説明

癌を検出するためのオリゴ糖プロファイリング法

本発明は、癌に特異的なオリゴ糖を特定するための方法および個体における癌の系統を決定するための方法を提供する。本発明はまた、特異的な癌マーカーの存在または非存在を検出することによって個体における癌または癌のステージを診断するための方法、およびこのようなマーカーに対する抗体を投与することによって癌を治療するための方法を提供する。さらに、本発明は、O結合型オリゴ糖を含む癌マーカー、および癌を診断または治療するためのキットを提供する。


【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2004年6月22日に出願された米国特許仮出願第60/582,250号に対して優先権を主張する。米国特許仮出願第60/582,250号は全ての目的のためにその全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府の支援による研究および開発によってなされた発明に関する記載
本発明は、米国立衛生研究所から付与された助成金(または契約)番号RO1-GM049077の下で政府の支援によりなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
発明の背景
卵巣癌は米国における第5位の癌死因であり、婦人科悪性腫瘍の中で最も高い死亡率を有する。American Cancer Society (2002)によれば、米国において約23,300人の女性が卵巣癌と診断され、13,900人がこの疾患で死亡する。卵巣腫瘍は世界保健機構(WHO)によって細胞タイプに従って分類されており、例えば、上皮性腫瘍、胚細胞性腫瘍、間質性腫瘍、および転移性腫瘍を含む。上皮性腫瘍は最も一般的なタイプであり、典型的に卵巣表面に発生する異常な塊を有する。間質性腫瘍および胚細胞性腫瘍は典型的に稀である。
【0004】
卵巣癌は目立つ初期症状が無いために「サイレントキラー(silent killer)」と呼ばれることが多い。実際に、卵巣癌に特有の症状は、この疾患が卵巣外に広がった後でしか現れない。卵巣癌は早期に検出された時には、かなり治療することができるので、早期診断が重要である。例えば、卵巣癌が卵巣外に広がる前に検出されれば、95%の女性が5年以上生存する。しかしながら、進行期に診断されれば、28%の女性しか5年以上生存しない。
【0005】
癌の診断および治療のために生物学的マーカーを特定する現行のアプローチは主にプロテオミクスに向けられている。例えば、プロテオミクスまたは遺伝子発現解析によって、オステオポンチン、ペリオスチン(periostin)、およびHE7(WFDC2)などのタンパク質が特定され、卵巣癌の潜在的な診断マーカーであると示唆されている(Kim et al., JAMA, 287:1671-1679 (2002)(非特許文献1); Hellstrom et al., Cancer Res., 63:3695-3700 (2003)(非特許文献2); Gillan et al., Cancer Res., 62:5358-5364 (2002)(非特許文献3))。しかしながら、癌診断マーカーとしてのこれらの有用性は未知である。
【0006】
ムチンは様々な上皮細胞タイプから発現および分泌される(Van den Steen et al., Crit. Rev. Biochem. Mol. Biol., 33:151-208 (1998)(非特許文献4))。上皮細胞は組織/器官の外壁に発現され、細胞間相互作用または細胞-マトリックス相互作用に関与し、組織と組織環境の境界面として働くことが多い。ムチンは正常な分泌性上皮細胞から分泌され、ホメオスタシスの維持および細胞の生存において中心的な役割を有する(Hanisch, Biol. Chem., 382:143-149 (2001)(非特許文献5))。ムチンは、高度のグリコシル化と関連する大きな糖タンパク質として分類されることが多い。オリゴ糖(主に、O結合型オリゴ糖またはムチン型オリゴ糖)がムチン質量の大きな部分を占めている(Van den Steen et al.,同書(非特許文献4)。
【0007】
ムチンは、長い間、癌の発病に結びつけられてきた(Hollingsworth et al. , Nat. Rev. Cancer, 4:45-60 (2004)(非特許文献6))。腺癌(すなわち、上皮細胞癌)の大部分のタイプは高度のムチン産生を伴うことが多い(Hollingsworth et al.,同書(非特許文献6))。例えば、卵巣癌ではMUC1およびCA125(MUC16)などのムチンが増加する(Stimpfl et al., Cancer Lett., 145:133-141 (1999)(非特許文献7))。MUC1は乳癌とよく関連することが見出されている(Hanisch et al., Eur. J. Biochem., 236:318-327 (1996)(非特許文献8); Lloyd et al., J. Biol. Chem., 271:33325-33334 (1996)(非特許文献9); Croce et al., Br. Cancer Res. Treatment, 81:195-207 (2003)(非特許文献10))。CA125(MUC16)は卵巣癌マーカーとして診療所において一般的に用いられ、卵巣癌患者のモニタリングおよび予後評価のための有用な生化学ツールとして評価されてきた(Bast et al., N. Engl. J. Med., 309:883-887 (1983)(非特許文献11); Bast et al., J. Clin. Invest., 68:1331-1337 (1981)(非特許文献12))。しかしながら、CA125血清レベルの上昇は、FIGO(国際産婦人科連合判定基準)ステージI卵巣癌患者の50%にしか見られない(Jacobs et al. , Hum. Reprod., 4:1-12 (1989)(非特許文献13))。さらに、子宮内膜症または骨盤腹膜炎などの良性状態を有する女性のかなりの割合でも、CA125レベルが上昇していた(Jacobs et al.,同書(非特許文献13); Mashasi et al., Obstret.Gynecol., 72:328-331 (1988)(非特許文献14))。従って、CA125血清レベルの上昇は、早期発症卵巣癌を検出するための十分な指標ではない。
【0008】
CA125などのムチンのレベルの評価は、いくつかの要因のために複雑である。第1に、ムチンは高分子量(例えば107ダルトン)の非常に不均一な糖タンパク質である。第2に、ムチンを検出するために現在用いられている抗体法は不正確であり、定量的でない。第3に、CA125などの一般的に検出されるムチンは、異なる腫瘍タイプの卵巣癌から同様に発現されない。
【0009】
従って、卵巣癌または乳癌などの腺癌を早期に検出または診断するための生物学的マーカーを特定することが当技術分野において必要とされている。本発明は、この必要および他の必要を満たす。
【0010】
【非特許文献1】Kim et al., JAMA, 287:1671-1679 (2002)
【非特許文献2】Hellstrom et al., Cancer Res., 63:3695-3700 (2003)
【非特許文献3】Gillan et al., Cancer Res., 62:5358-5364 (2002)
【非特許文献4】Van den Steen et al., Crit. Rev. Biochem. Mol. Biol., 33:151-208 (1998)
【非特許文献5】Hanisch, Biol. Chem., 382:143-149 (2001
【非特許文献6】Hollingsworth et al. , Nat. Rev. Cancer, 4:45-60 (2004)
【非特許文献7】Stimpfl et al., Cancer Lett., 145:133-141 (1999)
【非特許文献8】Hanisch et al., Eur. J. Biochem., 236:318-327 (1996)
【非特許文献9】Lloyd et al., J. Biol. Chem., 271:33325-33334 (1996)
【非特許文献10】Croce et al., Br. Cancer Res. Treatment, 81:195-207 (2003)
【非特許文献11】Bast et al., N. Engl. J. Med., 309:883-887 (1983)
【非特許文献12】Bast et al., J. Clin. Invest., 68:1331-1337 (1981)
【非特許文献13】Jacobs et al. , Hum. Reprod., 4:1-12 (1989)
【非特許文献14】Mashasi et al., Obstret.Gynecol., 72:328-331 (1988)
【発明の開示】
【0011】
発明の簡単な概要
本発明は、癌に特異的なオリゴ糖(すなわち、癌マーカー)を特定するための方法および個体における癌の系統を決定するための方法を提供する。本発明はまた、特異的な癌マーカーの存在または非存在を検出することによって個体における癌または癌のステージを診断するための方法、およびこのようなマーカーに対する抗体を投与することによって癌を治療するための方法を提供する。さらに、本発明は、O結合型オリゴ糖を含む癌マーカーおよび癌を診断または治療するためのキットを提供する。
【0012】
従って、1つの局面において、本発明は、癌に特異的なオリゴ糖を特定するための方法を提供する。この方法は、
(a)癌細胞株または癌を有する個体に由来する試料である試験試料から、オリゴ糖を選択的に放出する工程;
(b)マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)-フーリエ変換質量分析(FTMS)を用いて、オリゴ糖の質量スペクトルを試験試料から得る工程;および
(c)試験試料からの質量スペクトルと対照試料からの質量スペクトルを比較する工程であって、癌に特異的なオリゴ糖は、独特のオリゴ糖が試験試料からの質量スペクトルに存在することによって特定される、工程を含む。
【0013】
別の局面において、本発明は、個体における癌の系統を決定するための方法を提供する。この方法は、
(a)個体に由来する試料から選択的に放出されたオリゴ糖の質量スペクトルを、MALDI-FTMSを用いて、個体に由来する試料から得る工程;および
(b)試料からの質量スペクトルと、少なくとも1種類の公知の癌の系統からの質量スペクトルプロファイルを比較する工程であって、癌の系統は、試料からの質量スペクトルと、公知の癌の系統の1つからの質量スペクトルプロファイルの類似性によって決定される、工程を含む。
【0014】
さらに別の局面において、本発明は、個体における癌を診断するための方法を提供する。この方法は、個体に由来する試料における独特のオリゴ糖の存在または非存在を検出する工程であって、独特のオリゴ糖の存在は個体が癌を有することを示す、工程を含む。
【0015】
なおさらに別の局面において、本発明は、個体における癌を診断するための方法を提供する。この方法は、
(a)個体に由来する試料から選択的に放出されたオリゴ糖の質量スペクトルを、MALDI-FTMSを用いて、個体に由来する試料から得る工程;および
(b)試料からの質量スペクトルと対照試料からの質量スペクトルを比較する工程であって、試料におけるNeuAc含有O結合型オリゴ糖に対するNeuGc含有O結合型オリゴ糖の比が対照試料と比べて高いことは、個体が癌を有することを示す、工程を含む。
【0016】
さらなる局面において、本発明は、個体における癌を診断するための方法を提供する。この方法は、
(a)個体に由来する試料から選択的に放出されたオリゴ糖の質量スペクトルを、MALDI-FTMSを用いて、個体に由来する試料から得る工程;および
(b)試料からの質量スペクトルと対照試料からの質量スペクトルを比較する工程であって、試料における硫酸化O結合型オリゴ糖のパーセントが対照試料と比べて低いことは、個体が癌を有することを示す、工程を含む。
【0017】
別の局面において、本発明は、個体における癌を診断するための方法を提供する。この方法は、
(a)個体に由来する試料から選択的に放出されたオリゴ糖の質量スペクトルを、個体に由来する試料から得る工程;および
(b)質量スペクトルにおける、硫酸化オリゴ糖、N-アセチルノイラミン酸(NeuAc)含有オリゴ糖、N-グリコリルノイラミン酸(NeuGc)含有オリゴ糖、中性オリゴ糖、ヘキソース(Hex)含有オリゴ糖、ヘキスロン酸(HexA)含有オリゴ糖、およびその組み合わせからなる群より選択される癌マーカーの存在または非存在を決定する工程であって、癌マーカーの存在は個体が癌を有することを示す、工程を含む。
【0018】
さらに別の局面において、本発明は、個体における癌のステージを診断するための方法を提供する。この方法は、
(a)個体に由来する試料から選択的に放出されたオリゴ糖の質量スペクトルを、個体に由来する試料から得る工程;
(b) 質量スペクトルにおける

およびその組み合わせからなる群より選択される第1の癌マーカーの存在または非存在を決定する工程;および
(c) 質量スペクトルにおける

およびその組み合わせからなる群より選択される第2の癌マーカーの存在または非存在を決定する工程であって、第1の癌マーカーの存在および第2の癌マーカーの非存在は個体が初期癌を有することを示し、第2の癌マーカーの存在は個体が末期癌を有することを示す、工程を含む。
【0019】
なおさらに別の局面において、本発明は、

およびその組み合わせより選択される組成を有するO結合型オリゴ糖を含む癌マーカーを提供する。
【0020】
さらなる局面において、本発明は、癌マーカーに特異的に結合する治療的有効量の抗体を、癌の治療を必要とする個体に投与する工程を含む、癌の治療を必要とする個体において癌を治療するための方法を提供する。
【0021】
別の局面において、本発明は、
(a)複数の癌マーカーを含むアレイ;
(b)アレイ上の複数の癌マーカーに特異的に結合する複数の抗体;および
(c)アレイおよび複数の抗体を個体に由来する試料と共に使用するための説明書
を含む、個体における癌を診断するためのキットを提供する。
【0022】
さらに別の局面において、本発明は、
(a)癌マーカーに特異的に結合する抗体;および
(b)抗体を使用するための説明書
を含む、癌の治療を必要とする個体において癌を治療するためのキットを提供する。
【0023】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明および図面から当業者に明らかであろう。
【0024】
発明の詳細な説明
I.略語
MALDI,マトリックス支援レーザー脱離イオン化。FTMS,フーリエ変換質量分析。IRMPD,赤外多光子解離。Hex,ヘキソース。Hex,アセチルヘキソース。HexA,ヘキスロン酸。HexNAc,N-アセチルヘキソサミン。NeuAc,N-アセチルノイラミン酸。NeuGc,N-グリコリルノイラミン酸。Fuc,フコース。SO3H,硫酸基。
【0025】
II.定義
本明細書で使用する以下の用語は、特別の定めのない限り、これらの用語に与えられた意味を有する。
【0026】
用語「癌」は、周囲組織に侵入し、新しい身体部位に転移する傾向のある未分化細胞の増殖を特徴とする様々な任意の悪性新生物を意味する。異なるタイプの癌の例には、卵巣癌、乳癌、肺癌、膀胱癌、甲状腺癌、肝臓癌、胸膜癌、膵臓癌、子宮頚癌、精巣癌、結腸癌、肛門癌、胆管癌、胃腸カルチノイド腫瘍、食道癌、胆嚢癌、直腸癌、虫垂癌、小腸癌、胃癌、腎臓癌、中枢神経系の癌、皮膚癌、絨毛癌、頭頚部癌、ならびに骨原性肉腫、B細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、線維肉腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、黒色腫、単球性白血病、骨髄性白血病、急性リンパ球性白血病、および急性骨髄性白血病が含まれるが、これらに限定されない。用語「腺癌」は、腺上皮において生じる様々な任意の悪性新生物を意味し、卵巣癌および乳癌を含むが、それに限定されるわけではない。
【0027】
用語「試料」は、個体から得られる任意の生物学的標本を意味する。本発明において使用するのに適した試料には、全血、血漿、血清、唾液、尿、糞便、涙、および他の任意の体液もしくは組織が含まれるが、それに限定されるわけではない。好ましい態様において、試料は血清試料である。この用語はまた、細胞株から得られる任意の標本(ならし培地および細胞抽出物(例えば、膜抽出物、サイトゾル抽出物、核抽出物など)が含まれるが、それに限定されるわけではない)を含む。当業者であれば、血清およびならし培地などの試料は分析前に希釈できることを理解する。
【0028】
用語「マーカー」は、生物学的試料において検出可能であり、疾患、障害、または疾患もしくは障害に対する感受性を示す任意の分子を意味する。好ましくは、マーカーは、グリカンまたは糖分子(例えば、単糖、オリゴ糖、または多糖)である。本発明の好ましい態様において、マーカーは、ある特定のタイプの癌に特異的な独特のオリゴ糖種である。限定しない例として、独特のオリゴ糖種は、O結合型オリゴ糖、N結合型オリゴ糖、遊離オリゴ糖、またはその組み合わせでもよい。
【0029】
用語「癌マーカー」は、個体における癌を示すマーカーを意味する。この用語は、癌細胞もしくは正常細胞から産生される、またはこれらの細胞に存在するが、癌細胞株または癌を有する個体に由来する試験試料におけるレベルが、正常細胞株または癌を有さない個体に由来する対照試料のレベルと比較して変化している、分子を含む。より具体的には、この用語は、(1)癌細胞において特異的に発現または存在するが、正常細胞では発現も存在もしない分子;(2)癌細胞における発現が正常細胞と比較して高い分子;(3)正常細胞において特異的に発現または存在するが、癌細胞では発現も存在もしない分子;および(4)癌細胞における発現が正常細胞と比較して低い分子を含むが、それに限定されるわけではない。本発明の好ましい態様において、癌マーカーはO結合型オリゴ糖である。例えば、O結合型オリゴ糖は、硫酸化オリゴ糖、NeuAc含有オリゴ糖、NeuGc含有オリゴ糖、HexA含有オリゴ糖、Hex含有オリゴ糖、中性オリゴ糖、またはその組み合わせでもよい。他の態様において、癌マーカーはN結合型オリゴ糖または遊離オリゴ糖である。
【0030】
用語「遊離オリゴ糖」は、タンパク質に取り付けられていない任意のオリゴ糖種を意味し、脂質に取り付けられているオリゴ糖を含むが、それに限定されるわけではない。
【0031】
用語「m/z」は、イオンの質量をイオンの電荷値で割ることによって得られる質量電荷比を意味する。
【0032】
用語「個体」は、任意の動物、好ましくは、哺乳動物、より好ましくは、ヒトを意味する。
【0033】
用語「癌を有する個体」は、試験試料が得られる時に癌に関連する1つもしくは複数の症状を示したことのある個体、または試験試料が得られる時に癌を有すると以前に診断されたことのある個体を意味する。
【0034】
用語「癌を有さない個体」は、対照試料が得られる時に癌に関連する症状を全く示していない個体、または対照試料が得られる時に癌に関連する症状から寛解状態にある個体、または対照試料が得られる時に、以前に診断された癌の再発を全く示していない個体を意味する。従って、個体は、癌を有する個体と別個のものである必要はない。例えば、個体から異なる時に試料が得られてもよく(例えば、癌を有する前(対照試料)、癌を有している間(試験試料))、対照試料は、寛解状態にある個体または治療後の個体、および同じ個体から得られる試験試料と比較して早い時期の(例えば、個体に癌があった時の)個体から得られてもよい。
【0035】
用語「エキソグリコシダーゼ」は、2つの単糖間の結合を選択的に加水分解する酵素を意味する。好ましくは、エキソグリコシダーゼは、オリゴ糖(例えば、O結合型オリゴ糖またはN結合型オリゴ糖)に存在する2つの単糖間の結合を選択的に加水分解する。適切なエキソグリコシダーゼは、フコシダーゼ(例えば、α1,2-フコシダーゼ、α1-3,4-フコシダーゼ、およびα1,6-フコシダーゼ)、ガラクトシダーゼ(例えば、α1-3,6-ガラクトシダーゼ、β1,3-ガラクトシダーゼ、β1-3,6-ガラクトシダーゼ、およびβ1,4-ガラクトシダーゼ)、ヘキソサミニダーゼ(例えば、α-N-アセチル-ガラクトサミニダーゼおよびβ1-2,3,4,6-N-アセチル-グルコサミニダーゼ)、ヘキソシダーゼ(hexosidase)(例えば、β-グリコシダーゼ)、マンノシダーゼ(例えば、α1-2,3-マンノシダーゼ、α1,6-マンノシダーゼ、およびβ1,4-マンノシダーゼ)、ノイラミニダーゼ(例えば、α2-3,6-ノイラミニダーゼ、α2-3,6,8-ノイラミニダーゼ、α2-3,6,8,9-ノイラミニダーゼ、およびα2,3-ノイラミニダーゼ)、キシロシダーゼ(例えば、β1,2-キシロシダーゼ)、ならびにその組み合わせを含むが、それに限定されるわけではない。
【0036】
本明細書で使用する用語「アレイ」は、固体支持体または支持層(例えば、紙、膜(例えば、ナイロン)、フィルター、チップ、ピン、ビーズ、ガラス(例えば、ガラススライド)、または他の任意の適切な固体支持体)に固定化された別個の核酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、またはオリゴ糖からなるアレイを意味する。好ましくは、アレイは、支持層表面の異なる既知の位置に結合された複数の異なるオリゴ糖種(例えば、O結合型オリゴ糖、N結合型オリゴ糖、遊離オリゴ糖など)を含む。
【0037】
用語「治療的有効量」は、治療を必要とする被験体において治療効果を達成することができる、抗体または他の治療剤(例えば、イオン、有機低分子、ペプチド、タンパク質、ポリペプチド、オリゴ糖など)の量を意味する。例えば、抗体の治療的有効量は、癌に関連する1つまたは複数の症状を予防または緩和することができる量でもよい。好ましくは、抗体は、癌に特異的なマーカー(例えば、独特のオリゴ糖種)に結合する。
【0038】
用語「癌のステージ」は、当業者に公知であり、広く用いられている癌の病期分類法(例えば、米国癌合同委員会(AJCC)によって考案された分類法)を意味する。当業者であれば、ある特定のタイプの癌の病期分類が多くの要因(腫瘍の大きさ、器官内および隣接器官に広がっている程度、リンパ節に広がっている程度、ならびに離れている器官に広がっている程度(すなわち、転移)を含むが、それに限定されるわけではない)によって決まることを理解する。ある特定のタイプの癌のAJCC分類法は、典型的に、4つのステージ(ステージI〜IV)に分けられ、各ステージは、任意に、サブステージに細分される(例えば、ステージIIIA、IIIB、およびIIIC)。本明細書で使用する用語「初期癌」はステージI癌を意味するが、ステージII癌またはステージII癌のサブステージ(例えば、ステージIIA)も意味することがある。本明細書で使用する用語「末期癌」はステージIIIまたはステージIV癌を意味するが、ステージII癌またはステージII癌のサブステージも意味することがある。当業者であれば、初期癌または末期癌としてのステージII癌の分類が特定のタイプの癌によって決まることを理解するだろう。例えば、用語「初期卵巣癌」はステージIまたはステージIIAの卵巣癌を意味し、用語「末期卵巣癌」はステージIIB〜ステージIVの卵巣癌を意味する。
【0039】
本明細書で使用する用語「投与する」は、被験体への経口投与、坐剤としての投与、局所接触、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、病巣内投与、くも膜下腔内投与、鼻腔内投与、もしくは皮下投与、または徐放性装置(例えば、小型浸透圧ポンプ(mini-osmotic pump))の移植を意味する。投与は、非経口経路および経粘膜経路(例えば、頬経路、舌下経路、口蓋経路、歯肉経路、鼻経路、膣経路、直腸経路、または経皮経路)を含む任意の経路によるものである。非経口投与には、例えば、静脈内経路、筋肉内経路、細動脈内経路、皮内経路、皮下経路、腹腔内経路、脳室内経路、および頭蓋内経路が含まれる。他の送達方法には、リポソーム製剤の使用、静脈内注入、経皮パッチなどが含まれるが、これに限定されない。当業者であれば、癌に関連する1つまたは複数の症状を予防または緩和するために治療的有効量の抗体または他の治療剤を投与するさらなる方法のことを知っているだろう。
【0040】
III.概論
本発明は、癌に特異的なオリゴ糖を特定するための方法および個体における癌の系統を決定するための方法を提供する。本発明はまた、特異的な癌マーカーの存在または非存在を検出することによって個体における癌または癌のステージを診断するための方法、およびこのようなマーカーに対する抗体を投与することによって癌を治療するための方法を提供する。さらに、本発明は、O結合型オリゴ糖を含む癌マーカーおよび癌を診断または治療するためのキットを提供する。
【0041】
本発明は、細胞株または血清から放出されたO結合型オリゴ糖が癌の指標であるという発見に基づいている。腫瘍、癌細胞株、ならびにトランスフェクトされた上皮細胞株およびリンパ芽球腫(lyphoblastoid)細胞株におけるMUC1のディファレンシャルなグリコシル化を分析しようという試みがなされているが、モノクローナル抗体、レクチン、または代謝的に放射標識された炭水化物の使用に頼っていた。結果として、これらの研究は、詳細な構造情報に十分な材料を得ることが難しいために、正常ムチンと癌ムチンとのグリコシル化の正確な違いを示せないことでかなり限定された。しかしながら、本発明は、試料中のオリゴ糖種を特定するために、MALDI-フーリエ変換質量分析(FTMS)などの質量分析法を使用することによって、このような限定を克服する。特に、正確な質量測定値(すなわち、日常的に<10ppm、内部校正を用いて<5ppm)を出すFTMSの能力は、基本オリゴ糖組成を得るのに必要不可欠である。さらに、本発明の方法は、分離工程を必要としない、試料からのオリゴ糖の選択的放出を有利に使用する。このようなオリゴ糖は、個体における癌を検出するためのマーカーとして特に有用である。
【0042】
IV.態様の説明
1つの局面において、本発明は、癌に特異的なオリゴ糖を特定するための方法を提供する。この方法は、
(a)癌細胞株または癌を有する個体に由来する試料である試験試料から、オリゴ糖を選択的に放出する工程;
(b)マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)-フーリエ変換質量分析(FTMS)を用いて、オリゴ糖の質量スペクトルを試験試料から得る工程;および
(c)試験試料からの質量スペクトルと対照試料からの質量スペクトルを比較する工程であって、癌に特異的なオリゴ糖は、独特のオリゴ糖が試験試料からの質量スペクトルに存在することによって特定される、工程を含む。
【0043】
用語「選択的に放出する」は、主に、O結合型オリゴ糖、N結合型オリゴ糖、遊離オリゴ糖、またはその組み合わせを試料から放出するための当業者に公知の方法を意味する。例えば、試料からO結合型オリゴ糖を選択的に放出するために、Morelle et al., Eur. J. Biochemistry, 252:253-260 (1998)に記載の水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を用いた方法、およびPatel et al., Biochemistry, 32:679-693 (1993)に記載のヒドラジンを用いた方法が適している。試料からN結合型オリゴ糖を選択的に放出するために、Fan et al., J. Biol. Chem., 272:27058-27064 (1997); Tarentino et al., Methods Enzymol., 230:44-57 (1994) ; およびTrimble et al., J. Biol. Chem., 266:1646-1651 (1991)に記載のPNGaseFを用いた方法が適している。試料から遊離オリゴ糖を選択的に放出するための方法は、例えば、Morelle et al.,前記において述べられている。
【0044】
O結合型オリゴ糖に関して、用語「選択的に放出する」は、試料からのO結合型オリゴ糖の少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%の放出、ならびに試料からの他の全ての種(例えば、非O結合型オリゴ糖(例えば、N結合型オリゴ糖)、タンパク質、ペプチド、および核酸)の約30%未満、好ましくは約20%未満、より好ましくは約10%未満、最も好ましくは約5%未満の放出を含む。同様に、N結合型オリゴ糖に関して、この用語は、試料からのN結合型オリゴ糖の少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%の放出、ならびに試料からの他の全ての種(例えば、非N結合型オリゴ糖(例えば、O結合型オリゴ糖)、タンパク質、ペプチド、および核酸)の約30%未満、好ましくは約20%未満、より好ましくは約10%未満、最も好ましくは約5%未満の放出を含む。同様に、遊離オリゴ糖に関して、この用語は、試料からの遊離オリゴ糖の少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%の放出、ならびに試料からの他の全ての種(例えば、他のオリゴ糖、タンパク質、ペプチド、および核酸)の約30%未満、好ましくは約20%未満、より好ましくは約10%未満、最も好ましくは約5%未満の放出を含む。当業者であれば、O結合型オリゴ糖、N結合型オリゴ糖、および/または遊離オリゴ糖の組み合わせを試料から選択的に放出できることを理解するだろう。
【0045】
用語「試料」は、個体から得られる任意の生物学的標本を意味する。本発明において使用するのに適した試料は、全血、血漿、血清、唾液、尿、糞便、涙、および他の任意の体液または組織を含むが、それに限定されるわけではない。試料は、当業者に公知の任意の方法によって個体から得ることができる。例えば、全血試料は、個体から血液を採取することによって得ることができる。または、全血試料は、血液銀行または医師の診療室から得ることができる。この用語はまた、細胞株から得られる任意の標本(ならし培地および細胞抽出物(例えば、膜抽出物、サイトゾル抽出物、核抽出物など)を含むが、それに限定されるわけではない)を含む。
【0046】
本明細書で使用する用語「試験試料」は、癌細胞株または癌を有する個体に由来する試料を意味する。適切な癌細胞株は、卵巣癌細胞株(例えば、CaOV-3、OVCAR-3、ES-2、SK-OV-3、SW626、TOV-21G、TOV-112D、OV-90、MDA-H2774、およびPA-1)、乳癌細胞株(例えば、

)、肺癌細胞株(例えば、NCI-H2126、NCI-H1395、NCI-H1437、NCI-H2009、NCI-H1672、NCI-H2171、NCI-H2195、NCI-H1184、NCI-H209、NCI-H2107、およびNCI-H128)、皮膚癌細胞株(例えば、COLO829、TE354.T、Hs925.T、WM-115、およびHs688(A).T)、骨癌細胞株(例えば、Hs919.T、Hs821.T、Hs820.T、Hs704.T、Hs707(A).T、Hs735.T、Hs860.T、Hs888.T、Hs889.T、Hs890.T、およびHs709.T)、結腸癌細胞株(例えば、Caco-2、DLD-1、HCT-116、HT-29、およびSW480)、胃癌細胞株(例えば、RF-1)、ならびに当業者に公知の他の任意の癌細胞株を含むが、それに限定されるわけではない。本発明の方法において有用な癌細胞株は、例えば、アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC; Manassas, VA)、米国立癌研究所、またはカリフォルニア大学デイビスメディカルセンター(Davis Medical Center)などの癌センターもしくは癌研究所から入手することができる。「癌を有する個体」は、試験試料が得られる時に癌に関連する1つもしくは複数の症状を示したことのある個体、または試験試料が得られる時に癌を有すると以前に診断されたことのある個体を意味する。
【0047】
本明細書で使用する用語「対照試料」は、正常細胞株または癌を有さない個体に由来する試料を意味する。適切な正常細胞株は、卵巣細胞株(例えば、NOV-31)、乳房細胞株(例えば、Hs578Bst)、末梢血細胞株(例えば、

)、肺細胞株(例えば、

)、結腸細胞株(例えば、CCD-18Co)、および当業者に公知の他の任意の正常細胞株を含むが、それに限定されるわけではない。正常上皮細胞株は、手術廃棄物として得られる初代ヒト組織から作成することができ、初代ヒト組織から、形質転換されていない初代細胞を単離し、培養することができる(例えば、Syed et al., Cancer Res., 61:6768-6776 (2001)を参照されたい)。本発明の方法において有用な正常細胞株は、例えば、ATCC(Manassas,VA)から入手することができる。「癌を有さない個体」は、対照試料が得られる時に癌に関連する症状を全く示していない個体、または対照試料が得られる時に癌に関連する症状から寛解状態にある個体、または対照試料が得られる時に、以前に診断された癌の再発を全く示ていない個体を意味する。
【0048】
当業者であれば、癌を有さない個体は、癌を有する個体と別個のものである必要はないことを理解するだろう。例えば、個体から異なる時に試料が得られてもよく(例えば、癌を有する前(対照試料)、癌を有している間(試験試料))、対照試料は、寛解状態にある個体または治療後の個体、および同じ個体から得られる試験試料と比較して早い時期の(例えば、個体に癌があった時の)個体から得られてもよい。
【0049】
本発明の方法において、試験試料および対照試料からのオリゴ糖(例えば、O結合型オリゴ糖、N結合型オリゴ糖、および/または遊離オリゴ糖)の質量スペクトルは、質量分析法(例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)-フーリエ変換質量分析(FTMS))を用いて得られる。MALDIは、生体分子(例えば、炭水化物、核酸、およびタンパク質)を断片化することなく、生体分子の脱離およびイオン化を促進するので特に有利である。例えば、Hillenkamp et al., Anal. Chem., 63:1193A-1203A (1991)、Karas et al., Anal. Chem., 60:2299-2301 (1988)、およびStahl et al., Anal. Biochem., 223:218-226 (1994)は、MALDIの生体分子への適用について述べている。FTMSは、イオンの磁気トラッピングおよびサイクロトロン周波数の励起/検出に基づく高分解能質量分析法である。結果として、FTMSによって、正確な質量測定値(すなわち、日常的に<10ppm、内部校正を用いて<5ppm)を得ることができる。試料中のオリゴ糖種の同定へのMALDI-FTMSの適用は、例えば、Tseng et al., Anal. Biochem., 250:18-28 (1997)およびTseng et al., Anal. Chem., 71:3747-3754 (1999)において述べられている。
【0050】
本明細書で使用する用語「オリゴ糖の質量スペクトルを得る」は、試料(すなわち、試験試料もしくは対照試料)またはその画分から放出されたO結合型オリゴ糖種、N結合型オリゴ糖種、および/または遊離オリゴ糖種の全てを含む、試料のオリゴ糖プロファイルを得ることを意味する。例えば、O結合型オリゴ糖が選択的に放出され、使用する溶媒のパーセント(例えば、10%、20%、40%)および/またはタイプ(例えば、アセトニトリル)に応じて、多孔性黒鉛化炭素(PGC)カラムによる固相抽出などの技法によって精製される時、放出されたO結合型オリゴ糖種の画分しかカラムから溶出されない。この画分において得られる質量スペクトルは、例えば、放出されたO結合型オリゴ糖種の1%未満、少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、または少なくとも20%を含んでもよい。当業者であれば、質量スペクトルに存在する、放出されたO結合型オリゴ糖種、N結合型オリゴ糖種、および/または遊離オリゴ糖種の画分は、質量スペクトルがポジティブモードで得られるか、ネガティブモードで得られるかどうかによって左右され得ることを理解するだろう。
【0051】
本明細書で使用する用語「試験試料からの質量スペクトルと対照試料からの質量スペクトルを比較する」は、試験試料からの質量スペクトルプロファイルと対照試料からの質量スペクトルプロファイルを比較または整列し、2つの質量スペクトルプロファイル間の類似性および/または違いを決定することを意味する。当業者であれば、質量スペクトルプロファイルが一組のピーク、一組のm/z比、一組の基本組成、または試験試料からのオリゴ糖と対照試料からのオリゴ糖を比較するのに適した他の任意の形式でもよいことを理解するだろう。対照質量スペクトルプロファイルは試験質量スペクトルプロファイルと同時に得られてもよく、または、対照質量スペクトルプロファイルは以前に得られ、例えば、データベースに保存されていてもよい。当業者であれば、コンピュータによって(例えば、データセットを用いて)2つの質量スペクトルプロファイルを比較できることも理解するだろう。ある特定の場合において、コンピュータソフトウェアプログラムが、例えば、ピークマッチング法を用いて、2つの質量スペクトルプロファイルを比較および/または解釈する。ある特定の他の場合において、インターネットアプリケーションが2つの質量スペクトルプロファイルを比較および/または解釈する。
【0052】
用語「癌に特異的なオリゴ糖は、独特のオリゴ糖が試験試料からの質量スペクトルに存在することによって特定される」は、対照試料におけるレベルと比較して試験試料におけるレベルが変化しているO結合型オリゴ糖、N結合型オリゴ糖、および/または遊離オリゴ糖の特定を意味する。より具体的には、この用語は、試験試料に存在するが、対照試料には存在しない任意のO結合型オリゴ糖種、N結合型オリゴ糖種、または遊離オリゴ糖種、対照試料と比較して試験試料におけるレベルが高い任意のO結合型オリゴ糖種、N結合型オリゴ糖種、または遊離オリゴ糖種、対照試料と比較して試験試料におけるレベルが低い任意のO結合型オリゴ糖種、N結合型オリゴ糖種、または遊離オリゴ糖種、および対照試料に存在するが、試験試料には存在しない任意のO結合型オリゴ糖種、N結合型オリゴ糖種、または遊離オリゴ糖種を含む。
【0053】
1つの態様において、前記の方法は、1つまたは複数の種類の独特のオリゴ糖を赤外多光子解離(IRMPD)にかける工程をさらに含む。IRMPDの使用は、衝突誘起解離(collision-induce dissociation)(CID)などの技法より有利である。なぜなら、IRMPDは、観察される生成物イオンのm/z範囲を限定せず、共鳴周波数を合わせることを必要とせず、より多くの配列情報を(典型的に、最後の残渣まで)得ることができるからである。結果として、結果として、大きなオリゴ糖でも1回の実験で完全に配列決定することができる。別の態様において、前記の方法は、独特のオリゴ糖をエキソグリコシダーゼで消化する工程をさらに含む。好ましくは、エキソグリコシダーゼは、オリゴ糖に存在する2つの単糖間の結合を選択的に加水分解する。本発明における使用に適したエキソグリコシダーゼは、前記のフコシダーゼ、ガラクトシダーゼ、ヘキソサミニダーゼ、ヘキソシダーゼ、マンノシダーゼ、ノイラミニダーゼ、およびキシロシダーゼのいずれか、または当業者に公知の他の任意のエキソグリコシダーゼを含む。
【0054】
別の態様において、独特のオリゴ糖は、硫酸化オリゴ糖、N-アセチルノイラミン酸(NeuAc)含有オリゴ糖、N-グリコリルノイラミン酸(NeuGc)含有オリゴ糖、中性オリゴ糖、ヘキソース(Hex)含有オリゴ糖、ヘキスロン酸(HexA)含有オリゴ糖、およびその組み合わせからなる群より選択されるO結合型オリゴ糖である。
【0055】
さらに別の局面において、オリゴ糖は、前記の癌のいずれか1つに特異的である。好ましくは、癌は卵巣癌または乳癌である。ある特定の場合において、癌細胞株に由来する試験試料および/または正常細胞株に由来する対照試料は、ならし培地である。他のある特定の場合において、癌を有する個体に由来する試験試料および/または癌を有さない個体に由来する対照試料は血清である。
【0056】
なおさらに別の態様において、本発明は、前記の方法によって特定された独特のオリゴ糖に特異的に結合する抗体を提供する。「抗体」は、抗原(例えば、本発明の独特のオリゴ糖)に特異的に結合および認識する、免疫グロブリン遺伝子またはそのフラグメントからのフレームワーク領域を含むポリペプチドを意味する。例示的な免疫グロブリン(抗体)構造単位は四量体を含む。各四量体は同じ2対のポリペプチド鎖からなり、各対は1本の「軽」鎖(約25kDa)および1本の「重」鎖(約50〜70kDa)を有する。軽鎖はκまたはλとして分類される。重鎖は、γ、μ、α、δ、またはεとして分類され、これらは順にそれぞれ、免疫グロブリンクラスIgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEを規定する。各鎖のN末端は、約100〜110またはそれ以上のアミノ酸からなる可変領域(主に抗原認識を担う)を規定する。用語「可変領域軽鎖 (VL)」および「可変領域重鎖 (VH)」は、それぞれ、これらの軽鎖および重鎖を意味する。各鎖の残りは、保存されており、異なる抗体間で低い可変性を示す定常領域を規定する。各軽鎖は1つの定常領域(CL)を含み、各重鎖は3つの定常領域(CH1、CH2、CH3)を含む。抗体の軸にある異なるクラスの定常領域によって、アミノ酸配列に基づいて異なる特性を有する異なるアイソタイプが生じる。
【0057】
抗体は、例えば、完全な免疫グロブリンとして、または様々なペプチダーゼによる消化によって生成された、特徴がはっきりとしている多数のフラグメント(本明細書において「抗体フラグメント」と呼ばれる)として存在する。従って、例えば、ペプシンは、抗体を、ヒンジ部にあるジスルフィド結合より下で消化して、F(ab)'2 (Fab(抗原結合性フラグメント)の二量体)を生じさせる。Fabそれ自体は、ジスルフィド結合によって軽鎖がVH-CH1と結合したものである。ヒンジ部にあるジスルフィド結合を分解する穏やかな条件下でF(ab)'2を還元し、それによって、F(ab)'2二量体をFab'単量体に変えることができる。Fab'単量体は本質的にFabであり、ヒンジ部の一部を有する(Fundamental Immunology, Paul ed., 3d ed., 1993を参照されたい)。完全な抗体の消化の点から様々な抗体フラグメントが定義されているが、当業者であれば、このようなフラグメントは化学的にまたは組換えDNA法を用いて新規合成できることを理解するだろう。従って、本明細書で使用する用語「抗体」は、抗体全体を改変することによって生成された抗体フラグメント、または組換えDNA法を用いて新規合成された抗体フラグメント(例えば、短鎖Fv)もしくはファージディスプレイライブラリーを用いて特定された抗体フラグメントも含む(例えば、McCafferty et al., Nature 348:552-554 (1990)を参照されたい)。
【0058】
抗体(例えば、組換え抗体、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体)を調製するために、当技術分野において公知の任意の技法を使用することができる(例えば、Kohler & Milstein, Nature 256:495-497 (1975); Kozbor et al., Immunology Today, 4:72 (1983); Cole et al., pp. 77-96 in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc.(1985); Coligan, Current Protocols in Immunology (1991); Harlow & Lane, Antibodies, A Laboratory Manual(1988);およびGoding, Monoclonal Antibodies:Principles and Practice (2d ed. 1986)を参照されたい)。関心対象の抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子は細胞からクローニングすることができる。例えば、モノクローナル抗体をコードする遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、組換えモノクローナル抗体を生成するのに使用することができる。モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子ライブラリーもハイブリドーマまたはプラズマ細胞から作成することができる。重鎖および軽鎖の遺伝子産物を無作為に組み合わせると、異なる抗原特異性を有する抗体の大きなプールが得られる(例えば、Kuby, Immunology(3rded. 1997)を参照されたい)。本発明のオリゴ糖に対する抗体を生成するために、単鎖抗体または組換え抗体を生成する技法(例えば、米国特許第4,816,567号および同第4,946,778号を参照されたい)を合わせることができる。さらに、ヒト化抗体またはヒト抗体を発現させるために、トランスジェニックマウスまたは他の生物(例えば、他の哺乳動物)を使用してもよい(例えば、米国特許第5,545,807号、同第5,545,806号、同第5,569,825号、同第5,625,126号、同第5,633,425号、同第5,661,016号、Marks et al., Biotechnology, 10:779-783 (1992)、Lonberg et al., Nature, 368:856-859 (1994)、Morrison, Nature, 368:812-13 (1994)、Fishwild et al., Nature Biotechnology,14:845-51 (1996)、Neuberger, Nature Biotechnology, 14:826 (1996)、およびLonberg & Huszar, Intern. Rev. Immunol., 13:65-93 (1995)を参照されたい)。または、選択された抗原に特異的に結合する抗体およびヘテロマーFabフラグメントを特定するために、ファージディスプレイ技術を使用することができる(例えば、McCafferty et al., Nature, 348:552-554 (1990)、Marks et al., Biotechnology, 10:779-783 (1992)を参照されたい)。抗体はまた二重特異性にすることもできる(すなわち、2種類の抗原を認識するようにできる)(例えば、WO93/08829、Traunecker et al., EMBO J., 10:3655-3659 (1991)、およびSuresh et al., Methods in Enzymology,121:210 (1986)を参照されたい)。抗体はまたヘテロコンジュゲート(heteroconjugate)(例えば、共有結合した2つの抗体)でもよく、イムノトキシンでもよい(例えば、米国特許第4,676,980号、PCT刊行物WO91/00360およびWO92/200373、ならびにEP03089を参照されたい)。
【0059】
「キメラ抗体」は、(a)抗原結合部位(可変領域)が、異なるもしくは変更されたクラス、エフェクター機能、および/もしくは種の定常領域、またはキメラ抗体に新しい特性を付与する全く異なる分子(例えば、酵素、毒素、ホルモン、増殖因子、薬物など)と結合するように、定常領域またはその一部が変更、置換、または交換されている抗体分子、あるいは(b)可変領域またはその一部が、異なるまたは変更された抗原特異性を有する可変領域を用いて変更、置換、または交換されている抗体分子である。例えば、キメラ抗体は、可変領域にマウスタンパク質配列、定常領域にヒトタンパク質配列を含むことができる。「ヒト化抗体」は、可変領域に、キメラ抗体よりさらに少ないマウスタンパク質配列を含む。このようなマウスタンパク質配列はヒトタンパク質配列で置換されている。
【0060】
ある特定の場合において、抗体には、さらに、検出可能な標識が取り付けられる。検出可能な標識の例には、フルオレセイン、ローダミン、テキサスレッド、Cy2、Cy3、Cy5、ビオチン、西洋ワサビペルオキシダーゼ、およびアルカリホスファターゼが含まれるが、それに限定されるわけではない。当業者であれば、さらなる検出可能な標識ならびに特定の検出可能な標識を抗体に結合するのに適した方法のことを知っているだろう。
【0061】
さらなる態様において、本発明は、癌の治療を必要とする個体において癌を治療するための方法を提供する。この方法は、独特のオリゴ糖に特異的に結合する治療的有効量の抗体を個体に投与する工程を含む。
【0062】
ある特定の場合において、抗体の治療的有効量は、癌に関連する1つまたは複数の症状を予防または緩和することができる量でもよい。好ましくは、抗体は、癌またはある特定のタイプの癌(例えば、卵巣癌もしくは乳癌)に特異的な独特のオリゴ糖種に結合する。
【0063】
別の局面において、本発明は、個体における癌の系統を決定するための方法を提供する。この方法は、
(a)個体に由来する試料から選択的に放出されたオリゴ糖の質量スペクトルを、MALDI-FTMSを用いて、個体に由来する試料から得る工程;および
(b)試料からの質量スペクトルと、少なくとも1種類の公知の癌の系統からの質量スペクトルプロファイルを比較する工程であって、癌の系統は、試料からの質量スペクトルと、公知の癌の系統の1つからの質量スペクトルプロファイルの類似性によって決定される、工程を含む。
【0064】
用語「癌の系統」は、同じタイプの癌のグループ(例えば、卵巣癌)の一員であるが、特徴的な特性(例えば、異なる質量スペクトルプロファイル)を有するものを意味する。1つの態様において、癌の系統は、卵巣癌または乳癌の一系統である。様々な卵巣癌の系統が当業者に公知であり、CaOV-3、OVCAR-3、ES-2、SK-OV-3、SW626、TOV-21G、TOV-112D、OV-90、MDA-H2774、およびPA-1を含むが、それに限定されるわけではない。様々な乳癌の系統が当業者に公知であり、MCF7、MDA-MB-231、MDA-MB-468、MDA-MB-361、MDA-MD-453、BT-474、Hs578T、HCC1008、HCC1954、HCC38、HCC1143、HCC1187、HCC1395、HCC1599、HCC1937、HCC2218、Hs574.T、Hs742.T、Hs605.T、およびHs606を含むが、それに限定されるわけではない。
【0065】
本明細書で使用する用語「癌の系統が、試料からの質量スペクトルと、公知の癌の系統の1つからの質量スペクトルプロファイルの類似性によって決定される」は、試料からの質量スペクトルが、公知の癌の系統の1つからの質量スペクトルプロファイルと少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%同一であるかどうかを決定することを意味する。好ましくは、試料からの質量スペクトルは公知の癌の系統の1つからの質量スペクトルプロファイルと最も類似している。しかしながら、当業者であれば、試料からの質量スペクトルは公知の癌の系統の2つ以上からの質量スペクトルプロファイルと類似し得ることを理解するだろう。これらの場合、個体における癌の系統を決定するために、質量スペクトルプロファイルに存在する特定の種のレベル(例えば、ピークマグニチュード(peak magnitude))の比較などの他の要因を使用することができる。
【0066】
さらに別の局面において、本発明は、個体における癌を診断するための方法を提供する。この方法は、個体に由来する試料における独特のオリゴ糖の存在または非存在を検出する工程であって、独特のオリゴ糖の存在は個体が癌を有することを示す、工程を含む。
【0067】
1つの態様において、独特のオリゴ糖は、O結合型オリゴ糖、N結合型オリゴ糖、遊離オリゴ糖、およびその組み合わせからなる群より選択される。ある特定の場合において、独特のオリゴ糖を検出する工程は、(a)個体に由来する試料から選択的に放出されたオリゴ糖の質量スペクトルを、MALDI-FTMSを用いて、個体に由来する試料から得る工程;および(b)質量スペクトルに独特のオリゴ糖が存在することを決定する工程を含む。ある特定の他の場合において、独特のオリゴ糖を検出する工程は、試料と、独特のオリゴ糖に特異的に結合する抗体を接触させる工程を含む。
【0068】
なおさらに別の局面において、本発明は、個体における癌を診断するための方法を提供する。この方法は、
(a)個体に由来する試料から選択的に放出されたオリゴ糖の質量スペクトルを、MALDI-FTMSを用いて、個体に由来する試料から得る工程;および
(b)試料からの質量スペクトルと対照試料からの質量スペクトルを比較する工程であって、試料におけるNeuAc含有O結合型オリゴ糖に対するNeuGc含有O結合型オリゴ糖の比が対照試料と比べて高いことは、個体が癌を有することを示す、工程を含む。
【0069】
1つの態様において、癌は、卵巣癌または乳癌などの腺癌である。別の態様において、試料は血清である。ある特定の場合において、試料からの質量スペクトルと対照試料からの質量スペクトルの比較は、試料からの質量スペクトルにおけるNeuAc含有O結合型オリゴ糖に対するNeuGc含有O結合型オリゴ糖の比を計算し、計算された比と、対照試料に対して計算されたNeuAc含有O結合型オリゴ糖に対するNeuGc含有O結合型オリゴ糖の比を比較することを含む。本明細書で使用する用語「NeuAc含有O結合型オリゴ糖に対するNeuGc含有O結合型オリゴ糖の比を計算する」は、質量スペクトルプロファイルに存在するNeuGc含有O結合型オリゴ糖種およびNeuAc含有O結合型オリゴ糖種の数を求め、NeuGc含有O結合型オリゴ糖種の数をNeuAc含有O結合型オリゴ糖種の数で割ることを意味する。しかしながら、当業者であれば、例えば、アルゴリズムの使用を含む、NeuGc/NeuAc比を計算するための他の方法のことを知っているだろう。対照試料および個体に由来する試料のNeuGc/NeuAc比は同時に得られてもよい。または、対照NeuGc/NeuAc比は前もって得られ、例えば、データベースに保存されていてもよい。実施例8および図14は、対照(すなわち、正常)試料のNeuGc/NeuAc比と個体(すなわち、群I〜III、Lim6)に由来する一連の試料のNeuGc/NeuAc比の比較を示す。
【0070】
さらなる局面において、本発明は、個体における癌を診断するための方法を提供する。この方法は、
(a)個体に由来する試料から選択的に放出されたオリゴ糖の質量スペクトルを、MALDI-FTMSを用いて、個体に由来する試料から得る工程;および
(b)試料からの質量スペクトルと対照試料からの質量スペクトルを比較する工程であって、試料における硫酸化O結合型オリゴ糖のパーセントが対照試料と比べて低いことは、個体が癌を有することを示す、工程を含む。
【0071】
1つの態様において、癌は、卵巣癌または乳癌などの腺癌である。別の態様において、試料は血清である。ある特定の場合において、試料からの質量スペクトルと対照試料からの質量スペクトルの比較は、試料からの質量スペクトルにおける硫酸化O結合型オリゴ糖のパーセントを計算し、計算されたパーセントと、対照試料に対して計算された硫酸化O結合型オリゴ糖のパーセントを比較することを含む。本明細書で使用する用語「硫酸化O結合型オリゴ糖のパーセントを計算する」は、質量スペクトルプロファイルに存在する硫酸化O結合型オリゴ糖種の数およびO結合型オリゴ糖種の総数を求め、硫酸化O結合型オリゴ糖種の数をO結合型オリゴ糖種の総数で割ることを意味する。次いで、硫酸化O結合型オリゴ糖/総O結合型オリゴ糖の比に100を掛けることによって、この比をパーセントに換算することができる。しかしながら、当業者であれば、例えば、アルゴリズムの使用を含む、O結合型オリゴ糖パーセントを計算するための他の方法のことを知っているだろう。好ましくは、質量スペクトルプロファイルに存在するO結合型オリゴ糖種の総数は、硫酸化O結合型オリゴ糖、NeuGc含有O結合型オリゴ糖、NeuAc含有O結合型オリゴ糖、および/または中性O結合型オリゴ糖を含む。対照試料および個体に由来する試料のO結合型オリゴ糖のパーセントは同時に得られてもよい。または、対照の硫酸化O結合型オリゴ糖のパーセントは前もって得られ、例えば、データベースに保存されていてもよい。実施例8および図14は、対照(すなわち、正常)試料の硫酸化O結合型オリゴ糖のパーセントと個体(すなわち、群I〜III、Lim6)に由来する一連の試料の硫酸化O結合型オリゴ糖のパーセントの比較を示す。
【0072】
別の局面において、本発明は、個体における癌を診断するための方法を提供する。この方法は、
(a)個体に由来する試料から選択的に放出されたオリゴ糖の質量スペクトルを、個体に由来する試料から得る工程;および
(b)質量スペクトルにおける、硫酸化オリゴ糖、N-アセチルノイラミン酸(NeuAc)含有オリゴ糖、N-グリコリルノイラミン酸(NeuGc)含有オリゴ糖、中性オリゴ糖、ヘキソース(Hex)含有オリゴ糖、ヘキスロン酸(HexA)含有オリゴ糖、およびその組み合わせからなる群より選択される癌マーカーの存在または非存在を決定する工程であって、癌マーカーの存在は個体が癌を有することを示す、工程を含む。
【0073】
ある特定の場合において、癌は卵巣癌または乳癌などの腺癌である。好ましくは、試料は血清である。本発明の好ましい態様において、癌マーカーはO結合型オリゴ糖である。他の態様において、癌マーカーはN結合型オリゴ糖である。さらに他の態様において、癌マーカーは遊離オリゴである。
【0074】
1つの態様において、硫酸化オリゴ糖は、

およびその組み合わせからなる群より選択される組成を有する。別の態様において、NeuAc含有オリゴ糖は、

およびその組み合わせからなる群より選択される組成を有する。さらに別の態様において、NeuGc含有オリゴ糖は、

およびその組み合わせからなる群より選択される組成を有する。なおさらに別の態様において、中性オリゴ糖は、

およびその組み合わせからなる群より選択される組成を有する。さらなる態様において、Hex含有オリゴ糖は、

およびその組み合わせからなる群より選択される組成を有する。さらなる態様において、HexA含有オリゴ糖は、

およびその組み合わせからなる群より選択される組成を有する。
【0075】
さらに別の局面において、本発明は、個体における癌のステージを診断するための方法を提供する。この方法は、
(a)個体に由来する試料から選択的に放出されたオリゴ糖の質量スペクトルを、個体に由来する試料から得る工程;
(b)質量スペクトルにおける

およびその組み合わせからなる群より選択される第1の癌マーカーの存在または非存在を決定する工程;および
(c)質量スペクトルにおける

およびその組み合わせからなる群より選択される第2の癌マーカーの存在または非存在を決定する工程であって、第1の癌マーカーの存在および第2の癌マーカーの非存在は個体が初期癌を有することを示し、第2の癌マーカーの存在は個体が末期癌を有することを示す、工程を含む。
【0076】
1つの態様において、初期癌は初期卵巣癌である。ある特定の場合において、初期卵巣癌は低いCA125レベルと関連する。別の態様において、末期癌は末期卵巣癌である。ある特定の場合において、末期卵巣癌は高いCA125レベルと関連する。本明細書で使用する用語「初期卵巣癌」はステージIまたはステージIIAの卵巣癌を意味し、用語「末期卵巣癌」はステージIIB〜ステージIVの卵巣癌を意味する。実施例9は、初期卵巣癌および末期卵巣癌における前記のそれぞれの癌マーカーの存在または非存在を示す。
【0077】
なおさらに別の局面において、本発明は、

およびその組み合わせからなる群より選択される組成を有するO結合型オリゴ糖を含む癌マーカーを提供する。
【0078】
1つの態様において、本発明は、O結合型オリゴ糖に特異的に結合する抗体を提供する。ある特定の場合において、抗体には、さらに、検出可能な標識が取り付けられる。検出可能な標識の例には、フルオレセイン、ローダミン、テキサスレッド、Cy2、Cy3、Cy5、ビオチン、西洋ワサビペルオキシダーゼ、およびアルカリホスファターゼが含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0079】
さらなる局面において、本発明は、癌の治療を必要とする個体において癌を治療するための方法を提供する。この方法は、癌マーカーに特異的に結合する治療的有効量の抗体を個体に投与する工程を含む。
【0080】
好ましい態様において、抗体の治療的有効量は、癌に関連する1つまたは複数の症状を予防または緩和することができる量でもよい。
【0081】
さらに別の局面において、本発明は、固体支持体に固定化された複数のO結合型オリゴ糖を含むオリゴ糖アレイを提供する。適切な固体支持体の例には、紙、膜、フィルター、チップ、ピン、およびガラスが含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0082】
別の局面において、本発明は、個体において癌を診断するためのキットを提供する。キットは、
(a)複数の癌マーカーを含むアレイ;
(b)アレイ上の複数の癌マーカーに特異的に結合する複数の抗体;および
(c)アレイおよび複数の抗体を個体に由来する試料と共に使用するための説明書を含む。
【0083】
ある特定の場合において、複数の抗体には、さらに、検出可能な標識が取り付けられる。検出可能な標識の例は前述した。
【0084】
さらに別の局面において、本発明は、癌の治療を必要とする個体において癌を治療するためのキットを提供する。キットは、
(a)癌マーカーに特異的に結合する抗体;および
(b)抗体を使用するための説明書を含む。
【0085】
V.癌の糖鎖生物学
グリコシル化は生化学的環境に対する感受性が高く、発生および疾患の両方に結びつけられてきた(Dennis et al., BioEssays, 21:412-421 (1999))。実際に、癌細胞は正常細胞とはかなり異なるオリゴ糖を生成する(Hollingsworth et al., 同書; Dall'Olio et al., Glyconj. J., 18:841-850 (2001); Brockhausen, Biochim. Biophys. Acta, 1473:67-95 (1999); Yogeeswaran, Cancer Markers: Diagnostic and Developmental Significance, Humana Press, Clifton, NJ, (1980); Yamori et al., Cancer Res., 47:2741-2747 (1987); Gorelik et al., Cancer Metastasis Rev., 20:245-277(2001))。さらに、癌細胞のタイプに応じて、特異的な糖タンパク質が様々な割合で生成されることがある。
【0086】
ムチンおよびムチンオリゴ糖の分析は、ムチンおよびムチンオリゴ糖のサイズおよび不均一性のために難しい。CA125はサイズおよび不均一性の点で典型的なムチン糖タンパク質であり、ムチンの複雑さおよびムチン分析の難しさの有用な例として役立つ。CA125は癌マーカーとして広く用いられ、比較的早く1983年に発見されたのにもかかわらず、そのO-グリカン構造およびN-グリカン構造の多くは最近になってようやく特徴付けられた(Wong et al., J. Biol. Chem., 278:28619-28634 (2003))。CA125のコアタンパク質配列は10,000を超えるアミノ酸を含み、約250万Daの分子量を有する(O'Brien et al., Tumour Biol., 12:154-169 (2002))。質量に基づくCA125の炭水化物含有率は少なくとも25%と見積もられており、大半はO結合型グリカンである。付加質量から、CA125の平均分子量は実際には約350万Daであることが分かる。
【0087】
高度のムチン生成は腺癌において見られることが多い。2つの主なクラスのムチン:分泌型および細胞表面結合型がある。両クラスとも多くの構造特徴を共有する。グリコシル化は生化学的環境に対する感受性が高いために、癌細胞は正常細胞とはかなり異なるオリゴ糖を生成する。従って、癌細胞に由来するムチンは過剰発現されているだけでなく、異常なグリコシル化を受けている。ムチンの高O-グリコシル化は分析という見地からムチンを扱いにくくするが、異常なグリコシル化を受けたムチンは、細胞グリコシル化機構の分化依存的変動の感度の高い指標として役立ち得る。ムチンの過剰発現および異常なグリコシル化を受けた形のムチンは、典型的に、ムチンコアタンパク質および腫瘍細胞トランスフォーメーションの間にムチンコアタンパク質を修飾する酵素の発現の調節解除の結果として生じる。
【0088】
全タンパク質の50%がグリコシル化されると見積もられており、このために、グリコシル化は最も一般的な形の翻訳後修飾である。2種類のグリコシル化:O-グリコシル化およびN-グリコシル化がある。N-グリコシル化は、タンパク質アスパラギン残基へのN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)の付加によって始まる。次いで、最初のGlcNAcを介して、次のGlcNAcおよびトリマンノシルキトビオシルコア構造がタンパク質に結合する。
【0089】
O-グリコシル化の構造的な複雑さはN-グリコシル化をはるかに上回る。O-グリカンは、典型的に、タンパク質のセリン残基またはスレオニン残基に結合する。最初のO-グリコシル化の最も遍在的なタイプは、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)の付加によって起こる。例えば、高度にO-グリコシル化されたタンパク質(例えば、ムチン)は、SerおよびThrリッチな反復ペプチドモチーフにおいてGalNAcベースグリカンのクラスターを含有する。しかしながら、N-グリカンとは異なり、少なくとも8個のコアO-グリカン構造が知られている(図1)。コア1およびコア2が最も一般的である。コア3およびコア4は特定の組織と関連するのに対して、他のコア構造は少量で存在するか、または非常に特異的なタイプの癌細胞に見られる。コア1およびコア2は、最初のGalNAcへのGalβ1-3結合を特徴とする。コア2は、β1-6結合によって最初のGalNAcにGlcNAcがさらに付加した結果である。
【0090】
正常細胞において、O-グリカン構造上のバックボーン領域は、20個もの単糖残基を有するポリラクトサミン型構造を生じるように反復二糖エレメント(例えば、Galβ1-4GlcNAcまたはGalβ1-3GlcNAc)が付加することによって形成される。次いで、これらの反復単位は他のタイプの単糖残基(フコースおよびシアル酸(例えば、N-アセチルノイラミン酸(NeuAc);図2)を含むが、これに限定されない)によって切断される。この一連のグリコシル化事象は、オリゴ糖間での正確な結合を生じる多くの競合グリコシルトランスフェラーゼの存在下で起こる。少数のグリコシルトランスフェラーゼが欠乏または過剰発現すると、結果として生じるオリゴ糖の構造が大幅に変わるので、グリコシル化は生化学的環境に対する感受性が高い。
【0091】
癌において、関連するO-グリカン構造は正常細胞と比較して著しい変化を示す。例えば、O-グリカンの切断が頻繁に観察される(Van den Steen et al., Crit. Rev. Biochem. Mol. Biol., 33:151-208 (1998))。乳癌細胞による研究から、最初のGalNAc残基の6位にβGlcNAcを付加することによってコア2の形成を担う、UDP-GlcNAc/コア1β6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(C2GnT) 活性が低いおよび/または無いために、癌細胞の大部分にはMUC1にコア2ベースのポリラクトサミンは存在しないことが明らかになった(Hanisch et al., Eur. J Biochem., 236:318-327 (1996); Lloyd et al., J. Biol. Chem., 271:33325-33334(1996); Brockhausen et al., Eur. J. Biochem., 233:607-617 (1995))。結果として、前駆体構造(例えば、GalNAc-Ser/ThrおよびGalβ1-3GalNAc-Ser/Thr)が蓄積し、シアリルトランスフェラーゼの基質になる。シアル酸の付加は正常細胞における重要な機能である。今までにクローニングされた異なるシアリルトランスフェラーゼの数は20に迫り、これは、この反応が重要であることの証拠である(Harduin-Lepers et al., Biochemie, 83:727-737 (2001))。シアル酸は、グリカン鎖をこれ以上伸長しないようにする生合成停止物質として働く。例えば、α3-およびα6-シアリルトランスフェラーゼが過剰発現すると、短いグリカン鎖および高度のシアリル化を有するムチンが生成される。このような短鎖オリゴ糖は、臨床上重要な腫瘍抗原として相当の関心を引き付けており、周知のシアリル-Tn(STn)抗原(Siaα2,6-GalNAc-O-Ser/Thr)を含む(Dall'Olio et al., Glyconj. J, 18:841-850 (2001); Yonezawa et al., Am. J. Clin. Pathol., 98:167-174 (1992); Itzkowitz et al., Cancer Res., 49:197-204 (1989); Thor et al., Cancer Res., 46:3118-3124 (1986); Werther et al., Br. J. Cancer, 69:613-616 (1994))。乳房および卵巣を含むほとんどの腺癌はSTnを発現する。対照的に、STnは正常組織では稀にしか見られない。他の短鎖オリゴ糖には、シアリル-Lewis x(Si-Lex, NeuAcα2-3Galβ1-4[Fucα1-3]GlcNAc)およびシアリル-Lewis a(Si-Lea, NeuAcα2-3Galβ1-3[Fucα1-4]GlcNAc)(これらは胃腸癌および膵臓癌をモニタリングするのに用いられる)が含まれる(Fernandez-Rodriguez et al., Glyconj. J., 18:925-930 (2001))。
【0092】
癌細胞におけるタンパク質グリコシル化の別の変化は、ヒトでは通常見られないタイプのシアル酸(すなわち、N-グリコリルノイラミン酸(NeuGc)(図2))の付加である。NeuGcは他の哺乳動物(例えば、大形類人猿)において豊富にあるが、ヒトでは微量にしか見られない(Varki, Biochimie, 83:615-622 (2001); Malykh et al., Biochimie, 83:623-634 (2001))。実際に、ヒトにおけるNeuGcの量は、通常、総シアル酸の1%未満である。NeuGcはヒトにおいて生じないと考えられているが、代謝により取り込まれる。腫瘍組織および癌患者に由来する細胞におけるNeuGc高発現が報告されているが、癌組織におけるNeuGc高発現の存在は依然として議論の余地がある(Tangvoranuntakul et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 100:12045-12050 (2003))。ほとんどの研究が抗体アッセイ法のみを用いてNeuGcレベルをモニタリングしているために、NeuGcの存在を確かめる上での問題は分析方法にある。しかしながら、子宮内膜癌患者の腹水由来ムチンのシアリダーゼ処理から液体クロマトグラフィー-質量分析によって(LC-MS)(Devine et al., Cancer Res., 51:5826-5836 (1991))、乳管癌(ductal mammary carcinoma)から単離されたムチンからガスクロマトグラフィー(GC)-MSによって(Hanisch et al., Eur. J. Biochem., 236:318-327(1996))、NeuGc残基は検出されている。
【0093】
正常細胞の硫酸化オリゴ糖量と癌細胞の硫酸化オリゴ糖量の違いは、癌細胞におけるタンパク質グリコシル化のさらに別の変化である。硫酸化オリゴ糖は、典型的に、負の実効電荷を糖タンパク質(例えば、ムチン)に加える。オリゴ糖にある硫酸基は基礎をなす抗原を隠し、細菌グリコシダーゼによる分解からムチンを保護する。硫酸化オリゴ糖は、細胞接着、増殖因子提示、細胞シグナル伝達、および炎症にも関与している(Delcommenne et al., Glycobiology, 12:613-622 (2002))。オリゴ糖の生合成において、硫酸化は経路をブロックし、分枝反応および伸長反応を止めることができる(Brockhausen, Biochem. Soc. Trans., 31:318-325 (2003))。ムチンの硫酸含有率は癌性結腸粘膜(Yamori et al., Cancer Res., 47:2741-2747 (1987); Raouf et al., Clin. Sci, 83:623-626 (1992))および乳癌細胞(Brockhausen et al., Eur. J. Biochem., 233:607-617 (1995))において少ないことが報告されている。ある特定のムチン分解性スルファターゼも単離されており、これらの酵素の過剰活性がムチンの過小硫酸化をもたらすことを示している(Corfield et al., Glyconj. J., 13:809-822 (1996))。
【0094】
VI.オリゴ糖の質量分析
オリゴ糖の複雑さは、ヒトに見られる9種類の一般的な単糖から組み立て可能な、結合、分枝、およびアノメリシティー(anomericity)に違いのある1500万種類を超える四糖において容易に分かる。さらに、多くの一般的な単糖は、同じ質量を有する立体異性体である。核磁気共鳴(NMR)および質量分析を用いたオリゴ糖の構造解明のために数種類のストラテジーが開発されている。NMRは、オリゴ糖の完全構造が得られる唯一の分光学的方法である。しかしながら、感度に制限があるために、最も豊富なオリゴ糖種以外の全てに対してNMRは使用できない(Plancke et al., Eur. J. Biochem., 231:434-439 (1995); Strecker et al., Glycobiology, 5:137-146 (1995); Dell et al., Carbohydr. Res., 115:41-52 (1983))。この分析も複雑であり、NMRスペクトルの長時間にわたる測定および解釈を必要とする。さらに、多くの場合、オリゴ糖試料は高度に不均一で、数桁異なり得る存在量で非常に多くの成分を含有することが分かっているので、NMRによる明確な解明には厳密な分離を必要とすることが多い。
【0095】
構造の不均一性、複雑さ、および試料の制限のために、オリゴ糖の分析は質量分析(MS)に非常に適している。例えば、質量分析は、ムチン(例えば、MUC2(Alving et al., J. Mass Spectrom., 34:395-407 (1999))およびMUC4 (Alving et al., J. Mass Spectrom., 33:1124-1133 (1998)))からO結合型オリゴ糖を特定するのに用いられている。高速原子衝撃(FAB)-MSおよびガスクロマトグラフィー(GC)-MSもまた、乳癌と関連するMUC1のO結合型オリゴ糖を特定するのに用いられている(Hanisch et al., Eur. J. Biochem., 236:318-327(1996))。さらに、CA125(MUC16)に関連するN-グリカンおよびO-グリカンが質量分析によって特徴付けられている(Wong et al., J. Biol. Chem., 278:28619-28634 (2003))。
【0096】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)(Karas et al., Anal. Chem., 60:2299-2301(1988))およびエレクトロスプレーイオン化(ESI) (Fenn et al., Science, 246:64-71 (1989); Yamashita et al., J. Phys. Chem., 88:4451-4459 (1984))が利用できることで、オリゴ糖質量分析の感度が著しく高まった(Spengler et al., Anal. Chem., 62:1731-1737 (1990); Stahl et al., Anal. Chem., 63:1463-1466 (1991); Powell et al., Rapid Commun. Mass Spectrom., 10:1027-1032 (1996); Harvey et al., Org. Mass Spectrom., 29:753-766 (1994); Cancilla et al., Anal. Chem., 70:663-672 (1998))。衝突誘起解離(CID)によって、かなりの構造情報が得られる。例えば、アルカリ金属配位種のCIDによって、分枝および結合に関する情報が得られる(Dell et al., Carbohydr. Res., 115:41-52 (1983); Aubagnac et al., Org. Mass Spectrom., 18:361-364 (1983); Barofsky et al., Int. J. Mass Spectrom. Ion Phys., 53:319-322 (1983); Burlingame et al., Anal. Chem., 56:417R-467R (1984); Burlingame et al., Anal. Chem., 58:165R-211R (1986); Carroll et al., Anal. Chem., 65:1582-1587 (1993); Dell et al., Mass Spectrom. Rev., 3:357-394 (1984); Domon et al., Glycoconjugate J., 5:397-409 (1988); Angel et al., Carbohydrate Research, 221:17-35 (1991); Dell et al., Int. J. Mass Spectrom. Ion Phys., 46:415-420 (1983); Dell et al., Carbohydr. Res., 120:95-111 (1983); Forsberg et al., J. Biol. Chem., 257:3555-3563 (1982); Konig et al., J. Am. Soc. Mass Spectrom., 9:1125-1134 (1998))。立体化学情報さえも、オリゴ糖を遷移金属に配位結合させ、その後にESIおよびCIDを行うことによって得られる(Konig et al.,同書)。しかしながら、CIDを用いた構造決定は、完全なオリゴ糖配列を得るために複数回のタンデムMSを必要とする。また、ピラノース還元末端を有するオリゴ糖のCIDでは一般的な末端残基であるフコースが無秩序に失われ、鎖におけるフコースの位置が隠される(Cancilla et al., J. Am. Chem. Soc., 118:6736-6745 (1996); Penn et al., Anal. Chem., 68:2331-2339 (1996))。さらに、CIDによって分子内転位による内部糖残基の消失が起こる(Brull et al., J. Am. Soc. Mass Spectrom., 8:43-49 (1997))。
【0097】
本発明は、オリゴ糖の構造を決定するためにIRMPDを使用することによってこのような制限を克服する。IRMPDの使用は、最後の残基まで代表的なオリゴ糖フラグメンテーションを得ることができるので有利である。結果として、大きなオリゴ糖でさえも1回の実験で完全に配列決定することができる。IRMPD分析の前に、タンデム質量分析法(例えば、MALDI-フーリエ変換質量分析(FTMS)が試料中のオリゴ糖種を特定するのに用いられる(Tseng et al., Anal. Biochem., 250:18-28 (1997); Tseng et al., Anal. Chem., 71:3747-3754 (1999)を参照されたい)。特に、FTMSによって正確な質量測定値(すなわち、日常的に<10ppm、内部校正を用いて<5ppm)を得ることができることは、基本オリゴ糖組成を得るのに不可欠である。例えば、m/z2201.819の擬分子イオンを有するオリゴ糖は、±0.1質量単位の許容値内で3種類の可能性のある組成を有する。0.01質量単位の許容値では、2個のフコース(Fuc)、4個のヘキソース(Hex)、および6個のN-アセチルヘキソサミン(HexNAc)の正しい組成しか得られない。本発明の方法に従ってMALDI-FTMSを使用すると、可能性のある多数の組成から正しい組成を得ることができる。MALDIによって生成されたイオンに対して複数の段階のタンデムMSを実施できることは、本発明の質量分析法の別の重要な特徴である。
【0098】
VII.実施例
以下の実施例は本発明の例示のために示され、本発明の限定のために示されない。
【0099】
実施例1.卵巣癌細胞株上清の分析
本実施例は、4種類の卵巣癌細胞株の上清からのO結合型オリゴ糖の抽出および質量分析を示す。
【0100】
O結合型オリゴ糖を放出および単離する手順を図3に示した。この手順はかなり速く、HPLC分離を必要としない。実際には、O結合型オリゴ糖の抽出から質量分析までの全手順を12時間未満で実施することができる。オリゴ糖成分の前濃縮は固相抽出を用いて行われ、全混合物の分析は、追加精製をすることなく質量分析を用いて行われる。この手順は、包括的なO結合型オリゴ糖プロファイルを得るために1.0μlの細胞上清(2μgの凍結乾燥出発物質に相当する)しか必要としない。
【0101】
塩および低分子の大部分を除去するために、上清に対して透析を行う。残っているものは、全ての大きなタンパク質(全てのグリコシル化タンパク質を含む)である。最適化された条件下で水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)は、主に、O結合型オリゴ糖を放出する(Morelle et al., Eur. J. Biochemistry, 252:253-260 (1998))。従って、N結合型オリゴ糖の放出は、O結合型オリゴ糖にしか適さない放出条件(例えば、温度および時間)を選択することによって最小限にされる。実際に、前記の手順に従って調製された試料の質量スペクトルを注意深く検証することによって、N結合型オリゴ糖が存在しないことが明らかになる。N結合型オリゴ糖は、その大きなサイズおよび特異的なコアの存在によって容易に特定される。オリゴ糖成分の濃縮は多孔性黒鉛状炭素(PGC)固相抽出装置を用いて行う。これらのカートリッジは中性オリゴ糖および陰イオン性オリゴ糖を両方とも容易に結合する。ペプチドおよびタンパク質が保持されている間に、塩は容易に通過する。溶出溶媒の適切な組み合わせを使用することによって、陰イオン性成分から分かれて中性オリゴ糖が分離される。
【0102】
対数期および死滅期(dead phase)にある4種類の卵巣癌細胞株を調べた(表1)。卵巣癌細胞株を、指示した細胞培地(10%胎仔ウシ血清、100units/mlペニシリン/ストレプトマイシン、および1%グルタミンを添加した)において増殖させた。ES-2細胞およびSKOV-3細胞はMcCoy培地において増殖させたのに対して、OVCAR-3細胞およびCaOV-3細胞はRPMI1640培地において増殖させた。ならし培地(CM)を、細胞増殖の対数(非コンフルエント)期または死滅(コンフルエント)期の間に細胞から取り出し、-70℃で凍結した。CMを解凍し、滅菌濾過し(0.2μmフィルター)、Vivacell70またはVivaspin20濃縮器(VivaScience)を用いて濃縮した。または、濾過CMを蒸留水に対して大規模に透析し、次いで、凍結乾燥した。次いで、図3に示した手順を用いて、結果として生じた溶液を処理した。分析時間を最小限にするために、オリゴ糖成分を分離しようという試みは無かった。塩および低分子を除去するために、細胞培養上清をナノピュア(nanopure)水に対して透析した(10kMWカットオフ)。結果として生じた溶液は、ムチンを含む大きなタンパク質のみを含んでいた。次いで、溶液を凍結乾燥し、NaBH4およびNaOHを用いて42℃で6時間処理した。これらの条件下では、O結合型オリゴ糖のみが放出された。ホウ酸イオンおよびナトリウムイオンを放出させ、オリゴ糖成分を単離するために、試料を、PGCを含む固相抽出カートリッジに通した。アセトニトリルおよび水の3種類の溶離液比の下でオリゴ糖を放出した。水に含まれるアセトニトリルのパーセントを上げることによって(すなわち、10%、20%、および40%)、3つの画分が得られた。対照として、ブランク培養および純粋な胎仔ウシ血清(FBS)を、図3に示した手順に従って処理した。両対照試料とも、試験試料のオリゴ糖数より2桁少ない少数(<10)のオリゴ糖を生じた。さらに、対照試料のオリゴ糖はどれも試験試料では観察されなかった。
【0103】
(表1)卵巣癌細胞株

【0104】
それぞれのアセトニトリル画分は異なるオリゴ糖プロファイルを含んでいた。例えば、4種類全ての卵巣癌細胞培養物について、10%アセトニトリル画分は、主として、小さな陰イオン性のシアリル化O結合型オリゴ糖を含んでいた。図4は、10%アセトニトリル溶液を用いてPGCカートリッジから放出されたOVCAR-3のCMに由来する試料の正イオン(図4A)質量スペクトルおよび負イオン(図4B)質量スペクトルを示す。両スペクトルとも、小さな陰イオン性のO結合型オリゴ糖を示した。ポジティブスペクトルは多くの化学ノイズを示したのに対して、ネガティブスペクトルは、これらのイオンをはっきりと示した。2種類のシアリル化O結合型オリゴ糖:(1)N-アセチルノイラミン酸(NeuAc)含有O結合型オリゴ糖および(2)N-グリコリルノイラミン酸(NeuGc)含有O結合型オリゴ糖が観察された。さらに、多数の注目に値するO結合型オリゴ糖(1Hex:1NeuGc(m/z488.169)および1HexNAc:1NeuGc(m/z529.122)の組成を有する2種類の二糖を含む)が存在した。小さな陰イオン性オリゴ糖の存在はタンパク質グリコシル化の異常を示すので、これらのオリゴ糖は腺癌(例えば、卵巣癌)を検出するためのマーカーとして使用することができる。
【0105】
40%アセトニトリル画分は、かなり多いかつ大きなオリゴ糖を含んでいた。図5は、40%アセトニトリル溶液を用いてPGCカートリッジから放出されたOVCAR-3のCMに由来する試料の正イオン質量スペクトルを示す。40%アセトニトリル画分において検出されたシグナルのほぼ全てがオリゴ糖に対応した。このスペクトルは、中性、硫酸化、およびシアリル化(すなわち、NeuAcおよびNeuGc)O結合型オリゴ糖を示した。観察された最も大きなオリゴ糖はm/z2200あたりにあった(10〜12マーに相当し、正常細胞で典型的に観察される20マーよりかなり小さい)。20%画分もオリゴ糖を含んでいたが、試料中のオリゴ糖のほぼ全てが10%および40%アセトニトリル画分において見られた。
【0106】
フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(FT-ICR-MS)の高い質量精度は、多くの場合、複雑な質量スペクトルでさえもオリゴ糖ピークを特定するのに十分である。組成を確認し、配列情報を得るために、アセトニトリル画分からのイオンの一部を単離し、タンデムMSにかけた。フラグメンテーションを得るために、衝突誘起解離(CID)ではなく赤外多光子解離(IRMPD)を使用した。IRMPDにはいくつかの利点がある。(1)衝突ガスを必要とせず、それによって、繰り返し数(repetition rate)および1スペクトルあたりの走査数を高める、および(2)フラグメントが分解ビームに残り、そのために1回のタンデムMS(MS2)実験で最後の残基まで完全な配列が得られることが多い。標準的なCID実験は、多くの場合、配列の最後の残基を得るためにMS3、さらにはMS4を必要とする。
【0107】
IRMPDを用いて、小さな陰イオン性オリゴ糖種のいくつかを評価した。例えば、図6は、単離され、IRMPDにかけられた、1HexNAc:1NeuGc(m/z529.122)に対応する組成を有するNeuGc含有イオン種の質量スペクトルを示す。イオンm/z529.122を、IRMPDを用いてネガティブモードで分析することによって、スペクトルが得られた。ここでは、カルボン酸の存在と一致するCO2の消失が観察された。HexNAc-olの消失は、還元末端がHexNAc残基に対応するのに対して、残りの質量m/z325がNeuGcに対応することを示した。結果として、IRMPD分析によって、1HexNAc:1NeuGc(m/z529.122)イオン種の構造がNeuGcα2-6GalNAcであることが明らかになった。この構造はエキソグリコシダーゼ消化によって確認することができる(例えば、Xie et al., J. Am. Soc. Mass Spetrom., 12:877-884 (2001)を参照されたい)。従って、本発明の方法を用いて、小さなO結合型オリゴ糖が容易に検出され、NeuGc含有オリゴ糖が容易に検出され、正確に特定される。
【0108】
NeuAc含有オリゴ糖も観察された。例えば、図7は、単離され、IRMPDにかけられた、NeuAc含有イオンm/z902.322の質量スペクトルを示す。このイオンは著しく大量になかった。しかしながら、質量は、シアリル-Lex抗原を有する四糖に相当した。このイオンを、IRMPDを用いてポジティブモードで分析することによって、スペクトルが得られた。ここでは、NeuAc(m/z610)の消失、その次にHex(m/z447)の消失、その次にHexNAc(m/z244)残基の消失が観察された。アルジトール型の還元末端はHexNAc(例えば、GalNAc)であった。結果として、IRMPD分析によって、m/z902.322イオン種の構造がGlcNacβ1-6(NeuAcα2-3Galβ1-3)GalNAcであることが明らかになった。この構造はエキソグリコシダーゼ消化によって確認することができる。
【0109】
OVCAR-3細胞に由来するO結合型オリゴ糖をまとめたものを表2に示した。O結合型オリゴ糖の同様の質量スペクトルおよび組成が他の3種類の細胞株から得られた。図8は、4種類の卵巣癌細胞株の中性、硫酸化、NeuAc、およびNeuGc O結合型オリゴ糖の分布を示す。例えば、OVCAR-3細胞のCMから、少なくとも57個の異なる質量が観察された。
【0110】
(表2)MALDI-FTMSによってOVCAR-3細胞において特定されたオリゴ糖組成

組成はポジティブモードおよびネガティブモードでの正確な質量分析によって求めた。R.I.=相対強度。S=強い;M=中程度;W=弱い。
【0111】
4種類の癌細胞株の分析から多くの結論を引き出すことができる。(1)得られたオリゴ糖は小さく、ムチンなどの糖タンパク質に由来するO結合型種に対応する。(2)癌細胞に存在することが知られているオリゴ糖が示される。(3)4種類の細胞株の間で一般的な多くのオリゴ糖があるが、それぞれの細胞株に特異的な独特のオリゴ糖もある。
【0112】
実施例2.癌患者血清の分析
本実施例は、卵巣癌患者の血清からのO結合型オリゴ糖の抽出および質量分析を示す。
【0113】
非常に高いCA125レベル(11621units/ml)を有する患者からの血清を、図3に記載の手順を使用することによって調べた。標準的な臨床手順を用いて血清を全血から単離した。CA125のAXSYM検査(Abbott)を用いて、血清のCA125を検査した。検査後、血清(1.5ml)をナノピュア水に対して大規模に透析し、凍結乾燥して、20mgの粉末を得た。ごく少量(2mg)をNaBH4およびNaOHで処理し、加工し、細胞上清について前述したように質量分析によって分析した。
【0114】
図9は、PGCカートリッジから20%アセトニトリルによって溶出された画分のネガティブ質量スペクトルを示す。図10は、PGCカートリッジから40%アセトニトリルによって溶出された画分のポジティブ質量スペクトルを示す。両質量スペクトルとも陰イオン性オリゴ糖を含んでいたが、小さな陰イオン性オリゴ糖は、20%アセトニトリルによって溶出された画分において観察されたのに対して、より大きな陰イオン性オリゴ糖は、40%アセトニトリルによって溶出された画分において観察された。小さな陰イオン性オリゴ糖は、腺癌(例えば、卵巣癌)を診断するためのマーカーとして特に有用であるのに対して、より大きな陰イオン性オリゴ糖は、腺癌を区別する(例えば、卵巣癌と乳癌を区別する)ためのマーカーとして特に有用である。
【0115】
血清試料に由来するO結合型オリゴ糖をまとめたものを表3に示した。この質量スペクトルにおける各ピークは、正確な質量に基づいてオリゴ糖を表していると確認された。さらに、これらのピークのうち約10個がタンデムMSによって確認された。表3に示したように、非常に高いCA125レベルを有する患者の包括的なO結合型オリゴ糖プロファイルにおいて、5種類のNeuGc含有オリゴ糖および8種類のNeuAc含有オリゴ糖が存在した。このオリゴ糖グループにおいて、1NeuAc:1HexNAc、1NeuGc:1Hex、1NeuGc:1HexNAc、および1NeuGc:1Hex:2HexNAcなどの組成を有する小さなシアリル化オリゴ糖が特定された。小さな陰イオン性オリゴ糖の存在はタンパク質グリコシル化の異常を示すので、このような小さなシアリル化オリゴ糖は腺癌(例えば、卵巣癌)を検出するためのマーカーとして使用することができる。
【0116】
(表3)MALDI-FTMSによって癌患者血清において特定されたオリゴ糖組成

組成はポジティブモードおよびネガティブモードでの正確な質量分析によって求めた。R.I.=相対強度。S=強い;M=中程度;W=弱い。
【0117】
MALDI-FTMSによって特定されたイオンの割り当てを確認し、構造情報を得るために、これらのイオンの一部を単離し、IRMPDを用いてさらに分析した。例えば、イオンm/z529のスペクトルを単離し、IRMPD分析にかけた。このイオンのスペクトルは、卵巣癌細胞株OVCAR-3に由来する同じ質量のイオンと同一であった(図6を参照されたい)。結果として、卵巣癌患者の血清にNeuGcが存在することが確認された。このイオン種の構造はエキソグリコシダーゼ消化によって確認することができる。従って、本発明の方法を用いて、小さなO結合型オリゴ糖が血清試料において容易に検出され、NeuGc含有オリゴ糖が血清試料において容易に検出され、正確に特定される。
【0118】
実施例3.卵巣癌細胞株におけるオリゴ糖マーカーの特定
本実施例は、表1に示した卵巣癌細胞株に見られるオリゴ糖の決定および比較を示す。
【0119】
それぞれの卵巣癌細胞株から単離されたオリゴ糖を、中性、シアリル化(例えば、NeuAcおよびNeuGc)、または硫酸化として分類する。さらに、一般的なオリゴ糖およびそれぞれの細胞株に独特のオリゴ糖を決定する。個々のオリゴ糖の構造も解明することができる(以下の実施例4を参照されたい)。次いで、特定されたオリゴ糖を、癌を有する個体および癌を有さない個体の血清から得られたオリゴ糖と比較する。さらに、様々な栄養条件下および培地条件下の4種類の癌細胞株から特定されたオリゴ糖のデータベースを構築することができる。比較のために、正常組織(例えば、乳房、卵巣、肝臓、結腸、および肺)から得られたヒト細胞のならし培地を調べることができる。正常組織から特定されたオリゴ糖と癌細胞株から特定されたオリゴ糖とこのような比較は、癌細胞株に特異的なオリゴ糖マーカーを解明するのに使用することができる。
【0120】
それぞれの癌細胞株についてNeuAc含有オリゴ糖に対するNeuGc含有オリゴ糖の比を決定し、正常組織において見られる比と比較することもできる。ある特定の場合において、癌細胞株における比は正常組織と比較して高い。さらに、癌細胞株の硫酸化オリゴ糖の量と正常組織の硫酸化オリゴ糖の量を比較することができる。ある特定の場合において、癌細胞株の硫酸化オリゴ糖のパーセントは正常組織と比較して低い。
【0121】
ムチンに由来するO結合型オリゴ糖が放出および単離されたことを確認するために、癌細胞株に由来する細胞上清もしくはならし培地またはヒト血清におけるタンパク質の1-Dゲル分離を行うことができる。図11は、Pro Q Emerald 300(Molecular Probes)(図11A)またはSypro Ruby(Molecular Probes)(図11B)を用いて染色された、4種類の卵巣癌細胞株それぞれからのタンパク質の1-Dゲル分離の結果を示す。より具体的には、卵巣癌細胞株ES-2からのならし培地(CM)(レーン2、6、11)、SKOV-3からのならし培地(レーン3、7、12)、CaOV-3からのならし培地(レーン4、8、13)、およびOVCAR-3からのならし培地(レーン5、9、14)を濃縮し、Cibracron blueアガロース(Sigma)を用いてアルブミンを枯渇させ、次いで、SDS-PAGE(7.5%)によって分離した。レーン1:分子量マーカー、レーン2〜5:Cibracron Blue処理後の試料、レーン6〜9:尿素/CHAPS緩衝液に可溶化されたタンパク質の試料;レーン10〜13:SDS-PAGE試料緩衝液を用いてCibracron blueアガロースに結合させ、溶出させたタンパク質。ゲルは、ならし培地に由来するタンパク質混合物の複雑さを示す。アルブミンは最も豊富な種であり、典型的に、ほとんどの検出方法を飽和させる。しかしながら、この場合、アルブミンの大部分は除去されている。さらに、ムチン糖タンパク質は、炭水化物鎖によって示されるように他のタンパク質からはっきりと分離される(図11A)。ならし培地から得られたオリゴ糖がムチンオリゴ糖であることを確認するために、ゲル上の糖タンパク質を収集し、オリゴ糖を放出することができる。
【0122】
NeuGc含有オリゴ糖が内因性供給源(例えば、細胞自体)または外因性供給源(例えば、ならし培地)に由来するかどうか決定するために、NeuGc含有オリゴ糖の内因性供給源を無くすように胎仔ウシ血清(FBS)を含まない培地において癌細胞株を培養した。または、FBSが全く無いように細胞を洗浄した後に、癌細胞を無血清培地において培養することができる。細胞を、FBSを含まない培地において数世代にわたって培養することができ、各世代において、NeuGc含有オリゴ糖の量を他のオリゴ糖(例えば、NeuAc含有オリゴ糖)と比較してモニタリングすることができる。NeuGc含有オリゴ糖の量が世代ごとに減少すれば、これらのオリゴ糖は外因性供給源に由来する可能性が高い。このような研究はヒト血清試料に対しても行うことができる。
【0123】
表4は、FBS培地またはFBSを含まない培地において培養されたES2細胞の40%アセトニトリル溶離液から単離されたオリゴ糖種を示す。結果から、NeuGc含有オリゴ糖は両試料に存在することが分かる。FBSを含まない培地において培養された細胞は血清栄養試料から得られたので、残存するNeuGc含有オリゴ糖が存在するかどうか、栄養試料それ自体を調べることができる。
【0124】
(表4)FBS培地またはFBSを含まない培地において培養されたES-2細胞のならし培地に存在するオリゴ糖種

【0125】
それぞれの癌細胞株について、硫酸化オリゴ糖の数も求めることができる。例えば、OVCAR-3癌細胞株は少なくとも11種類の硫酸化オリゴ糖を(多くは多量に)含む。図5は、これらの硫酸化オリゴ糖種のいくつか(例えば、m/z712.166、874.219、1077.298、および1443.430)を示す。硫酸化オリゴ糖は、試験した4種類全ての卵巣癌細胞株において観察された。
【0126】
実施例4.オリゴ糖の構造決定
本実施例は、卵巣癌細胞株または患者血清から特定されたO結合型オリゴ糖の精巧な基本構造の決定を示す。
【0127】
O結合型オリゴ糖構造の決定は、癌(例えば、腺癌)の検出または診断に適したマーカーの特定に重要である。従って、本発明は、基本構造を得るためにタンデムMSを使用し、その後に、基本構造を確かめるために選択的エキソグリコシダーゼ消化を使用して、O結合型オリゴ糖の構造を決定するための方法を提供する。
【0128】
エキソグリコシダーゼ(例えば、グリコシダーゼアレイの形をしたエキソグリコシダーゼ)は、一般的に、N結合型オリゴ糖の構造解明に用いられる。しかしながら、既知数の推定構造があるN結合型オリゴ糖とは異なり、O結合型オリゴ糖は極めて多くの構造組み合わせを有する。結果として、O結合型オリゴ糖の構造を決定するためのグリコシダーゼアレイの使用は、費用と時間がかかることがある。本発明は、タンデムMS実験(例えば、衝突誘起解離(CID)またはIRMPD)から得られた基本構造を利用したエキソグリコシダーゼ消化を的を絞って使用することによって、このような制限を克服する。従って、O結合型オリゴ糖の完全構造解明のための手順は、以下の工程を伴う。(1)正確な質量を得て、残基の一般組成(例えば、N-アセチルヘキソース(HexNAc)、ヘキソース(Hex)、フコース(Fuc)、N-アセチルノイラミン酸(NeuAc)、またはN-グリコリルノイラミン酸(NeuGc))を決定する工程;(2)CIDまたはIRMPDを用いて基本構造を決定する工程;(3)基本構造に基づいてエキソグリコシダーゼ消化を行って、残基の同一性、結合、および結合のアノマー特性を決定する工程。
【0129】
好ましくは、O結合型オリゴ糖の構造はIRMPDを用いて決定される。IRMPDの使用は、衝突ガスを必要とせず、それによって、繰り返し数および1スペクトルあたりの走査数を高めるので有利である。さらに、フラグメントは分解ビームに残り、このために最後の残基まで完全な配列が得られることが多い。結果として、大きなオリゴ糖でさえも1回の実験で完全に配列決定することができる。例えば、図12は、CaOV-3から単離された硫酸エステル含有オリゴ糖のIRMPDスペクトルを示す。m/z1077.298の正確な質量(ポジティブモード,理論質量1077.290)に基づいて、このイオンは、3個のHexNAc残基、2個のHex残基、および1個の硫酸基を含むことが特定された(図12A)。次いで、標準的なFTMS法を用いて、擬分子イオンの単離を行った。単離されたイオンに11ワットのレーザー出力を0.75秒間照射することによって、イオンのフラグメンテーションを行った(図12B)。図12Bに示したように、m/z347(硫酸化アルジトールHexNAc(すなわち、GalNAc)残基に対応する)を含む、多数の生成物イオンが形成された。図12Bはまた、フラグメンテーションの際に、擬分子イオンがHexNAc残基の消失とHex残基の消失を交互に繰り返したことも示している。さらに、m/z388のイオンがHexNAc-Hexフラグメントであると特定された。次いで、これらの結果および公知の癌糖鎖生物学に基づいて、オリゴ糖の構造を決定した(図12B)。
【0130】
オリゴ糖の構造は、エキソグリコシダーゼ消化を用いて確認することができる。例えば、末端ガラクトースが切断できるかどうか決定するために、Gal(β1-4)特異的エキソグリコシダーゼを使用することができる。次いで、位置を決定し、GlcNAc残基の同一性を確認するために、別のエキソグリコシダーゼであるN-アセチル-グルコサミニダーゼを使用することができる。残基の位置を確認するために、エキソグリコシダーゼ生成物に対してIRMPDも行うことができる。
【0131】
実施例5.オリゴ糖マーカーの統計解析
本実施例は、偽陽性を抑制しながらオリゴ糖マーカーを特定し、オリゴ糖プロファイルに基づいて癌を分類および予測するための統計解析の使用を示す。卵巣細胞株、ヒト血清(例えば、正常血清、卵巣癌血清、および乳癌血清)からのオリゴ糖測定値のばらつきも定量される。
【0132】
オリゴ糖プロファイルの統計的分類または予測分析はゲノムデータおよびプロテオームデータの統計解析に似ている。従って、卵巣癌細胞株およびヒト血清から得られたオリゴ糖マーカープロファイルに基づいて、正常試料と卵巣癌試料を区別するために統計的分類または予測分析が行われる。例えば、様々な(例えば、高い)CA125レベルを有する卵巣癌試料を予測するために、次元縮退(dimension reduction)と判別分析の併用(Nguyen et al., Bioinformatics,18:39-50 (2002); Nguyen et al., Bioinformatics,18:1216-1226 (2002))、サポートベクトルマシーン(Furey et al., Bioinformatics, 16:906-914 (2000) ; Vapnik, Statistical Learning Theory, Wiley-Interscience:New York(1998))、および罰則付き判別分析(penalized discriminant analysis)(Hastie et al., The elements of statistical learning: Data mining, inference, and prediction, Springer:New York, New York (2001))などの統計的学習法が実施される。一組のトレーニング試料に基づいて予測モデルが構築される。モデルバリデーションおよびオリゴ糖プロファイルに基づく卵巣癌予測のエラー率は、独立したデータセット(モデル構築に用いられなかった試料からなる)から得られる(Ambroise et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 99:6562-6566 (2002); Hand, Construction and Assessment of Classification Rules, John Wiley: Chichester, England (1997))。
【0133】
癌予測および分類分析のために一組のオリゴ糖マーカー(例えば、約50〜70個)を使用することに加えて、各試料について得られた完全なオリゴ糖質量スペクトルに基づいて統計解析を行うことができる。次いで、統計的パターン認識法を用いて、癌試料に独特のプロファイルを特定することができる。例えば、分子種の数が多いために、次元縮退法(例えば、部分的最小二乗法(Nguyen et al., Bioinformatics,18:39-50 (2002); Nguyen et al., Bioinformatics, 18:1216-1226 (2002))を使用することができる。この技法はまた、ある特定のクラスの癌を予測する、特異的なオリゴ糖マーカーまたはオリゴ糖マーカーの組み合わせを特定するのにも使用することができる。より具体的には、統計的分類および予測分析は、卵巣癌血清と乳癌血清を区別するのに使用することができる。
【0134】
統計解析はまた、異なる試料群間で(例えば、非疾患上清と卵巣癌血清の間で、または異なるCA125レベルを有する卵巣癌血清間で)オリゴ糖の発現レベルを比較するのに使用することもできる。例えば、ゲノムデータおよびプロテオームデータ用に開発された統計法を実施することができる(Efron et al., J. Am. Stat. Assoc., 90:1151-1160 (2001))。比較されるオリゴ糖マーカーの数が比較的多いために、偽陽性発見率を抑制することができる(Nguyen et al., Bioinformatics, 18:39-50 (2002); Nguyen et al., Bioinformatics, 18:1216-1226 (2002); Benjamini et al., J. Royal Stat. Soc. B, 57:289-300 (1995))。偽陽性発見率を抑制する、このような比較統計解析は、多数の繰り返しから得られたデータに基づいてもよい。サンプリングの繰り返し(sampling replicate)に加えて、技術的な繰り返し(technical replicate)からのデータは、同じ血清試料(すなわち、決まった個体に由来する血清試料)を用いて複数回の実験を行い、測定プロセスのばらつきを定量することによって得ることができる。好ましくは、技術的なばらつきはサンプリングのばらつきと比べて少ない。
【0135】
実施例6.オリゴ糖マーカーの定量的測定
本実施例は、質量分析を用いてヒト血清中のオリゴ糖マーカーを定量するための方法を示す。
【0136】
1つの方法において、ヒト血清から放出されたいくつかのオリゴ糖種は、内部校正物質として含まれる癌細胞株由来オリゴ糖と同時に追跡される。細胞株に由来するオリゴ糖はNaBD4によって放出され、1個の重水素がアルジトール生成物に取り込まれる。校正物質オリゴ糖は血清オリゴ糖より1質量単位大きく、分析を妨げない。校正物質が全てのクラスのO結合型オリゴ糖(例えば、中性、シアリル化(NeuAcおよびNeuGc)、ならびに硫酸化オリゴ糖)を含有する時、校正物質と分析物の両方が等しく抑制されるために、抑制の効果は最小限にされる。重水素化された標準オリゴ糖の濃度は、各クラスのオリゴ糖の公知の標準を用いて求めることができる。次いで、癌細胞株に由来する標準オリゴ糖溶液が、試験血清試料から放出されたオリゴ糖に添加される。
【0137】
別の方法では、試験血清試料から放出されたオリゴ糖に、市販の内部標準(例えば、小さなオリゴ糖、中性オリゴ糖、シアリル化オリゴ糖(NeuAcおよびNeuGc)、ならびに/または硫酸化オリゴ糖)が添加される。
【0138】
さらに別の方法では、天然の内部標準(例えば、健常個体の血清にしか存在しないオリゴ糖)が、試験血清試料から放出されたオリゴ糖に添加される。次いで、健常個体の血清にしか存在しないオリゴ糖と、試験血清試料において発現されたオリゴ糖の比をモニタリングし、疾患の指標として使用することができる。例えば、健常個体の血清からしか得られないNeuAc含有オリゴ糖に対する試験血清試料に由来するNeuGc含有オリゴ糖の比をモニタリングし、疾患の指標として使用することができる。
【0139】
実施例7.乳癌細胞に由来するオリゴ糖の特定
本実施例は、乳癌に特異的なオリゴ糖マーカーを特定するための方法を示す。
【0140】
乳癌および卵巣癌は多くの生物学的特徴を共有する。例えば、両タイプの癌もムチンを分泌する上皮細胞が関与する。さらに、両タイプの癌も小さな陰イオン性オリゴ糖を生成する。結果として、乳癌の指標として、卵巣癌について特定されたオリゴ糖マーカーの一部または全てを使用することができる。独特のオリゴ糖と、乳癌および卵巣癌に共通するオリゴ糖について、乳癌細胞を調べることができる。調査に適した乳癌細胞株には、ATCCから得られる、MCF7、MDA-MB-231、MDA-MB-468、MDA-MB-361、MDA-MD-453、およびBT-474細胞株が含まれるが、それに限定されるわけではない。これらの細胞株は、DMEM、10%FBS、1%グルタミン、100u/mlペニシリン/ストレプトマイシンにおいて、またはATCCが推奨する培地において37℃、5%CO2で増やすことができる。細胞株はまた、残存している胎仔ウシ血清(FBS)を除去するために無血清培地で数回洗浄した後に、無血清培地において2〜7日間増殖させることもできる。ならし培地(CM)を細胞から取り出し、滅菌濾過し(0.22μフィルター)、凍結することができる。試料を加工し、前記のように塩基性NaBH4を用いたβ脱離によってO結合型オリゴ糖を放出する。次いで、結果として得られたオリゴ糖を質量分析によって分析する。
【0141】
MCF7細胞株は、最初に、胸水腺癌(pleural effusion adenocarcinoma)から単離された。BT-474は、固形浸潤性乳管癌から単離された。MDA-MB-453細胞株は、転移性乳癌を有する癌患者の浸出液から得られた。MDA-MB-361細胞株は、乳癌患者からの脳転移(腺癌)から単離された。MDA-MB-468細胞株は、転移性乳癌を有する女性患者の胸水から単離された。MDA-MB-231細胞株は、乳腺の胸水腺癌から得られた。MCF-10FおよびMCF-10A細胞株は正常対照として使用することができる。これらの細胞株は、線維嚢胞症患者の乳腺(乳房)から得られた。これらは、上皮シアロムチン陽性の非腫瘍形成性上皮細胞株である。または、BioWhittaker Incから市販されている、正常乳房に由来するヒト細胞からのならし培地を正常対照として使用することができる。これらの乳癌細胞株に由来するオリゴ糖マーカーを特定し、乳癌に特異的なオリゴ糖マーカーおよび卵巣癌に特異的なオリゴ糖マーカーを決定することができる。従って、乳癌と卵巣癌を区別するために、別個のオリゴ糖マーカーセットを使用することができる。
【0142】
実施例8.ヒト血清に由来するオリゴ糖の特定
本実施例は、正常個体の血清、ならびにCA125レベルの低い個体(群I)、CA125レベルの高い個体(群IIおよびIII)、ならびにCA125レベルの極めて高い個体(Lim6)に由来する血清からのオリゴ糖の特定を示す。
【0143】
図13は、正常試料(A)、群III試料(B)、およびLim6試料(C)からのO結合型オリゴ糖についての、PGCカートリッジから20%アセトニトリルによって溶出された画分の質量スペクトル(ポジティブモード)を示す。O結合型オリゴ糖はNaBH4/NaOH処理によって放出され、中性、シアリル化(NeuAc)、NeuGc、または硫酸化オリゴ糖として分類することができる。各試料の分析において内部標準(m/z1040)を含めた。
【0144】
図14は、正常(A)、群I(B)、群II(C)、群III(D)、およびLim6(E)血清試料において特定された各クラスのO結合型オリゴ糖のパーセントを示す。図14Aと図14Bを比較すると、NeuAc含有オリゴ糖に対するNeuGc含有オリゴ糖の比が群I試料において増加していることが明らかになる。しかしながら、群I試料では硫酸化オリゴ糖のパーセントは減少している。群I試料は、初期卵巣癌を示す、CA125レベルの低い個体から得られた。図14Aと図14Cおよび14Dを比較すると、群IIおよび群III試料においてNeuGc/NeuAcオリゴ糖比が同様に増加し、硫酸化オリゴ糖のパーセントが減少していることが明らかになる。群IIおよび群III試料は、末期卵巣癌を示す、CA125レベルの高い個体から得られた。さらに、図14Aと図14Eを比較すると、Lim6試料においてNeuGc/NeuAcオリゴ糖比が同様に増加し、硫酸化オリゴ糖のパーセントが減少していることが明らかになる。Lim6試料は、CA125レベルの極めて高い個体から得られた。
【0145】
実施例9.卵巣癌に特異的なオリゴ糖マーカーの特定
本実施例は、CA125レベルの低い個体(群I)、CA125レベルの高い個体(群IIおよびIII)、またはCA125レベルの極めて高い個体(Lim6)に特異的なオリゴ糖マーカーの特定を示す。
【0146】
表5は、群I、群II/III、およびLim6に特異的な硫酸化O結合型オリゴ糖マーカのm/z比を示す。このようなマーカーは正常個体では見られない。例えば、m/z比981、1006、1038、1119、および1468の硫酸化オリゴ糖マーカーの存在ならびにm/z比510および1168の硫酸化オリゴ糖マーカーの非存在が群I試料(すなわち、低いCA125レベルと初期卵巣癌)を示している。しかしながら、前述の硫酸化オリゴ糖マーカーが全て存在することが群II/III試料(すなわち、高いCA125レベルと末期卵巣癌)を示している。m/z比1006の硫酸化オリゴ糖マーカーしか存在しないことがLim6試料(すなわち、極めて高いCA125レベル)を示している。表6は、表5に記載のそれぞれの硫酸化オリゴ糖マーカーのオリゴ糖組成、分子量、および観察質量を示す。図15は、これらの硫酸化オリゴ糖マーカーのうちの4つの、タンデムMSを用いて決定された基本構造を示す。従って、この硫酸化O結合型オリゴ糖マーカーのパターンを用いて、個体におけるCA125レベルおよび卵巣癌のステージを決定することができる。
【0147】
(表5)卵巣癌に特異的な硫酸化O結合型オリゴ糖マーカー

「+」はマーカーの存在を示す。「-」はマーカーの非存在を示す。「正常(A)」は、卵巣癌を有さない4人の女性の群である。「正常(B)」は男性である。
【0148】
(表6)卵巣癌に特異的な硫酸化O結合型オリゴ糖マーカーの組成

【0149】
表7は、群I、群II/III、およびLim6に特異的なNeuAc含有O結合型オリゴ糖マーカーのm/z比を示す。このようなマーカーは正常個体では見られない。例えば、m/z比721、908、および1045のNeuAc含有オリゴ糖マーカーの存在ならびにm/z比883、925、および1566のNeuAc含有オリゴ糖マーカーの非存在が群I試料(すなわち、低いCA125レベルと初期卵巣癌)を示している。しかしながら、前述のNeuAc含有オリゴ糖マーカーが全て存在することが群II/III試料(すなわち、高いCA125レベルと末期卵巣癌)を示している。m/z比721および1045のNeuAc含有オリゴ糖マーカーしか存在しないことがLim6試料(すなわち、極めて高いCA125レベル)を示している。表8は、表7に記載のそれぞれのNeuAc含有オリゴ糖マーカーのオリゴ糖組成、分子量、および観察質量を示す。図16は、これらのNeuAc含有オリゴ糖マーカーのうちの4つの、タンデムMSを用いて決定された基本構造を示す。従って、このNeuAc含有O結合型オリゴ糖マーカーのパターンを用いて、個体におけるCA125レベルおよび卵巣癌のステージを決定することができる。
【0150】
(表7)卵巣癌に特異的なNeuAc含有O結合型オリゴ糖マーカー

「+」はマーカーの存在を示す。「-」はマーカーの非存在を示す。「正常(A)」は、卵巣癌を有さない4人の女性の群である。「正常(B)」は男性である。
【0151】
(表8)卵巣癌に特異的なNeuAc含有O結合型オリゴ糖マーカーの組成

【0152】
表9は、群I、群II/III、およびLim6に特異的なNeuGc含有O結合型オリゴ糖マーカーのm/z比を示す。このようなマーカーは正常個体では見られない。例えば、m/z比899、981、および1045のNeuGc含有オリゴ糖マーカーの存在ならびにm/z比883、925、および1628のNeuGc含有オリゴ糖マーカーの非存在が群I試料(すなわち、低いCA125レベルと初期卵巣癌)を示している。しかしながら、前述のNeuGc含有オリゴ糖マーカーが全て存在することが群II/III試料(すなわち、高いCA125レベルと末期卵巣癌)を示している。m/z比899および1045のNeuGc含有オリゴ糖マーカーしか存在しないことがLim6試料(すなわち、極めて高いCA125レベル)を示している。表10は、表9に記載のそれぞれのNeuGc含有オリゴ糖マーカーのオリゴ糖組成、分子量、および観察質量を示す。図17は、これらのNeuGc含有オリゴ糖マーカーのうちの4つの、タンデムMSを用いて決定された基本構造を示す。従って、このNeuGc含有O結合型オリゴ糖マーカーのパターンを用いて、個体におけるCA125レベルおよび卵巣癌のステージを決定することができる。
【0153】
(表9)卵巣癌に特異的なNeuGc含有O結合型オリゴ糖マーカー

「+」はマーカーの存在を示す。「-」はマーカーの非存在を示す。「正常(A)」は、卵巣癌を有さない4人の女性の群である。「正常(B)」は男性である。
【0154】
(表10)卵巣癌に特異的なNeuGc含有O結合型オリゴ糖マーカーの組成

【0155】
表11は、群I、群II/III、およびLim6に特異的な中性O結合型オリゴ糖マーカーのm/z比を示す。このようなマーカーは正常個体では見られない。例えば、m/z比741、756、855、1018、1024、1040、1107、および1243の中性オリゴ糖マーカーの存在ならびにm/z比538、862、1262、1431、および1487の中性オリゴ糖マーカーの非存在が群I試料(すなわち、低いCA125レベルと初期卵巣癌)を示している。しかしながら、前述の中性オリゴ糖マーカーが全て存在することが群II/III試料(すなわち、高いCA125レベルと末期卵巣癌)を示している。m/z比855、1040、および1107の中性オリゴ糖マーカーしか存在しないことがLim6試料(すなわち、極めて高いCA125レベル)を示している。表12は、表11に記載のそれぞれの中性オリゴ糖マーカーのオリゴ糖組成、分子量、および観察質量を示す。図18は、これらの中性オリゴ糖マーカーのうちの3つの、タンデムMSを用いて決定された基本構造を示す。従って、この中性O結合型オリゴ糖マーカーのパターンを用いて、個体におけるCA125レベルおよび卵巣癌のステージを決定することができる。
【0156】
(表11)卵巣癌に特異的な中性O結合型オリゴ糖マーカー

「+」はマーカーの存在を示す。「-」はマーカーの非存在を示す。「正常(A)」は、卵巣癌を有さない4人の女性の群である。「正常(B)」は男性である。
【0157】
(表12)卵巣癌に特異的な中性O結合型オリゴ糖マーカーの組成

【0158】
実施例10.さらなる卵巣癌オリゴ糖マーカーの特定
本実施例は、卵巣癌を有する個体に特異的なさらなるオリゴ糖マーカーの特定を示す。
【0159】
本発明の方法に従って、ヒト血清からのオリゴ糖のMALDI-FTMS質量スペクトルを得た。表13は、特定されたヘキソース(Hex)含有O結合型オリゴ糖マーカーの観察質量(m/z)およびオリゴ糖組成を示す。図19は、これらのオリゴ糖(Na+に配位結合している)の質量スペクトルを示す。
【0160】
(表13)卵巣癌に特異的なHex含有O結合型オリゴ糖マーカーの組成

観察されたイオンは全て[M-H2O+Na] +に対応する。「Hex」=ヘキソース。「HexNAc」=N-アセチルヘキソサミン。「Hex」=アセチルヘキソース(すなわち、アセチル基によって修飾されたヘキソース)。
【0161】
表14は、特定されたヘキスロン酸(HexA)含有O結合型オリゴ糖マーカーの観察質量(m/z)およびオリゴ糖組成を示す。図20は、これらのオリゴ糖の質量スペクトルを示す。ここで、黒丸が付いているシリーズは、表14のm/z616.9696、814.9582、1012.9677、1210.9767、および1408.9649に対応する。これらのオリゴ糖はNa+と配位結合している。しかしながら、当業者であれば、ナトリウムがヘキスロン酸の水素原子に取って代わって、22質量単位離れたサテライトピークを生じることを理解するだろう。
【0162】
(表14)卵巣癌に特異的なHexA含有O結合型オリゴ糖マーカーの組成

隣接するピーク間の質量差は、1個のヘキスロン酸(HexA)基と1個のナトリウムに正確に等しい。(Δm=198)。
【0163】
本明細書で引用された全ての刊行物および特許出願は、それぞれ個々の刊行物または特許出願が参照として組み入れられるように詳細かつ個々に示されるように参照として本明細書に組み入れられる。前記の発明は、理解しやすいように図および実施例によって詳細に説明されたが、本発明の開示を考慮すれば、添付の特許請求の範囲の精神または範囲から逸脱することなく、ある特定の変更および修正が本発明に対して可能なことは当業者に容易に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】O結合型オリゴ糖において見られる公知のコア構造を示す。
【図2】N-アセチルノイラミン酸(NeuAc)およびN-グリコリルノイラミン酸(NeuGc)の構造を示す。
【図3】MALDI-FTMSのためにO結合型オリゴ糖を選択的に放出および単離するための手順を概説するフローチャートを示す。
【図4】10%アセトニトリルによって溶出されたOVCAR-3由来O結合型オリゴ糖のポジティブ(A)およびネガティブ(B)MALDI-FTMS質量スペクトルを示す。
【図5】40%アセトニトリルによって溶出されたOVCAR-3由来O結合型オリゴ糖のポジティブMALDI-FTMS質量スペクトルを示す。
【図6】1HexNAc:1NeuGc(m/z529.122)に対応する組成を有するNeuGc含有イオン種のMALDI-FTMS質量スペクトル(挿入図)およびIRMPDスペクトルを示す。
【図7】NeuAc含有イオンm/z902.322のIRMPDスペクトルを示す。
【図8】4種類の卵巣癌細胞株の中性、硫酸化、NeuAc、およびNeuGc O結合型オリゴ糖の分布を示す。
【図9】20%アセトニトリルによって溶出された、卵巣癌患者血清に由来するO結合型オリゴ糖のネガティブMALDI-FTMS質量スペクトルを示す。
【図10】40%アセトニトリルによって溶出された、卵巣癌患者血清に由来するO結合型オリゴ糖のポジティブMALDI-FTMS質量スペクトルを示す。
【図11】Pro Q Emerald 300(A)またはSypro Ruby(B)で染色された4種類の卵巣癌細胞株それぞれに由来するタンパク質の1-Dゲル分離の結果を示す。
【図12】CaOV-3から単離された硫酸化O結合型オリゴ糖のMALDI-FTMS質量スペクトル(A)およびIRMPDスペクトル(B)を示す。
【図13】20%アセトニトリルによって溶出された、正常試料(A)、群III試料(B)、およびLim6試料(C)に由来するO結合型オリゴ糖のポジティブMALDI-FTMS質量スペクトルを示す。
【図14】正常(A)、群I(B)、群II(C)、群III(D)、およびLim6(E)血清試料において特定された各クラスのO結合型オリゴ糖のパーセントを示す。
【図15】4種類の硫酸化O結合型オリゴ糖癌マーカーの基本構造を示す。
【図16】4種類のNeuAc含有O結合型オリゴ糖癌マーカーの基本構造を示す。
【図17】4種類のNeuGc含有O結合型オリゴ糖癌マーカーの基本構造を示す。
【図18】3種類の中性O結合型オリゴ糖癌マーカーの基本構造を示す。
【図19】表13に列挙したオリゴ糖マーカーの質量スペクトルを示す。
【図20】表14に列挙したオリゴ糖マーカーの質量スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌に特異的なオリゴ糖を特定するための方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)癌細胞株または癌を有する個体に由来する試料である試験試料から、オリゴ糖を選択的に放出する工程;
(b)マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)-フーリエ変換質量分析(FTMS)を用いて、オリゴ糖の質量スペクトルを該試験試料から得る工程;および
(c)該試験試料からの質量スペクトルと対照試料からの質量スペクトルを比較する工程、
ここで、癌に特異的な該オリゴ糖は、独特のオリゴ糖が該試験試料からの質量スペクトルに存在することによって特定される。
【請求項2】
独特のオリゴ糖が、O結合型オリゴ糖、N結合型オリゴ糖、遊離オリゴ糖、およびその組み合わせからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
独特のオリゴ糖を赤外多光子解離(IRMPD)にかける工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
独特のオリゴ糖をエキソグリコシダーゼで消化する工程をさらに含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
癌が腺癌である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
腺癌が卵巣癌または乳癌である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
試験試料がならし培地または血清である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
対照試料が、正常細胞株または癌を有さない個体に由来する試料である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
対照試料がならし培地または血清である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
独特のオリゴ糖が、硫酸化オリゴ糖、N-アセチルノイラミン酸(NeuAc)含有オリゴ糖、N-グリコリルノイラミン酸(NeuGc)含有オリゴ糖、中性オリゴ糖、ヘキソース(Hex)含有オリゴ糖、ヘキスロン酸(HexA)含有オリゴ糖、およびその組み合わせからなる群より選択されるO結合型オリゴ糖である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
請求項1記載の方法によって特定された独特のオリゴ糖に特異的に結合する抗体。
【請求項12】
さらに、検出可能な標識が取り付けられている、請求項11記載の抗体。
【請求項13】
治療的有効量の請求項11記載の抗体を、癌の治療を必要とする個体に投与する工程を含む、癌の治療を必要とする個体において癌を治療するための方法。
【請求項14】
個体における癌の系統を決定するための方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)該個体に由来する試料から選択的に放出されたオリゴ糖の質量スペクトルを、MALDI-FTMSを用いて得る工程;および
(b)該試料からの質量スペクトルと、少なくとも1種類の公知の癌の系統からの質量スペクトルプロファイルを比較する工程、
ここで、該癌の系統は、該試料からの質量スペクトルと、公知の癌の系統の1つからの質量スペクトルプロファイルの類似性によって決定される。
【請求項15】
癌の系統が、卵巣癌または乳癌の系統である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
個体における癌を診断するための方法であって、以下の工程を含む方法:
該個体に由来する試料における独特のオリゴ糖の存在または非存在を検出する工程であって、該独特のオリゴ糖の存在は該個体が癌を有することを示す、工程。
【請求項17】
独特のオリゴ糖が、O結合型オリゴ糖、N結合型オリゴ糖、遊離オリゴ糖、およびその組み合わせからなる群より選択される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
検出する工程が、
(a)試料から選択的に放出されたオリゴ糖の質量スペクトルを、MALDI-FTMSを用いて得る工程;および
(b)質量スペクトルにおける独特のオリゴ糖の存在を決定する工程
を含む、請求項16記載の方法。
【請求項19】
検出する工程が、独特のオリゴ糖に特異的に結合する抗体を試料と接触させる工程を含む、請求項16記載の方法。
【請求項20】
個体における癌を診断するための方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)該個体に由来する試料から選択的に放出されたオリゴ糖の質量スペクトルを、MALDI-FTMSを用いて得る工程;および
(b)該試料からの質量スペクトルと対照試料からの質量スペクトルを比較する工程、
ここで、該試料におけるNeuAc含有O結合型オリゴ糖に対するNeuGc含有O結合型オリゴ糖の比が該対照試料と比べて高いことは、該個体が癌を有することを示す。
【請求項21】
癌が腺癌である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
腺癌が卵巣癌または乳癌である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
対照試料が、正常細胞株または癌を有さない個体に由来する試料である、請求項20記載の方法。
【請求項24】
試料が血清である、請求項20記載の方法。
【請求項25】
個体における癌を診断するための方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)該個体に由来する試料から選択的に放出されたオリゴ糖の質量スペクトルを、MALDI-FTMSを用いて得る工程;および
(b)該試料からの質量スペクトルと対照試料からの質量スペクトルを比較する工程、
ここで、該試料における硫酸化O結合型オリゴ糖のパーセントが該対照試料と比べて低いことは、該個体が癌を有することを示す。
【請求項26】
癌が腺癌である、請求項25記載の方法。
【請求項27】
腺癌が卵巣癌または乳癌である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
対照試料が、正常細胞株または癌を有さない個体に由来する試料である、請求項25記載の方法。
【請求項29】
試料が血清である、請求項25記載の方法。
【請求項30】
個体における癌を診断するための方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)該個体に由来する試料から選択的に放出されたオリゴ糖の質量スペクトルを得る工程;および
(b)質量スペクトルにおける、硫酸化オリゴ糖、N-アセチルノイラミン酸(NeuAc)含有オリゴ糖、N-グリコリルノイラミン酸(NeuGc)含有オリゴ糖、中性オリゴ糖、ヘキソース(Hex)含有オリゴ糖、ヘキスロン酸(HexA)含有オリゴ糖、およびその組み合わせからなる群より選択される癌マーカーの存在または非存在を決定する工程、
ここで、該癌マーカーの存在は該個体が癌を有することを示す。
【請求項31】
癌が腺癌である、請求項30記載の方法。
【請求項32】
腺癌が卵巣癌または乳癌である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
試料が血清である、請求項30記載の方法。
【請求項34】
硫酸化オリゴ糖が、

およびその組み合わせからなる群より選択される組成を有する、請求項30記載の方法。
【請求項35】
NeuAc含有オリゴ糖が、

およびその組み合わせからなる群より選択される組成を有する、請求項30記載の方法。
【請求項36】
NeuGc含有オリゴ糖が、

およびその組み合わせからなる群より選択される組成を有する、請求項30記載の方法。
【請求項37】
中性オリゴ糖が、

およびその組み合わせからなる群より選択される組成を有する、請求項30記載の方法。
【請求項38】
Hex含有オリゴ糖が、

およびその組み合わせからなる群より選択される組成を有する、請求項30記載の方法。
【請求項39】
HexA含有オリゴ糖が、

およびその組み合わせからなる群より選択される組成を有する、請求項30記載の方法。
【請求項40】
個体における癌のステージを診断するための方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)該個体に由来する試料から選択的に放出されたオリゴ糖の質量スペクトルを得る工程;
(b) 質量スペクトルにおける

およびその組み合わせからなる群より選択される第1の癌マーカーの存在または非存在を決定する工程;および
(c) 質量スペクトルにおける

およびその組み合わせからなる群より選択される第2の癌マーカーの存在または非存在を決定する工程、
ここで、該第1の癌マーカーの存在および該第2の癌マーカーの非存在は該個体が初期癌を有することを示し、該第2の癌マーカーの存在は該個体が末期癌を有することを示す。
【請求項41】
初期癌が初期卵巣癌である、請求項40記載の方法。
【請求項42】
初期卵巣癌が低いCA125レベルと関連する、請求項41記載の方法。
【請求項43】
末期癌が末期卵巣癌である、請求項40記載の方法。
【請求項44】
末期卵巣癌が高いCA125レベルと関連する、請求項43記載の方法。
【請求項45】

およびその組み合わせからなる群より選択される組成を有するO結合型オリゴ糖を含む癌マーカー。
【請求項46】
請求項45記載のO結合型オリゴ糖に特異的に結合する抗体。
【請求項47】
さらに、検出可能な標識が取り付けられている、請求項46記載の抗体。
【請求項48】
検出可能な標識が、フルオレセイン、ローダミン、テキサスレッド、Cy2、Cy3、Cy5、ビオチン、西洋ワサビペルオキシダーゼ、およびアルカリホスファターゼからなる群より選択される、請求項47記載の抗体。
【請求項49】
治療的有効量の請求項46記載の抗体を、癌の治療を必要とする個体に投与する工程を含む、癌の治療を必要とする個体において癌を治療するための方法。
【請求項50】
固体支持体に固定化された請求項45記載の複数のO結合型オリゴ糖を含む、オリゴ糖アレイ。
【請求項51】
固体支持体が、紙、膜、フィルター、チップ、ピン、およびガラスからなる群より選択される、請求項50記載のアレイ。
【請求項52】
個体における癌を診断するためのキットであって、以下を含むキット:
(a)請求項50記載のアレイ;
(b)該アレイ上の複数のO結合型オリゴ糖に特異的に結合する複数の抗体;および
(c)該アレイおよび該複数の抗体を該個体に由来する試料と共に使用するための説明書。
【請求項53】
複数の抗体に、検出可能な標識が取り付けられている、請求項52記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公表番号】特表2008−504525(P2008−504525A)
【公表日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−518239(P2007−518239)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/022079
【国際公開番号】WO2006/002243
【国際公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(592130699)ザ・レジェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】