ステップ740において、反応データを取得するのに使われた生体アンプの帯域幅が、回復した反応の帯域幅の期待値(ABRにおいては、一般的に最小30〜100Hzから最大1〜1.5kHz)よりも大きいかを判断する。もし大きければ、ステップ745においてローパスフィルタまたはバンドパスフィルタがアンサンブル平均反応に適用される。本発明の一実施形態によれば、パークス・マクレラン最適FIR等リップルフィルタ設計法が、パスバンド端Fpa=1.4、ストップバンド端Fst=1.68kHzのローパスフィルタの設計に使用される。このフィルタを適用する際には、反射境界拡張ポリシー(reflection boundary extension policy)が使えるが、他のポリシーも先行技術において公知である。
【0097】
ステップ745においてフィルタが適用された後、あるいは生体アンプの帯域幅が回復反応の帯域幅の期待値よりも小さい場合、ステップ750においてくし形フィルタを適用するかどうかについての判断がなされる。必要なMISIを達成するために回復シーケンスに挿入される必要のあるサンプルの数は、Npw×Nzか、上記の初期の回復シーケンスにおいて近隣の刺激間の最小のサンプル数を使用するかで算出される。本発明の一実施形態によれば、くし形フィルタは、あらゆるFpkがFs/(Npw×Nz)=166.67Hzとなる減衰ノッチを有するとともに、20の線質係数(Q)で無限インパルス応答(IIR)を有するように設計されている。FpkがFpa未満であり、MISIがTresp未満である場合には、ステップ755においてくし形フィルタがアンサンブル平均反応に適用される。本発明の一実施形態によれば、くし形フィルタを適用する際には、反射境界拡張ポリシー(reflection boundary extension policy)が使えるが、他のポリシーも先行技術において公知である。アンサンブル平均反応(AvResp)と上記の回復シーケンス(RecMLS)の相互相関により、所望のABR反応はステップ760で回復される。本発明の一実施形態によれば、相互相関は周波数領域で乗算を利用してされる。
【0098】
それは、ifft(fft(fliplr(RecMLS)).×fft(AvResp))で表される。×は乗算を示し、fft()はデータベクトルの高速フーリエ変換を示し、ifft()は高速フーリエ変換の逆数を示し、fliplr()はデータベクトルの左右反転を示す。最後に、ステップ765で、刺激シーケンス内の刺激の数(本発明の一実施形態では、クリックの数は(L+1)/2=8である)により振幅を分割することにより、この回復された反応の振幅が計測される。
【0099】
図8は、本発明の一実施形態に係る帯域幅を0から5kHzに制限するフィルタを用いた場合の音の大きさと周波数との関係を図示したグラフである。
【0100】
図9は、本発明の一実施形態に係る帯域幅を0から1kHzに制限するくし形フィルタを用いた場合の音の大きさと周波数との関係を図示したグラフである。くし形フィルタはFs=40kHz、MISI=6、Q=20となるように設計されている。当業者であれば、本発明の上記の方法700のステップ745と755に関連したフィルタの混合反応で1つのフィルタを設計することができるということから、フィルタの設計手法を利用することができる。方法700では、フィルタはアンサンブル平均応答に適用されるが、フィルタが回復シーケンスに同様に適用できることは当業者にとって明らかである。
【0101】
図10は、本発明の一実施形態に係る非線形再構成に分類される方法を使用した場合と、従来技術における線形再構成に分類される方法を使用した場合と、所望の反応の場合との間での振幅と時間の関係についての比較であり、図10ではMISIは6ミリ秒にセットした。所望の反応と再構成された反応との二乗平均平方根(RMS)の違いは、線形反応では0.248であり、非線形反応では0.207である。
【0102】
図11は、図10に類似の、本発明の一実施形態に係る非線形再構成に分類される方法を使用した場合と、従来技術における線形再構成に分類される方法を使用した場合と、所望の反応の場合との間で、MISIを12ミリ秒にセットした場合の振幅と時間の関係を比較したグラフである。所望の反応と再構成された反応との二乗平均平方根(RMS)の違いは、線形反応では0.554であり、非線形反応では0.256である。
【0103】
本発明の他の実施形態によれば、線形システム由来で、従って従来の再構成アルゴリズムの性能を向上させるように見える反応を生成するために刺激シーケンスのISIを変化させることが可能である。しかし、従来のMLS回復シーケンスではあるが、上記の振幅修正を加えた回復シーケンスを用いることにより、再構成アルゴリズムの性能はさらに改善できる。したがって、以下の数式8で算出されるオフセットによって刺激シーケンス内の刺激インデックスを調整することにより、刺激生成を修正することができる。
【0104】
DeltaOffset=round((AvLate−ExLate)/Ts) ・・・(数式8)
【0105】
AvLateは反応波について所望の波潜時、すなわち検査が線形に行われている場合の反応の潜時である。従って、潜時の期待値が平均潜時よりも大きい(遅い)場合には刺激の提示時間をより速くし、潜時の期待値が平均潜時よりも小さい(速い)場合にはより遅くする。
【0106】
本発明の他の実施形態においては、従来のブロードバンドクリックとは別の聴覚刺激を代わりに使用することができる。例えば、先行技術においてはトーンバーストとノイズバーストを使用して聴性脳幹反応を取得したり、チャープ刺激のM系列を使用して中間潜時反応(MLR)を取得する。これらの場合には、回復シーケンス及び回復プロセスがここで述べる双極または単極のMLSとして残る。
【0107】
本発明の他の実施形態においては、同時に被験者の両耳からABR誘発電位を取得することにより、さらにABR取得時間を短縮することが可能である。この単純な技術は、先行技術にあり、そこでは同じMLSについて循環推移するバージョンがいずれの耳でも使用される。使用される循環推移は再構成された波形において約L/2の時間補正を取り入れ、左右の耳からの反応は分離できる。しかし、そこではシーケンスの長さは、検査されているシステムの予測される反応の長さ(Tresp)の少なくとも2倍でなければならず、したがって、上記の刺激生成プロセス終了後の最終チェックは修正されなければならない。また、同時に両耳から反応を得るために、上記の反応取得に関する垂直モンタージュのような中央電極モンタージュを使用することが便利なことは注意すべきである。
【0108】
図12は本発明の一実施形態に係る聴性脳幹反応を取得する方法1200を要約した全体フロー図である。ステップ1205で、可変的な刺激間間隔による複数の聴覚刺激が被験者の耳に提示される。ステップ1210で、電気生理学的信号が、聴覚刺激に反応した被験者から検出される。ステップ1215で、回復信号が聴覚刺激に基づき発生する。ここでは、回復信号の振幅と潜時は聴覚刺激の刺激間間隔に比例して修正される。最後に、ステップ1220で、聴性脳幹反応(ABR)信号は、電気生理学的な信号と回復信号を使用して判断される。
【0109】
本発明の有効性を示すため、本発明を使用した場合と従来技術を使用した場合のABR再構成とを何度も比較した。図13は、刺激強度を45dBnHLにした場合の成人の被験者のABR再構成を示す図である。反応データは100マイクロ秒のクリック刺激で平均刺激間間隔が7.52ミリ秒のものを取得した。本発明の再構成アルゴリズム(proposedとラベリングされたもの)は、従来の(線形の)再構成アルゴリズムと比較して、V波の測定されたピークと次のトラフの振幅の明らかな増加を示す。
【0110】
また、聴覚学者のために新生児におけるV波の存在を信頼性高く検知する場合の所要時間の比較がなされた。図14は刺激強度を60dBnHLにした場合で、新生児が被験者の場合のABR再構成における本発明の有効性を示す図である。反応データは、100マイクロ秒のクリック刺激で平均刺激間間隔が3.76ミリ秒のものを取得した。聴覚学者のために新生児におけるV波の存在を信頼性高く検知する場合の所要時間は、30.3ミリ秒固定の刺激間間隔で提示される右図の従来の周期性クリック刺激において40秒であったのと比べ、左図の本発明の実施形態に係る再構成アルゴリズムにおいては5秒であり、明らかに減少している。
【0111】
同様に、図15は35dBnHLの刺激強度での新生児の被験者のABR再構成に対する本発明の実施形態の有効性を示す。反応データは、100マイクロ秒のクリック刺激で1.035ミリ秒と3.76ミリ秒の平均刺激間間隔において取得された。聴覚学者のために新生児におけるV波の存在を信頼性高く検知する場合の所要時間は、30.3ミリ秒固定の刺激間間隔で提示される右図の従来の周期性クリック刺激において30秒であったのと比べ、左図の本発明の実施形態に係る再構成アルゴリズムにおいては8秒であり、明らかに減少している。
【0112】
本発明の他の実施形態においては、図3及び図4で示された関数関係を、V波以外のABR波で計測できる。これは、初期ABR波(I波、II波、III波)が人間よりも有意に大きい犬、馬などの動物の聴覚閾値の測定に有用である。加えて、図3及び図4で示されたISIと波振幅や波潜時との関係についても、例えばI波、III波、V波といった複数のABR波の測定結果を組み合わせて計測してもよい。これは、測定された波振幅と波潜時を割合で示す場合、すなわち、刺激間間隔を33ミリ秒といった共通の値において計測された全ての波の加重平均から波潜時と波振幅における全体的な変化を測定するというような場合に有用である。その他、各ABR波形の相対的潜時は、異なるISIから得られたABR波形の組み合わせ間での最大相互相関を生成する相対的遅延から算定される。そして、相対的な振幅は波形の二乗平均平方根(RMS)値から算定される
【0113】
本発明は、ABR波形の回復に適用されるときに、特に有用であるが、他にも本発明の適用に適した他の多くの関連した電気生理学的測定がある。特に、発明はMLRにつき、上記のBellらの方法と比較した場合に利点があり、TEOAEにつき、上記のThorntonの方法と比較した場合に利点がある。
【0114】
本発明は、視覚刺激への反応及び触覚刺激への反応といった聴覚刺激以外の刺激によって引き起こされた反応にも適用されうる。
例えば、網膜電図(ERG)のような視覚誘発電位、神経電図(ENG)のような感覚および運動神経誘発電位、反射の誘発筋電図(EMG)、聴性遅発反応(ALR)のような他の聴覚誘発電位、といった反応の取得を改善しうる。
【0115】
本発明は、従って、改善されたABRまたは他の生理反応の取得を可能にする。本発明の実施形態によれば、ABR波形を先行技術と比較してはるかに少ない時間で得られる。これにより、さまざまな方法でA−ABR装置の効果を改善することができる。例えば、本発明の実施形態によれば、先行技術を使用して場合に比べ、1つの刺激強度における検査時間をはるかに少なくし、被験者が落ち着きのない新生児であったり、大きなバックグラウンド・ノイズがあったりするような検査の実施が困難な状況における検査の成功率を向上させる。また、本発明の実施形態によれば、複数の刺激強度について先行技術におけるのと同程度の長さの検査時間で、先行技術よりも高い正確性と信頼性を有する検査を行うことができる。
【0116】
本発明のさまざまな実施形態に関する上記の説明は、当業者に対する説明のためにされたものであり、本発明の範囲はこれにより網羅されていたり限定されていたりするものではない。以上の説明により、本発明には上記に限られない他の修正や変更のされた多様な実施形態があることは、当業者にとって明らかである。したがって、いくつかの他の実施形態が特に論じられれば、他の実施形態は当業者にとって明瞭であるか、用意に明らかとなるだろう。それにより、本発明は多様な他の修正、変更された実施形態を含むことを意図している。そして、本発明の思想および領域に入る他の実施形態は本発明の範囲に含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理反応を取得する方法であって、可変的な刺激間間隔で複数の刺激を被験者に示すステップと、
前記被験者の刺激反応から電気生理学的信号を検出するステップと、
前記刺激間間隔により振幅と潜時が修正される回復信号を前記刺激に基づき生成するステップと、
前記電気生理学的信号と前記回復信号を使用して生理反応信号を取得するステップと
からなることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、前記刺激が循環的に提示されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法であって、前記複数の刺激として、1000以上の聴覚刺激が前記被験者の耳に提示されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法であって、前記刺激が聴覚刺激であって、前記生理反応が聴性脳幹反応(ABR)であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法であって、前記刺激が聴覚刺激であって、前記聴覚刺激がブロードバンドクリック、トーンバースト、ノイズバースト、チャープ刺激のいずれかであることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法であって、前記複数の刺激がM系列であって前記M系列の長さが前記電気生理学的信号の期待値よりも長いことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法であって、くし形フィルタを適用された前記聴覚刺激に基づき前記回復信号を生成することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1記載の方法であって、前記回復信号を生成するステップが単極回復シーケンスを生成することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1記載の方法であって、前記回復信号を生成するステップが双極回復シーケンスを生成することを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1記載の方法であって、前記回復信号を生成するステップはさらに、既知の生理反応による統制群との機能的関係を参照して振幅と潜時を決定するステップを含んでいることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1記載の方法であって、前記生理反応信号を判断するステップはさらに、人工産物により汚染された信号を取り除くために前記人工産物を検出するステップを含んでいることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1記載の方法であって、前記生理反応信号を判断するステップはさらに、信号のアンサンブル平均を算出するステップを含んでいることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法であって、さらに、前記生理反応を取得するための前記回復信号のアンサンブル平均を相互相関させるステップを含んでいることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1記載の方法であって、該方法が同時に前記被験者の両耳に適用されることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14記載の方法であって、前記複数の刺激がM系列であって前記M系列の長さが前記電気生理学的信号の長さの期待値の2倍以上であることを特徴とする方法
【請求項16】
請求項1記載の方法であって、前記被験者が人間の新生児であることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1記載の方法であって、自動聴性脳幹反応(A−ABR)装置を使用して実施されることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項1記載の方法であって、前記複数の刺激が視覚刺激であることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項18記載の方法であって、前記電気生理学的信号が網膜電図として検出されることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項1記載の方法であって、前記複数の刺激が触覚刺激であることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項20記載の方法であって、前記電気生理学的信号が反射の誘発筋電図として検出されることを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項1記載の方法であって、さらに検出された前記電気生理学的信号から線形システムの信号をシミュレートできるように前記刺激間間隔を調整するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項22記載の方法であって、前記回復信号の振幅と潜時とが未修正であることを特徴とする方法。
【請求項24】
生理反応を取得する方法であって、可変的な前記刺激間間隔で前記複数の刺激を被験者に示すステップと、
検出された電気生理学的信号から線形システムの信号をシミュレートできるように前記刺激間間隔を調整するステップと、
前記電気生理学的信号を前記被験者の刺激反応から検出するステップと、
前記刺激に基づき回復信号を生成するステップと、
前記電気生理学的信号と前記回復信号を使用して生理反応信号を取得するステップと
からなることを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項24記載の方法であって、前記回復信号と前記電気生理学的信号とを相互相関させて生理反応信号を判断することを特徴とする方法。
【請求項26】
生理反応を取得する方法であって、可変的な前記刺激間間隔で前記複数の刺激を被験者に示すステップと、
電気生理学的信号を前記被験者の刺激反応から検出するステップと、
前記刺激に基づき回復信号を生成するステップと、
前記電気生理学的信号と前記回復信号を使用して生理反応信号を取得するステップと
からなることを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項26記載の方法であって、さらに前記複数の刺激の刺激間間隔により前記回復信号の振幅と潜時とを修正するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項26記載の方法であって、さらに検出された前記電気生理学的信号から線形システムの信号をシミュレートできるように前記複数の刺激の刺激間間隔を調整するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項1】
生理反応を取得する方法であって、可変的な刺激間間隔で複数の刺激を被験者に示すステップと、
前記被験者の刺激反応から電気生理学的信号を検出するステップと、
前記刺激間間隔により振幅と潜時が修正される回復信号を前記刺激に基づき生成するステップと、
前記電気生理学的信号と前記回復信号を使用して生理反応信号を取得するステップと
からなることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、前記刺激が循環的に提示されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法であって、前記複数の刺激として、1000以上の聴覚刺激が前記被験者の耳に提示されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法であって、前記刺激が聴覚刺激であって、前記生理反応が聴性脳幹反応(ABR)であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法であって、前記刺激が聴覚刺激であって、前記聴覚刺激がブロードバンドクリック、トーンバースト、ノイズバースト、チャープ刺激のいずれかであることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法であって、前記複数の刺激がM系列であって前記M系列の長さが前記電気生理学的信号の期待値よりも長いことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法であって、くし形フィルタを適用された前記聴覚刺激に基づき前記回復信号を生成することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1記載の方法であって、前記回復信号を生成するステップが単極回復シーケンスを生成することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1記載の方法であって、前記回復信号を生成するステップが双極回復シーケンスを生成することを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1記載の方法であって、前記回復信号を生成するステップはさらに、既知の生理反応による統制群との機能的関係を参照して振幅と潜時を決定するステップを含んでいることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1記載の方法であって、前記生理反応信号を判断するステップはさらに、人工産物により汚染された信号を取り除くために前記人工産物を検出するステップを含んでいることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1記載の方法であって、前記生理反応信号を判断するステップはさらに、信号のアンサンブル平均を算出するステップを含んでいることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法であって、さらに、前記生理反応を取得するための前記回復信号のアンサンブル平均を相互相関させるステップを含んでいることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1記載の方法であって、該方法が同時に前記被験者の両耳に適用されることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14記載の方法であって、前記複数の刺激がM系列であって前記M系列の長さが前記電気生理学的信号の長さの期待値の2倍以上であることを特徴とする方法
【請求項16】
請求項1記載の方法であって、前記被験者が人間の新生児であることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1記載の方法であって、自動聴性脳幹反応(A−ABR)装置を使用して実施されることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項1記載の方法であって、前記複数の刺激が視覚刺激であることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項18記載の方法であって、前記電気生理学的信号が網膜電図として検出されることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項1記載の方法であって、前記複数の刺激が触覚刺激であることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項20記載の方法であって、前記電気生理学的信号が反射の誘発筋電図として検出されることを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項1記載の方法であって、さらに検出された前記電気生理学的信号から線形システムの信号をシミュレートできるように前記刺激間間隔を調整するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項22記載の方法であって、前記回復信号の振幅と潜時とが未修正であることを特徴とする方法。
【請求項24】
生理反応を取得する方法であって、可変的な前記刺激間間隔で前記複数の刺激を被験者に示すステップと、
検出された電気生理学的信号から線形システムの信号をシミュレートできるように前記刺激間間隔を調整するステップと、
前記電気生理学的信号を前記被験者の刺激反応から検出するステップと、
前記刺激に基づき回復信号を生成するステップと、
前記電気生理学的信号と前記回復信号を使用して生理反応信号を取得するステップと
からなることを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項24記載の方法であって、前記回復信号と前記電気生理学的信号とを相互相関させて生理反応信号を判断することを特徴とする方法。
【請求項26】
生理反応を取得する方法であって、可変的な前記刺激間間隔で前記複数の刺激を被験者に示すステップと、
電気生理学的信号を前記被験者の刺激反応から検出するステップと、
前記刺激に基づき回復信号を生成するステップと、
前記電気生理学的信号と前記回復信号を使用して生理反応信号を取得するステップと
からなることを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項26記載の方法であって、さらに前記複数の刺激の刺激間間隔により前記回復信号の振幅と潜時とを修正するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項26記載の方法であって、さらに検出された前記電気生理学的信号から線形システムの信号をシミュレートできるように前記複数の刺激の刺激間間隔を調整するステップを含むことを特徴とする方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2009−542379(P2009−542379A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−518685(P2009−518685)
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際出願番号】PCT/AU2007/000969
【国際公開番号】WO2008/006164
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(500020760)ザ・ユニバーシティ・オブ・クイーンズランド (20)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際出願番号】PCT/AU2007/000969
【国際公開番号】WO2008/006164
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(500020760)ザ・ユニバーシティ・オブ・クイーンズランド (20)
【Fターム(参考)】
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