説明

異常検出装置

【課題】 機械装置等の検査対象物の異常を検査対象物が発生する音または振動から検出する異常検出装置を提供する。
【解決手段】 正常時の検査対象物に発生する音と、検査対象物周辺から非定常時に発生する他の音を音響信号としてあらかじめ取り込み、これらからそれぞれ第1,第2逆フィルタ4e,4fを構成する。この状態で、通常作業中の検査対象物から発生する音から得た音響信号に第1逆フィルタ4eおよび第2逆フィルタ4fを作用させ、正常時の検査対象物から発生する音およびあらかじめ予想される他の音の影響を除くことができる。そのため、第2逆フィルタ4fの出力信号は対象検査物の異常音によるものに限定され、検査対象物の異常の有無を確実に検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エア漏れ検査を行う圧力容器、回転部を備えた機械装置等の検査対象物の異常を検査対象物が発生する音または振動から検出する異常検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機械装置等の異常の有無を検出する方法としては、特開平7−43259号公報に記載の異常検出装置が発明されている。この装置は、検査対象物が正常作動時に発生する音響信号をあらかじめ記憶し、この音響信号からその逆フィルタを構成しておき、検査対象物から音響信号を受信する度に、正常時の検査対象物の音、または振動を取り除き、異常時に発生する音または振動のみを検出し、この検出信号により検査対象物の異常を簡単に検出できるように構成されている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−43259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この異常検出装置では、検査対象物が正常時に発生する音響信号以外はすべて異常信号として検出されるため、非定常時に発生する音または振動の外乱の場合も、これを検査対象物の異常と誤判断してしまう等の欠点が生じている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題の解決を目的として本発明は、あらかじめ正常時の検査対象物から発生する音または振動を電気信号に変換し、この電気信号から第1逆フィルタを構成する一方、検査時に検査対象物から発生する音または振動に逆フィルタを作用させ、正常時に検査対象物から発生する音または振動以外の音または振動を検出するように構成した異常検出装置において、あらかじめ非定常時に検査対象物の周辺から発生する音または振動を電気信号に変換し、この電気信号から第2逆フィルタを構成しておき、第1逆フィルタの出力信号に第2逆フィルタを作用させ、非定常時に検査対象物の周辺から発生する音または振動を除くように構成されている。
【0006】
また、第2逆フィルタの出力信号が所定レベル以上で、しかも所定時間継続する時検査対象物の異常判定をするように構成してもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、正常時の検査対象物から発生する音または振動と、検査対象物周辺から非定常時に発生する他の音または振動とを音響信号あるいは振動信号としてあらかじめ取り込み、これらからそれぞれ第1,第2逆フィルタを構成した後、通常作業中の検査対象物から発生する音あるいは振動から得た音響信号あるいは振動信号に第1逆フィルタを作用させ、正常時の検査対象物から発生する音または振動から得られる音響信号あるいは振動信号を除いた第1逆フィルタの出力信号を得ることができる。さらに、この第1逆フィルタの出力信号に第2逆フィルタを作用させ、あらかじめ予想される非定常時に発生する他の音あるいは振動の影響を除くことができる。そのため、第2逆フィルタを通過する第2逆フィルタの出力信号は対象検査物の異常音または異常振動によるものに限定されるので、その有無によって検査対象物の異常の有無を検出することができる。また、異常音または異常振動の有無も、前記第2逆フィルタの出力信号が所定レベル以上、所定時間以上継続する場合に、検査対象物の異常音あるいは異常振動と判断するように構成しているため、あらかじめ予想された以外の単発的な騒音あるいは振動が生じても、その影響を排除することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。図1において、1は検査対象物の一例である圧力容器(図示せず)のエア漏れを検出する異常検出装置であり、圧力容器が1個宛搬送される検査位置近くに配置されている。この異常検出装置1は圧力容器の内部に高圧のエアを供給できるように構成されており、しかも圧力容器の通過を阻止しない位置で圧力容器周囲にマイクロフォン2が設置されている。このマイクロフォン2にはA/D変換部3を介して信号処理部4およびこれに接続された表示部5が設けられており、圧力容器周辺の音が電気信号の一例の音響信号としてマイクロフォン2から取り込まれるように構成されている。前記信号処理部4は、A/D変換部3でディジタル化された音響信号を取り込むように接続されたCPU4a,このCPU4aに接続された操作部4b、記憶部4cおよび外部記憶部4d、A/D変換部3に直列に接続された第1逆フィルタ4eおよび第2逆フィルタ4fからなっている。前記第1逆フィルタ4eおよび第2逆フィルタ4fはCPU4aにも接続されており、各逆フィルタ4e,4fに後記する正常音逆フィルタ係数、外乱音逆フィルタ係数をそれぞれ供給するとともに、各逆フィルタ4e,4fの出力信号がCPU4aで読み込み可能に構成されている。尚、この第2逆フィルタ4fは1個に限定されるものではなく、予測される非定常時の外乱の個数に応じて複数個設けてもよく、またこれらを直列あるいは並列に配置してもよい。また、マイクロフォン2は圧力容器の周囲の複数個所にあってもよく、この場合各マイクロフォン2に対応して前記異常検出装置1が設ければよい。
【0009】
前記操作部4bは正常音サンプリングモード、外乱音サンプリングモード、検査モード並びにデータ保存モードを選択できるように構成されている。前記記憶部4cは、一時記憶された各種データを記憶するように構成されている。また、外部記憶部4dは操作部4bでデータ保存モードが選択される時には、各検査時の音響信号等記憶部4cに記憶されたデータを記憶できるように構成されている。
【0010】
前記CPU4aは図2に示すように、正常音サンプリングモード時には、
1)周辺静寂時に高圧エア充填後のエア漏れのない圧力容器周辺の音を正常音音響信号として所定サンプリング時間取り込み、これを一時記憶する。
2)正常音音響信号からその線形予測係数を算出し、この係数から正常音逆フィルタ係数を算出する。
3)正常音逆フィルタ係数を第1逆フィルタにセットし、第1逆フィルタを構成する。
4)正常音逆フィルタ係数を記憶部で記憶する。
5)エンド
となるように構成されている。
【0011】
また、CPU4aは外乱音サンプリングモード時には、図3に示すように、
1)通常作業時に発生する騒音下で、高圧エア充填後のエア漏れのない圧力容器周辺で発生する音または発生すると予想される音を第1逆フィルタを介した外乱音音響信号として所定サンプリング時間取り込み、これを一時記憶する。
2)外乱音音響信号からその線形予測係数を算出し、この係数から外乱音逆フィルタ係数を算出する。
3)外乱音逆フィルタ係数を第2逆フィルタにセットし、第2逆フィルタを構成する。
4)外乱音逆フィルタ係数を記憶部で記憶する。
5)エンド
となるように構成されている。なお、第2逆フィルタ4fを複数個設置する場合、各外乱音を識別して取り込み、これを記憶するように構成してもよい。
【0012】
さらに、CPU4aは図4に示すように、検査モード時には、検査開始スイッチ(図示せず)がオンになると(検査時間計測開始、時間カウンタリセット)、
1)第2逆フィルタの出力信号を読み込み、記憶部に記憶する。
2)第2逆フィルタの出力信号からそのパワーの移動平均を求め、波形整形された検出信号を得る。
3)検出信号が所定レベル以上か否かを判断し、これが真でない時、7)にジャンプする。
4)時間カウンタを+1する。
5)時間カウンタが設定値に達したか否かを判断し、これが真でない時、8)にジャンプする。
6)異常音検出を記憶部に記憶するとともに、異常音検出表示信号を表示部に出力し、 10)にジャンプする。
7)時間カウンタをリセットする。
8)検査時間が所定時間に達したか否かを判断し、これが真でない時、1)に戻る。
9)正常音検出を記憶部に記憶するとともに正常音検出表示信号を表示部に出力する。
10)エンド
となるように構成されている。
【0013】
上記異常検出装置では、所定検査位置に圧力容器が搬送され、これに漏れ検出用の高圧エアが充填された後、操作部4bで正常音サンプリングモードが選択され、静寂時の圧力容器周辺の音が所定サンプリング時間取り込まれ、図5に示すように正常音音響信号(振幅ー時間関数)が検出される。この正常音音響信号からその線形予測係数が算出され、さらにこの線形予測係数から正常音逆フィルタ係数が算出され、これが第1逆フィルタ4eに送られるとともに、記憶部4cで記憶される。
【0014】
さらに、操作部4bで外乱音サンプリングモードが選択され、通常作業時の圧力容器周辺で非定常時に発生する音が所定サンプリング時間取り込まれ、図6に示すように外乱音音響信号(振幅ー時間関数)が検出される。この外乱音音響信号からその線形予測係数が算出され、この係数から外乱音逆フィルタ係数が算出されて第2逆フィルタ4fに送られるとともに、記憶部4cで記憶される。
【0015】
この状態で、操作部4bで検査モードが選択され、検査対象物の圧力容器が所定検査位置に搬送されてこれに漏れ検出用のエアが充填される、この間、圧力容器周辺の音がマイクロフォン2により音響信号として取り込まれ、この音響信号がA/D変換部3でディジタル化され、さらに第1逆フィルタ4eおよび第2逆フィルタ4fを通過する。その一方で、検出開始スイッチがオンになると、第2逆フィルタ4fの出力信号が読み込まれ(図7参照)、これが記憶部4cで記憶される。この時、第2逆フィルタ4fの出力信号は、第1逆フィルタ4eの作用により正常音音響信号が、また第2逆フィルタ4fの作用によりあらかじめ予想される非定常時の外乱音が発生している時にはこれが除かれる。
【0016】
この第2逆フィルタ4fの出力信号は、その値が読み込まれる都度、そのパワーの移動平均により図8に示すように波形整形された検査信号に変換される。この検査信号が所定レベル以上あり、しかも所定時間継続するか否かが判定され(時間カウンタ使用)、検査信号が所定レベル以上で所定時間継続する場合、エア漏れの異常として異常音検出が記憶部4cに記憶されるとともに、異常音検出が表示部5で表示される。
【0017】
また、前記検査信号が所定レベル以上で、これが所定時間継続しない時には、検査を開始してから所定時間経過すると、正常音検出が記憶部4cで記憶されるとともに、正常音検出が表示部5で表示される。
【0018】
なお、本実施態様では検査対象物は圧力容器に限定されているが、モータ等の回転機等他の機器にも適用することができ、この場合検査モード時には常時監視して異常検出のみを検出するようにすることもできる。また、本実施態様では音響信号に限定しているが、これを振動センサから得られる振動信号に対しても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の正常音サンプリングモード時の動作を説明するフローチャートで ある。
【図3】本発明の外乱音サンプリングモード時の動作を説明するフローチャートで ある。
【図4】本発明の検査モード時の動作を説明するフローチャートである。
【図5】本発明に係る正常音音響信号の波形図である。
【図6】本発明に係る外乱音音響信号の波形図である。
【図7】本発明に係る検査モード時の第1逆フィルタの出力信号の波形図である。
【図8】本発明に係る検査モード時の検査信号の波形図である。
【符号の説明】
【0020】
1 異常検出装置
2 マイクロフォン
3 A/D変換部
4 信号処理部
4a CPU
4b 操作部
4c 記憶部
4d 外部記憶部
4e 第1逆フィルタ
4f 第2逆フィルタ
5 表示部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
あらかじめ正常時の検査対象物から発生する音または振動を電気信号に変換し、この電気信号から第1逆フィルタを構成する一方、検査時に検査対象物から発生する音または振動に逆フィルタを作用させ、正常時に検査対象物から発生する音または振動以外の音または振動を検出するように構成した異常検出装置において、
あらかじめ非定常時に検査対象物の周辺から発生する音または振動を電気信号に変換し、この電気信号から第2逆フィルタを構成しておき、第1逆フィルタの出力信号に第2逆フィルタを作用させ、非定常時に検査対象物の周辺から発生する音または振動を除くように構成したことを特徴とする異常検出装置。
【請求項2】
第2逆フィルタの出力信号が所定レベル以上で、しかも所定時間継続する時検査対象物の異常判定をするように構成したことを特徴とする請求項1に記載の異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−47225(P2006−47225A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−231550(P2004−231550)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000227467)日東精工株式会社 (263)
【Fターム(参考)】