説明

白血球の分類計数方法

【課題】 白血球を測定するための迅速、簡便かつ高精度に測定可能な白血球の分類計数方法を提供するものである。
【解決手段】 白血球の分類計数方法は、(1)血液学的試料を、赤血球を溶解させるための溶血剤によって処理する工程、(2)処理された試料をフローサイトメータに導入して、少なくとも散乱光を測定する工程、(3)前方散乱光幅の差を利用して、血小板凝集と、白血球とを分類する工程からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は白血球の分類計数方法に関する。より詳細には、フローサイトメータを利用した血液学的試料の白血球の分類計数方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フローサイトメータの原理を応用した種々の全自動血球分類計数装置が提供されている。しかしながら、これらの装置は、正常な白血球を高精度に分類計数することができるが、血小板凝集が生じた場合にはその影響を大きく受けてしまう。
【0003】
一方、幼若白血球を生きた状態に保持し、その他の白血球に損傷を与える溶血剤で処理した後に、損傷を受けた細胞を染色できる蛍光色素で染色し、得られた血球の散乱光と蛍光を測定することにより、幼若白血球と正常白血球を同時に、分類計数できることが報告されている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平10−206423号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、白血球と血小板凝集を分別することについて、全く記載されていない。
本発明は前記事情を鑑み、白血球を測定するための迅速、簡便かつ高精度に測定可能な白血球の分類計数方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
(1)血液学的試料を、赤血球を溶解させるための溶血剤によって処理する工程、
(2)処理された試料をフローサイトメータに導入して、少なくとも散乱光を測定する工程、
(3)前方散乱光幅の差を利用して、血小板凝集と、白血球とを分類する工程
からなる白血球の分類計数方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、迅速、簡便かつ高精度に白血球を測定可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本実施形態でいう血液学的試料は、末梢血液、骨髄穿刺液、尿等で採取した試料など、白血球を含む体液試料をいう。
【0009】
本実施形態でいう成熟白血球とは、成熟したリンパ球、単球、顆粒球のことをいう。
【0010】
DNA量異常白血球とは、通常のDNA量より多い、または少ないDNA量をもった白血球のことをいう。ただし、本実施形態においては、DNA量異常白血球とは、通常のDNA量より多いDNA量をもった白血球のことを指す。
【0011】
本実施形態でいう幼若白血球とは、通常骨髄に存在し、末梢血に出現しない未成熟な白血球をいう。例えば、骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球などをいう。前骨髄球、骨髄球、後骨髄球については、まとめて顆粒球系幼若球とすることもある。さらには、芽球以前の分化段階の細胞である、骨髄系幹細胞(CFU−GEMN)、好中球・マクロファージコロニー形成細胞(CFU−GM)、好酸球コロニー形成細胞(CFU−EOS)等の白血球系の造血前駆細胞も本実施形態の幼若白血球の範囲に含む。
【0012】
本実施形態でいう血小板凝集とは、血小板が2個以上凝集したものをいう。
【0013】
本実施形態でいう同時通過細胞とは、2個以上の細胞がほぼ同時にフローセルの検出域を通過し、1つの細胞として計数される状態をいう。
【0014】
本実施形態でいう散乱光ピークとは、散乱光から得られる信号波形のピークであり、散乱光幅とは、散乱光から得られる信号波形の幅をいう。
【0015】
本実施形態では、血液学的試料を溶血剤で処理し、赤血球を溶解させる。一方、この処理により、幼若球白血球は溶解も損傷もせず、成熟白血球及びDNA量異常白血球は損傷される。特定の組成の溶血剤を細胞に作用させた場合、作用機序は明確ではないが、特定の細胞の細胞膜脂質構成成分の一部を抽出(引き抜く)することにより、細胞膜に特定の物質が通過できるだけの細孔をあける。これを損傷と呼ぶ。この結果、特定の細胞内に色素分子が入り込み染色することができる。従って、損傷を与えられた成熟白血球およびDNA量異常白血球は、染色に好適な状態である。一方、損傷をうけない幼若白血球は、色素の透過を可能とするだけの細孔があけられないために、色素で染色されない。さらに成熟白血球及びDNA量異常白血球は、細胞に含まれるDNA量によって色素の結合量が異なっている。従って、そのような細胞を色素で染色すると、DNA量に応じて染色される色素の量が異なり、染色された細胞の蛍光強度が異なる。例えば、DNA量が成熟白血球の2倍量のDNA量異常白血球の場合、結合する色素の量は正常な成熟白血球の2倍となり、この細胞は成熟白血球より強い蛍光を発する。この結果、成熟白血球、DNA量異常白血球および幼若白血球との間に蛍光強度の差異が生じうる。
【0016】
本実施形態で用いる溶血剤は、界面活性剤、可溶化剤、アミノ酸および緩衝液とからなるのが好ましい。
【0017】
界面活性剤としては種々のものを使用できるが、ポリオキシエチレン系ノニオン界面活性剤が好ましい。具体的には、以下の式(II):
【0018】
【化1】

(式中、R1IIはC9-25のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基;

2IIは、−O−、

または−COO−;nIIは10〜40である。)を有するものを用いることができる。
【0019】
9-25のアルキル基としては、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル等が挙げられる。C9-25のアルケニル基としては、ドデセニル、テトラデセニル等が挙げられる。C9-25のアルキニル基としては、ドデシニル、ウンデシニル、ドデシニル等が挙げられる。
【0020】
さらに具体的には、ポリオキシエチレン(20)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(15)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテルが好適である。
【0021】
界面活性剤は水溶液の形態で用いることができる。例えばポリオキシエチレン系ノニオン性界面活性剤の水中濃度については、使用する界面活性剤の種類によって異なるが、前述のポリオキシエチレン(20)ラウリルエーテルでは、0.1〜2.0g/l(好ましくは0.5〜1.5g/l)、ポリオキシエチレン(15)オレイルエーテルでは、1〜9g/l(好ましくは3〜7g/l)、ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテルでは、5〜50g/l(好ましくは15〜35g/l)の範囲で使用できる。ポリオキシエチレン系ノニオン性界面活性剤は、疎水性基の炭素数が同じであれば、nIIの数が小さくなるほど細胞を損傷する力が強く、nIIが大きくなるほど弱くなる。また、nIIの数が同じであれば、疎水性基の炭素数が小さくなるにつれて細胞を損傷する力が強くなる。その点を考慮し、上記の値を目安にして、必要な界面活性剤濃度は実験により簡単に求めることができる。
【0022】
可溶化剤は、血球の細胞膜に損傷を与え、縮小化するために用いる。具体的には、以下:
式(III):
【0023】
【化2】

(式中、R1IIIはC10-22のアルキル基;nIIIは1〜5である。)
のサルコシン誘導体あるいはその塩、
式(IV):
【0024】
【化3】

(式中、R1IVは水素原子または水酸基。)
のコール酸誘導体、および
式(V):
【0025】
【化4】

(式中、nVは5〜7である。)
メチルグルカンアミドから選択される1またはそれ以上を用いることができる。
【0026】
C10-22のアルキル基としては、デシル、ドデシル、テトラデシル、オレイル等が挙げられる。
【0027】
具体的には、N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム、ラウロイルメチルβ−アラニンナトリウム、ラウロイルサルコシン、CHAPS(3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート)、CHAPSO([(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホネート)、
MEGA8(オクタノイル−N−メチルグルカミド)、MEGA9(ノナイノイル−N−メチルグルカミド)、MEGA10(デカノイル−N−メチルグルカミド)等が好適に使用できる。
【0028】
可溶化剤の濃度は、サルコシン酸誘導体あるいはその塩では、0.2〜2.0g/L、コール酸誘導体では、0.1〜0.5g/L、メチルグルカンアミドでは、1.0〜8.0g/Lが好ましい。
【0029】
その他に、可溶化剤としては、n−オクチルβ−グルコシド、シュークロースモノカプレートやN−ホルミルメチルロイシルアラニン等が使用でき、0.01〜50.0g/Lの濃度で用いるのが好ましい。
【0030】
また、アミノ酸は、幼若白血球の細胞質および細胞膜を固定化するために用いる。例えば、タンパク質を構成するアミノ酸を使用でき、グルタミン酸、バリンや、特にメチオニン、シスチン及びシステイン等のような含硫アミノ酸が好適であり、メチオニンが最も好適である。アミノ酸は、1〜50g/lの範囲で使用でき、グルタミン酸の場合は8〜12g/lが好適であり、メチオニンの場合には、16〜24g/lが好適である。
【0031】
緩衝液は、HEPES等のGood緩衝液やリン酸緩衝液等に水酸化ナトリウム等のようなpH調整剤を加え、必要があれば、塩化ナトリウムのような浸透圧調整剤をさらに加え、pHを5.0〜9.0、浸透圧を150〜600mOsm/kgとするのが好ましい。
【0032】
本実施形態の溶血剤としては、(1)ポリオキシエチレン系ノニオン界面活性剤;(2)血球の細胞膜に損傷を与え縮小化するための可溶化剤;(3)アミノ酸;および(4)液のpHを5.0〜9.0、浸透圧を
150〜600mOsm/kgにする緩衝液、電気伝導度を6.0〜
9.0mS/cmにするための緩衝液からなる、特開平6−273413号に記載の溶血剤が好ましい。
【0033】
本実施形態の成熟白血球、DNA量異常白血球および幼若白血球との間に蛍光強度の差異を生じうる蛍光色素は、損傷を与えた細胞または幼若白血球のうちいずれか一方を染色できるものであればよい。損傷を与えた細胞を染色する色素が好ましい。このような蛍光色素は、試料中の血球を含む細胞すべてを染色することができる。
【0034】
損傷を与えた細胞を染色する色素とは、細胞核、特にDNAに対して特異性を有する色素あるいはRNAに特異性を有する色素が挙げられる。この目的には、いくつかのカチオン性色素が好適である。
【0035】
一般的にカチオン性色素は、生きた細胞の細胞膜を通過し、細胞内構成成分を染色する。しかしながら、特定のカチオン性色素(例えば、エチジウムブロマイド、プロピジウムアイオダイド等)は、生細胞を通過せず、損傷細胞のみを染色することがよく知られている。
【0036】
蛍光色素は、具体的には、前述のエチジウムブロマイド、プロピジウムアイオダイド、さらにモレキュラープローブ社より販売されているエチジウム−アクリジンヘテロダイマー、エチジウムアジド、エチジウムホモダイマー−1、エチジウムホモダイマー−2、エチジウムモノアジド、TOTO−1、TO−PRO−1、TOTO−3、TO−PRO−3等が挙げられる。さらに光源としてHe−Ne、赤色半導体レーザを使用する場合に好適な色素として、式(I):
【0037】
【化5】

(式中、R1Iは水素原子または低級アルキル基;R2I及びR3Iは水素原子、低級アルキル基または低級アルコキシ基;R4Iは水素原子、アシル基または低級アルキル基;R5Iは水素原子または置換されてもよい低級アルキル基;Zは硫黄原子、酸素原子または低級アルキル基で置換された炭素原子;nIは1または2;XI-はアニオンである。)で示される色素が使用できる。
【0038】
上記構造式のR1Iにおける低級アルキル基は、C1-6の直鎖または分岐のアルキル基を意味し、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル基が挙げられ、中でもメチル基、エチル基が好ましい。
【0039】
2I及びR3Iにおける低級アルキル基は上記と同様であり、低級アルコキシ基としては、C1-6のアルコキシ基を意味し、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ等が挙げられ、中でもメトキシ基、エトキシ基が好ましい。
【0040】
4Iにおけるアシル基は、脂肪族カルボン酸から誘導されたアシル基が好ましく、例えば、アセチル、プロピオニル等が挙げられ、中でもアセチル基が好ましい。また、低級アルキル基は上記と同様である。
【0041】
5Iにおける低級アルキル基は上記と同様であり、置換されてもよい低級アルキル基とは、1〜3個の水酸基、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素またはヨウ素)等で置換されてもよい低級アルキル基を意味し、中でも1個の水酸基で置換されたメチル基、エチル基が好ましい。
【0042】
Zにおける低級アルキル基とは上記と同様であり、Zとしては硫黄原子が好ましい。
【0043】
I-におけるアニオンは、ハロゲンイオン(フッ素、塩素、臭素またはヨウ素イオン)、ハロゲン化ホウ素イオン(BF4-、BCl4-、BBr4-等)、リン化合物イオン、ハロゲン酸素酸イオン、フルオロ硫酸イオン、メチル硫酸イオン、芳香環にハロゲンあるいはハロゲンをもつアルキル基を置換基として有するテトラフェニルホウ素化合物イオン等が挙げられる。中でも臭素イオンまたはBF4-が好ましい。
【0044】
上記色素としては単独または2以上を組み合わせて用いることができる。上記色素の具体的な例としては、好ましくは以下のような色素が挙げられるが、これにより本実施形態が制限されるものではない。
【0045】
【化6】

【0046】
【化7】

【0047】
【化8】

【0048】
血液学的試料を処理する工程の好ましい態様は、溶血剤と蛍光色素を含む溶液と血液学的試料を混合するものである。あるいは、蛍光色素をエチレングリコール等の水溶性有機溶媒に溶解しておき、使用時に溶血剤と混合してもよい。この場合、色素の保存安定性を高めることができるので好ましい。色素濃度は、使用する色素に応じて適宜決定できる。例えば、エチジウムブロマイドの場合、0.01〜100mg/l、好ましくは、0.1〜30mg/lが使用できる。
【0049】
血液学的試料と蛍光色素を含む溶血剤の混合は、血液学的試料と、蛍光色素を含む溶血剤の比が1:10〜1:1000、反応温度が20〜40℃、反応時間が5秒〜5分間で好適に実施できる。反応温度が高いときは反応時間を短くすることが好ましい。本実施形態において、幼若白血球を含む試料のDNA量を測定するには、幼若白血球を染色するために反応時間を長くすることにより可能となる。その場合の反応時間は、例えば10秒〜5分間程度の反応時間を用いるのが好ましい。
【0050】
このようにして調製した測定用試料をフローサイトメータに導入し、試料中の染色された細胞のそれぞれについて、散乱光と蛍光を測定する。
図18は、本実施形態に使用できるフローサイトメータの光学系を示す斜視図である。同図においてレーザ21から出射されたビームはコリメートレンズ22を介してシースフローセル23のオリフィス部を照射する。オリフィス部を通過する血球から発せられる前方散乱光は集光レンズ24とピンホール板25を介してフォトダイオード26に入射する。
【0051】
一方、オリフィス部を通過する血球から発せられる側方散乱光と側方蛍光については、側方散乱光は集光レンズ27とダイクロイックミラー28とを介してフォトマルチブライアチューブ(以下、フォトマルという)29に入射し、側方蛍光は集光レンズ27とダイクロイックミラー28とフィルター29とピンホール板30を介してフォトマル31に入射する。
【0052】
フォトダイオード26から出力される前方散乱光信号と、フォトマル29から出力される側方散乱光信号と、フォトマル31から出力される側方蛍光信号とは、それぞれアンプ32、33、34により増幅され、解析部35に入力される。
【0053】
本実施形態でいう散乱光は、一般に市販されるフローサイトメータで測定できる散乱光を指し、前方低角散乱光(受光角度の例として、0〜5度未満)、前方高角散乱光(受光角度の例として、5〜20度付近)、側方散乱光等をいい、好ましくは前方低角散乱光およびさらなる散乱光には側方散乱光が選ばれる。側方散乱光は細胞の核形態などのような内部情報を反映する。
【0054】
蛍光とは、使用する色素によって好適な受光波長が選択される。蛍光信号は、細胞化学的特性を反映するものである。
【0055】
フローサイトメータの光源は、特に限定されず、色素の励起に好適な波長の光源が選ばれる。例えば、アルゴンレーザ、He−Neレーザ、赤色半導体レーザ、青色半導体レーザなどが使用される。特に半導体レーザは気体レーザに比べて非常に安価であり、装置コストを大幅に下げることができる。
【0056】
次に、散乱光ピークの強度差と散乱光幅の差を用いて、血小板凝集および同時通過細胞と、白血球とを分類する。具体的には、例えば、X軸に前方散乱光幅、Y軸に前方散乱光ピークをとってスキャッタグラムを作成する。スキャッタグラム中、例えば図1に示すように、血小板凝集および同時通過細胞、ならびに白血球およびゴーストが集団を形成して分布する。このスキャッタグラムのすべての細胞から血小板凝集および同時通過細胞を除いて、血小板凝集および同時通過細胞と、白血球およびゴーストとを分類する。この操作により、血小板凝集および同時通過細胞がDNA量異常白血球の領域に出現することが防止され、DNA量異常白血球を正確に分類計数することが可能になる。
【0057】
次に、分類された白血球の散乱光の強度差と蛍光の強度差を用いて、成熟白血球、DNA量異常白血球および幼若白血球に分類計数する。具体的には、例えば、X軸に蛍光強度、Y軸に前方散乱光強度をとって、上述の血小板凝集および同時通過細胞を除いた血球成分の集団のみでスキャッタグラムを作成する。スキャッタグラム中、例えば、図2に示すように、成熟白血球、DNA量異常細胞および幼若白血球の各集団と赤血球ゴーストが集団を形成して分布する。そして適当な解析ソフトを用いて各集団の領域を設定し、その領域内に含まれる細胞を分類計数する。このようにして、成熟白血球数、幼若白血球数およびDNA量異常白血球数を得ることができる。
【0058】
さらに、DNA量異常白血球数と成熟白血球数または幼若白血球数とから、DNA量異常白血球に対する成熟白血球または幼若白血球の割合を算出する。
【0059】
さらに、成熟白血球数と幼若白血球数とから、成熟白血球に対する幼若白血球の割合を算出する。
【0060】
さらに、フローサイトメータで異なる種類の散乱光をさらに測定し、成熟白血球についての該散乱光と蛍光の強度差を用いてスキャッタグラムを作成する。例えば、X軸に赤蛍光強度、Y軸に側方散乱光強度をとって、図3に示すようなスキャッタグラムを作成する。スキャッタグラム中、少なくとも3つ、例えばリンパ球、単球および顆粒球が集団を形成して分布する。そして適当な解析ソフトを用いて各集団の領域を設定し、その領域内に含まれる細胞を分類計数する。その結果、リンパ球、単球および顆粒球に分類計数することができる。
【0061】
さらに、フローサイトメータで異なる種類の散乱光をさらに測定し、幼若白血球についての該散乱光と蛍光の強度差を用いてスキャッタグラムを作成する。例えば、X軸に赤蛍光強度、Y軸に側方散乱光強度をとって、図3に示すようなスキャッタグラムを作成する。スキャッタグラム中、少なくとも2つ、例えば骨髄系芽球および顆粒球系幼若球が集団を形成して分布する。そして適当な解析ソフトを用いて各集団の領域を設定し、その領域内に含まれる細胞を分類計数する。その結果、骨髄系芽球および顆粒球系幼若球に分類計数することができる。
【0062】
なお、前述した成熟白血球を分類計数する工程と前述した幼若白血球を分類計数する工程は、別々の工程として行っても、同時に行ってもよい。同時に行う際には、ゴーストを除去した成分の該散乱光の強度差と蛍光の強度差を用いてスキャッタグラムを作成すると、図3に示すようなスキャッタグラムが得られ、一度に、成熟白血球および幼若白血球をさらに複数個の集団に分類計数することができるので、好ましい。
【0063】
本発明を以下の実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明には種々の変更、修飾が可能であり、従って、本発明の範囲は以下の実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0064】
以下の組成の水溶液からなる試薬を調製した。
【0065】
(本法)
ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル 24.0g
N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 1.5g
DL−メチオニン 20.0g
1N−NaOH 0.3g
NaCl 4.0g
式(VI)の色素 3.0mg
HEPES 12.0g
精製水 1000ml
【0066】
上述の試薬1mlとリンパ球性白血病患者の血液33μlを混合し、10秒後にフローサイトメータで前方低角散乱光、側方散乱光、赤蛍光を測定した(光源:赤色半導体レーザー、波長:633nm)。
【0067】
(DNA量標準測定法)
クエン酸3Na 100mg
TritonX−100(和光純薬工業株式会社) 0.2g
プロピジウムアイオダイド(シグマ) 0.2g
RO水 100ml
【0068】
上述の試薬1mlと上述の患者の血液100μlを混合し、30分後にフローサイトメータで赤蛍光を測定した(光源:アルゴンイオンレーザー、波長:488nm)。
【0069】
得られた結果を、X軸に前方低角散乱光幅、Y軸に前方低角散乱光ピークをとったスキャッタグラム(図4)、X軸に赤蛍光強度、Y軸に前方低角散乱光強度をとったスキャッタグラム(図5)およびX軸に側方散乱光強度、Y軸に赤蛍光強度をとったスキャッタグラム(図6)に示す。
上記の血液にメイグリュンワルド染色を施した後、顕微鏡により目視を行った。白血球をリンパ球、単球、顆粒球に分類した。また、上記の血液を用いて、フローサイトメーターによるDNA量標準測定法にて、白血球のDNA量を測定した。得られた結果を、表1および図7に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
上記の結果、本実施形態の方法が、DNA量異常白血球と幼若白血球を同時にかつ迅速、簡便に目視と同程度の高精度で測定することが可能であることが示された。
【実施例2】
【0072】
以下の組成の水溶液からなる試薬を調製した。
【0073】
(本法)
ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル 24.0g
N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 1.5g
DL−メチオニン 20.0g
1N−NaOH 0.3g
NaCl 4.0g
式(VII)の色素 3.0mg
HEPES 12.0g
精製水 1000ml
【0074】
上述の試薬1mlと急性骨髄性白血病(AML)患者の血液33μlを混合し、10秒後にフローサイトメータで前方低角散乱光、側方散乱光、赤蛍光を測定した(光源:赤色半導体レーザー、波長:633nm)
【0075】
(DNA量標準測定法)
クエン酸3Na 100mg
TritonX−100(和光純薬工業株式会社) 0.2g
プロピジウムアイオダイド(シグマ) 0.2g
RO水 100ml
【0076】
上述の試薬1mlと上述の患者の血液100μlを混合し、30分後にフローサイトメータで赤蛍光を測定した(光源:アルゴンイオンレーザー、波長:488nm)。
【0077】
得られた結果を、X軸に前方低角散乱光幅、Y軸に前方低角散乱光ピークをとったスキャッタグラム(図8)、X軸に赤蛍光強度、Y軸に前方低角散乱光強度をとったスキャッタグラム(図9)およびX軸に側方散乱光強度、Y軸に赤蛍光強度をとったスキャッタグラム(図10)に示した。
【0078】
上記の血液にメイグリュンワルド染色を施した後、顕微鏡により目視を行った。白血球をリンパ球、単球、顆粒球に分類した。その結果を表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
上記の結果、本実施形態の方法が、DNA量異常白血球と幼若白血球を同時にかつ迅速、簡便、高精度に測定することが可能であることが示された。
【実施例3】
【0081】
実施例1と同様の組成の試薬を用いた。本法試薬1mlと骨髄異形性症候群患者の骨髄液33μlを混合し、7秒後と13秒後にフローサイトメータで前方低角散乱光、側方散乱光、赤蛍光を測定した(光源:赤色半導体レーザー、波長:633nm)。
【0082】
(DNA量標準測定法)
DNA量標準測定法試薬1mlと上述の患者の骨髄液100μlを混合し、30分後にフローサイトメータで赤蛍光を測定した(光源:アルゴンイオンレーザー、波長:488nm)。得られた結果を、X軸に前方低角散乱光幅、Y軸に前方低角散乱光ピークをとった反応時間7秒の場合のスキャッタグラム(図11)、X軸に赤蛍光強度、Y軸に前方低角散乱光強度をとった反応時間7秒の場合のスキャッタグラム(図12)、X軸に側方散乱光強度、Y軸に赤蛍光強度をとった反応時間7秒の場合のスキャッタグラム(図13)、X軸に前方低角散乱光幅、Y軸に前方低角散乱光ピークをとった反応時間13秒の場合のスキャッタグラム(図14)、X軸に赤蛍光強度、Y軸に前方低角散乱光強度をとった反応時間13秒の場合のスキャッタグラム(図15)、X軸に側方散乱光強度、Y軸に赤蛍光強度をとった反応時間13秒の場合のスキャッタグラム(図16)に示す。
【0083】
上記の骨髄液にメイグリュンワルド染色を施した後、顕微鏡により目視を行った。白血球をリンパ球、単球、顆粒球に分類した。また、上記の血液を用いて、フローサイトメータによるDNA量標準測定法にて、白血球のDNA量を測定した。その結果を表3に示す。表4と図17に反応時間13秒の本実施形態の方法とDNA量標準測定法の結果を示す。
【0084】
【表3】

【0085】
以上より反応時間7秒のときは成熟白血球、幼若白血球を正確に測定することができ、反応時間13秒にすることにより、さらに幼若白血球に含まれるDNA量異常白血球を検出することができる。
【0086】
上記に示したように、本実施形態により、DNA量異常白血球を迅速かつ簡便に測定することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本実施形態の方法によって分類計数される各細胞の出現位置を示す概念図である。
【図2】本実施形態の方法によって分類計数される各細胞の出現位置を示す概念図である。
【図3】本実施形態の方法によって分類計数される各細胞の出現位置を示す概念図である。
【図4】X軸に前方低角散乱光幅、Y軸に前方低角散乱光ピークをとった実施例1のスキャッタグラムである。
【図5】X軸に赤蛍光強度、Y軸に前方低角散乱光強度をとった実施例1のスキャッタグラムである。
【図6】X軸に側方散乱光強度、Y軸に赤蛍光強度をとった実施例1のスキャッタグラムである。
【図7】本法とDNA量標準測定法の結果を示す。
【図8】X軸に前方低角散乱光幅、Y軸に前方低角散乱光ピークをとった実施例2のスキャッタグラムである。
【図9】X軸に赤蛍光強度、Y軸に前方低角散乱光強度をとった実施例2のスキャッタグラムである。
【図10】X軸に側方散乱光強度、Y軸に赤蛍光強度をとった実施例2のスキャッタグラムである。
【図11】X軸に前方低角散乱光幅、Y軸に前方低角散乱光ピークをとった実施例3の反応時間7秒の場合のスキャッタグラムである。
【図12】、X軸に赤蛍光強度、Y軸に前方低角散乱光強度をとった実施例3の反応時間7秒の場合のスキャッタグラムである。
【図13】、X軸に側方散乱光強度、Y軸に赤蛍光強度をとった実施例3の反応時間7秒の場合のスキャッタグラムである。
【図14】X軸に前方低角散乱光幅、Y軸に前方低角散乱光ピークをとった実施例3の反応時間13秒の場合のスキャッタグラムである。
【図15】X軸に赤蛍光強度、Y軸に前方低角散乱光強度をとった実施例3の反応時間13秒の場合のスキャッタグラムである。
【図16】X軸に側方散乱光強度、Y軸に赤蛍光強度をとった実施例3の反応時間13秒の場合のスキャッタグラムである。
【図17】反応時間13秒の本実施形態の方法とDNA量標準測定法の結果を示す図である。
【図18】本実施形態で使用できるフローサイトメータの光学系を示す斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)血液学的試料を、赤血球を溶解させるための溶血剤によって処理する工程、
(2)処理された試料をフローサイトメータに導入して、少なくとも散乱光を測定する工程、
(3)前方散乱光幅の差を利用して、血小板凝集と、白血球とを分類する工程
からなる白血球の分類計数方法。
【請求項2】
工程(3)において、前方散乱光幅の差と前方散乱光ピークの強度差を利用して、血小板凝集と、白血球とを分類する請求項1記載の白血球の分類計数方法
【請求項3】
さらに、(4)工程(3)で分類された白血球について側方散乱光の強度差を利用して、成熟白血球を少なくとも3つの亜集団に分類計数する工程、を備える請求項1または2記載の白血球の分類計数方法。
【請求項4】
工程(1)において、血液試料を色素で処理する工程を含み、工程(2)において、さらに染色度合を測定する工程を含み、工程(4)において、工程(3)で分類された白血球について側方散乱光の強度差と染色度合の差を利用して、成熟白血球を少なくとも3つの亜集団に分類計数する請求項3記載の白血球の分類計数方法。
【請求項5】
工程(1)において、血液試料を蛍光色素で処理する工程を含み、工程(2)において、さらに蛍光を測定する工程を含み、工程(4)において、工程(3)で分類された白血球について側方散乱光の強度差と蛍光の強度差を利用して、成熟白血球を少なくとも3つの亜集団に分類計数する請求項3記載の白血球の分類計数方法。
【請求項6】
工程(1)が、血液学的試料を溶血剤で処理した後、溶血剤で処理した試料を蛍光色素で処理する工程を含む請求項5記載の白血球の分類計数方法。
【請求項7】
血液学的試料を、赤血球を溶解させるための溶血剤によって処理する工程で調製された測定試料を通過させるオリフィス部と、オリフィス部に光を照射する光源と、オリフィス部から発せられた散乱光を受光する受光部とを備えたフローサイトメータと、
前方散乱光幅の差を利用して、血小板凝集と、白血球とを分類する工程により測定試料を解析する解析部と、を備えた白血球の分類計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−71890(P2007−71890A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−319621(P2006−319621)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【分割の表示】特願2004−515543(P2004−515543)の分割
【原出願日】平成15年6月23日(2003.6.23)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】