説明

画像処理装置、画像処理方法、及び画像処理プログラム

【課題】JPEG2000等の圧縮アルゴリズムにおいて、圧縮処理の対象とされる画像の特徴に応じて必要な情報を的確に残しつつ、従来より高品質の圧縮処理を可能にする。
【解決手段】特性解析部177は、離散ウェーブレット変換部173によって離散ウェーブレット変換されたタイルの各サブバンドデータのうち、少なくとも水平及び垂直方向に低域通過フィルタリングが行われたサブバンドデータの特性を解析し、当該サブバンドの特性を当該タイルの特性とし、量子化部174が、特性解析部177によって解析された特性に対応する量子化テーブルを記憶部12から読み出し、当該読み出した量子化テーブルを用いて、上記離散ウェーブレット変換されたタイルの各サブバンドデータを量子化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置、画像処理方法、及び画像処理プログラムに関し、特に、画像データを圧縮する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタル機器の発展に伴って、画像データ等の様々な圧縮方式が提案されているが、圧縮方式の1つとしてJPEG(Joint Photographic Experts Group)2000が知られている。JPEG2000は画像の圧縮・展開の方法を規定したもので、JPEGを発展させたものである。JPEG2000では、画像データを複数のタイルに分割し、タイル毎に離散ウェーブレット変換、量子化、エントロピー符号化等の処理を施して符号化データを生成する。なお、特許文献1及び2に記載されているように、JPEG圧縮では、圧縮処理の対象とされる画像全体に基づいて量子化処理に用いる量子化テーブルを選択し、当該選択した量子化テーブルを用いて量子化を行う方式が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−247373号公報
【特許文献2】特開2004−110368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来一般のJPEG2000の画像圧縮方式では、量子化処理に用いる量子化テーブルは、圧縮率の指定やタイルサイズ等に基づいて1つに定められている。また、圧縮率の制御は、符号化後で各ビットに対する重み付で優先順位を決めて制御するようになっているため、入力される画像の特徴に応じた最適な符号化は行われていない。また、上記特許文献1に記載の発明は、JPEG圧縮に関するものであり、JPEG2000の画像圧縮方式に関するものではなく、さらに、入力された画像全体に基づいて量子化テーブルを選択するため、画像に応じた細かな圧縮処理ができない。
【0005】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、JPEG2000等の圧縮アルゴリズムにおいて、圧縮処理の対象とされる画像の特徴に応じて必要な情報を的確に残しつつ、従来よりも高品質の圧縮処理を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に記載の発明は、画像データを輝度成分と色差成分からなる表色系に変換する表色系変換部と、
前記表色系変換部によって変換された画像データを複数のタイルに分割する分割部と、
前記分割部によって分割されたタイルの画像データに対して離散ウェーブレット変換を施す離散ウェーブレット変換部と、
前記離散ウェーブレット変換部によって離散ウェーブレット変換された前記タイルのサブバンドデータの量子化に用いる量子化テーブルを、当該タイルの特性毎にそれぞれ記憶する量子化テーブル記憶部と、
前記離散ウェーブレット変換部によって離散ウェーブレット変換された前記タイルの各サブバンドデータのうち、少なくとも水平及び垂直方向に低域通過フィルタリングが行われたサブバンドデータの特性を解析し、当該サブバンドの特性を当該タイルの特性とする特性解析部と、
前記特性解析部によって解析された特性に対応する量子化テーブルを前記量子化テーブル記憶部から読み出し、当該読み出した量子化テーブルを用いて、前記離散ウェーブレット変換された前記タイルの各サブバンドデータを量子化する量子化部と、
前記量子化部によって量子化された画像データを符号化して圧縮データを出力する符号化部と
を備えた画像処理装置である。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の画像処理装置であって、前記量子化部は、前記特性解析部によって解析された特性に対応する量子化テーブルを前記量子化テーブル記憶部から読み出し、当該読み出した量子化テーブルを、予め設定されている圧縮率に応じた係数を用いて算出した値に変更し、当該変更した量子化テーブルを用いて、前記離散ウェーブレット変換された前記タイルの各サブバンドデータを量子化するものである。
【0008】
また、請求項5に記載の発明は、画像データを輝度成分と色差成分からなる表色系に変換する表色系変換ステップと、
前記表色系変換ステップで変換された画像データを複数のタイルに分割する分割ステップと、
前記分割ステップで分割された前記タイルの画像データに対して離散ウェーブレット変換を施す離散ウェーブレット変換ステップと、
前記離散ウェーブレット変換ステップで離散ウェーブレット変換された前記タイルの各サブバンドデータのうち、少なくとも水平及び垂直方向に低域通過フィルタリングが行われたサブバンドデータの特性を解析し、当該サブバンドの特性を当該タイルの特性とする特性解析ステップと、
前記離散ウェーブレット変換された前記タイルのサブバンドデータの量子化に用いる量子化テーブルを、当該タイルの特性毎にそれぞれ記憶しており、前記特性解析ステップで解析された特性に対応する量子化テーブルを用いて、前記離散ウェーブレット変換された前記タイルの各サブバンドデータを量子化する量子化ステップと、
前記量子化ステップによって量子化された画像データを符号化して圧縮データを出力する符号化ステップと
を有する画像処理方法である。
【0009】
また、請求項6に記載の発明は、コンピュータを、
画像データを輝度成分と色差成分からなる表色系に変換する表色系変換部と、
前記表色系変換部によって変換された画像データを複数のタイルに分割する分割部と、
前記分割部によって分割されたタイルの画像データに対して離散ウェーブレット変換を施す離散ウェーブレット変換部と、
前記離散ウェーブレット変換部によって離散ウェーブレット変換された前記タイルのサブバンドデータの量子化に用いる量子化テーブルを、当該タイルの特性毎にそれぞれ記憶する量子化テーブル記憶部と、
前記離散ウェーブレット変換部によって離散ウェーブレット変換された前記タイルの各サブバンドデータのうち、少なくとも水平及び垂直方向に低域通過フィルタリングが行われたサブバンドデータの特性を解析し、当該サブバンドの特性を当該タイルの特性とする特性解析部と、
前記特性解析部によって解析された特性に対応する量子化テーブルを前記量子化テーブル記憶部から読み出し、当該読み出した量子化テーブルを用いて、前記離散ウェーブレット変換された前記タイルの各サブバンドデータを量子化する量子化部と、
前記量子化部によって量子化された画像データを符号化して圧縮データを出力する符号化部と
して機能させる画像処理プログラムである。
【0010】
これらの発明では、離散ウェーブレット変換された上記タイルの各サブバンドデータのうち、少なくとも水平及び垂直方向に低域通過フィルタリングが行われたサブバンドデータの特性を解析し、当該サブバンドデータの特性を当該タイル全体の特性とし、量子化処理時には、当該解析されたタイルの特性に対応する量子化テーブルを用いて当該タイルの各サブバンドデータを量子化する。これにより、JPEG2000等の圧縮アルゴリズムにおいて、圧縮処理の対象とされる画像データをなす当該タイルの各サブバンドデータに対し、画像の特性に応じて必要な情報を的確に残しつつ、従来よりも高品質の圧縮処理を行うことができる。なお、ここでは、当該離散ウェーブレット変換されたタイルを構成するサブバンドデータの一部のサブバンドデータであって、当該タイルの特質が最も現れやすいサブバンドデータ(水平及び垂直方向に低域通過フィルタリングが行われたサブバンドデータ)についてその特性(文字画像、網点画像、又は写真画像のうちいずれであるか等)を解析して用いるので、当該タイル全体の特性を比較的短時間で解析可能である。
【0011】
また、発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の画像処理装置であって、前記特性解析部は、前記サブバンドデータの周波数成分と、当該サブバンドデータを構成する各画素値の分布を示すヒストグラムとを用いて、当該サブバンドデータの特性を解析するものである。
【0012】
この発明によれば、当該サブバンドデータの上記特性解析処理が、サブバンドデータの周波数成分と、当該サブバンドデータを構成する各画素値の分布を示すヒストグラムとを用いて行われるので、当該サブバンドデータの特性解析処理、例えば、当該サブバンドデータの特性が文字画像、網点画像、又は写真画像のうちいずれであるかを判定する処理を的確に行うことができる。
【0013】
また、発明の請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の画像処理装置であって、前記特性解析部は、前記サブバンドデータの前記特性解析に加えて、前記タイルを構成する他の予め定められたサブバンドデータについても前記特性解析を行い、前記量子化部は、当該特性解析により得られた各サブバンドデータの特性に応じた量子化テーブルを前記量子化テーブル記憶部から読み出し、当該読み出した量子化テーブルを用いて、当該タイルの各サブバンドデータを量子化するものである。
【0014】
この発明では、上記特性解析が、上記低域通過フィルタリングが行われたサブバンドデータに加えて、タイルを構成する他の予め定められたサブバンドデータについても更に行われ、上記量子化処理は、当該特性解析により得られた各サブバンドデータの特性に応じた各サブバンドデータ毎の量子化テーブルを用いて、当該各サブバンドデータを量子化するので、当該サブバンドデータの特性解析処理、例えば、当該サブバンドデータの特性が文字画像、網点画像、又は写真画像のうちいずれであるかを判定する処理をより的確に行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、JPEG2000等の圧縮アルゴリズムにおいて、圧縮処理の対象とされる画像データをなす当該タイルの各サブバンドデータに対し、画像の特性に応じて必要な情報を的確に残しつつ、従来よりも高品質の圧縮処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態における画像処理装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図2】画像圧縮部の概略構成を示す図である。
【図3】タイル分割を示す図である。
【図4】離散ウェーブレット変換について示す模式図である。
【図5】画像圧縮部が画像圧縮プログラムに従って実行する画像圧縮処理の実施形態を示したフローチャートである。
【図6】(a)は文字画像及びそのヒストグラムの例を、(b)は網点画像及びそのヒストグラムの例、(c)は写真画像及びそのヒストグラムの例を示す。
【図7】(a)は文字画像に用いる量子化テーブルの例を示す図、(b)は網点画像に用いる量子化テーブルの例を示す図、(a)は写真画像に用いる量子化テーブルの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明における画像処理装置、画像処理方法、及び画像処理プログラムの実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態における画像処理装置1の電気的構成を示すブロック図である。なお、画像処理装置1は、パーソナルコンピュータ(パソコン)やワークステーション、携帯情報端末等の情報処理装置で実現され、図1のブロック図は画像処理装置1がこれらの情報処理装置によって実現された場合を例に図示している。この他、画像処理装置1としての情報処理装置は、コピー機やスキャナ等の画像読取装置や、デジタルカメラやデジタルビデオカメラ、デジタルカメラを搭載した携帯電話等の撮像装置に組み込まれて用いられてもよい。
【0018】
図1に示すように、画像処理装置1は、制御部11、記憶部12、入力操作部13、表示部14、I/F部15、ネットワークI/F部16、画像圧縮部17及びRAM18等を備えて構成される。制御部11は、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)等によって構成され、入力された指示信号等に応じて記憶部12に記憶された画像処理プログラムを読み出して処理を実行し、各機能部への指示信号の出力、データ転送等を行って画像処理装置1を統括的に制御する。
【0019】
記憶部12は、画像処理装置1の備える種々の機能を実現するためのプログラムやデータ等を記憶する。本実施の形態では、記憶部12は画像圧縮プログラム(特許請求の範囲でいう画像処理プログラムの一例)121を記憶する。画像圧縮プログラム121は、I/F部15又はネットワークI/F部16が入力した画像データをJPEG2000方式で圧縮して符号化データを生成するためのプログラムである。例えば、CPU等でなる制御部11が、画像圧縮プログラム121に従って動作することで画像圧縮部17として機能する。この画像圧縮プログラム121は、CD−ROM又はDVDからの読込、或いは、I/F部15又はネットワークI/F部16によるインターネット上のサーバからダウンロードにより記憶部12に記憶される。さらに、記憶部12は、量子化処理に用いられる後述の量子化テーブルを記憶している。
【0020】
入力操作部13は、各種操作ボタンやマウス等のポインティングデバイスを備え、ユーザによって操作がなされると、操作信号を制御部11へ出力する。表示部14は、液晶ディスプレイ等の表示画面であり、入力操作部13から入力された内容に応じた表示を行ったり、制御部11による処理内容や処理結果を表示する。
【0021】
I/F部15はIEEE1394やUSB等のインターフェイスであり、外部装置と直接データの送受信を行うことができる。ネットワークI/F部16は、LANボード等の通信モジュールから構成され、ネットワークI/F部16と接続されたネットワーク(不図示)を介して外部装置と種々のデータの送受信を行う。
【0022】
画像圧縮部17は、記憶部12に記憶された画像圧縮プログラム121を実行することによって、I/F部15やネットワークI/F部16を介して入力された画像データをJPEG2000方式で圧縮して符号化データを生成する。RAM(Random Access Memory)18は、制御部11が実行するための制御プログラムや処理を実行する際のデータ等を一時的に保存する。また、画像圧縮部17が画像圧縮プログラム121に従って処理を実行する際に生成される符号化データや圧縮率調整データ等を一時的に保存する。
【0023】
図2は、画像圧縮部17の概略構成を示す図である。図3はタイル分割を示す図である。図4は離散ウェーブレット変換について示す模式図である。
【0024】
画像圧縮部17は、表色系変換部171と、タイル分割部(分割部)172と、離散ウェーブレット変換部173と、特性解析部177と、量子化部174と、符号化部175として機能する。
【0025】
まず、表色系変換部171が、入力された画像データの表色系を例えばRGB方式からYCbCr方式へコンポーネント変換する。
【0026】
続いて、タイル分割部172が、表色系が変換された画像データを図3に示すように複数のタイルに分割する。ここで、タイル分割部172は、主走査方向に配列したタイルを1つのバンドとして区分する。離散ウェーブレット変換部173から符号化部175による処理は当該バンド毎に行う。図3を用いて説明すると、タイルA〜E、タイルF〜K、タイルL〜Q、タイルR〜Vをそれぞれ1つのバンドとして区分し、バンド別に離散ウェーブレット変換部173以降の処理を行う。従って、以下で説明する処理は全てバンド単位で行われるものとして説明する。
【0027】
図2に戻り、離散ウェーブレット変換部173は、1つのバンドの各タイルに対して離散ウェーブレット変換を施して係数データを出力する。図4は、離散ウェーブレット変換について示した模式図である。離散ウェーブレット変換部173は、図4(a)のタイル画像(0LL)に対して、離散ウェーブレット変換を施し、図4(b)に示すようにサブバンド1LL、1HL、1LH及び1HHに分解する。続いて、低周波成分のサブバンド1LLに対して離散ウェーブレット変換を施し、図4(c)に示すようにサブバンド2LL、2HL、2LH及び2HHに分解する。尚、図4及び本実施形態では2レベル変換(2段階の変換)について図示しているが、離散ウェーブレット変換の回数は特に制限しない。
【0028】
特性解析部177は、離散ウェーブレット変換部173によって離散ウェーブレット変換された上記タイルの各サブバンドのうち、少なくとも水平及び垂直方向に低域通過フィルタリングが行われたサブバンド2LLの特性を、当該サブハンドデータの周波数成分に基づいて解析する。この特性とは、本実施形態では、当該JPEG2000方式による圧縮処理の対象となっている画像データが、文字画像(文字の画像を含む画像)、網点画像(網点を示す画像群を含む画像)、又は写真画像(写真を示す画像を含む画像)のうちいずれであるかを示す。但し、当該特性をこの例に限定する趣旨ではない。本実施形態では、特性解析部177は、上記離散ウェーブレット変換されたサブバンド2LLが、文字画像、網点画像、又は写真画像のうちいずれであるかを解析するものとして説明する。特性解析部177は、当該解析したサブバンド2LLの特性を、当該サブバンド2LLを含む上記タイル全体の特性とする。
【0029】
量子化部174は、離散ウェーブレット変換された係数データに対して線形量子化を行う。量子化部174は、当該量子化処理を行うとき、(1)特性解析部177によって解析された上記タイルの特性に対応する量子化テーブルを記憶部12から読み出し、(2)当該読み出した量子化テーブルを、当該JPEG2000方式による圧縮処理の圧縮率として予め設定されている値に応じた係数を用いて算出した値に変更し、(3)当該変更した量子化テーブルを用いて、離散ウェーブレット変換部173による離散ウェーブレット変換済みの上記タイルの各サブバンドデータを量子化する。
【0030】
なお、記憶部12には、上記離散ウェーブレット変換されたタイルの各サブバンドデータの量子化に用いる量子化テーブルが、当該タイルの特性毎にそれぞれ記憶されている。
【0031】
更に、符号化部175が、量子化部174により量子化された量子化データに対してエントロピー符号化を行う。このエントロピー符号化は、 EBCOT (Embedded Block Coding with Optimized Truncation) と呼ばれるアルゴリズムにより行われる。エントロピー符号化が終わった後、符号化部175は、ファイルにデータを書き込むための符号ストリームの形成を行う。この符号ストリーム処理については、各文献により周知のものであるため説明を省略する。
【0032】
図5は、画像圧縮部17が画像圧縮プログラム121に従って実行する画像圧縮処理の第1実施形態を示したフローチャートである。なお、以下の各実施形態について各フローチャートで示す画像処理は、特許請求の範囲における画像処理方法の一例である。
【0033】
まず、表色系変換部171及びタイル分割部172は、画像データの色空間変換、タイル分割を行い、分割されたタイルをバンド別に区分する(S1)。続いて、離散ウェーブレット変換部173は、当該画像圧縮処理の対象とするバンドを選択する(S2)。さらに、離散ウェーブレット変換部173は、当該選択したバンドの中から離散ウェーブレット変換の対象とするタイルを選択する(S3)。
【0034】
この後、離散ウェーブレット変換部173は、当該選択されたタイル(0LL)に対して、離散ウェーブレット変換を施してサブバンド1LL、1HL、1LH及び1HHに分解し、更に、低周波成分のサブバンド1LLに対して離散ウェーブレット変換を施し、サブバンド2LL、2HL、2LH及び2HHに分解する(S4)。
【0035】
続いて、特性解析部177は、サブバンド2LLの特性(パターン)分析(上記文字画像、網点画像、又は写真画像のいずれであるかの判定)を開始する。まず、特性解析部177は、サブバンド2LLを構成する各画素について画素値の分布を示すヒストグラムを作成する(S5)。このヒストグラムは、横軸に画素値(明度)、縦軸に画素値(明るさ)毎の画素数を積み上げて示したものである。さらに、特性解析部177は、サブバンド2LLのデータについてDCT(離散コサイン変換)による周波数の測定を行う(S6)。
【0036】
ここで、文字画像、網点画像、及び写真画像は、例えば、以下のような傾向を示す。文字画像及びそのヒストグラムの例を図6(a)、網点画像及びそのヒストグラムの例を図6(b)、写真画像及びそのヒストグラムの例を図6(c)に示す。
〈文字画像〉
ヒストグラム:地肌(文字以外を示す背景の画像)の部分を示す大きな山と、文字を構成する部分を示す小さな山とが存在
周波数:高周波成分がランダムに発生
〈網点画像〉
ヒストグラム:地肌部分と網点で構成された濃度部分が一様に存在
周波数:特定の高周波成分が均一に発生
〈写真画像〉
ヒストグラム:地肌部分は少なく、特定の濃度領域に広く濃度が分布
周波数:低周波成分が多く、高周波成分がほとんど発生しない(文字原稿より高周波成が少ない)
【0037】
この傾向に基づいて、特性解析部177は、サブバンド2LLの上記ヒストグラム及び周波数から、当該サブバンド2LLのデータが、文字画像、網点画像、又は写真画像のいずれであるかを判定する(S7)。すなわち、特性解析部177は、上記文字画像、網点画像、及び写真画像のそれぞれのヒストグラム及び周波数が示す傾向を定義して記憶しておき、S5及びS6で得られたヒストグラム及び周波数を解析し、当該ヒストグラム及び周波数の両方が、上記各画像のいずれかの傾向に当てはまると判断した場合に、当てはまった画像種を当該サブバンド2LLのデータの特性とし、当該特性を、当該サブバンド2LLを含むタイル全体の特性とする。
【0038】
そして、量子化部174は、特性解析部177によって解析された上記特性に対応する量子化テーブルを記憶部12から読み出す(S8)。すなわち、量子化部174は、特性解析部177によって解析された上記特性に対応する量子化テーブルを決定する。例えば、特性が文字画像の場合には、当該サブバンド2LLを含むタイル全体の成分を均等に量子化してエッジ成分を残すため、図7(a)に例を示すような量子化テーブルが用意されている。網点画像の場合には、当該サブバンド2LL〜2HH成分を適度に残し、1HL〜1HH成分を削除するため、図7(b)に例を示すような量子化テーブルが用意されている。写真画像の場合には、当該サブバンド2LL成分を優先し、1HH成分を大きく削除するため、図7(c)に例を示すような量子化テーブルが用意されている。なお、サブバンド2LLのデータが、文字画像、網点画像、又は写真画像のいずれでもない(サブバンド2LLのヒストグラム及び周波数の両方が上記各画像のいずれの傾向にも当てはまらない)場合、サブバンド2LLのデータは、文字と網点、文字と写真が混在している複合画像であると判断する。この複合画像には、量子化部174は、量子化テーブルの変更は行わず、初期設定が用いられる。図7(d)に、初期設定の量子化テーブルの例を示す。
【0039】
続いて、量子化部174は、当該読み出した量子化テーブルを、当該画像圧縮処理で予め定めている圧縮率に応じた係数を用いて算出した値に変更し、当該算出した量子化テーブルを量子化に用いる量子化テーブルとする(S9)。
【0040】
例えば、量子化部174は、
圧縮率が50%以上の場合は、求められた量子化テーブルをそのまま使用、
40%以上50%未満の場合は、量子化テーブルを1.1倍
30%以上40%未満の場合は、量子化テーブルを1.2倍
20%以上30%未満の場合は、量子化テーブルを1.3倍
10%以上20%未満の場合は、量子化テーブルを1.4倍
10%未満の場合は、量子化テーブルを1.5倍、とする。
【0041】
なお、ここでは、当該画像圧縮処理で予め定めている圧縮率に応じて、量子化処理に用いる量子化テーブルを算出により求めているが、当該画像圧縮処理で予め定めている圧縮率が高い(符号量を小さくする)場合は、記憶部12が、当該高い圧縮率として細かく設定された複数の圧縮率のそれぞれに対応する量子化テーブルを記憶しておき、量子化部174が、当該各圧縮率に対応する量子化テーブルを記憶部12から選択して読み出すことで、量子化処理に用いる量子化テーブルを求めてもよい。これにより、当該画像圧縮処理で予め定めている圧縮率が高い場合に、当該圧縮率に応じた量子化テーブルを詳細に設定することが可能である。
【0042】
そして、量子化部174は、当該算出した量子化テーブルを用いて上記タイル全体の全サブバンド(2LL〜1HH)を量子化する(S10)。この後、符号化部175が符号化を行う(S11)。さらに、符号化部175により、公知の圧縮率制御が行われる(S12)。
【0043】
なお、当該JPEG2000の圧縮率制御は、例えば、符号量と、画質への影響度の2つのパラメータとを用いて行われる。ここで、符号量は、上記符号化処理で符号化処理された結果そのものが用いられる。画質への影響度は、各画素位置における画素値によって求められ、符号化処理時に量子化後のデータを用いて求められる。この影響度は、上位bitほど影響度が高いと判断されるように係数が設定されており、該当bit位置ごとに求められる。当該影響度は、具体的には、サブバンド1LLの最上位bit (10bit目) から2HHの最下位bit(1bit目)まで求められる。尚、上記符号化処理は、当該影響度の計算と同じ処理単位で行われる。当該影響度の処理単位は、サブバンド数×bit数で分割されたものとなるため、入力10bitで1LL〜2HHに分割する場合、7×10bitの70個の符号データと当該符号データについての影響度とがタイルごとに算出される。そして、各タイル毎に、この求められた影響度の高い符号データから順番に出力を行い、指定された符号量に達した時点で符号データの出力を停止させる制御を行うことが、当該JPEG2000の圧縮率制御の一例となる。
【0044】
そして、離散ウェーブレット変換部173は、この時点で画像処理の対象としているバンドについて未処理のタイルが残っているかを判断し(S13)、未処理のタイルが残っている場合には(S13でYES)、S3乃至S12までの処理を次のタイルについて繰り返す。
【0045】
一方、未処理のタイルが残っていない場合には(S13でNO)、上記分割したバンドのうち、離散ウェーブレット変換未処理のバンドが残っているか否かを判断し(S14)、残っている場合には(S14でYES)、処理はS2に戻り、残りのバンドについてS2乃至S13の処理を行う。
【0046】
この後、離散ウェーブレット変換処理を全てのバンドに対して終えると(S14でNO)、符号化部175は、上記符号処理及び圧縮率制御後のデータを用いてパケットデータを作成し(S15)、当該符号化処理及び圧縮率制御後の符号データを出力する(S16)。
【0047】
なお、上記一連の処理においては、上記タイルを構成するサブハンドのうち、サブバンド2LLのみについてS5乃至S9の処理を行っているが、当該S5乃至S9の処理を変形して、上記タイルを構成するサブバンドのうちの特定のサブバンドまで画像の特性を判定するものとしてもよい。例えば、サブバンド2LLについてS5乃至S9と同様の処理を行って上記画像の特性を判断した後に、特性解析部177が、サブバンド2HL、2LH、2HHについてそれぞれヒストグラムを作成し、高周波成分であるサブバンド2HL、2LH、2HHの画像の特性を、当該ヒストグラムを用いて分析する。入力画像からサブバンド2LLで求められた低周波成分を除いた画像の成分がサブバンド2HL、2LH、2HHであるため、サブバンド2HL、2LH、2HHの部分は、サブバンド2LLとの差と考えることができ、サブバンド2HL、2LH、2HHの画像特性を示すヒストグラムとなる。このヒストグラムにおいて、高濃度や低濃度の部分に存在する画素の数により、特性解析部177は、サブバンド2HL、2LH、2HHの画像特性が、文字画像、網点画像、写真画像のいずれであるかを判定する。
【0048】
これらサブバンド2HL、2LH、2HHのヒストグラムでは、(a)文字画像であれば、高濃度と低濃度に文字エッジの量に従った画素数の分布が存在し、(b)網点画像であれば、高濃度と低濃度に網点の線数に対応した一定数以上の画素数が存在し(網点が画像一面に存在するために多くの高周波成分が存在する)、(c)写真画像であれば、高濃度と低濃度の画素数は少ない(エッジとなる部分がほとんど存在しない)。
【0049】
このため、高周波成分であるサブバンド2HL、2LH、2HHにおける高濃度及び低濃度の画素数は、網点画像>文字画像>写真画像の関係となる。特性解析部177は、各画像種における高濃度及び低濃度の画素数の各境界部分を閾値として設定し、サブバンド2HL、2LH、2HHのそれぞれのヒストグラムが示す画素分布が、網点画像、文字画像、又は写真画像のいずれに属するかを判定することで、サブバンド2HL、2LH、2HHの画像特性を判定する。
【0050】
このように判定された各サブバンド2HL、2LH、2HHと、既に判定されているサブバンド2LLの各画像特性に基づいて、例えば、サブバンド2LL、2HL、2LH、2HHのうちで最も多くのサブバンドが示す画像特性を、これらサブバンドを含むタイル全体の画像特性とする(画像特性が同数の場合はサブバンド2LLの画像特性とする)。量子化部174は、当該特定した画像特性に対応する量子化テーブルを記憶部12から読み出して、当該読み出した量子化テーブルを上記のように圧縮率を変更し、当該圧縮率変更後の量子化テーブルを、上記タイル全体の全サブバンド(2LL〜1HH)の量子化に用いる量子化テーブルとする。
【0051】
また、さらには、各サブバンド1LL〜2HHのそれぞれについて、上記S5〜S7の処理と同様にして画像特性を求めると共に、各画像特性のそれぞれに対応する量子化テーブルを当該各サブバンド毎に記憶部12が記憶しておき、量子化部174が、これら各サブバンド1LL〜2HHの各画像特性に応じた量子化テーブルを各サブバンド毎に読み出し、当該読み出した量子化テーブルを用いて、各サブバンド別に量子化を行うようにしてもよい。
【0052】
なお、上記図1乃至図7に示した実施形態に係る構成及び処理は、本発明に係る画像処理装置、画像処理方法、及び画像処理プログラムの構成及び処理の単なる一例に過ぎず、本発明に係る画像処理装置、画像処理方法、及び画像処理プログラムの構成及び処理を上記に示した内容に限定するものではない。
【符号の説明】
【0053】
1 画像処理装置
12 記憶部
121 画像圧縮プログラム
17 画像圧縮部
171 表色系変換部
172 タイル分割部
173 離散ウェーブレット変換部
174 量子化部
175 符号化部
177 特性解析部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像データを輝度成分と色差成分からなる表色系に変換する表色系変換部と、
前記表色系変換部によって変換された画像データを複数のタイルに分割する分割部と、
前記分割部によって分割されたタイルの画像データに対して離散ウェーブレット変換を施す離散ウェーブレット変換部と、
前記離散ウェーブレット変換部によって離散ウェーブレット変換された前記タイルのサブバンドデータの量子化に用いる量子化テーブルを、当該タイルの特性毎にそれぞれ記憶する量子化テーブル記憶部と、
前記離散ウェーブレット変換部によって離散ウェーブレット変換された前記タイルの各サブバンドデータのうち、少なくとも水平及び垂直方向に低域通過フィルタリングが行われたサブバンドデータの特性を解析し、当該サブバンドの特性を当該タイルの特性とする特性解析部と、
前記特性解析部によって解析された特性に対応する量子化テーブルを前記量子化テーブル記憶部から読み出し、当該読み出した量子化テーブルを用いて、前記離散ウェーブレット変換された前記タイルの各サブバンドデータを量子化する量子化部と、
前記量子化部によって量子化された画像データを符号化して圧縮データを出力する符号化部と
を備えた画像処理装置。
【請求項2】
前記量子化部は、前記特性解析部によって解析された特性に対応する量子化テーブルを前記量子化テーブル記憶部から読み出し、当該読み出した量子化テーブルを、予め設定されている圧縮率に応じた係数を用いて算出した値に変更し、当該変更した量子化テーブルを用いて、前記離散ウェーブレット変換された前記タイルの各サブバンドデータを量子化する請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記特性解析部は、前記サブバンドデータの周波数成分と、当該サブバンドデータを構成する各画素値の分布を示すヒストグラムとを用いて、当該サブバンドデータの特性を解析する請求項1又は請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記特性解析部は、前記サブバンドデータの前記特性解析に加えて、前記タイルを構成する他の予め定められたサブバンドデータについても前記特性解析を行い、前記量子化部は、当該特性解析により得られた各サブバンドデータの特性に応じた量子化テーブルを前記量子化テーブル記憶部から読み出し、当該読み出した量子化テーブルを用いて、当該タイルの各サブバンドデータを量子化する請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の画像処理装置。
【請求項5】
画像データを輝度成分と色差成分からなる表色系に変換する表色系変換ステップと、
前記表色系変換ステップで変換された画像データを複数のタイルに分割する分割ステップと、
前記分割ステップで分割された前記タイルの画像データに対して離散ウェーブレット変換を施す離散ウェーブレット変換ステップと、
前記離散ウェーブレット変換ステップで離散ウェーブレット変換された前記タイルの各サブバンドデータのうち、少なくとも水平及び垂直方向に低域通過フィルタリングが行われたサブバンドデータの特性を解析し、当該サブバンドの特性を当該タイルの特性とする特性解析ステップと、
前記離散ウェーブレット変換された前記タイルのサブバンドデータの量子化に用いる量子化テーブルを、当該タイルの特性毎にそれぞれ記憶しており、前記特性解析ステップで解析された特性に対応する量子化テーブルを用いて、前記離散ウェーブレット変換された前記タイルの各サブバンドデータを量子化する量子化ステップと、
前記量子化ステップによって量子化された画像データを符号化して圧縮データを出力する符号化ステップと
を有する画像処理方法。
【請求項6】
コンピュータを、
画像データを輝度成分と色差成分からなる表色系に変換する表色系変換部と、
前記表色系変換部によって変換された画像データを複数のタイルに分割する分割部と、
前記分割部によって分割されたタイルの画像データに対して離散ウェーブレット変換を施す離散ウェーブレット変換部と、
前記離散ウェーブレット変換部によって離散ウェーブレット変換された前記タイルのサブバンドデータの量子化に用いる量子化テーブルを、当該タイルの特性毎にそれぞれ記憶する量子化テーブル記憶部と、
前記離散ウェーブレット変換部によって離散ウェーブレット変換された前記タイルの各サブバンドデータのうち、少なくとも水平及び垂直方向に低域通過フィルタリングが行われたサブバンドデータの特性を解析し、当該サブバンドの特性を当該タイルの特性とする特性解析部と、
前記特性解析部によって解析された特性に対応する量子化テーブルを前記量子化テーブル記憶部から読み出し、当該読み出した量子化テーブルを用いて、前記離散ウェーブレット変換された前記タイルの各サブバンドデータを量子化する量子化部と、
前記量子化部によって量子化された画像データを符号化して圧縮データを出力する符号化部と
して機能させる画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−114786(P2012−114786A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263459(P2010−263459)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000006150)京セラドキュメントソリュ−ションズ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】