説明

発熱体の放熱構造

【課題】自動車のエンジンルームなどの、部品が多数存在する場所に配置された筐体内に、電子装置などの発熱体を、前記筐体の内面に容易に熱的接合して収容できる放熱構造を提供する。
【解決手段】筐体内に、発熱体が筐体内面に押圧され熱的に接合して収容されており、発熱体を筐体内面に押圧する操作は、筐体内面の法線と略直交する方向から行われる発熱体の放熱構造。発熱体1が押圧され熱的に接合している筐体3内面が筐体側壁部3aの内面3bであり、発熱体1を押圧する操作が筐体3上部方向から行われる発熱体1の放熱構造。発熱体1が押圧され熱的に接合している筐体3内面の背側の外面3cに放熱体9が設けられている発熱体の放熱構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジンルームなどの、部品が多数存在する場所に配置された筐体内に、電子装置などの発熱体を、前記筐体の内面に容易に熱的接合して収容できる放熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンルームなどの劣悪な環境下では、高精度の電子装置(プリント基板上に形成された電子回路など)は防水および防塵のためにプラスチック製または金属製の筐体に収容して配置される。この場合、前記電子回路を構成する半導体素子などが熱暴走するのを防止するため電子装置は冷却(放熱)する必要がある。
【0003】
筐体内に収容した電子機器の放熱装置として、電子機器を放熱体に熱的に接合させ、前記電子機器の背面側に支持部材を配し、前記支持部材の両端部をそれぞれ放熱体に螺着させ、さらに前記放熱体で筐体側壁部の一部を形成した放熱装置(特許文献1)、或いは金属筐体表面に2個の突出部を形成し、前記2個の突出部間に電子機器を配し、前記2個の電子機器の上方にブラケットを配し、前記ブラケットを前記2個の突出部の頂部に螺着して、前記電子機器を下方に押圧する放熱装置が提案された(特許文献2)。
【0004】
しかし、これらの放熱装置は、いずれも、螺着方向と、発熱体を押圧する方向とが同じ方向なので、例えば、発熱体を筐体側壁内面に押圧する場合、横方向から螺着することになり自動車のエンジンルームなどの部品が多数配置されている場所では、筐体内に発熱体を前記筐体内面に熱的に接合して収容するのが極めて困難であった。
【0005】
【特許文献1】特開平7−321486号公報
【特許文献2】特開2001−257485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、自動車のエンジンルームなどの、部品が多数存在する場所に配置された筐体内に、電子装置などの発熱体を、前記筐体の内面に容易に熱的接合して収容できる放熱構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載発明は、筐体内に、発熱体が前記筐体内面に押圧され熱的に接合して収容されており、前記発熱体を前記筐体内面に押圧する操作は、前記筐体内面の法線と略直交する方向から行われることを特徴とする発熱体の放熱構造である。
【0008】
請求項2記載発明は、前記発熱体が押圧され熱的に接合している筐体内面が筐体側壁の内面であり、前記発熱体を押圧する操作が前記筐体上部方向から行われることを特徴とする請求項1記載の発熱体の放熱構造である。
【0009】
請求項3記載発明は、前記発熱体が押圧され熱的に接合している筐体側壁部内面の背側の外面に放熱体が設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の発熱体の放熱構造である。
【0010】
請求項4記載発明は、前記発熱体の左右両側にそれぞれガイドピンが発熱体の上下方向に所定間隔を開けて少なくとも2個設けられ、前記筐体内にブラケットが配設され、前記ブラケットの左右両側に前記ガイドピンを筐体内に案内するための溝が設けられ、前記溝の所要箇所に分岐溝が設けられ、前記分岐溝は発熱体が熱的に接合する筐体側壁部の内面に向け下方に傾斜しており、前記ガイドピンはいずれも前記分岐溝に位置しており、前記発熱体の左右両側上方にそれぞれネジを通す穴Aを備えた突起部が設けられ、前記ブラケットの左右両側上方にそれぞれネジを通す穴Bを備えた突起部が設けられ、前記2個の穴A、Bは合致され、前記合致された2個の穴A、Bにネジが通され、前記ネジはナットで螺合されて前記両突起部が相互に締結されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の発熱体の放熱構造である。
【0011】
請求項5記載発明は、前記穴Bは筐体幅方向の径が大きい長穴であり、前記ナットが板バネ上に固着されており、前記板バネには、ネジを通す穴Cが設けられ、前記ナットは前記ブラケット突起部のネジを通す穴B内に位置しており、前記板バネは前記ブラケット突起部のネジを通す穴Bの下側に位置していることを特徴とする請求項4記載の発熱体の放熱構造である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載発明は、筐体内に、発熱体が前記筐体内面に押圧され熱的に接合して収容されているので、発熱体の熱は筐体壁部に直接伝達され、前記伝達された熱は、前記筐体壁部外面から良好に放熱される。前記発熱体を前記筐体内面に押圧する操作は、前記筐体内面の法線と略直交する方向から行われる。このため、例えば、発熱体を筐体側壁部内面に押圧する場合、前記操作は上方から行うことができる。従って、自動車のエンジンルームなどの部品が多数配置されている場所でも、発熱体を筐体側壁部内面に熱的に接合して収容するのが容易に行える。
【0013】
請求項2記載発明は、前記発熱体が押圧され熱的に接合している筐体内面が筐体側壁部の内面であり、前記発熱体を押圧する操作が前記筐体上部方向から行われる発熱体の放熱構造なので、自動車のエンジンルームなどの部品が多数配置されている場所に配置された筐体内に、電子装置などの発熱体を、前記筐体側壁部内面に容易に熱的接合して収容できる。
【0014】
請求項3記載発明は、発熱体を熱的に接合させた筐体側壁部内面の背側の外面に放熱体を設けた放熱構造なので、筐体からの放熱がより良好に行われる。
【0015】
請求項4記載発明の放熱構造は、(1)発熱体の左右両側にそれぞれ少なくとも2個設けたガイドピンを、筐体内に配設したブラケットの左右両側の案内溝にそれぞれ嵌め込み、(2)前記ガイドピンを前記案内溝の所要箇所から分岐する少なくとも2個の分岐溝に位置させ、(3)前記発熱体の左右両側上方突起部の穴Aと、前記ブラケットの左右両側上方突起部の穴Bとを合致させ、前記合致させた穴A、Bにネジを通し、前記ネジをナットに螺合して前記両突起部を締結した構造なので、例えば、上方開口部からのネジ締め操作により、発熱体を筐体側壁部の内面に容易に熱的接合できる。
【0016】
請求項5記載発明の放熱構造は、前記ブラケットの左右両側上方にそれぞれ設けた穴Bが筐体幅方向の径が大きい長穴なので、ネジとナットの螺合に伴う発熱体の筐体幅方向への移動がスムーズに行われ、しかも発熱体は筐体側壁部内面に強固に熱的に接合される。また、ナットに、板バネ上に固着したナットを用い、前記ナットをネジと強く螺合して、板バネにバネ力を発生させることにより螺合のゆるみが防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明において、発熱体を筐体側壁部内面に熱的に接合させる方法としては、例えば、発熱体と、発熱体が熱的接合する内面と対向する内面との間に、コイルバネ、板バネ、楔状物などを配置する方法が挙げられる。
なお、前記熱的接合とは、発熱体を筐体側壁部内面に直接接合(密着)させる他、発熱体と筐体側壁部内面との間にシリコングリスや熱伝導性ゴムシートなどの熱伝導性材料(部材)を介在させる場合なども含まれる。前記ゴムシートは、予め発熱体に貼り付けておくと作業性が優れる。
【0018】
本発明において、発熱体が熱的に接合する筐体側壁部内面の背側の外面に設ける放熱体としては、放熱フィン、ヒートパイプなどがスペースを取らず推奨される。
【0019】
本発明の放熱構造は、発熱体が押圧され熱的に接合している筐体内面の背側の外面をエンジンルームの放熱し易い面に熱的に接合しても良好に放熱することができる。
【0020】
本発明の放熱構造の実施形態を、図1を参照して具体的に説明する。なお、本発明を説明するための全図において、同一符号の繰り返しの説明は省略する。
この放熱構造は、図1(イ)に示すように、発熱体1の左右両側にそれぞれガイドピン2が発熱体1の上下方向に所定間隔を開けて2個設けられ、筐体3内にブラケット4が配設され、ブラケット4の左右両側にガイドピン2を筐体3内に案内するための溝5が設けられ、溝5の所要箇所に分岐溝5aが2個設けられ、分岐溝5aは発熱体1が熱的に接合する筐体側壁部3aの内面3bに向け下方に傾斜している。ここで、分岐溝5aの間隔はガイドピン2の間隔と同一である。
【0021】
また発熱体1の左右両側上方にそれぞれネジ6を通す穴Aを備えた突起部1aが設けられ、ブラケット4の左右両側上方にそれぞれネジ6を通す穴Bを備えた突起部4aが設けられている。2個の穴A、Bを合致させ、そこにネジ6を通し、ネジ6をナット7に螺合して、前記突起部1a、4aを相互に締結する。
【0022】
本発明において、ネジ6をナット7に螺合することによる発熱体1の筐体幅方向への移動は穴Bとネジ6間の遊びである程度吸収されるが、分岐溝5aの筐体幅方向への距離が大きい場合は、図1(ロ)に示すように、穴Bを筐体幅方向に長穴にしておく、こうすることで、ネジ6をナット7に螺合する際のネジ6の筐体幅方向への移動がスムーズに行われる。この穴Bの長径は発熱体1のガイドピン2が分岐溝5aを移動する筐体幅方向と同じ距離に設定される。
【0023】
ナット7は、ネジ穴C、C’が設けられたU字状板バネ8の下側の穴C’上に固着されている。板バネ8はU字状に成形してあるので、突起部4aに係止させておくことができ、ネジ6をナット7に容易に螺合できる。ここでナット7はその外径が穴Bの幅(短径)より小さく、ブラケット突起部4aの穴B内に位置する。このように、ナット7の外径を穴Bの幅(短径)より小さくしておくと、ナット7は穴B内を筐体幅方向に容易に移動できる。
【0024】
ナット7は、ネジ穴Cが設けられたフラットな板バネのネジ穴C上に固着させても良い。またナット7の外径を穴Bの幅(短径)より大きくして、板バネを用いない方法も適用できる。図1(イ)で、9は、発熱体1が押圧され熱的に接合している筐体側壁部内面3bの背側の外面3cに設けられた放熱フィンである。
【0025】
次に、本発明の放熱構造の組立方法を、図2(イ)、(ロ)を参照して具体的に説明する。
図2(イ)に示すように、筐体1内に配設したブラケット4の左右両側に設けた2個の溝5、5に、発熱体1の左右両側面に設けた2個のガイドピン2、2をそれぞれ嵌め込み、2個のガイドピン2、2をそれぞれ溝5、5に沿って降下させ、2個のガイドピン2、2を2個の分岐溝5a,5aの上部に位置させる。ここで、対向する発熱体1の放熱面1bと筐体側壁部内面3bとは平行である。
【0026】
次にブラッケット4の突起部4aにU字状板バネ8を嵌め込み、4個の穴A、C、B、C’を合致させ、前記合致させた4個の穴にネジ6を通し、ネジ6をナット7に螺合させる。螺合を進めると、分岐溝5aが下方に傾斜しているため、発熱体1は筐体3の内面3b方向に進行し、図2(ロ)に示すように、筐体の内面3bに熱的に接合する。ここでブラケット突起部4aのネジ穴Bが筐体3の幅方向に径が大きい長穴なのでネジ6は筐体3の幅方向に容易に移動する。突起部1a、4aが相互に締結したあと、さらに螺合を進めて板バネ8にバネ力を生じさせておくと螺合のゆるみが防止される。
【0027】
その後、発熱体1のコネクタ1cに電線束10のコネクタ10aを接続し、次いで筐体3に蓋11を取り付ける。筐体3と蓋11間はゴムパッキン12により、電線束10と蓋11間はゴムグロメット13により、いずれも水密に封止される。
【0028】
このようにして組み立てた放熱構造から発熱体1を取り出すには、蓋11を外し、コネクタ10aを抜き、ネジ6をナット7から外し、発熱体1を引き上げればよい。従って、筐体11を取り出す必要がなく、発熱体1の保守、点検、交換などが容易に行える。
【0029】
本発明において、ブラケット4は、金属板のプレス成形或いはダイキャスト、プラスチックのインジェクション成型などにより作製できる。
【0030】
本発明において、ブラケットを筐体内に配設するには、例えば、ブラケットを筐体内壁面にスポット溶接、超音波溶接などにより接合して行う。その他、筐体と一体に成型することもできる。
【0031】
本発明において、ナットを板バネに固着するには、例えば、ナットを板バネにスポット溶接、超音波溶接などにより接合して行う。
【0032】
本発明において、発熱体がプリント基板などの電子装置の場合、発熱源(半導体素子など)の搭載面を、筐体側壁部内面に熱的に接合させると、冷却がより効率よくなされる。
【0033】
本発明の放熱構造は、例えば、発熱体が回路基板のような板状体の場合、筐体も板状となり、この板状筐体は開口部を上にして縦に配置するので、筐体はエンジンルーム内の部品間の狭い空間に容易に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の放熱構造の実施形態を示す(イ)斜視分解説明図、(ロ)ナット部分の斜視説明図である。
【図2】本発明の放熱構造の実施形態を示す(イ)組立途中の側面説明図、(ロ)組立後の側面説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1 発熱体(電子装置)
1a 発熱体の突起部
1b 発熱体の放熱面
1c 発熱体のコネクタ
2 発熱体の両側に設けられたガイドピン
3 筐体
3a 筐体側壁部
3b 筐体側壁部内面
3c 筐体内面3bの背側の外面
4 ブラケット
4a ブラケットの突起部
5 ブラケットの両側に設けられた溝
5a 分岐溝
6 ネジ
7 ナット
8 U字状板バネ
9 放熱体(放熱フィン)
10 電線束
10a電線束のコネクタ
11 筐体の蓋
12 ゴムパッキン
13 ゴムグロメット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体内に、発熱体が前記筐体内面に押圧され熱的に接合して収容されており、前記発熱体を前記筐体内面に押圧する操作は、前記筐体内面の法線と略直交する方向から行われることを特徴とする発熱体の放熱構造。
【請求項2】
前記発熱体が押圧され熱的に接合している筐体内面が筐体側壁部の内面であり、前記発熱体を押圧する操作が前記筐体上部方向から行われることを特徴とする請求項1記載の発熱体の放熱構造。
【請求項3】
前記発熱体が押圧され熱的に接合している筐体側壁部内面の背側の外面に放熱体が設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の発熱体の放熱構造。
【請求項4】
前記発熱体の左右両側にそれぞれガイドピンが発熱体の上下方向に所定間隔を開けて少なくとも2個設けられ、前記筐体内にブラケットが配設され、前記ブラケットの左右両側に前記ガイドピンを筐体内に案内するための溝が設けられ、前記溝の所要箇所に分岐溝が設けられ、前記分岐溝は発熱体が熱的に接合する筐体側壁部の内面に向け下方に傾斜しており、前記ガイドピンはいずれも前記分岐溝に位置しており、前記発熱体の左右両側上方にそれぞれネジを通す穴Aを備えた突起部が設けられ、前記ブラケットの左右両側上方にそれぞれネジを通す穴Bを備えた突起部が設けられ、前記2個の穴A、Bは合致され、前記合致された2個の穴A、Bにネジが通され、前記ネジはナットで螺合されて前記両突起部が相互に締結されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の発熱体の放熱構造。
【請求項5】
前記穴Bは筐体幅方向の径が大きい長穴であり、前記ナットが板バネ上に固着されており、前記板バネには、ネジを通す穴Cが設けられ、前記ナットは前記ブラケット突起部のネジを通す穴B内に位置しており、前記板バネは前記ブラケット突起部のネジを通す穴Bの下側に位置していることを特徴とする請求項4記載の発熱体の放熱構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−210470(P2006−210470A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17816(P2005−17816)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】