説明

画像処理装置、画像処理方法、および記録装置

【課題】 記録素子群をM(Mは3以上の整数)回の相対移動により記録を行う場合、データ処理の負荷を低減しつつも、異なるパスで記録されるドット同士の記録位置ズレによる濃度変動を抑制し、スジによる画像弊害を軽減する。
【解決手段】 入力画像データからMパスよりも少ない数の多値画像データ(24−1〜2)を生成し、これら多値画像データの夫々を量子化することで複数の量子化データ(26−1〜2)を生成する。その後、これら量子化データの少なくとも1つについて、複数のパスに対応した補完関係を有する量子化データに分割する。その際、記録素子群端部の記録デューティが中央部の記録デューティよりも低くなるように、複数のパスに対応した量子化データを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の記録素子群を有する記録手段と記録媒体との複数回の相対移動によって記録媒体の同一領域に画像を記録するために、同一領域に記録すべき画像に対応する入力画像データを処理する画像処理装置、画像処理方法、記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドットを記録するための複数の記録素子を備えた記録ヘッドを用いる記録方式の一例として、記録素子(ノズル)からインクを吐出して記録媒体にドットを記録するインクジェット記録方式が知られている。このようなインクジェット記録装置では、その構成の違いからフルライン型とシリアル型に分類することが出来る。フルライン型であれシリアル型であれ、記録ヘッドにおける複数の記録素子間では吐出量や吐出方向にばらつきが生じる。そして、このようなばらつきが原因で、画像に濃度むらやスジが発生することがある。
【0003】
このような濃度ムラやスジを軽減するための技術として、マルチパス記録方式が知られている。マルチパス記録方式では、記録媒体の同一領域に記録すべき画像データを複数回の記録走査夫々で記録する画像データに分割する。そして、搬送動作を介在させた複数回の記録走査によって上記分割した画像データを順次記録する。こうすることで、個々の記録素子の吐出特性にばらつきが含まれていたとしても、1つの記録素子によって記録されるドットが走査方向に連続することはなく、個々の記録素子の影響を広い範囲に分散されることが出来る。その結果、一様で滑らかな画像を得ることが出来る。
【0004】
このようなマルチパス記録方式は、同種類のインクを吐出する複数の記録ヘッド(複数の記録素子群)を備えるシリアル型あるいはフルマルチ型の記録装置にも応用することが出来る。すなわち、画像データを上記同種のインクを吐出する複数の記録素子群で記録すべき画像データに分割し、分割した画像データを上記複数の記録素子群のそれぞれによって少なくとも1回の相対移動中に記録する。結果、個々の記録素子の吐出特性にばらつきが含まれていたとしても、その影響を軽減することが出来る。さらに、上述した2つの記録方法を組み合わせ、同種類のインクを吐出する複数の記録素子群を用いながら複数回の記録走査で画像を記録することも出来る。
【0005】
従来、このような画像データの分割には、ドットの記録を許容するデータ(1:画像データをマスクしないデータ)とドットの記録を許容しないデータ(0:画像データをマスクするデータ)とが予め配列されたマスクが用いられていた。具体的には、記録媒体の同一領域に記録すべき2値の画像データと上記マスクとの間で論理積演算を行うことにより、2値の画像データが各記録走査あるいは各記録ヘッドで記録すべき2値の画像データに分割される。
【0006】
このようなマスクにおいては、記録を許容するデータ(1)の配置が、複数の記録走査(あるいは複数の記録ヘッド)の間で互いに補完の関係になるように定められている。すなわち、2値化後の画像データで記録(1)と定められた画素には、いずれか1回の記録走査あるいはいずれか1つの記録ヘッドによって1つのドットが記録されるように構成されている。こうすることで、分割前の画像情報が分割後でも保存されるようになっている。
【0007】
しかしながら、近年、上記マルチパス記録を行うことによって、記録走査単位あるいは記録ヘッド(記録素子群)単位の記録位置(レジストレーション)のずれに起因する濃度変化や濃度むらが、新たに問題視されるようになってきている。ここで、記録走査単位あるいは記録素子群単位の記録位置のずれとは、以下の内容を示している。すなわち、例えば1回目の記録走査(あるいはある記録素子群)で記録されるドット群(プレーン)と2回目の記録走査(あるいは別の記録素子群)で記録されるドット群(プレーン)とのずれのような、ドット群(プレーン)間のずれを意味している。これらプレーン間のずれは、記録媒体と吐出口面の距離(紙間)の変動、記録媒体の搬送量の変動などによって引き起こされる。そして、プレーン間のずれが発生すると、ドット被覆率が変動し、ひいては画像の濃度変動や濃度むらを招く。以下、上述のように、同じ手段(例えば、同種のインクを吐出する1つの記録素子群)の同じ記録走査によって記録されるドット群や画素群を、「プレーン」と称することとする。
【0008】
以上のことから、より高画質な画像が要求される昨今、様々な記録条件の変動に伴って起こるプレーン間の記録位置ずれにも対抗できるような、マルチパス記録時の画像データの処理方法が求められている。以下、いかなる記録条件に起因するにせよ、プレーン間の記録位置ずれによって引き起こされる濃度変動や濃度むらへの耐性を、本明細書では「ロバスト性」と称することとする。
【0009】
特許文献1および特許文献2には、ロバスト性を高めるための画像データの処理方法が開示されている。同文献によれば、様々な記録条件の変動に伴って引き起こされる画像濃度の変動は、異なる記録走査あるいは異なる記録素子群に対応するように分配された後の2値の画像データが互いに完全な補完関係にあることに起因することに着目している。そして、上記補完関係が低減されるように異なる記録走査あるいは異なる記録素子群に対応した画像データを生成すれば、「ロバスト性」に優れたマルチパス記録を実現できる、と認識している。そして、これら文献では、複数のプレーンが互いにずれても大きな濃度変動が起こらないようにするために、2値化前の多値の状態の画像データを異なる記録走査あるいは記録素子群に対応するように分割し、分割後の多値画像データをそれぞれ独立に2値化している。
【0010】
図10は、特許文献1あるいは特許文献2に記載の画像データ処理方法を説明するためのブロック図である。ここでは、2回の記録走査に対して多値の画像データを分配する場合が示されている。ホストコンピュータから入力された多値の画像データ(RGB)は、パレット変換処理12によって、記録装置に備えられたインク色に対応する多値の濃度データ(CMYK)に変換される。その後、多値の濃度データ(CMYK)は階調補正処理13によって階調補正が施される。以下の処理は、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)およびイエロー(Y)のそれぞれについて独立に行われる。
【0011】
各色の多値の濃度データは、画像データ分配処理14によって、第1走査の多値データ15−1と第2走査の多値データ15−2に分配される。すなわち、例えば、ブラックの多値の画像データの値が「200」であった場合、第1走査用に上記「200」の半分に相当する「100」が分配され、同じく第2走査用に「100」が分配される。その後、第1走査の多値データ15−1は、第1の量子化処理16−1によって所定の拡散マトリクスに従った量子化処理が施され、第1走査の2値データ17−1に変換されて、第1走査用のバンドメモリに格納される。一方、第2走査の多値データ15−2は、第2の量子化処理16−2によって第1の量子化処理とは異なる拡散マトリクスに従った量子化処理が施され、第2走査の2値データ17−2に変換されて、第2走査用のバンドメモリに格納される。第1の記録走査と第2の記録走査では、それぞれのバンドメモリに格納された2値データに従って、インクを吐出する。なお、図10では、1つの画像データを2つの記録走査に分配する場合を説明したが、特許文献1や特許文献2には、1つの画像データを2つの記録ヘッド(2つの記録素子群)に分配する場合についても開示されている。
【0012】
図6(A)は、互いに補完の関係を有するマスクパターンを用いて画像データを分割した際の、第1の記録走査で記録されるドット(黒丸)1401と第2の記録走査で記録されるドットの(白丸)1402の配置状態を示した図である。ここでは、全ての画素に「255」の濃度データが入力された場合を示し、全ての画素に1つのドットが第1の記録走査か第2の記録走査のどちらか一方で記録されるようになっている。すなわち、第1の記録走査で記録されるドットと、第2の記録走査で記録されるドットは、互いに重なり合うことなく配置している。
【0013】
一方、図6(B)は、上記特許文献1および2に開示されている方法に従って、画像データを分配した際の、ドットの配値状態を示した図である。図において、黒丸は第1の記録走査で記録されるドット1501、白丸は第2の記録走査で記録されるドット1502、グレーの丸は第1の記録走査と第2の記録走査によって重ねて記録するドット1503を、それぞれ示している。図6(B)では、第1の記録走査で記録されるドットと第2の記録走査で記録されるドットとの間に補完関係がない。よって、完全に補完の関係にある図6(A)の場合と比べ、2つのドットが重複する部分(グレーのドット)1503が発生したり、1つのドットも記録されない白紙領域が存在したりしている。
【0014】
ここで、第1の記録走査で記録されるドットの集合であるの第1プレーンと第2の記録走査で記録されるドットの集合である第2プレーンが、主走査方向または副走査方向のいずれかに1画素分ずれた場合を考える。このとき、第1プレーンと第2プレーンが完全に補完の関係にある図6(A)のような場合、第1プレーンで記録するドットと第2プレーンで記録するドットとが完全に重なり合い、白紙の領域が露出して、画像濃度は大きく低下する。1画素分まで大きくずれなくても、隣接するドット同士の距離や重なり部分の変動は、白紙領域に対するドットの被覆率ひいては画像濃度に大きく影響を与える。すなわち、このようなプレーン間のずれが、記録媒体と吐出口面の距離(紙間)の変動、記録媒体の搬送量の変動などに伴って変化すると、これらに伴って、一様な画像の濃度も変動し、濃度むらとなって認識されるのである。
【0015】
これに対し、図6(B)の場合、第1プレーンと第2プレーンが1画素分ずれても、記録媒体に対するドットの被覆率は然程変動しない。第1の記録走査で記録されるドットと第2の記録走査で記録されるドットが重なる部分も新たに現れるが、既に重ねて記録されていた2つのドットが離れる部分も存在する。よって、ある程度の広さを持つ領域で判断すれば、記録媒体に対するドットの被覆率はさほど変動せず、画像濃度の変化も招致され難い。すなわち、特許文献1や特許文献2の方法を採用すれば、記録媒体と吐出口面の距離(紙間)の変動、記録媒体の搬送量の変動などが発生しても、これらに伴う画像濃度の変動や濃度むらの発生が抑制され、ロバスト性に優れた画像を出力することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2000−103088号公報
【特許文献2】特開2001−150700号公報
【特許文献3】特開2002−96455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
特許文献1〜2の方法では、同じインクを吐出する記録素子群を用いてM(Mは3以上の整数)パス記録を行う場合、入力画像データに基づいてMプレーン分の多値画像データを生成し、Mプレーン分の多値画像データ夫々に対して量子化処理を行うことになる。すると、量子化処理の対象とされるデータ数が多くなるため、データ処理の負荷が大きくなってしまう。このように従来の方法では、上述した濃度変動を抑制しつつも、データ処理の負荷を軽減するということはできなかった。
【0018】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、データ処理の負荷を低減しつつも、ドットの記録位置ズレに起因した濃度変動を抑制することが可能な画像処理装置、画像処理方法、および記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するための本発明は、同色のインクを吐出するための記録素子群と記録媒体とのM回(Mは3以上の整数)の相対移動によって前記記録媒体の所定領域に画像を記録するために、当該所定領域に記録すべき画像に対応した入力画像データを処理するための画像処理装置であって、前記入力画像データから同色のN個(Nは2以上の整数であって、N<M)の多値画像データを生成するための第1の生成手段と、前記第1の生成手段によって生成された同色のN個の多値画像データの夫々に量子化処理を行うことにより、前記N個の量子化データを生成するための第2の生成手段と、前記第2の生成手段により生成された前記N個の量子化データのうち、少なくとも1個の量子化データを複数個の量子化データに分割し、前記M回の相対移動に対応したM個の量子化データを生成するための第3の生成手段と、を備え、前記M個の量子化データは、前記記録素子群の端部に相当する量子化データの記録デューティが前記記録素子群の中央部の記録デューティよりも低いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、データ処理の負荷を低減しつつも、ドットの記録位置ズレによる濃度変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係るフォトダイレクトプリンタ装置(以下、PDプリンタ)1000の概観斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るPDプリンタ1000の操作パネル1010の概観図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るPDプリンタ1000の制御に係る主要部の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る、プリンタエンジン3004の内部構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るシリアル型のインクジェット記録装置のプリンタエンジン部の記録部の概要を示す斜視図である。
【図6】(A)は互いに補完の関係を有するマスクパターンを用いて画像データを分割した場合のドット配置状態を示す図であり、(B)は特許文献1および2に開示される方法に従って画像データを分割した場合のドット配値状態を示す図である。
【図7】(A)〜(H)は、ドット重複率を説明するための図である。
【図8】本発明で適用可能なマスクパターンの一例を示す図である。
【図9】(A)は、ドットが分散している様子を示す図であり、(B)はドットの重なり箇所や隣接箇所が不規則に配置される様子を示した図である。
【図10】特許文献1あるいは特許文献2に記載の画像データ分配方法を説明するためのブロック図である。
【図11】2パスのマルチパス記録の様子を示した図である。
【図12】図21に示される画像処理の具体例を説明するための模式図である。
【図13】(A)および(B)は、量子化処理で用いられる誤差拡散マトリクスの例を示した図である。
【図14】複数回の走査に対応した量子化データ、各走査に割り当てて記録を行うまでのフローを説明する図である。
【図15】複数回の走査に対応した量子化データの管理方法の従来例を説明する図である。
【図16】図16に示す従来のデータ管理方法によって、2プレーンで生成した量子化データを管理する例を説明するための図である。
【図17】第3の実施形態の変形例において、複数回の走査に対応した量子化データの管理方法を説明するための図である。
【図18】第4の実施形態の変形例において、5回の記録走査によって同一領域の画像を完成させるマルチパス記録を行う場合の画像処理を説明するためのブロック図である。
【図19】第2の実施形態の変形例において、制御部3000が実行可能な量子化処理方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【図20】記録ヘッド5004を吐出口が形成された面から観察した場合の概略図である。
【図21】2回の記録走査によって同一領域の画像を完成させるマルチパス記録を行う場合の画像処理を説明するためのブロック図である。
【図22】(A)〜(G)は、表1の閾値テーブルに記述される閾値を用いる2値の量子化処理の結果(K1″、K2″)と入力値(K1ttl、K2ttl)との対応関係を示す図である。
【図23】第2の実施形態において、制御部3000が実行可能な量子化方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
以下で説明する実施形態は、インクジェット記録装置を例にしているが、本発明は、インクジェット記録装置に限られるものではない。ドットを記録するための記録手段と記録媒体との相対移動中に、記録手段によって記録媒体に画像を記録する方式の装置であれば、インクジェット記録装置以外の装置でも適用可能である。
【0024】
また、記録手段と記録媒体との「相対移動(あるいは相対走査)」とは、記録媒体に対して記録手段が相対的に移動(走査)する動作、あるいは、記録手段に対して記録媒体が相対的に移動(搬送)する動作を指す。シリアル型の記録装置でマルチパス記録を実行する場合、記録媒体の同一領域に対して記録手段が複数回対向するように、記録ヘッドの走査が複数回実行される。一方、フルライン型の記録装置でマルチパス記録を実行する場合、記録媒体の同一領域に対して記録手段が複数回対向するように、記録媒体の搬送が複数回実行される。なお、記録手段とは、1つ以上の記録素子群(ノズル列)あるいは1つ以上の記録ヘッドを指す。
【0025】
以下で説明する画像処理装置では、記録媒体の同一領域(所定領域)に対する記録手段の複数回の相対移動によって上記同一領域に画像を記録するためのデータ処理を行う。ここで、「同一領域(所定領域)」とは、ミクロ的には「1つの画素領域」を指し、マクロ的には「1回の相対移動で記録可能な領域」を指す。「画素領域(単に「画素」と呼ぶ場合もある)」とは、多値画像データによって階調表現可能な最小単位の領域を指す。一方、「1回の相対移動で記録可能な領域」とは、1回の相対移動中に記録手段が通過する記録媒体上の領域、あるいは、この領域よりも小なる領域(例えば、1ラスター領域)を指す。例えば、シリアル型の記録装置において、図11に示されるようなM(Mは2以上の整数)パスのマルチパスモードを実行する場合、マクロ的には図中の1つの記録領域を同一領域と定義することも可能である。
【0026】
<記録装置の概要説明>
図1は、本発明の実施の形態に係るフォトダイレクトプリンタ装置(以下、PDプリンタ)1000、すなわち画像形成装置(画像処理装置)の概観斜視図である。PDプリンタ1000は、ホストコンピュータ(PC)からデータを受信して印刷する通常のPCプリンタとしての機能以外に、以下のような様々な機能を持ち合わせている。すなわち、メモリカードなどの記憶媒体に記憶されている画像データを直接読取って印刷する機能や、デジタルカメラやPDAなどからの画像データを受信して印刷する機能である。
【0027】
図1において、本実施形態に係るPDプリンタ1000の外殻をなす本体は、下ケース1001、上ケース1002、アクセスカバー1003及び排出トレイ1004の外装部材を有している。また、下ケース1001は、PDプリンタ1000の略下半部を、上ケース1002は本体の略上半部をそれぞれ形成している。両ケースの組合せによって内部に後述の各機構を収納する収納空間を有する中空体構造をなし、その上面部及び前面部にはそれぞれ開口部が形成されている。
【0028】
排出トレイ1004は、その一端部が下ケース1001に回転自在に保持され、その回転によって下ケース1001の前面部に形成される開口部を開閉させ得るようになっている。このため、記録時には、排出トレイ1004を前面側へと回転させて開口部を開成させることにより、ここから記録された記録媒体(普通紙、専用紙、樹脂シート等を含む)が排出可能となると共に、排出された記録媒体を順次積載し得るようになっている。また排紙トレイ1004には、2枚の補助トレイ1004a,1004bが収納されており、必要に応じて各トレイを手前に引き出すことにより、記録媒体の支持面積を3段階に拡大、縮小させ得るようになっている。
【0029】
アクセスカバー1003は、その一端部が上ケース1002に回転自在に保持され、上面に形成される開口部を開閉し得るようになっている。アクセスカバー1003を開くことによって本体内部に収納されている記録ヘッドカートリッジ(不図示)或いはインクタンク(不図示)等の交換が可能となる。尚、アクセスカバー1003を開閉させると、その裏面に形成された突起がカバー開閉レバーを回転させ、その回転位置をマイクロスイッチなどで検出することにより、アクセスカバー1003の開閉状態を検出し得るようになっている。
【0030】
上ケース1002の上面には、電源キー1005が設けられている。上ケース1002の右側には、液晶表示部1006や各種キースイッチ等を備える操作パネル1010が設けられている。操作パネル1010の構造は、図2を参照して詳しく後述する。1007は自動給送部で、記録媒体を装置本体内へと自動的に給送する。1008はヘッド・紙間選択レバーで、記録ヘッドと記録媒体との間隔を調整するためのレバーである。1009はカードスロットで、ここにメモリカードを装着可能なアダプタが挿入され、このアダプタを介してメモリカードに記憶されている画像データを直接取り込んで印刷することができる。メモリカード(PC)としては、例えばコンパクトフラッシュ(登録商標)メモリ、スマートメディア、メモリスティック等がある。1011はビューワ(液晶表示部)で、PDプリンタ1000の本体に着脱可能であり、PCカードに記憶されている画像の中からプリントしたい画像を検索する場合などに、1コマ毎の画像やインデックス画像などを表示するのに使用される。1012は後述するデジタルカメラを接続するためのUSB端子である。PD装置1000の後面には、パーソナルコンピュータ(PC)を接続するためのUSBコネクタが設けられている。
【0031】
<操作部の概要説明>
図2は、本発明の実施の形態に係るPDプリンタ1000の操作パネル1010の概観図である。図において、液晶表示部1006には、印刷に関する条件を各種設定するためのメニュー項目が表示される。例えば、以下の項目が有る。
・複数ある写真画像ファイルの内、印刷したい写真画像の先頭番号
・指定コマ番号(開始コマ指定/印刷コマ指定)
・印刷を終了したい最後の写真番号(終了)
・印刷部数(部数)
・印刷に使用する記録媒体の種類(用紙種類)
・1枚の記録媒体に印刷する写真の枚数設定(レイアウト)
・印刷の品位の指定(品位)
・撮影した日付を印刷するかどうかの指定(日付印刷)
・写真を補正して印刷するかどうかの指定(画像補正)
・印刷に必要な記録媒体の枚数表示(用紙枚数)
これら項目は、カーソルキー2001を用いて選択、或いは指定することが出来る。また、モードキー2002を押下する毎に、印刷の種類(インデックス印刷、全コマ印刷、1コマ印刷、指定コマ印刷等)を切り替えることができ、これに応じて対応するLED2003が点灯する。メンテナンスキー2004は、記録ヘッドのクリーニング等、記録装置のメンテナンスを行わせるためのキーである。印刷開始キー2005は、印刷の開始を指示する時、或いはメンテナンスの設定を確立する際に押下される。印刷中止キー2006は、印刷を中止させる時や、メンテナンスの中止を指示する際に押下される。
【0032】
<制御部電気仕様概要>
図3は本発明の実施の形態に係るPDプリンタ1000の制御に係る主要部の構成を示すブロック図である。図3において、前述の図面と共通する部分は同じ記号を付与して、それらの説明は省略する。以下の説明から明らかとなるように、PDプリンタ1000は画像処理装置として機能する。
【0033】
図3において、3000は制御部(制御基板)を示している。3001は画像処理ASIC(専用カスタムLSI)を示している。3002はDSP(デジタル信号処理プロセッサ)で、内部にCPUを有し、後述する各種制御処理及び、輝度信号(RGB)から濃度信号(CMYK)への変換、スケーリング、ガンマ変換、誤差拡散等の画像処理等を担当している。3003はメモリで、DSP3002のCPUの制御プログラムを記憶するプログラムメモリ3003a、及び実行時のプログラムを記憶するRAMエリア、画像データなどを記憶するワークメモリとして機能するメモリエリアを有している。3004はプリンタエンジンで、ここでは、複数色のカラーインクを用いてカラー画像を印刷するインクジェットプリンタのプリンタエンジンが搭載されている。3005はデジタルカメラ(DSC)3012を接続するためのポートとしてのUSBコネクタである。3006はビューワ1011を接続するためのコネクタである。3008はUSBハブ(USB HUB)で、PDプリンタ1000がPC3010からの画像データに基づいて印刷を行う際には、PC3010からのデータをそのままスルーし、USB3021を介してプリンタエンジン3004に出力する。これにより、接続されているPC3010は、プリンタエンジン3004と直接、データや信号のやり取りを行って印刷を実行することができる(一般的なPCプリンタとして機能する)。3009は電源コネクタで、電源3019により、商用ACから変換された直流電圧を入力している。PC3010は一般的なパーソナルコンピュータ、3011は前述したメモリカード(PCカード)、3012はデジタルカメラ(DSC:Digital Still Camera)である。
【0034】
なお、この制御部3000とプリンタエンジン3004との間の信号のやり取りは、前述したUSB3021又はIEEE1284バス3022を介して行われる。
【0035】
<プリンタエンジン部電気仕様概要>
図4は、本発明の実施の形態に係る、プリンタエンジン3004の内部構成を示すブロック図である。図において、E1004はメイン基板である。E1102はエンジン部ASIC(Application Specific Integrated Circuit)である。これは、制御バスE1014を通じてROM E1004に接続され、ROM E1004に格納されたプログラムに従って、各種制御を行っている。例えば、各種センサに関連するセンサ信号E0104や、マルチセンサE3000に関連するマルチセンサ信号E4003の送受信を行う。そのほか、エンコーダ信号E1020、電源キー1005や操作パネル1010上の各種キーからの出力の状態を検出している。また、ホストI/F E0017、フロントパネル上のデバイスI/F E0100の接続およびデータ入力状態に応じて、各種論理演算や条件判断等を行い、各構成要素を制御し、PDプリンタ1000の駆動制御を司っている。
【0036】
E1103はドライバ・リセット回路である。これは、エンジン部ASIC E1102からのモータ制御信号E1106に従って、CRモータ駆動信号E1037、LFモータ駆動信号E1035、APモータ駆動信号E4001およびPRモータ駆動信号E4002を生成し、各モータを駆動する。さらに、ドライバ・リセット回路E1103は、電源回路を有しており、メイン基板E0014、記録ヘッドを搭載して移動するキャリッジに備えられたキャリッジ基板、操作パネル1010など各部に必要な電源を供給する。さらには電源電圧の低下を検出して、リセット信号E1015の発生および初期化を行う。
【0037】
E1010は電源制御回路であり、エンジン部ASIC E1102からの電源制御信号E1024に従って発光素子を有する各センサ等への電源供給を制御する。
【0038】
ホストI/F E0017は、図3中の制御部3000中の画像処理ASIC3001およびUSB HUB3008を介してPC3010と接続されている。そして、エンジン部ASIC E1102からのホストI/F信号E1028を、ホストI/FケーブルE1029に伝達したり、ケーブルE1029からの信号をエンジン部ASIC E1102に伝達したりする。
【0039】
プリンタエンジンの電力は、図3の電源コネクタ3009と接続された電源ユニットE0015から供給され、メイン基板E0014内外の各部へは、必要に応じて電圧変換されてから供給される。一方、電源ユニット制御信号E4000がエンジン部ASIC E1102から電源ユニットE0015に送信され、PDプリンタ本体の低消費電力モード等の制御に用いられる。
【0040】
エンジン部ASIC E1102は1チップの演算処理装置内蔵半導体集積回路であり、前述したモータ制御信号E1106、電源制御信号E1024および電源ユニット制御信号E4000等を出力する。そして、ホストI/F E0017との信号の授受を行うとともに、パネル信号E0107を通じて、操作パネル上のデバイスI/F E0100との信号の授受を行う。さらに、センサ信号E0104を通じてPEセンサ、ASFセンサ等各部センサ類により状態を検知する。さらに、マルチセンサ信号E4003を通じてマルチセンサE3000を制御するとともに状態を検知する。またパネル信号E0107の状態を検知して、パネル信号E0107の駆動を制御して操作パネル上のLED 2003の点滅を制御する。
【0041】
さらにエンジン部ASIC E1102は、エンコーダ信号(ENC)E1020の状態を検知してタイミング信号を生成し、ヘッド制御信号E1021で記録ヘッド5004とのインターフェースをとり記録動作を制御する。ここにおいて、エンコーダ信号(ENC)E1020はCRFFC E0012を通じて入力されるエンコーダセンサE0004の出力信号である。また、ヘッド制御信号E1021は、フレキシブルフラットケーブルE0012を通じて不図示のキャリッジ基板に接続される。キャリッジ基板で受信されたヘッド制御信号は、ここに構成されたヘッド駆動電圧変調回路およびヘッドコネクタを経て記録ヘッドH1000に供給されるとともに、記録ヘッドH1000からの各種情報をASIC E1102に伝達する。このうち吐出部毎のヘッド温度情報については、メイン基板上のヘッド温度検出回路E3002で信号増幅された後、エンジン部ASICE1102に入力され、各種制御判断に用いられる。
【0042】
図中、E3007はDRAMであり、記録用のデータバッファ、図3中の制御部3000中の画像処理ASIC3001またはUSB HUB3008を介したPC3010からの受信データバッファF115等として使用される。また、記録ヘッドを駆動するための記録データを保存するプリントバッファF118も用意されており、各種制御動作に必要なワーク領域としても使用される。
【0043】
<記録部の概要>
図5は、本発明の実施の形態に係るシリアル型のインクジェット記録装置のプリンタエンジン部の記録部の概要を示す斜視図である。記録媒体Pは、自動給送部1007によって搬送経路上に配置された搬送ローラ5001とこれに従動するピンチローラ5002とのニップ部に給送される。その後、記録媒体Pは、搬送ローラ5001の回転によって、プラテン5003上に案内、支持されながら図中矢印A方向(副走査方向)に搬送される。ピンチローラ5002は、不図示のバネ等の押圧手段により、搬送ローラ5001に対して弾性的に付勢されている。これら搬送ローラ5001およびピンチローラ5002が記録媒体搬送方向の上流側にある第1搬送手段の構成要素をなす。
【0044】
プラテン5003は、インクジェット形態の記録ヘッド5004の吐出口が形成された面(吐出面)と対向する記録位置に設けられ、記録媒体Pの裏面を支持することで、記録媒体Pの表面と吐出面との距離を一定の距離に維持する。プラテン5003上に搬送されて記録が行われた記録媒体Pは、回転する排出ローラ5005とこれに従動する回転体である拍車5006との間に挟まれてA方向に搬送され、プラテン5003から排紙トレイ1004に排出される。排出ローラ5005および拍車5006が記録媒体搬送方向の下流側にある第2搬送手段の構成要素をなす。
【0045】
記録ヘッド5004は、その吐出口面をプラテン5003ないし記録媒体Pに対向させた姿勢で、キャリッジ5008に着脱可能に搭載されている。キャリッジ5008は、キャリッジモータE0001の駆動力により2本のガイドレール5009および5010に沿って往復移動され、その移動の過程で記録ヘッド5004は記録信号に応じたインク吐出動作を実行する。キャリッジ5008が移動する方向は、記録媒体が搬送される方向(矢印A方向)と交差する方向であり、主走査方向と呼ばれる。これに対し、記録媒体搬送方向は副走査方向と呼ばれている。キャリッジ5008および記録ヘッド5004の主走査(記録を伴う移動)と、記録媒体の搬送(副走査)とを交互に繰り返すことにより、記録媒体Pに対する記録が行われる。
【0046】
図20は、記録ヘッド5004を吐出口形成面から観察した場合の概略図である。図中、51は第1シアンノズル列(記録素子群)であり、58は第2シアンノズル列である。52は第1マゼンタノズル列であり、57は第2マゼンタノズル列である。53は第1イエローノズル列であり、56は第2イエローノズル列である。54は第1ブラックノズル列であり、55は第2ブラックノズル列である。各ノズル列の副走査方向における幅はdであり、1回の走査によってdの幅の記録が可能となっている。
【0047】
本実施形態の記録ヘッド5004は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)およびブラック(K)の各色について、ほぼ等量のインクを吐出する2本ずつのノズル列を備え、その両方のノズル列を用いて記録媒体に画像を記録する。これによって、個々のノズルのばらつきに起因する濃度むらやすじを、約1/2に低減することが出来る。また、本例のように各色のノズル列を主走査方向に対し対称に配置することによって、往路方向の記録走査でも復路方向の記録走査でも記録媒体に対するインクの付与順序を一定にすることが出来る。すなわち、往路方向であっても復路方向であっても、記録媒体に対するインクの付与順序は、C→M→Y→K→K→Y→M→Cとなり、双方向記録を行ってもインクの付与順序に起因する色むらは発生しない。
【0048】
また、本実施形態の記録装置はマルチパス記録を実行することが出来るので、記録ヘッド5004が1回の記録走査で記録可能な領域は、複数回の記録走査によって段階的に画像が形成される。このとき、各記録走査の間に記録ヘッド5004の幅dよりも小さな量の搬送動作を行うことにより、個々のノズルのばらつきに起因する濃度むらやすじをさらに低減することが出来る。マルチパス記録を行うか否か、あるいはマルチパス数(同一領域に対し記録走査を行う回数)は、操作パネル1010からユーザが入力した情報や、ホスト装置から受信される画像情報によって、適宜定められるようになっている。
【0049】
次に、上記記録装置にて実行可能なマルチパス記録の一例について図11を用いて説明する。ここでは、マルチパス記録の一例として2パス記録を例に挙げて説明するが、本発明は、3パス、4パス、8パス、16パス等のM(Mは3以上の整数)パス記録に適用可能である。なお、本発明において好適に適用される「M(Mは3以上の整数)パスモード」とは、記録素子の配列範囲の幅よりも小なる量の記録媒体の搬送を介在させた記録素子群のM回の走査によって記録媒体上の同一領域に記録を行うモードである。このようなMパスモードでは、記録媒体の1回の搬送量を、記録素子の配列範囲の幅の1/Mの幅に対応した量に等しく設定するのが好ましく、このような設定を行うことで、上記同一領域の搬送方向における幅が記録媒体の1回の搬送量に対応する幅に等しくなる。
【0050】
図11は、2パス記録の様子を模式的に示した図であり、4つの同一領域に相当する第1記録領域から第4記録領域に対して記録する場合の記録ヘッド5004と記録領域との相対的な位置関係を示している。この図11では、図5に示される記録ヘッド5004のうちのある色の1つのノズル列(1つの記録素子群)61だけを示している。そして、以下では、ノズル列(記録素子群)61を構成する複数のノズル(記録素子)のうち、搬送方向上流側に位置するノズル群を上流側ノズル群61Aと称し、搬送方向下流側に位置するノズル群を下流側ノズル群61Bと称する。また、各同一領域(各記録領域)の副走査方向(搬送方向)における幅は、記録ヘッドの複数の記録素子の配列範囲の幅(1280ノズル幅)の約半分に相当する幅(640ノズル幅)に等しい。
【0051】
第1走査では、上流側ノズル群61Aを用いて第1記録領域に記録されるべき画像の一部だけを記録する。この上流側ノズル群61Aによって記録される画像データは、個々の画素について、オリジナル画像データ(第1記録領域に最終的に記録すべき画像に対応した多値の画像データ)の階調値が約1/2に低減されたものとなっている。このような第1走査での記録終了後、Y方向に沿って640ノズル分の距離だけ記録媒体を搬送する。
【0052】
次いで、第2走査では、上流側ノズル群61Aを用いて第2記録領域に記録されるべき画像の一部だけを記録すると共に、下流側ノズル群61Bを用いて第1記録領域に記録されるべき画像を完成させる。この下流側ノズル群61Bによって記録される画像データついても、オリジナル画像データ(第1記録領域に最終的に記録すべき画像に対応した多値の画像データ)の階調値が約1/2に低減されたものとなっている。これにより、第1記録領域には、階調値が約1/2に低減された画像データが2回記録されることになるので、オリジナル画像データの階調値が保存される。このような第2走査での記録終了後、記録媒体をY方向に640ノズル分の距離だけ搬送する。
【0053】
次いで、第3走査では、上流側ノズル群61Aを用いて第3記録領域に記録されるべき画像の一部だけを記録すると共に、下流側ノズル群61Bを用いて第2記録領域に記録されるべき画像を完成させる。この後、記録媒体をY方向に640ノズル分の距離だけ搬送する。最後に、第4走査では、上流側ノズル群61Aを用いて第4記録領域に記録されるべき画像の一部だけを記録すると共に、下流側ノズル群61Bを用いて第3記録領域に記録されるべき画像を完成させる。この後、記録媒体をY方向に640ノズル分の距離だけ搬送する。他の記録領域に対しても同様な記録動作を行っていく。以上のような記録主走査と搬送動作とを繰り返すことにより、各記録領域に対して2パス記録が行われる。
【0054】
(第1の実施形態)
図21は、3回の記録走査によって記録媒体の同一領域の画像を完成させるマルチパス記録を行う場合の画像処理を説明するためのブロック図である。ここでは、デジタルカメラ3012などの画像入力機器から入力された画像データに対し、図の21〜25までの処理を図3で説明した制御部3000で行い、27以降の処理をプリンタエンジン3004によって行うものとする。このように、図21に示される多値画像データ入力部(21)、色変換/画像データ分割部(22)、階調補正処理部(23−1、23−2)および量子化処理部(25−1、25−2)は、制御部3000に備えられている。一方、2値データ分割処理部(27−1、27−2)は、プリンタエンジン3004に備えられている。
【0055】
外部機器から、多値画像データ入力部21によって、RGBの多値の画像データ(256値)が入力される。この入力画像データ(多値のRGBデータ)は、画素毎に、色変換/画像データ分割部22によって、各インク色に対応した第1記録濃度多値データと第2記録濃度多値データの2組の多値画像データ(CMYKデータ)に変換される。具体的には、色変換/画像データ分割部22には、RGB値と、第1の多値データのCMYK値(C1,M1,Y1,K1)および第2の多値データのCMYK値(C2,M2,Y2,K2)と、が対応付けられた3次元のルックアップテーブルが予め設けられている。そして、この3次元のルックアップテーブル(LUT)を用いることにより、多値のRGBデータが、第1の多値データ(C1,M1,Y1,K1)と第2の多値データ(C2,M2,Y2,K2)に一括して変換される。この際、テーブル格子点値から外れる入力値に対しては、その周囲のテーブル格子点の出力値から補間によって出力値を算出してもよい。このように色変換/画像データ分割部22は、入力画像データから、画素毎に、第1の多値データ(C1,M1,Y1,K1)と第2の多値データ(C2,M2,Y2,K2)を生成する役割を担っており、これを「第1の生成手段」とも称する。
【0056】
なお、色変換/画像データ分割部22の構成は、上述したような3次元のルックアップテーブルを用いる形態に限定されるものではない。例えば、多値のRGBデータを記録装置で使用するインクに対応した多値のCMYKデータに一旦変換し、更にこの多値のCMYKのそれぞれをほぼ2分割する形態であってもよい。
【0057】
次に、第1の多値データと第2の多値データは、それぞれ、色毎に、階調補正処理部23−1および23−2にて階調補正処理が施される。ここでは、多値データの信号値と記録媒体上で表現される濃度値との関係が線形となるように、多値データの信号値変換が行われる。その結果、第1の多値データ24−1(C1´,M1´,Y1´,K1´)と第2の多値データ24−2(C2´,M2´,Y2´,K2´)が得られる。以下の処理は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)およびブラック(K)のそれぞれについて独立に並行して行われるので、これ以後の説明はブラック(K)のみについて行う。
【0058】
続いて、量子化処理部25−1、25−2では、第1の多値データ24−1(K1´)と第2の多値データ24−2(K2´)に対し、それぞれ、無相関に、独立した2値化処理(量子化処理)が行われる。詳しくは、第1の多値データ24−1(K1´)に対して、図13(A)に示される誤差拡散マトリクスと予め定められた量子化閾値を用いた公知の誤差拡散処理が行われ、第1の2値データK1″(第1の量子化データ)26−1が生成される。また、第2の多値データ24−2(K2´)に対して、図13(B)に示される誤差拡散マトリクスと予め定められた量子化閾値を用いた公知の誤差拡散処理が行われ、第2の2値データK2″(第2の量子化データ)26−2が生成される。このように第1の多値データと第2の多値データとで用いる誤差拡散マトリクスを異ならせることにより、両方の走査でドットが記録される画素と一方の走査でのみドットが記録される画素とを混在させることができる。ここで、K1″とK2″の両方が1である画素にはドットが重複して記録され、K1″とK2″の両方が0である画素にはドットが記録されないことになる。また、K1″とK2″のどちらか一方が1である画素には、ドットが1つだけ記録されることになる。このように量子化処理部25−1、25−2は、第1、第2の多値画像データ(24−1〜2)の夫々に量子化処理を画素毎に行うことにより、複数の同色の量子化データ(26−1〜2)を生成するもので、これを「第2の生成手段」と称する。
【0059】
このように量子化処理部25−1、25−2によって2値の画像データK1″およびK2″が得られると、これらデータK1″およびK2はそれぞれ、IEEE1284バス3022を介して図3で示したプリンタエンジン3000に送られる。以後の処理はプリンタエンジン3000で実行される。プリンタエンジン3000において、2値の画像データK1″(26−1)は、2回の走査に対応した2値の画像データに分割される。すなわち、第1の2値画像データK1″(26−1)は、2値データ分割処理部27によって、第1の2値画像データA(28−1)と、第1の2値画像データB(28−2)に分割される。そして、第1の2値画像データA(28−1)は第1走査用2値データ29−1として第1走査に割り当てられ、第1の2値画像データB(28−2)は第3走査用2値データ29−3として第3走査に割り当てられ、各走査でデータが記録される。
【0060】
一方、第2の2値画像データK2″(26−2)は、分割されることがないため、第2の2値画像データ(28−3)は、第2の2値画像データK2″(26−2)と同一である。そして、この第2の2値画像データK2″(26−2)が、第2走査用2値画像データ29−2として、第2走査に割り当てられ、記録される。
【0061】
ここで、2値データ分割処理部について詳しく説明する。本実施形態において、2値データ分割処理部27では、予めメモリ(ROM E1004)に記憶されているマスクを利用して分割処理を実行する。マスクとは、個々の画素に対して2値画像データの記録の許容(1)または非許容(0)が予め定められたデータの集合体であり、2値画像データと画素毎に論理積演算することで、上記2値画像データを分割するものである。2値画像データをN分割する場合、N個のマスクが用いられるのが一般であり、2値画像データを2分割する本実施形態では、図8に示されるような2つのマスク1801、1802が使用される。ここでは、マスク1801は第1走査用の2値画像データを生成するために利用され、マスク1802は第2走査用の2値画像データを生成するために利用される。これら2つのマスクは互いに補完関係を有しているため、これらマスクで分割された2値データ同士は互いに重ねることがない。従って、異なるノズル列によって記録されるドット同士が紙面上で重なる確率が低く抑えられるため、上述した走査間に対して行われるドット重複処理に比べて、粒状感の悪化を招きにくい。なお、図8において、黒で示される部分が画像データの記録を許容するデータ(1:画像データをマスクしないデータ)であり、白で示される部分は画像データの記録を許容しないデータ(0:画像データをマスクするデータ)である。このようなマスク1801、1802を用いて、2値データ分割処理部で分割処理が行われる。詳しくは、2値データ分割処理部27では、2値データK1″(26−1)とマスク1801との論理積演算を画素毎に行うことで第1走査用の2値データ28−1が生成される。同様に、2値データK1″(26−1)とマスク1802との論理積演算を画素毎に行うことで第2走査用の2値データ28−1が生成される。このように分割処理部27は、複数の同色の量子化データから、少なくとも2回の記録走査に対応した補間関係にある同色の量子化データを生成するもので、これを「第3の生成手段」と称する。
【0062】
以下、図21で説明した画像処理について、図12を用いてより具体的に説明する。図12は、図21に示した画像処理の具体例をイメージ化したものである。ここでは、4画素×4画素の計16画素に対応した入力画像データ141を処理する場合について説明する。符号A〜Pは、各画素に対応する入力画像データ141のRGB値の組合せを示している。符号A1〜P1は、各画素に対応した第1の多値画像データ142のCMYK値の組合せを示している。符号A2〜P2は、各画素に対応した第2の多値画像データ143のCMYK値の組合せを示している。
【0063】
図において、第1の多値画像データ142が図21の第1の多値データ24−1に相当し、第2の多値画像データ143が図21の第2の多値データ24−2に相当する。また、第1の量子化データ144が図21の第1の2値データ26−1に相当し、第2の量子化データ145が図21の第2の2値データ26−2に相当する。更に、第1走査用の量子化データ146が図21の2値データ28−1に相当し、走査用の量子化データ147が図21の2値データ28−2に相当する。また、第3走査用の量子化データ148が図21の2値データ28−3に相当する。
【0064】
まず、入力画像データ141(RGBデータ)が、図21の色変換/画像データ分割部22に入力される。すると、色変換/画像データ分割部22では、3次元のLUTによって、入力画像データ141(RGBデータ)が、画素毎に、第1の多値画像データ142(CMYKデータ)と第2の多値画像データ143(CMYKデータ)に変換される。本実施形態では、第1の多値画像データ142(CMYKデータ)が、第2の多値画像データ143(CMYKデータ)の2倍未満となるように、第1の多値画像データ142と第2の多値画像データ143に分配される。本例では、入力画像データ141(RGBデータ)は、第1の多値画像データ142と第2の多値画像データ143に3:2の比で分配される。例えば、符号Aで示される入力画像データのRGB値が(R、G、B)=(0、0、0)である場合、符号A1で示される多値画像データ142のCMYK値が(C1、M1、Y1、K1)=(0,0,0、153)となる。また、符号A2で示される多値画像データ143のCMYK値が(C2、M2、Y2、K2)=(0,0,0、102)となる。このように色変換/画像データ分割部22では、入力画像データ141に基づいて、2つの多値画像データ(142および143)が生成される。なお、これ以降の処理(階調補正処理、量子化処理、マスク処理)は、CMYKの各色について独立に並行して行われるので、以下では、説明の便宜上、1色(K)のみについて示し、その他の色については省略する。
【0065】
上述のようにして得られた第1および第2の多値画像データ(142、143)は図21の量子化部25に入力される。量子化部25−1、25−2では、第1および第2の多値画像データ(142、143)のそれぞれに対して独立に誤差拡散処理が施され、第1および第2の量子化データ(144、145)が生成される。より詳しくは、第1の多値画像データ142に誤差拡散処理を行う場合、上述した通り、予め定められた閾値と、図13(A)で示される誤差拡散マトリックスAを用いて、第1の多値画像データ142に対し2値化のための誤差拡散処理を行う。これにより、第1の2値の量子化データ144が生成される。同様に、第2の多値画像データ143に誤差拡散処理を行う場合、上述した通り、予め定められた閾値と、図13(B)で示される誤差拡散マトリックスBを用いて、第2の多値画像データ143に対し2値化のための誤差拡散処理を行う。これにより、第2の2値の量子化データ145が生成される。なお、第1および第2の量子化データ(144、145)のうち、「1」のデータはドットの記録(インクの吐出)を示すデータであり、「0」のデータはドットの非記録(インクの非吐出)を示すデータである。
【0066】
続いて、2値データ分割処理部27では、第1の量子化データ144をマスクにより分割することで、第1走査に対応した第1の量子化データA 146と第3走査に対応した第1の量子化データB 147を生成する。詳しくは、第1の量子化データ144を図8(A)のマスク1801によって間引くことにより、第1走査に対応した第1の量子化データA 146を得る。また、第1の量子化データ144を図8(B)のマスク1802によって間引くことにより、第2の量子化データB 147を得る。一方、第2の量子化データ145は、そのまま、第2走査用の量子化データ148として、以降の処理に用いられる。このようにして3回の走査で記録される3種類の2値データ146〜148が生成される。
【0067】
尚、本実施形態においては、ブラックインクを吐出するノズル列(記録素子群)として、第1ブラックノズル列54および第2ブラックノズル列55を備えている。そのため、第1の量子化データA 146、第1の量子化データB 147、第2の量子化データ148は、それぞれ、マスク処理により、第1ブラックノズル列用2値データと第2ブラックノズル列用2値データに分けられる。すなわち、図8に示されるような互いに補完関係を有するマスク1801、1802を使用して、第1の量子化データA 146から、第1ブラックノズル列用の第1の量子化データAと、第2ブラックノズル列用の第1の量子化データBが生成される。また、第1の量子化データB 146からは、第1ブラックノズル列用の第1の量子化データBと、第2ブラックノズル列用の第1の量子化データBが生成される。また、第2の量子化データ146からは、第1ブラックノズル列用の第2の量子化データと、第2ブラックノズル列用の第2の量子化データが生成される。ただし、ブラックノズル列が1列のみの場合には、この処理は必要としない。
【0068】
ところで、本実施形態では、互いに補間関係のある2つのマスクパターンを用いて2回の走査に対応する2値データを生成しているため、この走査間には上述したドット重複処理は適用されない。勿論、従来方法のように、すべての走査間でドット重複処理を適用することは可能である。しかし、すべての走査間でドット重複処理を適用してしまうと、量子化対象のデータ数が多くなるため、データ処理の負荷が大きくなってしまう。このような理由から、本実施形態では、3回のマルチパス記録において、入力画像データから2つの多値データを生成し、2つのの多値データにドット重複処理を適用するようにしている。
【0069】
以上のように、図12に示される処理によれば、複数の2値画像データ(144、145)を重ねた場合に、ドット同士が重なる箇所(両方のプレーンに“1”が存在する画素)がある程度存在するため、濃度変動に強い画像を得ることができる。本実施形態においては、2値画像データ144からマスク処理によって第1走査用の量子化データと第3走査用の量子化データを生成し、2値画像データ145を第2走査用の量子化データとしている。仮に第1走査と第2走査との間の搬送誤差による記録ずれが発生しても、第1走査用の量子化データと第2走査用の量子化データを重ねた場合に、ドット同士が重なる箇所がある程度存在するため、濃度変動に強い画像を得ることができる。また、仮に第2走査と第3走査との間の搬送誤差による記録ずれが発生しても、第2走査用の量子化データと第3走査用の量子化データを重ねた場合に、ドット同士が重なる箇所がある程度存在するため、濃度変動に強い画像を得ることができる。
【0070】
また、3回のマルチパス記録において、入力画像データから2つの多値データを生成し、2つの多値データにだけドット重複処理を適用しているので、ドット重複処理による処理負荷を抑制しながら、濃度変動を抑制することができる。更に、本実施形態によれば、ドット重複処理を適用しない走査(本例では、第1走査および第2走査)に対応したデータを生成するにあたり、互いに補間関係のあるマスクを用いている。このため、これらの走査により記録されるドット同士が紙面上で重複する確率を低く抑えることができるので、粒状感の悪化を抑制することもできる。
【0071】
ここで、図21に戻り、本実施形態の特徴部について説明を行う。
【0072】
従来から、マルチパス記録において記録素子群(ノズル列)の端部に適用するマスクの記録許容率(全画素のうち記録を許容する画素の割合)を中央部に適用するマスクの記録許容率よりも低くする方法が提案されている(例えば特許文献3)。この方法によれば、スジなどの画像弊害を回避することが可能になる。そこで、本実施形態でも、記録素子群(ノズル列)の端部の記録デューティ(全画素のうち記録が行われる画素の割合)を中央部の記録デューティよりも低くするために、以下の構成を採用した。すなわち、まず、多値入力画像データを第1の多値データと第2の多値データに分配するにあたり、各画素における、第1走査および第3走査に対応する第1の多値データ24−1の値を、第2走査に対応する第2の多値データ24−2の値の2倍未満とした。具体的には、本実施形態においては、第1の多値画像データを、第1の多値画像データと第2の多値画像データに3:2の比で分配した。これは、第1の多値データの記録デュテ−ィを100%とすると、第1の多値データの記録デュテ−ィが60%、第2の多値データの記録デューティが40%となるように、データを分配していることになる。
【0073】
そして、第1の多値データおよび第2の多値データをそれぞれ量子化処理した後、2値データ分割部27により、第1の2値データ26−1を、第1走査に対応する第1の2値データAと第3走査に対応する第1の2値データBに均等に2分割した。そのため、第1の多値データの記録デュテ−ィが60%であるとき、第1の2値データAおよび第1の2値データBの記録デューティはそれぞれ30%に相当する。また、第2の多値データの記録デューティが40%であるとき、第2の2値データの記録デューティは40%のままである。従って、第1走査および第3走査に対応する記録素子群の端部の記録デューティは、第2走査に対応する記録素子群の中央部の記録デューティよりも低くなる。このようにして、本実施形態によれば、ドット重複処理による処理負荷を抑制しながら、記録素子群の端部の記録デューティを記録素子群の中央部の記録デューティよりも低くすることで、スジなどの画像弊害を軽減することができる。
【0074】
記録素子群の端部の記録デューティを下げる方法として、色変換/画像データ分割部および階調補正処理部によって端部の記録デューティを下げることも可能ではある。しかし、このような処理はマスク処理に比べ処理負荷が大きい。しかも、濃度差(データの値の差)の大きい多値データ24−1、24−2を量子化すると、データ値の小さい(記録デューティの低い)多値データで、量子化の結果、ドット出力の偏り、連続ドットの出現などの不具合も発生してしまう。このため、端部の記録デューティを下げる方法としては、本実施形態のように、色変換/画像データ分割部によって入力多値データを分配した後に量子化し、データ値の大きい(記録デューティの高い)2値データをマスクで分割するのが好適である。
【0075】
なお、本実施形態では、マスクを利用して量子化データを間引くことにより分割処理を実行しているが、分割処理においてマスクを用いることは必須ではない。例えば、量子化データから偶数カラムデータと奇数カラムデータを抽出することで分割処理を実行してもよい。この場合、第1の量子化データから偶数カラムデータと奇数カラムデータを抽出して、偶数カラムデータを第1走査用量子化データとし、偶数カラムデータを第3走査用データとする。このようなデータ抽出法であっても、従来法に比してデータ処理の負荷が軽減することに変わりはない。
【0076】
以上説明したように本実施形態によれば、3回の相対移動で同一領域に対する記録を行うにあたり、3回の相対移動間の記録位置ズレによる濃度変動を抑制できる。また、3プレーンの多値画像データを量子化するような従来方法よりも、量子化処理の対象となるデータ数を少なくできるため、従来方法よりも量子化処理の負荷を軽減することができる。更に、記録素子群の端部の記録デューティを記録素子群の中央部の記録デューティよりも低くすることで、スジなどの画像弊害を軽減することができる。
【0077】
以上、本実施形態では、3パス記録を例に説明をしたが、本発明は、このパス数に限定されるものではない。本実施形態で重要なことは、Mパス(Mは3以上の整数)記録において、N個(Nは2以上の整数で、Mより小さい)の同色の多値データを量子化した後に、これら量子化データの少なくとも1個から、複数回の走査に対応した補完関係を有する複数個の量子化データを生成する点にある。また、こうすることで、M回の走査に対応したM個のデータ生成に際して、それぞれ量子化処理を行わずに済むため、上述したデータ処理の負荷軽減を実現できる。
【0078】
また更に、記録素子群の端部の記録デューティを中央部の記録デュテ−ィよりも低くするための手法は、上記した方法に限られるものではない。例えば、先ず、第1の多値データから、第1の多値データの記録デュテ−ィが70%、第2の多値データの記録デューティが30%となるように、データを分配する。そして、第1の多値データおよび第2の多値データをそれぞれ量子化処理した後、2値データ分割部27により、第1の2値データAの記録デューティが30%、第1の2値データBの記録デューティが40%となるように、第1の2値データAと第1の2値データBに分割する。ここでは、第1の2値データAは第1走査用の2値データとして第1走査に割り当てられ、第1の2値データBは第2走査用の2値データとして第2走査に割り当てられるものとする。また、第2の多値データの記録デューティは30%であり、第2の2値データの記録デューティは30%のままである。そして、この第2の2値データは第3走査用の2値データとして第3走査に割り当てられる。従って、この方法によれば、記録素子群端部に相当する第1走査および第3走査では、記録デューティが30%となり、記録素子群中央部に相当する第2走査では、記録デューティが40%となる。詰まり、記録素子群の端部の記録デューティを記録素子群の中央部の記録デューティよりも低くでき、スジなどの画像弊害を軽減することができる。
【0079】
尚、この説明からも分かるように、第1の2値データA、第1の2値データB、および第2の2値データの各走査への割り当ては、上記の実施形態の構成に限定されるものではない。上記実施形態では、第1の2値画像データから第1の2値データAと第1の2値データBを分割処理により生成し、第1の2値データAを第1走査に割り当て、第1の2値画像データBを第3走査に割り当てた。また、第2の2値画像データを第2走査に割り当てた。しかし、本発明はこれに限らず、例えば、第1の2値画像データAを第1走査に割り当て、第1の2値画像データBを第2走査に割り当て、第2の2値画像データを第3走査に割り当てるようにすることも出来る。
【0080】
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態では、量子化処理部25−1、25−2において、第1の多値データ24−1と第2の多値画像データ24−2をそれぞれ無相関に量子化している。従って、量子化処理部25−1、25−2より出力される第1の2値データ26−1と第2の2値データ26−2との間(複数のプレーン間)には相関性がない。そのため、重複ドットの数が多くなり過ぎて、粒状感の悪化を招く可能性もある。より詳しくは、粒状感を低減するという観点から言えば、図9(A)に示すように、ハイライト部分では、数少ないドット(1701、1702)が互いに一定の距離を保ちながら、均等に分散しているのが理想である。しかしながら、複数のプレーン間で2値データに相関性を持たせない構成では、図9(B)に示すように、ドットが重なる箇所(1603)や隣接して記録される箇所(1601、1602)が不規則に生じ、これらドットの塊が粒状感の悪化に繋がる場合がある。
【0081】
そこで、本実施形態では、このような粒状感の悪化を抑制するべく、図21の量子化処理部25−1、25−2において、第1の多値データ24−1と第2の多値画像データ24−2との間に相関を持たせながら量子化を行う。より詳しくは、第2の多値データを利用して第1の多値データの量子化処理を行うと共に、第1の多値データを利用して第2の多値データの量子化処理を行う。これにより、第1の多値データ(あるいは第2の多値データ)に基づいてドットが記録される画素には、第2の多値データ(あるいは第1の多値データ)ではドットが極力記録されないように制御することができるため、ドットの重なりに起因する粒状感の悪化を抑制することができる。以下、第2の実施形態について詳細に説明する。
【0082】
<ドット重複率の制御と濃度むらおよび粒状感の関係>
背景技術の項や発明が解決しようとする課題の項で述べたように、異なる走査や異なる記録素子群で記録されるドット同士がずれて重なると、画像の濃度変動が生じ、これが濃度ムラとして知覚される。そこで本発明では、同じ位置(同じ画素や同じサブ画素)に重複して記録すべきドットを予め幾つか用意し、記録位置ずれが生じた際に、隣り合うドットが互いに重なり合い白紙領域を増加させる一方、重複したドットが互いに離れ白紙領域を減少させるようにする。これにより、記録位置ずれによる白紙領域の増と減、すなわち濃度の増と減が相殺し合い、画像全体としての濃度変化を抑制することが期待できる。
【0083】
但し、重複したドットを予め用意することは、粒状感を悪化させることにも繋がる。例えば、全てのドットを2つずつ重ねながらN個のドットを記録する場合は、ドットを記録する位置が(N/2)個になり、ドットを全く重ねない場合に比べて、ドット同士の間隔が広がる。従って、全ドットを重ねた場合の画像の空間周波数は、ドットを全く重ねない場合の画像よりも低周波側に移行する。一般に、インクジェット記録装置により記録される画像の空間周波数は、人間の視覚特性が比較的敏感に反応する低周波領域から比較的鈍感になる高周波領域を含んでいる。よって、ドットの記録周期を低周波側に移動させることは、粒状感を感知させ画像弊害を招致することに繋がる。
【0084】
すなわち、粒状感を抑えるためにドットの分散性を高くする(ドットの重複率を低く抑える)とロバスト性が損なわれ、ロバスト性を重視するためにドットの重複率を高くすると粒状感が問題視されることになり、両者を同時且つ完全に回避することは困難となる。
【0085】
しかしながら、上記濃度変化についても粒状感についても、それぞれ、ある程度の許容範囲(人間の視覚特性上、視認されにくい範囲)を有している。よって、この許容範囲内に両者を抑える程度に、ドット重複率を調整することが出来れば、弊害の目立たない画像を出力することが期待できる。但し、上記許容範囲やドットの径や配置状態は、例えばインクの種類や記録媒体の種類、また濃度データ値など様々な条件に応じて変化し、適切なドット重複率が常に一定とは限らない。よって、より積極的にドットの重複率を制御可能な構成を備え、様々な条件に応じてこれを調整することが好ましい。
【0086】
ここで「ドット重複率」について説明する。「ドット重複率」とは、図7や後述する図19に示されるように、K(Kは1以上の整数)個の画素領域で構成される単位領域に記録されるべき総ドット数のうち、異なる走査あるいは異なる記録素子群によって同じ位置に重複して記録されるべきドット(重なりドット)数の割合である。なお、同じ位置とは、図7の場合には同じ画素位置を指し、図19の場合にはサブ画素位置を指す。
【0087】
以下、図7を用いて、4画素(主走査方向)×3画素(副走査方向)で構成される単位領域に対応した第1プレーンと第2プレーンのドット重複率について説明する。なお「第1プレ−ン」とは、第1走査あるいは第1ノズル群に対応した2値データの集合を表し、「第2プレ−ン」とは、第2走査あるいは第2ノズル群に対応した2値データの集合を表している。また、「1」はドットの記録を示すデータを表し、「0」はドットの非記録を示すデータを表している。
【0088】
図7(A)〜(E)では、第1プレーンの「1」の個数が“4”で、第2プレ−ンの「1」の個数も“4”であるため、4画素×3画素で構成される単位領域に記録されるべき総ドット数は“8”となる。一方、同じ画素位置に対応する、第1プレーンと第2プレーンの「1」の個数が、同じ画素に重ねて記録されるべきドット(重なりドット)の数となる。この定義によれば、重なりドット数は、図7(A)の場合に“0”、図7(B)の場合には“2”、図7(C)の場合には“4”、図7(D)の場合には“6”、図7(E)の場合には“8”となる。従って、図7(H)に示されるように、図7(A)〜(E)のドット重複率は、それぞれ、0%、25%、50%、75%、100%となる。
【0089】
さらに、図7(F)および(G)は、プレーンの記録ドット数および総ドット数が、図7(A)〜(E)の場合とは異なる場合を示している。図7(F)は、第1プレーンの記録ドット数“4”で、第2プレ−ンの記録ドット数が“3”で、総ドット数が“7”で、重なりドット数が“6”で、ドット重複率が86%の場合を示している。一方、図7(G)は、第1プレーンの記録ドット数“4”で、第2プレ−ンの記録ドット数が“2”で、総ドット数が“6”で、重なりドット数が“2”で、ドット重複率が33%の場合を示している。
【0090】
このように本明細書における「ドット重複率」は、異なる走査あるいは異なる記録素子群に対応したドットデータを仮想的に重ねた場合のドットデータの重複率であって、紙面上においてドットが重複する面積率や割合を示すものではない。
【0091】
〈画像処理〉
次に、本実施形態における画像処理について説明する。本実施形態では、第1の実施形態と同様、図21に示した画像処理の構成を用いるが、量子化処理部25−1、25−2による量子化方法が第1の実施形態とは相違する。本実施形態と第1の実施形態との相違点は量子化処理部25−1、25−2における量子化方法だけであるため、以下では、本実施形態に特有の量子化方法についてだけを説明し、それ以外の説明は省略する。また、本実施形態以降、説明の簡略化のために、ブラックノズル列として第1ブラックノズル列54のみを備えるものとし、各走査用2値データから第1ブラックノズル列用2値データ、第2ブラックノズル列用2値データを生成する処理は省略する。
【0092】
図21の量子化処理部25−1,25−2には、第1の実施形態と同様、第1の多値データ24−1(K1´)と第2の多値データ24−2(K2´)が入力される。そして、これら第1の多値データ(K1´)と第2の多値データのそれぞれに対し2値化処理(量子化処理)が行われる。すなわち、各多値データは0または1のどちらかに変換(量子化)されて、第1の2値データK1″(第1の量子化データ)26−1および第2のK2″(第2の量子化データ)26−2となる。この際、K1″とK2″の両方が1である画素にはドットが重複して記録され、K1″とK2″の両方が0である画素にはドットが記録されないことになる。また、K1″とK2″のどちらか一方が1である画素には、ドットが1つだけ記録されることになる。
【0093】
量子化処理部25−1、25−2において実行される処理工程を、図23のフローチャートを用いて説明する。このフローチャートにおいて、K1´およびK2´は注目画素における入力多値データであり0〜255の値を有している。また、K1errおよびK2errは、既に量子化処理が終了した周辺の画素から発生した累積誤差値で、K1ttlおよびK2ttlは入力多値データと累積誤差値を合計した値である。更にK1″およびK2″は、第1の2値の量子化データと第2の2値の量子化データである。
【0094】
本処理においては、2値の量子化データであるK1″やK2″の値を決定する際に用いる閾値(量子化パラメータ)が、K1ttlやK2ttlの値に応じて異なるようになっている。そのためにK1ttlやK2ttlの値に応じて閾値が一義的に決まるようなテーブルが予め用意されている。ここで、K1″を決定する際にK1ttlと比較するための閾値をK1table[K2ttl]とし、K2″を決定する際にK2ttlと比較するための閾値をK2table[K1ttl]とする。K1table[K2ttl]はK2ttlの値によって定まる値であり、K2table[K1ttl]はK1ttlの値によって定まる値である。
【0095】
本処理が開始されると、まず、S21によりK1ttlおよびK2ttlを算出する。次いで、S22において、下記表1に示されるような閾値テーブルを参照することにより、S21で求めたK1ttlおよびK2ttlから、2つの閾値K1table[K2ttl]およびK2table[K1ttl]を取得する。閾値K1table[K2ttl]は、表1の閾値テーブルの「参照値」としてK2ttlを用いることによって一義的に定められる。一方、閾値K2table[K1ttl]は、表1の閾値テーブルの「参照値」としてK1ttlを用いることによって一義的に定められる。
【0096】
続くS23〜S25においてK1″の値を決定し、S26〜S28においてK2″を決定する。具体的には、S23において、S21で算出したK1ttlがS22で取得した閾値K1table[K2ttl]以上であるか否かを判定する。そして、K1ttlが閾値以上であると判定された場合にはK1″=1とし、この出力値(K1″=1)に応じて累積誤差値K1err(=K1ttl−255)を算出して更新する(S25)。一方、K1ttlが閾値未満であると判定された場合にはK1″=0とし、この出力値(K1″=0)に応じて累積誤差値K1err(=K1ttl)を算出して更新する(S24)。
【0097】
次いで、S26において、S21で算出したK2ttlがS22で取得した閾値K2table[K1ttl]以上であるか否かを判定する。そして、K2ttlが閾値以上であると判定された場合にはK2″=1とし、この出力値(K1″=1)に応じて累積誤差値K2err(=K2ttl−255)を算出して更新する(S28)。一方、K2ttlが閾値未満であると判定された場合にはK2″=0とし、この出力値(K2″=0)に応じて累積誤差値K2err(=K2ttl)を算出して更新する(S27)。
【0098】
その後、S29において、上記のように更新された累積誤差値K1errおよびK2errを、図13に示される誤差拡散マトリクスに従って、未だ量子化処理が終了していない周辺画素に拡散する。本実施形態では、累積誤差値K1errを周辺画素に拡散するために図13(A)に示される誤差拡散マトリクスを用い、一方、累積誤差値K2errを周辺画素に拡散するために図13(B)に示される誤差拡散マトリクスを用いる。
【0099】
このように本実施形態では、第1の多値データ(K1ttl)に量子化処理を行うのに用いる閾値(量子化パラメータ)を、第2の多値データ(K2ttl)に基づいて決定している。同様に、第2の多値データ(K2ttl)に量子化処理を行うのに用いる閾値(量子化パラメータ)を、第1の多値データ(K1ttl)に基づいて決定している。つまり、2つの多値データの両方に基づいて、一方の多値データの量子化処理も、他方の多値データの量子化処理も実行するのである。これにより、例えば、一方の多値データでドットが記録される画素には、他方の多値データではドットが極力記録されないように制御することができるため、ドットの重なりに起因する粒状感の悪化を抑制することができる。
【0100】
図22(A)は、上記図23のフローチャートに従って、下記表1の閾値テーブルの図22(A)の欄に記述される閾値を用いて量子化処理(2値化処理)を行った結果を入力値(K1ttlおよびK2ttl)と対応付けて説明するための図である。K1ttlおよびK2ttlは共に0〜255の値を取り得、閾値テーブルの図22の欄に示されるように閾値128を境に記録(1)および非記録(0)が決定される。図中のポイント221は全くドットを記録しない領域(K1″=0且つK2″=0)と、2つのドットが重なる領域(K1″=1且つK2″=1)の境界点となる。この例では、K1″=1となる確率(すなわちドット記録率)はK1´/255となり、K2″=1となる確率はK2´/255となる。よって、ドット重複率(1つの画素に2つのドットが重ねて記録される確率)は、ほぼ(K1´/255)×(K2″/255)となる。
【0101】
図22(B)は、上記図23のフローチャートに従って、下記表1の閾値テーブルの図22(B)の欄に記述される閾値を用いて量子化処理(2値化処理)を行った結果を、入力値(K1ttlおよびK2ttl)と対応付けて説明するための図である。ポイント231は、全くドットを記録しない領域(K1″=0且つK2″=0)と1ドットのみを生ずる領域(K1″=1且つK2″=0、あるいはK1″=0且つK2″=0)との境界である。また、ポイント232は、2つのドットを重複して記録する領域(K1″=1且つK2″=1)と1ドットのみを生ずる領域(K1″=1且つK2″=0、あるいはK1″=0且つK2″=0)との境界である。ポイント231と232がある程度の距離を置いて離れていることにより、図22(A)の場合に比べ、どちらか一方のドットが記録される領域が増え、両方のドットが記録される領域が減少している。つまり、図22(B)の場合は、図22(A)の場合よりも、ドット重複率が低減される確率が高く、粒状性を低く抑えるのに有利である。図22(A)の様にドット重複率が急峻に変化するポイントが存在すると、階調の僅かな変化によって濃度むらが発生する場合が有り得るが、図22(B)の場合には階調の変化に応じてドット重複率も滑らかに変化していくので、その様な濃度むらも起こり難い。
【0102】
本実施形態の量子化処理においては、Kttlの値やK1´とK2´の関係に対して様々な条件を設けることにより、K1″およびK2″の値ひいてはドット重複率を様々に調整することが出来る。以下にいくつかの例を図22(C)〜図22(G)を用いて説明する。なお、図22(C)〜図22(G)は、上述した図22(A)および図22(B)と同様、下記表1に示される閾値テーブルに記述される閾値を用いて量子化した結果(K1″およびK2″)と入力値(K1ttlおよびK2ttl)との対応関係を示した図である。
【0103】
図22(C)は、ドット重複率を図22(A)と図22(B)の間の値にするようにした場合を示す図である。ポイント241は図22(A)のポイント221と図22(B)のポイント231の中間点になるように定められている。また、ポイント242は図22(A)のポイント221と図22(B)のポイント232の中間点になるように定められている。
【0104】
また、図22(D)は、図22(B)の場合よりもドット重複率を更に低減するようにした場合を示す図である。ポイント251は図22(A)のポイント221と図22(B)のポイント231を3:2に外分する点に定められている。また、ポイント252は図22(A)のポイント221と図22(B)のポイント232を3:2に外分する点に定められている。
【0105】
図22(E)は、図22(A)の場合よりもドット重複率を増加させるようにした場合を示している。図において、ポイント261は、全くドットを記録しない領域(K1″=0且つK2″=0)と1ドットのみを生ずる領域(K1″=1且つK2″=0)と、2つのドットを重複して記録する領域(K1″=1且つK2″=1)との境界点である。また、ポイント262は、全くドットを記録しない領域(K1″=0且つK2″=0)と1ドットのみを生ずる領域(K1″=0且つK2″=1)と、2つのドットを重複して記録する領域(K1″=1且つK2″=1)との境界点である。図22(E)によれば、全くドットを記録しない領域(K1″=0且つK2″=0)から、2つのドットを重複して記録する領域(K1″=1且つK2″=1)への遷移が生じ易くなり、ドット重複率を増加させる事が出来る。
【0106】
また、図22(F)は、ドット重複率を図22(A)と図22(E)の間の値にするようにした場合を示す図である。ポイント271は図22(A)のポイント221と図22(E)のポイント261の中間点となるように定められている。そして、ポイント272は図22(A)のポイント221と図22(E)のポイント262の中間点となるように定められている。
【0107】
更に、図22(G)は、図22(E)の場合よりも更にドット重複率を増加させるようにした場合を示している。ポイント281は図22(A)のポイント221と図22(E)のポイント261を3:2に外分する点に定められている。そして、ポイント282は図22(A)のポイント221と図22(E)のポイント262を3:2に外分する点に定められている。
【0108】
次に、下記表1に示される閾値テーブルを用いた量子化処理の方法について具体的に説明する。表1は、図22(A)〜図22(G)に示した処理結果を実現するために、図23で説明したフローチャートのS22において閾値を取得するための閾値テーブルである。
【0109】
ここでは、入力値(K1ttl、K2ttl)が(100、120)で、且つ、閾値テーブルの図22(B)の欄に記述される閾値を用いる場合について説明する。まず、図23のS22では、表1に示される閾値テーブルと、K2ttl(参照値)に基づいて、閾値K1table[K2ttl]を求める。参照値(K2ttl)が「120」であれば、閾値K1table[K2ttl]は「120」となる。同様に、閾値テーブルとK1ttl(参照値)に基づいて、閾値K2table[K1ttl]を求める。参照値(K1ttl)が「100」であれば、閾値K2table[K1ttl]は「101」となる。次いで、図23のS23において、K1ttlと閾値K1table[K2ttl]を比較判定し、この場合、K1ttl(=100)<閾値K1table[K2ttl](=120)であるため、K1″=0(S24)となる。同様に、図23のS26において、K2ttlと閾値K2table[K1ttl]を比較判定し、この場合、K2ttl(=120)≧閾値K2table[K1ttl](=101)であるため、K2″=1(S28)となる。この結果、図22(B)に示されるように、(K1ttl、K2ttl)=(100、120)の場合には、(K1″、K2″)=(0、1)となる。
【0110】
また、別の例として、入力値(K1ttl、K2ttl)=(120、120)で、且つ、閾値テーブルの図22(C)の欄に記述される閾値を用いる場合について説明する。この場合、閾値K1table[K2ttl]は「120」となり、閾値K2table[K1ttl]は「121」となる。従って、K1ttl(=120)≧閾値K1table[K2ttl](=120)であるため、K1″=1となり、一方、K2ttl(=120)<閾値K2table[K1ttl](=121)であるため、K2″=0となる。この結果、図22(C)に示されるように、(K1ttl、K2ttl)=(120、120)の場合には、(K1″、K2″)=(1、0)となる。
【0111】
以上のような量子化処理によれば、2つの多値データの両方に基づいて、夫々の多値データを量子化することで、2つの多値データのドット重複率を制御している。これにより、一方の多値データで記録されるドットと他方の多値データで記録されるドットの重複率を好適な範囲内、すなわち、高いロバスト性と低い粒状性を両立させることができる範囲内に収めることができる。
【0112】
【表1】

【0113】
【表2】

【0114】
【表3】

【0115】
【表4】

【0116】
以上のようにして、量子化処理部25−1によって第1の2値データK1″(第1の量子化データ)26−1が生成され、量子化処理部25−2によって第2走査用の2値データK2″(第2の量子化データ)26−2が生成される。
【0117】
そして、これら2値データK1″およびK2″のうち、2値データK1″は、図21の分割処理部27に送られ、第1の実施形態で説明した通りの処理が行われる。これにより、第1走査および第2走査に対応した2値データ28−1、28−2が生成される。
【0118】
以上の処理によれば、2つの2値データ(26−1、26−2)を重ねた場合に、ドット同士が重なる箇所(両方のプレーンに“1”が存在する画素)がある程度存在することになるため、濃度変動に強い画像を得ることができる。その一方で、ドット同士が重なる箇所はそれ程多くないため、ドット同士の重なりが原因で生じる粒状感の悪化を招かずに済む。更に、特定の走査間にだけドット重複率制御を適用し、ノズル列間にはドット重複率制御を適用しないようにしているので、ドット重複率制御による処理負荷を抑制しながら、濃度むら低減と粒状感低減をバランスよく実現することが出来る。また、記録素子群の端部の記録デューティを記録素子群の中央部の記録デューティよりも低くすることで、スジなどの画像弊害を軽減することができる。
【0119】
(第2の実施形態の変形例1)
上述したように、本実施形態で好適に実行される量子化処理は、図23を用いて説明したようなドット重複率を制御できる誤差拡散処理であるが、本実施形態において適用可能な量子化処理はこれに限られるものではない。以下、本実施形態で適用可能な量子化処理の別例について図19を用いて説明する。
【0120】
図19は、本実施形態の制御部3000が、ドット重複率を低減するために実行可能な誤差拡散法の一例を説明するためのフローチャートである。当該フローチャートにおいて、各種パラメータは図23で説明したものと同じである。
【0121】
注目画素に対する量子化処理が開始されると、まずS11において、K1ttlおよびK2ttlが算出され、更にこれらを加算したKttlが算出される。このとき、Kttlは0〜510の値を有する。続くS12〜S17では、Kttlの値やK1ttlおよびK2ttlの大小関係に応じて、2値の量子化データに相当するK1″およびK2″の値を決定する。
【0122】
Kttl>128+255の場合はS14へ進み、K1″およびK2″を共に1とする。また、Kttl≦128の場合はS17へ進み、K1″およびK2″を共に0とする。一方、128+255≧Kttl>128の場合はS13進み、K1ttlとK2ttlの大小関係を更に調べる。S13でK1ttl>K2ttlの場合はS16に進み、K1″=1且つK2″=0とする。K1ttl≦K2ttlの場合はS15に進み、K1″=0且つK2″=1とする。
【0123】
なお、S14〜S17においては、それぞれの決定した出力値に応じて累積誤差値K1errおよびK2errを新たに算出して更新する。すなわち、K1″=1の場合にはK1err=K1ttl−255とし、K1″=0の場合にはK1err=K1ttlとする。同様に、K2″=1の場合にはK2err=K2ttl−255とし、K2″=0の場合にはK2err=K2ttlとする。さらに続くS18では、更新された累積誤差値K1errおよびK2errを、所定の拡散マトリクス(例えば、図13に示される拡散マトリクス)に従って、未だ量子化処理が終了していない周辺画素に拡散する。以上で本処理が完了する。なお、ここでは、累積誤差値K1errを周辺画素に拡散するために図13(A)に示される誤差拡散マトリクスを用い、累積誤差値K2errを周辺画素に拡散するために図13(B)に示される誤差拡散マトリクスを用いる。
【0124】
以上説明した変形例によれば、第1の多値の画像データと第2の多値の画像データの両方に基づいて、第1の多値の画像データの量子化処理も、第2の多値の画像データの量子化処理も実行する。これにより、2つの多値画像データにおいて所望のドット重複率を有する画像を出力することが可能となり、ロバスト性に優れ粒状感も低減された高品位な画像が得られる。
【0125】
(第3の実施形態)
本実施形態は、2値データ分割部で用いるマスクに関し、その記録許容率が記録素子群の中央部から端部に向かって下がるように設定されたマスクを用いるものである。これにより、記録素子群の中央部から端部に向けて、記録許容率を徐徐に変化させることができ、濃度変化の軽減された画像を記録することが可能になる。以下、本実施形態の詳細について説明する。
【0126】
本実施形態は、3回の記録走査によって記録媒体の同一領域の画像を完成させる3パス記録により記録を行うものであり、そのための画像処理は、基本的に、第1の実施形態の画像処理と同様である。本実施形態の構成が、第1の実施形態と異なる点は、第1の2値データを第1走査に対応する第1の2値データAと第3走査に対応する第1の2値データBとに分割する際の分割手法である。
【0127】
図14は、本実施形態において、第1の2値データ26−1、第2の2値データ26−2が生成されてから、各走査に対応する2値データが生成され、各走査に割り当てられるまでのフローを説明する図である。
【0128】
図14(A)は、量子化部25−1、25−2により第1の2値データ26−1および第2の2値データ26−2が生成されたことを示している。そして、図14(B)では、2値データ分割部27において、第1の2値データAを生成するために用いられるマスクAおよび第1の2値データBを生成するために用いられるマスクBを図示している。そして、2値データ分割部27は、図14(C)に示すように、第1の2値データ26−1にマスクAを適用し、第1の2値データ26−1にマスクBを適用することで、第1の2値データ26−1を第1の2値データAと第1の2値データBとに分割する。尚、マスクAとマスクBとは、記録を許容する画素の位置が排他の関係になっている。
【0129】
ここで、本実施形態において、2値データ分割部27で用いられるマスクA、マスクBの特徴について説明する。第1の実施形態では、2値データ分割部27において用いられるマスク1801とマスク1802は、マスクの記録許容率がノズル配列方向において一定であった。これに対し、本実施形態のマスクA(30−1)は、記録素子群の中央部から端部(図の上から下)に向かって、記録許容率が下がるように設定されている。具体的には、マスクAをノズル配列方向に同一サイズの3つの領域に分割し、記録素子群の中央部寄りの領域から、記録許容率を2/3、1/2、1/3としている。また、マスクB(30−2)も、記録素子群の中央部から端部(図の下から上)に向かって、記録許容率が下がるように設定されている。マスクBにおいても、ノズル配列方向に同一サイズの3つの領域に分割し、中央部寄りの領域から、記録許容率を2/3、1/2、1/3としている。尚、マスクA,Bにおいて、記録許容率を設定する領域のサイズはそれぞれ同じでなくてもよい。
【0130】
本実施形態においても、画像データ分割部22では、多値入力データを第1の多値データと第2の多値データに3:2に分配しているため、第1の多値データ(第1の2値データ)の記録デューティは60%である。図14(B)のマスクAを用いて、第1の2値データから第1の2値データA(31−1)を生成すると、記録素子群の中央寄りの領域にから、40%(60%×2/3)、30%(60%×1/2)、20%(60%×1/3)という記録デューティの勾配を持つ。また、マスクBを用いて、第1の2値データから第1の2値データB(31−2)を生成すると、その記録デューティの勾配は次のようになる。すなわち、記録素子群の中央寄りの領域にから、40%(60%×2/3)、30%(60%×1/2)、20%(60%×1/3)という記録デューティの勾配を持つ。また、画像データ分割部22によって、第1の多値データと第2の多値データに3:2に分配しているため、第2の多値データ(第2の2値データ)の記録デューティは40%である。すなわち、記録素子群の中央部の記録デューティは40%となり、記録素子群の中央部から端部に向かって、記録デューティが40%、30%、20%と滑らかに変化することになる。
【0131】
図14(D)は、2値データの記録素子群への割り当てを模式的に示したものである。同図では、図の下側が搬送方向の上流側に相当しており、下1/3の2値データが第1走査で記録され、中央1/3が第2走査で記録され、上1/3の2値データが第3走査で記録される。本実施形態では、第1の2値データA(31−1)を1走査目で記録するように記録素子群の上流側1/3割り当てる。また、第2の2値データ(26−2)を2走査目で記録するように記録素子群の中央1/3に、第1の2値データB(31−2)を3走査目で記録するように記録素子群の下流側1/3に割り当てる。このようにして、同一の所定領域に対する3回の走査で完成させる記録データ(34)を生成する。
【0132】
以上のように、本実施形態は、2値データ分割部で用いるマスクの記録許容率が記録素子群の中央部から端部に向かって下がるように設定されている。これにより、記録素子群の中央部から端部に向けて、記録許容率を徐々に変化させることができ、濃度変化の軽減された画像を記録することが可能になる。
【0133】
尚、記録素子群の中央部の記録デューティを40%、端部の記録デューティを20%とするために、濃度差(データの値の差)の大きい多値データ24−1、24−2を生成すると、次のような問題が発生するおそれがある。詰まり、値の小さい(記録デューティの低い)方の多値データで、量子化の結果、ドット出力の偏り、連続ドットの出現などの不具合も発生してしまう問題が発生する。また、第1の多値データと第2の多値データの両方に基づいて夫々の多値データを量子化する(第2の実施形態)場合、各プレーン間のドット重複率を制御しつつ、記録デューティに勾配を持たせるような量子化処理は難しく、その処理が複雑になる可能性もある。
【0134】
本実施形態によれば、量子化処理の負荷を軽減しつつ、記録素子群の端部の記録デューティを記録素子群の中央部の記録デューティよりも低くすることで、スジなどの画像弊害を軽減することができる。
【0135】
(第3の実施形態の変形例1)
第3の実施形態の変形例は、第3の実施形態の構成を基本として、データの管理方法に特徴を持たせたものである。
【0136】
図15は、各走査に対応する2値データを生成する際のデータの管理方法の従来例を説明する図である。同図の左側には、受信バッファF115およびプリントバッファF118に蓄えられた2値データを示し、右側にはマスク30−3により生成される記録素子群の各走査の2値データを示す。本例では、記録媒体の所定領域に対して記録素子群を3回相対移動させる3パス記録により記録を行っており、図の(a)(b)(c)は各走査での2値データを示し、(A)(B)(C)(D)(E)は記録媒体の所定領域を示す。
【0137】
ここに示す従来例では、1色あたり1プレーンの2値データが生成されるため、この2値データは、受信バッファF115に蓄えられた後に、マスクを用いた分割処理を行うためにプリントバッファF118へと転送される。プリントバッファF118に転送された2値データは、マスクパターン30−3との論理積を行うことで記録素子群の1走査目の2値データ(a)を得る。ここでは、端部の記録デューティを下げて記録するために、記録素子群(ノズル列)をノズル配列方向に9分割し、各領域に適用するマスクの記録許容率は、次の通り設定する。すなわち、端部から1/5(=20%)、3/10(=30%)、2/5(=40%)、2/5(=40%)、2/5(=40%)、2/5(=40%)、2/5(=40%)、3/10(=30%)、1/5(=20%)としている。同様に、記録素子群の2走査目の2値データ(b)、3走査目の2値データ(c)も、プリントバッファに蓄積された2値データとマスク30−3との論理積により得られる。
【0138】
記録媒体の同一の所定領域に注目すると、上記マスク30−3で3分割された2値データが記録素子群の3回の走査それぞれで記録され、所定領域の記録が完成する。例えば、記録領域(C)の上部1/3に注目すると、第1走査(a)で2値データの2/5(=40%)を記録し、第2走査(b)で2値データの2/5(=40%)を記録し、第3走査(c)で2値データの1/5(=20%)を記録して、画像を完成させる。ここで、同一の記録領域に対応する2値データを3つに分割するためのマスクは互いに排他で、記録許容率の合計が1(=100%)となっている。また、記録領域(C)の中央1/3における各走査の記録デューティは、第1走査目3/10(=30%)、第2走査目2/5(=40%)、第3走査目3/10(=30%)である。また、下部1/3における各走査の記録デューティは、第1走査目1/5(=20%)、第2走査目2/5(=40%)、第3走査目2/5(=40%)となっている。この様に、従来例では、プリントバッファ内の2値データとマスクの論理積を行うという簡単な構成で、記録素子群の1回の走査の2値データを得ていた。
【0139】
次に、このような従来のデータの管理方法によって、2プレーンの2値データを各走査に対応する2値データに分割する例を説明する。図16の左側には、受信バッファF115およびプリントバッファF118に蓄えられた2プレーン分の2値データ(第1の2値データ26−1,第2の2値データ26−2)を示す。また、同図の右側にはマスクA、マスクBを用いて生成される記録素子群の各走査の2値データを示す。
【0140】
ここで、記録素子群の第1走査用の2値データ(a)を生成する場合、第1の2値データをマスクで分割し、記録素子群の上端部および下端部に割り当て、第2の2値データは記録素子群の中央部へと割り当てる。従って、第1走査用の2値データ(a)のうち、上1/3の部分の2値データ(a1)は、第1の2値データBとマスクB(30−2)との論理積により生成され、下1/3の部分の2値データ(a3)は、第1の2値データAとマスクA(30−1)との論理積により生成される。また、中央1/3の部分の2値データ(a2)は、第2の2値データがそのまま用いられる。記録素子群の第2走査目以降も、同様にして各走査における2値データが生成される。尚、第1の2値データを分割するために用いられるマスクは互いに排他関係にあり、記録許容率の合計が1(=100%)である。記録領域(C)の上部1/3に注目すると、第1走査(a)で第1の2値データの2/3を記録し、第3走査(c)で第1の2値データの残り1/3を記録している。また、第2走査では第2の2値データを100%記録する。詰まり、記録領域(C)の上部1/3の領域は、3回の走査で第1の2値データおよび第2の2値データの両方が100%記録されることとなる。これは、記録領域(C)の中央1/3、下部1/3の領域でも同様である。
【0141】
以上の方法で、上記実施形態の構成を実施することはもちろん可能であるが、その場合、記録素子群の1走査分の2値データを生成するのに、記録素子群の位置(領域)によって参照するプリントバッファを切り替える必要がある。例えば、第1走査(a)では、記録素子群の上端部(a1)と下端部(a3)は、プリントバッファの第1の2値データ(第1プレーン)が格納されたエリアを参照し、中央部(a2)は第2の2値データ(第2プレーン)が格納されたエリアを参照する必要がある。従来の方法では、図15,16に示すように、同一走査の2値データを生成する場合、同一のプリントバッファを参照していたため、記録素子群の位置(領域)に応じてプリントバッファの参照先を変更する構成を追加する必要がある。そこで、本変形例では、以下に示すデータの管理方法を採用することにより、このような問題を解決するものである。
【0142】
図17は、本変形例における、2値データの管理方法を説明するための図である。本変形例では、受信バッファF115に、2プレーン分の2値データ(第1の2値データおよび第2の2値データ)が入力される。次に、受信バッファF115に入力された2プレーン分の2値データは、プリントバッファF118へと転送される。
【0143】
本変形例のデータ管理方法においては、この受信バッファからプリントバッファへのデータ転送時に受信バッファの第1プレーンの2値データ(第1の2値データ)と第2プレーンの2値データ(第2の2値データ)を、プリントバッファの第1のエリアと第2のエリアにそれぞれ交互に格納することを特徴とする。すなわち、複数プレーンで処理された2値データ(パス数に対応した2値データ)を、プレーン単位でデータ管理するのではなく、記録素子群の1回の走査に対応付けて2値データをプリントバッファに格納し、管理する。このようなデータ転送は、転送元の受信バッファのアドレス、転送先のプリントバッファへのアドレス、転送データ量を指定して行う。このため、プリントバッファの各エリアに第1プレーンの2値データと第2プレーンの2値データを交互に格納することは、転送元のアドレスを受信バッファの第1プレーンと第2プレーン間で交互に設定すればよいため、容易に実現することができる。
【0144】
次に、記録素子群の第1走査用の2値データ(a)を生成する際は、プリントバッファF118の第1のエリアに格納された2値データとマスクAB(30−4)との論理積により生成することができる。ここで、マスクABは、記録素子群の上端部に相当する領域がマスクB(30−2)で構成され、中央部は全画素に記録を許容することが定められた記録許容率100%のマスクで構成されている。また、下端部に相当する領域がマスクA(30−1)で構成されている。
【0145】
次に、記録素子群の第2走査用の2値データ(b)は生成する際は、プリントバッファF118の第2エリアに格納された2値データとマスクAB(30−4)との論理積により生成することができる。そして、第3走査用の2値データ(c)を生成する際は、再びプリントバッファF118の第1エリアに格納された2値データとマスクAB(30−4)との論理積により生成することができる。
【0146】
以上説明したように、本変形例では、第1の2値データおよび第2の2値データを受信バッファからプリントバッファに転送する際に、プリントバッファの異なるエリアに交互に格納する。また、記録素子群全体に適用できるマスク(マスクAB)を用いることによって、1走査分の2値データを生成する際に参照するプリントバッファを同じにすることができる。そのため、より簡単な構成で複数プレーンの2値データから記録素子群の1走査分の2値データを生成することができる。
【0147】
(第4の実施形態)
第4の実施形態は、5回の記録走査によって記録媒体の同一領域の画像を完成させる5パス記録を行う場合に、2個の多値データを生成し、それぞれを量子化処理した後、各2値データを2分割および3分割することにより、データ処理の負荷を軽減する。また、記録素子群の端部の記録デューティを記録素子群の中央部の記録デューティよりも低くすることで、スジなどの画像弊害を軽減するものである。
【0148】
図18は、本実施形態において、5パス記録を行う場合の画像処理を説明するためのブロック図である。基本的に、本実施形態の各工程における処理は、図21で説明した第1の実施形態の画像処理の各工程での処理と同じである。
【0149】
図18において、外部機器から、多値画像データ入力部21によって、RGBの多値の画像データ(256値)が入力される。この入力画像データ(多値のRGBデータ)は、画素毎に、色変換/画像データ分割部22によって、各インク色に対応した第1記録濃度多値データと第2記録濃度多値データの2組の多値画像データ(CMYKデータ)に変換される。
【0150】
次に、第1の多値データと第2の多値データは、それぞれ、色毎に、階調補正処理部23−1および23−2にて階調補正処理が施される。そして、第1の多値データと第2の多値データから、第1の多値データ24−1(C1´,M1´,Y1´,K1´)と第2の多値データ24−2(C2´,M2´,Y2´,K2´)が得られる。以下の処理は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)およびブラック(K)のそれぞれについて独立に並行して行われるので、これ以後の説明はブラック(K)のみについて行う。
【0151】
続いて、量子化処理部25−1、25−2では、第1の多値データ24−1(K1´)と第2の多値データ24−2(K2´)に対し、それぞれ、無相関に、独立した2値化処理(量子化処理)が行われる。詳しくは、第1の多値データ24−1(K1´)に対して、図13(A)に示される誤差拡散マトリクスと予め定められた量子化閾値を用いた公知の誤差拡散処理が行われ、第1の2値データK1″(第1の量子化データ)26−1が生成される。また、第2の多値データ24−2(K2´)に対して、図13(B)に示される誤差拡散マトリクスと予め定められた量子化閾値を用いた公知の誤差拡散処理が行われ、第2の2値データK2″(第2の量子化データ)26−2が生成される。
【0152】
このように量子化処理部25−1、25−2によって2値の画像データK1″およびK2″が得られると、これらデータK1″およびK2はそれぞれ、IEEE1284バス3022を介して図3で示したプリンタエンジン3000に送られる。以後の処理はプリンタエンジン3000で実行される。
【0153】
ここで、第1の2値データおよび第2の2値データの分割の方法と、分割した第1の2値データおよび第2の2値データを各走査に対応するデータとして割り当てる方法が、第1の実施形態とは異なっている。先ず、第1の2値画像データK1″(26−1)は、2値データ分割処理部27−1によって、第1の2値データB(28−2)と、第1の2値データD(28−4)に分割される。また、第2の2値画像データK1″(26−2)は、2値データ分割処理部27−2によって、第2の2値データA(28−1)、第2の2値データC(28−3)、および第2の2値データE(28−5)に分割される。そして、第1の2値データB(28−2)は第2走査用2値データ29−2として第2走査に割り当てられ、第1の2値データD(28−4)は第4走査用2値データ29−4として第4走査に割り当てられ、それぞれ記録される。また、第2の2値データA(28−1)は第1走査用2値データ29−1として第1走査に割り当てられ、第2の2値データC(28−3)は第3走査用2値データ29−3として第3走査に割り当てられる。また、第2の2値データE(28−5)は第5走査用2値データ29−5として第5走査に割り当てられ、第1、第3、第5走査に割り当てられた2値データが各走査で記録される。
【0154】
尚、本実施形態では、入力画像データは、第1の多値画像データと第2の多値画像データに6:8の比で分配される。そして、2値データ分割部27−1では、第1の2値データをマスクにより均等に2分割し、第1の2値データB(28−2)と、第1の2値データD(28−4)を生成する。詰まり、第1の2値データB(28−2)と、第1の2値データD(28−4)は、その記録デューティが“3/14”の2値データとして生成される。
【0155】
一方、2値データ分割部27−2では、第2の2値データをマスクにより3分割し、第2の2値データA(28−1)、第2の2値データC(28−3)、および第2の2値データE(28−5)を生成する。その際、第2の2値データA(28−1)、第2の2値データC(28−3)、および第2の2値データE(28−5)は、記録デューティ比が、1:2:1となるように分割される。
【0156】
つまり、第2の2値データ27−2は記録デューティが“8/14”であるので、第2の2値データA(28−1)、第2の2値データC(28−3)、および第2の2値データE(28−5)は、その記録デューティが“2/14”、“4/14”、“2/14”の2値データとして生成される。
【0157】
本実施形態では、第2の2値データA、第1の2値データB、第2の2値データC、第1の2値データD、第2の2値データEの順に各走査に割り当てられるため、記録素子群の各領域の記録デューティは、端部から“2/14”、“3/14”、“4/14”、“3/14”、“2/14”となる。従って、記録素子群の端部の記録デューティを中央部の記録デューティよりも低くすることが可能となる。すなわち、本実施形態では、ドット重複制御を走査の一部のみに適用することで、データ処理の負荷を軽減しつつ、スジなどの画像弊害を軽減することができる。
【0158】
(その他)
ところで、記録素子群の往方向の相対移動と復方向の相対移動の両方で記録を行う双方向記録方式では、往方向走査と復方向走査の記録位置ずれの影響も受けることになる。従って、例えば、往方向走査には第1の2値データを割り当て、復方向走査には第2の2値データを割り当てることで、往方向走査と復方向走査の記録位置がずれても、第1の2値データと第2の2値データとの間のドット重なりが存在することになるので、濃度変動を抑制することができる。
【0159】
例えば、第1、第2の実施形態では、3パス記録を行う例を示したが、3パスの双方向記録方式では、同一の記録領域に対する第1走査と第3走査が同一の走査方向で、第2走査が異なる走査方向となる。そのため、第1、第2の実施形態のように、第1の2値データからマスクで分割した第1の2値データA、第1の2値データBを第1走査、第3走査に割り当て、第2の2値データを第2走査に割り当てることにより、双方向記録方式での往方向走査と復方向走査の記録位置ずれの影響を軽減できる。
【0160】
詰まり、双方向記録方式の記録位置ずれの影響を軽減する観点では、マスクを用いて分割された量子化データは、できるだけ同一方向の走査に割り当てられる方が好ましい。より具体的には、N個の量子化データのうち、分割する数が最も多い量子化データから分割生成された量子化データは、同一方向の走査に割り当てることにより、マスクを用いて分割された量子化データを一方向の走査に偏らせて割り当てることができる。例えば、第1、第2実施形態の場合、第1の2値データは分割数が2であり、第2の2値データは分割数がゼロ(分割しない)である。そして、分割数の多い第1の2値データから分割された第1の2値データA、Bを同一方向の走査に割り当てることにより、双方向記録方式の記録位置ずれの影響を軽減できる。なお、分割数が同一方向の走査の数より大きい場合には、同一方向の全走査でマスクを用いて分割生成された量子化データが割り当てられるように、分割生成された量子化データの一部を同一方向の走査に割り当てればよい。
【0161】
また、以上の実施形態の説明では、黒データ(K)を例に説明したが、黒以外の他色のデータそれぞれで同様の処理を行ったり、記録ずれの影響が大きい一部色のみ本発明を適用したりしても良い。例えば、記録ずれの影響が小さいイエロー(Y)は、従来の方法、すなわち、複数回の走査に対応した多値データを量子化処理して2値データを生成し、これを複数回の走査に対応する2値のデータに分割する。また、シアン(C)、マゼンタ(M)、Kは、上述した第1〜第4の実施形態を適用することも可能である。
【0162】
また、異なるドット径のインク滴(例えば、大ドットと小ドット)を用いて記録する場合、記録ずれの影響が小さい小ドットは多値データを量子化して2値データを生成した後に複数回の走査に分割する従来の方法とし、記録ずれの影響が大きい大ドットは、上述した第1〜第4の実施形態を適用することも可能である。また、異なるインク濃度のインク滴(例えば、濃インクと淡インク)を用いて記録する場合、記録ずれの影響が小さい淡インクは多値データを量子化して2値データを生成した後に複数回の走査に分割する従来の方法とし、記録ずれの影響が大きい濃インクは上述した第1〜第4の実施形態を適用することも可能である。
【0163】
また、マルチパス記録のパス数が異なる複数の記録品位(例えば、はやいモード(低パスモード)ときれいモード(高パスモード))で記録できる場合、パス数が多いほど1回の紙搬送量が小さいため記録媒体の搬送精度が高い。したがって、記録ずれの影響が小さいきれいモードは多値データを量子化して2値データを生成した後に複数回の走査に分割する従来の方法とし、記録媒体の搬送精度が低く、ずれの影響が大きいはやいモードは上述した第1〜第4の実施形態を適用することも可能である。また、異なる記録媒体(例えば、光沢紙とマット紙)に記録できる場合、記録媒体のにじみ率が高く、記録ずれの影響が小さいマット紙は、多値データを量子化して2値データを生成した後に複数回の走査に分割する従来の方法とする。また、記録媒体のにじみ率が低く、ずれの影響が大きい光沢紙は、上述した第1〜第4の実施形態を適用することも可能である。
【0164】
また、上記の第1〜第4の実施形態において、第1の2値データおよび第2の2値データに対してマスク処理する際、インク色数が多い、異なるサイズのインク滴を用いるなどの場合には、色毎や異なるサイズのインク滴毎にマスクを変更してもよい。この際、より好適には、色毎や異なるサイズのインク滴毎に適用されるマスク同士が、確率的なドット重複率よりも重複率の低くなるようにすることも有効である。例えば、シアンおよびマゼンタに対して、排他関係にあるマスクAとマスクBとを用いる場合、シアンは、2値デ―タとマスクAとの論理積により1走査目のデータを生成し、2値デ―タとマスクBとの論理積により2走査目のデータを生成する。一方、マゼンタは、2値デ―タとマスクBとの論理積により1走査目のデータを生成し、2値デ―タとマスクAとの論理積により2走査目のデータを生成する。これによって、記録位置ずれの前後でのドット重複率の変化が少なくなり、記録位置ずれによる濃度変動を効果的に抑制できるからである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同色のインクを吐出するための記録素子群と記録媒体とのM回(Mは3以上の整数)の相対移動によって前記記録媒体の所定領域に画像を記録するために、当該所定領域に記録すべき画像に対応した入力画像データを処理するための画像処理装置であって、
前記入力画像データから同色のN個(Nは2以上の整数であって、N<M)の多値画像データを生成するための第1の生成手段と、
前記第1の生成手段によって生成された同色のN個の多値画像データの夫々に量子化処理を行うことにより、前記N個の量子化データを生成するための第2の生成手段と、
前記第2の生成手段により生成された前記N個の量子化データのうち、少なくとも1個の量子化データを複数個の量子化データに分割し、前記M回の相対移動に対応したM個の量子化データを生成するための第3の生成手段と、を備え、
前記M個の量子化データは、前記記録素子群の端部に相当する量子化データの記録デューティが前記記録素子群の中央部の記録デューティよりも低いことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記N個の量子化データは、前記第3の生成手段によって分割される量子化データと、前記第3の生成手段によって分割されない量子化データとを含み、
前記分割される量子化データは、前記分割されない量子化データよりも記録デューティが高いことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記N個の量子化データのうち、前記第3の生成手段によって分割される数の多い量子化データの一部または全てを、同一方向の走査に対応した量子化データとすることを特徴とする請求項1または2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記Nは2であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記第3の生成手段は、2個の量子化データのうち、1個の量子化データを2回の相対移動に対応する量子化データに分割し、他の1個の量子化データを分割しないことを特徴とする請求項4に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記第1の生成手段、第2の生成手段、および第3の生成手段による前記M回の相対移動に対応したM個の量子化データを生成する処理を、インク色に応じて行うことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記第1の生成手段、第2の生成手段、および第3の生成手段による前記M回の相対移動に対応したM個の量子化データを生成する処理を、インク濃度に応じて行うことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記第1の生成手段、第2の生成手段、および第3の生成手段による前記M回の相対移動に対応したM個の量子化データを生成する処理を、インクのドット径に応じて行うことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の画像処理装置。
【請求項9】
同色のインクを吐出するための記録素子群と記録媒体とのM回(Mは3以上の整数)の相対移動によって前記記録媒体の所定領域に画像を記録するために、当該所定領域に記録すべき画像に対応した入力画像データを処理するための画像処理方法であって、
前記入力画像データから同色のN個(Nは2以上の整数であって、N<M)の多値画像データを生成するための第1の生成工程と、
前記第1の生成工程において生成された同色のN個の多値画像データの夫々に量子化処理を行うことにより、前記N個の量子化データを生成するための第2の生成工程と、
前記第2の生成工程において生成された前記N個の量子化データのうち、少なくとも1個の量子化データを複数個の量子化データに分割し、前記M回の相対移動に対応したM個の量子化データを生成するための第3の生成工程と、を有し、
前記M個の量子化データは、前記記録素子群の端部に相当する量子化データの記録デューティが前記記録素子群の中央部の記録デューティよりも低いことを特徴とする画像処理方法。
【請求項10】
同色のインクを吐出するための記録素子群と記録媒体とのM回(Mは3以上の整数)の相対移動によって前記記録媒体の所定領域に画像を記録するための記録装置であって、
前記所定領域に記録すべき画像に対応した入力画像データをから同色のN個(Nは2以上の整数であって、N<M)の多値画像データを生成するための第1の生成手段と、
前記第1の生成手段によって生成された同色のN個の多値画像データの夫々に量子化処理を行うことにより、前記N個の量子化データを生成するための第2の生成手段と、
前記第2の生成手段により生成された前記N個の量子化データのうち、少なくとも1個の量子化データを複数個の量子化データに分割し、前記M回の相対移動に対応したM個の量子化データを生成するための第3の生成手段と、を備え、
前記M個の量子化データは、前記記録素子群の端部に相当する量子化データの記録デューティが前記記録素子群の中央部の記録デューティよりも低いことを特徴とする記録装置。
【請求項11】
前記M個の量子化データを格納するための格納手段と、
前記格納手段に格納されたM個の量子化データに基づいて、前記記録素子群を駆動するための駆動手段とを備え、
前記M個の量子化データは、前記記録素子群の1回の相対移動に対応付けて前記格納手段に格納されることを特徴とする請求項10に記載の記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−6258(P2012−6258A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144212(P2010−144212)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】