説明

発振器

【課題】 発振動作を行う能動素子で生じたノイズを外部に逃がすことにより、ノイズや寄生発振を低減することができる発振器を提供する。
【解決手段】 所定の周波数で発振動作を行うことにより発振周波数fの発振信号Soutを出力するトランジスタQ1と、発振周波数fにおけるインピーダンスよりも、発振周波数fより低い周波数においてインピーダンスが低下するインピーダンス素子Z1,Z2,Z3と、コンデンサC6,C7,C8とを備え、トランジスタQ1のコレクタ端子、ベース端子、及びエミッタ端子は、インピーダンス素子Z1とコンデンサC6との直列回路、インピーダンス素子Z2とコンデンサC7との直列回路、及びインピーダンス素子Z3とコンデンサC8との直列回路をそれぞれ介してグラウンドに接続されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の周波数で発振する発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
図4は、背景技術に係る発振器の構成を示す回路図である(例えば、特許文献1参照。)。図4に示す発振器101は、例えば、主に無線機などに使用されている発振器で、共振器102、トランジスタ103、抵抗104,105,106、及びコンデンサ107,108,109,110,111を備えて構成されている。そして、トランジスタ103のコレクタは抵抗104を介して電源に接続されると共に、コンデンサ107を介してグラウンドに接続されて高周波的に接地されている。
【0003】
トランジスタ103のベースは、抵抗105を介してトランジスタ103のコレクタに接続されている。また、トランジスタ103のエミッタは、抵抗106とコンデンサ110との並列回路を介してグラウンドに接続され、トランジスタ103のエミッタとベースとはコンデンサ109を介して接続されている。そして、トランジスタ103のベースは、コンデンサ108を介して共振器102に接続されている。
【0004】
このような回路はコルピッツ型発振回路と言われており、共振器102の共振周波数で発振することによりトランジスタ103のエミッタに生じた周波数信号が、コンデンサ111を介して負荷112へ供給されるようになっている。
【0005】
このように構成された発振器101において、例えばマイクロ波帯の周波数信号を生じるものでは、コンデンサ107,108,109,110,111は、0.1pF〜0.1μF程度の静電容量のものが用いられる。
【特許文献1】特開2002−344240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、トランジスタ等の能動素子では、ホワイトノイズと呼ばれる広い周波数範囲でほぼ一定の値のノイズの他に、1/f雑音と呼ばれる低い周波数で支配的となる周波数に反比例して大きくなるノイズが存在する。低雑音のバイボーラートランジスタでは1/f雑音は通常10kHz以下の低い周波数でホワイトノイズより大きく、支配的になることが知られている。
【0007】
また、上述の発振器101では、コンデンサ107,108,109,110,111のインピーダンスは、発振器101の発振周波数では比較的小さくなるものの、1/f雑音が支配的となるような低い周波数、例えば10kHz以下の周波数では、インピーダンスが極めて高くなってしまう。そのため、1/f雑音が支配的となる低い周波数では、トランジスタ103の全ての信号端子が比較的高いインピーダンスに接続された状態となる。
【0008】
このため、トランジスタ103の内部で発生した1/f雑音はトランジスタ103の内部に閉じ込められ、トランジスタ103のコレクタ電流において、低い周波数でのノイズ成分を生じるという不都合があった。また、発振器101はトランジスタ103を非直線領域で使用しているため、直流付近の低い周波数でのノイズ成分は発振周波数の信号と混合され、発振周波数近傍の位相雑音に変化するという不都合があった。そして、低い周波数では安定な回路でも、発振器101がマイクロ波帯で発振している状態では、トランジスタ103の整流作用等によるバイアス条件の変化により、小さな振幅で低い周波数の寄生発振が発生する場合があるという不都合があった。
【0009】
図5は、寄生発振が発生している発振器101の出力信号のスペクトラムを示す図である。図5において、横軸は周波数、縦軸は電力を示している。図5に示すスペクトラムは、発振周波数6.242GHzの発振器101が、32kHzの周波数で寄生発振を起こしている状態を示しており、寄生発振を符号Aで示している。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みて為された発明であり、発振動作を行う能動素子で生じたノイズを外部に逃がすことにより、ノイズや寄生発振を低減することができる発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するために、本発明に係る発振器は、所定の周波数で発振動作を行うことにより前記周波数の信号を出力する能動素子と、前記周波数より低い周波数において前記周波数におけるインピーダンスよりもインピーダンスが低下するインピーダンス素子と、コンデンサとを備え、前記能動素子が備える信号端子のうち少なくとも一つは、前記インピーダンス素子と前記コンデンサとの直列回路を介してグラウンドに接続されていることを特徴としている。
【0012】
また、上述の発振器において、前記能動素子はトランジスタであり、前記トランジスタが備えるコレクタ端子は、前記信号端子として前記直列回路を介してグラウンドに接続されていることを特徴としている。
【0013】
また、上述の発振器において、前記能動素子はトランジスタであり、前記トランジスタが備えるベース端子は、前記信号端子として前記直列回路を介してグラウンドに接続されていることを特徴としている。
【0014】
また、上述の発振器において、前記能動素子はトランジスタであり、前記トランジスタが備えるエミッタ端子は、前記信号端子として前記直列回路を介してグラウンドに接続されていることを特徴としている。
【0015】
また、上述の発振器において、前記エミッタ端子は、前記直列回路の代わりに前記インピーダンス素子を介してグラウンドに接続されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
このような構成の発振器は、能動素子が発振動作を行うことにより、所定の周波数の信号が出力される。また、能動素子が備える信号端子のうち少なくとも一つは、前記周波数より低い周波数において前記周波数におけるインピーダンスよりもインピーダンスが低下するインピーダンス素子と、コンデンサとの直列回路を介してグラウンドに接続されているので、能動素子で生じた低周波数の1/f雑音をグラウンドに逃がすことができる結果、寄生発振を抑制し、1/f雑音に基づく位相雑音を低減することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。図1は、本発明の一実施形態に係る発振器の構成の一例を示す回路図である。図1に示す発振器1は、いわゆるコルピッツ型発振回路であり、共振器2、トランジスタQ1(能動素子)、抵抗R1,R2,R3、コンデンサC1,C2,C3,C4,C5,C6,C7,C8、及びインピーダンス素子Z1,Z2,Z3を備えて構成されている。
【0018】
トランジスタQ1のコレクタは抵抗R1を介して電源に接続されると共に、コンデンサC1を介してグラウンドに接続されることにより高周波的に接地されている。トランジスタQ1のベース端子は、抵抗R2を介してトランジスタQ1のコレクタ端子に接続されている。また、トランジスタQ1のエミッタ端子は、抵抗R3とコンデンサC3との並列回路を介してグラウンドに接続され、トランジスタQ1のエミッタ端子とベース端子とはコンデンサC2を介して接続されている。そして、トランジスタQ1のベース端子は、コンデンサC5を介して共振器2に接続されている。
【0019】
さらに、トランジスタQ1のコレクタ端子は、インピーダンス素子Z1とコンデンサC6との直列回路を介してグラウンドに接続され、トランジスタQ1のベース端子は、インピーダンス素子Z2とコンデンサC7との直列回路を介してグラウンドに接続され、トランジスタQ1のエミッタ端子は、インピーダンス素子Z3とコンデンサC8との直列回路を介してグラウンドに接続されている。
【0020】
そして、トランジスタQ1は、共振器2の共振周波数fで発振し、トランジスタQ1のエミッタ端子に生じた周波数信号がコンデンサC4を介して発振信号Soutとして外部へ出力されるようになっている。この場合、発振器1の発振周波数もまたfとなる。
【0021】
共振器2としては、例えば水晶発振子やLC共振回路、あるいはマイクロ波の共振に用いられる誘電体共振器を用いることができる。
【0022】
コンデンサC1,C2,C3,C4,C5としては、例えば0.1pF〜0.1μF程度の静電容量のものが用いられる。また、コンデンサC6,C7,C8としては、大容量のコンデンサ、例えば10μF以上の静電容量のものが用いられる。
【0023】
インピーダンス素子Z1,Z2,Z3は、発振周波数fより低い周波数において、発振周波数fにおけるインピーダンスよりもインピーダンスが低下するインピーダンス素子であり、発振周波数fにおいて周波数が高く、例えば100Ω以上となり、1/f雑音が支配的となるような低い周波数、例えば10kHz以下の周波数では、極めて低いインピーダンス、例えば5Ω以下となるようにされている。
【0024】
あるいは、インピーダンス素子Z1,Z2,Z3は、マイクロ波回路において標準インピーダンスとされている50Ωを基準に、発振周波数fにおいて標準インピーダンスの2倍以上となり、1/f雑音が支配的となる低い周波数において標準インピーダンスの1/10以下となるようにしてもよい。
【0025】
インピーダンス素子Z1,Z2,Z3としては、例えば、チョークコイルや、コイルとコンデンサとの並列共振回路を用いることができる。あるいは、マイクロ波の周波数では、発振周波数fの信号における波長をλとするとλ/4の長さのマイクロストリップラインにより構成することが出来る。この場合、インピーダンス素子Z1,Z2,Z3として共振のQ値が30以上のコイルとコンデンサとの並列共振回路や、λ/4の長さのマイクロストリップラインを用いた場合には、発振周波数fにおいてインピーダンス素子Z1,Z2,Z3のインピーダンスを容易に500Ω以上とすることができる。
【0026】
これにより、インピーダンス素子Z1,Z2,Z3は、発振周波数fでは極めて高いインピーダンス、例えば100Ω以上となるので発振器1の発振条件には影響を与えることなく、発振器1は発振周波数fで発振する。
【0027】
一方、インピーダンス素子Z1,Z2,Z3は、1/f雑音が支配的となる周波数、例えば10kHz以下の低い周波数では、極めて低いインピーダンス、例えば5Ω以下となる。また、インピーダンス素子Z1,Z2,Z3と直列に接続されているコンデンサC6,C7,C8は、静電容量の大きなものが用いられているので、1/f雑音が支配的となる低周波の領域でもインピーダンスが非常に小さくなる。例えば、コンデンサC6,C7,C8の静電容量が10μFの場合、1/f雑音が支配的となる10kHzにおけるインピーダンスは1.6Ωとなる。
【0028】
これにより、トランジスタQ1のコレクタ端子、ベース端子、及びエミッタ端子は、1/f雑音が支配的となる低周波の領域において、低インピーダンスを介してグラウンドに接続される。そうすると、トランジスタQ1の1/f雑音は、各信号端子からグランドへ流出するため、トランジスタQ1のコレクタ電流に含まれる1/f雑音成分は大幅に低減される。そして、コレクタ電流に含まれる1/f雑音が低減されると、位相雑音に変化する1/f雑音が減少する結果、位相雑音も大幅に低減される。また、1kHz〜10kHzの低い周波数での寄生発振も、エミッタ・ベース・コレクタの全ての端子が低いインピーダンスでグラウンドに接続されているため抑制される。
【0029】
このように、発振動作を行うトランジスタQ1で生じた1/f雑音をグラウンドに逃がすことにより、ノイズや寄生発振を低減することができる。
【0030】
図2は、図1に示す発振器1を用いて得られた発振信号Soutのスペクトラムを示すグラフである。図2において、横軸は周波数、縦軸は電力を示している。図2に示すスペクトラムでは、図5に示す従来の発振器で得られたスペクトラムにおいて符号Aで示す部分に生じていた32kHzの寄生発振がなくなっていることが確認できた。また、図2に示すスペクトラムでは、発振周波数の両側の位相雑音が滑らかに低下していることが確認できた。
【0031】
図3は、図1に示す発振器1において、発振周波数fを6.24GHzとし、共振器2として誘電体共振器を用い、共振のQ値を、Q=1000とした場合において得られた発振信号Soutの位相雑音を示したグラフである。図3において、横軸は発振周波数fからのオフセット周波数、縦軸は発振電力に対する1Hz当たりの雑音電力をdBで表した値である。
【0032】
図3に示すように、図1に示す発振器1において、オフセット周波数10kHzの場合、位相雑音は−119dBc/Hz、オフセット周波数100kHzの場合、位相雑音は−140dBc/Hzという極めて低い位相雑音特性が得られた。
【0033】
また、本願発明者は、実験によって、市販されている一般的なマイクロ波発振器について、位相雑音を測定した。その結果によれば、米国Hittite社製HMC358MS8Gでは周波数オフセットが100kHzの場合、位相雑音は−105dBc/Hz、米国Z−communications社製V965ME04では周波数オフセットが100kHzの場合、位相雑音は−110dBc/Hz、(株)ヨコオ・ウベギガデバイス社製GDV307KSでは周波数オフセットが100kHzの場合、−110dBc〜−119dBc/Hzという結果が得られた。これら市販のマイクロ波発振器と比較しても、図1に示す発振器1における位相雑音は低減されていることが確認できた。
【0034】
このように、図1に示す発振器1では、1/f雑音が支配的となる低周波数の領域において、発振周波数におけるインピーダンスよりもインピーダンスが低下するインピーダンス素子と、当該低周波数の領域において低インピーダンスであるコンデンサとの直列回路によって発振動作を行うトランジスタQ1の信号端子がグラウンドに接続されているので、トランジスタQ1で生じた1/f雑音をグラウンドに逃がすことができ、寄生発振を抑制し、1/f雑音に基づく位相雑音を低減することが出来る。
【0035】
なお、トランジスタQ1のコレクタ端子、ベース端子、及びエミッタ端子が、インピーダンス素子Z1とコンデンサC6との直列回路、インピーダンス素子Z2とコンデンサC7との直列回路、及びインピーダンス素子Z3とコンデンサC8との直列回路を介してそれぞれグラウンドと接続される例を示したが、トランジスタQ1のコレクタ端子、ベース端子、及びエミッタ端子のうち少なくとも一つが対応する直列回路を介してグラウンドに接続される構成であってもよい。
【0036】
また、トランジスタQ1のエミッタは、インピーダンス素子Z3とコンデンサC8との直列回路を介してグラウンドに接続する例を示したが、コンデンサC8を用いず、インピーダンス素子Z3のみを介してグラウンドに接続する構成としてもよい。
【0037】
また、本発明をコルピッツ発振回路に適用した例を示したが、発振回路の方式には限定されず、他の方式の発振回路において発振を行う能動素子の信号端子のうち少なくとも一つがインピーダンス素子とコンデンサとの直列回路を介してグラウンドに接続される構成であってもよい。例えば、マイクロ波帯においてコンデンサの代わりにトランジスタ等の素子の寄生容量を用いて構成された負性抵抗入力発振回路等に適用することができる。
【0038】
なお、上述の各図及び説明文は、本特許の一実施例の説明の為のものであり、本発明の請求範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態に係る発振器の構成の一例を示す回路図である。
【図2】図1に示す発振器を用いて得られた発振信号のスペクトラムを示すグラフである。
【図3】図1に示す発振器を用いて得られた発振信号の位相雑音を示すグラフである。
【図4】背景技術に係る発振器の構成を示す回路図である。
【図5】図4に示す発振器を用いて得られた発振信号のスペクトラムを示すグラフである。
【符号の説明】
【0040】
1 発振器
2 共振器
C1〜C8 コンデンサ
Q1 トランジスタ
R1〜R3 抵抗
Z1〜Z3 インピーダンス素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数で発振動作を行うことにより前記周波数の信号を出力する能動素子と、
前記周波数より低い周波数において前記周波数におけるインピーダンスよりもインピーダンスが低下するインピーダンス素子と、
コンデンサとを備え、
前記能動素子が備える信号端子のうち少なくとも一つは、前記インピーダンス素子と前記コンデンサとの直列回路を介してグラウンドに接続されていること
を特徴とする発振器。
【請求項2】
前記能動素子はトランジスタであり、前記トランジスタが備えるコレクタ端子は、前記信号端子として前記直列回路を介してグラウンドに接続されていること
を特徴とする請求項1記載の発振器。
【請求項3】
前記能動素子はトランジスタであり、前記トランジスタが備えるベース端子は、前記信号端子として前記直列回路を介してグラウンドに接続されていること
を特徴とする請求項1記載の発振器。
【請求項4】
前記能動素子はトランジスタであり、前記トランジスタが備えるエミッタ端子は、前記信号端子として前記直列回路を介してグラウンドに接続されていること
を特徴とする請求項1記載の発振器。
【請求項5】
前記エミッタ端子は、前記直列回路の代わりに前記インピーダンス素子を介してグラウンドに接続されていること
を特徴とする請求項4記載の発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−352270(P2006−352270A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172796(P2005−172796)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、総務省、「多値変調方式無線通信用低位相雑音シンセサイザに関する研究開発」委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】