説明

画像処理装置、像を生成する方法並びにシステム

【課題】重い原子及び軽い原子を同時に観察可能な電子顕微鏡像を生成する画像処理の方法を提供する。
【解決手段】方法は、走査透過型電子顕微鏡により試料を撮像した暗視野像であって、走査透過型電子顕微鏡の光軸からの第1角度と、第1角度よりも大きい第2角度との間に散乱した電子を検出して得られた暗視野像を取得し、この暗視野像と共に撮像された明視野像であって、第1角度よりも小さい第3角度以内に散乱した電子を検出して得られた明視野像を取得し、暗視野像の明暗を反転して反転像を生成し、反転像の各画素の輝度と、反転像の各画素に対応する明視野像の画素の輝度との差を、各画素の輝度とする差分像を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置、像を生成する方法並びにシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物質の構造を解析するために走査透過電子顕微鏡が用いられている。走査透過電子顕微鏡では、収束させた電子線で試料の表面を走査し、試料を透過した電子を検出して、原子の配列を高分解能で観察することができる。
【0003】
図1は、従来の例による走査透過電子顕微鏡を模式的に説明する図である。
【0004】
電子顕微鏡の光軸に沿って試料Sに入射した電子線Bは、試料Sを透過する際に、試料Sを形成する原子によって散乱される。そして、光軸から高角度に散乱した電子は、環状の第1検出器126によって検出される。収束した電子線B用いて試料Sの表面を走査しながら、走査ごとに高角度に散乱した電子を第1検出器126によって検出し、検出された信号を電子線の走査位置の関数として画像化することにより、試料Sの暗視野像が得られる。
【0005】
第1検出器126によって検出される試料Sにより高角度に散乱される電子は、試料Sを形成する原子によって主に熱散漫散乱されたものである。この熱散漫散乱の散乱中心は、原子の中心であり、その散乱強度は原子番号の増加と共に高くなる。このように、走査透過電子顕微鏡を用いて暗視野像を撮像する方法は、高角度環状暗視野走査透過電子顕微鏡法(High−angle Annular Dark−Field Scanning Transmission Electron Microscopy :HAADF STEM)と呼ばれる。
【0006】
また、円板状の第2検出器127を用いると、第1検出器126で検出されるものよりも小さい角度で散乱した電子が検出される。第2検出器127による検出信号を画像化することにより、明視野像が得られる。走査透過電子顕微鏡では、暗視野像と共に、明視野像を撮像することできる。
【0007】
上述したHAADF STEM法では、撮像される原子像が焦点外れ量又は試料の厚さの影響を受け難いので、高い分解能の原子像が得られる。そして、原子位置に現れる原子像の輝度が、原子番号に依存するので、原子番号が大きい重い原子ほど、その検出が容易である。
【0008】
一方、原子番号が小さい軽い原子は、熱散漫散乱される電子の数が少ないため、HAADF STEM法では、軽い原子の検出は困難な場合がある。特に、試料が、原子番号の異なる重い原子及び軽い原子を含んでいる場合には、重い原子と共に軽い原子の像をコントラスト良く撮像することは困難である。
【0009】
そこで、走査透過電子顕微鏡を用いて、重い原子と共に、軽い原子の像をコントラスト良く撮像する方法が提案された。
【0010】
図2は、従来の他の例による走査透過電子顕微鏡を模式的に説明する図である。
【0011】
図2に示す走査透過電子顕微鏡は、電子を検出するための環状の検出器129を有している。この環状の検出器129は、図1に示す第1検出器127の中心部が円形に取り除かれた構造を有している。
【0012】
そして、図2に示す環状の検出器129を用いて、明視野像を撮像することにより、重い原子及び軽い原子の像が同時にコントラスト良く撮像される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2010−257883号公報
【特許文献2】特表2009−514141号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】S.J.Pennycook、et al., Phy.Rev.Lett. 64(1990)938
【非特許文献2】S.D.Findlay、et al., App.Phys.Lett. 95(2009)191913
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
通常、HAADF STEM法による走査透過電子顕微鏡は、図1に示すように、暗視野像を撮像するために環状の第1検出器126、及び明視野像を撮像するための円板状の第2検出器127を有している。しかし、通常の走査透過電子顕微鏡は、図2に示すような明視野像を撮像するための環状の検出器129は有していない。
【0016】
そこで、従来の走査透過電子顕微鏡において、図1に示す円板状の第2検出器127の中心部分を、円板状の遮蔽板を用いて覆うことにより、環状の検出器として使用することが提案されている。
【0017】
しかし、このような遮蔽板を走査透過電子顕微鏡に追加することは、装置に対して新たな改造が必要となる。また、遮蔽板を用いて図1に示す円板状の第2検出器127の中心部分を覆った状態で試料を撮像することは新たな撮像技術となるので、遮蔽板を用いた撮像は、従来の走査透過電子顕微鏡の撮像技術では困難であることが予想される。
【0018】
そこで、本明細書では、重い原子及び軽い原子を同時に観察可能な電子顕微鏡像を生成する像を生成する方法を提供することを目的とする。
【0019】
また、本明細書では、重い原子及び軽い原子を同時に観察可能な電子顕微鏡像を生成する画像処理装置を提供することを目的とする。
【0020】
更に、本明細書では、重い原子及び軽い原子を同時に観察可能な電子顕微鏡像を生成する走査透過電子顕微鏡及び画像処理装置を備えたシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上述した本明細書に開示する像を生成する方法の一形態によれば、走査透過電子顕微鏡により試料を撮像した暗視野像であって、走査透過電子顕微鏡の光軸からの第1角度と、上記第1角度よりも大きい第2角度との間に散乱した電子を検出して得られた暗視野像を取得し、上記暗視野像と共に撮像された明視野像であって、上記第1角度よりも小さい第3角度以内に散乱した電子を検出して得られた明視野像を取得し、上記暗視野像の明暗を反転して反転像を生成し、上記反転像の各画素の輝度と、上記反転像の各画素に対応する上記明視野像の画素の輝度との差を、各画素の輝度とする差分像を生成する。
【0022】
また、上述した本明細書に開示する画像処理装置の一形態によれば、走査透過電子顕微鏡により試料を撮像した暗視野像であって、走査透過電子顕微鏡の光軸からの第1角度と、上記第1角度よりも大きい第2角度との間に散乱した電子を検出して得られた暗視野像、及び、上記暗視野像と共に撮像された明視野像であって、上記第1角度よりも小さい第3角度以内に散乱した電子を検出して得られた明視野像を入力する入力部と、上記暗視野像の明暗を反転して反転像を生成し、且つ、上記反転像の各画素の輝度と上記反転像の各画素に対応する上記明視野像の画素の輝度との差を、各画素の輝度とする差分像を生成する画像処理部と、を備える。
【0023】
更に、上述した本明細書に開示するシステムの一形態によれば、電子線を出力する電子源と、上記電子源から出力された電子線の焦点を試料の位置に合焦させる対物レンズと、上記電子源と上記対物レンズとの間に配置され、電子線に試料の表面を走査させる走査コイルと、試料を通過した電子線を結像させる結像レンズと、走査透過電子顕微鏡の光軸からの第1角度と、上記第1角度よりも大きい第2角度との間に散乱した電子を検出する第1検出器と、上記第1角度よりも小さい第3角度以内に散乱した電子を検出する第2検出器と、上記第1検出器の検出信号に基づいて暗視野像を生成し、且つ上記第2検出器の検出信号に基づいて明視野像を生成する画像生成部と、を有する走査透過電子顕微鏡と、上記暗視野像及び上記明視野像を入力する入力部と、上記暗視野像の明暗を反転して反転像を生成し、且つ、上記反転像の各画素の輝度と上記反転像の各画素に対応する上記明視野像の画素の輝度との差を、各画素の輝度とする差分像を生成する画像処理部と、を有する画像処理装置と、を備える。
【発明の効果】
【0024】
上述した本明細書に開示する像を生成する方法の一形態によれば、重い原子及び軽い原子を同時に観察可能な電子顕微鏡像を生成できる。
【0025】
また、上述した本明細書に開示する画像処理装置の一形態によれば、重い原子及び軽い原子を同時に観察可能な電子顕微鏡像を生成できる。
【0026】
更に、上述した本明細書に開示するシステムの一形態によれば、重い原子及び軽い原子を同時に観察可能な電子顕微鏡像を生成できる。
【0027】
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるだろう。
【0028】
前述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】従来の例による走査透過電子顕微鏡を模式的に説明する図である。
【図2】従来の他の例による走査透過電子顕微鏡を模式的に説明する図である。
【図3】本明細書に開示するシステムの一実施例を説明する図である。
【図4】図3の要部を説明する図である。
【図5】画像処理装置のブロック図である。
【図6】画像処理装置のハードウェアを説明する図である。
【図7】重い原子及び軽い原子を同時に観察可能な電子顕微鏡像を生成する処理の考え方を説明する図(その1)である。
【図8】重い原子及び軽い原子を同時に観察可能な電子顕微鏡像を生成する処理の考え方を説明する図(その2)である。
【図9】重い原子及び軽い原子を同時に観察可能な電子顕微鏡像を生成する処理の考え方を説明する図(その3)である。
【図10】重い原子及び軽い原子を同時に観察可能な電子顕微鏡像を生成する処理の考え方を説明する図(その4)である。
【図11】計算により差分像を求めることを説明する図(その1)である。
【図12】計算により差分像を求めることを説明する図(その2)である。
【図13】暗視野像及び明視野像の規格化を説明する図(その1)である。
【図14】暗視野像及び明視野像の規格化を説明する図(その2)である。
【図15】暗視野像及び明視野像の規格化を説明する図(その3)である。
【図16】複数の試料に対して、計算により差分像を求めた結果を示す図である。
【図17】本明細書に開示するシステムの動作例を説明するフローチャートである。
【図18】本明細書に開示するシステムの他の動作例を説明するフローチャートである。
【図19】差分像を求める実施例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本明細書で開示するシステムの好ましい一実施例を、図を参照して説明する。但し、本発明の技術範囲はそれらの実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶものである。
【0031】
図3は、本明細書に開示するシステムの一実施例を説明する図である。図4は、図3の要部を説明する図である。
【0032】
本実施例のシステム10は、走査透過電子顕微鏡20と、走査透過電子顕微鏡20が撮像した暗視野像及び明視野像を入力して画像処理を行う画像処理装置30とを備える。
【0033】
走査透過電子顕微鏡20により撮像される試料Sは、異なる原子番号の複数の原子を含む周期的な構造を有し得る。原子番号の大きい方の原子は、相対的に質量が大きい重い原子であり、以下、単に重い原子ともいう。また、原子番号の小さい方の原子は、相対的に質量が小さい軽い原子であり、以下、単に軽い原子ともいう。
【0034】
走査透過電子顕微鏡20は、電子線Bを出力する電子源21と、電子源21が出力した電子線Bを収束させる収束レンズ22と、電子源21から出力された電子線Bの焦点を試料Sの位置に合焦させる対物レンズ24と、を備える。
【0035】
また、走査透過電子顕微鏡20は、電子源22と対物レンズ24との間に配置され、電子線Bに試料Sの表面を走査させる走査コイル23と、試料Sを通過した電子線を結像面に結像させる結像レンズ25と、を備える。
【0036】
また、走査透過電子顕微鏡20は、走査透過電子顕微鏡の光軸OAからの第1角度α1と、第1角度α1よりも大きい第2角度α2との間に散乱した電子を検出する第1検出器26を備える。第1検出器26は、環状の検出器であり、暗視野像が結像する結像面に配置される。以下、この第1検出器26を、高角度環状暗視野像検出器ともいう。走査透過電子顕微鏡20の光軸OAは、対物レンズ24及び結像レンズ25の光軸と一致する。
【0037】
また、走査透過電子顕微鏡20は、第1角度α1よりも小さい第3角度α3以内に散乱した電子を検出する第2検出器27を備える。第2検出器27は、円板状の検出器であり、明視野像が結像する結像面に配置される。以下、この第2検出器27を、小角度明視野像検出器ともいう。
【0038】
更に、走査透過電子顕微鏡20は、上述した電子線源21又はレンズ又はコイル等を制御する制御部28を備える。この制御部28は、第1検出器26の検出信号に基づいて暗視野像を生成し、且つ第2検出器27の検出信号に基づいて明視野像を生成する画像生成部28aを有する。画像生成部28aは、生成した明視野像及び暗視野像を、上述した画像処理装置30に出力する。
【0039】
また、走査透過電子顕微鏡20は、不要な電子線の拡がりをカットする収束レンズ絞り、又は球面収差・非点収差等の収差を補正する補正部を備えていても良い。
【0040】
走査透過電子顕微鏡20は、収束させた電子線Bを用いて試料Sの表面を走査し、走査する一点毎に暗視野像及び明視野像それぞれの一画素の輝度を取得することにより、暗視野像及び明視野像を同時に取得する。暗視野像及び明視野像は、同じ走査により取得されるので、画素数は同じである。
【0041】
第1角度α1は、高角度環状暗視野像検出器26によって検出され得る電子の最小の散乱角である。第1角度α1は、光軸OAからの電子の進行方向側の角度である。第1角度α1は、大きい程好ましく、少なくとも40mrad以上であることが好ましい。通常、第1角度α1は、70mrad程度に設定される。
【0042】
第2角度α2は、高角度環状暗視野像検出器26によって検出され得る電子の最大の散乱角である。第2角度α2は、光軸OAからの電子の進行方向側の角度である。第2角度α2は、大きい程好ましく、少なくとも70mrad以上であることが好ましい。通常、第2角度α2は、180mrad程度に設定される。
【0043】
第3角度α3は、試料Sが含む重い原子及び軽い原子の内の軽い原子の原子番号に基づいて設定されることが好ましい。また、第3角度α3の上限値は、詳しくは後述するが、小角度明視野像検出器27を用いて撮像される明視野像が、環状高角度暗視野像検出器26を用いて撮像される暗視野像の相補像と類似しない範囲に設定されることが好ましい。
【0044】
例えば、軽い原子の原子番号が8以下である場合には、第3角度α3は、7〜12mradの範囲に設定することが好ましい。
【0045】
第3角度α3が7mradよりも小さいと、小角度明視野像検出器27を用いて撮像される明視野像において、原子像の輝度が不安定になるおそれがある。一方、第3角度α3が12mradよりも大きいと、小角度明視野像検出器27を用いて撮像される明視野像が、環状高角度暗視野像検出器26を用いて撮像される暗視野像の相補像と類似してくるので好ましくない。
【0046】
次に、画像処理装置30について、図を参照しながら、以下に説明する。
【0047】
図5は、画像処理装置のブロック図である。図6は、画像処理装置のハードウェアを説明する図である。
【0048】
図5に示すように、画像処理装置30は、画像生成部28aから暗視野像及び明視野像を入力する画像入力部31と、暗視野像の明暗を反転して反転像を生成し、且つ、この反転像の各画素の輝度と反転像の各画素に対応する明視野像の画素の輝度との差を、各画素の輝度とする差分像を生成する画像処理部33と、生成した差分像を出力する画像出力部33と、を有する。
【0049】
図6に示すように、画像処理装置30は、上述した各機能を実現するためのハードウェアとして、演算部30aと、記憶部30bと、表示部30cと、入力部30dと、出力部30eと、通信部30fとを有する。演算部30aは、記憶部30bに記憶された所定のプログラムを実行することにより、上述した画像処理装置30の各機能を実現する。
【0050】
所定のプログラムは、例えば通信部30fを用いて、ネットワーク(図示しない)を介して記憶部30bに記憶することができる。また、画像処理装置30の通信部30fと、走査透過電子顕微鏡20の制御部28とをネットワークを介して接続することにより、暗視野像及び明視野像を、ネットワークを介して入力しても良い。
【0051】
画像処理装置30は、例えば、サーバ又はパーソナルコンピュータ等のコンピュータ、若しくはステートマシン等を用いて形成され得る。走査透過電子顕微鏡20の制御部28も、図6に示すのと同様のハードウェアを用いて実現され得る。
【0052】
走査透過電子顕微鏡20が撮像した暗視野像には、試料Sが含む重い原子及び軽い原子の内の重い原子の原子像が高い輝度(例えば、明るいスポット)で示される。しかし、軽い原子は、通常、輝度が低く視認することが難しい場合が多い。
【0053】
また、走査透過電子顕微鏡20が撮像した明視野像には、試料Sが含む重い原子及び軽い原子の内の重い原子の原子像が低い輝度(例えば、暗いスポット)で示されており、軽い原子は重い原子よりは高い輝度(例えば、明るいスポット)で示される。従って、走査透過電子顕微鏡20が撮像した明視野像では、重い原子の原子像は黒く示されており、軽い原子の原子像は白く示されることになる。このように、走査透過電子顕微鏡20が撮像した明視野像では、重い原子と軽い原子とが表されてはいるものの、一方が明るいスポットとして示されており、他方が暗いスポットとして示されている。そのため、背景の輝度等の影響により、それぞれの原子の配列を正確に観察することが困難な場合がある。試料が原子番号の異なる3種類以上の原子を含む場合には、原子の配列を正確に観察することが特に困難となる。
【0054】
画像処理装置30は、明視野像及び暗視野像を用いて画像処理を行うことにより、試料Sが含む重い原子及び軽い原子を、どちらも明暗に差はあるものの暗いスポットとして原子像を表すことにより、原子の配列を正確に観察することが可能な像を生成する。このような電子顕微鏡像を用いることにより、重い原子及び軽い原子を同時に観察可能となる。
【0055】
次に、画像処理装置30が用いる画像処理の方法を、以下の順番で説明する。
(1)まず、重い原子及び軽い原子を同時に観察可能な電子顕微鏡像を生成する画像処理の考え方を説明する。
(2)次に、上述した考え方を確認するために、計算により求めた電子顕微鏡像を用いて、重い原子及び軽い原子を同時に観察可能な電子顕微鏡像を生成する。
(3)次に、走査透過電子顕微鏡により撮像された暗視野像及び明視野像を画像処理する際に行う規格化の説明を行う。
【0056】
(1)重い原子及び軽い原子を同時に観察可能な電子顕微鏡像を生成する画像処理の考え方の説明
【0057】
図7〜図10は、重い原子及び軽い原子を同時に観察可能な電子顕微鏡像を生成する処理の考え方を説明する図である。
【0058】
画像処理装置30は、環状高角度暗視野像検出器26を用いて撮像された暗視野像と、小角度明視野像検出器27を用いて上記暗視野像と同時に撮像された明視野像とに基づいて、図2に示す環状の検出器を用いて撮像された明視野像に対応する電子顕微鏡像を生成する。
【0059】
図7には、図4に示す走査透過電子顕微鏡に対して、図2に示す環状の検出器29を仮想的に追加した状態が示されている。環状の検出器29は、試料Sを透過した後、光軸OAからの第3角度α3と第1角度α1との間に散乱した電子を検出する。以下、この環状の検出器29を、環状高角度明視野像検出器ともいう。
【0060】
また、図7には、環状高角度明視野像検出器29及び小角度明視野像検出器27を一体に形成した円板状の検出器27aが示されている。以下、この円板状の検出器27aを、高角度明視野像検出器ともいう。高角度明視野像検出器27aは、光軸OAから第1角度α1よりも小さい角度で散乱した電子を検出する。
【0061】
図8に示すように、環状高角度明視野像検出器29は、高角度明視野像検出器27aから小角度明視野像検出器27の部分を取り除いたものに対応する。
【0062】
そして、本出願人は、図9に示すように、環状高角度明視野像検出器29を用いて撮像され明視野像が、高角度明視野像検出器27aを用いて撮像された明視野像の各画素の輝度と、この明視野像の各画素に対応する、小角度明視野像検出器27を用いて撮像された明視野像の画素の輝度との差を各画素の輝度とする差分像であることを見出した。
【0063】
次に、高角度明視野像検出器27aを用いて撮像された明視野像と、小角度明視野像検出器27を用いて撮像された明視野像との差分像が、試料Sが含む重い原子及び軽い原子を共に暗いスポットとする原子像になることを、図10を参照して、以下に説明する。
【0064】
図10(A)には、試料Sに含まれる重い原子Hと軽い原子Lとが交互に配置された原子列の構造が示されている。
【0065】
図10(B)には、試料Sが高角度明視野像検出器27aを用いて撮像された明視野像における図10(A)の矢印のラインに沿った電子線の強度分布が示されている。図10(A)の横軸は、走査された原子列の位置を示しており、縦軸は、検出器に検出された電子線の強度を示している。
【0066】
図10(B)には、重い原子Hの位置に対応して、ベースラインよりも強度の低いピークP1が示されている。重い原子Hは、熱散漫散乱が強いので、多くの電子が第1角度α1以上の散乱角で散乱されるため、第1角度α1よりも小さい散乱角で散乱された電子に基づいて生成された明視野像では、重い原子Hの原子像は暗いスポットとなる。一方、軽い原子Lの位置には、原子の存在を示すピークは示されていない。
【0067】
図10(C)には、試料Sが小角度明視野像検出器27を用いて撮像された明視野像における図10(A)の矢印のラインに沿った電子線の強度分布が示されている。図10(C)の横軸は、走査された原子列の位置を示しており、縦軸は、検出器に検出された電子線の強度を示している。
【0068】
図10(C)には、軽い原子Lの位置に対応して、ベースラインよりも強度の高いピークP2が示されている。また、図10(C)には、重い原子Hの位置に対応して、ベースラインよりも強度の低いピークP3が示されている。小角度明視野像検出器27の寸法は高角度明視野像検出器27aの寸法よりも小さいので、ピークP3の大きさは、ピークP1よりも小さくなっている。
【0069】
図10(D)には、図10(B)に示す電子線の強度と図10(C)に示す電子線の強度の差が、図10(A)の矢印のラインに沿って示されている。
【0070】
図10(D)では、重い原子Hの位置に対応して、ベースラインよりも強度の低いピークP4が示されるのと共に、軽い原子Lの位置に対応して、ベースラインよりも強度の低いピークP5が示されている。ベースラインに対して強度の低いピークP4及びピークP5は、画像内で共に暗いスポットとして示される。
【0071】
このように差分像では、試料Sが含む重い原子H及び軽い原子Lの像が共に暗いスポットとして表される。
【0072】
ここで、本出願人は、環状高角度暗視野像検出器26を用いて撮像された暗視野像が、高角度明視野像検出器27aを用いて撮像された明視野像の相補像に対応することをすでに報告している(K.Watanabe et al.,Acta Crystallographica Section A:Foundations of Crystallography 60(2004)591を参照)。
【0073】
即ち、図9に示すように、環状高角度暗視野像検出器26を用いて撮像された暗視野像の明暗を反対にした反対像は、高角度明視野像検出器27aを用いて撮像された明視野像に対応する。
【0074】
そこで、図8に示すように、上述した相補性を利用して、環状高角度暗視野像検出器26を、高角度明視野像検出器27aの代わりとして用いることとした。
【0075】
即ち、システム10では、環状高角度暗視野像検出器26を用いて撮像した暗視野像の明暗を反転した反転像の各画素の輝度と、この反転像の各画素と対応する、小角度明視野像検出器27を用いて撮像した明視野像の画素の輝度との差を、各画素の輝度とする差分像を生成する。この差分像は、図9に示すように、環状高角度明視野像検出器29を用いて撮像され明視野像に対応する。
【0076】
環状高角度暗視野像検出器26を用いて撮像した暗視野像及び小角度明視野像検出器27を用いて撮像した明視野像は、同じ走査により取得されているので、画素数は同じであるため、対応する画素同士の輝度の減算を行うことにより差分像が得られる。
【0077】
環状高角度暗視野像検出器26及び小角度明視野像検出器27は、一般の走査透過電子顕微鏡が有している検出器である。このように、システム10では、環状高角度暗視野像検出器26のような追加の検出器を用いることなく、環状高角度暗視野像検出器26及び小角度明視野像検出器27を利用して、環状高角度明視野像検出器29を用いて撮像され明視野像を生成する。
【0078】
ここで、差分像において、重い原子及び軽い原子の原子像がコントラスト良く表わされるためには、環状高角度暗視野像検出器26を用いてコントラストの良い暗視野像が撮像されることが好ましい。従って、環状高角度暗視野像検出器26を用いて撮像される暗視野像は、コントラストが最大となる焦点外れ量において撮像されたものであることが好ましい。通常、コントラストが最大となる焦点位置は、正焦点近傍であるが、正焦点の位置において、コントラストが最大になるとは限らないので、暗視野像は、コントラストが最大となる焦点外れ位置で撮影されることが好ましい。なお、この焦点外れ位置は、正焦点を含む意味である。
【0079】
また、第3角度α3が第1角度α1に近づくにつれて、小角度明視野像検出器27の寸法が、高角度明視野像検出器27aに近づいてくる(図7参照)。従って、第3角度α3が第1角度α1に近づくにつれて、小角度明視野像検出器27を用いて撮像される明視野像は、高角度明視野像検出器27aを用いて撮像される明視野像と類似してくる。従って、第3角度α3は、小角度明視野像検出器27を用いて撮像される明視野像が、高角度明視野像検出器27aを用いて撮像される明視野像と類似しない範囲に設定されることが好ましい。即ち、上述したように、第3角度α3は、小角度明視野像検出器27を用いて撮像される明視野像が、環状高角度暗視野像検出器26を用いて撮像される暗視野像の相補像と類似しない範囲に設定されることが好ましい。
【0080】
(2)計算により求めた電子顕微鏡像を用いて、重い原子及び軽い原子を同時に観察可能な電子顕微鏡像を生成することの説明
【0081】
次に、上述した差分像を生成する考え方を具体的に確認するために、高角度明視野像検出器27aを用いて撮像された明視野像及び小角度明視野像検出器27を用いて撮像された明視野像それぞれを計算により求め、それらの差分像を生成した。
【0082】
図11及び図12は、計算により差分像を求めることを説明する図である。
【0083】
図11の画像40aは、試料であるSrTiO3の(011)面を、図7に示す高角度明視野像検出器27aを用いて撮像した明視野像を計算により求めたものである。また、画像40bは、画像40aと対応するSrTiO3の(011)面を、図7に示す小角度明視野像検出器27を用いて撮像した明視野像を計算により求めたものである。更に、画像40cは、画像40aと対応するSrTiO3の(011)面を、図7に示す環状高角度明視野像検出器29を用いて撮像した明視野像を計算により求めたものである。
【0084】
SrTiO3が試料である場合、Sr原子及びTi原子が重い原子であり、O原子が軽い原子となる。
【0085】
上述した明視野像の計算方法としては、ベーテ法(ブロッホ波法)又はマルチスライス法を用いることができる。また、計算条件としては、加速電圧を200kVとし、電子線の収束角度を20mradとし、球面収差係数を−0.5μmとし、色収差係数を1.7mmとした。また、試料の厚さは30nmとした。
【0086】
図11の画像40aには、Sr原子の原子像が暗いスポットとして示されている。また、画像40aには、Ti原子の原子像が、Sr原子の原子像よりも明るいものの暗いスポットとして示されている。一方、画像40aには、O原子は、識別可能には示されていない。
【0087】
また、図11の画像40bには、Sr原子の原子像が暗いスポットとして示されている。また、画像40bには、Ti原子の原子像が明るいスポットとして示されている。更に、画像40bには、O原子の原子像が明るいスポットとして示されている。
【0088】
図11の画像40cには、Sr原子の原子像が暗いスポットとして示されている。また、画像40cには、Ti原子の原子像が、Sr原子の原子像よりも明るいものの暗いスポットとして示されている。更に、画像40cには、O原子の原子像が、Ti原子の原子像よりも明るいものの暗いスポットとして示されている。
【0089】
図12には、図11の画像40aにおけるラインX1及びX2に沿った検出電子の強度が示されている。カーブC1は、ラインX1に沿った検出電子の強度であり、カーブC2は、ラインX2に沿った検出電子の強度である。図12の縦軸の検出電子の強度は、試料に入射した電子の量を100%として、検出器によって検出された電子の割合を示している。この図12の縦軸の検出電子の強度は、各画像40a、40b、40cにおける画素の輝度に対応する。
【0090】
また、図12には、図11の画像40bにおいて、画像40aのラインX1及びX2に対応した位置の検出電子の強度が示されている。カーブC3は、ラインX1に沿った検出電子の強度であり、カーブC4は、ラインX2に沿った検出電子の強度である。
【0091】
更に、図12には、図11の画像40cにおいて、画像40aのラインX1及びX2に対応した位置の検出電子の強度が示されている。カーブC5は、ラインX1に沿った検出電子の強度であり、カーブC6は、ラインX2に沿った検出電子の強度である。
【0092】
また、図12には、カーブC1の値と、カーブC3の値との差をプロットしたプロットB1が示されている。このプロットB1は、カーブC5と一致している。
【0093】
同様に、図12には、カーブC2の値と、カーブC4の値との差をプロットしたプロットB2が示されている。このプロットB2は、カーブC6と一致している。
【0094】
このようにして、高角度明視野像検出器27aを用いて撮像された明視野像と小角度明視野像検出器27を用いて撮像された明視野像との差分像が、環状高角度明視野像検出器29を用いて撮像された明視野像と一致することが確認された。
【0095】
(3)走査透過電子顕微鏡により撮像された暗視野像及び明視野像を画像処理する際に行う規格化の説明
【0096】
上述した差分像を求める際には、高角度明視野像検出器27aを用いて撮像された明視野像の輝度としての電子強度と、小角度明視野像検出器27を用いて撮像された明視野像の対応する画素の輝度としての電子強度との差を直接計算した。
【0097】
しかし、実際に撮像される電子顕微鏡像では、環状高角度暗視野像検出器26の検出感度と、小角度明視野像検出器27の検出感度とが異なるので、差分を求める前に、暗視野像の明暗を反転した反転像と明視野像それぞれに対して、輝度の規格化を行う必要がある。そこで、システム10では、以下に説明する方法で、輝度の規格化を行うこととした。
【0098】
まず、撮像された暗視野像に検出された原子像に基づいて求められた試料Sの結晶構造を用いて、反転像に対応する計算された走査透過電子顕微鏡像である計算反転像及び明視野像に対応する計算された走査透過電子顕微鏡像である計算明視野像を求める。
【0099】
撮像される試料Sが重い原子及び軽い原子を含む場合、重い原子の原子像は、環状高角度暗視野像検出器26を用いて撮像される暗視野像に表れるが、軽い原子の原子像は表れない場合がある。試料Sは、通常、未知の物質である。そして、撮像された暗視野像から、未知の物質である試料Sに関する情報として、試料Sには少なくとも重い原子が含まれることが、その重い原子の原子像の配置と共に得られる。
【0100】
そして、撮像された暗視野像に検出された原子像に基づいて、試料Sの結晶構造が求められる。この際、同じ試料SをX線回折分析等により測定した他の分析結果を併用して、試料Sの結晶構造が求められることが好ましい。また、撮像された暗視野像から、試料Sの結晶構造が欠陥を含んでいることが分かる場合には、そのような欠陥を含む結晶構造を求めても良い。
【0101】
計算反転像及び計算明視野像は、上述したベーテ法(ブロッホ波法)又はマルチスライス法を用いて計算され得る。また、計算反転像及び計算明視野像の計算条件としては、暗視野像及び明視野像を撮像するのに用いた走査透過電子顕微鏡の撮像条件と同じ条件を用いることが好ましい。
【0102】
なお、試料Sが既知の物質である場合には、既知である試料Sの結晶構造を用いても良い。
【0103】
次に、反転像における輝度の最大値及び最小値を、計算反転像における輝度の最大値及び最小値と一致するように、反転像を規格化する。同時に、明視野像における輝度の最大値及び最小値を、計算明視野像における輝度の最大値及び最小値と一致するように、明視野像を規格化する。
【0104】
暗視野像の明暗を反転させた反転像の生成は、例えば、暗視野像の各画素の輝度が、8ビットで0〜255の値で表されている場合には、各画素の輝度の値に−1をかけて、各画素の輝度が−255〜0の値で表される反転像を生成しても良い。また、255から暗視野像の各画素の輝度の値を減算して、各画素の輝度が0〜255の値で表される反転像を生成しても良い。
【0105】
反転像の規格化は、例えば、次の手順で行うことができる。まず、反転像から輝度の最大値BMa及び最小値BMiを得る。次に、計算反転像から輝度の最大値CMa及び最小値CMiを得る。次に、CMa=A・BMa+B、CMi=A・BMi+Bという連立方程式を解いて、未知数A及びBを求める。そして、求めたA及びBを用いて、反転像の各画素の輝度を規格化する。
【0106】
明視野像の規格化も同様に行うことができる。
【0107】
次に、上述した規格化の考え方を具体的に確認するために、計算により求めた暗視野像及び明視野像を用いて、規格化の処理を行った。
【0108】
図13〜図15は、暗視野像及び明視野像の規格化を説明する図である。
【0109】
図13の画像41aは、SrTiO3の(011)面を、図3及び図4に示す環状高角度暗視野像検出器26を用いて撮像した暗視野像を計算により求めたものである。また、また、画像41bは、画像41aと対応するSrTiO3の(011)面を、図3及び図4に示す小角度明視野像検出器27を用いて撮像した明視野像を計算により求めたものである。
【0110】
図13の画像41aには、Sr原子の原子像が、明るいスポットとして示されている。また、画像41aには、Ti原子の原子像が、Sr原子よりは暗いものの明るいスポットとして示されている。一方、画像41aには、O原子は、識別可能には示されていない。なお、図13の画像41aは、図11の画像40aの明暗を反対にした反対像である。
【0111】
図13の画像41bは、図11の画像40bと同じものである。
【0112】
図13の画像41cは、暗視野像である画像41aに検出された原子像に基づいて求められた試料の結晶構造を用いて、画像41aの反転像に対応する計算された走査透過電子顕微鏡像である計算反転像を示す。また、画像41dは、暗視野像である画像41aに検出された原子像に基づいて求められた試料の結晶構造を用いて、明視野像である画像41bに対応する計算された走査透過電子顕微鏡像である計算明視野像である。ここで、試料の結晶構造は既知であるので、暗視野像である画像41aに検出された原子像に基づいて求められた試料の結晶構造としては、SrTiO3からO原子を除いた結晶構造を用いた。
【0113】
計算条件としては、加速電圧を200kVとし、電子線の収束角度を20mradとし、球面収差係数を−0.5μmとし、色収差係数を1.7mmとした。また、試料の厚さは30nmとした。この条件は、図11及び12の計算に用いた条件と同じである。環状高角度暗視野像検出器26の検出感度は、小角度明視野像検出器27との検出感度とは異なった値を用いて計算を行った。
【0114】
図14には、図13の画像41aにおけるラインX3及びX4に沿った検出電子の強度が示されている。プロットD1は、ラインX1に沿った検出電子の強度であり、プロットD2は、ラインX2に沿った検出電子の強度である。
【0115】
また、図14には、図13の画像41bにおいて、画像41aのラインX3及びX4に対応した位置の検出電子の強度が示されている。プロットD3は、ラインX3に沿った検出電子の強度であり、プロットD4は、ラインX4に沿った検出電子の強度である。
【0116】
ここで、図14におけるプロットD1〜D4の検出電子の強度は、図13における画像の輝度を表す0〜255の値(図14の左側の縦軸参照)で示されている。
【0117】
また、図14には、図13の画像41cにおいて、画像41aのラインX3及びX4に対応した位置の検出電子の強度が示されている。ラインE1は、ラインX3に沿った検出電子の強度であり、ラインE2は、ラインX4に沿った検出電子の強度である。
【0118】
同様に、図14には、図13の画像41dにおいて、画像41aのラインX3及びX4に対応した位置の検出電子の強度が示されている。ラインE3は、ラインX3に沿った検出電子の強度であり、ラインE4は、ラインX4に沿った検出電子の強度である。
【0119】
ここで、ラインE1〜E4の検出電子の強度は、試料に入射した電子の量を100%として、検出器によって検出された電子の割合を示している。
【0120】
図15には、画像41aの明暗を反転した反転像を規格化した反転像におけるラインX3に沿った検出電子の強度であるプロットF1が示されている。また、図15には、画像41aの明暗を反転した反転像を規格化した反転像におけるラインX4に沿った検出電子の強度であるプロットF2が示されている。プロットF1及びF2の値は、試料に入射した電子の量を100%として、検出器によって検出された電子の割合で示されている。
【0121】
プロットF1は、ラインE1と良く一致している。また、プロットF2は、O原子の有無に起因する差があるものの、ラインE2と良く一致している。
【0122】
また、図15には、画像41cを規格化した像におけるラインX3に沿った検出電子の強度であるプロットF3が示されている。また、図15には、画像41aを規格化した像におけるラインX4に沿った検出電子の強度であるプロットF4が示されている。
【0123】
プロットF3は、O原子の有無に起因する差があるものの、ラインE3と良く一致している。また、プロットF4は、ラインE4と良く一致している。プロットF3及びF4の値は、試料に入射した電子の量を100%として、検出器によって検出された電子の割合で示されている。
【0124】
なお、図15におけるラインE1〜E4は、図14のラインE1〜E4と同じものである。
【0125】
以上の結果から、規格化された反転像及び明視野像は、O原子の有無に起因する差があるものの、計算反転像及び計算明視野像と良く一致することが分かった。従って、上述した規格化の考え方が妥当性を有することが判明した。
【0126】
次に、上述した規格化の考え方を確認するために、複数の試料に対して、暗視野像の規格化された反転像と規格化された明視野像との差分像を計算により求めて検証した。
【0127】
図16は、4つの試料に対して、計算により差分像を求めた結果を示す図である。
【0128】
まず、画像42a、42b、42c、42dについて以下に説明する。
【0129】
画像42aは、SrTiO3の(001)面を、図3及び図4に示す環状高角度暗視野像検出器26を用いて撮像した暗視野像を計算により求めたものである。試料の厚さは、30nmとした。画像42bは、画像42aと対応するSrTiO3の(001)面を、図3及び図4に示す小角度明視野像検出器27を用いて撮像した明視野像を計算により求めたものである。
【0130】
計算条件としては、加速電圧を200kVとし、電子線の収束角度を20mradとし、球面収差係数を−0.5μmとし、色収差係数を1.7mmとした。また、試料の厚さは30nmとした。環状高角度暗視野像検出器26の検出感度は、小角度明視野像検出器27の検出感度とは異なった値を用いて計算を行った。
【0131】
画像42cは、画像42aの明暗を反転した反転像を規格化したものである。画像42aの反転像の規格化は、画像42aの反転像に対応する計算された走査透過電子顕微鏡像である計算反転像を用いて行われた。ここで、試料の結晶構造は既知であるので、暗視野像である画像42aに検出された原子像に基づいて求められた試料の結晶構造としては、SrTiO3からO原子を除いた結晶構造を用いた。
【0132】
画像42dは、画像42aの規格化された反転像である画像42cの各画素の輝度と、規格化された画像42bの対応する画素の輝度との差を、各画素の輝度として生成された差分像である。なお、画像42dには、ノイズを除去する処理が行われている。
【0133】
画像42dには、重い原子であるSr原子の原子像及びTi原子の原子像が共に暗いスポットとして示されている。また、画像42dには、画像中の矢印で示すように、軽い原子であるO原子の原子像も暗いスポットとして示されている。
【0134】
次に、画像43a、43b、43c、43dについて以下に説明する。
【0135】
画像43aは、SrTiO3の(011)面を、図3及び図4に示す環状高角度暗視野像検出器26を用いて撮像した暗視野像を計算により求めたものである。試料の厚さは、30nmとした。画像43bは、画像43aと対応するSrTiO3の(011)面を、図3及び図4に示す小角度明視野像検出器27を用いて撮像した明視野像を計算により求めたものである。
【0136】
計算条件としては、加速電圧を200kVとし、電子線の収束角度を20mradとし、球面収差係数を−0.5μmとし、色収差係数を1.7mmとした。また、試料の厚さは30nmとした。環状高角度暗視野像検出器26の検出感度は、小角度明視野像検出器27との検出感度とは異なった値を用いて計算を行った。
【0137】
画像43cは、画像43aの明暗を反転した反転像を規格化したものである。画像43aの反転像の規格化は、画像43aの反転像に対応する計算された走査透過電子顕微鏡像である計算反転像を用いて行われた。ここで、試料の結晶構造は既知であるので、暗視野像である画像43aに検出された原子像に基づいて求められた試料の結晶構造としては、SrTiO3からO原子を除いた結晶構造を用いた。
【0138】
画像43dは、画像43aの規格化された反転像である画像43cの各画素の輝度と、規格化された画像43bの対応する画素の輝度との差を、各画素の輝度として生成された差分像である。なお、画像43dには、ノイズを除去する処理が行われている。
【0139】
画像43dには、重い原子であるSr原子の原子像及びTi原子の原子像が共に暗いスポットとして示されている。また、画像43dには、画像中の矢印で示すように、軽い原子であるO原子の原子像も暗いスポットとして示されている。
【0140】
次に、画像44a、44b、44c、44dについて以下に説明する。
【0141】
画像44aは、試料の厚さ60nmであることを除いては、画像43aと同様に計算して求められた。同様に、画像44bは、画像43bに対応し、画像44cは、画像43cに対応し、画像44dは、画像43dに対応する。
【0142】
画像44dには、重い原子であるSr原子の原子像及びTi原子の原子像が共に暗いスポットとして示されている。また、画像44dには、画像中の矢印で示すように、軽い原子であるO原子の原子像も暗いスポットとして示されている。
【0143】
このように、試料の厚さが異なっても、軽い原子であるO原子の原子像が、重い原子の原子像と共にを確認することができた。
【0144】
最後に、画像45a、45b、45c、45dについて以下に説明する。
【0145】
画像45aは、GaNの(11−20)面を、図3及び図4に示す環状高角度暗視野像検出器26を用いて撮像した暗視野像を計算により求めたものである。試料の厚さは、30nmとした。画像45bは、画像45aと対応するGaNの(11−20)面を、図3及び図4に示す小角度明視野像検出器27を用いて撮像した明視野像を計算により求めたものである。
【0146】
計算条件としては、加速電圧を200kVとし、電子線の収束角度を20mradとし、球面収差係数を−0.5μmとし、色収差係数を1.7mmとした。また、試料の厚さは30nmとした。環状高角度暗視野像検出器26の検出感度は、小角度明視野像検出器27との検出感度とは異なった値を用いて計算を行った。
【0147】
画像45cは、画像45aの明暗を反転した反転像を規格化したものである。画像45aの反転像の規格化は、画像45aの反転像に対応する計算された走査透過電子顕微鏡像である計算反転像を用いて行われた。ここで、試料の結晶構造は既知であるので、暗視野像である画像45aに検出された原子像に基づいて求められた試料の結晶構造としては、GaNからN原子を除いた結晶構造を用いた。
【0148】
画像45dは、画像45aの規格化された反転像である画像45cの各画素の輝度と、規格化された画像45bの対応する画素の輝度との差を、各画素の輝度として生成された差分像である。なお、画像45dには、ノイズを除去する処理が行われている。
【0149】
画像45dには、重い原子であるGa原子の原子像が暗いスポットとして示されている。また、画像45dには、画像中の矢印で示すように、軽い原子であるN原子の原子像も暗いスポットとして示されている。
【0150】
次に、上述した本実施例のシステム10の動作例を、図17を参照して、以下に説明する。
【0151】
図17は、本明細書に開示するシステムの動作例を説明するフローチャートである。
【0152】
まず、ステップS10において、走査透過電子顕微鏡20を用いて、異なる原子番号の複数の原子を含む周期的な構造を有する試料Sの暗視野像及び明視野像が取得される。暗視野像は、走査透過電子顕微鏡20の光軸からの第1角度α1と、第1角度α1よりも大きい第2角度α3との間に散乱した電子が、環状高角度暗視野像検出器26を用いて撮像された像である。また、明視野像は、前記第1角度α1よりも小さい第3角度α3以内に散乱した電子が、小角度明視野像検出器27を用いて、暗視野像と共に撮像された像である。暗視野像及び明視野像の取得は、どちらかを先に取得しても良いし、両方を同時に取得しても良い。
【0153】
次に、ステップS12において、撮像した暗視野像の明暗を反転して、反転像が生成される。
【0154】
次に、ステップS14において、撮像した暗視野像に検出された原子像に基づいて求められた試料の結晶構造を用いて、暗視野像の明暗を反転した反転像に対応する計算された計算反転像及び明視野像に対応する計算された計算明視野像が求められる。計算反転像及び計算明視野像の計算は、どちらかを先に求めても良いし、両方を同時に求めても良い。
【0155】
次に、ステップS16において、計算反転像の輝度の最大値及び最小値を用いて、反転像が規格化され、且つ、計算明視野像の輝度の最大値及び最小値を用いて、明視野像が規格化される。
【0156】
具体的には、反転像における輝度の最大値及び最小値を、計算反転像における輝度の最大値及び最小値と一致するように、反転像が規格化される。また、明視野像における輝度の最大値及び最小値を、計算明視野像における輝度の最大値及び最小値と一致するように、明視野像が規格化される。
【0157】
そして、ステップS18に示すように、規格化された反転像の各画素の輝度と、この反転像の各画素に対応する規格化された明視野像の画素の輝度との差を、各画素の輝度とする差分像が生成される。
【0158】
また、上述したシステム10の動作例においては、次に説明するように、暗視野像を規格化した後に、規格化された暗視野像の明暗を反転した規格化された反転像を生成しても良い。
【0159】
図18は、本明細書に開示するシステムの他の動作例を説明するフローチャートである。
【0160】
まず、ステップS20に示すように、走査透過電子顕微鏡20を用いて、異なる原子番号の複数の原子を含む周期的な構造を有する試料Sの暗視野像及び明視野像が取得される。
【0161】
次に、ステップS22に示すように、暗視野像に検出された原子像に基づいて求められた試料の結晶構造を用いて、暗視野像に対応する計算された計算暗視野像及び明視野像に対応する計算された計算明視野像が求められる。
【0162】
次に、ステップS24に示すように、計算暗視野像の輝度の最大値及び最小値を用いて、暗視野像が規格化され、且つ、計算明視野像の輝度の最大値及び最小値を用いて、明視野像が規格化される。
【0163】
具体的には、暗視野像における輝度の最大値及び最小値を、計算暗視野像における輝度の最大値及び最小値と一致するように、暗視野像が規格化される。また、明視野像における輝度の最大値及び最小値を、計算明視野像における輝度の最大値及び最小値と一致するように、明視野像が規格化される。
【0164】
次に、ステップS26に示すように、規格化された暗視野像の明暗を反転して、規格化された反転像が生成される。
【0165】
そして、ステップS28に示すように、規格化された反転像の各画素の輝度と、この反転像の各画素に対応する規格化された明視野像の画素の輝度との差を、各画素の輝度とする差分像が生成される。
【0166】
上述した本実施例のシステム10によれば、重い原子及び軽い原子を同時に観察可能な電子顕微鏡像が生成される。
【0167】
以下、本明細書に開示するシステムについて、実験例を用いて更に説明する。ただし、本発明の範囲はかかる実験例に制限されるものではない。
【0168】
試料として、(001)面を有するSrTiO3を用いた。撮像条件は、加速電圧を200kVとし、電子線の収束角度を20mradとし、球面収差係数を−0.5μmとし、色収差係数を1.7mmとした。また、試料の厚さは30nmとした。
【0169】
第1角度α1を、40mradとし、第2角度α2を、160mradとし、第3角度α3を、9.4mradとした。
【0170】
そして、SrTiO3の(001)面を、図3及び図4に示す環状高角度暗視野像検出器26及び小角度明視野像検出器27を用いて撮像した。撮像した結果を図19に示す。
【0171】
画像46aは、SrTiO3の(001)面を、図3及び図4に示す環状高角度暗視野像検出器26を用いて撮像した暗視野像である。画像46bは、SrTiO3の(001)面を、図3及び図4に示す小角度明視野像検出器27を用いて、画像46aと同時に撮像した明視野像である。
【0172】
画像46cは、画像46aの明暗を反転した反転像である。
【0173】
画像46dは、画像46cが規格化された画像の各画素の輝度と、画像46bが規格化された画像の対応する画素の輝度との差を、各画素の輝度として生成された差分像である。画像46cは、画像46aに検出された原子像に基づいて求められた試料の結晶構造を用いて、画像46aの反転像に対応する計算された走査透過電子顕微鏡像である計算反転像を用いて規格化された。ここで、試料の結晶構造は既知であるので、暗視野像である画像46aに検出された原子像に基づいて求められた試料の結晶構造としては、SrTiO3からO原子を除いた結晶構造を用いた。画像46bの規格化も、同様に行われた。
【0174】
画像46fは、画像46dのノイズが除去された画像である。
【0175】
画像46fには、重い原子であるSr原子の原子像及びT原子の原子像が共に暗いスポットとして示されている。また、画像46fには、画像中の矢印で示すように、軽い原子であるO原子の原子像も暗いスポットとして示されている。
【0176】
画像46eは、画像46cのノイズが除去された画像である。暗視野像である画像46aの明暗を反転した反転画像である画像46cは、ノイズが除去されても、重い原子であるSr原子の原子像及びT原子の原子像しか暗いスポットとして示されておらず、軽い原子であるO原子は視認可能には示されていない。
【0177】
本発明では、上述した実施例の画像処理装置、像を生成する方法並びにシステムは、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更が可能である。
【0178】
ここで述べられた全ての例及び条件付きの言葉は、読者が、発明者によって寄与された発明及び概念を技術を深めて理解することを助けるための教育的な目的を意図する。ここで述べられた全ての例及び条件付きの言葉は、そのような具体的に述べられた例及び条件に限定されることなく解釈されるべきである。また、明細書のそのような例示の機構は、本発明の優越性及び劣等性を示すこととは関係しない。本発明の実施例は詳細に説明されているが、その様々な変更、置き換え又は修正が本発明の精神及び範囲を逸脱しない限り行われ得ることが理解されるべきである。
【0179】
以上の上述した実施例に関し、更に以下の付記を開示する。
【0180】
(付記1)
走査透過電子顕微鏡により試料を撮像した暗視野像であって、走査透過電子顕微鏡の光軸からの第1角度と、前記第1角度よりも大きい第2角度との間に散乱した電子を検出して得られた暗視野像を取得し、
前記暗視野像と共に撮像された明視野像であって、前記第1角度よりも小さい第3角度以内に散乱した電子を検出して得られた明視野像を取得し、
前記暗視野像の明暗を反転して反転像を生成し、
前記反転像の各画素の輝度と、前記反転像の各画素に対応する前記明視野像の画素の輝度との差を、各画素の輝度とする差分像を生成する方法。
【0181】
(付記2)
前記暗視野像及び前記明視野像は、異なる原子番号の複数の原子を含む周期的な構造を有する前記試料を撮像した像であり、
前記暗視野像に検出された原子像に基づいて求められた前記試料の結晶構造を用いて、前記反転像に対応する計算された走査透過電子顕微鏡像である計算反転像を求め、
前記結晶構造を用いて、前記明視野像に対応する計算された走査透過電子顕微鏡像である計算明視野像を求め、
前記計算反転像を用いて前記反転像を規格化し、且つ前記計算明視野像を用いて前記明視野像を規格化し、
規格化された前記反転像の各画素の輝度と、前記反転像の各画素に対応する規格化された前記明視野像の画素の輝度との差を、各画素の輝度とする前記差分像を生成する実施例1に記載の方法。
【0182】
(付記3)
前記反転像における輝度の最大値及び最小値を、前記計算反転像における輝度の最大値及び最小値と一致するように、前記反転像を規格化し、且つ、前記明視野像における輝度の最大値及び最小値を、前記計算明視野像における輝度の最大値及び最小値と一致するように、前記明視野像を規格化する付記2に記載の方法。
【0183】
(付記4)
前記暗視野像及び前記明視野像は、異なる原子番号の複数の原子を含む周期的な構造を有する前記試料を撮像した像であり、
前記暗視野像に検出された原子像に基づいて求められた前記試料の結晶構造を用いて、前記暗視野像に対応する計算された走査透過電子顕微鏡像である計算暗視野像を求め、
前記結晶構造を用いて、前記明視野像に対応する計算された走査透過電子顕微鏡像である計算明視野像を求め、
前記計算暗視野像を用いて前記暗視野像を規格化し、且つ前記計算明視野像を用いて前記明視野像を規格化し、
規格化された前記暗視野像の明暗を反転して、規格化された前記反転像を生成し、
規格化された前記反転像の各画素の輝度と、前記反転像の各画素に対応する規格化された前記明視野像の画素の輝度との差を、各画素の輝度とする前記差分像を生成する実施例1に記載の方法。
【0184】
(付記5)
前記暗視野像における輝度の最大値及び最小値を、前記計算暗視野像における輝度の最大値及び最小値と一致するように、前記暗視野像を規格化し、且つ、前記明視野像における輝度の最大値及び最小値を、前記計算明視野像における輝度の最大値及び最小値と一致するように、前記明視野像を規格化する付記4に記載の方法。
【0185】
(付記6)
前記暗視野像は、コントラストが最大となる焦点外れ量において撮像されたものである付記1〜5の何れか一項に記載の方法。
【0186】
(付記7)
前記第3角度が7〜12mradの範囲にある付記1〜6の何れか一項に記載の方法。
【0187】
(付記8)
走査透過電子顕微鏡により試料を撮像した暗視野像であって、走査透過電子顕微鏡の光軸からの第1角度と、前記第1角度よりも大きい第2角度との間に散乱した電子を検出して得られた暗視野像、及び、前記暗視野像と共に撮像された明視野像であって、前記第1角度よりも小さい第3角度以内に散乱した電子を検出して得られた明視野像を入力する入力部と、
前記暗視野像の明暗を反転して反転像を生成し、且つ、前記反転像の各画素の輝度と前記反転像の各画素に対応する前記明視野像の画素の輝度との差を、各画素の輝度とする差分像を生成する画像処理部と、
を備えた画像処理装置。
【0188】
(付記9)
電子線を出力する電子源と、
前記電子源から出力された電子線の焦点を試料の位置に合焦させる対物レンズと、
前記電子源と前記対物レンズとの間に配置され、電子線に試料の表面を走査させる走査コイルと、
試料を通過した電子線を結像させる結像レンズと、
走査透過電子顕微鏡の光軸からの第1角度と、前記第1角度よりも大きい第2角度との間に散乱した電子を検出する第1検出器と、
前記第1角度よりも小さい第3角度以内に散乱した電子を検出する第2検出器と、
前記第1検出器の検出信号に基づいて暗視野像を生成し、且つ前記第2検出器の検出信号に基づいて明視野像を生成する画像生成部と、
を有する走査透過電子顕微鏡と、
前記暗視野像及び前記明視野像を入力する入力部と、
前記暗視野像の明暗を反転して反転像を生成し、且つ、前記反転像の各画素の輝度と前記反転像の各画素に対応する前記明視野像の画素の輝度との差を、各画素の輝度とする差分像を生成する画像処理部と、
を有する画像処理装置と、
を備えたシステム。
【符号の説明】
【0189】
10 システム
20 走査透過電子顕微鏡
21 電子銃
22 収束レンズ
23 走査コイル
24 対物レンズ
25 結像レンズ
26 高角度環状暗視野像検出器(第1検出器)
27 小角度明視野像検出器(第2検出器)
28 制御部
28a 画像生成部
29 環状高角度明視野像検出器
30 画像処理装置
30a 演算部
30b 記憶部
30c 表示部
30d 入力部
30e 出力部
30f 通信部
31 画像入力部
32 画像処理部
33 画像出力部
S 試料
OA 光軸
B 電子線
α1 第1角度
α2 第2角度
α3 第3角度
H 重い原子
L 軽い原子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査透過電子顕微鏡により試料を撮像した暗視野像であって、走査透過電子顕微鏡の光軸からの第1角度と、前記第1角度よりも大きい第2角度との間に散乱した電子を検出して得られた暗視野像を取得し、
前記暗視野像と共に撮像された明視野像であって、前記第1角度よりも小さい第3角度以内に散乱した電子を検出して得られた明視野像を取得し、
前記暗視野像の明暗を反転して反転像を生成し、
前記反転像の各画素の輝度と、前記反転像の各画素に対応する前記明視野像の画素の輝度との差を、各画素の輝度とする差分像を生成する方法。
【請求項2】
前記暗視野像及び前記明視野像は、異なる原子番号の複数の原子を含む周期的な構造を有する前記試料を撮像した像であり、
前記暗視野像に検出された原子像に基づいて求められた前記試料の結晶構造を用いて、前記反転像に対応する計算された走査透過電子顕微鏡像である計算反転像を求め、
前記結晶構造を用いて、前記明視野像に対応する計算された走査透過電子顕微鏡像である計算明視野像を求め、
前記計算反転像を用いて前記反転像を規格化し、且つ前記計算明視野像を用いて前記明視野像を規格化し、
規格化された前記反転像の各画素の輝度と、前記反転像の各画素に対応する規格化された前記明視野像の画素の輝度との差を、各画素の輝度とする前記差分像を生成する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反転像における輝度の最大値及び最小値を、前記計算反転像における輝度の最大値及び最小値と一致するように、前記反転像を規格化し、且つ、前記明視野像における輝度の最大値及び最小値を、前記計算明視野像における輝度の最大値及び最小値と一致するように、前記明視野像を規格化する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記暗視野像及び前記明視野像は、異なる原子番号の複数の原子を含む周期的な構造を有する前記試料を撮像した像であり、
前記暗視野像に検出された原子像に基づいて求められた前記試料の結晶構造を用いて、前記暗視野像に対応する計算された走査透過電子顕微鏡像である計算暗視野像を求め、
前記結晶構造を用いて、前記明視野像に対応する計算された走査透過電子顕微鏡像である計算明視野像を求め、
前記計算暗視野像を用いて前記暗視野像を規格化し、且つ前記計算明視野像を用いて前記明視野像を規格化し、
規格化された前記暗視野像の明暗を反転して、規格化された前記反転像を生成し、
規格化された前記反転像の各画素の輝度と、前記反転像の各画素に対応する規格化された前記明視野像の画素の輝度との差を、各画素の輝度とする前記差分像を生成する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記暗視野像における輝度の最大値及び最小値を、前記計算暗視野像における輝度の最大値及び最小値と一致するように、前記暗視野像を規格化し、且つ、前記明視野像における輝度の最大値及び最小値を、前記計算明視野像における輝度の最大値及び最小値と一致するように、前記明視野像を規格化する請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記暗視野像は、コントラストが最大となる焦点外れ量において撮像されたものである請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第3角度が7〜12mradの範囲にある請求項1〜6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
走査透過電子顕微鏡により試料を撮像した暗視野像であって、走査透過電子顕微鏡の光軸からの第1角度と、前記第1角度よりも大きい第2角度との間に散乱した電子を検出して得られた暗視野像、及び、前記暗視野像と共に撮像された明視野像であって、前記第1角度よりも小さい第3角度以内に散乱した電子を検出して得られた明視野像を入力する入力部と、
前記暗視野像の明暗を反転して反転像を生成し、且つ、前記反転像の各画素の輝度と前記反転像の各画素に対応する前記明視野像の画素の輝度との差を、各画素の輝度とする差分像を生成する画像処理部と、
を備えた画像処理装置。
【請求項9】
電子線を出力する電子源と、
前記電子源から出力された電子線の焦点を試料の位置に合焦させる対物レンズと、
前記電子源と前記対物レンズとの間に配置され、電子線に試料の表面を走査させる走査コイルと、
試料を通過した電子線を結像させる結像レンズと、
走査透過電子顕微鏡の光軸からの第1角度と、前記第1角度よりも大きい第2角度との間に散乱した電子を検出する第1検出器と、
前記第1角度よりも小さい第3角度以内に散乱した電子を検出する第2検出器と、
前記第1検出器の検出信号に基づいて暗視野像を生成し、且つ前記第2検出器の検出信号に基づいて明視野像を生成する画像生成部と、
を有する走査透過電子顕微鏡と、
前記暗視野像及び前記明視野像を入力する入力部と、
前記暗視野像の明暗を反転して反転像を生成し、且つ、前記反転像の各画素の輝度と前記反転像の各画素に対応する前記明視野像の画素の輝度との差を、各画素の輝度とする差分像を生成する画像処理部と、
を有する画像処理装置と、
を備えたシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図11】
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【図13】
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【図16】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−41761(P2013−41761A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178330(P2011−178330)
【出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】