説明

画素回路の駆動方法、発光装置および電子機器

【課題】複数の階調値について駆動電流の誤差を抑制する。
【解決手段】画素回路Uは、発光素子Eおよび駆動トランジスタTDRと、駆動トランジスタTDRのゲート−ソース間の保持容量C1と、駆動トランジスタTDRのゲートと信号線14との間の選択スイッチTSLおよび制御スイッチTCR1とを含む。補償期間PCPでは、保持容量C1の両端間の電圧VGSを駆動トランジスタTDRの閾値電圧VTHに漸近させる。書込期間PWRでは、階調値Dに応じた階調電位VDATAを信号線14に供給し、選択スイッチTSLをオン状態とする。書込期間PWRのうち階調値Dに応じた時間長の動作期間PAでは、制御スイッチTCR1をオン状態とすることで、駆動トランジスタTDRのゲートの電位を階調電位VDATAに変化させるとともに電圧VGSを閾値電圧VTHに漸近させる。電圧VGSに応じた駆動電流IDRが発光素子Eに供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(Electroluminescence)素子などの発光素子を駆動する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子に供給される駆動電流の電流量を駆動トランジスタが制御する発光装置においては、駆動トランジスタや発光素子の電気的な特性の誤差(目標値からの相違や各素子間のバラツキ)が問題となる。特許文献1には、駆動トランジスタのゲート−ソース間に介在する保持容量の両端間の電圧を、駆動トランジスタの閾値電圧に設定してから階調値に応じた電圧に変化させることで、駆動トランジスタの閾値電圧および移動度の誤差(ひいては駆動電流の電流量の誤差)を補償する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2007−310311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1の技術で駆動電流の誤差が有効に補償されるのは特定の階調値が指定された場合に限定され、階調値によっては駆動電流の誤差を解消できない場合がある。以上の事情に鑑みて、本発明は、複数の階調値について駆動電流の誤差を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
以上の課題を解決するために、本発明に係る画素回路の駆動方法は、相互に直列に接続された発光素子および駆動トランジスタと、発光素子と駆動トランジスタとの間の経路と駆動トランジスタのゲートとの間に介在する保持容量と、駆動トランジスタのゲートと信号線との間に直列に接続された選択スイッチおよび第1制御スイッチ(例えば制御スイッチTCR1)とを含む画素回路を駆動する方法であって、補償期間において、保持容量の両端間の電圧を駆動トランジスタの閾値電圧に漸近させ、補償期間の経過後の書込期間において、当該画素回路に指定された階調値に応じた階調電位を信号線に供給するとともに選択スイッチをオン状態に制御し、書込期間のうち当該階調値に応じて可変に設定された時間長(例えば時間長T)の動作期間にて第1制御スイッチをオン状態に制御することで、駆動トランジスタのゲートの電位を階調電位に応じて変化させるとともに保持容量の両端間の電圧を駆動トランジスタの閾値電圧に漸近させ、書込期間の経過後の駆動期間において、駆動トランジスタのゲートに対する電位の供給を停止することで、保持容量の両端間の電圧に応じた駆動電流を発光素子に供給する。以上の駆動方法においては、書込期間のうち保持容量の両端間の電圧を駆動トランジスタの閾値電圧に漸近させる動作期間の時間長が階調値(あるいは階調電位)に応じて可変に設定されるから、複数の階調値について駆動電流の誤差を有効に抑制することが可能である。
【0005】
さらに詳述すると、書込期間において階調電位を供給したときの保持容量の両端間の電圧の変化量(例えば電圧VIN)が大きいほど、駆動電流の誤差を抑制できる動作期間の時間長が短くなるという傾向を前提とすれば、書込期間において階調電位を供給したときの保持容量の両端間の電圧の変化量(例えば電圧VIN)が大きいほど動作期間の時間長が短くなるように、当該画素回路に指定された階調値に応じて動作期間の時間長を可変に設定する。例えば、書込期間において階調電位を供給したときの保持容量の両端間の電圧の変化量と動作期間の時間長との乗算値が所定値に近づくように、当該画素回路に指定された階調値に応じて動作期間の時間長を可変に設定する。
【0006】
ただし、階調値が小さいほど、駆動電流の誤差が抑制される動作期間の時間長が長くなるという傾向のもとで、階調値が小さい場合にも駆動電流の誤差を最小化しようとすれば、過度に長い時間長を動作期間として確保する必要がある。そこで、本発明の好適な態様においては、階調値が所定値を下回る場合に、動作期間の時間長を、階調値に依存しない所定値(例えば図10の時間長Tmax)に設定する(すなわち、動作期間の時間長に上限を設定する)。以上の駆動方法によれば、階調値が小さい場合にも動作期間の時間長が適度な長さに抑制されるという利点がある。
【0007】
本発明の好適な態様に係る駆動方法の補償期間において、信号線とは別の給電線から駆動トランジスタのゲートに基準電位を供給する。以上の態様においては、補償期間において信号線とは別個の給電線から駆動トランジスタのゲートに基準電位が供給されるから、階調電位の供給と基準電位の供給とに共通の信号線を共用する場合と比較して、補償期間において保持容量の両端間の電圧を駆動トランジスタの閾値電圧に漸近させる動作の時間長を長く確保できるという利点がある。
【0008】
本発明に係る発光装置は、相互に直列に接続された発光素子および駆動トランジスタと、発光素子と駆動トランジスタとの間の経路と駆動トランジスタのゲートとの間に介在する保持容量と、駆動トランジスタのゲートと信号線との間に直列に接続された選択スイッチおよび第1制御スイッチとを含む画素回路と、画素回路を駆動する駆動回路とを具備し、駆動回路は、補償期間において、保持容量の両端間の電圧を駆動トランジスタの閾値電圧に漸近させ、補償期間の経過後の書込期間において、当該画素回路に指定された階調値に応じた階調電位を信号線に供給するとともに選択スイッチをオン状態に制御し、書込期間のうち当該階調値に応じて可変に設定された時間長の動作期間にて第1制御スイッチをオン状態に制御することで、駆動トランジスタのゲートを階調電位に応じて変化させるとともに保持容量の両端間の電圧を駆動トランジスタの閾値電圧に漸近させ、書込期間の経過後の駆動期間において、駆動トランジスタのゲートに対する電位の供給を停止することで、保持容量の両端間の電圧に応じた駆動電流を発光素子に供給する。以上の発光装置によれば、本発明の画素回路の駆動方法と同様の効果が実現される。
【0009】
本発明に係る発光装置の好適な態様において、画素回路は、駆動トランジスタのゲートと基準電位が供給される給電線との間に介在する第2制御スイッチ(例えば制御スイッチTCR2)を含み、駆動回路は、補償期間にて第2制御スイッチをオン状態に制御し、書込期間にて第2制御スイッチをオフ状態に制御する。以上の態様においては、補償期間において信号線とは別個の給電線から駆動トランジスタのゲートに基準電位が供給されるから、階調電位の供給と基準電位の供給とに共通の信号線を共用する場合と比較して、補償期間において保持容量の両端間の電圧を駆動トランジスタの閾値電圧に漸近させる動作の時間長を長く確保できるという利点がある。
【0010】
本発明の別態様に係る発光装置は、相互に直列に接続された発光素子および駆動トランジスタと、発光素子と駆動トランジスタとの間の経路と駆動トランジスタのゲートとの間に介在する保持容量と、階調値に応じた階調電位が供給される信号線と、駆動トランジスタのゲートと信号線との間に直列に接続された選択スイッチおよび第1制御スイッチと、選択スイッチを制御する走査信号が供給される走査線と、第1制御スイッチを制御する制御信号が供給される制御線と、階調電位を信号線に供給する期間のうちの少なくとも書込期間において、選択スイッチがオン状態となるように走査信号を走査線に供給し、書込期間のうち第1制御スイッチがオン状態となる動作期間が、階調値に応じて可変に設定された時間長となるように、制御信号を制御線に供給する駆動回路とを具備する。以上の構成においては、選択スイッチおよび第1制御スイッチの双方がオン状態となる動作期間(すなわち保持容量の両端間の電圧を駆動トランジスタの閾値電圧に漸近させる動作期間)の時間長が階調値に応じて可変に設定されるから、複数の階調値について駆動電流の誤差を有効に抑制することが可能である。
【0011】
なお、走査線の延在の方向とは交差する方向に信号線および制御線を延在させれば、例えば走査線の延在の方向に配列する画素回路の個数が信号線の延在の方向に配列する画素回路の個数を上回る発光装置において、制御線の負荷が軽減される。したがって、制御線が走査線と同方向に延在する構成と比較して、動作期間の時間長を高精度に制御することが可能となる。
【0012】
以上の各態様に係る発光装置は各種の電子機器に利用される。電子機器の典型例は、発光装置を表示装置として利用した機器である。本発明に係る電子機器としてはパーソナルコンピュータや携帯電話機が例示される。もっとも、本発明に係る発光装置の用途は画像の表示に限定されない。例えば、光線の照射によって感光体ドラムなどの像担持体に潜像を形成するための露光装置(光ヘッド)としても本発明の発光装置が適用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<A:実施形態>
図1は、本発明の実施の形態に係る発光装置のブロック図である。発光装置100は、画像を表示する表示体として電子機器に搭載される。図1に示すように、発光装置100は、複数の画素回路Uが配列された素子部10と、各画素回路Uを駆動する駆動回路30とを具備する。駆動回路30は、走査線駆動回路32と信号線駆動回路34と電位制御回路36とを含んで構成される。駆動回路30は、例えば複数の集積回路に分散して実装される。ただし、駆動回路30の少なくとも一部は、基板上に形成された薄膜トランジスタで構成され得る。
【0014】
素子部10には、X方向に延在するm本の走査線12と、X方向に交差するY方向に延在するn本の信号線14とが形成される(m,nは自然数)。複数の画素回路Uは、各走査線12と各信号線14との交差に配置されて縦m行×横n列の行列状に配列する。また、素子部10には、各走査線12とともにX方向に延在するm本の給電線16およびm本の制御線22と、各信号線14とともにY方向に延在するn本の制御線24とが形成される。
【0015】
走査線駆動回路32は、走査信号GA[1]〜GA[m]を各走査線12に出力するとともに制御信号GB[1]〜GB[m]を各制御線22に出力する。なお、走査信号GA[1]〜GA[m]と制御信号GB[1]〜GB[m]とを別個の回路が生成する構成も採用される。電位制御回路36は、電位VEL[1]〜電位VEL[m]を生成して各給電線16に出力する。
【0016】
信号線駆動回路34は、信号S[1]〜S[n]を各信号線14に出力するとともに制御信号GT[1]〜GT[n]を各制御線24に出力する。図1に示すように、信号線駆動回路34は、各信号線14に対応するn個の単位回路40を含んで構成される。第j列目(j=1〜n)の単位回路40は、信号S[j]および制御信号GT[j]を生成して第j列目の信号線14に出力する。なお、信号S[1]〜S[n]と制御信号GT[1]〜GT[n]とを別個の回路が生成する構成も採用される。
【0017】
図2は、画素回路Uの回路図である。図2においては、第i行(i=1〜m)に属する第j列の1個の画素回路Uのみが代表的に図示されている。図2に示すように、画素回路Uは、発光素子Eと駆動トランジスタTDRと保持容量C1と選択スイッチTSLと制御スイッチTCR1と制御スイッチTCR2とを含んで構成される。画素回路U内の各スイッチ(選択スイッチTSL,制御スイッチTCR1,制御スイッチTCR2)は、例えばNチャネル型のトランジスタ(例えば薄膜トランジスタ)である。
【0018】
発光素子Eと駆動トランジスタTDRとは、給電線16と給電線(接地線)18とを結ぶ経路上に直列に接続される。給電線18には電源回路(図示略)から所定の電位VCTが供給される。発光素子Eは、相対向する陽極と陰極との間に有機EL(Electroluminescence)材料の発光層を介在させた有機EL素子である。図2に示すように、発光素子Eには容量C2(容量値cp2)が付随する。
【0019】
駆動トランジスタTDRは、給電線16にドレインが接続されるとともにソースが発光素子Eの陽極に接続されたNチャネル型のトランジスタ(例えば薄膜トランジスタ)である。保持容量C1(容量値cp1)は、駆動トランジスタTDRのソース(すなわち、発光素子Eと駆動トランジスタTDRとの間の経路)と駆動トランジスタTDRのゲートとの間に介在する。
【0020】
選択スイッチTSLおよび制御スイッチTCR1は、信号線14と駆動トランジスタTDRのゲートとの間に直列に接続されて信号線14と駆動トランジスタTDRのゲートとの電気的な接続(導通/非導通)を制御する。第i行に属する各画素回路Uの選択スイッチTSLのゲートは第i行の走査線12に共通に接続され、第j列に属する各画素回路Uの制御スイッチTCR1のゲートは第j列の制御線24に共通に接続される。なお、図2においては、選択スイッチTSLを駆動トランジスタTDR側に配置するとともに制御スイッチTCR1を信号線14側に配置したが、選択スイッチTSLを信号線14側に配置するとともに制御スイッチTCR1を駆動トランジスタTDR側に配置した構成も採用される。
【0021】
制御スイッチTCR2は、駆動トランジスタTDRのゲートと給電線28との間に介在して両者の電気的な接続を制御する。給電線28には基準電位VREFが供給される。給電線28は、例えば、図2のように画素回路Uの行毎にX方向に延在する配線(または列毎にY方向に延在する配線)や、素子部10内の各画素回路Uにわたって連続する配線である。第i行に属する各画素回路Uの制御スイッチTCR2のゲートは第i行の制御線22に共通に接続される。
【0022】
次に、図3を参照して、第i行に属する第j列目の画素回路Uに特に着目して駆動回路30の動作(画素回路Uを駆動する方法)を説明する。走査線駆動回路32は、走査信号GA[1]〜GA[m]を所定の順番でアクティブレベルに設定することで各画素回路Uを行単位で順次に選択する。すなわち、図3に示すように、走査信号GA[i]は、垂直走査期間内の第i番目の水平走査期間H[i]にてアクティブレベル(走査線12の選択を意味するハイレベル)に設定され、水平走査期間H[i]以外では非アクティブレベル(ローレベル)を維持する。走査線駆動回路32が第i行を選択する水平走査期間H[i]において、信号線駆動回路34は、信号S[j]を、第i行に属する第j列目の画素回路Uに指定された階調値Dに応じた階調電位VDATA[i]に設定する。
【0023】
図3に示すように、水平走査期間H[i]は、第i行の各画素回路Uに階調電位VDATA[i]を供給するための書込期間PWRとして利用される。また、第i行の書込期間PWR(水平走査期間H[i])の開始前の複数の水平走査期間(図3の水平走査期間[i-2]および水平走査期間H[i-1])は第i行の補償期間PCPとして利用され、補償期間PCPの開始前の1個の水平走査期間H[i-3]は第i行の初期化期間PRSとして利用される。
【0024】
駆動トランジスタTDRのゲート−ソース間の電圧(すなわち保持容量C1の両端間の電圧)VGSは、初期化期間PRSにて所定の電圧に初期化されたうえで補償期間PCPにて駆動トランジスタTDRの閾値電圧VTHに漸近し、書込期間PWRにおいて階調電位VDATA[i]に応じた電圧に設定される。書込期間PWRの経過後の駆動期間PDRにおいては、駆動トランジスタTDRの電圧VGSに応じた駆動電流IDRが給電線16から駆動トランジスタTDRを経由して発光素子Eに供給される。発光素子Eは、駆動電流IDRに応じた輝度で発光する。
【0025】
図3に示すように、走査線駆動回路32は、第i行の初期化期間PRSおよび補償期間PCP(水平走査期間H[i-3]〜H[i-1])において制御信号GB[i]をアクティブレベル(ハイレベル)に設定し、他の期間で制御信号GB[i]を非アクティブレベル(ローレベル)に維持する。電位制御回路36は、第i行の初期化期間PRSにおいて電位VEL[i]を電位V2に設定し、当該初期化期間PRS以外で電位VEL[i]を電位V1に維持する。
【0026】
図3に示すように、各書込期間PWR(水平走査期間H[1]〜H[m]の各々)内には、当該書込期間PWRの始点よりも所定の時間だけ遅延した時点から時間長Tにわたる動作期間PAが設定される。動作期間PAは、画素回路Uに対して実際に階調電位VDATA[i]が供給される期間である。図3に示すように、信号線駆動回路34は、各書込期間PWR内の動作期間PAにて制御信号GT[j]をアクティブレベル(ハイレベル)に設定し、各書込期間PWR内の動作期間PA以外で制御信号GT[j]を非アクティブレベル(ローレベル)に維持する。
【0027】
次に、画素回路Uの具体的な動作を、初期化期間PRSと補償期間PCPと書込期間PWRと駆動期間PDRとに区分して説明する。なお、以下においては第i行に属する第j列目の画素回路Uに着目して動作を説明するが、同様の動作が素子部10内の各画素回路Uについて実行される。
【0028】
[1]初期化期間PRS(図4)
図3および図4に示すように、第i行の初期化期間PRS(水平走査期間H[i-3])においては、制御信号GB[i]がアクティブレベルに設定されることで制御スイッチTCR2がオン状態に制御される。選択スイッチTSLおよび制御スイッチTCR1はオフ状態を維持するから、駆動トランジスタTDRのゲートの電位VGは、制御スイッチTCR2を介して給電線28の基準電位VREFに設定される。一方、電位制御回路36が給電線16に電位V2(電位VEL[i])を供給することで、駆動トランジスタTDRのソースの電位VSは電位V2に設定される。すなわち、駆動トランジスタTDRのゲート−ソース間の電圧VGS(保持容量C1の両端間の電圧)は、基準電位VREFと電位V2との差分の電圧VGS1(VGS1=VREF−V2)に初期化される。
【0029】
基準電位VREFおよび電位V2は、以下の数式(1)のように両者の差分の電圧VGS1が駆動トランジスタTDRの閾値電圧VTHを充分に上回り、かつ、数式(2)のように発光素子Eの両端間の電圧(V2−VCT)が発光素子Eの閾値電圧VTH_OLEDを充分に下回るように設定される。したがって、初期化期間PRSにおいては、駆動トランジスタTDRがオン状態となり、発光素子Eがオフ状態(非発光状態)となる。
VGS1=VREF−V2≫VTH ……(1)
V2−VCT≪VTH_OLED……(2)
【0030】
[2]補償期間PCP(図5)
図3および図5に示すように、補償期間PCPが開始すると、電位制御回路36は、給電線16の電位VEL[i](駆動トランジスタTDRのドレインの電位)を電位V1に変化させる。図3に示すように、電位V1は、電位V2や基準電位VREFを充分に上回る。一方、制御スイッチTCR2は、初期化期間PRSから引続きオン状態に制御される。駆動トランジスタTDRは初期化期間PRSにてオン状態に遷移しているから、以上の状態のもとでは、図5に示すように、以下の数式(3)で表現される電流Idsが駆動トランジスタTDRのドレインとソースとの間に流れる。数式(3)のμは駆動トランジスタTDRの移動度である。また、W/Lは、駆動トランジスタTDRのチャネル長Lに対するチャネル幅Wの相対比であり、Coxは、駆動トランジスタTDRのゲート絶縁膜の単位面積あたりの容量である。
Ids=1/2・μ・W/L・Cox・(VGS−VTH) ……(3)
【0031】
給電線16から駆動トランジスタTDRを経由して電流Idsが流れることで保持容量C1および容量C2に電荷が充電される。したがって、図3に示すように駆動トランジスタTDRのソースの電位VSは徐々に上昇する。駆動トランジスタTDRのゲートの電位VGは給電線28の基準電位VREFに維持されるから、駆動トランジスタTDRのゲート−ソース間の電圧VGSはソースの電位VSの上昇とともに低下する。数式(3)から理解されるように電圧VGSが低下して閾値電圧VTHに接近するほど電流Idsは減少する。したがって、補償期間PCPにおいては、駆動トランジスタTDRの電圧VGSを、初期化期間PRSにて設定された電圧VGS1(VGS1=VREF−V2)から閾値電圧VTHに漸近させる動作(以下「第1補償動作」という)が実行される。補償期間PCPの時間長(水平走査期間Hの個数)は、図3および図5に示すように、駆動トランジスタTDRの電圧VGSが補償期間PCPの終点にて閾値電圧VTHに充分に接近する(理想的には合致する)ように設定される。したがって、駆動トランジスタTDRは、補償期間PCPの終点にて殆どオフ状態となる。
【0032】
[3]書込期間PWR(図6)
図3に示すように、第i行の書込期間PWR(水平走査期間H[i])が開始すると、制御信号GB[i]が非アクティブレベルに設定されることで制御スイッチTCR2がオフ状態に遷移する。すなわち、駆動トランジスタTDRのゲートに対する基準電位VREFの供給が停止する。さらに、第i行の書込期間PWRにおいては、信号線14に供給される信号S[j]が階調電位VDATA[i]に設定されたうえで、走査信号GA[i]がアクティブレベルに変化することで選択スイッチTSLがオン状態に制御される。ただし、書込期間PWRのうち動作期間PAの開始前においては、制御信号GT[j]が非アクティブレベルに設定されることで制御スイッチTCR1はオフ状態を維持する(すなわち駆動トランジスタTDRのゲートは信号線14に導通しない)から、信号S[j]の階調電位VDATA[i]は駆動トランジスタTDRのゲートに供給されない。
【0033】
図3および図6に示すように、動作期間PAが開始すると、制御信号GT[j]がアクティブレベルに設定されることで制御スイッチTCR1がオン状態に変化する。すなわち、駆動トランジスタTDRのゲートは、選択スイッチTSLと制御スイッチTCR1とを介して信号線14に導通する。したがって、駆動トランジスタTDRのゲートの電位VGは、動作期間PAの開始前の基準電位VREFから階調電位VDATAに変化する。駆動トランジスタTDRのゲートとソースとの間には保持容量C1が介在するから、図3に示すように、駆動トランジスタTDRのソースの電位VSはゲートの電位VGに連動して変化(上昇)する。動作期間PAの開始の直後における電位VSの変化量は、電位VGの変化量ΔVG(ΔVG=VDATA−VREF)を保持容量C1と容量C2との容量比に応じて分割した電圧(ΔVG・cp1/(cp1+cp2))に相当する。したがって、動作期間PAの開始の直後における駆動トランジスタTDRのゲート−ソース間(保持容量C1の両端間)の電圧VGS2は、図6に示すように以下の数式(4)で表現される。数式(4)における電圧VINは、駆動トランジスタTDRのゲートに階調電位VDATAを供給したときのゲート−ソース間の電圧VGSの変化量(ΔVG・cp2/(cp1+cp2))に相当する。
VGS2=VTH+ΔVG・cp2/(cp1+cp2)
=VIN+VTH ……(4)
【0034】
以上のようにゲート−ソース間の電圧VGS2が階調電位VDATA(さらに詳細には階調電位VDATAと基準電位VREFとの差分ΔVG)に応じて閾値電圧VTHを上回る電圧に設定されることで、駆動トランジスタTDRはオン状態に遷移する。したがって、駆動トランジスタTDRのドレイン−ソース間には数式(3)の電流Idsが流れる。
【0035】
電流Idsによる保持容量C1や容量C2の充電とともに駆動トランジスタTDRのソースの電位VS(容量C2の両端間の電圧)は徐々に上昇する。一方、駆動トランジスタTDRのゲートの電位VGは動作期間PAにて階調電位VDATAに維持される。したがって、駆動トランジスタTDRのゲート−ソース間の電圧VGSは、動作期間PAの開始の直後の電圧VGS2から電位VSの上昇とともに低下する。電圧VGSが閾値電圧VTHに接近するほど電流Idsは減少するから、補償期間PCPと同様に、書込期間PWRの動作期間PAにおいては、駆動トランジスタTDRの電圧VGSを、階調電位VDATAの供給で設定された電圧VGS2から閾値電圧VTHに漸近させる動作(以下「第2補償動作」という)が実行される。したがって、図3に示すように、動作期間PAの終点における電圧VGSは、数式(4)の電圧VGS2よりも電圧ΔVだけ低い数式(5)の電圧VGS3に設定される。電圧ΔVは、第2補償動作による駆動トランジスタTDRのソースの電位VSの変化量に相当する。
VGS3=VGS2−ΔV
=VIN+VTH−ΔV ……(5)
【0036】
第i行の書込期間PWR(水平走査期間H[i])のうち制御信号GT[j]がアクティブレベルに設定される動作期間PAの時間長Tは、第i行に属する第j列の画素回路Uの階調値D(階調電位VDATA[i])に応じて可変に設定される。すなわち、図3に示すように、階調値Dが高階調(高輝度)を指定する場合の時間長Tは、階調値Dが低階調(低輝度)を指定する場合の時間長Tと比較して短い。動作期間PAの始点から駆動トランジスタTDRがオン状態に変化するまでの時間長は充分に短いから、動作期間PAの時間長Tは第2補償動作が実行される時間長に相当する。なお、数式(5)の電圧ΔVが動作期間PAの時間長Tに依存することを考慮すると、動作期間PAの時間長Tを階調値Dに応じて制御する動作は、電圧VGS3(電圧ΔV)を階調値Dに応じて可変に制御する動作としても把握される。
【0037】
動作期間PAの時間長Tは、動作期間PAの終点における駆動トランジスタTDRのゲート−ソース間の電圧VGS3が、閾値電圧VTHと同等の電圧(階調値Dが最低階調を指定する場合)または閾値電圧VTHを上回る電圧となる範囲内で設定される。すなわち、階調値Dが最低階調以外の階調を指定する場合には動作期間PAの終点にて駆動トランジスタTDRはオン状態を維持する。なお、時間長Tを設定する具体的な方法については後述する。
【0038】
[4]駆動期間PDR(図7)
書込期間PWR内の動作期間PAが終了すると、制御信号GT[j]が非アクティブレベルに変化することで制御スイッチTCR1がオフ状態に遷移する。したがって、駆動トランジスタTDRのゲートは、信号線14から切り離されて電気的なフローティング状態となる。すなわち、駆動トランジスタTDRのゲートに対する電位の供給が停止する。動作期間PAの終点にて駆動トランジスタTDRがオン状態である場合(すなわち、階調値Dが最低階調以外の階調を指定する場合)、動作期間PAの経過後も引続き数式(3)の電流Idsが駆動トランジスタTDRのドレイン−ソース間に流れることで容量C2が充電される。したがって、図3に示すように、駆動トランジスタTDRの電圧VGSが動作期間PAの終点での電圧VGS3に維持されたまま、容量C2の両端間の電圧(駆動トランジスタTDRのソースの電位VS)が徐々に増加する。そして、容量C2の両端間の電圧が発光素子Eの閾値電圧VTH_OLEDに到達すると、電流Idsが駆動電流IDRとして発光素子Eを流れる。したがって、駆動電流IDRは以下の数式(6)で表現される。
IDR=1/2・μ・W/L・Cox・(VGS3−VTH)
=1/2・μ・W/L・Cox・{(VIN+VTH−ΔV)−VTH}
=K・(VIN−ΔV) ……(6)
K=1/2・μ・W/L・Cox
【0039】
発光素子Eに対する駆動電流IDRの供給は、容量C2の両端間の電圧が発光素子Eの閾値電圧VTH_OLEDに到達した時点から駆動期間PDRの開始後にわたって継続され、走査信号GA[i]が次にアクティブレベルとなる水平走査期間H[i]の始点にて終了する。以上のように、駆動電流IDRは、階調電位VDATA[i]を反映した電圧VGS3に依存するから、発光素子Eは階調電位VDATA[i](すなわち階調値D)に応じた輝度で発光する。
【0040】
なお、図3においては、容量C2の両端間の電圧が発光素子Eの閾値電圧VTH_OLEDに到達する時点(すなわち、駆動トランジスタTDRのゲートの電位VGおよびソースの電位VSの上昇が停止する時点)が書込期間PWR内である場合を例示した。しかし、動作期間PAの終点から書込期間PWRの終点までの時間長や動作期間PAの終点における電圧VGS3によっては、駆動期間PDRの開始後に、容量C2の両端間の電圧が閾値電圧VTH_OLEDに到達する場合もある。
【0041】
数式(5)の電圧VGS3は、補償期間PCPで設定された閾値電圧VTHを階調電位VDATA[i]に応じて変化させた電圧であるから、数式(6)に示すように駆動電流IDRは閾値電圧VTHに依存しない。したがって、各画素回路Uの駆動トランジスタTDRの閾値電圧VTHに誤差がある場合でも、駆動電流IDRは階調電位VDATAに対応した目標値に設定される。すなわち、各画素回路Uの駆動トランジスタTDRの閾値電圧VTHに起因した駆動電流IDRの誤差は、補償期間PCPにおける第1補償動作で補償される。
【0042】
また、数式(6)の電圧ΔV(第2補償動作による駆動トランジスタTDRのゲート−ソース間の電圧VGSの変化量)は駆動トランジスタTDRの移動度μに依存する。さらに詳述すると、駆動トランジスタTDRの移動度μが大きいほど電圧ΔVは増加する。以上のように駆動トランジスタTDRの移動度μが第2補償動作で駆動電流IDRに反映されるから、駆動トランジスタTDRの移動度μに起因した駆動電流IDRの誤差を、書込期間PWR(動作期間PA)における第2補償動作で補償することが可能である。
【0043】
しかし、第2補償動作の時間長Tを、階調値Dに依存しない所定値に固定した構成(以下「対比例」という)のもとでは、以下に説明するように、駆動トランジスタTDRの移動度μの誤差を有効に補償できるのが、特定の階調値D(階調電位VDATA)を指定した場合に制限されるという問題がある。
【0044】
図8は、対比例における階調電位VDATAと駆動電流IDRの電流量の誤差との相関を示すグラフである。図8の横軸は、基準電位VREFを基準値(0.0)とした階調電位VDATAの電圧値を意味し、図8の縦軸は、所定の階調値Dが指定された場合の駆動電流IDRの電流量の最大値と最小値との相対比(最大誤差比)を意味する。図8から理解されるように、第2補償動作の時間長Tを固定値とした場合、階調電位VDATAが所定値VD0に設定された場合には駆動電流IDRの誤差は確かに低減されるが、階調電位VDATAが所定値VD0から離れるほど駆動電流IDRの誤差が増大する。すなわち、対比例においては、駆動トランジスタTDRの移動度μに起因した駆動電流IDRの誤差を階調電位VDATAの広い範囲にわたって抑制することが困難であるという問題がある。
【0045】
一方、図9は、動作期間PAの時間長Tと駆動電流IDRの誤差(最大誤差比)との関係を、階調電位VDATAを変化させた複数の場合(VD1<VD2<VD3<VD4<VD5)について計算したグラフである。駆動電流IDRの誤差が最小となる時間長Tは階調電位VDATAに応じて相違するという傾向が図9から見出される。すなわち、階調電位VDATAが高いほど、駆動電流IDRの誤差が最小となる時間長Tは短くなる。以上の知見から、本形態においては、動作期間PAの時間長Tを階調値D(階調電位VDATA)に応じて可変に設定することで、階調電位VDATAの高低に拘わらず駆動電流IDRの誤差を抑制する。例えば、階調電位VDATAが図9の電位VD1に設定される場合には時間長Tが所定値T1に設定され、階調電位VDATAが電位VD1よりも高い電位VD2に設定される場合には時間長Tが所定値T2(T2<T1)に設定されるといった具合である。
【0046】
次に、動作期間PA内の第2補償動作について詳細に検討する。第2補償動作の実行中に駆動トランジスタTDRのドレイン−ソース間に流れる電流Idsと、電流Idsで充電される容量(保持容量C1および容量C2)の容量値との間には、以下の数式(7)の関係が成立する。数式(7)におけるCは、保持容量C1と容量C2との容量値の合計(C=cp1+cp2)である。
Ids=dQ/dt=C・(dVS/dt) ……(7)
また、駆動トランジスタTDRのソースの電位VSの時間的な変化が電圧ΔVの時間的な変化と同等であること(dVS/dt=dΔV/dt)を考慮すると、数式(6)と数式(7)とから以下の数式(8)が導出される。なお、数式(8)における電圧ΔV(t)は、第2補償動作の開始(動作期間PAの始点)から経過した時間tに応じて数式(6)の電圧ΔVが変化することを意味する。
C(dΔV/dt)=K(VIN−ΔV(t)) ……(8)
【0047】
動作期間PAの始点(t=0)において電圧ΔV(t)(ΔV(0))がゼロであるという条件のもとで数式(8)を積分すると、動作期間PAの終点(t=T)における駆動トランジスタTDRのドレイン−ソース間の電流Ids(T)を表す以下の数式(9)が導出される。
【数1】

【0048】
数式(9)の係数Kは、数式(6)に併記したように駆動トランジスタTDRの移動度μを含むから、移動度μの誤差の程度を表す指標に相当する。駆動期間PDRにて発光素子Eに供給される駆動電流IDRは数式(9)の電流Ids(T)に依存するから、駆動電流IDRの誤差を最小化するためには、係数K(移動度μ)の変動に対する電流Ids(T)の誤差を最小化する必要がある。そして、係数Kの変動に対して電流Ids(T)の誤差が最小となるのは、数式(9)を係数Kで微分した結果がゼロとなる場合である。以上の条件から数式(10)が導出される。
【数2】

【0049】
したがって、第2補償動作による駆動電流IDRの補償の効果が最大となる条件は以下の数式(11)で表現される。
C=KVINT ……(11)
数式(11)の電圧VINは階調電位VDATAに応じて設定されるから、階調電位VDATAと動作期間PAの時間長Tとについて、図9を参照して説明したのと同様の条件(階調電位VDATAが高いほど時間長Tを短くする)が数式(11)からも確認される。さらに詳述すると、電圧VINと動作期間PAの時間長Tとの乗算値(あるいは階調電位VDATAと時間長Tとの乗算値)が所定値となる場合に、第2補償動作による駆動電流IDRの補償の効果が最大となる。
【0050】
図9および数式(11)を参照して説明した以上の知見から、本形態においては、階調電位VDATAと時間長Tとの関係を図10のように設定する。図10に示すように、階調電位VDATAが高い(階調電位VDATAの供給による駆動トランジスタTDRのゲート−ソース間の電圧VGSの変化量VINが高い)ほど、動作期間PAの時間長Tは短い時間に設定される。さらに詳述すると、数式(11)から理解されるように、階調電位VDATA(電圧VIN)と時間長Tとの乗算値が所定値となる(時間長Tが階調電位VDATAに対して反比例する)ように時間長Tが設定される。例えば、複数種の階調電位VDATAの各々に対応する時間長Tは、当該階調電位VDATAに応じて設定される駆動電流IDRの誤差が例えば1%以下に低減(理想的には最小化)されるように設定される。
【0051】
ただし、駆動電流IDRの誤差を最小化するための時間長Tは階調電位VDATAが低いほど長いから、階調電位VDATAが充分に低い場合(例えば最低階調が指定された場合)にも駆動電流IDRの誤差を厳密に最小化しようとすれば、時間長Tを過度に長期化する必要がある。そこで、本形態の信号線駆動回路34は、図10に示すように、所定値を下回る階調値Dが指定された場合(階調電位VDATAが図10の電位VD_thを下回る場合)、動作期間PAの時間長Tを、階調値Dに依存しない所定値Tmaxに設定(クリップ)する。最大値Tmaxは、駆動トランジスタTDRの電圧VGSが第2補償動作で閾値電圧VTHまで低下するのに必要な時間長よりも短い時間に制限される。以上の構成によれば、動作期間PAを短くすることが可能である。
【0052】
図3を参照して説明したように、書込期間PWR内の動作期間PAは、制御スイッチTCR1がオン状態からオフ状態に変化することで終了する。そこで、信号線駆動回路34の各単位回路40は、各書込期間PWR内で制御信号GT[j]をアクティブレベルから非アクティブレベルに変化させる時点を階調値Dに応じて調整することで動作期間PAの時間長Tを可変に設定する。したがって、単位回路40のうち制御信号GT[j]を生成する回路としては、動作期間PAの始点にて制御信号GT[j]をアクティブレベルに遷移させるとともに計数を開始し、計数値が階調値Dに応じた数値に到達した時点(計数の開始から時間長Tが経過した時点)で制御信号GT[j]を非アクティブレベルに遷移させる計数回路が好適に利用される。
【0053】
図11は、本形態における階調電位VDATAと駆動電流IDRの誤差との関係(実線)を示すグラフである。図11においては、対比例における階調電位VDATAと駆動電流IDRの誤差との相関(図8)が破線で併記されている。図11に示すように、本形態によれば、第2補償動作の時間長Tが階調値Dによらず固定された対比例(例えば特許文献1)と比較して、階調電位VDATAの広い範囲にわたって駆動電流IDRの誤差が1%以下に抑制されるという利点がある。
【0054】
なお、図11において階調電位VDATAの低位側の領域で駆動電流IDRの誤差が僅かに増加しているのは、時間長Tの上限を最大値Tmaxに制限した影響と考えられる。もっとも、駆動電流IDRの誤差が低位側で増加しているとは言っても、対比例と比較して駆動電流IDRの誤差が大幅に改善されることは図11から明白である。
【0055】
図12は、動作期間PAの時間長Tを図10のように設定した場合における階調値Dと駆動電流IDRとの関係を示すグラフである。階調電位VDATAと時間長Tとの乗算値が所定値となるように時間長Tを設定することで、駆動電流IDR(さらには発光素子Eの輝度)は、階調値Dの2.2乗に対応した電流量に調整される。すなわち、ガンマ値を2.2とするガンマ特性が時間長Tの設定で実現されるという利点がある。
【0056】
なお、数式(11)の条件が成立するときの電流Ids(駆動電流IDR)は以下の数式(12)で表現される。すなわち、電流Idsは、容量値C(C=cp1+cp2)と電圧VINと時間長Tとに依存する。
Ids=CVIN/4T ……(12)
したがって、素子部10に表示される画像が所期の明度となる程度に駆動電流IDRに充分な電流量を確保するためには、容量値Cや電圧VINの増加または時間長Tの短縮が必要である。ただし、容量値Cを増加させるためには保持容量C1の面積を増加させる必要があり、画素回路Uの他の要素の配置(レイアウト)が制約されるという問題がある。また、電圧VINを増加させるためには選択スイッチTSLのゲートの電位の振幅を増加させる必要があるから、走査線駆動回路32の高耐圧化が必要になる。本形態においては、動作期間PAの時間長Tに応じて駆動電流Idsが調整されるから、容量値Cや電圧VINを増加させた場合のような問題が発生しないという利点がある。
【0057】
ところで、制御信号GT[j]の供給用の制御線24に付随する負荷(画素回路Uの個数)が大きい場合には制御信号GT[j]の波形の歪が顕在化するから、制御信号GT[j]のパルス幅(時間長T)が短い場合には特に、動作期間PAの時間長Tの制御の精度が低下するという問題がある。一方、例えば複数種の表示色(例えば赤色,緑色,青色)の各々に対応する画素回路UがX方向に配列する構成においては、素子部10内の画素回路Uの列数n(信号線14の総数)が行数m(走査線12の総数)を上回る場合が多い。制御線24が信号線14とともにY方向に延在する本形態においては、1本の制御線24の負荷となる画素回路Uの総数mが1行内の画素回路Uの総数nを下回るから、例えばX方向に配列するn個の画素回路UがX方向の1本の制御線24を共用する構成と比較して、制御線24の負荷が軽減される。したがって、動作期間PAの時間長Tを調整する精度の低下(制御信号GT[j]の波形歪)を抑制しながら、制御信号GT[j]のパルス幅(時間長T)を充分に短縮して所望の駆動電流IDRを生成できるという利点もある。
【0058】
駆動トランジスタTDRの電圧VGSの初期化や第1補償動作のための基準電位VREFを各画素回路Uに供給する構成としては、初期化期間PRSおよび補償期間PCPにおいて選択スイッチTSLをオン状態に制御したうえで、信号線14の信号S[j]として基準電位VREFを各画素回路Uに供給する構成も想定される。しかし、以上のように1本の信号線14を階調電位VDATAの供給と基準電位VREFの供給とに兼用する構成では、選択スイッチTSLがオン状態に制御される水平走査期間H[i]にて電圧VGSの初期化や第1補償動作を実行する必要がある。したがって、駆動トランジスタTDRのゲート−ソース間の電圧VGSを第1補償動作で閾値電圧VTHに確実に到達させるためには、水平走査期間H[i]の時間長を充分に確保する必要がある。しかし、水平走査期間H[i]が長期化するほど画素回路Uの高精細化(行数の増加)が制約されるという問題がある。
【0059】
本形態においては、信号線14とは別個の給電線28から各画素回路Uに基準電位VREFが供給されるから、1個の水平走査期間Hの時間長とは無関係に第1補償動作を実行することが可能である。例えば、図3に示すように複数の水平走査期間Hが第1補償動作のために確保される。したがって、第1補償動作の確実性(電圧VGSが閾値電圧VTHに到達する確度)と水平走査期間Hの短縮(さらには画素回路Uの高精細化)とを両立できるという利点がある。
【0060】
<B:変形例>
以上の各形態は様々に変形される。各形態に対する変形の具体的な態様を以下に例示する。なお、以下の例示から2以上の態様を任意に選択して組合わせてもよい。
【0061】
(1)変形例1
画素回路Uを構成する各トランジスタ(駆動トランジスタTDR,選択スイッチTSL,制御スイッチTCR1,制御スイッチTCR2)の導電型は任意である。例えば、図13に示すように、駆動トランジスタTDRや各スイッチ(選択スイッチTSL,制御スイッチTCR1,制御スイッチTCR2)をPチャネル型とした構成も採用される。図13の画素回路Uにおいては、発光素子Eの陽極が給電線18(電位VCT)に接続され、駆動トランジスタTDRのドレインが給電線16(電位VEL[i])に接続されるとともにソースが発光素子Eの陰極に接続される。駆動トランジスタTDRのゲートとソースとの間に保持容量C1が介在する構成や、駆動トランジスタTDRのゲートと信号線14との間に選択スイッチTSLおよび制御スイッチTCR1が直列に介在する構成や、駆動トランジスタTDRのゲートと給電線28との間に制御スイッチTCR2が介在する構成は、図2と同様である。以上のようにPチャネル型の駆動トランジスタTDRを採用した場合、Nチャネル型の駆動トランジスタTDRを採用した場合と比較して電圧の関係(高低)は逆転するが、本質的な動作は以上の例示と同様であるから、具体的な動作の説明は省略する。
【0062】
(2)変形例2
書込期間PWRと動作期間PAとの関係は適宜に変更される。例えば、書込期間PWRの始点から開始する動作期間PAの終点を時間軸上で前後させることで時間長Tを可変に制御する構成や、書込期間PWRの終点にて終了する動作期間PAの始点を時間軸上で前後させることで時間長Tを可変に制御する構成が採用される。また、書込期間PWRの中点と動作期間PAの中点とが合致するように動作期間PAを設定し、動作期間PAの始点および終点の双方を時間軸上で前後させることで時間長Tを可変に制御する構成も採用される。
【0063】
(3)変形例3
以上の各形態においては発光素子Eに付随する容量C2を利用したが、図14に示すように、発光素子Eとは別個に形成した容量CXを容量C2とともに利用する構成も好適である。容量CXの電極e1は、駆動トランジスタTDRと発光素子Eとを結ぶ経路上(駆動トランジスタTDRのソース)に接続される。容量CXの電極e2は、所定の電位が供給される配線(例えば、電位VCTが供給される給電線18や、基準電位VREFが供給される給電線28)に接続される。図14の構成においては、容量値cp2が容量CXと発光素子Eの容量C2との合計値となる。したがって、数式(4)の電圧VGS2や数式(5)の電圧VGS3(さらには数式(6)の駆動電流IDR)を容量CXに応じて適宜に調整することが可能である。
【0064】
(4)変形例4
信号線14に階調電位VDATAを供給する期間が、選択スイッチTSLをオン状態に制御する書込期間PWRと完全に合致する必要は必ずしもない。例えば、信号線14に階調電位VDATAを供給する期間のうちの一部を書込期間PWRとして選択スイッチTSLをオン状態に制御する構成も採用される。
【0065】
(5)変形例5
以上の形態では第1補償動作および第2補償動作の双方を実行したが、例えば第2補償動作のみで駆動電流IDRの誤差が所期の範囲内に抑制されるのであれば、第1補償動作は省略される。すなわち、複数の階調値Dについて駆動電流IDRの誤差を抑制するという本発明の所期の効果は、第2補償動作の時間長T(さらに詳細には選択スイッチTSLおよび制御スイッチTCR1の双方がオン状態となる時間長)を階調値Dに応じて可変に制御する構成で実現され、第1補償動作は本発明にとって必須の要件ではない。
【0066】
(6)変形例6
有機EL素子は発光素子の例示に過ぎない。例えば、無機EL素子やLED(Light Emitting Diode)素子などの発光素子を配列した発光装置にも以上の各態様と同様に本発明が適用される。本発明における発光素子は、電流の供給で駆動される(典型的には階調(輝度)が制御される)電流駆動型の被駆動素子である。
【0067】
<C:応用例>
次に、以上の各態様に係る発光装置100を利用した電子機器について説明する。図15ないし図17には、発光装置100を表示装置として採用した電子機器の形態が図示されている。
【0068】
図15は、発光装置100を採用したモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。パーソナルコンピュータ2000は、各種の画像を表示する発光装置100と、電源スイッチ2001やキーボード2002が設置された本体部2010とを具備する。発光装置100は有機EL素子を発光素子Eとして使用しているので、視野角が広く見易い画面を表示できる。
【0069】
図16は、発光装置100を適用した携帯電話機の構成を示す斜視図である。携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001およびスクロールボタン3002と、各種の画像を表示する発光装置100とを備える。スクロールボタン3002を操作することによって、発光装置100に表示される画面がスクロールされる。
【0070】
図17は、発光装置100を適用した携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistants)の構成を示す斜視図である。情報携帯端末4000は、複数の操作ボタン4001および電源スイッチ4002と、各種の画像を表示する発光装置100とを備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった様々な情報が発光装置100に表示される。
【0071】
なお、本発明に係る発光装置が適用される電子機器としては、図15から図17に例示した機器のほか、デジタルスチルカメラ、テレビ、ビデオカメラ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、プリンタ、スキャナ、複写機、ビデオプレーヤ、タッチパネルを備えた機器等などが挙げられる。また、本発明に係る発光装置の用途は画像の表示に限定されない。例えば、電子写真方式の画像形成装置において露光により感光体ドラムに潜像を形成する露光装置としても本発明の発光装置は利用される。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施の形態に係る発光装置のブロック図である。
【図2】画素回路の回路図である。
【図3】発光装置の動作のタイミングチャートである。
【図4】初期化期間における画素回路の様子を示す回路図である。
【図5】補償期間における画素回路の様子を示す回路図である。
【図6】書込期間内の動作期間の開始の直後における画素回路の様子を示す回路図である。
【図7】駆動期間における画素回路の様子を示す回路図である。
【図8】対比例における階調電位と駆動電流の誤差との相関を示すグラフである。
【図9】動作期間の時間長と駆動電流の誤差との相関を示すグラフである。
【図10】階調電位と動作期間の時間長との相関を示すグラフである。
【図11】実施形態の効果を説明するためのグラフである。
【図12】階調値と駆動電流との相関を示すグラフである。
【図13】変形例に係る画素回路の回路図である。
【図14】変形例に係る画素回路の部分的な回路図である。
【図15】電子機器(パーソナルコンピュータ)の斜視図である。
【図16】電子機器(携帯電話機)の斜視図である。
【図17】電子機器(携帯情報端末)の斜視図である。
【符号の説明】
【0073】
100……発光装置、10……素子部、12……走査線、14……信号線、16……給電線、22,24……制御線、28……給電線、30……駆動回路、32……走査線駆動回路、34……信号線駆動回路、36……電位制御回路、40……単位回路、U……画素回路、TDR……駆動トランジスタ、TSL……選択スイッチ、TCR1,TCR2……制御スイッチ、E……発光素子、H(H[i])……水平走査期間、PRS……初期化期間、PCP……補償期間、PWR……書込期間、PA……動作期間、PDR……駆動期間、VDATA……階調電位。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に直列に接続された発光素子および駆動トランジスタと、前記発光素子と前記駆動トランジスタとの間の経路と前記駆動トランジスタのゲートとの間に介在する保持容量と、前記駆動トランジスタのゲートと信号線との間に直列に接続された選択スイッチおよび第1制御スイッチとを含む画素回路を駆動する方法であって、
補償期間において、前記保持容量の両端間の電圧を前記駆動トランジスタの閾値電圧に漸近させ、
前記補償期間の経過後の書込期間において、当該画素回路に指定された階調値に応じた階調電位を前記信号線に供給するとともに前記選択スイッチをオン状態に制御し、前記書込期間のうち当該階調値に応じて可変に設定された時間長の動作期間にて前記第1制御スイッチをオン状態に制御することで、前記駆動トランジスタのゲートの電位を前記階調電位に応じて変化させるとともに前記保持容量の両端間の電圧を前記駆動トランジスタの閾値電圧に漸近させ、
前記書込期間の経過後の駆動期間において、前記駆動トランジスタのゲートに対する電位の供給を停止することで、前記保持容量の両端間の電圧に応じた駆動電流を前記発光素子に供給する
画素回路の駆動方法。
【請求項2】
前記書込期間において前記階調電位を供給したときの前記保持容量の両端間の電圧の変化量が大きいほど前記動作期間の時間長が短くなるように、当該画素回路に指定された階調値に応じて前記動作期間の時間長を可変に設定する
請求項1の画素回路の駆動方法。
【請求項3】
前記書込期間において前記階調電位を供給したときの前記保持容量の両端間の電圧の変化量と前記動作期間の時間長との乗算値が所定値に近づくように、当該画素回路に指定された階調値に応じて前記動作期間の時間長を可変に設定する
請求項2の画素回路の駆動方法。
【請求項4】
前記補償期間において、前記信号線とは別の給電線から前記駆動トランジスタのゲートに基準電位を供給する
請求項1から請求項3の何れかの画素回路の駆動方法。
【請求項5】
相互に直列に接続された発光素子および駆動トランジスタと、前記発光素子と前記駆動トランジスタとの間の経路と前記駆動トランジスタのゲートとの間に介在する保持容量と、前記駆動トランジスタのゲートと信号線との間に直列に接続された選択スイッチおよび第1制御スイッチとを含む画素回路と、
前記画素回路を駆動する駆動回路とを具備し、
前記駆動回路は、
補償期間において、前記保持容量の両端間の電圧を前記駆動トランジスタの閾値電圧に漸近させ、
前記補償期間の経過後の書込期間において、当該画素回路に指定された階調値に応じた階調電位を前記信号線に供給するとともに前記選択スイッチをオン状態に制御し、前記書込期間のうち当該階調値に応じて可変に設定された時間長の動作期間にて前記第1制御スイッチをオン状態に制御することで、前記駆動トランジスタのゲートを前記階調電位に応じて変化させるとともに前記保持容量の両端間の電圧を前記駆動トランジスタの閾値電圧に漸近させ、
前記書込期間の経過後の駆動期間において、前記駆動トランジスタのゲートに対する電位の供給を停止することで、前記保持容量の両端間の電圧に応じた駆動電流を前記発光素子に供給する
発光装置。
【請求項6】
前記画素回路は、前記駆動トランジスタのゲートと基準電位が供給される給電線との間に介在する第2制御スイッチを含み、
前記駆動回路は、前記補償期間にて前記第2制御スイッチをオン状態に制御し、前記書込期間にて前記第2制御スイッチをオフ状態に制御する
請求項5の発光装置。
【請求項7】
相互に直列に接続された発光素子および駆動トランジスタと、
前記発光素子と前記駆動トランジスタとの間の経路と前記駆動トランジスタのゲートとの間に介在する保持容量と、
階調値に応じた階調電位が供給される信号線と、
前記駆動トランジスタのゲートと前記信号線との間に直列に接続された選択スイッチおよび第1制御スイッチと、
前記選択スイッチを制御する走査信号が供給される走査線と、
前記第1制御スイッチを制御する制御信号が供給される制御線と、
前記階調電位を前記信号線に供給する期間のうちの少なくとも書込期間において、前記選択スイッチがオン状態となるように前記走査信号を前記走査線に供給し、前記書込期間のうち前記第1制御スイッチがオン状態となる動作期間が、前記階調値に応じて可変に設定された時間長となるように、前記制御信号を前記制御線に供給する駆動回路と
を具備する発光装置。
【請求項8】
前記信号線および前記制御線は、前記走査線の延在の方向とは交差する方向に延在する
請求項7の発光装置。
【請求項9】
請求項5から請求項8の何れかの発光装置を具備する電子機器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−60868(P2010−60868A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226736(P2008−226736)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】