説明

画像処理装置、画像処理方法及びそのプログラム

【課題】画像形成後に媒体を変形するものにおいて、より簡便な処理によって色補正をより適切に行う。
【解決手段】PC50は、複数の正方形を形成する複数の格子点を変形前の媒体に疑似形成したのち、この媒体の変形に伴い移動した格子点の位置に関する位置情報を取得し、媒体の変形後の格子点により形成される四角形において、第1の対角線により分割される2つの三角形の面積差及び、第1の対角線と異なる第2の対角線により分割される2つの三角形の面積差を算出する。そして、面積差がより大きい対角線を用いて変形前の媒体に疑似形成した四角形を分割し、分割した三角形に対し、変形後の変形率に応じて媒体へ形成する着色剤の形成量を補正する。このように、2つの対角線を用いて媒体の変形後の四角形を変形率の異なる2つの領域に分割し、各領域に対して変形率に応じた着色剤の形成量を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置、画像処理方法及びそのプログラムに関し、より詳しくは、成形により変形させる媒体へ着色剤によって形成する画像を処理する画像処理装置、画像処理方法及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の画像処理装置としては、格子を形成したテスト版下を印刷したものを成形加工して三次元形状物に仕上げ、これと元の版下との両方をデジタル化してコンピューターに取り込み、三次元形状物に対する印刷の性質や三次元形状物にする加工方法の変形具合の特徴をつかみ、三次元形状物に成形した場合にデザイナーが要求する意匠になるような版下を作製し、その版下を印刷する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、絵柄フィルムを、成形前後の絵柄の歪みを算出して写像関数として記録し、写像関数に基づいて絵柄の歪みを相殺するように変形させた印刷絵柄を作製し、成形前後のフィルム濃度変化を濃度変化関数として記録し、印刷絵柄の濃度を濃度変化関数に基づいて補正するものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−119409号公報
【特許文献2】特開2005−199625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1の装置では、成形後の形状については考慮されているが、色濃度については考慮されていなかった。また、上述の特許文献2の装置では、絵柄の濃度変化をフィルム濃度変化により補正するが、補正する単位が基本格子単位である場合は、色補正が十分でなく、補正する単位が色ドット単位である場合は、処理が煩雑であった。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、画像形成後に媒体を変形するものにおいて、より簡便な処理によって色補正をより適切に行うことができる画像処理装置、画像処理方法及びそのプログラムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の画像処理装置は、
成形により変形させる媒体へ着色剤によって形成する画像を処理する画像処理装置であって、
複数の四角形を形成する複数の格子点を前記変形前の媒体に疑似形成したのち該媒体の変形に伴い移動した該格子点の位置に関する位置情報を取得する位置情報取得手段と、
前記媒体の変形後の格子点により形成される四角形において第1の対角線により分割される2つの三角形の面積差を算出すると共に、該四角形において前記第1の対角線と異なる第2の対角線により分割される2つの三角形の面積差を算出する面積差算出手段と、
前記第1の対角線及び第2の対角線のうち前記面積差がより大きい対角線を用いて前記変形前の前記媒体に疑似形成した前記四角形を分割する分割手段と、
前記分割して形成した三角形に対し前記変形後の変形率に応じて前記媒体へ形成する着色剤の形成量を補正する補正実行手段と、
を備えたものである。
【0008】
この画像処理装置では、複数の四角形を形成する複数の格子点を変形前の媒体に疑似形成したのち、この媒体の変形に伴い移動した格子点の位置に関する位置情報を取得し、媒体の変形後の格子点により形成される四角形において、第1の対角線により分割される2つの三角形の面積差を算出すると共に、この四角形において第1の対角線と異なる第2の対角線により分割される2つの三角形の面積差を算出する。そして、第1の対角線及び第2の対角線のうち面積差がより大きい対角線を用いて変形前の媒体に疑似形成した四角形を分割し、分割して形成した三角形に対し、変形後の変形率に応じて媒体へ形成する着色剤の形成量を補正する。変形後の媒体の格子点により形成される四角形では格子点が三次元の位置関係となり、この四角形の領域の内部には変形率の異なる領域が含まれることがある。ここでは、2つの対角線を用いて媒体の変形後の四角形を変形率の異なる2つの領域に分割し、面積差が大きい、即ち、変形率の差が大きくなる対角線を採用してこの四角形を分割し、分割した各領域に対して着色剤の形成量を補正するのである。したがって、対角線による三角形の領域を用いることによって、より簡便な処理によって色補正をより適切に行うことができる。ここで、「媒体に疑似形成」とは、媒体上に擬似的に形成することをいい、媒体の画像に格子点の画像を形成することや、試作品の媒体上に格子点を形成(例えば、印刷や貼付けなど)するなどとしてもよい。また、「位置情報」は、例えば格子点の座標値を含むものとしてもよい。また、面積差の算出は、2つの面積値のうち、値の大きい面積値から値の小さい面積値を差し引いて算出するか、2つの面積値の差の絶対値として算出するものとする。
【0009】
本発明の画像処理装置において、前記位置情報取得手段は、前記変形前の媒体に矩形を形成する複数の格子点を疑似形成するものとしてもよい。こうすれば、変形前後での格子点の移動状態をより把握しやすい。このとき、前記位置情報取得手段は、前記変形前の媒体へ上下左右に等間隔に格子点を疑似形成する、即ち、前記変形前の媒体に正方形を形成する複数の格子点を疑似形成することがより好ましい。
【0010】
本発明の画像処理装置において、前記面積差算出手段は、前記媒体の変形前後において前記格子点により形成される四角形が維持されているか否かを前記取得した前記格子点の位置情報に基づいて判定し、前記媒体の変形前後において前記四角形が維持されているときには、該変形後の四角形については面積差の算出を省略して前記分割を省略するものとしてもよい。こうすれば、変形前後において四角形が維持されている、即ち変形率が一律な四角形については面積算出を省略することによって、処理の簡便化を図ることができる。ここで、「変形前後において四角形が維持されている」とは、媒体の変形前後において、四角形の形状及び大きさが同一であることをいうものとしてもよいし、四角形の大きさは異なるが形状が同一であることをいうものとしてもよい。また、前記面積差算出手段は、前記媒体の変形前後において高さ方向に変化のない四角形を、前記媒体の変形前後において前記四角形が維持されているものと判定するものとしてもよい。
【0011】
本発明の画像処理装置において、前記補正実行手段は、前記変形後の変形率が大きいほど大きくなるよう前記着色剤の形成量を補正するものとしてもよい。こうすれば、より適切な色補正を行うことができる。
【0012】
本発明の画像処理装置において、前記着色剤は、インクであるものとしてもよい。あるいは、前記着色剤は、トナーであるものとしてもよい。
【0013】
本発明の画像処理装置において、前記補正実行手段は、前記媒体の変形前後の三角形の面積から該三角形の変形率を算出し、算出された変形率を用いて前記着色剤の形成量を補正するものとしてもよい。こうすれば、面積差を求める際算出した変形後の面積を用いて比較的容易に変形率を求めることができる。
【0014】
本発明の画像処理方法は、
成形により変形させる媒体へ着色剤によって形成する画像を処理する画像処理方法であって、
(a)複数の四角形を形成する複数の格子点を前記変形前の媒体に疑似形成したのち該媒体の変形に伴い移動した該格子点の位置に関する位置情報を取得するステップと、
(b)前記媒体の変形後の格子点により形成される四角形において第1の対角線により分割される2つの三角形の面積差を算出すると共に、該四角形において前記第1の対角線と異なる第2の対角線により分割される2つの三角形の面積差を算出するステップと、
(c)前記第1の対角線及び第2の対角線のうち前記面積差がより大きい対角線を用いて前記変形前の前記媒体に疑似形成した前記四角形を分割するステップと、
(d)前記分割して形成した三角形に対し前記変形後の変形率に応じて前記媒体へ形成する着色剤の形成量を補正するステップと、
を含むものである。
【0015】
この画像処理方法では、上述した画像処理装置と同様に、2つの対角線を用いて媒体の変形後の四角形を変形率の異なる2つの領域に分割し、面積差が大きい、即ち、変形率の差が大きくなる対角線を採用してこの四角形を分割し、分割した各領域に対して着色剤の形成量を補正するのである。したがって、対角線による三角形の領域を用いることによって、より簡便な処理によって色補正をより適切に行うことができる。なお、この画像処理方法において、上述した画像処理装置の種々の態様を採用してもよいし、また、上述した画像処理装置の各機能を実現するようなステップを追加してもよい。
【0016】
本発明のプログラムは、上述した画像処理方法の各ステップを1以上のコンピュータに実現させるためのものである。このプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(例えばハードディスク、ROM、FD、CD、DVDなど)に記録されていてもよいし、伝送媒体(インターネットやLANなどの通信網)を介してあるコンピュータから別のコンピュータへ配信されてもよいし、その他どのような形で授受されてもよい。このプログラムを一つのコンピュータに実行させるか又は複数のコンピュータに各ステップを分担して実行させれば、上述した画像処理方法の各ステップが実行されるため、この画像処理方法と同様の作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】加飾成形システム10の構成の概略の一例を示す構成図。
【図2】変形色補償LUT69の一例を表す説明図。
【図3】変形画像処理プログラム60の形状補償処理の説明図。
【図4】変形後色補償処理ルーチンの一例を示すフローチャート。
【図5】実成形品の一例の説明図。
【図6】対角線を設定する処理の一例の説明図。
【図7】版下データ80の説明図。
【図8】別の版下データ80Bの一例の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図1は、本実施形態である加飾成形システム10の構成の概略の一例を示す構成図である。本実施形態の加飾成形システム10は、図1に示すように、ロール36から引き出された媒体Sにインクを吐出して画像形成を行うプリンター20と、画像形成後の媒体Sを変形し立体物を成形する成形装置40と、プリンター20へデータ通信可能に接続され印刷データを出力する画像処理装置の機能を有するパソコン(PC)50とを備えている。
【0019】
プリンター20は、樹脂製のシートなどの媒体S(例えばポリフィルムなど)に印刷する加飾印刷処理を実行可能な印刷装置として構成されている。プリンター20は、装置全体を制御するコントローラー21と、インクを媒体Sに吐出する印刷機構25と、媒体Sを搬送する搬送機構32とを備えている。コントローラー21は、CPU22を中心とするマイクロプロセッサーとして構成されており、各種処理プログラムを記憶しデータを書き換え可能なフラッシュROM23と、一時的にデータを記憶したりデータを保存したりするRAM24などを備えている。このコントローラー21は、PC50からの印刷データを受信すると共に、印刷処理を実行するよう印刷機構25や搬送機構32を制御する。印刷機構25は、キャリッジベルト31によりキャリッジ軸30に沿って左右(主走査方向)に往復動するキャリッジ26と、インクに圧力をかけノズル27からインク滴を吐出する印刷ヘッド28と、各色のインクを収容したカートリッジ29と、を備えている。印刷ヘッド28は、キャリッジ26の下部に設けられており、圧電素子に電圧をかけることによりこの圧電素子を変形させてインクを加圧する方式により、印刷ヘッド28の下面に設けられたノズル27から各色のインクを吐出するものである。なお、インクへ圧力をかける機構は、ヒーターの熱による気泡の発生によるものとしてもよい。カートリッジ29は、本体側に装着され、シアン(C)・マゼンタ(M)・イエロー(Y)・ブラック(K)などの各色のインクを個別に収容しており、この収容したインクを図示しないチューブを介して印刷ヘッド28へ供給する。搬送機構32は、駆動モーター33により駆動され、媒体Sを搬送する搬送ローラー34などを備えている。
【0020】
成形装置40は、プリンター20で画像を形成したあとの媒体Sを所望の三次元形状に成形する装置である。この成形装置40は、媒体Sの上方に配置された上型部41と、媒体Sの下方に配置された下型部42とを備えている。上型部41や下型部42には図示しない金型がセットされており、媒体Sを挟み込むことにより媒体Sを三次元形状に成形する。なお、媒体Sの成形は、加熱成形としてもよいし、加圧成形としてもよい。
【0021】
PC50は、ユーザーが使用する画像処理装置及び印刷制御装置として構成された汎用パソコンである。このPC50は、装置全体の制御を司るコントローラー51と、各種アプリケーションプログラムや各種データファイルを記憶する大容量メモリであるHDD55と、プリンター20などの外部機器とのデータの入出力を行うネットワークインターフェイス(I/F)56とを備えている。コントローラー51は、各種制御を実行するCPU52や各種制御プログラムを記憶するフラッシュROM53、データを一時記憶するRAM54などを備えている。また、PC50は、ユーザーが各種指令を入力するキーボード及びマウス等の入力装置57や、各種情報を表示するディスプレイ58などを備えている。このPC50は、ディスプレイ58に表示されたカーソル等をユーザーが入力装置57を介して入力操作するとその入力操作に応じた動作を実行する機能を有している。コントローラー51やHDD55、I/F56、入力装置57、ディスプレイ58などは、バス59によって電気的に接続され、各種制御信号やデータのやり取りができるよう構成されている。
【0022】
このPC50のHDD55には、図示しないアプリケーションプログラムや、変形画像処理プログラム60、印刷ドライバー70などが格納されている。変形画像処理プログラム60は、媒体Sに形成した画像が媒体Sの成形後(変形後)に生じる色ずれや形状ずれを補正する際に用いられるプログラムであり、3D絵柄編集部61や形状補償部62、色補償部63などを有している。3D絵柄編集部61は、成形前の媒体Sに形成した画像の編集と成形後の媒体Sに形成した画像の編集とを実行する機能を有している。形状補償部62は、媒体Sの成形時の外形の変形によって生じる成形品表面の意匠(文字や模様)の形状変化を、目的の形状に補正する形状補償を実行する機能を有している。色補償部63は、媒体Sの成形時の変形による成形品の色合いの変化を、目的の色合いに補正する色補償を実行する機能を有している。この色補償部63は、位置情報取得部64や面積差算出部65、分割部66、補正実行部67、データ出力部68、変形色補償LUT69などを有している。位置情報取得部64は、複数の四角形を形成する複数の格子点を変形前の媒体Sに疑似形成したのち、この媒体Sの変形に伴い移動した格子点の位置に関する位置情報を取得する機能を有している。この位置情報取得部64は、正方形を形成する格子点を変形前の媒体Sに疑似形成し、媒体Sの成形後(変形後)に各格子点が移動した座標(X座標,Y座標,Z座標)を位置情報として取得する機能を有している。面積差算出部65は、上記取得した位置情報に基づいて、媒体Sの変形後の格子点により形成される四角形において第1の対角線により分割される2つの三角形の面積差を算出すると共に、この四角形において第1の対角線と異なる第2の対角線により分割される2つの三角形の面積差を算出する機能を有している。この面積差算出部65は、変形前において最小単位を形成する4つの格子点を1つの単位とし、変形後の四角形を形成する格子点として対角線を作成するものとした。分割部66は、第1の対角線及び第2の対角線のうち面積差がより大きい対角線を用いて変形前の媒体Sに疑似形成した四角形を分割する機能を有している。補正実行部67は、分割して形成した三角形に対し変形後の変形率に応じて媒体Sへ形成する着色剤(インク)の形成量(吐出量)を変形色補償LUT69を用いて補正する機能を有している。データ出力部68は、補正後の印刷画像を印刷ドライバー70へ出力する機能を有している。変形色補償LUT69は、媒体Sの変形後の成形体で発色すべき目的色の色値と、媒体Sの変形率と、媒体S上に形成するインク量との関係を経験的に定めた対応関係テーブルである。図2は、変形色補償LUT69の一例を表す説明図である。図2に示すように、変形色補償LUT69において、色値と媒体Sの変形率とが指定されると、指定された変形率で媒体Sが変形したのちに指定した色値になる各色のインク量が導き出される。変形色補償LUT69では、同じ色値において、変形後の変形率が大きいほど着色剤の形成量が大きくなる傾向に設定されている。また、この変形色補償LUT69は、格納されている各値の間のデータを周知の四面体補間処理を行うことによって、より格子点データの多いLUTに展開して利用されるものとした。なお、図2では、変形色補償LUT69の一部のみを示した。この3D絵柄編集部61や形状補償部62、色補償部63は、それぞれ、プログラムとしての3D絵柄編集モジュール、形状補償モジュール、色補償モジュールとして変形画像処理プログラム60に組み込まれている。また、位置情報取得部64や面積差算出部65、分割部66、補正実行部67、データ出力部68は、それぞれ位置情報取得モジュールや面積差算出モジュール、分割モジュール、補正実行モジュール、データ出力モジュールとして色補償部63に組み込まれている。そして、これらのモジュールがコントローラー51により実行されることにより、それぞれ上述した機能を発現するものとした。印刷ドライバー70は、アプリケーションプログラム側から受けた印刷ジョブをプリンター20で直接印刷処理可能な印刷データへ変換してプリンター20側へ出力(送信)するプログラムである。また、印刷ドライバー70は、変形画像処理プログラム60で作成された印刷データをプリンター20へ出力する機能を有している。
【0023】
次に、こうして構成された本実施形態の加飾成形システム10の画像処理について、まず、形状補償部62による処理について説明する。図3は、変形画像処理プログラム60により実行される形状補償処理の説明図である。図3に示すように、3D絵柄編集部61及び形状補償部62を起動すると、CPU52は、縦横に等間隔の格子点82を形成し、これを結んだグリッドを平面の媒体上に形成した画像を作成する(図3(a))。次に、目的の製品の形状に成形するように媒体を変形させる処理を行い、変形後の各格子点82の三次元座標位置や各グリッドの歪み方向、歪み量を計算する。計算結果に基づいて、成形後の立体物の三次元モデル画像を作成し、ディスプレイ58へ表示処理する(図3(b))。次に、使用者の入力操作により三次元モデルの表面に絵柄が形成され(図3(c))、二次元変換指示が入力されると、三次元での座標値を二次元の座標値に変換し、変換後の画像を表示する(図3(d))。このようにして、成形後に目的とする絵柄となる形状の画像が成形前のシート上に形成され、成形前に媒体Sに印刷すべき版下画像データを作成することができる。その後、この版下データは、以下に説明する色補償処理が施される。
【0024】
次に、成形して変形したあとの成形品の色補償を行う処理について説明する。図4は、コントローラー51のCPU52により実行される変形後色補償処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、HDD55に記憶され、色補償の実行指示が入力されたあとに実行される。色補償の実行指令は、例えば、ディスプレイ58に表示された、図示しない変形画像処理プログラム60の編集画面上で上記形状補償を行ったあとの版下画像データを選択したあと、この画面上に表示された色補償実行ボタンをクリックすることにより入力されるものとしてもよい。この色補償処理は、位置情報取得部64、面積差算出部65、分割部66、補正実行部67、データ出力部68及び変形色補償LUT69など、色補償部63の各機能によって実行される。この変形後色補償処理では、媒体Sの変形率の増加に応じて色変化が増加することから、この変形率に基づいて加工前、画像形成時のインク量を補正する処理を行う。ここでは、図5に示すように、四角錐の成形を実行する場合を具体例として以下説明する。図5は、実成形品の一例の説明図である。
【0025】
このルーチンを実行すると、CPU52は、変形加工前後の格子点の位置情報を取得する(ステップS100)。ここでは、上述した形状補償処理で求めた、変形加工前の格子点の三次元座標(X,Y,Z)を取得すると共に、変形加工後の格子点の三次元座標(X,Y,Z)を取得することにより位置情報を取得するものとした。ここでは、図5に示す、平面に複数の格子点82が上下左右に等間隔に配置された画像を変形加工前の位置情報とし、四角錐の画像を変形加工後の位置情報として取得するものとした。次に、CPU52は、変形後の格子点のうち、分割対象の四角形を構成する格子点を設定する(ステップS110)。分割対処の格子点は、例えば、左上の隅の四角形を構成する4つの格子点から、右側に向かって順に、次に、上から下側へ順に設定していくものとしてもよい。次に、CPU52は、変形加工後の四角形が、変形加工前の矩形に維持されているか否かを、各格子点の三次元座標に基づいて判定する(ステップS120)。ここで、媒体の変形前後において、四角形の形状及び大きさが同一であるときや、四角形の大きさは異なるが形状が同一であるとき、各格子点の三次元座標において高さ方向Zがすべて同じ値であるとき、四角形の辺の長さがすべて等しいときなどに、変形加工前後で矩形が維持されていると判定することができる。
【0026】
変形加工前後で四角形が矩形に維持されていないときには、何らかの変形がこの四角形の領域にあったものとして、ステップS130〜S150の対角線による矩形領域の分割処理を実行する。例えば、四角形が変形した場合、四角形の内部に変形率の高い領域と変形率の低い領域とが存在する可能性がある。ここでは、対角線を用いて簡便な処理により変形率の違う領域を分割する処理を行うのである。具体的には、変形加工後において、第1対角線により四角形の領域を分割して得られる2つの三角形の面積差を算出し(ステップS130)、第1対角線とは異なる第2対角線により四角形の領域を分割して得られる2つの三角形の面積差を算出する(ステップS140)。面積差の算出は、2つの面積値のうち、値の大きい面積値から値の小さい面積値を差し引いて算出するものとする。例えば、図5に示すように、右上の格子点82と左下の格子点82とを結ぶ対角線を第1対角線84に設定する一方、左上の格子点82と右下の格子点82とを結ぶ対角線を第2対角線86に設定してもよい。続いて、2つの対角線のうち、面積差の大きい対角線を採用し、設定されている変形加工後の四角形に対応する、変形加工前の矩形領域に対して分割処理を実行する(ステップS150)。図6は、対角線を設定する処理の一例の説明図である。図6に示すように、4つの格子点A,B,C,Dにより形成される四角形は、対角線BD(図6左)か、対角線AC(図6右)かのいずれかで分割することができる。例えば、格子点が1点だけ離れた位置にあるなど(点C)、規則的でない変形が四角形の領域にある場合には、対角線による四角形の分割において、面積差の大小が生じる。図6では、対角線ACで分割するのに比して、対角線BDで四角形を分割する方がより面積差が大きくなる。ここで、分割された三角形の面積差がより大きいことは、分割されたそれぞれの領域の変形率がより大きく異なるものと考えられる。このように、対角線により形成された三角形の面積差を利用して、変形率の異なる領域に変形加工前の矩形を分割するのである。
【0027】
続いて、CPU52は、変形加工前後の三角形の面積値を用い、分割後の各三角形の変形率(%)を算出し(ステップS160)、ステップS160のあと、又は、ステップS120で変形加工前後で矩形が維持されているときには、設定されている変形加工後の四角形に対応する、変形加工前の矩形領域に対して色補償処理を実行する(ステップS170)。ここで、対角線により分割された矩形領域については、三角形ごとに色補償処理を実行するものとした。また、領域に複数の色がある場合は、各色ごとに色補償処理を実行するものとした。色補償処理では、目的とする色値と変形率とにより、変形色補償LUT69を用いて、その領域で用いる各色のインク量を設定する処理を行う。色補償処理において、目的とする色値及び変形率が、変形色補償LUT69に格納されている値のあいだにある場合などには、周知の四面体補間処理を行うことによって、適合するインク量を計算により近似的に求めるものとした。この色補償処理では、変形色補償LUT69により、色値が同じであるときは、変形後の変形率が大きいほど大きくなるようインクの形成量を補正するものとした。なお、ステップS120で変形加工前後で矩形が維持されているときには、変形加工前後において変形率に変化がないことから、対角線を用いて矩形領域を分割する処理を省略することができる。
【0028】
そして、CPU52は、すべての格子点に対して処理が終了したか否かを判定し(ステップS180)、すべての格子点に対して処理が終了していないときには、ステップS110以降の処理を繰り返し実行する。一方、すべての格子点に対して処理が終了したときには、色補償データをHDD55に保存し(ステップS100)、このルーチンを終了する。図7は、上記色補償処理により作成された版下データ80の説明図である。なお、図7では、グリッド数を減じた状態で示した。図7に示すように、第1対角線84により分割する矩形と、第2対角線86により分割する矩形とが、面積差に応じて設定され、各三角形の変形率に応じて、色補正が実行されるのである。例えば、グリッド数をより多くすれば、理想的な色を再現することができるが、非常に長い処理時間がかってしまう。また、グリッド数を低減すると、処理時間は短縮できるが、粗い色変化となり理想的な色は得られにくい。ここでは、矩形のグリッドと対角線を利用し、処理時間の長期化を抑制すると共に、より理想的な色補正を実現するのである。
【0029】
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態のコントローラー51及び位置情報取得部64が本発明の位置情報取得手段に相当し、コントローラー51及び面積差算出部65が面積差算出手段に相当し、コントローラー51及び分割部66が分割手段に相当し、コントローラー51及び補正実行部67が補正実行手段に相当する。なお、本実施形態では、PC50の動作を説明することにより本発明の画像処理方法の一例も明らかにしている。
【0030】
以上詳述した本実施形態のPC50によれば、複数の正方形を形成する複数の格子点を変形前の媒体に疑似形成したのち、この媒体の変形に伴い移動した格子点の位置に関する位置情報を取得し、媒体の変形後の格子点により形成される四角形において、第1の対角線により分割される2つの三角形の面積差を算出すると共に、この四角形において第1の対角線と異なる第2の対角線により分割される2つの三角形の面積差を算出する。そして、第1の対角線及び第2の対角線のうち面積差がより大きい対角線を用いて変形前の媒体に疑似形成した四角形を分割し、分割して形成した三角形に対し、変形後の変形率に応じて媒体へ形成する着色剤の形成量を補正する。変形後の媒体の格子点により形成される四角形では格子点が三次元の位置関係となり、この四角形の領域の内部には変形率の異なる領域が含まれることがある。ここでは、2つの対角線を用いて媒体の変形後の四角形を変形率の異なる2つの領域に分割し、面積差が大きい、即ち、変形率の差が大きくなる対角線を採用してこの四角形を分割し、分割した各領域に対して着色剤の形成量を補正するのである。したがって、対角線による三角形の領域を用いることによって、より簡便な処理によって色補正をより適切に行うことができる。また、正方形を形成する格子点を変形前の媒体に疑似形成するため、変形前後での格子点の移動状態をより把握しやすく好ましい。
【0031】
また、媒体の変形前後において四角形が維持されているときには、面積差の算出を省略して分割処理を省略するため、変形率が一律な四角形については面積算出を省略することによって、処理の簡便化を図ることができる。更に、変形後の変形率が大きいほど大きくなるよう着色剤の形成量を補正するため、より適切な色補正を行うことができる。更にまた、対応関係としての変形色補償LUT69を用いるため、例えば対応関係式に基づいて計算により求めるのに比して、比較的容易に色補正を行うことができる。そして、媒体Sの変形前後の三角形の面積から三角形の変形率を算出し、算出された変形率を用いてインク量を補正するため、面積差を求める際算出した変形後の面積を用いて比較的容易に変形率を求めることができる。
【0032】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0033】
例えば、上述した実施形態では、変形加工前後において、四角形が維持されているものについては、対角線の設定及び分割処理を行わないものとしたが、特にこれに限定されず、全部の四角形について対角線の設定及び分割処理を行うものとしてもよい。図8は、別の版下データ80Bの一例の説明図である。図8に示すように、例えば、初期値として第1対角線84を設定しておき、第1対角線84と第2対角線86のどちらを採用しても面積差のない四角形である場合には、第1対角線84を採用してこの四角形を分割するものとしてもよい。あるいは、第2対角線86を採用してもかまわない。こうしても、面積差のあるものについては、対角線を用いてより簡便な処理によって色補正をより適切に行うことができる。
【0034】
上述した実施形態では、変形加工前の媒体Sに疑似形成する格子点は、均等に配置し正方形のグリッドを形成するものとしたが、特にこれに限定されず、例えば、矩形状に配置してもよいし、正方形や矩形からややずれた位置に配置してもよいし、千鳥状に配置してもよい。なお、変形加工前後の格子点の位置関係を把握する上では、矩形状が好ましく、正方形状がより好ましい。
【0035】
上述した実施形態では、成形後の三次元形状、即ち、各格子点82の三次元座標(位置情報)を3D絵柄編集部61や形状補償部62を用い、ソフトウエアプログラムにより取得するものとして説明したが、特にこれに限定されず、グリッドを形成した媒体Sを変形して実際に成形品を作製し、それを測定することにより、格子点の三次元座標を取得するものとしてもよい。この場合、形状補償処理は以下のような手順で行うことができる。例えば、目的の製品と同じ材質の媒体Sにグリッドを形成し、各格子点の位置を二次元座標として記録する。次に、この媒体Sを目的の製品を製造する条件で、成形装置40により成形する。成形後(変形後)の媒体Sの各格子点の位置を測定し、各格子点の位置を三次元座標として記録する。そして、変形加工前後の座標を対応付け、位置情報とすることができる。このとき、測定した各格子点の三次元座標を入力装置57で入力することにより、位置情報を取得するものとしてもよい。
【0036】
上述した実施形態では、変形率が大きいほど大きくなるインク補正量で色補償を行うものとしたが、特にこれに限定されない。また、上述した実施形態では、変形色補償LUT69を用いて色補償の補正を行うものとしたが、特にこれに限定されず、色値と変形率と着色剤の形成量との対応関係式を用い、計算により着色剤の形成量を算出するものとしてもよい。
【0037】
上述した実施形態では、着色剤は、インクであるものとしたが、媒体S上に画像を形成する際に着色可能なものであれば特にこれに限定されない。例えば、インク以外の他の液体や機能材料の粒子が分散されている液状体(分散液)、ジェルのような流状体、トナーなどの粉体などとしてもよい。
【0038】
上述した実施形態では、媒体の変形前後の三角形の面積からこの三角形の変形率を算出するものとしたが、三角形の変形率を求めるものとすれば、特にこれに限定されない。
【0039】
上述した実施形態では、プリンター20は、インクを吐出するインクジェット式の印刷機構25を備えたものとしたが、特にこれに限定されず、レーザープリンターとしてもよいし、熱転写プリンターとしてもよいし、ドットインパクトプリンターとしてもよい。
また、PC50のような画像処理装置としたが、画像処理方法としてもよいし、これを実行可能なプログラムの形式にしてもよい。
【符号の説明】
【0040】
10 加飾成形システム、20 プリンター、21 コントローラー、22 CPU、23 フラッシュROM、24 RAM、25 印刷機構、26 キャリッジ、27 ノズル、28 印刷ヘッド、29 カートリッジ、30 キャリッジ軸、31 キャリッジベルト、32 搬送機構、33 駆動モーター、34 搬送ローラー、36 ロール、40 成形装置、41 上型部、42 下型部、50 PC、51 コントローラー、52 CPU、53 フラッシュROM、54 RAM、55 HDD、56 I/F、57 入力装置、58 ディスプレイ、59 バス、60 変形画像処理プログラム、61 3D絵柄編集部、62 形状補償部、63 色補償部、64 位置情報取得部、65 面積差算出部、66 分割部、67 補正実行部、68 データ出力部、69 変形色補償LUT、70 印刷ドライバー、80,80B 版下データ、81 形成画像、82 格子点、84 第1対角線、86 第2対角線、S 媒体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形により変形させる媒体へ着色剤によって形成する画像を処理する画像処理装置であって、
複数の四角形を形成する複数の格子点を前記変形前の媒体に疑似形成したのち該媒体の変形に伴い移動した該格子点の位置に関する位置情報を取得する位置情報取得手段と、
前記媒体の変形後の格子点により形成される四角形において第1の対角線により分割される2つの三角形の面積差を算出すると共に、該四角形において前記第1の対角線と異なる第2の対角線により分割される2つの三角形の面積差を算出する面積差算出手段と、
前記第1の対角線及び第2の対角線のうち前記面積差がより大きい対角線を用いて前記変形前の前記媒体に疑似形成した前記四角形を分割する分割手段と、
前記分割して形成した三角形に対し前記変形後の変形率に応じて前記媒体へ形成する着色剤の形成量を補正する補正実行手段と、
を備えた画像処理装置。
【請求項2】
前記位置情報取得手段は、前記変形前の媒体に矩形を形成する複数の格子点を疑似形成する、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記面積差算出手段は、前記媒体の変形前後において前記格子点により形成される四角形が維持されているか否かを前記取得した前記格子点の位置情報に基づいて判定し、前記媒体の変形前後において前記四角形が維持されているときには、該変形後の四角形については面積差の算出を省略して前記分割を省略する、請求項1又は2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記補正実行手段は、前記変形後の変形率が大きいほど大きくなるよう前記着色剤の形成量を補正する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記着色剤は、インクである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記補正実行手段は、前記媒体の変形前後の三角形の面積から該三角形の変形率を算出し、算出された変形率を用いて前記着色剤の形成量を補正する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
成形により変形させる媒体へ着色剤によって形成する画像を処理する画像処理方法であって、
(a)複数の四角形を形成する複数の格子点を前記変形前の媒体に疑似形成したのち該媒体の変形に伴い移動した該格子点の位置に関する位置情報を取得するステップと、
(b)前記媒体の変形後の格子点により形成される四角形において第1の対角線により分割される2つの三角形の面積差を算出すると共に、該四角形において前記第1の対角線と異なる第2の対角線により分割される2つの三角形の面積差を算出するステップと、
(c)前記第1の対角線及び第2の対角線のうち前記面積差がより大きい対角線を用いて前記変形前の前記媒体に疑似形成した前記四角形を分割するステップと、
(d)前記分割して形成した三角形に対し前記変形後の変形率に応じて前記媒体へ形成する着色剤の形成量を補正するステップと、
を含む画像処理方法。
【請求項8】
請求項7に記載された画像処理方法の各ステップを1以上のコンピューターに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−139972(P2012−139972A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−984(P2011−984)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】