発光微生物固定化チップ及びそれを用いる有機汚染、環境測定方法
【課題】 発光微生物アレイ化チップを用いて、簡便で迅速に、かつオンサイトでBODを測定することができる発光微生物固定化チップ及びそれを用いる河川、湖沼、海洋、排水における有機汚染測定方法を提供すること。
【解決手段】 基板上に微小ホール又は凹凸構造を複数箇穿設するとともに、有機物を除いた培養溶液中でレスティング処理を施した海洋性Photobacterium species の発光微生物をシリカゲルと混合した後、前記微小ホール又は凹凸構造に包理・固定化してなる発光微生物固定化チップ及びこの発光微生物固定化チップを2℃〜5℃の温度域で保存した後、8℃〜18℃の温度域で2時間以内の微生物再活性化処理を施し、然る後、試料液を前記発光微生物固定化チップの微小ホール又は凹凸構造に滴下し、20分間以内の発光量を測定する。
【解決手段】 基板上に微小ホール又は凹凸構造を複数箇穿設するとともに、有機物を除いた培養溶液中でレスティング処理を施した海洋性Photobacterium species の発光微生物をシリカゲルと混合した後、前記微小ホール又は凹凸構造に包理・固定化してなる発光微生物固定化チップ及びこの発光微生物固定化チップを2℃〜5℃の温度域で保存した後、8℃〜18℃の温度域で2時間以内の微生物再活性化処理を施し、然る後、試料液を前記発光微生物固定化チップの微小ホール又は凹凸構造に滴下し、20分間以内の発光量を測定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光微生物によって水中の生物資化性有機汚染を測定するための発光微生物固定化チップ及びそれを用いる有機汚染、環境測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境汚染の大きな部分として、河川、湖沼、海洋の水質汚染がある。これらの汚染の問題を解決する手段として、物理的な直接除去や化学物質を用いる処理、微生物を用いる浄化処理などがある。これらの浄化処理を行うために、水質汚染の状況を正確かつ簡便に把握する手段が必要となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
水質汚染状況を把握する手段として、クロマトグラフィーやマススペクトログラフィー、分光分析などがある。これらの手段は低濃度の有機成分を高い精度で測定できるけれども、多検体、多項目の検出が難しくまた、分析機器が高価でありさらに、オンサイトでの測定が困難である問題がある。
【0004】
一方、水の有機汚染測定の公定法として、COD(Chemical Oxygen Demand:化学的酸素要求量)、TOC(Total Organic Carbon:全有機炭素量)、BOD(Biochemical Oxygen Demand:生物化学的酸素要求量)を測定する方法がある。CODは、水中の還元性有機物を一定の酸化条件で反応させ、それに要する酸化剤の量を当量酸素量(O2mg/dm3)に換算して表すものである。通常、酸化剤として過マンガン酸カリウムを、酸化条件としては酸性、100℃、30分間の値を用いる。しかしながら、水中の還元性有機物が酸化される速度が、酸化剤や還元性有機物の種類や濃度、反応温度、pHによって差がでることが多い。また、再現性を得るためには、反応初期および反応終了時の酸化剤の濃度、反応温度、反応時間などの測定条件を一定化する必要がある。
【0005】
TOCは、被検水中に含まれる有機物の全てを燃焼により酸化させ、主要構成成分である炭素の量で示したものであり、有機物中の炭素の燃焼によって生じた二酸化炭素を赤外吸収法によって定量する方法が一般的である。しかし、この方法によるときは装置が大型かつ高価であり、同時、多試料分析には向いていない。
【0006】
BODは生物化学的酸素消費量または生化学的酸素要求量ともいわれ、水質汚染の指標の1つである。好気性微生物が好気的条件下で一定時間内に水中の有機物を分解するのに消費する溶存酸素量のことであり、排水や河川の水中の生物分解性有機物の量に対応する。水を密閉容器に入れ必要ならば微生物群を添加した後、通常、20℃で5日間保存してその間の溶存酸素の減少量を測り、これをO2mg/dm3で表しBOD5とする。しかしながら、この方法は5日間と長時間を要するため、環境水域の水質や工場廃水或いは水処理施設のような流動的な状況下での管理指標として用いるのは困難である。
【0007】
そこで、幅広い炭素源に対する資化能を有する微生物(Trichosporon cutaneum
IFO10466 )と酸素電極を用いて溶存酸素量の測定を行うBODS法が開発された。BODS法はBOD5法に比し迅速な測定が可能であり、試料水を添加した溶液に微生物固定化膜を装着した酸素電極を入れ、電流変化を読み取るだけでBODの測定を行える。しかしながら、酸素電極に装着する微生物の固定化方法や固定化した微生物の活性化に高い技術を必要とし、多試料分析やオンサイトでの測定が困難である。
【0008】
これら従来技術における問題を解決すべく、発明者らの1人は、微生物発光によって水中の生物資化性有機汚染を測定するチップ有機汚染計測システムを提案した(特許文献1参照)。しかしながら、この技術においては、BOD測定に耐え得るチップ又はシートの保存期間は4日間であり、4日間以内にあってもチップからの発光は5分間程度で完全に消滅する。また、発光を測定するために化学発光測定装置(ケミイメージャー)を必要とし、この装置で発光を測定、積分する必要があった。而して、オンサイトでの測定にあっては、微生物株、微生物固定化素材、保存期間、チップ又はシートからの発光強度、発光計測装置の諸点で解決すべき課題があった。
【特許文献1】特開2004−093196号公報
【0009】
本発明は、発光微生物アレイ化チップ又はシートを用いて、簡便にオンサイトでBODを測定することができる発光微生物固定化チップ又はシート及びそれを用いる河川、湖沼、海洋、排水における有機汚染及び環境測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、基板又はシート上に微小ホール又は凹凸構造を複数箇穿設するとともに、有機物を除いた培養溶液中でレスティング処理を施した海洋性Photobacterium species の発光微生物をシリカゲルと混合した後、前記微小ホール又は凹凸構造に包理・固定化してなる発光微生物固定化チップ又はシートである。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発光微生物固定化チップ又はシートを2℃〜5℃の温度域で保存した後、BOD測定に臨んで8℃〜18℃の温度域で2時間以内の微生物再活性化処理を施し、然る後、試料液を前記発光微生物固定化チップ又はシート上の微小ホール又は凹凸構造に滴下し、20分間以内の発光量を測定するようにしたことを特徴とする発光微生物固定化チップ又はシートによる有機汚染及び環境測定方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、極微量(約10μl)の試料から容易かつ試料採取、発光微生物の再活性化処理、インキュベート、データ処理時間を合わせて約1時間以内という迅速さで、多試料のBOD測定ができる。本発明の発光微生物固定化チップ又はシートを用いる簡易測定システムによって、オンサイトでのハイスループットなBOD測定が可能となった。
【0013】
また、本発明によるときはきわめて短時間内に測定が可能である処から、藻類の影響を受けることなく海水のBOD測定を正確に行うことができる。さらに、止水域でのBOD測定が可能である。一方、発光が減少若しくは阻害されることを検出して毒物の検出ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明において、基板とはシートを包含するものである。従って、発光微生物固定化チップは発光微生物固定化シートを含む。
本発明は、有機物を除いた培養溶液中でレスティング処理を施した海洋性Photobacterium species の発光微生物をシリカゲルによって基板上の微小ホール又は凹凸構造に包理・固定化してなる発光微生物固定化チップ又はシートを得ることならびに、この発光微生物固定化チップ又はシートを2℃〜5℃の温度域で保存した後、BOD測定に臨んで8℃〜18℃の温度域で2時間以内の微生物再活性化処理を施し、試料液を発光微生物固定化チップ又はシートの微小ホール又は凹凸構造に滴下し20分間以内の発光量を測定することからなる。
以下、本発明をその好ましい実施形態に則して詳細に説明する。
【実施例】
【0015】
(基板又はシート上への微小ホール又は凹凸構造穿設)
アクリル基板(3cm×7cm×0.2cm厚さ)上に、直径:1000μm、深さ:1000μm、各ホール間:5mmの微小ホールを9箇穿設した。これら微小ホールに発光微生物の包理・固定化を行った。
【0016】
(基板又はシート上の微小ホール又は凹凸構造への発光微生物の包理・固定化)
先ず、発光微生物として発光細菌Photobacterium phosphoreum IFO13896株を用いた。この発光細菌を初発菌体濃度が106cells/mlとなるように調節して培養した。培養には、一般的な発光菌培養地である、表1に示すATCCculture medium No.1163を用い、振盪条件:25℃、120rpmで培養を行った。また、実験に使用する発光細菌は、培養令を一定化させ発光強度が最大となるよう、対数増殖後期にあたる植菌後約15時間後の液体培地を採取して使用した。
【0017】
一方、各濃度のBOD標準溶液を作製した。表1に示すATCCculture medium No.1163から炭素源であるPeptone, Yeast extract を除いた培地にグルコース、グルタミン酸をそれぞれ150mg/lの濃度で添加し、pH7.4に調整後、オートクレーブ処理(120℃、2atm、10分間)によって滅菌した。得られた溶液のBOD値を220ppmとした。この濃度を基準として、炭素源を除いた増殖培地を加え希釈することによって各濃度のBOD標準溶液を作製した。また、標準液として用いる際には、各濃度のBOD標準溶液をそれぞれ乾熱滅菌処理(150℃、30分間)を行った20mlバイアル瓶に10mlずつ分注し、ブチル瓶とアルミシールを用いて密栓後、酸素ガスによるバブリング処理を2分間行った。こうして調整されたBOD標準溶液を、検量線の作成などに使用した。
【0018】
【表1】
【0019】
発明者らは、特開2004−093196号にて開示したアルギン酸ナトリウムに代わる発光細菌固定化担体を検討すべく、無機系固定化担体であるシリカゲルを発光細菌固定化担体として検討した。固定化剤として、発光細菌の増殖培地である表1に示すATCCculture medium No.1163から炭素源であるPeptone, Yeast extract を除いた溶液(固定化溶液)10mlに1N塩酸溶液2.9mlとコロイダルシリカ40mlを添加した後、ドライオーブンで乾燥(50℃、24時間)し粉末状としたものを発光菌体固定化用シリカゲルとして用いることとした。シリカゲルは乾燥に強く、無機担体であるため劣化や分解の少ない材料である。また、微生物の保存という観点からも、発光遺伝子組み換え大腸菌(Escherichia coli )をシリカゲルによって固定化したところ約2ヶ月の保存ができた実例もある。
【0020】
また、菌体包理用シリカゲルを発光微生物固定化チップに固定化した後、固定化担体に対する保温、固定化菌体の安定化のために寒天ゲルを利用した。固定化溶液100mlに0.5gの細菌培養用寒天(Wako:010−08725)を溶かし0.5%(wt/vol)寒天溶液を作製した。シリカゲルと、この寒天溶液を用いて発光細菌保存用チップを作製した。
【0021】
培養令を調節した発光細菌の培養液を遠心分離して菌体ペレットを作製した。このペレットを洗浄し上澄みを除いて固定化用のシリカゲル25μgを加え、滅菌済み木製スティック(爪楊枝)を用いて発光菌体と混合した。溶液が十分ゲル化したことを確認して、この混合ゲルをアクリルチップ上の微小ホールに木製スティック(爪楊枝)を用いて充填した。発光菌体混合シリカゲルを固定化した発光微生物固定化チップに対して、上記0.5%寒天ゲル400μlを各微小ホールが覆われるように滴下した。滴下後、直ちにその上からカバーガラス(MATSUNAMI GLASS,24mm×24mm、厚さ0.12mm〜0.17mm)をチップ上のホールが全て覆われるように被せた。
【0022】
(発光微生物固定化チップ又はシートの保存)
カバーガラスで被覆された発光微生物固定化チップを冷蔵保存(2℃〜5℃)すべくプラスチックシャーレに入れ、パラフィンフィルムで周囲を密閉して冷蔵庫(4℃)で1日から8週間保存した。
【0023】
(発光微生物固定化チップ又はシートの再活性化および発光測定)
一定期間冷蔵保存(2℃〜5℃、好ましくは4℃±1℃)した発光微生物固定化チップに対してBOD標準液を用いた発光測定を行うべく、発光微生物固定化チップの再活性化を行った。先ず、発光微生物固定化チップをシャーレから取り出し、カバーガラスを付けたままブロックヒータ(TAITEC,CTU−N)の加熱部位にセットした。然る後、13℃で20分間、発光微生物固定化チップをインキュベートして発光微生物を再活性化した。再活性化後、別の同形アクリル板を用いてカバーガラス、寒天ゲルを擦り切るようにして除去した。
【0024】
その後、予め酸素バブリングを2分間行っておいたBOD標準溶液(0,8,16ppm)を発光微生物固定化チップにおける微小ホールに1滴ずつ滴下し、図1に示す簡易測定システムを用いて発光の測定を行った(測定条件:ISO1600、露光時間2分間)。撮影したデータをパソコンに転送し、画像解析ソフトウエアScion Image を用いて発光強度を数値化した。
【0025】
発光微生物固定化チップからの発光の測定を、9×9に配列(アレイ)された微小ホールの任意の1列(3ホール)に同一BOD標準溶液を滴下して、この3ホールから得られた3つの発光データの平均値、標準偏差を求める手順で行った。また、発光微生物固定化チップにおけるロット間誤差を考慮するときは、別の発光微生物固定化チップから得られた3つのデータを加えた6つのデータから最大値と最小値を除いた4つのデータの平均値、標準偏差を求めた。
【0026】
これらの結果から、再活性化時間については、10分間から本発明の測定方法を用いて検出でき、20分間で発光が最大となった。25分間でも20分間と同等の発光が得られた。従って、再活性化(インキュベート)時間は、好ましくは20分間以上である。また、発光微生物固定化チップの冷蔵保存温度を常温(25℃)、冷凍(−20℃)、極低温(−80℃)として24時間保存した結果、どのような再活性化を行っても図1に示す簡易測定システムを用いての生物発光測定はできなかった。
【0027】
一方、発光微生物固定化チップの冷蔵保存温度を4℃(最適条件)として、再活性化温度を4℃、25℃、37℃(時間:各10分間〜25分間)として微生物発光を測定した処、微生物発光が極端に遅くなったり、BOD標準濃度に依存しない発光が検出されるかまたは、微弱発光しか得られずまた発光が安定せずに直ぐ消光してしまった。而して、本発明においては、発光微生物の再活性化温度は13℃±5℃である。
【0028】
(最適発光微生物の探索)
これまでの実験は、発光微生物として発光細菌Photobacterium phosphoreum IFO13896株を用いて行った。この発光微生物によってBODの簡易測定を行う場合、図2に示すように、発光が微弱でありBOD標準溶液滴下後約40分間で濃度間の発光差が認められなくなった。また、発光強度とBOD濃度間の有意差の不足、対応濃度レンジが狭いなどの問題もある。そこで、発明者らは発光細菌Photobacterium phosphoreum IFO13896株に代わる長期保存に適した発光微生物を探索することにした。
【0029】
(海洋魚貝類サンプルからの発光細菌のスクリーニング)
海洋由魚貝類、海水を採取し、実験に用いた。これらを接種試料として目的発光微生物のスクリーニング操作を行った。海洋魚類として、メバル(Sebastes inermis )、アジ(Trachurus japonicus )、サバ(Scomber japonicus )、カサゴ(Sebasticus marmoratus )、クサフグ(Takifugu niphobles)、マダイ(Pagrus major)、キス(Sillago japonica)、キュウセン(Halichoeres poecilopterus)、ホシササノハベラ(Pseudolabrus sieboldii)、クジメ(Hexagrammos agrammus)、アナゴ(Conger myriaster)の合計11種類の魚類を採取、収集した。また、海洋貝類として、タマキビ(Littorina brevicula)、オオクサズリガイ(Rhyssoplax komaiana)を採取、収集した。加えて、広島県呉市倉橋町鹿老渡の海岸から採取した海水、泥質を実験に供した。
【0030】
目的微生物の分離培地として、一般的な海洋発光細菌の増殖培地である、表1に示すATCCculture medium No.1163を用いた。収集した生物試料を分離培地に接種するために、海洋魚貝類の体表、エラ、食道に付着している粘液、内臓の内容物を、オートクレーブ処理(120℃、2atm、15分間)した滅菌綿棒を用いて表面を擦るようにして採取した。試料が付着した綿棒を、1000μlの分離培地が分注されたエッペンドルフチューブ内で懸濁し、付着物を分離培地溶液に混合した。これらの懸濁、混合液100μlを採取し、分離培地の寒天プレート(1.5%agar (wt/vol))上に塗布した。
【0031】
その後、このプレートを25℃で1日〜3日間静置培養し、形成されたコロニーからの発光を暗所で観察した。発光が確認されたコロニーに対して、プレート容器外部表面から油性マジックでマーキングしてプレート上のコロニーの位置を明確にした後、当該コロニーを白金耳で採取して寒天培地(1.5%agar (wt/vol))に線画した。この線画操作を5回〜6回繰り返し、目的菌株を純化した。なお、コロニー形成が極端に多いプレートについては、採取したコロニーを再度分離培地で10倍〜1000倍に希釈してから新しいプレートに植菌(100μl)して、再度コロニーの形成を行った。その後、上記と同様の操作を行って単一株を獲得した。純化されたコロニー株に対して、20mlの分離培地を分注した50mlの三角フラスコで好気条件下に液体振盪培養(25℃、120rpm)を行い、培養液からの生物発光を観察した。その結果、段落0029に記載した海洋魚類の体表、食道、内臓の内容物などから表2に示す55株の発光細菌の純化株を獲得できた。
【0032】
【表2】
【0033】
(発光細菌分離株の選抜)
プレート法を用いた海洋試料から新たに分離された発光細菌株(55株)について、発光能が高い株の選抜を行った。分離株は全て20mlの分離培地を分注した50mlの三角フラスコに植菌後、好気条件下に液体振盪培養(25℃、120rpm)を行った。この培養液について、植菌から12時間後の発光の強さを目視で比較し、発光が強いものを選抜し発光微生物固定化チップに供する発光微生物の候補として以後の実験に用いた。
【0034】
その結果、広島県呉市倉橋町付近の海から得られたアジ(Trachurus japonicus )体表由来のAT−1株、福岡県福岡市西区唐泊港の海から得られたキュウセン(Halichoeres poecilopterus)内蔵由来のKN−5株、広島県呉市倉橋町付近の海から得られたメバル(Sebastes inermis )内蔵由来のMN−2株の3株について、安定した生育と強い生物発光が観察された。この3株についてシリカゲルによる発光微生物固定化チップを作製することにした。
【0035】
(選抜菌株を用いた発光微生物固定化チップ又はシートの作製)
選抜された発光細菌(AT−1株、KN−5株、MN−2株)を表1に示す増殖培地に初期菌体濃度が106cells/mlとなるように調節して植菌し、好気条件下に液体振盪培養(25℃、120rpm)を行った。最大発光条件に相当する対数増殖期後期にあたる、植菌から約12時間後の培養液をエッペンドルフチューブに採取した。その後、遠心分離(TOMYMX−301、4℃、15,000rpm、3分間)を行って菌体と培養液を分離した。上澄みを取り去った後、エッペンドルフチューブに培養液1.5mlを加え、同様に遠心分離して上澄みを取り除いた(合計3mlの培養液の菌体ペレットに相当)。このようにして作製した菌体ペレットに、炭素源を除いた表1に示す増殖培地を1.5ml加えて菌体を懸濁し、再度同様の遠心分離によって菌体を洗浄した。この洗浄操作を2度行い、エッペンドルフチューブ内に菌体ペレットを得た。
【0036】
このペレットにシリカゲル25μgを加え、滅菌済みの木製スティック(爪楊枝)を用いて菌体をシリカゲルによく混合した。溶液が十分にゲル化したことを確認して、この混合ゲルをアクリル基板に穿孔した微小ホールに滅菌済みの木製スティック(爪楊枝)を用いて菌体を充填した。この発光微生物固定化チップに0.5%寒天ゲル溶液400μlを滴下し、微小ホールが全て寒天ゲルで覆われるようにした。次いで、その上からカバーガラス(MATSUNAMI GLASS,24mm×24mm、厚さ0.12mm〜0.17mm)をチップ上のホールが全て覆われるように被せた。
【0037】
(発光微生物固定化チップ又はシートの保存及び再活性化)
カバーガラスで覆われた発光微生物固定化チップを冷蔵条件(2℃〜5℃)で保存すべくプラスチックシャーレに入れ、パラフィンフィルムで周囲を巻いて7日間保存した。保存した発光微生物固定化チップをシャーレから取り出し、カバーガラスを付けたままブロックインキュベータ(HAITEC,CTU−N)にセットした。発光微生物固定化チップを13℃、20分間の条件でインキュベートして、発光細菌を再活性化した。
【0038】
(微生物の発光及びその測定)
再活性化後、同形のアクリル板を用いてカバーガラスおよび寒天ゲルを擦り切るようにして除去した。次いで、予め酸素ガスで2分間バブリングしておいたBOD標準溶液(0,8,16ppm)を各微小ホールに1滴ずつ滴下し、図1に示す簡易測定システムを用いて発光の測定を行った(測定条件:ISO1600、露光時間2分間)。撮影したデータをフラッシュメモリーデバイスなどによってノート型パソコンに転送し、画像解析ソフトウエアScion Image を用いて数値化した。
【0039】
その結果、AT−1株、KN−5株、MN−2株の発光微生物固定化チップ全てにおいて、発光が観察された。AT−1株、MN−2株の発光微生物固定化チップについて、再活性化後BOD標準液を滴下してからの発光強度の経時変化を観察した処、図3に示すように、滴下後約15分間から20分間で発光微生物固定化チップからの発光が最大に達し、以後、ほぼ一定化しながら徐々に減衰していくことが確認できた。また、その最大値は、図3に示すように、16ppmのBOD標準液を滴下した場合、グレースケール値にして約75であり、0ppmと16ppm間の濃度に対する発光レンジはグレースケール値にして約45から30であった。
【0040】
KN−5株においても、前記2株と同様に、BOD標準液の滴下後から発光強度の上昇が観察され約10分間で最大に達し、その後一定化して徐々に消光していった。発光強度の最大値は、16ppmのBOD標準液を滴下した場合、図4に示すように、グレースケール値にして約125に達し、他の2株に比し強い生物発光が認められた。
【0041】
しかしながら、KN−5株において、BOD0ppmでの発光量が多いこと、0ppmと16ppm間の濃度に対する発光レンジがグレースケール値にして約25〜30であり、測定レンジが狭いという問題が判明した。
【0042】
一方、上記と同条件で作製した発光微生物固定化チップを2,3,4,8週間、冷蔵条件4℃で保存し、上記と同条件で再活性化してBOD標準溶液を用いた発光を行うとともにその測定を行って、3株の長期間保存について検討した。なお、BOD標準液滴下後の発光微生物固定化チップからの発光の経時変化の観察を、5分間隔でBOD標準溶液滴下後40分間の発光を測定し、各測定点についてISO1600、露光時間2分間の条件で発光微生物固定化チップからの発光を撮影した。その結果、KN−5株において、2,3,4,8週間の保存後においても、図5および図6に示すように、発光を観察できた。AT−1株、MN−2株においては、2週間〜8週間保存した発光微生物固定化チップからの発光は認められなかった。
【0043】
(レスティング法で処理した発光細菌を用いた発光微生物固定化チップ又はシートの作製)
KN−5株において、BOD0ppmでの発光量が多いこと、0ppmと16ppm間の濃度に対する発光レンジがグレースケール値にして約25〜30であり、測定レンジが狭いという問題が判明した。そこで発明者らは、有機物を含まない(0ppm)条件での微生物発光の抑制、発光強度と各BOD濃度間の有意差の拡大、濃度レンジの拡大を目的として、有機物質を含まない培地溶液で一定時間、菌体をインキュベートするレスティング処理を発光微生物固定化に供する菌体に施した。最終選抜菌株を段落0033において述べた条件で培養、遠心分離による集菌、洗浄を行い、次いでレスティング処理を行った。処理後、段落0034において述べた操作で菌体をシリカゲルで発光微生物固定化チップに固定化した。
【0044】
この発光微生物固定化チップを4℃で7日間保存し、その発光を観察した。その結果、図7に示すように、レスティング処理を行う時間が長いほど、BOD0ppmでの発光を抑制できることが判明した。また、BOD濃度間に対する発光レンジが拡がり、濃度に対する発光対応範囲を拡大できる効果を確認できた。レスティング処理を施さなかった場合に比し、0ppmと16ppm間の濃度に対する発光レンジが1.5倍〜2.5倍に拡大した。一方、最大発光強度については、1,3,6時間のレスティング処理を施した発光微生物固定化チップに16ppmのBOD標準液を滴下した場合、図7,図8に示すように、グレースケールにして130〜140の発光が安定して観察された。レスティング処理後の発光微生物固定化チップからの生物発光は、試料滴下後すぐに上昇し、約10分間から15分間で飽和に達し、その後、安定してゆっくり減衰していく。これらのことから、発光が安定する試料液滴下後20分間の発光値をBOD測定に用いることが好ましい。
【0045】
次に、最適レスティング処理時間については、12時間のレスティング処理を施した発光微生物固定化チップにおいて、0ppmと16ppm間のBOD濃度に対する発光レンジが、レスティング処理を施さない場合に比し約2.5倍に拡大していた。また、試料液滴下後20分間の場合、図4および図8に示すように、グレースケール値にしてその幅は20(レスティング処理を施さない場合)から65にまで拡大していた。また、測定誤差も縮小した。これらの結果から、レスティング処理時間は12時間が最も好ましいと考えられる。
【0046】
菌体に対するレスティング処理は、遠心分離による集菌、遠心分離による洗浄後の菌体ペレットに対して、炭素源を除いた培地溶液1.5mlを添加して懸濁し、有機物質を含まない20mlの培地溶液が分注された50ml三角フラスコに接種する処理である。この菌体溶液を、有機物質を含まない状態下に種々の時間(1,3,6,12時間)好気条件の下での振盪(25℃、120rpm)によってインキュベートして、遠心分離(4℃、15,000rpm)による集菌後菌体をシリカゲルで発光微生物固定化チップに固定化した。
【0047】
(発光微生物固定化チップ又はシートの保存および発光の測定)
12時間のレスティング処理を施した発光微生物固定化チップを1日〜7日間、4℃で保存し、経過1日毎の生物発光の変化を観察して発光微生物固定化チップの安定性を調べた。その際、発光微生物の再活性化条件は、これまでに述べたと同様の条件である。その結果、保存日数7日間を通して安定な生物発光が観察された。また、発光強度とBOD濃度の相関性を確認でき、図9乃至図12に示すように、BOD濃度に対する発光レンジも測定に十分な範囲を確保できていることが明らかとなった。保存7日間を通して、グレースケール値にして40〜60の発光レンジが維持されていた。しかしながら、図9に示すように、発光強度の値は保存日数が増すにつれて低下する傾向が見られ、16ppmのBOD標準液を滴下して20分後の発光を比較すると、図9に示すように、1日間および2日間保存した発光微生物固定化チップからはグレースケール値にして約245の発光強度が確認されたが、図10に示すように、3日目においてはグレースケール値にして約235、4日目においてはグレースケール値にして約175にまで低下した。さらに、図12および図13に示すように、5日目では145、6日目7日目では125にまで発光強度が低下した。
【0048】
しかし、このとき、他のBOD濃度試料における発光微生物固定化チップの発光強度も同様のパターンで低下していく処から、何れの発光微生物固定化チップもBOD測定に適用し得る発光強度、BOD濃度に対して十分な発光レンジを有していることが判明した。
【0049】
このことは、保存日数の異なる発光微生物固定化チップに対しては異なる検量線が必要であることを意味している。発光微生物固定化チップにおける菌体の培養時間、発光微生物固定化材料、測定プロセスを一定化させることで保存時間が同じ発光微生物固定化チップにおけるチップロット間誤差は小さく、BODの測定に支障を来さない。しかし、保存時間が異なる発光微生物固定化チップにおいては、ロット間誤差を無視できない。而して、実際のBOD測定に際しては、発光微生物固定化チップ保存開始時間を明記し、保存日数(時間)を明らかにして、保存日数(時間)毎に検量線を作成する。
【0050】
(検量線の作成)
7日間保存した発光微生物固定化チップを用いて、BOD測定用の検量線を作成した。BOD標準溶液の濃度と生物発光との間に直線的な相関性を示す検量線が得られ、図13に示すように、発光強度(Y)に対してBOD濃度(X)とするとき、Y=3.0405X+770709(R2=0.9996)の相関式(近似式)が得られた。実際のBOD測定にあっては、この逆関数を用いた。
【0051】
(実試料によるBOD測定および公定法(BOD5)との比較)
実試料として、広島県三次市の馬洗川、広島県庄原市の国兼川、太刀洗川、はげら池から採取した水、および県立広島大学の排水処理場から原水、沈澱池の水、滅菌前の水、滅菌後の水を採取し、実験に供した。7日間保存した発光微生物固定化チップを用いて本発明の有機汚染測定方法によって、ラボ内で疑似オンサイト的にBOD測定を行い測定データを得た。このデータを図13に示す検量線に当てはめ、BOD値を求めた。一方、公定法(BOD5)を用いて、同一試料のBOD測定を行った。
【0052】
その結果、公定法(BOD5)によって得られたBOD測定値は、表3に示すように、馬洗川:2.53ppm、国兼川:6.13ppm、太刀洗川:5.17ppm、はげら池:4.67ppmであった。これに対し本発明の有機汚染測定方法によって得られたBOD測定値は、表3に示すように、馬洗川:3.45±1.25ppm、国兼川:5.61±0.99ppm、太刀洗川:4.86±1.01ppm、はげら池:4.13±0.61ppmであった。両方法における誤差は、6%〜13%であることが確認された。
【0053】
【表3】
【0054】
このように、河川や湖沼のように比較的汚染の程度が軽くBOD値が低い場所では、公定法とほぼ同等の測定結果であった。これに対して、県立広島大学の排水処理場の各排水処理段階における有機汚染の測定結果は、公定法(BOD5)によって得られたBOD測定値は、表4に示すように、原水:487.12ppm、沈澱池:62.67ppm、滅菌前の水:7.13ppm、滅菌後の水:6.53ppmであった。これに対し本発明の有機汚染測定方法によって得られたBOD測定値は、表4に示すように、原水:378.28±70.14ppm、沈澱池:90.39ppm、滅菌前の水:8.87±1.83ppm、滅菌後の水:7.33±1.61ppmであった。
【0055】
【表4】
【0056】
このように、有機汚染が進んだ環境水の場合、両方法間のBOD値に差異がある。しかしながら、総じて両方法間の誤差は±30%以内に止まり、極端な差異は認められなかった。また、表4に示すように、排水処理施設における各処理排水の汚染傾向の把握は可能であり、本発明による発光微生物固定化チップ又はシートを用いる有機汚染測定方法での実試料のBOD測定が可能であることが明らかとなった。
【0057】
これまで述べてきた実施例によって、アクリル基板又はシート上に穿設した微小ホール又は凹凸構造に、有機物を除いた培養液中でレスティング処理を施した海洋性Photobacterium species の発光微生物、好ましくはアジ(Trachurus japonicus )体表由来のAT−1株、福岡県福岡市西区唐泊港の海から得られたキュウセン(Halichoeres poecilopterus)内蔵由来のKN−5株、広島県呉市倉橋町付近の海から得られたメバル(Sebastes inermis )内蔵由来のMN−2株の3株、さらに好ましくは、福岡県福岡市西区唐泊港の海から得られたキュウセン(Halichoeres poecilopterus)内蔵由来のKN−5株にレスティング処理を施してシリカゲルと混合した後、前記微小ホール又は凹凸構造に包理・固定化してなる発光微生物固定化チップ又はシートを用いて、これを2℃〜5℃の温度域で保存した後、BOD測定に臨んで8℃〜18℃の温度域で2時間以内の微生物再活性化処理を施し、然る後、試料液を発光微生物固定化チップ又はシートの微小ホール又は凹凸構造に滴下し、20分間以内の発光量をたとえばデジタルカメラで撮影し、このデータをパソコンに転送し、たとえば画像解析ソフトウエアScion Image を用いて発光強度を数値化測定する本発明の実施形態が明らかとなった。
【0058】
(発光細菌のキャラクタリゼーション)
本発明の実施例で用いた発光細菌KN−5株に対して、グラム染色(Hucker法)、アピテスト(日本ビオメリューAPI20NE)を用いた簡易生化学同定試験を行った。先ず、グラム染色(Hucker法)では、培養液の100μlを900μlの滅菌蒸留水に懸濁し、希釈した菌体をスライドガラスに滴下後自然乾燥し、ガスバーナで軽く焙り固定化を行った。これにクリスタルバイオレット(溶液1)クリスタルバイオレット:1.0g、95%エタノール10ml 溶液2)蓚酸アンモニウム:0.4g、蒸留水:40ml 使用時に溶液1)、2)を混合)で菌体塗布面を覆い、1分間放置した後、流水で流した。次いで、ルゴール溶液で塗布面を覆い、1分間放置し、流水で流した後、脱色液(95%エタノールとアセトンを7:3の割合で混合)を用いて脱色を行った。その後、サフラニン液で塗布面を覆い、30秒間放置後、流水で洗浄した。スライドガラスを自然乾燥した後、位相差顕微鏡(OLYMPUS BX50)を用いて確認を行い、紫に染まった場合は陰性と判断した。また、コントロールとして、グラム陽性菌に納豆菌(Bacillus subtilis )、グラム陰性菌に大腸菌(Ecsherichia coli)を用いた。
【0059】
また、市販の簡易生化学同定キットであるアピテスト(日本ビオメリューAPI20NE)による発光細菌KN−5の株簡易生化学同定試験を行った。培養菌液を遠心分離(TOMY MX−301、4℃、15,000rpm、10分間)による集菌後、菌体ペレットにオートクレーブ処理(120℃、2atm、10分間)を施し、滅菌済み生理食塩水4.0mlを添加して菌体懸濁液を作製した。このストリップを30℃のインキュベータ内で48時間反応させ、判定を読み取った。また、プロファイルインデックスから菌体の同定について検討した。
【0060】
(発光細菌KN−5株の16SrDNAの塩基配列に基づく系統分類)
発光細菌KN−5株の16SrDNAの塩基配列に基づく系統分類を行うために、発光細菌KN−5株からゲノムDNAの抽出を行った。先ず、培養菌液1mlをエッペンドルフチューブに採取し、遠心分離(TOMY MX−301、25℃、18,000rpm、3分間)を行って、上澄みを除き、菌体ペレットに557μlのTEバッファーを加えて懸濁した。この懸濁液に30μlの10%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)溶液、3μlの20mg/mlプロテナーゼKを加え、数回アジテーションを行って混合した後、37℃で1時間インキュベート(TAITEC CTU−N)した。1時間後、100μlの5MNaCl溶液、80μlのCTAB/NaCl溶液を加えよく懸濁した後、65℃で10分間インキュベートした。10分後、750μlのCl(クロロホルム:イソアミルアルコール=1:1)を加えてよく懸濁し、遠心分離(TOMY MX−301、25℃、14,000rpm、5分間)を行った。
【0061】
得られた上澄みを新しいエッペンドルフチューブに移し、そこに700μlのPCI(フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール=25:24:1)を加えて懸濁し、再度遠心分離(TOMY MX−301、25℃、14,000rpm、5分間)を行った。その後、上澄みをエッペンドルフチューブに移し、450μlのイソプロパノールを加え、数回アジテーションを行った。然る後、室温で15分間放置した後、遠心分離(TOMY MX−301、4℃、14,000rpm、10分間)を行った。上澄みを除き70%エタノール1mlを加え、再度遠心分離(TOMY MX−301、4℃、14,000rpm、10分間)を行った。
【0062】
遠心分離後上澄みを除き、エッペンドルフチューブのまま水流式真空デシケータで乾燥し、50μlのTEバッファーに速やかに溶解し、4℃で保存した。さらに、抽出したゲノムDNAに対してRNase処理を行った。処理後、TEバッファーに溶解し、アガロース電気泳動(100V、80分間、1%Agarose ME)で抽出ゲノムDNAの有無、分子量の確認を行うとともに、260nmの吸光℃を測定してゲノムDNAの濃度決定を行った。
【0063】
16SrDNAの塩基配列のシーケンスは以下の手順で行った。抽出されたゲノムDNAをテンプレートとして、プログラムインキュベータ(Applied Biosystems GeneAmp PCR Systems 2700)を用いてPCR反応を生ぜしめ、16SrDNAをコードするDNA塩基配列を増幅した。このとき、目的遺伝子の増幅のためのプライマーとして、大腸菌16SrDNAのポジション8−27に相当する5‘AGAGTTTGATCCTGGCTCAG−3’および1525−1543に相当する5‘AAAGGAGGTGATCCAGCC−3’がデザインされ、PCR反応に利用された。その後、PCR産物をアガロース電気泳動(100V、80分間、1%Agarose ME)によって検出、確認した。
【0064】
約1500bpである16SrDNA領域の増幅が確認された試料をSUPRECTM−PCR(TaKaRa社)により精製後、Big DyeTMTerminator v1.1Cycle Sequencing Kit (Applied Biosystems )を用いてサイクルシーケンス反応を生ぜしめた。サイクルシーケンス済みのサンプルをエタノール/EDTA/酢酸ナトリウム法で精製した後、25μlのHi-Di Formamide に溶解し、ABI Prism 310 Genetic Analyzer (Applied Biosystems 社製)を用いてダイターミネータ法に基づくシーケンスを行った。
【0065】
増幅遺伝子全体のシーケンスを行うために、必要に応じて20mer程度の内部プライマーを合成し、同様の工程でABI Prism 310 Genetic Analyzer (Applied Biosystems 社製)を用いてダイターミネータ法に基づくシーケンスを行った。また、遺伝子領域については、FASTAなどの遺伝子データベースへの照会、DNASIS Pro Version 02−07(Hitachi)などの解析ソフトウエアを用いた解析によって近縁種との相同生を探索、調査を行った。その結果、海洋微生物であるPhotobacterium 属 の発光微生物と高い相同性が確認された。特に、発光細菌Photobacterium phosphoreum と99%以上の相同性が明らかとなった。また、IFO13896株との間には99.701%の相同性が見られ、KN−5株は、発光細菌Photobacterium phosphoreum を構成する株の1つではないかと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施例に係るオンサイト対応方BOD簡易測定システムを示す模式図
【図2】本発明の一実施例に係るシリカゲル、寒天ゲルで発光微生物を固定した発光微生物固定化チップ又はシートの発光強度変化を示すグラフ
【図3】本発明の一実施例に係るAT−1株、MN−2株をシリカゲルで固定化した発光微生物固定化チップ又はシートの発光強度変化を示すグラフ
【図4】本発明の一実施例に係るKN−5株をシリカゲルで固定化した発光微生物固定化チップ又はシートの発光強度変化を示すグラフ
【図5】本発明の一実施例に係るKN−5株をシリカゲルで固定化した発光微生物固定化チップ又はシートの発光強度変化を保存期間(14日間、21日間)をパラメータとして示すグラフ
【図6】本発明の一実施例に係るKN−5株をシリカゲルで固定化した発光微生物固定化チップ又はシートの発光強度変化を保存期間(28日間、56日間)をパラメータとして示すグラフ
【図7】本発明の一実施例に係る、レスティング法によって処理した菌体を固定化した発光微生物固定化チップ又はシートの発光強度変化をレスティング処理時間(1時間、3時間)をパラメータとして示すグラフ
【図8】本発明の一実施例に係る、レスティング法によって処理した菌体を固定化した発光微生物固定化チップ又はシートの発光強度変化をレスティング処理時間(6時間、12時間)をパラメータとして示すグラフ
【図9】本発明の一実施例に係る、レスティング法によって処理した菌体を固定化した発光微生物固定化チップ又はシートの発光強度変化を保存時間(12時間、48時間)をパラメータとして示すグラフ
【図10】本発明の一実施例に係る、レスティング法によって処理した菌体を固定化した発光微生物固定化チップ又はシートの発光強度変化を保存時間(72時間、96時間)をパラメータとして示すグラフ
【図11】本発明の一実施例に係る、レスティング法によって処理した菌体を固定化した発光微生物固定化チップ又はシートの発光強度変化を保存時間(120時間、144時間)をパラメータとして示すグラフ
【図12】本発明の一実施例に係る、レスティング法によって処理した菌体を固定化した発光微生物固定化チップ又はシートを168時間保存したときの発光強度変化を示すグラフ
【図13】本発明の一実施例に係る、レスティング法によって12時間処理した菌体を固定化した発光微生物固定化チップ又はシートを168時間保存したものを用いて作成された検量線を示すグラフ
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光微生物によって水中の生物資化性有機汚染を測定するための発光微生物固定化チップ及びそれを用いる有機汚染、環境測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境汚染の大きな部分として、河川、湖沼、海洋の水質汚染がある。これらの汚染の問題を解決する手段として、物理的な直接除去や化学物質を用いる処理、微生物を用いる浄化処理などがある。これらの浄化処理を行うために、水質汚染の状況を正確かつ簡便に把握する手段が必要となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
水質汚染状況を把握する手段として、クロマトグラフィーやマススペクトログラフィー、分光分析などがある。これらの手段は低濃度の有機成分を高い精度で測定できるけれども、多検体、多項目の検出が難しくまた、分析機器が高価でありさらに、オンサイトでの測定が困難である問題がある。
【0004】
一方、水の有機汚染測定の公定法として、COD(Chemical Oxygen Demand:化学的酸素要求量)、TOC(Total Organic Carbon:全有機炭素量)、BOD(Biochemical Oxygen Demand:生物化学的酸素要求量)を測定する方法がある。CODは、水中の還元性有機物を一定の酸化条件で反応させ、それに要する酸化剤の量を当量酸素量(O2mg/dm3)に換算して表すものである。通常、酸化剤として過マンガン酸カリウムを、酸化条件としては酸性、100℃、30分間の値を用いる。しかしながら、水中の還元性有機物が酸化される速度が、酸化剤や還元性有機物の種類や濃度、反応温度、pHによって差がでることが多い。また、再現性を得るためには、反応初期および反応終了時の酸化剤の濃度、反応温度、反応時間などの測定条件を一定化する必要がある。
【0005】
TOCは、被検水中に含まれる有機物の全てを燃焼により酸化させ、主要構成成分である炭素の量で示したものであり、有機物中の炭素の燃焼によって生じた二酸化炭素を赤外吸収法によって定量する方法が一般的である。しかし、この方法によるときは装置が大型かつ高価であり、同時、多試料分析には向いていない。
【0006】
BODは生物化学的酸素消費量または生化学的酸素要求量ともいわれ、水質汚染の指標の1つである。好気性微生物が好気的条件下で一定時間内に水中の有機物を分解するのに消費する溶存酸素量のことであり、排水や河川の水中の生物分解性有機物の量に対応する。水を密閉容器に入れ必要ならば微生物群を添加した後、通常、20℃で5日間保存してその間の溶存酸素の減少量を測り、これをO2mg/dm3で表しBOD5とする。しかしながら、この方法は5日間と長時間を要するため、環境水域の水質や工場廃水或いは水処理施設のような流動的な状況下での管理指標として用いるのは困難である。
【0007】
そこで、幅広い炭素源に対する資化能を有する微生物(Trichosporon cutaneum
IFO10466 )と酸素電極を用いて溶存酸素量の測定を行うBODS法が開発された。BODS法はBOD5法に比し迅速な測定が可能であり、試料水を添加した溶液に微生物固定化膜を装着した酸素電極を入れ、電流変化を読み取るだけでBODの測定を行える。しかしながら、酸素電極に装着する微生物の固定化方法や固定化した微生物の活性化に高い技術を必要とし、多試料分析やオンサイトでの測定が困難である。
【0008】
これら従来技術における問題を解決すべく、発明者らの1人は、微生物発光によって水中の生物資化性有機汚染を測定するチップ有機汚染計測システムを提案した(特許文献1参照)。しかしながら、この技術においては、BOD測定に耐え得るチップ又はシートの保存期間は4日間であり、4日間以内にあってもチップからの発光は5分間程度で完全に消滅する。また、発光を測定するために化学発光測定装置(ケミイメージャー)を必要とし、この装置で発光を測定、積分する必要があった。而して、オンサイトでの測定にあっては、微生物株、微生物固定化素材、保存期間、チップ又はシートからの発光強度、発光計測装置の諸点で解決すべき課題があった。
【特許文献1】特開2004−093196号公報
【0009】
本発明は、発光微生物アレイ化チップ又はシートを用いて、簡便にオンサイトでBODを測定することができる発光微生物固定化チップ又はシート及びそれを用いる河川、湖沼、海洋、排水における有機汚染及び環境測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、基板又はシート上に微小ホール又は凹凸構造を複数箇穿設するとともに、有機物を除いた培養溶液中でレスティング処理を施した海洋性Photobacterium species の発光微生物をシリカゲルと混合した後、前記微小ホール又は凹凸構造に包理・固定化してなる発光微生物固定化チップ又はシートである。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発光微生物固定化チップ又はシートを2℃〜5℃の温度域で保存した後、BOD測定に臨んで8℃〜18℃の温度域で2時間以内の微生物再活性化処理を施し、然る後、試料液を前記発光微生物固定化チップ又はシート上の微小ホール又は凹凸構造に滴下し、20分間以内の発光量を測定するようにしたことを特徴とする発光微生物固定化チップ又はシートによる有機汚染及び環境測定方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、極微量(約10μl)の試料から容易かつ試料採取、発光微生物の再活性化処理、インキュベート、データ処理時間を合わせて約1時間以内という迅速さで、多試料のBOD測定ができる。本発明の発光微生物固定化チップ又はシートを用いる簡易測定システムによって、オンサイトでのハイスループットなBOD測定が可能となった。
【0013】
また、本発明によるときはきわめて短時間内に測定が可能である処から、藻類の影響を受けることなく海水のBOD測定を正確に行うことができる。さらに、止水域でのBOD測定が可能である。一方、発光が減少若しくは阻害されることを検出して毒物の検出ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明において、基板とはシートを包含するものである。従って、発光微生物固定化チップは発光微生物固定化シートを含む。
本発明は、有機物を除いた培養溶液中でレスティング処理を施した海洋性Photobacterium species の発光微生物をシリカゲルによって基板上の微小ホール又は凹凸構造に包理・固定化してなる発光微生物固定化チップ又はシートを得ることならびに、この発光微生物固定化チップ又はシートを2℃〜5℃の温度域で保存した後、BOD測定に臨んで8℃〜18℃の温度域で2時間以内の微生物再活性化処理を施し、試料液を発光微生物固定化チップ又はシートの微小ホール又は凹凸構造に滴下し20分間以内の発光量を測定することからなる。
以下、本発明をその好ましい実施形態に則して詳細に説明する。
【実施例】
【0015】
(基板又はシート上への微小ホール又は凹凸構造穿設)
アクリル基板(3cm×7cm×0.2cm厚さ)上に、直径:1000μm、深さ:1000μm、各ホール間:5mmの微小ホールを9箇穿設した。これら微小ホールに発光微生物の包理・固定化を行った。
【0016】
(基板又はシート上の微小ホール又は凹凸構造への発光微生物の包理・固定化)
先ず、発光微生物として発光細菌Photobacterium phosphoreum IFO13896株を用いた。この発光細菌を初発菌体濃度が106cells/mlとなるように調節して培養した。培養には、一般的な発光菌培養地である、表1に示すATCCculture medium No.1163を用い、振盪条件:25℃、120rpmで培養を行った。また、実験に使用する発光細菌は、培養令を一定化させ発光強度が最大となるよう、対数増殖後期にあたる植菌後約15時間後の液体培地を採取して使用した。
【0017】
一方、各濃度のBOD標準溶液を作製した。表1に示すATCCculture medium No.1163から炭素源であるPeptone, Yeast extract を除いた培地にグルコース、グルタミン酸をそれぞれ150mg/lの濃度で添加し、pH7.4に調整後、オートクレーブ処理(120℃、2atm、10分間)によって滅菌した。得られた溶液のBOD値を220ppmとした。この濃度を基準として、炭素源を除いた増殖培地を加え希釈することによって各濃度のBOD標準溶液を作製した。また、標準液として用いる際には、各濃度のBOD標準溶液をそれぞれ乾熱滅菌処理(150℃、30分間)を行った20mlバイアル瓶に10mlずつ分注し、ブチル瓶とアルミシールを用いて密栓後、酸素ガスによるバブリング処理を2分間行った。こうして調整されたBOD標準溶液を、検量線の作成などに使用した。
【0018】
【表1】
【0019】
発明者らは、特開2004−093196号にて開示したアルギン酸ナトリウムに代わる発光細菌固定化担体を検討すべく、無機系固定化担体であるシリカゲルを発光細菌固定化担体として検討した。固定化剤として、発光細菌の増殖培地である表1に示すATCCculture medium No.1163から炭素源であるPeptone, Yeast extract を除いた溶液(固定化溶液)10mlに1N塩酸溶液2.9mlとコロイダルシリカ40mlを添加した後、ドライオーブンで乾燥(50℃、24時間)し粉末状としたものを発光菌体固定化用シリカゲルとして用いることとした。シリカゲルは乾燥に強く、無機担体であるため劣化や分解の少ない材料である。また、微生物の保存という観点からも、発光遺伝子組み換え大腸菌(Escherichia coli )をシリカゲルによって固定化したところ約2ヶ月の保存ができた実例もある。
【0020】
また、菌体包理用シリカゲルを発光微生物固定化チップに固定化した後、固定化担体に対する保温、固定化菌体の安定化のために寒天ゲルを利用した。固定化溶液100mlに0.5gの細菌培養用寒天(Wako:010−08725)を溶かし0.5%(wt/vol)寒天溶液を作製した。シリカゲルと、この寒天溶液を用いて発光細菌保存用チップを作製した。
【0021】
培養令を調節した発光細菌の培養液を遠心分離して菌体ペレットを作製した。このペレットを洗浄し上澄みを除いて固定化用のシリカゲル25μgを加え、滅菌済み木製スティック(爪楊枝)を用いて発光菌体と混合した。溶液が十分ゲル化したことを確認して、この混合ゲルをアクリルチップ上の微小ホールに木製スティック(爪楊枝)を用いて充填した。発光菌体混合シリカゲルを固定化した発光微生物固定化チップに対して、上記0.5%寒天ゲル400μlを各微小ホールが覆われるように滴下した。滴下後、直ちにその上からカバーガラス(MATSUNAMI GLASS,24mm×24mm、厚さ0.12mm〜0.17mm)をチップ上のホールが全て覆われるように被せた。
【0022】
(発光微生物固定化チップ又はシートの保存)
カバーガラスで被覆された発光微生物固定化チップを冷蔵保存(2℃〜5℃)すべくプラスチックシャーレに入れ、パラフィンフィルムで周囲を密閉して冷蔵庫(4℃)で1日から8週間保存した。
【0023】
(発光微生物固定化チップ又はシートの再活性化および発光測定)
一定期間冷蔵保存(2℃〜5℃、好ましくは4℃±1℃)した発光微生物固定化チップに対してBOD標準液を用いた発光測定を行うべく、発光微生物固定化チップの再活性化を行った。先ず、発光微生物固定化チップをシャーレから取り出し、カバーガラスを付けたままブロックヒータ(TAITEC,CTU−N)の加熱部位にセットした。然る後、13℃で20分間、発光微生物固定化チップをインキュベートして発光微生物を再活性化した。再活性化後、別の同形アクリル板を用いてカバーガラス、寒天ゲルを擦り切るようにして除去した。
【0024】
その後、予め酸素バブリングを2分間行っておいたBOD標準溶液(0,8,16ppm)を発光微生物固定化チップにおける微小ホールに1滴ずつ滴下し、図1に示す簡易測定システムを用いて発光の測定を行った(測定条件:ISO1600、露光時間2分間)。撮影したデータをパソコンに転送し、画像解析ソフトウエアScion Image を用いて発光強度を数値化した。
【0025】
発光微生物固定化チップからの発光の測定を、9×9に配列(アレイ)された微小ホールの任意の1列(3ホール)に同一BOD標準溶液を滴下して、この3ホールから得られた3つの発光データの平均値、標準偏差を求める手順で行った。また、発光微生物固定化チップにおけるロット間誤差を考慮するときは、別の発光微生物固定化チップから得られた3つのデータを加えた6つのデータから最大値と最小値を除いた4つのデータの平均値、標準偏差を求めた。
【0026】
これらの結果から、再活性化時間については、10分間から本発明の測定方法を用いて検出でき、20分間で発光が最大となった。25分間でも20分間と同等の発光が得られた。従って、再活性化(インキュベート)時間は、好ましくは20分間以上である。また、発光微生物固定化チップの冷蔵保存温度を常温(25℃)、冷凍(−20℃)、極低温(−80℃)として24時間保存した結果、どのような再活性化を行っても図1に示す簡易測定システムを用いての生物発光測定はできなかった。
【0027】
一方、発光微生物固定化チップの冷蔵保存温度を4℃(最適条件)として、再活性化温度を4℃、25℃、37℃(時間:各10分間〜25分間)として微生物発光を測定した処、微生物発光が極端に遅くなったり、BOD標準濃度に依存しない発光が検出されるかまたは、微弱発光しか得られずまた発光が安定せずに直ぐ消光してしまった。而して、本発明においては、発光微生物の再活性化温度は13℃±5℃である。
【0028】
(最適発光微生物の探索)
これまでの実験は、発光微生物として発光細菌Photobacterium phosphoreum IFO13896株を用いて行った。この発光微生物によってBODの簡易測定を行う場合、図2に示すように、発光が微弱でありBOD標準溶液滴下後約40分間で濃度間の発光差が認められなくなった。また、発光強度とBOD濃度間の有意差の不足、対応濃度レンジが狭いなどの問題もある。そこで、発明者らは発光細菌Photobacterium phosphoreum IFO13896株に代わる長期保存に適した発光微生物を探索することにした。
【0029】
(海洋魚貝類サンプルからの発光細菌のスクリーニング)
海洋由魚貝類、海水を採取し、実験に用いた。これらを接種試料として目的発光微生物のスクリーニング操作を行った。海洋魚類として、メバル(Sebastes inermis )、アジ(Trachurus japonicus )、サバ(Scomber japonicus )、カサゴ(Sebasticus marmoratus )、クサフグ(Takifugu niphobles)、マダイ(Pagrus major)、キス(Sillago japonica)、キュウセン(Halichoeres poecilopterus)、ホシササノハベラ(Pseudolabrus sieboldii)、クジメ(Hexagrammos agrammus)、アナゴ(Conger myriaster)の合計11種類の魚類を採取、収集した。また、海洋貝類として、タマキビ(Littorina brevicula)、オオクサズリガイ(Rhyssoplax komaiana)を採取、収集した。加えて、広島県呉市倉橋町鹿老渡の海岸から採取した海水、泥質を実験に供した。
【0030】
目的微生物の分離培地として、一般的な海洋発光細菌の増殖培地である、表1に示すATCCculture medium No.1163を用いた。収集した生物試料を分離培地に接種するために、海洋魚貝類の体表、エラ、食道に付着している粘液、内臓の内容物を、オートクレーブ処理(120℃、2atm、15分間)した滅菌綿棒を用いて表面を擦るようにして採取した。試料が付着した綿棒を、1000μlの分離培地が分注されたエッペンドルフチューブ内で懸濁し、付着物を分離培地溶液に混合した。これらの懸濁、混合液100μlを採取し、分離培地の寒天プレート(1.5%agar (wt/vol))上に塗布した。
【0031】
その後、このプレートを25℃で1日〜3日間静置培養し、形成されたコロニーからの発光を暗所で観察した。発光が確認されたコロニーに対して、プレート容器外部表面から油性マジックでマーキングしてプレート上のコロニーの位置を明確にした後、当該コロニーを白金耳で採取して寒天培地(1.5%agar (wt/vol))に線画した。この線画操作を5回〜6回繰り返し、目的菌株を純化した。なお、コロニー形成が極端に多いプレートについては、採取したコロニーを再度分離培地で10倍〜1000倍に希釈してから新しいプレートに植菌(100μl)して、再度コロニーの形成を行った。その後、上記と同様の操作を行って単一株を獲得した。純化されたコロニー株に対して、20mlの分離培地を分注した50mlの三角フラスコで好気条件下に液体振盪培養(25℃、120rpm)を行い、培養液からの生物発光を観察した。その結果、段落0029に記載した海洋魚類の体表、食道、内臓の内容物などから表2に示す55株の発光細菌の純化株を獲得できた。
【0032】
【表2】
【0033】
(発光細菌分離株の選抜)
プレート法を用いた海洋試料から新たに分離された発光細菌株(55株)について、発光能が高い株の選抜を行った。分離株は全て20mlの分離培地を分注した50mlの三角フラスコに植菌後、好気条件下に液体振盪培養(25℃、120rpm)を行った。この培養液について、植菌から12時間後の発光の強さを目視で比較し、発光が強いものを選抜し発光微生物固定化チップに供する発光微生物の候補として以後の実験に用いた。
【0034】
その結果、広島県呉市倉橋町付近の海から得られたアジ(Trachurus japonicus )体表由来のAT−1株、福岡県福岡市西区唐泊港の海から得られたキュウセン(Halichoeres poecilopterus)内蔵由来のKN−5株、広島県呉市倉橋町付近の海から得られたメバル(Sebastes inermis )内蔵由来のMN−2株の3株について、安定した生育と強い生物発光が観察された。この3株についてシリカゲルによる発光微生物固定化チップを作製することにした。
【0035】
(選抜菌株を用いた発光微生物固定化チップ又はシートの作製)
選抜された発光細菌(AT−1株、KN−5株、MN−2株)を表1に示す増殖培地に初期菌体濃度が106cells/mlとなるように調節して植菌し、好気条件下に液体振盪培養(25℃、120rpm)を行った。最大発光条件に相当する対数増殖期後期にあたる、植菌から約12時間後の培養液をエッペンドルフチューブに採取した。その後、遠心分離(TOMYMX−301、4℃、15,000rpm、3分間)を行って菌体と培養液を分離した。上澄みを取り去った後、エッペンドルフチューブに培養液1.5mlを加え、同様に遠心分離して上澄みを取り除いた(合計3mlの培養液の菌体ペレットに相当)。このようにして作製した菌体ペレットに、炭素源を除いた表1に示す増殖培地を1.5ml加えて菌体を懸濁し、再度同様の遠心分離によって菌体を洗浄した。この洗浄操作を2度行い、エッペンドルフチューブ内に菌体ペレットを得た。
【0036】
このペレットにシリカゲル25μgを加え、滅菌済みの木製スティック(爪楊枝)を用いて菌体をシリカゲルによく混合した。溶液が十分にゲル化したことを確認して、この混合ゲルをアクリル基板に穿孔した微小ホールに滅菌済みの木製スティック(爪楊枝)を用いて菌体を充填した。この発光微生物固定化チップに0.5%寒天ゲル溶液400μlを滴下し、微小ホールが全て寒天ゲルで覆われるようにした。次いで、その上からカバーガラス(MATSUNAMI GLASS,24mm×24mm、厚さ0.12mm〜0.17mm)をチップ上のホールが全て覆われるように被せた。
【0037】
(発光微生物固定化チップ又はシートの保存及び再活性化)
カバーガラスで覆われた発光微生物固定化チップを冷蔵条件(2℃〜5℃)で保存すべくプラスチックシャーレに入れ、パラフィンフィルムで周囲を巻いて7日間保存した。保存した発光微生物固定化チップをシャーレから取り出し、カバーガラスを付けたままブロックインキュベータ(HAITEC,CTU−N)にセットした。発光微生物固定化チップを13℃、20分間の条件でインキュベートして、発光細菌を再活性化した。
【0038】
(微生物の発光及びその測定)
再活性化後、同形のアクリル板を用いてカバーガラスおよび寒天ゲルを擦り切るようにして除去した。次いで、予め酸素ガスで2分間バブリングしておいたBOD標準溶液(0,8,16ppm)を各微小ホールに1滴ずつ滴下し、図1に示す簡易測定システムを用いて発光の測定を行った(測定条件:ISO1600、露光時間2分間)。撮影したデータをフラッシュメモリーデバイスなどによってノート型パソコンに転送し、画像解析ソフトウエアScion Image を用いて数値化した。
【0039】
その結果、AT−1株、KN−5株、MN−2株の発光微生物固定化チップ全てにおいて、発光が観察された。AT−1株、MN−2株の発光微生物固定化チップについて、再活性化後BOD標準液を滴下してからの発光強度の経時変化を観察した処、図3に示すように、滴下後約15分間から20分間で発光微生物固定化チップからの発光が最大に達し、以後、ほぼ一定化しながら徐々に減衰していくことが確認できた。また、その最大値は、図3に示すように、16ppmのBOD標準液を滴下した場合、グレースケール値にして約75であり、0ppmと16ppm間の濃度に対する発光レンジはグレースケール値にして約45から30であった。
【0040】
KN−5株においても、前記2株と同様に、BOD標準液の滴下後から発光強度の上昇が観察され約10分間で最大に達し、その後一定化して徐々に消光していった。発光強度の最大値は、16ppmのBOD標準液を滴下した場合、図4に示すように、グレースケール値にして約125に達し、他の2株に比し強い生物発光が認められた。
【0041】
しかしながら、KN−5株において、BOD0ppmでの発光量が多いこと、0ppmと16ppm間の濃度に対する発光レンジがグレースケール値にして約25〜30であり、測定レンジが狭いという問題が判明した。
【0042】
一方、上記と同条件で作製した発光微生物固定化チップを2,3,4,8週間、冷蔵条件4℃で保存し、上記と同条件で再活性化してBOD標準溶液を用いた発光を行うとともにその測定を行って、3株の長期間保存について検討した。なお、BOD標準液滴下後の発光微生物固定化チップからの発光の経時変化の観察を、5分間隔でBOD標準溶液滴下後40分間の発光を測定し、各測定点についてISO1600、露光時間2分間の条件で発光微生物固定化チップからの発光を撮影した。その結果、KN−5株において、2,3,4,8週間の保存後においても、図5および図6に示すように、発光を観察できた。AT−1株、MN−2株においては、2週間〜8週間保存した発光微生物固定化チップからの発光は認められなかった。
【0043】
(レスティング法で処理した発光細菌を用いた発光微生物固定化チップ又はシートの作製)
KN−5株において、BOD0ppmでの発光量が多いこと、0ppmと16ppm間の濃度に対する発光レンジがグレースケール値にして約25〜30であり、測定レンジが狭いという問題が判明した。そこで発明者らは、有機物を含まない(0ppm)条件での微生物発光の抑制、発光強度と各BOD濃度間の有意差の拡大、濃度レンジの拡大を目的として、有機物質を含まない培地溶液で一定時間、菌体をインキュベートするレスティング処理を発光微生物固定化に供する菌体に施した。最終選抜菌株を段落0033において述べた条件で培養、遠心分離による集菌、洗浄を行い、次いでレスティング処理を行った。処理後、段落0034において述べた操作で菌体をシリカゲルで発光微生物固定化チップに固定化した。
【0044】
この発光微生物固定化チップを4℃で7日間保存し、その発光を観察した。その結果、図7に示すように、レスティング処理を行う時間が長いほど、BOD0ppmでの発光を抑制できることが判明した。また、BOD濃度間に対する発光レンジが拡がり、濃度に対する発光対応範囲を拡大できる効果を確認できた。レスティング処理を施さなかった場合に比し、0ppmと16ppm間の濃度に対する発光レンジが1.5倍〜2.5倍に拡大した。一方、最大発光強度については、1,3,6時間のレスティング処理を施した発光微生物固定化チップに16ppmのBOD標準液を滴下した場合、図7,図8に示すように、グレースケールにして130〜140の発光が安定して観察された。レスティング処理後の発光微生物固定化チップからの生物発光は、試料滴下後すぐに上昇し、約10分間から15分間で飽和に達し、その後、安定してゆっくり減衰していく。これらのことから、発光が安定する試料液滴下後20分間の発光値をBOD測定に用いることが好ましい。
【0045】
次に、最適レスティング処理時間については、12時間のレスティング処理を施した発光微生物固定化チップにおいて、0ppmと16ppm間のBOD濃度に対する発光レンジが、レスティング処理を施さない場合に比し約2.5倍に拡大していた。また、試料液滴下後20分間の場合、図4および図8に示すように、グレースケール値にしてその幅は20(レスティング処理を施さない場合)から65にまで拡大していた。また、測定誤差も縮小した。これらの結果から、レスティング処理時間は12時間が最も好ましいと考えられる。
【0046】
菌体に対するレスティング処理は、遠心分離による集菌、遠心分離による洗浄後の菌体ペレットに対して、炭素源を除いた培地溶液1.5mlを添加して懸濁し、有機物質を含まない20mlの培地溶液が分注された50ml三角フラスコに接種する処理である。この菌体溶液を、有機物質を含まない状態下に種々の時間(1,3,6,12時間)好気条件の下での振盪(25℃、120rpm)によってインキュベートして、遠心分離(4℃、15,000rpm)による集菌後菌体をシリカゲルで発光微生物固定化チップに固定化した。
【0047】
(発光微生物固定化チップ又はシートの保存および発光の測定)
12時間のレスティング処理を施した発光微生物固定化チップを1日〜7日間、4℃で保存し、経過1日毎の生物発光の変化を観察して発光微生物固定化チップの安定性を調べた。その際、発光微生物の再活性化条件は、これまでに述べたと同様の条件である。その結果、保存日数7日間を通して安定な生物発光が観察された。また、発光強度とBOD濃度の相関性を確認でき、図9乃至図12に示すように、BOD濃度に対する発光レンジも測定に十分な範囲を確保できていることが明らかとなった。保存7日間を通して、グレースケール値にして40〜60の発光レンジが維持されていた。しかしながら、図9に示すように、発光強度の値は保存日数が増すにつれて低下する傾向が見られ、16ppmのBOD標準液を滴下して20分後の発光を比較すると、図9に示すように、1日間および2日間保存した発光微生物固定化チップからはグレースケール値にして約245の発光強度が確認されたが、図10に示すように、3日目においてはグレースケール値にして約235、4日目においてはグレースケール値にして約175にまで低下した。さらに、図12および図13に示すように、5日目では145、6日目7日目では125にまで発光強度が低下した。
【0048】
しかし、このとき、他のBOD濃度試料における発光微生物固定化チップの発光強度も同様のパターンで低下していく処から、何れの発光微生物固定化チップもBOD測定に適用し得る発光強度、BOD濃度に対して十分な発光レンジを有していることが判明した。
【0049】
このことは、保存日数の異なる発光微生物固定化チップに対しては異なる検量線が必要であることを意味している。発光微生物固定化チップにおける菌体の培養時間、発光微生物固定化材料、測定プロセスを一定化させることで保存時間が同じ発光微生物固定化チップにおけるチップロット間誤差は小さく、BODの測定に支障を来さない。しかし、保存時間が異なる発光微生物固定化チップにおいては、ロット間誤差を無視できない。而して、実際のBOD測定に際しては、発光微生物固定化チップ保存開始時間を明記し、保存日数(時間)を明らかにして、保存日数(時間)毎に検量線を作成する。
【0050】
(検量線の作成)
7日間保存した発光微生物固定化チップを用いて、BOD測定用の検量線を作成した。BOD標準溶液の濃度と生物発光との間に直線的な相関性を示す検量線が得られ、図13に示すように、発光強度(Y)に対してBOD濃度(X)とするとき、Y=3.0405X+770709(R2=0.9996)の相関式(近似式)が得られた。実際のBOD測定にあっては、この逆関数を用いた。
【0051】
(実試料によるBOD測定および公定法(BOD5)との比較)
実試料として、広島県三次市の馬洗川、広島県庄原市の国兼川、太刀洗川、はげら池から採取した水、および県立広島大学の排水処理場から原水、沈澱池の水、滅菌前の水、滅菌後の水を採取し、実験に供した。7日間保存した発光微生物固定化チップを用いて本発明の有機汚染測定方法によって、ラボ内で疑似オンサイト的にBOD測定を行い測定データを得た。このデータを図13に示す検量線に当てはめ、BOD値を求めた。一方、公定法(BOD5)を用いて、同一試料のBOD測定を行った。
【0052】
その結果、公定法(BOD5)によって得られたBOD測定値は、表3に示すように、馬洗川:2.53ppm、国兼川:6.13ppm、太刀洗川:5.17ppm、はげら池:4.67ppmであった。これに対し本発明の有機汚染測定方法によって得られたBOD測定値は、表3に示すように、馬洗川:3.45±1.25ppm、国兼川:5.61±0.99ppm、太刀洗川:4.86±1.01ppm、はげら池:4.13±0.61ppmであった。両方法における誤差は、6%〜13%であることが確認された。
【0053】
【表3】
【0054】
このように、河川や湖沼のように比較的汚染の程度が軽くBOD値が低い場所では、公定法とほぼ同等の測定結果であった。これに対して、県立広島大学の排水処理場の各排水処理段階における有機汚染の測定結果は、公定法(BOD5)によって得られたBOD測定値は、表4に示すように、原水:487.12ppm、沈澱池:62.67ppm、滅菌前の水:7.13ppm、滅菌後の水:6.53ppmであった。これに対し本発明の有機汚染測定方法によって得られたBOD測定値は、表4に示すように、原水:378.28±70.14ppm、沈澱池:90.39ppm、滅菌前の水:8.87±1.83ppm、滅菌後の水:7.33±1.61ppmであった。
【0055】
【表4】
【0056】
このように、有機汚染が進んだ環境水の場合、両方法間のBOD値に差異がある。しかしながら、総じて両方法間の誤差は±30%以内に止まり、極端な差異は認められなかった。また、表4に示すように、排水処理施設における各処理排水の汚染傾向の把握は可能であり、本発明による発光微生物固定化チップ又はシートを用いる有機汚染測定方法での実試料のBOD測定が可能であることが明らかとなった。
【0057】
これまで述べてきた実施例によって、アクリル基板又はシート上に穿設した微小ホール又は凹凸構造に、有機物を除いた培養液中でレスティング処理を施した海洋性Photobacterium species の発光微生物、好ましくはアジ(Trachurus japonicus )体表由来のAT−1株、福岡県福岡市西区唐泊港の海から得られたキュウセン(Halichoeres poecilopterus)内蔵由来のKN−5株、広島県呉市倉橋町付近の海から得られたメバル(Sebastes inermis )内蔵由来のMN−2株の3株、さらに好ましくは、福岡県福岡市西区唐泊港の海から得られたキュウセン(Halichoeres poecilopterus)内蔵由来のKN−5株にレスティング処理を施してシリカゲルと混合した後、前記微小ホール又は凹凸構造に包理・固定化してなる発光微生物固定化チップ又はシートを用いて、これを2℃〜5℃の温度域で保存した後、BOD測定に臨んで8℃〜18℃の温度域で2時間以内の微生物再活性化処理を施し、然る後、試料液を発光微生物固定化チップ又はシートの微小ホール又は凹凸構造に滴下し、20分間以内の発光量をたとえばデジタルカメラで撮影し、このデータをパソコンに転送し、たとえば画像解析ソフトウエアScion Image を用いて発光強度を数値化測定する本発明の実施形態が明らかとなった。
【0058】
(発光細菌のキャラクタリゼーション)
本発明の実施例で用いた発光細菌KN−5株に対して、グラム染色(Hucker法)、アピテスト(日本ビオメリューAPI20NE)を用いた簡易生化学同定試験を行った。先ず、グラム染色(Hucker法)では、培養液の100μlを900μlの滅菌蒸留水に懸濁し、希釈した菌体をスライドガラスに滴下後自然乾燥し、ガスバーナで軽く焙り固定化を行った。これにクリスタルバイオレット(溶液1)クリスタルバイオレット:1.0g、95%エタノール10ml 溶液2)蓚酸アンモニウム:0.4g、蒸留水:40ml 使用時に溶液1)、2)を混合)で菌体塗布面を覆い、1分間放置した後、流水で流した。次いで、ルゴール溶液で塗布面を覆い、1分間放置し、流水で流した後、脱色液(95%エタノールとアセトンを7:3の割合で混合)を用いて脱色を行った。その後、サフラニン液で塗布面を覆い、30秒間放置後、流水で洗浄した。スライドガラスを自然乾燥した後、位相差顕微鏡(OLYMPUS BX50)を用いて確認を行い、紫に染まった場合は陰性と判断した。また、コントロールとして、グラム陽性菌に納豆菌(Bacillus subtilis )、グラム陰性菌に大腸菌(Ecsherichia coli)を用いた。
【0059】
また、市販の簡易生化学同定キットであるアピテスト(日本ビオメリューAPI20NE)による発光細菌KN−5の株簡易生化学同定試験を行った。培養菌液を遠心分離(TOMY MX−301、4℃、15,000rpm、10分間)による集菌後、菌体ペレットにオートクレーブ処理(120℃、2atm、10分間)を施し、滅菌済み生理食塩水4.0mlを添加して菌体懸濁液を作製した。このストリップを30℃のインキュベータ内で48時間反応させ、判定を読み取った。また、プロファイルインデックスから菌体の同定について検討した。
【0060】
(発光細菌KN−5株の16SrDNAの塩基配列に基づく系統分類)
発光細菌KN−5株の16SrDNAの塩基配列に基づく系統分類を行うために、発光細菌KN−5株からゲノムDNAの抽出を行った。先ず、培養菌液1mlをエッペンドルフチューブに採取し、遠心分離(TOMY MX−301、25℃、18,000rpm、3分間)を行って、上澄みを除き、菌体ペレットに557μlのTEバッファーを加えて懸濁した。この懸濁液に30μlの10%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)溶液、3μlの20mg/mlプロテナーゼKを加え、数回アジテーションを行って混合した後、37℃で1時間インキュベート(TAITEC CTU−N)した。1時間後、100μlの5MNaCl溶液、80μlのCTAB/NaCl溶液を加えよく懸濁した後、65℃で10分間インキュベートした。10分後、750μlのCl(クロロホルム:イソアミルアルコール=1:1)を加えてよく懸濁し、遠心分離(TOMY MX−301、25℃、14,000rpm、5分間)を行った。
【0061】
得られた上澄みを新しいエッペンドルフチューブに移し、そこに700μlのPCI(フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール=25:24:1)を加えて懸濁し、再度遠心分離(TOMY MX−301、25℃、14,000rpm、5分間)を行った。その後、上澄みをエッペンドルフチューブに移し、450μlのイソプロパノールを加え、数回アジテーションを行った。然る後、室温で15分間放置した後、遠心分離(TOMY MX−301、4℃、14,000rpm、10分間)を行った。上澄みを除き70%エタノール1mlを加え、再度遠心分離(TOMY MX−301、4℃、14,000rpm、10分間)を行った。
【0062】
遠心分離後上澄みを除き、エッペンドルフチューブのまま水流式真空デシケータで乾燥し、50μlのTEバッファーに速やかに溶解し、4℃で保存した。さらに、抽出したゲノムDNAに対してRNase処理を行った。処理後、TEバッファーに溶解し、アガロース電気泳動(100V、80分間、1%Agarose ME)で抽出ゲノムDNAの有無、分子量の確認を行うとともに、260nmの吸光℃を測定してゲノムDNAの濃度決定を行った。
【0063】
16SrDNAの塩基配列のシーケンスは以下の手順で行った。抽出されたゲノムDNAをテンプレートとして、プログラムインキュベータ(Applied Biosystems GeneAmp PCR Systems 2700)を用いてPCR反応を生ぜしめ、16SrDNAをコードするDNA塩基配列を増幅した。このとき、目的遺伝子の増幅のためのプライマーとして、大腸菌16SrDNAのポジション8−27に相当する5‘AGAGTTTGATCCTGGCTCAG−3’および1525−1543に相当する5‘AAAGGAGGTGATCCAGCC−3’がデザインされ、PCR反応に利用された。その後、PCR産物をアガロース電気泳動(100V、80分間、1%Agarose ME)によって検出、確認した。
【0064】
約1500bpである16SrDNA領域の増幅が確認された試料をSUPRECTM−PCR(TaKaRa社)により精製後、Big DyeTMTerminator v1.1Cycle Sequencing Kit (Applied Biosystems )を用いてサイクルシーケンス反応を生ぜしめた。サイクルシーケンス済みのサンプルをエタノール/EDTA/酢酸ナトリウム法で精製した後、25μlのHi-Di Formamide に溶解し、ABI Prism 310 Genetic Analyzer (Applied Biosystems 社製)を用いてダイターミネータ法に基づくシーケンスを行った。
【0065】
増幅遺伝子全体のシーケンスを行うために、必要に応じて20mer程度の内部プライマーを合成し、同様の工程でABI Prism 310 Genetic Analyzer (Applied Biosystems 社製)を用いてダイターミネータ法に基づくシーケンスを行った。また、遺伝子領域については、FASTAなどの遺伝子データベースへの照会、DNASIS Pro Version 02−07(Hitachi)などの解析ソフトウエアを用いた解析によって近縁種との相同生を探索、調査を行った。その結果、海洋微生物であるPhotobacterium 属 の発光微生物と高い相同性が確認された。特に、発光細菌Photobacterium phosphoreum と99%以上の相同性が明らかとなった。また、IFO13896株との間には99.701%の相同性が見られ、KN−5株は、発光細菌Photobacterium phosphoreum を構成する株の1つではないかと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施例に係るオンサイト対応方BOD簡易測定システムを示す模式図
【図2】本発明の一実施例に係るシリカゲル、寒天ゲルで発光微生物を固定した発光微生物固定化チップ又はシートの発光強度変化を示すグラフ
【図3】本発明の一実施例に係るAT−1株、MN−2株をシリカゲルで固定化した発光微生物固定化チップ又はシートの発光強度変化を示すグラフ
【図4】本発明の一実施例に係るKN−5株をシリカゲルで固定化した発光微生物固定化チップ又はシートの発光強度変化を示すグラフ
【図5】本発明の一実施例に係るKN−5株をシリカゲルで固定化した発光微生物固定化チップ又はシートの発光強度変化を保存期間(14日間、21日間)をパラメータとして示すグラフ
【図6】本発明の一実施例に係るKN−5株をシリカゲルで固定化した発光微生物固定化チップ又はシートの発光強度変化を保存期間(28日間、56日間)をパラメータとして示すグラフ
【図7】本発明の一実施例に係る、レスティング法によって処理した菌体を固定化した発光微生物固定化チップ又はシートの発光強度変化をレスティング処理時間(1時間、3時間)をパラメータとして示すグラフ
【図8】本発明の一実施例に係る、レスティング法によって処理した菌体を固定化した発光微生物固定化チップ又はシートの発光強度変化をレスティング処理時間(6時間、12時間)をパラメータとして示すグラフ
【図9】本発明の一実施例に係る、レスティング法によって処理した菌体を固定化した発光微生物固定化チップ又はシートの発光強度変化を保存時間(12時間、48時間)をパラメータとして示すグラフ
【図10】本発明の一実施例に係る、レスティング法によって処理した菌体を固定化した発光微生物固定化チップ又はシートの発光強度変化を保存時間(72時間、96時間)をパラメータとして示すグラフ
【図11】本発明の一実施例に係る、レスティング法によって処理した菌体を固定化した発光微生物固定化チップ又はシートの発光強度変化を保存時間(120時間、144時間)をパラメータとして示すグラフ
【図12】本発明の一実施例に係る、レスティング法によって処理した菌体を固定化した発光微生物固定化チップ又はシートを168時間保存したときの発光強度変化を示すグラフ
【図13】本発明の一実施例に係る、レスティング法によって12時間処理した菌体を固定化した発光微生物固定化チップ又はシートを168時間保存したものを用いて作成された検量線を示すグラフ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に微小ホール又は凹凸構造を複数箇穿設するとともに、有機物を除いた培養溶液中でレスティング処理を施した海洋性Photobacterium species の発光微生物をシリカゲルと混合した後、前記微小ホール又は凹凸構造に包理・固定化してなる発光微生物固定化チップ。
【請求項2】
請求項1に記載の発光微生物固定化チップを2℃〜5℃の温度域で保存した後、BOD測定に臨んで8℃〜18℃の温度域で2時間以内の微生物再活性化処理を施し、然る後、試料液を前記発光微生物固定化チップの微小ホール又は凹凸構造に滴下し、20分間以内の発光量を測定するようにしたことを特徴とする発光微生物固定化チップによる有機汚染、環境測定方法。
【請求項1】
基板上に微小ホール又は凹凸構造を複数箇穿設するとともに、有機物を除いた培養溶液中でレスティング処理を施した海洋性Photobacterium species の発光微生物をシリカゲルと混合した後、前記微小ホール又は凹凸構造に包理・固定化してなる発光微生物固定化チップ。
【請求項2】
請求項1に記載の発光微生物固定化チップを2℃〜5℃の温度域で保存した後、BOD測定に臨んで8℃〜18℃の温度域で2時間以内の微生物再活性化処理を施し、然る後、試料液を前記発光微生物固定化チップの微小ホール又は凹凸構造に滴下し、20分間以内の発光量を測定するようにしたことを特徴とする発光微生物固定化チップによる有機汚染、環境測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−57450(P2010−57450A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228700(P2008−228700)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】
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