説明

異形杭装着治具、および複数型式の杭を打設する工法

【課題】 1台の杭打抜機によって、チャック装着を着脱することなく、複数種類の杭を把持して打ち抜きし得る技術を提供する。
【解決手段】 ハット形の杭を切り取って短杭状部6aを作製し、H型鋼杭5bを把持し得るように構成したチャック部6cに対して、フランジ継手6c,6dを介して同心状に連結固着する。図外の杭打抜機に備えられたハット形杭用のチャック(図外)によって前記短杭状部6aを把持するとともに、前記チャック部6bでH型鋼杭部5bを把持することによって該H型鋼杭(5b)を打ち抜きすることができる。前記ハット形杭用チャック(図外)によって直接的にハット形杭(図示省略)を把持すれば、該ハット形杭を打ち抜きすることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一の杭打抜機によって複数型式の杭を容易に打設し得るように改良した治具、および工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
杭打ち工事においては、複数種類の杭を打設しなければならない場合が、しばしば発生する。水底地盤または軟弱地盤に対して、多数の矢板を正確に配列して打設する場合も、その1例である。
図3は、杭を正確に列設する工事を説明するために示した模式的な平面図である。
図3(A)は、多数の鋼矢板1が、継手を組み合わせて列設されている。その整列を規制するため導枠2が用いられている。
図3(B)は、ハット形矢板3が配列されている例であって、その整列を導枠4で規制されている。
【0003】
平坦な通常地盤に杭を打設する場合、前記の導枠は地面の上に置きさえすれば良いのであるが、水底地盤に杭を打設する場合、および非常に軟弱な地盤に杭を打設する場合は、何らかの手段で導枠を支持しなければならない。
なお、矢板とは板状の杭をいい、単に杭という場合は矢板を含む概念である。
【0004】
図4は、水底地盤に杭を打設する場合、導枠を水面上に支持する手段を説明するために描いた模式図である。
符合4を付して示したのは導枠であり、(A)は平面図、(B)は正面図である。
導枠4を水面上に支持するため、導杭5と呼ばれる専用の杭が打設され、2本の導杭5,導杭5の上に導枠4が架け渡されている。
【0005】
図4(C)は前記導杭を描いた外観斜視図である。H型鋼杭部5bの上端部に、1対のアーム状部5aが溶接された構造である。
本例以外の構造の導杭も考えられるが、導枠によって規制される矢板(図3において符号1,3)と、導枠を支持する部材の支柱部分とは、互いに異なる型式の杭部材である。
【0006】
導枠の支持に関しては、特許文献1として挙げた特開平8−209652号「桟橋の施工方法」が公知である。
この発明は、跳ねだし架台と定規(導枠と同意)との干渉を防止するための施工手順に関するものであって、水面上に定規(導枠)を設置する点で本願発明に類似しているが、杭を打設するという構成は含まれていない。
【特許文献1】 特開平8−209652号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図4(C)に示した導杭5も、図3に示した鋼矢板1およびハット形矢板3も、共に杭であって、杭打抜機(図示せず)のチャックで把持して地盤に打入される。
ところか、鋼矢板1,ハット形矢板3と、H型鋼杭部5bとは、杭材として異なる型式であるから同一のチャックで把持することができない。
そこで従来、一般には2台の杭打抜機(図示省略)を用い、その内の1台はH型鋼杭用のチャックを備えたものとし、他の1台は鋼矢板用またはハット形矢板用のチャックを備えたものとした。
(注)図示の鋼矢板1はJISに規定されており、詳しくはU形鋼矢板であるが、業界の通例として単に鋼矢板と言えばU形鋼矢板を意味する。
【0008】
しかしながら、2台の杭打抜機を準備して交互に使用することは工事の経費を増加させる。
施工者がリース機を用いる場合はリース料金が高額となり、施工者が所有機を投入する場合は所有機械の稼働率が下がる。
こうした不具合を解消するため、杭打抜機の本体部分1個と、矢板用チャック1個と、H型鋼用チャック1個とを用いることも試みられた。即ち、1個の本体部分に対して2種類のチャックを着脱交換する工法である。
しかし、チャックの着脱交換を行なっている間、当該杭打抜機は作業を休止する。このため、杭の列設工事全体として工期が遅れてしまい、より多大な経済的損失を招いてしまうことになる。
【0009】
本発明は上述の事情に鑑みて為されたものであって、その第1の目的は、杭打抜機の稼働率を低下させることなく、1台の杭打抜機によって2種類の杭を打設し得る治具を提供することであり、第2の目的は、複数台の杭打抜機によって複数種類の杭を打設し得る治具を提供することであり、第3の目的は前記第1の目的を発展させて導枠式(定規式)の改良された杭打ち工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記第1の目的を達成するため、請求項1の発明は、杭打抜機に対して、該杭打抜機に本来備わっているチャックに適合しない特定の杭を装着する治具であって、
特定の杭を把持するチャック部と、上記特定の杭と異なる型式の杭に類似した断面形状を有する短杭状部とが、上下方向に同心に配置され、相互に一体的に結合されていることを特徴とする。
【0011】
前記第2の目的を達成するため、請求項2の発明は、前記チャック部と前記短杭状部との内、少なくとも片方が複数種類構成されており、
かつ、チャック部と短杭状部とが継手部材を介して相互に着脱・交換可能になっていることを特徴とする。
【0012】
前記第3の目的を達成するため、請求項3の発明方法は、水底地盤または軟弱地盤に、導枠の支柱となるべき特定型式の杭を打設し、上記支柱杭上に導枠を架橋状に搭載し、上記の導枠に倣って矢板を配列して打設する場合、
杭打抜機の矢板用チャックによって、請求項1の異形杭装着治具の短杭状部を把持するとともに、該異形杭装着治具のチャック部によって前記特定型式の杭を把持し、
前記杭打抜機によって前記特定型式の杭を打設して支柱を構築し、導枠を載架し、
杭打抜機の矢板用チャックによる短杭状部の把持を解放し、該矢板用チャックによって矢板を把持して、これを打設することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る異形杭装着治具を適用すると、杭打抜機に本来備わっているチャックを着脱交換する必要無く、該チャックに適合しない(型式,寸法の異なる)杭を把持して打ち抜きすることができる。
これにより、単一の杭打抜機によって2種類の杭を能率良く打ち抜きすることができ、杭打抜工事の費用低減および工期短縮に有効である。
【0014】
請求項2に係る発明を前記請求項1の発明に併せて適用すると、複数種類の短杭状部と複数種類のチャック部との組み合わせを任意に選定することができ、高い汎用性が得られる。
【0015】
請求項3の発明方法によると、1基の杭打抜機を用い、該1基の杭打抜機を構成しているチャックの着脱交換作業を必要とせず、支柱を打設し、導枠を置き、該導枠に倣って多数の矢板を打設し、さらに前記の支柱を抜き取ることもできる。すなわち、1連の導枠式杭打工事を1台の杭打抜機によって能率良く一貫して施工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は本発明に係る異形杭装着治具の1実施形態を模式的に描いた斜視図である。
本例の異形杭装着治具6は、ハット形鋼矢板を切断して作成した短杭状部6a(本例において長さ約80センチメートル)と、導杭5のH型鋼杭部5bに適合するチャック部6bとを、基準軸Zに合わせて連結固定してある。
本図1に示した導杭5は、前掲の図4(C)における導杭5と同様の部材である。
【0017】
異形杭装着治具6の短杭状部6aは、ハット形矢板(例えば、図3(B)における符号3の部材)の1部分であるから、杭打抜機本件に装着されているチャック(共に図外)によって別段の問題無く把持することができる。
さらに、本発明に係るチャック部6bによって導杭5のH型鋼杭部5bを把持すると、図外の杭打抜機と、短杭状部6aと、チャック部6bと、H型鋼杭部5bとが、基準軸Zに沿って同心に揃えられる。
【0018】
本図1に示した基準線Zとは、説明の便宜上の呼び名である。ただし、本発明において短杭状部とチャック部とを上下に同心に配置することは必須の構成要件であるから、以下に定義しておく。
上下とは、通常の使用状態における上下をいう。特殊な作業条件の場合に傾斜してもよい。
H型鋼杭部5bは、その機械的な形状の中心線が杭としての中心線である。
チャック部6bがH型鋼杭部5bを正常に把持した場合、該H型鋼杭部の中心線を以てチャック部6bの中心線とする。
【0019】
U字形矢板やチャック形矢板の中心線は難しいが、本発明においては「矢板の重心を通り、その長手方向に平行な仮想の線」を中心線と呼ぶことにする。このように定義した中心線は、実用上「杭の打ち込みに際して、該杭に掛かる各種の抵抗の合力の作用線」に近似する。
本発明を実施する場合、短杭状部6aとチャック部6bとを同心に並べることは基本的な構造であり、一般公差が許容される。また、故意に大きい誤差を与えてずらしても、本発明の技術的範囲を回避し得るものではない。
【0020】
前記短杭状部6aの下端にフランジ継手6cが溶接で固着されるとともに、チャック部6bの上端にフランジ継手6dが溶接で固着されており、両者はボルト7によって相互に結合されている。ボルト結合であるから分離させることも容易に可能である。
また、短杭状部6aとチャック部6bとの結合状態を、基準線Zを中心として相対的に回動させて固定することもできる。
本実施形態の短杭状部6aはハット形矢板を切り縮めて作成したが、U形矢板を切り縮めて作成することもできる。
【0021】
(図1と図3(B)とを併せて参照)図外の杭打抜機に備えられているハット形矢板用のチャックによって異形杭装着治具6の短杭状部6aを把持し、
該異形杭装着治具のチャック部6bによって導杭5のH型鋼杭部5bを把持し、該導杭5を打設する。
打設された導杭5の上に、図4(B)のごとく導枠4を架橋形に載置し、
短杭状部6aを把持していた前記ハット形矢板用チャック(図外)を、打設目的であるハット形矢板に持ち替えて図3(B)のように導枠に合わせて整列させて打設する。
打設目的であるハット形矢板を打ち込んだら、図外のクレーンで導枠4を吊り上げて除去する。
【0022】
打設目的であるハット形チャックを打ち終えたハット形矢板用チャック(図外)で短杭状部6aを把持するとともに、チャック部6bによって、最初に打設した導杭を把持してこれを抜き取る。
その後には、整列せしめられて打ち込まれた多数のハット形矢板の壁が構築されて残っている。
【0023】
図1を参照して説明したように、本発明に係る異形杭装着治具は、短杭状部とチャック部とを上下に同心に連結して成る。
上記短杭状部を複数種類準備するとともに、チャック部を複数種類準備しておくと汎用性が向上する。図2は、その例を描いた模式図である。
符号8を付して示したのは、小型ハット形杭を切り縮めて構成した小型ハット形短杭、符号9は大型ハット形杭を切り縮めて構成した大型ハット形短杭、符号10はU形矢板を切り縮めて構成した鋼矢板形短杭であって、いずれもフランジ継手6cの上に溶接固着されている。
【0024】
一方、符号6Sを付して示したのは一般的な構造の小形チャック部、符号6Lは一般的な構造の大形チャック部、6HLは大形のハット形矢板を把持するように作られた大型ハット形チャック部、6HSは小形のハット形矢板を把持するように作られた小型ハット形チャック部である。
上記4種類のチャック部(6S,6L,6HL,6HS)のそれぞれは、上端にフランジ継手6dを溶接固着されている。
以上述べた3種類の短杭と4種類のチャック部とは、それぞれフランジ継手を備えているので、8本の交差矢印a〜hで表されているように任意に組み合わせて結合することができ、組み替えることもできる。
【0025】
前記の小形チャック部6Sは小形H型鋼杭11を把持することができ、通常のU形鋼矢板1を把持することもできる。また、前記の大形チャック部6Lは大形H型鋼杭12を把持することができ、異形矢板(JIS規格外の矢板)13を把持することもできる。
さらに、前記大型ハット形チャック部6HLは大型ハット形矢板3Lを把持することができ、小型ハット形チャック部6HSは小型ハット形矢板3Sを把持することができる。
以上に挙げたのは本発明の実施形態の中の数例であるが、前記交差矢印a〜hの組み合わせ方が8通り有り、更にそれぞれのチャック部(6S,6L,6HL,6HS)が1種類もしくは複数種類の矢板を把持することができるので、これらの組み合わせ方の総数は非常に多い。
【0026】
図外の杭打抜機に装着されている本来の杭チャック(図示せず)が、小型ハット形矢板用であっても、大型ハット形矢板用であっても、通常の鋼矢板用(詳しくはU字形鋼矢板用)であっても、図2に示した3個の短杭(8,9,10)の内の何れかを把持することができる。
そして、把持した短杭に備えられているフランジ継手6cを、チャック部に固着されているフランジ継手6dに結合することによって、前記8本の交差矢印a〜hの組み合わせを利用して、複数種類の型式の矢板を把持し、これにより複数種類の型式・寸法の矢板を打ち抜くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】 本発明に係る異形杭装着治具の1実施形態を模式的に描いた斜視図に、導杭を付記した図。
【図2】 本発明の1実施形態における交換部材の組み合わせを描いた模式図。
【図3】 矢板の列を導枠(定規)で規制して整列させる公知技術を説明するための模式図。
【図4】 前掲の図3に示した導枠を水面上に支持する公知技術を説明するために示したもので、(A)は導枠の平面図、(B)は導枠を導杭で支持した状態の正面図、(C)は上記導杭の上端部を描いた斜視図。
【符号の説明】
【0028】
1…鋼矢板(詳しくはU形鋼矢板)
2…導枠
3…ハット形矢板
3L…大型ハット形矢板
3S…小型ハット形矢板
4…導枠
5…導杭
5a…アーム状部
5b…H型鋼杭部
6…異形杭装着治具
6a…短杭状部
6b…チャック部
6c,6d…フランジ継手
6HL…大型ハット形チャック部
6HS…小型ハット形チャック部
6L…大形チャック部
6S…小形チャック部
7…ボルト
8…小型ハット形短杭
9…大型ハット形短杭
10…鋼矢板形短杭
11…小形H型鋼杭
12…大形H型鋼杭
13…異板矢板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭打抜機に対して、該杭打抜機に本来備わっているチャックに適合しない特定の杭を装着する治具であって、
特定の杭を把持するチャック部と、上記特定の杭を異なる型式の杭に類似した断面形状を有する短杭状部とが、上下方向に同心に配置され、相互に一体的に結合されていることを特徴とする異形杭装着治具。
【請求項2】
前記チャック部と前記短杭状部との内、少なくとも片方が複数種類構成されており、
かつ、チャック部と短杭状部とが継手部材を介して相互に着脱・交換可能になっていることを特徴とする、請求項1に記載した異形杭装着治具。
【請求項3】
水底地盤または軟弱地盤に、導枠の支柱となるべき特定型式の杭を打設し、上記支柱杭上に導枠を架橋状に搭載し、上記の導枠に倣って矢板を配列して打設する工法において、
杭打抜機の矢板用チャックによって、請求項1の異形杭装着治具の短杭状部を把持するとともに、該異形杭装着治具のチャック部によって前記特定型式の杭を把持し、
前記杭打抜機によって前記特定型式の杭を打設して支柱を構築し、導枠を載架し、
杭打抜機の矢板用チャックによる短杭状部の把持を解放し、該矢板用チャックによって矢板を把持して、これを打設することを特徴とする、複数型式の杭を打設する工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−261192(P2008−261192A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126104(P2007−126104)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(391002122)調和工業株式会社 (43)
【Fターム(参考)】