説明

画像信号処理装置及びプログラム

【課題】透過する光の波長帯が異なる複数種類のフィルタで構成されたカラーフィルタを介して撮像手段により得られた信号各々を組み合わせて減算することにより色情報を生成する場合であっても、カラー画像の色再現性を向上させる。
【解決手段】撮像装置12が、Wフィルタ、R+IRフィルタ、Ye+IRフィルタ、及びIRフィルタがベイヤ配列されたカラーフィルタ12aを透過した光に応じた画像信号を出力する。色情報生成部20で、各画素のW値、R+IR値、Ye+IR値、及びIR値を算出し、各値を組み合わせて減算することにより、R値、G値、B値を生成する。色情報補間部22で、注目画素の色情報に負の値を含むか否かを判定し、負の値を含む場合には、負の値を含まない周辺画素の色情報を用いて、注目画素の色情報を補間する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像信号処理装置及びプログラムに係り、特に、撮像装置においてカラーフィルタを介して取得された画像信号を処理する画像信号処理装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可視光成分及び赤外光成分を透過する全透過型(W)フィルタと、黄色以上の波長に対応する可視光成分及び赤外光成分を透過する(Ye+IR)ロングパスフィルタと、赤色以上の波長に対応する可視光成分及び赤外光成分を透過する(R+IR)ロングパスフィルタと、主に赤外光成分を透過する赤外光透過型(IR)ロングパスフィルタとによって構成されるカラーフィルタを介する撮像素子の受光信号の処理を行う画像信号処理装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の画像信号処理装置では、(W)フィルタを介した受光量から(Ye+IR)ロングパスフィルタを介した受光量を減算することにより青色の色情報(B)を算出し、(Ye+IR)ロングパスフィルタを介した受光量から(R+IR)ロングパスフィルタを介した受光量を減算することにより緑色の色情報(G)を算出し、(R+IR)ロングパスフィルタを介した受光量から(IR)ロングパスフィルタを介した受光量を減算することにより赤色の色情報(R)を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−288629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された装置のように、青色から近赤外までの広範囲の波長の光を撮像する場合には、取得したい全ての波長に対してレンズの焦点を合わせることができないという理由から、結果として、それぞれのフィルタを介した受光量に色収差を原因とする空間的なずれが生じる。通常のRGBフィルタをベイヤ配列したカラーフィルタを備えた撮像装置であれば、上記のような空間的なずれは色情報のにじみを発生させるだけである。しかし、特許文献1に記載された画像信号処理装置のように、各受光量を適宜組み合わせて減算することにより色情報を生成する場合には、ある画素が負の色情報を持つという現象が生じ、正しい色情報を生成することができない、という問題がある。
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、透過する光の波長帯が異なる複数種類のフィルタで構成されたカラーフィルタを介して撮像手段により得られた信号各々を組み合わせて減算することにより色情報を生成する場合であっても、カラー画像の色再現性を向上させることができる画像信号処理装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために第1の発明の画像信号処理装置は、透過する光の波長帯が異なる複数種類のフィルタがベイヤ配列されたカラーフィルタ、画素を構成する撮像素子が前記カラーフィルタのフィルタ各々に対応するように配列された撮像部、及び前記カラーフィルタを透過した光を前記撮像素子に結像させる光学系を備え、前記撮像素子での受光量に応じた信号を出力する撮像手段と、前記撮像手段から出力された注目画素の信号、及び該注目画素の周辺の複数の周辺画素の信号各々を用いて、前記注目画素について前記フィルタの種類毎の値各々を求め、該値各々を前記フィルタの種類に応じて定めた組み合わせで減算することにより、前記注目画素について前記組み合わせ毎に異なる複数色の色情報を生成する生成手段と、前記生成手段により生成された前記注目画素の色情報の少なくとも1つが負の場合には、色情報が正の周辺画素の色情報を用いて、前記注目画素の色情報を補間する補間手段と、を含んで構成されている。
【0007】
第1の発明の画像信号処理装置によれば、撮像手段は、透過する光の波長帯が異なる複数種類のフィルタがベイヤ配列されたカラーフィルタ、画素を構成する撮像素子がカラーフィルタのフィルタ各々に対応するように配列された撮像部、及びカラーフィルタを透過した光を撮像素子に結像させる光学系を備えている。撮像手段は、撮像素子での受光量に応じた信号を出力する。そして、生成手段が、撮像手段から出力された注目画素の信号、及び注目画素の周辺の複数の周辺画素の信号各々を用いて、注目画素についてフィルタの種類毎の値各々を求め、値各々をフィルタの種類に応じて定めた組み合わせで減算することにより、注目画素について組み合わせ毎に異なる複数色の色情報を生成する。
【0008】
生成手段では、減算により色情報を生成するため、生成された色情報は負の値を含んでいる場合がある。このような色情報の画素を用いてカラー画像を生成すると、色再現性が低下する。そこで、補間手段が、生成手段により生成された注目画素の色情報の少なくとも1つが負の場合には、色情報が正の周辺画素の色情報を用いて、注目画素の色情報を補間する。
【0009】
このように、透過する光の波長帯が異なる複数種類のフィルタで構成されたカラーフィルタを介して撮像手段により得られた信号各々を組み合わせて減算することにより色情報を生成する場合であっても、色情報が負の値を含む画素の色情報については、周辺の色情報が負の値を含まない画素の色情報を用いて補間されるため、カラー画像の色再現性を向上させることができる。
【0010】
また、第1の発明において、前記カラーフィルタの前記複数種類のフィルタを、可視光領域の一部の波長帯の光及び赤外光領域の波長帯の光を透過する複数種類の可視光透過型ロングパスフィルタ、または可視光領域の全域の波長帯の光及び赤外光領域の波長帯の光を透過する全透過型フィルタと、赤外光領域の波長の光を透過する赤外光透過型ロングパスフィルタとすることができる。
【0011】
また、前記複数種類の可視光透過型ロングパスフィルタを、黄色以上の可視光領域の波長帯の光及び赤外光領域の波長帯の光を透過する第1可視光透過型ロングパスフィルタと、赤色以上の可視光領域の波長帯の光及び赤外光領域の波長帯の光を透過する第2可視光透過型ロングパスフィルとし、前記カラーフィルタの前記複数種類のフィルタを、前記全透過型フィルタと、前記第1可視光透過型ロングパスフィルタと、前記第2可視光透過型ロングパスフィルと、前記赤外光透過型ロングパスフィルタとすることができる。
【0012】
また、前記生成手段は、前記赤外透過型ロングパスフィルタに対応する画素の信号を用いて、前記可視光透過型ロングパスフィルタまたは前記全透過型フィルタに対応する画素の信号から赤外成分を除去することができる。
【0013】
また、前記補間手段は、前記色情報が正の周辺画素のうち、前記注目画素の最近傍の周辺画素の色情報で補間するか、または前記注目画素から所定範囲内に存在し、前記色情報が正の周辺画素の色情報、もしくは前記注目画素から前記色情報が正の周辺画素が所定個となるまで探索したときの該所定個の周辺画素の色情報の平均、最大値、最小値、最頻値、もしくは前記注目画素と前記周辺画素との距離に応じた重み付き平均で補間することができる。
【0014】
また、第2の発明の画像信号処理装置は、透過する光の波長帯が異なる複数種類のフィルタがベイヤ配列されたカラーフィルタ、画素を構成する撮像素子が前記カラーフィルタのフィルタ各々に対応するように配列された撮像部、及び前記カラーフィルタを透過した光を前記撮像素子に結像させる光学系を備え、前記撮像素子での受光量に応じた信号を出力する撮像手段と、前記撮像手段から出力された注目画素の信号、及び該注目画素の周辺の複数の周辺画素の信号各々を用いて、前記注目画素について前記フィルタの種類毎の値各々を求め、該値各々を前記フィルタの種類に応じて定めた組み合わせで減算する際に、差が0または正になる場合には該差を色情報とし、前記差が負になる場合には、前記周辺画素の正となる差を用いて色情報とすることにより、前記注目画素について前記組み合わせ毎に異なる複数色の色情報を生成する生成手段と、を含んで構成されている。
【0015】
また、第3の発明の画像信号処理プログラムは、コンピュータを、透過する光の波長帯が異なる複数種類のフィルタがベイヤ配列されたカラーフィルタ、画素を構成する撮像素子が前記カラーフィルタのフィルタ各々に対応するように配列された撮像部、及び前記カラーフィルタを透過した光を前記撮像素子に結像させる光学系を備えた撮像手段から出力される、前記撮像素子での受光量に応じた信号を取得する取得手段、前記取得手段で取得された注目画素の信号、及び該注目画素の周辺の複数の周辺画素の信号各々を用いて、前記注目画素について前記フィルタの種類毎の値各々を求め、該値各々を前記フィルタの種類に応じて定めた組み合わせで減算することにより、前記注目画素について前記組み合わせ毎に異なる複数色の色情報を生成する生成手段、及び前記生成手段により生成された前記注目画素の色情報の少なくとも1つが負の場合には、色情報が正の周辺画素の色情報を用いて、前記注目画素の色情報を補間する補間手段として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明の画像信号処理装置及びプログラムによれば、透過する光の波長帯が異なる複数種類のフィルタで構成されたカラーフィルタを介して撮像手段により得られた信号各々を組み合わせて減算することにより色情報を生成する場合であっても、色情報が負の値を含む画素の色情報については、周辺の色情報が負の値を含まない画素の色情報を用いて補間されるため、カラー画像の色再現性を向上させることができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態に係る画像信号処理装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】カラーフィルタの構成を示すイメージ図である。
【図3】カラーフィルタを構成する各フィルタの分光感度を示す図である。
【図4】各画素のW値、Ye+IR値、R+IR値、及びIR値の算出を説明するための図である。
【図5】分光感度グラフにおける色情報を視覚的に表した図である。
【図6】色情報生成部で生成された色情報の解析結果の一例を示す図である。
【図7】本実施の形態に係る画像信号処理装置における画像信号処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図8】補間前の色情報を3×3の9画素分抜き出した図である。
【図9】補間前の色情報を用いた画像の一例を示すイメージ図である。
【図10】参考例として、図8の画素に対して色情報全体にぼかし関数を畳み込んだ場合の色情報を9画素分抜き出した図である。
【図11】参考例として、色情報全体にぼかし関数を畳み込んだ場合の色情報を用いた画像の一例を示すイメージ図である。
【図12】図8の画素に対して、本実施の形態の色情報補間部の補間処理を行った場合の色情報を9画素分抜き出した図である。
【図13】本実施の形態の色情報補間部の補間処理を行った場合の色情報を用いた画像の一例を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本実施の形態では、車両に搭載され、かつ撮像された車両前方画像を夜間においても視認性が良好な画像として提供するカラーナイトビューシステムに用いられる画像信号処理装置に本発明を適用した場合を例に説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態に係る画像信号処理装置10は、対象領域を撮像する撮像装置12と、撮像装置12から出力される画像信号を処理するコンピュータ16と、コンピュータ16での処理結果を表示するための表示装置18とを備えている。
【0020】
撮像装置12は、車両前方の対象領域を撮像し、後述するカラーフィルタ12a、画素を構成する撮像素子が配列され、画像信号を生成する撮像部12b、カラーフィルタ12aを透過した光を撮像部12bに結像させるレンズ12c、撮像部12bで生成されたアナログ信号である画像信号をデジタル信号に変換するA/D変換部(図示省略)、及びA/D変換された画像信号を一時的に格納するための画像メモリ(図示省略)を備えている。
【0021】
本実施の形態のように、夜間でも視認性良好な画像を得るシステムを提供するためには、可視光領域の波長帯の光を用いて撮像される画像(以下、カラー画像という)、及び近赤外域の波長帯の光を用いて撮像される画像(以下、近赤外画像という)が同時に取得される必要がある。そのため、本実施の形態では、撮像装置12として、1台でカラー画像及び近赤外画像の双方を取得可能なマルチバンドカメラを用いる。
【0022】
撮像装置12の撮像素子の前面には、異なる波長帯の光を透過する複数種類のフィルタがベイヤ配列されたカラーフィルタ12aが設けられている。各フィルタは各々1つの撮像素子に対応する。図2に、カラーフィルタ12aの構成を示す。複数種類のフィルタとして、可視光領域及び赤外光領域の波長帯の光を透過する全透過型フィルタ(以下、「Wフィルタ」という)、黄色以上の可視光領域の波長帯の光及び赤外光領域の波長帯の光を透過する可視光領域(Ye+IR)透過型ロングパスフィルタ(以下、「Ye+IRフィルタ」という)、赤色以上の可視光領域の波長帯の光及び赤外光領域の波長帯の光を透過する可視光領域(R+IR)透過型ロングパスフィル(以下、「R+IRフィルタ」という)、及び主に赤外光領域の波長帯の光を透過する赤外光透過型ロングパスフィルタ(以下、「IRフィルタ」という)が用いられている。図3に、各フィルタの分光感度特性を示す。
【0023】
上記のYe+IRフィルタ、R+IRフィルタ、及びIRフィルタのようなロングパスフィルタは、あるカットオフ波長より短い波長の光を遮断して、それより長い波長の光を透過する。従って、可視光領域透過型ロングパスフィルタ(カットオフ波長が可視光領域の波長であるロングパスフィルタ)及び赤外光透過型ロングパスフィルタでは、長波長領域である赤外光領域の波長帯の光は透過する。このため、赤外光の波長毎の透過特性はフィルタの種類によらず略一定であり、各フィルタを介して得られた画像信号の線形演算によって、赤外光成分を容易に除去することができる。この特性を利用して、後述の色情報生成部20の処理を考慮して、ロングパスフィルタのカットオフ波長は、通常のカラーフィルタであるRGBフィルタの各両端の波長とあわせた波長となっている。
【0024】
コンピュータ16は、画像信号処理装置10全体の制御を司るCPU、後述する画像信号処理ルーチンのプログラム等を記憶した記憶媒体としてのROM、ワークエリアとしてデータを一時格納するRAM、及びこれらを接続するバスを含んで構成されている。このような構成の場合には、各構成要素の機能を実現するためのプログラムをROMに記憶しておき、これをCPUが実行することによって、各機能が実現されるようにする。
【0025】
このコンピュータ16をハードウエアとソフトウエアとに基づいて定まる機能実現手段毎に分割した機能ブロックで説明すると、図1に示すように、撮像装置12から出力された画像信号を用いて各画素の色情報を生成する色情報生成部20と、負の色情報を補間する色情報補間部22と、擬似カラー画像を生成する擬似カラー画像生成部24とを含んだ構成で表すことができる。
【0026】
色情報生成部20は、撮像装置12から出力された画像信号に基づいて、各画素について、Wフィルタを透過した光に基づく画像信号(以下、「W値」という)、Ye+IRフィルタを透過した光に基づく画像信号(以下、「Ye+IR値」という)、R+IRフィルタを透過した光に基づく画像信号(以下、「R+IR値」という)、及びIRフィルタを透過した光に基づく画像信号(以下、「IR値」という)を取得する。各フィルタは各撮像素子に対応しているため、1画素にはW値、Ye+IR値、R+IR値、及びIR値のいずれかが対応している。その画素に対応していない他の値は、周辺画素の値を混合して取得する。例えば、図4に示すように、各画素の画像信号が得られている場合において、注目画素P0については、R+IR値は注目画素自体の値を用い、W値は周辺画素P4及びP5の値を用いて算出し、Ye+IR値は周辺画素P1、P3、P6及びP8の値を用いて算出し、IR値は周辺画素P2及びP7の値を用いて算出することができる。
【0027】
また、色情報生成部20は、算出した各画素のW値、Ye+IR値、R+IR値、及びIR値を、下記(1)式によりRGB色情報であるR値、G値及びB値に変換する。(1)式は、R値がR+IR値とIR値との差、G値がYe+IR値とR+IR値との差、B値がW値とYe+IR値との差であることを表している。図5に、分光感度グラフにおける色情報を視覚的に表した図を示す。
【0028】
【数1】

【0029】
また、色情報生成部20は、各画素のIR値を抽出して、後述する擬似カラー画像生成部24へ出力する。
【0030】
ここで、本実施の形態の原理について説明する。
【0031】
上述のように、本実施の形態の画像信号処理装置10で、青色から近赤外までの広範囲の波長帯の光に基づく画像を撮像する場合には、取得したい全ての波長に対してレンズの焦点を合わせることができないという理由から、結果として、それぞれのフィルタを介した画像信号W値、Ye+IR値、R+IR値、及びIR値に色収差を原因とする空間的なずれが生じる。このため、(1)式のように、W値、Ye+IR値、R+IR値、及びIR値を適宜組み合わせて減算することにより、RGB色情報を生成する場合には、色情報が負の値になってしまう場合がある。負の値を持つ色情報をそのままカラー画像に使用すると、偽色と呼ばれる実際に肉眼で見た色とは異なる色を表現し、視認性に悪影響を与えることとなる。
【0032】
図6に、色情報生成部20で生成された色情報の解析結果の一例を示す。色情報が負の値になる現象は、高輝度領域周辺で顕著に現れる。このような現象は、先行車両のテールランプの色や信号灯火の色に影響を及ぼすため、カラーナイトビューシステムにおいては、非常に重要である。
【0033】
この現象の対応策として、生成された色情報全体に対してぼかし関数(例えば、ガウス関数等)を畳み込むことで、色情報を全体的に平滑化し、欠損した色情報を補間する方法が考えられる。しかしながら、この手法を適用した場合、正確に色情報が生成できていた画素の情報までも周囲と平滑化されてしまい、画像全体の色味が低下し、色の視認性が低くなってしまう。
【0034】
そこで、本実施の形態では、色情報が負の値となる画素のみに対して、周辺画素の色情報を用いて色情報を補間する。以下、色情報補間部22で行われる具体的な処理について説明する。
【0035】
色情報補間部22は、各画素を順次注目画素に設定し、注目画素について色情報生成部20で生成された色情報が負の値を含むか否かを判定する。注目画素が負の値を含む場合には、この注目画素から所定範囲に存在する周辺画素のうち、色情報に負の値を含まない周辺画素を抽出し、抽出された周辺画素の色情報を用いて、注目画素と周辺画素との距離に応じた重み付き平均(例えば、下記(2)式のガウス関数のような重み)により、注目画素の色情報を補間する。なお、補間方法は、重み付き平均に限定されず、抽出された周辺画素の色情報の平均、最大値、最小値、最頻値等を用いてもよい。
【0036】
【数2】

【0037】
ここで、kは注目画素から周辺画素までの正規化された距離を示す。
【0038】
擬似カラー画像生成部24は、色情報補間部22で補間された色情報を用いたカラー画像と、色情報生成部20で抽出されたIR値を用いた近赤外画像とを合成して、夜間における視認性が良好な擬似カラー画像を生成し、表示装置18に表示する。カラー画像と近赤外画像との合成方法は、例えば、IR値が所定値以上の領域は近赤外画像を用い、IR値が所定値未満の場合にはカラー画像を用いる等の周知の手法を適用することができる。
【0039】
次に、本実施の形態の画像信号処理装置10の作用について説明する。撮像装置12によって、自車両の前方が連続して撮像されているときに、コンピュータ16において、図7に示す画像信号処理ルーチンが実行される。
【0040】
ステップ100で、撮像装置12で撮像された画像信号を取得する。次に、ステップ102で、各画素及びその画素の周辺画素の画像信号を用いて、画素毎のW値、Ye+IR値、R+IR値、及びIR値を算出する。
【0041】
次に、ステップ104で、上記ステップ102で算出した各画素のW値、Ye+IR値、R+IR値、及びIR値を、所定の組み合わせで減算して、RGB色情報であるR値、G値及びB値を生成する。例えば、(1)式によりにYe+IR値、R+IR値、及びIR値をR値、G値及びB値に変換する。
【0042】
次に、ステップ106で、全画素の中から1つの画素を選択して注目画素に設定し、次に、ステップ108で、注目画素の色情報が負の値を含むか否かを判定する。色情報が負の値を含む場合には、ステップ110へ移行し、この注目画素から所定範囲に存在する周辺画素のうち、色情報に負の値を含まない周辺画素を抽出し、抽出された周辺画素の色情報を用いて、注目画素と周辺画素との距離に応じた重み付き平均等により、注目画素の色情報を補間して、ステップ112へ移行する。一方、注目画素の色情報が負の値を含まないと判定された場合には、ステップ110をスキップして、ステップ112へ移行する。
【0043】
ステップ112では、全画素について注目画素に設定されたか否かを判定する。未処理の画素が存在する場合には、ステップ106へ戻り、次の注目画素を設定して処理を繰り返す。全ての画素について処理が終了すると、ステップ114へ移行し、色情報が補間された、すなわち色情報に負の値を含まない各画素の色情報を用いたカラー画像と、上記ステップ102で算出された各画素のIR値を用いた近赤外画像とを合成して、夜間における視認性が良好な擬似カラー画像を生成し、表示装置18に表示して、処理を終了する。
【0044】
ここで、図8に、本実施の形態の画像信号処理装置10で撮像した画像について、色情報生成部20で生成された色情報のうち、ある3×3の9画素分の領域の色情報を抜き出した結果を示す。この色情報は、色情報補間部22による補間前の値である。従って、前述したように、レンズ12cの色収差により各撮像素子が受光する波長には空間的なずれが発生し、結果として負の値を持つ色情報が生成されている。図9に、この補間前の色情報を用いた画像(実際にはカラー画像)の一例を示す。色情報に負の値を持つ画素が存在していることにより、特に高輝度領域周辺で色情報が欠損している部分が確認できる。
【0045】
次に、参考例として、生成された色情報全体に対してぼかし関数を畳み込むことで、色情報を全体的に平滑化し、欠損した色情報を補間した場合について説明する。図10に、図8に示す9画素分の領域に対して、色情報全体にぼかし関数を畳み込んだ結果を示す。また、図11に、図9と同じ場面において、色情報全体にぼかし関数を畳み込んだ画像(実際にはカラー画像)の一例を示す。色情報全体にぼかし関数を畳み込む手法では、色情報に負の値を含む画素の色情報を復元することが可能となるが、全体に対してぼかし関数を畳み込んでいるため、正しく色情報を生成していた画素の色情報が変わってしまう。また、色情報が欠損する領域は、高輝度領域周辺では特に広範囲に及ぶため、正しく色情報を生成していた画素の色情報を欠損させ、結果として、視認性の大幅な向上には至っていないことが確認できる。
【0046】
次に、図12に、図8に示す9画素分の領域に対して、本実施の形態の画像信号処理装置10の色情報補間部22における補間処理を行った結果を示す。また、図13に、図9と同じ場面において、本実施の形態の画像信号処理装置10の色情報補間部22における補間処理を行った色情報を用いた画像(実際にはカラー画像)の一例を示す。図9及び図11と図13とを比較すると、高輝度領域周辺において、明らかに図13に示す画像の視認性が向上していることが確認できる。また、もともと正しい色情報を生成していた画素に対しては補間処理を行わないため、画像全体の色味を低下させることなく、欠損画素の色情報を補間して、画像全体の色再現性を向上することを可能にした。
【0047】
以上説明したように、本実施の形態の画像信号処理装置によれば、透過する光の波長帯が異なる複数種類のフィルタがベイヤ配列されたカラーフィルタを介して撮像装置により得られた画像信号各々を組み合わせて減算することにより色情報を生成する場合であっても、色情報が負の値を含む画素の色情報については、周辺の色情報が負の値を含まない画素の色情報を用いて補間されるため、カラー画像の色再現性を向上させることができる。
【0048】
なお、上記実施の形態では、本発明をカラーナイトビューシステムに適用した場合について説明したが、これに限定されない。従って、カラー画像と近赤外画像とを合成した擬似カラー画像を生成する場合に限らず、透過する光の波長帯が異なるフィルタを介して得られた画像信号を組み合わせて減算することにより色情報を生成する場合であれば、適用可能である。
【0049】
また、撮像装置に用いられるカラーフィルタの構成も、上記実施の形態の構成に限定されない。フィルタを介して得られる画像信号を組み合わせて減算することにより所望の色情報が得られるように、各々のフィルタのカットオフ波長が定められていればよい。
【0050】
また、上記実施の形態では、色情報を補間する際に、注目画素から所定範囲に存在する周辺画素であって、色情報に負の値を含まない周辺画素の色情報を用いる場合について説明したが、補間の手法は、これに限定されない。例えば、色情報に負の値を含まない周辺画素であって、注目画素の最近傍の周辺画素の色情報をそのまま用いてもよい。また、注目画素の近傍から色情報に負の値を含まない周辺画素を探索し、徐々に探索範囲を広げ、ある一定の数だけ周辺画素が抽出されたところで探索を終了し、抽出された周辺画素の色情報の平均、最大値、最小値、最頻値、重み付き平均等を用いて補間してもよい。
【0051】
また、本実施の形態の画像信号処理装置の各部をコンピュータで実現した場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、各部の機能を実現する複数のコンピュータ、または1つまたは複数の電子回路で構成するようにしてもよい。
【0052】
また、本発明のプログラムを、記憶媒体に格納して提供することも可能である。
【符号の説明】
【0053】
10 画像信号処理装置
12 撮像装置
12a カラーフィルタ
12b 撮像部
12c レンズ
16 コンピュータ
18 表示装置
20 色情報生成部
22 色情報補間部
24 擬似カラー画像生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過する光の波長帯が異なる複数種類のフィルタがベイヤ配列されたカラーフィルタ、画素を構成する撮像素子が前記カラーフィルタのフィルタ各々に対応するように配列された撮像部、及び前記カラーフィルタを透過した光を前記撮像素子に結像させる光学系を備え、前記撮像素子での受光量に応じた信号を出力する撮像手段と、
前記撮像手段から出力された注目画素の信号、及び該注目画素の周辺の複数の周辺画素の信号各々を用いて、前記注目画素について前記フィルタの種類毎の値各々を求め、該値各々を前記フィルタの種類に応じて定めた組み合わせで減算することにより、前記注目画素について前記組み合わせ毎に異なる複数色の色情報を生成する生成手段と、
前記生成手段により生成された前記注目画素の色情報の少なくとも1つが負の場合には、色情報が正の周辺画素の色情報を用いて、前記注目画素の色情報を補間する補間手段と、
を含む画像信号処理装置。
【請求項2】
前記カラーフィルタの前記複数種類のフィルタを、可視光領域の一部の波長帯の光及び赤外光領域の波長帯の光を透過する複数種類の可視光透過型ロングパスフィルタ、または可視光領域の全域の波長帯の光及び赤外光領域の波長帯の光を透過する全透過型フィルタと、赤外光領域の波長の光を透過する赤外光透過型ロングパスフィルタとした請求項1記載の画像信号処理装置。
【請求項3】
前記複数種類の可視光透過型ロングパスフィルタを、黄色以上の可視光領域の波長帯の光及び赤外光領域の波長帯の光を透過する第1可視光透過型ロングパスフィルタと、赤色以上の可視光領域の波長帯の光及び赤外光領域の波長帯の光を透過する第2可視光透過型ロングパスフィルとし、
前記カラーフィルタの前記複数種類のフィルタを、前記全透過型フィルタと、前記第1可視光透過型ロングパスフィルタと、前記第2可視光透過型ロングパスフィルと、前記赤外光透過型ロングパスフィルタとした請求項2記載の画像信号処理装置。
【請求項4】
前記生成手段は、前記赤外透過型ロングパスフィルタに対応する画素の信号を用いて、前記可視光透過型ロングパスフィルタまたは前記全透過型フィルタに対応する画素の信号から赤外成分を除去する請求項2または請求項3記載の画像信号処理装置。
【請求項5】
前記補間手段は、前記色情報が正の周辺画素のうち、前記注目画素の最近傍の周辺画素の色情報で補間するか、または前記注目画素から所定範囲内に存在し、前記色情報が正の周辺画素の色情報、もしくは前記注目画素から前記色情報が正の周辺画素が所定個となるまで探索したときの該所定個の周辺画素の色情報の平均、最大値、最小値、最頻値、もしくは前記注目画素と前記周辺画素との距離に応じた重み付き平均で補間する請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の画像信号処理装置。
【請求項6】
透過する光の波長帯が異なる複数種類のフィルタがベイヤ配列されたカラーフィルタ、画素を構成する撮像素子が前記カラーフィルタのフィルタ各々に対応するように配列された撮像部、及び前記カラーフィルタを透過した光を前記撮像素子に結像させる光学系を備え、前記撮像素子での受光量に応じた信号を出力する撮像手段と、
前記撮像手段から出力された注目画素の信号、及び該注目画素の周辺の複数の周辺画素の信号各々を用いて、前記注目画素について前記フィルタの種類毎の値各々を求め、該値各々を前記フィルタの種類に応じて定めた組み合わせで減算する際に、差が0または正になる場合には該差を色情報とし、前記差が負になる場合には、前記周辺画素の正となる差を用いて色情報とすることにより、前記注目画素について前記組み合わせ毎に異なる複数色の色情報を生成する生成手段と、
を含む画像信号処理装置。
【請求項7】
コンピュータを、
透過する光の波長帯が異なる複数種類のフィルタがベイヤ配列されたカラーフィルタ、画素を構成する撮像素子が前記カラーフィルタのフィルタ各々に対応するように配列された撮像部、及び前記カラーフィルタを透過した光を前記撮像素子に結像させる光学系を備えた撮像手段から出力される、前記撮像素子での受光量に応じた信号を取得する取得手段、
前記取得手段で取得された注目画素の信号、及び該注目画素の周辺の複数の周辺画素の信号各々を用いて、前記注目画素について前記フィルタの種類毎の値各々を求め、該値各々を前記フィルタの種類に応じて定めた組み合わせで減算することにより、前記注目画素について前記組み合わせ毎に異なる複数色の色情報を生成する生成手段、及び
前記生成手段により生成された前記注目画素の色情報の少なくとも1つが負の場合には、色情報が正の周辺画素の色情報を用いて、前記注目画素の色情報を補間する補間手段
として機能させるための画像信号処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図12】
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【図6】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−227758(P2012−227758A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93985(P2011−93985)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】