説明

発光装置

【課題】 高効率、低環境負荷で、高演色性を有する発光装置を提供する。
【解決手段】第1の発光体2と第1の発光体2からの光を吸収し光を発する第2の発光体1を有する発光装置において、第2の発光体1がIII−V族物質を含み、該発光装置の発光色の色度座標値が、(X,Y)=(0.18,0.30)、(0.22,0.50)、(0.40,0.40)、(0.45,0.30)及び(0.22,0.20)の5点により囲まれる領域に存在することを特徴とする発光装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高発光効率の照明、ディスプレイ等の用途に使用される発光装置として、第1の発光体として発光ダイオード(LED)やレーザダイオード(LD)等の固体発光素子を用い、第2の発光体の構成成分として蛍光体を用いた発光装置が知られ、種々の装置が提案されている。
【0003】
例えば、高輝度、低消費電力、長寿命かつ低環境負荷の発光装置として、一次光源と、一次光源からの光を吸収して二次光を発する蛍光体を備える発光装置の蛍光体として、III−V族半導体の微結晶であり、その体積が特定の値より小さいものを使用することが知られている(特許文献1参照)。
また、該特許文献には、III−V族半導体のナノクリスタルからなる蛍光体を、赤色蛍光体、緑色蛍光体及び青色蛍光体と積層することにより白色蛍光を得ることが可能であり、これをGaN系発光素子光で励起することにより白色の照明装置を得ることができることが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−83653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、長周期律表のIII−V族半導体を第2の発光体に用いた発光装置においては、その発光装置からの発光を物体に照射した際に、高演色性を示す発光特性が実現されていなかった。上記特許文献1では、一次光源としてLEDを用い、二次光源として特定体積のInNナノクリスタルを蛍光体として用いて白色光が得られたとされているが白色の程度は不明で、また、蛍光体の製造の詳細は不明であることから、十分な演色性が達成されていないと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、第2の発光体に用いる蛍光体として、その合成時にマイクロ波照射による加熱を行った蛍光体を用いることにより、これを用いて得られる発光装置が従来にない演色性を示すことを見出し、本発明に到達した。
【0007】
即ち、本発明の要旨は、第1の発光体と、該第1の発光体からの光を吸収し光を発する第2の発光体を有する発光装置において、該第2の発光体がIII−V族物質を含み、該発光装置の発光色の色度座標値が、(X,Y)=(0.18,0.30)、(0.22,0.50)、(0.40,0.40)、(0.45,0.30)及び(0.22,0.20)の5点により囲まれる領域に存在することを特徴とする発光装置、に存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高効率、低環境負荷で、高演色性を有する発光装置の提供が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<第1の発光体>
第1の発光体としては、発光ダイオード(LED)やレーザダイオード(LD)等の固体発光素子が挙げられ、消費電力が少ない点からLED、LDが好ましく、中でもLDが好ましい。
第1の発光体としてLED、LDを用いる場合、GaN系化合物半導体を発光層に用いたLED(以下、「GaN系LED」と呼ぶことがある。)やLD(以下、「GaN系LD」と呼ぶことがある。)は、同程度の発光波長を有する他のLEDやLD、例えば、SiCを用いたLED等に比べ、発光出力や外部量子効率大きく、第2の発光体と組み合わせることによって低電力、高輝度の発光装置が得られることから、第1の発光体の発光層がGaN系化合物半導体よりなるものであることが好ましい。例えば、20mAの電流負荷に対し、GaN系LEDは、通常、SiCを用いたLEDの100倍以上の発光強度を有する。
【0010】
ここで、GaN系化合物半導体とは、Ga原子及びN原子を主たる構成成分とする化合物半導体をいう。
GaN系LED又はGaN系LDにおける発光層としては、LED又はLDの発光強度が大きくなることから、AlxGa1-xN、GaN、又はInxGa1-xNを含有していることが好ましく、特に、InxGa1-xNを含有していることが好ましい。ここで、xは、0<x<1を満たす任意の実数(以下、xは同義を表す。)である。又、GaN系LDの中では、InxGa1-xN層とGaN層の多重量子井戸構造のものが、発光強度が大きいという点で、好ましい。一方、GaN系LEDにおいては、発光層が、ZnやSiをドープしたものであることが、発光強度、発光スペクトルの波長分散等の発光特性を調節することが容易である点から好ましい。
【0011】
GaN系LEDは、通常、発光層、p層、n層、電極、及び基板を基本構成要素としている。ここで、発光効率を高くすることができることから、発光層をn型とp型のAlxGa1-xN層、GaN層、又は、InxGa1-xN層などで挟んだ状態にしたヘテロ構造を有しているものが好ましい。また、同様の理由で、発光層を量子井戸構造にすることがより好ましい。
第1の発光体は、その発光スペクトルにおいて発光強度の最大値を与える波長が、350nm以上であるのが好ましく、より好ましくは、380nm以上,最も好ましくは400nm以上であり、一方、500nm以下が好ましく、より好ましくは450nm以下、最も好ましくは430nm以下である。特に、後述する通り、本発明の発光装置の発光色の色座標値を本発明の特定の範囲とする点から、上記波長内であることが好ましい。発光強度の最大値を与える波長が2以上ある場合、もしくは、ある波長域において同じ発光強度となる場合は、それらの波長、又は、波長領域の少なくとも一つの値が上記範囲内であることが好ましい。発光効率の良い第1の発光体の態様であるLED、LDにおいて、上記発光強度の最大値を与える波長を選ぶことにより、さらに発光効率を上昇させることができるからである。
【0012】
<第2の発光体>
第2の発光体は、第1の発光体からの光を吸収して発光する発光体であり、第1の発光体からの光を吸収してフォトルミネセンスを生じる蛍光体を含む。通常、第1の発光体からの発光の波長ピークと、第2の発光体の発光の波長ピークは異なり、その関係は特に限定されないが、第2の発光体のピーク波長が第1の発光体のピーク波長よりも長波長であることが好ましい。
【0013】
本発明においては、第2の発光体に含まれる蛍光体として、III−V族物質を用いる。
【0014】
III−V族物質とは、実質的に、B、Al、Ga、In、Tl等の長周期律表のIII族元素の少なくとも1種と、N、P、As、Sb、Bi等の長周期律表のV族元素の少なくとも1種からなる物質のことである。ここで、実質的にIII族元素の少なくとも1種と、V族元素の少なくとも1種からなるとは、主としてIII族元素とV族元素からなる物質であるが、その性能を損なわない範囲で不純物等の微量成分を含む場合を包含する。
【0015】
III−V族物質としては、例えば、BN系物質、AlN系物質、GaN系物質、GaP系物質、InP系物質、InGaN系物質、InGaP系物質等が挙げられる。
ここで、「InGaP系物質」、「BN系物質」等の意味は次の通りである。すなわち、例えば「InGaP系物質」の場合、「少なくともIn、Ga及びPの3元素を含み、単一で固有の結晶構造を有する物質」のことである。結晶構造とは、例えば尖亜鉛鉱構造(Zinc Blend型構造)やウルツ鉱構造等の、周期的な原子配列をもった構造のことである。ただし、In、Ga及びPの少なくとも何れかのサイトの一部が他の元素によって置換されていても良い。
【0016】
置換されている場合、InサイトまたはGaサイトについては、III族元素、PサイトについてはV族元素によって置換されていることが好ましい。また、電荷補償されるため、結晶構造が維持しやすいことから、置換される元素と置換する元素のイオン価数が等しいことが好ましい。
また、III−V族物質は、その特性を損なわない範囲で他の不純物元素がサイト間に貫入していても良く、また、結晶欠陥や転位があっても良い。本発明に係る蛍光体に含有されてもよい元素としてはH,F,O,Alなどの1又は2以上の元素が挙げられる。
【0017】
第2の発光体に含まれる蛍光体としてより好ましいのは、第1の発光体と組み合わせた際により演色性の良い発光が得られることから、InP系物質、InGaP系物質が好ましく、特にInGaP系物質が好ましい。
【0018】
InP系物質としては、InPの組成比を有することが好ましい。ただし、In及びPの少なくとも何れかのサイトの一部が他の元素によって置換されて含有されていても良い。
一方、InGaP系物質としては、下記式(II)の組成比を有することが好ましい。
【化1】

ただし、上記式(II)において、y及びzは、0<y≦1,0≦z<1を満たす任意の実数である。さらに好ましくは0<y<1,0<z<1を満たす任意の実数である。y,zが上記の範囲にあることは、この超微粒子が、InPの結晶格子中のInの一部がGaに置換されているか、あるいは、GaPの結晶格子中のGaの一部がInに置換されていることを特徴とする三元系半導体からなるという技術的な意義を有する。ここで、発光の量子収率の観点から、yの範囲は好ましくは0.9≦y≦1、zに関しては、z=0である。さらに好ましくは、0.9≦y<1、zに関しては、z=0である。
ただし、In、Ga及びPの少なくとも何れかのサイトの一部が他の元素によって置換されて含有されていても良い。又、InGaP系物質の結晶構造としては、尖亜鉛鉱構造(Zinc Blend型構造)であることが好ましい。
【0019】
又、蛍光体は、コアシェル構造の粒子にしても良い。コアシェル構造とは、内核(コア)と外殻(シェル)の構造を持った粒子のことである。コアシェル構造を取ることにより、粒子の物理的、化学的特性を好ましく変化させることができる。
【0020】
この場合、蛍光体は、コアシェル構造の内核、外殻のどちら側に含有されていても良いが、中でも、コアシェル構造の内核に蛍光体が含有されていることが好ましい。
コアシェル構造の内核及び外殻は複数種の物質からなっていても良い。外殻は、複数個あっても良い。外殻に用いる物質としては、III−V族化合物半導体、II−VI族化合物半導体、あるいは金属酸化物の1種又は2種以上が好ましく、中でも、InP、BN、BAs、GaN、ZnO、ZnS、ZnSe、CdS、CdSe、MgS、MgSe、SiO2の1種又は2種以上がより好ましい。
さらに、2種以上の蛍光体(即ち、2種以上のIII−V族物質)を用い、内核及び外殻の両方に蛍光体を用いるようにしてもよい。
但し、外殻の物質は、内殻の物質と異なる必要がある。
【0021】
又、第2の発光体に含まれる蛍光体は、1種類の蛍光体から構成されていても良く、複数種の蛍光体から構成されていても良い。更に、該蛍光体の粒子は、特性を損なわない範囲で、結晶欠陥や転位があっても良く、位置的な組成比のずれがあっても良く、特性を損なわない範囲で不純物を含んでいても良い。又、単結晶、多結晶のいずれであっても良い。
【0022】
本発明の第2の発光体に含まれるIII−V族物質の吸収スペクトルは、波長λが400nm以上450nm以下の範囲において強度変化が小さいことが好ましい。
さらには、第2の発光体に含まれる蛍光体として、下記式(I)を満足する蛍光体を用いることが好ましい。
【0023】
【数1】

【0024】
(上記式(I)中、P(λ)は波長λにおける吸収スペクトルの強度を示し、P(λ)maxは、400nm≦λ≦450nmにおけるP(λ)の最大値を示し、P(λ)minは400nm≦λ≦450nmにおけるP(λ)の最小値を示す。)
P(λ)min/P(λ)maxは、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.7以上であり、最も好ましくは0.8以上である。
【0025】
これは、次の理由による。
発光効率の良い第1の発光体の発光スペクトルの主たる強度分布は、通常、400nm≦λ≦450nmとなる。ここで、主たる強度分布が400nm≦λ≦450nmとは、強度面積の7割以上、好ましくは8割以上が400nmと450nmの波長範囲に存在することを意味する。ただし、第1の発光体の発光スペクトルは、時間とともに変動する場合があり、通常それは±10nm程度の変化である。すなわち、第1の発光体の発光スペクトルが、時間的に、波長(λ)軸方向に±10nm程度の変動を起こす。また、経時変化だけでなく、第1の発光体の個体差による発光スペクトルの揺らぎもあり、実際に発光装置を量産する場合には、この点も考慮する必要がある。この個体差による発光スペクトルの揺らぎは通常±10nm程度である。そのため、第2の発光体の吸収スペクトルは、400nm≦λ≦450nmにおいて変化が小さいことが好ましい。一般に、第1の発光体の発光スペクトルは、ピークを与える波長の周囲に山なりの分布をしているため、上記変化が大きい場合、経時変化及び/又は個体差による発光スペクトルの波長方向の揺らぎにより、第2の発光体の吸収効率が大きく変化してしまう。従って、第2の発光体に含まれる蛍光体の吸収スペクトルの400nm≦λ≦450nmにおける強度の変化幅が30%〜100%、即ち、最大値に対して最小値が30%〜100%の幅に入っていないと、第1の発光体からの効果的な光の吸収が行えないこととなる。
【0026】
上記P(λ)min/P(λ)maxが、式(I)を満足するためには、
(1)吸収スペクトル端(吸収スペクトル上で吸収強度がゼロとなる最大波長)が長波長となる物質を蛍光体として用いる、
(2)蛍光体に含まれる不純物を低減する、
(3)蛍光体内での組成ずれ(例えば、ある領域でIn0.3Ga0.20.5であったものが、他の領域では、In0.1Ga0.70.2となっている等)を低減する、
(4)蛍光体結晶内での欠陥領域(例えば、原子が存在すべきサイトから位置ずれを起こしている等の領域)比率を低減する、
等の方法を取れば良い。
【0027】
中でも、上記の方法(1)のように吸収ペクトル端が長波長となる物質を蛍光体として用いることが好ましい。具体的な吸収スペクトル端は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、好ましくは400nm以上、より好ましくは450nm以上、中でも、500nm以上、最も好ましくは600nm以上である。また、通常2μm以下である。また、吸収スペクトル端が長波長となる物質の選択のためには、エネルギーギャップのなるべく小さな材料を蛍光体として用いることが好ましい。このためには、例えば、III−V族物質を蛍光体に用いれば良い。中でも、InGaP系物質を用いることが好ましい。
【0028】
また、上記の方法(2)を行なう場合には、不純物濃度は、蛍光体に対して、好ましくは30重量%以下、より好ましくは10重量%以下、最も好ましくは1重量%以下である。また、通常0.0001重量%以上である。
【0029】
さらに、上記の方法(3)を行なう場合には、蛍光体内での組成ずれは、各原子の組成分率の平均値からのずれが50%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。また、通常0.1%以上である。なお、各原子の組成分率の平均値は誘導結合プラズマ発光分光分析(IPC)により求めることができる。具体的には、各原子の組成分率の平均値からのずれは、任意の10Å×10Å平面100領域について、電子線マイクロアナライザー(EPMA)により各原子の組成分率を算出し、各原子について組成分率の平均値に対するずれの割合を算出することで求められる。
【0030】
また、上記の方法(4)を行なう場合には、蛍光体結晶内での欠陥領域の比率は、理論位置に対して、50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。また、通常0.1%以上である。なお、欠陥領域の比率は、原子のサイト位置を、任意の100Å×100Å平面において、X線吸収微細構造分析法(XAFS)により測定し、理論位置に対する比率を算出することで求められる。
ただし、上記の方法(1)〜(4)は2以上を任意に組み合わせて実施しても良い。
【0031】
一方、第2の発光体に含まれるIII−V族物質の蛍光体において、450nmを越える波長範囲における吸収スペクトルの強度P(λ)は、上記P(λ)maxより小さいことが好ましい。これは、以下の理由による。
λ>450nmの範囲において、P(λ)が、400nm≦λ≦450nmの最大値(すなわちP(λ)max)よりも大きな値を持つ場合、一般に、400nm≦λ≦450nmの範囲のスペクトラルウェイトが削られ、その分が長波長側、すなわちλ>450nmのスペクトルとしてもたらされている。図1にこのような場合の吸収スペクトルの一例を示す。このような場合には、好ましく用いられる発光ダイオードの発光スペクトル(図2に第1の発光体として発光波長450nmのLEDを用いた場合の、第1の発光体の発光スペクトルを示す)が分布する領域である400nm≦λ≦450nmにおける第2の発光体の吸収スペクトル強度が減少してしまうことを意味する。その結果、発光ダイオードからの光を効果的に吸収することができなくなる。
【0032】
更に、波長λが450nmを越える範囲における強度が、波長λが400nm以上450nm以下の範囲のどの強度よりも小さいことがより好ましい。即ち、450nmを越える波長範囲における吸収スペクトルの強度P(λ)は、上記P(λ)minより小さいことが好ましい。波長λが450nmを越える範囲に大きな吸収スペクトル強度がある場合、一般に、発光効率の良い第1の発光体の発光スペクトルが分布する領域である400nm≦λ≦450nmにおいて十分な強度の吸収スペクトルを得ることができないからである。
【0033】
本発明の蛍光体の平均粒径は、通常0.5nm以上、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、また、通常10μm以下、好ましくは1μm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは20nm以下、中でも12nm以下、最も好ましくは10nm以下である。平均粒径とは数平均粒径のことである。平均粒径が小さすぎると、結晶性低下などにより無輻射失活が起こり、内部量子効率が低下するおそれがあり、結果として発光効率が低下する。また、平均粒径が大きすぎると、量子効果による状態密度の増加の効果が小さくなり、吸収効率が十分得られず、発光効率が低下する。
【0034】
平均粒径及び標準偏差は、透過型電子顕微鏡(TEM)の画像の形態解析によって定義される。
このため、第1の発光体と組み合わせて発光装置を作製した際、優れた経時的発光安定
性を得ることが可能となる。
【0035】
本発明に係る蛍光体は、その粒径分布を狭くすることにより、発光スペクトルを狭帯域化する事ができる。ここで、発光スペクトルの狭帯域化とは、即ち、半値幅の狭い発光スペクトルと言い換えることができる。本発明に係る蛍光体の粒径分布は、標準偏差として好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。粒径分布の下限は特にないが、標準偏差として通常0.001%以上である。蛍光体の粒径分布がこの標準偏差の範囲を超過する場合は、発光スペクトルの狭帯化という目的を十分に達成できず、結果として色純度が悪くなるという不都合がある。
【0036】
ここで、標準偏差(σ)とは、TEMの観察写真より測定した各々の蛍光体の粒径(di)から数平均粒径(d)を引いたものの2乗の総和を粒子数(n)で割った値の平方根をいい、半値幅とは、ピーク波長での吸光度を1に規格化したときに、吸光度0.5の値を取るピークより長波長側の波長の値からピーク波長の値を減じ、その値を2倍にした値と定義する。
なお、前記の数平均粒径及び標準偏差は、TEMの観察写真より実測にて求めることができるが、画像解析処理装置等を用いて求めてもよい。
【0037】
また、本発明に係る蛍光体は、その粒径を制御することで二次光の発光スペクトルのピーク波長を制御することが可能となる。例えば、発光波長が590nmから650nmの赤色光を取り出す場合には、該蛍光体の個々の粒径dを4nm<d<6nmの範囲に収めればよく、発光波長が520nmから570nmの緑色光を取り出す場合には、該蛍光体の個々の粒径dを1.5nm<d<2.8nmの範囲に収めればよい。
【0038】
また、本発明の蛍光体の量子収率は、通常40%以上、好ましくは45%以上、さらに好ましくは50%以上である。下限を外れた場合には、実用上十分な輝度を得るために、励起光源の強度を上げなければならず、そのために、発光装置の消費電力が大きくなる虞がある。なお、上限は制限は無いが、理論的には100%以下である。
【0039】
蛍光体の量子収率を向上させるためには、フッ素化合物によるエッチング、蛍光体のコアシェル化、マイクロ波を用いた蛍光体の合成、蛍光体表面の有機物による被覆、などの手法が用いられる。この中でも、フッ素化合物によるエッチング手法が、III−V族物質からなる超微粒子蛍光体の発光の量子収率を向上させるために一般的に使用される。
【0040】
エッチングは、フッ化物イオンを含む溶液を、蛍光体を含む溶液に加え、攪拌しながら、紫外光/可視光を照射することで行われる(参考文献:Talapin, D. V., et al., J. Phys. Chem. B 2002, 106, pp. 12659-12663)。このプロセスは、フォトエッチングとも呼ばれる。蛍光体を含む溶液にフッ化物イオンを含む溶液を加えた後、攪拌子ながら光照射することで、蛍光体の量子収率は、時間と共に上昇する。一般的に、希薄なフッ化物イオン溶液を用いるほど、量子収率を上げるための反応時間がかかる。一方、フッ化物イオン溶液の濃度を上げると、量子収率はより短時間で上昇する。なお、ここで使用される、フッ化物イオンを含む化合物としては、HF、NH4F、(CH34NF、(C494NF、などが例示される。
【0041】
本明細書中に記述される量子収率は、相対量子収率であり、以下のように測定される。まず、レファレンス溶液として、ローダミン6Gのエタノール溶液を調製する。このとき、波長440nmでの吸光度を約0.1となるようにする。この溶液を波長440nmで励起した蛍光スペクトルを測定する。次いで、試料である蛍光体の溶液を調製する。このとき、この蛍光体溶液の波長440nmでの吸光度を、レファレンス溶液の波長440nmでの吸光度と同じになるようにする。レファレンスと同じ条件で、蛍光体溶液の蛍光スペクトルを測定する。そして、以下の式(III)を用い、相対量子収率φemを計算する。
【数2】

【0042】
上記式(III)において、Iは試料(蛍光体溶液)の発光ピークの積分面積を表わし、I’はレファレンス溶液の発光ピークの積分面積を表わし、Aは試料(蛍光体溶液)の励起波長(440nm)での吸光度を表わし、A’はレファレンス溶液の励起波長(440nm)での吸光度を表わし、nは試料(蛍光体溶液)の溶媒の屈折率を表わし、n’はレファレンス溶液の溶媒の屈折率を表わす。また、φ’emはローダミン6Gの量子効率(0.95)である。
【0043】
また、本発明に係る蛍光体は、その表面に有機化合物を伴っていてもよい。蛍光体がその表面に有機化合物を伴うとは、蛍光体表面に有機化合物が結合して保持される状態を指す。かかる蛍光体表面の有機化合物と蛍光体との結合様式に制限はないが、例えば配位結合、共有結合、イオン結合等の比較的強い化学結合、あるいはファンデルワールス力、水素結合、疎水−疎水相互作用、分子鎖の絡み合い効果等の比較的弱い可逆的な引力相互作用等が例示される。表面に伴われた有機化合物は1種でもよく、また、複数種でもよい。その有機物に関して制限はないが、具体例としては、トリアルキルホスフィン類、トリアルキルホスフィンオキシド類、アルカンスルホン酸類、アルカンホスホン酸類、アルキルアミン類、ジアルキルスルホキシド類、ジアルキルエーテル類、脂肪酸類、アルケン類、アルキン類等が挙げられる。
【0044】
蛍光体がその表面に有機化合物を伴うことにより、有機溶媒、あるいは、バインダー樹脂等への分散性が向上する効果がある。
【0045】
<合成法>
本発明の蛍光体の粒子の作製には、加熱反応容器を用いることが好ましい。加熱反応容器は、容器内を室温より高温に保つことができ、又、閉鎖系の場合、外部と物質の授受を抑制することができる。反応容器内には、通常、複数種の原料物質(蛍光体の前駆体)および溶媒が入れられるが、場合により、原料物質のみであっても良い。原料物質は、所望の蛍光体の合成に使用される公知の原料化合物(蛍光体を構成する金属元素の化合物)を、おおよそ、所望の組成となる割合で使用する。
【0046】
原料及び/又は溶媒、或いは原料化合物同士の混合は、通常−30℃以上100℃以下であるが、温度制御が容易であることから、外環境と同じ温度(室温)であることが好ましい。一般に、外環境と同じ場合、その温度は0℃以上40℃以下である。加熱反応容器の温度は、温度計、パイロメータ、熱電対等によって測定され、制御に供する。
加熱反応容器での蛍光体の製造工程は、通常、(1)加熱、(2)保温、(3)冷却、の少なくとも1以上よりなる。ここで、保温とは、加熱反応容器内の温度を一定に保つことであり、通常、外環境温度(室温)より高温である。
【0047】
加熱反応容器内での加熱は、油浴、マントルヒーター、火炎バーナーなどの熱源、あるいはマイクロ波の照射による。特にマイクロ波照射による加熱を採用することで、上記式(I)を満足する蛍光体の粒子の発光強度を上記式(I)の範囲に調節できる傾向にある。ただし、マイクロ波の照射以外に、油浴、マントルヒータ、バーナ等の1以上の方法を適宜併用しても良い。
照射されるマイクロ波のピーク波長は、好ましくは1GHz以上、より好ましくは2GHz以上、最も好ましくは2.4GHz以上である。また、好ましくは、10GHz以下、より好ましくは3GHz以下、最も好ましくは2.5GHz以下である。マイクロ波の波長スペクトルは急峻であることが好ましく、特に単一モードのマイクロ波を用いることが好ましい。また、マイクロ波の電力強度は過度に高いと蛍光体合成反応の制御が困難になることがあり、低いと合成反応が十分に進行しないことがあることから、100W〜30kW程度であることが望ましい。尚、マイクロ波照射時、反応雰囲気ガスは反応容器内に連続的に流れるような状態で行うことが好ましい。加熱温度は、通常、50℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは200℃以上であり、また、通常1000℃以下、好ましくは500℃以下、より好ましくは300℃以下である。
【0048】
このような蛍光体の合成において、得られる蛍光体の粒径分布の値は、蛍光体合成における反応容器の加熱速度と冷却速度を適切に調節することで制御することができる。例えば、加熱反応容器内で、加熱を急峻に行うと共に、冷却を急峻に行う。具体的には、加熱速度が20℃/分以上、及び冷却速度が50℃/分以上の条件が好ましい。
【0049】
また、得られる蛍光体の粒径制御は、例えば反応液の蛍光体前躯体の濃度の大小によって制御することができ、より大きな粒子を生成させたい場合には、多重合成法(multi injection)を用いて行えば良い。多重合成法とは、前記の蛍光体合成法に従って反応容器内で蛍光体を合成した後に、更に反応容器内に蛍光体の前躯体を追加し、前記の蛍光体製造工程に従って蛍光体の合成を行い、必要に応じてこれを繰り返すものである。例えば、第二回目の合成反応により、第一回目の合成反応で得られた蛍光体よりも粒径の大きな超微粒子を製造することができる。この多重合成法を用いることにより、粒径の制御を行うことができる。
本発明の蛍光体の粒径分散(粒径分布の標準偏差)の値は、マイクロ波周波数を適切に調節することで制御することができる。
【0050】
<発光体の構成>
本発明においては、面発光型の発光体、特に面発光型GaN系LDを第1の発光体として使用することが好ましい。発光装置全体の発光効率が高まるからである。ここで、面発光型の発光体とは、膜の面方向に強い発光を有する発光体である。面発光型GaN系LDにおいては、発光層等の結晶成長を制御し、かつ、反射層等を適切に配置することにより、発光層の縁方向よりも面方向の発光を強くすることが実現されている。面発光型の発光体を使用する場合、発光層の縁から発光するタイプに比べ、単位発光量あたりの発光断面積が大きくとれる。その結果、第2の発光体を構成する蛍光体にその光を照射する場合、単位光量あたりの照射面積を大きくする、すなわち照射効率を良くすることができ、蛍光体からのより強い発光を得ることが可能となる。第1の発光体として面発光型の発光体を使用する場合は、第2の発光体を膜状とすることが好ましい。面発光型の発光体からの光は断面積が十分大きいため、第2の発光体をその断面の方向に膜状とすると、第1の発光体からの蛍光体への照射断面積の蛍光体単位量あたりの量を大きくすることができ、蛍光体からのより強い発光を得ることが可能となる。
【0051】
また、第1の発光体として面発光型のものを使用し、第2の発光体として膜状のものを用いる場合、第1の発光体の発光面に、直接膜状の第2の発光体を接触させた形状とするのが好ましい。ここで、接触とは、第1の発光体と第2の発光体とが空気等の気体や各種液体等を介さないで接している状態のことである。その結果、第1の発光体からの光が第2の発光体の膜面で反射されて外部に出るということ(光量損失)を避けることができ、装置全体の発光効率を高くすることが可能となる。
【0052】
以下、本発明の発光装置の例を、図面に基づいて説明する。
本発明の発光装置の一形態における、第1の発光体と第2の発光体との位置関係を示す模式的斜視図を図3に示す。図3においては、1は第2の発光体を、2は第1の発光体(例えば、面発光型GaN系LED)を、3は基板を表す。LEDと第2の発光体は、互いに接触した状態であることが、光束の損失が少なくなることから好ましい。相互に接触した状態を実現するためには、LEDと第2の発光体とをそれぞれ別個に作っておき、それらの面同士を接着剤やその他の手段によって接触させたり、LEDの発光面上に第2の発光体を成膜ないし成型させたりすれば良い。
【0053】
ここで、第2の発光体として、蛍光体の粉を樹脂中へ分散したものを用いることが好ましい。第1の発光体からの光や第2の発光体からの光は、通常様々な方向に向いているが、樹脂中へ分散した第2の発光体を用いることで、光が樹脂の外に出る時にその一部が反射されるため、光の向きを揃えることが可能となるためである。又、第1の発光体からの光の第2の発光体への全照射面積が大きくなるため、第2の発光体からの発光強度を大きくすることができるからである。樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等を用いれば良い。特に、エポキシ樹脂を用いることが好ましい。蛍光体粉の分散性が良いからである。
蛍光体の粉を樹脂中に分散させる場合、蛍光体粉及び樹脂の全体に対する重量比は、通常1%以上、好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上である。また、通常95%以下、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下である。蛍光体の重量比が大きすぎると、蛍光体粉の凝集により発光効率が低下するおそれがあり、小さすぎると、樹脂による光の吸収や散乱のため発光効率が低下するおそれがあるからである。
【0054】
本発明の発光装置の他の例の模式的断面図を図4に示す。
図4の発光装置の形状は、砲弾型をしている。マウントリードの上部カップ(5)内に、第1の発光体(7)が蛍光体含有樹脂部(8)で被覆される。第1の発光体の上に、第2の発光体が形成されている。第2の発光体は、蛍光体をエポキシ樹脂やアクリル樹脂等のバインダーに混合、分散させ、カップ内に流し込むことにより形成されている。
【0055】
一方、図4においては、第1の発光体(7)とマウントリード(5)及び第1の発光体(7)とインナーリード(6)は、それぞれ導電性ワイヤー(9)で接続されており、これら全体がエポキシ樹脂等によるモールド部材(10)で被覆及び保護されている。
また、この発光素子を組み込んだ面発光照明装置(98)の例を図5に示す。内面を白色の平滑面等の光不透過性とした方形の保持ケース(910)の底面に、多数の発光装置(91)が設けられている。発光装置の外側には、発光素子の駆動のための電源及び回路等(図示せず。)が設けられている。保持ケースの蓋部に相当する箇所には、乳白色としたアクリル板等の拡散板(99)が発光均一化の目的で固定されている。
面発光照明装置を駆動して、発光素子の第1の発光体に電圧を印加することにより第1の発光体を発光させ、その発光の一部を、第2の発光体としての蛍光体含有樹脂部における前記蛍光体が吸収する。前記蛍光体が第一の発光体からの発光の一部を吸収し、吸収光とは異なるスペクトルを持った光を放出する。一方、蛍光体に吸収されなかった青色光等との混色により演色性の高い発光が得られ、この光が拡散板を透過して、図面上方に出射され、保持ケースの拡散板面内において均一な明るさの照明光が得られることとなる。
【0056】
<発光装置の発光色の色度座標値>
本発明の発光装置においては、第1の発光体からの光と第2の発光体からの光を混合して発光装置からの取り出し光を白色にすることが好ましい。取り出し光を白色光にすることで、発光装置によって照射される物体の演色性が高くなるからである。これは特に本発光装置を照明装置のコンポーネントとして用いる場合において重要である。
【0057】
特に、本発明の発光装置の発光色の色度座標値は、(X,Y)=(0.18,0.30)、(0.22,0.50)、(0.40,0.40)、(0.45,0.30)、(0.22,0.20)の5点により囲まれる領域内に存在する(但し、境界線上も含む)。
ここで、色度座標値とは、国際照明委員会(Commission Internationale de l′Eclair
age(CIE))が1931年に定義したスペクトル三刺激純値に基づくXY座標値のことである。発光装置の発光色の色度座標値が上記の範囲を有することにより、その発光により照射された物体は、反射光が太陽光(昼光)により照らされた物体色に近いスペクトルを有し、従って、高演色性を持った発光装置の実現が可能となる。
【0058】
発光装置の発光色の色度座標値は、(X,Y)=(0.28,0.26)、(0.25,0.35)、(0.28,0.40)、(0.38,0.38)、及び(0.38,0.31)の5点により囲まれる領域内に存在する(境界線上も含む。)ことがさらに好ましい。
発光装置の発光色が上記所望の色度座標値を持つようにするには、第二の発光体に含まれる蛍光体にIII−V族物質を使用すること、中でも、III−V族物質を加熱反応容器を用いて合成すること、特に、III−V族物質原料のマイクロ波照射による加熱を含む工程によりえられたIII−V族物質を用いることが好ましい。
【0059】
また、III−V族物質に該当する複数種の蛍光体を混合することにより、上記所望の色度座標値を持つようにすることも可能である。なお、ここで、複数種の蛍光体とは、材料の組成が異なることや同じ組成であっても粒径の異なる粒子であることになどによる種類の違を指す。ここで、「複数種」という意味は、違いを表すパラメータ(組成分率(InxGa1-xにおけるx等)、粒径等)が分布を持つ(分散を持つ)ことを含む。
【0060】
本発明の発光装置においては、第1の発光体及び第2の発光体以外の発光体を含んでいても良い。例えば、第2の発光体からの光を吸収し可視光を発する第3の発光体を用い、第1の発光体、第2の発光体及び第3の発光体の混色による発光装置を構成しても良い。あるいは、第1及び/又は第2の発光体からの光を吸収し可視光を発する第3の発光体を用い、第1の発光体、第2の発光体及び第3の発光体の混色による発光装置を構成しても良い。
尚、本発明の発光装置においては、カラーフィルターを用いることもできる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何等限定されるものではない。
以下に、蛍光体として、InGaP系物質の合成例を示す。以下で特に断らない限り、原材料には、市販品の薬品を、精製等を行わずそのまま使用した。又、実験には下記の装置を用いた。
(実験装置)
マイクロ波を用いた合成装置:
CEM Corporation社製DISCOVER system
定電力及びパルス電力源:
Milestone Corporation社製MILESTONE ETHOS system
プラズマ発光分光分析装置:
JOBIN YVON社製 誘導結合プラズマ−発光分光分析装置「JY38S」
UV/V吸収スペクトル測定装置:
CARY 50BIO WIKN UV Spectrometer
フォトルミネセンススペクトル測定装置:
CARY ECLIPSE Fluorescence Spectrometer
X線回折装置:
SCINTAG X2 powder diffractometer
透過型電子顕微鏡(TEM):
JEOL 2010 Transmission Electron Microscope
尚、DISCOVER systemには、テフロン(登録商標)隔膜付きの高圧用アルミキャップが付いた10mlの小さな反応容器が設置されている。全てのガラス器具は、使用前に乾燥してから用いるようにした。また、原材料となる薬品は、空気を遮断した状態で扱うようにした。
【0062】
(実施例1)
酢酸インジウム(In(OAc))、ガリウムアセチルアセトナト錯体(Ga(acac))及びパルミチン酸を、100℃に保ったヘキサデセン溶媒中に溶かし15.6mMの陽イオン溶液を作成した。ここで陽イオンの数は、Gaイオン数とInイオンの数の和で定義される。この時、次の(1)及び(2)を満たすように混合量を調節した。
【0063】
(1)Ga原子数/(In原子数+Ga原子数)=0.095
(2)パルミチン酸の分子数/(Ga原子数+In原子数)=3
この溶液をこの温度に保ったまま真空下で1時間デガスし、Arガスで3回パージを行った。
次に、ヘキサデセンを溶媒として86.1mMのP(SiMe33溶液(Meはメチル基を表わす)を作成した。このようにして、反応の際の前駆体物質として用いられるパルミチン酸のインジウムガリウム塩(CH3(CH214COO(In,Ga))及びP(SiMe33を合成した。なお、上記の合成方法は、Nano Lett. 2, 107(2002)を参照することができる。
【0064】
次に、パルミチン酸インジウムガリウム塩、P(SiMe33を陽イオンの合計数(インジウムイオン数とガリウムイオン数の和)と陰イオン数(リンイオン数)が2:1になるようにヘキサデセン溶液中で混合した。溶液の全体量は、5mLであった。また、溶液全体を50℃に保った。
次に、該溶液が280℃に達するまで、反応容器中で溶液に300Wの電力強度で電磁波(周波数2.45GHz)を照射した。280℃に達した後、電磁波照射の電力強度を280Wに下げ、そのまま電力強度を維持した。このまま15分間溶液の温度及び電磁波の電力強度を一定に保った後、急冷した。これにより、2.3nmの粒径のInGaP系物質の粒子を得た。生成されたInGaP系物質の粒子の結晶は、尖亜鉛鉱型構造を有し、粒径分散(粒径分布の標準偏差)は5%であった。また、このInGaP系物質の粒子の組成は、プラズマ発光分光分析で分析したところ、(In0.95Ga0.05)Pであることを確認した。
【0065】
このInGaP粒子に関して、UV/V吸収スペクトル測定装置により、吸収スペクトルを測定したところ、図6の結果(「溶媒:ヘキサデセン」のデータ)が得られた。P(λ)maxを与えるλは400nm、P(λ)minを与えるλは450nmであった。また、フォトルミネセンススペクトル測定装置により、発光スペクトルを測定したところ、図7の結果(「溶媒:ヘキサデセン」のデータ)が得られた。発光スペクトルは正規分布型でそのピーク波長は560nm、発光スペクトルの半値幅は40nmであった。以上のようにして、P(λ)min/P(λ)max=0.50の粒子を得た。
【0066】
得られたInGaP系物質(III−V族物質)の粒子に400nmに発光ピークを有する無機LEDを組み合わせて発光装置を構成すると、色度座標値(X,Y)=(0.33,0.34)の発光スペクトルを有する発光装置を得ることができた。
【0067】
合成したInGaP粒子1mLをはかり取ってガラスバイアルへ移し、ここにトルエン4mLを加えて混合した。ここに、アセトン20mLを加えて沈殿を生じさせ、この沈殿を遠心分離により回収した。得られた沈殿を再度トルエン5mLに溶解させた。この溶液に対し、48重量%のHF水溶液をブタノールによって希釈して調整した約10重量%のHF/水・ブタノール溶液を20μL加え、攪拌しつつ、ハンディ型小型UV照射装置を利用して波長365nmのUV光を1時間照射した。反応終了後、この溶液に対し、メタノール20mLを加えて沈殿を生じさせ、この沈殿を遠心分離により回収した。得られた沈殿にトルエンを加え、所定濃度の量子収率測定用の溶液を調製した。量子収率を測定したところ、70%であった。
【0068】
〈発光スペクトルの安定性〉
同様の合成実験を5回繰り返し、それぞれの発光スペクトルを測定したところ、発光スペクトルのピーク波長のばらつきは、560nm±3nmの範囲内にあり、再現性のよい実験結果が得られた。
【0069】
(実施例2)
パルミチン酸インジウムガリウム塩、P(SiMe33を混合する際の溶媒をヘキサデセンからオクタデセンにした以外は実施例1と同様にして、4.3nmの粒径のInGaP系物質の粒子を合成した。
このInGaP系物質の結晶は尖亜鉛鉱型構造を有し、粒径分散(粒径分布の標準偏差)は5%であった。
また、このInGaP系物質の組成は、プラズマ発光分光分析で分析したところ、(In0.94Ga0.06)Pであることを確認した。
【0070】
この粒子に関して、UV/V吸収スペクトル測定装置により、吸収スペクトルを測定したところ、図6の結果(「溶媒:オクタデセン」のデータ)が得られた。P(λ)maxを与えるλは400nm、P(λ)minを与えるλは450nmであった。フォトルミネセンススペクトル測定装置により、発光スペクトルを測定したところ、図7の結果(「溶媒:オクタデセン」のデータ)が得られた。発光スペクトルは正規分布型でそのピーク波長は600nm、発光スペクトルの半値幅は50nmであった。ここで、発光スペクトル測定時の励起波長は、400nmとした。以上のようにしてP(λ)min/P(λ)max=0.71の粒子を得た。
【0071】
得られたInGaP系物質(III−V族物質)の粒子に400nmに発光ピークを有する無機LEDを組み合わせて発光装置を構成すると、色度座標値(X,Y)=(0.40,0.39)の発光スペクトルを有する発光装置を得ることができた。
また、合成したInGaP粒子に対し、実施例1と同様の手法でエッチング処理を行った。量子収率を測定したところ、50%であった。
【0072】
〈発光スペクトルの安定性〉
同様の合成実験を5回繰り返し、それぞれの発光スペクトルを測定したところ、発光スペクトルのピーク波長は、600nm±4nmの範囲内にあり、再現性のよい実験結果が得られた。
【0073】
例えば、GaN系のLDを第1の発光体として用い、第2の発光体として上記実施例に従って合成したInGaP系物質の蛍光体粒子を樹脂に混合して得られた発光体を用いて作製された発光装置は、第2の発光体に含まれる蛍光体の吸収スペクトルが1≧P(λ)min/P(λ)max≧0.3であるため、第1の発光体の発光波長の時間的揺らぎに対しても、第2の発光体からの発光特性が変化することを抑制することができる。また、第1の発光体の発光スペクトルの個体差が生じた場合でも、第2の発光体からの発光特性の変化を抑制することができる。そのため、時間的な発光安定性、個体間での発光特性の安定性の少なくとも1つを改善した発光装置の提供が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の発光装置は、例えば、室内照明用光源、カラー液晶ディスプレイ等の画像表示装置用バックライト、信号機等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】λ>450nmに大きな強度を持つ第2の発光体の吸収スペクトルの例である。
【図2】発光効率の良い第1の発光体の発光スペクトルの例である。
【図3】第1の発光体と第2の発光体との位置関係を示す模式的斜視図である。
【図4】本発明の発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。
【図5】本発明の面発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。
【図6】本発明の発光装置に用いられる第2の発光体の吸収スペクトルの例である。
【図7】本発明の発光装置に用いられる第2の発光体の発光スペクトルの例である。
【符号の説明】
【0076】
1 第2の発光体
2 面発光型GaN系LED
3 基板
4 発光装置
5 マウントリード
6 インナーリード
7 第1の発光体
8 本発明の第2の発光体を含有させた樹脂部
9 導電性ワイヤー
10 モールド部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の発光体と、該第1の発光体からの光を吸収し光を発する第2の発光体とを有する発光装置において、該第2の発光体がIII−V族物質を含み、該発光装置の発光色の色度座標値が、(X,Y)=(0.18,0.30)、(0.22,0.50)、(0.40,0.40)、(0.45,0.30)及び(0.22,0.20)の5点により囲まれる領域に存在することを特徴とする発光装置。
【請求項2】
該III−V族物質の吸収スペクトルが下記式(I)を満足することを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【数1】

(上記式(I)中、P(λ)は波長λにおける吸収スペクトルの強度を示し、P(λ)maxは、400nm≦λ≦450nmにおけるP(λ)の最大値を示し、P(λ)minは400nm≦λ≦450nmにおけるP(λ)の最小値を示す。)
【請求項3】
該III−V族物質の数平均粒径が100nm以下、量子収率が40%以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の発光装置。
【請求項4】
該III−V族物質が下記式(II)で表される組成比を満たす化合物を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の発光装置。
【化1】

(ただし、y及びzは、0<y≦1,0≦z<1を満たす任意の実数である)
【請求項5】
該第2の発光体に含まれる該III−V族物質が、マイクロ波照射による加熱を含む工程によりえられたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−179884(P2006−179884A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−340388(P2005−340388)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】