説明

発光装置及び赤色発光蛍光体粒子

【解決手段】波長が350〜420nmの光を発光する半導体発光素子が封止材内に封止されてなる発光装置の上記封止材に分散させる赤色発光蛍光体又は上記半導体発光素子から発光する光の光路上に設けられる蛍光層に含有させる赤色発光蛍光体として、Euイオンを含有し、該Euイオンが半導体発光素子から発光した波長が350〜420nmの光を直接吸収して赤色光を発光する平均粒子径が40〜200μmの赤色発光蛍光体粒子を用いる。
【効果】この赤色発光蛍光体粒子は、400nm前後の波長において従来にない高い発光効率で、高い発光強度を示すものであり、特に、緑色発光蛍光体、青色発光蛍光体と併用して白色若しくは中間色を表示する発光装置に用いることにより微妙な色合いをより精密に再現性よく、また、より高輝度で白色若しくは中間色を発光する発光装置が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子が発光する波長が350〜420nmの光により励起されて高い発光効率で赤色に発光する赤色発光蛍光体粒子を用いた発光装置、及びこの発光装置に用いる赤色発光蛍光体粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)は、光を放射する半導体発光素子であり、電気エネルギーを紫外光、可視光、赤外光などに変換するものである。例えば、可視光を利用するものとしては、GaP、GaAsP、GaAlAs等の発光材料で形成した半導体発光素子があり、これらを透明樹脂等で封止したLEDランプが広く使用されている。また、発光材料をプリント基板や金属リードの上面に固定し、数字や文字をかたどった透明樹脂ケースで封止したディスプレイ型のLEDランプなども多用されている。
【0003】
また、発光ダイオードは半導体素子であるため、寿命が長く、信頼性も高く、光源として用いた場合には、その交換作業も軽減できることから、携帯通信機器、パーソナルコンピュータ周辺機器、OA機器、家庭用電気機器、オーディオ機器、各種スイッチ、バックライト用光源、掲示板等の各種表示装置などの構成部品として広く使用されている。
【0004】
このようなLEDランプは、各種の蛍光体粉末を、半導体発光素子を封止する透明樹脂中に含有させることにより、LEDランプから放射される光の色を変化させることが可能であり、使用用途に応じて青色から赤色まで可視光領域の広い範囲の色を得ることが可能である。
【0005】
しかしながら、最近では、上記各種表示装置の色彩に対する需要者の要求が高まり、表示装置に微妙な色合いをより精密に再現できる性能が要求されていると共に、1個のLEDランプにより白色や各種の中間色を発光させることができることが強く求められている。
【0006】
そのため、LEDランプの半導体発光素子の表面に、赤色、緑色、青色の各種蛍光体を塗布したり、LEDランプの封止材、コーティング材等に上記各種蛍光体を含有させたりすることにより、1個のLEDランプで白色や各種の中間色を表示できるように構成することも試行されている。
【0007】
このような蛍光体の中で、長波長紫外線又は短波長可視光線(350〜420nm)で励起する蛍光体として、現在、主に使用されているものとしては、発光色が青色のBaMg2Al1627:Eu、(Sr,Ca,Ba)5(PO43Cl:Eu、発光色が緑色のBaMg2Al1627:Eu,Mn、Zn2GeO4:Mn、発光色が赤色のY22S:Eu、La22S:Eu、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mnなどがあり、これらの発光蛍光体を適宜用いることにより広い範囲の発光色を得ることができる。
【0008】
しかしながら、上記赤色発光蛍光体には、青色、緑色発光蛍光体と比較して長波長紫外線及び短波長可視光線(350〜420nm)に対する発光が弱いという問題がある。
【0009】
そのため、これらの波長の光を用いて白色系の発光色を得る場合、赤色発光蛍光体の割合を多くしなければならず、コストが高くなること、白色系の発光色は、赤色、緑色、青色の発光量のバランスを合わせることにより白色を得ることができるものであるから、白色系の発光色を得るためには、赤色の発光量に合わせて緑色及び青色の発光量を減らさざるを得ず、また、蛍光体の使用量にも上限があるため、得られる白色光の発光量が少なくなってしまい、高輝度の白色が得られないことなどが問題となっており、より高い発光効率で高輝度発光が可能な赤色発光蛍光体が求められている。
【0010】
また、近年、長波長紫外線及び短波長可視光線領域の光を発光し、高輝度発光を可能とするLED素子として注目されているInGaN系素子(非特許文献1参照)は、外部量子効率が最も高い値を示す発光波長が400nm前後、特に400〜410nm程度の波長にあることが報告されており、この範囲の波長において赤色光を高強度で発光できる赤色発光蛍光体が求められている。しかしながら、酸化物系化合物の電子対の励起エネルギーに対応する波長は紫外領域にあり、長波長紫外線及び短波長可視光線(350〜420nm)の波長は蛍光体の吸収端と重なるため、これらの赤色発光蛍光体の350nmより長波長側での吸収強度は、波長が長くなるに従って急激に低下し、400nm以上の範囲ではかなり低くなってしまう。そのため、400nm前後の波長において高い発光強度を示す赤色発光蛍光体の開発が必要である。
【0011】
【特許文献1】特開2004−359842号公報
【非特許文献1】田口常正,「LEDディスプレイ」,照明学会誌,社団法人照明学会,2003年,第87巻,第1号,p.42−47
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、特に、赤色、緑色及び青色の発光蛍光体を併用する白色系の光を発光する発光装置において、より高輝度で発光する発光装置を提供すること、及びこのような発光装置用に好適な高い発光効率で高輝度発光する赤色発光蛍光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
希土類イオンは、そのエネルギー準位に相当するエネルギーが外部から照射されるとそのエネルギーを吸収するが、希土類イオンの4f電子はその外側にある5s2、5p6電子によって外部からの影響から遮蔽されているため、そのエネルギー準位は環境にあまり依存せずイオン固有の値をとることが知られており、希土類イオンが直接励起エネルギーを吸収する蛍光体から発光を得る場合、特に、350〜420nmの近紫外光又は紫乃至青色光を励起エネルギーとして発光を得る場合、励起エネルギーの吸収率が高くないことが高輝度発光を得るための障壁となっている。
【0014】
従来、焼結体として得られる金属や希土類元素の酸化物蛍光体の場合、粒子径が小さいほど蛍光体を効率よく分散させて発光させることができることから、このような蛍光体を発光させる発光装置においては、粒子径が小さい蛍光体を用いれば、より高い発光効率が得られると考えられてきた。
【0015】
しかしながら、上述したような酸化物の蛍光体の粒子径と発光効率について検討すると、このような酸化物の蛍光体においては、粒子径が小さい蛍光体が高い発光効率を示すものではないことを知見した。
【0016】
そこで、本発明者は、上記事情に鑑み検討を重ねた結果、Euイオンを含有し、このEuイオンが半導体発光素子から発光した波長が350〜420nmの光を直接吸収して赤色光を発光する赤色発光蛍光体粒子のうち、平均粒子径が40〜200μmのものが高い発光効率で高輝度発光し、この赤色発光蛍光体粒子の発光効率が、白色系の光を発光する発光装置において併用される緑色発光蛍光体や青色発光蛍光体の発光効率と同等レベルとなり、この赤色発光蛍光体粒子を用いることにより、特に、赤色、緑色及び青色の発光蛍光体を併用する白色系の光を発光する発光装置において、微妙な色合いをより精密に再現性よく、また、より高輝度で発光する発光装置となることを見出した。
【0017】
そして、このような赤色発光蛍光体として、特に、下記組成式(1)
Liy(1-y)EuaSmbc28…(1)
(式中、AはNa,K,Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、ZはYを含みEu及びSmを除く希土類元素から選ばれる少なくとも1種であり、MはMo及びWから選ばれる少なくとも1種であり、yは0.4≦y≦1を満たす正数であり、aは0.8≦a≦1を満たす正数、bは0≦b≦0.2を満たす正数、cは0≦c≦0.2を満たす正数であって、a+b+c=1である。)
で表わされる平均粒子径が40〜200μmの赤色発光蛍光体粒子が好適であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0018】
即ち、本発明は、
[1] 波長が350〜420nmの光を発光する半導体発光素子が封止材内に封止されてなる発光装置であって、上記封止材に、Euイオンを含有し、該Euイオンが半導体発光素子から発光した波長が350〜420nmの光を直接吸収して赤色光を発光する平均粒子径が40〜200μmの赤色発光蛍光体粒子を分散させたことを特徴とする発光装置、
[2] 波長が350〜420nmの光を発光する半導体発光素子が封入されてなる発光装置であって、上記半導体発光素子から発光する光の光路上に、Euイオンを含有し、該Euイオンが半導体発光素子から発光した波長が350〜420nmの光を直接吸収して赤色光を発光する平均粒子径が40〜200μmの赤色発光蛍光体粒子を含む蛍光層を設けたことを特徴とする発光装置、
[3] 上記半導体発光素子が封止材内に封止されてなることを特徴とする[2]記載の発光装置、
[4] 上記赤色発光蛍光体が、下記組成式(1)
Liy(1-y)EuaSmbc28…(1)
(式中、AはNa,K,Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、ZはYを含みEu及びSmを除く希土類元素から選ばれる少なくとも1種であり、MはMo及びWから選ばれる少なくとも1種であり、yは0.4≦y≦1を満たす正数であり、aは0.8≦a≦1を満たす正数、bは0≦b≦0.2を満たす正数、cは0≦c≦0.2を満たす正数であって、a+b+c=1である。)
で表わされるものであることを特徴とする[1]乃至[3]のいずれかに記載の発光装置、
[5] [1]乃至[3]のいずれかに記載の発光装置に用いるEuイオンを含有し、該Euイオンが半導体発光素子から発光した波長が350〜420nmの光を直接吸収して赤色光を発光し、平均粒子径が40〜200μmであることを特徴とする赤色発光蛍光体粒子、及び
[6] [4]記載の発光装置に用いる下記組成式(1)
Liy(1-y)EuaSmbc28…(1)
(式中、AはNa,K,Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、ZはYを含みEu及びSmを除く希土類元素から選ばれる少なくとも1種であり、MはMo及びWから選ばれる少なくとも1種であり、yは0.4≦y≦1を満たす正数であり、aは0.8≦a≦1を満たす正数、bは0≦b≦0.2を満たす正数、cは0≦c≦0.2を満たす正数であって、a+b+c=1である。)
で表わされ、平均粒子径が40〜200μmであることを特徴とする赤色発光蛍光体粒子を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の赤色発光蛍光体粒子は、400nm前後の波長において従来にない高い発光効率で、高い発光強度を示すものであり、特に、緑色発光蛍光体、青色発光蛍光体と併用して白色若しくは中間色を表示する発光装置に用いることにより微妙な色合いをより精密に再現性よく、また、より高輝度で白色若しくは中間色を発光する発光装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について更に詳述する。
まず、本発明の発光装置の第1の態様について説明する。この第1の態様の発光装置は、波長が350〜420nmの光を発光する半導体発光素子が封止材内に封止されてなる発光装置であり、上記封止材に、Euイオンを含有し、該Euイオンが半導体発光素子から発光した波長が350〜420nmの光を直接吸収して赤色光を発光する平均粒子径が40〜200μmの赤色発光蛍光体粒子を分散させたものである。
【0021】
具体的には、図1に示されるような、リード1,2、波長が350〜420nmの光を発光する半導体発光素子3、半導体発光素子3とリード2とを電気的に接続するリード細線4を、封止材5で砲弾型に封止した構造の、いわゆる砲弾タイプの発光ダイオードや、図2に示されるような、上面が開口した箱形の発光体収容部材6の内底から一対のリード1,2を発光体収容部材6の外部へ延出し、この発光体収容部材6の内部に波長が350〜420nmの光を発光する半導体発光素子3やリード細線4,4を収容し、これらを接続して発光体収容部材6内部を封止材5で封止した構造の、いわゆるチップ型の発光ダイオードなどの封止材5中に、以下に詳述する本発明の赤色発光蛍光体粒子を分散させたものが挙げられる。
【0022】
本発明の赤色発光蛍光体は、Euイオンを含有し、このEuイオンが半導体発光素子から発光した波長が350〜420nmの光を直接吸収して赤色光を発光するものであり、その平均粒子径は40〜200μmである。
【0023】
3価のEuイオンは、4f電子によって、例えば382nm、395nmなどのエネルギー準位に相当する波長の光を吸収する。本発明において、Eu3+イオンが光を直接吸収して赤色光を発光する蛍光体とは、半導体発光素子から発光した光などのエネルギーを、母体結晶、Eu3+イオンに隣接した陰イオンから電子が移動した電荷移動状態、蛍光体のバンドギャップなどが一旦吸収し、この吸収されたエネルギーがEu3+イオンに伝達されEu3+イオンが発光するタイプのものではなく、Eu3+イオンが、上述した蛍光体の母体結晶、電荷移動状態、ハンドギャップによるエネルギー吸収を介して伝達されたエネルギーではなく、半導体発光素子から発光した光などの蛍光体外部から与えられたエネルギーによって直接励起されて赤色光を発光するものである。
【0024】
このようなEuイオンが波長350〜420nmの光を直接吸収して赤色光を発光する蛍光体としては、例えば、EuPO4、EuBO3、Eu2(MoO)3Na5Eu(MoO44や、これらを構成するEuの一部がLi、Na、K、Rb、Ce等のアルカリ金属や、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属で置換されたものなどが挙げられる。
【0025】
また、下記組成式(1)
Liy(1-y)EuaSmbc28…(1)
(式中、AはNa,K,Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、ZはYを含みEu及びSmを除く希土類元素から選ばれる少なくとも1種、好ましくはY,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm、Yb及びLuから選ばれる少なくとも1種であり、MはMo及びWから選ばれる少なくとも1種であり、yは0.4≦y≦1を満たす正数であり、aは0.8≦a≦1を満たす正数、bは0≦b≦0.2を満たす正数、cは0≦c≦0.2を満たす正数であって、a+b+c=1である。)
で表わされるものも好適である。
【0026】
上記組成式(1)で表される赤色発光蛍光体粒子には、上記組成式(1)中のyが0.4≦y≦1を満たすものであり、Liと共に、Aで示されるNa,K,Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属、好ましくはNa及びKからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属、特に好ましくはNaを含有するもの(即ち、0.4≦y<1の場合)と、Liのみを含有するもの(即ち、y=1の場合)とが含まれる。
【0027】
なお、上記組成式(1)中のyは0.4≦y≦1を満たす範囲であるが、このyの範囲の下限は好ましくは0.6以上、より好ましくは0.7以上、更に好ましくは0.8以上であり、yの範囲の上限は好ましくは1未満、より好ましくは0.99以下、更に好ましくは0.95以下、特に好ましくは0.9以下である。
【0028】
また、上記組成式(1)で表される赤色発光蛍光体粒子には、上記組成式(1)中のaが0.8≦a≦1を満たすものであり、Euと、Sm及び/又はZで表される希土類元素とを含有するもの(即ち、0.8≦a<1の場合)と、Euのみを含有するもの(即ち、a=1の場合)とが含まれる。
【0029】
Euの比率は、上記組成式(1)中のaが0.8≦a≦1、好ましくは0.9≦a<1を満たす正数、(EuイオンからSm及び/又はZで表される希土類元素のイオンへの置換率Rが0≦R≦20at%、好ましくは0<R≦10at%)となる比率である。aの値が0.8未満の場合(置換率Rが20%を超える場合)は、上記した400nm前後の励起光による十分な赤色発光が得られない。
【0030】
また、Euと、Sm及び/又はZで表される希土類元素とを含有するものの場合、更に、上記組成式(1)中のaが0.95≦a<1、特に0.96≦a<1、とりわけ0.96≦a≦0.98を満たす正数(EuイオンからSm及び/又はZで表される希土類元素のイオンへの置換率Rが0<R≦5at%、特に0<R≦4at%、とりわけ2≦R≦4at%)であることが好ましい。a(置換率R)がこの範囲を満たす場合、この赤色発光蛍光体粒子は、400nm前後の励起光により、特に高強度の赤色発光を示す赤色発光蛍光体粒子となる上に、350〜420nmの範囲の励起光に対して(即ち、400nm前後よりも広い範囲の励起光に対しても)従来の蛍光体と比べて高い発光強度を示すものとなり、励起波長が350〜420nmの広い範囲において高い発光強度を示す極めて優れた赤色発光蛍光体粒子となるため好ましい。
【0031】
一方、Smの比率は、上記組成式(1)中のbが0≦b≦0.2を満たす正数であり、Zで表される希土類元素の比率は、上記組成式(1)中のcが0≦c≦0.2、好ましくはcが0≦c<0.2、更に好ましく0≦c≦0.1は満たす正数である。なお、上記組成式(1)で表される赤色発光蛍光体粒子には、Euと、Sm及び/又はZで表される希土類元素との双方を必須成分として含有するもの(即ち、bが0<b≦0.2を満たす正数であり、cが0<c≦0.2を満たす正数の場合)の他、Smを含み、Zで表される希土類元素を含まないもの(即ち、bが0<b≦0.2を満たす正数であり、c=0である場合)が含まれ、更にはSmを含まず、Zで表される希土類元素を含むもの(即ち、b=0であり、cが0<c≦0.2を満たす正数である場合)が含まれる。
【0032】
本発明の赤色発光蛍光体粒子は、平均粒子径が40〜200μmであり、特に平均粒子径100〜150μmのものが好ましい。粒子径が上記範囲のものを用いることにより、高い発光効率で高強度の蛍光発光を得ることが可能となる。平均粒子径が200μmを超えると、蛍光体の均一な分散が得られず、平均粒子径が40μm未満では、十分な発光効率と発光強度が得られない。
【0033】
本発明において、このような赤色発光蛍光体粒子は、原料として、赤色発光蛍光体粒子を構成する元素を含む酸化物、炭酸塩など、例えば、Li2CO3、Na2CO3、Eu23、Sm23、WO3、MoO3等や、リン酸源となるリン酸塩、ホウ酸源となるホウ酸塩などを、焼成後に上記組成式(1)で示される所定の組成となるように化学量論比で配合し、ボールミル等で混合して得た原料混合物を焼成し、必要に応じて水洗、粉砕し、更に篩分けして得ることができる。
【0034】
焼成の方法は、蛍光体として用いられる金属酸化物の製造に用いられる従来公知の方法を適用することが可能であり、特に限定されないが、例えばアルミナ製坩堝中に上記原料混合物を入れて、電気炉等の焼成炉で焼成して製造する方法が採用し得る。この場合、焼成温度は800〜1,300℃、特に800〜1,000℃、とりわけ850〜900℃であることが好ましく、また、焼成時間は30分〜48時間、特に2〜12時間であることが好ましい。
【0035】
また、粒子径が大きい赤色発光蛍光体粒子を得るために、粒子径が小さい赤色発光蛍光体粒子、例えば平均粒子径が40μm未満の赤色発光蛍光体粒子に、水などの造粒剤を適宜添加して造粒し、必要に応じて熱処理、粉砕、分級することも可能である。
この第1の態様の発光装置の場合、封止材5中に上述した本発明の赤色発光蛍光体粒子のみを分散させれば、高輝度の赤色を発光する発光装置となり、BaMg2Al1627:Eu,Mn、Zn2GeO4:Mn等の緑色発光蛍光体、BaMg2Al1627:Eu、(Sr,Ca,Ba)5(PO43Cl:Eu等の青色蛍光発光体と共に分散させれば、高輝度の白色又は中間色を発光する発光装置となる。これらいずれの発光装置においても、赤色発光蛍光体として本発明の赤色発光蛍光体粒子以外の赤色発光蛍光体、例えば、Y22S:Eu、La22S:Eu、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn等を添加することが可能である。
【0036】
なお、この第1の態様の発光装置は、半導体発光素子等を封止する際に、樹脂、ゴム、エラストマー、ガラスなどの封止材材料に蛍光体を混合して封止することにより製造することができる。特に、複数種の蛍光体を用いる場合、本発明の赤色発光蛍光体粒子は、一般的な蛍光体に比べ、真比重が高いため封止材料と混合したときに他の蛍光体よりも速く沈降して色むらを引き起こすおそれがある。そのため、本発明の赤色発光蛍光体粒子は、粘度の高いもの、例えば、チキソトロピー調整剤で粘度を調整したシリコーンゴム組成物、シリコーン樹脂組成物などに混合し、これを硬化させる方法で封止材中に分散させることが好ましい。また、封止材中には色調変換材料として上述した蛍光体の他に、顔料、染料、擬似顔料などを添加してもよい。
【0037】
次に、本発明の発光装置の第2の態様について説明する。この第2の態様の発光装置は、波長が350〜420nmの光を発光する半導体発光素子が封入されてなる発光装置であり、上記半導体発光素子から発光する光の光路上に、Euイオンを含有し、該Euイオンが半導体発光素子から発光した波長が350〜420nmの光を直接吸収して赤色光を発光する平均粒子径が40〜200μmの赤色発光蛍光体粒子を含む蛍光層を設けたものである。
【0038】
このようなものとしては、封止材内に封止されてなるものが挙げられ、例えば、半導体発光素子上又は封止材上に上記第1の態様の発光装置の説明において詳述した本発明の赤色発光蛍光体粒子を含む蛍光層を設けたものが挙げられ、具体的には、図3に示されるような、リード1,2、波長が350〜420nmの光を発光する半導体発光素子3、半導体発光素子3とリード2とを電気的に接続するリード細線4を、封止材5で砲弾型に封止した構造の、いわゆる砲弾タイプの発光ダイオードの半導体発光素子3上に蛍光層7を設けて半導体発光素子3等と共に封止したもの、図4に示されるような上面が開口した箱形の発光体収容部材6の内底から一対のリード1,2を発光体収容部材6の外部へ延出し、この発光体収容部材6の内部に波長が350〜420nmの光を発光する半導体発光素子3やリード細線4,4を収容し、これらを接続して、発光体収容部材6内部を封止材5で封止した構造の、いわゆるチップ型の発光ダイオードの半導体発光素子3上に蛍光層7を設けて半導体発光素子3等と共に封止したもの、図5に示されるような砲弾タイプの発光ダイオードの封止材5上に封止材5を被覆するように蛍光層7を設けたもの、図6に示されるようなチップ型の発光ダイオードの封止材5上に蛍光層7を設けたものが挙げられる。なお、図5、図6中の蛍光層以外の構成は図1、図2に各々示される構成と同様であるため説明を省略する。
【0039】
また、上述したような、蛍光層を発光ダイオード内部に又は発光ダイオードと隣接して設けたいわゆる透過型のものに限らず、図7に示されるように、蛍光層7を発光ダイオード8から離間する位置に設けると共に、この蛍光層から発光した光を反射板9で反射させるいわゆる反射型の発光装置も挙げられる。また、図5、図6に示されるような封止材上に蛍光層を設けた発光装置の蛍光層を、更に封止材で封止することも可能である。
【0040】
更に、このようなものとしては、半導体発光素子が金属製、樹脂製等のケース本体と、透光性樹脂、ガラス等の例えばレンズ状に形成された蓋とで構成されたケーシング内に半導体発光素子が封入されたものを挙げることもできる。
【0041】
この第2の態様の発光装置の場合、蛍光層中に上述した本発明の赤色発光蛍光体粒子のみを分散させれば、高輝度の赤色を発光する発光装置となり、BaMg2Al1627:Eu,Mn、Zn2GeO4:Mn等の緑色発光蛍光体、BaMg2Al1627:Eu、(Sr,Ca,Ba)5(PO43Cl:Eu等の青色蛍光発光体と共に分散させれば、高輝度の白色又は中間色を発光する発光装置となる。これらいずれの発光装置においても、赤色発光蛍光体として本発明の赤色発光蛍光体粒子以外の赤色発光蛍光体、例えば、Y22S:Eu、La22S:Eu、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn等を添加することが可能である。
【0042】
なお、蛍光層を半導体発光素子上に設ける場合は、蛍光体をそのままで用いてもバインダーと共に混合して用いてもよい。この場合、例えば、半導体発光素子が封止材内に封止されている場合は、図3、図4に示されるように、蛍光層は半導体発光素子と共に封止材中に封止されることとなる。
【0043】
一方、蛍光層を封止材上に設ける場合、赤色発光蛍光体粒子を透光性の樹脂、ゴム、エラストマー又はガラス、特にシリコーン樹脂又はシリコーンゴムに分散させて用いることが好ましい。特に、複数種の蛍光体を蛍光層に分散させる場合、上述した封止材に本発明の赤色発光蛍光体粒子を分散させる場合と同様、チキソトロピー調整剤で粘度を調整したシリコーンゴム組成物、シリコーン樹脂組成物などに混合し、これを硬化させる方法で蛍光層中に分散させることが好ましい。また、蛍光層は、蛍光体を混合して1層としたものでも、蛍光体をいくつかの層に分けて積層したものでもよい。また、蛍光層中には色調変換材料として上述した蛍光体の他に、顔料、染料、擬似顔料などを添加してもよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0045】
[比較例1、実施例1〜4]
蛍光体原料として、WO3粉末を7.8112g、Eu23粉末を2.8456g、Sm23粉末を0.1175g、Li2CO3粉末を0.6224g各々秤量し、これらをボールミルで均一に混合して原料混合物とした。
【0046】
次に、得られた原料混合物を、アルミナ製坩堝に入れ900℃の温度で6時間焼成した。得られた焼成物を純水にて十分洗浄して不要な可溶成分を除去し、その後、ボールミルにより細かく粉砕し、篩分け(目開き53μm)してLiEu0.96Sm0.0428で示される組成の赤色発光蛍光体の粉末を得た。
【0047】
次に、この蛍光体粉末に造粒剤として水を1〜3質量%の割合で分散させて造粒した。これを700〜900℃の温度で12時間熱処理後、目開き32μm、53μm、106μm、150μm及び250μmの篩を用いて篩分けして、異なる平均粒子径を有する赤色発光蛍光体粒子を得た。得られた粒子の平均粒子径を表1に示す。
【0048】
次に、150Wキセノンランプから分光器を用いて395nmの光を取り出し、これを励起光源として直径60mmの積分球内で得られた赤色発光蛍光体粒子を発光させた。発光はマルチ瞬間測光システムMCPD−7000(大塚電子(株)製)を用いて分析した。
【0049】
励起光源と蛍光体試料を交互に測定し、励起光源の光子数(A)、蛍光体試料から反射した励起光源の光子数(B)及び蛍光体試料の発光の光子数(C)を算出した。これらの光子数より蛍光体試料の吸収率((A−B)/A×100)、内部量子効率(C/(A−B)×100)及び発光効率(吸収率×内部量子効率/100)を算出した。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
[比較例2、実施例5,6]
蛍光体原料として、(NH42HPO4粉末を52.824g、Eu23粉末を63.346g、CaCO3粉末を4.004g、Li2CO3粉末を1.478g各々秤量し、これらをボールミルで均一に混合して原料混合物とした。
【0052】
次に、得られた原料混合物を、アルミナ製坩堝に入れ1300℃の温度で6時間焼成した。得られた焼成物を純水にて十分洗浄して不要な可溶成分を除去し、その後、ボールミルにより細かく粉砕し、篩分け(目開き53μm)してEuサイトの一部がCa及びLiで置換されたEuPO4を主構造とするLi−Ca−EuPO4赤色発光蛍光体の粉末を得た。
【0053】
次に、この蛍光体粉末に造粒剤として水を1〜3質量%の割合で分散させて造粒した。これを1000〜1300℃の温度で12時間熱処理後、目開き32μm、53μm、106μmの篩を用いて篩分けして、異なる平均粒子径を有する赤色発光蛍光体粒子を得た。得られた粒子の平均粒子径を表2に示す。
【0054】
蛍光体試料の発光と、吸収率、内部量子効率及び発光効率の評価は、比較例1と同様の方法で実施した。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
参考として、上記実施例及び比較例と同様の方法で、市販の青色発光蛍光体及び緑色発光蛍光体の発光光を分析し、吸収率、内部量子効率、発光効率を算出した結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
表1と表3、又は表2と表3の比較から、本発明の赤色発光蛍光体が、一般的に用いられている青色蛍光体BaMgAl1017:Eu並びに緑色蛍光体BaMgAl1017:Eu、Mn及びZnS:Cu,Alと遜色ない同程度の発光効率を有するものであり、本発明の赤色発光蛍光体を緑色発光蛍光体及び青色発光蛍光体と併用すれば、これらをバランスよく配合することができることから、微妙な色合いをより精密に再現性よく、また高輝度で、白色若しくは中間色を発光する発光装置が得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の光学装置の一例を示す図であり、砲弾型の発光ダイオードの封止材に本発明の赤色発光蛍光体粒子を分散させた発光装置を示す断面図である。
【図2】本発明の光学装置の一例を示す図であり、チップ型の発光ダイオードの封止材に本発明の赤色発光蛍光体粒子を分散させた発光装置を示す断面図である。
【図3】本発明の光学装置の一例を示す図であり、砲弾型の発光ダイオードの半導体発光素子上に本発明の赤色発光蛍光体粒子を含む蛍光層を設けた発光装置を示す断面図である。
【図4】本発明の光学装置の一例を示す図であり、チップ型の発光ダイオードの半導体発光素子上に本発明の赤色発光蛍光体粒子を含む蛍光層を設けた発光装置を示す断面図である。
【図5】本発明の光学装置の一例を示す図であり、砲弾型の発光ダイオードの封止材上に本発明の赤色発光蛍光体粒子を含む蛍光層を設けた発光装置を示す断面図である。
【図6】本発明の光学装置の一例を示す図であり、チップ型の発光ダイオードの封止材上に本発明の赤色発光蛍光体粒子を含む蛍光層を設けた発光装置を示す断面図である。
【図7】本発明の光学装置の一例を示す図であり、蛍光層を発光ダイオードから離間する位置に設けると共に、この蛍光層から発光した光を反射させる発光装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1,2 リード
3 半導体発光素子
4 リード細線
5 封止材
6 発光体収容部材
7 蛍光層
8 発光ダイオード
9 反射板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長が350〜420nmの光を発光する半導体発光素子が封止材内に封止されてなる発光装置であって、上記封止材に、Euイオンを含有し、該Euイオンが半導体発光素子から発光した波長が350〜420nmの光を直接吸収して赤色光を発光する平均粒子径が40〜200μmの赤色発光蛍光体粒子を分散させたことを特徴とする発光装置。
【請求項2】
波長が350〜420nmの光を発光する半導体発光素子が封入されてなる発光装置であって、上記半導体発光素子から発光する光の光路上に、Euイオンを含有し、該Euイオンが半導体発光素子から発光した波長が350〜420nmの光を直接吸収して赤色光を発光する平均粒子径が40〜200μmの赤色発光蛍光体粒子を含む蛍光層を設けたことを特徴とする発光装置。
【請求項3】
上記半導体発光素子が封止材内に封止されてなることを特徴とする請求項2記載の発光装置。
【請求項4】
上記赤色発光蛍光体が、下記組成式(1)
Liy(1-y)EuaSmbc28…(1)
(式中、AはNa,K,Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、ZはYを含みEu及びSmを除く希土類元素から選ばれる少なくとも1種であり、MはMo及びWから選ばれる少なくとも1種であり、yは0.4≦y≦1を満たす正数であり、aは0.8≦a≦1を満たす正数、bは0≦b≦0.2を満たす正数、cは0≦c≦0.2を満たす正数であって、a+b+c=1である。)
で表わされるものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の発光装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項記載の発光装置に用いるEuイオンを含有し、該Euイオンが半導体発光素子から発光した波長が350〜420nmの光を直接吸収して赤色光を発光し、平均粒子径が40〜200μmであることを特徴とする赤色発光蛍光体粒子。
【請求項6】
請求項4記載の発光装置に用いる下記組成式(1)
Liy(1-y)EuaSmbc28…(1)
(式中、AはNa,K,Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、ZはYを含みEu及びSmを除く希土類元素から選ばれる少なくとも1種であり、MはMo及びWから選ばれる少なくとも1種であり、yは0.4≦y≦1を満たす正数であり、aは0.8≦a≦1を満たす正数、bは0≦b≦0.2を満たす正数、cは0≦c≦0.2を満たす正数であって、a+b+c=1である。)
で表わされ、平均粒子径が40〜200μmであることを特徴とする赤色発光蛍光体粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−348262(P2006−348262A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−290713(P2005−290713)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(595015890)株式会社ファインラバー研究所 (15)
【Fターム(参考)】