説明

画像形成装置

【課題】感光体の膜厚が変化した場合でも、画像形成条件を再調整せずに、現像時における感光体の帯電電位の変動を抑制する。
【解決手段】電荷輸送層12Bの表面に、イレーズランプが発生させる逆極性の電荷の移動を遅らせることにより、帯電から現像までの間における感光体ドラム12の帯電電位の暗減衰を増大させる表層としてのオーバーコート層(OCL)12Cを形成する。これによりオーバーコート層12Cが磨耗して感光体ドラム12の膜厚が減少することにより、スコロトロンによる帯電の電位が低下するが、この低下を、帯電から現像までの間における感光体ドラム12の帯電電位の暗減衰を減少させることで相殺する。このため、感光体ドラム12の膜厚が変化した場合でも、画像形成条件を再調整せずに、現像時(現像位置)における感光体ドラム12の帯電電位の変動を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置としては、回転する感光体を備え、その感光体の周囲に、感光体の回転方向上流側から順に、帯電手段、露光手段、現像手段、転写手段が配置された画像形成装置が知られている。
【0003】
この構成では、帯電手段が感光体を帯電させ、帯電した感光体は、露光手段によって露光されて感光体に静電潜像が形成される。さらに、現像手段が、感光体に形成された静電潜像へトナーを付着させて現像し、トナー像が形成される。感光体に形成されたトナー画像は、転写手段により、記録媒体へ転写される。
【0004】
ところで、帯電手段として、コロナ放電を用いた帯電装置を使用した場合、感光体の膜厚によって帯電電位が変化してしまうという問題がある。感光体膜厚が薄くなると、感光体の静電容量が増大するため、同じ電位に帯電するには多くの電荷が必要となる。理想的な帯電装置であれば、グリッド電圧と狙いの感光体電位とを同じにすればよいが、実際には、グリッド電圧を狙いの電位よりも高く設定しなければならないことが普通である。
【0005】
上述したように、感光体膜厚が薄くなると多くの電荷を供給することが必要となるため、一般的には、感光体が磨耗して膜厚が薄くなると、帯電装置のグリッド電圧を上げて表面電位を一定値に保っている。従って、グリッド電圧を一定値にした場合において、感光体が磨耗して感光体の膜厚が薄くなると帯電電位が低くなり、記録媒体に形成される画像に影響がでる。また、感光体が偏磨耗して感光体の膜厚にムラができると、帯電電位もムラとなり、記録媒体に形成される画像に濃度ムラが発生する。
【0006】
これに対して、感光体の表面電位を測定し、その測定結果を帯電手段、現像手段及び露光手段等へフィードバックすることによって、画像形成条件を再調整し、感光体の帯電電位変化の影響を抑制する構成が開示されている(特許文献1、2、3参照)。
【特許文献1】特開平5−119569号公報
【特許文献2】特開平7−44071号公報
【特許文献3】特開2000−162834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2、3に示すような構成では、感光体の表面電位を測定する電位測定装置や、フィードバックするための制御系が必要となり、装置が複雑になる問題がある。さらに、感光体表面の膜厚ムラを検出するには、感光体表面の全面の電位を測定することが必要となり、電位測定装置が大型化するという問題がある。
【0008】
本発明は、上記事実を考慮し、感光体の膜厚が変化した場合でも、画像形成条件を再調整せずに、現像時における感光体の帯電電位の変動を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る画像形成装置は、感光体と、コロナ放電により前記感光体の表面を帯電させる帯電手段と、前記帯電手段によって帯電した感光体の表面を露光して、前記感光体の表面に静電潜像を形成する露光手段と、前記露光手段によって前記感光体の表面に形成された静電潜像を現像して、画像を形成する現像手段と、前記感光体の表面に接触して前記感光体の表面を清掃する清掃手段と、前記帯電手段による帯電の前に、前記感光体の表面に残留した電荷と逆極性の電荷を発生させて前記感光体の表面を除電する除電手段と、前記感光体の表面に形成され、前記逆極性の電荷の移動を遅らせることにより帯電から現像までの間における前記感光体の帯電電位の暗減衰を増大させる表層と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
この構成では、帯電手段が感光体を帯電させ、帯電した感光体は、露光手段によって露光されて感光体に静電潜像が形成される。さらに、現像手段が、感光体に形成された静電潜像を現像して画像が形成される。
【0011】
感光体の表面に形成された表層が、除電手段によって発生した逆極性の電荷の移動を遅らせることにより、逆極性の電荷移動が帯電までに終了せず、帯電から現像までの間における感光体の帯電電位の暗減衰を増大させる。
【0012】
ここで、表層が、例えば清掃手段に接触することにより磨耗すると、感光体の膜厚が減少するので、帯電手段による帯電の電位が低下する。この一方、表層が磨耗することにより、表層が増大させていた暗減衰が減少する。これにより、感光体の膜厚が薄くなることによる帯電電位の降下を、表層が磨耗して暗減衰が減少することで相殺する。このため、感光体の膜厚が変化した場合でも、画像形成条件を再調整せずに、現像時における感光体の帯電電位の変動を抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上記構成としたので、感光体の膜厚が変化した場合でも、画像形成条件を再調整せずに、現像時における感光体の帯電電位の変動を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明に係る実施形態の一例を図面に基づき説明する。
【0015】
(本実施形態に係る画像形成装置の全体構成)
まず、本実施形態に係る画像形成装置の全体構成を説明する。図1には、本実施形態に係る画像形成装置の全体構成が概略図にて示されている。
【0016】
本実施形態に係る画像形成装置10は、所定方向(図1において反時計回り方向)へ回転する感光体ドラム12が設けられている。感光体ドラム12の周囲には、感光体ドラム12の回転方向上流側から順に、コロナ放電により感光体ドラム12の表面を帯電させる帯電手段としてのスコロトロン14と、帯電した感光体ドラム12の表面を露光して感光体ドラム12の表面に静電潜像を形成する露光手段としての露光装置16と、感光体ドラム12の表面に形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段としての現像ロール18と、感光体ドラム12の表面に形成されたトナー画像を記録媒体Pへ転写する転写装置20と、感光体ドラム12の表面に接触して感光体ドラム12の表面を清掃する清掃手段としての清掃装置22と、スコロトロン14による帯電の前に感光体ドラム12の表面に残留した電荷と逆極性の電荷を発生させて感光体ドラム12の表面を除電する除電手段してのイレーズランプ24と、が設けられている。
【0017】
感光体ドラム12が回転することにより、感光体ドラム12の表面の各部位は、スコロトロン14に対向する帯電位置、露光装置16に対向する露光位置、現像ロール18に対向する現像位置、転写装置20に対向する転写位置、イレーズランプ24に対向する除電位置を移動するようになっている。
【0018】
露光装置16は、露光位置に位置する感光体ドラム12の表面へ画像データに基づく光像を照射して、画像データに基づく静電潜像を形成するようになっている。
【0019】
現像ロール18は、現像位置に位置する感光体ドラム12の表面へトナーを供給して、感光体ドラム12の表面に形成された静電潜像へトナーを付着させ、現像するようになっている。
【0020】
転写装置20は、無端状の搬送ベルト26の内周側に設けられており、感光体ドラム12の表面に形成されたトナー像が、転写装置20と感光体ドラム12との間の転写位置で、搬送ベルト26に搬送された記録媒体Pへ転写装置20によって転写される。
【0021】
清掃装置22は、感光体ドラム12の表面に接触して清掃する清掃ブラシ28及び清掃ブレード30を備えて構成されている。
【0022】
清掃ブラシ28は、軸部28Aの外周にその全周にわたってブラシ28Bが巻き付けられて構成されており、軸部28Aが回転可能に支持されている。清掃ブラシ62は、図示しない駆動部からの駆動力が伝達され、感光体ドラム12に沿う方向に回転駆動される。すなわち、感光体ドラム12が、図1における反時計方向に回転するのに対して、清掃ブラシ28は、感光体ドラム12とは反対回りである時計方向に回転する。
【0023】
清掃ブラシ28の周速度は、感光体ドラム12の周速度よりも速く設定されており、この周速度比により、清掃ブラシ28は、トナー像を記録媒体Pへ転写した後の感光体ドラム12の表面に付着した紙粉やトナー、外添剤等の付着物を掻き取る。
【0024】
清掃ブレード30は、感光体ドラム12が清掃ブラシ28に接触する位置よりも感光体ドラム12の回転方向下流側に配置されており、その先端部が感光体ドラム12の表面に接触する位置に支持されている。
【0025】
これにより、回転する感光体ドラム12の表面と清掃ブレード30の先端部が接触して、感光体ドラム12の表面に付着した紙粉やトナー、外添剤等の付着物を掻き取る。なお、清掃ブレード30は、ゴム、金属等で形成されている。
【0026】
イレーズランプ24は、イレーズ光を感光体ドラム12へ照射し、逆極性の電荷としてのプラス電荷を発生させる。このプラス電荷により、感光体ドラム12の表面に残留したマイナス電荷を中和して、感光体ドラム12の表面を除電するようになっている。
【0027】
スコロトロン14は、感光体ドラム12側が開口したアルミニウム製のシールドケース14Aを備えている。シールドケース14Aは、感光体ドラム12の回転軸方向に沿って延びる細長箱状とされており、シールドケース14A内には、シールドケース14A内を仕切っている仕切板14Dが設けられている。
【0028】
シールドケース14A内には、仕切板14Dを挟んだ両側に、タングステン線からなる放電電極としての放電ワイヤ14Bが1本ずつ(計2本)張られており、この放電ワイヤ14Bは、感光体ドラム12の回転軸方向に沿って延びている。また、放電ワイヤ14Bは、図示しない電源に接続されており、放電ワイヤ14Bへのワイヤ電流が一定電流となるように定電流制御されている。これにより、放電ワイヤ14Bは、マイナス電荷を発生させ、帯電位置に位置する感光体ドラム12の表面へこのマイナス電荷を供給するようになっている。
【0029】
シールドケース14Aの開口側には、放電ワイヤ14Bと感光体ドラム12との間にグリッド電極としてのグリッドワイヤ14Cが複数本配置され、これらのグリッドワイヤ14Cは、感光体ドラム12の回転軸方向に沿って延びている。複数のグリッドワイヤ14Cは、感光体ドラム12の表面に沿って円弧状になるように配置されており、各グリッドワイヤ14Cと感光体ドラム12との距離が一定となっている。各グリッドワイヤ14Cは、図示しない電源に接続されており、感光体ドラム12の予め設定される所定の電位(帯電させたい所望の帯電電位)と等しい所定のグリッド電圧が印加される。
【0030】
スコロトロン14では、放電ワイヤ14Bで発生したマイナス電荷が、グリッドワイヤ14Cと感光体ドラム12との間の電位差が0Vになるまで、グリッドワイヤ14Cの間を通過して感光体ドラム12に供給されるようになっており、複数のグリッドワイヤ14Cにより感光体ドラム12の帯電電位が制御されることで、感光体ドラム12が所定電位に帯電される。
【0031】
ここで、感光体ドラム12の膜厚と、感光体ドラム12の表面の帯電電位の変化について説明する。
【0032】
図2は、図1に示す画像形成装置10において、感光体ドラム12として電荷発生層及び電荷輸送層が形成された有機感光体(OPC)を用い、スコロトロン14に印加するワイヤ電流とグリッド電圧が一定のときに、電荷輸送層の膜厚の影響がどのように現像位置の帯電電位に現れるかを測定した結果を示したものである。
【0033】
図2の横軸のVG−VHは、グリッド電圧(VG)と現像位置の帯電電位(VH)の差を示したものであり、VG−VHの絶対値が大きいほど、VG一定では現像位置での電位が低くなる(帯電性が悪くなる)ことを意味している。
【0034】
この結果、本実施形態のように、コロナ放電を用いた帯電装置を使用した場合、電荷輸送層の膜厚が減少して感光体の膜厚が小さくなると、VG−VHの絶対値が増大することがわかる。
【0035】
図3は、図2の補足データであり、電荷輸送層の膜厚が異なる2種類の感光体ドラム12を同じ条件で帯電したときの感光体ドラム12の表面電位の暗減衰を示すものである。
【0036】
図2の場合と同様に、感光体ドラム12として電荷発生層及び電荷輸送層が形成された有機感光体(OPC)を用い、電荷輸送層の膜厚を20μmと26μmとしたものを使用した。なお、図3の横軸は、帯電後の経過時間、縦軸は感光体ドラム12の表面電位を示す。
【0037】
図1に示す画像形成装置10では、帯電から100ms程度経過したときに、感光体ドラム12が現像位置に位置するようになっており、図2に示す結果は、図3における帯電から100ms程度経過したときの状態に相当するが、図3からわかるように、帯電直後でも、感光体ドラム12の膜厚が小さくなることによる帯電電位の低下は発生している。
【0038】
(感光体ドラムの膜厚が変化しても感光体ドラムの帯電電位の変動を抑制する構成)
ここで、感光体ドラムの膜厚が変化しても感光体ドラムの帯電電位の変動を抑制する構成について説明する。まず、感光体ドラム12の構成を説明する。
【0039】
感光体ドラム12は、アルミニウム等で形成された導電性基体上に電荷発生層(CGL)12A及び電荷輸送層(CTL)12Bが積層された機能分離型の有機感光体(OPC)で構成されている(図5参照)。
【0040】
電荷輸送層12Bの表面には、イレーズランプ24が発生させる逆極性の電荷の移動を遅らせることにより、帯電から現像までの間における感光体ドラム12の帯電電位の暗減衰を増大させる表層としてのオーバーコート層(OCL)12Cが形成されている。
【0041】
電荷発生層12Aは、受光により電荷を発生する機能を分担し、電荷輸送層12B及びオーバーコート層12Cは、電荷発生層12Aで発生した電荷を輸送する機能を分担する。 電荷発生層12Aとしては、既知のものを特に制限無く使用することができるが、金属及び無金属フタロシアニン顔料が好ましく用いられる。金属及び無金属フタロシアニン顔料の中でも、特定の結晶を有するヒドロキシガリウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ジクロロスズフタロシアニン、チタニルフタロシアニンが特に好ましい。
【0042】
電荷輸送層12Bは、例えば、電荷輸送材料及び結着樹脂を含んで構成される。電荷輸送層に用いられる電荷輸送材料としては、例えば、2,5−ビス(p−ジエチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾールなどのオキサジアゾール誘導体、1,3,5−トリフェニルピラゾリン、1−[ピリジル−(2)]−3−(p−ジエチルアミノスチリル)−5−(p−ジエチルアミノスチリル)ピラゾリンなどのピラゾリン誘導体、トリフェニルアミン、トリ(p−メチルフェニル)アミン、N,N’−ビス(3,4−ジメチルフェニル)ビフェニル−4−アミン、ジベンジルアニリン、9,9−ジメチル−N,N’−ジ(p−トリル)フルオレノン−2−アミンなどの芳香族第3級アミノ化合物、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジアミンなどの芳香族第3級ジアミノ化合物、3−(4,4’−ジメチルアミノフェニル)−5,6−ジ−(4,4’−メトキシフェニル)−1,2,4−トリアジンなどの1,2,4−トリアジン誘導体、4−ジエチルアミノベンズアルデヒド−1,1−ジフェニルヒドラゾン、4−ジフェニルアミノベンズアルデヒド−1,1−ジフェニルヒドラゾン、[p−(ジエチルアミノ)フェニル]−(1−ナフチル)フェニルヒドラゾンなどのヒドラゾン誘導体、2−フェニル−4−スチリルキナゾリンなどのキナゾリン誘導体、6−ヒドロキシ−2,3−ジ(p−メトキシフェニル)−ベンゾフランなどのベンゾフラン誘導体、p−(2,2−ジフェニルビニル)−N,N’−ジフェニルアニリンなどのα−スチルベン誘導体、エナミン誘導体、N−エチルカルバゾールなどのカルバゾール誘導体、ポリ−N−ビニルカルバゾールおよびその誘導体などの正孔輸送物質;クロラニル、ブロモアニル、アントラキノン等のキノン系化合物、テトラシアノキノジメタン系化合物、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン等のフルオレノン化合物、2−(4−ビフェニル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(4−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(4−ジエチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾールなどのオキサジアゾール系化合物、キサントン系化合物、チオフェン化合物、3,3’,5,5’−テトラ−t−ブチルジフェノキノン等のジフェノキノン化合物などの電子輸送物質;あるいは上記化合物と同様の構造を有する基を主鎖又は側鎖に有する重合体などが挙げられる。これらの電荷輸送材料は、1種を単独で又は2種以上を組み合せて使用することができる。
【0043】
電荷輸送層に用いられる結着樹脂としては特に制限されないが、電気絶縁性を示し、フィルム形成が可能な樹脂が好ましい。このような結着樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、スチレン−アルキッド樹脂、ポリ−N−カルバゾール、ポリビニルブチラール、ポリビニルフォルマール、ポリスルホン、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、フェノール樹脂、ポリアミド、カルボキシーメチルセルロース、塩化ビニリデン系ポリマーワックス、ポリウレタン等が挙げられる。これらの中でも、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂が、電荷輸送材料との相溶性、溶剤への溶解性、強度の点で優れており、好ましく用いられる。これらの結着樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0044】
オーバーコート層12Cは、電荷輸送層12Bよりも電荷移動度(モビリティ)が低くされた(電荷の移動速度が遅くされた)材料で形成されており、オーバーコート層12C中を移動する電荷の移動速度が遅くなる。オーバーコート層12Cとしては、例えば、フェノール樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、熱硬化性シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂及びポリベンズイミダゾール樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられる。
【0045】
また、電荷輸送層12Bの電荷移動度に対して、オーバーコート層12Cの電荷移動度は、2桁大きくなっている。
【0046】
ここで、帯電から現像までの間における感光体ドラム12の帯電電位の暗減衰を増大させる構成について説明する。
【0047】
本実施形態では、電荷輸送層12Bよりも電荷移動度の低いオーバーコート層12Cを形成すると共に、電荷輸送層12B及びオーバーコート層12Cの電荷移動度、除電から帯電までの時間、イレーズ光の光量、帯電から現像までの時間などを所定条件に設定することにより、帯電から現像までの間における感光体ドラム12の帯電電位の暗減衰を増大させる。
【0048】
図4は、オーバーコート層12Cを形成せず電荷発生層12A及び電荷輸送層12Bのみが形成された比較例に係る構成における暗減衰を示す図である。図5は、電荷発生層12A、電荷輸送層12B及びオーバーコート層12Cが形成された本実施形態に係る構成における暗減衰を示す図である。
【0049】
図4(A)、図4(B)、図4(C)及び図4(D)は、除電工程から現像工程までにおける感光体ドラム12の帯電状態の変化を示しており、図4(A)、図4(B)、図4(C)及び図4(D)の順で変化が生じる。
【0050】
図4(A)は、イレーズランプ24から感光体ドラム12の表面へイレーズ光を照射した直後における感光体ドラム12を示す。図4(A)に示すように、イレーズ光の照射直後では、直前の画像形成プロセスで発生したマイナス電荷が、感光体ドラム12の表面に残留しており、電荷発生層12Aではイレーズ光の照射によりプラス電荷が発生している。
【0051】
図4(B)は、イレーズ光照射直後から帯電までの間、すなわち、感光体ドラム12が除電位置から帯電位置へ向かって動いている途中における感光体ドラム12を示す。電荷輸送層12Bよりも電荷移動度が低いオーバーコート層12Cが形成されていないため、イレーズ光照射直後から帯電までの間では、電荷発生層12Aで発生したプラス電荷が、速やかに感光体ドラム12の表面へ移動し、感光体ドラム12の表面のマイナス電荷を中和するため、帯電位置に到達するときには感光体ドラム12表面は除電される。
【0052】
図4(C)は、帯電直後における感光体ドラム12を示す。帯電直後では、除電された感光体ドラム12の表面が、所望のマイナス電位に帯電される。
【0053】
図4(D)は、帯電直後から現像までの間、すなわち、感光体ドラム12が帯電位置から除電位置へ向かって動いている途中における感光体ドラム12を示す。帯電直後から現像までの間は、感光体ドラム12の表面の帯電電位は暗減衰するが、その帯電電位の低下は小さい。
【0054】
一方、電荷輸送層12Bよりも電荷移動度が低いオーバーコート層12Cを有する構成では、以下のように、感光体ドラム12の帯電状態が変化する。
【0055】
図5(A)、図5(B)、図5(C)及び図5(D)は、除電工程から現像工程までにおける感光体ドラム12の帯電状態の変化を示しており、図5(A)、図5(B)、図5(C)及び図5(D)の順で変化が生じる。
【0056】
図5(A)は、イレーズランプ24から感光体ドラム12の表面へイレーズ光を照射した直後における感光体ドラム12を示す。図5(A)に示すように、イレーズ光の照射直後では、オーバーコート層12Cを有さない上記の構成と同様に、感光体ドラム12の表面に直前の画像形成プロセスで発生したマイナス電荷が残留しており、電荷発生層12Aでは、イレーズ光の照射によりプラス電荷が発生している。
【0057】
図5(B)は、イレーズ光照射直後から帯電までの間、すなわち、感光体ドラム12が除電位置から帯電位置へ向かって動いている途中における感光体ドラム12を示す。イレーズ光照射直後から帯電までの間では、電荷発生層12Aで発生したプラス電荷が、オーバーコート層12Cをゆっくりと移動するため、感光体ドラム12が帯電位置に到達する時点では、まだ、全てのマイナス電荷を打ち消すには至っていない。
【0058】
図5(C)は、帯電直後における感光体ドラム12を示す。帯電直後では、感光体ドラム12の表面が、所望のマイナス電位に帯電される。その一方、プラス電荷がオーバーコート層12C中に残存している。
【0059】
図5(D)は、帯電直後から現像までの間、すなわち、感光体ドラム12が帯電位置から除電位置へ向かって動いている途中における感光体ドラム12を示す。帯電直後から現像までの間は、オーバーコート層12C中に残存したプラス電荷が、感光体ドラム12が現像位置に至る間に、感光体ドラム12の表面のマイナス電荷と結合するため、暗減衰が増大し、オーバーコート層12Cを有さない上記の構成に比べて、現像位置での帯電電位が低くなる。
【0060】
図6は、オーバーコート層12Cが形成せずに電荷発生層12A及び電荷輸送層12Bのみが形成された比較例に係る構成と、電荷発生層12A、電荷輸送層12B及びオーバーコート層12Cが形成された本実施形態に係る構成との暗減衰の違いを示すものである。
【0061】
本実施形態に係る構成においては、電荷輸送層12Bの膜厚を20μmと26μmとにしたものについて測定している。図6の暗減衰は、帯電と現像の中間にある電位センサESV(図1参照)位置での電位と、現像位置での電位差VESV−VHを縦軸にとったものである。
【0062】
オーバーコート層12Cがない感光体ドラム12は、膜厚が変わっても暗減衰の変化は小さく、オーバーコート層12Cがある感光体ドラム12は、膜厚により暗減衰が大きく変化している。また、暗減衰は、電荷輸送層12Bの厚さには依存せず、オーバーコート層12Cの厚さのみに依存していることがわかる。
【0063】
このように、本実施形態では、電荷輸送層12Bよりも電荷移動度の低いオーバーコート層12Cを形成すると共に、電荷輸送層12B及びオーバーコート層12Cの電荷移動度、除電から帯電までの時間、イレーズ光の光量、帯電から現像までの時間などを所定条件に設定して、イレーズランプ24が発生させる逆極性の電荷の移動を遅らせることにより、スコロトロン14による帯電後もマイナス電荷を中和させ、暗減衰を増大させる。
【0064】
なお、上記の設定条件と暗減衰との関係は、電荷輸送層12B及びオーバーコート層12Cの電荷移動度が遅いほど、暗減衰が大きくなる。除電から帯電までの時間が短いほど、暗減衰が大きくなる。イレーズ光の光量が多いほど、暗減衰が大きくなる。帯電から現像までの時間が長いほど、暗減衰が大きくなる。
【0065】
また、このオーバーコート層12Cが磨耗して薄くなると、プラス電荷がオーバーコート層12Cを通過する時間が早くなるので暗減衰は少なくなる。
【0066】
また、帯電直後の感光体ドラム12の表面の帯電電位は、電荷輸送層12Bの膜厚を設定することにより、その度合いを調整される。電荷輸送層12Bの膜厚が薄いほど、磨耗に対する感度が高くなる。
【0067】
(本実施形態の作用)
次に、上記の実施形態について作用を説明する。
【0068】
図7は、オーバーコート層12Cが磨耗した場合の感光体ドラム12の帯電状態を示したものである。図7(A)、図7(B)、図7(C)及び図7(D)は、除電工程から現像工程までにおける感光体ドラム12の帯電状態の変化を示したものであり、図7(A)、図7(B)、図7(C)及び図7(D)の順で変化が生じる。
【0069】
図7(A)は、イレーズランプ24から感光体ドラム12表面にイレーズ光を照射した直後における感光体ドラム12を示す。図7(A)に示すように、イレーズ光の照射直後では、感光体ドラム12表面に直前の画像形成プロセスで発生したマイナス電荷が残留しており、電荷発生層12Aではイレーズ光の照射によりプラス電荷が発生する。
【0070】
図7(B)は、イレーズ光照射直後から帯電までの間、すなわち、感光体ドラム12が除電位置から帯電位置へ向かって動いている途中における感光体ドラム12を示す。
【0071】
オーバーコート層12Cが磨耗して薄くなっているので、イレーズ光照射直後から帯電までの間では、電荷発生層12Aで発生したプラス電荷がオーバーコート層12Cを通過する時間が早くなり、感光体ドラム12が帯電位置に到達する時点では、オーバーコート層12Cが磨耗していない状態に比べ、マイナス電荷を打ち消す量が増える。
【0072】
図7(C)は、帯電直後における感光体ドラム12を示す。帯電直後では、オーバーコート層12Cが磨耗して薄くなっているので、帯電電位が低下し、感光体ドラム12表面に存在するマイナス電荷が減少する。また、オーバーコート層12C中に残存するプラス電荷も減少する。
【0073】
図7(D)は、帯電直後から現像までの間、すなわち、感光体ドラム12が帯電位置から除電位置へ向かって動いている途中における感光体ドラム12を示す。帯電直後から現像までの間は、オーバーコート層12C中に残存したプラス電荷が、感光体ドラム12が現像位置に至る間に表面のマイナス電荷と結合する。本実施形態では、感光体ドラム12表面のマイナス電荷が減少する一方で、オーバーコート層12C(OCL)中に残存したプラス電荷が減少する。
【0074】
このように、本実施形態では、オーバーコート層12Cが磨耗して感光体ドラム12の膜厚が減少することによりスコロトロン14による帯電の電位が低下するが、この低下を、帯電から現像までの間における感光体ドラム12の帯電電位の暗減衰を減少させることで相殺する。
【0075】
このため、感光体ドラム12の膜厚が変化した場合でも、画像形成条件を再調整せずに、現像時(現像位置)における感光体ドラム12の帯電電位の変動を抑制できる。
【0076】
図8は、本実施形態の効果を示す実験データであり、スコロトロン14に印加するワイヤ電流とグリッド電圧が一定のときに、グリッド電圧(VG)と現像位置の帯電電位(VH)の差を、本実施形態及び比較例について示したものである。グリッド電圧(VG)と現像位置の帯電電位(VH)の差の絶対値が、大きいほど現像位置での電位が低くなる(帯電性が悪くなる)ことを意味している。
【0077】
比較例の構成として、オーバーコート層12Cを形成せずに電荷発生層12A及び電荷輸送層12Bのみが形成された感光体ドラム12(OCL無し)を用いた。なお、比較例のデータは、図2と同じデータである。
【0078】
本実施形態の構成として、電荷輸送層12Bが26μmでオーバーコート層12Cの厚みを0、1、3、6μmとしたもの(CTL26μm+OCL)、電荷輸送層12Bが20μmでオーバーコート層12Cの厚みを0、6μmとしたもの(CTL20μm+OCL)を用いた。
【0079】
本実施形態の構成では、オーバーコート層12Cが磨耗して全体の膜厚(CTL+OCL)が減少しても、VG−VHは、比較例の構成よりも安定しており、さらに電荷輸送層12Bの厚さが最適な26μmでは、VH変動は10V以下と制御不要なレベルまで改善されている。
【0080】
本発明は、上記の実施形態に限るものではなく、種々の変形、変更、改良が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る画像形成装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】図2は、図1に示す画像形成装置において、感光体ドラムとして電荷発生層及び電荷輸送層が形成された有機感光体(OPC)を用い、スコロトロンに印加するワイヤ電流とグリッド電圧が一定のときに、電荷輸送層の膜厚の影響がどのように現像位置の帯電電位に現れるかを測定した結果を示したグラフである。
【図3】図3は、電荷輸送層の膜厚が異なる2種類の感光体ドラムを同じ条件で帯電したときの感光体ドラムの表面電位の暗減衰を示すグラフである。
【図4】図4は、オーバーコート層を形成せず電荷発生層及び電荷輸送層のみが形成された比較例に係る構成における暗減衰を示す図である。
【図5】図5は、電荷発生層、電荷輸送層及びオーバーコート層が形成された本実施形態に係る構成における暗減衰を示す図である。
【図6】図6は、オーバーコート層が形成せずに電荷発生層及び電荷輸送層のみが形成された比較例に係る構成と、電荷発生層、電荷輸送層及びオーバーコート層が形成された本実施形態に係る構成との暗減衰の違いを示すグラフである。
【図7】図7は、オーバーコート層が磨耗した場合の本実施形態に係る感光体ドラムの帯電状態を示した図である。
【図8】図8は、本実施形態の効果を示すための実験データである。
【符号の説明】
【0082】
10 画像形成装置
12C オーバーコート層(表層)
12 感光体ドラム(感光体)
14 スコロトロン(帯電手段)
16 露光装置(露光手段)
18 現像ロール(現像手段)
22 清掃装置(清掃手段)
24 イレーズランプ(除電手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感光体と、
コロナ放電により前記感光体の表面を帯電させる帯電手段と、
前記帯電手段によって帯電した感光体の表面を露光して、前記感光体の表面に静電潜像を形成する露光手段と、
前記露光手段によって前記感光体の表面に形成された静電潜像を現像して、画像を形成する現像手段と、
前記感光体の表面に接触して前記感光体の表面を清掃する清掃手段と、
前記帯電手段による帯電の前に、前記感光体の表面に残留した電荷と逆極性の電荷を発生させて前記感光体の表面を除電する除電手段と、
前記感光体の表面に形成され、前記逆極性の電荷の移動を遅らせることにより帯電から現像までの間における前記感光体の帯電電位の暗減衰を増大させる表層と、
を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−275659(P2008−275659A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115508(P2007−115508)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】