説明

異型長尺成形体の熱処理方法

【課題】異型長尺成形体を押出成形等の熱成形した際に成形体に残存する応力を緩和する異型長尺成形体の熱処理方法を提供する。
【解決手段】熱成形された熱可塑性樹脂異型長尺成形体を、異型長尺成形体表面温度が該熱可塑性樹脂のガラス転移温度−20℃〜ガラス転移温度+20℃になるまで赤外線ヒータで急速加熱した後、該熱可塑性樹脂のガラス転移温度−20℃〜ガラス転移温度+20℃に設定されている加熱槽に供給しアニールすることを特徴とする異型長尺成形体8の熱処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異型長尺成形体の熱処理方法、特に雨樋のような長尺成形体を押出成形等の熱成形した際に成形体に残存する応力を緩和する熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂は耐水性、難燃性、機械的特性等が優れ、且つ価格が比較的安価であるので、建築部材の材料として広く使用されている。例えば、雨樋は、一般的に硬質塩化ビニル系樹脂を押出成形により成形している。
【0003】
しかし、硬質塩化ビニル系樹脂を押出成形により成形すると、成形体に応力が残存し経時により変形するという欠点があった。そのため、一般に、成形後長時間比較的低温で保持するというアニールが行われていたが、比較的低温で保持するというアニールでは長時間がかかり、押出成形するインラインで短時間でアニールすることが望まれていた。
【0004】
しかしながら、短時間でアニールするには高温で処理する必要があり、高温で処理すると熱により成形体が変形するという欠点があり、変形を抑えるために型に入れて規制してアニールするとその規制により、新たな応力が残存するという欠点があった。
【0005】
一方、硬質塩化ビニル系樹脂成形体の線膨張係数は7.0×10-5(1/℃)と大きいので、硬質塩化ビニル系樹脂製雨樋を設置する際には、雨樋の伸縮を吸収しうる継手で接続したり、端部をフリーにしたりする必要があったが、施工される雨樋全体の長さが長くなると、継手や落とし口が多くなり、外観が悪いという欠点があった。
【0006】
そのため、線膨張係数の低い雨樋の検討が種々なされている。例えば、例えば、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+20℃の温度の一対のロール間を通して引抜き延伸した後、該ロールの温度より高い温度で一軸延伸して得られた、線膨張率が−1.5×10-5以上0未満であり、引張弾性率が8〜15GPaの熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの両面に熱可塑性樹脂層が積層されていることを特徴とする積層成形体(例えば、特許文献1参照。)が提案されている。
【特許文献1】特開2006−306012号公報
【0007】
上記熱可塑性ポリエステル系樹脂シート及び熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの両面に熱可塑性樹脂層が溶融押出被覆された積層成形体は線膨張係数が低いけれども、製造する際の残留応力が存在するので、経時により変形するという欠点を有していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記欠点に鑑み、異型長尺成形体を押出成形等の熱成形した際に成形体に残存する応力を緩和する異型長尺成形体の熱処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の異型長尺成形体の熱処理方法は、熱成形された熱可塑性樹脂異型長尺成形体を、異型長尺成形体表面温度が該熱可塑性樹脂のガラス転移温度−20℃〜ガラス転移温度+20℃になるまで赤外線ヒータで急速加熱した後、該熱可塑性樹脂のガラス転移温度−20℃〜ガラス転移温度+20℃に設定されている加熱槽に供給しアニールすることを特徴とする。
【0010】
本発明で使用される熱可塑性樹脂としては、延伸可能な任意の熱可塑性樹脂が使用可能であり、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等のオレフィン系樹脂、塩化ビニル樹脂、熱可塑性ポリエステル系樹脂等が挙げられるが、線膨張係数が小さく、軽量で、耐衝撃性、耐久性等に優れた熱可塑性ポリエステル系樹脂が好ましい。
【0011】
上記熱可塑性樹脂異型長尺成形体は熱成形されたものであれば特に限定されず、熱可塑性樹脂がオレフィン系樹脂、塩化ビニル樹脂等の場合は、一般に溶融押出成形された長尺成形体であり、例えば、雨樋、パイプ、サッシ等があげられる。
【0012】
熱可塑性樹脂が熱可塑性ポリエステル系樹脂の場合は溶融押出成形された長尺成形体であってもよいが、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを加熱変形した異型長尺成形体が好ましい。上記延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法は、特に限定されるものではないが、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度±20℃の温度で引抜延伸した後、引抜延伸温度より高い温度で総延伸倍率が3〜8倍に一軸延伸した延伸シートが好ましい。
【0013】
上記熱可塑性ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリグリコール酸、ポリ(L−乳酸)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート/ヒドロキシバリレート)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート/乳酸、ポリブチレンサクシネート/カーボネート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレナジペート/テレフタレート、ポリブチレンサクシネート/アジペート/テレフタレート等が挙げられ、耐熱性の優れたポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0014】
上記熱可塑性ポリエステル系樹脂の極限粘度は、低すぎるとシート作成時にドローダウンを起こしやすく、高すぎると、延伸しても機械的強度(特に弾性率)が上昇しないので、0.6〜1.0が好ましい。
【0015】
熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚みは特に限定されないが、0.1mm未満では、延伸後のシート厚みが薄くなりすぎ、取扱いに際しての強度が十分な大きさとならないことがあり、5mmを超えると延伸が困難となることがあるので0.1〜5mmが好ましい。
【0016】
上記延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは非晶状態である。延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは非晶状態であればよく、その結晶化度は特に限定されるものではないが、示差走査熱量計で測定した結晶化度が10%未満あることが好ましく、より好ましくは5%未満である。
【0017】
上記非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの引抜延伸する方法は、特に限定されず所定のクリアランスを有する引抜金型を通して引抜延伸してもよいが、一対のロール間を通して引抜延伸するのが、延伸後の厚みを自由にコントロールでき、又、引抜金型の特定部位の磨耗が生じることがないので好ましい。
【0018】
引抜延伸する際の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの温度は、特に限定されるものではないが、ガラス転移温度付近の温度に予熱されているのが好ましい。予熱温度は、低すぎても高すぎても熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが所定の温度にならないことがあるので、熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+10℃の温度が好ましい。
【0019】
上記引抜延伸する際の温度は、低温であると熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが硬すぎて、引抜こうとしても先に切断されてしまうことがあり、切断されなくてもシートにボイドができて白化してしまうなどの問題があり、逆に、高温になると熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが柔らかくなりシートを引抜く張力によりシートが切断されるので、熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度±20℃の温度範囲であり、好ましくは熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度〜熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+10℃の温度範囲である。
【0020】
又、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを引抜く際に、ロールは回転している必要はないが、特に熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚みが厚い場合には、せん断発熱によるロールの蓄熱に起因するシートの温度上昇が生じやすいため、引抜方向に回転させるのが好ましい。
【0021】
ロールの回転速度が遅いと、ロールと熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの接触時間が長くなり、摩擦熱が発生し、ロール温度が上昇して、加熱された熱可塑性ポリエステル系樹脂を冷却する効果が低下し、所定の引抜延伸温度を超えてしまい、逆にロールの回転速度が早くなると、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの表面の熱可塑性ポリエステル系樹脂のみが流動し、均一に引抜延伸できなくなり、得られた引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの弾性率が低下する。
【0022】
従って、ロールの回転速度は熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを同一条件の引抜速度でロールが回転していない状態で引き抜いた際の送り速度と実質的に同一又はそれ以下の速度が好ましい。
【0023】
又、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さが厚い(1.5mm以上)場合は、ロールとシートとのせん断による発熱が大きくなるため、ロールの回転速度は上記送り速度の50〜100%が好ましい。また、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さが薄い場合は、ロールによる冷却効果が大きいのでロールの回転速度は遅くてもよい。
【0024】
上記引抜延伸の延伸倍率は、特に限定されるものではないが、延伸倍率が低いと、引張強度、引張弾性率に優れたシートが得られず、高くなると延伸時にシートの破断が生じやすくなるので、2〜9倍が好ましく、より好ましくは2.5〜7倍である。
【0025】
引抜延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを引抜延伸の温度より高い温度で一軸延伸する。引抜延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのポリエステル系樹脂は、延伸の阻害要因となる熱による等方的な結晶化及び配向が抑えられた状態で分子鎖は高度に配向しているので強度及び弾性率が優れているが結晶化度は低いので、加熱されると配向は容易に緩和され弾性率は低下してしまうという欠点を有している。
【0026】
しかし、この引抜延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該引抜延伸の温度より高い温度で一軸延伸することにより配向が緩和されることなく結晶化度が上昇し、加熱されても配向が容易に緩和されない耐熱性の優れた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが得られる。
【0027】
上記一軸延伸する方法としてはロール延伸法が好適に用いられる。ロール延伸法とは、速度の異なる2対のロール間に延伸原反を挟み、延伸原反を加熱しつつ引っ張る方法であり、一軸方向のみに強く分子配向させることができる。
【0028】
上記一軸延伸する際の温度は、引抜延伸の温度より高い温度であればよいが、高すぎると一次延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが溶融して切断されるので、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度〜融解ピークの立ち上がり温度の温度範囲が好ましい。
【0029】
尚、ポリエチレンテレフタレートの結晶化ピークの立ち上がり温度は約120℃であり、融解ピークの立ち上がり温度は約230℃である。従って、ポリエチレンテレフタレートシートを一軸延伸する際は約120℃〜約230℃で一軸延伸するのが好ましい。
【0030】
上記一軸延伸の延伸倍率は、特に限定されるものではないが、延伸倍率が低いと、引張強度、引張弾性係数等の優れたシートが得られず、高くなると延伸時にシートの破断が生じやすくなるので、1.05〜3倍が好ましく、さらに好ましくは1.1〜2倍である

【0031】
又、引抜延伸と一軸延伸の総延伸倍率は引抜延伸倍率と一軸延伸倍率の積であり、小さすぎても大きすぎても線膨張係数の絶対値が大きくなるので2.5〜10倍が好ましく、より好ましくは3〜8倍である。
【0032】
一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの耐熱性を向上させるために一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一軸延伸温度より高い温度で熱固定するのが好ましい。
【0033】
熱固定温度は、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度より低いと熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化が進まないので耐熱性が向上せず、融解ピークの立ち上がり温度より高いと熱可塑性ポリエステル系樹脂が溶解して延伸(配向)が消滅し引張弾性率、引張強度等が低下し、一軸延伸温度より30℃以上高くなると、一軸延伸温度で結晶化した結晶の配向が緩和されるので、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度〜融解ピークの立ち上がり温度であって、一軸延伸温度より30℃以上高くない温度が好ましい。
【0034】
又、熱固定する際に、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに大きな張力がかかっていると延伸され、張力がかかっていないか、非常に小さい状態では収縮するので、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの延伸方向の長さが実質的に変化しないようにした状態で行うことが好ましく、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに圧力もかかっていないのが好ましい。
【0035】
即ち、熱固定された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さが、熱固定前の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さの0.95〜1.1で、一軸延伸倍率より低い倍率になるように熱固定するのが好ましい。従って、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをピンチロール等のロールで加熱室内を移動しながら連続的に熱固定する場合は、入口側と出口側の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの送り速度比を0.95〜1.1になるように設定して熱固定するのが好ましい。
【0036】
熱固定する際の加熱方法は、特に限定されるものではなく、例えば、熱風、ヒーター等で加熱する方法があげられる。熱固定する時間は、特に限定されず、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さや熱固定温度により異なるが、一般に10秒〜10分が好ましい。
【0037】
更に、上記熱固定された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、ガラス転移温度〜昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度の範囲で、実質的に張力がかからない状態でアニールするのが好ましい。アニールすることにより、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは弾性率等の力学的物性が良好であって、ガラス転移温度以上の温度に加熱されても弾性率等の力学的物性が低下することがなく、且つ、収縮率を低く抑えることができる。
【0038】
又、アニールする際に、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに大きな張力がかかっていると延伸されるので、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに実質的に張力がかからない状態でアニールするのが好ましい。即ち、アニールされた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さが、アニール前の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さの1.0以下になるようにアニールするのが好ましい。
【0039】
従って、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをピンチロール等のロールで加熱室内を移動しながら連続的にアニールする場合は、入口側と出口側の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの送り速度比を1.0以下になるように設定してアニールするのが好ましい。
【0040】
アニールする際の加熱方法は、特に限定されるものではなく、例えば、熱風、ヒーター等で加熱する方法があげられる。アニールする時間は、特に限定されず、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さやアニール温度により異なるが、一般に10秒以上が好ましく、より好ましくは30秒〜60分であり、更に好ましくは1〜20分である。
【0041】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが衝撃により延伸方向に沿って割れや亀裂が発生しないように保護すると共に、ポリエステル系樹脂が直接雨水や太陽光線に曝されて加水分解や劣化を受け耐久性が低下することを防ぐために、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに熱可塑性樹脂を溶融押出被覆してもよい。熱可塑性樹脂を被覆すると、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの線膨張係数の絶対値が上昇するので、0.1〜3mm程度の薄い層にするのが好ましい。熱可塑性樹脂の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートへの溶融押出被覆は、平板状の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに行ってもよいし、異型長尺成形体を製造した後に行ってもよい。
【0042】
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、硬質塩化ビニル樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、スチレン樹脂、AS樹脂、メチルメタクリレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等が挙げられる。
【0043】
上記長尺延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートから異型長尺成形体を製造する方法は特に限定されず、例えば、長尺延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを所定形状のスリットが形成されている複数の加熱プレートのスリットを通過させて延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを賦形する方法があげられる。
【0044】
上記プレートとしては、プレートのスリット形状が上流から下流方向に行くに従って、平面形状から次第に異型長尺成形体の断面形状になされている。即ち、一つのプレート(のスリット)を通過するたびに長尺延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは少しずつ変形され、最後のプレート(のスリット)を通過した際に、製造すべき異型長尺成形体の形状になるように設定されている。
【0045】
上記の場合は長尺延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの変形する位置のみを変形可能に加熱するのが好ましい。言い換えると、プレートのスリットを通過させることにより、スリットの形状に沿うように賦形するのであり、賦形する位置のみを変形可能に加熱する。加熱方法は特に限定されず、従来公知の任意の加熱方法が使用でき、例えば、長尺延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの賦形する位置のみのノズルから熱風を吹付ける方法、長尺延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの賦形する位置のみに接触するようになされた加熱ロールを長尺延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに押し付ける方法等が挙げられる。尚、上記加熱は加熱槽内で長尺延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート全体を適度に加熱しながら行ってもよい。
【0046】
本発明においては、上記熱成形された熱可塑性樹脂異型長尺成形体を、異型長尺成形体表面温度が該熱可塑性樹脂のガラス転移温度−20℃〜ガラス転移温度+20℃になるまで赤外線ヒータで急速加熱した後、該熱可塑性樹脂のガラス転移温度−20℃〜ガラス転移温度+20℃に設定されている加熱槽に供給しアニールする。
【0047】
アニールは熱成形された熱可塑性樹脂異型長尺成形体に残存する応力を緩和し取除くための処理であるから、熱可塑性樹脂異型長尺成形体全体の温度を均一にして行なうのが好ましい。しかし、赤外線ヒータで加熱する場合は熱可塑性樹脂異型長尺成形体の表面から加熱され、成形体中心を所定温度に加熱できたときには表面は高温になって変形することがあり、熱風により加熱槽内で加熱する場合は熱可塑性樹脂異型長尺成形体の中心まで加熱するには長時間かかり、加熱槽を長くする必要があり、実務上インラインではアニールすることはできない。従って、本発明においては、インラインで熱可塑性樹脂異型長尺成形体を均一に加熱してアニールすることができるように、熱成形された熱可塑性樹脂異型長尺成形体を、異型長尺成形体表面温度が該熱可塑性樹脂のガラス転移温度−20℃〜ガラス転移温度+20℃になるまで赤外線ヒータで急速加熱した後、該熱可塑性樹脂のガラス転移温度−20℃〜ガラス転移温度+20℃に設定されている加熱槽に供給してアニールする。
【0048】
熱可塑性樹脂異型長尺成形体の赤外線ヒータによる加熱方法は特に限定されるものではなく、例えば、赤外線ヒータ、遠赤外線ヒータ等の赤外線ヒータが上下左右に設置された加熱槽に熱可塑性樹脂異型長尺成形体供給し、通過させることにより行なわれる。又、異型長尺成形体のアニールは該熱可塑性樹脂のガラス転移温度−20℃〜ガラス転移温度+20℃で行なう必要があるので、異型長尺成形体表面温度が該熱可塑性樹脂のガラス転移温度−20℃〜ガラス転移温度+20℃になるまで赤外線ヒータで急速加熱する。
【0049】
次いで、表面が熱可塑性樹脂のガラス転移温度−20℃〜ガラス転移温度+20℃に加熱された熱可塑性樹脂異型長尺成形体を熱可塑性樹脂のガラス転移温度−20℃〜ガラス転移温度+20℃に設定されている加熱槽に供給しアニールするのであるが、アニールは全体が一定温度で行われるのが好ましいので、熱風で加熱されている加熱槽で行うのが好ましい。
【0050】
又、熱可塑性樹脂異型長尺成形体に荷重が掛かると残留応力が発生するので、実質的に張力がかからない状態でアニールするのが好ましい。即ち、加熱槽内に異型長尺成形体の側面及び底面にフィットするガイドロールを設置し、該ガイドロールで保持しながら移送してアニールするのが好ましい。こうすることにより、異型長尺成形体に荷重はかからないし、異型長尺成形体が外側方向及び下側方向に変形することは抑止されるが、異型長尺成形体が内側方向や長さ方向に収縮しようとする力の邪魔をしないので、異型長尺成形体はアニールする際に変形せず、得られた異型長尺成形体は残留応力が残ることなく緩和されアニールされる。
【0051】
異型長尺成形体はアニールすることにより残留応力が緩和されるので、弾性率等の力学的物性が良好であって、ガラス転移温度近傍の温度に加熱されても弾性率等の力学的物性が低下することがなく、且つ、収縮率が低く抑えられる。
【0052】
アニールする時間は、特に限定されず、異型長尺成形体の厚さやアニール温度により異なるが、一般に5〜60秒が好ましい。
【発明の効果】
【0053】
本発明の異型長尺成形体の熱処理方法の構成は上述の通りであり、異型長尺成形体を押出成形等の熱成形した際に成形体に残存する応力をインラインで容易に緩和することができ、緩和された異型長尺成形体は弾性率等の力学的物性が良好であって、ガラス転移温度以上の温度に加熱されても弾性率等の力学的物性が低下することがなく、且つ、収縮率が低く抑えられている。特に、長尺延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートから得られた異型長尺成形体は線膨張係数が小さく、軽量で、耐衝撃性、耐久性、作業性等が優れており、雨樋、サッシ等の内装及び外装建材として好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
次に、図面を参照しながら、詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。図1は本発明の異型長尺成形体の熱処理方法の一例を示す平面図である。
【0055】
図中1は長さ方向に延伸されている長尺熱可塑性樹脂シートであり、賦形装置2に供給され角樋状に成形される。角樋状に成形された後金型3に供給され、押出機4から供給された熱可塑性樹脂が周囲に積層され、サイジング5で形状が整えられ、次いで、遠赤外線ヒータが上壁、下壁及び側壁に設置された箱状の第1の加熱槽6に供給され、角樋状に成形された長尺熱可塑性樹脂シートは表面温度が該熱可塑性樹脂のガラス転移温度−20℃〜ガラス転移温度になるまで赤外線ヒータで急速加熱される。次に、熱可塑性樹脂のガラス転移温度−20℃〜ガラス転移温度になるまで急速加熱された角樋状に成形された長尺熱可塑性樹脂シートは第2の加熱槽7に送られ、加熱されアニールされて角樋状の異型長尺成形体8が得られる。尚、異型長尺成形体9を引取るために、サイジング5と加熱槽6の間又は加熱槽7より下流側に引取り装置を設置してもよい。
【0056】
図2は第2の加熱槽の一例を示す説明図であり、図3はガイドロールの一例を示す説明図である。加熱槽7は箱状であり、上流側に異型長尺成形体入口71、下流側に異型長尺成形体出口72、側壁に熱風供給装置(図示せず)に接続されている。又、加熱槽7内には異型長尺成形体8を保持しながら移送しうるガイドロール9、9・・・が設置されている。ガイドロール9は水平な軸部と軸部の両端に立設されたフランジ部よりなる底面用ガイドロ−ル91と棒状の側面用ガイドロール92、92よりなる。
【0057】
側面用ガイドロール92、92は底面用ガイドロ−ル91の軸部とフランジ部で形成される溝内にフランジ部に沿って立設されており、底面用ガイドロ−ル91及び側面用ガイドロール92、92はそれぞれ異型長尺成形体8の送り方向へ自由回転するようになされている。又、底面用ガイドロ−ル91は異型長尺成形体8の底面にフィットして異型長尺成形体8を保持し、側面用ガイドロール92、92は異型長尺成形体8の側面にフィットして異型長尺成形体8の側面に荷重をかけることなく保持するようになされている。
【0058】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート(ユニチカ社製、商品名「NEH−2070」、極限粘度0.88)を溶融押出成形した後急冷して得られた厚さ2.5mmのポリエチレンテレフタレートシート(結晶化度1.3%)を延伸装置(協和エンジニアリング社製)に供給し、80℃に予熱した後、74℃に加熱された一対のロール(ロール間隔0.6mm)間を2m/minの速度で引抜いて引抜延伸し、更に熱風加熱槽中でポリエチレンテレフタレートシート表面温度を180℃に加熱し、出口速度2.5m/minに設定してロール延伸して、延伸倍率が約4倍の延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。
【0059】
尚、上記ポリエチレンテレフタレートシートのガラス転移温度は76.7℃、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での結晶化ピークの立ち上がり温度は約118℃であり、融解ピークの立ち上がり温度は約230℃であった。
【0060】
得られた延伸ポリエチレンテレフタレートシートを、ピンチロールが設置され、200℃に設定されているライン長10mの熱風加熱槽に、入口速度2.5m/minで供給し、出口速度2.75m/minに設定して熱固定を行い、熱固定された延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。熱固定された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さが、熱固定前の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さの1.00倍であった。
【0061】
熱固定された延伸ポリエチレンテレフタレートシートを、ピンチロールが設置され、90℃に設定されているライン長14mの熱風加熱槽に、入口速度2.75m/minで供給し、出口速度2.7m/minに設定してアニールを行い、アニールされた延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。アニールされた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さが、アニール前の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さの0.98倍であった。
【0062】
上記装置を使用し、得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを長尺熱可塑性樹脂シート1として使用して角樋状の異型長尺成形体8を得た。押出機4から金型に塩化ビニル樹脂(徳山積水社製、商品名「TS1000R」)を200℃で溶融押出被覆して、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート両面に厚さ0.5mmの塩化ビニル樹脂層を積層した。
【0063】
第2の加熱槽7には熱風供給装置から75℃の熱風を10m3 /分供給し、槽内温度を75℃に保ち、異型長尺成形体を1.2m/分の速度で引取て20秒間アニールした。得られた異型長尺成形体を75℃の恒温槽に放置し、24時間後及び300時間後の収縮率を測定したところ、0.15%及び0.20%であった。又、アニールが設置されていない装置で同様に24時間後及び300時間後の収縮率を測定したところ、収縮率は0.55%及び0.65%であった。尚、加熱収縮率の測定方法は、得られた異型長尺成形を、23℃、50%RHで0.5時間保持した後の長さをマイクロスコープで測定し、加熱処理後、同様に測定し、その差から計算した。
【0064】
又、得られた異型長尺成形体を用い、線膨張係数を測定したところ+1.45×10-5(/℃)であり、JIS K 7113の引張試験方法に準拠して23℃、50%RHで引張弾性率を測定したところ4.3GPaであった。尚、線膨張係数は、得られた異型長尺成形体を70℃の温風雰囲気下で1時間保持した後、Heガス雰囲気下にて、0℃の長さをマイクロメーターで測定し、次に60℃の長さをマイクロメータで測定し、その差から計算した。
【0065】
得られた異型長尺成形体の断面形状の変化率を測定したところ4.4%であり、又、第2の加熱槽7内にガイドロールが設置されていない装置で同様にして得られた異型長尺成形体の断面形状の変化率は15.0%であった。尚、断面形状の変化率の測定方法は、得られた異型長尺成形体の外径または内径(開口部)の距離をアニール前後で、ノギスにて測定した。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の異型長尺成形体の熱処理方法の一例を示す平面図である。
【図2】第2の加熱槽の一例を示す説明図である。
【図3】ガイドロールの一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0067】
1 長尺熱可塑性樹脂シート
2 賦形装置
3 金型
4 押出機
5 サイジング
6 第1の加熱装置
7 第2の加熱装置
8 異型長尺成形体
9 ガイドロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱成形された熱可塑性樹脂異型長尺成形体を、異型長尺成形体表面温度が該熱可塑性樹脂のガラス転移温度−20℃〜ガラス転移温度+20℃になるまで赤外線ヒータで急速加熱した後、該熱可塑性樹脂のガラス転移温度−20℃〜ガラス転移温度+20℃に設定されている加熱槽に供給しアニールすることを特徴とする異型長尺成形体の熱処理方法。
【請求項2】
加熱槽においては、加熱槽内に設置された、該長尺成形体の側面及び底面にフィットするロールで保持しながら移送してアニールすることを特徴とする請求項1記載の異型長尺成形体の熱処理方法。
【請求項3】
アニール時間が5〜60秒であることを特徴とする請求項1又は2記載の異型長尺成形体の熱処理方法。
【請求項4】
加熱槽が、温風により設定温度に加熱されていることを特徴とする請求項1、2又は3記載の異型長尺成形体の熱処理方法。
【請求項5】
異型長尺成形体が、雨樋であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の異型長尺成形体の熱処理方法。
【請求項6】
異型長尺成形体が、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートよりなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の異型長尺成形体の熱処理方法。
【請求項7】
異型長尺成形体が、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに熱可塑性樹脂が被覆されていることを特徴とする請求項6記載の異型長尺成形体の熱処理方法。
【請求項8】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度±20℃の温度で引抜延伸した後、引抜延伸温度より高い温度で総延伸倍率が3倍〜8倍に一軸延伸されたシートであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の異型長尺成形体の熱処理方法。
【請求項9】
非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの、示差走査熱量計で測定した結晶化度が10%未満であることを特徴とする請求項8記載の異型長尺成形体の熱処理方法。
【請求項10】
一対のロール間を通して引抜延伸を行うことを特徴とする請求項8又は9記載の異型長尺成形体の熱処理方法。
【請求項11】
非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+10℃の温度で予熱した後、引抜延伸することを特徴とする請求項10記載の異型長尺成形体の熱処理方法。
【請求項12】
熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、同一条件の引抜速度でロールが回転していない状態で引き抜いた際の送り速度と実質的に同一速度以下の速度で該ロールを引抜方向に回転させることを特徴とする請求項10又は11記載の異型長尺成形体の熱処理方法。
【請求項13】
一軸延伸温度が、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度〜融解ピークの立ち上がり温度であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項記載の異型長尺成形体の熱処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−195044(P2008−195044A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35656(P2007−35656)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】