説明

生鮮品の機能保存装置および機能保存方法、並びに生鮮品

【課題】簡便な構成で生鮮品を安定した低温高湿度の環境に保存することのできる生鮮品の機能保存装置を提供する。
【解決手段】保冷庫11と、保冷庫11内に収容されて生鮮品を入れる不完全密閉の容器12と、容器12に無菌の清浄空気を送る清浄空気供給機13と、微酸性機能水の浮遊微粒子を連続または間欠に発生させて、清浄空気供給機から送り出された清浄空気を高湿度にする微粒子発生器14と、この高湿度の清浄空気中から大粒径の浮遊微粒子および凝縮水を除去する凝縮水分離器15と、この除去後の高湿度の清浄空気を各容器12に導入する接続配管16とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜、果実、茸類、花卉、種苗、海草、活魚介類、卵等の農林、園芸、水産、畜産関係の生鮮品などの呼吸を行う生物体を高品質貯蔵するための生鮮品の機能保存装置および機能保存方法並びに該保存装置または保存方法で保存された生鮮品に関する。
【背景技術】
【0002】
生鮮品の高品質貯蔵においては、生鮮品の貯蔵の終わりの状態を、できるだけはじめの状態と同じに維持することが求められる。このためには、生鮮品に対して、熱、水分、圧力、衝撃等による物理的変化を避けると共に、温度、湿度、ガス環境等による生化学的変化、細菌、酵母、カビなどによる微生物的変化をできるだけ少なくする必要があり、特に、貯蔵中の温度および湿度の管理および微生物への対処が重要になる。以下に、保存品質に関する温度と湿度と微生物との関係を簡単に説明する。
【0003】
<貯蔵温度と品質>
生鮮品を冷蔵または生鮮品の凍結点に近い低温で保存すると、呼吸や代謝による糖や有機酸の消費が抑えられ、室温で保存した場合に比べて鮮度が保たれ、品質がより長く維持できる。生鮮品は、一般的には−2〜18℃の温度帯で冷蔵されるが、多くの野菜は0〜2℃で、低温障害が出る野菜や果実等は2〜15℃で貯蔵する。生鮮品を低温で貯蔵するほどアレニウス式に従って、呼吸などの生化学反応による糖や有機酸、脂肪等の消費が抑制され、より長期間の保存が可能になり、理論的には5℃に比べ0℃では1.7倍程度長くなる。
【0004】
<貯蔵温度と微生物>
一般に、微生物の生育速度と温度の関係は、生育適温より低温側では緩やかな下り勾配の曲線となる。同じ属でも種によって著しく異なる場合が多いが、糸状菌類は20〜30℃、細菌類はこれより少し高い温度域が生育適温になる。低温で貯蔵した場合に、微生物の生育速度は減少するが、完全に停止するわけではなく、収穫時に感染していた菌類が、1℃の低温下であっても数ヵ月後にはカビとして発現してくることが果実類ではよく見られる。また、ナスやピーマンのような低温障害を受けやすい野菜では、7〜10℃以下で長期間貯蔵すると低温障害を受け、微生物の侵入を受けて腐敗しやすくなる。なお、有害微生物は5℃以下であれば、ほとんど増殖することはないとされている。
【0005】
<貯蔵湿度と水分蒸発>
野菜や果物等の生鮮品の品質は、みずみずしさや鮮度のよさが最も重要であり、一般的には貯蔵前の重量の95%以下にならないように水分蒸発を抑える必要がある。生鮮品からの水分蒸発を少なくするためには、貯蔵する生鮮品の周囲空気の温度を下げると共に、周囲空気の相対湿度を高くして貯蔵物表面との水蒸気圧差をできるだけ小さくする必要がある。なお、水分蒸発を抑えるためには生鮮品に当たる風速をできるだけ小さくすることも必要であるが、貯蔵物表面との水蒸気圧差が小さい場合は、風速の影響は比較的小さくなる。また、生鮮品の重量減少速度は種類によって大きく異なるが、表面の水分蒸散抵抗が小さいものほど周囲湿度の影響を受けやすく、重量減少が早くなる。
【0006】
<高湿度の害>
生鮮農産物の表面自由水(水分活性)と平衡する相対湿度は通常98%RH程度といわれており、高湿度貯蔵においてはこの湿度を超えないようにすることが重要である。湿度が98%を超えると、生鮮品が空気中の水分を吸収し、表面が膨潤することがある。
【0007】
<貯蔵湿度と微生物>
細菌の最低増殖湿度(水分活性)は90%RH、普通の酵母は88%RH、普通のカビは80%RHであり、湿度を高くすると微生物が生育しやすくなる。一般的には、貯蔵する生鮮品の表面からの水分蒸散抵抗ならびに細菌の増殖およびカビの発生のしやすさにより、生鮮品の種類ごと最適とされるに温度と相対湿度の組み合わせが知られている。
【0008】
以上を踏まえて、これまで生鮮品の品質を維持する場合、多くの野菜は0〜2℃、90〜95%RH、低温障害の出る野菜や果実は2〜15℃、85〜90%RHの温湿度で貯蔵していた。また、微生物への対処として、壁面冷却式の貯蔵庫内に負イオンとオゾンを含んだ空気を放出することや強酸性水または次亜塩素酸水を庫内や生鮮品に噴霧することなどが提案されている(たとえば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【0009】
【特許文献1】特開2004−298070号公報
【特許文献2】特開2000−220949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように生鮮品は細菌やカビの繁殖を抑えつつ低温高湿度で貯蔵することが好ましい。低温高湿度貯蔵には、庫内を高湿度に維持し易い壁面冷却式の貯蔵庫が使用されるが、壁面冷却式は熱移動の主体が放射冷却で行われるため、貯蔵物の放射冷却面側の温度が低下し、貯蔵生鮮品に温度ムラが生じやすく、凍結点近くの温度で保存する場合は放射冷却された面が凍結する問題がある。空気循環式の貯蔵庫の場合は、貯蔵庫内の冷却循環風量をできるだけ増やして、熱移動を伝熱および対流主体にすることにより、庫内の温度分布を小さくでき、部分的な凍結も防ぐことができるが、壁面冷却式に比べると保冷庫内の湿度が低下し易い。
【0011】
また、高湿度の環境では、僅かな温度変動により相対湿度が98%を超えて生鮮品の表面が膨潤したり、結露が生じて細菌やカビの繁殖が助長されたりしてしまう。このため、高湿度で保存するには厳しい温度管理が必要になるが、貯蔵庫の扉の開閉や温度制御のための冷凍機のオンオフ制御などの影響もあり、簡易な保存装置では温度管理に限界があり、装置が複雑化・大型化してしまうという問題があった。
【0012】
本発明は、上記の問題を解決しようとするものであり、簡便な構成で生鮮品を安定した低温高湿度の環境に保存することのできる生鮮品の機能保存装置および生鮮品の機能保存方法、並びに該装置または方法で保存された生鮮品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる目的を達成するための本発明の要旨とするところは、次の各項の発明に存する。
【0014】
[1]保冷庫と、
前記保冷庫内に収容されて生鮮品を入れる不完全密閉の容器と、
前記容器に無菌の清浄空気を送る清浄空気供給機と、
水の浮遊微粒子を連続または間欠に発生させて、前記清浄空気供給機から送り出された清浄空気を高湿度の清浄空気にする微粒子発生器と、
前記高湿度の清浄空気中から大粒径の浮遊微粒子および凝縮水を除去する凝縮水分離器と、
前記凝縮水分離器によって大粒径の浮遊微粒子および凝縮水を除去した後の高湿度の清浄空気を前記容器に導入する接続配管と
を備えた
ことを特徴とする生鮮品の機能保存装置。
【0015】
上記発明では、生鮮品を入れた不完全密閉の容器を保冷庫内で低温に維持すると共に、この容器に微細な水の浮遊微粒子を多量に含む高湿度かつ無菌の清浄空気を送り込む。生鮮品を容器に入れた上で保冷庫内に入れることで、容器内の温度の振れ幅が抑制される。また、容器は不完全密閉なので、容器内は、導入した低温高湿度の空気により換気され、密閉状態や低湿度になることなく、低温高湿度で新鮮な空気のある生鮮品の保存に適した環境に維持される。また、容器内は庫内に比べて温湿度の振れ幅が小さくなるので、高湿度条件下でも貯蔵物表面への結露の発生、すなわち表面自由水の発生を防止でき、従来の装置に比べて雑菌の増殖やカビの発生を抑制できる効果が高い。
【0016】
[2]前記容器内の温度の振れ幅が±1.0℃以内、相対湿度が90%RH以上98%RH以下である
ことを特徴とする[1]に記載の生鮮品の機能保存装置。
【0017】
上記発明では、高湿度でありながら、結露しない環境が提供される。
【0018】
[3]前記容器に導入する前記高湿度の清浄空気の供給流量が、前記容器の内容積に対する置換回数として0.1から10回/hrである
ことを特徴とする[1]または[2]に記載の生鮮品の機能保存装置。
【0019】
上記発明では、容器内は、適度に換気され、高湿度で新鮮な空気環境が維持される。
【0020】
[4]微粒子発生器は、粒径が0.5μm以下の微粒子を多量に含む浮遊微粒子を発生させる
ことを特徴とする[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の生鮮品の機能保存装置。
【0021】
粒径が0.5μm以下の微粒子は、相対湿度の値が飽和に近くても、浮遊粒子が物体表面に付着し難い。また、負電荷に帯電しているので殺菌効果が期待できる。
【0022】
[5]給水タンクに貯留されている水をポンプで前記微粒子発生器に送り込む
ことを特徴とする[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の生鮮品の機能保存装置。
【0023】
上記発明では、ポンプ注入するので、貯留タンクの取り付け位置が自由で、複数の微粒子発生器に、必要な量の微酸性機能水を自動的に補給することができる。
【0024】
[6]前記水は、微酸性機能水である
ことを特徴とする[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の生鮮品の機能保存装置。
【0025】
上記発明では、微酸性機能水を使用することで、安全でありながら高い殺菌効果を得ることができる。また、金属腐食も少ないので保存庫や密閉容器の材質選定が容易で、価格上昇も抑えることができる。
【0026】
[7]微粒子発生器で発生させる微酸性機能水の有効塩素濃度を切り替える
こと特徴とする[6]に記載の生鮮品の機能保存装置。
【0027】
上記発明では、微酸性機能水の有効塩素濃度を切り替えることにより、殺菌、静菌などの能力を変更することができる。
【0028】
[8]微粒子発生器で発生させる微粒子の粒子径または発生時間を切り替える
ことを特徴とする[1]乃至[7]のいずれか1つに記載の生鮮品の機能保存装置。
【0029】
上記発明では、微粒子発生器で発生させる微粒子の粒子径または発生時間を切り替えることにより、殺菌、静菌、鮮度保持、エチレン分解などの目的に応じた機能を実現できる。
【0030】
[9]前記容器は透光性を有する
ことを特徴とする[1]乃至[8]のいずれか1つに記載の生鮮品の機能保存装置。
【0031】
上記発明では、容器の内部を観察できると共に、光を当てて機能性を増大させることも可能になる。
【0032】
[10]前記容器の底面と側面の少なくとも一方に吸湿材を設けた
ことを特徴とする[1]乃至[9]のいずれか1つに記載の生鮮品の機能保存装置。
【0033】
上記発明では、余分な水分を吸収し、容器内の底面、側面に付着した水分に生鮮品が触れることによる湿害を防ぐことができる。
【0034】
[11]通気口を有する内壁を、前記容器の底面と側面の少なくとも一方の内側に該面との間に隙間を設けて配置した
ことを特徴とする[1]乃至[10]のいずれか1つに記載の生鮮品の機能保存装置。
【0035】
上記発明では、余分な水分を通気口から内壁の外へ逃がして、容器内の底面、側面に付着した水分に生鮮品が触れることによる湿害を防ぐことができる。
【0036】
[12]前記容器は、前記高湿度の清浄空気を上部から導入すると共に、下部または底部に排出口を有する
ことを特徴とする[1]乃至[11]のいずれか1つに記載の生鮮品の機能保存装置。
【0037】
上記発明では、浮遊粒子は容器内で次第に粒子径が大きくなって落下するので、容器の上部から高湿度の清浄空気を導入することによって、容器内での粒子の浮遊状態をより均一にすることができる。また、落下した水分は容器下部の排出口から排出される。
【0038】
[13]前記接続配管は前記容器に入る手前に水抜き口を有する
ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1つに記載の生鮮品の機能保存装置。
【0039】
上記発明では、接続配管内に溜まった水や粒子径の大きな浮遊微粒子が容器内に入らないようにしている。水抜き口は、たとえば、接続配管と容器との間にT字型またはY字型の継ぎ手を接続して構成される。
【0040】
[14]生鮮品を入れた不完全密閉の容器を低温環境に置くと共に、
前記容器に、微細な水の浮遊微粒子を多量に含む高湿度かつ無菌の清浄空気を送り込む
ことを特徴とする生鮮品の機能保存方法。
【0041】
上記発明では、低温高湿度かつ結露のない無菌の清浄空気に曝された好適な環境で生鮮品を保存することができる。
[15][1]乃至[13]のいずれか1つに記載の生鮮品の機能保存装置で保存された、もしくは請求項14に記載の生鮮品の機能保存方法で保存された生鮮品。
【0042】
上記発明では、該生鮮品は、保存前に比べて、ビタミンの増加など機能性が増大する。
【発明の効果】
【0043】
本発明に係る生鮮品の機能保存装置および生鮮品の機能保存方法によれば、簡便な装置または方法により生鮮品を低温高湿度で結露のない清浄な環境に保存することができ、生鮮品を保存当初の品質で長期間保持することができる。また、該装置または方法で保存された生鮮品は、脂溶性のビタミンEやβカロテンの含有量などの生鮮品としての機能性が増大する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
【0045】
図1は、本発明の実施の形態に係る生鮮品機能保存装置10の機能ブロック図であり、図2は生鮮品機能保存装置10の内部構成を示す部分断面図である。生鮮品機能保存装置10は、低温の維持される保冷庫11と、保冷庫11内に収容されて生鮮品を入れる不完全密閉の容器12と、容器12に無菌の清浄空気を送る清浄空気供給機13と、微酸性機能水の浮遊微粒子を連続または間欠に発生させて、清浄空気供給機13から送り出された清浄空気を高湿度の清浄空気にする微粒子発生器14と、高湿度の清浄空気中から大粒径の浮遊微粒子および凝縮水を除去する凝縮水分離器15と、凝縮水分離器15によって大粒径の浮遊微粒子および凝縮水が除去された後の高湿度の清浄空気を容器12に導入するための接続配管16と、微粒子発生器14に微酸性機能水を供給する微酸性機能水供給器17とを備えて構成される。なお、生鮮品機能保存装置10が貯蔵の対象とする生鮮品は、野菜、果実、茸類、花卉、種苗、海草、活魚介類、卵等の農林、園芸、水産、畜産関係の生鮮品、すなわち呼吸を行う生物体である。
【0046】
保冷庫11は、生鮮品の高品質保持のために必要な低温条件に庫内を維持する。保冷庫11は、二枚の金属板11aの間にウレタン発泡樹脂を充填した断熱壁に囲まれた扉付きの収納箱11bを備え、この収納箱11bの天井面に吹出口を設け、その上に空気循環式の冷蔵ユニット11cを設置したものである。保冷庫11は、吹出口前方の風向ガイド、壁面に通風ダクト、床面にスノコを備えて空気を循環させ、マイコン式温度コントローラで冷凍機をON/OFFさせることにより、庫内を0〜15℃±2.5℃、75〜95%RHの温湿度に保つことができる。
【0047】
なお、野菜保存用の高湿モード時には、冷蔵ユニットの冷却操作により除湿された水分を再蒸発させて高湿度を保つようになっている。
【0048】
また、この保冷庫11は自動ディフロスト機能を備えており、定期的に冷凍機を停止させて冷却器の温度を高くして冷却器に付いた霜を除去している。このために1日に数回、±2.5℃程度の庫内温度の変動が生じる。
【0049】
容器12は、密閉度は高いが完全密閉ではない不完全密閉の容器である。ここでは容器12として、着脱可能な蓋を上面に備えた段積み可能な樹脂製のコンテナ容器を使用している。図2に示すように、保冷庫11の中には容器12を複数個収容することができる。容器12には、タイプAとタイプBとがあり、タイプA(図2に示す例で保冷庫11内の右1列)の容器12の側面上部には、空気の導入口12aが、側面下部には排気口12bがそれぞれ設けてある。排出口12bは底面に設けられてもよい。タイプAの容器12は導入口12aおよび排出口12bを通じてわずかに空気が出入りするのみで、他の部分は密閉されている。タイプB(図2に示す例では保冷庫11内の左2列)の容器12は、排出口12bを特に備えておらず、蓋と本体とのわずかの隙間から排気されるようになっている。
【0050】
タイプA,B共に容器12は半透明の材料であるポリプロピレン樹脂で形成されており、外部から光が差し込んだときは容器12の外から内部の状況や貯蔵物を観察できるようになっている。また、容器12の外部から適宜、光を照射することにより、鮮度や機能性の維持または増進を図ることができる。さらに、タイプAの容器12では、底面と側面の少なくとも一方の内側に該面との間に隙間を設けて、通気口を有する内壁を配置してある。ここでは、容器の底部にスノコ12cを敷くことで、上記の構造を底面内側に実現している。排出口12bはスノコ12cより下方の底面近傍に設けられており、スノコ12cと底面との間に溜まった水が排出口12bから排出されるようになっている。
【0051】
タイプBの容器12では、底面と側面の少なくとも一方の内側に吸湿材を設け、該吸湿紙により生鮮品が直接は容器壁面に触れないようにし、また余剰の水分を吸収させている。なお、スノコ12cなどによる通気構造と吸湿材とを併用してもよい。
【0052】
容器12に無菌の清浄な新鮮空気を送る清浄空気供給機13は、濾過空気の清浄度が0.3μmの微粒子において99.97%以上であるメンブレンHEPAフィルタ13aとダイアフラム式のエアーポンプ13bとから構成される。
【0053】
微粒子発生器14は、貯蔵する生鮮品の清浄度および機能性の維持または増進に必要な微酸性機能水の微粒子を連続または間欠に発生させる機能を果たす装置であり、凝縮水分離器15と兼用することができ、ここでは、バブリング(気泡破裂)式の微粒子発生器を使用している。バブリング式の微粒子発生器14と兼用の凝縮水分離器15は、水道水等の原水に希塩酸を添加して電解した水素イオン濃度がpH5.6〜6.4、有効塩素濃度が10〜30ppmの微酸性機能水を入れた容器に空気を吹き込むことにより、気泡を発生させ、この気泡が壊れるときの水膜から微細水滴を発生する原理を使用したものである。浮遊微粒子の発生効率はそれほど高くないが、構造が簡単で安定している特長がある。
【0054】
微粒子発生器14の浮遊微粒子の発生原理はバブリング式に限定されるものではなく、ベンチュリー(霧吹き)式、スプレー(加圧噴霧)式、超音波式、遠心噴霧式、衝撃式などでもよい。
【0055】
微酸性機能水供給器17は、補給用ポリタンク17aとチューブ式の水ポンプ17bと供給配管17cとから構成され、微酸性機能水を微粒子発生器14に連続または間欠に注入する。チューブ式の水ポンプ17bは0.5気圧程度の吸引力を備えており、補給用ポリタンク17aの設置位置はこの吸引能力を超えない範囲で自由に決めることができる。また、1台の水ポンプ17bで複数の微粒子発生器14に微酸性機能水を供給するように構成されてもよい。上記に限らず、水ポンプ17bは設置箇所などに応じて必要な吸引能力を有するものを採用すればよい。
【0056】
なお、微酸性機能水を製造するユニットを装備し、水道水を原水として供給すれば、外部から微酸性機能水を供給しなくても現場で微酸性機能水を供給することが可能になる。微酸性機能水は光により分解するので補給用ポリタンク17aや供給配管17cは遮光するか光を通しにくい材料にするとよい。
【0057】
清浄空気供給機13、微粒子発生器14、微酸性機能水供給器17は保冷庫11bの断熱壁の外側に設置してあり、凝縮水分離器15およびその下流の接続配管16、容器12は保冷庫11bの内部に納められている。なお、微粒子発生器14を凝縮水分離器と兼用した場合には、微粒子発生器14の部分はT字型またはY字型のコネクタでも良く、また、微酸性機能水供給器を省略しても良い。
【0058】
凝縮水分離器15は、微粒子発生器14で発生させた微酸性機能水の浮遊粒子を多量に含む高湿度の空気から大きな浮遊微粒子(概ね粒径が1μm以上の粒子)や庫内への導入配管で冷却されて凝縮した微細水滴を除去する機能を果たす。凝縮水分離器15は、ステンレスメッシュのエレメントへの衝突や、急激な流線変更により大粒径微粒子を分離する原理を用いたものである。なお、サイクロンの原理を用いて浮遊微粒子を分級するものなどであってもよく、大粒径の浮遊微粒子や凝縮水を分離する原理は問わない。分離した水分はドレン溜めに貯留され、該ドレン溜めをオーバーフローした凝縮水は水封式トラップを介して外部に排出される。
【0059】
接続配管16は、高湿度の空気に含まれる大粒径の浮遊微粒子(概ね粒径が1μm以上の微粒子)や庫内への導入配管で冷却されて凝縮した微細水滴を凝縮水分離器15で除去した後の高湿度空気を各容器12に導入するための通路をなす。接続配管16は、複数の容器12に均等に空気を導入すると共に、接続配管16の途中で水溜りができて空気の流通が滞ることがないようにする必要がある。このため、保冷庫11の収納箱11bの天井部に水勾配をつけて取り付けた内径16mm程度の塩ビパイプに内径4mm程度の細いチューブを差し込み、各容器12に向かって下がり勾配で接続してある。容器12との接続には、配管用クランプを用いて抜けないように固定している。
【0060】
なお、図2に示すように、接続配管16(接続チューブ)が容器に入る直前に水抜き口としてのT字型またはY字型の継ぎ手16bを接続して、水分(接続チューブ内に溜まった水や粒子径の大きな浮遊微粒子)が容器内に入らないようにしている。分離した水分は細い穴や細いチューブ、または水分浸透性のある栓から排出する。
【0061】
次に、生鮮品機能保存装置10の動作および生鮮品の保存にかかわる作用を説明する。
【0062】
野菜などの生鮮品は、ほぼ密閉された不完全密閉の容器12内に収容され、この容器12は保冷庫11内にさらに収容される。保冷庫11は、設定温度に対して±2.5℃程度の温度範囲に庫内温度を維持する。容器12内には、清浄空気供給機13、微粒子発生器14、凝縮水分離器15によって生成された高湿度の空気が接続配管16を通じて、各容器12の内容積に対する置換回数として0.1から10回/hrとなる供給流量で送り込まれる。容器12内に導入される低温高湿度の空気は、無菌の清浄な新鮮空気であって、粒径が0.5μm以下の微酸性機能水の浮遊粒子を多量に含むと共に、凝縮水分離器15や接続配管16を通る際に大粒径の浮遊粒子や凝縮水は除去されている。
【0063】
このように保冷庫11内に収容されたほぼ密閉された不完全密閉の容器12内に生鮮品を入れると共に、この容器12内へ無菌かつ低温高湿度の清浄空気を導入するようにしたので、容器12内は、清浄かつ低温高湿度に安定に維持され、生鮮品を好適な環境で長期間保存することができる。具体的には、容器12内は、貯蔵する生鮮品の種類に応じて設定された低温度において、温度の振れ幅が±1.0℃以内、相対湿度が90%RH以上98%RH以下の環境に維持される。なお、温湿度は、貯蔵する生鮮品の種類に応じて設定される。なお、容器12内の湿度は、微粒子発生器14での浮遊粒子の発生量や清浄空気供給機13による容器12への供給流量などによって調整される。
【0064】
生鮮品機能保存装置10において容器12は次のような作用を果たす。すなわち、保冷庫11の中に容器12を収容することにより、容器12内の温湿度の振れ幅は、容器の外の庫内に比べて、小さく抑えられる。たとえば、この保冷庫11では、自動ディフロスト機能により、1日に数回、±2.5℃程度の庫内温度の変動があるが、容器12内の温度は約±1℃以内に抑えられる。また、保冷庫11の扉を開いたときには庫内の温度は大きく変動するが、そのような場合でも容器12内の温度の振れ幅は小さく抑えられる。
【0065】
このように扉の開閉などによって庫内の温度が変動した場合のほか庫外へ容器12を取り出した場合にも、容器12内の温度変化が少なく抑えられるので、生鮮品の表面への結露が防止される。また結露が防止されることにより、カビや細菌の繁殖も抑制され、清浄性の維持にも有効である。
【0066】
完全密閉の容器内に呼吸する生鮮品を入れると、時間経過とともに密封容器の内部が過飽和状態となり、細菌が発生しやすくなり、貯蔵品が腐敗しやすくなる。これに対し、生鮮品機能保存装置10では、密閉度は高いが完全密閉ではない不完全密閉の容器12内に、粒径の大きな微粒子を除去した0.5μm以下の浮遊微粒子を多量に含む飽和に近い高湿度の空気を導入しゆっくりと換気するようにしたので、生鮮品を入れた容器12内が過飽和状態になることもなく、また密閉度がやや悪い場合でも微粒子の水分蒸発により内部が低湿度になることは無く、97%程度の安定した低温高湿度が維持される。
【0067】
図3は、容器12内の温湿度のXY表示グラフ(気象学のクリモグラフと同様)を示す。このクリモ(温湿度のXY表示)グラフは、横軸を相対湿度(%RH)、縦軸を温度(℃)にして、温度湿度の12時間の変化をプロットしたものである。図中の「保冷庫+加湿(間欠)」のグラフは、保冷庫内に超音波加湿器を設置して、20分毎に2分間程度作動させたときの庫内の温湿度変化を示す。冷凍機のON/OFFに伴う周期的な温湿度の振れと、ディフロストに伴う温湿度の大きな振れが見られる。
【0068】
図中の「保冷庫+密閉容器(通気)」のグラフは、本発明の不完全密閉容器内の温湿度を示すもので、温度の変化幅はやや大きいものの、壁面冷却式高機能貯蔵庫の温湿度制御性能に近い特性が得られていることが判る。
【0069】
さらに、微酸性機能水の微粒子により高湿度の空気を生成しているので、殺菌性と安全性とを両立させることができる。すなわち、生鮮品の低温高湿度での保存に伴う雑菌の増殖やカビの発生を抑えるために、これまでオゾンやヒノキチオール、アリルイソチオシアネート、二酸化塩素、二酸化硫黄などの殺菌・防カビ効果のある雰囲気に貯蔵することが試みられている。
【0070】
しかしながら、生鮮品に与える影響が少ない50ppb程度の低濃度オゾンや低濃度ヒノキチオールなどでは殺菌効果や防カビ効果がそれほど期待できないし、濃度の分析や制御も難しい。また、殺菌効果の高い数%程度の高濃度オゾンは貯蔵物の表面を酸化漂白し、高濃度のヒノキチオールなどは貯蔵物に匂いが移る恐れがある。
【0071】
一般に殺菌用として使われている有効塩素濃度が30〜300ppmの次亜塩素酸ソーダ水は強アルカリ性で、金属を腐食し、塩素臭が残る問題点がある。同じ機能水である酸性電解水も強力な殺菌効果を示すが、酸性が強いため、貯蔵物の変質や貯蔵庫内の金属腐食という根本的な問題点がある。
【0072】
これらに対し、機能水の一種である微酸性機能水(微酸性電解水:ピユアスター水)は、水道水等の原水に希塩酸を添加して電解した水素イオン濃度がpH5.6〜6.4、有効塩素濃度が10〜30ppmの微酸性次亜塩素酸水であり、強力な殺菌効果を有する。さらに微酸性機能水は、食品添加物として認められており、微酸性であるため、貯蔵物への影響がほとんどなく、金属腐食も少なく、匂いが残らず、安全性が高く、耐性菌も生じない。
【0073】
なお、容器12に導入する低温高湿度の空気は微酸性機能水の粒子径が0.5μm以下の浮遊粒子を多量に含むものが好適であり、粒子径を考慮しない場合や浮遊微粒子が少ない高湿度空気を供給した場合との貯蔵品質の差は明瞭である。
【0074】
すなわち、0.5μm以下の粒子径は長時間空気中に浮遊して殺菌の効果を長く発揮する。3μm以上の大粒子の水滴は慣性および衝突による付着作用が多くなり、比較的短時間で落下または貯蔵物の表面に付着する。0.2μm以下の微粒子では拡散による付着作が多くなる。また、菌類はウイルスを除外すると大きさが0.5μm以上であり、0.5μm以下の微粒子にすることにより生物学的な清浄度を保つことが出来る。
【0075】
0.5μm以下の浮遊微粒子を多量に含む高湿度空気は、相対湿度の値が飽和に近くても、浮遊微粒子が物体表面に付着しにくいため、「じめじめ」した湿潤な(べたつく)感じはせず(サラッとしており)、空気イオン計で測定した値がマイナスを示す。
【0076】
これに対して、0.5μm以下の浮遊微粒子を少ししか含まず、粒子径の大きな微粒子を含む高湿度空気は、浮遊微粒子が物体表面に付着しやすいため、「じめじめ」した湿潤な(べたつく)感じがして、空気イオン計で測定した値がプラスを示す。
【0077】
すなわち、0.5μm以下の浮遊微粒子を多量に含む高湿度空気は、相対湿度の値が飽和に近くても生鮮品の表面に水滴や微粒子として付着することはほとんどないので、細菌やカビの繁殖を抑制することができる。また、負電荷に帯電しており、殺菌効果も期待できる。なお、電子放射式などで発生させた空気イオンは寿命が短いが、微細水滴による空気イオンは比較的寿命が長いという特徴もある。
【0078】
生鮮品機能保存装置10では、生鮮品を収容する容器12内へ、この酸化・還元力を有する微酸性機能水の微粒子を多量に含む(微酸性機能水の0.5μm以下の浮遊微粒子を多量に含む)清浄な新鮮空気を導入するので、雑菌の増殖やカビの発生を効果的に防ぐことができるだけでなく、貯蔵物表面の清浄性の向上および抗酸化活性物質の含有などの機能性を増進させることができる。
【0079】
図4は、生鮮品機能保存装置10で保存することによる生鮮品の清浄性維持効果を示す実験結果のデータである。このグラフはダイコンの貯蔵実験のデータで横軸には貯蔵日数を、縦軸には重量減少(%)と生菌数(cfu/cm2)の測定結果をプロットしたものである。
【0080】
重量減少については、グラフ中の記号Aの密閉容器に高湿度の正常な新鮮空気を通気した場合は、Cの密閉容器に貯蔵した場合とほぼ同程度の重量減少割合となり、Bの半密閉容器(引き出し式ケース)の場合より重量減少は少なかった。
【0081】
一方、生菌数についてはCの密閉容器およびBの半密閉容器では貯蔵日数の経過とともに指数関数的に増えているが、Aの密閉容器に通気した場合は生菌数の増加はわずかであり、清浄性が保たれた。
【0082】
この時の通気流量は、約1L/minとしており、密閉容器の容積54Lに対する換気回数で約1回/hr程度が、容器内の温度変化と湿度変化の同期が取れていた。換気回数が0.1回/hr〜10回/hrの範囲を外れると、温度変化と湿度変化の同期が取れなくなり、湿度低下や過飽和を生じる恐れがある。
【0083】
さらに、微酸性機能水の微粒子を多量に含む(特に、微酸性機能水の0.5μm以下の浮遊微粒子を多量に含む)低温高湿度の空気中(生鮮品機能保存装置10の容器12内の環境)に野菜などの生鮮品を置くことにより、脂溶性のビタミンEやβカロテンの含有量が増進されることも実験で確かめられた。これは微酸性機能水の粒子径の異なる浮遊微粒子が持つ酸化・還元機能によるものと推定される。脂溶性のビタミンEおよびβカロテンの含有量の維持または増進は、生鮮食品として免疫疾患の予防に効果がある。
【0084】
図5は、該効果の実験結果のデータを示している。同図のグラフは、市販のコマツナを開封状態のビニール袋に入れて、異なる条件で2週間貯蔵後、凍結乾燥させて、ビタミンEの含有量を定量したもので、左側から、家庭用冷蔵庫(4℃)、橙色LED照射冷蔵庫(LED)、フリーザー(−20℃)、ディープフリーザー(−80℃)、本発明の機能保存庫で水道水噴霧の場合、および微酸性電解水噴霧の場合の値を示す。機能保存庫で貯蔵したものがビタミンEが増加しており、ここではデータで示していないがβカロテンに付いても、同様の傾向が見られた。
【0085】
なお、生鮮品機能保存装置10では、貯蔵物の種類や形態、殺菌、静菌、鮮度保持、エチレン分解などの目的に応じて、発生させる微酸性機能水の微粒子状の有効塩素濃度、粒子径、発生時間および周期などを切り替えることができるようになっている。
【0086】
有効塩素濃度の切り替えは、補給用ポリタンク17aに入れる微酸性機能水の有効塩素濃度を変えることで行うことができる。また、粒子径は加えるエネルギーの大きさや発生方式の選択により切り替えることができ、発生時間や周期は微粒子発生器14もしくは水ポンプ17bを制御することで切り替える。
【0087】
次に、生鮮品機能保存装置10が維持する容器12内の温湿度を含めた環境条件について説明する。
【0088】
<湿度環境について>
一般に、壁面冷却式の貯蔵庫の場合は、温度の変動が少なく90%以上の相対湿度が保たれ、庫内の循環気流もほとんどないため、貯蔵物からの水分損失が少なく、比較的長期間、貯蔵物のみずみずしさや鮮度が保たれる。一方、冷却ユニット式の貯蔵庫の場合、冷却器での減湿作用により、庫内の相対湿度が60〜90%RH(平均75%RH程度)の範囲で変化し、超音波加湿器で連続加湿しても75〜95%RH(平均85%RH程度)にしかならない。このような貯蔵庫に野菜を貯蔵すると、吹き出し気流にあたる部分をはじめとして水分損失が大きくなり、短期間で萎れてしまう。なお、冷却器での減湿作用を少なくするため、循環風量を大きくすると、ファンの送風エネルギーが熱負荷となるだけでなく、庫内の気流が早くなるという問題が出てくる。
【0089】
このように、簡易な貯蔵庫では、貯蔵庫内の平均相対湿度を90%以上に保つことは技術的にはきわめて困難(クリティカルポイントが存在する)であるが、平均湿度が90%RH未満の貯蔵庫では品質の低下が早いため、高品質貯蔵を行う場合には平均90%RH以上の相対湿度が不可欠になる。
【0090】
さらに高品質貯蔵を行うためには90%RH以上であっても結露しないことが必要である。また、野菜や果実などの貯蔵物の平衡湿度は98%RH程度であり、これ以上の湿度の場合は、貯蔵物の表面で水分の吸収が行われ、貯蔵物の表面が膨潤する恐れがある。貯蔵物表面からの水分蒸散は空気湿度が高いほど少なくなるが、98%RHで収支はバランスすると考えられる。
【0091】
このことから、98%を起点(0ポイント)に考えると97%RHは1ポイント、96%RHは2ポイント、95%は3ポイント、94%は4ポイント、93%は5ポイント、92%は6ポイントとなり、相対湿度の低下と共に急速に表面からの水分蒸散量が増えることになる。
【0092】
このため、98%RHを超えない範囲で出来るだけ98%に近い相対湿度が望ましく95%±3%(または98%+0/−6%RH)の範囲が高品質貯蔵に好ましい範囲といえる。
【0093】
<温度の振れ幅について>
上記のような高湿度の環境で生鮮品を保存する場合、温度の振れ幅を±1.0℃以内、好ましくは±0.3℃以内にすることが貯蔵物表面への結露の発生を防止し、細菌の増殖やカビの発生を防止するために特に重要な技術となる。
【0094】
すなわち、生鮮品の冷蔵が行われる温度帯の−2〜18℃においては、絶対湿度が一定の場合、たとえば温度が0℃から±1℃変化した時には、相対湿度は100〜84%RHの範囲で変動し、同様に温度が15℃から±1℃変化した時には、相対湿度は100〜86%RHの範囲で変動する。
【0095】
このため、温度の振れ幅が±1℃以上ある場合には、貯蔵品の周囲の相対湿度の変化は14〜16%RH(±7〜8%RH)程度生じることになり、±1℃以上の温度幅では、貯蔵時の相対湿度の平均値が92〜93%RH以上のときは、貯蔵物表面で結露と乾燥(水分の授受)が繰り返され、品質が急速に低下しやすい。もちろん、相対湿度平均値が92〜93%より低い時には飽和に達せず結露はしないが、貯蔵物表面からの乾燥が激しくなり、みずみずしさや鮮度が低下する。したがって、温度の振れ幅を±1.0℃を超えないようにすることが、高湿度の環境下での生鮮品の保存に有効となる。
【0096】
特に、貯蔵中の周囲空気の温度の振れ幅が±0.3℃のときは、絶対湿度が一定の場合、相対湿度の振れ幅は±1℃のときの0.3倍になるので±2.1〜2.4%RHとなる。このような温度の振れ幅の場合、周囲空気の平均相対湿度がたとえ97%RHの高湿度であったとしても、理論上(計算上)でも決して貯蔵物表面が飽和になることはなく、貯蔵物表面での激しい水分授受は行われず、貯蔵物の高品質が保たれる。この意味で貯蔵物周囲の空気温度の振れ幅を±0.3℃以内にすることには、97%程度の高湿度環境下での生鮮品の保存にきわめて有効に作用する。
【0097】
以上のように、生鮮品機能保存装置10では、生鮮品を凍結しない温度でしかも低温障害が発生しない温度で保存するので、生鮮品の呼吸や代謝が抑えられ、室温で保存した場合に比べて品質がより長く保持できる。また、生鮮品を保存する空気の相対湿度を90%以上に、好ましくは95%±3%以内に保持するので、湿度を考慮してない普通の冷蔵庫で保存する場合に比べて、生鮮品からの水分の蒸散が抑えられ、蒸散抵抗の小さな生鮮品でも保湿シートなしで長期間鮮度を保つことができる。
【0098】
さらに、生鮮品を貯蔵する容器12を保冷庫11内に収容することにより、容器12内の温湿度の振れ幅を小さくしたので、高湿度条件下で貯蔵物表面への結露の発生すなわち表面自由水の発生が防止でき、従来の装置に比べて雑菌の増殖やカビの発生を抑制できる効果が高い。
【0099】
また、微酸性機能水の微粒子の有効塩素濃度やその発生時間、発生周期などを切り替えることができるようにしたので、貯蔵対象の種類や形態に応じて殺菌、静菌、鮮度保持、エチレン分解などの機能を発揮させることができる。
【0100】
また、清浄な新鮮空気を導入して容器12内の換気が行われるので、貯蔵物から発生するエチレンなどの影響を受けず、過熟などの害を与えることもない。
【0101】
微酸性機能水は、オゾンやヒノキチオールなどに比べて殺菌効果が高くしかも安全である。また、金属腐食も少ないので保存庫や密閉容器の材質選定が容易で、価格上昇も抑えることができる。さらに、殺菌効果のある微酸性機能水を使用すると共に、無菌の清浄空気を使用するので二重の微生物汚染リスクの回避ができ、「二重安全」の効果がある。
【0102】
このほか、微酸性機能水供給器17の補給用ポリタンク17aに貯留した微酸性機能水を水ポンプ17bで微粒子発生器14に連続または間欠に注入するので、補給用ポリタンク17aの取り付け位置の自由度が高まるとともに、複数の微粒子発生器14に対しても必要な量の微酸性機能水を自動補給することができる。
【0103】
また、容器12は一部または全部は透光性を有するので、容器12に外側から光を適宜照射することにより、内部を観察できると共に、光の照射により、生鮮品の鮮度、清浄度および機能性を維持または増進することもできる。
【0104】
さらに、上部の導入口12aから低温高湿度の空気を導入し下部の排出口12bから排出するタイプAの容器12では、低温高湿度の空気に含まれる浮遊粒子は容器12内で衝突を繰り返して次第に粒径が大きくなり、容器12の上部から下部へと落下し、スノコ12cを介して底部で回収され排出口12bから排出される。したがって、浮遊粒子を容器12内に充満させつつ、水滴化した水分を効率的に容器12外へ排出することができ、容器12内をさらに良好な環境に維持することができる。
【0105】
また、容器12内にスノコ12cや余分な水分を吸収するための吸湿紙、高分子吸湿材、オガクズ、シリカゲルまたはゼオライトなどの吸湿材を入れたことにより、容器12内の底面、側面に付着した水分に生鮮品が触れることによる湿害を防ぐことができる。
【0106】
なお、抗酸化活性物質の保存は、人の健康維持のために効果があるだけでなく、花卉や種苗の生理活性の維持のためにも効果があると推定され、生鮮品機能保存装置10による保存は花卉や種苗などにも機能増進効果が期待できる。
【0107】
以上、本発明の実施の形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成は実施の形態に示したものに限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0108】
たとえば、実施の形態では微粒子発生器14にて微酸性機能水の微粒子を発生させたが、殺菌効果などが若干低下するものの、微酸性機能水に代えて通常の水道水などの水の微粒子を発生させても、ほぼ同様の効果を得ることができる。この際、殺菌処理された水を使用するか、水の浮遊粒子を含む高湿度の空気を殺菌灯などで殺菌するようにするとよい。
【0109】
なお、容器12を収容するための低温環境は実施の形態で示した保冷庫11によって形成されるものに限らず、保冷庫11の代わりに氷雪室や氷雪溜めなどを使用してもよい。これにより、0℃近辺の温度を安定して保つことができ、冷凍機の電力が不要になり、省エネルギー化を図ることができる。
【0110】
このほか、容器12の代わりに、台の上に積み上げられたカゴに生鮮品などを収容し、この積み上げられたカゴを何らかのケースで覆うようにすれば、大量の貯蔵にも対応することができる。たとえば、台の上に積み上げたカゴをプラスティックシート製の半透明なケースで覆う。このプラスティックシート製のケースは積み上げられたカゴに被せるか、保冷庫内に吊り下げられており、前面部はチャックが設けられて開閉可能とされ、台の部分ではベルクロファスナーで固定するようになっている。ケースの材料としてはアルミラミネートフィルムや金属板を組み合わせたものにすることも可能である。
【0111】
このケースを収容する保冷庫にはパネル組立式の保冷庫を使用することができる。この保冷庫の床面積は実施の形態で例示した保冷庫11より大きいものとなるが、基本的な構造や機能はほぼ同じでよい。保冷庫の天井部は屋根型になっており、内面に結露した水分が貯蔵物に落下しないようになっている。接続配管の大きさは、空気抵抗を小さくするため図2に示したものに比べてやや大きく、たとえば、内径6mm程度にするとよい。また、ケースに接続するときは流量に応じて使用する配管の口径を大きくしてある。
【0112】
なお、微粒子発生器として、超音波式の微粒子発生器を使用してもよい。このタイプの微粒子発生器は、微酸性機能水を入れた容器の底面に超音波振動子を設置し、超音波振動のエネルギーにより微細水滴を発生する原理を使用したものである。超音波式の微粒子発生器は発生効率が高いので、間欠的に作動させて能力の調整と振動子の寿命の延長を図ることができる。
【0113】
本発明は、新鮮空気の代わりにCO、Oなどのガス濃度を調整した空気を送ることにより、従来から果物の貯蔵などで実施されているCA貯蔵を行うことができ、容器ごとに個別に調整、取り出しができる利点がある。また、生鮮品をガス透過性を持ったフィルムを包装するMA貯蔵と併用することにより、さらに高品質貯蔵の効果をあげることができる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の実施の形態に係る生鮮品機能保存装置10の機能構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る生鮮品機能保存装置10の内部構成を示す部分断面図である。
【図3】貯蔵方式と温湿度のクリモグラフである。
【図4】ダイコンにおける貯蔵方法と重量減少および生菌数の変化を示すグラフである。
【図5】コマツナにおける貯蔵前に対するビタミンE含有量の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0115】
10…生鮮品機能保存装置
11…保冷庫
11a…金属板
11b…収納箱
11c…冷蔵ユニット
12…容器
12a…導入口
12b…排出口
12c…スノコ
13…清浄空気供給機
13a…メンブレンHEPAフィルタ
13b…エアーポンプ
14…微粒子発生器
15…凝縮水分離器
16…接続配管
16b…Y字継ぎ手
17…微酸性機能水供給器
17a…補給用ポリタンク
17b…水ポンプ
17c…供給配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保冷庫と、
前記保冷庫内に収容されて生鮮品を入れる不完全密閉の容器と、
前記容器に無菌の清浄空気を送る清浄空気供給機と、
水の浮遊微粒子を連続または間欠に発生させて、前記清浄空気供給機から送り出された清浄空気を高湿度の清浄空気にする微粒子発生器と、
前記高湿度の清浄空気中から大粒径の浮遊微粒子および凝縮水を除去する凝縮水分離器と、
前記凝縮水分離器によって大粒径の浮遊微粒子および凝縮水を除去した後の高湿度の清浄空気を前記容器に導入する接続配管と
を備えた
ことを特徴とする生鮮品の機能保存装置。
【請求項2】
前記容器内の温度の振れ幅が±1.0℃以内、相対湿度が90%RH以上98%RH以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の生鮮品の機能保存装置。
【請求項3】
前記容器に導入する前記高湿度の清浄空気の供給流量が、前記容器の内容積に対する置換回数として0.1から10回/hrである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の生鮮品の機能保存装置。
【請求項4】
微粒子発生器は、粒径が0.5μm以下の微粒子を多量に含む浮遊微粒子を発生させる
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の生鮮品の機能保存装置。
【請求項5】
給水タンクに貯留されている水をポンプで前記微粒子発生器に送り込む
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の生鮮品の機能保存装置。
【請求項6】
前記水は、微酸性機能水である
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載の生鮮品の機能保存装置。
【請求項7】
微粒子発生器で発生させる微酸性機能水の有効塩素濃度を切り替える
こと特徴とする請求項6に記載の生鮮品の機能保存装置。
【請求項8】
微粒子発生器で発生させる微粒子の粒子径または発生時間を切り替える
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の生鮮品の機能保存装置。
【請求項9】
前記容器は透光性を有する
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1つに記載の生鮮品の機能保存装置。
【請求項10】
前記容器の底面と側面の少なくとも一方に吸湿材を設けた
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1つに記載の生鮮品の機能保存装置。
【請求項11】
通気口を有する内壁を、前記容器の底面と側面の少なくとも一方の内側に該面との間に隙間を設けて配置した
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1つに記載の生鮮品の機能保存装置。
【請求項12】
前記容器は、前記高湿度の清浄空気を上部から導入すると共に、下部または底部に排出口を有する
ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1つに記載の生鮮品の機能保存装置。
【請求項13】
前記接続配管は前記容器に入る手前に水抜き口を有する
ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1つに記載の生鮮品の機能保存装置。
【請求項14】
生鮮品を入れた不完全密閉の容器を低温環境に置くと共に、
前記容器に、微細な水の浮遊微粒子を多量に含む高湿度かつ無菌の清浄空気を送り込む
ことを特徴とする生鮮品の機能保存方法。
【請求項15】
請求項1乃至13のいずれか1つに記載の生鮮品の機能保存装置で保存された、もしくは請求項14に記載の生鮮品の機能保存方法で保存された生鮮品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−131872(P2008−131872A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−319370(P2006−319370)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(390010054)小糸工業株式会社 (136)
【出願人】(501061319)学校法人 東洋大学 (68)
【Fターム(参考)】