説明

白色蛍光体、フィールドエミッションディスプレイ、フィールドエミッションランプ、および無機エレクトロルミネッセントディスプレイ

【課題】本発明では、比較的低い電子加速電圧においても、良好な色純度を有する白色光が生じ、環境への影響の少ない白色蛍光体を提供することを目的とする。
【解決手段】結晶母体材料として、(Ma)(Mb)を有し、発光中心として、Pr3+(プラセオジムイオン)を有する、白色蛍光体:ここで、Maは、Sr(ストロンチウム)、またはSr(ストロンチウム)の一部もしくは全てがCa(カルシウム)に置換された元素であり、Mbは、Ga(ガリウム)、またはGa(ガリウム)の一部もしくは全てがAl(アルミニウム)に置換された元素である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色蛍光体に関し、特に、カソードルミネッセンスを用いたディスプレイ等に使用され得る白色蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、いわゆるカソードルミネッセンスを利用した、フィールドエミッションディスプレイ(FED)およびフィールドエミッションランプ(FEL)が注目されるようになってきた。通常、FEDは、薄型ディスプレイ等に使用され、FELは、液晶のバックライトおよび照明光源等に使用される。
【0003】
FEDおよびFELの発光原理は、従来のブラウン管(CRT)ディスプレイと同様であり、FEDおよびFELに含まれる蛍光体が電子線照射により励起され、この蛍光体が基底状態に戻る際に生じる発光(カソードルミネッセンス)が利用される。
【0004】
ただし、CRTディスプレイの場合、蛍光体を有する蛍光面には、高い加速電圧(例えば30kV程度)で電子線が照射され、これにより蛍光体から発光が生じる。これに対して、FEDおよびFELの場合は、蛍光体には、比較的低い加速電圧(例えば10kV以下)で電子線が照射される(非特許文献1−3)。これは、FEDおよびFELの場合、電子源と蛍光面の間の距離が比較的近接しており(例えば0.5mm程度)、両者の間に、10kV以上の高い加速電圧を印加した場合、ディスプレイやランプの構造上の耐圧がないため、放電が発生したり、絶縁破壊が発生する可能性が高くなるためである。
【0005】
しかしながら、電子の加速電圧の抑制は、蛍光体の発光特性の低下につながるおそれがある。このため、比較的低い電子加速電圧においても、適正な発光特性を示す蛍光体が要望されており、そのような蛍光体材料について、各種開発が進められている。しかしながら、特に白色蛍光体の場合、比較的低い電子加速電圧において、良好な色純度を有する材料については、これまでにあまり報告がなされていないのが現状である。
【0006】
なお、用途は異なるものの、特許文献1には、CaGaを結晶母材とし、Pb(鉛)を発光中心とする白色蛍光体(CaGa;Pb)が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−2115号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】F.−L.Zhang,S.Yang,C.Stoffers,J.Penczek,P.N.Yocom,D.Zaremba,B.K.Wagner,C.J.Summers,Appl.Phys.Lett.vol.72,p2226(1998年)
【非特許文献2】K.Tanaka,S.Okamoto,H.Kominami,Y.Nakanishi,X.Du,A.Yoshikawa,“Cathodoluminescence properties of blue−emitting SrGa2S4”,J.Appl.Phys.vol.92,No.834(2002年)
【非特許文献3】E.J.Chi,et al.,“Recent improvements in brightness and color gamut of carbon nanotube field emission display”,SID‘06 Digest,vol.63,No.1,p1841(2006年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の特許文献1には、CaGa;Pb蛍光体に、波長350nmの紫外線を照射した際に、白色のフォトルミネッセンスが得られることは示されているものの、他の励起源や励起方法を採用した場合の発光特性については、示されていない。一般に、励起源または励起方法が代わると、発光体の発光挙動は、変化してしまうため、特許文献1に記載の蛍光体を、カソードルミネッセンスを利用したFEDおよびFEL等に適用できるかどうかは不明である。このように、従来、基礎研究としてのフォトルミネッセンスを利用した白色蛍光体に関する研究、報告は、多少あるものの、カソードルミネッセンスを利用したFEDおよびFEL用として、適用可能な白色蛍光体の報告例は、ほとんどない。
【0010】
また特許文献1に記載の蛍光体に含まれるPb(鉛)は、有毒なため、この蛍光体の使用は、環境上好ましくないという問題がある。
【0011】
本発明は、このような背景の下なされたものであり、本発明では、比較的低い電子加速電圧においても、良好な色純度を有する白色光が生じ、環境への影響の少ない白色蛍光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、
結晶母体材料として、(Ma)(Mb)を有し、
発光中心として、Pr3+(プラセオジムイオン)を有する、白色蛍光体が提供される。ここで、
Maは、Sr(ストロンチウム)、またはSrの一部もしくは全てがCa(カルシウム)に置換された元素であり、
Mbは、Ga(ガリウム)、またはGaの一部もしくは全てがAl(アルミニウム)に置換された元素である。
【0013】
なお、本発明における白色蛍光体において、前記結晶母体材料は、SrGaであっても良い。
【0014】
また、本発明における白色蛍光体は、発光中心として、さらに、Ce3+(セリウムイオン)を有しても良い。
【0015】
また、本発明における白色蛍光体において、Ce3+の量(mol%)は、Pr3+の量(mol%)の1/10以下であっても良い。
【0016】
また、本発明における白色蛍光体において、当該白色蛍光体全体に対する発光中心の含有量は、0.01mol%〜20mol%の範囲であっても良い。
【0017】
また本発明では、電子を放出する電子源と、前記電子が衝突した際に発光が生じる蛍光体層が設置された基板とを有するフィールドエミッションディスプレイであって、
前記蛍光体層は、前述の特徴を有する白色蛍光体を有するフィールドエミッションディスプレイが提供される。
【0018】
また本発明では、電子を放出する電子源と、前記電子が衝突した際に発光が生じる蛍光体層が設置された基板とを有するフィールドエミッションランプであって、
前記蛍光体層は、前述の特徴を有する白色蛍光体を有するフィールドエミッションランプが提供される。
【0019】
また本発明では、2つの電極間に電圧を印加する電圧源と、前記電極間に設置され、前記電圧印加の際に発光が生じる蛍光体層とを有する無機エレクトロルミネッセントディスプレイであって、
前記蛍光体層は、前述の特徴を有する白色蛍光体を有する無機エレクトロルミネッセントディスプレイが提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、比較的低い電子加速電圧においても、良好な色純度を有する白色光が生じ、環境への影響の少ない白色蛍光体を提供することが可能となる。また、そのような白色蛍光体を有する各種装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による白色蛍光体の一種である、SrGa;Prの電子線励起による発光スペクトルの一例を示した図である。
【図2】本発明による白色蛍光体のCIE色度座標を示した図である。
【図3】CIE色度座標における白色光の領域を示した図である。
【図4】本発明による白色蛍光体の一種である、SrGa;Pr,Ceの電子線励起による発光スペクトルの一例を示した図である。
【図5】本発明による白色蛍光体を適用したフィールドエミッションディスプレイ(FED)装置の基本構成原理図の一例を示した図である。
【図6】本発明による白色蛍光体を適用したフィールドエミッションランプ(FEL)装置の基本構成原理図の一例を示した図である。
【図7】本発明による白色蛍光体を適用した無機エレクトロルミネッセントディスプレイ(ELD)装置の基本構成原理図の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について、より詳しく説明する。
【0023】
いわゆる「カソードルミネッセンス」を利用した、最近のフィールドエミッションディスプレイ(FED)およびフィールドエミッションランプ(FEL)等の装置においては、電子源と蛍光体を有する蛍光面との間の距離をあまり大きくすることができず(例えば0.5mm程度)、構造上の耐圧がないため、大きな加速電圧を使用した場合、放電が発生したり、絶縁破壊が発生したりする。このため、蛍光体には、比較的低い加速電圧(例えば10kV以下)で電子が照射される。なお、本願において、「カソードルミネッセンス」とは、電子入射によって蛍光体が励起され、発光が生じる現象の総称を意味する。
【0024】
しかしながら、一般に、電子の加速電圧の低下に伴い、蛍光体の発光特性は、低下する傾向にある。従って、低い加速電圧においても、良好な発光特性、特に色純度の良い発光色を示す蛍光体が要望されている。特に、低加速電圧条件において、色純度の良い白色発光を示す蛍光体(以下、「白色蛍光体」という)は、ほとんど報告されていない。また、環境負荷の少ない、より安全な蛍光体が要望されている。
【0025】
本願発明者らは、このような背景に鑑み、鋭意研究開発を進めた結果、チオガレートSrGaを結晶母体材料とし、Pr3+を発光中心とする蛍光体によって、上記目的が達成し得ることを見出し、本発明に至った。
【0026】
すなわち、本発明では、結晶母体材料として、(Ma)(Mb)を有し、発光中心として、Pr3+(プラセオジムイオン)を有することを特徴とする白色蛍光体が提供される。ここで、Maは、Sr(ストロンチウム)、またはSr(ストロンチウム)の一部もしくは全てがCa(カルシウム)に置換された元素であり、Mbは、Ga(ガリウム)、またはGa(ガリウム)の一部もしくは全てがAl(アルミニウム)に置換された元素である。
【0027】
なお、Srを含むチオガレートSrGaにおいて、Srの少なくとも一部をCaに置換し、および/またはGaの少なくとも一部をAlに置換しても、蛍光体のカソードルミネッセンス特性に、実質的に影響が生じないことは、良く知られている。従って、本発明では、Maを、Sr(ストロンチウム)、またはSr(ストロンチウム)の一部もしくは全てがCa(カルシウム)に置換された元素とし、Mbを、Ga(ガリウム)、またはGa(ガリウム)の一部もしくは全てがAl(アルミニウム)に置換された元素としたとき、白色蛍光体の結晶母体材料は、(Ma)(Mb)で表記される。
【0028】
本発明のような、結晶母体材料として、(Ma)(Mb)を有し、発光中心として、Pr3+(プラセオジムイオン)を有することを特徴とする白色蛍光体(以下、単に「(本発明による)白色蛍光体」と称する)では、10kV程度の比較的低い加速電圧においても、電子線励起により、色純度の良い白色発光を得ることができる。
【0029】
また、本発明による白色蛍光体は、Pb(鉛)のような有害な物質を含んでおらず、環境に優しい白色蛍光体を提供することが可能となる。
【0030】
さらに、本発明による白色蛍光体は、単一の材料(Ma)(Mb)のみが、結晶母体材料として使用される。すなわち、本発明では、白色発光を得るため、青、赤および緑等の各発光を示す複数の発光材料を混合して、一つの蛍光体を構成するという方法を採用してはいない。従って、本発明では、各発光材料間の相互作用について考慮する必要がない上、製造が比較的簡単であるという特徴を有する。
【0031】
ここで、本発明による白色蛍光体では、発光中心イオンとして、Pr3+イオンに加えて、Ce3+イオンを含んでも良い。Ce3+イオンは、青色の発光を示す蛍光体として知られており、発光中心として、少量のCe3+イオンを加えることにより、発光色(すなわち白色)の演色性が向上する。通常、本発明による白色蛍光体に含まれるCe3+イオンの含有量(mol%)は、Pr3+イオンの含有量(mol%)の1/10以下である。白色蛍光体に、これ以上Ce3+イオンを添加すると、発光の中の青色が強くなりすぎ、色純度の良い白色が得られなくなるおそれがあるからである。
【0032】
発光中心の含有量(Ce3+イオンを含まない場合は、Pr3+イオンの含有量であり、Ce3+イオンを含む場合は、Pr3+イオンとCe3+イオンの含有量の総和)は、特に限られないが、例えば、蛍光体の全量に対して、0.01mol%〜20mol%の範囲であることが好ましく、0.01mol%〜3mol%の範囲であることがより好ましい。発光中心の含有量が0.01mol%よりも少なくなると、輝度が低下する。また、発光中心の含有量が20mol%よりも多くなると、濃度消光が生じ、輝度が減少する。
【0033】
また、本発明による白色蛍光体には、さらに、電荷補償剤を添加しても良い。電荷補償剤としては、例えば、アルカリ金属元素、Ag(銀イオン)のような+1価の陽イオンとなる金属元素、ハロゲンイオン(Cl、F、I)等がある。電荷補償材剤は、発光中心イオンの含有量と等量加えることが好ましく、その添加量は、例えば0.01mol%〜20mol%の範囲である。なお、電荷補償材剤の量が20mol%を超えると、輝度が低下するおそれがある。
【0034】
図1は、本発明による白色蛍光体の発光スペクトルの一例を示したものである。この発光スペクトルは、白色蛍光体材料としてSrGa;Pr(Pr含有量2.0mol%)を使用し、加速電圧2kVの電子線を照射した際に得られたものである。波長483nm近傍、495nm近傍、539nm近傍、610nm近傍、630nm近傍に、および653nm近傍に、発光ピークが生じていることがわかる。
【0035】
図2には、得られた発光のCIE色度座標を示す。SrGa;Prの色度座標(x,y)は、x=0.33,y=0.40(図のA点)であった。
【0036】
図3には、CIE色度座標内における各色の領域を示す(出典:テレビジョン画像情報工学ハンドブック、オーム社、1990年)。この図3には、図2に示したSrGa;Prの色度座標(x,y)は、x=0.33,y=0.40も同時に示されている。
【0037】
一般に、発光のCIE色度座標が図3の斜線部分の範囲にあれば、その発光は、色純度の良好な白色光であると言える。従って、この図から、本発明による白色蛍光体では、色純度の良好な白色光が得られていることがわかる。
【0038】
なお、白色蛍光体に含まれるPr濃度を、蛍光体の全量に対して、0.01mol%〜20mol%まで変化させても、発光のCIE色度座標(x,y)は、(0.32,0.40)〜(0.35,0.41)と、ほとんど変化しない。これは、Pr3+の発光が、4f−4f電子間の遷移であり、発光中心イオンの量が増加しても、遷移挙動にはあまり影響が生じないためであると考えられる。
【0039】
従って、本発明による白色蛍光体は、調製の際に、発光中心の濃度をそれ程厳密に制御しなくても、十分に良好な発光性を呈するという追加の特徴を有する。
【0040】
図4は、本発明による別の白色蛍光体の発光スペクトルの一例を示したものである。この発光スペクトルは、白色蛍光体材料としてSrGa;Pr,Ce(蛍光体全体に対するPr含有量4.9mol%、Ce含有量0.30mol%)を使用し、加速電圧2kVの電子線を照射した際に得られたものである。前述の白色蛍光体SrGa;Prと同様の位置に、同様の強度の発光ピークが得られた。ただし、この発光体の場合、さらに、440nm近傍に、Ceに起因したものと思われる発光ピークが得られた。
【0041】
440nm近傍の発光は、青色成分に相当する。従って、SrGa;Pr蛍光体に、Ceを添加することにより、白色光の演色性が向上する。
【0042】
前述の図2に、SrGa;Pr,Ce蛍光体において得られた発光のCIE色度座標を合わせて示す。この白色蛍光体の色度座標(x,y)は、x=0.31,y=0.36(図のB点)であり、色純度の良好な白色光が得られていることがわかる。
【0043】
なお、本発明による白色蛍光体において、Pr3+に対して、Ce3+の量を増やしていくと、発光色のCIE色度座標は、図2において破線Lで示した線上を、矢印の方向に沿って移動する。ただし、本願発明者らにより、Pr3+イオンの含有量(mol%)に対するCe3+の含有量(mol%)が、1/10以下の場合、発光色は、白色の領域に留まることが確認されている。
【0044】
(本発明の白色蛍光体の適用例)
このような本発明の白色蛍光体は、カソードルミネッセンスを利用した各種装置に適用することができる。
【0045】
図5には、本発明の白色蛍光体を有するフィールドエミッションディスプレイ(FED)装置の基本構成原理図を示す。
【0046】
このFED装置100(単位素子)は、ガラス基板120と、該ガラス基板120上に形成された、ITO(インジウムスズ酸化物)のような透明導電体で形成された透明電極130と、該透明電極上に設置された蛍光体層140とを有する。また、FED装置100は、さらに、蛍光体層140から離して、蛍光体層140と対向するように配置された電子放出源150を有する。ここで、蛍光体層140は、本発明による白色蛍光体141を有する。
【0047】
なお、図5には示していないが、ガラス基板120と電子放出源150の間は、封止材によって密閉されており、この密閉空間は、真空になっている。
【0048】
なお、実際には、図5に示す構成の単位素子が複数、2次元的(縦横)にマトリック状に配列されることにより、平面状のフィールドエミッションディスプレイが構成される。
【0049】
このように構成されたFED装置100において、電圧源170により、透明電極130と電子放出源150の間に電圧が印加されると、電子放出源150から、蛍光体層140に向かって電子190が放射される。この電子190が、蛍光体層140に含まれる本発明による白色蛍光体141に衝突すると、白色蛍光体141から白色光191が生じる。
【0050】
ここで、前述のように、白色蛍光体141は、比較的低い加速電圧においても、電子線励起により、色純度の良い白色発光を得ることができるという特徴を有する。従って、このFED装置100では、電子190の加速電圧が10kV以下程度の比較的低い電圧であっても、色純度の良い白色発光が得られる。
【0051】
次に、図6を参照して、本発明の白色蛍光体を適用した、別のカソードルミネッセンスを用いた装置について説明する。
【0052】
図6には、本発明の白色蛍光体を有するフィールドエミッションランプ(以下、「FEL装置)と称する)の基本構成原理図を示す。
【0053】
このFEL装置200は、第1のガラス基板220と、該第1のガラス基板220上に形成された、第1の金属電極230と、該第1の金属電極230上に設置された蛍光体層240とを有する。ここで、蛍光体層240は、本発明による白色蛍光体241を有する。
【0054】
また、FEL装置200は、さらに、蛍光体層240から離して、該蛍光体層240と対向するように配置された電子放出源250を有する。電子放出源250は、第2の金属電極255が設置された第2の基板260上に、第2の金属電極255と接するようにして配置される。
【0055】
このように構成されたFEL装置200において、電圧源270により、第1の金属電極230と第2の金属電極255の間に電圧が印加されると、電子放出源250から、蛍光体層240に向かって電子290が放射される。この電子290が、蛍光体層240に含まれる本発明による白色蛍光体241に衝突すると、白色蛍光体241から、各方向に向かって白色光が生じる。特にこの構造では、生じた白色光を、第1の金属電極230と第2の金属電極255とによって、反射させることにより、横方向に発光を伝搬させることができる。また、FEL装置200においても、前述のFEDのように、第1の金属電極230を透明にした場合は、上方向に発光を取り出すことも可能である。
【0056】
ここで、前述のように、白色蛍光体241は、比較的低い加速電圧においても、電子線励起により、色純度の良い白色発光を得ることができるという特徴を有する。従って、このFEL装置200では、電子290の加速電圧が10kV以下程度の比較的低い電圧であっても、色純度の良い白色発光が得られる。
【0057】
また、本発明の白色蛍光体は、カソードルミネッセンス以外の方式を利用した各種表示装置等に適用することも可能である。例えば、本発明の白色蛍光体は、エレクトロルミネッセンスを利用した表示装置に適用しても良い。
【0058】
以下、図7を参照して、本発明による白色蛍光体の、エレクトロルミネッセント表示装置への適用例について、説明する。
【0059】
図7は、本発明の白色蛍光体を有する無機エレクトロルミネッセントディスプレイ(ELD)の基本構成原理図を示したものである。
【0060】
このELD装置300(単位素子)は、ガラス基板320を有し、該ガラス基板320上には、透明電極330と、第1の絶縁層335と、蛍光体層340と、第2の絶縁層350と、背面電極360とが、この順に積層される。透明電極330および背面電極360は、例えば、ITO(インジウムスズ酸化物)のような透明導電体で形成される。蛍光体層340は、本発明による白色蛍光体341を有する。
【0061】
また、ELD装置300は、さらに、交流電圧源370を有し、この交流電圧源370は、透明電極330と背面電極360の間に、交流電圧を印加することができる。
【0062】
なお、実際には、図6に示す構成の単位素子が複数、2次元的(縦横)にマトリックス状に配列されることにより、平面状の無機エレクトロルミネッセントディスプレイが構成される。
【0063】
このように構成されたELD装置300において、交流電圧源370により、透明電極330と背面電極360の間に電圧が印加されると、蛍光体層340内に電界が生じる。これにより、蛍光体層340に含まれる本発明による白色蛍光体341から、白色光391が放射される。
【0064】
このようなELD装置300においても、本発明による白色蛍光体の効果により、色純度の良い白色発光が得られる。
【0065】
(本発明による白色蛍光体の製作方法)
次に、本発明による白色蛍光体の製作方法の一例について説明する。
【0066】
本発明による白色蛍光体は、薄膜状および粉末状など、各種形態で製作することができる。そこで、最初に、薄膜状の白色蛍光体を製作する方法について説明する。
【0067】
(膜状白色蛍光体を製作する方法)
ここでは、代表的な成膜技術として、分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy)法を用いて、SrGa;Pr,Ce白色蛍光体を製作する方法について説明する。
【0068】
まず、4つのクヌーンセンセル(以下、「Kセル」という)に、それぞれ、固体のSr(ストロンチウム)、Ga(三硫化二ガリウム)、PrCl(三塩化プラセオジム)、CeCl(三塩化セリウム)を充填する。これらのKセルを、例えばガラス製の被成膜用基板とともに、分子線エピタキシー装置内に配置する。
【0069】
次に、被成膜基板を所定の温度に昇温後、4つの各Kセルを所定の温度に加熱する。
【0070】
被成膜用基板上では、以下の化学反応により、SrGaの結晶母体膜が成長する。

Sr+2Ga → SrGa+2GaS↑ (1)式

なお、(1)式において、GaSは、基板上で再蒸発するため、最終的にSrGaの結晶母体膜中には残留しない。
【0071】
また、PrClおよびCeClの加熱により、PrおよびCeがSrGaの母体結晶中に取り込まれ、最終的に、SrGa;Pr,Ce薄膜が得られる。
【0072】
通常の場合、被成膜基板の加熱温度は、450℃〜650℃程度である。またSrの加熱温度は、400℃〜600℃の範囲であり、Gaの加熱温度は、700℃〜900℃の範囲であり、PrClおよびCeClの加熱温度は、450℃〜650℃の範囲である。また、成膜速度は、10Å/min〜10000Å/minの範囲である。
【0073】
なお、白色蛍光体中の発光中心イオン、すなわちPr3+およびCe3+イオンの濃度は、PrClおよびCeClのKセルの加熱温度を調節することにより、容易に調整可能であることは、当業者には明らかであろう。
【0074】
以上の工程により、薄膜状のSrGa;Pr,Ce白色蛍光体を得ることができる。
【0075】
なお、発光中心としてCe3+を含まない白色蛍光体も、同様の方法で製作することができることは、当業者には明らかであろう。この場合、CeCl用を除く3種類のKセルを使用して、蛍光体の成膜が行われる。
【0076】
以上の説明では、代表的な成膜技術として、分子線エピタキシー法を用いて、本発明による白色蛍光体を製作する方法について示した。しかしながら、本発明による白色蛍光体は、電子線蒸着法、スパッタリング法、CVD法、イオンプレーティング法などの、他の成膜方法を用いて製作することも可能である。
【0077】
(粉末状白色蛍光体を製作する方法)
次に、本発明によるSrGa;Pr,Ce白色蛍光体を例に、粉末状の白色蛍光体を製作する方法について説明する。
【0078】
SrGa;Pr,Ce白色蛍光体は、固相反応を利用した焼結法により、比較的簡単に製作することができる。
【0079】
まず、Sr(ストロンチウム)、Ga(三硫化二ガリウム)、S(硫黄)、PrCl(三塩化プラセオジム)、およびCeCl(三塩化セリウム)の各原料粉末を化学量論組成になるように秤量し、十分に混合する。
【0080】
次に、この混合粉末を石英ガラスまたはセラミックス等で構成された耐熱製の容器内に入れ、雰囲気調整炉内に配置する。炉内を、硫化水素を含む雰囲気としてから、高温で、所定の時間、混合粉末を焼成する。焼成雰囲気は、例えば、1vol%〜10vol%(例えば5vol%)の硫化水素を含むAr(アルゴン)雰囲気であっても良い。また、焼成温度および焼成時間は、特に限られないが、焼成温度は、例えば、800℃〜1000℃の範囲であり、焼成時間は、例えば、1時間〜24時間の範囲である。
【0081】
その後、得られた焼成物を炉内から取り出し、これを粉砕し、所望の粒度まで微細化することにより、SrGa;Pr,Ce白色蛍光体粉末を得ることができる。
【0082】
この他、発光中心イオンとしてCeを含まない、SrGa;Pr白色蛍光体粉末等も、同様の方法で作製することができる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0084】
(実施例1)
以下の方法により、本発明による白色蛍光体薄膜を作製し、その特性について評価した。
【0085】
ガラス基板上に、分子線エピタキシー法により、SrGa;Pr薄膜を成膜した。
【0086】
まず、3つのKセルに、それぞれ、固体のSr、Ga、PrClを充填した。以下、各固体材料を含むKセルを、それぞれ、Kセル1、Kセル2、およびKセル3と称する。これらのKセルおよびガラス基板を,市販の分子線エピタキシー装置内に設置した。
【0087】
次に、ガラス基板を550℃まで昇温後、この温度に保持するとともに、3つのKセルを調温器により加熱し、所定の温度に保持した。この際、Kセル1(Sr用)は、500℃に保持し、Kセル2(Ga用)は、800℃に保持し、Kセル3(PrCl用)は、550℃に保持した。
【0088】
これにより、SrGa;Pr薄膜が得られた。成膜速度は、100Å/minであった。分析の結果、SrGa;Pr薄膜に含まれるPrの含有量は、2.0mol%であった。以下、このようにして作製されたSrGa;Pr薄膜を、「実施例1に係る白色蛍光体」と称する。
【0089】
次に、実施例1に係る白色蛍光体の発光特性について評価した。発光特性の評価は、実施例1に係る白色蛍光体に、2kVの加速電圧で電子を照射した際に生じる発光スペクトルを測定することにより実施した。
【0090】
測定の結果、前述の図1に示した発光スペクトルが得られた。また、得られた発光スペクトルのCIE色度座標を、前述の図2内のA点(0.33,0.40)で示した。
【0091】
(実施例2)
以下の方法により、ガラス基板上に、SrGa;Pr,Ce薄膜を成膜し、その特性について評価した。
【0092】
まず、4つのKセルに、それぞれ、固体のSr、Ga、PrClおよびCeClを充填した。以下、各固体材料を含むKセルを、それぞれ、Kセル1、Kセル2、Kセル3およびKセル4と称する。これらのKセルおよびガラス基板を市販の分子線エピタキシー装置内に設置した。
【0093】
次に、ガラス基板を550℃まで昇温後、この温度に保持するとともに、4つのKセルを調温器により加熱し、所定の温度に保持した。この際、Kセル1(Sr用)は、500℃に保持し、Kセル2(Ga用)は、800℃に保持し、Kセル3(PrCl用)は、550℃に保持し、Kセル4(CeCl用)は、530℃に保持した。
【0094】
これにより、ガラス基板に、SrGa;Pr,Ce薄膜が形成された。なお、成膜速度は、100Å/minであった。分析の結果、SrGa;Pr,Ce薄膜に含まれるPrの含有量は、4.85mol%であり、Ceの含有量は、0.30mol%であった。以上の工程を経て得られたSrGa;Pr,Ce薄膜を、「実施例2に係る白色蛍光体」と称する。
【0095】
次に、前述の実施例1の場合と同様の方法により、実施例2に係る白色蛍光体の発光特性について評価した。
【0096】
測定の結果、前述の図4に示した発光スペクトルが得られた。また、得られた発光スペクトルのCIE色度座標を、前述の図2内に、B点(0.31,0.36)で示した。
【0097】
以上のように、実施例1および実施例2に係る白色蛍光体において、色純度の良好な白色光が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、カソードルミネッセンスもしくはエレクトロルミネッセンスを用いることにより発光が生じる、各種表示装置および/または照明ランプ等に適用することができる。
【符号の説明】
【0099】
100 FED装置
120 ガラス基板
130 透明電極
140 蛍光体層
141 白色蛍光体
150 電子放出源
170 電圧源
190 電子
191 白色光
200 FEL装置
220 第1のガラス基板
230 第1の金属電極
240 蛍光体層
241 白色蛍光体
250 電子放出源
255 第2の金属電極
260 第2の基板
270 電圧源
290 電子
300 ELD装置
320 ガラス基板
330 透明電極
335 第1の絶縁層
340 蛍光体層
341 白色蛍光体
350 第2の絶縁層
360 背面電極
370 交流電圧源
391 白色光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶母体材料として、(Ma)(Mb)を有し、
発光中心として、Pr3+(プラセオジムイオン)を有する、白色蛍光体:
ここで、
Maは、Sr(ストロンチウム)、またはSrの一部もしくは全てがCa(カルシウム)に置換された元素であり、
Mbは、Ga(ガリウム)、またはGaの一部もしくは全てがAl(アルミニウム)に置換された元素である。
【請求項2】
前記結晶母体材料は、SrGaであることを特徴とする請求項1に記載の白色蛍光体。
【請求項3】
発光中心として、さらに、Ce3+(セリウムイオン)を有することを特徴とする請求項1または2に記載の白色蛍光体。
【請求項4】
Ce3+の量(mol%)は、Pr3+の量(mol%)の1/10以下であることを特徴とする請求項3に記載の白色蛍光体。
【請求項5】
当該白色蛍光体全体に対する発光中心の含有量は、0.01mol%〜20mol%の範囲であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の白色蛍光体。
【請求項6】
電子を放出する電子源と、前記電子が衝突した際に発光が生じる蛍光体層が設置された基板とを有するフィールドエミッションディスプレイであって、
前記蛍光体層は、前記請求項1乃至5のいずれか一つに記載の白色蛍光体を有すること特徴とするフィールドエミッションディスプレイ。
【請求項7】
電子を放出する電子源と、前記電子が衝突した際に発光が生じる蛍光体層が設置された基板とを有するフィールドエミッションランプであって、
前記蛍光体層は、前記請求項1乃至5のいずれか一つに記載の白色蛍光体を有すること特徴とするフィールドエミッションランプ。
【請求項8】
2つの電極間に電圧を印加する電圧源と、前記電極間に設置され、前記電圧印加の際に発光が生じる蛍光体層とを有する無機エレクトロルミネッセントディスプレイであって、
前記蛍光体層は、前記請求項1乃至5のいずれか一つに記載の白色蛍光体を有すること特徴とする無機エレクトロルミネッセントディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−174222(P2010−174222A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21750(P2009−21750)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】