説明

画像処理装置、画像処理方法、プログラムおよび記録媒体

【課題】入力されたカラー画像データが、色覚障害のユーザーでも見やすいように、色覚の型及び程度に応じて適切な色補正を行う。
【解決手段】色補正部4は、色変換部2から画像データ、色覚特性入力部3から色覚特性の型情報が入力されると、型情報に応じて画像データに含まれる色の内、補正が必要な色を判定する。また、色覚特性入力部3からの色覚特性の程度情報に基づき、色補正量を決定し、色補正を行う。色変換部5は補正後のデータを画像形成用のデータに変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力されるカラー画像データに対し、色覚特性に応じた色補正処理を行い、出力する画像処理装置、画像処理方法、プログラムおよび記録媒体に関し、ディスプレイ、スキャナ、デジタルカメラ、カラープリンタ、カラーファクス、カラーハードコピーなどの色変換装置や、パソコン、ワークステーション上で稼動するカラープリンタ用ソフトウェア等に好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カラー画像を表示、印刷するカラー画像出力技術の発達により、個人や企業が作成する文書、WEBページには、様々な色付き文字やカラー画像が使用されている。このような文書では、注意を促す表記やグラフのグループ分けに色付き文字等を用いることにより、色そのものに重要な情報を持たせている場合が多い。また、これらの文書の内容を正しく理解するためには、文字や画像を認識し、さらに文書に用いられている色の違いを判別しなければならない。
【0003】
このような様々な色を用いた文書であっても、色覚に障害がある場合には色情報の判別が難しい。例えば、赤と緑の判別が難しい色覚の場合では、赤、緑、青を使用したグラフの、赤と緑の識別がしにくく、あるいは全く識別できないため、青とそれ以外の識別しかできない場合もあり得る。
【0004】
ところで、人間の色覚に関する生理的、医学的研究によると、これまで色覚障害には、上述のような、赤と緑が判別が困難な赤緑色盲、また、黄青色盲、全色盲といった型があることが知られている。最近では、CUDO(NPO法人 カラーユニバーサルデザイン機構)が、色覚が正常もしくは異常という線引きではなく、C型/P型(強・弱)(従来の赤緑色盲に相当)/D型(強・弱)(従来の赤緑色盲に相当)/T型(従来の黄青色盲に相当)/U型(従来の全色盲に相当)といった、色覚の型名で呼ぶことを提唱している。
【0005】
従来、このような色覚の型を持ったユーザーに配慮して、文書に用いられている色が判別しやすいように、例えば特許文献1では、入力されたドキュメントデータに含まれる色から、混同色(非特許文献1を参照)情報に基づき、互いに混同する色のセットを決定し、当該セットに含まれる色の部分について所定の処理を行うことで、互いに異なる色が用いられていることを識別可能に調整している。
【0006】
しかしながら、上記従来技術の場合、色覚の型や程度に関する情報を利用していないため、軽度の色覚障害を持ったユーザーが対象であっても、色覚の程度の違いによらず一様な色補正をしてしまうため、過剰補正により、不自然な画像になってしまう場合がある。
【0007】
また、特許文献2では、入力されたカラー画像のうち、少なくとも1色の色を抜いた画像を形成するよう画像データを処理し、色相を色平面上で回転させ、本来用いられるべき色の着色剤を異なる色の着色剤に変更して画像を形成することで、色覚障害者が分かりやすい画像を形成している。
【0008】
しかしながら、1色の色を抜いたり、色相を平面上で回転させたりすることで、画像全体の色みが変化してしまい、補正する必要のない、判別可能な色にまで影響が及び、対象とする色覚の型以外のユーザーが見た場合に非常に不自然な画像になってしまう。
【0009】
さらに、特許文献3では、ユーザー自らが操作部に表示された色相環を見ながら色覚特性を指定し、その情報に基づきユーザーの色覚特性を判定し、その色覚特性に応じて画像データに施す処理を変更している。
【0010】
【特許文献1】特開2004−246739号公報
【特許文献2】特開2004−80118号公報
【特許文献3】特開2004−94814号公報
【非特許文献1】大田登著、『色彩工学』、東京電機大学出版局、p.209−211
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記した特許文献3は、色覚が健常であるユーザーが利用する場合にも、色相環の隣接する色の判別性に対応できるというメリットがある。しかし、色覚障害を持ったユーザー自らが色覚特性を入力しなければならず、文書作成者があらかじめカラープリンタ等で出力して色覚障害のユーザーの所へ持っていくことは困難である。
【0012】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、
本発明の目的は、入力されたカラー画像データが、色覚障害のユーザーでも見やすいように、色覚の型及び程度に応じて適切な色補正を行う画像処理装置、画像処理方法、プログラムおよび記録媒体を提供することにある。
【0013】
即ち、請求項1の目的は、入力されたカラー画像データが、色覚障害のユーザーでも見やすいように、色覚の型及び程度に応じて適切な色補正を行う画像処理装置を提供することにある。
【0014】
請求項2の目的は、入力された色覚特性の型に応じてU型かそれ以外かで、補正を行う色成分を変えるような画像処理装置を提供することにある。
【0015】
請求項3の目的は、入力された色覚特性の型に応じて、入力カラー画像信号に含まれる色の補正が必要か否かを判定することが可能な画像処理装置を提供することにある。
【0016】
請求項4の目的は、入力された色覚特性の程度に応じて入力されたカラー画像データに対する補正量を変更することで、過剰補正を抑制するような画像処理装置を提供することにある。
【0017】
請求項5の目的は、入力された色覚特性の型が、U型以外であった場合に、中彩度及び高彩度部のみ色補正をすることが可能な画像処理装置を提供することにある。
【0018】
請求項6の目的は、入力された色覚特性の型が、U型であった場合に、明度方向のみの色補正を行うことが可能な画像処理装置を提供することにある。
【0019】
請求項7の目的は、入力カラー画像データに重要色が含まれていた場合に、色相補正量を抑制することが可能な画像処理装置を提供することにある。
【0020】
請求項8の目的は、色補正を行わない低彩度部と、色補正を行う中彩度部及び高彩度部との境界部での連続性を保つような色補正を行うような画像処理装置を提供することにある。
【0021】
請求項9の目的は、入力されたカラー画像データが、色覚障害のユーザーでも見やすいように、色覚の型及び程度に応じて適切な色補正を行う画像処理方法を提供することにある。
【0022】
請求項10の目的は、入力されたカラー画像データが、色覚障害のユーザーでも見やすいように、色覚の型及び程度に応じて適切な色補正を行う画像処理プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、入力カラー画像信号をカラー画像出力装置の画像形成用の画像信号に変換する画像処理装置において、ユーザーの色覚特性の型、もしくは、色覚特性の型及び程度を指定する色覚特性入力手段と、該入力された色覚特性の型及び程度に基づき前記入力カラー画像信号を補正する色補正手段とを備えることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
請求項1、9、10:入力カラー画像信号をカラー画像出力装置の画像形成用の画像信号に変換する画像処理装置において、ユーザーの色覚特性の型、もしくは型と程度を入力する手段を備え、入力された色覚特性に基づき色補正を行うことで、過剰補正を抑え、ユーザーの色覚の型と程度に応じた色補正を行うことが可能である。
【0025】
請求項2、3:入力された色覚特性に応じて補正を行う色成分を変えることで、混同色の判定や色補正処理を簡略化しながらも、ユーザーの色覚特性に応じた適切な色補正を行うことが可能である。
【0026】
請求項4:色覚特性の程度に応じて補正量を変化させることで、過剰補正を抑えた、適切な色補正を行うことが可能である。
【0027】
請求項5:彩度判定手段を備えることで、実質的に明度差をつけて作成されているような入力画像データの低彩度部において、混同色判定処理や色補正処理を簡略化しながらも、適切な色補正を行うことが可能である。
【0028】
請求項6:入力された色覚の型がU型であった場合に色みの補正を行わず、明度の補正のみを行うことで、処理の簡略化をしつつ、U型色覚のユーザーにとって適切な色補正を行うことが可能である。
【0029】
請求項7:入力データに重要色が含まれていた場合に、重要色の色相補正量を抑制することで、C型色覚のユーザーにとっても色相について、違和感の少ない色補正を行うことが可能である。
【0030】
請求項8:低彩度部において色補正を行わない場合においても、色補正を行う中彩度領域との境界部での不連続性を軽減した色補正を行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、発明の実施の形態について図面により詳細に説明する。
【0032】
実施例1:(色覚特性の程度の情報に基づいて補正量を変化させる)
図1は、本発明に係る画像処理装置の全体構成を示す。図1に示す画像処理装置は、入力データ1を色補正するための色空間へと変換する色変換部2と、ユーザーが色覚特性を入力する色覚特性入力部3と、入力データと色覚特性に応じて色補正を行う色補正部4と、色補正部4によって色補正されたデータを画像形成装置に依存した画像形成用データに変換するための色変換部5を有している。なお、色覚特性とは、色覚の型と程度を指すものとする。
【0033】
図2は、本発明に係る画像処理装置の詳細な構成を示す。色補正部4は、混同色判定部45と、明度補正部42と、彩度補正部43と、色相補正部44から構成されている。
【0034】
混同色判定部45は、色変換部2から入力カラー画像データ、色覚特性入力部3から色覚特性の型情報が入力されると、型情報に応じて入力カラー画像データに含まれる色のうち、補正が必要な色を判定し、入力データと補正の要否に関する情報を明度補正部42、彩度補正部43、色相補正部44へ送る。
【0035】
明度補正部42、彩度補正部43、色相補正部44は、混同色判定部45から補正の要否に関する情報を受け取ると、色覚特性入力部3から送られてきた色覚特性の程度情報に基づき、色補正量を決定し、色補正を行う。そして、補正後のデータを色変換部5へと送る。色変換部5は、色補正部4から色補正後の画像データを受け取り、3D−LUTを用いた補間演算などの方法を用いて入力データに対する画像形成用データを算出する。
【0036】
次に、各処理部の動作について図2、図8の処理フローチャートを用いて詳細に説明する。まず、色変換部2は、ネットワークインタフェースや各種記憶媒体経由で入力されたデータ(RGB)を色補正部2において、混同色の判定や色補正を行うための色空間へ変換する(ステップS10)。変換する色空間としては、例えば色の見えモデルCIECAM02のJCh空間や、CIELAB空間などがある。また、後述するが、CIEのxy色度図上で定義される混同色線を用いた混同色の判定の説明を容易にするため、xy色度及び輝度Yの空間に変換するものとする(図示せず)。なお、JChとは各々、明度、彩度、色相に相当し、CIELABも、ほぼ同様に明度と彩度と色相を含む色みの情報を持っている。また、xyとYは各々、色みと輝度の情報である。
【0037】
次に、色覚特性入力部3では、操作部に図7に例を示したようなユーザーインタフェースを表示し、色覚特性情報の入力を促し、ユーザーは色覚特性を入力する(ステップS11)。
【0038】
混同色判定部45は、入力データを用いられている色の領域毎に分割する。具体的に入力データが画像データである場合には広く知られた方法を用いることができる。例えば「画像解析ハンドブック」(東京大学出版会発行)の689ページ以下の領域分割の章に記載されている方法を用いることができ、これらについての詳細な説明は省略する。
【0039】
また、入力データが一般的なオフィスアプリケーションのようなソフトウェアで作成されたデータである場合、直線・文字・図形といった、そのデータ構造に従って領域毎に分割し、領域情報として保持する。
【0040】
次に、保持している領域情報と色情報及び色覚特性入力部3から送られてきた色覚の型情報に基づき、色覚障害者が互いに混同する色を表していると判断される色情報を検索し、それら互いに混同する色情報のセットを生成する。但し、互いに混同する色がない場合にはこの処理は省略する。
【0041】
混同色の検索処理方法については、色覚特性入力部3から送られてきた色覚の型情報がU型以外の色覚であった場合、混同色の検索方法として、前掲した特許文献1に記載されているような、図6に示す色覚特性毎に定義される混同線軌跡を用いる方法が適用でき、これらについての詳細な説明は省略する。
【0042】
逆に、色覚特性入力部3から送られてきた色覚の型情報がU型色覚であった場合、色みを知覚できない色覚であるため、色情報としては、明度や輝度といった明暗に関する情報のみを用いて混同色を検索することで、処理の簡略化が可能である(ステップS12)。
【0043】
次に、検索された混同色に対する色補正方向の決定方法について説明する。混同色と判定された2色(仮に、混同色Aと混同色Bとする)が判別できるようにするには、互いの明度を違える方法と、xy色度図上で、2色が同一混同線上に来ないよう、片方もしくは両方を、混同線と直角方向に色度をずらす方法などがある。
【0044】
明度を違えるようにする場合、混同色判定部45は、混同色AもしくはBの色情報と明度を、高明度側に補正するという情報を明度補正部42へ送る。混同色AかBかは、ランダムに決定してもよいし、必ずAを選択すると決めておいても良い。また、明度の補正方向も同様に、ランダムや、一定方向に決めておいても良い。さらに、混同色AとBの両方を補正するようにしてもよく、その場合の補正方向は互いに逆方向であればどのような組み合わせでも良い。
【0045】
色度をずらす場合、混同色判定部45は、あらかじめ、無数に定義される混同線のうち、代表的な何本かの情報を保持しておき、それらの混同線のうち、混同色A及びBからの距離が最も小さい混同線を選択する。そして、選択された混同線と直交する方向を決定する。その際には、混同線上の任意の2点で方向ベクトルを設定し、その直交ベクトルを算出しても良いし、混同線の傾きから直交方向を算出しても良い。混同色AとBのうち、どちらを動かすかは明度を違える場合と同様である。さらに、明度と色度両方を動かすようにしても良い。
【0046】
方向を決定したら、(1)式や(2)式の各式のΔAやΔBの添え字の値、すなわち補正方向への単位ベクトルを決定する。但し、AとBを両方動かす場合には、差分ベクトルの大きさが1となるようにすれば良い。その際のA方向とB方向のベクトルの大きさは0.5と0.5のように等しくとも良いし、0〜1.0の間の任意の値で、合計が1になるような値の組み合わせでも良い。
【0047】
【数1】

【0048】
次に、このようにして算出したx’y’Y’に対応したJ’C’h’の値を一般的な計算方法により求める。そして、入力データからのベースとなる補正量ΔJ、ΔC、Δhを以下のように算出する(ステップS13)。
ΔJ=J−J’
ΔC=C−C’
Δh=h−h’ (3)
混同色判定部45は、入力データと、このようにして算出したベース補正量を色補正部42〜44へと色成分毎に送る。この際、ベース補正量の値が全て0であれば、色補正の必要は無いことになる。
【0049】
そして、明度補正部42、彩度補正部43、色相補正部44は、混同色判定部45から送られてきたデータと、色覚特性入力部3から送られてきた色覚の型の程度情報に基づき色補正を行う(ステップS14)。補正後の値をJ”,C”,h”とすると、これらは
J”=J+α*ΔJ
C”=C+α*ΔC
h”=h+α*Δh (4)
で与えられる。
【0050】
定数αは、図9(a)にその一例を示すように、通常は色覚の型の程度が高いほど、すなわち色盲の度合が強いほど、補正量を大きくするように設定する。このように設定することで、軽度の色盲のユーザーの場合、過剰な色補正が抑制でき、より自然な補正結果が得られる。さらに、これらは、入力された色覚の型の程度に応じて適切に設定される値であり、図9(a)の値に限定されるものではない。
【0051】
このようにして補正されたデータが、色変換部5へと送られ、色変換部5では、あらかじめ保持しておいた入力データに対する画像形成装置に依存する画像形成用データが設定された3D−LUTを用いた補間演算等の方法を用いて、入力データを画像形成用データに変換する。
【0052】
以上説明した実施例においては、色覚特性に応じて、過剰補正を抑制した、適切な色変換処理を行うことが可能である。
【0053】
実施例2:(彩度判定を行って低彩度部は混同色判定を省いて高速化&境界部での連続性の考慮)
本実施例では、入力データの彩度判定を行い、中彩度及び高彩度部のみについて色補正を行う。まず、全体の構成と動作は、前記実施例1と同様で、色変換部2、色覚特性入力部3、色補正部4、色変換部5から構成され、各部の動作も同様である。
【0054】
次に、各処理部の構成と動作について説明する。図3は、本発明の実施例2に係る画像処理装置の構成を示す。図中41は彩度判定部であり、混同色判定部45、明度補正部42、彩度補正部43、色相補正部44は実施例1と同様である。
【0055】
彩度判定部41は、色変換部2より入力カラー画像データ、例えばJChが入力されると、低彩度か、中〜高彩度かの彩度判定を行う。そして、入力データと共に、彩度判定結果を混同色判定部45へ送る。また、補正強度係数を同時に送るようにしても良い。混同色判定部45は、入力データと彩度判定結果を受け取り、彩度判定結果と色覚特性入力部3から入力される色覚の型情報に基づき混同色の判定を行う。そして入力データと補正の要否、補正強度係数を受け取っている場合にはこれも補正部42〜44へと送る。明度補正部42、彩度補正部43、色相補正部44では、混同色判定部45から受け取ったデータと、色覚特性入力部3から受け取った色覚の型の程度情報を用いて入力カラー画像データを補正し、色変換部5へ送る。色変換部5は、受け取った補正後の画像データを、3D−LUTを用いた補間演算などの方法を用いて入力データに対する画像形成用データを算出する。
【0056】
次に、各処理部の動作について詳細に説明する。まず、色変換部2は、ネットワークインタフェースや各種記憶媒体経由で入力されたデータを色補正部2において、混同色の判定や色補正を行うための色空間へと変換し、彩度判定部41へと送る。彩度判定部41では、色変換部2から入力データを受け取ると、彩度判定を行う。彩度判定は例えば、図9(b)に示すような判定用のテーブルをあらかじめ用意しておく。図9(b)の例では、彩度Cの値のレンジを0〜10、10〜20というように区切り、C=0〜30までは低彩度、C=30〜70までは中彩度、C=70〜を高彩度として区分している。また、10刻みの彩度レンジ毎に、彩度が高くなるにつれて値が大きくなり、最終的に1となるような彩度補正係数(後述の色の補正時に用いる)を設定している。
【0057】
彩度判定部41は、入力データの彩度がこのようなテーブルのどの彩度レンジに入るかを検索し、対応する彩度カテゴリと補正強度係数を読み出す。但し、彩度判定及び補正強度係数の設定はこれ以外の方法で行っても良く、例えば低彩度領域を彩度25未満の閾値を設定しておき、それ未満かそれ以上かで、低彩度か中彩度以上かを判定しても良い。また、補正強度係数Kについても、
K=0.0(C<25)
K=C/75(C<75)
K=1.0(C≧75) (5)
のように、与えても良い。また、(5)式の値は上記値に限定されず、任意の適切な値を設定すれば良い。
【0058】
次に、彩度判定部41は、混同色判定部45へ、入力データと彩度判定結果及び補正強度係数を送る。彩度判定結果は、より具体的には混同色の検索を行うか否かを決定すれば良いため、例えば低彩度部であれば0、それ以外であれば1といったフラグのようなもので良い。混同色判定部45は彩度判定部41からデータを受け取ると、まず彩度判定結果から、混同色の検索を行うか否かを判断し、検索が必要、すなわち中彩度から高彩度のデータであれば、色覚特性入力部3より受け取った色覚の型の情報に基づき混同色の検索を実施例1と同様に行う。
【0059】
そして、実施例1と同様の入力データ及びベース補正量に加え、補正強度係数Kを明度補正部42、彩度補正部43、色相補正部44へと送る。明度補正部42、彩度補正部43、色相補正部44では、混同色判定部45から受け取ったデータと色覚特性入力部3より受け取った色覚の型の程度情報とから、以下の(6)式のように補正を行う。
【0060】
J’=J+K*α*ΔJ
C’=C+K*α*ΔC
h’=h+K*α*Δh (6)
で与えられる。
【0061】
このようにして補正されたデータが、色変換部5へと送られ、色変換部5では、あらかじめ保持しておいた入力データに対する画像形成装置に依存する画像形成用データが設定された3D−LUTを用いた補間演算等の方法を用いて、入力データを画像形成用データに変換する。
【0062】
以上説明した実施例においては、中彩度部以上で色補正を行うことが可能であり、これにより、元々明暗の差により区別可能であると考えられる無彩色軸に近い低彩度部において、不要な色補正を実行しないことにより、処理が簡略化される。また、入力データの彩度に応じて設定した補正強度係数を色補正量に反映することで、低彩度部と中彩度部以上の境界での急な色補正を抑制し、境界部での不連続を抑制した色補正が可能である。
【0063】
実施例3:(U型の場合、明度補正のみを行い、処理を高速化)
本実施例では、色覚特性入力部より入力された色覚の型がU型であった場合、色みの補正を省略する。まず、全体の構成と動作は、前記実施例1と同様で、色変換部2、色覚特性入力部3、色補正部4、色変換部5から構成され、各部の動作も同様である。
【0064】
次に、各処理部の構成と動作について説明する。図4は、本発明の実施例3に係る画像処理装置の構成例を示す。実施例3では、混同色判定部45と明度補正部42を持ち、色成分のうち、彩度と色相の補正部を持っていない。
【0065】
混同色判定部45は、色変換部2から入力カラー画像データを、色覚特性入力部3から色覚特性の型がU型色覚であるとのデータを受け取ると、明度情報のみに基づいて、混同色の検索を行う。そして、ベース補正量を算出し、入力データと共に明度情報は明度補正部42へ、彩度及び色相情報は何ら処理することなく色変換部5へと送る。色変換部5は、受け取った画像データを3D−LUTを用いた補間演算などの方法で、画像形成用データに変換する。
【0066】
次に、各処理部の動作について詳細に説明する。混同色判定部45は色変換部2から入力カラー画像データを、色覚特性入力部3から色覚特性の型がU型色覚であるとのデータを受け取ると、明度情報のみに基づいて、混同色の検索を行う。U型色覚の場合、色みを全く知覚できないため、同一混同線上に乗る色のセットではなく、ほぼ同一混同面(色度xyは任意で、輝度Yが一定もしくは彩度及び色相が任意でJが一定の面を混同面と呼ぶこととする)上に乗る色を混同色として検索すれば良い。
【0067】
また、ベース補正量の算出は、U型色覚の場合は明度を違えるような補正が有効であるため、実施例1の明度を違えるような補正方向の決定と同様の方法で算出すれば良い。
【0068】
次に混同色判定部45は、このようにして算出されたベース補正量と入力データの明度情報を明度補正部42へ、入力データの彩度及び色相情報を色変換部5へ送る。明度補正部42では、混同色判定部45から受け取ったデータと色覚特性入力部3から受け取った色覚の型の程度情報を基に補正後の明度を算出する。
【0069】
J’=J+α*ΔJ
C’=C(補正せず)
h’=h(補正せず) (7)
そして、明度補正部42は補正後の明度情報J’を色変換部5へと送る。色変換部5は、明度補正部42から受け取った入力データの明度情報及び混同色判定部45から受け取った入力データの彩度及び色相情報を実施例1及び2と同様、補間演算などの方法を用いて画像形成用のデータに変換する。
【0070】
以上説明した実施例においては、入力された色覚の型がU型色覚であった場合に、混同色判定及び色補正処理を簡略化し、高速かつU型色覚者にとって有効な色補正処理を行うことが可能である。
【0071】
実施例4:(重要色の場合、色相補正量を抑え、C型色覚のユーザーにも不自然でない色補正をする)
本実施例では、肌色、植物の緑、海や空の青といった重要色の入力データに対して、色相補正量を抑制した色補正を行う。まず、全体の構成と動作は他の実施例と同様で、色変換部2、色覚特性入力部3、色補正部4、色変換部5から構成され、各部の動作も同様である。
【0072】
次に、各処理部の構成と動作について説明する。図5は、本発明の実施例4に係る画像処理装置の構成例を示す。実施例4では、実施例1の構成に、さらに重要色判定部46が追加されている。
【0073】
重要色判定部46は、色変換部2より入力カラー画像データが入力されると、その色が重要色か否かの判定を行う。並行して、混同色判定部45にも入力カラー画像データが入力され、混同色判定部45は、色覚特性入力部3から入力された色覚の型情報を用いて、混同色が存在するか否かの判定を行い、ベース補正量を算出する。次に、混同色判定部45から明度補正部42、彩度補正部43、色相補正部44へと、入力データ及びベース補正量のデータが送られる。また、色覚特性入力部3から色覚の型の程度情報が各補正部42〜44へ送られる。さらに、重要色判定部46は、重要色判定結果を色相補正部44へと送る。
【0074】
明度補正部42、彩度補正部43、色相補正部44は、入力されたデータを基に入力カラー画像データに色補正を行い、色変換部5へと送る。補正後のカラー画像データを受け取った色変換部5は、あらかじめ保持しておいた3D−LUT等を用いた補間演算により、入力カラー画像データを、画像形成用のデータに変換する。
【0075】
次に、各処理部の動作について詳細に説明する。混同色判定部45の動作は実施例1と同様であるため省略する。重要色判定部46は、色変換部2から送られてきた入力カラー画像データに重要色が含まれているか否かを判定する。具体的には、図9(c)に示すような重要色の色域を定義したテーブルをあらかじめ保持しておき、各重要色に含まれるか否かを判定する。ある入力カラーデータが入力された場合、重要色判定部46は、まず色相hが全ての重要色の色相範囲か否かを判定する。そして、各重要色のうち、入力データの色相が含まれる重要色に対してのみ、引き続き彩度の判定と明度の判定を行う。そして、全ての色成分が範囲に含まれていた場合に、入力されたデータが対象とする重要色であると判断する。重要色というのは、肌色、空の青、植物の緑といった色相が重要である場合が多いため、最初に全重要色の色相範囲に対する判定を行い、彩度及び明度の判定を行う対象である重要色を絞り込むことで、効率的に重要色か否かを判定することができる。
【0076】
そして、重要色判定部46は、入力されたデータが重要色か否かの重要色判定結果を色相補正部44へと送る。この判定結果の情報は0か1で与えるフラグのようなもので良い。
【0077】
次に、明度補正部42、彩度補正部43は混同色判定部45より受け取った入力画像データとベース補正量、色覚特性入力部3から受け取った色覚の型の程度情報を基に各々明度と彩度を補正する。また色相補正部44は、前記情報以外に、さらに重要色判定部46からの重要色判定結果を用いて色相の補正を行う((8)式)。
【0078】
J’=J+α*ΔJ
C’=C+α*ΔC
h’=h+β*α*Δh (8)
(8)式のβは、重要色判定部46が重要色でないと判定した場合はβ=1.0の値を取り、実施例1と同様の色相補正を行い、重要色と判定された場合は0≦β<1.0の値を取り、色相補正量を抑制する。重要色であった場合、βの値は0以上1.0未満であれば任意の値で良く、例えば図9(c)のような各重要色毎に値を設定しても良いし、一律に同じ値を設定しておいても良い。以上のように補正が行われたカラー画像データが色変換部5へ送られ、他の実施例と同様に、画像形成用データへと変換される。
【0079】
以上説明した実施例においては、入力カラー画像データに重要色が含まれていた場合、色相の補正量を抑制することで、C型以外の色覚を持ったユーザーに配慮した色補正を行うと同時に、C型色覚、すなわち一般的な色覚を持ったユーザーが見た場合でも、色合いについて、違和感の小さい色補正を行うことが可能である。
【0080】
実施例5:(媒体クレームのための実施例)
図10は、本発明における画像処理システムのハードウェア構成例を示す。コンピュータ10は、プログラム読取装置10a、全体を制御するCPU10b、CPU10bのワークエリア等として使用されるRAM10c、CPU10bの制御プログラム等が記憶されているROM10d、ハードディスク10e、NIC10f、マウス10g、キーボード10h、画像データを表示したり、ユーザーが画面に直接触れることで情報の入力が可能なディスプレイ11、カラープリンタ等の画像形成装置12とを備えている。本画像処理システムは、例えばワークステーションやパーソナルコンピュータ等で実現することができる。
【0081】
このような構成の場合、図1に示す色変換部2、5、色補正部4の機能はCPU10bに持たせることができる。また、色覚特性入力部3の機能は、マウス10g、キーボード10h、ディスプレイ11のいずれかに持たせることができる。なお、CPU10bのような色変換や色補正といった画像処理機能は、例えばソフトウェアパッケージ、具体的には、CD−ROMや磁気ディスク等の情報記録媒体の形で提供することができ、このため、図10に示す例では、情報記録媒体がセットされると、これを駆動する媒体駆動装置が設けられている。
【0082】
以上により、本発明における画像処理装置及び画像処理方法は、ディスプレイ等を備えた汎用の計算機システムにCD−ROM等の情報記録媒体に記録されたプログラムを読み込ませて、この汎用計算機システムの中央演算装置に色空間の変換、入力インタフェースから入力された色覚特性情報に基づいた色補正を実行させる装置構成においても実施することが可能である。この場合、本発明の画像処理を実行するためのプログラム、すなわちハードウェアシステムで用いられるプログラムは、記録媒体に記録された状態で提供される。プログラムなどが記録される情報記録媒体としては、CD−ROMに限定されるものではなく、例えばROM、RAM、フラッシュメモリ、光磁気ディスクなどを用いても良い。記録媒体に記録されたプログラムは、ハードウェアシステムに組み込まれている記憶装置、例えばハードディスク10eにインストールされることにより、このプログラムを実行して、色変換や色補正機能を実現することができる。
【0083】
また、本発明の色変換や色補正機能を実現するためのプログラムは、記録媒体の形で提供されるのみならず、例えば、ネットワークを介した通信によってサーバから提供されるものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の全体構成を示す。
【図2】本発明の実施例1の構成を示す。
【図3】本発明の実施例2の構成を示す。
【図4】本発明の実施例3の構成を示す。
【図5】本発明の実施例4の構成を示す。
【図6】各色覚特性における混同線を説明する図である。
【図7】色覚特性の設定画面例を示す。
【図8】実施例1の色補正処理のフローチャートを示す。
【図9】入力された色覚の程度情報とαの値の関係などを示す。
【図10】本発明をソフトウェアで実現する場合の構成例を示す。
【符号の説明】
【0085】
1 入力データ
2、5 色変換部
3 色覚特性入力部
4 色補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力カラー画像信号をカラー画像出力装置の画像形成用の画像信号に変換する画像処理装置において、ユーザーの色覚特性の型、もしくは、色覚特性の型及び程度を指定する色覚特性入力手段と、該入力された色覚特性の型及び程度に基づき前記入力カラー画像信号を補正する色補正手段とを備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記色補正手段は、前記入力された色覚特性の型がU型とそれ以外の型に応じて、補正を行う色成分を変えることを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記色補正手段は、前記入力された色覚特性の型に関する情報に基づき、前記入力カラー画像信号に対して色補正が必要か否かを判定する混同色判定手段を備えることを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記色補正手段は、前記入力された色覚特性の程度に関する情報に基づき、前記入力カラー画像信号に対する補正量を変化させることを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記色補正手段は、前記入力カラー画像信号の彩度を判定する彩度判定手段を備え、該彩度の判定結果が中彩度及び高彩度であり、前記入力された色覚特性の型がU型以外の型である場合、中彩度及び高彩度部においてのみ色補正を行うことを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記色補正手段は、前記入力された色覚特性の型がU型である場合、明度方向のみの色補正を行うことを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記色補正手段は、前記入力カラー画像信号に含まれる色が重要色か否かを判定する重要色判定手段を備え、該判定の結果、重要色である場合、色相補正量を抑制することを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記中彩度及び高彩度部と、低彩度部との境界部での連続性を保つような色補正を行うことを特徴とする請求項5記載の画像処理装置。
【請求項9】
入力カラー画像信号をカラー画像出力装置の画像形成用の画像信号に変換する画像処理方法において、ユーザーの色覚特性の型、もしくは、色覚特性の型及び程度を指定する色覚特性入力工程と、該入力された色覚特性の型及び程度に基づき前記入力カラー画像信号を補正する色補正工程とを実施することを特徴とする画像処理方法。
【請求項10】
請求項9記載の画像処理方法をコンピュータに実現させるためのプログラム。
【請求項11】
請求項9記載の画像処理方法をコンピュータに実現させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−235965(P2008−235965A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68167(P2007−68167)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】