説明

白血病治療剤及び該治療剤の新規なスクリーニング方法

【課題】白血病幹細胞中の物質を標的にして慢性骨髄性白血病の治療剤をスクリーニングする新規な方法を提供することを解決すべき課題とした。加えて、新規な慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤を提供することも解決すべき課題とした。
【解決手段】新規に「Foxo3aの活性化は慢性白血病幹細胞の生存に必要であること」を見出し、さらにFoxo3aを不活性化する物質が慢性骨髄性白血病の治療剤に成り得ることを確認して、本発明を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性骨髄性白血病治療剤及び該治療剤の新規なスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性骨髄性白血病(以後、"CML"と略する場合がある)は、フィラデルフィア(Ph)染色体転座を特徴とする骨髄増殖性疾患である。該転座により生じるBCR-ABL融合遺伝子は、チロシンキナーゼ活性が構成的に活性化されている細胞質タンパク質をコードしている。このBCR-ABL遺伝子が転写・翻訳されることでBCR-ABLが発現する。このタンパク質は、細胞増殖シグナルを異常に亢進させ、白血病細胞を無秩序に増殖させる。
【0003】
現在のCMLの治療には、「化学療法」、「分子標的治療薬(グリベック登録商標 )の使用」、「造血幹細胞移植」が中心となり、このほか、治療による副作用の軽減や合併症の対処を目的とした「支持療法」などが行われている(非特許文献1)。
【0004】
化学療法は、抗がん剤等により白血病細胞の増殖を抑えることで、白血病細胞を減少させる。しかしながら、その作用は、白血病細胞のみならず正常細胞にも影響を及ぼすため、いろいろな副作用が問題となっている。
【0005】
造血幹細胞移植は、通常の何倍もの化学療法薬(抗がん剤)を投与するとともに放射線療法を行って白血病細胞を破壊した(前処置)後、健常者の造血幹細胞を移植して、骨髄の造血機能を回復させる方法である。
しかし、この治療法を行うためには、HLA(白血球のタイプ)が一致する造血幹細胞の提供者が必要なこと、また移植後においても、GVHD(移植片対宿主病)がおこる危険性や再発の可能性がある。
【0006】
分子標的治療薬{ABL選択的チロシンキナーゼ阻害剤ST1571(イマニチブ、グリベック登録商標 )は、BCR-ABLタンパク質を標的として作用し、白血病細胞を減少させる。グリベック登録商標は、CMLの白血病細胞増殖のシグナル伝達に重要なBCR-ABLタンパク質のATP結合部位にはまり込み、本来ATPが結合して起こるシグナル伝達を抑制することで白血病細胞の増殖を抑制し、抗腫瘍効果を示す。
しかし、CMLにおけるST571による臨床試験では、進行期の多くの患者が良好に応答するものの、その後再発することが報告されている。加えて、BCR-ABL遺伝子の発現の増強または変異によるST1571に対する耐性が慢性骨髄性白血病患者において認められている(非特許文献2)。
【0007】
特表2008-500338(特許文献1)は、「造血細胞の異常増殖を治療及び/又は予防する方法において、PI3Kδ選択的阻害剤は造血細胞におけるFoxo3aホスホリル化(Foxo3aの不活性化)を抑制するために有効量で投与すること」を開示している。
このように、本特許文献1は、FOXO3aホスホリル化を抑制することにより、造血細胞の異常増殖を抑制している。よって、本発明とは明らかに異なる。
加えて、本特許文献1の実施例で使用した細胞は、慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞ではなく、急性白血病細胞を使用している。
【0008】
再公表特許WO2002/070747(特許文献2)は、「慢性骨髄性白血病の治療剤のスクリーニング方法」を開示している。
しかし、スクリーニングの標的遺伝子が明らかに異なる。
【0009】
以上の現状により、新しい作用メカニズムを持つ慢性骨髄性白血病の治療剤の開発が急務となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】インターネットURL:http://www.glivec.jp/patient/index.html
【非特許文献2】Science, 293:876-880., 2001
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2008-500338
【特許文献2】WO2002/070747
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記した問題点を解決することを解決すべき課題とした。より詳しくは、本発明者らは、白血病幹細胞中の物質を標的にして慢性骨髄性白血病の治療剤をスクリーニングする新規な方法を提供することを解決すべき課題とした。加えて、新規な慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤を提供することも解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、新規に「Foxo3aの活性化は慢性白血病幹細胞の生存に必要であること」を見出し、さらにFoxo3aを不活性化する物質が慢性骨髄性白血病の治療剤に成り得ることを確認して、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.Foxo若しくはFoxo改変体の活性化又は発現を阻害する試験化合物を選択することを特徴とする慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤のスクリーニング方法。
2.以下の工程を含む前項1に記載のスクリーニング方法:
(a)試験化合物を、転写因子であるFoxo若しくはFoxo改変体、及び該転写因子に特異的に認識される遺伝子とレポーター遺伝子を含む融合遺伝子を含む試験動物又は試験細胞に接触させる工程、
(b)レポータータンパク質の試験動物又は試験細胞中での発現量を測定する工程。
3.以下の工程を含む前項1に記載のスクリーニング方法:
(a)試験化合物を、Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子とレポーター遺伝子を含む融合遺伝子を含む試験動物又は試験細胞に接触させる工程、
(b)レポータータンパク質の試験動物又は試験細胞中での発現量を測定する工程。
4.以下の工程を含む前項1に記載のスクリーニング方法:
(a)試験化合物を、Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子を含む試験動物又は試験細胞に投与又は接触させる工程、
(b)試験動物又は試験細胞中でのFoxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子又はFoxo若しくはFoxo改変体の発現量を測定する工程。
5.以下の工程を含む前項1に記載のスクリーニング方法:
(a)試験化合物を、Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子によってコードされるタンパク質に接触させる工程、
(b)前記タンパク質のリン酸化度を測定する工程。
6.前記試験細胞が、慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞であることを特徴とする前項1〜5のいずれか1に記載のスクリーニング方法。
7.前記Foxoが、Foxo3a又はFoxo4であることを特徴とする前項1〜6のいずれか1に記載のスクリーニング方法。
8.[2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)プテリジン-4-イル]ピリジン-4-イル-アミンを有効成分として含む慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤。
9.[3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾールを有効成分として含む慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤。
10.Foxo3a又はFoxo4を不活性化する抗体を有効成分として含む慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、新規な知見「Foxo3aの活性化は慢性骨髄性白血病幹細胞の生存に必要であること」を基にして、新規な慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤のスクリーニング方法を提供した。さらに、新規な慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤も提供した。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】Lin+細胞、Lin-細胞、KLS+細胞及びKLS-細胞のコロニー形成能を示す(実施例1)。
【図2】Lin+細胞、Lin-細胞、KLS+細胞及びKLS-細胞の移植後の生存率(実施例1)。
【図3】白血病幹細胞中のFoxo3aの蛍光観察結果を示す(実施例2)。
【図4】TGFβ1及びLy364947が添加された白血病幹細胞中のFoxo3aの蛍光観察結果を示す(実施例3)。
【図5】Foxo3aが細胞核に局在する細胞の割合を示す(実施例3)。
【図6】マウス慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞に対するTGFβ阻害剤の効果を示す(実施例4)。
【図7】ヒト慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞に対するTGFβ阻害剤の効果を示す(実施例5)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のスクリーニング法は、下記実施例により、「Foxo3aの活性化は慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞の生存に必要であること」を見出したことを利用している。より詳しくは、慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞中の約40%の細胞では、活性化したFoxo3aが細胞核に局在していることを新規に見出したことを利用している。さらに、Foxo4も細胞核に局在していることを確認している。
加えて、Foxo3aの不活性化剤であるTGF-β阻害剤により慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞の増殖が抑制されたことを確認している。
従って、本発明のスクリーニング系を用いて、Foxo3a若しくはFoxo4の活性化又は発現を阻害する物質を同定することにより、新たな作用機序を持つ慢性骨髄性白血病治療剤及び/又は慢性骨髄性白血病の予防剤を開発することができる。
【0018】
(Foxo)
フォークヘッド型転写因子は約100アミノ酸からなる特徴的なDNA結合ドメインを有する転写因子群であり、酵母からヒトに至る幅広い生物種で100種類以上の遺伝子ファミリーが同定されている。このうちFoxoはフォークヘッド型転写因子クラスOに分類されるサブファミリーであり、哺乳類ではFoxo1(FKHR)、Foxo3a (FKHRL1)、Foxo4 (AFX)、Foxo6等が知られている。
なお、本発明者らは、「Foxoは、線虫の寿命制御分子として知られる転写因子Daf-16のオルソログであり、この分子がマウス造血幹細胞の細胞周期、特にG0期維持、骨髄再構築能に必須の役割を持つこと」を明らかにしている(Cell Stem Cell, 1, 101-112, 2007)。
加えて、本発明のスクリーニングの標的Foxoは、Foxo3a、Foxo4であり、好ましくはFoxo3aである。
【0019】
(Foxo3a)
Foxo3aは、活性化したAktによりリン酸化され、細胞核から細胞質へと排出される。そして、排出されたFoxo3aは、転写因子としての機能を失うことが知られている(The Journal of Biological Chemistry, Vol.278, No.8, pp.641-6419, 2003)。
本発明の「Foxo3a」は、ヒト由来(Accession No.NM_001455)に限定されず、マウス(Accession No.NM_019740)、ラット、ウサギ等の非ヒト哺乳動物由来のものも含まれる。
なお、Foxo3aはヒト、マウス、ラット、ウシ、ニワトリ、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエでは配列が保存されている。
なお、本発明の「Foxo3a改変体」とは、Foxo3aと同等の機能を有し、かつFoxo3aとの構造を比較して、アミノ酸配列に1〜50、1〜30、1〜10、又は1〜3個のアミノ酸が置換、欠失、付加、または挿入等がされている構造を意味する。
加えて、本発明の「Foxo3a改変体遺伝子」は、該遺伝子によってコードされるタンパク質がFoxo3aと同等の機能を有する遺伝子配列を意味する。
【0020】
(Foxo4)
Foxo4は、インスリンシグナル経路の制御に関与する転写因子として知られている。Foxo4は、IREs(insulin-response elements)に結合し、そしてIGFBP1の転写を活性化する。
本発明の「Foxo4」は、ヒト由来(Accession No. NM_005938)に限定されず、マウス(Accession No.NM_018789)、ラット、ウサギ等の非ヒト哺乳動物由来のものも含まれる。
なお、本発明の「Foxo4」とは、Foxo4と同等の機能を有し、かつFoxo4との構造を比較して、アミノ酸配列に1〜50、1〜30、1〜10、又は1〜3個のアミノ酸が置換、欠失、付加、または挿入等がされている構造を意味する。
加えて、本発明の「Foxo4改変体遺伝子」は、該遺伝子によってコードされるタンパク質がFoxo4と同等の機能を有する遺伝子配列を意味する。
【0021】
一般的にアミノ酸配列に置換、欠失、付加、または挿入等の変異を導入する手段は自体公知であり、例えばウルマー(Ulmer)の技術(Science, 219, 666-671 (1983))を利用することができる。このような変異の導入において、当該タンパク質の基本的な性質(物性、機能または免疫学的活性等)を変化させないという観点から、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸および芳香族アミノ酸等)の間での相互置換は容易に想定される。さらに、これら利用できるタンパク質は、その構成アミノ基またはカルボキシル基等を、例えばアミド化修飾する等、機能の著しい変更を伴わない程度に改変が可能である。
【0022】
(試験細胞)
本発明の「試験細胞」は、Foxo遺伝子(特にFoxo3a遺伝子)又は該遺伝子によってコードされるタンパク質(Foxo)を発現できる細胞であれば特に限定されない。
例えば、マウス由来又はヒト由来の慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞、ヒト血液細胞、ヒト由来のAC133陽性造血幹細胞、マウスのKLS+細胞、ヒトのCD34+細胞が挙げられる。
特に好ましいのは、マウス由来若しくはヒト由来の慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞、マウスのKLS+細胞、ヒトのCD34+細胞である。
【0023】
本発明の「試験動物」は、マウス、ラット、ウサギ、ウシ等の非ヒト哺乳動物が好ましい。
【0024】
(Foxoの活性化を阻害)
本発明の「Foxoの活性化を阻害」とは、Foxo(特にFoxo3a)を不活性化、特に不活性化を誘導又は促進することを意味する。また、Foxoをリン酸化させることも意味する。また、白血病幹細胞の細胞核に局在するFoxoを細胞質に誘導することも意味する。加えて、発現したFoxoタンパク質に結合することにより転写機能を阻害することも意味する。
なお、「Foxo改変体の活性化を阻害」も上記と同様な意味である。
【0025】
(Foxoの発現を阻害)
本発明の「Foxoの発現を阻害」とは、Foxo 遺伝子(特にFoxo3a遺伝子)がFoxoタンパク質に翻訳されるいずれの段階をも阻害することを意味する。
なお、「Foxo改変体の発現を阻害」も上記と同様な意味である。
【0026】
(本発明のスクリーニング方法)
本発明のスクリーニング方法は、以下に例示する。しかしながら、Foxo若しくはFoxo改変体の活性化又は発現を阻害する試験化合物を選択することができれば特には限定されない。
なお、本発明の「試験化合物の選択」とは、試験化合物が慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤として利用できるかを確認することである。すなわち、本発明のスクリーニング方法で得られた慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤の試験化合物は、さらに動物実験等で実用性が確認することができる。
【0027】
本発明では、以下の工程を含むスクリーニング方法を例示することができる。
(a)試験化合物を、転写因子であるFoxo(特にFoxo3a)若しくはFoxo改変体(特にFoxo3a改変体)、及び該転写因子に特異的に認識される遺伝子とレポーター遺伝子を含む融合遺伝子を含む試験動物又は試験細胞に接触させる工程、
(b)レポータータンパク質の試験動物又は試験細胞中での発現量を測定する工程。
ここで、Foxoは転写因子であるので、自体公知のレポータージーンアッセイを使用することができる(参照:特開2003−180393)。
すなわち、上記レポータータンパク質の発現量が、試験化合物を含まない「転写因子であるFoxo若しくはFoxo改変体、及び該転写因子に特異的に認識される遺伝子及びレポーター遺伝子の融合遺伝子を含む試験動物又は試験細胞」のレポータータンパク質の発現量と比較して有意に低ければ、試験化合物がFoxoの転写機能を阻害したことがわかる。Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子の転写機能を阻害することができる試験化合物は慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤となり得る。
なお、レポーター遺伝子としては、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、グリーンフルオレッセンスプロテイン(GFP)遺伝子等が挙げられるがこれらに限定されない。
加えて、転写因子であるFoxo3aに特異的に認識される配列は、Insulin-response elements{3x (CAAAACAA)+4x (TTATTTTG)}等が例示される。
【0028】
以下の工程を含むスクリーニング方法。
(a)試験化合物を、Foxo遺伝子(特にFoxo3a遺伝子)若しくはFoxo改変体遺伝子(特にFoxo3a改変体遺伝子)とレポーター遺伝子を含む融合遺伝子を含む試験動物又は試験細胞に接触させる工程。
(b)レポータータンパク質の試験動物又は試験細胞中での発現量を測定する工程。
ここで、上記レポータータンパク質の発現量が、試験化合物を含まない「Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子とレポーター遺伝子の融合遺伝子を含む試験動物又は試験細胞」のレポータータンパク質の発現量と比較して有意に低ければ、試験化合物がFoxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子の発現量を減少させたことがわかる。Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子の発現量を減少させる試験化合物は慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤となり得る。
【0029】
以下の工程を含むスクリーニング方法。
(a)試験化合物を、Foxo遺伝子(特にFoxo3a遺伝子)若しくはFoxo改変体遺伝子(特にFoxo3a改変体遺伝子)を含む試験動物又は試験細胞に投与又は接触させる工程。
(b)試験動物又は試験細胞中でのFoxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子又はFoxo若しくはFoxo改変体の発現量を測定する工程。
ここで、上記Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子又はFoxo若しくはFoxo改変体の発現量が、試験化合物を含まない「Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子を含む試験動物又は試験細胞」のFoxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子又はFoxo若しくはFoxo改変体の発現量と比較して有意に低ければ、試験化合物がFoxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子又はFoxo若しくはFoxo改変体の発現量を減少させたことがわかる。よって、Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子又はFoxo若しくはFoxo改変体の発現量を減少させる試験化合物は慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤となり得る。
【0030】
以下の工程を含むスクリーニング方法。
(a)試験化合物を、Foxo遺伝子(特にFoxo3a遺伝子)若しくはFoxo改変体遺伝子(特に、Foxo3a改変体遺伝子)によってコードされるタンパク質に接触させる工程。
(b)前記タンパク質のリン酸化度を測定する工程。
ここで、上記リン酸化度が、試験化合物を含まない場合のリン酸化度と比較して有意に高ければ、試験化合物がFoxo若しくはFoxo改変体のリン酸化(Foxoの不活性化)を促進させたことがわかる。よって、Foxo若しくはFoxo改変体のリン酸化を促進させる試験化合物は慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤となり得る。なお、リン酸化度は自体公知の方法で測定することができる。
なお、スクリーニング系は、iv vitro 又はin vivoのどちらでも良い。
【0031】
なお、Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子又は、Foxo若しくはFoxo改変体の発現量を測定する方法としては、以下の方法が例示される。
1)RT-PCR法
2)免疫ブロット法
3)SAGE
4)抗Foxo抗体を使用した免疫沈降法
5)プルダウン法
6)ELISA
7)ウエスタンブロット
8)ハイブリダイゼーション
【0032】
(Foxoの発現方法)
上記試験細胞内又は試験動物でFoxoを発現させる方法としては、Foxo若しくはFoxo改変体をコードする遺伝子を該細胞又は該試験動物に導入すれば良い。
なお、Foxoは細胞中で発現している内因性Foxoを利用することができる。しかし、より感度の良いスクリーニング系を構築するには、Foxo若しくはFoxo改変体をコードする遺伝子を該細胞又は該試験動物に導入しても良い。
【0033】
上記Foxo若しくはFoxo改変体を発現させるための発現系は当業者に公知である。すなわち、Foxo若しくはFoxo改変体をコードする遺伝子産物を自体公知のタンパク質合成系に導入することで発現できる。なお、タンパク質合成系では、無細胞タンパク質合成系特にコムギ胚芽無細胞タンパク質合成系を利用することができる。加えて、細菌等の微生物、酵母、ウイルス(例えば、バキュロウイルス)で感染させた昆虫細胞系、ウイルス発現系、植物細胞系、動物細胞系も利用することができる。
【0034】
また、上記Foxo若しくはFoxo改変体をコードする遺伝子産物は、遺伝子組み換え法又はPCR法などにより調製したベクター中のプロモーターの下流に挿入し、次いでこの組換え発現ベクターを、試験細胞に導入すれば良い。
上記組換え発現ベクターの宿主への導入方法は、例えば、リン酸カルシウム法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、スフェロブラスト法、酢酸リチウム法、リポフェクション法などが挙げられるが、特に限定されない。なお、レトロウイルスベクターやレンチウイルスベクターが好適に利用できる。
【0035】
(慢性骨髄性白血病の診断方法)
本発明の「慢性骨髄性白血病の診断方法」とは、従来の診断方法とは異なり、患者由来の細胞特に白血病幹細胞中のFoxo発現量(特にFoxo3a発現量)を指標とするものである。
すなわち、本発明の「慢性骨髄性白血病の診断方法」では、予め設定しておいたFoxo発現量の基準値と比較して、発病時期の予測及び/又は進行度合いを判定することができる。
なお、基準値とは進行度を示す標準値を示す。一般的に、慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞中のFoxo量は、慢性骨髄性白血病の進行が進むにつれて増加すると考えられる。基準値の設定方法としては、予め慢性骨髄性白血病の進行度合い及び発病時期を確認している患者の慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞から得られるFoxo量の平均値から算出する。
【0036】
(試験化合物)
本発明で用いる「試験化合物」としては任意の物質を使用することができる。試験化合物の種類は特に限定されず、個々の低分子合成化合物特にsiRNAでもよいし、天然物抽出物中に存在する化合物でもよく、合成ペプチドでもよい。
あるいは、試験化合物は、化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリーもしくはコンビナトリアルライブラリーでもよい。試験化合物は、好ましくは低分子化合物であり、低分子化合物の化合物ライブラリーが好ましい。化合物ライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。
【0037】
(慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤)
本発明の慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤は、有効成分として[2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)プテリジン-4-イル]ピリジン-4-イル-アミン及び/又は[3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾールを含有する。
【0038】
さらに、本発明の慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤は、有効成分としてFoxo遺伝子のmRNAに特異的にハイブリダイズするアンチセンス核酸を含有する。
さらに、本発明の慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤は、有効成分としてFoxo遺伝子のmRNAを特異的に切断するリボザイムを含有する。
加えて、本発明の慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤は、有効成分としてFoxo3a又はFoxo4を不活性化する抗体を含有する。
なお、抗Foxo3a抗体又は抗Foxo4抗体は、市販されている抗体を利用することができる。
【0039】
予防または治療等の目的に応じて、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、腸溶剤、液剤、注射剤(液剤、懸濁剤)または遺伝子療法に用いる形態などの各種の形態に、常法にしたがって調製することができる。本発明の治療又は予防剤は、通常は1種または複数の医薬用担体を用いて医薬組成物として製造することが好ましい。
【0040】
本発明の治療又は予防剤の投与量または摂取量については、本発明の効果が得られるものであれば特に限定されるものではなく、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無等)、および担当医師の判断等に応じて適宜選択される。本発明の医薬または食品は、1日1〜数回に分けて投与または摂取することができ、数日または数週間に1回の割合で間欠的に投与または摂取してもよい。
【0041】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
(慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞の調製)
以下の方法により、慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞を取得した。
【0043】
(1)マウス慢性骨髄性白血病モデルの構築
マウス(C57BL/6)から骨髄単核細胞を取得し、抗CD4 (L3T4)、抗CD8 (53-6.7)、抗 B220 (RA3-6B2)、抗TER119 (Ly-76)、抗Gr-1 (RB6-8C5)、抗Mac1 (M1/70)、抗Sca-1 (E13-161.7)、並びに抗c-Kit 抗体を用いて染色を行った。このマウス骨髄単核細胞から、セルソーター (FACSaria, BD社製)を用いて、マウスの正常造血幹細胞を含む分化マーカー(CD4、CD8、B220、TER119、Gr-1, Mac1)陰性、c-Kit陽性、 Sca-1陽性細胞集団を純化した。さらに、該細胞集団を無血清培地S-Clone {(SF-O;3三光純薬社製)(10ng/ml ヒトTPO: Thrombopoietin; PeproTech社)、並びに10 ng/ml マウスSCF (Stem cell factor; 和光純薬社製)含有、(以下サイトカイン含有)}で1日間培養し、レトロウイルスベクターを用いてBCR-ABL-GFP遺伝子を導入した。なお、BCR-ABL遺伝子はヒトの慢性骨髄性白血病の原因遺伝子である。1日間サイトカイン含有 S-Clone培地で培養後、別途取得したマウス骨髄単核細胞(一匹当たり5x105細胞)と共に、放射線照射 (9.5Gy)したマウス(C57BL/6)に移植(尾静脈より注射)した。最後に、12〜14日後に移植したマウスの骨髄、並びに脾臓から白血病細胞を取得した.
【0044】
(2)BCR-ABL陽性細胞中での白血病幹細の同定
上記(1)で得られた白血病細胞を、抗CD4 (L3T4)、 抗CD8 (53-6.7)、抗B220 (RA3-6B2)、抗TER119 (Ly-76)、抗Gr-1 (RB6-8C5)、抗Mac1 (M1/70)、抗Sca-1 (E13-161.7)並びに抗c-Kit 抗体を用いて染色を行った。該染色細胞から、セルソーター(FACSaria, BD社製)を用いて、BCR-ABL遺伝子を発現するGFP陽性細胞中、分化マーカー(CD4、CD8、B220、TER119、Gr-1、Mac1)陽性細胞 (Lin+)、分化マーカー陰性細胞 (Lin-)、分化マーカー陰性、c-Kit陽性、Sca-1陰性細胞(KLS-)並びに分化マーカー陰性、c-Kit陽性、Sca-1陽性(KLS+)集団を単離した。
【0045】
(A)上記細胞の試験管内でのコロニー形成能を評価するため、それぞれ 2,000細胞のLin+細胞、Lin-細胞、KLS+細胞、KLS-細胞をメチルセルロース半固形培地(GFM3434; Stem cell technology社製)中、37℃で一週間培養した。
(B)マウス生体内における白血病発症能を評価するため、それぞれ30,000細胞のLin+細胞、Lin-細胞、KLS+細胞、KLS-細胞を上記の方法によりマウスに二次移植し、生存率の解析を行った。
【0046】
上記(A)の結果では、KLS+細胞中にコロニー形成能の高い細胞が濃縮されていることが明らかになった(図1)。
上記(B)の結果では、試験管内でのコロニー形成実験と一致して、KLS+細胞を移植したマウスの生存率が低いことが明らかになった(図2)。従ってKLS+細胞は、他の細胞と比較して、白血病発症能力の高い細胞がより多く存在していると考えられる。
以上の結果から、マウスの慢性骨髄性白血病モデルにおいて、白血病細胞の供給源となる白血病幹細胞はKLS+細胞中に存在していると考えられる。
【実施例2】
【0047】
(慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞におけるFoxo3aの細胞内局在の確認)
Foxo3aの白血病幹細胞内の局在を確認した。詳細は、以下の通りである。
【0048】
(慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞におけるFoxo3aの蛍光観察)
実施例1で得られた分化マーカー陰性、c-Kit陽性、Sca-1陽性細胞 (KLS+)である白血病幹細胞を単離した。さらに、コントロールとして、BCR-ABLを発現するGFP陽性細胞中、分化マーカー陰性c-Kit陽性、Sca-1陰性細胞(KLS-)である非白血病幹細胞を使用した。
KLS-並びに KLS+細胞をそれぞれスライドガラス上で30分間培養後、4%パラホルムアルデヒド含有リン酸緩衝液で 30分間固定し、0.25%Triton-X含有リン酸緩衝液で2分間処理して細胞浸透化処理を行った。これらの細胞を2%ウシ血清アルブミン含有リン酸緩衝液で 1時間処理後、一次抗体として抗 FKHRL1(Foxo3a)抗体(シグマ社)を含む2%ウシ血清アルブミン含有リン酸緩衝液で4℃で一晩インキュベートした。次に、蛍光化合物(AlexaFluor546)で標識された二次抗体と4℃で1時間さらに反応させた。さらに細胞核をDAPIによって染色した。染色した細胞は退色防止剤含有封入剤によって封入し、共焦点レーザー顕微鏡(Fluoview 1,000,オリンパス社製)によって観察した。
【0049】
上記顕微鏡の蛍光像を図3に示す。
少数の細胞集団である慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞(KLS+)では約40%の細胞で Foxo3aが細胞核に局在していた。一方、非白血病幹細胞であるKLS-細胞集団では、ほとんど全ての細胞で Foxo3aが細胞質に局在していた。
これまでの報告では、慢性骨髄性白血病細胞ではFoxoは白血病細胞の増殖抑制の役割を担っており、慢性骨髄性白血病の発症の原因となるBCR-ABLはFoxoを阻害することで白血病細胞の増加を引き起こすと考えられてきた。すなわち、恒常活性化型チロシンキナーゼであるBCR-ABLはPI3K-PKB/AKTシグナルを活性化し、さらに活性化されたPKB/AKTはFoxoをリン酸化する。次に、リン酸化されたFoxoは細胞核から細胞質へと排出され、転写因子としての機能を喪失する。Foxoは細胞周期の停止や細胞死を誘導することから、このような BCR-ABLによる Foxoの抑制が白血病細胞の増殖の原因になると考えられてきた。すなわち、従来の解釈では,BCR-ABLを発現する慢性骨髄性白血病細胞ではFoxoは(細胞核から排出され)細胞質に存在すると考えられていた。しかし、上記したように、慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞(KLS+)では約40%の細胞で Foxo3aが細胞核に局在していた。
以上のような結果から、Foxo3aが白血病幹細胞の維持に関与していると考えられる。
【実施例3】
【0050】
(慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞における Foxo3aの細胞内局在制御)
白血病幹細胞において、TGFβシグナルによるFoxo3aの制御機構の有無を解析するため、白血病幹細胞をTGFβ並びにTGFβシグナルの阻害剤により処理後 Foxo3aの局在を確認した。なお、Foxo3aは、TGFβにより活性化されることが知られている。
【0051】
実施例1で得られた白血病幹細胞(KLS+)集団を純化し、スライドガラス上で、5ng/ml TGFβ1 (R&D Systems社製) 、10μM Ly364947 (Calbiochem社製) 又はジメチルスルホキシドを含有する無血清培地 S-Clone中37℃、2時間培養した。その後、4% パラホルムアルデヒド含有リン酸緩衝液で30分間固定し、0.25%Triton-X含有リン酸緩衝液で2分間処理して細胞浸透化処理を行った。処理した細胞を2%ウシ血清アルブミン含有リン酸緩衝液で 1時間処理後、一次抗体として抗FKHRL1(Foxo3a)抗体(シグマ社)並びに抗リン酸化Akt抗体(セルシグナル社)を含む2%ウシ血清アルブミン含有リン酸緩衝液で4℃一晩インキュベートした。蛍光化合物(AlexaFluor 546,AlexaFluor 647)で標識された二次抗体と4℃で1時間さらに反応させた.さらに細胞核をDAPIによって染色した。染色した細胞は退色防止剤含有封入剤によって封入し、共焦点レーザー顕微鏡(Fluoview 1,000,オリンパス社製)によって観察した。Foxo3aの細胞内局在の解析は、それぞれ独立した 3回の実験に基づき約 100細胞の細胞内局在を評価して実施した。
【0052】
上記顕微鏡の蛍光像を図4に示す。さらに、Foxo3aが細胞核に局在する細胞の頻度(%)を示すグラフを図5に示す。
図4の蛍光像から明らかなように、TGFβ1添加によりFoxo3aは細胞核に局在していたが、TGFβ阻害剤であるLy364947添加によりFoxo3aは細胞質に局在した。
また、図5の結果から明らかなように、Ly364947添加により細胞核に局在しているFoxo3aの割合が減少していた。
以上の結果により、TGFβ阻害剤によりFoxo3aが不活性化されていることがわかった。
【実施例4】
【0053】
(マウス慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞に対するTGFβ阻害剤の効果の確認)
生体内での白血病幹細胞の支持環境を試験管内で構築してTGFβシグナルの阻害効果を評価するため、マウス間葉系細胞株 OP-9細胞上でマウス白血病幹細胞の共培養を実施した。詳細は、以下の通りである。
【0054】
マウス間葉系細胞株OP-9細胞20,000細胞を24 ウェルプレートで1日間単層培養した。この細胞上にマウス白血病幹細胞1,000細胞を加えた。さらに、この培養液にTGFβ阻害剤であるLy364947 (Calbiochem)又はSD208 (Sigma)を添加し、5日間 37℃で培養した。細胞を回収し、リン酸緩衝液を用いて残存する阻害剤を洗浄後、メチルセルロース半固形培地(GFM3434; Stem cell technology社製)中で37℃で一週間培養してコロニー形成能を評価した。
Ly364947は、TGFβタイプ1型受容体キナーゼ阻害剤であり、化合物名は[3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾール([3-(Pyridin-2-yl)-4-(4-quinonyl)]-1H-pyrazole)である(参照:http://www.emdbiosciences.com/product/d/616451)。
SD208は、TGFβR1キナーゼ阻害剤であり、化合物名は[2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)プテリジン-4-イル]ピリジン-4-イル-アミン{[2-(5-Chloro-2-fluorophenyl)pteridin-4-yl}pyridin-4-yl-amine}である(参照:http://www.sigmaaldrich.com/catalog/ProductDetail.do?N4=S7071%7CSIGMA&N5=SEARCH_CONCAT_PNO%7CBRAND_KEY&F=SPEC)。
【0055】
上記コロニー形成能の結果を図6に示す。
図6の結果から明らかなようにTGFβ阻害薬(Ly364947、SD208)によりマウスの慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞の増殖が抑えることができた。
実施例3及び4の結果から、Foxo3aの不活性化は慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞を減少させる効果があると言える。
すなわち、[3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾール又は[2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)プテリジン-4-イル]ピリジン-4-イル-アミンは、慢性骨髄性白血病の治療剤となることができる。
【実施例5】
【0056】
(ヒト慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞に対するTGFβ阻害剤の効果の確認)
ヒト慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞に対するTGFβ阻害剤の効果の確認をした。詳細は、以下の通りである。
【0057】
ヒト慢性骨髄性患者の骨髄由来単核細胞(Allcell社、並びにCureline社より購入)を抗ヒトCD34(8G12)、抗ヒトCD38(HIT2)、抗ヒトCD3、抗ヒトCD14、抗ヒト CD16、抗ヒトCD19、抗ヒトCD20、抗ヒトCD56抗体を用いて染色し、分化マーカー(CD3, CD14, CD16, CD19, CD20, CD56)陰性、CD38陰性、CD34陽性細胞を純化した。この細胞4,000細胞をOP-9細胞上に加えた。さらに、この培養液にTGFβ阻害剤であるLy364947 (Calbiochem)を添加し、5日間 37℃で培養した。次に、細胞を回収し、リン酸緩衝液を用いて残存する阻害剤を洗浄後、メチルセルロース半固形培地(GFM3434; Stem cell technology社製)中で 37℃で一週間培養してコロニー形成能を評価した。
【0058】
上記コロニー形成能の結果を図7に示す。
図7の結果から明らかなように、TGFβ阻害薬(Ly364947)によりヒト慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞の増殖が抑えることができた。
すなわち、Foxo3aを不活性化する化合物である[3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾールは、慢性骨髄性白血病の治療剤となることができる。
【0059】
本発明者らは、Foxo4も慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞の細胞核中に局在していることを確認している。よって、Foxo4を不活性化する化合物は、慢性骨髄性白血病の治療剤となることができると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上の実施例の結果より、Foxoを不活性化する化合物又はFoxoの発現を阻害する物質は、慢性骨髄性白血病の治療剤となることができる。さらに、Foxoの不活性化及び/又はFoxoの発現の阻害を指標として、慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤の有効成分をスクリーニングすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Foxo若しくはFoxo改変体の活性化又は発現を阻害する試験化合物を選択することを特徴とする慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
以下の工程を含む請求項1に記載のスクリーニング方法:
(a)試験化合物を、転写因子であるFoxo若しくはFoxo改変体、及び該転写因子に特異的に認識される遺伝子とレポーター遺伝子を含む融合遺伝子を含む試験動物又は試験細胞に接触させる工程、
(b)レポータータンパク質の試験動物又は試験細胞中での発現量を測定する工程。
【請求項3】
以下の工程を含む請求項1に記載のスクリーニング方法:
(a)試験化合物を、Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子とレポーター遺伝子を含む融合遺伝子を含む試験動物又は試験細胞に接触させる工程、
(b)レポータータンパク質の試験動物又は試験細胞中での発現量を測定する工程。
【請求項4】
以下の工程を含む請求項1に記載のスクリーニング方法:
(a)試験化合物を、Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子を含む試験動物又は試験細胞に投与又は接触させる工程、
(b)試験動物又は試験細胞中でのFoxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子又はFoxo若しくはFoxo改変体の発現量を測定する工程。
【請求項5】
以下の工程を含む請求項1に記載のスクリーニング方法:
(a)試験化合物を、Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子によってコードされるタンパク質に接触させる工程、
(b)前記タンパク質のリン酸化度を測定する工程。
【請求項6】
前記試験細胞が、慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
前記Foxoが、Foxo3a又はFoxo4であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
[2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)プテリジン-4-イル]ピリジン-4-イル-アミンを有効成分として含む慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤。
【請求項9】
[3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾールを有効成分として含む慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤。
【請求項10】
Foxo3a又はFoxo4を不活性化する抗体を有効成分として含む慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−281656(P2010−281656A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134714(P2009−134714)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年2月5日に日本再生医療学会事務局により発行された「第8回 日本再生医療学会総会 プログラム・抄録」第80ページに記載 〔刊行物等〕 平成21年3月5日に平尾敦により「第8回 日本再生医療学会総会:東京国際フォーラム」で公開されたOHP「公開のタイトル:造血幹細胞制御と白血病」 〔刊行物等〕 平成21年12月10日に平尾敦により「BMB2008(第31回日本分子生物学会年会・第81回日本生化学会大会 合同大会):神戸ポートピアホテル」で公開されたOHP「公開のタイトル:Effects of aging− or senescence−related factors on stem cell function and tissue homeostasis in vivo」
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】