説明

生産ライン管理システム

【課題】生産ラインの稼働状態を監視して、トラブルの発生を検知した場合に、生産ライン全体の進行に関する影響度を明確にして、関係先に通知する生産ライン管理システムを提供すること。
【解決手段】生産ラインを構成する複数の工程ユニットと、各工程ユニットの稼働状態を監視する手段と、いずれかの工程ユニットでトラブルが発生した場合に関係先に通知する手段と、を有する生産ライン管理システムであって、トラブルが発生した工程ユニット以外の他の工程ユニットへの影響度を、生産スケジュールに関する情報を入手することにより判断して、関係先に通知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生産ラインの稼働を円滑に行う管理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
製造工場の生産ラインは、投入された対象物に対して、各製造工程の各種の製造機械を用いて順次加工作業を行うものである。生産ラインの一般的な形態のタイプを分類すると、独立した各種の製造機械に不連続に対象物を流す分割タイプや、製造機械間を繋いで対象物を連続して流し、対象物を搬送するための搬送部や対象物を一時保管するための収納部や対象物の性能検査を行うための検査部などを適宜併せ持つ連続タイプや、上記分割タイプと連続タイプとを混合した形態の混合タイプがある。上記の生産ラインを構成する各製造機械や搬送部等の要素を総称して工程ユニットと呼べば、いずれのタイプの生産ラインであっても、複数の工程ユニットを適宜順序立てて並べた集合体とみなすことができ、生産ライン全体の進行管理のための手法を共有することができる。
【0003】
例えば、基板上に色分解のためのカラーフィルタをフォトリソグラフィー法により製造する生産ラインでは、着色顔料を含む感光性樹脂の塗布、乾燥、パターン露光、現像、の各工程の工程ユニットを少なくとも含む生産ラインを構成する。特定の工程ユニットにトラブルが発生した場合には、該当する工程ユニットに付随した表示灯の点滅や警報音等により異常を周辺に知らせることにより、生産ラインの近傍に待機して異常を認知したオペレータが、トラブルからの復旧を始めとして、随時必要な処置を行ってきた。
【0004】
上記生産ラインの量産化が進み、また長大なラインの運転が人員の効率的配置を伴って必要になると、オペレータが生産ラインから離れた場所にいる場合であっても、各工程ユニットのトラブル等の異常事態を含む稼働状態を速やかに把握する必要が高まってきた。また、工程管理者が生産ライン全体の稼働実績を簡単に把握する上でも、稼働状態の遠隔情報を蓄積データとして把握する必要が高まってきた。
【0005】
上記の要求に対して、特許文献1に示すように、生産ラインの稼働状態をネットワークを通じて監視し、故障や停止のトラブルが発生した際に、オペレータへの電子メールや工程管理者への管理用パソコンの表示画面を通して通知する管理システムが提案され、生産ラインの異常の早期発見と早急な復旧対策が可能となった。また、該提案は、部品切れの予告情報も含めた各種の管理情報を流すことができる管理システムであり、トラブルの影響を最小限に抑えることが可能である。
【0006】
一方、上記のようにオペレータや工程管理者等の関係者への稼働状態の通知が改善されても、工程ユニットの種類によっては、トラブルを発生した工程ユニットの前後の工程への影響度を、オペレータがその都度判断して、他の工程ユニットへの対応指示を行う必要もあった。例えば、フォトリソグラフィー法による前記カラーフィルタの製造ラインにおいて、現像機が意図せずに停止することがある。停止時間が長びくと、前工程でパターン露光を終えて待機する対象物が、長時間の現像待ち状態を余儀なくされることがあり、塗布された感光性材料の特性にも依存するが、露光後長時間経過した現像待ちの対象物が、露光・現像条件の正常状態での最適設定からずれることになり、現像後のパターン形状品質に悪影響を及ぼす可能性がある。従って、現像機のオペレータは、担当する現像機のトラブルからの復旧に努めると同時に、露光機のオペレータに対して、長時間の現像待ちに伴う不良品発生の可能性を的確に伝えて、生産ラインの進行状況により、露光機の運転を一旦停止する等の要請を行ったり判断を委ねたりすることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4219145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
生産ラインのネットワークを通じた監視と電子メール配信等により、管理システムを工夫して生産ラインの遠隔管理をスムーズに行うことが可能となったが、生産ラインの内容とトラブルの発生箇所によっては、前段で述べたような不都合が生じる。すなわち、トラブルを発生した工程ユニットとその前後の工程との関係により、最終的に品質上の影響が疑われる場合に、トラブル発生工程以外の進行に関しても、物理的可能性だけでなく、品質に関わる生産ライン全体の進行を考慮した複雑な判断を関係者に求める必要が生じ、システムとして的確な通知を保証できないため、安定した効率の良い生産を妨げることがある。
【0009】
本発明は、前記の問題点に鑑みて提案するものであり、本発明が解決しようとする課題は、生産ラインの稼働状態を監視して、トラブルの発生を検知した場合に、生産ライン全体の進行に関する影響度を明確にして、関係先に通知する生産ライン管理システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、生産ラインを構成する複数の工程ユニットと、各工程ユニットの稼働状態を監視する手段と、いずれかの工程ユニットでトラブルが発生した場合に関係先に通知する手段と、を有する生産ライン管理システムであって、トラブルが発生した工程ユニット以外の他の工程ユニットへの影響度を、生産スケジュールに関する情報を入手することにより判断して、関係先に通知するように構成されたことを特徴とする生産ライン管理システムである。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、前記生産スケジュールに関する情報が、生産スケジュール管理サーバに保管され、各工程ユニットへの生産対象物の投入時刻の予定および/または実績の情報を含むことを特徴とする請求項1に記載の生産ライン管理システムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、トラブルが発生した工程ユニット以外の他の工程ユニットへの影響度を、生産スケジュールに関する情報を入手することにより判断して、関係先に通知する生産ライン管理システムを提供するので、特定の工程ユニットでトラブルが発生した場合の生産ライン全体の進行に関する影響度を明確にでき、ロスを最小限に抑えて、効率の良い生産に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の生産ライン管理システムの構成を示すブロック図である。
【図2】従来の監視機構を含む生産ライン管理システムの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明におけるトラブル発生時の通知方法を示すフロー図である。
【図4】本発明における稼働監視サーバの働きを説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に従って、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明の生産ライン管理システムの構成を示すブロック図である。破線で囲む生
産ライン1のブロックには、工程ユニット(1)11、工程ユニット(2)12、・・・工程ユニット(n)1n、の複数の各要素を含む他、工程管理のためにオペレータが使用し通常はパソコンを利用したコンピュータ(A)1Aを含み、それらはLAN(Local Area Network)等の回線によるネットワーク4により各要素相互間および他のブロックと接続する。他の破線で囲む管理室2のブロックには、集計およびシステムの全体管理を行うために主に工程管理者が使用するコンピュータ(B)2Bを含み、3つ目の破線で囲むサーバ室3のブロックには、各工程ユニットの稼働状態を監視する稼働監視サーバ31と生産スケジュールに関する情報を保管する生産スケジュール管理サーバ32を含んで、それぞれ前記ネットワーク4により接続する。ネットワーク4は、LANに限定されず、公衆回線を含む各種回線を利用でき、接続された要素間で相互に通信可能な構成とする。
【0015】
図2は、従来の監視機構を含む生産ライン管理システムの構成を示すブロック図である。装置管理者は、監視サーバを通じて、生産ラインを管理する。各ブロック間を繋ぐ矢印は、ブロック間の以下のやり取りを表す。装置管理者から監視サーバに対して監視結果の閲覧要求とその結果に基く種々の要求を出し、監視結果の通知を監視サーバから受ける。また、監視サーバから生産ラインに対して監視を行うとともに装置管理者から託された種々の要求も生産ラインに伝えることができる一方、監視サーバは生産ラインから状況報告を受け取り、それを保存することができる。
【0016】
本発明は、上記従来の監視機構を含む生産ライン管理システムをさらに発展させたものであり、図1に示すように生産スケジュール管理サーバ32との情報のやり取りを援用したものである。本システムを働かせる状況を稼働監視サーバを主体としてさらに詳細に説明する。図4は、本発明における稼働監視サーバ31の働きを説明するためのブロック図である。
【0017】
稼働監視サーバ31はWebサーバと監視ソフトウェアとデータベースを含む。監視ソフトウェアが生産ライン1内の各工程ユニットの稼働状況を監視し、監視結果をデータベースに保存するとともに、必要に応じてコンピュータ(B)に通知できる。コンピュータ(B)がWebサーバに対して監視結果の閲覧要求を出すと、データベースに蓄積された監視結果がWebサーバにより参照されて、コンピュータ(B)上で監視結果を閲覧することができる。
【0018】
なお、前記工程ユニットの稼働状況の監視方法として、工程ユニットの稼働状況をそれぞれの工程ユニットを動かすための動力を直接検知することにより確認する方法が可能である他、剛体や流体の動きの結果を各種センサにより検知する方法、動きの映像をカメラで撮像して解析する方法など各種の方法が可能であり、限定されない。
【0019】
一方、監視ソフトウェアは、別に設けた生産スケジュール管理サーバ32と通信可能であり、生産スケジュールに関する種々の情報、例えば各工程ユニットへの生産対象物の投入時刻の予定および/または実績の情報を要求して引き出すことができる。後述するトラブル発生時のフローに従って、監視ソフトウェアにて生産スケジュールの確認と影響度判断をさせるとともに、工程ユニットの元の予定を変更した場合に修正された稼働実績を、生産スケジュール管理サーバ32に送って蓄積させることができる。
【0020】
図3は、本発明におけるトラブル発生時の通知方法を示すフロー図である。
稼働監視サーバ31は、生産ラインの稼働中は常時監視状態を維持するための信号を出し続け(S1)、各工程ユニット11、12、・・・1nのいずれかからのトラブル発生がないかどうかを繰り返しチェック(H1)する。いずれかの工程ユニットからトラブル発生を示唆する信号が検出された場合、関係先に通知する(S2)。この場合の関係先は、
後述の影響度判断を加えた後の通知先と同一である必要はないが、同一であっても良く、コンピュータ1A、2Bの画面への通知や関係者への電子メール、特定の工程ユニットの表示体等、生産ラインの事情に応じて適宜選択できる。
【0021】
次に、前述の監視ソフトウェアを通じて、生産スケジュール管理サーバ32と通信を行い、生産スケジュールに関する種々の情報、例えば各工程ユニットへの生産対象物の投入時刻の予定および/または実績の情報を要求して引き出すとともに、トラブルが発生した工程ユニットの工程に影響を与える可能性のある工程を流れる予定の対象物の投入予定に関して必要な情報を抽出する(S3)。
【0022】
次に、生産スケジュールに関する種々の情報から抽出した必要な情報に基いて、前記監視ソフトウェアがトラブルが発生した工程ユニットの関連工程の影響度を判断することができる(H2)。例えば、カラーフィルタをフォトリソグラフィー法により製造する生産ラインにおいて、現像工程の工程ユニットである現像機がトラブルにより停止した場合、前記分割タイプの生産ラインでは、現像工程を除く他の工程の工程ユニットは通常は初期の予定通り稼働し続ける。然るに、前述のように、パターン露光を終えて待機する対象物が長時間の現像待ち状態となることは、製品の品質を保つ上で悪影響を及ぼすので、避けるべきである。従って、現像工程に関連する露光工程の工程ユニットである露光機への対象物の投入が既に始まっていたり、予定が迫っている時には、現像機のトラブルによる影響を受ける内容を確認する(S4)とともに、工程名と製品ロット番号を関係先に通知する(S5)。
【0023】
前記H2、S4、S5の一連の判断および処理は、前記監視ソフトウェアに予め判断基準や処理基準となる事項を入力しておくことにより、監視ソフトウェアが主体となって行うことが可能であるが、これに限定されない。例えば、生産スケジュール管理サーバ32に稼働監視サーバ31から工程ユニットのトラブル情報を直接送出して、生産スケジュール管理サーバ32の中で前記H2、S4、S5の一連の判断および処理を行うことも可能である。
【0024】
なお、生産ラインのタイプが前記連続タイプである場合には、後の工程でトラブルが発生して該当する工程ユニットが停止すれば、前の工程を自動的にストップさせることが通常行われているため、一般的に本発明のシステムを用いなくても、上記のような品質不良を引き起こす製品を多く作ることは回避できる。とは言え、トラブルの影響内容を確認して通知する機能は実用的であり役立てることができる。
【0025】
図3において、トラブル発生がない場合はその回のチェック(H1)は終了し、適当なインターバルで再び稼働確認(S1)を行い、上記のフローを繰り返す。また、トラブル発生があっても、前後工程と関連して不良品質の原因になるようなケースではない工程ユニットの場合であったり、上記の例に挙げた現像工程のトラブルであっても、生産スケジュール確認(S3)の結果、関連する露光工程の工程ユニットである露光機への当面の投入スケジュールがない場合には、関連工程の影響度判断(H2)を否定的結果として、少なくとも先に通知した(S2)関係先には、無関係であることの通知(S6)を行う。
【0026】
以上、フロー図に基いて述べた本発明におけるトラブル発生時の通知方法により、関係先にトラブルの影響度を通知することができるが、通知の効力を発揮させるには、通知を受けた人やグループや工程ユニットが適切な行動を起こすことが不可欠である。すなわち、通知を受けた人が直接に特定の工程の動きを停止し、回復のタイミングを調べて再起動させるとか、通知を受けたグループの中の特定の人または複数の人が連携して上記と同様の行動をとるとか、通知信号を受けた工程ユニットが内部に組み込まれたプログラムに従って、その後の動きを自動的に制御したりするとか、また、人と工程ユニットとが分担して可能な動きをするとかが可能である。
【0027】
従って、本発明における関係先への通知とは、前述のコンピュータ画面への通知や関係者への電子メール、特定の工程ユニットの表示体等、により最終的に人への通知を行うことが主であるものの、前記工程ユニットの動作プログラムへの信号入力により自動制御することを想定したものとすることも可能である。
【符号の説明】
【0028】
1・・・生産ライン
2・・・管理室
3・・・サーバ室
4・・・ネットワーク
11・・・工程ユニット(1)
12・・・工程ユニット(2)
1n・・・工程ユニット(n)
1A・・・コンピュータ(A)
2B・・・コンピュータ(B)
31・・・稼働監視サーバ
32・・・生産スケジュール管理サーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生産ラインを構成する複数の工程ユニットと、各工程ユニットの稼働状態を監視する手段と、いずれかの工程ユニットでトラブルが発生した場合に関係先に通知する手段と、を有する生産ライン管理システムであって、トラブルが発生した工程ユニット以外の他の工程ユニットへの影響度を、生産スケジュールに関する情報を入手することにより判断して、関係先に通知するように構成されたことを特徴とする生産ライン管理システム。
【請求項2】
前記生産スケジュールに関する情報が、生産スケジュール管理サーバに保管され、各工程ユニットへの生産対象物の投入時刻の予定および/または実績の情報を含むことを特徴とする請求項1に記載の生産ライン管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−168848(P2012−168848A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30693(P2011−30693)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】