説明

異音ピツクアップツール

【課題】シンプルな構成で,簡単,確実に被測定機器の異音状態を把握,分析することが出来る異音ピツクアップツールを提供する。
【解決手段】所定条件で動作中の標準機器からピックアップしてA/D変換によりデジタル信号化して,高速フーリエ変換(FFT)により周波数スペクトラム変換する変換処理,変換処理した標準信号と,停止中の被測定機器からピックアップして変換処理した騒音信号とを演算処理することにより周辺騒音をキャンセルして,標準機器異音を基準信号として記憶媒体に記憶させ,所定条件で動作中の被測定機器からピックアップして変換処理した被測定信号と,停止中の標準機器からピックアップして変換処理した騒音信号,ならびに記憶媒体に記憶されている基準信号を演算処理することにより,周辺騒音をキャンセルし,良品基準を満たす標準機器との差異比較により良否判定することが出来る異音ピツクアップツール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
被測定機器と同等な部材,構成,機能を備え,発生する異音が良品基準を満たす標準機器,ならびに被測定機器が発する異音,周辺騒音をマイクなどのセンサーでピックアップするセンサーユニット,ピツクアップした電気信号をA/D変換によりデジタル信号化して,高速フーリエ変換(FFT)により周波数スペクトラム変換する変換処理,変換した信号を演算処理して差異を表示するピックアップツールに関して,「初期設定」として,所定条件で動作中の標準機器からピックアップして変換処理した標準信号と,停止中の被測定機器からピックアップして変換処理した騒音信号を演算処理することにより周辺騒音をキャンセルして,標準機器異音を基準信号として記憶媒体に記憶させ,「測定処理」として,所定条件で動作中の被測定機器からピックアップして変換処理した被測定信号と,停止中の標準機器からピックアップして変換処理した騒音信号,ならびに記憶媒体に記憶されている基準信号を演算処理することにより,周辺騒音をキャンセルし,良品基準を満たす標準機器との差異比較により良否判定するため,周辺騒音による影響を受けず,シンプルな構成で,簡単,確実に被測定機器の異音発生状態を把握することが出来る異音ピツクアップツール。
【背景技術】
【0002】
電気機器の動作が正常であるか否かの判断の一つとして,動作時の異音検出が実用化されている。電気機器では,ハードディスク,コンパクトディスク,ファン,ソレノイド,電源などから発する異音や,磁気テープ,用紙走行などで生ずる擦れによる異音など数多くの異音が発生し,許容範囲を越えた場合は極めて不快であるとともに,機器に何らかの不具合が発生している場合が多い。発生してる異音が正常な範囲であるか否かは,熟練した作業者が直接耳で聞いて判断する場合が多いが,近年では,被測定機器に加速度センサー,振動センサー,マイクなどのセンサーを取り付けてピツクアップされる信号をA/D変換,高速フーリエ変換して,その分析により良否判定を行う方法が各種実用化されているが,良否判定する基準の設定の難しさ,周囲の騒音による影響による誤判定などに対する改善が強く求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
電気機器の動作に伴って発生する異音を作業者が耳で聞いて判定する方法は,判定の基準に個人差が生じ基準が曖昧になる。一方,加速度センサー,振動センサー,マイクなどで集音して周波数スペクトラム変換して分析する方式では,定量的な判断が可能ではあるが,良否判定する基準の設定が難しいとともに,工場の生産現場などでは周辺の他の機械の騒音,人の話し声などが影響して,被測定機器から真の異音を検出することには難がある。また,周辺の影響を排除するために,遮音対策を講じたり,複数のセンサーにより周辺騒音を集音して,被測定機器で得られる異音から騒音分をキャンセルするなど,種々の方法がとられるが,その何れもが不十分であり,被測定機器の発する異音を確実に分析することは難しい。しかるに,本発明の目的は,周辺騒音の影響を受けず,シンプルな構成で,簡単,確実に被測定機器の異音状態を把握,分析することが出来る異音ピツクアップツールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
所定条件で動作中の標準機器からピックアップして変換処理した標準信号(標準機器異音+周辺騒音)と,停止中の被測定機器からピックアップして変換処理した騒音信号(周辺騒音)とを演算処理することにより周辺騒音をキャンセルして,標準機器異音を基準信号として記憶媒体に記憶させ,所定条件で動作中の被測定機器からピックアップして変換処理した被測定信号(被測定機器異音+周辺騒音)と,停止中の標準機器からピックアップして変換処理した騒音信号(周辺騒音),ならびに記憶媒体に記憶されている基準信号(標準異音)を演算処理することにより,周辺騒音をキャンセルして,被測定機器異音と標準異音との差異を表示する。
【発明の効果】
【0005】
標準機器は発生する異音が良品基準を満たし,かつ,標準機器と被測定機器とは同等な部材,構成,機能を備える。信号のピツクアップは,同じ感度,利得を備えた同一性能のセンサーユニットを使用するとともに,センサーユニットを同等な位置に取り付け,異音測定時に機器を動作させる場合は所定の動作モードとするなど,異音や騒音の測定条件を可能な限り揃えることにより,測定の確度,精度を高くする。標準機器異音を基準信号として記憶媒体に記憶させ,被測定機器の異音レベルを評価する場合に,記憶される基準信号を読み出して参照することにより,基準信号の経時変化が無く,安定した測定が可能である。被測定機器の異音を単純な絶対値評価ではなく,良品と判断される標準機器の標準機器異音との差異評価により判定するものであり,同等な部材,構成,機能の機器に関しては,同じ周波数帯域にほぼ同じ傾向の異音が発生する性格を利用して,標準機器異音の特徴点をマーキングして,被測定機器がどのような状況であるかを監視したり,標準異音では発生していない異音を検知するなど,適切で精度の高い異音分析が可能となる大きな特徴を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1に本発明による異音ピツクアップツールの概略構成図を示す。標準機器は発生する異音が良品基準を満たし,かつ,標準機器と被測定機器とは同等な部材,構成,機能を備える。信号のピツクアップは,同じ感度,利得を備えた同一性能のセンサーユニットを使用するとともに,センサーユニットを同等な位置に取り付け,異音測定時に機器を動作させる場合は所定の動作モードとするなど,異音や騒音の測定条件を可能な限り揃えることにより,測定の確度,精度を高める。「初期設定」として,所定条件で動作中の標準機器からピックアップして変換処理した標準信号(標準機器異音+周辺騒音)と,停止中の被測定機器からピックアップして変換処理した騒音信号(周辺騒音)を演算処理することにより周辺騒音をキャンセルして,標準機器異音を基準信号として記憶媒体に記憶させ,被測定機器の異音レベルを評価する場合に,記憶される基準信号を読み出して参照することにより,基準信号の経時変化が無く,安定した測定が可能である。
【0007】
「測定処理」として,所定条件で動作中の被測定機器からピックアップして変換処理した被測定信号(被測定機器異音+周辺騒音)と,停止中の標準機器からピックアップして変換処理した騒音信号(周辺騒音),ならびに記憶媒体に記憶されている基準信号(標準異音)を演算処理することにより,周辺騒音がキャンセルされ,かつ被測定機器異音と標準異音とに差異が生じた場合に,偏差値やNGなどの表示を行うことにより,周囲騒音による影響を受けず,シンプルな構成で,簡単,確実に被測定機器の異音発生状態を把握することが出来る。
【0008】
図2に,記載する信号名,信号内容の一覧を表示している。標準機器,被測定機器ともに動作中は,取り付けたセンサーユニットにより,機器の発する異音と周辺騒音がピックアップされ,停止中は周囲騒音が同等にピックアップされる。従って,動作中にピツクアップされる信号から,停止中における周辺騒音をキャンセルすれば,機器が発する異音を簡単に抽出することが出来る。なお,初期設定において周辺騒音をキャンセルして,標準機器異音を記憶媒体に記憶したものが基準信号(標準異音)である。
【0009】
図3はセンサーユニットを機器に取り付ける保持具の外観斜視図を示し,マイクを内装し,周囲の騒音を遮音し,機器が発する異音を効率良くマイクに集音するために高比重な金属を用いたピース1,コンデンサーマイク2,マイクケーブル3,着脱自在に装着する保持具4,ピースを測定対象面に押圧保持する吸盤5を示す。本発明では,周囲の騒音は演算処理によりキャンセルするが,マイクに直接飛び込む騒音は騒音の発生源とピースの位置などにより微妙に異なるため,可能な限り遮音することが望ましい。
【0010】
標準異音には記憶されていない異音が発生し,かつ,演算された差異が所定の基準値を上回る場合,または,下回る場合は,なんらかの異常が発生していることを示し,最悪の場合は,標準異音データが破壊されている場合もあるなど,点検が必要であることを示している。また,被測定機器の測定の動作モードを変更する場合は,再度初期設定をして同じ動作モードの標準信号を記憶させて参照することが必要である。なお,規定する基準値は,周波数帯域により異なる場合もあるため,基準テーブルにそれぞれの帯域に対して最適な基準値を設定しておいて周波数帯域ごとに参照する方法が望ましい。
【実施例】
【0011】
センサーユニットとしては,被測定機器への軽度な密着性で良いコンデンサーマイクを使用し,ピースは周辺騒音を遮音し,被測定機器が発する異音を効率良くマイクに集音するために高比重な真鍮で形成し,厚さ4mm,最大径40mm,高さ30mmとした。吸盤はエラストマー,保持具はアクリルで構成した。基準信号を記憶する記憶媒体としては,半導体メモリー,ハードディスクなどを使用した。請求項2は,記憶媒体に記憶した基準信号を参照せず,標準機器,被測定機器それぞれが発する異音,騒音を直接比較するものであり,動作モードを変更しながら異音の発生元を調べる場合などに有効である。請求項3は,被測定機器からの異音,騒音を他の信号と演算処理せずに表示するものであり,被測定機器の異音の実態を把握する場合に有効である。請求項4は標準機器の発する異音が経時的に変化していないかどうかを調べる場合に有効である。
【0012】
図4は,一台の標準機器,記憶媒体に対して,二台の被測定機器を接続する例を記載しており,同じ構成により,複数台の接続が可能である。表示に関しては,特定の監視帯域だけを切り出して拡大表示したり,周波数スペクトラムが発生してはならない帯域をエリア表示により重点監視するなど,種々の表示方法が考えられるとともに,センサーとしては加速度センサー,振動センサー,遮蔽材としてウレタンでピースを被覆,保持具として粘着材を使用すること,複数の記憶媒体を保有して,複数の動作モードごとの基準信号を記憶しておいて,動作モードに適合した基準信号を選択して参照することも可能であるなど,材質,サイズ,デイメンジョン,形状,構成方法などは,本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば種々変形実施が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0013】
所定条件で動作中の標準機器からピックアップしてA/D変換によりデジタル信号化して,高速フーリエ変換(FFT)により周波数スペクトラム変換する変換処理,変換処理した標準信号と,停止中の被測定機器処理した騒音信号とを演算処理することにより周辺騒音をキャンセルして,標準機器異音を基準信号として記憶媒体に記憶させ,所定条件で動作中の被測定機器からピックアップして変換処理した被測定信号と,停止中の標準機器からピックアップして変換処理した騒音信号,ならびに記憶媒体に記憶されている基準信号を演算処理することにより,周辺騒音をキャンセルして,被測定機器異音と標準異音との差異を表示する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】 本発明による異音ピツクアップツールの概略構成図を示す。
【図2】 動作状態,信号名,信号内容の関係を示す。
【図3】 センサーユニットを機器に取り付ける保持具の外観斜視図を示す。
【図4】 複数の被測定機器を処理する異音ピツクアップツールの概略構成図を示す。
【符号の説明】
1 ピース
2 コンデンサーマイク
3 マイクケーブル
4 保持具
5 吸盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定機器と同等な部材,構成,機能を備え,発生する異音が良品基準を満たす標準機器,ならびに被測定機器が発する異音,周辺騒音をマイクなどのセンサーでピックアップするセンサーユニット,ピツクアップした電気信号をA/D変換によりデジタル信号化して,高速フーリエ変換により周波数スペクトラム変換する変換処理,変換した信号を演算処理して差異を表示するピックアップツールに関して,「初期設定」として,所定条件で動作中の標準機器からピックアップして変換処理した標準信号(標準機器異音+周辺騒音)と,停止中の被測定機器からピックアップして変換処理した騒音信号(周辺騒音)とを演算処理することにより周辺騒音をキャンセルして,標準機器異音を基準信号として記憶媒体に記憶させ,「測定処理」として,所定条件で動作中の被測定機器からピックアップして変換処理した被測定信号(被測定機器異音+周辺騒音)と,停止中の標準機器からピックアップして変換処理した騒音信号(周辺騒音),ならびに記憶媒体に記憶されている基準信号(標準異音)を演算処理することにより,周辺騒音をキャンセルして,被測定機器異音と標準異音との差異を表示することにより,周辺騒音による影響を受けず,シンプルな構成で,簡単,確実に被測定機器の異音発生状態を把握することが出来る異音ピツクアップツール。
【請求項2】
「測定処理」として,所定条件で動作中の被測定機器からピックアップして変換処理した被測定信号と,所定条件で動作中の標準機器からピツクアップして変換処理した標準信号とを演算処理することにより,周辺騒音をキャンセルして,被測定機器異音と標準機器異音との差異を表示する,請求項1に記載される異音ピツクアップツール。
【請求項3】
「測定処理」として,所定条件で動作中の被測定機器からピツクアップして変換処理した被測定信号を他の信号と演算処理せず表示することにより,被測定信号そのものを表示する,請求項1,請求項2に記載される異音ピツクアップツール。
【請求項4】
「測定処理」として,所定条件で動作中の標準機器からピツクアップして変換した標準信号,停止中の被測定機器からピックアップして変換した騒音信号,ならびに記憶媒体に記憶される基準信号を演算処理することにより,周辺騒音をキャンセルして,標準機器異音と標準異音との差異を表示して,標準機器における異音の経時変化を監視する,請求項1,請求項2,請求項3に記載される異音ピツクアップツール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−276334(P2009−276334A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153541(P2008−153541)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(396014636)株式会社ワイ・イー・シー (13)
【出願人】(507160344)株式会社メイルリバー (6)
【Fターム(参考)】