説明

発泡樹脂組成物、電線、及びケーブル

【課題】発泡状態の均一性、及び耐熱性に優れた発泡絶縁体層の材料となる発泡樹脂組成物、並びにその発泡絶縁体層を有する電線及びケーブルを提供する。
【解決手段】本発明の一態様において、シンジオタクチックポリスチレンと、前記シンジオタクチックポリスチレン100重量部に対して5.3重量部以上、54重量部以下のポリオレフィン樹脂と、を含む発泡樹脂組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡樹脂組成物、電線、及びケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報網発達と共に、情報を伝えるべき電線についても高速、大容量化が求められている。伝送方式もそれに応じて発展し現在は、差動伝送方式と呼ばれる2心1組のケーブルに+と−の電圧をかける方式が多くの機器で採用されてきている。
【0003】
この差動伝送方式は、外来ノイズに対しては耐性が強い反面、2本の電線の信号伝達時間の差(遅延時間差:スキュー)の管理が厳しく、このスキューは個々の電線の遅延時間の差、つまり電線の絶縁体の誘電率に起因する。そのため、絶縁体の発泡度管理が最も重要となる。
【0004】
従来、電線等の絶縁体材料としては、誘電正接の低いポリエチレン(PE)等を用い、PEを高発泡させることで誘電率εを低減させていた(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、これらの絶縁体は、比較的耐熱性の低いポリエチレンを用いている上に、高発泡であるため絶縁体中の樹脂量が少なく機械的強度が弱くなり、コネクタの接続時の半田熱によって、樹脂が溶融し、コネクタ接続部の絶縁体が変形してしまうことで、伝送特性が低下するという問題があった。
【0006】
コネクタ接続時の耐熱変形性を考慮すると、ポリエチレン等よりも耐熱性に優れる樹脂材料を用いる必要性が出てくる。従来、高い耐熱性の要求される用途に対して、シンジオタクチック構造を持つ樹脂を用いる技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。シンジオタクチック樹脂は、分子構造が規則的に配置されており、結晶化が早く、機械的強度があり、耐熱性に優れるものである。そこで、このような耐熱性に優れるシンジオタクチック樹脂を絶縁体材料として用いることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4123087号公報
【特許文献2】特開平1−182344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、シンジオタクチック樹脂は、その構造故に耐熱性には優れるが、溶融粘度が低く、高発泡や均一な発泡層を形成することが困難であった。そのため、誘電率低下のために発泡化される電線の絶縁体として用いるには適さなかった。
【0009】
したがって、本発明の目的の一つは、発泡状態の均一性、及び耐熱性に優れた発泡絶縁体層の材料となる発泡樹脂組成物、並びにその発泡絶縁体層を有する電線及びケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の一態様によれば、上記目的を達成するため、シンジオタクチックポリスチレンと、前記シンジオタクチックポリスチレン100重量部に対して5.3重量部以上、54重量部以下のポリオレフィン樹脂と、を含む発泡樹脂組成物が提供される。
【0011】
(2)上記(1)の発泡樹脂組成物は、層状の結晶構造を有する無機化合物をさらに含んでもよい。
【0012】
(3)また、本発明の他の態様によれば、シンジオタクチックポリスチレンと、前記シンジオタクチックポリスチレン100重量部に対して0.5重量部以上、10重量部以下の含ふっ素樹脂パウダと、を含む発泡樹脂組成物が提供される。
【0013】
(4)上記(3)の発泡樹脂組成物は、層状の結晶構造を有する無機化合物をさらに含んでもよい。
【0014】
(5)また、本発明の他の態様によれば、導体と、前記導体上又は前記導体上の他の層上の、上記(1)〜(4)のうちのいずれか1つに記載の発泡樹脂組成物から主として形成される発泡絶縁体層と、を含む電線が提供される。
【0015】
(6)また、本発明の他の態様によれば、導体と、前記導体上又は前記導体上の他の層上の、上記(1)〜(4)のうちのいずれか1つに記載の発泡樹脂組成物から主として形成される発泡絶縁体層と、前記発泡絶縁体層上又は前記発泡絶縁体層上の他の層上のシールドと、前記シールド層上又は前記シールド層上の他の層上のシースと、を含むケーブルが提供される。
【0016】
(7)上記ケーブルにおいては、前記導体は2本の平行な導体線であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、発泡状態の均一性、及び耐熱性に優れた発泡絶縁体層の材料となる発泡樹脂組成物、並びにその発泡絶縁体層を有する電線及びケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、第2の実施の形態に係る電線の断面図である。
【図2】図2は、第3の実施の形態に係るケーブルの断面図である。
【図3】図3は、第4の実施の形態に係るTwinaxケーブルの断面図である。
【図4】図4は、第4の実施の形態に係るTwinaxケーブルの断面図である。
【図5】図5は、第4の実施の形態に係るTwinaxケーブルの断面図である。
【図6】図6は、第4の実施の形態に係るTwinaxケーブルの断面図である。
【図7】図7は、実施例に係る換算発泡度Fの経時変動を表すグラフである。
【図8】図8は、実施例に係る換算発泡度Fの経時変動を表すグラフである。
【図9】図9は、比較例に係る換算発泡度Fの経時変動を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1の実施の形態]
(発泡樹脂組成物)
本実施の形態に係る発泡樹脂組成物の1つは、シンジオタクチックポリスチレンと、シンジオタクチックポリスチレン100重量部に対して5.3重量部以上、54重量部以下のポリオレフィン樹脂と、を含む発泡樹脂組成物である。
【0020】
また、本実施の形態に係る発泡樹脂組成物の1つは、シンジオタクチックポリスチレンと、シンジオタクチックポリスチレン100重量部に対して0.5重量部以上、10重量部以下の含ふっ素樹脂パウダと、を含む発泡樹脂組成物である。
【0021】
ここで、ふっ素樹脂ではなく、ふっ素樹脂を含むパウダ(含ふっ素樹脂パウダ)を用いるのは、ふっ素樹脂は融点が高いため、パウダ状でないと材料中に分散させることが困難であるためである。
【0022】
シンジオタクチックポリスチレンは、通常のポリスチレンの分子構造配列とは異なり、分子が規則的に交互に配列する対称構造を有する。このため、耐熱性と耐薬品性に優れると考えられ、シンジオタクチックポリスチレンを用いて成形される成形品の安定性にも影響すると考えられる。シンジオタクチックポリスチレンの融点は270℃程と高いため、電線等の絶縁層として用いた場合に、電線端末部を半田付けする際の熱にも耐えることができ、変形が抑えられる。さらに、樹脂の中でも比重が比較的小さく、電線等の高周波での誘電特性が優れる。
【0023】
しかし、シンジオタクチックポリスチレンの溶融粘度は80Pa・s程度と著しく低いため、シンジオタクチックポリスチレン単体では発泡成形が困難であり、気泡の分布が不均一になる。このため、シンジオタクチックポリスチレン単体では、発泡体の主成分として用いるには適さない。
【0024】
そこで、本実施の形態では、シンジオタクチックポリスチレンにポリオレフィン樹脂又は含ふっ素樹脂パウダを添加し、成形機で混練してこの添加物をシンジオタクチックポリスチレン内に分散させることにより、発泡樹脂組成物の溶融粘度を発泡成形に適したレベルにまで向上させる。
【0025】
ポリオレフィンは、オレフィン重合した単位を持つポリマーであれば、特に限定されず、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、ポリプロピレン、エチレン共重合体ポリプロピレン、及びリアクタブレンド型ポリプロピレンのうちの1種、又は2種以上をブレンドしたものである。
【0026】
シンジオタクチックポリスチレンとポリオレフィン樹脂は、95/5〜65/35の重合比でブレンドされる。すなわち、シンジオタクチックポリスチレン100重量部に対して5.3重量部以上、54重量部以下のポリオレフィン樹脂が発泡樹脂組成物に含まれる。
【0027】
ポリオレフィン樹脂の量が5.3重量部よりも少ないと、発泡樹脂組成物の溶融粘度が不十分になる。一方、ポリオレフィン樹脂の量が54重量部よりも多いと、シンジオタクチックポリスチレンの割合が小さくなるため、発泡樹脂組成物の耐熱性が低くなる。
【0028】
含ふっ素樹脂パウダは、例えば、四ふっ素化エチレン−六ふっ化プロピレン共重合体、四ふッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、ポリふっ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ふっ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体、又はエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体の粒径が1〜500μmの粒子状物質である。また、これらの粒子状物質をシランカップリング剤、アクリル樹脂、フェノール樹脂、チタネート系カップリング剤、メラミン樹脂、有機樹脂脂肪酸、金属石鹸等で表面処理したものであってもよい。
【0029】
シンジオタクチックポリスチレン100重量部に対して0.5重量部以上、10重量部以下の含ふっ素樹脂パウダが発泡樹脂組成物に含まれる。
【0030】
含ふっ素樹脂パウダの量が0.5重量部より少ないと、発泡樹脂組成物の溶融粘度が不十分になる。一方、含ふっ素樹脂パウダの量が10重量部よりも多いと、発泡樹脂組成物から形成される発泡体の気泡の分布が不均一になる。
【0031】
さらに、本実施の形態では、ポリオレフィン樹脂又は含ふっ素樹脂パウダを添加したシンジオタクチックポリスチレンに、さらに層状の結晶構造を有する無機化合物を添加することにより、発泡樹脂組成物の難燃性を向上させる。
【0032】
層状の結晶構造を有する無機化合物の添加により難燃性が向上する理由の一つとして、発泡樹脂組成物を発泡成形する際の発泡押出機のせん断により、層状の結晶構造を有する無機化合物が層状に剥離して、発泡した(つまり気泡壁が形成された)樹脂組成物中に分散することが考えられる。これにより、ポリオレフィンまたは含ふっ素樹脂パウダが本来有する難燃性との相乗作用により、燃焼時に炭素皮膜が形成されるものと推測される。
【0033】
層状の結晶構造を有する無機化合物は、例えば、クレー、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、メラミンシアヌレート、マイカ、タルク、ガラスフレーク、ハイドロタルサイトである。
【0034】
層状の結晶構造を有する無機化合物の添加量は特に限定されず、誘電特性を阻害しない範囲の量で使用することが可能であるが、例えば、ポリオレフィン樹脂又は含ふっ素樹脂パウダを添加したシンジオタクチックポリスチレン100重量部に対して0.1重量部以上の層状の結晶構造を有する無機化合物が発泡樹脂組成物に含まれることが好ましい。
【0035】
さらに、発泡樹脂組成物は、酸化防止剤、老化防止剤、滑剤、加工助剤、無機充填剤、難燃剤、難燃助剤、界面活性剤、帯電防止剤、軟化剤、発泡剤、発泡核剤、光安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、等の添加剤を含んでもよい。
【0036】
[第2の実施の形態]
(電線)
第1の実施の形態の発泡樹脂組成物を、電線の発泡絶縁体層の材料として用いることができる。発泡絶縁体層は、電線において、導体上、又は導体上の他の層上に形成される。以下に、電線の一例について説明する。
【0037】
図1は、第2の実施の形態に係る電線1の断面図である。電線1は、導体10、及び導体10上の発泡絶縁体層12を有する。発泡絶縁体層12は、複数の気泡11を含む。
【0038】
導体10は、銅や各種合金等の導電材料からなる。銀、錫、ニッケル、又は金等の導体をめっきした導体線であってもよい。また、導体10は、単線でも撚線でもよく、チューブ状の導体線であってもよい。
【0039】
発泡絶縁体層12は、第1の実施の形態の発泡樹脂組成物から形成される。発泡絶縁体層12は、単層構造でもよいし、複数の発泡層を積層した多層構造でもよい。材料である発泡樹脂組成物の溶融粘度が高いため、発泡絶縁体層12に含まれる気泡11の分布の均一性(発泡絶縁体層12の発泡状態の均一性)が高い。
【0040】
例えば、電線1を押出成形する際に、押出機の中で発泡樹脂組成物の溶融樹脂中にガスを注入して押出機内外の圧力差によって発泡させ、気泡11を含む発泡絶縁体層12を得る。
【0041】
電線1は、第1の実施の形態の発泡樹脂組成物から形成される発泡絶縁体層12を有するため、発泡状態の均一性、耐熱性、及び難燃性に優れる。
【0042】
[第3の実施の形態]
(ケーブル)
第1の実施の形態の発泡樹脂組成物を、ケーブルの発泡絶縁体層の材料として用いることができる。発泡絶縁体層は、ケーブルにおいて、導体上、又は導体上の他の層上に形成される。以下に、ケーブルの一例について説明する。
【0043】
図2は、第3の実施の形態に係るケーブル2の断面図である。ケーブル2は、導体10、導体10上の内部スキン層21、内部スキン層21上の発泡絶縁体層12、発泡絶縁体層12上の外部スキン層22、外部スキン層22上のシールド31、シールド31上のシース32を有する。
【0044】
ケーブル2の導体10及び発泡絶縁体層12として、第2の実施の形態の電線1の導体10及び発泡絶縁体層12と同様のものを用いることができる。
【0045】
内部スキン層21及び外部スキン層22は、例えば、樹脂からなり、気泡を含まない、又は発泡度が発泡絶縁体層12よりも極端に低い(気泡が極端に少ない)。内部スキン層21は、発泡絶縁体層12と導体10との密着性を高める。外部スキン層22は、ケーブル2の押出成形の際に、発泡絶縁体層12からガスが抜けて発泡度が低下することを抑える。内部スキン層21及び外部スキン層22は、ケーブル2が十分な特性を有するならば、ケーブル2に含まれなくともよい。
【0046】
シールド31は、例えば、横巻き又は編組した極細金属線、巻き付けられた金属箔、またはコルゲート構造の金属膜である。シース32は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ふっ素樹脂、軟質塩化ビニル樹脂からなる。
【0047】
ケーブル2は、第1の実施の形態の発泡樹脂組成物から形成される発泡絶縁体層12を有するため、発泡状態の均一性、耐熱性、及び難燃性に優れる。
【0048】
[第4の実施の形態]
(Twinaxケーブル)
第1の実施の形態の発泡樹脂組成物を、Twinaxケーブル(二芯並行同軸ケーブル)の発泡絶縁体層の材料として用いることができる。Twinaxケーブルは、互いに平行に接して並ぶ2本の電線と、その外周を覆うシールドを有する、高速差動伝送に対応した高速伝送ケーブルである。また、2本の電線と平行に並び且つシールドの内側に接するドレインワイヤを有してもよい。
【0049】
Twinaxケーブルにおいては、2本の電線の信号伝達時間の差(遅延時間差:スキュー)を小さく抑えなければならない。これは、複数の電線から届く信号に時間差を生じることで、信号を受信する機器において通信エラーが起きることを防止するためである。このスキューは、個々の電線の遅延時間の差であり、電線の絶縁体の誘電率と強く関連している。そのため、絶縁体の発泡度は、スキューの最も重要な因子となる。以下に、Twinaxケーブルの一例について説明する。
【0050】
図3〜6は、第4の実施の形態に係るTwinaxケーブル3〜6の断面図である。
【0051】
Twinaxケーブル3は、導体10、発泡絶縁体層12、及び外部スキン層22からなる2本の電線と、2本の電線と平行なドレインワイヤ33と、2本の電線及びドレインワイヤ33を覆うシールド31と、シールド31上のシース32を有する。
【0052】
Twinaxケーブル3の導体10、発泡絶縁体層12、外部スキン層22、シールド31、及びシース32として、第3の実施の形態の導体10、発泡絶縁体層12、外部スキン層22、シールド31、及びシース32と同様のものを用いることができる。
【0053】
ドレインワイヤ33は、シールド31の接地をとるためにシールド31と外部スキン層22の間に配置された導体線であり、基板のグランドに接続される。
【0054】
Twinaxケーブル4は、導体10、内部スキン層21、発泡絶縁体層12、及び外部スキン層22からなる2本の電線と、2本の電線を覆うシールド31と、シールド31上のシース32を有する。
【0055】
Twinaxケーブル5は、2本の導体10と、2本の導体10を覆う発泡絶縁体層12と、発泡絶縁体層12上のシールド31と、シールド31上のシース32を有する。
【0056】
Twinaxケーブル6は、導体10と及び内部スキン層21からなる2本の電線と、2本の電線を覆う発泡絶縁体層12と、発泡絶縁体層12上の外部スキン層22と、外部スキン層22上のシールド31と、シールド31上のシース32を有する。
【0057】
Twinaxケーブル4、5、6は、ドレインワイヤを有さないため、半田付けによりシールド31が基板のグランドに直接接続される。このため、ドレインワイヤ33を有するTwinaxケーブル3と比較して、発泡絶縁体層12の耐熱性がより重要である。
【0058】
Twinaxケーブル3〜6は、第1の実施の形態の発泡樹脂組成物から形成される発泡絶縁体層12を有するため、発泡状態の均一性、耐熱性、及び難燃性に優れる。また、スキューを小さく抑えることができる。
【実施例】
【0059】
実施例及び比較例に係る発泡樹脂組成物、電線、及びTwinaxケーブルを作製し、以下に示す各種評価を行った。
【0060】
(電線の製造)
導体10としての24AWG銀メッキ銅導体上に発泡樹脂組成物から発泡絶縁体層12を発泡成形した。45mmガス注入発泡押出機を用いて、電線1の外径が1.46mmとなるようにスクリュ回転速度および線速を調整しながら2000秒間連続運転を行って、発泡絶縁体層12を形成した。発泡ガスとして、ガス圧力39MPaの窒素ガスを用いた。
【0061】
(発泡度の経時的変動の測定)
電線1の押出時に、電線1の外径および静電容量を0.2秒毎に計測し、以下の式1に従って実効誘電率εrを算出した。
【0062】
【数1】

【0063】
ここで、ε0は空気の誘電率、Cは静電容量、bは電線1の外径、aは導体10の外径を表す。
【0064】
次に、以下の式2に従って計測時間ごとの換算発泡度Fを算出した。発泡度Fの経時的変動が小さいほど、発泡絶縁体層12の発泡状態の均一性(気泡11の分布の均一性)が高いことを表す。
【0065】
【数2】

【0066】
ここで、εiは樹脂組成物の誘電率を表す。
【0067】
算出した換算発泡度Fの最大値と最小値の差(%)をもって、発泡度の変動とした。発泡度変動の評価基準として、伝送特性を鑑みて4.3%以下を合格とした。
【0068】
(Twinaxケーブルの製造)
上記の電線2本を並行に並べ、これらを銅テープとポリエステルフィルムを積層した積層テープで巻いてシールド31を形成し、さらにその外側を軟質ポリ塩化ビニル樹脂で被覆してシース32を形成し、長さ30mのTwinaxケーブルを得た。
【0069】
(スキューの測定)
製造したTwinaxケーブルを切断して、6本の長さ5mのTwinaxケーブルを得た。この6本のTwinaxケーブルの各々に対してTDR(時間領域反射率計)によってスキューを測定した。スキューの評価基準として、25ps/m以下を合格とした。
【0070】
(半田耐熱試験)
Twinaxケーブルの末端のシースを除去して、露出した発泡絶縁体層12に先端温度が270℃のパルス式半田過熱用冶具を1Nで3秒間押し付け、非鉛半田接続を行った。半田耐熱試験の評価基準として、非鉛半田接続により発泡絶縁体12の変形が見られなかったものを合格とした。
【0071】
(難燃性試験)
難燃性は要求レベルの異なる2種の燃焼試験、すなわちISO6722に準拠した45度傾斜燃焼試験、及びより難燃レベルの厳しいUL1581(VW−1)に準拠した垂直燃焼試験、により評価した。難燃性試験の評価基準として、45度傾斜燃焼試験のみ合格したものをG(good)、より厳しいVW−1にも合格したものをE(excellent)とした。
【0072】
以下に、実施例1〜15、及び比較例1〜8の発泡樹脂組成物の組成、並びにその発泡樹脂組成物を用いて製造された電線及びTwinaxケーブルの評価結果を以下に述べる。
【0073】
[実施例1]
シンジオタクチックポリスチレン(SPS)(S104、出光興産)90重量部に対して、低密度ポリエチレン(LDPE)(密度928kg/m3、MFR 0.5)を10重量部の割合で配合して発泡樹脂組成物を生成した。評価結果は、全ての評価において合格であった(総合評価○)。
【0074】
[実施例2]
シンジオタクチックポリスチレン(S104、出光興産)70重量部に対して、低密度ポリエチレン(密度928kg/m3、MFR 0.5)を30重量部の割合で配合して発泡樹脂組成物を生成した。評価結果は、全ての評価において合格であった(総合評価○)。
【0075】
[実施例3]
シンジオタクチックポリスチレン(S104、出光興産)70重量部に対して、低密度ポリエチレン(密度928kg/m3、MFR 0.5)を30重量部、更に二硫化モリブデンを0.5重量部の割合で配合して発泡樹脂組成物を生成した。評価結果は、全ての評価において合格であり、特に難燃性に優れるため、総合評価◎とした。
【0076】
[実施例4]
シンジオタクチックポリスチレン(S104、出光興産)100重量部に対して、表面処理PTFEパウダ(平均粒径 約300μm、アクリル表面処理品)を1重量部の割合で配合して発泡樹脂組成物を生成した。評価結果は、全ての評価において合格であった(総合評価○)。
【0077】
[実施例5]
シンジオタクチックポリスチレン(S104、出光興産)100重量部に対して、表面処理PTFEパウダ(平均粒径 約300μm、アクリル表面処理品)を3重量部の割合で配合して発泡樹脂組成物を生成した。評価結果は、全ての評価において合格であった(総合評価○)。
【0078】
[実施例6]
シンジオタクチックポリスチレン(S104、出光興産)100重量部に対して、表面処理PTFEパウダ(平均粒径 約300μm、アクリル表面処理品)を5重量部の割合で配合して発泡樹脂組成物を生成した。評価結果は、全ての評価において合格であった(総合評価○)。
【0079】
[実施例7]
シンジオタクチックポリスチレン(S104、出光興産)100重量部に対して、表面処理PTFEパウダ(平均粒径 約300μm、アクリル表面処理品)を1重量部、更に窒化ホウ素を0.5重量部の割合で配合して発泡樹脂組成物を生成した。評価結果は、全ての評価において合格であり、特に難燃性に優れるため、総合評価◎とした。
【0080】
[実施例8]
シンジオタクチックポリスチレン(S104、出光興産)100重量部に対して、表面処理PTFEパウダ(平均粒径 約300μm、アクリル表面処理品)を3重量部、更に窒化ホウ素を0.5重量部の割合で配合して発泡樹脂組成物を生成した。評価結果は、全ての評価において合格であり、特に難燃性に優れるため、総合評価◎とした。
【0081】
[実施例9]
シンジオタクチックポリスチレン(S104、出光興産)100重量部に対して、表面処理PTFEパウダ(平均粒径 約300μm、アクリル表面処理品)を5重量部、更に窒化ホウ素を0.5重量部の割合で配合して発泡樹脂組成物を生成した。評価結果は、全ての評価において合格であり、特に難燃性に優れるため、総合評価◎とした。
【0082】
[実施例10]
シンジオタクチックポリスチレン(S104、出光興産)100重量部に対して、表面処理PTFEパウダ(平均粒径 約300μm、アクリル表面処理品)を0.5重量部の割合で配合して発泡樹脂組成物を生成した。評価結果は、全ての評価において合格であった(総合評価○)。
【0083】
[実施例11]
シンジオタクチックポリスチレン(S104、出光興産)100重量部に対して、表面処理PTFEパウダ(平均粒径 約300μm、アクリル表面処理品)を10重量部の割合で配合して発泡樹脂組成物を生成した。評価結果は、全ての評価において合格であった(総合評価○)。
【0084】
[実施例12]
シンジオタクチックポリスチレン(S104、出光興産)100重量部に対して、PTFEパウダ(平均粒径 約10μm、表面処理無し)を3重量部の割合で配合して発泡樹脂組成物を生成した。評価結果は、全ての評価において合格であった(総合評価○)。
【0085】
[実施例13]
シンジオタクチックポリスチレン(S104、出光興産)100重量部に対して、PTFEパウダ(平均粒径 約10μm、表面処理無し)を5重量部の割合で配合して発泡樹脂組成物を生成した。評価結果は、全ての評価において合格であった(総合評価○)。
【0086】
[実施例14]
シンジオタクチックポリスチレン(S104、出光興産)100重量部に対して、PTFEパウダ(平均粒径 約10μm、表面処理無し)を3重量部、更に窒化ホウ素を0.5重量部の割合で配合して発泡樹脂組成物を生成した。評価結果は、全ての評価において合格であり、特に難燃性に優れるため、総合評価◎とした。
【0087】
[実施例15]
シンジオタクチックポリスチレン(S104、出光興産)100重量部に対して、PTFEパウダ(平均粒径 約10μm、表面処理無し)を5重量部、更に窒化ホウ素を0.5重量部の割合で配合して発泡樹脂組成物を生成した。評価結果は、全ての評価において合格であり、特に難燃性に優れるため、総合評価◎とした。
【0088】
[比較例1]
シンジオタクチックポリスチレン(S104、出光興産)単体を発泡樹脂組成物として用いた。評価結果は、発泡度変動評価、スキュー評価、及び難燃性評価が不合格(総合評価×)であった。これは、粘度が調節するためのポリオレフィン又はPTFEパウダのいずれも添加されていないため、発泡度変動が抑えられないことによると考えられる。
【0089】
[比較例2]
シンジオタクチックポリスチレン(S104、出光興産)98重量部に対して、低密度ポリエチレン(密度928kg/m3、MFR 0.5)を2重量部の割合で配合して発泡樹脂組成物を生成した。評価結果は、発泡度変動評価及びスキュー評価が不合格(総合評価×)であった。これは、ポリオレフィンの混合量が規定よりも少ないため、発泡度変動が抑えられないことによると考えられる。
【0090】
[比較例3]
シンジオタクチックポリスチレン(S104、出光興産)60重量部に対して、低密度ポリエチレン(密度928kg/m3、MFR 0.5)を40重量部の割合で配合して発泡樹脂組成物を生成した。評価結果は、半田耐熱性評価及び難燃性が不合格(総合評価×)であった。これは、ポリオレフィンの割合が多いため、発泡度変動は抑えられるものの、シンジオタクチックポリスチレンの割合が少ないため、耐熱性が低下したことにより、半田接続性が悪く、難燃性も不十分になったと考えられる。
【0091】
[比較例4]
シンジオタクチックポリスチレン(S104、出光興産)100重量部に対して、二硫化モリブデンを0.5重量部の割合で配合して発泡樹脂組成物を生成した。評価結果は、難燃性評価が不合格(総合評価×)であった。このことから、シンジオタクチックポリスチレンに対し、層状の結晶構造を有する無機化合物単体を配合するだけでは十分な難燃性は示されず、ポリオレフィン樹脂又は含ふっ素樹脂パウダと、層状の結晶構造を有する無機化合物の相乗効果により難燃性が向上することが確認された。
【0092】
[比較例5]
低密度ポリエチレン(密度928kg/m3、MFR 0.5)100重量部に対して、表面処理PTFEパウダ(平均粒径 約300μm、アクリル表面処理品)を3重量部、更に窒化ホウ素を0.5重量部の割合で配合して発泡樹脂組成物を生成した。評価結果は、半田耐熱性評価と難燃性評価が不合格(総合評価×)であった。これは、シンジオタクチックポリスチレンが含まれないため、耐熱性が不十分であることによると考えられる。
【0093】
[比較例6]
シンジオタクチックポリスチレン(S104、出光興産)100重量部に対して、窒化ホウ素を0.5重量部の割合で配合して発泡樹脂組成物を生成した。評価結果は、スキュー評価及び難燃性評価が不合格(総合評価×)であった。これは、ポリオレフィン樹脂又は含ふっ素樹脂パウダのいずれも含まれないため、発泡度変動が抑えられなことによると考えられる。
【0094】
[比較例7]
シンジオタクチックポリスチレン(S104、出光興産)100重量部に対して、窒化ホウ素を12重量部の割合で配合して発泡樹脂組成物を生成した。評価結果は、発泡度変動評価、スキュー評価及び難燃性評価が不合格(総合評価×)であった。ポリオレフィン樹脂又は含ふっ素樹脂パウダのいずれも含まれないため、発泡度変動が抑えられず、難燃性も得られなかったものと考えられる。
【0095】
[比較例8]
シンジオタクチックポリスチレン(S104、出光興産)100重量部に対して、表面処理PTFEパウダ(平均粒径 約300μm、アクリル表面処理品)を12重量部の割合で配合して発泡樹脂組成物を生成した。評価結果は、発泡度変動評価及びスキュー評価が不合格(総合評価×)であった。これは、PTFEパウダの添加量が多すぎるために、発泡度の変動が大きくなることによると考えられる。
【0096】
以下の表1、2、3、4に、実施例1〜3、実施例4〜11、実施例12〜15、比較例1〜8に係る発泡樹脂組成物の組成並びに電線及びTwinaxケーブルの評価結果をそれぞれ示す。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【0099】
【表3】

【0100】
【表4】

【0101】
図7、8、9は、それぞれ実施例8、実施例15、比較例1の換算発泡度Fの経時変動を表すグラフである。各々の発泡度変動(2000秒間の換算発泡度Fの最大値と最小値の差)が1.21%、1.49%、4.53%であることが示されている。
【0102】
上述したように、実施の形態に係る発泡樹脂組成物に相当する発泡樹脂組成物を用いた実施例3、7、8、9、14、15は、総合評価が◎であった。その他の実施例は難燃性において上記の実施例に劣っていたため、総合評価は○であった。比較例1〜8は、いずれも総合評価が×であった。
【0103】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0104】
1 電線
2 ケーブル
3、4、5、6 Twinaxケーブル
10 導体
12 発泡絶縁体層
31 シールド
32 シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンジオタクチックポリスチレンと、
前記シンジオタクチックポリスチレン100重量部に対して5.3重量部以上、54重量部以下のポリオレフィン樹脂と、を含む発泡樹脂組成物。
【請求項2】
層状の結晶構造を有する無機化合物をさらに含む、請求項1に記載の発泡樹脂組成物。
【請求項3】
シンジオタクチックポリスチレンと、
前記シンジオタクチックポリスチレン100重量部に対して0.5重量部以上、10重量部以下の含ふっ素樹脂パウダと、を含む発泡樹脂組成物。
【請求項4】
層状の結晶構造を有する無機化合物をさらに含む、請求項3に記載の発泡樹脂組成物。
【請求項5】
導体と、
前記導体上又は前記導体上の他の層上の、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の発泡樹脂組成物から主として形成される発泡絶縁体層と、を含む電線。
【請求項6】
導体と、
前記導体上又は前記導体上の他の層上の、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の発泡樹脂組成物から主として形成される発泡絶縁体層と、
前記発泡絶縁体層上又は前記発泡絶縁体層上の他の層上のシールドと、
前記シールド層上又は前記シールド層上の他の層上のシースと、を含むケーブル。
【請求項7】
前記導体は2本の平行な導体線である、請求項6に記載のケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−100486(P2013−100486A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−225594(P2012−225594)
【出願日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】