説明

画像記録装置

【課題】原稿カバー及びプリンタ筐体それぞれとスキャナ筐体とのロック機構を少ない部品点数で構成することにより、コンパクト且つ安全なロック機構を実現すること。
【解決手段】複合機10は、プリンタ筐体14、スキャナ筐体15、原稿カバー17を有する。スキャナ筐体15にロック機構50が設けられている。ロック機構50の回転体52は、プリンタ筐体14側へ延びる第1アーム67と、原稿カバー17側へ延びる第2アーム71とを有している。回転体52は、原稿カバー17が開動作されたときに基準姿勢から第1姿勢に変化してスキャナ筐体15とプリンタ筐体14とをロックする。このとき、原稿カバー17はスキャナ筐体15にロックされない。また、スキャナ筐体15が開動作されたときに回転体52が基準姿勢から第2姿勢に変化して原稿カバー17とスキャナ筐体15とをロックする。このとき、スキャナ筐体15はプリンタ筐体14にロックされない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原稿カバー、スキャナ筐体、及びプリンタ筐体を備えた画像記録装置に関し、特に、原稿カバーとスキャナ筐体とをロックするロック機構、及びスキャナ筐体とプリンタ筐体とをロックするロック機構を備えた画像記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原稿の画像を読み取る機能(スキャン機能)を有するスキャナ装置と記録用紙に画像を記録する機能(プリント機能)を有するプリンタ装置とを備えた画像記録装置が広く知られている。上記プリント機能を実現するための構成部材はプリンタ筐体(プリンタハウジング)に収容されており、上記スキャン機能を実現するための構成部材はスキャナ筐体(スキャナハウジング)に収容されている。特許文献1には、スキャナ筐体がプリンタ筐体に対して所定の回動軸を中心に回動可能に支持された画像記録装置(画像入出力装置)が開示されている。プリンタ筐体から離れる方向へスキャナ筐体が回動されると、スキャナ筐体によって覆われていたプリンタ筐体の上面が開放される。これにより、ユーザは、プリンタ筐体内に収容された各構成部材に容易にアクセスすることができ、ジャム処理や消耗品交換作業などのメンテナンスを容易に行うことが可能となる。
【0003】
スキャナ装置には、上面の原稿載置面を開閉するための原稿カバーが設けられている。この原稿カバーが開けられた状態でスキャナ筐体が誤って開方向へ回動されると、原稿カバー及びスキャナ筐体の重みによって画像記録装置の重心が移動して、画像記録装置が転倒する場合がある。また、原稿カバーがスキャナ装置に対してロックされていない状態でスキャナ筐体が開方向へ回動されたときに、勢い余って原稿カバーが開いてしまい、その勢いで画像記録装置が転倒したり、場合によっては、周辺部材と衝突して画像記録装置や周辺部材が破損又は故障する場合がある。また、周囲の人に原稿カバーがぶつかり、人に怪我を負わせるおそれもある。このため、特許文献1に記載の画像記録装置には、上記問題に鑑みて、スキャナ筐体と原稿カバーとが同時に開かないようにするロック手段が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−42003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のロック手段は、原稿カバーとスキャナ筐体とを第1の回動部材でロック可能とし、スキャナ筐体とプリンタ筐体とを第2の回動部材でロック可能とするものである。このように2つの回動部材からなるため、ロック手段が大型化し、装置の小型化を妨げるという問題が生じる。また、ロック手段のロック機構が複雑になるという問題も生じる。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、原稿カバー及びプリンタ筐体それぞれとスキャナ筐体とのロック機構を少ない部品点数で構成することにより、コンパクト且つ安全なロック機構を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明は、プリンタ筐体と、スキャナ筐体と、原稿カバーと、ロック部材と、支持部材と、第1付勢手段と、第1保持部材と、第2付勢手段と、第2保持部材と、を具備する画像記録装置として構成されている。プリンタ筐体に画像記録部が収容されている。スキャナ筐体に画像読取部が収容されている。スキャナ筐体は、上記プリンタ筐体の上部を覆う閉姿勢と上記上部から離間した開姿勢との間で回動可能に支持されている。原稿カバーは、上記スキャナ筐体の上面に設けられた原稿載置面を覆う閉姿勢と上記原稿載置面から離間した開姿勢との間で回動可能に支持されている。ロック部材は、上記スキャナ筐体に設けられている。このロック部材は、上記プリンタ筐体に係合可能な第1係合部と、上記原稿カバーに係合可能な第2係合部とを有している。ロック部材は、上記第1係合部及び上記プリンタ筐体が係合し且つ上記第2係合部及び上記原稿カバーが係合解除される第1姿勢と、上記第1係合部及び上記プリンタ筐体が係合解除され且つ上記第2係合部及び上記原稿カバーが係合する第2姿勢との間で姿勢変化可能に構成されている。支持部材は、上記スキャナ筐体が閉姿勢にあるときに所定の基準姿勢と上記第1姿勢との間で上記ロック部材を回転可能に支持し、上記スキャナ筐体が開姿勢にあるときに上記基準姿勢と上記第2姿勢との間で上記ロック部材を所定の直線方向へ移動可能に支持する。第1付勢手段は、上記ロック部材を上記基準姿勢から上記第1姿勢へ向けて付勢する。第1保持部材は、上記原稿カバーが閉姿勢にあるときに上記第1付勢手段の付勢力に抗して上記ロック部材を上記基準姿勢に保持する。第2付勢手段は、上記ロック部材を上記基準姿勢から上記第2姿勢へ向けて付勢する。第2保持部材は、上記スキャナ筐体が上記閉姿勢にあるときに上記第2付勢手段の付勢力に抗して上記ロック部材を上記基準姿勢に保持する。
【0008】
この画像記録装置では、ロック部材が第1姿勢にあるときに、第1係合部とプリンタ筐体とが係合してこれらをロックし、第2係合部及び原稿カバーは係合解除状態となっている。また、ロック部材が第2姿勢にあるときに、第2係合部と原稿カバーとが係合してこれらをロックし、第1係合部及びプリンタ筐体は係合解除状態となっている。ロック部材は、支持部材によって支持されている。この支持部材は、スキャナ筐体が閉姿勢にあるときに所定の基準姿勢と上記第1姿勢との間で上記ロック部材を回転可能に支持し、スキャナ筐体が開姿勢にあるときに上記基準姿勢と上記第2姿勢との間で上記ロック部材を所定の直線方向へ移動可能に支持する。
【0009】
スキャナ筐体及び原稿カバーの両方が閉姿勢にある状態では、ロック部材は第1保持部材及び第2保持部材の双方によって上記基準姿勢に保持されている。しかし、原稿カバーが閉姿勢から開姿勢に変化されると、第1保持部材による保持が解除される。このため、ロック部材は第1付勢手段の付勢力を受けて、基準姿勢から第1姿勢に姿勢変化する。その結果、ロック部材の第1係合部によってスキャナ筐体とプリンタ筐体とが係合してこれらが離間しないようにロックされる。
【0010】
スキャナ筐体及び原稿カバーの両方が閉姿勢にある状態で、スキャナ筐体が閉姿勢から開姿勢に変化されると、第2保持部材による保持が解除される。このため、ロック部材は、第2付勢手段の付勢力を受けて、基準姿勢から第2姿勢に姿勢変化する。その結果、ロック部材の第2係合部によってスキャナ筐体と原稿カバーとが係合してこれらが離間しないようにロックされる。
【0011】
(2) 上記支持部材は、上記ロック部材の支軸が挿入される鉛直方向に長い長孔を有し、上記ロック部材を鉛直方向へ移動可能に支持するものである。また、上記第2保持部材は、上記プリンタ筐体に設けられており、上記スキャナ筐体が閉姿勢にあるときに上記スキャナ筐体内に配置されて上記支持部材と共に上記支軸を上記長孔の上端部で回転可能に支持するものである。
【0012】
このように構成されているため、ロック部材の回転とロック部材の所定の直線方向への移動が支持部材によって実現される。
【0013】
(3) 上記長孔は、上記支軸の回転半径よりも大きい半径を有する丸溝と、この丸溝から下方に延出され上記丸溝の直径よりも狭い幅を有する細幅部とから構成されている。この場合、上記ロック部材の支軸は、上記ロック部材が所定の基準姿勢にあるときに上記丸溝から上記細幅部への移動を許容し、上記細幅部に入り込んだ状態で上記基準姿勢から上記第1姿勢への姿勢変化が規制されるように形成されている。
【0014】
これにより、ロック部材が基準姿勢から第2姿勢となる過程において、ロック部材が第1姿勢へ姿勢変化することが規制(禁止)される。
【0015】
(4) 上記第1係合部の具体例としては、上記ロック部材の支軸から延出された第1アーム部材と、該第1アーム部材の先端に設けられ上記プリンタ筐体に係合可能な第1フックとを有するものが考えられる。また、上記第2係合部の具体例としては、上記支軸から延出された第2アーム部材と、該第2アーム部材の先端に設けられ上記原稿カバーに係合可能な第2フックとを有するものが考えられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の画像記録装置によれば、原稿カバー及びプリンタ筐体それぞれとスキャナ筐体とのロック機構を少ない部品点数で構成することにより、コンパクト且つ安全なロック機構を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の実施形態の一例である複合機10の外観斜視図である。
【図2】図2は、図1の切断面II−IIの断面構造を示す模式図であり、原稿カバー17、スキャナ筐体15、及びプリンタ筐体14のそれぞれが上下に分離された状態が示されている。
【図3】図3は、原稿カバー17の開動作時におけるロック機構50の動作を説明するための模式断面図である。
【図4】図4は、原稿カバー17の開動作時におけるロック機構50の動作を説明するための模式断面図である。
【図5】図5は、原稿カバー17の開動作時におけるロック機構50の動作を説明するための模式断面図である。
【図6】図6は、原稿カバー17が全開にされた状態を示す模式断面図である。
【図7】図7は、スキャナ筐体15の開動作時におけるロック機構50の動作を説明するための模式断面図である。
【図8】図8は、スキャナ筐体15の開動作時におけるロック機構50の動作を説明するための模式断面図である。
【図9】図9は、スキャナ筐体15の開動作時におけるロック機構50の動作を説明するための模式断面図である。
【図10】図10は、スキャナ筐体15が全開にされた状態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明される実施形態は本発明の一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、本発明の実施形態を適宜変更できることは言うまでもない。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る複合機10の外観を示す斜視図である。以下の説明においては、複合機10が使用可能に設置された状態(図1の状態)を基準として上下方向7を定義し、開口13が設けられている側を手前側(正面)として前後方向8を定義し、複合機10を手前側(正面)から見て左右方向9を定義する。
【0020】
複合機10は本発明の画像記録装置の一例である。この複合機10は、図1に示されるように、高さ(上下方向7の長さ)に対して横幅(左右方向9の長さ)及び奥行き(前後方向8の長さ)が大きい薄型の直方体に概ね形成されている。複合機10は、ファクシミリ機能、プリント機能、スキャン機能、及び、コピー機能などの各種の機能を有している。なお、本発明の画像記録装置は、上記した全ての機能を有するものに限られず、例えば、プリント機能及びスキャン機能のみを有する複合機、或いはコピー機能のみを有する複写機として本発明の画像記録装置が実施されてもよい。
【0021】
複合機10の下部にインクジェット記録方式のプリンタ装置11が設けられている。プリンタ装置11は、正面に開口13が形成されたプリンタ筐体14(本発明のプリンタ筐体の一例)を有する。開口13に記録用紙を収容するためのトレイ24が装着されている。なお、プリンタ装置11は、インクジェット記録方式のものに限られず、電子写真方式或いは熱転写方式のものであってもよい。
【0022】
プリンタ装置11の上部にスキャナ装置12が設けられている。スキャナ装置12は、上面にコンタクトガラス(不図示)が設けられたスキャナ筐体15(本発明のスキャナ筐体の一例)を有する。画像が読み取られる原稿は、コンタクトガラスの上面(本発明の原稿載置面に相当)に載置される。
【0023】
スキャナ筐体15は、プリンタ筐体14の上面に対して開閉可能なように複合機10の後背部で蝶番などの支持機構によって支持されている。これにより、スキャナ筐体15は、プリンタ筐体14の上面を覆う閉姿勢(図1及び図3に示される姿勢)とプリンタ筐体14の上面から上方へ離間した開姿勢(図9及び図10に示される姿勢)との間で回動可能となる。本実施形態では、プリンタ筐体14の上面は開放されている。そのため、スキャナ筐体15が図10に示されるように上方へ開けられてプリンタ筐体14の上面が露出されると、ユーザは、プリンタ筐体14の上面から内部にアクセスすることが可能となる。そして、ユーザは、プリンタ装置11内の構成要素のメンテナンスやジャム処理などを行うことが可能となる。このように、スキャナ筐体15は、プリンタ筐体14の上面を覆うカバーの役割を担っている。
【0024】
スキャナ装置12には、上記コンタクトガラスに載置された原稿を覆うための原稿カバー17(本発明の原稿カバーの一例)が設けられている。原稿カバー17は、スキャナ筐体15の上面にあるコンタクトガラスに対して開閉可能なように複合機10の後背部で蝶番などの支持機構によって支持されている。これにより、原稿カバー17は、コンタクトガラスの上面を覆う閉姿勢(図1及び図3に示される姿勢)と上記コンタクトガラスの上面から上方へ離間した開姿勢(図5及び図6に示される姿勢)との間で回動可能となる。
【0025】
また、原稿カバー17には、ADF(Auto Document Feeder:自動原稿送り装置)19が設けられている。ADF19は、予め定められた位置にセットされた複数の原稿を一枚ずつピックアップして上記コンタクトガラス上の読取位置を通過するように原稿を搬送し、そして、原稿を原稿排紙部22に排出するものである。
【0026】
複合機10にはロック機構50が設けられている。ロック機構50は、複合機10の前方側に設けられている。このロック機構50は、スキャナ筐体15とプリンタ筐体14とを係合してこれらをロックする役割と、スキャナ筐体15と原稿カバー17とを係合してこれらをロックする役割とを有する。
【0027】
[ロック機構50]
図2に示されるように、ロック機構50は、回転体52(本発明のロック部材の一例)と、一対の支持部53,54(本発明の支持部材の一例、図2(B2)参照)とを有する。なお、図2(A)には原稿カバー17の模式断面図が示されている。図2(B1)にはスキャナ筐体15の模式断面図が示されており、図2(B2)には(B1)における切断線B2−B2の模式断面図が示されている。図2(C1)にはプリンタ筐体14の模式断面図が示されており、図2(C2)には(C1)における切断線C2−C2の模式断面図が示されている。また、図2(B1)、(B2)では、説明の便宜上、支軸65が長孔57の上端部に位置する状態が示されている。
【0028】
支持部53,54は、スキャナ筐体15の内部に設けられている。支持部53,54は、スキャナ筐体15の下壁15Aに立設されている。図2(B2)に示されるように、支持部53,54は、左右方向9へ所定間隔を隔てて配置されている。支持部53には、上下方向7に長く左右方向9へ貫通する長孔57が形成された軸受け58と、軸受け58の前後方向8の両サイドから下壁15Aへ延びるアーチ状の脚部60とを有する。なお、支持部54は、支持部53と同じ構成であるため、支持部53の各構成要素に付した符号と同番号の符号を支持部54の構成要素に付すことにより、その説明を省略する。
【0029】
回転体52は、支軸65と、支軸65の中央部から支軸65に垂直な方向へ延びる第1アーム67(本発明の第1アーム部材の一例)、第2アーム71(本発明の第2アーム部材の一例)、及び第3アーム75とを有する。回転体52は、支持部53と支持部54との間に配置されている。回転体52の支軸65は支持部53,54それぞれの軸受け58によって軸支されている。具体的には、支軸65が軸受け58の長孔57に挿通されている。なお、支軸65は、長孔57を貫通しており、支軸65の一方の端部65Aは支持部53よりも後方へ突出し、支軸65の他方の端部65Bは支持部54よりも前方へ突出している(図2(B2)参照)。
【0030】
支軸65は、その断面が概ね小判形状に形成されている。具体的には、支軸65は、丸棒の外周面の一部が平面状に切削加工されるなどして、外周面に一対の平行な平面が形成されたものである。したがって、支軸65は、長径及び短径を有する。また、長孔57の上端部には丸溝57Aが形成されている。丸溝57Aの内径は、支軸65が丸溝57Aで回転可能に支持されるように、支軸65の長径よりも大きい寸法に設定されている。長孔57は、丸溝57Aと、この丸溝57Aから長孔57の下端部に至る細幅部57Bとから構成されている。細幅部57Bは、丸溝57Aの内径に比べて幅狭に形成されており、具体的には、支軸65の長径よりも短く支軸65の短径よりも長い幅となっている。
【0031】
このように支軸65及び長孔57が形成されているため、回転体52は、図2(B1)において実線で示されるように支軸65が丸溝57Aに位置するときは、軸受け58によって支軸65を中心に回転可能となる。また、回転体52は、図2(B1)において実線で示された基準姿勢(本発明の所定の基準姿勢に相当)にあるときに、支軸65が長孔57を上下方向7へスライド可能となっている。つまり、回転体52の支軸65において長孔57で支持される部分は、回転体52が上記基準姿勢にあるときに丸溝57Aから細幅部57Bへの移動を許容可能な形状に形成されている。支軸65が細幅部57Bに入り込むと、細幅部57Bは支軸65の長径よりも短い幅となっているので、支軸65は回転することができない。つまり、支軸65が細幅部57Bに配置された状態では、回転体52は後述する第1姿勢(本発明の第1姿勢に相当)へ回動することが規制(禁止)されて、上記基準姿勢を維持する。つまり、回転体52の支軸65において長孔57で支持される部分は、細幅部57Bに入り込んだ状態で上記第1姿勢への姿勢変化を規制可能な形状に形成されている。なお、支軸65が丸溝57Aに配置されて回転体52が第1姿勢にあるときは、丸溝57Aから細幅部57Bへの支軸65の移動が規制(禁止)される。
【0032】
ここで、基準姿勢とは、回転体52が原稿カバー17及びプリンタ筐体14のいずれにも係合していない状態のことであり、支軸65が丸溝57Aに配置され、第2アーム71が支軸65から鉛直上方へ延出された状態のことを指す。このような基準姿勢に回転体52があるときに、長径方向と長孔57の長手方向とが一致するように支軸65が形成されている。そのため、上記基準姿勢において支軸65が細幅部57Bへ進入可能となり、細幅部57の範囲内において回転体52は上下方向7へスライド可能となる。また、支軸65及び長孔57は上述した寸法に形成されているため、支軸65が一旦細幅部57Bに進入すると、支軸65は回転できない。
【0033】
なお、長孔57は鉛直方向に長いため、回転体52が外力を受けていない状態では、回転体52は自重による下方への力F2(本発明の付勢力に相当)を受ける。そのため、この状態で支軸65が細幅部57Bに進入すると、回転体52は細幅部57Bに沿って下方へ移動しようとする。そして、支軸65が細幅部57Bの下端部に到達すると、図2(B1)で破線で示される第2姿勢(本発明の第2姿勢に相当)となる。このように、自重による下方への力F2を回転体52に生じさせる長孔57や支軸65等の支持機構が本発明の第2付勢手段の一例である。なお、自重のみに頼らずに、バネなどの付勢部材を用いて回転体52を基準姿勢から下方へ付勢するようにしてもよい。
【0034】
第1アーム67の先端には、プリンタ筐体14に係合される第1フック68(本発明の第1フックの一例)が設けられている。第1フック68は、プリンタ筐体14に設けられた係合片34に係合可能に形成されている。第1アーム67と第1フック68とによって、本発明の第1係合部が実現されている。スキャナ筐体15の下壁15Aには、第1アーム67及び第1フック68が挿通可能な開口80が形成されている。また、プリンタ筐体14の上壁14Bには、第1アーム67及び第1フック68が挿通可能な開口(不図示)が形成されている。第1アーム67及び第1フック68は、開口80から下方へ突出している。係合片34は、プリンタ筐体14の上壁14Bに設けられており、上壁14Bから下方へ突出している。本実施形態では、スキャナ筐体15が閉姿勢にあるときに、回転体52が後述する第1姿勢となったときに、上壁14Bの開口からプリンタ筐体14内に入り込んだ第1フック68と係合片34とが互いに係合してスキャナ筐体15とプリンタ筐体14とを上下方向7にロックする。なお、このように互いに係合可能なものであれば、第1フック68及び係合片34はいかなる構成であってもかまわない。
【0035】
第2アーム71の先端には、第2フック72(本発明の第2フックの一例)が設けられている。第2アーム71と第2フック72とによって、本発明の第2係合部が実現されている。第2フック72は、原稿カバー17に係合されるものである。具体的には、第2フック72は、原稿カバー17に設けられた係合アーム36に係合可能に形成されている。係合アーム36は、原稿カバー17の下壁17Aから前方斜め下方へ延びるアーム37と、アーム37の先端付近から後方へ水平に延びるフック38とを有する。スキャナ筐体15の上壁15Bには、係合アーム36に対応する位置に開口81(図2(B2)参照)が形成されている。原稿カバー17が開姿勢からスキャナ筐体15の上面を覆う閉姿勢に変化される過程で、係合アーム36の先端部39とフック38とが開口81を通ってスキャナ筐体15内に入り込む。第2フック72は、スキャナ筐体15内に入り込んだフック38に係合可能となっている。本実施形態では、第2フック72及び係合アーム36は、回転体52が第2姿勢(図2(B1)の破線で示される姿勢)となったときに互いに係合してスキャナ筐体15と原稿カバー17とがロックされる。なお、このように互いに係合可能なものであれば、第2フック72及び係合アーム36はいかなる構成であってもかまわない。
【0036】
図2(C1)に示されるように、プリンタ筐体14には、一対の軸受け片86(本発明の第2保持部材の一例)が設けられている。軸受け片86は、プリンタ筐体14の上壁14Bから上方へ突出している。スキャナ筐体15の下壁15Aには、支軸65の両端部に対応する位置に開口88(図2(B2)参照)が形成されている。スキャナ筐体15が開姿勢のときは、回転体52は上記第2姿勢となっている。スキャナ筐体15が開姿勢からプリンタ筐体14の上面を覆う閉姿勢に変化される過程で、軸受け片86が開口88を通ってスキャナ筐体15内に入り込み、その上端部87が下方への力F2に抗して支軸65の両端部を上方へ押し上げる(図3参照)。そして、スキャナ筐体15が閉姿勢になると、上端部87によって支軸65が長孔57の丸溝57Aに配置されて、回転体52が基準姿勢に保持される。
【0037】
本実施形態では、回転体52が図2(B1)において実線で示される基準姿勢にあるときに、第2アーム71は鉛直上方へ延出されており、第1アーム68は鉛直方向に対して角度θだけ後方へ傾いた方向へ延出されている。また、重力以外の力が回転体52に作用していない場合に、回転体52が図2(B1)において反時計回転方向へ力F1で回転するように、第1アーム68、第2アーム71及び第3アーム75の重力バランスなどが設計されている。このように回転体52を反時計回転方向へ力F1で回転させるための条件(各アームの長さや形状、重さ、取り付け角度など)は、ロック機構50の各構成要素に応じて適宜設計される。このように、第1アーム68、第2アーム71及び第3アーム75それぞれの自重による反時計回転方向の力F1を回転体52に生じさせる上記条件を満たした構成が本発明の第1付勢手段の一例である。なお、各アームの自重のみに頼らずに、バネなどの付勢部材を用いて回転体52を基準姿勢から反時計回転方向へ付勢するようにしてもよい。
【0038】
第3アーム75は、回転体52が基準姿勢にある状態で、支軸65から前方へ水平に延出されている。原稿カバー17が開姿勢のときは、回転体52は、力F1を受けるため反時計回転方向へ回転して図5に示される第1姿勢となっている。原稿カバー17が開姿勢からスキャナ筐体15の上面を覆う閉姿勢に変化される過程で、スキャナ筐体15に入り込んだ係合アーム36の先端部39が第3アーム75を下方へ押圧する。先端部39によって第3アーム75が下方へ押圧されると、回転体52は、反時計回転方向への力F1に抗して回転体52を時計回転方向へ回転させる。そして、原稿カバー17が閉姿勢になると、回転体52が基準姿勢に戻されてこの基準姿勢に保持される。なお、本実施形態では、第3アーム75と係合アーム36の先端部39とが協働して本発明の第1保持部材が実現されている。
【0039】
[原稿カバー17の開閉動作及びロック機構50の動作]
以下、図3乃至図6を参照して、原稿カバー17の開閉動作と、原稿カバー17の開閉動作に伴うロック機構50の動作について説明する。
【0040】
図3には、スキャナ筐体15及び原稿カバー17が共に閉姿勢である状態が示されている。このとき、回転体52の支軸65が軸受け片86によって丸溝57Aで保持されており、回転軸52は、プリンタ筐体14にも原稿カバー17にも係合していない基準姿勢となっている。つまり、図3(B)に示されるように、この基準姿勢において、第1アーム67の第1フック38は係合片34に係合しておらず、第2アーム71の第2フック72も係合アーム36のフック38に係合していない。なお、図3(B)に示されるように、回転体52の基準姿勢において、第2フック72及びフック38は、平面視では前後方向8に重なっているが、側面視では上下方向7に離間している。
【0041】
図4に示されるように、原稿カバー17が持ち上げられて閉姿勢から開姿勢へ回動されると、係合アーム36も上方へ移動する。このとき、第3アーム75に対する係合アーム36による下方への押しつけが解除されるため、回転体52は、力F2(図2参照)によって反時計回転方向へ回転する。係合アーム36が上方へ移動するとフック38が第2フック72に近づくが、同時に、回転体52が反時計回転方向へ回転することにより、第2フック72が後方へ逃げる。そのため、原稿カバー17が開姿勢へ回動されても、第2フック72とフック38とが係合することはない。つまり、原稿カバー17が開姿勢にされる過程で、第2フック72及びフック38は係合が解除された状態(係合解除状態)を維持し、したがって、原稿カバー17及びスキャナ筐体15はロックが解除された状態を維持する。
【0042】
図5に示されるように、原稿カバー17が更に持ち上げられると、回転体52は更に反時計回転方向へ回転する。この回転過程において、第1アーム67の第1フック68が係合片34と係合する(図5(B)参照)。第1フック68が係合片34と係合すると、第1アーム67と係合片34との当接によって、回転体52の回転動作が停止する。このときの回転体52の姿勢が第1姿勢である。つまり、第1姿勢は、第1フック68が係合片34と係合し、且つ、第2フック72及びフック38が係合解除状態を維持する姿勢である。なお、本実施形態では、回転体52は反時計回転方向へ力F1を受けているため、回転体52は第1姿勢に保持される。
【0043】
このようにロック機構50が動作するため、図6に示されるように原稿カバー17が後方へ全開にされたとしても、スキャナ筐体15はプリンタ筐体14にロックされているため、原稿カバー17が開けられた状態でスキャナ筐体15が開くことはない。つまり、原稿カバー17とスキャナ筐体15とが同時に開くことはない。
【0044】
[スキャナ筐体15の開閉動作及びロック機構50の動作]
以下、図7乃至図10を参照して、スキャナ筐体15の開閉動作と、スキャナ筐体15の開閉動作に伴うロック機構50の動作について説明する。
【0045】
図3に示されるように、スキャナ筐体15及び原稿カバー17が共に閉姿勢である状態で、スキャナ筐体15が持ち上げられて閉姿勢から開姿勢へ回動されると、図7に示されるように、スキャナ筐体15がプリンタ筐体14から離間する。これにより、丸溝57Aが軸受け片86の上端部87から徐々に上方へ離れる。このとき、回転体52は自重によって下方への力F2が発生しているので、支軸65が長孔57の丸溝57Aから細幅部57Bへ移動し始める。つまり、回転体52がスキャナ筐体15に対して相対的に下方へ移動する。回転体52が下方へ移動すると、第3アーム75がアーム36の先端部39から離間するため、第3アーム75に対する先端部39の押圧が解除される。回転体52は、上記力F1を受けているが、上述したように断面が概ね小判状に形成された支軸65が細幅部57Bに入り込むことによって、反時計回転方向への回転が規制される。つまり、回転体52は、支軸65と細幅部57Bとによって反時計回転方向への回転が規制される。そのため、スキャナ筐体15が開姿勢へ回動されても、第1フック68と係合片34とが係合することはない。つまり、スキャナ筐体15が開姿勢にされる過程で、第1フック68及び係合片34は係合が解除された状態(係合解除状態)を維持し、したがって、スキャナ筐体15及びプリンタ筐体14はロックが解除された状態を維持する。なお、支軸65が丸溝57Aから細幅部57Bへスムーズに移動するように、力F1が力F2よりも大きくなるように各構成要素が設計されてもよい。
【0046】
図8に示されるように、回転体52が下方へ移動すると、第2フック72がフック38に近づく。そして、図9に示されるように、長孔57が軸受け片86から完全に離れて、支軸65が細幅部57Bの下端部で支持された状態になると、第2フック72がフック38に係合する。このように、第2フック72がフック38に係合する姿勢が第2姿勢である。つまり、第2姿勢は、第2フック72がフック38と係合し、且つ、第1フック68及び係合片34が係合解除状態を維持する姿勢である。
【0047】
このようにロック機構50が動作するため、図10に示されるようにスキャナ筐体15が後方へ全開にされたとしても、原稿カバー17はスキャナ筐体15にロックされているため、スキャナ筐体15が開けられた状態で原稿カバー17が開くことはない。つまり、原稿カバー17とスキャナ筐体15とが同時に開くことはない。
【0048】
[本実施形態の作用・効果]
上述したように、本実施形態では、ロック機構50によって、原稿カバー17及びスキャナ筐体15それぞれを共に開姿勢とすることができない構成となっている。つまり、原稿カバー17及びスキャナ筐体15の一方が開姿勢の場合は他方が閉姿勢状態でロックされる。そのため、原稿カバー17及びスキャナ筐体15が同時に開くことにより生じていた複合機10の転倒や、転倒による破損、故障等の問題が解消され、複合機10の安全性を高めることができる。また、本実施形態のロック機構50は、一つの回転体52によって具現化されているため、部品点数が少なくて済む。このため、ロック機構50をコンパクトにすることができ、複合機10の小型化に寄与している。
【符号の説明】
【0049】
10・・・複合機
14・・・プリンタ筐体
15・・・スキャナ筐体
17・・・原稿カバー
34・・・係合片
36・・・係合アーム
38・・・フック
50・・・ロック機構
52・・・回転体
53,54・・・支持部
57・・・長孔
58・・・軸受け
65・・・支軸
67・・・第1アーム
68・・・第1フック
71・・・第2アーム
72・・・第2フック
75・・・第3アーム
86・・・軸受け片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像記録部が収容されたプリンタ筐体と、
画像読取部が収容され、上記プリンタ筐体の上部を覆う閉姿勢と上記上部から離間した開姿勢との間で回動可能に支持されたスキャナ筐体と、
上記スキャナ筐体の上面に設けられた原稿載置面を覆う閉姿勢と上記原稿載置面から離間した開姿勢との間で回動可能に支持された原稿カバーと、
上記スキャナ筐体に設けられ、上記プリンタ筐体に係合可能な第1係合部と、上記原稿カバーに係合可能な第2係合部とを有し、上記第1係合部及び上記プリンタ筐体が係合し且つ上記第2係合部及び上記原稿カバーが係合解除される第1姿勢と、上記第1係合部及び上記プリンタ筐体が係合解除され且つ上記第2係合部及び上記原稿カバーが係合する第2姿勢との間で姿勢変化可能なロック部材と、
上記スキャナ筐体が閉姿勢にあるときに所定の基準姿勢と上記第1姿勢との間で上記ロック部材を回転可能に支持し、上記スキャナ筐体が開姿勢にあるときに上記基準姿勢と上記第2姿勢との間で上記ロック部材を所定の直線方向へ移動可能に支持する支持部材と、
上記ロック部材を上記基準姿勢から上記第1姿勢へ向けて付勢する第1付勢手段と、
上記原稿カバーが閉姿勢にあるときに上記第1付勢手段の付勢力に抗して上記ロック部材を上記基準姿勢に保持する第1保持部材と、
上記ロック部材を上記基準姿勢から上記第2姿勢へ向けて付勢する第2付勢手段と、
上記スキャナ筐体が上記閉姿勢にあるときに上記第2付勢手段の付勢力に抗して上記ロック部材を上記基準姿勢に保持する第2保持部材と、を具備する画像記録装置。
【請求項2】
上記支持部材は、上記ロック部材の支軸が挿入される鉛直方向に長い長孔を有し、上記ロック部材を鉛直方向へ移動可能に支持するものであり、
上記第2保持部材は、上記プリンタ筐体に設けられており、上記スキャナ筐体が閉姿勢にあるときに上記スキャナ筐体内に配置されて上記支持部材と共に上記支軸を上記長孔の上端部で回転可能に支持するものである請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項3】
上記長孔は、上記支軸の回転半径よりも大きい半径を有する丸溝と、この丸溝から下方に延出され上記丸溝の直径よりも狭い幅を有する細幅部とから構成されており、
上記ロック部材の支軸は、上記ロック部材が所定の基準姿勢にあるときに上記丸溝から上記細幅部への移動を許容し、上記細幅部に入り込んだ状態で上記基準姿勢から上記第1姿勢への姿勢変化を規制可能に形成されている請求項2に記載の画像記録装置。
【請求項4】
上記第1係合部は、上記ロック部材の支軸から延出された第1アーム部材と、該第1アーム部材の先端に設けられ上記プリンタ筐体に係合可能な第1フックとを有し、
上記第2係合部は、上記支軸から延出された第2アーム部材と、該第2アーム部材の先端に設けられ上記原稿カバーに係合可能な第2フックとを有する請求項1から3のいずれかに記載の画像記録装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−71929(P2011−71929A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223484(P2009−223484)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】