説明

異形鉄筋用継手

【課題】 異形鉄筋が所定の位置まで挿入されていることを容易に人の目で確認でき、かつ、グラウト材による鉄筋との強固な接続が可能な異形鉄筋用継手を提供する。
【解決手段】 異形鉄筋用継手20は、鋳造により一体成形された筒状体30を備える。筒状体30が、鉄筋進入部40,40と、孔付き筒部42とを有している。鉄筋進入部40は、筒状体30の両端に設けられている。鉄筋進入部40に異形鉄筋が進入する。孔付き筒部42は、鉄筋進入部40の間に配置される。孔付き筒部42には検査孔が設けられている。異形鉄筋用継手は、検査孔に嵌め込まれる透明部材32をさらに備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異形鉄筋が所定の位置まで挿入されていることを容易に人の目で確認でき、かつ、グラウト材による鉄筋との強固な接続が可能な異形鉄筋用継手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、次に述べる異形鉄筋用継手を開示する。その異形鉄筋用継手は、鋳造により一体成形されている。その異形鉄筋用継手は、本体がその中央部分を厚肉にした筒状体とされている。その中央部分は多角形に成形されている。その中央部分には検査孔が設けられている。異形鉄筋用継手の本体内周部には螺旋状凹溝が形成されている。その螺旋状凹溝に、異形鉄筋の螺旋状突部を本体両端方向からねじ込むことが可能である。また本体両端部の外周に回転操作用工具の係合部が設けられている。
【0003】
特許文献1に開示された異形鉄筋用継手によれば、次に述べる効果を得ることができる。第1の効果は、容易に量産できるという効果である。第2の効果は、異形鉄筋が所定の位置まで挿入されていることを容易に目視できるという効果である。第3の効果は、不測の転がりを抑制できるという効果である。
【0004】
特許文献2は、次に述べる継手構造を開示する。その継手構造は、異形又は丸鋼の鉄筋と、継手本体と、一対のロックボルトとによって構成される。継手本体は管状に形成される。継手本体は一直線状の管路を有する。この管路の開口両端に互いに左右逆向きの内ねじが設けられている。この継手本体の中央部分の外周は多角形に形成されている。スパナなど締め付け工具を回り止め状に掛けるためである。その多角形に形成されている中央部分には覗き孔兼用のグラウト材注入孔が形成されている。ロックボルトは、外ねじ(この外ねじは継手本体の内ねじにねじ込まれる)を設けた中空軸部と、多角形の大頭部(この大頭部は中空軸部の一端の外周に設けられる)とを有する。
【0005】
特許文献2に開示された継手構造は、グラウト材注入孔から注入されたグラウト材が硬化することにより、継手本体に対するロックボルトの弛み止めを図ることができる。また、特許文献2に開示された継手構造は、鉄筋の端どうしの機械的結合状態を強固に維持できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭62− 79024号公報
【特許文献2】特開平9 −279768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された異形鉄筋用継手と特許文献2に開示された継手構造とには、次に述べる2つの効果を両立することが難しいという問題点がある。第1の効果は、鉄筋が所定の位置まで挿入されていることを容易に目視できるという効果である。第2の効果は、グラウト材によって鉄筋と継手本体との機械的な接合状態を強固に維持するという効果である。鉄筋が所定の位置まで挿入されているか否かを容易に目視するためには、検査孔を大きくする必要がある。これに対し、グラウト材によって鉄筋と継手本体との機械的な接合状態を強固に維持するためには、グラウト材の漏出口となりそうな孔はなるべく小さいことが望ましい。グラウト材が漏れ出すことを防ぐためである。
【0008】
本発明の目的は、異形鉄筋が所定の位置まで挿入されていることを容易に人の目で確認でき、かつ、グラウト材による鉄筋との強固な接続が可能な異形鉄筋用継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のある局面に従うと、異形鉄筋用継手20,120は、鋳造により一体成形された筒状体30,130を備える。筒状体30,130が、鉄筋進入部40,40,140,140と、孔付き筒部42,142とを有している。鉄筋進入部40,40,140,140は、筒状体30,130の両端に設けられている。鉄筋進入部40,40,140,140に異形鉄筋が進入する。孔付き筒部42,142は、鉄筋進入部40,40,140,140の間に配置される。孔付き筒部42,142には検査孔52,152が設けられている。異形鉄筋用継手は、検査孔52,152に嵌め込まれる透明部材32,132をさらに備えている。
【0010】
上述した異形鉄筋用継手20,120を用いれば、透明部材32,132を介して検査孔52,152の中を覗くことで、異形鉄筋が適切に捩じ込まれているか否かを容易に確認することができる。このため、異形鉄筋を接続しようとする者が熟練工でなくとも、異形鉄筋を容易に接続することができる。しかも、検査孔52,152が透明部材32,132によって塞がれている。このため、検査孔52,152からグラウトが大量に漏れ出すことはない。グラウトが大量に漏れ出すことがないので、従来の異形鉄筋用継手と同様にグラウトを注入して異形鉄筋用継手20,120と異形鉄筋とを接続することができる。その結果、異形鉄筋が所定の位置まで挿入されていることを容易に人の目で確認でき、かつ、グラウト材による鉄筋との強固な接続が可能な異形鉄筋用継手を提供できる。
【0011】
また、上述した透明部材32,132は、透明な樹脂製の本体80,180と、シール部82,182とを有することが望ましい。この場合、本体80,180は、検査孔52,152に挿入される。シール部82,182は、本体80,180の外周に配置される。シール部82,182は、検査孔52,152の内周面と密着する。
【0012】
シール部82,182が設けられていると、透明部材32,132と検査孔52,152の内周面との隙間がシール部82,182によって塞がれることとなる。その隙間が塞がれることで、その隙間が塞がれていない場合に比べ、検査孔52,152から漏れ出すグラウトの量を大幅に抑えることができる。
【0013】
もしくは、上述したシール部82,182が樹脂製であることが望ましい。
【0014】
シール部82,182が樹脂製であると、透明部材32,182と検査孔52,152の内周面との隙間を塞ぐ際、シール部82,182の一部が潰れることによりその隙間が塞がれる。これにより、検査孔52,152の内周面の鋳肌にシール部82,182が密着することとなる。その結果、検査孔52,152からのグラウトの漏れをよく抑えることができる。
【0015】
また、上述した透明部材32,132が鍔部84,184をさらに有することが望ましい。この場合、鍔部84,184は、筒状体30,130と透明部材32,132との隙間を塞ぐ。
【0016】
また、上述した透明部材132が、抜落防止部188,188を有していることが望ましい。この場合、抜落防止部188,188は、検査孔152からの透明部材132の抜落を防止する。
【0017】
透明部材132が抜落防止部188,188を有しているので、そうでない場合に比べ、透明部材132が検査孔152から脱落する可能性が低くなる。その脱落の可能性が低くなるので、建設現場などで異形鉄筋用継手120が使用されるまでに透明部材132が脱落したことが原因となって異形鉄筋用継手120が使用できなくなる可能性も低くなる。その結果、使用できない可能性が低い異形鉄筋用継手を提供できる。
【0018】
また、上述した抜落防止部188,188が、係合部188の対を有することが望ましい。この場合、孔付き筒部142は、対向平面160の対と、引掛部164の対とを有する。係合部188は、互いに対向するよう配置される。係合部188は、孔付き筒部142のうち検査孔152を形成する箇所のいずれかに引掛かる。対向平面160は、検査孔152を形成している。対向平面160は、互いに対向するよう配置される。引掛部164は、孔付き筒部142の外側から見て対向平面160の奥にそれぞれ設けられる。引掛部164には、係合部188が引掛かる。
【0019】
引掛部164の対には係合部188がそれぞれ引掛かる。引掛部164の対は、孔付き筒部142の外側から見て対向平面160の奥に設けられる。対向平面160は、検査孔152を形成している。対向平面160は、互いに対向するよう配置される。これにより、係合部188は対向平面160に沿う部分に配置されることとなる。係合部188が対向平面160に沿う部分に配置されると、例えば曲面に沿う位置に配置された場合に比べ、係合部188が引掛部164に引掛かり易くなる。係合部188が引掛部164に引掛かり易くなると、そうでない場合に比べ、透明部材132が検査孔152から脱落する可能性が低くなる。その結果、使用できない可能性がより低い異形鉄筋用継手を提供できる。
【0020】
もしくは、係合部188が凸部を有していることが望ましい。この場合、引掛部164が凹部164を有している。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、異形鉄筋が所定の位置まで挿入されていることを容易に人の目で確認でき、かつ、グラウト材による鉄筋との強固な接続が可能な異形鉄筋用継手を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施例にかかる異形鉄筋用継手を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施例にかかる異形鉄筋用継手の中央部分付近についての軸方向の断面図である。
【図3】本発明の第1実施例にかかる透明部材の斜視図である。
【図4】本発明の第1実施例にかかる異形鉄筋用継手において透明部材が検査孔に嵌め込まれている状況を示す検査孔付近の断面図である。
【図5】本発明の第2実施例にかかる異形鉄筋用継手を示す斜視図である。
【図6】本発明の第2実施例にかかる異形鉄筋用継手の孔付き筒部のうち検査孔付近の斜視図である。
【図7】本発明の第2実施例にかかる透明部材の斜視図である。
【図8】図6のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施例について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0024】
<第1実施例>
[異形鉄筋用継手の構成]
図1は、本実施例にかかる異形鉄筋用継手20の斜視図である。図1を参照しつつ、本実施例にかかる異形鉄筋用継手20の構成について説明する。
【0025】
本実施例にかかる異形鉄筋用継手20は、「ねじふし鉄筋」と呼ばれる異形鉄筋に接続される。「ねじふし鉄筋」は「ねじ鉄筋」とも呼ばれる。これは、鉄筋のうち外周の突部が螺旋を形成しているもののことである。以下の説明では、この螺旋を形成している突部のことを「螺旋状突部」と称する。また、以下の説明では、特に説明がない場合、「異形鉄筋」とはねじふし鉄筋を意味する。
【0026】
本実施例にかかる異形鉄筋用継手20は、筒状体30と、透明部材32とを備える。筒状体30は、鋳造により一体成形された鋳鉄製の筒状体である。透明部材32は、筒状体30の検査孔52に嵌め込まれる。検査孔52については後述する。
【0027】
[筒状体の構成]
筒状体30は、鉄筋進入部40,40と、孔付き筒部42とを有する。鉄筋進入部40,40の形状は六角錐の先端部分を切り取ったような形状である。孔付き筒部42の外周の断面形状は六角柱状である。孔付き筒部42は鉄筋進入部40,40に比べて太い。筒状体30には鉄筋捩込孔50が設けられている。鉄筋捩込孔50は鉄筋進入部40,40と孔付き筒部42とを貫通する。鉄筋捩込孔50の内径は異形鉄筋用継手20に接続されるべき図示しない異形鉄筋の外径より若干大きい。
【0028】
鉄筋捩込孔50の内周には、螺旋状凹溝70が形成されている。螺旋状凹溝70は、異形鉄筋の外周に設けられた螺旋状突部とかみ合う。この螺旋状凹溝70は、その螺旋方向が筒状体30の一端から他端にかけて連続するようにしても良い。この螺旋状凹溝70は、筒状体30の中央位置を境として逆方向(いわゆる逆ねじタイプ)となるようなものでもよい。螺旋状凹溝70の形状は、異形鉄筋の螺旋状突部と密にかみ合うものである必要はない。むしろ、螺旋状凹溝70の形状は、異形鉄筋の螺旋状突部とある程度の遊びをもってかみ合うものであることが望ましい。その第1の理由は筒状体30を鋳造するための中子の製作を容易にするためである。第2の理由は螺旋状凹溝70自体の強度向上を図るためである。
【0029】
なお、筒状体30の肉厚は、異形鉄筋に作用することが予想される最大引張り力に対して充分に耐え得る厚みとする。特に孔付き筒部42の厚みは検査孔52を設けたことによる強度低下を補い得る厚さとする。
【0030】
[検査孔の構造]
図2は、孔付き筒部42付近についての軸方向の断面図である。図2を参照しつつ、孔付き筒部42に設けられている検査孔52について説明する。図1から明らかなように、孔付き筒部42には検査孔52が設けられている。上述したように、検査孔52には透明部材32が嵌め込まれている。本実施例にかかる異形鉄筋用継手20を用いて異形鉄筋を接続しようとする作業者は、透明部材32を介してこの検査孔52の中を覗くことにより、異形鉄筋が正しく接続されているか否かを検査する。検査孔52は、孔付き筒部42の表面から鉄筋捩込孔50まで貫通している。
【0031】
検査孔52は、深ザグリ部60と、曲面部62とを有する。深ザグリ部60は孔付き筒部42の表面側開口の縁に設けられる。曲面部62は、孔付き筒部42の表面から見て深ザグリ部60の奥に設けられる。図2から明らかなように、曲面部62は、検査孔52のうち、孔付き筒部42の表面から奥へ向かうにつれ次第に内径が小さくなっていく部分である。
【0032】
[透明部材の構成]
図3は、透明部材32の斜視図である。図3を参照しつつ、透明部材32について説明する。本実施例にかかる透明部材32は、本体80と、シール部82と、鍔部84と、隔離壁部86とを有する。本実施例にかかる透明部材32は、筒状体30の素材である鋳鉄より柔らかな樹脂を素材としている。本実施例にかかる透明部材32の場合、本体80と、シール部82と、鍔部84と、隔離壁部86とは一体である。本体80は検査孔52に挿入される筒状の部分である。シール部82は本体80の外周に配置される。シール部82は、検査孔52の内周面に密着することにより、本体80と検査孔52の内周面との間を塞ぐ。なお、シール部82のうち筒状体30の内部側(図3における下側)にテーパ面100が設けられている。鍔部84は、本体80の端に設けられる。鍔部84は検査孔52の縁に接触する。これにより筒状体30と透明部材32との隙間が塞がれる。そのため、鍔部84はシール部82と共に検査孔52からグラウトが漏れることを防ぐこととなる。隔離壁部86は、本体80の内部に設けられる。隔離壁部86は筒状体30の中と外とを隔離する。隔離壁部86にはグラウト注入孔90が設けられている。図示しないグラウト注入ノズルはこのグラウト注入孔90に挿入される。
【0033】
[検査孔のシール状況]
図4は透明部材32が検査孔52に嵌め込まれている状況を示す検査孔52付近の断面図である。図4を参照しつつ、透明部材32と検査孔52の内周面との間がどのように塞がれているかということについて具体的に説明する。上述したように、透明部材32が検査孔52に嵌め込まれている。透明部材32のシール部82は、検査孔52のうち孔付き筒部42の表面から見て曲面部62より奥の位置に配置される。この位置において、シール部82は、本体80と検査孔52の内周面とに挟まれている。このため、本体80と検査孔52の内周面との隙間にグラウトが入っても、そのグラウトは孔付き筒部42の外へ漏れない。さらに、透明部材32の鍔部84は、検査孔52の曲面部62に密着している。このため、シール部82だけではグラウトの漏れが防げなかったとしても、そのグラウトが孔付き筒部42の外へ漏れることを防ぐことができる。しかも、シール部82と検査孔52の内周面との間に生じる摩擦力により、シール部82がない場合に比べ、鍔部84は曲面部62から離れがたくなっている。その分、グラウトが孔付き筒部42の外へ漏れることを防ぐことができる。
【0034】
[異形鉄筋の接続手順]
次に、上述した異形鉄筋用継手20を用いて2本の異形鉄筋を接続させる手順を説明する。
【0035】
まず、接続しようとずる各異形鉄筋の端部を筒状体30に捻じ込ませてゆく。この際、筒状体30の鉄筋進入部40,40をスパナなどの図示しない工具で掴む。これにより異形鉄筋を効率よく捩じ込むことができる。
【0036】
このとき、作業者は、透明部材32を介して検査孔52の中を覗く。異形鉄筋が適切に捩じ込まれている場合、両異形鉄筋の端部が筒状体30の中央部位で軽く接触している。作業者は、検査孔52を介してその状況を見ることができる。このため、作業者が熟練工でなくとも、筒状体30内部に両異形鉄筋を適切に捩じ込むことができる。
【0037】
両異形鉄筋の捩じ込みが完了したら、図示しないグラウト注入ノズルを透明部材32のグラウト注入孔90に挿入する。挿入が完了したら、筒状体30の内部にグラウトを注入する。筒状体30両端の鉄筋捩込孔50の開口からグラウトが漏れ出したら、異形鉄筋の接続作業は終了である。
【0038】
[本実施例にかかる効果の説明]
以上のようにして、本実施例にかかる異形鉄筋用継手20を用いれば、作業者が熟練工でなくとも、筒状体30内部に異形鉄筋を適切に捩じ込むことができる。しかも、グラウトの漏れを最小限に抑えることができる。その結果、異形鉄筋が所定の位置まで挿入されていることを容易に人の目で確認でき、かつ、グラウト材による鉄筋との強固な接続が可能な異形鉄筋用継手を提供できる。
【0039】
また、本実施例の場合、透明部材32と検査孔52の内周面との隙間がシール部82によって塞がれているので、その隙間が塞がれていない場合に比べ、検査孔52から漏れ出すグラウトの量を大幅に抑えることができる。
【0040】
また、本実施例の場合、シール部82が樹脂製なので、透明部材32と検査孔52の内周面との隙間を塞ぐ際、シール部82の一部が潰れる。シール部82の一部が潰れるので、検査孔52の内周面の鋳肌にシール部82が密着する。その結果、検査孔52からのグラウトの漏れをよく抑えることができる。
【0041】
また、本実施例の場合、透明部材32が鍔部84を有する。このため、検査孔52からのグラウトの漏れを抑えることができる。
【0042】
<第2実施例>
[異形鉄筋用継手の構成]
図5は、本実施例にかかる異形鉄筋用継手120の斜視図である。図5を参照しつつ、本実施例にかかる異形鉄筋用継手120の構成について説明する。
【0043】
本実施例にかかる異形鉄筋用継手120は異形鉄筋に接続される。
【0044】
本実施例にかかる異形鉄筋用継手120は、筒状体130と、透明部材132とを備える。筒状体130は鋳造により一体成形される。筒状体130は鋳鉄製である。透明部材132は、筒状体130の検査孔152に嵌め込まれる。検査孔152については後述する。
【0045】
[筒状体の構成]
筒状体130は、鉄筋進入部140,140と、孔付き筒部142とを有する。鉄筋進入部140,140の形状は円柱状である。孔付き筒部142の外周の断面形状は角柱状(角柱の辺にあたる箇所には面取りが施されている)である。孔付き筒部142は鉄筋進入部140,140に比べて太い。筒状体130には鉄筋捩込孔150が設けられている。鉄筋捩込孔150は鉄筋進入部140,140と孔付き筒部142とを貫通する。鉄筋捩込孔150の内径は異形鉄筋用継手120に接続されるべき図示しない異形鉄筋の外径より若干大きい。
【0046】
鉄筋捩込孔150の内周には、螺旋状凹溝170が形成されている。螺旋状凹溝170は、異形鉄筋の外周に設けられた螺旋状突部とかみ合う。この螺旋状凹溝170は、その螺旋方向が筒状体130の一端から他端にかけて連続するようにしても良い。この螺旋状凹溝170は、筒状体130の中央位置を境として逆方向(いわゆる逆ねじタイプ)となるようなものでもよい。螺旋状凹溝170の形状は、異形鉄筋の螺旋状突部と密にかみ合うものである必要はない。むしろ、螺旋状凹溝170の形状は、異形鉄筋の螺旋状突部とある程度の遊びをもってかみ合うものであることが望ましい。その第1の理由は筒状体130を鋳造するための中子の製作を容易にするためである。第2の理由は螺旋状凹溝170自体の強度向上を図るためである。
【0047】
なお、筒状体130の肉厚は、異形鉄筋に作用することが予想される最大引張り力に対して充分に耐え得る厚みとする。特に孔付き筒部142の厚みは検査孔152を設けたことによる強度低下を補い得る厚さとする。
【0048】
[検査孔の構造]
図6は、孔付き筒部142のうち検査孔152付近の斜視図である。図6を参照しつつ、孔付き筒部142に設けられている検査孔152について説明する。図5および図6から明らかなように、孔付き筒部142には検査孔152が設けられている。上述したように、検査孔152には透明部材132が嵌め込まれている(図6は透明部材132が取外された状況での検査孔152付近を示す)。本実施例にかかる異形鉄筋用継手120を用いて異形鉄筋を接続しようとする作業者は、透明部材132を介してこの検査孔152の中を覗くことにより、異形鉄筋が正しく接続されているか否かを検査する。検査孔152は、孔付き筒部142の表面から鉄筋捩込孔150まで貫通している。
【0049】
本実施例の場合、検査孔152は、一対の対向平面160と、一対の対向曲面162と、一対の凹部164とによって形成される。対向平面160は、互いに対向するよう配置される。対向曲面162も、互いに対向するよう配置される。図6に示すように、凹部164は、孔付き筒部142の外側から見て対向平面160の奥にそれぞれ設けられる。本実施例の場合、凹部164が引掛部(後述する係合部188が引掛かる部分)として機能する。
【0050】
[透明部材の構成]
図7は、透明部材132の斜視図である。図7において、透明部材132はその一部が破断された状態で示されている。図7を参照しつつ、透明部材132について説明する。本実施例にかかる透明部材132は、本体180と、シール部182と、鍔部184と、隔離壁部186と、一対の係合部188とを有する。本実施例にかかる透明部材132は、筒状体130の素材である鋳鉄より柔らかな樹脂を素材としている。本実施例にかかる透明部材132の場合、本体180と、シール部182と、鍔部184と、隔離壁部186と、係合部188とは一体である。本体180は検査孔152に挿入される筒状の部分である。シール部182は本体180の外周に配置される。シール部182は、検査孔152の内周面に密着することにより、本体180と検査孔152の内周面との間を塞ぐ。なお、シール部182のうち筒状体30の内部側(図7における下側)にテーパ面200が設けられている。鍔部184は、本体180の端に設けられる。鍔部184は検査孔152の縁に接触する。これにより筒状体130と透明部材132との隙間が塞がれる。そのため、鍔部184はシール部182と共に検査孔152からグラウトが漏れることを防ぐこととなる。隔離壁部186は、本体180の内部に設けられる。隔離壁部186は筒状体130の中と外とを隔離する。係合部188は凹部164に引掛かる。
【0051】
図7から明らかなように、係合部188の対は互いに対向する位置に設けられている。本実施例の場合、係合部188の対が検査孔152からの抜落を防止する抜落防止部として機能している。係合部188は、片持梁部196と、凸部198とを有している。片持梁部196は本体180の一部(より具体的に述べるとシール部182の真下)から突出している。片持梁部196は凸部198を検査孔152の内周面(より具体的には凹部164の内周面)に押付ける。また片持梁部196は凸部198が検査孔152から受ける反力を支える。凸部198は凹部164内に嵌まる。
【0052】
隔離壁部186にはグラウト注入孔190が設けられている。図示しないグラウト注入ノズルはこのグラウト注入孔190に挿入される。
【0053】
[検査孔のシール状況]
図8は図6のA−A断面図である。図8を参照しつつ、透明部材132と検査孔152の内周面との間がどのように塞がれているかということについて具体的に説明する。上述したように、透明部材132が検査孔152に嵌め込まれている。透明部材132のシール部182は、本体180と検査孔152の内周面とに挟まれている。このため、本体180と検査孔152の内周面との隙間にグラウトが入っても、そのグラウトは孔付き筒部142の外へ漏れない。さらに、透明部材132の鍔部184は、検査孔152の縁に密着している。このため、シール部182だけではグラウトの漏れが防げなかったとしても、そのグラウトが孔付き筒部142の外へ漏れることを防ぐことができる。しかも、シール部182と検査孔152の内周面との間に生じる摩擦力により、シール部182がない場合に比べ、鍔部184は検査孔152の縁から離れがたくなっている。その分、グラウトが孔付き筒部142の外へ漏れることを防ぐことができる。その際、凸部198が凹部164内に嵌まっているので、グラウトの圧力によって透明部材132が検査孔152から押し出されることも防止できる。
【0054】
[異形鉄筋の接続手順]
次に、上述した異形鉄筋用継手120を用いて2本の異形鉄筋を接続させる手順を説明する。
【0055】
まず、接続しようとずる各異形鉄筋の端部を筒状体130に捻じ込ませてゆく。この際、筒状体130の鉄筋進入部140,140をスパナなどの図示しない工具で掴む。これにより異形鉄筋を効率よく捩じ込むことができる。
【0056】
このとき、作業者は、透明部材132を介して検査孔152の中を覗く。異形鉄筋が適切に捩じ込まれている場合、両異形鉄筋の端部が筒状体130の中央部位で軽く接触している。作業者は、検査孔152を介してその状況を見ることができる。このため、作業者が熟練工でなくとも、筒状体130内部に両異形鉄筋を適切に捩じ込むことができる。
【0057】
両異形鉄筋の捩じ込みが完了したら、図示しないグラウト注入ノズルを透明部材132のグラウト注入孔190に挿入する。挿入が完了したら、筒状体130の内部にグラウトを注入する。筒状体130両端の鉄筋捩込孔150の開口からグラウトが漏れ出したら、異形鉄筋の接続作業は終了である。
【0058】
[本実施例にかかる効果の説明]
以上のようにして、本実施例にかかる異形鉄筋用継手120を用いれば、作業者が熟練工でなくとも、筒状体130内部に異形鉄筋を適切に捩じ込むことができる。しかも、グラウトの漏れを最小限に抑えることができる。その結果、異形鉄筋が所定の位置まで挿入されていることを容易に人の目で確認でき、かつ、グラウト材による鉄筋との強固な接続が可能な異形鉄筋用継手を提供できる。
【0059】
また、本実施例の場合、透明部材132が抜落防止部として係合部188の対を有している。係合部188の対を有しているので、そうでない場合に比べ、透明部材132が検査孔152から脱落する可能性が低くなる。その脱落の可能性が低くなるので、建設現場などで異形鉄筋用継手120が使用されるまでに透明部材132が脱落したことが原因となって異形鉄筋用継手120が使用できなくなる可能性も低くなる。その結果、使用できない可能性が低い異形鉄筋用継手を提供できる。
【0060】
また、本実施例の場合、孔付き筒部142が、対向平面160の対と、凹部164の対(すなわち引掛部の対)とを有する。凹部164の対には係合部188がそれぞれ引掛かる。凹部164の対は、孔付き筒部142の外側から見て対向平面160の奥に設けられる。対向平面160は、互いに対向するよう配置される。これにより、係合部188は対向平面160に沿う部分に配置されることとなる。係合部188が対向平面160に沿う部分に配置されると、例えば曲面に沿う位置に配置された場合に比べ、係合部188が凹部164に引掛かり易くなる。係合部188が凹部164に引掛かり易くなると、そうでない場合に比べ、透明部材132が検査孔152から脱落する可能性が低くなる。その結果、使用できない可能性がより低い異形鉄筋用継手を提供できる。
【0061】
また、本実施例の場合、透明部材132が、透明な樹脂製の本体180と、シール部182とを有する。本体180は、検査孔152に挿入される。シール部182は、本体180の外周に配置される。シール部182は、検査孔152の内周面と密着する。透明部材132と検査孔152の内周面との隙間がシール部182によって塞がれているので、その隙間が塞がれていない場合に比べ、検査孔152から漏れ出すグラウトの量を大幅に抑えることができる。
【0062】
また、本実施例の場合、シール部182が樹脂製である。シール部182が樹脂製であると、透明部材132と検査孔152の内周面との隙間を塞ぐ際、シール部182の一部が潰れる。シール部182の一部が潰れるので、検査孔152の内周面の鋳肌にシール部182が密着する。その結果、検査孔152からのグラウトの漏れをよく抑えることができる。
【0063】
また、本実施例の場合、透明部材132が鍔部184を有する。この鍔部184は、筒状体130と透明部材132との隙間を塞ぐ。このため、検査孔152からのグラウトの漏れを抑えることができる。
【0064】
[変形例]
なお、今回開示された実施例はすべての点で例示である。本発明の範囲は上述した実施例に基づいて制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更をしてもよいのはもちろんである。
【0065】
例えば、筒状体30の外形は上述したものに限定されない。筒状体30の断面形状が上述したものとは異なる多角形であってもよいし、円形であってもよい。
【0066】
また、透明部材32は一体である必要はない。また、透明部材32と検査孔52の内周面との隙間を塞ぐことができるのであれば、シール部82の素材は特に限定されない。また、鍔部84は必ず設けられていなくてはならないものではない。言うまでもないことであるが、透明部材32の素材となる樹脂としてアクリル樹脂その他任意の樹脂が選択され得る。
【0067】
また、異形鉄筋用継手は、ねじふし鉄筋以外の異形鉄筋を接続できるものであってもよい。すなわち、鉄筋捩込孔50の内周の螺旋状凹溝70は本発明において必要不可欠なものとは言えない。これは異形鉄筋用継手が接続の対象とする異形鉄筋の種類によっては必要になるものに過ぎない。
【0068】
また、係合部188は凸部198を有するものに限定されない。引掛部は凹部164から構成されるものに限定されない。例えば、係合部188が凹部から構成され引掛部が凸部から構成されてもよい。このような場合の具体例として、係合部が貫通孔が設けられている部分を有し引掛部がその貫通孔を貫通する突起を有するというものがある。さらに、係合部188が引掛かる箇所は凹部164に限定されない。その箇所の例には、孔付き筒部142のうち検査孔152を形成する箇所のいずれかがある。
【符号の説明】
【0069】
20,120…異形鉄筋用継手
30,130…筒状体
32,132…透明部材
40,140…鉄筋進入部
42,142…孔付き筒部
50,150…鉄筋捩込孔
52,152…検査孔
60…深ザグリ部
62…曲面部
70,170…螺旋状凹溝
80,180…本体
82,182…シール部
84,184…鍔部
86,186…隔離壁部
90,190…グラウト注入孔
100,200…テーパ面
160…対向平面
162…対向曲面
164…凹部
188…係合部
196…片持梁部
198…凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造により一体成形された筒状体を備え、
前記筒状体が、
前記筒状体の両端に設けられており、異形鉄筋が進入する、鉄筋進入部と、
前記鉄筋進入部の間に配置され、かつ、検査孔が設けられている孔付き筒部とを有している異形鉄筋用継手であって、
前記異形鉄筋用継手は、前記検査孔に嵌め込まれる透明部材をさらに備えていることを特徴とする、異形鉄筋用継手。
【請求項2】
前記透明部材が、
前記検査孔に挿入される透明な樹脂製の本体と、
前記本体の外周に配置され、前記検査孔の内周面と密着する、シール部とを有することを特徴とする請求項1に記載の異形鉄筋用継手。
【請求項3】
前記シール部が樹脂製であることを特徴とする請求項2に記載の異形鉄筋用継手。
【請求項4】
前記透明部材が、前記筒状体と前記透明部材との隙間を塞ぐ鍔部をさらに有していることを特徴とする請求項2に記載の異形鉄筋用継手。
【請求項5】
前記透明部材が、前記検査孔からの抜落を防止する抜落防止部を有していることを特徴とする請求項1に記載の異形鉄筋用継手。
【請求項6】
前記抜落防止部が、互いに対向するよう配置される係合部の対を有しており、
前記係合部は前記孔付き筒部のうち前記検査孔を形成する箇所のいずれかに引掛かり、
前記孔付き筒部は、
前記検査孔を形成しており、かつ、互いに対向するよう配置される対向平面の対と、
前記孔付き筒部の外側から見て前記対向平面の奥に設けられ、かつ、前記係合部が引っ掛かる引掛部の対とを有していることを特徴とする請求項5に記載の異形鉄筋用継手。
【請求項7】
前記係合部が凸部を有しており、
前記引掛部が凹部を有していることを特徴とする請求項6に記載の異形鉄筋用継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−154164(P2012−154164A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−269847(P2011−269847)
【出願日】平成23年12月9日(2011.12.9)
【出願人】(390026723)東京鐵鋼株式会社 (37)
【出願人】(000231121)JFE継手株式会社 (140)
【Fターム(参考)】