説明

皮膚創傷治癒剤

【課題】優れた皮膚創傷治癒促進作用を有する皮膚創傷治癒剤の提供。
【解決手段】アデノシン三リン酸及びその塩から選ばれる1種以上と、ビタミンB群とを組み合わせてなる皮膚創傷治癒剤。ビタミンB群としては、好ましくはビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6及びビタミンB12から選ばれる1種以上が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚創傷治癒剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚創傷とは、切創、裂創、割創、擦過傷、挫滅創等の皮膚組織の損傷を意味する。当該皮膚創傷は、受傷部位に洗浄等の応急処置を施した後、生体の有する治癒力による自然治癒を待つのが一般的である。
しかしながら、損傷の程度によっては自然治癒に長期間を要することもあり、また、損傷の発生から治癒までの間、傷みが持続することから、場合によっては、皮膚創傷治癒剤を受傷部位に投与して創傷治癒を促進させる必要がある。
特に高齢者は、日常生活の些細なことによって皮膚創傷を受けやすく、その一方で、自然治癒が若者と比較して遅く、皮膚創傷による痛み等に長い期間悩まされるため、高齢化が進む現在の日本では、皮膚創傷治癒剤の開発の重要性が増しつつある。
【0003】
皮膚創傷は概ね、受傷部位での血液凝固と炎症反応の惹起、細胞の遊走や増殖、皮膚を構成する組織(表皮、真皮及び皮下組織)の再構築という過程を経て治癒されるため、創傷治癒に関与する細胞の遊走、分化や増殖等を促進・刺激する薬剤は、皮膚創傷治癒剤となり得る。このような皮膚創傷治癒剤として、例えば、塩化リゾチームやソルコセリンなどが知られているが、いずれも創傷治癒促進作用が充分であるとはいい難いものであった。
【0004】
ところで、アデノシン三リン酸(ATP)は高エネルギーリン酸結合を有する化合物であり、アデノシン二リン酸(ADP)とリン酸に加水分解される際に大量のエネルギーを放出する性質を有しており、生体内において糖質、脂肪、タンパク質などの代謝に広く関与している。また、アデノシン三リン酸は、頭部外傷後遺症に伴う諸症状、心不全、調節性眼精疲労における調節機能、消化管機能低下のみられる慢性胃炎、並びにメニエール病及び中耳障害に基づくめまいを改善するための医薬品の有効成分として利用されている。
また、特許文献1には、フローデマニータ抽出物とアデノシン三リン酸とを、特許文献2には、フィチン酸又はその塩とアデノシン三リン酸とを、それぞれ組み合わせることにより、創傷治癒促進作用が認められることが開示されている。
【0005】
一方、ビタミンB群は、生体内において補酵素等として種々の反応に関与しているほか、医薬品の有効成分として、ビタミンB欠乏症の治療や、神経痛、筋肉痛、関節痛、手足のしびれ、眼精疲労等の諸症状の緩和に利用されている。また、ビタミンB2やビタミンB6等の一部のビタミンB群については、細胞賦活作用を有することが記載されている(特許文献3及び4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−277939号公報
【特許文献2】特開平9−183718号公報
【特許文献3】特開平9−241146号公報
【特許文献4】特開平9−301880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述のアデノシン三リン酸を単独で用いる処方では、充分な創傷治癒促進作用は得られなかった。
従って、本発明は、優れた皮膚創傷治癒促進作用を有する皮膚創傷治癒剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、アデノシン三リン酸及びその塩から選ばれる1種以上と、ビタミンB群とを組合わせて用いることにより、優れた皮膚創傷治癒促進作用が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、アデノシン三リン酸及びその塩から選ばれる1種以上と、ビタミンB群とを組み合わせてなる皮膚創傷治癒剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた皮膚創傷治癒促進作用を有し、特に高齢化社会において有用な皮膚創傷治癒剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の皮膚創傷治癒剤は、アデノシン三リン酸及びその塩から選ばれる1種以上と、ビタミンB群とを組み合わせてなるものである。
【0012】
まず、上記アデノシン三リン酸及びその塩から選ばれる1種以上について、説明する。
本発明において、「アデノシン三リン酸及びその塩から選ばれる1種以上」には、アデノシン三リン酸のフリー体のみならず、アデノシン三リン酸の生理学的に許容される塩(例えば、アデノシン三リン酸のナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;アデノシン三リン酸のマグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩など)、さらにはアデノシン三リン酸やその生理学的に許容される塩と水やアルコール等との溶媒和物が含まれ、これらを単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、皮膚創傷治癒促進作用の観点から、アデノシン三リン酸二ナトリウムが好ましい。
なお、アデノシン三リン酸、その塩やそれらの溶媒和物は公知の物質であり、公知の方法により製造できるほか、市販品を用いてもよい。
【0013】
本発明において、アデノシン三リン酸及びその塩から選ばれる1種以上の投与量は特に限定されず、投与方法、剤形、皮膚創傷の程度に応じて適宜選択可能である。例えば、1日あたり0.004〜400mg程度、より好適には0.01〜120mg程度、特に好適には0.04〜40mg程度投与すればよい。
【0014】
次に、上記ビタミンB群について、詳細に説明する。
本発明において、「ビタミンB群」としては、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB7、ビタミンB9及びビタミンB12が挙げられ、これらを単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、皮膚創傷治癒促進作用の観点から、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6及びビタミンB12からなる群より選ばれる1種以上であるのが好ましく、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6及びビタミンB12からなる群より選ばれる2種以上であるのがより好ましく、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6及びビタミンB12からなる群より選ばれる3種以上であるのがさらに好ましく、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6及びビタミンB12の組み合わせがさらにより好ましい。この中でも、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6及びビタミンB12を、ビタミンB1:ビタミンB2:ビタミンB6:ビタミンB12=0.01〜100:0.0006〜7:0.01〜100:0.00002〜0.3の質量比で含有するものが好ましく、斯かるビタミンB群を0.03〜30:0.002〜2:0.03〜30:0.00008〜0.1の質量比で含有するものが特に好ましい。
【0015】
本発明において、ビタミンB群の投与量は特に限定されず、投与方法、剤形、皮膚創傷の程度に応じて適宜選択可能である。例えば、1日あたり0.01〜2000mg程度、より好適には0.05〜600mg程度、特に好適には0.1〜200mg程度投与すればよい。
【0016】
また、本発明において、アデノシン三リン酸及びその塩から選ばれる1種以上と、ビタミンB群との投与量の質量比率は特に限定されないが、皮膚創傷治癒促進作用の観点から、アデノシン三リン酸及びその塩から選ばれる1種以上1質量部に対し、ビタミンB群を0.01〜1500質量部組み合わせるのが好ましく、0.04〜500質量部組み合わせるのがより好ましく、0.1〜150質量部組み合わせるのが特に好ましい。
【0017】
本発明において、「ビタミンB1」には、チアミンそのもののほか、その誘導体(ビスチアミン、チアミンジスルフィド、ジセチアミン、フルスルチアミン、オクトチアミン、シコチアミン、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン、プロスルチアミン、ベンフォチアミン、チアミン二リン酸など)及びそれらの塩(硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩などの無機酸塩など)も包含され、これらを単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、塩酸チアミン、硝酸チアミン、硝酸ビスチアミン、チアミンジスルフィド、チアミンジセチル硫酸エステル塩、塩酸ジセチアミン、塩酸フルスルチアミン、オクトチアミン、シコチアミン、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン、フルスルチアミン、プロスルチアミン及びベンフォチアミンよりなる群から選ばれる1種以上が好ましく、チアミンジスルフィド、ベンフォチアミンが特に好ましい。
本発明において、ビタミンB1の投与量は特に限定されず、投与方法、剤形、皮膚創傷の程度に応じて適宜選択可能である。例えば、1日あたり0.001〜150mg程度、より好適には0.004〜50mg程度、特に好適には0.01〜15mg程度投与すればよい。
なお、上記ビタミンB1は公知の化合物であり、市販のものを用いてもよく、また、公知の方法により製造することも可能である。
【0018】
本発明において、「ビタミンB2」には、リボフラビンそのもののほか、その誘導体(リン酸リボフラビン、酪酸リボフラビン、フラビンアデニンジヌクレオチドなど)及びそれらの塩(ナトリウム塩などのアルカリ金属塩など)も包含され、本発明においては、これらを単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、リボフラビン、リン酸リボフラビンナトリウム及び酪酸リボフラビンよりなる群から選ばれる1種以上が好ましく、リボフラビンが特に好ましい。
本発明において、ビタミンB2の投与量は特に限定されず、投与方法、剤形、皮膚創傷の程度に応じて適宜選択可能である。例えば、1日あたり0.0001〜9mg程度、より好適には0.0003〜3mg程度、特に好適には0.001〜0.9mg程度投与すればよい。
なお、上記ビタミンB2は公知の化合物であり、市販のものを用いてもよく、また、公知の方法により製造することも可能である。
【0019】
本発明において、「ビタミンB3」には、ニコチン酸、ニコチン酸アミドそのもののほか、それらの誘導体(イノシトールヘキサニコチネート、ニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチド、ニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチドリン酸、ヘプロニカートなど)及びそれらの塩も包含され、本発明においては、これらを単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ニコチン酸及びニコチン酸アミドよりなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
本発明において、ビタミンB3の投与量は特に限定されず、投与方法、剤形、皮膚創傷の程度に応じて適宜選択可能である。例えば、1日あたり0.004〜400mg程度、より好適には0.012〜120mg程度、特に好適には0.04〜40mg程度投与すればよい。
なお、上記ビタミンB3は公知の化合物であり、市販のものを用いてもよく、また、公知の方法により製造することも可能である。
【0020】
本発明において、「ビタミンB5」には、パントテン酸そのもののほか、その誘導体(パンテノール、パンテチン、パンテテイン、補酵素Aなど)及びそれらの塩(ナトリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩など)も包含され、本発明においては、これらを単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、パンテノール、パンテチン、パントテン酸カルシウム及びパントテン酸ナトリウムよりなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
本発明において、ビタミンB5の投与量は特に限定されず、投与方法、剤形、皮膚創傷の程度に応じて適宜選択可能である。例えば、1日あたり0.004〜400mg程度、より好適には0.01〜120mg程度、特に好適には0.04〜40mg程度投与すればよい。
なお、上記ビタミンB5は公知の化合物であり、市販のものを用いてもよく、また、公知の方法により製造することも可能である。
【0021】
本発明において、「ビタミンB6」には、ピリドキシン、ピリドキサミン、ピリドキサールそのもののほか、それらの誘導体(リン酸ピリドキサールなど)及びそれらの塩(カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩;塩酸塩などの無機酸塩など)も包含され、本発明においては、これらを単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、塩酸ピリドキシン及びリン酸ピリドキサールよりなる群から選ばれる1種以上が好ましく、塩酸ピリドキシンが特に好ましい。
本発明において、ビタミンB6の投与量は特に限定されず、投与方法、剤形、皮膚創傷の程度に応じて適宜選択可能である。例えば、1日あたり0.001〜150mg程度、より好適には0.004〜50mg程度、特に好適には0.01〜15mg程度投与すればよい。
なお、上記ビタミンB6は公知の化合物であり、市販のものを用いてもよく、また、公知の方法により製造することも可能である。
【0022】
本発明において、「ビタミンB7」には、ビオチンそのもののほか、その塩(ナトリウム塩などのアルカリ金属塩など)も包含される。
本発明において、ビタミンB7の投与量は特に限定されず、投与方法、剤形、皮膚創傷の程度に応じて適宜選択可能である。例えば、1日あたり0.004〜400mg程度、より好適には0.01〜120mg程度、特に好適には0.04〜40mg程度投与すればよい。
なお、上記ビタミンB7は公知の化合物であり、市販のものを用いてもよく、また、公知の方法により製造することも可能である。
【0023】
本発明において、「ビタミンB9」には、葉酸そのもののほか、その誘導体(ジヒドロ葉酸、テトラヒドロ葉酸など)及びそれらの塩も包含される。これらの中でも、葉酸が好ましい。
本発明において、ビタミンB9の投与量は特に限定されず、投与方法、剤形、皮膚創傷の程度に応じて適宜選択可能である。例えば、1日あたり0.004〜400mg程度、より好適には0.01〜120mg程度、特に好適には0.04〜40mg程度投与すればよい。
なお、上記ビタミンB9は公知の化合物であり、市販のものを用いてもよく、また、公知の方法により製造することも可能である。
【0024】
本発明において、「ビタミンB12」には、シアノコバラミン、ヒドロキソコバラミンそのもののほか、それらの誘導体(メコバラミン、デオキシアデノシルコバラミンなど)及びそれらの塩(塩酸塩などの無機酸塩;酢酸塩などの有機酸塩など)も包含され、本発明においては、これらを単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、塩酸ヒドロキソコバラミン、酢酸ヒドロキソコバラミン、シアノコバラミン及びヒドロキソコバラミンよりなる群から選ばれる1種以上が好ましく、シアノコバラミンが特に好ましい。
本発明において、ビタミンB12の投与量は特に限定されず、投与方法、剤形、皮膚創傷の程度に応じて適宜選択可能である。例えば、1日あたり0.000004〜0.4mg程度、より好適には0.00001〜0.12mg程度、特に好適には0.00004〜0.04mg程度投与すればよい。
なお、上記ビタミンB12は公知の化合物であり、市販のものを用いてもよく、また、公知の方法により製造することも可能である。
【0025】
本発明の皮膚創傷治癒剤には、アデノシン三リン酸及びその塩から選ばれる1種以上と、ビタミンB群以外の薬効成分を、その配合目的に応じて適宜配合することができる。
【0026】
次に、本発明の「皮膚創傷治癒剤」について、詳細に説明する。
本発明の「皮膚創傷治癒剤」は、下記実施例から明らかなように、優れた皮膚創傷治癒促進作用を有する。斯かる「皮膚創傷治癒剤」とは、皮膚創傷の治癒の促進のために用いられる医薬を意味する。ここで、皮膚創傷としては、具体的には例えば、切創、裂創、割創、擦過傷、挫滅創、挫創、銃創、爆傷、刺創、杙創、咬創、火傷、褥瘡などが挙げられ、本発明の皮膚創傷治癒剤は、特に皮膚表面に損傷(きず)のある皮膚創傷に好適に適用できる。斯かる皮膚創傷は、表皮及び/又は真皮に損傷を伴うものであるため、通常、抗炎症剤では治療できず、どのような薬剤が有効かを予測することは困難である。また、本発明の皮膚創傷治癒剤を適用する皮膚創傷の重傷度は特に限定されないが、少なくとも表皮に損傷のある皮膚創傷、好適には表皮及び真皮に損傷のある皮膚創傷に適用できる。なお、本発明において「医薬」は、医薬品のほか医薬部外品をも包含する概念であり、本発明の皮膚創傷治癒剤は、医薬品としてのほか、医薬部外品としても利用できる。
【0027】
次に、本発明の「皮膚創傷治癒剤」の投与形態、投与方法等について、詳細に説明する。
本発明の皮膚創傷治癒剤は、アデノシン三リン酸及びその塩から選ばれる1種以上と、ビタミンB群とを、同時に又は時間を変えて投与するものである。
本発明の皮膚創傷治癒剤は、アデノシン三リン酸及びその塩から選ばれる1種以上を含有する単位投与形態の製剤と、ビタミンB群を含有する単位投与形態の製剤との組み合わせ(キット製剤)として提供されるか、或いはアデノシン三リン酸及びその塩から選ばれる1種以上とビタミンB群との組み合わせを含有する単位投与形態の医薬組成物(配合剤)として提供される。本発明においては、皮膚創傷治癒促進作用の観点から、上記配合剤の形態で提供されるのが好ましい。
【0028】
本発明において、皮膚創傷治癒剤の投与方法は特に限定されず、経口、及び経皮等の非経口のいずれの投与方法であってもよいが、皮膚創傷治癒促進作用の観点から、経皮投与が好ましい。すなわち、皮膚創傷治癒剤は、直接皮膚創傷患部に適用可能な、皮膚外用剤とするのが好ましい。
また、皮膚創傷治癒剤の形状は、特に限定されるものではなく、固形状、半固形状、液状のいずれの形状であってもよく、その利用目的等に応じて医薬において通常利用される形状とすることができる。具体的には、錠剤(チュアブル錠、発泡錠、口腔内崩壊錠などを含む)、トローチ剤、ドロップ剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、丸剤、ドライシロップ剤、坐剤、パップ剤、プラスター剤などの固形製剤;舐剤、チューインガム剤、ゼリー剤、ゼリー状ドロップ剤、ホイップ剤、軟膏剤、クリーム剤、フォーム剤、インへラー剤、ナザールジェル剤などの半固形製剤;シロップ剤、ドリンク剤、懸濁剤、酒精剤、液剤、点眼剤、エアゾール剤、噴霧剤、スプレー剤などの液状製剤などの、第十五改正日本薬局方 製剤総則等に記載の剤形が挙げられる。なお、本発明の皮膚創傷治癒剤は、その剤形に応じて、例えば、第十五改正日本薬局方 製剤総則等に記載の公知の方法により製造することができる。これらの中でも、皮膚創傷治癒促進作用の観点から、パップ剤、プラスター剤、ホイップ剤、軟膏剤、クリーム剤、フォーム剤、液剤、エアゾール剤、噴霧剤、スプレー剤が好ましく、軟膏剤、クリーム剤、フォーム剤、液剤、エアゾール剤、噴霧剤、スプレー剤がより好ましい。
【0029】
また、本発明の皮膚創傷治癒剤の製造には、必要に応じて、通常用いられる製剤用添加物を1種又は2種以上用いてもよい。このような製剤用添加物としては、例えば、水、増粘剤、乳化剤、中和剤、保存剤、安定化剤、湿潤剤、油脂等の成分が挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例等を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等に何ら限定されるものではない。
[試験例1]:創傷治癒試験
9週齢の糖尿病マウス(db/db、雌性)を、群間での体重の平均値がほぼ等しくなるよう8匹ずつ4群に分け、それぞれ試験に供した。マウスの背部を剃毛した後、麻酔下に正中線に沿って4cmの全層皮膚切創(すなわち、表皮及び真皮の切創)を作製し、下記に従い被験薬物を当該切創部位に塗布し、縫合糸にて縫合を行った。
切創作製日を1日目として5日目まで、1日1回切創部位への被験薬物の反復塗布を行った後、9日目に、縫合糸を除去した後マウスを安楽死させ、切創部の皮膚を、切創を中心に短冊状に切り取って皮膚切片を作製し、創耐張力(皮膚切片の切創長さ当たりの張力強度:皮膚切片の片側を固定し、反対側に重量を徐々に加えて引っ張り、創部が開裂するまでに必要な荷重(g)を、切片中の切創の長さ(mm)で除して得られる値)を測定した。
なお、創耐張力の測定には、創傷治癒測定用引張試験器(TK−251A:ユニコム)を用いた。また、得られた創耐張力の測定値から、次式により創傷治癒促進率を算出した。
【0031】
創傷治癒促進率(%)=(被験薬物投与群の創耐張力の平均値−コントロール群の創耐張力の平均値)/コントロール群の創耐張力の平均値×100
【0032】
被験薬物は、それぞれ以下の群構成に従い投与した。
1:コントロール群
生理食塩水を塗布した。
2:ATP単独投与群
アデノシン三リン酸二ナトリウムを生理食塩水に溶解し、当該溶液を、1回当たりの投与量が1.2mgとなるよう塗布した。
3:ビタミンB群 単独投与群
チアミンジスルフィド、リボフラビン、塩酸ピリドキシン及びシアノコバラミンを生理食塩水に溶解し、当該溶液を、1回当たりの投与量がそれぞれ0.48mg、30μg、0.48mg及び1.2μgとなるよう塗布した。
4:併用投与群(ATP+ビタミンB群)
アデノシン三リン酸二ナトリウム、チアミンジスルフィド、リボフラビン、塩酸ピリドキシン及びシアノコバラミンを生理食塩水に溶解し、当該溶液を、1回当たりの投与量がそれぞれ1.2mg、0.48mg、30μg、0.48mg及び1.2μgとなるよう塗布した。
【0033】
<試験結果>
試験結果を表1に示す。なお、創耐張力は、各群当たりの平均値±標準誤差で表示する。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示す試験結果より、ATP単独投与群、ビタミンB群 単独投与群においては、コントロール群と比較して創傷の治癒が若干促進されたものの、有意な差ではなかった。 一方、併用投与群においては、コントロール群と比較して創傷治癒が有意に促進された。
以上の試験結果から、アデノシン三リン酸及びその塩から選ばれる1種以上と、ビタミンB群の組合わせは、顕著な創傷治癒促進作用を奏する組み合わせであることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、優れた皮膚創傷治癒促進作用を有する皮膚創傷治癒剤を提供でき、医薬品産業等において好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノシン三リン酸及びその塩から選ばれる1種以上と、ビタミンB群とを組み合わせてなる皮膚創傷治癒剤。
【請求項2】
ビタミンB群が、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6及びビタミンB12から選ばれる1種以上である請求項1記載の皮膚創傷治癒剤。
【請求項3】
ビタミンB群が、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6及びビタミンB12の組み合わせである請求項1又は2記載の皮膚創傷治癒剤。
【請求項4】
皮膚外用剤である請求項1〜3のいずれか1項記載の皮膚創傷治癒剤。

【公開番号】特開2012−116778(P2012−116778A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266536(P2010−266536)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】