説明

発熱ガラスシステム

【課題】通電時に発生する音が抑制された発熱ガラスシステムを提供する。
【解決手段】発熱ガラスシステム1は、導電膜41が表面に設けられたガラス部22及び導電膜41に電圧を印加する一対の電極42A,42Bを有する発熱ガラス部40と、交流電圧を直流化することによって、一対の電極42A,42Bに供給するための直流化電圧を生成する直流化部3Bと、を備える。この場合、直流化部3Bによって交流電圧が有する振動成分をほぼ除去した直流化電圧を導電膜41に印加できるので、ガラス部22の振動が抑制され、結果として、通電時の音が減少することになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱ガラスシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
マンション等に用いられる窓ガラスでは、室内と室外との温度差によっていわゆるコールドドラフトが生じたり、窓ガラス表面に結露が生じることがある。近年、この結露やコールドドラフトを防止する観点から、窓ガラスの一部を構成するガラス板の表面に導電膜(ヒータ)を設け、その導電膜に電圧を印加することでガラス板の表面を加熱する発熱ガラス(発熱ガラス部)が利用されてきている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2005−82428号公報
【特許文献2】特開平11−345677号公報
【特許文献3】特開平11−25340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような発熱ガラスを利用することによって、結露やコールドドラフトは防止できるが、導電膜への通電時に振動音が生じるという問題が生じていた。
【0004】
そこで、本発明は、通電時に発生する音が抑制された発熱ガラスシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、導電膜への通電時に発生する振動音の低減について鋭意研究を実施した。その結果、(1)振動音の周波数が交流電圧の周波数に依存しており、更に、(2)交流電圧の振幅を小さくすると振動音が減少するという知見を得た。そして、本発明者らは、導電膜への電圧印加によって生じる静電気力が交流電圧の振動成分に起因して変化し、その結果、ガラス表面が振動して振動音が生じていることを見出して本発明に至った。
【0006】
すなわち、本発明に係る発熱ガラスシステムでは、導電膜が表面に設けられたガラス部及び導電膜に電圧を印加する一対の電極を有する発熱ガラス部と、交流電圧を直流化することによって、一対の電極に供給するための直流化電圧を生成する直流化部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この構成では、発熱ガラス部が有する導電膜には、直流化部によって生成された直流化電圧が一対の電極を通して印加される。この直流化電圧は、交流電圧を直流化して生成されたものであるので、交流電圧に比べてより直流に近く振動成分が低減されている。そのため、導電膜に印加される電圧の変動幅が小さくなるので、音が生じにくく、音を低減できる。その結果、例えば、発熱ガラスシステムを、各家庭の寝室やリビングなどに好適に適用することが可能である。
【0008】
また、本発明に係る発熱ガラスシステムでは、発熱ガラス部を複数有しており、複数の発熱ガラス部が直列に接続されていることが好適である。
【0009】
この構成では、一つの直流化部に対して直列に接続された複数の発熱ガラス部が設けられているので、各発熱ガラス部の導電膜に印加される電圧が小さくなる。その結果、導電膜に印加される電圧に振動成分が残っていてもその振幅(変動幅)がより小さくなるので、通電時の音が更に抑制されることになる。
【0010】
この場合、上記複数の発熱ガラス部は、同一ガラス板に設けられていることが好ましい。
【0011】
この構成では、一枚のガラス板に複数の導電膜が配置され、各導電膜に対して一対の電極が設けられることになる。そのため、ガラス板上の導電膜の大きさを変えることによって、各発熱ガラス部の発熱量を容易に調整することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る発熱ガラスシステムでは、通電時に生じる音を抑制でき、より静かな状態で稼働することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明に係る発熱ガラスシステムの実施形態について説明する。なお、同一の構成要素は同一の符号で示し、重複する説明は省略する。
【0014】
図1に示すように、発熱ガラスシステム1は、いわゆる発熱複層ガラス(以下、「HIG(Heated Insulating Glass)」と称す)2を有する。HIG2は、マンション等の窓ガラスとして利用され、ガラス表面を加熱することによって室内外の温度差による結露や、いわゆるコールドドラフトを抑制するものである。
【0015】
図1は、本発明に係る発熱ガラスシステムの一実施形態の構成を示すブロック図である。図2は、発熱複層ガラス(HIG)と電力供給部との配線関係を示す図である。図3は、図2のIII−III線に沿った断面図である。図4は、図2に示した発熱複層ガラスが有する発熱ガラス部の斜視図である。
【0016】
図2及び図3に示すように、HIG2は、室外側ガラス板10と、室内側ガラス板20とを有しており、室外側ガラス板10と室内側ガラス板20とは四角形状の枠体30によって保持されている。これにより、室外側ガラス板10と室内側ガラス板20とは枠体30の厚さ程間隔を空けて配置される。
【0017】
室内側ガラス板20の室外側ガラス板10に対向する表面21上には、2つの略同形状の透明導電膜41,51が所定の間隔(例えば、5mm)を開けて設けられている。透明導電膜41,51の材料としては、酸化スズ(SnO)が例示される。この2つの透明導電膜41,51は、例えば、表面21の全体に例えば酸化スズ(SnO)をコーティングすることで1枚の透明導電膜を形成した後、所定の位置でその透明導電膜をライン状にエッチングして2つに分割することによって形成される。
【0018】
HIG2は、透明導電膜41に電圧を印加するための一対の電極42A,42Bを更に有する。電極42A,42Bは、透明導電膜41,51の配列方向(図2及び図3中では、上下方向)と略直交する方向であって枠体30の側面31,32上に透明導電膜41に接するように設けられている。同様に、HIG2は、透明導電膜51に電圧を印加するための一対の電極52A,52Bを有し、電極52A,52Bは、枠体30の側面31,32上に電極42A,42Bと絶縁した状態で設けられている。電極42A,42B及び電極52A,52Bの図2及び図3中の長手方向の長さは透明導電膜41及び透明導電膜51の長さにほぼ等しい。
【0019】
HIG2では、電極42A,42B,52A,52Bに電圧を印加することによって各透明導電膜41,51が発熱し、透明導電膜41,51と接しているガラス板20の部分を加熱することで、室内側ガラス板20全体が加熱されることになる。よって、図3及び図4に示すように、HIG2は、室内側ガラス板20のうち透明導電膜41が接しており透明導電膜41で直接加熱される被加熱部分(ガラス部)22、透明導電膜41及び一対の電極42A,42Bを有する発熱ガラス部40と、室内側ガラス板20のうち透明導電膜51が接しており透明導電膜51で直接加熱される被加熱部分(ガラス部)23、透明導電膜51及び一対の電極52A,52Bを有する発熱ガラス部50とを有していることになる。換言すれば、HIG2では、一枚の室内側ガラス板20に2つの発熱ガラス部40,50が設けられている。
【0020】
上記構成のHIG2は、室内側ガラス板20側が室内側に位置すると共に、発熱ガラス部40が上側(天井側)で発熱ガラス部50が下側(床側)になるように窓枠(不図示)に取り付けられる。
【0021】
図1及び図2に示すように、発熱ガラスシステム1は、HIG2に電力を供給するための電力供給部3と、電力供給部3を制御することによってHIG2への通電を制御する制御部4とを更に備える。
【0022】
電力供給部3は、交流電源部3A、直流化部3B、発熱ガラスシステム1におけるメインスイッチ3C、及びサブスイッチ3Dを有しており、交流電源部3A、直流化部3B、メインスイッチ3C、サブスイッチ3D及び発熱ガラス部40,50は、図2に示すように接続されている。なお、メインスイッチ3Cは、例えば、家庭におけるブレーカまたは主電源スイッチなどである。
【0023】
交流電源部3Aは、220Vの交流電圧を供給する単相の交流電源である。なお、交流電源部3Aが供給する電圧は220Vに限定されず、HIG2が使用される地域で利用可能な電圧とすればよい。直流化部3Bは、交流電源部3Aから出力される交流電圧を直流化してHIG2に供給する。この直流化部3Bによって交流電圧が直流化されて得られる直流化電圧を擬似直流電圧とも称す。サブスイッチ3Dは、制御部4からの制御信号を受けてHIG2への電力供給のON/OFFを制御する。
【0024】
ここで、図5を利用して直流化部3Bの構成の一例について説明する。図5は、直流化部の一例の回路図である。
【0025】
図5に示すように、直流化部3Bは、4つのダイオード61,62,63,64から構成されるダイオードブリッジ(Diode Bridge : DB)60と、DB60とHIG2との間でHIG2に並列に設けられた複数(図5では4個)のコンデンサ71,72,73,74とを有する。この場合、交流電源部3Aから出力される交流電圧は整流素子としてのDB60で全波整流され、コンデンサ71〜74により更に平滑化されるので、脈動が抑制された擬似直流電圧が得られることになる。よって、振動成分が殆ど取り除かれた擬似直流電圧が発熱ガラス部40,50に供給される。
【0026】
また、直流化部3Bは、コンデンサ71〜74への突入電流を抑制するために、DB60と交流電源部3Aとの間に設けられたPTC(Positive Temperature Coefficient)81を有し、PTC81の発熱を防止するために、PTC81をスイッチ82でバイパスしている。そして、直流化部3Bは、メインスイッチ3CがON状態になったときに指定遅延時間(例えば1秒後)にスイッチ82を導通させるオンディレイタイマ83を更に有する。これにより、メインスイッチ3CがON状態になったとき、PTC81を通して電流が徐々に流れる一方、オンディレイタイマ83を介して指定遅延時間後にスイッチ82がON状態になったときにスイッチ82を介して電流が流れることになる。
【0027】
図1に示したように、制御部4には、発熱ガラスシステム1に更に備えられている操作パネル部5、室内温度センサ部6及びHIG温度センサ部7が接続されている。室内温度センサ部6は、HIG2が窓ガラスとして設置される部屋内に設けられ、その部屋内の温度を測定して制御部4に入力する。HIG温度センサ部7は、室内側ガラス板20上に設置されており、室内側ガラス板20の温度を測定して制御部4に入力する。操作パネル部5には、HIG2の制御情報を入力するボタンなどの入力部5Aと、室内温度センサ部6の計測結果やHIG温度センサ部7の計測結果を表示する液晶ディスプレイなどの表示部5Bとを有する。入力部5Aによって入力される制御情報としては、例えば、HIG2への通電の開始及び停止を指示する開始・停止情報や、室内側ガラス板20の設定温度等である。
【0028】
制御部4は、操作パネル部5を通して入力された制御情報、並びに、室内温度センサ部6及びHIG温度センサ部7の計測結果に基づいてサブスイッチ3DにON/OFF制御信号を送信することによってHIG2の動作を制御する。また、制御部4は、室内温度センサ部6及びHIG温度センサ部7の計測結果を操作パネル部5に出力して操作パネル部5にそれらの計測結果を表示せしめる。
【0029】
上記説明において、発熱ガラスシステム1において、HIG2は、2つの発熱ガラス部40,50を有するとしたが、HIG2が有する発熱ガラス部の数は、1つでもよいし、3つ以上でもよい。HIG2が有する発熱ガラス部の数は、例えば、室内側ガラス板20の温度を室温程度まで加熱するために発熱手段としての透明導電膜に投入する最適な電力に応じて決定することができる。HIG2が有する発熱ガラス部の数の決定方法の一例について、図6に示した発熱ガラス部90を利用して説明する。図6に示した発熱ガラス部90は、発熱ガラス部40,50をモデル化したものに対応する。
【0030】
発熱ガラス部90は、ガラス部としてのガラス板91の表面上に、透明導電膜92がコーティングされており、その透明導電膜92に電圧を印加するための一対の電極93A,93Bがガラス板91の両端部91a,91bに設けられて構成されている。
【0031】
発熱ガラス部90において、透明導電膜92のシート抵抗をRとし、電極93A,93B間の距離をWとし、単位面積当たりの最適な必要電力をPとし、電極93A,93B間に印加する電圧をEとすると、次式が成り立つ。
【数1】

【0032】
従って、HIG2を設置する部屋の窓の大きさ等によって予め電極間距離Wを設定し、また、室内外の想定される温度差などに応じて単位面積当たりの必要電力Pを設定することで、電極93A,93B間の電圧、すなわち、透明導電膜92に印加する電圧が決まる。前述したように、発熱ガラスシステム1が複数の発熱ガラス部を有する場合、発熱ガラスシステム1では、それらを直列に接続する。従って、複数の発熱ガラス部各々の透明導電膜に式(1)から算出される電圧が印加されるように発熱ガラス部の数を決定すればよい。
【0033】
例えば、電極間距離Wを2.3mとし、シート抵抗Rを20Ω/□とする。また、家庭で要求される最適な必要電力を、例えば、室外の温度が−15℃であってもガラス板91の温度が室温程度(例えば、25℃)まで上昇するために要する電力として150W/m〜250W/mとする。このとき、電極93A,93B間に印加する電圧としては、式(1)より、約120V〜160Vを要することになる。一方、交流電源部3Aから例えば前述したように220Vの交流電圧を供給する場合、直流化部3Bで全波整流すると、電力供給部3から約310Vの擬似直流電圧を供給できる。従って、透明導電膜92に必要な電力を供給して所望の発熱量を得るためには、電力供給部3から供給される電圧の約半分でよく、それは、図6に示した発熱ガラス部90を約半分に分割して2つの発熱ガラス部とし、それらを直列に繋ぐことで実現できる。
【0034】
図1に示した発熱ガラスシステム1では、発熱ガラス部の個数は上記のようにして決定されている。その結果、発熱ガラスシステム1は、2つの発熱ガラス部40,50を有しそれらを直列に接続することによって、各発熱ガラス部40,50に約120V〜160Vの擬似直流電圧を印加できていることになる。そして、前述したように2つの発熱ガラス部40,50は、室内側ガラス板20の表面21全面に設けた透明導電膜を所定の位置で例えばライン状にエッチング等をすることで容易に形成できている。上記の例では、所定の位置は、鉛直方向において透明導電膜の約半分の位置である。
【0035】
次に、発熱ガラスシステム1の動作について説明する。ここでは、予めメインスイッチ3CがON状態になっているものとして説明する。操作者が操作パネル部5の入力部5Aを介して制御部4に制御条件を入力し、制御部4がHIG2の稼働を開始する旨の指示を受け取ると、制御部4はサブスイッチ3DをON状態にする。その結果、直流化部3Bによって直流化された擬似直流電圧が、各発熱ガラス部40,50の透明導電膜41,51に印加される。これにより、室内側ガラス板20が加熱されるので、室内側ガラス板20の結露やコールドドラフトが防止されることになる。
【0036】
発熱ガラスシステム1では、交流電圧を直流化して擬似直流電圧を生成する直流化部3Bを備えていることが重要である。直流化部3Bを備えていることの作用・効果について直流化部3Bを備えずに、例えば発熱ガラス部に従来のように交流電圧を印加する場合と対比して説明する。
【0037】
発熱ガラス部が有する透明導電膜に従来のように交流電圧を印加すると、交流電圧の振動成分の周波数や振幅(変動幅)に起因した振動音が発生していた。このような振動音が発生すると、例えば、静かさが要求される寝室や、リビング等にHIGを適用した際にその振動音が響く虞があった。
【0038】
これに対して、図1及び図2に示した発熱ガラスシステム1では、直流化部3Bを設けることによって、交流電源部3Aから供給される交流電圧を直流化して発熱ガラス部40,50に印加している。これにより、振動成分を殆ど有しない擬似直流電圧が透明導電膜41,51に印加されるため、室内側ガラス板20の振動が抑制されてHIG2への通電時の音が減少し、より静かな状態でHIG2を稼働することができる。そのため、HIG2を、リビングや寝室等に好適に適用できる。
【0039】
なお、発熱ガラスシステム1では、直流化部3Bによって生成される擬似直流電圧によって音の低減を図っているため、交流電圧の直流化では交流電圧の振動成分が除去された直流電圧にすることが好ましいが、少なくとも同じ極性を有する電圧に変換できればよい。ただし、擬似直流電圧の変動幅は、実効電圧の17%以下、例えば、実効電圧が約300Vのときには、50V程度がより好ましい。これにより、仮に音が発生しても居住者に殆ど聞こえない程度まで音を小さくすることができる。
【0040】
このように、発熱ガラスシステム1では、直流化部3Bを設けることで通電時の音を減少させているので、例えば、ダウントランス等のように大きな降圧手段を要しない。その結果、発熱ガラスシステム1のコンパクト化を図ることができている。
【0041】
また、発熱ガラスシステム1では、2つの発熱ガラス部40,50を直列に接続しているので、各発熱ガラス部40,50に印加される電圧値は、例えば、発熱ガラス部が一つである場合、又は、2つの発熱ガラス部が並列に接続されている場合に比べて小さくなる。これにより、擬似直流電圧に例えば脈動等による振動成分が残っていたとしてもその振動の振幅(変動幅)がより小さくなるので、一層、通電時の音の低減を実現できている。
【0042】
また、図1に示した発熱ガラスシステム1では、2つの発熱ガラス部40,50が鉛直方向に配列されるようにHIG2が部屋等に設置されるので、空気の対流による上下の温度分布を更に改善でき、結果として、コールドドラフトをより効率的に抑制することができる。
【0043】
更に、発熱ガラスシステム1では、前述したように、発熱ガラス部40,50に供給する最適な必要電力を、HIG2が有する発熱ガラス部の数及びその接続方法で容易に実現できている。そのため、発熱ガラス部40,50に投入する電力量を変圧器や調整抵抗等の電力調整回路の追加を必要とせずに行うことができ、発熱ガラスシステム1の構成が簡易なものとなる。また、今回のシステムでは電力調整回路を設けていないため電力調整回路の故障や、サブスイッチ3Dの溶着等により通電状態になった場合でも、発熱ガラス部40,50が過昇温となることを防止することができる(すなわち、フェールセーフ機構となっている)。
【0044】
また、マンション等の窓ガラスとしてHIG2を利用することで、冬季のように暖房を必要とする際には、窓ガラスの発熱による暖房効果の向上も期待できる。その結果として、ファンコイルユニットなど大きな暖房を廃止することでき、その暖房器具を設置していたスペースの有効利用も可能である。
【0045】
以上、本発明に係る発熱ガラスシステムの実施形態について説明したが、本発明に係る発熱ガラスシステムは上記実施形態に限定されない。例えば、交流電源部3Aを3線3相又は4線3相のものとし、直流化部3Bにおいて、交流電源部3Aから供給される交流電圧をサイリスタを利用して全波整流するようにしてもよい。また、図5に示した直流化部3Bでは、全波整流としたが半波整流でもよい。
【0046】
更に、HIG2が複数の発熱ガラス部を有する場合、コールドドラフトをより一層低減させる観点から、複数の発熱ガラス部が鉛直方向に配列されるようにHIG2を設置するとしたが、複数の発熱ガラス部が水平方向に配列されるようにHIG2を設置することもできる。この場合でも、各発熱ガラス部40,50には擬似直流電圧が印加され、更に、複数の発熱ガラス部40,50が直列に接続されているので、通電時の音は低減されている。
【0047】
更にまた、図2に示したHIG2では、発熱ガラス部40,50が有する透明導電膜41,51の大きさはほぼ等しいとしたが、透明導電膜41,51の大きさ、言い換えれば、発熱ガラス部40,50の大きさを異なるものとすることもできる。例えば、HIG2が複数の発熱ガラス部を有し、それらが鉛直方向に配列される場合、下側(床側)の発熱ガラス部の方を大きくし、下側の発熱ガラス部で発熱量を多くすることによって、コールドドラフトをより効果的に防止することが可能である。
【0048】
更に、発熱手段としての透明導電膜41,51の材料としては酸化スズを例示したが、例えば、銀等を利用することも可能である。更にまた、室内側ガラス板20上に設けられる導電膜は、必ずしも透明でなくてもよく、また、部屋等に入射を制限した波長の光に対して不透明なものとすることもできる。
【0049】
また、図7に示す発熱ガラスシステム8のように、1枚のガラス板91に対して1つの透明導電膜92を有する複数(図7では2個)の発熱ガラス部90,90(図5参照)を直列に接続してもよい。この場合、図7に示すように、例えば、各発熱ガラス部90,90に対して図1〜図3に示したような枠体30及び室外側ガラス板10を設けることで、発熱ガラスシステム8は複数(例えば、2個)のHIG2,2を有し、それらが直列に接続されることになる。よって、例えば、1つの家庭において複数の部屋にそれぞれHIGを配することができ、結果として、各部屋のHIG稼働時の音の低減を図ることができる。
【0050】
更にまた、図1及び図7に示した発熱ガラスシステム1,8は、マンション、オフィス、病院、ホテル等、様々な場所に利用されるとしたが、ガラスの表裏面に温度差等に起因した結露などを防止する箇所、例えば、自動販売機の窓ガラス等にも適用することができる。
【0051】
次に、前述した発熱ガラスシステムの発熱複層ガラス(HIG)2に電流を供給するための種々の具体的な給電手段について説明する。なお、以下の説明に関して、同一又は同等な構成部分には同一符合を付す。
【0052】
図8に示すように、ガイドレール(不図示)が設けられた矩形の窓枠101は建物にネジ止めされている。この窓枠101には、水平方向にスライド自在な矩形のガラス枠102が嵌め込まれ、このガラス枠102には、HIG(発熱複層ガラス)2が固定されている。
【0053】
このHIG2に所望の電流を供給するための給電手段100は、窓枠101の上方で部屋の壁103に固定されたカーテンレール104に沿って延在するポール105を有している。このポール105は、カーテンレール104の後方に位置すると共に、左右の取付けブラケット105aによって部屋の壁103に水平に固定されている。ポール105には、螺旋状に癖付けされた配線106が巻き付けられ、配線106の一端は、所望の場所に設置されたコントロールボックス(不図示)にコネクタ108を介して結線され、配線106の他端は、ガラス枠102内に導入されてHIG2に結線されている。このような構成によって、カーテンの裏に配線106を隠すことができ、部屋のインテリアを損ない難くしている。さらに、カーテンレール104、ポール105、配線106及びコネクタ108は、カーテンボックス109によって隠されており、部屋のインテリアを損ない難くしている。
【0054】
なお、図示しないコントロールボックスには、前述した操作パネル部5の入力部5A及び表示部5Bと室内温度センサ部6とが配置され、コントロールボックスの内部には、前述した直流化部3Bとサブスイッチ3Dと制御部4とが設けられている。さらに、HIG2の表面にはHIG温度センサ部7が取り付けられている。
【0055】
他の給電手段110について説明する。図9に示すように、HIG2は、水平方向にスライドしない矩形のガラス枠111に固定されている。このHIG2に所望の電流を供給するための給電手段110では、配線112の一端は、所望の場所に設置されたコントロールボックス(不図示)にコネクタ113を介して結線され、配線112の他端は、ガラス枠111内に導入されてHIG2に結線されている。なお、他の構成は、前述した給電手段100と同一である。
【0056】
さらに他の給電手段120について説明する。図10に示すように、HIG2は、水平方向にスライド自在な矩形のガラス枠121に固定されている。このHIG2に所望の電流を供給するための給電手段120では、窓枠101の上方で部屋の壁103に固定されたカーテンレール104の各ランナー104aに配線122が引っ掛けられている。配線122の一端は、所望の場所に設置されたコントロールボックス(不図示)にコネクタ123を介して結線され、配線122の他端は、ガラス枠121内に導入されてHIG2に結線されている。このカーテンレール104は既存のものであり、各ランナー104aには、カーテンもフックを介して取り付けられる。このような構成によって、カーテンの裏に配線122を隠すことができ、部屋のインテリアを損ない難くしている。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る発熱ガラスシステムの一実施形態の構成のブロック図である。
【図2】発熱複層ガラスと電力供給部との配線関係を示す図である。
【図3】図2のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】図2に示した発熱複層ガラスが有する発熱ガラス部の斜視図である。
【図5】直流化部の一例の回路図である。
【図6】発熱ガラス部の斜視図である。
【図7】発熱ガラスシステムの他の実施形態の構成を示す概略構成図である。
【図8】給電手段の第1の例を示す斜視図である。
【図9】給電手段の第2の例を示す斜視図である。
【図10】給電手段の第3の例を示す斜視図であり、(a)は、窓を閉めた状態、(b)は、窓を開けた状態を示す。
【符号の説明】
【0058】
1,8…発熱ガラスシステム、3B…直流化部、20…室内側ガラス板(同一ガラス板)、22,23…ガラス板のうち導電膜が設けられている部分(ガラス部)、40,50,90…発熱ガラス部、41,51,92…透明導電膜、42A,42B…一対の電極、52A,52B…一対の電極、91…ガラス板(ガラス部)、93A,93B…一対の電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電膜が表面に設けられたガラス部及び前記導電膜に電圧を印加する一対の電極を有する発熱ガラス部と、
交流電圧を直流化することによって、前記一対の電極に供給するための直流化電圧を生成する直流化部と、
を備える発熱ガラスシステム。
【請求項2】
前記発熱ガラス部を複数有しており、
前記複数の発熱ガラス部が直列に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の発熱ガラスシステム。
【請求項3】
前記複数の発熱ガラス部は、同一ガラス板に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の発熱ガラスシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−329116(P2007−329116A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307100(P2006−307100)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000148689)株式会社村上開明堂 (185)
【Fターム(参考)】