説明

異方性粒子の製造方法

【課題】
本発明は、異方性粒子の異方性部位の面積を容易かつ精密に変えることが可能な異方性粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】
第一の粒子11と、第一の粒子11の平均粒径よりも平均粒径が小さく、かつ、第一の粒子11とは異なる材料からなるマトリクス材12、あるいはマトリクス材12の前駆体とを含む液体13を基板14上に付与することにより、第一の粒子11の間にマトリクス材12が第一の粒子11の平均粒径未満の高さで充填されている第一の粒子11の単層膜を基板14上に形成する工程と、第一の粒子11のマトリクス材12から露出している部分を改質することにより異方性粒子15を得る工程と、異方性粒子15を14基板及びマトリクス材12から分離する工程と、を有することを特徴とする異方性粒子15の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分的に異なる性質を有する異方性粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
部分的に異なる性質を有する異方性粒子は、ミクロスケールでのプローブ、医療診断薬、及び高次配列構造体用のビルディングブロック等を構成しうるため、多様な分野への応用が期待されることから、近年、その製造方法に関する研究開発が活発化している。
【0003】
例えば、特許文献1では、基板界面を反応場とすることによって、ラテックス粒子の一部分のみに抗体を結合させ得ることを報告している。また、特許文献2では、まず、粒子をマトリクス内に部分的に埋没させ、次いでその露出部位のみを表面改質することによって異方性粒子を得ることに成功していることを報告している。
【0004】
異方性粒子を前記のような技術分野へ応用し展開していくためには、異方性粒子の異なる性質部分(以下、異方性部位と表現する)の面積を容易に且つ精密に変えることが可能な技術が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3567269号公報
【特許文献2】特開平第11−175002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまでに報告されている異方性粒子の製造方法では、その異方性部位の面積を精密に変えることが容易でないという課題があった。特に、産業上有用とされるサブミクロン以下のサイズ領域においては、異方性粒子の異方性部位の面積を変えることが極めて困難であるという問題があった。例えば、特許文献1では、予め表面改質剤を吸着させた基板上に粒子を散布して、前記表面修飾剤を結合させて異方性粒子を得ることが開示されている。しかしながら、これらの方法は、異方性部位の面積が基板上に散布される粒子の曲率、すなわち、粒径に依存してしまう。
【0007】
また、特許文献2では、予めマトリクス材を製膜した基板上に粒子を散布してマトリクス材の中に前記粒子の一部を埋没させた後に、前記マトリクス材から出ている前記粒子の露出部分を表面改質して異方性粒子を得ることが開示されている。しかしながら、前記露出部分は、前記マトリクス材と前記粒子との濡れ性等によって決まるため、マトリクス材と粒子との親和性を緻密に調整する必要がある。このような技術背景から、粒径等によらず異方性部位を精密に変えることのできる異方性粒子の製造方法が強く求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するために、本発明者等が鋭意研究を重ねた。その結果として、基板上に粒子の単層膜を形成させる工程において、前記単層膜の形成と同時に、前記単層膜を構成する粒子の間をマトリクス材で充填することによって、異方性部位を容易に、且つ精密に変えることができることを見出した。
【0009】
すなわち本発明は、第一の粒子と、前記第一の粒子の平均粒径よりも小さい平均粒径を有し、かつ、前記第一の粒子とは異なる材料からなるマトリクス材、あるいは前記マトリクス材の前駆体とを含む液体を基板上に付与することにより、前記第一の粒子の間に前記マトリクス材が前記第一の粒子の平均粒径未満の高さで充填されている前記第一の粒子の単層膜を前記基板上に形成する形成工程と、前記マトリクス材から露出している前記第一の粒子の部分を改質することにより異方性粒子を成形する成形工程と、前記異方性粒子を前記基板及び前記マトリクス材から分離する分離工程と、を含むことを特徴とする異方性粒子の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、異方性粒子の異方性部位の面積を、従来技術よりも容易にかつ精密に変えることが可能な、異方性粒子の製造方法を提供することができる。このようにして製造される異方性粒子は、ミクロスケールでのプローブ、医療診断薬、高次配列構造体用のビルディングブロック等を構成しうるため、多様な分野への応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の異方性粒子の製造方法の一実施形態の工程図である。
【図2】マトリクス材が空隙を充填した第一の粒子の単層膜の形成方法の一実施形態の工程図である。
【図3】実施例1における単層膜1(a)と単層膜2(b)の走査型電子顕微鏡像である。
【図4】比較例2における粒子膜の走査型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を詳細に説明するために、図面を通じて以下に発明を実施するための形態を示す。なお、個々に開示する実施形態は、本発明である異方性粒子の製造方法が実際に用いられる例であり、これに限定されるものではない。
【0013】
(本発明の第一実施形態)
図1は本発明の第一実施形態の工程図である。本実施形態は、第一の粒子と、前記第一の粒子の平均粒径よりも小さい平均粒径を有し、かつ、前記第一の粒子とは異なる材料からなるマトリクス材、あるいは前記マトリクス材の前駆体とを含む液体を基板上に付与することにより、前記第一の粒子の間に前記マトリクス材が前記第一の粒子の平均粒径未満の高さで充填されている前記第一の粒子の単層膜を前記基板上に形成する形成工程と、前記マトリクス材から露出している前記第一の粒子の部分を改質することにより異方性粒子を成形する成形工程と、前記異方性粒子を前記基板及び前記マトリクス材から分離する分離工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
ここで、異方性粒子とは、その粒子表面の一部分の物理的又は化学的な性質が、他の部分の物理的又は化学的な性質と異なること、を特徴とする粒子である。例えば、粒子表面に抗体が結合している部分と結合していない部分を有する粒子、金原子が結合している部分と結合していない部分を有する粒子等が挙げられる。この場合、金原子にチオール基を介して抗体が結合していてもよい。さらに、粒子表面にカルボニル基、カルボン酸、アミノ基、チオール基等が結合している部分と結合していない部分を有する粒子等が挙げられる。この場合、各々の官能基に抗体が結合していてもよい。ここで、抗体とは、抗原−抗体反応が起きるもののことをいい、モノクローナル抗体、抗体フラグメント等が挙げられる。また、粒子表面の電荷分布が異なる粒子、粒子表面の磁性が異なる粒子などが挙げられる。粒子表面の電荷分布が異なる粒子は任意の構造体のビルディングブロックとして用いることができる。
【0015】
まず、第一の粒子11とマトリクス材12とを溶解している液体13を基板14の上に塗布などの手法によって付与し(図1a)、第一の粒子11の粒子の間がマトリクス材12で充填されている第一の粒子11の単層膜を形成する(図1b及び図1b’)。ここで、単層膜とは、第一の粒子11同士が重ならず一列に並んで層を形成していることを意味する。なお、マトリクス材12は第一の粒子11の平均粒径未満の高さで充填されている。
【0016】
第一の粒子11の単層膜が形成される過程においてマトリクス材12が第一の粒子11の粒子の間を同時に充填するため、第一の粒子11とマトリクス材12との混合比に応じて、マトリクス材12から第一の粒子11の露出面積が変化する。第一の粒子11が単層膜を形成しているため、第一の粒子11のマトリクス材12からの露出面積は、同じ大きさを持つ第一の粒子同士の間ではほとんど差異を生じない。
【0017】
次いで、マトリクス材12から露出している第一の粒子11の表面の部分を部分的に表面改質する(図1c及び図1c’)。最後に、基板14及びマトリクス材12から分離して、異方性部位を有する異方性粒子15を得る(図1d及び図1d’と図1e及び図1e’)。
【0018】
本実施形態における第一の粒子11とマトリクス材12とは、任意の化学組成から構成される材料からなることが可能であるが、好ましくはそれぞれ異なる化学組成から構成される材料である。例えば、第一の粒子11が有機化合物で構成される場合、マトリクス材12は無機化合物から構成されることが好ましい。また、第一の粒子11が無機化合物から構成される場合、マトリクス材12は有機化合物から構成されることが好ましい。このように化学組成が異なる場合、第一の粒子11とマトリクス材12との溶剤耐性やエッチングレート等の化学耐性に差異が生じるため、異方性粒子15の分離工程(図1(d)、図1(d’))におけるマトリクス材12の選択除去を容易に実施できるという利点がある。
【0019】
本実施形態におけるマトリクス材12は、特に限定はなく、例えば、溶剤に分散する材料や溶剤に溶解する材料等を適用することができる。また、反応や相転移等の適切な工程を経てマトリクス材12に転化することができる材料(マトリクス材12の前駆体)等を用いてもよい。例えば以下の方法が知られている。まず、光反応性モノマーの原液をマトリクス材12の前駆体として用いて第一の粒子11の単層膜を形成し、次いで、前記モノマーの原液を光重合によって硬化させてマトリクス材12に転化することができる。
第一の粒子11あるいはマトリクス材12として、ポリスチレンやポリメチルメタクリレート等に代表される有機高分子微粒子や、金属、あるいは金属酸化物等に代表される無機微粒子、シリカ粒子等が好ましく用いられる。ただし、本発明を実施可能であれば、第一の粒子11あるいはマトリクス材12はこれらに限定されない。
【0020】
本実施形態の第一の粒子11と、第一の粒子11とは異なる材料からなるマトリクス材12又はマトリクス材12の前駆体と、を含む液体13の中で、第一の粒子11とマトリクス材12又はマトリクス材12の前駆体は良好に分散、又は溶解していることが好ましい。仮に、第一の粒子11やマトリクス材12、又はマトリクス材12の前駆体が、液体13中で凝集等の不均一状態を呈する場合、単層膜の形成(図1(b)、図1(b’))が阻害されるため好ましくない。このため本実施形態においては、第一の粒子11とマトリクス材12、又はマトリクス材12の前駆体を、液体13中で良好に分散、あるいは溶解させる目的で、界面活性剤等の分散剤を適宜に使用することができる。
【0021】
本発明では、第一の粒子11の単層膜を形成するために、液体13の基板14への付与方法に応じて、液体13内における第一の粒子11の濃度を適宜に変更することが必要である。第一の粒子11が多層膜を形成すると、第一の粒子11のマトリクス材12からの露出面積が、上下に重なる第一の粒子11の位置によって大きく異なるため好ましくない。一般に、液体13内の第一の粒子11の濃度を低下させることにより、好ましい第一の粒子11の単層膜を形成できる。よって、第一の粒子11の単層膜を形成するためには、液体13における第一の粒子11の濃度は、第1の粒子の平均粒径が200nmで、液体13の溶媒が水で、かつスピンコートの回転数が1800rpmである場合には、5.0体積%以下の範囲内であることが好ましい。特に4.7体積%以下の範囲内であることが好ましい。この場合、マトリクス材12の平均粒径は、第一の粒子の平均粒径の1/4以下であると、マトリクス材が第一の粒子11同士の間に充填されやすくなるため好ましく、マトリクス材12の平均粒径は上記の条件を満たす範囲で小さければ小さいほど好ましい。また、マトリクス材12の濃度は第一の粒子11の濃度の3/5以下であると好ましい。
【0022】
本実施形態の基板14は、例えば、シリコンウェハーや石英等の無機化合物で構成される材料、あるいは、ポリマーフィルム等の有機化合物で構成される材料等、従来公知の材料を適用することが可能である。特に前記液体によって、形態、あるいは化学組成が変化しない材料を基板14として用いることが好ましい。基板14の溶解や形態変化、化学組成の変化を生じることは、単層膜の形成(図1(b)、図1(b’))が阻害される可能性があるため、本実施形態にとって好ましくない。
【0023】
本実施形態の単層膜の形成(図1(b)、図1(b’))において、前記液体と基板との間の濡れ性は重要なファクターである。液体に対する基板の濡れ性が高い場合は良好な単層膜が形成されやすい。このため本実施形態においては、液体に対する基板の濡れ性を向上させる目的で、シランカップリング剤やオゾンアッシング、アルカリエッチング等従来公知の方法によって予め基板14を処理することが好ましい。
【0024】
本実施形態において、液体13の基板14への付与(図1a)は、従来公知の何れの方法を用いることも可能である。単層膜の均一性やスループットなどの観点から、塗布によって実施することが好ましい。塗布の例として例えば、スプレーコート、ディップコート、バーコート、スピンコート、キャピラリーコート等が挙げられる。その中でも、スピンコートやキャピラリーコートは均一な単層膜を得やすいため好ましい。
塗布の場合には、そのプロセス条件を適宜に変更し、塗布液膜の膜厚を調整することによって、好ましく単層膜を得ることができる。例えば、スピンコートの場合にはその回転数を増加させることにより、またキャピラリーコートの場合には、基板の走査速度を増加させることにより、第一の粒子11同士が重ならないようにすることができるため、好ましく単層膜を得ることができる。
【0025】
(本発明の第二実施形態)
図1b又は図1b’の単層膜は、塗布以外にも、図2のような本発明の第二実施形態を用いても形成されうる。本実施形態は、第一実施形態の形成工程が、前記マトリクス材、あるいは前記マトリクス材の前駆体を含む液体の液面上に形成した前記第一の粒子から構成される単粒子膜を前記液体の一部とともに前記基板上に移動する工程であることを特徴とする。
【0026】
本実施形態では、液面に単粒子膜23を形成するため、液体13に対する基板14の濡れ性によらず、基板14の上により均一な前記単層膜を形成することができる。ここで、単粒子膜とは、液面上に浮いた単層膜である。第一の粒子11を含む第一の液体21を、マトリクス材12、あるいはマトリクス材12の前駆体を含む第二の液体22の液面上に展開すると(図2(a))、第一の液体21の溶剤が第二の液体22に溶解、あるいは揮発して、第二の液体22の液面上には第一の粒子11が残る。
【0027】
第一の粒子11を液面に沿ってゆっくりと圧縮する、バリア等の液面圧縮等の手段によって、互いに充填させることで、第一の粒子11が単層に配列された第一の粒子11の単粒子膜23を形成する(図2(b))。次に、単粒子膜23の構造を維持したまま基板14の上に単粒子膜23を移動させる(図2(c))。その際、濡れ現象によって一部の第二の液体22も基板14の上に移動されるため、蒸発、反応又は相転移等の適切な工程を経て第二の液体22の溶剤を除去する。それによって、第一の粒子11から構成される単粒子膜23の空隙部分にマトリクス材12が充填された構造を有する単層膜が形成される。図2(d)に示す単層膜は、図1(b)又は図1(b’)に示す単層膜に相当する。
【0028】
図2(d)に示すような単層膜を形成するため、第一の液体21に第一の粒子11が均一に分散していることと、第二の液体22に、マトリクス材12、又はマトリクス材12の前駆体が均一に分散又は溶解していることとが好ましい。したがって、前記単層膜の形成が阻害される凝集等の不均一状態を呈しないように、第一の液体及び第二の液体に界面活性剤等の分散剤を適宜使用することが好ましい。
【0029】
また、本実施形態において、第一の液体21の表面張力及び比重は、第二の液体22の表面張力及び比重よりも、それぞれ、小さい方が好ましい。第一の液体21を第二の液体22の上面で広げ、展開することが容易であるため、第二の液体22の表面張力に比べ第一の液体21の表面張力の方が小さいことが好ましい。また、第一の液体21を第二の液体22に沈降させずに、第二の液体22上面に展開することを容易にするために、第二の液体22の比重に比べ、第一の液体21の比重の方が小さいことが好ましい。
【0030】
単粒子膜23の基板14への移動方法には、本発明の目的を達成することができる従来公知の何れの方法をも含むことができる。例えば、まず単粒子膜23の構造を維持したままで圧縮し、そして単粒子膜23を基板14上へ移動させるように基板14を前記液体内に浸漬し、最後に基板14を引き上げる方法等が挙げられる。本発明はこれらの方法に限定されない。
【0031】
本実施形態における第一の液体21に含まれる第一の粒子11と、第二の液体22に含まれるマトリクス材12(もしくは第二の粒子)とは、第一の実施形態と同様である。
【0032】
以下に第一実施形態及び第二実施形態に共通する点を説明する。以下の「本実施形態」は、第一実施形態又は第二実施形態を意味する。
本実施形態においては、マトリクス材12に埋没した第一の粒子11の露出面を選択的に表面改質すること(図1c、図1c’)によって、本実施形態の異方性粒子15(図1d、図1d’)を得ることができる。
【0033】
本実施形態の表面改質の方法として、何れの公知の方法も適用することが可能である。このような方法の例として、蒸着やスパッタ等の方法によって第一の粒子11表面に金属や半導体等の物質が物理的に結合する方法が挙げられる。そのほかに、配位結合や共有結合によって単分子又は高分子等を化学的に第一の粒子11へ結合する方法、又は、薬剤を用いて第一の粒子11の表面を分解して変質する方法等も挙げられる。本発明はこれらの方法に限定されない。
【0034】
本実施形態の異方性粒子15の分離工程は、マトリクス材12の除去工程(図1d又は図1d’)と、基板14から異方性粒子15の分離工程(図1e又は図1e’)とを含む。本実施形態において、目的に応じて、前記マトリクス材12の除去工程と基板14から異方性粒子15の分離工程とを同時に、又は、まず前記除去工程、次いで前記分離工程の順番で実施することも可能である。
【0035】
前記マトリクス材12の除去工程は、均一性や選択性の観点から、異方性粒子15とマトリクス材12との反応性や溶解性等の化学特性の差異を利用して、マトリクス材12のみを選択して除去する方法が好ましい。例えば、異方性粒子15がシリカや金属等の無機化合物から構成され、マトリクス材12がポリマー等の有機化合物から構成されている場合、オゾンアッシングや焼成等の酸化反応によってマトリクス材12のみを除去する方法が好ましい。
【0036】
あるいは、異方性粒子15がポリマー等の有機化合物から構成され、マトリクス12材がシリカや金属等の無機化合物から構成される場合には、前記方法と逆の方法によってマトリクス材12のみを除去する方法が好ましい。例えば、マトリクス材と反応性を有するガス、あるいは薬剤を用いたエッチング等の方法が挙げられる。本発明においては、前記方法に限定されず、最終的にマトリクス材12を除去することが可能な方法であれば、それを用いることができる。
【0037】
基板14から異方性粒子15の分離工程に用いる方法は、基板14から異方性粒子15を良好に分離することが可能な方法であればよく、本発明は特定の方法に限定されない。例えば、異方性粒子15が分散しうる溶剤に異方性粒子15と基板14とを浸漬し、超音波照射等の外的な力を異方性粒子15と基板14との間に与えることで、異方性粒子15と基板14との間の結合力を緩和させて、両者を分離する方法が挙げられる。また、マトリクス材12の除去工程と同様に、反応性や溶解性等の化学特性の差異を利用して、基板14のみを選択除去する方法もある。本発明においては、前記方法に限定されず、最終的に異方性粒子15を基板14から分離することが可能な方法であれば、それを用いることができる。
【0038】
以上で説明した異方性粒子の製造方法は、第一の粒子11の平均粒径がサブミクロン以下である場合に好ましく実施されるものである。なお、ここでいうサブミクロン以下とは、1μm以下のことである。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0040】
(実施例1)
平均粒径5nmのシリカ粒子と平均粒径200nmのポリスチレン粒子を純水に分散させ、濃度をそれぞれ表1のとおりに調整し、2種類の液体を作製した。
【0041】
【表1】

【0042】
120℃で10分間オゾンアッシングして洗浄したシリコンウェハーの上に、これらの液体100μLを塗布液として供給した。次いでスピンコートで、それぞれのシリコンウェハーを1800rpmで30秒間回転し、続けて2000rpmで30秒間回転して、単層膜を得た。液体1と液体2から作製した単層膜を、それぞれ、単層膜1と単層膜2と呼ぶ。
【0043】
単層膜1と単層膜2とを走査型電子顕微鏡で観察したところ、単層膜1の方が単層膜2よりも、シリカ粒子マトリクスから露出しているポリスチレン粒子の表面積が大きいことが確認された(図3)。電子顕微鏡像を画像解析したところ、単層膜1と単層膜2とにおいて、ポリスチレン粒子がシリカ粒子マトリクスから露出している面積割合は、それぞれ、45.5%と34.5%であった。
【0044】
単層膜1と単層膜2とを、それぞれ、真空蒸着機のチャンバー内の金ソースから30cmのところに挿入してチャンバー内を10−6Torrに減圧し、次いで、0.5Å/sの製膜速度で金を蒸着して厚さ3nmの金が部分的に製膜されている異方性粒子を得る。
次に、前記異方性粒子の単層膜をフッ酸溶液に浸漬してエッチングを行い、シリカ粒子マトリクスを選択除去した。さらに、前記単層膜を純水に浸漬し、超音波を30分間照射して基板から分離された異方性粒子を得る。
【0045】
異方性粒子をシリコンウェハー上にスピンコートで散布して、走査型電子顕微鏡で観察すると、明らかに単層膜1から得られた異方性粒子の表面の方が、金が蒸着された部分が大きいことを確認した。さらに、何れの異方性粒子においても、金の蒸着部位と蒸着されていない部位の境界が明確であることを確認される。
【0046】
(実施例2)
平均粒径202nmのシリカ粒子をエタノールの中に分散させ、第一の液体1を調整した。また、平均粒径14nmのポリメチルメタクリレート粒子(以下、PMMA粒子と呼ぶ)を純水に分散させ、2種類の第二の液体1と第二の液体2とを調整する。各分散液の粒子と濃度は、表2の通りである。
【0047】
【表2】

【0048】
単層膜製造には、Langmuir-Blodgett膜(LB膜)製膜装置を用いた。サブフェーズである第二の液体1又は第二の液体2の液面に、第一の液体1を展開して30分間静置する。次に、10mm/minでバリアを圧縮すると表面張力変化に不連続点が観察されることから、この不連続点でシリカ粒子の単粒子膜が形成されていると判断する。前記不連続点にてバリア圧縮を停止し、30分間静置した後、10mm/minでバリアを再度圧縮しながら、シリカ粒子の単粒子膜と第二の液体1又は第二の液体2の一部をシリコンウェハーの上に10mm/minにて堆積させ、自然乾燥させて単層膜を得た。第二の液体1と第二の液体2を用いて作製する単層膜を、それぞれ、単層膜3と単層膜4と呼ぶ。
【0049】
単層膜3と単層膜4とを走査型電子顕微鏡で観察すると、単層膜3の方が単層膜4よりも、PMMA粒子マトリクスから露出しているポリスチレン粒子の表面積が大きいことが確認される。
【0050】
エタノール33.2mL、28%アンモニア水1.8mL、アミノプロピルトリエトキシシラン7.00μLの混合液を用意し、単層膜3と単層膜4とを、それぞれ別々の前記混合液に浸漬し、撹拌しながら室温で24時間放置して一部分がアミノ基で改質された異方性粒子を得る。次いで、前記混合液から単層膜を取り出し、エタノールと純水を用いて、洗浄を行う。
【0051】
単層膜を純水中に入れて超音波を30分間照射し、前記異方性粒子をシリコンウェハーから分離させる。次いで、20,000Gで30分間遠心分離して、沈殿物をPhosphate buffered saline(リン酸緩衝生理食塩水:PBS)溶液に分散させる操作を3回行って、精製された異方性粒子を得る。
【0052】
アミノ基で部分改質された前記異方性粒子と、水酸化ナトリウムでpH8に調整したエチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩(EDTA)溶液とSulfosuccinimidyl 4-[N-maleimidomethyl]cyclohexane-1-carboxylate(sulfo-SMCC)水溶液を混和する。そして前記異方性粒子が1.0mg/mL、EDTAが2.0mM、sulfo-SMCCが10μMに、それぞれなるようにPBSで希釈する(総量:2.0mL)。この溶液を500rpmで振とうしながら25℃で1時間作用させる。その後、未反応のsulfo-SMCCを除去するために、30,000G、4℃で15分間遠心分離してデカンテーションし、1.0mLのEDTAを含んだPBS溶液(2.0mM)を加えて再分散させて、抗体結合活性の異方性粒子を得る。
【0053】
sulfo-SMCCで活性化した異方性粒子と、Alexa488が結合した抗ウサギIgG(ヤギ由来)のF(ab’)フラグメントを、メルカプトエチルアミン塩化物を用いた既往のプロトコルを用いて還元して得られるFab’フラグメントを混和する。そして異方性粒子が1.0mg/mL、Fab’が2.64×10−3mg/mLに、それぞれなるように2.0mMのEDTAのPBS溶液で希釈する(総量:2.0mL)。この溶液を500rpmで振とうしながら25℃で1日(24時間)作用させて、Fab’が粒子のアミノ基部分と結合した異方性粒子を得る。
【0054】
抗体結合の異方性粒子のPBS分散液を蛍光相関分光法で評価すると、単層膜3から得られた異方性粒子の拡散時間のほうが長く、より多くの抗体結合した異方性粒子であることが確認される。
【0055】
(比較例1)
平均粒径5nmのシリカ粒子と平均粒径200nmのポリスチレン粒子を純水に分散させ、濃度をそれぞれ表3のとおりに調整した液体を作製した。
【0056】
【表3】

【0057】
これらの液体を、120℃で10分間オゾンアッシングして洗浄したシリコンウェハー上に、それぞれスピンコートで塗布した。前記シリコンウェハー上に100μL液体3を滴下した後、1800rpmで30秒間回転し、続けて2000rpmで30秒間回転して、粒子膜を得た。
【0058】
前記粒子膜を走査型電子顕微鏡で観察したところ、ポリスチレン粒子の一部が多層構造となっており、表面改質面積を所望の値に変えることができないことが確認された。これは、多層構造となっている部分は、ポリスチレン粒子同士が重なっているため、粒子の表面を改質する際の妨げになるからである。
【0059】
(比較例2)
平均粒径5nmのシリカ粒子と平均粒径200nmのポリスチレン粒子を純水に分散させ、濃度をそれぞれ表4のとおりに調整し、2種類の液体を作製した。
【0060】
【表4】

【0061】
120℃で10分間オゾンアッシングして洗浄したシリコンウェハー上に、100μLの液体4を滴下し、1800rpmで30秒間回転し、続けて2000rpmで30秒間回転してシリカ粒子のマトリクスを得た。次いで、シリカ粒子のマトリクスの上に、100μLの液体5を滴下し、1800rpmで30秒間回転し、続けて乾燥のために2000rpmで30秒間回転して単層膜5を得た。
【0062】
単層膜5を走査型電子顕微鏡で観察したところ、ポリスチレン粒子がシリカ粒子マトリクス内に埋没しておらず、表面改質面積を所望の値に変えることができないことが確認された(図4)。これは、ポリスチレン粒子が全面露出しており、表面改質を妨げるシリカ粒子マトリクスが存在しないため、表面改質面積がポリスチレン粒子の平均粒径等に依存してしまうからである。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る異方性粒子の製造方法によって製造される異方性粒子は、ミクロスケールでのプローブ、医療診断薬、高次配列構造体用のビルディングブロック等、多様な分野への応用が期待される。例えば、ミクロスケールでのプローブや医療診断薬では、従来の異方性粒子よりも、より高感度になるように異方性部位を設計することができる。また、高次配列構造体用のビルディングブロックでは、異方性粒子の異方性部位を精密に変えることで、より多様な形状で、かつ、より規則性の高い高次構造体を製造することできると期待される。
【符号の説明】
【0064】
11 第一の粒子
12 マトリクス材
13 液体
14 基板
15 異方性粒子
21 第一の液体
22 第二の液体
23 第一の粒子からなる単粒子膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の粒子と、前記第一の粒子の平均粒径よりも小さい平均粒径を有し、かつ、前記第一の粒子とは異なる材料からなるマトリクス材、あるいは前記マトリクス材の前駆体とを含む液体を基板上に付与することにより、前記第一の粒子の間に前記マトリクス材が前記第一の粒子の平均粒径未満の高さで充填されている前記第一の粒子の単層膜を前記基板上に形成する形成工程と、
前記マトリクス材から露出している前記第一の粒子の部分を改質することにより異方性粒子を成形する成形工程と、
前記異方性粒子を前記基板及び前記マトリクス材から分離する分離工程と、
を含むことを特徴とする異方性粒子の製造方法。
【請求項2】
前記形成工程が、前記マトリクス材、あるいは前記マトリクス材の前駆体を含む液体の液面上に形成した前記第一の粒子から構成される単粒子膜を前記液体の一部とともに前記基板上に移動する工程であることを特徴とする請求項1に記載の異方性粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−254526(P2010−254526A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107193(P2009−107193)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】