画像生成方法、画像生成プログラム及びシミュレータ
【課題】利用者が表示画像を見た際に実際の情景をそのまま見たような印象を与える表示画像を生成する。
【解決手段】透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離(d)に応じた拡大率f(d)に基づいて各要素部分の大きさを変換し、大きさが変換された各要素部分により実空間で見た印象に近い映像を構成する。拡大率f(d)は一般的には、f(d)=exp((AdA)/(A+B(dA−1)−C)とし、dが10m以下となる奥行きの画像の場合f(d)=daとしてもよい。
【解決手段】透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離(d)に応じた拡大率f(d)に基づいて各要素部分の大きさを変換し、大きさが変換された各要素部分により実空間で見た印象に近い映像を構成する。拡大率f(d)は一般的には、f(d)=exp((AdA)/(A+B(dA−1)−C)とし、dが10m以下となる奥行きの画像の場合f(d)=daとしてもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像生成方法、画像生成プログラム及びシミュレータに関し、特に、シミュレータ用表示画像の作成に用いるのに有効な画像生成方法及び画像生成プログラム、さらに生成された画像を表示映像とするシミュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
シミュレータは自動車運転教習用、ゲーム装置用等に用いられており、風景等の画像を表示して、実際に眼前に風景等が展開しているように感じさせるものである。自動車運転教習用のドライビング・シミュレータについて見ると、安全運転能力を高めるために、危険予測の訓練が必要であり、実車での訓練と合わせてその補強ないし準備の意味でドライビング・シミュレータが用いられる。
【0003】
ドライビング・シミュレータは、実際に運転する感覚に近いことが重要である。そのための音響装置(エンジン音やマフラー音)、加減速や振動(同様装置)、ステアリング反力(コックピット)等については実際に運転するときの走行感が得られるものになっている。一方、映像装置に関しては、モニターを大きくして視界を広げたり、風景、街並み配置に工夫をしたり、描画を精巧にするというようなことでは進展がなされているが、提示距離と知覚距離とは異なることがあり、シミュレータにおいて奥行き感や大きさ感を実際の運転感覚に即したものとすることは十分になされていない。
【0004】
ドライビング・シミュレータに使用される映像には、ビデオカメラで撮影した映像をそのまま利用するものと、コンピュータ・グラフィックスを用いて描画したものとがあるが、いずれの映像作成手法においても、透視投影法を用いて3次元空間の情景を2次元平面内の映像としている。透視投影図は、図1に示すように、物体の像を視点に向かう投影線により投影面に投影してできる図であり、物体の各点と視点とを結ぶ投影線と投影面との交点の集まりとして透視図が描画される。
【0005】
透視投影図では、投影面に描かれる物体の大きさは視点からの距離に反比例する、ということが透視投影図の描画における幾何学的性質として言える。ところが、人が実空間で物体、風景等を見て感じ取る印象は透視投影図での描画によるものとは違っていることが、種々の知見により明らかにされている。例えば、視覚心理学において、並木道の中央からまっ直ぐ前方を見るときに、平行並木がどのように見えるかについて研究されている。結論的には、観察者が平行だと見る位置に対象物を前方に向かって並べると、平行二直線にならず、先広がりの曲線になる。すなわち3次元空間において平行に並んでいる並木を見た時の実際の感覚としては平行には見えないということである。
【0006】
また、奥行きの感じ方として、廊下の突き当たりの位置がどのように見えるかについて、写真で撮影したものが図2(a)のようになっていたとして、実空間で人が同じ情景を見た時の印象は図2(b)のようになり、奥側の部分が写真ないし透視投影図の場合より手前側に見えている。奥側の物が手前側に見えるというのは、写真で言えばレンズの焦点距離を広角側から望遠側にした場合にもあるが、レンズを変えた場合には画角が変化するのであり、図2(a)、(b)の際は、それとは別のこととして、透視投影図としては図2(a)のようである情景を人が見た印象として図2(b)のように感じるというものである。
【0007】
このように、3次元空間における物体、情景を人が見た時に、写真や透視投影図としての性質として、大きさが視点からの距離に反比例する形にはなっていない、というのが一般的と言える。その上で、ドライビング・シミュレータでの画像表示について考えると、撮影された写真ないし透視投影図をもとに作成したシミュレータの表示画像では、実際に人が運転しながら見る情景とは見え方が異なることになり、違和感がある。シミュレータとしては実際の状況感覚を利用者に与えるのが望ましいということからすれば、シミュレータの表示画像として撮影された写真ないし透視投影図として作成された画像はその要請には沿わないと考えられる。
【0008】
シミュレータの画像生成に関して、次のような特許文献に記載されている。
【0009】
特許文献1には、視差のある複数の画像から対象空間に関する視差情報を抽出して距離情報を算出し、対象空間を複数のレイヤに分割しレイヤ表現データに基づいて対象空間の空間表現データを作成することにより、シミュレートに伴う処理データ量を増加させずに現実感のあるシミュレータ画像を生成することについて記載されている。
【0010】
特許文献2には、人間が移動していく時の視線に準じた違和感のない視界画像を生成するため、移動体の速度に応じて視線ベクトルを制御することについて記載されている。
【0011】
しかしながら、特許文献1,2等に示されるようなシミュレータ画像の生成において、透視投影図(撮影された映像)と実空間において見たものにおける対象物の大きさ、距離感の違いに着目したものではなく、このことから奥行きのある情景について実空間で見た印象に近い画像を生成するものではなかった。
【特許文献1】特開2006−53694号公報
【特許文献2】特開2000−200360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来のシミュレータの表示画像においては、撮影された写真ないし透視投影図として作成された画像が用いられており、利用者が表示画像を見た際に実際の情景を見たのとは異なる印象が与えられるという不具合があったため、より実際の情景をそのまま見たような印象を与える表示画像を生成することが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前述した課題を解決すべくなしたものであり、本発明による画像生成方法は、 奥行きのある情景の透視投影コンピュータ・グラフィックス映像に対して実空間で見た印象に近い映像を生成する画像生成方法であって、該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離に応じた拡大率に基づいて前記各要素部分の大きさを変換することと、前記大きさが変換された各要素部分により実空間で見た印象に近い映像を構成することと、からなるものである。
【0014】
前記拡大率がA,B,C(0.7<A<1.6、0.2<B<0.9、1.6<C<2.2)を定数として、前記撮影位置からの距離(d)の関数
f(d)=exp((AdA)/(A+B(dA−1)−C)
で表されるものとしてもよい。
【0015】
また、奥行きが実質的に10m以内である情景の透視投影コンピュータ・グラフィックス映像に対して実空間で見た印象に近い映像を作成する画像処理方法であって、該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離(d)に応じた拡大率に基づいて前記各要素部分の大きさを変換することと、 前記大きさが変換された各要素部分により実空間で見た印象に近い映像を構成することと、からなり、前記撮影位置からの距離(d)に応じた拡大率f(d)が、aを定数として
f(d)=da
で表され、上式で0.5<a<0.7であるようにしてもよい。
【0016】
本発明による画像生成プログラムは、奥行きのある情景を透視投影コンピュータ・グラフィックス映像とし、該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離に応じた拡大率に基づいて前記各要素部分の大きさを変換し、前記大きさが変換された各要素部分により実空間で見た印象に近い映像を構成することをコンピュータで実行するためのものである。
【0017】
前記拡大率がA,B,C(0.7<A<1.6、0.2<B<0.9、1.6<C<2.2)を定数として、前記撮影位置からの距離(d)の関数
f(d)=exp((AdA)/(A+B(dA−1)−C)
で表されるものとしてもよい。
【0018】
また、奥行きが実質的に10m以内の情景を透視投影コンピュータ・グラフィックス映像とし、該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離(d)に応じa(0.5<a<0.7)を定数として
f(d)=da
で表される拡大率f(d)に基づいて前記各要素部分の大きさを変換し、前記大きさが変換された各要素部分により実空間で見た印象に近い映像を構成することをコンピュータで実行するものとしてもよい。
【0019】
本発明によるシミュレータは、奥行きのある情景の映像を撮影した環境をコンピュータ・グラフィックス処理して得られた透視投影コンピュータ・グラフィックス映像とし、該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離に応じた拡大率に基づいて前記各要素部分の大きさを変換し、前記大きさが変換された各要素部分により構成された実空間で見た印象に近い表示映像の映像データ及び該表示映像の表示手段を備えるものである。
【0020】
前記拡大率がA,B,C(0.7<A<1.6、0.2<B<0.9、1.6<C<2.2)を定数として、前記撮影位置からの距離(d)の関数
f(d)=exp((AdA)/(A+B(dA−1)−C)
で表されるものとしてもよい。
【0021】
また、奥行きが実質的に10m以内の情景を透視投影コンピュータ・グラフィックス映像とし、該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離(d)に応じa(0.5<a<0.7)を定数として
f(d)=da
で表される拡大率f(d)に基づいて前記各要素部分の大きさを変換し、前記大きさが変換された各要素部分により構成された実空間で見た印象に近い表示映像の映像データ及び該表示し映像の表示手段を備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離に応じた拡大率に基づいて各要素部分の大きさを変換した上で画像を再構成することにより、実空間で見た印象に近い映像とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明では、シミュレータの表示映像として、実際に3次元空間で見たのと同等の印象を与える画像を作成するため、同じ情景について、撮影した映像と、実際に見て感じたものとを対比し、その関係を量的に把握する実験を行い、それに基づいて実際に見た印象に近い映像を作成するようにする。
【0024】
〔1〕実空間と映像とにおける印象の比較の実験(実験A)
実際に車を運転する時に見ている風景の印象に近いシミュレータの映像を作成するために、従来の車上からビデオカメラで撮影した風景の映像(透視投影図と同等)と、実際に運転しながら見える風景の印象との相違を見出すため、実空間で風景を観察する条件と、同じ風景を撮影した映像における風景を観察する条件を設け、各条件において知覚される距離、角度、速度についての印象を比較する。
【0025】
a.観察対象
実験は車の通行がほとんどない直線道路を選んで行った。観察者から見た風景は、図3に示すようなものであり、道路は直線状に片側2車線(両側4車線)で1車線の幅が3m、道路の両脇には約15m間隔で常緑樹(高さ約5m)が植えられており、道路前方(奥側)が突き当たりになっていて、ガードレールが設置されており、それより奥側の遠景として山が見えている。道路終了地点の少し手前の道路上方に案内看板が設置されており、また、観察地点から道路終了地点までの距離は619.5mである。さらに、観察地点から前方38mの位置の道路両脇にそれぞれ1ずつ、そこからさらに前方50mの位置の道路両脇にそれぞれ1つずつ高さ0.7mの赤いコーンを配置している。
【0026】
b.観察条件
このような風景について、1つの条件において実空間での観察を行い、2つの条件において撮影した映像の観察を行う。10人がそれぞれこのような観察を同様に行い、観察した結果について質問、応答の形で風景の見え方について調査するという形の実験を行った。 実空間での観察は、観察者が車の助手席に座り、目の高さが地上から1.2mとなるようにして行った。撮影した映像の観察については、実空間の場合と同じ位置に設置した、画面縦横比が16:9のものと4:3のものとのビデオカメラでそれぞれ撮影した映像をプロジェクターでスクリーンに投影し観察する形で行った。
【0027】
c.質問事項
観察者への質問内容は、対象の大きさ(長さ)、距離、角度、速度に関する次の9項目である。
(1)大きさ
1.1.道路幅
手前側の2つのコーンが置かれた位置の道路幅は、奥側の2つのコーンが置かれた位置の道路幅の何倍に見えるか。
1.2.木の高さ
右側手前のコーンの横にある木から奥に向かって2番目の木の高さは右側手前のコーンの横にある木から奥に向かって5番目の木の高さの何倍に見えるか。
1.3.山の高さ
正面の山の頂上までの高さは左側手前のコーンの高さの何倍に見えるか。
【0028】
(大きさについての質問において、何倍に見えるかというのは、物体の物理的な大きさでなく、視界の中で目に映っている、見え方としての大きさの比率であることを了解させておく。)
【0029】
(2)距離
2.1.案内看板までの距離
左側手前のコーンから案内看板があるところまでの距離は、左側に並ぶ前後2つのコーン間の距離の何倍と思うか。
2.2.ガードレールまでの距離
左側手前のコーンから道路の一番奥にあるガードレールまでの距離は、左側に並ぶ前後2つのコーン間の距離の何倍と思うか。
【0030】
2.3.木と木との間隔
道路が片側1車線3mということを参考に、道路沿いに並ぶ木と木との間隔は何mと思うか。
2.4.山までの距離
観察地点から正面に見える山の頂上まで何kmだと思うか。
(3)角度
道路の左側白線とその隣の白線(点線)が遠方で交わるように見えるが、その2本の線が作る(道路の白線が作る)角度は何度に見えるか。
(4)速度
車は時速何kmで走行したと思うか。
【0031】
(1)〜(4)の9項目の質問事項のうち、速度を除く8項目は道路に停止した状態(静止画状態)で回答し、3項目(木と木との間隔、角度、速度)は走行時(動画中)に回答した。角度については先のコーンの位置(38m先)を走行時に、木と木との間隔と角度については走行終了後に回答し、木と木との間隔と角度については停止時と走行時の両方で回答した。
d.手順
観察者のうち半分は実空間での観察を行った後に映像の観察を行い、他の半分は映像の観察を行った後に実空間での観察を行った。映像観察の条件では、画面縦横比16:9の場合を先に行い、4:3の場合をその後に行った。観察者は、停止時と走行時にそれぞれの質問に回答し、車は時速60kmで走行した。走行する車の音(エンジン音等)はそのまま聞き、観察は通常運転する時と同様の自然状態、両眼視で行い、片目や薄目、手や定規を用いるというような変則性を加えないようにして行う。
【0032】
e.実験結果について
それぞれの質問について、観察者10人からの回答について集計し、平均値と標準偏差を求めた。
(1)大きさ(道路幅、木の高さ、山の高さ)
大きさについての実験結果を図4に示す。道路幅について、奥側の2つのコーンが置かれた位置の道路幅に対し、手前側の2つのコーンが置かれた位置の道路幅が、実空間の観察では1.70倍、映像(16:9)の観察では2.05倍、映像(4:3)の観察では2.10倍に見えたという結果であり、写真(透視投影図)においては2.28倍であった。これにより、実空間での観察の方が映像で観察するより、手前側の道路幅が狭く知覚されるものと言える。
【0033】
木の高さについて、右側手前のコーンの横にある木から2番目の木の高さは、右側手前のコーンの横にある木の高さに対して、実空間の観察では1.40倍、映像(16:9)の観察では1.61倍、映像(4:3)の観察では1.58倍に見え、写真上においては1.93倍であり、実空間での観察の方が映像の観察より手前の木が低く知覚される蛍光にある。また、山の高さについて、左側手前のコーンの高さに対し、正面の山の高さは、実空間の観察で2.37倍、映像(16:9)の観察で1.88倍、映像(4:3)の観察で1.81倍に見え、写真上において1.93倍であり、実空間での観察の方が映像の観察より遠くの山がより高く知覚されていると言える。
【0034】
(2)距離
図5は距離についての実験結果のうち、案内看板までの距離(左側部分)、ガードレールまでの距離(右側部分)について示している。案内看板までの距離について、左側手前のコーンから案内看板までの距離が左側手前に並ぶ前後2つのコーン間の距離に対して、実空間の観察で4.55倍、映像(16:9)の観察で3.68倍、映像(4:3)の観察で3.11倍と見られているが、実測では5.62倍である。ここでは、実空間の方が映像より距離が長く近くされている。ガードレールまでの距離について、左側手前のコーンからガードレールまでの距離が左側に並ぶ前後2つのコーン間の距離に対して、実空間の観察で9.43倍、映像(16:9)の観察で6.02倍、映像(4:3)の観察で5.62倍と見られているが、実測では11.63倍である。ここでは、ガードレールまでの距離について、実空間での観察の方が映像の観察より長いと知覚されている。
【0035】
木と木との間隔、山までの距離についても実験結果を得たが、これらの距離関係については、実空間での観察と映像の観察とでの差違は明確でなく、実測値ともかなり異なって観察されるという結果になっている。
(3)角度
道路の左側白線とその隣の白線(点線)とが作る角度についての実験結果では、停止時、走行時とも透視投影図(写真)上で計測した値との差が大きくなり、停止中の実空間での観察で映像の観察より小さくなっているが、走行中の実空間の観察と映像の観察ではあまり差がない。
(4)速度
速度についての実験結果では、車の実速度は60km/hであり、実空間、映像の観察ではともに50km/h程度に感じられ、実空間での観察の方が映像で観察するよりやや早い値になっている。
【0036】
実空間での観察と映像の観察との印象の違いを調べるための実験から、次のように言える。
・実空間での観察の方が映像の観察よりも遠く(観察地点から88m)の道路幅が広く、あるいは近く(観察地点から38m)の道路幅が狭く知覚される。
・実空間での観察の方が映像の観察よりも遠くの山が高く知覚される。
・実空間での観察の方が映像の観察よりもガードレールまでの距離が長く知覚される。
ことが特に確認される。道路の隣接する白線の角度については、写真(透視投影図)での角度と実空間ないし映像の観察による角度とで大きな差があるが、実空間での観察のほうが映像の観察より角度が小さく知覚された可能性がある。
【0037】
〔2〕実空間で見た印象に近い映像の作成
実空間での観察と映像の観察との相違についての実験Aにおいて、実空間における観察と映像の観察とにおいて、特に対象物の大きさ(山の高さ、道路幅)に違いがあることに注目し、実空間で知覚される対象物の大きさが透視投影像(映像)に比較して何倍になるかという量を拡大率として、拡大率を対象物の観察視点からの距離に応じた関数として実験により求め、この拡大率により透視投影像による映像を変換して実空間での印象に近い映像を作成することを考える。
【0038】
(1)拡大率を測定する実験(実験B)
拡大率を測定する実験を、近距離と遠距離の場合とに分けて行う。
i)近距離(観察視点から対象物までの距離が1〜10m)の場合についての拡大率の測定の実験
近距離(1〜10m)についての実験は奥行き13.7m、横幅5.8m、高さ2.7mの明るい室内で行った。この実験では、基準刺激と比較刺激とを観察者が対比して観察する2刺激比較法により拡大率を測定する。
【0039】
基準刺激、比較刺激は、それぞれ別個のCRT(17インチ)ディスプレイ上の黒い背景に直径15.3cmまたは8.3cmの白い円を表示したものであり、基準刺激は観察者からの距離(Ds)が11通り(1.0〜10.0m)になるように各ディスプレイを配置する。15.3cmの基準刺激は視角の範囲が0.9〜8.8°、8.3cmの基準刺激は視角範囲が0.5〜4.8°である。比較刺激は観察者がマウス等の操作により増減できるようにする。比較刺激までの距離(Dc)を3つの制御パラメータ(1.0m,2.0m,4.0m)とする。基準刺激と比較刺激との間の角度は25°であり、ともにほぼ観察者の目の高さにする。基準刺激と比較刺激との配置位置を上方から見た状態は図 6のようになる。
【0040】
観察者は両眼で基準刺激と比較刺激とを交互に見て基準刺激と比較刺激との見かけ上の視角が同じになるまでマウス等の操作により比較刺激の大きさを調節するように教示を与えておき、また、観察者は予め視角の概念について理解しておく。この大きさを合わせることを基準刺激の距離を変えて計6回行う。基準刺激の距離は図6のDs1〜Ds11からランダムに選択する。観察者は指定された距離(Dsj)の基準刺激に対して視角により判断してマウス等の操作により大きさを合わせた比較刺激の大きさを実験結果として記録する。観察者は10人で正常の視力(矯正を含む)の者である。
【0041】
実験結果に基づいて、拡大率を基準刺激(物理的視角)に対する比較刺激(判断された大きさ)の視角の比として求める。Dc1=1.0(m)についての拡大率を求め、同様に比較刺激の距離を変えDc2=2.0、Dc3=4.0として場合の拡大率を求め両対数座標上にプロットすると、図7に示すように直線状になっている。拡大率が1.0は判断された視角が物理的視角と同じであり、拡大率が1.0より大きければ判断された大きさが物理的視角より大きく、拡大率が1.0より小さければ判断された大きさが物理的視角より小さいことを示す。拡大率は基準刺激の距離とともに増大している。3つのDckについて異なる直線が得られたが、直線の傾斜は互いにほぼ同じになっている。
【0042】
3つのDckで指数が共通するこの関数が拡大率であると考えられる。さらに、比較刺激の距離と基準刺激の距離とが一致する(Dc=Ds)時に拡大率がほぼ1になり、3つの関数を1つの形として
f(d)=(Ds/Dc)a=da ・・・・・・・・・・ (1)
のように表すことができる。Dsは基準刺激の距離、d(=Ds/Dc)は相対距離(正規化距離)である。図7は、全観察者の平均値の結果を示しており、aの値はほぼ0.6であるが、aの値は観察者ごとに異なっている。図8は観察者に応じてaの値がどのようになるかを示しており、aは0.40〜0.87の範囲にわたっている。このようにaの値はある程度個人差が見られるが、aの値は0.6を中心として、0.5〜0.7の範囲が妥当であると考えられる。このように、拡大率と観察距離との関係は比較刺激の距離で正規化した基準刺激の距離を用いて式(1)のように表される。
【0043】
ii)遠距離(観察視点から対象物の距離が4〜120m)の場合についての拡大率の測定の実験
遠距離の場合については、室内の場合と同様の基準刺激と比較刺激とを屋外に設置して実験する。基準刺激としては観察位置で確認できる円を画用紙に描いたものを棒で支持し、観察視点からの距離(Ds)が4m,8m,16m,30m,60m、120mの位置にそれぞれ配置する。各基準刺激における円の大きさは、観察地点で見た物理的視角が同じになるようにし、表1のようになっている。
【0044】
【表1】
比較刺激は17インチディスプレイにおいて黒い背景に白い円を表示し、マウス等の操作により大きさを変更できるようにしたものを用い、観察視点からの距離(Dc)は2m,4m,6mの3通りとする。
【0045】
他の点ではi)の近距離の場合と同様に実験を行い、この場合観察者は9人であり、結果は図9のようになった。図中にi)の近距離の場合の平均値を併記している。遠距離(4〜120m)については、近距離の場合のように直線近似はされないが、関数形のフィッティングとしては、
f(d)=exp((AdA)/(A+B(dA−1)−C) ・・・・ (2)
(dは基準刺激提示距離)の形になると言える。ここで、定数A,B,Cは、Aが0.7〜1.6(平均値0.866)、Bが0.2〜0.9(平均値0.2926)、Cが1.6〜2.2(平均値1.82)の範囲の値として選択される。
【0046】
i)近距離(1〜10m)の場合と、ii)遠距離(4〜120m)の場合とでは、拡大率を表す関数形として異なるが、式(2)で表される遠距離の場合のほうがより一般的なものであり、近距離の場合はより限られた範囲での直線近似により式(1)で表されるものと考えられる。透視投影図による映像(写真映像)を実空間での印象に近い画像に変換するのに用いる拡大率として、映像での対象物の奥行きが10m程度のものであれば式(1)を用い、奥行きがより深くなる映像については式(2)を用いることになる。
【0047】
拡大率に基づいて映像中の対象物の大きさを変化させる方法として、その場で対象物を拡大縮小することによるものと、対象物までの距離dを変えることによるものとがある。対象物までの距離を変える方法では、原映像における対象物までの距離をdとし拡大率がf(d)である時に、
d0=d/f(d) ・・・・・・・・・・・・・・ (3)
により変換した距離d0とし、対象物までの距離がd0に変換されることにより対象物の大きさが変化するように見せるものである。
(2)実空間で見た印象に近い映像の作成
透視投影図(撮影された映像)である図3のような映像の例について、(1)で求められた拡大率に応じた変換処理を行うことにより実空間で見た印象に近い映像を作成することについて説明する。描画手段として、グラフィックライブラリーの1つであるOpenGLというアプリケーションソフトウェアを用いる。
【0048】
図3の映像(透視投影図)を原映像とし、観察地点から道路終了地点(ガードレールの位置)までの距離が619.5m、道路の1車線の幅が3m、木の間隔が15m、山までの距離が2.3kmと設定し、拡大率を表す式(2)でA=0.866,B=0.2926,C=1.82として、映像の要素部分の大きさを変換する。変換後の映像における左手前のコーンの高さを基準とし、変換後の映像においてこの左手前のコーンの高さが一致するように画角を設定する。すなわち、基準としたコーンの高さは変換後の映像でも不変であり、その他の要素部分の大きさは拡大率にしたがって変換される。変換後の映像は図10のようになる。
【0049】
〔3〕作成された映像の評価
本発明により作成された映像が実際に見た時の印象に近いものとなっていることの評価について説明する。この評価は、実空間での観察、ビデオカメラ映像の観察、透視投影によるコンピュータ・グラフィック映像(以下、透視投影CGという)、大きさの変換を行ったCG映像(以下、大きさ変換CGという)について、暗室にて映像を提示し、10人の観察者により行った(実験C)。透視投影CGはビデオカメラで撮影した環境をそのままコンピュータ・グラフィックスによりシミュレーションした画像であり、このシミュレーション画像に対し拡大率に基づく変換処理を行って大きさの変換を行ったCG映像とするものである。
【0050】
映像の観察は画面サイズ比(16:9)、140.7cm×79.1cmのスクリーンに投影して行い、視距離は162.6cm、目の高さは1.2mとして、両眼視で自然に行い、片目や薄目、手や定規を用いるというような変則性を加えないようにして行う。
【0051】
観察者への質問内容は実験Aの時と同じで、対象の大きさ(長さ)、距離、角度、速度に関する9項目であり、実験結果は次のようである。
(1)大きさ(道路幅、木の高さ、山の高さ)についての結果は、図11(a)〜(c)に示すようになった。(a)道路幅について、奥の道路幅に対する手前の道路幅の倍率が、平均値でビデオカメラ映像の観察では2.05倍、透視投影CGの観察では2.01倍、実空間での観察では1.70倍、大きさ変換CGの観察では1.58倍であった。(b)木の高さについて、奥の木の高さに対する手前の木の高さの倍率が、平均値でビデオカメラ映像の観察では1.61倍、透視投影CGの観察では1.74倍、実空間での観察では1.40倍、大きさ変換CGの観察では1.50倍であった。(c)山の高さについて、コーンの高さに対する山の高さの倍率が、平均値でビデオカメラ映像の観察では1.88倍、透視投影CGの観察では2.07倍、実空間での観察では2.37倍、大きさ変換CGの観察では2.37倍であった。(a)〜(c)に示される結果では、大きさ(道路幅、木の高さ、山の高さ)に関して、大きさ変換CGは実空間での観察における印象に近づいていると言える。
【0052】
(2)距離(案内看板までの距離、ガードレールまでの距離、木と木の間隔、山までの距離)、(3)角度、(4)速度に関しては、(1)大きさ(道路幅、木の高さ、山の高さ)ほどの明確な差は確認されない。この点は、実験Aの場合に対応すると考えられる。
【0053】
実験Cの結果から、特に拡大率の式(2)に基づいて透視投影CGから変換した大きさ変換CGでは、特に映像における各要素部分の大きさの関係がより実空間での観察に近いものになっていると言えるものである。映像中の各要素部分の大きさの関係は、図3、図10に例示した映像に限られず、一般的な映像においても同様にとらえられることであって、拡大率の式(2)を用いて変換した大きさ変換CGを作成することにより、透視投影によるビデオカメラ映像、透視投影CGの場合より実空間で観察した印象に近い映像とすることができる。このような大きさ変換CGによる映像はドライビング・シミュレータの表示映像として用いるのに有効であるが、さらに一般的なシミュレータ等の表示画像としても用いることができる。図3のように奥行きの深い映像については、拡大率として式(2)を用いるべきであるが、奥行きが10m程度までに浅い映像の場合は、拡大率として式(1)を用いてもよい。
【0054】
本発明は、奥行きのある映像について透視投影図による映像から拡大率に基づいてより実空間での観察の印象に近い映像を作成する方法を与えるものであるが、さらにこのような実空間での印象に近い映像を作成することをコンピュータを用いて行うに際して用いるプログラムとしても特定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】透視投影図について説明する図である。
【図2】(a)奥行きのある風景を撮影した状態を示す図である。(b)(a)と同じ風景を実空間で見た時の印象としての状態を示す図である。
【図3】観察者が見る風景の例を示す図である。
【図4】図3の風景を観察者が見た結果のうち、大きさについての結果を示す図である。
【図5】図3の風景を観察者が見た結果のうち、距離について示す図である。
【図6】拡大率を求めるための基準刺激、比較刺激の配置を上からみた状態を示す図である。
【図7】1人の観察者による拡大率測定の結果を示す図である。
【図8】図7における指数aを複数の観察者により得られた結果を示す図である。
【図9】奥行きが深い風景の場合についての拡大率測定の結果を示す図である。
【図10】拡大率に基づいて図3に示す風景の透視投影CGを変換して得られた大きさ変換CGを概略的に示す図である。
【図11】大きさ変換CGの観察と、変換していない映像の観察、実空間での観察とを観察者が対比することにより得られた結果のうち、大きさについて示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像生成方法、画像生成プログラム及びシミュレータに関し、特に、シミュレータ用表示画像の作成に用いるのに有効な画像生成方法及び画像生成プログラム、さらに生成された画像を表示映像とするシミュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
シミュレータは自動車運転教習用、ゲーム装置用等に用いられており、風景等の画像を表示して、実際に眼前に風景等が展開しているように感じさせるものである。自動車運転教習用のドライビング・シミュレータについて見ると、安全運転能力を高めるために、危険予測の訓練が必要であり、実車での訓練と合わせてその補強ないし準備の意味でドライビング・シミュレータが用いられる。
【0003】
ドライビング・シミュレータは、実際に運転する感覚に近いことが重要である。そのための音響装置(エンジン音やマフラー音)、加減速や振動(同様装置)、ステアリング反力(コックピット)等については実際に運転するときの走行感が得られるものになっている。一方、映像装置に関しては、モニターを大きくして視界を広げたり、風景、街並み配置に工夫をしたり、描画を精巧にするというようなことでは進展がなされているが、提示距離と知覚距離とは異なることがあり、シミュレータにおいて奥行き感や大きさ感を実際の運転感覚に即したものとすることは十分になされていない。
【0004】
ドライビング・シミュレータに使用される映像には、ビデオカメラで撮影した映像をそのまま利用するものと、コンピュータ・グラフィックスを用いて描画したものとがあるが、いずれの映像作成手法においても、透視投影法を用いて3次元空間の情景を2次元平面内の映像としている。透視投影図は、図1に示すように、物体の像を視点に向かう投影線により投影面に投影してできる図であり、物体の各点と視点とを結ぶ投影線と投影面との交点の集まりとして透視図が描画される。
【0005】
透視投影図では、投影面に描かれる物体の大きさは視点からの距離に反比例する、ということが透視投影図の描画における幾何学的性質として言える。ところが、人が実空間で物体、風景等を見て感じ取る印象は透視投影図での描画によるものとは違っていることが、種々の知見により明らかにされている。例えば、視覚心理学において、並木道の中央からまっ直ぐ前方を見るときに、平行並木がどのように見えるかについて研究されている。結論的には、観察者が平行だと見る位置に対象物を前方に向かって並べると、平行二直線にならず、先広がりの曲線になる。すなわち3次元空間において平行に並んでいる並木を見た時の実際の感覚としては平行には見えないということである。
【0006】
また、奥行きの感じ方として、廊下の突き当たりの位置がどのように見えるかについて、写真で撮影したものが図2(a)のようになっていたとして、実空間で人が同じ情景を見た時の印象は図2(b)のようになり、奥側の部分が写真ないし透視投影図の場合より手前側に見えている。奥側の物が手前側に見えるというのは、写真で言えばレンズの焦点距離を広角側から望遠側にした場合にもあるが、レンズを変えた場合には画角が変化するのであり、図2(a)、(b)の際は、それとは別のこととして、透視投影図としては図2(a)のようである情景を人が見た印象として図2(b)のように感じるというものである。
【0007】
このように、3次元空間における物体、情景を人が見た時に、写真や透視投影図としての性質として、大きさが視点からの距離に反比例する形にはなっていない、というのが一般的と言える。その上で、ドライビング・シミュレータでの画像表示について考えると、撮影された写真ないし透視投影図をもとに作成したシミュレータの表示画像では、実際に人が運転しながら見る情景とは見え方が異なることになり、違和感がある。シミュレータとしては実際の状況感覚を利用者に与えるのが望ましいということからすれば、シミュレータの表示画像として撮影された写真ないし透視投影図として作成された画像はその要請には沿わないと考えられる。
【0008】
シミュレータの画像生成に関して、次のような特許文献に記載されている。
【0009】
特許文献1には、視差のある複数の画像から対象空間に関する視差情報を抽出して距離情報を算出し、対象空間を複数のレイヤに分割しレイヤ表現データに基づいて対象空間の空間表現データを作成することにより、シミュレートに伴う処理データ量を増加させずに現実感のあるシミュレータ画像を生成することについて記載されている。
【0010】
特許文献2には、人間が移動していく時の視線に準じた違和感のない視界画像を生成するため、移動体の速度に応じて視線ベクトルを制御することについて記載されている。
【0011】
しかしながら、特許文献1,2等に示されるようなシミュレータ画像の生成において、透視投影図(撮影された映像)と実空間において見たものにおける対象物の大きさ、距離感の違いに着目したものではなく、このことから奥行きのある情景について実空間で見た印象に近い画像を生成するものではなかった。
【特許文献1】特開2006−53694号公報
【特許文献2】特開2000−200360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来のシミュレータの表示画像においては、撮影された写真ないし透視投影図として作成された画像が用いられており、利用者が表示画像を見た際に実際の情景を見たのとは異なる印象が与えられるという不具合があったため、より実際の情景をそのまま見たような印象を与える表示画像を生成することが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前述した課題を解決すべくなしたものであり、本発明による画像生成方法は、 奥行きのある情景の透視投影コンピュータ・グラフィックス映像に対して実空間で見た印象に近い映像を生成する画像生成方法であって、該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離に応じた拡大率に基づいて前記各要素部分の大きさを変換することと、前記大きさが変換された各要素部分により実空間で見た印象に近い映像を構成することと、からなるものである。
【0014】
前記拡大率がA,B,C(0.7<A<1.6、0.2<B<0.9、1.6<C<2.2)を定数として、前記撮影位置からの距離(d)の関数
f(d)=exp((AdA)/(A+B(dA−1)−C)
で表されるものとしてもよい。
【0015】
また、奥行きが実質的に10m以内である情景の透視投影コンピュータ・グラフィックス映像に対して実空間で見た印象に近い映像を作成する画像処理方法であって、該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離(d)に応じた拡大率に基づいて前記各要素部分の大きさを変換することと、 前記大きさが変換された各要素部分により実空間で見た印象に近い映像を構成することと、からなり、前記撮影位置からの距離(d)に応じた拡大率f(d)が、aを定数として
f(d)=da
で表され、上式で0.5<a<0.7であるようにしてもよい。
【0016】
本発明による画像生成プログラムは、奥行きのある情景を透視投影コンピュータ・グラフィックス映像とし、該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離に応じた拡大率に基づいて前記各要素部分の大きさを変換し、前記大きさが変換された各要素部分により実空間で見た印象に近い映像を構成することをコンピュータで実行するためのものである。
【0017】
前記拡大率がA,B,C(0.7<A<1.6、0.2<B<0.9、1.6<C<2.2)を定数として、前記撮影位置からの距離(d)の関数
f(d)=exp((AdA)/(A+B(dA−1)−C)
で表されるものとしてもよい。
【0018】
また、奥行きが実質的に10m以内の情景を透視投影コンピュータ・グラフィックス映像とし、該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離(d)に応じa(0.5<a<0.7)を定数として
f(d)=da
で表される拡大率f(d)に基づいて前記各要素部分の大きさを変換し、前記大きさが変換された各要素部分により実空間で見た印象に近い映像を構成することをコンピュータで実行するものとしてもよい。
【0019】
本発明によるシミュレータは、奥行きのある情景の映像を撮影した環境をコンピュータ・グラフィックス処理して得られた透視投影コンピュータ・グラフィックス映像とし、該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離に応じた拡大率に基づいて前記各要素部分の大きさを変換し、前記大きさが変換された各要素部分により構成された実空間で見た印象に近い表示映像の映像データ及び該表示映像の表示手段を備えるものである。
【0020】
前記拡大率がA,B,C(0.7<A<1.6、0.2<B<0.9、1.6<C<2.2)を定数として、前記撮影位置からの距離(d)の関数
f(d)=exp((AdA)/(A+B(dA−1)−C)
で表されるものとしてもよい。
【0021】
また、奥行きが実質的に10m以内の情景を透視投影コンピュータ・グラフィックス映像とし、該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離(d)に応じa(0.5<a<0.7)を定数として
f(d)=da
で表される拡大率f(d)に基づいて前記各要素部分の大きさを変換し、前記大きさが変換された各要素部分により構成された実空間で見た印象に近い表示映像の映像データ及び該表示し映像の表示手段を備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離に応じた拡大率に基づいて各要素部分の大きさを変換した上で画像を再構成することにより、実空間で見た印象に近い映像とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明では、シミュレータの表示映像として、実際に3次元空間で見たのと同等の印象を与える画像を作成するため、同じ情景について、撮影した映像と、実際に見て感じたものとを対比し、その関係を量的に把握する実験を行い、それに基づいて実際に見た印象に近い映像を作成するようにする。
【0024】
〔1〕実空間と映像とにおける印象の比較の実験(実験A)
実際に車を運転する時に見ている風景の印象に近いシミュレータの映像を作成するために、従来の車上からビデオカメラで撮影した風景の映像(透視投影図と同等)と、実際に運転しながら見える風景の印象との相違を見出すため、実空間で風景を観察する条件と、同じ風景を撮影した映像における風景を観察する条件を設け、各条件において知覚される距離、角度、速度についての印象を比較する。
【0025】
a.観察対象
実験は車の通行がほとんどない直線道路を選んで行った。観察者から見た風景は、図3に示すようなものであり、道路は直線状に片側2車線(両側4車線)で1車線の幅が3m、道路の両脇には約15m間隔で常緑樹(高さ約5m)が植えられており、道路前方(奥側)が突き当たりになっていて、ガードレールが設置されており、それより奥側の遠景として山が見えている。道路終了地点の少し手前の道路上方に案内看板が設置されており、また、観察地点から道路終了地点までの距離は619.5mである。さらに、観察地点から前方38mの位置の道路両脇にそれぞれ1ずつ、そこからさらに前方50mの位置の道路両脇にそれぞれ1つずつ高さ0.7mの赤いコーンを配置している。
【0026】
b.観察条件
このような風景について、1つの条件において実空間での観察を行い、2つの条件において撮影した映像の観察を行う。10人がそれぞれこのような観察を同様に行い、観察した結果について質問、応答の形で風景の見え方について調査するという形の実験を行った。 実空間での観察は、観察者が車の助手席に座り、目の高さが地上から1.2mとなるようにして行った。撮影した映像の観察については、実空間の場合と同じ位置に設置した、画面縦横比が16:9のものと4:3のものとのビデオカメラでそれぞれ撮影した映像をプロジェクターでスクリーンに投影し観察する形で行った。
【0027】
c.質問事項
観察者への質問内容は、対象の大きさ(長さ)、距離、角度、速度に関する次の9項目である。
(1)大きさ
1.1.道路幅
手前側の2つのコーンが置かれた位置の道路幅は、奥側の2つのコーンが置かれた位置の道路幅の何倍に見えるか。
1.2.木の高さ
右側手前のコーンの横にある木から奥に向かって2番目の木の高さは右側手前のコーンの横にある木から奥に向かって5番目の木の高さの何倍に見えるか。
1.3.山の高さ
正面の山の頂上までの高さは左側手前のコーンの高さの何倍に見えるか。
【0028】
(大きさについての質問において、何倍に見えるかというのは、物体の物理的な大きさでなく、視界の中で目に映っている、見え方としての大きさの比率であることを了解させておく。)
【0029】
(2)距離
2.1.案内看板までの距離
左側手前のコーンから案内看板があるところまでの距離は、左側に並ぶ前後2つのコーン間の距離の何倍と思うか。
2.2.ガードレールまでの距離
左側手前のコーンから道路の一番奥にあるガードレールまでの距離は、左側に並ぶ前後2つのコーン間の距離の何倍と思うか。
【0030】
2.3.木と木との間隔
道路が片側1車線3mということを参考に、道路沿いに並ぶ木と木との間隔は何mと思うか。
2.4.山までの距離
観察地点から正面に見える山の頂上まで何kmだと思うか。
(3)角度
道路の左側白線とその隣の白線(点線)が遠方で交わるように見えるが、その2本の線が作る(道路の白線が作る)角度は何度に見えるか。
(4)速度
車は時速何kmで走行したと思うか。
【0031】
(1)〜(4)の9項目の質問事項のうち、速度を除く8項目は道路に停止した状態(静止画状態)で回答し、3項目(木と木との間隔、角度、速度)は走行時(動画中)に回答した。角度については先のコーンの位置(38m先)を走行時に、木と木との間隔と角度については走行終了後に回答し、木と木との間隔と角度については停止時と走行時の両方で回答した。
d.手順
観察者のうち半分は実空間での観察を行った後に映像の観察を行い、他の半分は映像の観察を行った後に実空間での観察を行った。映像観察の条件では、画面縦横比16:9の場合を先に行い、4:3の場合をその後に行った。観察者は、停止時と走行時にそれぞれの質問に回答し、車は時速60kmで走行した。走行する車の音(エンジン音等)はそのまま聞き、観察は通常運転する時と同様の自然状態、両眼視で行い、片目や薄目、手や定規を用いるというような変則性を加えないようにして行う。
【0032】
e.実験結果について
それぞれの質問について、観察者10人からの回答について集計し、平均値と標準偏差を求めた。
(1)大きさ(道路幅、木の高さ、山の高さ)
大きさについての実験結果を図4に示す。道路幅について、奥側の2つのコーンが置かれた位置の道路幅に対し、手前側の2つのコーンが置かれた位置の道路幅が、実空間の観察では1.70倍、映像(16:9)の観察では2.05倍、映像(4:3)の観察では2.10倍に見えたという結果であり、写真(透視投影図)においては2.28倍であった。これにより、実空間での観察の方が映像で観察するより、手前側の道路幅が狭く知覚されるものと言える。
【0033】
木の高さについて、右側手前のコーンの横にある木から2番目の木の高さは、右側手前のコーンの横にある木の高さに対して、実空間の観察では1.40倍、映像(16:9)の観察では1.61倍、映像(4:3)の観察では1.58倍に見え、写真上においては1.93倍であり、実空間での観察の方が映像の観察より手前の木が低く知覚される蛍光にある。また、山の高さについて、左側手前のコーンの高さに対し、正面の山の高さは、実空間の観察で2.37倍、映像(16:9)の観察で1.88倍、映像(4:3)の観察で1.81倍に見え、写真上において1.93倍であり、実空間での観察の方が映像の観察より遠くの山がより高く知覚されていると言える。
【0034】
(2)距離
図5は距離についての実験結果のうち、案内看板までの距離(左側部分)、ガードレールまでの距離(右側部分)について示している。案内看板までの距離について、左側手前のコーンから案内看板までの距離が左側手前に並ぶ前後2つのコーン間の距離に対して、実空間の観察で4.55倍、映像(16:9)の観察で3.68倍、映像(4:3)の観察で3.11倍と見られているが、実測では5.62倍である。ここでは、実空間の方が映像より距離が長く近くされている。ガードレールまでの距離について、左側手前のコーンからガードレールまでの距離が左側に並ぶ前後2つのコーン間の距離に対して、実空間の観察で9.43倍、映像(16:9)の観察で6.02倍、映像(4:3)の観察で5.62倍と見られているが、実測では11.63倍である。ここでは、ガードレールまでの距離について、実空間での観察の方が映像の観察より長いと知覚されている。
【0035】
木と木との間隔、山までの距離についても実験結果を得たが、これらの距離関係については、実空間での観察と映像の観察とでの差違は明確でなく、実測値ともかなり異なって観察されるという結果になっている。
(3)角度
道路の左側白線とその隣の白線(点線)とが作る角度についての実験結果では、停止時、走行時とも透視投影図(写真)上で計測した値との差が大きくなり、停止中の実空間での観察で映像の観察より小さくなっているが、走行中の実空間の観察と映像の観察ではあまり差がない。
(4)速度
速度についての実験結果では、車の実速度は60km/hであり、実空間、映像の観察ではともに50km/h程度に感じられ、実空間での観察の方が映像で観察するよりやや早い値になっている。
【0036】
実空間での観察と映像の観察との印象の違いを調べるための実験から、次のように言える。
・実空間での観察の方が映像の観察よりも遠く(観察地点から88m)の道路幅が広く、あるいは近く(観察地点から38m)の道路幅が狭く知覚される。
・実空間での観察の方が映像の観察よりも遠くの山が高く知覚される。
・実空間での観察の方が映像の観察よりもガードレールまでの距離が長く知覚される。
ことが特に確認される。道路の隣接する白線の角度については、写真(透視投影図)での角度と実空間ないし映像の観察による角度とで大きな差があるが、実空間での観察のほうが映像の観察より角度が小さく知覚された可能性がある。
【0037】
〔2〕実空間で見た印象に近い映像の作成
実空間での観察と映像の観察との相違についての実験Aにおいて、実空間における観察と映像の観察とにおいて、特に対象物の大きさ(山の高さ、道路幅)に違いがあることに注目し、実空間で知覚される対象物の大きさが透視投影像(映像)に比較して何倍になるかという量を拡大率として、拡大率を対象物の観察視点からの距離に応じた関数として実験により求め、この拡大率により透視投影像による映像を変換して実空間での印象に近い映像を作成することを考える。
【0038】
(1)拡大率を測定する実験(実験B)
拡大率を測定する実験を、近距離と遠距離の場合とに分けて行う。
i)近距離(観察視点から対象物までの距離が1〜10m)の場合についての拡大率の測定の実験
近距離(1〜10m)についての実験は奥行き13.7m、横幅5.8m、高さ2.7mの明るい室内で行った。この実験では、基準刺激と比較刺激とを観察者が対比して観察する2刺激比較法により拡大率を測定する。
【0039】
基準刺激、比較刺激は、それぞれ別個のCRT(17インチ)ディスプレイ上の黒い背景に直径15.3cmまたは8.3cmの白い円を表示したものであり、基準刺激は観察者からの距離(Ds)が11通り(1.0〜10.0m)になるように各ディスプレイを配置する。15.3cmの基準刺激は視角の範囲が0.9〜8.8°、8.3cmの基準刺激は視角範囲が0.5〜4.8°である。比較刺激は観察者がマウス等の操作により増減できるようにする。比較刺激までの距離(Dc)を3つの制御パラメータ(1.0m,2.0m,4.0m)とする。基準刺激と比較刺激との間の角度は25°であり、ともにほぼ観察者の目の高さにする。基準刺激と比較刺激との配置位置を上方から見た状態は図 6のようになる。
【0040】
観察者は両眼で基準刺激と比較刺激とを交互に見て基準刺激と比較刺激との見かけ上の視角が同じになるまでマウス等の操作により比較刺激の大きさを調節するように教示を与えておき、また、観察者は予め視角の概念について理解しておく。この大きさを合わせることを基準刺激の距離を変えて計6回行う。基準刺激の距離は図6のDs1〜Ds11からランダムに選択する。観察者は指定された距離(Dsj)の基準刺激に対して視角により判断してマウス等の操作により大きさを合わせた比較刺激の大きさを実験結果として記録する。観察者は10人で正常の視力(矯正を含む)の者である。
【0041】
実験結果に基づいて、拡大率を基準刺激(物理的視角)に対する比較刺激(判断された大きさ)の視角の比として求める。Dc1=1.0(m)についての拡大率を求め、同様に比較刺激の距離を変えDc2=2.0、Dc3=4.0として場合の拡大率を求め両対数座標上にプロットすると、図7に示すように直線状になっている。拡大率が1.0は判断された視角が物理的視角と同じであり、拡大率が1.0より大きければ判断された大きさが物理的視角より大きく、拡大率が1.0より小さければ判断された大きさが物理的視角より小さいことを示す。拡大率は基準刺激の距離とともに増大している。3つのDckについて異なる直線が得られたが、直線の傾斜は互いにほぼ同じになっている。
【0042】
3つのDckで指数が共通するこの関数が拡大率であると考えられる。さらに、比較刺激の距離と基準刺激の距離とが一致する(Dc=Ds)時に拡大率がほぼ1になり、3つの関数を1つの形として
f(d)=(Ds/Dc)a=da ・・・・・・・・・・ (1)
のように表すことができる。Dsは基準刺激の距離、d(=Ds/Dc)は相対距離(正規化距離)である。図7は、全観察者の平均値の結果を示しており、aの値はほぼ0.6であるが、aの値は観察者ごとに異なっている。図8は観察者に応じてaの値がどのようになるかを示しており、aは0.40〜0.87の範囲にわたっている。このようにaの値はある程度個人差が見られるが、aの値は0.6を中心として、0.5〜0.7の範囲が妥当であると考えられる。このように、拡大率と観察距離との関係は比較刺激の距離で正規化した基準刺激の距離を用いて式(1)のように表される。
【0043】
ii)遠距離(観察視点から対象物の距離が4〜120m)の場合についての拡大率の測定の実験
遠距離の場合については、室内の場合と同様の基準刺激と比較刺激とを屋外に設置して実験する。基準刺激としては観察位置で確認できる円を画用紙に描いたものを棒で支持し、観察視点からの距離(Ds)が4m,8m,16m,30m,60m、120mの位置にそれぞれ配置する。各基準刺激における円の大きさは、観察地点で見た物理的視角が同じになるようにし、表1のようになっている。
【0044】
【表1】
比較刺激は17インチディスプレイにおいて黒い背景に白い円を表示し、マウス等の操作により大きさを変更できるようにしたものを用い、観察視点からの距離(Dc)は2m,4m,6mの3通りとする。
【0045】
他の点ではi)の近距離の場合と同様に実験を行い、この場合観察者は9人であり、結果は図9のようになった。図中にi)の近距離の場合の平均値を併記している。遠距離(4〜120m)については、近距離の場合のように直線近似はされないが、関数形のフィッティングとしては、
f(d)=exp((AdA)/(A+B(dA−1)−C) ・・・・ (2)
(dは基準刺激提示距離)の形になると言える。ここで、定数A,B,Cは、Aが0.7〜1.6(平均値0.866)、Bが0.2〜0.9(平均値0.2926)、Cが1.6〜2.2(平均値1.82)の範囲の値として選択される。
【0046】
i)近距離(1〜10m)の場合と、ii)遠距離(4〜120m)の場合とでは、拡大率を表す関数形として異なるが、式(2)で表される遠距離の場合のほうがより一般的なものであり、近距離の場合はより限られた範囲での直線近似により式(1)で表されるものと考えられる。透視投影図による映像(写真映像)を実空間での印象に近い画像に変換するのに用いる拡大率として、映像での対象物の奥行きが10m程度のものであれば式(1)を用い、奥行きがより深くなる映像については式(2)を用いることになる。
【0047】
拡大率に基づいて映像中の対象物の大きさを変化させる方法として、その場で対象物を拡大縮小することによるものと、対象物までの距離dを変えることによるものとがある。対象物までの距離を変える方法では、原映像における対象物までの距離をdとし拡大率がf(d)である時に、
d0=d/f(d) ・・・・・・・・・・・・・・ (3)
により変換した距離d0とし、対象物までの距離がd0に変換されることにより対象物の大きさが変化するように見せるものである。
(2)実空間で見た印象に近い映像の作成
透視投影図(撮影された映像)である図3のような映像の例について、(1)で求められた拡大率に応じた変換処理を行うことにより実空間で見た印象に近い映像を作成することについて説明する。描画手段として、グラフィックライブラリーの1つであるOpenGLというアプリケーションソフトウェアを用いる。
【0048】
図3の映像(透視投影図)を原映像とし、観察地点から道路終了地点(ガードレールの位置)までの距離が619.5m、道路の1車線の幅が3m、木の間隔が15m、山までの距離が2.3kmと設定し、拡大率を表す式(2)でA=0.866,B=0.2926,C=1.82として、映像の要素部分の大きさを変換する。変換後の映像における左手前のコーンの高さを基準とし、変換後の映像においてこの左手前のコーンの高さが一致するように画角を設定する。すなわち、基準としたコーンの高さは変換後の映像でも不変であり、その他の要素部分の大きさは拡大率にしたがって変換される。変換後の映像は図10のようになる。
【0049】
〔3〕作成された映像の評価
本発明により作成された映像が実際に見た時の印象に近いものとなっていることの評価について説明する。この評価は、実空間での観察、ビデオカメラ映像の観察、透視投影によるコンピュータ・グラフィック映像(以下、透視投影CGという)、大きさの変換を行ったCG映像(以下、大きさ変換CGという)について、暗室にて映像を提示し、10人の観察者により行った(実験C)。透視投影CGはビデオカメラで撮影した環境をそのままコンピュータ・グラフィックスによりシミュレーションした画像であり、このシミュレーション画像に対し拡大率に基づく変換処理を行って大きさの変換を行ったCG映像とするものである。
【0050】
映像の観察は画面サイズ比(16:9)、140.7cm×79.1cmのスクリーンに投影して行い、視距離は162.6cm、目の高さは1.2mとして、両眼視で自然に行い、片目や薄目、手や定規を用いるというような変則性を加えないようにして行う。
【0051】
観察者への質問内容は実験Aの時と同じで、対象の大きさ(長さ)、距離、角度、速度に関する9項目であり、実験結果は次のようである。
(1)大きさ(道路幅、木の高さ、山の高さ)についての結果は、図11(a)〜(c)に示すようになった。(a)道路幅について、奥の道路幅に対する手前の道路幅の倍率が、平均値でビデオカメラ映像の観察では2.05倍、透視投影CGの観察では2.01倍、実空間での観察では1.70倍、大きさ変換CGの観察では1.58倍であった。(b)木の高さについて、奥の木の高さに対する手前の木の高さの倍率が、平均値でビデオカメラ映像の観察では1.61倍、透視投影CGの観察では1.74倍、実空間での観察では1.40倍、大きさ変換CGの観察では1.50倍であった。(c)山の高さについて、コーンの高さに対する山の高さの倍率が、平均値でビデオカメラ映像の観察では1.88倍、透視投影CGの観察では2.07倍、実空間での観察では2.37倍、大きさ変換CGの観察では2.37倍であった。(a)〜(c)に示される結果では、大きさ(道路幅、木の高さ、山の高さ)に関して、大きさ変換CGは実空間での観察における印象に近づいていると言える。
【0052】
(2)距離(案内看板までの距離、ガードレールまでの距離、木と木の間隔、山までの距離)、(3)角度、(4)速度に関しては、(1)大きさ(道路幅、木の高さ、山の高さ)ほどの明確な差は確認されない。この点は、実験Aの場合に対応すると考えられる。
【0053】
実験Cの結果から、特に拡大率の式(2)に基づいて透視投影CGから変換した大きさ変換CGでは、特に映像における各要素部分の大きさの関係がより実空間での観察に近いものになっていると言えるものである。映像中の各要素部分の大きさの関係は、図3、図10に例示した映像に限られず、一般的な映像においても同様にとらえられることであって、拡大率の式(2)を用いて変換した大きさ変換CGを作成することにより、透視投影によるビデオカメラ映像、透視投影CGの場合より実空間で観察した印象に近い映像とすることができる。このような大きさ変換CGによる映像はドライビング・シミュレータの表示映像として用いるのに有効であるが、さらに一般的なシミュレータ等の表示画像としても用いることができる。図3のように奥行きの深い映像については、拡大率として式(2)を用いるべきであるが、奥行きが10m程度までに浅い映像の場合は、拡大率として式(1)を用いてもよい。
【0054】
本発明は、奥行きのある映像について透視投影図による映像から拡大率に基づいてより実空間での観察の印象に近い映像を作成する方法を与えるものであるが、さらにこのような実空間での印象に近い映像を作成することをコンピュータを用いて行うに際して用いるプログラムとしても特定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】透視投影図について説明する図である。
【図2】(a)奥行きのある風景を撮影した状態を示す図である。(b)(a)と同じ風景を実空間で見た時の印象としての状態を示す図である。
【図3】観察者が見る風景の例を示す図である。
【図4】図3の風景を観察者が見た結果のうち、大きさについての結果を示す図である。
【図5】図3の風景を観察者が見た結果のうち、距離について示す図である。
【図6】拡大率を求めるための基準刺激、比較刺激の配置を上からみた状態を示す図である。
【図7】1人の観察者による拡大率測定の結果を示す図である。
【図8】図7における指数aを複数の観察者により得られた結果を示す図である。
【図9】奥行きが深い風景の場合についての拡大率測定の結果を示す図である。
【図10】拡大率に基づいて図3に示す風景の透視投影CGを変換して得られた大きさ変換CGを概略的に示す図である。
【図11】大きさ変換CGの観察と、変換していない映像の観察、実空間での観察とを観察者が対比することにより得られた結果のうち、大きさについて示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
奥行きのある情景の透視投影コンピュータ・グラフィックス映像に対して実空間で見た印象に近い映像を生成する画像生成方法であって、
該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離に応じた拡大率に基づいて前記各要素部分の大きさを変換することと、
前記大きさが変換された各要素部分により実空間で見た印象に近い映像を構成することと、
からなることを特徴とする画像生成方法。
【請求項2】
前記拡大率がA,B,C(0.7<A<1.6、0.2<B<0.9、1.6<C<2.2)を定数として、前記撮影位置からの距離(d)の関数
f(d)=exp((AdA)/(A+B(dA−1)−C)
で表されることを特徴とする請求項1に記載の画像生成方法。
【請求項3】
奥行きが実質的に10m以内である情景の透視投影コンピュータ・グラフィックス映像に対して実空間で見た印象に近い映像を作成する画像生成方法であって、
該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離(d)に応じた拡大率に基づいて前記各要素部分の大きさを変換することと、
前記大きさが変換された各要素部分により実空間で見た印象に近い映像を構成することと、
からなり、前記撮影位置からの距離(d)に応じた拡大率f(d)が、aを定数として
f(d)=da
で表され、上式で0.5<a<0.7であることを特徴とする画像生成方法。
【請求項4】
奥行きのある情景を透視投影コンピュータ・グラフィックス映像とし、該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離に応じた拡大率に基づいて前記各要素部分の大きさを変換し、前記大きさが変換された各要素部分により実空間で見た印象に近い映像を構成することをコンピュータで実行するための画像生成プログラム。
【請求項5】
前記拡大率がA,B,C(0.7<A<1.6、0.2<B<0.9、1.6<C<2.2)を定数として、前記撮影位置からの距離(d)の関数
f(d)=exp((AdA)/(A+B(dA−1)−C)
で表されることを特徴とする請求項4に記載の画像生成プログラム。
【請求項6】
奥行きが実質的に10m以内の情景を透視投影コンピュータ・グラフィックス映像とし、該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離(d)に応じa(0.5<a<0.7)を定数として
f(d)=da
で表される拡大率f(d)に基づいて前記各要素部分の大きさを変換し、前記大きさが変換された各要素部分により実空間で見た印象に近い映像を構成することをコンピュータで実行するための画像生成プログラム。
【請求項7】
奥行きのある情景の映像を撮影した環境をコンピュータ・グラフィックス処理して得られた透視投影コンピュータ・グラフィックス映像とし、該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離に応じた拡大率に基づいて前記各要素部分の大きさを変換し、前記大きさが変換された各要素部分により構成された実空間で見た印象に近い表示映像の映像データ及び該表示映像の表示手段を備えることを特徴とするシミュレータ。
【請求項8】
前記拡大率がA,B,C(0.7<A<1.6、0.2<B<0.9、1.6<C<2.2)を定数として、前記撮影位置からの距離(d)の関数
f(d)=exp((AdA)/(A+B(dA−1)−C)
で表されることを特徴とする請求項7に記載のシミュレータ。
【請求項9】
奥行きが実質的に10m以内の情景を透視投影コンピュータ・グラフィックス映像とし、該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離(d)に応じa(0.5<a<0.7)を定数として
f(d)=da
で表される拡大率f(d)に基づいて前記各要素部分の大きさを変換し、前記大きさが変換された各要素部分により構成された実空間で見た印象に近い表示映像の映像データ及び該表示し映像の表示手段を備えることを特徴とするシミュレータ。
【請求項1】
奥行きのある情景の透視投影コンピュータ・グラフィックス映像に対して実空間で見た印象に近い映像を生成する画像生成方法であって、
該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離に応じた拡大率に基づいて前記各要素部分の大きさを変換することと、
前記大きさが変換された各要素部分により実空間で見た印象に近い映像を構成することと、
からなることを特徴とする画像生成方法。
【請求項2】
前記拡大率がA,B,C(0.7<A<1.6、0.2<B<0.9、1.6<C<2.2)を定数として、前記撮影位置からの距離(d)の関数
f(d)=exp((AdA)/(A+B(dA−1)−C)
で表されることを特徴とする請求項1に記載の画像生成方法。
【請求項3】
奥行きが実質的に10m以内である情景の透視投影コンピュータ・グラフィックス映像に対して実空間で見た印象に近い映像を作成する画像生成方法であって、
該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離(d)に応じた拡大率に基づいて前記各要素部分の大きさを変換することと、
前記大きさが変換された各要素部分により実空間で見た印象に近い映像を構成することと、
からなり、前記撮影位置からの距離(d)に応じた拡大率f(d)が、aを定数として
f(d)=da
で表され、上式で0.5<a<0.7であることを特徴とする画像生成方法。
【請求項4】
奥行きのある情景を透視投影コンピュータ・グラフィックス映像とし、該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離に応じた拡大率に基づいて前記各要素部分の大きさを変換し、前記大きさが変換された各要素部分により実空間で見た印象に近い映像を構成することをコンピュータで実行するための画像生成プログラム。
【請求項5】
前記拡大率がA,B,C(0.7<A<1.6、0.2<B<0.9、1.6<C<2.2)を定数として、前記撮影位置からの距離(d)の関数
f(d)=exp((AdA)/(A+B(dA−1)−C)
で表されることを特徴とする請求項4に記載の画像生成プログラム。
【請求項6】
奥行きが実質的に10m以内の情景を透視投影コンピュータ・グラフィックス映像とし、該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離(d)に応じa(0.5<a<0.7)を定数として
f(d)=da
で表される拡大率f(d)に基づいて前記各要素部分の大きさを変換し、前記大きさが変換された各要素部分により実空間で見た印象に近い映像を構成することをコンピュータで実行するための画像生成プログラム。
【請求項7】
奥行きのある情景の映像を撮影した環境をコンピュータ・グラフィックス処理して得られた透視投影コンピュータ・グラフィックス映像とし、該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離に応じた拡大率に基づいて前記各要素部分の大きさを変換し、前記大きさが変換された各要素部分により構成された実空間で見た印象に近い表示映像の映像データ及び該表示映像の表示手段を備えることを特徴とするシミュレータ。
【請求項8】
前記拡大率がA,B,C(0.7<A<1.6、0.2<B<0.9、1.6<C<2.2)を定数として、前記撮影位置からの距離(d)の関数
f(d)=exp((AdA)/(A+B(dA−1)−C)
で表されることを特徴とする請求項7に記載のシミュレータ。
【請求項9】
奥行きが実質的に10m以内の情景を透視投影コンピュータ・グラフィックス映像とし、該透視投影コンピュータ・グラフィックス映像を構成する各要素部分の撮影位置からの距離(d)に応じa(0.5<a<0.7)を定数として
f(d)=da
で表される拡大率f(d)に基づいて前記各要素部分の大きさを変換し、前記大きさが変換された各要素部分により構成された実空間で見た印象に近い表示映像の映像データ及び該表示し映像の表示手段を備えることを特徴とするシミュレータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−171040(P2008−171040A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−810(P2007−810)
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】
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