説明

病変間葉系幹細胞の検出マーカーの利用

【課題】本発明は、病変した間葉系幹細胞(MSC)を選択的に検出し得る手段を提供する。
【解決手段】本発明は、(a)変形性関節症(OA)由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子、(b)関節リウマチ(RA)由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子、および(c)OA由来滑膜細胞およびRA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子を検出マーカーとして利用することによって、病変したMSCを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形性関節症由来滑膜細胞や関節リウマチ由来滑膜細胞をはじめとする病変間葉系幹細胞において高発現する遺伝子、より好ましくは当該病変間葉系幹細胞において選択的に高発現する遺伝子の利用に関する。より具体的には、本発明は、上記遺伝子を検出マーカーとして用いて病変間葉系幹細胞を検出する方法、および上記遺伝子を検出マーカーとして用いて被検体における病変間葉系幹細胞が関連する疾患(例えば、変形性関節症、関節リウマチ等)の発症またはその発症危険性を検出する方法に関する。さらに、本発明は、上記遺伝子を検出するために用いられる手段(例えばマイクロアレイ、プローブ、抗体等)を提供する。
【0002】
また本発明は、上記遺伝子の発現抑制を行うことによる、病変間葉系幹細胞が関連する疾患(例えば、変形性関節症、関節リウマチ等)の治療剤をも提供する。上記治療薬は、上記遺伝子またはその部分断片に対するsiRNAを含み、RNAiの原理によって当該遺伝子の発現を抑制する。
【背景技術】
【0003】
間葉系幹細胞(以下、適宜「MSC」と略す)は、哺乳類の骨髄等に存在し、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞に分化する多能性の幹細胞として知られている。間葉系幹細胞は、その分化多能性の故に、多くの組織の再生医療のための移植材料として注目されている。すなわち、間葉系幹細胞を用いて、従来の治療方法では再生しなかった、疾病や障害により失った組織を再生し、機能を回復させる「細胞移植による再生医療」である。具体的には、例えば、下肢虚血(ビュルガー病)患者に対する骨髄間葉系幹細胞の移植、歯周病患部への骨髄間葉系幹細胞の移植、変形性関節症患者に対する骨髄間葉系幹細胞の移植、火傷患部への羊膜上皮シートの移植、糖尿病患者への羊膜幹細胞の移植等の治療が開始または計画されている。
【0004】
このように間葉系幹細胞を再生医療に利用するためには、まず、幹細胞を生体組織から採取し、それを未分化のまま増殖させ、さらに増殖させた未分化幹細胞を所望の細胞へ分化誘導し、再生治療用の組織の調製を行うことが必要となる。
【0005】
ここで、本発明者らはこれまでに、間葉系幹細胞の採取に際して、採取母体に安全で、且つ採取が容易な分離採取を行うために、口腔組織から間葉系幹細胞を分離採取する方法を報告している(特許文献1参照)。また、基底膜細胞外基質の存在下において、または線維芽細胞増殖因子(FGF)等の含有培地で間葉系幹細胞を培養することによって、間葉系幹細胞が著しく速く増殖させ、かつ、その分化能を維持できることを見い出して、従来の培養方法と比較して顕著に多くの間葉系幹細胞を得る培養方法を報告している(特許文献2参照)。
【0006】
さらに、本発明者らは間葉系幹細胞を用いた再生医療を実用化するために、培養した細胞から間葉系幹細胞を識別し、当該間葉系幹細胞を分離する方法を開発した。より具体的には、本発明者らは、形態的に類似しているためにその区別が困難な間葉系幹細胞と線維芽細胞とを、間葉系幹細胞検出用遺伝子マーカーおよび/または間葉系幹細胞検出用タンパク質マーカーを用いて効果的に識別し、分離する方法を開発した(特許文献3参照)。また本発明者らは、分子マーカーを用いて、未分化の間葉系幹細胞と、線維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、および脂肪細胞等の他の結合組織系の細胞とを精度よく識別し、未分化の間葉系幹細胞を分離する方法を開発した(国際出願番号PCT/JP2006/306658、国際出願日2006年3月30日)。
【0007】
ところで、変形性関節症(以下「OA」という)や関節リウマチ(以下「RA」という)由来の滑膜細胞が、骨、軟骨、脂肪などへの分化能を有していることが、最近報告された(非特許文献1参照)。また本発明者らによる検討によっても、OA由来滑膜細胞およびRA由来滑膜細胞が多分化能を有していることが確認され、OA由来滑膜細胞およびRA由来滑膜細胞は病的に変化したMSC(「病変MSC」ともいう)であるということが明らかとなった。また上記病変MSCが有する異常な増殖能および分化能によって、関節症が悪化することも知られている(非特許文献2参照)。
【0008】
したがって、MSCを用いた再生医療においてより安全を期すためには、上記病変MSCを検出し、病変MSCを再生医療へ適用することを未然に防ぐ必要がある。つまり、病変MSCを検出し得る手段、より好ましくは病変MSCを選択的に検出し得る手段が必要となる。
【0009】
ところで、病変MSCが関連する疾患であるOAおよびRAは、不治の慢性疾患として知られており、各所で当該疾患の診断方法や治療薬の開発が模索されている。しかし、上記疾患の診断は、医師の経験によって判断されているのが現状であり、有効な診断方法は確立されていない。また上記疾患の治療薬としてステロイドやメソトレキセートなどが現在用いられているが、これらの薬剤は副作用が強いという欠点を有している。一方、上記疾患の治療薬として生物製剤(例えば炎症性サイトカインを標的としたもの)が用いられる場合があるが、生物製剤は高価である上に、病変MSC特異的でないため肺炎などの感染症を併発し易いという欠点を有している。よって、上記疾患の治療薬として十分なものが開発されるに至っていないというのが現状である。
【特許文献1】特開2003−52365号公報(公開日:平成15(2003)年2月25日)
【特許文献2】特開2003−52360号公報(公開日:平成15(2003)年2月25日)
【特許文献3】特開2005−27579号公報(公開日:平成17(2005)年2月3日)
【非特許文献1】Arthritis Rheum. 2005 Aug;52(8):2521-9. Comparison of human stem cells derived from various mesenchymal tissues: superiority of synovium as a cell source.Sakaguchi Y, Sekiya I, Yagishita K, Muneta T.
【非特許文献2】「骨、関節疾患」宮坂信之、野田政樹、西岡久寿樹(編集)、3関節リウマチ、p218-227、2003年、朝倉書店
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、MSCを用いた再生医療においてより安全を期すべく、病変MSCを選択的に検出し得る手段を提供することを目的とした。より具体的には、OA由来滑膜細胞やRA由来滑膜細胞をはじめとする病変MSCにおいて選択的に発現が亢進されている遺伝子を見出し、上記遺伝子を検出マーカーとして用いて病変MSCを検出する方法、および上記遺伝子を検出マーカーとして用いて被検体における病変MSCが関連する疾患(例えば、OA、RA等)の発症またはその発症危険性を検出する方法を提供することを、本発明は目的とした。さらに、本発明は、上記遺伝子を検出するために用いられる手段(例えばマイクロアレイ、プローブ、抗体等)を提供することを目的とした。また本発明は、上記遺伝子の発現抑制を行うことを作用機序とする、病変MSCが関連する疾患(例えば、OA、RA等)の治療剤を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、正常MSC、線維芽細胞(以下「FB」という)、骨芽細胞(以下「OS」という)、軟骨細胞(以下「CH」という)、脂肪細胞(以下「AD」という)、OA由来滑膜細胞、およびRA由来滑膜細胞において、DNAマイクロアレイを用いて各種遺伝子の発現プロファイルを調べたところ、
(a)OA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子、
(b)RA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子、
(c)OA由来滑膜細胞およびRA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子、並びに
(d)正常MSC、OA由来滑膜細胞およびRA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子が存在するという新規知見を得た。そして本発明者らは、定量的RT-PCR法によって、上記遺伝子の中から各細胞において特異的発現が観察される遺伝子をさらに選抜し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、以下の発明を包含する。なお、以下の説明において、上記(a)の遺伝子のことを「グループaの遺伝子」と称し、上記(b)の遺伝子のことを「グループbの遺伝子」と称し、上記(c)の遺伝子のことを「グループcの遺伝子」と称し、上記(d)の遺伝子のことを「グループdの遺伝子」と称する。
【0012】
(1)下記表1a〜1cに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、
被検細胞において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含むことを特徴とする、病変間葉系幹細胞の検出方法。
【0013】
【表1a】

【0014】
【表1b】

【0015】
【表1c】

【0016】
表1aに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループaの遺伝子であり、表1bに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループbの遺伝子であり、表1cに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループcの遺伝子である。よって、被検細胞において、上記グループa〜cの遺伝子のいずれか1つ以上の遺伝子の発現を検出することによって、被検細胞に病変MSCが含まれているか否かを検出することができる。
【0017】
(2)下記表2に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、
被検細胞において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含むことを特徴とする、病変間葉系細胞の検出方法。
【0018】
【表2】

【0019】
表2に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループaの遺伝子である。よって、被検細胞において、グループaの遺伝子のいずれか1つ以上の遺伝子の発現を検出することによって、被検細胞に病変MSCが含まれているか否かを検出することができる。特にグループaの遺伝子は、OA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子であるため、本検出方法によれば、被検細胞にOA由来滑膜細胞が含まれているか否かを検出することができる。
【0020】
(3)下記表3に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、
被検細胞において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含むことを特徴とする、病変間葉系細胞の検出方法。
【0021】
【表3】

【0022】
表3に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループbの遺伝子である。よって、被検細胞において、グループbの遺伝子のいずれか1つ以上の遺伝子の発現を検出することによって、被検細胞に病変MSCが含まれているか否かを検出することができる。特にグループbの遺伝子は、RA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子であるため、本検出方法によれば、被検細胞にRA由来滑膜細胞が含まれているか否かを検出することができる。
【0023】
(4)下記表4に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、
被検細胞において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含むことを特徴とする、病変間葉系細胞の検出方法。
【0024】
【表4】

【0025】
表4に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループcの遺伝子である。よって、被検細胞において、グループcの遺伝子のいずれか1つ以上の遺伝子の発現を検出することによって、被検細胞に病変MSCが含まれているか否かを検出することができる。特にグループcの遺伝子は、OA由来滑膜細胞およびRA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子であるため、本検出方法によれば、被検細胞にOA由来滑膜細胞および/またはRA由来滑膜細胞が含まれているか否かを検出することができる。
【0026】
(5)下記(a1)〜(d1)のいずれかのうち、少なくとも1つ以上が固定されてなる、病変間葉系幹細胞検出用のマイクロアレイ:
(a1)下記表5a〜表5cのいずれかに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(b1)下記表5a〜表5cのいずれかに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;
(c1)上記(a1)または(b1)の部分塩基配列を有するポリヌクレオチド;および
(d1)上記(a1)〜(c1)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0027】
【表5a】

【0028】
【表5b】

【0029】
【表5c】

【0030】
表5aに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループaの遺伝子であり、表5bに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループbの遺伝子であり、表5cに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループcの遺伝子である。よって、上記マイクロアレイは、被検細胞において、上記グループa〜cの遺伝子のいずれか1つ以上の遺伝子の発現を検出する際に用いられ得る。それゆえ、上記マイクロアレイによれば、被検細胞に病変MSCが含まれているか否かを効率良く検出することができる。
【0031】
(6)下記(a2)〜(d2)のいずれかのうち、少なくとも1つ以上が固定されてなる、病変間葉系幹細胞検出用のマイクロアレイであって、当該病変間葉系幹細胞が変形性関節症由来滑膜細胞である、上記マイクロアレイ:
(a2)下記表6に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(b2)下記表6に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;
(c2)上記(a2)または(b2)の部分塩基配列を有するポリヌクレオチド;および
(d2)上記(a2)〜(c2)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0032】
【表6】

【0033】
表6に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループaの遺伝子である。よって、上記マイクロアレイは、被検細胞において、上記グループaの遺伝子のいずれか1つ以上の遺伝子の発現を検出する際に用いられ得る。それゆえ、上記マイクロアレイによれば、被検細胞に病変MSCが含まれているか否かを効率良く検出することができる。特にグループaの遺伝子は、OA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子であるため、上記マイクロアレイによれば、被検細胞にOA由来滑膜細胞が含まれているか否かを効率良く検出することができる。
【0034】
(7)下記(a3)〜(d3)のいずれかのうち、少なくとも1つ以上が固定されてなる、病変間葉系幹細胞検出用のマイクロアレイであって、当該病変間葉系幹細胞が関節リウマチ由来滑膜細胞である、上記マイクロアレイ:
(a3)下記表7に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(b3)下記表7に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;
(c3)上記(a3)または(b3)の部分塩基配列を有するポリヌクレオチド;および
(d3)上記(a3)〜(c3)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0035】
【表7】

【0036】
表7に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループbの遺伝子である。よって、上記マイクロアレイは、被検細胞において、上記グループbの遺伝子のいずれか1つ以上の遺伝子の発現を検出する際に用いられ得る。それゆえ、上記マイクロアレイによれば、被検細胞に病変MSCが含まれているか否かを効率良く検出することができる。特にグループbの遺伝子は、RA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子であるため、上記マイクロアレイによれば、被検細胞にRA由来滑膜細胞が含まれているか否かを効率良く検出することができる。
【0037】
(8)下記(a4)〜(d4)のいずれかのうち、少なくとも1つ以上が固定されてなる、病変間葉系幹細胞検出用のマイクロアレイであって、当該病変間葉系幹細胞が変形性関節症由来滑膜細胞および関節リウマチ由来滑膜細胞である、上記マイクロアレイ:
(a4)下記表8に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(b4)下記表8に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;
(c4)上記(a4)または(b4)の部分塩基配列を有するポリヌクレオチド;および
(d4)上記(a4)〜(c4)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0038】
【表8】

【0039】
表8に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループcの遺伝子である。よって、上記マイクロアレイは、被検細胞において、上記グループcの遺伝子のいずれか1つ以上の遺伝子の発現を検出する際に用いられ得る。それゆえ、上記マイクロアレイによれば、被検細胞に病変MSCが含まれているか否かを効率良く検出することができる。特にグループcの遺伝子は、OA由来滑膜細胞およびRA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子であるため、上記マイクロアレイによれば、被検細胞にOA由来滑膜細胞および/またはRA由来滑膜細胞が含まれているか否かを効率良く検出することができる。
【0040】
(9)下記(a5)〜(c5)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドからなることを特徴とする病変間葉系幹細胞の検出用プローブ:
(a5)下記表9a〜表9cのいずれかに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(b5)下記表9a〜表9cのいずれかに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;および
(c5)上記(a5)または(b5)の部分塩基配列。
【0041】
【表9a】

【0042】
【表9b】

【0043】
【表9c】

【0044】
表9aに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループaの遺伝子であり、表9bに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループbの遺伝子であり、表9cに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループcの遺伝子である。よって、上記プローブは、被検細胞において、上記グループa〜cの遺伝子のいずれか1つ以上の遺伝子の発現を検出する際に用いられ得る。それゆえ、上記プローブによれば、被検細胞に病変MSCが含まれているか否かを効率良く検出することができる。
【0045】
(10)下記(a6)〜(c6)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドからなることを特徴とする病変間葉系幹細胞の検出用プローブであって、当該病変間葉系幹細胞が変形性関節症由来滑膜細胞である、上記検出用プローブ:
(a6)下記表10に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(b6)下記表10に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;および
(c6)上記(a6)または(b6)の部分塩基配列。
【0046】
【表10】

【0047】
表10に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループaの遺伝子である。よって、上記プローブは、被検細胞において、上記グループaの遺伝子のいずれか1つ以上の遺伝子の発現を検出する際に用いられ得る。それゆえ、上記プローブによれば、被検細胞に病変MSCが含まれているか否かを効率良く検出することができる。特にグループaの遺伝子は、OA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子であるため、上記プローブによれば、被検細胞にOA由来滑膜細胞が含まれているか否かを効率良く検出することができる。
【0048】
(11)下記(a7)〜(c7)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドからなることを特徴とする病変間葉系幹細胞の検出用プローブであって、当該病変間葉系幹細胞が関節リウマチ由来滑膜細胞である、上記検出用プローブ:
(a7)下記表11に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(b7)下記表11に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;および
(c7)上記(a7)または(b7)の部分塩基配列。
【0049】
【表11】

【0050】
表11に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループbの遺伝子である。よって、上記プローブは、被検細胞において、上記グループbの遺伝子のいずれか1つ以上の遺伝子の発現を検出する際に用いられ得る。それゆえ、上記プローブによれば、被検細胞に病変MSCが含まれているか否かを効率良く検出することができる。特にグループbの遺伝子は、RA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子であるため、上記プローブによれば、被検細胞にRA由来滑膜細胞が含まれているか否かを効率良く検出することができる。
【0051】
(12)下記(a8)〜(c8)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドからなることを特徴とする病変間葉系幹細胞の検出用プローブであって、当該病変間葉系幹細胞が変形性関節症由来滑膜細胞および関節リウマチ由来滑膜細胞である、上記検出用プローブ:
(a8)下記表12に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(b8)下記表12に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;および
(c8)上記(a8)または(b8)の部分塩基配列。
【0052】
【表12】

【0053】
表12に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループcの遺伝子である。よって、上記プローブは、被検細胞において、上記グループcの遺伝子のいずれか1つ以上の遺伝子の発現を検出する際に用いられ得る。それゆえ、上記プローブによれば、被検細胞に病変MSCが含まれているか否かを効率良く検出することができる。特にグループcの遺伝子は、OA由来滑膜細胞およびRA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子であるため、上記プローブによれば、被検細胞にOA由来滑膜細胞および/またはRA由来滑膜細胞が含まれているか否かを効率良く検出することができる。
【0054】
(13)下記(a9)または(b9)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、かつ当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体を備えてなる病変間葉系幹細胞の検出用抗体:
(a9)下記表13a〜13cに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子によってコードされるポリペプチドのうち、少なくとも1つ以上のポリペプチド;
(b9)上記(a9)の部分ポリペプチド。
【0055】
【表13a】

【0056】
【表13b】

【0057】
【表13c】

【0058】
表13aに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループaの遺伝子であり、表13bに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループbの遺伝子であり、表13cに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループcの遺伝子である。よって、上記検出用抗体は、被検細胞において、上記グループa〜cの遺伝子のいずれか1つ以上の遺伝子の発現を、当該遺伝子がコードするポリペプチドの発現をもって検出する際に用いられ得る。それゆえ、上記検出用抗体によれば、被検細胞に病変MSCが含まれているか否かを効率良く検出することができる。
【0059】
(14)下記(a10)または(b10)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、かつ当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体を備えてなる病変間葉系幹細胞の検出用抗体であって、当該病変間葉系幹細胞が変形性関節症由来滑膜細胞である、上記検出用抗体:
(a10)下記表14に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子によってコードされるポリペプチドのうち、少なくとも1つ以上のポリペプチド;
(b10)上記(a10)の部分ポリペプチド。
【0060】
【表14】

【0061】
表14に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループaの遺伝子である。よって、上記検出用抗体は、被検細胞において、上記グループaの遺伝子のいずれか1つ以上の遺伝子の発現を、当該遺伝子がコードするポリペプチドの発現をもって検出する際に用いられ得る。それゆえ、上記検出用抗体によれば、被検細胞に病変MSCが含まれているか否かを効率良く検出することができる。特にグループaの遺伝子は、OA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子であるため、上記検出用抗体によれば、被検細胞にOA由来滑膜細胞が含まれているか否かを効率良く検出することができる。
【0062】
(15)下記(a11)または(b11)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、かつ当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体を備えてなる病変間葉系幹細胞の検出用抗体であって、当該病変間葉系幹細胞が関節リウマチ由来滑膜細胞である、上記検出用抗体:
(a11)下記表15に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子によってコードされるポリペプチドのうち、少なくとも1つ以上のポリペプチド;
(b11)上記(a11)の部分ポリペプチド。
【0063】
【表15】

【0064】
表15に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループbの遺伝子である。よって、上記検出用抗体は、被検細胞において、上記グループbの遺伝子のいずれか1つ以上の遺伝子の発現を、当該遺伝子がコードするポリペプチドの発現をもって検出する際に用いられ得る。それゆえ、上記検出用抗体によれば、被検細胞に病変MSCが含まれているか否かを効率良く検出することができる。特にグループbの遺伝子は、RA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子であるため、上記抗体によれば、被検細胞にRA由来滑膜細胞が含まれているか否かを効率良く検出することができる。
【0065】
(16)下記(a12)または(b12)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、かつ当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体を備えてなる病変間葉系幹細胞の検出用抗体であって、当該病変間葉系幹細胞が変形性関節症由来滑膜細胞および関節リウマチ由来滑膜細胞である、上記検出用抗体:
(a12)下記表16に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子によってコードされるポリペプチドのうち、少なくとも1つ以上のポリペプチド;
(b12)上記(a12)の部分ポリペプチド。
【0066】
【表16】

【0067】
表16に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループcの遺伝子である。よって、上記検出用抗体は、被検細胞において、上記グループcの遺伝子のいずれか1つ以上の遺伝子の発現を、当該遺伝子がコードするポリペプチドの発現をもって検出する際に用いられ得る。それゆえ、上記検出用抗体によれば、被検細胞に病変MSCが含まれているか否かを効率良く検出することができる。特にグループcの遺伝子は、OA由来滑膜細胞およびRA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子であるため、上記抗体によれば、被検細胞にOA由来滑膜細胞および/またはRA由来滑膜細胞が含まれているか否かを効率良く検出することができる。
【0068】
(17)下記表17a〜17dに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子、またはその部分配列に対するsiRNAを含むことを特徴とする、病変間葉系幹細胞が関連する疾患用治療剤。
【0069】
【表17a】

【0070】
【表17b】

【0071】
【表17c】

【0072】
【表17d】

【0073】
表17aに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループaの遺伝子であり、表17bに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループbの遺伝子であり、表17cに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループcの遺伝子であり、表17dに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループdの遺伝子である。上記いずれかの遺伝子またはその部分配列に対するsiRNAによれば、RNAiの原理によって当該遺伝子の発現を抑制することができ、病変MSCが関連する疾患の治療および予防を行うことができる。なお、本明細書における「治療剤」とは、発症した疾患の治療に用いられる薬剤のみならず、疾患の予防に用いられる薬剤をも含む意味である。
【0074】
(18)下記表18に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子、またはその部分配列に対するsiRNAを含むことを特徴とする、変形性関節症治療剤。
【0075】
【表18】

【0076】
表18に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループaの遺伝子である。上記いずれかの遺伝子またはその部分配列に対するsiRNAによれば、RNAiの原理によって当該遺伝子の発現を抑制することができ、病変MSCが関連する疾患、特にOAの治療および予防を行うことができる。
【0077】
(19)下記表19に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子、またはその部分配列に対するsiRNAを含むことを特徴とする、関節リウマチ治療剤。
【0078】
【表19】

【0079】
表19に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループbの遺伝子である。上記いずれかの遺伝子またはその部分配列に対するsiRNAによれば、RNAiの原理によって当該遺伝子の発現を抑制することができ、病変MSCが関連する疾患、特にRAの治療および予防を行うことができる。
【0080】
(20)下記表20に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子、またはその部分配列に対するsiRNAを含むことを特徴とする変形性関節症および関節リウマチ治療剤。
【0081】
【表20】

【0082】
表20に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループcの遺伝子である。上記いずれかの遺伝子またはその部分配列に対するsiRNAによれば、RNAiの原理によって当該遺伝子の発現を抑制することができ、病変MSCが関連する疾患、特にOAおよびRAの治療および予防を行うことができる。
【0083】
(21)下記表21に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子、またはその部分配列に対するsiRNAを含むことを特徴とする、変形性関節症および関節リウマチ治療剤。
【0084】
【表21】

【0085】
表21に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループdの遺伝子である。上記いずれかの遺伝子またはその部分配列に対するsiRNAによれば、RNAiの原理によって当該遺伝子の発現を抑制することができ、病変MSCが関連する疾患、特にOAおよびRAの治療および予防を行うことができる。
【0086】
(22)下記表22a〜22cに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、
生体から分離した試料において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含むことを特徴とする、病変MSCが関連する疾患の当該生体における発症またはその発症危険性を検出する方法。
【0087】
【表22a】

【0088】
【表22b】

【0089】
【表22c】

【0090】
表22aに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループaの遺伝子であり、表22bに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループbの遺伝子であり、表22cに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループcの遺伝子である。
【0091】
したがって、被検細胞において、上記グループa〜cの遺伝子のいずれか1つ以上の遺伝子の発現を検出することによって、試料中に病変MSCが含まれているか否かを検出することができる。よって上記方法によれば、病変MSCが関連する疾患の発症またはその発症危険性を検出することができる。
【0092】
(23)下記表23に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、
生体から分離した試料において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含むことを特徴とする、当該生体における変形性関節症の発症またはその発症危険性を検出する方法。
【0093】
【表23】

【0094】
表23に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループaの遺伝子である。よって、被検細胞において、上記グループaの遺伝子のいずれか1つ以上の遺伝子の発現を検出することによって、試料中に病変MSCが含まれているか否かを検出することができる。よって上記方法によれば、病変MSCが関連する疾患、特にOAの発症またはその発症危険性を検出することができる。
【0095】
(24)下記表24に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、
生体から分離した試料において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含むことを特徴とする、当該生体における関節リウマチの発症またはその発症危険性を検出する方法。
【0096】
【表24】

【0097】
表24に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループbの遺伝子である。よって、被検細胞において、上記グループbの遺伝子のいずれか1つ以上の遺伝子の発現を検出することによって、試料中に病変MSCが含まれているか否かを検出することができる。よって上記方法によれば、病変MSCが関連する疾患、特にRAの発症またはその発症危険性を検出することができる。
【0098】
(25)下記表25に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、
生体から分離した試料において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含むことを特徴とする、当該生体における変形性関節症および関節リウマチの発症またはそれらの発症危険性を検出する方法。
【0099】
【表25】

【0100】
表25に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子はグループcの遺伝子である。よって、被検細胞において、上記グループcの遺伝子のいずれか1つ以上の遺伝子の発現を検出することによって、試料中に病変MSCが含まれているか否かを検出することができる。よって上記方法によれば、病変MSCが関連する疾患、特にOAおよびRAの発症またはその発症危険性を検出することができる。
【発明の効果】
【0101】
本発明によれば、正常なMSC、FB、OS、CHおよびADでは発現せず、OA由来滑膜細胞やRA由来滑膜細胞をはじめとする病変MSCにおいて選択的に発現が亢進されている遺伝子を検出マーカーとして利用することによって、病変MSCを選択的に検出し得る手段を提供することができる。よって、病変MSCを再生医療へ適用することを未然に防ぐことができるという効果を本発明は奏する。
【0102】
また本発明によれば、病変MSCが関連する疾患(例えば、OA、RA等)の治療剤として有効なものを提供することができる。上記治療薬は、病変MSCを標的とするものであるため、効率良く疾患の治療および予防を行うことができるとともに、副作用も少ないことが期待できる。
【0103】
したがって本発明は、MSCを用いた再生医療の実用化に大きく貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0104】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。本発明に係るポリペプチドはまた、天然供給源より単離されても、組換え生成されても、化学合成されてもよい。また、本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「遺伝子」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。また、「遺伝子」には、DNAのみならず、RNA(例えばmRNA)をも含む意味である。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「遺伝子配列」、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。
【0105】
<1.病変MSCの検出方法>
本発明に係る病変MSCの検出方法(以下「本発明の検出方法」という)の一態様は、上記表1a〜1cに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、被検細胞において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含む方法である。また本発明の検出方法の一態様は、上記表2に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、被検細胞において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含む方法である。また本発明の検出方法の一態様は、上記表3に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、被検細胞において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含む方法である。また本発明の検出方法の一態様は、上記表4に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、被検細胞において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含む方法である。本発明に係る病変MSCの検出方法は、上記の工程が少なくとも含まれていればよく、その他の工程、条件、使用材料、使用機器等の具体的な構成については特に限定されるものではない。
【0106】
本発明の検出方法において使用する「被検細胞」は、本発明の検出方法が適用され得る細胞であれば特に限定されるものではない。例えば、MSCが含まれている、またはMSCが含まれている可能性がある細胞であって、病変MSCが含まれているか否かの判断を行う必要がある細胞が挙げられる。より具体的には、公知の方法(例えば特許文献1に記載の方法)によって採取母体から採取されたMSC、公知の方法(例えば特許文献2に記載の方法)によって培養されたMSC等が本発明の方法の被検細胞として適用され得る。
【0107】
本発明者らは、正常MSC、FB、OS、CH、AD、OA由来滑膜細胞、およびRA由来滑膜細胞において、DNAマイクロアレイを用いて各種遺伝子の発現プロファイルを調べたところ、以下の遺伝子が存在するという新規知見を得た:
(a)グループaの遺伝子:OA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子、
(b)グループbの遺伝子:RA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子、
(c)グループcの遺伝子:OA由来滑膜細胞およびRA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子、並びに
(d)グループdの遺伝子:正常MSC、OA由来滑膜細胞およびRA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子。
【0108】
グループaの遺伝子は、OA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子である。すなわち、グループaの遺伝子は、正常MSC、FB、OS、CH、AD、およびRA由来滑膜細胞においてその発現量が相対的に低く、かつOA由来滑膜細胞においてのみその発現量が相対的に高い遺伝子であるといえる。したがって、被検細胞においてグループaの遺伝子の発現を検出し、その発現量が相対的に高いということが検出されれば、当該被検細胞は病変MSC、特にOA由来滑膜細胞(OA由来滑膜細胞様に病変したMSCを含む)を含む細胞であるということが判断できる。つまり、グループaの遺伝子は病変MSC検出用の検出マーカーとして利用し得るということである。ここで被検細胞においてグループaの遺伝子の発現量が相対的に高いか否かの判断は、適当な比較対照細胞(正常MSC、FB、OA由来間葉系細胞、RA由来間葉系細胞)における遺伝子の発現量と対比することで判断すればよい。また、発現量の基準値をあらかじめ設定しておき、当該基準値を基準として、上記判断が行なわれてもよい。すなわち被検細胞におけるグループaの遺伝子の発現量が、基準値より高ければ当該遺伝子の発現量が高いと判断し、基準値より低ければ当該遺伝子の発現量が低いと判断される。なお、グループaの遺伝子は、上記表1aまたは表2に記載されている。ただし表1aと表2とは同一である。
【0109】
またグループbの遺伝子は、RA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子である。すなわち、グループbの遺伝子は、正常MSC、FB、OS、CH、AD、およびOA由来滑膜細胞においてその発現量が相対的に低く、かつRA由来滑膜細胞においてのみその発現量が相対的に高い遺伝子であるといえる。したがって、被検細胞においてグループbの遺伝子の発現を検出し、その発現量が相対的に高いということが検出されれば、当該被検細胞は病変MSC、特にRA由来滑膜細胞(RA由来滑膜細胞様に病変したMSCを含む)を含む細胞であるということが判断できる。つまり、グループbの遺伝子は病変MSC検出用の検出マーカーとして利用し得るということである。被検細胞においてグループbの遺伝子の発現量が高いか否かの判断方法ついては、グループaの遺伝子の場合に準じて行えばよい。なお、グループbの遺伝子は、上記表1bまたは表3に記載されている。ただし表1bと表3とは同一である。
【0110】
またグループcの遺伝子は、OA由来滑膜細胞およびRA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子である。すなわち、グループcの遺伝子は、正常MSC、、FB、OS、CH、およびADにおいてその発現量が相対的に低く、かつOA由来滑膜細胞およびRA由来滑膜細胞においてその発現量が相対的に高い遺伝子であるといえる。したがって、被検細胞においてグループcの遺伝子の発現を検出し、その発現量が相対的に高いということが検出されれば、当該被検細胞は病変MSC、特にOA由来滑膜細胞(OA由来滑膜細胞様に病変したMSCを含む)またはRA由来滑膜細胞(RA由来滑膜細胞様に病変したMSCを含む)を含む細胞であるということが判断できる。つまり、グループcの遺伝子は病変MSC検出用の検出マーカーとして利用し得るということである。被検細胞においてグループcの遺伝子の発現量が高いか否かの判断方法ついては、グループaの遺伝子に準じて行えばよい。なお、グループcの遺伝子は、上記表1cまたは表4に記載されている。ただし表1cと表4とは同一である。
【0111】
またグループdの遺伝子は、正常MSC、OA由来滑膜細胞およびRA由来滑膜細胞において選択的に発現が亢進されている遺伝子である。すなわち、グループdの遺伝子は、FB、OS、CHおよびADにおいてその発現量が相対的に低く、かつ正常MSC、OA由来滑膜細胞、およびRA由来滑膜細胞においてその発現量が相対的に高い遺伝子であるといえる。したがって、被検細胞においてグループdの遺伝子の発現を検出し、その発現量が相対的に高いということが検出されれば、当該被検細胞は正常MSCまたは病変MSCを含む細胞であるということが判断できる。よって、グループdの遺伝子を検出するのみでは、被検細胞が正常MSCであるか病変MSCであるかを識別することはできないが、少なくとも被検細胞が分化能を有するMSCであることを判断することができる。つまり、グループdの遺伝子は正常MSCまたは病変MSC検出用の検出マーカーとして利用し得るということである。すなわちグループdの遺伝子は、MSC以外にFB、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞などの種々の細胞が含まれている細胞集団から、MSCを識別する際に用いられる。ここで被検細胞においてグループdの遺伝子の発現量が高いか否かの判断方法ついては、グループaの遺伝子の場合に準じて行えばよい。なお、グループdの遺伝子は、上記表17dに記載されている。
【0112】
ここで、上記表1a〜表1cおよび表17d中、「No.」は通し番号を、「Common Name」は一般的な遺伝子の略称を、「Description」は遺伝子に関連する詳細情報を、「GenBank Accession No.」はGenBankのアクセッション番号をそれぞれ示している(その他同様の項目を有する表において同じ)。
【0113】
上記表1a〜表1cおよび表17dに記載されている遺伝子群の塩基配列および当該遺伝子群がコードするタンパク質のアミノ酸配列情報は既に公知であり、特に、遺伝子群の塩基配列情報は、GenBankの遺伝子データベースにおいて、上記表1a〜表1cおよび17dに記載のアクセッション番号によりアプローチすることができる。
【0114】
本発明の検出方法においては、表1a〜表1cに記載されている遺伝子のうち1つ以上を検出することにより本発明の目的を達成し得るが、2つ以上の遺伝子を適宜組み合わせて検出することが好ましい。2つ以上の遺伝子を検出することによって、病変MSCの検出精度を向上させることができる。
【0115】
本発明の検出方法において、上記検出マーカーの遺伝子の発現を検出する際には、遺伝子の発現の検出に用いられる従来公知の方法を好適に用いることができる。例えば、下記(a1)〜(d1)のいずれかを、少なくとも1つ以上が固定されてなる病変MSC検出用のマイクロアレイを用いて検出マーカーの遺伝子の発現を検出することができる:
(a1)上記表5a〜表5cのいずれかに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(b1)上記表5a〜表5cのいずれかに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;
(c1)上記(a1)または(b1)の部分塩基配列を有するポリヌクレオチド;および
(d1)上記(a1)〜(c1)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0116】
また、下記(a2)〜(d2)のいずれかを、少なくとも1つ以上が固定されてなる病変MSC検出用のアレイを用いて検出マーカーの遺伝子の発現を検出することができる:
(a2)上記表6に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(b2)上記表6に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;
(c2)上記(a2)または(b2)の部分塩基配列を有するポリヌクレオチド;および
(d2)上記(a2)〜(c2)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0117】
また、下記(a3)〜(d3)のいずれかを、少なくとも1つ以上が固定されてなる病変MSC検出用のマイクロアレイを用いて検出マーカーの遺伝子の発現を検出することができる:
(a3)上記表7に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(b3)上記表7に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;
(c3)上記(a3)または(b3)の部分塩基配列を有するポリヌクレオチド;および
(d3)上記(a3)〜(c3)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0118】
また、下記(a4)〜(d4)のいずれかを、少なくとも1つ以上が固定されてなる病変MSC検出用のマイクロアレイを用いて検出マーカーの遺伝子の発現を検出することができる:
(a4)上記表8に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(b4)上記表8に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;
(c4)上記(a4)または(b4)の部分塩基配列を有するポリヌクレオチド;および
(d4)上記(a4)〜(c4)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0119】
上記検出マーカーの遺伝子の部分塩基配列からなるポリヌクレオチドのサイズは、当該ポリヌクレオチドも用いてマイクロアレイを構成した場合に、目的とする検出マーカーの遺伝子が検出し得るサイズであれば特に限定されるものではない。
【0120】
上記マイクロアレイとしては、例えば、米国Affymetrix社のDNAマイクロアレイやスタンフォード(Stanford)型のDNAマイクロアレイ等、その他半導体製造で用いられる微細加工技術を用いてシリカ基板上に直接オリゴヌクレオチドを化学合成するDNAマイクロアレイを含む従来公知のあらゆるタイプのマイクロアレイを好適に用いることができ、その具体的な大きさ、形状、システム等については特に限定されるものではない。上記病変MSC検出用マイクロアレイは、本発明の検出方法の実施に利用されるものであり、本発明が意図する範囲に含まれる。
【0121】
上述した病変MSC検出用マイクロアレイには少なくとも一つの遺伝子が検出することができるように構成されていれば、本発明の目的を達成し得るが、多数の検出マーカーの遺伝子群の発現を網羅的かつ体系的に解析できるとの理由により、2つ以上の遺伝子、より好ましくはできるだけ多数の遺伝子を検出し得るように構成されていることが好ましい。病変MSCと正常MSCとを非常に簡便かつ精度よく識別できるようになるからである。
【0122】
また、病変MSC検出用マイクロアレイには、病変MSC検出用のマーカーのみならず、その他の分子マーカーが固定化されていてもよい。被検細胞について病変MSCの検出以外の目的を同時に達成し得るからである。例えば、グループdの遺伝子のごとくMSC検出用マーカー(病変MSCと正常MSCとの区別ができないものであってもよい)、公知のMSC検出用遺伝子マーカー(例えば特許文献3)や、国際出願番号PCT/JP2006/306658(国際出願日2006年3月30日)に開示されているMSC検出用遺伝子分子マーカー、「 Ishii,M., Koike,C., Igarashi,A., Yamanaka,K., Pan,H., Higashi,Y., Kawaguchi,H., Sugiyama,M., Kamata,N., Iwata,T., Matsubara,T., Nakamura,K., Kurihara, H., Tsuji,K., and Kato,Y. Molecular Markers Distinguish Bone Marrow Mesenchymal Stem Cells from Fibroblasts. Biochem Biophys Res Commun.332(1),297-303,2005.」に開示されている分子マーカー、等が挙げられる。
【0123】
他方、上記病変MSC検出用マイクロアレイを用いる方法以外によっても、本発明の検出方法における検出マーカーの遺伝子の発現を検出し得る。例えば、本発明における検出マーカーの遺伝子の発現の検出のために、ノーザンブロッティング法を用いることができる。また、本発明における検出マーカーの遺伝子の発現を検出するために、本発明における検出マーカーの遺伝子の全長DNA配列またはその部分配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有する検出用プローブを用いることができる。
【0124】
上記検出用プローブを用いて病変MSCと正常MSCとにおける遺伝子の発現を検出するには、公知の方法を用いて適宜実施することができる。例えば、本発明における検出マーカーの遺伝子の公知の塩基配列から、DNAプローブとして適当な長さのDNAプローブを作製し、蛍光標識等の標識を適宜付与しておき、これを被検細胞とハイブリダイズさせることにより、病変MSCの検出を行い得る。また上記検出用プローブとしては、本発明における検出マーカーの遺伝子のアンチセンス鎖の全長配列または部分配列からなる検出用のプローブも採用し得る。
【0125】
なお、上記検出用プローブの作製に際して、検出マーカーの遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする条件としては、例えば、42℃でのハイブリダイゼーション、および1×SSC(0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム)、0.1%のSDS(Sodium dodecyl sulfate)を含む緩衝液による42℃での洗浄処理を挙げることができ、より好適には、65℃でのハイブリダイゼーション、および0.1×SSC、0.1%のSDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理を挙げることができる。なお、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を与える要素としては、上記温度条件以外に種々の要素があり、当業者であれば種々の要素を組み合わせて、上記例示したハイブリダイゼーションのストリンジェンシーと同等のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0126】
また、被検細胞における検出マーカーの遺伝子の発現を検出するに際しては、被検細胞の遺伝子を増幅するために、定量的または半定量的PCRを用いることができる。上記定量的または半定量的PCRとしては、例えば、RT−PCR(逆転写PCR)を用いることができる。上記定量的または半定量的PCRを行うに際しては、本発明における検出マーカーの遺伝子を増幅するためのセンスプライマーおよびアンチセンスプライマーからなる1対のプライマーセットを用いる。
【0127】
また、本発明の病変MSCの識別方法は、インベーダ(Invader(登録商標))法を利用して簡便に行うこともできる。例えば、上述の検出マーカーの遺伝子に特異的にハイブリダイズする塩基配列と酵素切断部位とを有するシグナルプローブを設計し、被検細胞から抽出したトータルRNA(cDNAでも構わない)、インベーダオリゴ(Invader(登録商標) Oligo)、クリベース酵素(Cleavase(登録商標) Enzyme)、およびフレットプローブ(FRET Probe)とともに所定の温度、所定の時間(例えば、63℃、2時間等)反応させることにより行うことができる。なお、具体的な実験手法や条件については、下記参考文献を参照して適宜行うことができる(参考文献:(i) T. J. Griffin et al., Proc Natl Acad Sci U S A 96, 6301-6 (1999) 、(ii) M. W. Kaiser et al., J Biol Chem 274, 21387-94 (1999) 、(iii) V. Lyamichev et al., Nat Biotechnol 17, 292-6 (1999) 、(iv) R. W. Kwiatkowski et al., Mol Diagn 4, 353-64 (1999) 、(v) J. G. Hall et al., Proc Natl Acad Sci U S A 97, 8272-7 (2000) 、(vi) M. Nagano et al., J Lipid Res 43, 1011-8 (2002) 等参照)。上記のように、インベーダ法を利用すれば、遺伝子増幅の必要がない場合もあり、迅速かつ低コストで行うことができる。なお、市販のインベーダ法キットを利用すれば、より一層簡便に本発明を実施できる。
【0128】
また、in situハイブリダイゼーションを用いて、本発明の検出方法を行うこともできる。例えば、上述の検出マーカーまたはその部分配列を標識したものを検出用プローブとして用い、スライドグラス上の被検細胞の標本に直接分子雑種を形成させて、その部分を検出することにより簡易に行うことができる。具体的には、スライドグラス上に被検細胞の薄切片(パラフィン切片、凍結切片など)を調製し、これに標識した検出用プローブをハイブリダイズさせ、ノーザンハイブリダイゼーション法と同じように、検出用プローブを洗い落とし、写真用エマルジョンを塗布し、露光する。現像後、銀粒子の分布から、ハイブリダイズした場所を特定する。より具体的な実験手法や条件については、下記参考文献を用いて適宜行うことができる(参考文献:(i)「in situハイブリダイゼーション法」、(1995年7月)、古庄敏行、井村裕夫監修、金原出版(株)発行、932頁〜937頁、(ii)「in situハイブリダイゼーションによる遺伝子発現の解析」、「遺伝子工学実験」、(1991年5月)、野村慎太郎著、(社)日本アイソトープ協会発行、221頁〜232頁等参照)。in situハイブリダイゼーション法には、ラジオアイソトープ(主としてH)標識したDNAを検出用プローブとして、その座位をオートラジオグラフィーで検出する方法と、標識された検出用プローブの蛍光シグナルを蛍光顕微鏡下で検出する方法があるが、いずれの方法を用いてもよい。
【0129】
また、本発明の検出マーカーの遺伝子の発現を、当該遺伝子がコードするタンパク質の発現をもって検出する場合には、当該タンパク質を用いて当該タンパク質と特異的に結合する抗体を作製し、当該抗体を用いて、後述するそれ自体公知の方法で当該タンパク質の発現量を検出すればよい。
【0130】
このため、上記表13a〜表13c(表1a〜表1cに対応する)のいずれかに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子にコードされるポリペプチドのうち、いずれか1つ以上のポリペプチドを含む病変MSC検出マーカーも本発明に含まれる。また上記表14のいずれかに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子にコードされるポリペプチドのうち、いずれか1つ以上のポリペプチドを含む病変MSC検出マーカーも本発明に含まれる。また上記表15のいずれかに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子にコードされるポリペプチドのうち、いずれか1つ以上のポリペプチドを含む病変MSC検出マーカーも本発明に含まれる。また上記表16のいずれかに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子にコードされるポリペプチドのうち、いずれか1つ以上のポリペプチドを含む病変MSC検出マーカーも本発明に含まれる。
【0131】
さらに、上記(a9)または(b9)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体を含む病変MSCの検出用抗体も本発明に含まれる。また上記(a10)または(b10)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体を含む病変MSCの検出用抗体も本発明に含まれる。また上記(a11)または(b11)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体を含む病変MSCの検出用抗体も本発明に含まれる。また上記(a12)または(b12)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体を含む病変MSCの検出用抗体も本発明に含まれる。
【0132】
なお、上記抗体は、ポリクローナル抗体であってもよいし、モノクローナル抗体であってもよい。上記抗体の作製は、例えば、本発明における検出マーカーの遺伝子がコードするポリペプチドの全長またはその部分断片を抗原として、従来公知の常法により作製することができる。上記ポリペプチドの部分断片は、免疫原性を有するものであればよい。
【0133】
例えば、モノクローナル抗体を生産する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、抗原でマウスを免疫した後、そのマウス脾臓リンパ球とマウス由来のミエローマ細胞とを融合させてなる抗体産生ハイブリドーマにより、モノクローナル抗体を得ればよい。ハイブリドーマの生産方法は、従来公知の方法、例えば、ハイブリドーマ法(Kohler, G. and Milstein, C., Nature 256, 495-497(1975))、トリオーマ法、ヒトB−細胞ハイブリドーマ法(Kozbor, Immunology Today 4, 72(1983))、およびEBV−ハイブリドーマ法(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R Liss, Inc., 77-96(1985))等を利用することが可能であり、特に限定されるものではない。
【0134】
また、上記抗原としては、ポリペプチドであれば特に限定されるものではないが、抗原決定基とする物質をキャリアタンパク質に結合してなる抗原タンパク質が用いられてもよい。具体的には、上記抗原がハプテンであれば、抗体の産生等を誘導する能力をもたないため、抗体を産生することができないが、抗原を異種由来のタンパク質などの生体高分子からなる担体と共有結合させて抗原タンパク質を得て、これで免疫すれば、抗体産生を誘導することができる。上記担体としては、特に限定されるものではなく、オボアルブミン、γグロブリン、ヘモシアニン等、この分野で従来公知の各種タンパク質を好適に用いることができる。また、モノクローナル抗体は遺伝子組換え技術等によっても生産できる。
【0135】
また、ポリクローナル抗体を生産する方法としては、実験動物に抗原を接種・感作させ、その体液から抗体成分を精製して取得する方法を挙げることができる。なお、免疫させる動物としては、マウス、ラット、ウサギ、サル、ウマ等の従来公知の実験動物を用いることができ、特に限定されるものではない。また、抗原を接種し感作させる場合、その間隔や量についても常法にしたがって適宜行うことができる。
【0136】
また、本発明の抗体を用いて、被検細胞における検出マーカーのタンパク質の発現を検出するには、公知の抗体を用いた免疫学的測定法を用いて実施することができる。上記免疫学的測定法としては、例えばRIA法、ELISA法、蛍光抗体法等の公知の免疫学的測定法を挙げることができる。また、上述した以外にも、例えば、ウェスタンブロッティング法、酵素免疫測定法、抗体による凝集や沈降や溶血反応を観察する方法、組織免疫染色や細胞免疫染色などの形態学的検出法も必要に応じて利用することができる。
【0137】
また本発明の抗体を用いることにより、生体内(例えば、骨髄中、関節等)の病変MSCの局在を調べることができる。よって、この技術を応用すれば、病変MSCが局在している患部に対して的確な治療を施すことができ、効率的な治療を実現することができる。またMSCの病変のメカニズムの解明にも上記技術は適用され得る。
【0138】
上記本発明の検出方法において、病変MSCが含まれていると判断された被検細胞は再生医療に適用されるべきものではないが、例えば被検細胞に正常MSCが含まれているものであれば、正常MSCを被検細胞から分離精製することによって、被検細胞の一部を再生医療に利用することができる。
【0139】
本発明において、正常MSCを精製する方法としては、例えば、蛍光活性化セルソーター(Fluorescence-Activated Cell Sorter:FACS)を用いることができる。具体的には、上記本発明の抗体を用いた蛍光抗体法により、病変MSCを標識化することによって、正常MSCと病変MSCとを識別し、分離することができる。蛍光抗体法により病変MSCを標識化するには、本発明の抗体を蛍光標識し、病変MSCに結合させて、病変MSCを標識化する(直接蛍光抗体法)か、または病変MSCに未標識の本発明の抗体を結合させた後に、標識化した二次抗体(抗免疫グロブリン抗体)を結合させて病変MSCを標識化することができる(間接蛍光抗体法)。上述の手法により標識化した病変MSCは、フローサイトメトリーで測定分離を行い、採取することができる。これによって、病変MSCを含む細胞から病変MSCを除去することができる。また本発明の抗体を用いたアフィニティーカラムによっても、病変MSCを含む細胞から病変MSCを除去することができる。なお、公知のMSC検出用遺伝子マーカー(例えば特許文献3)や、国際出願番号PCT/JP2006/306658(国際出願日2006年3月30日)に開示されている遺伝子マーカーを用いて、精製される前の細胞にMSCが含まれていることが確認されていれば、当該細胞から病変MSCを除去した残渣が、精製された正常MSCである。さらに、公知のMSC検出用遺伝子マーカー(例えば特許文献3)や、国際出願番号PCT/JP2006/306658(国際出願日2006年3月30日)に開示されている遺伝子マーカーの中から正常MSCに特異的なものを選択し、それを用いて上記残渣が正常MSCであることを確認しておくことが好ましい。
【0140】
また、正常MSCの精製は、上記正常MSCに特異的な遺伝子マーカーがコードするポリペプチドに特異的な抗体を用いた上記FACSまたはアフィニティー精製によっても、実施され得る。
【0141】
また、上述のFACS以外にも、磁気セルソーティング(Magnetic Cell Sorting:MACS)システムにより分離することもできる。MACSは、蛍光標識に替えて磁性を帯びたマイクロビーズを標識化した抗体を用いる。目的細胞はMACS用の磁性マイクロビーズにて標識化された抗体により特異的に標識され、強力な永久磁石に設置された分離カラムにアプライされる。分離カラムでは強力な磁場が生じており、磁気標識された細胞はカラムに保持され、標識されていない細胞はカラムを通過する。分離カラムを強磁場から外すと磁気標識により保持されていた細胞が溶出され、間葉系幹細胞のみを分離し取得することができる。
【0142】
なお、上述のFACSやMACS等による分離工程の前段階として、メンブレンフィルターまたは凝集法により試料を濃縮する工程を含んでいてもよい。
【0143】
<2.病変MSCが関連する疾患用治療剤>
本発明には、上記表17a〜17dに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子、またはその部分配列に対するsiRNAを含むことを特徴とする病変MSCが関連する疾患用治療剤が包含される。また本発明には、上記表18に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子、またはその部分配列に対するsiRNAを含むことを特徴とする変形性関節症治療剤が包含される。また本発明には、上記表19に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子、またはその部分配列に対するsiRNAを含むことを特徴とする関節リウマチ治療剤が包含される。また本発明には、上記表20に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子、またはその部分配列に対するsiRNAを含むことを特徴とする変形性関節症および関節リウマチ治療剤が包含される。また本発明には、上記表21に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子、またはその部分配列に対するsiRNAを含むことを特徴とする変形性関節症および関節リウマチ治療剤が包含される。本発明に含まれる、病変MSCが関連する疾患用治療薬のことを「本発明の治療薬」と称する。
【0144】
上記siRNAを標的細胞に導入すれば、それに対応する遺伝子の発現がRNAiの原理によって抑制される。上記遺伝子はMSCの病変に密接に関連しているため、当該遺伝子の発現が抑制されることによってMSCの病変が抑制され、その結果、病変MSCに関連する疾患の治療または予防を行うことができる。よって本発明は上記siRNAを生体に導入することを特徴とする、病変MSCが関連する疾患の治療および予防方法をも包含する。
【0145】
後述する実施例において、本発明者らは、表17a〜17dに記載されたグループa〜dの遺伝子の代表例に対するsiRNAを、OA由来滑膜細胞およびRA由来滑膜細胞へ導入したところ、OA由来滑膜細胞およびRA由来滑膜細胞の明らかな増殖抑制効果が確認された。よって、上記siRNAは病変MSCの増殖を抑制し得るものといえ、当該siRNAを病変MSCが関連する疾患の治療剤として利用し得るということがわかった。
【0146】
上記「病変MSCが関連する疾患」としては、従来公知のMSCの異常、またはMSCからの分化異常等の間葉系幹細胞が関連して引き起こされる疾患(所謂、「再生不良症候群」)であればよく、その具体的な疾患については特に限定されるものではない。例えば、疾病や障害により失った組織を再生し、機能を回復させる「細胞移植による再生医療」の対象となる疾患の他、間葉系幹細胞の量的変化(細胞数の異常等)や質的変化(分化能の異常等)が低下する結果、引き起こされる疾患、つまりMSCの供給不足により発症する疾患等を挙げることができる。具体的には、例えば、下肢虚血(ビュルガー病)、歯周病、変形性関節症、関節リウマチ、難治性皮膚疾患、糖尿病、骨欠損、骨粗しょう症、並びに虚血性の心疾患、肝疾患、腎疾患、および神経変性疾患(アルツハイマー病等)等を挙げることができる。
【0147】
siRNA(short interference RNA, small interfering RNA)は、目的の遺伝子の発現をRNAiの原理によって抑制することができるものであればその塩基配列は特に限定されるものではない。本明細書において「siRNA」とは、stRNA(small temporal RNA)、およびshRNA(short hairpin RNA)をも含む意味である。またsiRNAの塩基配列の設計は発現抑制を所望する遺伝子の塩基配列情報をもとにして、公知の方法によって行われ得る。現在、siRNAを設計する際に用いられるソフトウェアが市販されており、効率の観点から当該ソフトウェアを用いて設計することが好ましい。市販のソフトウェアとしては、例えばRNAi社製(http://www.rnai.co.jp/)のsiDirectTM等が挙げられる。
【0148】
上記にようにして設計されたsiRNAの合成は公知の自動ヌクレオチド合成器によって行われ得る。なお現在、siRNAの設計から合成までを、企業に委託することが可能である。委託先としては、Ambion社、Invitrogen社、QIAGEN社、Dharmacon社等が挙げられる。
【0149】
後述する実施例において使用したsiRNAの塩基配列は以下の通りである。GLIS3に対するsiRNAのセンス鎖の塩基配列を配列番号1に示し、アンチセンス鎖の塩基配列を配列番号2に示した。HOXD10に対するsiRNAのセンス鎖の塩基配列を配列番号3に示し、アンチセンス鎖の塩基配列を配列番号4に示した。ETV1に対するsiRNAのセンス鎖の塩基配列を配列番号5に示し、アンチセンス鎖の塩基配列を配列番号6に示した。MEOX2に対するsiRNAのセンス鎖の塩基配列を配列番号7に示し、アンチセンス鎖の塩基配列を配列番号8に示した。PRDM16に対するsiRNAのセンス鎖の塩基配列を配列番号9に示し、アンチセンス鎖の塩基配列を配列番号10に示した。なお、参考として使用したGATA6に対するsiRNAは、Dharmacon社製 siGENOME SMART pool Cat No. # M-008351-01から入手した。
【0150】
本発明の治療薬は、siRNAのほか、siRNAを細胞へ導入する際に用いられる公知の試薬、例えばLipofectamine 2000 (Invitrogen社製), RNAiFectTMTransfection Reagent (QIAGEN社製)が含まれていてもよい。上記の試薬等が含まれていることで、siRNAの細胞への導入効率の向上するとともに、siRNAの安定性が向上するからである。
【0151】
また、本発明の治療薬は、薬学的に許容できる所望の担体と組み合わせて組成物とすることができる。担体としては、例えば、滅菌水、生理食塩水、緩衝剤、植物油、乳化剤、懸濁剤、塩、安定剤、保存剤、界面活性剤、徐放剤、他のタンパク質(BSAなど)、トランスフェクション試薬(リポフェクション試薬、リポソーム等を含む)等が挙げられる。さらに、使用可能な担体としては、グルコース、ラクトース、アラビアゴム、ゼラチン、マンニトール、デンプンのり、マグネシウムトリシリケート、タルク、コーンスターチ、ケラチン、コロイドシリカ、ばれいしょデンプン、尿素、ヒアルロン酸、コラーゲン等の細胞外マトリックス物質、ポリ乳酸、リン酸カルシウム担体などが挙げられる。
【0152】
製剤化する場合の剤型は制限されず、たとえば溶液(注射剤)、マイクロカプセル、錠剤などであってよい。投与は全身または局所的に行い得るが、全身投与による副作用や効果の低下がある場合には、局所投与することが好ましい。
【0153】
ここで、臨床適用のための上記本発明の治療剤の投与条件は、常法のモデル動物系等を用いて適宜決定することができる。すなわち、モデル動物を用いて投与量、投与間隔、投与ルートを含む投与条件を検討し、適切な予防または治療効果を得られる条件を決定することができる。
【0154】
また、患者への投与は、各種細胞や疾患等の性質に応じて、例えば外科的、経皮的、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、腹腔内、静脈内、関節内、皮下、脊髄腔内、脳室内、または経口的に行われうるがそれらに限定されない。投与は全身的または局所的にされ得るが、全身投与による副作用が問題となる場合には病変部位への局所投与が好ましい。投与量、投与方法は、本医薬の有効成分の組織移行性、治療目的、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0155】
治療対象となる個体は、原則としてヒトを対象としているが、これ以外にも、愛玩動物(ペット)用の治療用の用途へ使用してもよい。愛玩動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、サル、ウマ、ヒツジ、ウシなどの非ヒト哺乳動物およびその他の脊椎動物を挙げることができる。
【0156】
<3.病変MSCが関連する疾患の発症または発症の可能性を検出する方法>
本発明は以下の発明をも包含する:
上記表22a〜22cに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、
生体から分離した試料において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含むことを特徴とする、病変間葉系幹細胞が関連する疾患の当該生体における発症またはその発症危険性を検出する方法;
上記表23に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、
生体から分離した試料において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含むことを特徴とする、当該生体における変形性関節症の発症またはその発症危険性を検出する方法;
上記表24に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、
生体から分離した試料において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含むことを特徴とする、当該生体における関節リウマチの発症またはその発症危険性を検出する方法;
上記表25に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、
生体から分離した試料において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含むことを特徴とする、当該生体における変形性関節症および関節リウマチの発症またはそれらの発症危険性を検出する方法。
【0157】
生体から分離した試料に対して、上記<1.病変MSCの検出方法>で説示した本発明の検出方法を実施することで、当該生体において病変MSCが関連する疾患が発症しているか、または将来発症する可能性があるかを判定(検出)することができる。すなわち被検対象である生体(被検体)中に病変MSCが検出されれば、被検体において病変MSCが関連する疾患が発症しているか、または将来発症する可能性があるかを判定(検出)することができるというものである。なお上記本発明に係る、病変MSCが関連する疾患の発症または発症の可能性を検出する方法のことを「本発明の疾患検出方法」という。
【0158】
本発明の疾患検出方法の対象は、有用性の観点からヒトを対象とすることが好ましいが、これ以外にも、愛玩動物(ペット)用の治療用の用途へ使用してもよい。愛玩動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、サル、ウマ、ヒツジ、ウシなどの非ヒト哺乳動物およびその他の脊椎動物を挙げることができる。なお、本発明の疾患検出方法をヒトに適用する場合、直接人体に対して処置するのではなく、生体から分離した試料を対象とする。上記生体から分離した試料とは、常法により人体より得ることが可能であるが、例えば、骨髄液、末梢血、臍帯血、脂肪組織、骨膜、筋肉、滑膜、口腔組織から採取した細胞等を挙げることができる。
【0159】
本発明の疾患検出方法は、被検体のみに対して上記本発明の検出方法等を適用すれば、病変MSCが関連する疾患の発症または発症の可能性を検出し得るが、当該疾患が発症していない被検体(健常体)と当該疾患が発症した被検体(罹病体)とにおける検出マーカーの遺伝子の発現プロファイルをあらかじめ調べておき、被検体における検出マーカーの遺伝子の発現プロファイルが上記健常体および罹病体のいずれの発現プロファイルと類似するかを比較検討することによって、被検体が現在疾病を発症しているか、あるいは将来的に疾病を発症する危険性がどの程度あるかを高精度で判定することができる。なお、本発明の疾患検出方法の具体的方法は、上記<1.病変MSCの検出方法>で説示した方法に準じて行なわれ得るが、本発明はこれに限定されるものではなく、出願当時の常法を用いて適宜変更して実施され得る。
【0160】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0161】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0162】
〔実施例1:病変MSC検出マーカーのスクリーニング〕
本実施例では、ヒト由来のFB3株、正常MSCから分化したOS3株、正常MSCから分化したCH3株、正常MSCから分化したAD3株、正常MSC(本実施例においては単に「MSC」と表記する)3株、OA由来滑膜細胞(本実施例においては単に「OA」と表記する)3株、およびRA由来滑膜細胞(本実施例においては単に「RA」と表記する)3株を対象として、DNAマイクロアレイを用いて、それぞれの細胞における遺伝子の発現プロファイルを調べた。上記MSC、OA、RA、およびFBは、BioWhittaker社またはCell Apprication社から購入されたもの、あるいは広島大学病院で分離されたものである。
【0163】
(0)分化誘導及びトータルRNAの回収
OS、CH、およびADについては、MSCをOS、CH、またはADへと分化させ、トータルRNAを回収した。具体的には、以下のように行った。
【0164】
(0−1)ADへの分化誘導及びRNA回収
基本培地及び脂肪分化誘導培地、脂肪分化維持培地として以下の組成の培地を使用した。
<脂肪分化誘導培地>
基本培地:DMEM(Sigma: D5796, high glucose=4500 mg/L)
添加物:10%(V/V) FBS (Hyclone, Lot No.: ANC18139)
Penicillin-Streptomycin(Sigma: P0781)
以下は、用時添加する(2週間で使い切り)
Insulin: 10 μg/mL(10 mg/mL 酢酸水溶液ストック)(Wako: 090-03446)
Dexamethason: 1 μM(10 mM EtOHストック)(Sigma: D4902)
Indomethacin: 200 μM(2000 mM DMSOストック)(Wako: 097-02471)
3-isobutyl-1-methylxanthine: 500 μM(1000 mM DMSOストック)(Wako: 537-72353)
<脂肪分化維持培地>
基本培地:DMEM(Sigma:#D-5796, high glucose=4500mg/L)
添加物:10%(V/V) FBS (Hyclone, Lot No.: ANC18139)
Penicillin-Streptomycin(Sigma: P0781)
以下は、用時添加する(2週間で使い切り)
Insulin: 10 μg/mL(10 mg/mL 酢酸水溶液ストック)(Wako: 090-03446)
なお、培地が2週間経過した場合は、L-glutamine: 2 mM(200mM PBSストック)(Sigma: G3126)を添加した。以後、2週間毎に再添加する。
【0165】
Insulin: 10 μg/mL(10 mg/mL 酢酸水溶液ストック)(Wako: 090-03446)
なお、培地が2週間経過した場合は、L-glutamine: 2 mM(200mM PBSストック)(Sigma: G3126)を添加した。以後、2週間毎に再添加する。
【0166】
2 × 105 cells/35-mm well (2.3 × 104 cells/cm2)で播種されたMSCがコンフルエントに達した後、上記脂肪分化誘導培地で3日、脂肪分化維持培地で3日間交互に培地交換し、計28日間培養した。培養は、37℃, 5%CO2条件下で行われた。
【0167】
上記のようにして得られたADからトータルRNAを回収した。細胞培養液から培地を吸引除去し、PBSで2回洗浄した。次いで、TRIzol(登録商標)(4000 μL /φ100 mmディッシュ) を加え、21Gニードル、1mlシリンジを使用してホモジナイズした。続いて、クロロホルムを1/4量加えてボルテックス後、20分間室温で静置した。次に、14000 rpm, 20分間室温で遠心した(Tomy, MCX-150)。その後、上清を新しいエッペンドルフチューブに移し、上清と等量の70%EtOH(RNase free 水使用)を加えた。サンプル700μlをRNeasy(登録商標)Miniカラムにアプライ後、バキュームを行った(Qiagen, QIAvac 24)。全てのサンプルが無くなるまで繰り返した(2カラム/φ100 mmディッシュ1枚)。なお、以上の処理は、RNeasyキットに添付の説明書に従った。最後に、Ambion社製のキット(#1906)を使用し、RNAの精製を行った。
【0168】
(0−2)CHへの分化誘導及びRNA回収
軟骨分化誘導培地として以下の組成の培地を使用した。
<軟骨分化誘導培地>
αMEM (Sigma:#4526)
Penicillin Streptomycin: (Sigma: #P0781)
L-glutamine: 2 mM (stock sol 200 mM PBS) (Sigma: #G3126)
Dexamethason: 10-7 M (stock sol 1 M EtOH) (Sigma: #D-1756)
Ascorbate 2-phosphate: 50 μg/ml (stock sol 50 mg/ml MQ) (Sigma: #A-8960)
D-(+)-glucose: 4.5 g/l (stock sol 450 g/l) (Sigma: #G-8769)
Pyruvate: 100 μg/ml (stock sol 100 mg/ml MQ) (Sigma: #28-4020-2)
ITS-plus: 1 %(V/V) (insulin 6.25 μg/ml, transferring 6.25 μg/ml, selenite 6.25 μg/ml, linolate 5.33 μg/ml, bovine serum albumim 1.25 mg/ml) (BD: #354352)
TGF-β3: 10 ng/ml (stock sol 10 μg/ml HCl 4 mM, HSA or BSA 1mg/ml) (Pepro Tec ECL Ltd #100-36)
なお、軟骨分化誘導培地は2週間使い切りとした。また、TGF-β3は最初に添加せず、培地交換の際に用時添加した。
【0169】
軟骨分化培養法は、ペレット培養法を用いた。具体的には、まず、播種密度は2.5×10cell/試験管とし、最初の軟骨分化培地添加量は、0.5ml/試験管として培養した。次に、播種後、遠心した(500g×5min)。続いて、細胞播種した日をday0とし、1回目の培地交換から1ml/試験管とし、3日ごとに培地交換を行った。培養期間は28日とした。
【0170】
トータルRNAの抽出は以下のように行った。まず、28日間軟骨分化誘導した細胞(×6ペレット以上)を準備した。次に、培地を吸引除去し、PBS0.4ml加えて、これを吸引した。続いて、TRIzol(登録商標)(Invitrogen: 15596-018)を0.2ml/tube加え、ペレットペッスルとシリカ粉末で粉砕抽出した。さらに0.8ml/tube追加し、抽出物をチューブに移した後、クロロホルム処理、エタノール処理以後はRNeasy キットを用いた。その後の処理は、上述のADの場合と同様にされた。
【0171】
(0−3)OSへの分化誘導及びRNA回収
基本培地及び骨分化誘導培地として以下の組成の培地を使用した。
<基本培地>
・DMEM(Sigma D6046)
・終濃度10% FBS (Hyclone社)(牛胎仔血清)
・抗生剤penicillin- streptmycin (Sigma:P0781)
<骨分化誘導培地>
・DMEM(Sigma D6046含 glucose 1000mg/L)
・終濃度10% FBS (Hyclone社)
・終濃度10-7M Dexamethason (Sigma D-1756)
・終濃度10mMβ-glycerophosphate (東京化成工業G-0195)
・終濃度50μg/ml Ascorbate 2-phosphate (Sigma: A-8960) を2週間おきに添加
・終濃度2mM L-glutamineを2週間おきに添加
・抗生剤penicillin- streptmycin (Sigma:P0781)
なお、参考文献として、「Osteogenic differentiation of purified culture-expanded human、mesenchymal stem cell in vitro. 、Jaiswal N. J. et al., Cell Biochem. 64, 295-312, 1997」を参照した。
【0172】
まず、0.01% Collagen type1溶液(機能性ペプチドIFP9660)で、培養プレート表面を4℃、一昼夜浸した。その後、溶液を除き、PBS(リン酸緩衝化生理食塩水)で2回洗浄した。次に、上記基本培地で細胞を播種した(10000cells/cm)。コンフルエント状態(集密状態)になるまで培養(播種後2〜3日)し、上記骨分化誘導培地に培地交換した(day0)。以降3日おきに骨分化誘導培地で培地交換した。
【0173】
上記のようにして得られたOSは、4 × 104cells/16-mm well (2.3 × 104 cells/cm2)で播種し、10% FBS、10 mM glycerophosphate (Tokyo Kasei Kogyo, Tokyo, Japan)、100nM dexamethasone (Sigma)、および50 μg/ml ascorbic acid-2-phosphate (Sigma) (osteogenic induction medium)が添加されたDMEMを用いて、37℃, 5%CO2条件下で28日間培養された。細胞培養後28日目にトータルRNAを回収した。なお、トータルRNAの回収は、上述したADの欄で説明したものと同様の方法で行われた。
【0174】
(0−4)MSC、FB、OA、RAからのRNA回収
MSC、FB、OA、RAは、10% fetal bovine serum (FBS) (Hyclone, Logan, UT, U.S.A.), 100 U/ml penicillin G (Sigma)、100 μg/ml streptomycin (Sigma)、 1 ng/ml fibroblast growth factor-2 (FGF-2) (Kaken Pharmaceutical, Tokyo, Japan)が添加されたDMEM(Sigma, St. Louis, MO, U.S.A.)を用いて、37℃、5%CO2条件下で培養された。そして上記細胞は、トータルRNAの回収の72時間前からは、10% fetal bovine serum (FBS) (Hyclone, Logan, UT, U.S.A.)、100 U/ml penicillin G (Sigma)、100 μg/ml streptomycin (Sigma)が添加されたDMEM(Sigma, St. Louis, MO, U.S.A.)を用いて、37℃、5%CO2条件下で培養された。
【0175】
上記細胞からのトータルRNAの回収は、上述したADの欄で説明したものと同様の方法で行われた。
【0176】
(1)cDNA/cRNA合成
まず、RNAからT7オリゴdTプライマーを使用して2本鎖cDNAを合成した。続いて、得られた2本鎖cDNAを用いて、in vitro Transcription反応によりcRNAを合成した。このcRNA合成の際にビオチン標識リボヌクレオチドを取り込み、サンプルを標識した。
【0177】
(2)ハイブリダイゼーション
次に、ビオチン標識cRNAを断片化してGeneChip(登録商標、Affymetrix社製)プローブアレイにハイブリダイズした。
【0178】
(3)蛍光標識
次いで、オーバーナイトでハイブリダイズさせたアレイを洗浄した後、ストレプトアビジン−フィコエリスリン(Molecular Probes社, S-866)を投入しサンプルを蛍光標識した。
【0179】
(4)スキャニング/データ解析
最後に、蛍光標識されたアレイをスキャニングし、イメージ画像を取得した。得られた画像を、専用解析ソフトを用いて、シグナルの数値化および発現解析を行った。
【0180】
なお、上記(1)〜(4)の各工程については、(株)KURABOが提供する、Affymetrix社の作製するDNAマイクロアレイ「GeneChip(登録商標)」を使用した受託解析サービスを利用した(http://www.bio.kurabo.co.jp/idensi/genechip/genechiptop.htm)。本受託解析サービスは、サンプルRNAを提供するだけで、GeneChip(登録商標)を使用した遺伝子発現プロファイル解析を行ってくれるものである。したがって、(2)〜(4)の各工程についての説明は上記URLおよび同社の提供する受託解析サービスを参照することにより当業者であれば理解可能であるため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0181】
本実施例では、GeneChip(登録商標)は、Human Genome U133 Plus 2.0 Arrays( HG-U133 Plus 2.0)を用いた。また、本実施例における上記受託解析サービスのGeneChip解析条件は以下の通りである。
【0182】
ビオチン標識ターゲット調製は、開始条件としてトータルRNAを2μg用いた。解析プロトコールとして、One-cycle Target Labeling、GeneChip Expression Analysis Technial Manual, 701021 Rev.5、Section 2 Eukaryotic Sample and Array Processing、Chapter 1 Eukaryotic Target Preparationを用いた。
【0183】
ハイブリダイゼーション/スキャンにおいては、解析プロトコールとして、GeneChip Expression Analysis Technial Manual, 701021 Rev.5、Section 2 Eukaryotic Sample and Array Processing、Chapter 2 Eukaryotic Target Hybridizationを用いた。また、ハイブリダイゼーションオーブンとしては、Hybridization Oven 640 110V (Affymetrix 800138)を用いた。洗浄/染色装置として、Fluidies Station 450 (Affymetrix 00-0079)を用いた。スキャナとして、GeneChip Scanner 3000 (Affymetrix 00-0074)を用いた。ソフトウェアは、GeneChip Operating Software ver1.1 (Affymetrix 690036)を用いた。
【0184】
スキャン画像解析および数値化においては、解析プロトコールとして、GeneChip Expression Analysis Technial Manual, 701021 Rev.5、Section 2 Eukaryotic Sample and Array Processing、Chapter 3 Washing, Staining, and Scanningを用いた。ソフトウェアとして、GeneChip Operating Software ver1.1を用い、アルゴリズムとして、Statisticalを用いた。解析パラメータとして、CIIPファイル作成時に、Scaling Factor; 1、Target Value; 500、Detection Call; Alpha1=0.05, Alpha2=0.065, Tau=0.015を用いた。
【0185】
上記(4)のスキャニング/データ解析の結果得られたシグナルの数値化および発現解析に関するデータを、Silicon Genetics社製の遺伝子解析ソフトウェアGeneSpring(商品名、登録商標、http://www.silicongenetics.com/cgi/SiG.cgi/Products/GeneSpring/index.smf)を用いて遺伝子リストの作成等の解析作業を行った。なお、ソフトウェアGeneSpringの使用方法については、添付の取扱説明書にしたがった。
【0186】
すなわち、本実施例では、MSC, FB, OS, CH, AD, OA, RAの各3株を用いてヒト遺伝子(プローブ)54675個に関する、各種細胞の遺伝子発現プロファイルを解析した。
【0187】
上述の解析結果、病変MSCの検出マーカーの候補遺伝子がスクリーニングされた。
【0188】
次にスクリーニングされた各種候補遺伝子について、FB、MSC、OA、RAの各4株を用いてリアルタイムPCR解析を行った。具体的には以下のようにした。トータルRNAをRNeasy minicolumns and reagents (Qiagen, Hilden, Germany)を用いて単離し、DNase I (Ambion)処理後、1 μg のトータルRNAからfirst-strand cDNAをReverTra Ace-a (Toyobo, Osaka, Japan)を用いて合成した。リアルタイムPCRは、ready-made probe and primer setsからなるカスタムカードのTaqMan Low Density Array (Applied Biosystems)を用いて、ABI Prism 7900 Sequence Detection System Instrument and Software (Applied Biosystems, Foster City, CA, U.S.A.)で行われた。各種候補遺伝子の発現量は、18S遺伝子の発現で補正された。
【0189】
上記リアルタイムPCRの結果、FB4株のうちのある1株の遺伝子の発現レベルを「1」とした時の、各種細胞における相対的発現レベルを算出した。そして各種細胞における相対的発現レベルの平均値から各細胞間の比を求め、表26に示す条件にしたがって、検出マーカー遺伝子を選抜した。
【0190】
【表26】

【0191】
表26左端のカラムはグループ名を示している。各グループは以下の通りである。
(a)グループaの遺伝子:OAにおいて選択的に発現が亢進されている遺伝子;
(b)グループbの遺伝子:RAにおいて選択的に発現が亢進されている遺伝子;
(c)グループcの遺伝子:OAおよびRAにおいて選択的に発現が亢進されている遺伝子;並びに
(d)グループdの遺伝子:MSC、OAおよびRAにおいて選択的に発現が亢進されている遺伝子。
【0192】
また表26中の「MSC/FB」、「OA/FB」、「RA/FB」、「OA/MSC」、「RA/MSC」、「OA/RA」および「RA/OA」は、2つの細胞間における遺伝子発現レベルの相対値の条件を示している。例えば「MSC/FB」は、FBにおけるある遺伝子の発現レベルに対する、MSCにおけるある遺伝子の発現レベルの相対値を示す。そして、「2未満」および「2以上」は、上記遺伝子発現レベルの相対値が「2未満」および「2以上」であることをそれぞれ示す。例えば表26のグループcの欄を用いて説明すれば、ある遺伝子がグループcの遺伝子に属するためには、「MSC/FB」が2未満、「OA/FB」が2以上、「RA/FB」が2以上、「OA/MSC」が2未満、「RA/MSC」が2未満、「OA/RA」が2未満、かつ「RA/OA」が2未満であるか、あるいは「MSC/FB」が2以上、「OA/FB」が2以上、「RA/FB」が2以上、「OA/MSC」が2以上、「RA/MSC」が2以上、「OA/RA」が2未満、および「RA/OA」が2未満であることが必要であるということが当該欄によって読み取れる。他のグループの条件についても同様にして理解される。
【0193】
図1〜図6に上記リアルタイムPCRによって算出された、各種遺伝子の各種細胞における相対的発現レベルを示した。図1はグループaに属する各種遺伝子(12遺伝子)に関する結果である。棒グラフ中に遺伝子の一般的な略称が記載されている。当該略称は表1aのCommon Nameに対応している。図2はグループbに属する各種遺伝子(9遺伝子)に関する結果である。棒グラフ中に記載されている遺伝子の一般的な略称は表1bのCommon Nameに対応している。図3〜5はグループcに属する各種遺伝子(49遺伝子)に関する結果である。棒グラフ中に記載されている遺伝子の一般的な略称は表1cのCommon Nameに対応している。図6はグループdに属する各種遺伝子(19遺伝子)に関する結果である。棒グラフ中に記載されている遺伝子の一般的な略称は表17dのCommon Nameに対応している。なお図1〜6の棒グラフの縦軸は相対的発現レベルを示し、垂直線は標準誤差を示している。
【0194】
図1によれば、グループaに属する12遺伝子は、OAにおいて選択的に発現が亢進されている遺伝子であるということが分かる。また図2によれば、グループbに属する9遺伝子は、RAにおいて選択的に発現が亢進されている遺伝子であるということが分かる。また図3〜5によれば、グループcに属する49遺伝子は、OAおよびRAにおいて選択的に発現が亢進されている遺伝子であるということが分かる。また図6によれば、グループdに属する19遺伝子は、MSC、OAおよびRAにおいて選択的に発現が亢進されている遺伝子であるということが分かる。以上の結果より、グループa〜cの遺伝子が病変MSCの検出マーカーとして有効であることが確認された。
【0195】
なお上記グループa〜dの全遺伝子は、FB、OS、CH、およびADでの発現レベルが低いことがDNAマイクロアレイ解析によって確認されている。図13にグループa〜dの遺伝子(代表例を1つ)について、DNAマイクロアレイによる解析の結果を示す。図13(a)はグループaのTMEFF2の結果を示し、図13(b)はグループbのHOXD10の結果を示し、図13(c)はグループcのMGC45780の結果を示し、図13(d)はグループdのIFの結果を示す。その他の遺伝子についても同様の結果であった。
【0196】
〔実施例2:siRNA導入による効果の検討〕
実施例1において見出された各種検出マーカー遺伝子(転写因子)から任意に選択された、1または2個の遺伝子のsiRNAを常法により設計し、siRNAオリゴを合成した。なお、siRNAの設計は、RNAi社製 siDirectTMを用いて半自動的に行われた。またsiRNAの合成は、RNAi社に委託された。または、Dharmacon社製のsiGENOME SMART poolを注文することによって、所望のsiRNAを入手した。グループaの遺伝子からGLIS3が選択され、グループbの遺伝子からHOXD10が選択され、グループcの遺伝子からETV1およびMEOX2が選択され、グループdの遺伝子からPRDM16が選択され、以下の実験に供された。また本発明者らによってMSCの検出マーカーであると同定された、GATA6(GenBank Accession No. D87811)も同様に以下の実験に供された。
【0197】
GLIS3に対するsiRNAのセンス鎖の塩基配列を配列番号1に示し、アンチセンス鎖の塩基配列を配列番号2に示した。HOXD10に対するsiRNAのセンス鎖の塩基配列を配列番号3に示し、アンチセンス鎖の塩基配列を配列番号4に示した。ETV1に対するsiRNAのセンス鎖の塩基配列を配列番号5に示し、アンチセンス鎖の塩基配列を配列番号6に示した。MEOX2に対するsiRNAのセンス鎖の塩基配列を配列番号7に示し、アンチセンス鎖の塩基配列を配列番号8に示した。PRDM16に対するsiRNAのセンス鎖の塩基配列を配列番号9に示し、アンチセンス鎖の塩基配列を配列番号10に示した。なお、参考として使用したGATA6に対するsiRNAは、DHARMACON社製 siGENOME SMART pool Cat No. # M-008351-01から入手した。
【0198】
まず各種siRNAオリゴの各種細胞における導入効率を確認すべく、以下の実験を行った。各種細胞を播種し1日培養後、Lipofectamine(登録商標)2000試薬(Invitrogen社製)を用いて、fluorescein標識をしたsiRNAオリゴを導入した。さらに、1日培養後、4%パラフォルムアルデヒドで細胞を固定し、0.1% Triton-X100にて細胞膜透過処理を行い、DAPI試薬を用いて核を染色した。染色された細胞の位相差顕微鏡像および各蛍光顕微鏡像を得て、Adobe Photoshop(登録商標)を用いて画像を合成した。合成した画像の蛍光強度を比較することによって、各種siRNAオリゴの各種細胞における導入効率がほぼ同等であるということが確認された。
【0199】
次に、各種siRNAオリゴの各種細胞への導入効果を検討した。各種細胞を播種し1日培養後、Lipofectamine(登録商標)2000試薬を用いて、各種遺伝子に対するsiRNAオリゴをそれぞれの細胞に導入した。遺伝子導入後、所定時間において細胞からRNAを回収し、各種遺伝子の相対mRNAレベルを、リアルタイムPCR法によって測定した。陰性対照として、negative control siRNAオリゴを導入した。
【0200】
また遺伝子導入後の所定時間における細胞数を、TetraColor ONEキット(生化学工業株式会社製)を用いて評価した。
【0201】
上記の結果を図7〜12に示した。図7はGLIS3に関する結果を、図8はHOXD10に関する結果を、図9はETV1に関する結果を、図10はMEOX2に関する結果を、図11はPRDM16に関する結果を、図12はGATA6に関する結果をそれぞれ示す。
【0202】
図7(A)は、リアルタイムPCR解析によって得た、各細胞におけるGLIS3の相対的発現レベルを示す図であり、図1に示したものと同様である。図7(B)は遺伝子導入後、所定時間においてOAからRNAを回収した際のGLIS3の相対的発現レベル(同図中「相対mRNAレベル」と表記する)を示す図である。なお図7(B)の結果は2回の試行による結果の平均値であり、垂直線は標準誤差を示す。図7(C)は遺伝子導入後、所定時間におけるOAの細胞数を示す図である。図7(D)は遺伝子導入後、所定時間におけるRAの細胞数を示す図である。なお図7(C)および(D)の結果は3回の試行による結果の平均値であり、垂直線は標準誤差を示す。
【0203】
図8(A)は、リアルタイムPCR解析によって得た、各細胞におけるHOXD10の相対的発現レベルを示す図であり、図2に示したものと同様である。図8(B)は遺伝子導入後、所定時間においてRAからRNAを回収した際のHOXD10の相対的発現レベル(同図中「相対mRNAレベル」と表記する)を示す図である。なお図8(B)の結果は2回の試行による結果の平均値であり、垂直線は標準誤差を示す。図8(C)は遺伝子導入後、所定時間におけるOAの細胞数を示す図である。図8(D)は遺伝子導入後、所定時間におけるRAの細胞数を示す図である。なお図8(C)および(D)の結果は3回の試行による結果の平均値であり、垂直線は標準誤差を示す。
【0204】
図9(A)は、リアルタイムPCR解析によって得た、各細胞におけるETV1の相対的発現レベルを示す図であり、図3に示したものと同様である。図9(B)は遺伝子導入後、所定時間においてMSCからRNAを回収した際のETV1の相対的発現レベル(同図中「相対mRNAレベル」と表記する)を示す図である。なお図9(B)の結果は2回の試行による結果の平均値であり、垂直線は標準誤差を示す。図9(C)は遺伝子導入後、所定時間におけるMSCの細胞数を示す図である。図9(D)は遺伝子導入後、所定時間におけるFBの細胞数を示す図である。図9(E)は遺伝子導入後、所定時間におけるOAの細胞数を示す図である。図9(F)は遺伝子導入後、所定時間におけるRAの細胞数を示す図である。なお図9(C)〜(F)の結果は3回の試行による結果の平均値であり、垂直線は標準誤差を示す。
【0205】
図10(A)は、リアルタイムPCR解析によって得た、各細胞におけるMEOX2の相対的発現レベルを示す図であり、図4に示したものと同様である。図10(B)は遺伝子導入後、所定時間においてOAからRNAを回収した際のMEOX2の相対的発現レベル(同図中「相対mRNAレベル」と表記する)を示す図である。なお図10(B)の結果は2回の試行による結果の平均値であり、垂直線は標準誤差を示す。図10(C)は遺伝子導入後、所定時間におけるOAの細胞数を示す図である。図10(D)は遺伝子導入後、所定時間におけるRAの細胞数を示す図である。なお図10(C)および(D)の結果は3回の試行による結果の平均値であり、垂直線は標準誤差を示す。
【0206】
図11(A)は、リアルタイムPCR解析によって得た、各細胞におけるPRDM16の相対的発現レベルを示す図であり、図6に示したものと同様である。図11(B)は遺伝子導入後、所定時間においてMSCからRNAを回収した際のPRDM16の相対的発現レベル(同図中「相対mRNAレベル」と表記する)を示す図である。なお図11(B)の結果は2回の試行による結果の平均値であり、垂直線は標準誤差を示す。図11(C)は遺伝子導入後、所定時間におけるMSCの細胞数を示す図である。図11(D)は遺伝子導入後、所定時間におけるFBの細胞数を示す図である。図11(E)は遺伝子導入後、所定時間におけるOAの細胞数を示す図である。図11(F)は遺伝子導入後、所定時間におけるRAの細胞数を示す図である。なお図11(C)〜(F)の結果は3回の試行による結果の平均値であり、垂直線は標準誤差を示す。
【0207】
図12(A)は、リアルタイムPCR解析によって得た、各細胞におけるGATA6の相対的発現レベルを示す図である。図12(B)は遺伝子導入後、所定時間においてMSCからRNAを回収した際のGATA6の相対的発現レベル(同図中「相対mRNAレベル」と表記する)を示す図である。なお図12(B)の結果は2回の試行による結果の平均値であり、垂直線は標準誤差を示す。図12(C)は遺伝子導入後、所定時間におけるMSCの細胞数を示す図である。図12(D)は遺伝子導入後、所定時間におけるFBの細胞数を示す図である。図12(E)は遺伝子導入後、所定時間におけるOAの細胞数を示す図である。図12(F)は遺伝子導入後、所定時間におけるRAの細胞数を示す図である。なお図12(C)〜(F)の結果は3回の試行による結果の平均値であり、垂直線は標準誤差を示す。
【0208】
図7〜12の結果をまとめると、各遺伝子に対するsiRNAオリゴを導入することによって、対応する遺伝子の発現の50〜80%程度抑制することができた。既述の通り、各種細胞へのsiRNAオリゴの導入効率はほぼ等しいことが確認されているため、遺伝子発現の抑制効率も同等であると考える。
【0209】
各種遺伝子の発現抑制による各種細胞増殖に対する効果を表27に示した。
【0210】
【表27】

【0211】
表27中において、「−」は「データなし」、「→」は「影響なし」、「↓」は「弱い増殖抑制効果あり」、「↓↓」は「中程度の増殖抑制効果あり」、「↓↓↓」は「強い増殖抑制効果あり」をそれぞれ示す。
【0212】
いずれの遺伝子の発現抑制も、OAおよび/またはRAの増殖抑制効果を示した。一方いずれの遺伝子の発現抑制もMSCおよびFBの増殖に対して大きな影響を与えなかった。またグループaのGLIS3、グループcのETV1によって、OAおよびRAの増殖が著しく抑制された。また、MSCの検出マーカーであるGATA6の発現抑制によっても、OAおよびRAの増殖が強く抑えられた。よって、グループa〜dの遺伝子に対応するsiRNAを導入することによって、OAおよびRAの増殖が抑制されるということが分かった。
【0213】
GLIS3の発現抑制に関しては、MSCおよびFBにおける検討を行っていないため、OAおよびRAに対する特異的な効果であるかは不明であるが、ETV1とGATA6の発現抑制による効果は、病的状態のOAおよびRAに選択的なものであることが示唆された。
【0214】
以上の結果より、グループa〜dの遺伝子に対応するsiRNAは、変形性関節症および関節リウマチに対する治療または予防効果を有していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0215】
本発明によれば、OA由来滑膜細胞やRA由来滑膜細胞をはじめとする病変MSCにおいて選択的に発現が亢進されている遺伝子を検出マーカーとして利用することによって、病変MSCを選択的に検出し得る手段を提供することができる。よって、病変MSCを再生医療へ適用することを未然に防ぐことができるという効果を本発明は奏する。
【0216】
また本発明によれば、病変MSCが関連する疾患(例えば、OA、RA等)の治療剤として有効なものを提供することができる。上記治療薬は、病変MSCを標的とするものであるため、効率良く疾患の治療および予防を行うことができるとともに、副作用も少ないことが期待できる。
【0217】
したがって本発明は、MSCを用いた再生医療の実用化に大きく貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0218】
【図1】リアルタイムPCRによって算出された、グループaに属する各種遺伝子(12遺伝子)の各種細胞における相対的発現レベルを示す棒グラフである。なお上記遺伝子はFB、OS、CH、およびADでの発現レベルが低いことがDNAマイクロアレイ解析によって確認されている。
【図2】リアルタイムPCRによって算出された、グループbに属する各種遺伝子(9遺伝子)の各種細胞における相対的発現レベルを示す棒グラフである。なお上記遺伝子はFB、OS、CH、およびADでの発現レベルが低いことがDNAマイクロアレイ解析によって確認されている。
【図3】リアルタイムPCRによって算出された、グループcに属する各種遺伝子(21遺伝子)の各種細胞における相対的発現レベルを示す棒グラフである。なお上記遺伝子はFB、OS、CH、およびADでの発現レベルが低いことがDNAマイクロアレイ解析によって確認されている。
【図4】リアルタイムPCRによって算出された、グループcに属する各種遺伝子(15遺伝子)の各種細胞における相対的発現レベルを示す棒グラフである。なお上記遺伝子はFB、OS、CH、およびADでの発現レベルが低いことがDNAマイクロアレイ解析によって確認されている。
【図5】リアルタイムPCRによって算出された、グループcに属する各種遺伝子(13遺伝子)の各種細胞における相対的発現レベルを示す棒グラフである。なお上記遺伝子はFB、OS、CH、およびADでの発現レベルが低いことがDNAマイクロアレイ解析によって確認されている。
【図6】リアルタイムPCRによって算出された、グループdに属する各種遺伝子(19遺伝子)の各種細胞における相対的発現レベルを示す棒グラフである。なお上記遺伝子はFB、OS、CH、およびADでの発現レベルが低いことがDNAマイクロアレイ解析によって確認されている。
【図7】(A)はリアルタイムPCR解析によって得た、各細胞におけるGLIS3の相対的発現レベルを示す棒グラフであり、(B)は遺伝子導入後、所定時間においてOAからRNAを回収した際のGLIS3の相対的発現レベルを示す折れ線図あり、(C)は遺伝子導入後、所定時間におけるOAの細胞数を示す折れ線図であり、(D)は遺伝子導入後、所定時間におけるRAの細胞数を示す折れ線図である。
【図8】(A)はリアルタイムPCR解析によって得た、各細胞におけるHOXD10の相対的発現レベルを示す棒グラフであり、(B)は遺伝子導入後、所定時間においてRAからRNAを回収した際のHOXD10の相対的発現レベルを示す折れ線図であり、(C)は遺伝子導入後、所定時間におけるOAの細胞数を示す折れ線図であり、(D)は遺伝子導入後、所定時間におけるRAの細胞数を示す折れ線図である。
【図9】(A)はリアルタイムPCR解析によって得た、各細胞におけるETV1の相対的発現レベルを示す棒グラフであり、(B)は遺伝子導入後、所定時間においてMSCからRNAを回収した際のETV1の相対的発現レベルを示す折れ線図であり、(C)は遺伝子導入後、所定時間におけるMSCの細胞数を示す折れ線図であり、(D)は遺伝子導入後、所定時間におけるFBの細胞数を示す折れ線図であり、(E)は遺伝子導入後、所定時間におけるOAの細胞数を示す折れ線図であり、(F)は遺伝子導入後、所定時間におけるRAの細胞数を示す折れ線図である。
【図10】(A)はリアルタイムPCR解析によって得た、各細胞におけるMEOX2の相対的発現レベルを示す棒グラフであり、(B)は遺伝子導入後、所定時間においてOAからRNAを回収した際のMEOX2の相対的発現レベルを示す折れ線図であり、(C)は遺伝子導入後、所定時間におけるOAの細胞数を示す折れ線図であり、(D)は遺伝子導入後、所定時間におけるRAの細胞数を示す折れ線図である。
【図11】(A)はリアルタイムPCR解析によって得た、各細胞におけるPRDM16の相対的発現レベルを示す棒グラフであり、(B)は遺伝子導入後、所定時間においてMSCからRNAを回収した際のPRDM16の相対的発現レベルを示す折れ線図であり、(C)は遺伝子導入後、所定時間におけるMSCの細胞数を示す折れ線図であり、(D)は遺伝子導入後、所定時間におけるFBの細胞数を示す折れ線図であり、(E)は遺伝子導入後、所定時間におけるOAの細胞数を示す折れ線図であり、(F)は遺伝子導入後、所定時間におけるRAの細胞数を示す折れ線図である。
【図12】(A)はリアルタイムPCR解析によって得た、各細胞におけるGATA6の相対的発現レベルを示す棒グラフであり、(B)は遺伝子導入後、所定時間においてMSCからRNAを回収した際のGATA6の相対的発現レベルを示す折れ線図であり、(C)は遺伝子導入後、所定時間におけるMSCの細胞数を示す折れ線図であり、(D)は遺伝子導入後、所定時間におけるFBの細胞数を示す折れ線図であり、(E)は遺伝子導入後、所定時間におけるOAの細胞数を示す折れ線図であり、(F)は遺伝子導入後、所定時間におけるRAの細胞数を示す折れ線図である。
【図13】グループa〜dの遺伝子(代表例を1つ)について、DNAマイクロアレイによる解析の結果を示す棒グラフであり、(a)はグループaのTMEFF2の結果を示し、(b)はグループbのHOXD10の結果を示し、(c)はグループcのMGC45780の結果を示し、(d)はグループdのIFの結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記表1a〜1cに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、
被検細胞において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含むことを特徴とする、病変間葉系幹細胞の検出方法。
【表1a】

【表1b】

【表1c】

【請求項2】
下記表2に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、
被検細胞において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含むことを特徴とする、病変間葉系細胞の検出方法。
【表2】

【請求項3】
下記表3に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、
被検細胞において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含むことを特徴とする、病変間葉系細胞の検出方法。
【表3】

【請求項4】
下記表4に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、
被検細胞において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含むことを特徴とする、病変間葉系細胞の検出方法。
【表4】

【請求項5】
下記(a1)〜(d1)のいずれかのうち、少なくとも1つ以上が固定されてなる、病変間葉系幹細胞検出用のマイクロアレイ:
(a1)下記表5a〜表5cのいずれかに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(b1)下記表5a〜表5cのいずれかに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;
(c1)上記(a1)または(b1)の部分塩基配列を有するポリヌクレオチド;および
(d1)上記(a1)〜(c1)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【表5a】

【表5b】

【表5c】

【請求項6】
下記(a2)〜(d2)のいずれかのうち、少なくとも1つ以上が固定されてなる、病変間葉系幹細胞検出用のマイクロアレイであって、当該病変間葉系幹細胞が変形性関節症由来滑膜細胞である、上記マイクロアレイ:
(a2)下記表6に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(b2)下記表6に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;
(c2)上記(a2)または(b2)の部分塩基配列を有するポリヌクレオチド;および
(d2)上記(a2)〜(c2)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【表6】

【請求項7】
下記(a3)〜(d3)のいずれかのうち、少なくとも1つ以上が固定されてなる、病変間葉系幹細胞検出用のマイクロアレイであって、当該病変間葉系幹細胞が関節リウマチ由来滑膜細胞である、上記マイクロアレイ:
(a3)下記表7に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(b3)下記表7に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;
(c3)上記(a3)または(b3)の部分塩基配列を有するポリヌクレオチド;および
(d3)上記(a3)〜(c3)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【表7】

【請求項8】
下記(a4)〜(d4)のいずれかのうち、少なくとも1つ以上が固定されてなる、病変間葉系幹細胞検出用のマイクロアレイであって、当該病変間葉系幹細胞が変形性関節症由来滑膜細胞および関節リウマチ由来滑膜細胞である、上記マイクロアレイ:
(a4)下記表8に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(b4)下記表8に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;
(c4)上記(a4)または(b4)の部分塩基配列を有するポリヌクレオチド;および
(d4)上記(a4)〜(c4)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【表8】

【請求項9】
下記(a5)〜(c5)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドからなることを特徴とする病変間葉系幹細胞の検出用プローブ:
(a5)下記表9a〜表9cのいずれかに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(b5)下記表9a〜表9cのいずれかに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;および
(c5)上記(a5)または(b5)の部分塩基配列。
【表9a】

【表9b】

【表9c】

【請求項10】
下記(a6)〜(c6)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドからなることを特徴とする病変間葉系幹細胞の検出用プローブであって、当該病変間葉系幹細胞が変形性関節症由来滑膜細胞である、上記検出用プローブ:
(a6)下記表10に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(b6)下記表10に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;および
(c6)上記(a6)または(b6)の部分塩基配列。
【表10】

【請求項11】
下記(a7)〜(c7)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドからなることを特徴とする病変間葉系幹細胞の検出用プローブであって、当該病変間葉系幹細胞が関節リウマチ由来滑膜細胞である、上記検出用プローブ:
(a7)下記表11に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(b7)下記表11に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;および
(c7)上記(a7)または(b7)の部分塩基配列。
【表11】

【請求項12】
下記(a8)〜(c8)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドからなることを特徴とする病変間葉系幹細胞の検出用プローブであって、当該病変間葉系幹細胞が変形性関節症由来滑膜細胞および関節リウマチ由来滑膜細胞である、上記検出用プローブ:
(a8)下記表12に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(b8)下記表12に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;および
(c8)上記(a8)または(b8)の部分塩基配列。
【表12】

【請求項13】
下記(a9)または(b9)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、かつ当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体を備えてなる病変間葉系幹細胞の検出用抗体:
(a9)下記表13a〜13cに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子によってコードされるポリペプチドのうち、少なくとも1つ以上のポリペプチド;
(b9)上記(a9)の部分ポリペプチド。
【表13a】

【表13b】

【表13c】

【請求項14】
下記(a10)または(b10)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、かつ当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体を備えてなる病変間葉系幹細胞の検出用抗体であって、当該病変間葉系幹細胞が変形性関節症由来滑膜細胞である、上記検出用抗体:
(a10)下記表14に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子によってコードされるポリペプチドのうち、少なくとも1つ以上のポリペプチド;
(b10)上記(a10)の部分ポリペプチド。
【表14】

【請求項15】
下記(a11)または(b11)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、かつ当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体を備えてなる病変間葉系幹細胞の検出用抗体であって、当該病変間葉系幹細胞が関節リウマチ由来滑膜細胞である、上記検出用抗体:
(a11)下記表15に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子によってコードされるポリペプチドのうち、少なくとも1つ以上のポリペプチド;
(b11)上記(a11)の部分ポリペプチド。
【表15】

【請求項16】
下記(a12)または(b12)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、かつ当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体を備えてなる病変間葉系幹細胞の検出用抗体であって、当該病変間葉系幹細胞が変形性関節症由来滑膜細胞および関節リウマチ由来滑膜細胞である、上記検出用抗体:
(a12)下記表16に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子によってコードされるポリペプチドのうち、少なくとも1つ以上のポリペプチド;
(b12)上記(a12)の部分ポリペプチド。
【表16】

【請求項17】
下記表17a〜17dに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子、またはその部分配列に対するsiRNAを含むことを特徴とする、病変間葉系幹細胞が関連する疾患用治療剤。
【表17a】

【表17b】

【表17c】

【表17d】

【請求項18】
下記表18に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子、またはその部分配列に対するsiRNAを含むことを特徴とする、変形性関節症治療剤。
【表18】

【請求項19】
下記表19に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子、またはその部分配列に対するsiRNAを含むことを特徴とする、関節リウマチ治療剤。
【表19】

【請求項20】
下記表20に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子、またはその部分配列に対するsiRNAを含むことを特徴とする、変形性関節症および関節リウマチ治療剤。
【表20】

【請求項21】
下記表21に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子、またはその部分配列に対するsiRNAを含むことを特徴とする、変形性関節症および関節リウマチ治療剤。
【表21】

【請求項22】
下記表22a〜22cに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、
生体から分離した試料において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含むことを特徴とする、病変間葉系幹細胞が関連する疾患の当該生体における発症またはその発症危険性を検出する方法。
【表22a】

【表22b】

【表22c】

【請求項23】
下記表23に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、
生体から分離した試料において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含むことを特徴とする、当該生体における変形性関節症の発症またはその発症危険性を検出する方法。
【表23】

【請求項24】
下記表24に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、
生体から分離した試料において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含むことを特徴とする、当該生体における関節リウマチの発症またはその発症危険性を検出する方法。
【表24】

【請求項25】
下記表25に記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子を検出マーカーとして用い、
生体から分離した試料において、当該検出マーカーの発現を検出する工程を含むことを特徴とする、当該生体における変形性関節症および関節リウマチの発症またはそれらの発症危険性を検出する方法。
【表25】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−92919(P2008−92919A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−281733(P2006−281733)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(503328193)株式会社ツーセル (24)
【Fターム(参考)】